以下では、図面を参照して本発明の一実施形態に係る「スポット溶接物の製造方法」および「スポット溶接物の製造装置」をより詳細に説明する。図面における各種の要素は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比などは実物と異なり得る。
本明細書において「スポット溶接物」といった用語は、いわゆるスポット溶接(抵抗スポット溶接)によって得られる溶接物、即ち、電気抵抗による発熱(即ち、ジュール熱)を利用して互いに溶接された物を指している。したがって、本発明において「スポット溶接物」は、広義には、溶接ガンを用いてスポット溶接された少なくとも2枚の被溶接板のことを意味しており、狭義には、通電抵抗が互いに異なる第1電極と第2電極とを備えた溶接ガンによってスポット溶接された「電気抵抗(電気抵抗率)が互いに異なる少なくとも2枚の被溶接板」のことを意味している。
本明細書で直接的または間接的に説明される“上下”の方向は、製造時にスポット溶接される被溶接板の重合せに基づいており、少なくとも2枚の被溶接板が重ね合わされる方向(すなわち、重合せで得られる被溶接積層体の積層方向)が上下方向に相当する。本発明に係る典型的な態様では、被溶接板同士が全体として水平状態で重ね合わされることが多く、それゆえ、典型的には「鉛直下向き」が「下方向」に相当し、その反対側が「上方向」に相当する。
[本発明の製造方法]
本発明に係る製造方法は、対を成す第1電極と第2電極とから構成される溶接ガンを用いてスポット溶接物を製造する方法である。具体的には、本発明のスポット溶接物の製造方法は、
(i)少なくとも2枚の被溶接板を少なくとも部分的に重ね合わせて被溶接積層体を得る工程、
(ii)第1電極および第2電極で被溶接積層体を挟み込む工程、ならびに
(iii)第1電極および第2電極で被溶接積層体を加圧しながら第1電極および第2電極との間の通電を行う工程
を含んで成り、
被溶接積層体では少なくとも2枚の被溶接板の電気抵抗が互いに異なっており、第1電極および第2電極の通電抵抗が互いに異なる溶接ガンが用いられる。
本発明の製造方法では、電気抵抗が互いに異なる被溶接板から成る被溶接積層体をスポット溶接するところ、そのような電気抵抗に違いに鑑みて通電抵抗が互いに異なる第1電極および第2電極から成る溶接ガンを用いる。このような特徴に起因して、電気抵抗が互いに異なる被溶接板から成る被溶接積層体であっても好適にスポット溶接することができる。より具体的には、電気抵抗が異なる被溶接板の互いの合わせ面(界面)にまでナゲットを好適に形成することができる。
ナゲットの好適な形成のために、本発明の製造方法は、被溶接積層体に生じる溶融部の形成位置を制御している。特に、本発明の工程(iii)の通電に際して、被溶接積層体に生じる溶融部の形成開始位置を制御している。換言すれば、図1(a)および1(b)に示すように、互いに異なる通電抵抗に起因して、第1電極12および第2電極16のうち通電抵抗が相対的に大きい電極側に溶融部70を偏移させる(図10(a)および10(b)に示されるような通電抵抗が同じ電極を用いた場合と比べて偏移させる)。
図10(a)および10(b)を参照して説明したように、従来技術において“高電気抵抗率板”および“低電気抵抗率板”と電気抵抗の異なる鋼板同士を重ね合わせてスポット溶接する場合、溶融部の発生が高電気抵抗率板側にバイアスがかかった状態となり、低電気抵抗率板側に溶融部が十分に及ばない虞がある。つまり、高電気抵抗率板と低電気抵抗率板との合わせ面においてナゲットが好適に形成されない虞がある。合わせ面にナゲットが好適に及ぶように加圧力、電流値または通電時間などを調整し、発熱量を増やすことが考えられるものの、そうすると今度はスパッタが発生し易くなり、ナゲットのバラツキによる強度品質への影響に留まらず、溶接痕が必要以上に深くなったり、ピンホールの発生頻度が増したりと外観の点でも品質低下を引き起こし易い。また、そのような操作は高電気抵抗率板側にいわゆる“チリ”状のスパッタが発生し易くなり、かかるチリが板に付くと手直しが必要となる。
本発明では、通電抵抗が互いに異なる第1電極および第2電極から成る溶接ガンを用い、それによって、工程(iii)の通電に際して通電抵抗が相対的に大きい電極側に向かって溶融部をより偏移させている。特に好ましくは、そのような通電抵抗が互いに異なる第1電極および第2電極を用いることによって、通電抵抗が同じ電極同士の場合と比べて溶融部を「電気抵抗が互いに異なる被溶接板同士の合わせ面」にまで十分に及ぶように偏移させる(図1(a)および1(b)および図10(a)および10(b)参照)。これにより、低電気抵抗率板23と高電気抵抗率板27(27A,27B)との合わせ面55にナゲットが好適に形成される。特に圧痕および/またはスパッタ・チリなどが抑制された状態で低電気抵抗率板23と高電気抵抗率板27(27A,27B)との合わせ面55にナゲットが好適に形成されることになる。
ここで、本明細書で用いる「通電抵抗が異なる」とは、溶接ガンの対を成す第1電極および第2電極のスポット溶接時における通電抵抗が互いに異なることを指している。したがって、本発明における「通電抵抗が互いに異なる」とは、広義には、工程(iii)における通電電流の流れにくさを第1電極と第2電極との間で意図的に変えることを意味しており、狭義には、通電路において第1電極と第2電極との間で電気抵抗が互い異なっていることを意味している。これは、特に通電電流、通電時間および電極加圧力などのスポット溶接条件が実質的に同一であるとした場合の通電路において第1電極と第2電極との間で電気抵抗が互い異なっていることを意味している。あくまでも例示にすぎないが、本発明では、例えばスポット溶接時に被溶接積層体と接触することになる電極先端面における電気抵抗値(通電抵抗値)が第1電極および第2電極とで互いに異なっていてよい(後述する“切頭形状”の電極の場合、切頭面における電気抵抗値(通電抵抗値)が第1電極および第2電極とで互いに異なっていてよい)。
溶接ガンの第1電極および第2電極の材質は、良好な熱伝導性および電気伝導性が一般に求められ、更には好ましくは高温変形耐性および耐摩耗性なども求められる。それゆえ、第1電極および第2電極の材質は、一般的に銅および/または銅合金であり得る。特に限定するわけではないが、硬銅、カドミウム銅、ジルコニウム銅、クロム銅、クロムジルコニウム銅、低ベリリウム銅、高ベリリウム銅、アルミナ分散銅(アルミナ分散強化銅)などが第1電極および第2電極の材質として具体的に用いられ得る。
本発明において「通電抵抗が互いに異なる」は、電極材質の相違で達成したり、あるいは、電極先端形状の相違で達成したりすることが好ましい。つまり、溶接ガンを構成している対の第1電極と第2電極との間で材質を変えたり、および/または、電極先端形状を変えたりすることが好ましい。
電極材質の相違に基づく場合、第1電極および第2電極の一方と他方との間で材質を変えることになる。具体的には「第1電極および第2電極の一方の電極材質の導電率(または電気抵抗率)」と「第1電極および第2電極の他方の電極材質の導電率(または電気抵抗率)」とが互い異なるようにすることが好ましい。あくまでも例示にすぎないが、第1電極および第2電極の一方の電極材質を“アルミナ分散銅”を含んで成るものとし、第1電極および第2電極の他方の電極材質を“クロム銅”または“クロムジルコニウム銅”としてよい。
一方、電極先端形状の相違に基づく場合、第1電極および第2電極の一方と他方との間で電極先端形状を変えることになる。具体的には、「第1電極および第2電極の一方の電極最先端部分・電極最先端面」と「第1電極および第2電極の他方の電極最先端部分・電極最先端面」とが互い異なるようにすることが好ましい。
溶接ガンにおいて対の第1電極12および第2電極16の各々が切頭形状を有する場合、第1電極12の切頭面積と第2電極16の切頭面積とが互いに異なることが好ましい(図2参照)。これは、第1電極および第2電極の切頭面積の一方が他方より大きいこと又は小さいことを意味している。つまり、第1電極12の切頭面積をS第1電極とし、第2電極16の切頭面積をS第2電極とすると、S第1電極>S第2電極またはS第1電極<S第2電極となることが好ましい(即ち、S第1電極=S第2電極またはS第1電極≒S第2電極とはなっていない)。
あくまでも例示にすぎないが、第1電極および第2電極の切頭面積の一方が他方よりも1.7倍〜6.3倍程度となっていてよい。つまり、ある好適な態様では、第1電極12および第2電極16との間の切頭面積比につき、相対的に小さい切頭面積に対する相対的に大きい切頭面積の比が1.7〜6.3程度となっている。これは、第1電極および第2電極の各々の切頭形状が切頭円錐形状である場合(すなわち、電極先端部分が円錐台状となっている場合)、第1電極および第2電極の切頭面(すなわち、円形状の切頭面)の径比が約1.3〜約2.5となっていることに相当する。換言すれば、図2に示すような第1電極12および第2電極16の円形状の切頭面につき、「相対的に小さい径D小径」に対する「相対的に大きい径D大径」の比、即ち、D大径/D小径の値が約1.3〜約2.5となっていることが好ましい。
このように切頭面積が異なる場合、“切頭面積(切頭面径)が小さい電極”は“切頭面積(切頭面径)が大きい電極”よりも通電抵抗が大きくなり得る。本発明の製造方法において、対を成す2つの電極は、通電抵抗がより大きい電極側に向かって溶融起点を移動させる作用を有し、即ち、通電抵抗がより小さい電極側から離れる方向へと溶融起点を移動させる作用を有する。
従って、図1(a)および1(b)に示すように“低電気抵抗率板23”と“高電気抵抗率板27(27A,27B)”と異なる被溶接板から成る被溶接積層体50’をスポット溶接する際には、低電気抵抗率板23側に通電抵抗のより大きい電極12を位置付ける一方、高電気抵抗率板27側に通電抵抗のより小さい電極16を位置付けて通電を行うことが好ましい。かかる場合、低電気抵抗率板側に向かって溶融起点が移動することなり、結果として電気抵抗が異なる被溶接板の互いの合わせ面55にまでナゲットを好適に形成することができる。換言すれば、第1電極および第2電極のうち通電抵抗が相対的に大きい電極を電気抵抗率が相対的に小さい被溶接板の近位に配置する一方、通電抵抗が相対的に小さい電極を電極抵抗率が相対的に大きい被溶接板の近位に配置すると、電気抵抗率が異なる被溶接板の互いの合わせ面にまでナゲットを好適に形成することができる。ちなみに、仮に通電抵抗が同じ電極対を用いた場合において「電気抵抗率が異なる被溶接板の互いの合わせ面」にまでナゲット形成を行うには、通電時間を長くすればよいが、そうすると今度はスパッタが発生し易くなってしまい、外観の点で溶接物の品質低下につながり得る。特に、高電気抵抗率板側には“チリ”状のスパッタが発生し易くなる。この点、本発明に従えば、そのような外観の点で不都合となる現象をより抑制した状態で一定の通電電流下にて「電気抵抗率が異なる被溶接板の合わせ面」にまでナゲットを形成できる。
本発明の技術思想は、対向する電極の通電抵抗値が異なる溶接ガンを用い(例えば上下異型電極を適用し)、電気抵抗率・導電率が異なる被溶接板同士をスポット溶接するに際して、被溶接積層体の厚み方向の溶融位置を通電抵抗値が大きい電極側に向けるといったものである。特定の理論に拘束されるわけではないが、通電路における体積と抵抗値との関係をR=ρ×L/A(R:抵抗値、ρ:電気抵抗率、L:通電路長、A:通電路断面積)と定義付けた場合、被溶接積層体の断面で厚み方向に区間設定すると区間毎の発熱量は通電路径が小さい側で大きく、通電路径が大きい側で小さくなると考えられることが関係するものと推測される。本発明は、特に複数の被溶接板(例えば3枚以上の被溶接板)を溶接する場合などに有利となり得る。そのような複数の被溶接板の互いの合わせ面にまでナゲットを好適に形成することができ、所望の溶接物を得ることができるからである。例えば、被溶接積層体を構成する被溶接板が3枚であり、そのうち少なくとも2枚の電気抵抗(電気抵抗率または導電率)が互いに異なっていてよい。かかる場合であっても、被溶接板の互いの合わせ面にまでナゲットを好適に形成することができ、所望の溶接物を得ることができる。
より具体的な態様に基づいて説明する。本発明に従えば、図3に示すように、3枚の被溶接板のそれぞれの電気抵抗が異なる場合であっても、被溶接板の互いの合わせ面にまでナゲットを好適に形成することができる。図3に示されるように低電気抵抗率板23と2種類の高電気抵抗率板27A,27Bとから構成される被溶接積層体50’の場合を例に挙げると、図示するように低電気抵抗率板23側に通電抵抗が相対的に大きい電極12を配置して、高電気抵抗率板27A,27B側に通電抵抗が相対的に小さい電極16を配置することが好ましい。これにより、通電時により低電気抵抗率板23側に向かって溶融起点を好適に移動させることができ、被溶接板の互いの合わせ面にまでナゲット70を好適に形成できる。
本明細書においていう「ナゲットを好適に形成する」とは、例えば被溶接板同士の合わせ面におけるナゲット径が所定の範囲にあることを指している。あくまでも例示にすぎないが、被溶接板が3枚の場合を例に取ると、2つの合わせ面における互いのナゲット径が大きく異ならないことを意味しており、1つ例示すると高電気抵抗率板側の合わせ面におけるナゲット径L高抵抗板に対する低電気抵抗率板側の合わせ面におけるナゲット径L低抵抗板の比(L低抵抗板/L高抵抗板)が約0.8〜約1.1の範囲にあることを意味している(各電極を半分割する平面で切り取った断面図が示される図3を参照のこと)。
以下においては、図4を参照しながら本発明の一実施形態に係る製造方法を経時的に説明する。
本発明の実施に際しては、まず工程(i)を実施する。すなわち、少なくとも2枚の被溶接板を少なくとも部分的に重ね合わせることによって被溶接積層体を得る。具体的には、図4(a)に示すように、例えば3枚の被溶接板として低電気抵抗率板23および2種類の高電気抵抗率板27A,27Bをスポット溶接する場合、それらが互いに積層するように重ね合わせて被溶接積層体50’を得る。図示する態様では、低電気抵抗率板23が外側に位置するようにその低電気抵抗率板と2種類の高電気抵抗率板27A,27Bとを互いに重ね合わせて被溶接積層体50’を得ている。
なお、本明細書にいう「被溶接板」とは、スポット溶接される板状部材のことを指しており、特には電気抵抗(電気抵抗率または導電率)がそれぞれ異なる板状部材のことを指している。スポット溶接は、被溶接板と電極との接触で通電路を確保する必要があるので、被溶接板は、電気伝導性を有しており、それゆえ、例えば金属材を含んで成る板状部材であることが好ましい。ある好適な1つの態様では、被溶接板は金属板である。また、例えば自動車製造におけるスポット溶接を例にとれば、被溶接板は鋼板に相当し得る。鋼板の鋼材自体は、特に限定されず、炭素鋼、合金鋼、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼、マンガン鋼などであってよい。また、代表的な鋼板の種類でいうと、被溶接板としての鋼板は、冷間圧延鋼板(SPC材)、熱延鋼板、熱間圧延軟鋼板(SPH材)、電気亜鉛めっき鋼板(SEC材、SEH材)、溶融亜鉛めっき鋼板(SGC材、SGH材)、溶融アルミめっき鋼板、塗装電気めっき鋼板、ステンレス鋼板(SUS材)、アルミ板、銅板などであってよい。
本発明では、被溶接積層体を構成する少なくとも2枚の被溶接板は互いに電気抵抗が異なっている。例えば、2つの被溶接板をスポット溶接に付す場合、一方の被溶接板が“低電気抵抗率板”となっており、他方の被溶接板が“高電気抵抗率板”となっている。また、3つの被溶接板をスポット溶接に付す場合では、そのうちの1つが“低電気抵抗率板”となっており、他の2つの被溶接板が“高電気抵抗率板”となっていてよい(2つの高電気抵抗率板は互いに電気抵抗率が異なっていてもよく、あるいは、同じであってもよい)。あくまでも例示にすぎないが、一方の被溶接板の電気抵抗率が他方の被溶接板の電気抵抗率よりも少なくとも約5%小さい場合(“約5%”は「一方の被溶接板」の電気抵抗率を基準とする)、かかる「一方の被溶接板」を“低電気抵抗率板”とみなし、「他方の被溶接板」を“高電気抵抗率板”とみなしてよい。また、別の判断指標の1つにすぎないが、電気抵抗率が150μΩ・mmを基準に、それ以下の電気抵抗率を有する被溶接板を“低電気抵抗率板”とみなし、それよりも大きい電気抵抗率を有する被溶接板を“高電気抵抗率板”とみなしてもよい。尚、このような低電気抵抗率板および高電気抵抗率板は互いに厚さが異なっていても同じであってもよい。
工程(i)に引き続いて、工程(ii)を実施する。すなわち、第1電極12および第2電極16で被溶接積層体50’を挟み込む。図4(b)に示すように、第1電極12および第2電極16が被溶接積層体50’の対向する外面にそれぞれ当接するように溶接ガンで被溶接積層体を挟み込むことが好ましい。このようにすると、通電路を好適に確保できる。つまり、次の工程(iii)において好適な通電経路が形成されることになり、ジュール熱を被溶接積層体に発生させることができる。図示する態様から分かるように、工程(ii)においては第1電極12と第2電極16とは被溶接積層体50’を介して互いに対向するような位置関係を有していることが好ましい(つまり、第1電極の軸と第2電極の軸とを互いに整合させる、より具体的にはそれらを一致させることが好ましい)。
“低電気抵抗率板23”および“高電気抵抗率板27”と異なる被溶接板から成る被溶接積層体をスポット溶接する際、低電気抵抗率板側に通電抵抗のより大きい電極を位置付ける一方、高電気抵抗率板側に通電抵抗のより小さい電極を位置付けることが好ましい。図4(b)に示すように低電気抵抗率板23が外側に位置するように低電気抵抗率板と2種類の高電気抵抗率板27(27A,27B)とを互いに重ね合わせて被溶接積層体50’とする場合では、低電気抵抗率板23に接するように通電抵抗のより電極を位置付ける一方、高電気抵抗率板27に接するように(図示する態様では高電気抵抗率板27Aに接するように)通電抵抗のより小さい電極を位置付けることが好ましい。
例えば溶接ガンにおいて第1電極および第2電極の各々が切頭形状を有し、第1電極の切頭面積と第2電極の切頭面積とが互いに異なる場合、第1電極および第2電極のうち切頭面積が相対的に小さい電極を低電気抵抗率板側に位置付け(上記の3枚の被溶接板では低電気抵抗率板23に接するように位置付け)、切頭面積が相対的に大きい電極を高電気抵抗率板側に位置付ける(上記の3枚の被溶接板では高電気抵抗率板27に接するように位置付ける)ことが好ましい。これは、第1電極および第2電極の切頭形状が切頭円錐形状である場合、第1電極および第2電極のうち切頭面の径が相対的に小さい電極を低電気抵抗率板側に位置付け(上記の3枚の被溶接板では低電気抵抗率板23に接するように第1電極12を位置付け)、切頭面の径が相対的大きい電極を高電気抵抗率板側に位置付ける(上記の3枚の被溶接板では高電気抵抗率板27と接するように第2電極16を位置付ける)ことが好ましい。なお、第1電極および第2電極の切頭形状は、特に切頭円錐形状に特に限定されるものでなく、例えば切頭四角錐状、切頭円柱状などの形状であってもよい。また、このような溶接ガン電極は、電極先端部と電極胴部とが一体化して成る“一体型”に特に限定されず、電極先端部を取り替えることができる“キャップ型”であってもよい。“キャップ型”の場合、電極チップが消耗した際の廃棄部品をより少なくすることができる。
工程(ii)に引き続いて、工程(iii)を実施する。すなわち、第1電極12および第2電極16で被溶接積層体50’を加圧しながら第1電極12および第2電極16との間の通電を行う。これにより、被溶接積層体50’にジュール熱を発生させることができ、溶融部70を形成することができる(図4(c)参照)。
かかる通電時における電流値、通電時間、加圧力などは、好適なナゲット形成に資するのであれば特に制限があるものでなく、例えば常套的なスポット溶接で採用されているものであってよい。あくまでも例示にすぎないが、例えば、通電の電流値は、5kA〜30kAの範囲であってよい。このような通電電流は交流電流または直流電流のいずれであってもよい。すなわち、通電電流の電源は、交流式(例えば、単相交流式または三相低周波式など)または直流式(例えば、単相整流式、三相整流式またはインバータ式など)のいずれかでよい。同様にあくまでも例示にすぎないが、電極によって被溶接積層体に加えられる圧力(加圧力)は、例えば1〜20kN程度であってよい。典型的には、被溶接板・被溶接積層体の室温強さが強いほど、また、熱膨張率が大きいほど、加圧力を大きくすることが好ましい。更にいえば、かかる通電に際しては、第1電極および第2電極の各々を水冷に付すことが好ましい。より具体的には、第1電極12および第2電極16の各内部に冷却水を流すことが好ましい。より好適に被溶接積層体にジュール熱を発生させることができ、溶融部が形成され易くなるからである。
工程(iii)の通電時には、好ましくは通電定常時の温度分布においてピーク温度ポイントが通電抵抗のより大きい電極側にシフトする作用が奏され得る。これは、工程(iii)の被溶接積層体に生じる溶融部の形成開始位置が制御されることを意味している。より具体的には、互いに異なる通電抵抗に起因して第1電極および第2電極のうち通電抵抗が相対的に大きい電極側に向かって(即ち、第1電極12により近づく方向に)溶融部70が偏移するような作用が生じる(図4(c)参照)。これにより、“低電気抵抗率板”および“高電気抵抗率板”と電気抵抗が異なる被溶接板の互いの合わせ面にまでナゲットを好適に形成される。上述の如く低電気抵抗率板23が外側に位置するように当該低電気抵抗率板23と2種類の高電気抵抗率板27(27A,27B)とを互いに重ね合わせて被溶接積層体50’とした場合では、低電気抵抗率板23側に向かって溶融起点をより移動させる作用が生じるので、低電気抵抗率板側に位置する被溶接板の合わせ面(即ち、低電気抵抗率板23と高電気抵抗率板27との界面)にまでナゲットを好適に形成できる。なお、継続して通電を行うと溶融部は成長していくものの、過度な成長はスパッタ発生につながるので、低電気抵抗率板側に位置する被溶接板の合わせ面にまで溶融部が好適に及んだ時点で通電を終了することが好ましい。
以上の如く説明した工程から分かるように、本発明の1つの好適な態様は、溶接ガンの電極先端形状を工夫することでジュール熱/溶融の起点を板組みによって変化させて溶融径のバランスを最適化しており、そして、好ましくはその際の溶接痕などの外観上の問題も考慮してそれらを特に不都合のないように抑制している。
上記においては本発明の理解のために典型的な実施形態を説明したが、本発明の製造方法は、種々の形態で具現化できる。
(圧痕低減の観点に基づく好適な電極切頭面径)
溶接ガンの第1電極および第2電極の切頭形状が切頭円錐形状である場合、第1電極および第2電極の切頭面は円形となり得る(図2参照)。すなわち、第1電極および第2電極は円形状切頭面を有することになる。かかる場合、第1電極と第2電極との間で円形状切頭面の径寸法が異なることが好ましく、一方の電極が他方の電極よりも径寸法が大きくまたは小さくなっていることが好ましい。
例えば、第1電極が相対的に小さい径寸法を有し、第2電極が相対的に大きい径寸法を有する場合、第1電極における円形状切頭面の径寸法が約6mm(φ6)であるのに対して、第2電極における円形状切頭面の径寸法が約7mm(φ7)以上であることが好ましく、更には約7mm〜約16mm(φ7〜φ16)、例えば約8mm〜約16mm(φ8〜φ16)であることがより好ましい。具体的には、第1電極および第2電極の双方ともに電極胴部自体は同じサイズであってよく、例えばその電極胴部の径寸法が双方の電極ともに16mm(φ16)〜20mm(φ20)である場合、第1電極における円形状切頭面の径寸法が好ましくは約6mm(φ6)であり、第2電極における円形状切頭面の径寸法が好ましくは約7mm〜約16mm(φ7〜φ16)、例えば約8mm〜約16mm(φ8〜φ16)となっている。このような態様においては、電気抵抗が互いに異なる被溶接板同士の合わせ面に好適にナゲットを形成できるだけでなく、圧痕(溶融金属が電極に押されることに起因して形成される板表面の局所的な窪み)が効果的に減じられた溶接物を得ることができる(後述する実施例を参照のこと)。特に、径寸法の大きい電極は、圧痕抑制の効果が大きいので、かかる径寸法の相対的に大きい電極(図2でいえば第2電極16)を被溶接積層体の外面に位置付けることによって溶接物の見栄え向上をより効果的に図ることができる。つまり、接合強度の点だけでなく、外観の点でもより好適なスポット溶接を行うことが可能となる。
従来技術において圧痕の低減には銅製の平板(以下「銅板」とも称する)を用いることがある。具体的には電極と被溶接積層体との間に銅板を挟みこんでスポット溶接を行うことがある。この銅板を用いる場合、銅板の表面状態(銅板の摩耗状態など)に起因して溶接および外観品質の低下の招く虞があるので、銅板表面を定期的に研摩したり、仕上げ工程で銅板に起因した品質低下がないかを確認したりする必要があり、結果としてライン稼働率の低下を招く虞がある。また、そもそも銅板は、その形状に起因して特定箇所にしか使用できない場合なども考えられる(例えば車体治具内で特定箇所にしか使用できない)。この点、本発明に従って少なくとも一方の電極における円形状切頭面の径寸法を約7mm(φ7)以上、好ましくは約8mm(φ8)以上とすると、圧痕がより減じられた溶接物を得ることができるので、銅板の必要性が減じられ、結果として効率の良いスポット溶接を行うことができる。
(電極肩部の好適形状)
“電極肩部の好適形状”の態様は、溶接痕を特により効率良く抑制できる電極先端形状に基づいている。かかる態様においては、第1電極および第2電極の少なくとも一方につき電極先端肩部と切頭面との境界が角張っていない。
例えば、図5に示される電極先端形状では、電極が被溶接積層体の外面に対して“角度がつくように”接した通電状態となる場合(即ち、電極の軸と被溶接積層体の外面とが成す角度が直角とならない場合)、電極が被溶接積層体にめり込みやすくなり、結果として非所望の溶接痕が生じる虞がある。これは、先端が“平面”となる切頭形状の電極において好ましくは考慮する事項である(換言すれば、切頭形状の電極を用いた場合は電極と被溶接積層体との接触状態のバラツキの影響を受けやすいといえる)。
この点、本発明に従って図6に示される電極先端形状にすると、上記“非所望の溶接痕”の発生をより減じた溶接が可能となる。具体的には、図6に示される電極先端形状では、第1電極および第2電極の少なくとも一方の電極において電極先端肩部と切頭面との境界が角張っていない、即ち、電極先端肩部と切頭面とが互いに滑らかな面を成すように連続している。従って、電極が被溶接積層体の外面に対して“角度がつくように”接した通電状態(即ち、電極の軸と被溶接積層体の外面とが成す角度が直角とならない状態)となったとしても、電極が被溶接積層体にめり込みにくくなり、結果として非所望の溶接痕を抑制できる。これは、本発明では切頭形状の電極であっても電極と被溶接積層体との接触状態のバラツキの影響を受けにくくなることを意味している。また、溶接痕は特殊な環境下でサビ発生の要因となり得るので、図6に示される電極先端形状は溶接物のサビ低減につながり得る。
本発明における図6の電極先端形状について詳述しておく。図6の電極はその電極先端肩部と切頭面との境界が角張っておらず、即ち、電極先端肩部と切頭面とが互いに滑らかな面を成すように連続している。これは、電極をその軸方向に沿って二分割した断面(電極先端断面)でとらえてみると、かかる電極が図6に示す如くの輪郭形状を有していることを意味している。具体的にいえば、電極先端の肩部輪郭を成す円弧の中心が「切頭面端(切頭面の最周縁)を通って電極軸と平行となるライン」上に位置することが好ましく、更には、そのような肩部輪郭を成す円弧の中心角が90°となっていることが好ましい(図6の上側図参照)。これに対して、図5の電極先端形状(即ち“めり込みやすい形状”)では、電極先端の肩部輪郭を成す円弧の中心が、電極軸上に位置し、それゆえ、「切頭面端を通って電極軸と平行となるライン」上には位置しておらず、また、肩部輪郭を成す円弧の中心角が90°となっていない(図5の上側図参照)。
あくまでも例示にすぎないが、具体的な寸法でもって詳述する。本発明においては、例えば、電極胴部の径が約16mm(φ16)であって、切頭面径が約8mmである場合、その電極先端肩部のRは約4mmとなっていてよい。ここで、図6に示すように、電極先端肩部の輪郭を成す円弧の中心は「切頭面端を通って電極軸と平行となるライン」上に位置していると共に、その円弧の中心角が約90°となっている。なお、この例示は切頭面径が約8mmの場合であるが、切頭面径がそれよりも大きくなれば、電極先端肩部のR(および電極胴部)もそれに伴って大きくすることが一般に好ましいことになる。従って、そのような大径の切頭面径の場合なども考慮すると、電極先端肩部のRは4mm以上となることが好ましいといえる。
[本発明の製造装置]
次に、スポット溶接物の製造装置について説明する。本発明の製造装置は、上述のスポット溶接物の製造に好適な装置である。すなわち、電気抵抗が互いに異なる被溶接板から構成されるスポット溶接物を製造するための装置である。かかる製造装置は、図7に示すように、対を成す第1電極12と第2電極16とから構成される溶接ガンを少なくとも有して成るところ、第1電極12および第2電極16における通電抵抗が互いに異なっている。
ここでいう「通電抵抗が互いに異なる」とは、上述した如く、広義には、通電電流の流れにくさが第1電極と第2電極とで意図的に変わっていることを意味しており、狭義には、通電路において第1電極と第2電極とで電気抵抗が互い異なっていることを意味している。ここで、本発明の製造装置では、溶接ガンの第1電極と第2電極との間で材質が変わっていたり、および/または、電極先端形状が変わっていたりする(図7には“電極先端形状が互いに異なる態様”が特に示されている)。
本発明の製造装置は、溶接ガンの対向する対の電極が互いに異なる通電抵抗値を有しており、電気抵抗率(または導電率)が異なる被溶接板同士をスポット溶接するに際して、被溶接積層体の厚み方向の溶融部位置を通電抵抗値が大きい電極側に向かってより偏移させることができる。これにより、本発明の製造装置では、複数の被溶接板の互いの合わせ面にまでナゲットを好適に形成することができ、所望の溶接物を得ることができる。例えば、被溶接積層体を構成する被溶接板が3枚であり、そのうち少なくとも2枚の電気抵抗率が互いに異なっている場合であっても、被溶接板の互いの合わせ面にまでナゲットを好適に形成することができ、所望の溶接物が得られることになる。
本発明の製造装置は、被溶接積層体を介した電極間の通電のため、電源に接続されて使用される。電源自体は、常套的なスポット溶接装置に用いられているものと同様であってよい。つまり、特に制限されるわけではないが、本発明の製造装置の電源は、交流式または直流式のいずれかであってよい。交流式の電源の場合、単相交流式または三相低周波式であってよい。単相交流式は、商用周波数の電流を用いるものである。一方、三相低周波式は、商用周波数の電流を例えば10〜20Hz程度の低周波数電流に変えたものであり、これにより回路のインピーダンスが低下し、大電流の供給が容易となる。また、直流式の場合、単相整流式、三相整流式またはインバータ式であってよい。単相整流式は、単相交流式の溶接機の二次側に整流器を挿入したものであり、入力kVAの低減に寄与し得る。三相整流式は、単相整流式の電源を3台一体化または個別に3台組み合わせて三相全波整流の形としたものであり、大電流が容易になり、また、電流の脈動を効果的に減らすことが可能である。そして、インバータ式は、三相交流電源を直流化した後、スイッチング素子などを用いて例えば600〜1000Hz程度の中周波電流に変換し、溶接トランスに供給し、二次回路で整流した後溶接部に直流電流を供給する方式である。
本発明の製造装置は、「第1電極12および第2電極16における通電抵抗が互いに異なる」といったガン電極に特に存しており、それゆえ、その他の部分は常套的なスポット溶接装置に用いられているものと同様であってよい(但し、あくまでも本発明の製造装置は、電気抵抗が互いに異なる被溶接板同士をスポット溶接するための装置である点に留意されたい)。換言すれば、本発明の製造装置は、電極以外、常套的なスポット溶接機と同様の加圧・通電部、電源部、電力制御部および接続用のケーブル類などから構成されていてよい。また、本発明の製造装置は、その全体として捉えた装置タイプにつき、“定置形スポット溶接機”、“卓上形スポット溶接機”、“ポータブルスポット溶接機”または“マルチスポット溶接機”のいずれのタイプであってもよい。
以下では、本発明の製造装置の特徴となる「通電抵抗が互いに異なる電極」について詳述しておく。
通電抵抗の互いの相違が“電極材質の相違”で達成されている本発明の装置は、例えば「第1電極および第2電極の一方の電極材質の導電率」と「第1電極および第2電極の他方の電極材質の導電率」とが互い異なった溶接ガンを好ましくは有している。あくまでも例示にすぎないが、第1電極および第2電極の一方が“アルミナ分散銅”を含んで成る電極材質となり、それらの他方が“クロム銅”または“クロムジルコニウム銅”を含んで成る電極材質から成っていてよい。
また、通電抵抗の互いの相違が“電極先端形状の相違”で達成されている本発明の装置は、第1電極および第2電極の最先端面につき一方が他方より大きい又はより小さい溶接ガンを好ましくは有している。ある好適な態様では、第1電極および第2電極の各々が切頭形状を有し、第1電極の切頭面積と第2電極の切頭面積とが互いに異なっている(即ち、平電極形状の場合、先端面の面積が互いに異なっている)。
例えば、第1電極および第2電極の切頭面積の一方が他方よりも1.7倍〜6.3倍程度であってよい。ここで、本発明の製造装置において第1電極12および第2電極16の切頭形状が切頭円錐形状であってよい(図2および図7参照)。つまり、円錐状または円柱状の電極における最先端部分が電極径方向に平行な面で切り取られて得られた形状を第1電極12および第2電極16が有していてよい。かかる場合、第1電極12および第2電極16の切頭面(すなわち、円形状の切頭面)の径比が約1.3〜約2.5であることが好ましい。より具体的には、図2に示すように第1電極12および第2電極16の円形状切頭面のうちサイズが相対的に小さい側の径D小径に対するサイズが相対的に大きい側の径D大径の比(即ち、D大径/D小径の値)が約1.3〜約2.5であることが好ましい。これによって、通電定常時の温度分布においてピーク温度ポイントが通電抵抗のより大きい電極側にシフトするようになり、被溶接積層体に生じる溶融部の形成開始位置がより好適に制御され得る。つまり、電気抵抗が異なる被溶接板の互いの合わせ面にまでナゲットを好適に形成できる。
本発明の製造装置において、溶接ガンは溶接痕をより効果的に抑制できる電極形状を有していることが好ましい。例えば、第1電極12および第2電極16の少なくとも一方は、図6に示される如くの電極先端形状を有していることが好ましい。つまり、上記の「電極肩部の好適形状」で説明した如く、電極先端肩部と切頭面との境界が角張っていない、即ち、電極先端肩部と切頭面とが互いに滑らかな面を成すように連続した電極となっていることが好ましい。これによって、電極が被溶接積層体の外面に対して“角度がつくように”接した通電状態(即ち、電極の軸と被溶接積層体の外面とが成す角度が直角とならない状態)になったとしても、電極が被溶接積層体に対してめり込みにくくなり、結果として溶接痕をより効果的に抑制できるようになる(図6参照)。
本発明の製造装置における電極のより詳細な事項、更なる具体的な態様、または使用時の態様などその他の事項は、上述の[本発明の製造方法]で説明しているので、重複を避けるために説明を省略する。
以上、本発明の実施態様について説明してきたが、本発明の適用範囲における典型例を示したに過ぎない。したがって、本発明は、上記の実施形態に限定されず、種々の変更がなされ得ることは当業者に容易に理解されよう。
例えば、上記においては、“抵抗スポット溶接”によって溶接物を得る態様を中心に説明してきたが、本発明はかかる態様に限定されない。例えば、被溶接板表面の溶接箇所となる部分に突起を設ける“プロジェクション溶接”またはスポット溶接の電極をローラー状にした“シーム溶接”、更には、接合面にろう材を設置して抵抗発熱でろう付けを行う“抵抗ろう付け”の態様などであってもよい。
また、上述で説明した切頭面径比などはあくまでも一例である。例えば、第1電極12および第2電極16の円形状の切頭面につき、図2に示される「相対的に小さい径D小径」に対する「相対的に大きい径D大径」の比、即ち、D大径/D小径の値は1.1〜5、1.1〜4、または、1.1〜3(例えば、1.5〜3)などであってもよい。
本発明に関連する実施例を説明する。
[ナゲット比の確認試験]
本発明に従って“通電抵抗が互いに異なる電極”を用いて電気抵抗率が異なる被溶接板をスポット溶接した際の効果を確認すべく以下の実証試験を行った。
(溶接ガン電極)
・第1電極(小切頭径)
全体形状:切頭円錐形状
切頭径:6mm(φ6)
材質:銅合金(クロム銅)
・第2電極(小〜大切頭径)
全体形状:切頭円錐形状
切頭径:(1)6mm(φ6)、(2)7mm(φ7)、(3)8mm(φ8)、(4)9mm(φ9)、(5)10mm(φ10)、(6)11mm(φ11)、(7)12mm(φ12)、(8)16mm(φ16)
材質:銅合金(クロム銅)
(通電条件)
・電流値:7.5kA、8.0kA、8.5kA、9.0kA
・加圧力:3.43kN
・通電時間:20cycle
(被溶接板)
・鋼板3枚
・鋼板の種類:(低電気抵抗率板:JAC270※、抵抗率150μΩ・mm、厚さ0.7mm)、(第1高電気抵抗率板:JAC780※、抵抗率350μΩ・mm、厚さ1.6mm)、(第2高電気抵抗率板:JAC590※、抵抗率300μΩ・mm、厚さ1.2mm)、※JFS規格
・抵抗率の大小関係:低電気抵抗率板<第2高電気抵抗率板<第1高電気抵抗率板
第1高電気抵抗率板を真ん中にして3枚の被溶接板を重ね合わせて被溶接積層体を得た。次いで、低電気抵抗率板側に第1電極(小切頭径)を位置付ける一方、高電気抵抗率板側に第2電極(小〜大切頭径)を位置付ける形態で被溶接積層体を電極で挟み込んだ。そして、上記の条件下にて加圧および通電を行うことによってナゲットを形成してスポット溶接物を得た。
大切頭径の第2電極の切頭径および通電電流値をパラメータとして変えることによって同様にナゲット形成を行い、スポット溶接物を得た。
得られたスポット溶接物につき被溶接板の界面に形成されたナゲットの寸法を目視確認した。そして、スポット溶接時における溶融部の偏移を評価するための指標、即ち、好適なナゲット形成を評価するための指標として「低電気抵抗率板側の界面におけるナゲット径÷高電気抵抗率板側の界面におけるナゲット径」を算出した。結果をグラフとして表したものを図8に示す。
図8のグラフから分かるように、本発明に従ったスポット溶接ではナゲットを好適に形成できることが確認された。つまり、従前の如く通電抵抗が同一の電極の場合と比べると、本発明に従った通電抵抗の互いに異なる電極は、電気抵抗率の互いに異なる被溶接板であってもそれらの合わせ面にまで十分に及ぶようにナゲットを形成できることが確認された。より具体的にいえば、切頭径6mmの第1電極に対して切頭径7mm〜16mmの第2電極を用いた溶接ガンとなる場合では効果的なナゲットを形成でき、特には切頭径6mmの第1電極に対して切頭径8mm〜15mmの第2電極を用いた溶接ガン(即ち、第1電極の円形状切頭面径に対する第2電極の円形状切頭面径の比が約1.3〜約2.5)となる場合ではより効果的なナゲット形成ができることが分かった。
[圧痕低減の観点に基づく好適な電極切頭面径]
電極切頭面径の大径化による圧痕の影響を確認すべく以下の実証試験を行った。
(溶接ガン電極)
・第1電極(小切頭径)
全体形状:切頭円錐形状
切頭径:6mm(φ6)
材質:銅合金
・第2電極(小〜大切頭径)
全体形状:切頭円錐形状
切頭径:6mm(φ6)、7mm(φ7)、8mm(φ8)、9mm(φ9)
材質:銅合金
(通電条件)
・電流値:8.0kA、9.0kA
・加圧力:2.45kN
・通電時間:15cycle
(供試板)
・鋼板(材質:JAC270※×JAC780※×JAC590※)※JFS規格
・板厚:0.7mm×1.6mm×1.2mm
供試板につき、上記条件下で加圧および通電を行うことによってスポット溶接試験を行った。試験後に供試板を目視確認することによって圧痕サイズを求めた。結果を図9に示す。
図9の結果から分かるように、ガン電極における円形状切頭面径が、約7mm(φ7)以上、好ましくは約8mm(φ8)以上、特にいえば約8mm〜約16mm(図9からはφ8〜φ9程度)となると、圧痕がより減じられた溶接物を得ることができることが確認された。