JP6366051B2 - ヒドラジン合成方法 - Google Patents
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Description
<1> 酵素触媒を用いて、アンモニウム塩からなる基質(A)と、ヒドロキシルアミン、硝酸塩、亜硝酸塩および一酸化窒素からなる群から選択される少なくとも一つの基質(B)とからヒドラジンを合成するヒドラジン合成方法であって、
酵素触媒を構成するサブユニットのタンパク質が、下記(イ)、(ロ)または(ハ)の少なくとも一つのタンパク質であり、
当該酵素触媒が、下記タンパク質(1a)、タンパク質(1b)およびタンパク質(1c)のヘテロ3量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(I)と、
下記タンパク質(2a)およびタンパク質(2b)とのヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(II)を用いるヒドラジン合成方法。
(イ)タンパク質(1a)は配列番号1、タンパク質(1b)は配列番号2、タンパク質(1c)は配列番号3、タンパク質(2a)は配列番号4、タンパク質(2b)は配列番号5でそれぞれ表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(ロ)上記(イ)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質に対して、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒドラジン合成酵素(I)、(II)の構成によってヒドラジン合成活性を有するタンパク質
(ハ)上記(イ)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質の配列番号との同一性が55%以上であるアミノ酸配列からなるタンパク質
<2> 前記酵素触媒が、上記(イ)、(ロ)または(ハ)の少なくとも一つの酵素触媒を構成するサブユニットのタンパク質をコードする遺伝子から発現したタンパク質によってなる組み換えヒドラジン合成酵素(I)と組み換えヒドラジン合成酵素(II)である前記<1>記載のヒドラジン合成方法。
<3> 酵素触媒を用いて、アンモニウム塩からなる基質(A)と、ヒドロキシルアミン、硝酸塩、亜硝酸塩および一酸化窒素からなる群から選択される少なくとも一つの基質である基質(B)とからヒドラジンを合成するヒドラジン合成方法であって、
当該酵素触媒として、Anammox菌由来のヘテロ3量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(I´)と、
Anammox菌由来のヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(II´)とを用いるヒドラジン合成方法。
<4> 前記酵素(I´)をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定した分子質量が、91.5〜96.5kDa、40.5〜45.5kDa、34.5〜39.5kDaであり、前記酵素(II´)をトリシン−ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定した分子質量が、11〜17kDa、8〜14kDaである前記<3>記載のヒドラジン合成方法。
<5> 酵素(I´)、(II´)が、前記Anammox菌の細胞を破砕後、遠心分離し、その上澄みを塩析後、遠心分離し、得られる上澄みを疎水カラムクロマトグラフィーにより精製したものである前記<3>または<4>に記載のヒドラジン合成方法。
<6> 前記酵素(I´)および(II´)が、前記疎水カラムクロマトグラフィーにより精製したとき、波長280nmにおける吸光度と、波長408nmにおける吸光度とをモニタリングすることで確認されるヘムタンパク質の、第一のピーク周辺の画分と、第二のピーク周辺の画分とから得られる酵素である前記<5>記載のヒドラジン合成方法。
<7> 酵素(II´)が、難還元性であり、かつ、酵素(I´)が、還元型としたとき、c型ヘムタンパク質に特徴的なα帯、β帯およびソーレ帯に吸光極大を有するものである前記<3>〜<6>のいずれかに記載のヒドラジン合成方法。
<8> 緩衝液としてトリス塩酸緩衝液あるいはリン酸緩衝液あるいはMOPS緩衝液(pH7.0〜8.0)を用いてヒドラジンの合成を行う前記<1>〜<7>のいずれかに記載のヒドラジン合成方法。
<9> 前記基質(B)が、ヒドロキシルアミンである前記<1>〜<8>のいずれかに記載のヒドラジン合成方法。
<10> 前記ヒドラジン合成方法が、還元剤存在下にて行われることを特徴とする前記<1>〜<9>のいずれかに記載のヒドラジン合成方法。
<11> サブユニットのタンパク質が、下記(イ´)、(ロ´)または(ハ´)の少なくとも一つのタンパク質であり、下記タンパク質(2a)および下記タンパク質(2b)とのヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成用のヒドラジン合成酵素(II)。
(イ´)タンパク質(2a)は配列番号4、タンパク質(2b)は配列番号5でそれぞれ表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(ロ´)上記(イ´)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質に対して、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒドラジン合成酵素(II)の構成によってヒドラジン合成活性を有するタンパク質
(ハ´)上記(イ´)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質の配列番号との同一性が55%以上であるアミノ酸配列からなるタンパク質
<12> ヒドラジン合成用の酵素が、Anammox菌由来のヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(II´)。
酵素触媒を構成するサブユニットのタンパク質が、下記(イ)、(ロ)または(ハ)の少なくとも一つのタンパク質であり、
当該酵素触媒が、下記タンパク質(1a)、下記タンパク質(1b)および下記タンパク質(1c)のヘテロ3量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(I)と、
下記タンパク質(2a)および下記タンパク質(2b)とのヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(II)を用いることを特徴とするヒドラジン合成方法;
(イ)タンパク質(1a)は配列番号1、タンパク質(1b)は配列番号2、タンパク質(1c)は配列番号3、タンパク質(2a)は配列番号4、タンパク質(2b)は配列番号5でそれぞれ表されるアミノ酸配列からなるタンパク質;(ロ)上記(イ)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質に対して、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒドラジン合成酵素(I)、(II)の構成によってヒドラジン合成活性を有するタンパク質;(ハ)上記(イ)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質の配列番号との同一性が55%以上であるアミノ酸配列からなるタンパク質に係るものである。この合成方法により、ヒドラジンを酵素触媒作用で生合成することができる。
本発明に用いるヒドラジン合成酵素(I´)と、ヒドラジン合成酵素(II´)とはAnammox菌より得ることができ、ヒドラジン合成酵素(I´)はヘテロ3量体ヘムタンパク質の酵素であり、ヒドラジン合成酵素(II´)はヘテロ2量体ヘムタンパク質の酵素である。
一方、ヒドラジン合成酵素(I)とヒドラジン合成酵素(II)とは、Anammox菌より得られるものと同一の塩基配列、または一定の同一性等の要件を満たすように製造されたタンパク質から得ることができる酵素である。
ヒドラジン合成酵素(I)または(I´)は、ヒドラジン合成酵素と推定される酵素(HZS)として知られていて、前述の非特許文献1等にも開示されていたものである。本発明においては、酵素触媒の一つとして、このヒドラジン合成酵素(I)または(I´)を用いることを特徴とする。
ヒドラジン合成酵素(II)または(II´)は、Anammox菌のタンパク質として、前述の非特許文献2等にも開示されていたが、その機能、用途が不明だったものである。本発明においては、酵素触媒の一つとして、このヒドラジン合成酵素(II)または(II´)を用いることを特徴とする。
このヒドラジン合成酵素(II)または(II´)は、ヘテロ2量体ヘムタンパク質の酵素であって、各タンパク質のユニットは、NaxL、NaxSとして知られているものである。なお、ヘテロ2量体ヘムタンパク質全体をNaxLSと呼ぶ場合もある。
また、これらの単独の菌由来の酵素として用いても良いし、組み合わせて用いてもよい。ヒドラジン合成酵素(I´)とヒドラジン合成酵素(II´)とは、それぞれの酵素同士の補完関係が高くなるため、同一の菌由来の酵素を用いた方がよい。
生体由来の方法で、本発明のヒドラジン合成酵素(I´)、(II´)を得る場合、嫌気性アンモニア酸化菌(Anammox菌)より得ることができる。例えば、嫌気性アンモニア酸化菌を培養(馴養)した汚泥を原料とし、細胞膜を破壊、遠心分離、塩析処理、液体クロマトグラフィーによる分画等の処理を行うことで精製された嫌気性アンモニア酸化菌のタンパク質からヒドラジン合成酵素(I´)およびヒドラジン合成酵素(II´)をそれぞれ得ることができる。
Anammox菌を含む汚泥(以下、「Anammox汚泥」と略記する。)の馴養は、集積培養したAnammox汚泥を不織布等に付着させて連続培養する等の方法で馴養されている。具体的には、亜硝酸とアンモニアを主成分とする脱気した無機培地を連続的に供給するリアクター内で選択的に培養することができる。例えば、Anammox KSU−1株の場合、馴養が進むとリアクター内が赤色になる。Anammox菌は、前述のように、単独で培養することができていない菌だが、このような方法で馴養することでAnammox菌優占の汚泥を得ることができる。
本発明は、前述の特定の酵素触媒を用いて、基質(A)と基質(B)とからヒドラジンを合成するヒドラジン合成方法である。本合成方法は、一般的に基質と酵素とを水溶液中に溶存させた状態で行うことができる。
本発明により製造されるヒドラジンは、公知のヒドラジン検出方法により検出することができる。例えば、実施例に後述する、ヒドラジンとDMBAとがジアゾカップリング反応し、その生成物が波長470nmに特徴的な吸光度を示すことを利用した光学的手法による検出法などがあげられる。
N2H4濃度の測定操作、SDS−PAGE、トリシン SDS−PAGEの評価方法を、以下に示す。
<ヒドラジン濃度定量試薬>
・4% ジメチルアミノベンズアルデヒド溶液(DMBA溶液)
p−Dimethylaminobenzaldehyde(和光純薬社製)0.4gを、99%エタノール10mLに溶解させ4重量%濃度のDMBA溶液とした。
・1mol/L炭酸ナトリウム溶液
炭酸ナトリウム(株式会社同仁化学研究所製)を、純水に溶解させ濃度が1mol/Lとなるように調整した。
・酵素反応停止薬
濃度20%(w/v)トリクロロ酢酸(和光純薬社製)と、2mmol/L EDTA・2Na(株式会社同仁化学研究所製)の混合溶液を酵素反応停止薬として用いた。
<操作方法>
(1)反応終了溶液300μLに、トリクロロ酢酸200μLを加えることでタンパク質を変性させ反応を止めた。その後、遠心分離(14000rpm,10min,4℃)し変性したタンパク質の除去を行った。
(2)(1)の上清から200μL取り、別のエッペンに移した。
(3)(2)に4%DMBA溶液1mLを加えて混和した。(DMBAを反応溶液中に添加することでN2H4とジアゾカップリング反応し、カップリング生成物の吸光度A470(波長470nmにおける吸光度)を測定することで、N2H4濃度を得ることができる。)
(4)常温で20minインキュベートし、A470を測定した。
ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により、見かけの分子質量が大きい酵素(I)の分子質量を測定した。
見かけの分子質量が小さい酵素(II)の分子質量の測定は、トリシン−ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により行った。
「Anammox Asahi BRW」(以下、単に「BRW」と略記することがある。)
Anammox菌である、Anammox Asahi BRWは、学校法人君ヶ淵学園崇城大学生物生命学部内にて馴養しており、このAnammox汚泥(BRW汚泥)を調製して用いた。
「Anammox KSU−1」(以下、単に「KSU−1」と略記することがある。)
なお、Anammox菌である、Anammox KSU−1は、学校法人君ヶ淵学園崇城大学生物生命学部内にて馴養しており、このAnammox汚泥(KSU−1汚泥)を調製して用いた。
BRW株とKSU−1株のヒドラジン合成酵素(I´)、(II´)の精製方法を以下に示す。
「使用試薬・機器」
<Anammox汚泥>
・BRW汚泥
・KSU−1汚泥
・TOYOPEAL Butyl−650M
・Superdex 200pg
・Superdex 75pg
・Cell−free extract 調製バッファー
100 mmol/L Tris−HCl(pH8.0)と、20%(w/v)グリセリンと、1mmol/LPMSFと、1mmol/L EDTAとを混合して調製した。
・TOYOPEAL Butyl 平衡化バッファー
50mmol/L Tris−HCl(pH8.0)と、10%(w/v)グリセリンと、40%飽和硫酸アンモニウムとを混合して調製した。
・TOYOPEAL Butyl 流出バッファー
50mmol/L Tris−HCl(pH8.0)と、10%(w/v)グリセリンとを混合して調製した。
・ゲルろ過バッファー
20mmol/L Tris−HCl(pH8.0)と、200mmol/L NaClとを混合して調製した。
Astrason ULTRASONIC PROCESSOR
Centrifugal Filter YM−50
分光光度計 MPS−2400(SHIMADZU製)
遠心分離機 Avanti HP−25(BECKMAN製)
精製工程1[無細胞抽出液(cell free extract)の調製]
Anammox汚泥としてBRW汚泥をビーカーに入れCell−free extract調製バッファーを加え、Anammox菌の細胞膜を超音波により破壊した。さらに、乳鉢を用いてすり潰し、超音波処理を行って細胞膜を破壊した。その後、細胞膜を破壊したAnammox汚泥を遠心分離(4℃、12000rpm、60min、JA14)し、無細胞抽出液(cell free extract:遠心分離後の上澄み)を得た。
前記無細胞抽出液に硫酸アンモニウムを添加し塩析を行った。無細胞抽出液と混合後の、硫酸アンモニウム濃度が40%飽和溶液となるように加え、添加後、30分スターラーで攪拌した。攪拌後、遠心分離(4℃、12000rpm、30 min、JA14)を行い、その上澄みを用いて、次の段階である疎水カラムクロマトグラフィーによる精製を行った。
オープンカラムに洗浄済TOYOPEARL Butyl−650Mを詰め、50mmol/L Tris−HCl(pH8.0)と、40%飽和硫酸アンモニウムと、10%グリセリンで平衡化した。このカラムを用いてcell−free extractを精製した。洗浄は50mmol/L Tris−HCl (pH 8.0)と、20%グリセリンと、40%飽和硫酸アンモニウムを用いた。50mmol/L Tris−HCl(pH8.0)と、40%飽和硫酸アンモニウムと50mmol/L Tris−HCl(pH8.0)と、10%グリセリンを用いてリニアグラジエント溶出を行った。各画分のスペクトルを分光光度計で測定しながらモニタリングを行った。
硫酸アンモニウム上澄みを疎水カラムクロマトグラフィーによりグラジエントし、各画分のスペクトルを測り、ヘムの吸光度(A408)とタンパク質の吸光度(A280)とのグラフの結果を図2に示す。
それぞれのピークとその周辺(No.51〜55、No.63〜66)を別々にゲル濾過カラムクロマトグラフィー(流速1ml/min)にかけ、溶出したヒドラジン合成酵素(II´)とヒドラジン合成酵素(I´)のピークを別々に集め、これらをCentrifugal Filter YM−50を用いて濃縮した。
精製工程4後、さらに、ゲル濾過カラムクロマトグラフィーにより精製を行った。そして、A419(波長419nmにおける吸光度)が高いところを貯留し、再びCentrifugal Filter YM−50を用いて濃縮した。
これにより、ヒドラジン合成酵素(I´)の精製液(I´−1)と、ヒドラジン合成酵素(II´)の精製液(II´−1)を得た。
実施例1において、Anammox汚泥として、BRW汚泥の代わりにKSU−1汚泥を用いた以外は、前記精製工程1〜5に準じてKSU−1のヒドラジン合成酵素(I´)の精製液(I´−2)と、ヒドラジン合成酵素(II´)の精製液(II´−2)とを得た。なお、実施例2においては、前記精製工程3の工程を実施例1よりも遅い流速(低速で精製)としたため、この精製によって得られる画分のピークは、図3に示すものとなった。このため、精製工程4、5の画分は、第一のピークに相当しヒドラジン合成酵素(II´)を含有する画分(図3中「ii」で示す。)はNo.185〜194、第二のピークに相当しヒドラジン合成酵素(I´)を含有する画分はNo.251〜271(図3中「i」で示す。)、として精製工程を行った。
<分光学的性質>
酸化型(図5中に実線で示す。)で408nmにあったピークが、還元型(図5中に点線で示す。)で419nmにピークがシフトした。また、還元型でα帯が523nm、β帯が553nmにそれぞれピークが出現した。
精製液(I´−1)、(I´−2)について、SDS−PAGEによる分子質量の測定を行ったところ、KSU−1およびBRW由来の精製液両方に、94kDa、43kDa、37kDaにバンドが出現し、ヘテロ3量体であることが確認された。(図7に測定結果を示す。)
<分光学的性質>
前述の精製液(II´−1)の酸化型と、ジチオナイトにより還元させた還元型のスペクトルを測定した。結果を図6にしめす。酸化型(図6中に実線で示す。)の状態で、ソーレ吸収帯は420nmにあり、本発明においてヒドラジン合成酵素(II´)であるNaxLSに特徴的な350nm付近のピークが出現した。還元剤としてジチオナイトを添加した時(図6中に点線で示す。)に550nm付近で、ヘムタンパク質の還元型特有のα、β帯のピークが出現しなかった。このことは難還元性を示し、NaxLSの特徴的な現象であった。
精製液(II´−1)、(II´−2)について、Tricine SDS−PAGEによる分子質量の測定を行ったところ、KSU−1およびBRW由来の精製液両方に、14kDaと11kDaの位置にバンドが見られた。(図8に測定結果を示す。)
精製液中のタンパク質濃度は、Pierce BCA Protein Assay Kit (Thermo scientific社製)で重量濃度として測定し、その値を酵素のアミノ酸配列から求まる分子質量で割り、酵素のモル濃度を算出した。
<酵素を含有する精製液>
・精製液(I´−1)
実施例2より得られるBRW由来の酵素含有精製液(96.2μmol/L)
・精製液(II´−1)
実施例2より得られるBRW由来の酵素含有精製液(432μmol/L)
・精製液(I´−2)
実施例1より得られるKSU−1由来の酵素含有精製液(106μmol/L)
・精製液(II´−2)
実施例1より得られるKSU−1由来の酵素含有精製液(600μmol/L)
・100mmol/L ヒドロキシルアミン溶液
・100mmol/L 塩化アンモニウム溶液
・1mol/Lグルコース
・酸素消費剤
溶液中の濃度が10μmol/Lグルコースオキシダーゼと、150μmol/Lカタラーゼである混合溶液となるように調整した。グルコースとともに添加することで、溶液内の酸素を消費し嫌気状態で反応を行う。
・50mmol/L MOPS(pH7.4)
MOPS buffer(株式会社同仁化学研究所製)
[ヒドラジン合成反応]
<反応液組成>
pH緩衝液として、ヒドラジン定量法に影響のないMOPS bufferを使用した。基質にはヒドロキシルアミン塩酸塩、塩化アンモニウムを使用した。ヒドラジン合成酵素として、前記精製液(I´−1)と精製液(II´−1)の2種類の酵素精製液を使用した。表2に、試験に用いた溶液の組成を示し、調整方法を後述する。
(1) あらかじめ、MOPS buffer(50mmol/L、pH7.4)をバイアルビンに入れ、30分以上アルゴンガスを吹き込み脱気した。
(2) 表2に従いエッペンに脱気したMOPS buffer(50mmol/L、pH7.4)を900μL、酸素消費剤(グルコースオキシダーゼ10μmol/L、カタラーゼ150μmol/L)を10μL、精製液(II´−2)(432μmol/L)、精製液(I´−1)(96.2μmol/L)をそれぞれ10μL入れた。
なお、ブランクとして精製液(II´−1)を抜いたもの、精製液(I´−1)を抜いたもの、精製液(I´−1)(II´−1)の両方を抜いたものをそれぞれ作成し、反応溶液の合計が1000μLとなるようにミリQ水を添加した。
(3) 100mmol/LのNH2OH溶液、NH4Cl溶液を10μLずつエッペンのフタ裏に乗せた。
(4) 溶液内を嫌気状態にする為にグルコースをそれぞれに50μL添加した。
(5) エッペンのフタを閉め、3min後に転倒混和し35℃、1時間反応させた。
(1)〜(5)によって、得られた反応後の反応液を反応終了液とした。
(6) 反応終了後、N2H4濃度の測定を行った。
ヒドラジン合成反応の試験結果である、ヒドラジン生成量を表3に示す。
合成反応の結果より、ヒドラジン合成酵素(II´)もヒドラジン合成酵素(I´)も添加していない比較例3においては、ヒドラジンは全く合成されなかった。また、ヒドラジン合成酵素(I´)だけである比較例1においてもヒドラジンは全く生成されなかった。ヒドラジン合成酵素(II´)のみを酵素として添加した比較例2では、わずかに合成されたが、比較例3と大差がなく、測定値のバラツキの範囲であった。ヒドラジン合成酵素(I´)とヒドラジン合成酵素(II´)の両方を添加した反応液では、他の反応液とは違い、明らかにヒドラジンを生成していた。
1時間で16μmol/Lのヒドラジンを生成したことから、その活性値は(ヒドラジン生成量)/(酵素(I´)濃度)・反応時間=16.0/0.962・1=16.6/hourより、16.6/60min=0.28/minとなった。
前述の実施例3において、精製液(I´−1)の代わりに精製液(I´−2)、精製液(II´−1)の代わりに精製液(II´−2)を用いた以外は同様の操作によって、KSU−1株由来の酵素による実験を行い、実施例4とした。
KSU−1株を用いた試験結果では、その活性値は0.71/minであった。
[NH2OH濃度依存性]
基質であるヒドロキシルアミン(NH2OH)の濃度を変化させることで、ヒドラジンの生成量に変化が現れるかを実験した。実験は、実施例3に準じて行い、ヒドロキシルアミンンの濃度のみ、表4に示す濃度となるように調整した。
ヒドロキシルアミン添加量1000μmol/Lの場合は、ヒドラジン生成量16μmol/Lであった。ヒドロキシルアミンの添加量を半分にした実施例5の500μmol/Lでは、2.5倍である28μmol/Lが生成した。ヒドロキシルアミン添加量を1/5にした実施例6の200μmol/Lでは約4倍の43μmol/Lのヒドラジンが生成した。ヒドロキシルアミン添加量を1/10にした実施例7の100μmol/Lでは約3倍の31μmol/Lのヒドラジンが生成した。最も多くのヒドラジンを生成したのはヒドロキシルアミンを200μmol/L添加した時(実施例6)で、43μmol/Lの場合で、(ヒドラジン生成量)/{(HZS濃度)・反応時間)=43.0/0.962・1=44.7/hour、よって44.7/60min=0.74/minとなった。
前述の通りKSU−1株のデータは0.71/minであるため、基質濃度を調整することで同程度の活性値が得られることを確認した。
本発明のヒドラジン合成法において、さらに還元剤を混合することで、還元剤存在下でヒドラジン合成活性を向上させた試験方法およびその結果を以下に示す。
・精製液(I´−3)
実施例2より得られる精製液(I´−2)を、ミリQ水(超純水)で希釈したKSU−1由来の酵素含有精製液(95μmol/L)
・精製液(II´−3)
本発明のタンパク質(2a)、(2b)である、通称“NaxLS”に対応する遺伝子(配列番号14、15)を繋いだプラスミド、およびc型ヘムタンパク質成熟遺伝子群を繋いだ別のプラスミドにより大腸菌(E. coli BL21(DE3)株)をHanahan法によって調整したコンピテントセルを同時形質転換し、NaxLSを合成する遺伝子組み換え大腸菌を作成した。この遺伝子組み換え大腸菌より、精製液(II´−2)を得る方法に準じて、NaxLSにあたる酵素の、酵素含有精製液(濃度1.32mmol/L)を得た。この酵素含有精製液を、精製液(II´−3)として用いた。
・2mmol/L NO飽和水溶液
アルゴンガスを通気して脱気した後のミリQ水を用いて、濃度1mol/Lとなるように水酸化ナトリウム(和光純薬株式会社製)を溶解させることで調製した水溶液中に、NOガスを通気することで、NOガス飽和水溶液を調整した。この飽和水溶液中のNO濃度は、約2mmol/Lである。
・100mmol/L ジチオナイト溶液
亜ジチオン酸ナトリウム(“ジチオナイト”と略記:和光純薬工業株式会社製)を、ミリQ水にて希釈し、ジチオナイト濃度が100mmol/Lのジチオナイト溶液を調製した。これを、還元剤として使用した。
[ヒドラジン合成反応]
<反応液組成>
pH緩衝液として、ヒドラジン定量法に影響のないMOPS bufferを使用した。基質にはNO(飽和水溶液に調整して使用)、塩化アンモニウムを使用した。ヒドラジン合成酵素として、前記精製液(I´−3)と精製液(II´−3)の2種類の酵素精製液を使用した。さらに、還元剤としてジチオナイト溶液を用いたときのヒドラジン合成量を評価した。以下の表5に、実施例8〜11試験に用いたヒドラジン合成反応液の組成を示す。
(1) あらかじめ、MOPS buffer(50mmol/L、pH7.4)をバイアルビンに入れ、30分以上アルゴンガスを吹き込み脱気した。
(2) 以下、表5に従い各試薬、溶液等を混合した。まず、エッペンに脱気したMOPS buffer(50mmol/L、pH7.4)、酸素消費剤(グルコースオキシダーゼ10μmol/L、カタラーゼ150μmol/L)、精製液(II´−3)、精製液(I´−3)、ジチオナイト溶液をそれぞれ添加した。
(3) NO飽和溶液、NH4Cl溶液をそれぞれエッペンのフタ裏に乗せた。
(4) 溶液内を嫌気状態にする為にグルコース溶液を添加した。
(5) エッペンのフタを閉め、転倒混和し35℃にて、10分間反応させた。
(1)〜(5)によって、得られた反応後の反応液を反応終了液とした。
ヒドラジン合成反応後、反応液中のNOを還元除去するために、液中のジチオナイト濃度が25mmol/Lとなるように、100mmol/Lジチオナイト溶液と、ミリQ水を用いて希釈した。これは、ヒドラジン濃度測定にあたり、NOが吸光度測定を阻害する恐れがあるためである。このNO除去後に、実施例8〜11の各液中のヒドラジン濃度を測定した結果を表6に示す。
ヒドラジンが、本発明の酵素を用いた合成方法により得られていることを確認するために、同位体標識された塩化アンモニウムを用いて、以下の合成試験を行った。
反応後に、ジチオナイト溶液を混合してNOを還元除去し、トリクロロ酢酸を加えて混合し、遠心分離(15000rpm,4℃、10min)することで、同位体標識された塩化アンモニウムを用いたヒドラジン合成反応液の上澄みを得た。
この上澄み200μLに対して、1mLの1%DMBAを添加し、20分間発色反応させた。発色反応後、発色反応液と当量のCHCA溶液を混合し、TOF−MS用プレート上にて乾燥させ、MALDI TOF−MSを用いて質量分析を行った。MALDI TOF−MSにて質量分析を行う際、ヒドラジンはDMBAとの化合物として検出される。このDMBAとの化合物は、同位体標識された塩化アンモニウムが利用されヒドラジンが合成された場合、29N2H4-DMBA化合物の296MWとして表れる。一方、同位体標識されていない通常のヒドラジンを用いた28N2H4-DMBA化合物は、295MWとして表れる。
Claims (8)
- 単離された酵素触媒を用いて、アンモニウム塩からなる基質(A)と、ヒドロキシルアミン、硝酸塩、亜硝酸塩および一酸化窒素からなる群から選択される少なくとも一つの基質(B)とからヒドラジンを合成し回収するヒドラジン合成方法であって、
酵素触媒を構成するサブユニットのタンパク質が、下記(イ)または(ロ)の少なくとも一つのタンパク質であり、
当該酵素触媒が、下記タンパク質(1a)、タンパク質(1b)およびタンパク質(1c)のヘテロ3量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(I)と、
下記タンパク質(2a)およびタンパク質(2b)とのヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(II)を用いることを特徴とするヒドラジン合成方法。
(イ)タンパク質(1a)は配列番号1、タンパク質(1b)は配列番号2、タンパク質(1c)は配列番号3、タンパク質(2a)は配列番号4、タンパク質(2b)は配列番号5でそれぞれ表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(ロ)上記(イ)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質に対して、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒドラジン合成酵素(I)、(II)の構成によってヒドラジン合成活性を有するタンパク質 - 前記酵素触媒が、上記(イ)または(ロ)の少なくとも一つの酵素触媒を構成するサブユニットのタンパク質をコードする遺伝子から発現したタンパク質によってなる組み換えヒドラジン合成酵素(I)と組み換えヒドラジン合成酵素(II)である請求項1記載のヒドラジン合成方法。
- 酵素触媒を用いて、アンモニウム塩からなる基質(A)と、ヒドロキシルアミン、硝酸塩、亜硝酸塩および一酸化窒素からなる群から選択される少なくとも一つの基質である基質(B)とからヒドラジンを合成し回収するヒドラジン合成方法であって、
当該酵素触媒として、Anammox菌由来のヘテロ3量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(I´)と、
Anammox菌由来のヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(II´)とを用いるものであり、
前記酵素(I´)および、前記酵素(II´)が、前記Anammox菌の細胞を破砕後、遠心分離し、その上澄みを塩析後、遠心分離し、得られる上澄みを疎水カラムクロマトグラフィーにより精製したものであり、
前記酵素(I´)および(II´)が、前記疎水カラムクロマトグラフィーにより精製したとき、波長280nmにおける吸光度と、波長408nmにおける吸光度とをモニタリングすることで確認されるヘムタンパク質の、第一のピークの画分と、第二のピークの画分とから得られる酵素であり、
前記酵素(I´)をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定した分子質量が、91.5〜96.5kDa、40.5〜45.5kDa、34.5〜39.5kDaであり、前記酵素(II´)をトリシン−ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定した分子質量が、11〜17kDa、8〜14kDaであり、
酵素(I´)が、還元型としたとき、c型ヘムタンパク質に特徴的なα帯、β帯およびソーレ帯に吸光極大を有し、かつ、
酵素(II´)が、吸光スペクトルにおける波長419nmのピークがジチオナイトの添加前後にみられる難還元性であることを特徴とするヒドラジン合成方法。 - 緩衝液として、pH7.0〜8.0の、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝液、またはMOPS緩衝液を用いてヒドラジンの合成を行う請求項1〜3のいずれか1項に記載のヒドラジン合成方法。
- 前記基質(B)が、ヒドロキシルアミンである請求項1〜4のいずれか1項に記載のヒドラジン合成方法。
- 前記ヒドラジン合成方法が、還元剤存在下にて行われることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のヒドラジン合成方法。
- 酵素触媒を構成するサブユニットのタンパク質が、下記(イ)または(ロ)の少なくとも一つのタンパク質であり、
当該酵素触媒が、下記タンパク質(1a)、タンパク質(1b)およびタンパク質(1c)のヘテロ3量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(I)と、
下記タンパク質(2a)およびタンパク質(2b)とのヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(II)とである酵素触媒を含有するヒドラジン合成用酵素組成物。
(イ)タンパク質(1a)は配列番号1、タンパク質(1b)は配列番号2、タンパク質(1c)は配列番号3、タンパク質(2a)は配列番号4、タンパク質(2b)は配列番号5でそれぞれ表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(ロ)上記(イ)において、少なくとも一つのタンパク質が、それぞれ対応する配列番号で表されたタンパク質に対して、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヒドラジン合成酵素(I)、(II)の構成によってヒドラジン合成活性を有するタンパク質 - 酵素触媒として、Anammox菌由来のヘテロ3量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(I´)と、
Anammox菌由来のヘテロ2量体ヘムタンパク質であるヒドラジン合成酵素(II´)とを含有し、
前記酵素(I´)をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定した分子質量が、91.5〜96.5kDa、40.5〜45.5kDa、34.5〜39.5kDaであり、前記酵素(II´)をトリシン−ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定した分子質量が、11〜17kDa、8〜14kDaであり、
酵素(I´)が、還元型としたとき、c型ヘムタンパク質に特徴的なα帯、β帯およびソーレ帯に吸光極大を有し、かつ、
酵素(II´)が、吸光スペクトルにおける波長419nmのピークがジチオナイトの添加前後にみられる難還元性である酵素触媒を含有するヒドラジン合成用酵素組成物。
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