以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、以下の説明で「増幅器」とは、例えばオペアンプIC等のように、帰還抵抗や利得抵抗を追加することによって増幅機能を実現するためのものを指し、また「増幅回路」とは、増幅器に帰還抵抗や利得抵抗などを追加することによって、回路全体として増幅機能を有するものを指す。
〔第1の実施の形態〕
図1および図2は、本発明を適用した、電流帰還型増幅器1を用いた反転増幅回路2を示している。図9には、従来技術による、電流帰還型増幅器1を用いた反転増幅回路2を示しており、本発明に係る図1および図2と対比することによって、本発明の効果を説明する。
図1、図2および図9において、反転増幅回路2全体の入力電圧をVin、出力電圧をVoutとする。また、電流帰還型増幅器1の反転入力電圧をVinv、非反転入力電圧をVnonとする。(以下、第1の実施の形態において、特記無き場合は図1、図2および図9の共通事項である。)
反転増幅回路2の正極側出力端子にVoutを出力する電流帰還型増幅器1の出力端子と、Vinvが印加される電流帰還型増幅器1の反転入力端子との間には、帰還抵抗Rfが接続されている。図1および図2では、帰還抵抗Rfに並列に帰還容量Cfが接続されている。従来技術では帰還容量Cfを意図的に付与することは禁じられており、従来技術を示す図9では、帰還容量Cf=0である。(浮遊容量などは、考えないこととする。)
Vinが入力する反転増幅回路2の正極側入力端子と、Vinvが印加される電流帰還型増幅器1の反転入力端子との間には、利得抵抗Rgが接続されている。また、反転増幅回路2の負極側入力端子および負極側出力端子と、電流帰還型増幅器1の非反転入力端子は何れも接地され、低い周波数における図1の反転増幅回路2の増幅率は、−(Rf÷Rg)となる。さらに図2では、利得抵抗Rgと並列に、容量Cgが接続されている。容量Cgや帰還容量Cfは、例えばコンデンサ等の容量性素子や、そうした容量性素子を含む回路で構成される。図1および図9では、容量Cg=0である。(浮遊容量などは考えないこととする。)
電流帰還型増幅器1の内部では、非反転入力から反転入力に向かって、入力バッファ増幅器(電流帰還型増幅器1を示す大きな三角の中、左側の「×1」部)3とその出力抵抗Riが、直列に接続されている。
反転入力に流れる電流をIiとすると、カレントミラー回路4によって、開ループトランスインピーダンスTz(s)にIiと等しい電流が与えられ、発生した電圧が出力バッファ増幅器(電流帰還型増幅器1を示す大きな三角の中、右側の「×1」)5を介して出力される。
この結果、出力電圧Voutと反転入力電流Iiは、下記のような関係となる。
電流帰還型増幅器1の開ループトランスインピーダンスは、一例として図11のような周波数特性を示す。周波数特性が平坦な部分から20dB/decに移行する点を第1ポール、20dB/decから40dB/decに移行する点を第2ポールと称する。ここでは、第1ポールの時定数τ1とし、第2ポールの時定数τ2として示す。
本発明のうち第1の実施の形態では特に第2ポールに注目するので、ここでは数式の簡略化のために、開ループトランスインピーダンスに第2ポール相当だけが存在するような、図12のような周波数特性(第1ポール相当が存在せず、それ以下の周波数でも20dB/decが維持される)を示す例を用いる。
この場合、電流帰還型増幅器1の開ループトランスインピーダンスは、下記のように表現することができる。
ここでs=jωとして、Tz_0は角周波数ω=1のときの開ループトランスインピーダンスを示す。また、τ0は第2ポール相当の時定数を示す。(ポールの時定数を角周波数で表現するとω=1÷τ0、ポールの時定数を周波数で表現するとf=ω÷(2π)=1÷(2πτ0)である。)
図2において、利得抵抗Rgと容量Cgに流れる電流に注目すると、下記の関係が成立する。
図1では、容量Cg=0なので、下記の関係が成立する。
図9では、容量Cg=0、帰還容量Cf=0なので、下記の関係が成立する。
ここで、反転入力に流れる電流Iiは、下記のように表現できる。
式(1)に式(4)と式(2)を代入すると、下記のようになる。
反転増幅回路2ではVnon=0[V]なので、式(3)乃至式(5)から図2における反転増幅回路2全体の伝達関数を求めると、下記のようになる。
ここで、a、b、c、dは各々、下記のとおりである。
容量Cg=0の場合の式(3’)、式(4)、式(5)から、図1における反転増幅回路2全体の伝達関数を求めると、下記のようになる。
ここで、a’、b’は各々下記のとおりであり、c、dは前述のとおりである。
容量Cg=0、帰還容量Cf=0の場合の式(3”)、式(4)、式(5)から、図9における反転増幅回路2全体の伝達関数を求めると、下記のようになる。
ここで、b”とc”は下記のとおりであり、dは前述のとおりである。
図1の反転増幅回路2のループ利得は、図13のような測定回路を用いて求めることができる。ここでV1はループ利得を求めるために、電流帰還型増幅器1の出力端子と反転増幅回路2の正極側出力端子との間に接続する試験信号電圧であり、反転増幅回路2の正極側入力端子は接地される。電流帰還型増幅器1の出力端子に発生する電圧をVoutとし、反転増幅回路2の正極側出力端子に発生する電圧をVout’とすると、V1の周波数におけるループ利得Gは、下記のように表現できる。
利得抵抗Rgや容量Cgに流れる電流に注目すると、図2において下記の関係が成立する。
図1では、容量Cg=0なので、下記の関係が成立する。
図9では、容量Cg=0、帰還容量Cf=0なので、下記の関係が成立する。
ここで、反転入力に流れる電流Iiは、前出の式(4)と同様である。
なお、Vout’は下記のように表現できる。
式(7)に式(4)、式(5)、式(8)、式(9)を適用することにより、図2におけるループ利得Gは下記のように表現できる。
図1では、容量Cg=0なので、下記の関係が成立する。
図9では、容量Cg=0、帰還容量Cf=0なので、下記の関係が成立する。
式(10)、式(10’)、式(10”)において、ポールを決定しているのは、分母中の(1+s・τ0)の項である。式(10)、式(10’)では、分子中の(1+s・Cf・Rf)の項を、分母中の(1+s・τ0)の項と等しくする、すなわちτ0=Cf・Rfとすることにより、このポール(第2ポール相当)を消すことができる。
図9のような従来技術では帰還容量Cf=0であることが必要であったが、本発明では、帰還容量Cfを下記の式(11)のように選択することにより、このポールを消すことができるのである。
電流帰還型増幅器の開ループトランスインピーダンスは電流帰還型増幅器固有の特性であり、その第2ポールは決まっている。しかし本発明では、帰還回路中の帰還容量Cfの値を適切に選択することによって、反転増幅回路2のループ利得Gにおいてこの第2ポールをキャンセルしているのである。
なお、帰還容量Cfの値を選択することによって第2ポールを消した場合、消した第2ポールよりも高い周波数に新たなポールができることになる結果、反転増幅回路2の広帯域化を図ることができるという効果が得られるのである。
図2におけるポールを消した場合のループ利得Gは、式(11)を式(10)に代入することにより、下記のように表現できる。
図1では、容量Cg=0なので、下記の関係が成立する。
ポールを消した場合の図1における反転増幅回路2全体の伝達関数は、式(11)を式(6’)に代入することにより、下記のようになる。
ここで、w、x、y、zは各々、下記のとおりである。
この式をさらに整理すると、下記のようになる。
式(11)の条件によって、式(10’)の分母中の(1+s・τ0)を打ち消すことによって、ポールを打ち消した。しかし式(14)の分母中には再び(1+s・τ0)が現れており、ポールを完全には打ち消し切れていないことがうかがえる。
図2における反転増幅回路2全体の伝達関数は、式(11)を式(6)に代入することにより、下記のようになる。
ここで、k、l、m、nは各々、下記のとおりである。
ここで、図1に係る式(14)のように分母中に再び(1+s・τ0)が現れた場合に、これを打ち消すために、図2に係る式(13)の分子中の(1+s・Cg・Rg)の項を(1+s・τ0)と等しくする、すなわちτ0=Cg・Rgとして、下記の式を得る。
式(15)を式(13)、(13−1)、(13−2)、(13−3)、(13−4)に代入して整理すると、下記のようになる。
式(16)の分母中にはもはや(1+s・τ0)は存在せず、ポールを完全に打ち消しきれたことがうかがえる。また式(15)を式(12)に代入して整理すると、下記のようになる。
帰還容量Cfのみを使用する場合、帰還インピーダンスZf(帰還抵抗Rfと帰還容量Cfの並列)は周波数が高くなるに連れて低下するが、利得抵抗Rgのインピーダンスは変化しない。このため、帰還インピーダンスZfと利得抵抗Rgの比は、周波数によって変化する。
これに対して、帰還容量Cfと容量Cgの両方を使用して各々を式(11)と式(15)の容量値とする場合、帰還インピーダンスZfも利得インピーダンスZg(帰還抵抗Rgと容量Cgの並列)は、共に周波数が高くなるに連れて低下するが、帰還インピーダンスZfと利得インピーダンスZgの比は変化しない。このため、帰還容量Cfと容量Cgの両方を使用すれば、より完全に第2ポールをキャンセルすることができるのである。
以上、図1や図2のように、帰還抵抗Rfに並列に帰還容量Cfを接続し、帰還容量Cfの値を適切に選択することによって第2ポールを打ち消し、反転増幅回路2の広帯域化を図ることができることを説明した。
すなわち、第1の実施の形態では、請求項1に対応して、電流帰還型増幅器1と、この電流帰還型増幅器1の出力側と反転入力側との間に接続した帰還抵抗Rfと、を含む電流帰還型増幅回路としての反転増幅回路2において、電流帰還型増幅器1の開ループトランスインピーダンスの周波数特性に現れる第2ポールをキャンセルするような値に選定した帰還容量Cfを、第1の容量として帰還抵抗Rfに並列に接続している。これにより、反転増幅回路2としての安定性を保ちつつも、広帯域化を実現可能な反転増幅回路2を提供できる。
さらに、図2のように、利得抵抗Rgに並列に容量Cgを接続し、帰還容量Cgの値を適切に選択することによって、より完全に第2ポールを打ち消し、反転増幅回路2の広帯域化を図ることができることを説明した。
すなわち、第1の実施の形態では、請求項2に対応して、電流帰還型増幅器1の反転入力側に接続した利得抵抗Rgをさらに含み、電流帰還型増幅器1の開ループトランスインピーダンスの周波数特性に現れる第2ポールをキャンセルするような値に選定した容量Cgを、第2の容量として利得抵抗Rgに並列に接続している。これにより、反転増幅回路2としての安定性を保ちつつも、より広帯域化を実現可能な反転増幅回路2を提供できる。
〔第2の実施の形態〕
図5および図6は、本発明を適用した、電流帰還型増幅器1を用いた非反転増幅回路2’を示している。図10には、従来技術による、電流帰還型増幅器1を用いた非反転増幅回路2’を示しており、本発明に係る図5および図6と対比することによって、本発明の効果を説明する。
以下、反転増幅回路2に係る第1の実施の形態(図1、図2および図9)との共通点は記載を省略し、相違点を中心に説明する。また、第2の実施の形態において、特記無き場合は図5、図6および図10の共通事項である。
第2の実施の形態では、非反転増幅回路2’への入力電圧Vinが、非反転入力電圧Vnonとして電流帰還型増幅器1の非反転入力端子に印加され、接地点と電流帰還型増幅器1の反転入力端子との間に、利得抵抗Rgが接続されている。図5および図6では、帰還抵抗Rfと並列に帰還容量Cfが接続され、図6では、利得抵抗Rgと並列に容量Cgが接続されている。それ以外の構成は、第1の実施の形態と共通している。
図6において、利得抵抗Rgと容量Cgに流れる電流に注目すると、下記の関係が成立する。
図5では、容量Cg=0なので、下記の関係が成立する。
図10では、容量Cg=0、帰還容量Cf=0なので、下記の関係が成立する。
非反転増幅回路2’ではVnon=Vinなので、式(3)’と、前出の式(4)、式(5)から、図6における非反転増幅回路2’全体の伝達関数を求めると、下記のようになる。
ここで、a、b、c、dは各々、前出の式(6−1)〜式(6−4)と同様である。
容量Cg=0の場合の式(3’)’と、前出の式(4)、式(5)から、図5における非反転増幅回路2’全体の伝達関数を求めると、下記のようになる。
ここで、a’、b’、c、dは各々、前出の式(6’−1)、式(6’−2)、式(6−3)、式(6−4)と同様である。
容量Cg=0、帰還容量Cf=0の場合の式(3”)’と、前出の式(4)、式(5)から、図10における非反転増幅回路2’全体の伝達関数を求めると、下記のようになる。
ここで、b”、c”、dは各々、前出の式(6”−2)、式(6”−3)、式(6−4)と同様である。
図5の非反転増幅回路2’のループ利得は、図13のような測定回路を用いて求めることができる。
利得抵抗Rgや容量Cgに流れる電流に注目すると、図6において下記の関係が成立する。
図5では、容量Cg=0なので、下記の関係が成立する。
図10では、容量Cg=0、帰還容量Cf=0なので、下記の関係が成立する。
図6におけるループ利得Gは前出の式(10)と同様であり、図5におけるループ利得Gは前出の式(10’)と同様であり、図10におけるループ利得Gは前出の式(10”)と同様である。またポールを打ち消す帰還容量Cfは前出の式(11)と同様であり、図6および図5において帰還容量Cfの値によってポールを消した場合のループ利得Gは各々、前出の式(12)、式(12’)と同様である。このことから、非反転増幅回路2’においても、反転増幅回路2と同様に、帰還容量Cfによってポールを消すことができ、さらに容量Cgによって、より完全にポールを消すことができることがわかる。
ポールを消した場合の図5における非反転増幅回路2’全体の伝達関数は、前出の式(11)を前出の式(6’)’に代入することにより、下記のようになる。
ここで、w、x、y、zは各々、前出の式(13’−1)〜式(13’−4)と同様である。この式をさらに整理すると、下記のようになる。
前出の式(11)の条件でポールを打ち消したが、式(14)’の分母中には再び(1+s・τ0)が現れており、ポールを完全には打ち消し切れていないことがうかがえる。
図6における非反転増幅回路2’全体の伝達関数は、前出の式(11)を前出の式(6)’に代入することにより、下記のようになる。
ここで、k、l、m、nは各々、前出の式(13−1)〜式(13−4)と同様である。
ここで、図5に係る前出の式(14)’のように分母中に再び(1+s・τ0)が現れた場合に、これを打ち消すために、τ0=Cg・Rg、すなわち前出の式(15)として、式(13)’の分子をTz_0(Rf+Rg)(1+s・τ0)とする。
前出の式(15)を前出の式(13)’、(13−1)、(13−2)、(13−3)、(13−4)に代入して整理すると、下記のようになる。
式(16)’の分母中にはもはや(1+s・τ0)は存在せず、ポールを完全に打ち消しきれたことがうかがえる。
ループ利得Gは、前出の式(17)と同様である。
以上、非反転増幅回路2’においても反転増幅回路2と同様、図5や図6のように、帰還抵抗Rfに並列に帰還容量Cfを接続し、帰還容量Cfの値を適切に選択することによって第2ポールを打ち消し、非反転増幅回路2’の広帯域化を図ることができることを説明した。
すなわち、第2の実施の形態では、請求項1に対応した電流帰還型増幅回路としての非反転増幅回路2’を示しており、非反転増幅回路2’としての安定性を保ちつつも、広帯域化を実現可能な非反転増幅回路2’を提供できる。
さらに、非反転増幅回路2’においても反転増幅回路2と同様、図6のように、利得抵抗Rgに並列に容量Cgを接続し、帰還容量Cgの値を適切に選択することによって、より完全に第2ポールを打ち消し、非反転増幅回路2’の広帯域化を図ることができることを説明した。
すなわち、第2の実施の形態では、請求項2に対応した電流帰還型増幅回路としての非反転増幅回路2’を示しており、非反転増幅回路2’としての安定性を保ちつつも、より広帯域化を実現可能な非反転増幅回路2’を提供できる。
〔第3の実施の形態〕
図3は第1の実施の形態のさらなる変形例を示しており、図7は第2の実施の形態のさらなる変形例を示している。いずれも、容量Cgと抵抗Rg’の直列回路を、利得抵抗Rgに並列に追加したものである。(容量Cgと抵抗Rg’の接続位置は逆でもよく、直列に接続されていればよい。)
なお、図3は図1や図2と同様に電流帰還型増幅器1を用いた反転増幅回路2を示しており、図7は図5や図6と同様に電流帰還型増幅器1を用いた非反転増幅回路2’を示している。
まず、第1の実施の形態に係る図2の反転増幅回路2では、高い周波数において入力インピーダンスが低下するという問題が生じうる。すなわち、図2において、容量Cgは反転増幅回路2の入力端子と電流帰還型増幅器1の反転入力との間に接続されている。容量Cgのインピーダンスは、周波数が高くなるに連れて低下する。一方、電流帰還型増幅器1の反転入力は低インピーダンスである。このため、高い周波数において入力インピーダンスが低下することになる。
これに対して、第3の実施の形態に係る図3においては、容量Cgに直列に抵抗Rg’が接続されているので、高い周波数において容量Cgのインピーダンスが低下しても、容量Cgと抵抗Rg’の直列回路のインピーダンスは抵抗Rg’より低くなることがない。このため、高い周波数における反転増幅回路2の入力インピーダンスの低下に歯止めをかけることができる。
また、第2の実施の形態に係る図6の非反転増幅回路2’では、高い周波数において電流帰還型増幅器1が正常に動作できなくなる可能性がある。電流帰還型増幅器1の反転入力は、電流帰還型増幅器1の内部では、入力バッファ増幅器(電流帰還型増幅器1を示す大きな三角の中、左側の「×1」部)3の出力となっている。図6において、容量Cgは接地点と電流帰還型増幅器1の反転入力との間に接続されており、容量Cgのインピーダンスは周波数が高くなるに連れて低下するので、高い周波数では入力バッファ増幅器3の能力を超えてしまう可能性がある。
これに対して、第3の実施の形態に係る図7においては、容量Cgに直列に抵抗Rg’が接続されているので、高い周波数において容量Cgのインピーダンスが低下しても、容量Cgと抵抗Rg’の直列回路のインピーダンスは抵抗Rg’より低くなることがない。このため、高い周波数において入力バッファ増幅器3の能力を超えないようにできる。
このような効果は反転増幅回路2においても同様であり、抵抗Rg’によって、増幅回路である反転増幅回路2や非反転増幅回路2’の安定性を向上させる効果を有している。
以上のように、第3の実施の形態では、請求項3に対応して、容量Cgに直列に抵抗Rg’を接続した反転増幅回路2や非反転増幅回路2’を示している。これにより、高い周波数における入力インピーダンスの低下に歯止めをかけることができ、入力バッファ増幅器3の能力を超えないように電流帰還型増幅器1を動作させて、反転増幅回路2や非反転増幅回路2’の安定性を向上させることが可能になる。
〔第4の実施の形態〕
図4は第1の実施の形態のさらなる変形例を示しており、図8は第2の実施の形態のさらなる変形例を示している。いずれも、帰還容量Cfと抵抗Rf’の直列回路を、帰還抵抗Rfに並列に追加したものである。(帰還容量Cfと抵抗Rf’の接続位置は逆でもよく、直列に接続されていればよい。)
なお、図4は図1や図2と同様に電流帰還型増幅器1を用いた反転増幅回路2を示しており、図8は図5や図6と同様に電流帰還型増幅器1を用いた非反転増幅回路2’を示している。
まず、第1の実施の形態に係る図1の反転増幅回路2や、第2の実施の形態に係る図5の非反転増幅回路2’においては、周波数が高くなるに連れて帰還容量Cfのインピーダンスが低下するため、帰還インピーダンスが低下する。電流帰還型増幅器1内部の出力バッファ増幅器(電流帰還型増幅器を示す大きな三角の中、右側の「×1」)5にとっては、帰還インピーダンスも負荷であり、帰還インピーダンスは周波数が高くなるに連れて低下するので、高い周波数では出力バッファ増幅器5の能力を超えてしまう可能性がある。
これに対して、第4の実施の形態に係る図4や図8においては、帰還容量Cfに直列に抵抗Rf’が接続されているので、高い周波数において帰還容量Cfのインピーダンスが低下しても、帰還容量Cfと抵抗Rf’の直列回路のインピーダンスは抵抗Rf’より低くなることがない。このため、高い周波数において出力バッファ増幅器5の能力を超えないようにできる。
この結果、抵抗Rf’を追加する第4の実施の形態では、増幅回路である反転増幅回路2や非反転増幅回路2’の安定性を向上させるという効果を有している。
また第4の実施の形態は、必要に応じて第3の実施の形態と併用することができる。
以上のように、第4の実施の形態では、請求項4に対応して、帰還容量Cfに直列に抵抗Rf’を接続した反転増幅回路2や非反転増幅回路2’を示している。これにより、高い周波数における帰還インピーダンスの低下に歯止めをかけることができ、出力バッファ増幅器5の能力を超えないように電流帰還型増幅器1を動作させて、反転増幅回路2や非反転増幅回路2’の安定性を向上させることが可能になる。
〔第5の実施の形態〕
第5の実施の形態では、図2や図6の電流帰還型増幅器1を用いた反転増幅回路2や非反転増幅回路2’において、周波数特性の任意の肩特性(ローパスフィルタとしての特性)を得る例を示す。
第5の実施の形態は、第3の実施の形態による図3や図7の電流帰還型増幅器1を用いた反転増幅回路2や非反転増幅回路2’に適用することも可能である。
まず、2次のローパスフィルタの伝達関数は、下記のように表すことができる。
ここで、A0は直流における利得、ω0’はローパスフィルタの遮断周波数、QはローパスフィルタのQ値である。
ローパスフィルタの特性の代表的な例として、ベッセル特性やバターワース特性において、Q値は各々下記のとおりである。
ポールを打ち消したときの図2の反転増幅回路2の伝達関数は、前出の式(16)である。式(16)と式(18)を解くと、下記のようになる。
ベッセル特性の式(19)のQ値を式(22)に与えて、これらの式を解いてRfを求めると、下記のようになる。
Cfは、式(11)と式(24)のRfの値から求めることができる。Rgは式(23)とRfの値から求めることができ、Cgは式(15)とRgの値から求めることができる。
すなわち、Rf、Cf、Rg、Cgをこのように選択すると、周波数特性の肩特性(ローパスフィルタとしての特性)を、ベッセル特性にすることができる。
バターワース特性の式(20)のQ値を式(22)に与えて、これらの式を解いてRfを求めると下記のようになり、さらにCf、Rg、Cgを同様に求めた値にすると、周波数特性の肩特性(ローパスフィルタとしての特性)を、バターワース特性にすることができる。
一方、ポールを打ち消した時の図6の非反転増幅回路2’の伝達関数は、前出の式(16’)である。式(16’)と式(18)を解くと、下記のようになる。
ベッセル特性の式(19)のQ値を式(22’)に与えて、これらの式を解いてRfを求めると、下記のようになる。
Cfは、式(11)と式(24’)のRfの値から求めることができる。Rgは式(23’)とRfの値から求めることができ、Cgは式(15)とRgの値から求めることができる。すなわち、Rf、Cf、Rg、Cgをこのように選択すると、周波数特性の肩特性(ローパスフィルタとしての特性)を、ベッセル特性にすることができる。
バターワース特性の式(20)のQ値を式(22’)に与えて、これらの式を解いてRfを求めると下記のようになり、さらにCf、Rg、Cgを同様に求めた値にすると、周波数特性の肩特性(ローパスフィルタとしての特性)を、バターワース特性にすることができる。
上記では、ローパスフィルタの特性の代表的なものとして、ベッセル特性とバターワース特性を例示した。第5の実施の形態によれば、Q値は任意に選択することができるので、図2や図6の電流帰還型増幅器1を用いた増幅回路において、その増幅回路の広帯域化を図りつつも、所望の周波数特性の肩特性を得ることが可能である。
なお、帰還容量Cfを使用するが容量Cgは使用しない場合は、帰還抵抗Rfおよび利得抵抗Rgを適切に選択するとともに、帰還容量Cfは第2ポールを打ち消す容量値から若干ずらすことによって、図1や図5の電流帰還型増幅器1を用いた増幅回路において、その増幅回路の広帯域化を概ね図りつつも、所望の周波数特性の肩特性を得ることが可能である。
また、帰還容量Cfも容量Cgも使用しない場合は、帰還抵抗Rfおよび利得抵抗Rgを適切に選択することによって、図9や図10の電流帰還型増幅器1を用いた増幅回路において、所望の周波数特性の肩特性を得ることができる場合がある。
以上のように、第5の実施の形態では、請求項5に対応して、ローパスフィルタのQ値を考慮して、少なくとも帰還抵抗Rfの抵抗値を選択することにより、反転増幅回路2や非反転増幅回路2’の周波数特性において所望の肩特性を得る構成を示している。これにより、電流帰還型増幅器1を用いた反転増幅回路2や非反転増幅回路2’として、所望の周波数特性の肩特性を得ることが可能になる。
〔第6の実施の形態〕
第6の実施の形態では、第1の実施の形態から第3の実施の形態、および第5の実施の形態によって得られる、特性の例を示す。
図14にはループ利得特性の例、図15と図16には反転増幅回路2の特性例、図17と図18には非反転増幅回路2’の特性例、図19にはさらなる反転増幅回路2の特性例を示す。特性としてはいずれも、利得の周波数特性と位相の周波数特性を示す。
まず図14では、ポールの時定数τ0を1/(2・π・100[MHz])、利得が−2の反転増幅回路2において、ベッセル特性とした場合のループ利得特性の例を示す。
帰還容量Cfも容量Cgもない場合は、帰還抵抗Rfおよび利得抵抗Rgを適切に選択することによって、ベッセル特性としている。ループ利得Gの周波数特性において、100[MHz]未満は20[dB/dec]、100[MHz]超では40[dB/dec]を示している。位相の周波数特性においては、ポールの時定数τ0である100[MHz]において、45[deg]を示している。
帰還容量Cfあり容量Cgなしの場合は、帰還抵抗Rfおよび利得抵抗Rgを適切に選択するとともに、帰還容量Cfは第2ポールを打ち消す容量値から若干ずらすことによって、ベッセル特性としている。ループ利得Gの周波数特性において、100[MHz]未満は20[dB/dec]を示している。しかしこの場合は、式(14)や式(14)’で説明したように、完全にポールを消しきれていないため、1[GHz]超あたりまで20[dB/dec]と40[dB/dec]の間の傾斜を示しており、1.数[GHz]超では40[dB/dec]を示している。
帰還容量Cfと容量Cgを用いてベッセル特性とした場合は、式(16)や式(16)’で説明したように、ループ利得Gの周波数特性において、100[MHz]付近のポールは完全に消えており、数百[MHz]近辺まで20[dB/dec]、1[GHz]超では40[dB/dec]を示している。すなわちループ利得Gの周波数特性は、帰還容量Cfと容量Cgを用いない場合の約100[MHz]に対して、数百[MHz]までのびている。位相の周波数特性においては、6百数十[MHz]にて45[deg]を示しており、ポールの時定数τ0に係る周波数の約100[MHz]に対して、6倍強の広帯域化が実現されている様子がわかる。
図15と図16には利得が−2の反転増幅回路2の特性例を、図17と図18には利得が2の非反転増幅回路2’の特性例を示している。図15と図17にはベッセル特性とした場合の特性例を、図16と図18にはバターワース特性とした場合の特性例を示している。また図19には、利得を−10と大きくした反転増幅回路2において、ベッセル特性とした場合の特性例を示している。
図15と図16においては、帰還容量Cfも容量Cgもない場合に対して、帰還容量Cfと容量Cgを用いた場合には数倍の広帯域化が実現されており、この効果はベッセル特性としてもバターワース特性としても差がないことがわかる。
また図17と図18においては同様に、十倍前後の広帯域化が実現されていることがわかる。なお、図15と図16の利得が−2の反転増幅回路2では、帰還抵抗Rfは利得抵抗Rgの2倍の値であるのに対して、図17と図18の利得が2の非反転増幅回路2’では、帰還抵抗Rfと利得抵抗Rgの値は同じである。広帯域化効果に差が出たのは、このためである。
利得を大きくした図19においては同様に、4倍弱の広帯域化となっている。図15と比較すると、利得を大きくしても広帯域化効果はさほど劣化していないことがわかる。
〔第7の実施の形態〕
第7の実施の形態では、市販されている電流帰還型増幅器ICと、抵抗、容量の組み合わせによる電流帰還型増幅回路の特性を、回路シミュレータによって求めた例を示す。
これに対して第6の実施の形態では、前出の数式に具体的な値を与えて特性を求めたものである。
図20には振幅および位相の周波数特性例を示し、図21にはパルス応答波形例を示している。
図20および図21では、前述の電流帰還型増幅器1として同一の電流帰還型増幅器ICを使用しており、利得が5の非反転増幅回路2’の出力に1/2のアッテネータを接続して、仕上がり利得を2.5倍(約8[dB])としている。また図20および図21では、電流帰還型増幅器ICの出力で2[Vp−p]を得て、アッテネータ出力で1[Vp−p]となっているときの特性を例示している。
図20において、実線のトレースは利得(左軸目盛)を、点線のトレースは位相(右軸目盛)を示している。
トレースAは、帰還容量Cfも容量Cgもない場合であり、帯域幅(−3[dB]点)は約155[MHz]である。
トレースBは、帰還容量Cfあり容量Cgなしの場合であり、帯域幅は約305[MHz]と、約2倍広帯域となっている。
トレースCは、帰還容量Cfと容量Cgを用いた場合であり、帯域幅は約515[MHz]と、3倍以上広帯域となっている。
トレースDは、帰還容量Cfと容量Cgを用いた場合において、さらに容量Cgに直列に抵抗Rg’を追加した場合(第3の実施の形態、図7に相当)である。トレースDの帯域幅は約450[MHz]であり、抵抗Rg’を追加した場合でも帯域幅はあまり劣化しないことがわかる。
図21において、トレースAの立ち上がり時間tr、立ち下がり時間tf(10%〜90%)は共に約2.5[ns]である。トレースBでは約1.1[ns]、トレースCでは約0.6[ns]、トレースDでは約0.7[ns]である。
図20および図21から、実際的な電流帰還型増幅回路においても、本発明によって広帯域化を図ることができることがわかる。
〔第8の実施の形態〕
第8の実施の形態は、等価的により小容量とすることができ、かつ調整可能な容量を実現する回路を用いる変形例を示す。
図22(a)には、図22(b)の回路11を帰還容量Cfとして適用した反転増幅回路2を例示している。回路11は、電流帰還型増幅器1の出力端子と接地点との間に接続する抵抗R1および抵抗R2を直列に接続した減衰器12と、抵抗R1と抵抗R2との接続点を入力側に接続したインピーダンス変換のためのバッファ増幅器13と、その一端をバッファ増幅器13の出力側に接続し、他端を電流帰還型増幅器1の反転入力端子に接続したコンデンサとして構成される容量Ccと、により構成される。
図22(a)では、前述した回路11の他に、容量Cgとして適用される、回路11と同様の回路21を示している。回路21は、利得抵抗Rgの一端と接地点との間に、抵抗R1’および抵抗R2’を直列に接続した減衰器22と、抵抗R1’と抵抗R2’との接続点を入力側に接続したインピーダンス変換のためのバッファ増幅器23と、その一端をバッファ増幅器23の出力側に接続し、他端を利得抵抗Rgの他端に接続したコンデンサとして構成される容量Cc’と、により構成される。
なお図22(a)では、回路11と回路21の両方を備える反転増幅回路2を例示しているが、いずれか一方若しくは両方を、コンデンサ等の容量素子としてもよい。
図22(a)および図22(b)中、「×1」はバッファ増幅器13を示しており、電流帰還型増幅器1の出力を抵抗R1と抵抗R2によって分割した電圧が与えられている。このため、容量Ccを通って電流帰還型増幅器1の反転入力に与えられる信号量もまた、電流帰還型増幅器1の出力電圧のR2÷(R1+R2)倍となるので、回路11はCcとR2÷(R1+R2)に等価の、より小さい帰還容量Cfや容量Cgとして動作する。
ここで、容量Ccが有効に動作している周波数範囲内において、容量Ccのインピーダンスが抵抗R1とR2の並列抵抗値よりも十分に大きければ、回路11はバッファ増幅器13が無くても同様の動作となる。(図22(c)。)
即ち、図22(c)のようにバッファ増幅器13を用いずに、容量Ccの一端を抵抗R1と抵抗R2との接続点に接続した場合にも、容量Ccの容量が、減衰器12’の減衰率に従い、等価的に小さい帰還容量Cfを実現できる。そしてこれは、回路21’の容量Cc’においても同じことがいえる。
図22(d)には、図22(c)による回路11’を帰還容量Cfとして適用し、回路11’と同様の回路21’を容量Cgとして適用した反転増幅回路2を例示している。 なお図22(d)では、回路11’と回路21’の両方を備える反転増幅回路2を例示しているが、いずれか一方若しくは両方を、コンデンサ等の容量素子としてもよい。
ただし回路11’は、等価的に小さい容量Cfに、抵抗R1と抵抗R2の並列抵抗が直列に接続された回路と等価な回路である。同様に回路21’も、等価的に小さい容量Cgに、抵抗R1’と抵抗R2’の並列抵抗が直列に接続された回路と等価な回路である。こうした並列抵抗は、図22(d)において、第3の実施の形態の抵抗Rg’や、第4の実施の形態の抵抗Rf’に相当する。
回路11に着目すると、図22(a)〜図22(d)では、2本の抵抗R1,R2によって減衰器12を構成した例を示しているが、減衰器12であればどのような形式でもよく、回路11はCc×(減衰器12の減衰率)に等価の、より小さい容量Cfとして動作する。ここでいう減衰率とは、前述のR2÷(R1+R2)に相当する。減衰器12としては例えば、2つのコンデンサによるもの、2つのインダクタによるもの、トランスによるもの、抵抗とコンデンサの並列回路2組によるもの等、様々な形式が存在する。インダクタやトランスを用いる場合はさらに、必要に応じて電流帰還型増幅器1の出力との間を容量結合とすることも可能である。これは、回路21、回路11’、回路21’においても同様である。
また、図22(a)〜図22(d)において、回路11中の減衰器12を構成する素子の少なくとも一方を可変素子として可変減衰器を構成すれば、等価的により小さい容量Cfを可変容量とすることができる。(図22(d)の可変抵抗R2や可変抵抗R2’を参照。)これも、回路21、回路11’、回路21’において同様である。
第8の実施の形態の帰還回路11等によれば、小容量の可変容量を容易に得ることができるため、浮遊容量の影響を受ける場合でも、本発明において反転増幅回路2や非反転増幅回路2’の周波数特性やパルス応答波形をより最適化することができる。
すなわち、ここでは請求項6に対応して、減衰器12と、バッファ増幅器13と、コンデンサとして構成される容量Ccとを備えた回路11を、第1の容量である帰還容量Cfとして使用しており、回路11は、電流帰還型増幅器1の出力側に減衰器12の入力側が接続され、減衰器12の出力側にバッファ増幅器13の入力側が接続され、バッファ増幅器13の出力側に容量Ccの一端が接続され、容量Ccの他端が電流帰還型増幅器1の反転入力側に接続され、容量Ccの容量と減衰器12の減衰率の積値と同じ容量の容量素子と等価的に動作する構成となっている。そのため、容量Ccの容量が、減衰器12の減衰率に従い等価的に小さい容量Cfとして実現でき、浮遊容量の影響を受ける場合でも、反転増幅回路2や非反転増幅回路2’の周波数特性やパルス応答波形をより最適化することができる。さらに、回路11と同様の回路21を容量Cgとして適用し、同様の効果を得ることもできる。
また、ここでは請求項7に対応して、第1の抵抗R1と第2の抵抗R2を含む減衰器12’と、容量Ccとを備えた回路11’を、帰還容量Cfとして使用しており、回路11’は、電流帰還型増幅器1の出力側に減衰器12’の入力側が接続され、減衰器12’の出力側に容量Ccの一端が接続され、電流帰還型増幅器1の反転入力側に容量Ccの他端が接続され、所望の周波数における、容量Ccの示すインピーダンスが第1の抵抗R1と第2の抵抗R2の並列抵抗値に対して大きいとき、容量Ccの容量と減衰器12’の減衰率の積値と同じ容量の容量素子と等価的に動作する構成となっている。そのためこの場合は、回路11’にわざわざバッファ増幅器13を用いなくても、容量Ccの容量が、減衰器12’の減衰率に従い等価的に小さい容量Cfとして実現でき、浮遊容量の影響を受ける場合でも、反転増幅回路2や非反転増幅回路2’の周波数特性やパルス応答波形をより最適化することができる。さらに、回路11’と同様の回路21’を容量Cgとして適用し、同様の効果を得ることもできる。