JP6365181B2 - 二次電池電極用導電材ペースト、二次電池正極用スラリーの製造方法、二次電池用正極の製造方法および二次電池の製造方法 - Google Patents
二次電池電極用導電材ペースト、二次電池正極用スラリーの製造方法、二次電池用正極の製造方法および二次電池の製造方法 Download PDFInfo
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Description
そこで、二次電池の更なる性能向上を達成すべく、従来から、電極用スラリーを改良する試みがなされている。具体的には、電極用スラリーに配合するバインダーとして、複数種のバインダーを使用する技術が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、上記従来の技術では、低温での直流抵抗が十分に低い二次電池を得ることはできなかった。加えて上記従来の技術を用いて得られる導電材ペーストおよび電極用スラリーは、経時により導電材が凝集してしまい、当該導電材ペーストおよび当該電極用スラリーを用いて得られる二次電池の電気的特性が損なわれる場合があった。工業的に二次電池を製造していく上では、導電材ペーストや電極用スラリーの状態で長期輸送、長期保管される状況は避けられず、導電材ペーストおよび電極用スラリーの経時安定性の確保もまた非常に重要である。
したがって、上記従来の技術には、導電材ペーストおよび電極用スラリーの経時安定性を確保しつつ、得られる二次電池の低温での直流抵抗を低下させるという点において未だ改善の余地があった。
また、本発明は、経時安定性に優れ、かつ、二次電池の低温での直流抵抗を十分に低下させることが可能な二次電池正極用スラリーを提供することを目的とする。
更に、本発明は、二次電池の低温での直流抵抗を十分に低下させることが可能な正極を製造し得る二次電池用正極の製造方法、および当該二次電池用正極の製造方法で製造された正極を備える二次電池を提供することを目的とする。
なお、「第一のバインダーの導電材への吸着量」および「第二のバインダーの導電材への吸着量」、並びに「導電材ペーストのTI値」は、本明細書に記載の方法で測定、算出することができる。
なお、「導電材ペーストの60rpmでの粘度」は、単一円筒形回転粘度計(B型粘度計)で測定され、具体的には、本明細書に記載の方法で測定することができる。
また、本発明によれば、経時安定性に優れ、かつ、二次電池の低温での直流抵抗を十分に低下させることが可能な二次電池電極用スラリーを提供することができる。
更に、本発明によれば、二次電池の低温での直流抵抗を十分に低下させることが可能な正極を製造し得る二次電池用正極の製造方法、および当該二次電池用正極の製造方法で製造された正極を備える二次電池を提供することができる。
ここで、本発明の二次電池電極用導電材ペーストは、二次電池電極用スラリー、好ましくは二次電池正極用スラリーを製造する際の材料として用いられる。そして、本発明の二次電池正極用スラリーは、本発明の二次電池電極用導電材ペーストを用いて形成される。加えて、本発明の二次電池用正極の製造方法は、本発明の二次電池正極用スラリーにより正極合材層を形成することを特徴とする。また、本発明の二次電池は、本発明の二次電池用正極の製造方法により製造した正極を用いたことを特徴とする。
本発明の導電材ペーストは、導電材、第一のバインダーおよび第二のバインダーを含むバインダー成分および溶剤を含有してなるものであり、前記第一のバインダーの前記導電材への吸着量が110mg/g以上1000mg/g以下であり、前記第二のバインダーの前記導電材への吸着量が0mg/g以上110mg/g未満であり、そして、TI値が1.0以上6.0以下であることを特徴とする。
このように、バインダー成分として、導電材への吸着能が異なる少なくとも二種のバインダーを含み、かつTI値が特定の範囲内である導電材ペーストは、経時安定性に優れ、かつ当該導電材ペーストを用いて形成させる電極を備える二次電池の低温での直流抵抗を十分に低下させることができる。
導電材は、例えば正極合材層中で正極活物質同士の電気的接触を確保するためのものである。そして、本発明の導電材ペーストに用いる導電材としては、特に限定されることなく、既知の導電材を用いることができる。具体的には、導電材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、グラファイト、炭素繊維、カーボンフレーク、炭素超短繊維(例えば、カーボンナノチューブや気相成長炭素繊維など)等の導電性炭素材料;各種金属のファイバー、箔などを用いることができる。これらの中でも、二次電池の電池容量を維持しつつレート特性を十分に向上させる観点からは、導電材として、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、又はファーネスブラックを用いることが好ましい。
なお、本明細書において「導電材の比表面積」とは、窒素吸着法によるBET比表面積のことであり、ASTM D3037−81に準拠して測定することができる。
バインダー成分は、本発明の導電材ペーストを含む電極用スラリーにより集電体上に電極合材層を形成して製造した電極において、電極合材層に含まれる成分が電極合材層から脱離しないように保持しうる成分である。一般的に、電極合材層、例えば正極合材層におけるバインダー成分は、電解液に浸漬された際に、電解液を吸収して膨潤しながらも正極活物質同士、正極活物質と導電材、或いは、導電材同士を結着させ、正極活物質等が集電体から脱落するのを防ぐ。
そして、本発明の導電材ペーストは、バインダー成分として少なくとも第一のバインダーと第二のバインダーとを含有する。なお、導電材ペーストには、第一のバインダーと第二のバインダー以外のバインダー成分が含まれていてもよい。
第一のバインダーは、導電材に良好に吸着することで導電材を好適に分散させ、導電材ペーストの経時安定性の向上に寄与し、加えて良好な導電パスの形成を促進することで二次電池の低温での直流抵抗を低下させ、また高温保存特性などの高温環境での電気的特性を向上し得る成分(重合体)である。
第一のバインダーの組成は特に限定されないが、第一のバインダーは、アルキレン構造単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の少なくとも一方を含むことが好ましい。また、第一のバインダーは、ニトリル基含有単量体単位を含むことが好ましい。
なお、本明細書において「アルキレン構造単位を含む」とは、「重合体中に一般式−CnH2n−[但し、nは2以上の整数]で表わされるアルキレン構造のみで構成される繰り返し単位が含まれている」ことを意味する。
また、本明細書において「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の繰り返し単位が含まれている」ことを意味する。
そして、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
そして、第一のバインダーがニトリル基含有単量体単位を含むことで、導電材ペーストの経時安定性が向上し、また、二次電池の低温での直流抵抗を低下させ、高温保存特性を向上させることができる。
以下、第一のバインダーに含まれるアルキレン構造単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、ニトリル基含有単量体単位およびその他の単量体単位について詳述する。
アルキレン構造単位は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、導電材ペーストの経時安定性を向上させる観点からは、アルキレン構造単位は直鎖状、すなわち直鎖アルキレン構造単位であることが好ましい。
そして、第一のバインダーへのアルキレン構造単位の導入方法は、特に限定はされないが、例えば以下の(1)、(2)の方法:
(1)共役ジエン単量体を含む単量体組成物から重合体を調製し、当該重合体に水素添加することで、該共役ジエン単量体単位をアルキレン構造単位に変換する方法
(2)1−オレフィン単量体を含む単量体組成物から重合体を調製する方法
が挙げられる。これらの中でも、(1)の方法が第一のバインダーの製造が容易であり好ましい。
また、1−オレフィン単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどが挙げられる。
これらの共役ジエン単量体や1−オレフィン単量体は、一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成しうる(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、イソペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−ペンチルメタクリレート、イソペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、グリシジルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステル;などが挙げられる。これらの中でも、導電材ペーストの経時安定性を良好なものとする観点からは、(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、非カルボニル性酸素原子に結合するアルキル基の炭素数が4〜10のアクリル酸アルキルエステルが好ましく、その中でも、具体的には、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートが好ましく、n−ブチルアクリレートがより好ましい。
これらは一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
ニトリル基含有単量体単位を形成しうるニトリル基含有単量体としては、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。そして、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。なかでも、第一のバインダーの結着力を高め、電極の機械的強度を高める観点からは、ニトリル基含有単量体としては、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。
これらは一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
第一のバインダーは、上述したアルキレン構造単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、ニトリル基含有単量体単位以外のその他の単量体単位を含んでいてもよい。その他の単量体単位としては、親水性基含有単量体単位や、スチレンなどの芳香族ビニル単量体に由来する芳香族ビニル単量体単位などが挙げられる。
これらの単量体の具体例としては、国際公開第2013/080989号に記載のものが挙げられる。
なお本発明において、上述した(メタ)アクリル酸エステル単量体、ニトリル基含有単量体には、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基および水酸基は含まれないものとする。
ここで、第一のバインダーの導電材への吸着量(第一バインダー吸着量)は110mg/g以上1000mg/g以下であることが必要であり、好ましくは100mg/g以上、より好ましくは150mg/g以上、更に好ましくは200mg/g以上であり、好ましくは600mg/g以下、より好ましくは400mg/g以下である。第一バインダー吸着量が110mg/g未満であると、導電材が凝集して導電材ペーストの経時安定性が確保できず、そして当該導電材ペーストを用いて得られる二次電池の低温での直流抵抗が上昇し、また高温保存特性が低下する。一方、第一バインダー吸着量が1000mg/gを超えると、導電材に絶縁体である第一のバインダーが過度に吸着した状態となり、当該導電材ペーストを用いて得られる二次電池の低温での直流抵抗が上昇し、また高温保存特性が低下する。
導電材と、当該導電材と同量(固形分相当量)の第一のバインダーを溶剤(NMPなど)に溶解させてなる溶液と、必要に応じて適量の溶剤とをディスパーで撹拌(3000rpm、60分)し、固形分濃度が10質量%の吸着量測定用導電材ペーストを調製する。その後、必要に応じて吸着量測定用導電材ペーストに溶剤を更に添加することで、遠心分離し易い固形分濃度(例えば1質量%)に調整する。なお、導電材に一度吸着した第一のバインダーは導電材から脱離し難いので、固形分濃度の調整による第一バインダー吸着量の測定値への影響は無視することができる。
次いで、吸着量測定用導電材ペーストまたはその希釈液に、遠心分離機を用いて上澄みと沈殿物とが分離するまで遠心分離処理を施し、沈殿物を採取する。当該沈殿物を、溶剤は気化するが第一のバインダーは熱分解されない条件下で、質量変化がなくなるまで乾燥し、沈殿物に残存する溶剤を除去して乾燥物(主に第一のバインダー+導電材よりなる)を得る。なお、当該乾燥は減圧下で行ってもよい。
得られた乾燥物を、熱天秤を用いて、第一のバインダーが十分に分解及び気化する温度まで徐々に加熱(例えば窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で500℃まで加熱)し、乾燥物中の第一のバインダーを除去する。
この熱天秤による加熱処理前(乾燥物)の質量をW1(g)、加熱処理後の質量W2(g)として、下記の式から、第一のバインダーの導電材への吸着量を算出することができる。
第一バインダー吸着量(mg/g)={(W1−W2)×1000}/W2
具体的には、例えば、第一のバインダー中のニトリル基含有単量体の割合を増加させることにより、第一バインダー吸着量を低下させることができる。また、第一のバインダー中のアルキレン構造単位の割合を前述の好適範囲に制御することにより、第一のバインダー吸着量を増加させることができる。更に、導電材の比表面積を増加させることにより、第一バインダー吸着量を増加させることができる。
第一のバインダーの製造方法は特に限定されないが、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を重合して重合体を得て、任意に、得られた重合体を水素添加することで調製することができる。
ここで、本発明において単量体組成物中の各単量体の含有割合は、第一のバインダーおける各単量体単位および構造単位(繰り返し単位)の含有割合に準じて定めることができる。
重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。各重合法において、必要に応じて既知の乳化剤や重合開始剤を使用することができる。
水素添加の方法は、特に制限なく、触媒を用いる一般的な方法(例えば、国際公開第2012/165120号、国際公開第2013/080989号および特開2013−8485号公報参照)を使用することができる。
なお、水素添加した重合体のヨウ素価は60mg/100mg以下であることが好ましく、30mg/100mg以下であることが更に好ましく、20mg/100mg以下であることが特に好ましい。また、下限としては3mg/100mg以上であることが好ましく、8mg/100mg以上であることが更に好ましい。なお、ヨウ素価は、重合体の水分散液100gを、メタノール1リットルで凝固した後、60℃で12時間真空乾燥して得られる乾燥重合体のヨウ素価を、JIS K6235(2006)に従って測定することで得ることができる。
導電材ペースト中における第一のバインダーの配合量は、導電材100質量部当たり、好ましくは20質量部以上、より好ましくは50質量部以上であり、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下である。導電材ペースト中の第一のバインダーの配合量が上述の範囲内であることで、導電材ペーストの経時安定性が良好となる。
第二のバインダーは、 導電材への吸着能が第一のバインダーに比して低い成分(重合体)である。このような第二のバインダーは、導電材への吸着能が低いため導電材を分散安定化させる機能には劣る一方、電極用スラリーに粘度を十分に付与することができるため、比重の重い電極活物質等の成分が、当該電極用スラリー中で沈降することを防ぐことができる。そして結果として電極合材層中での電極活物質等の偏在を抑制し得る。
第二のバインダーの組成は特に限定されないが、第二のバインダーとしては、フッ素含有単量体単位を含むフッ素系重合体が挙げられる。
以下、第二のバインダーとしてフッ素系重合体を例に挙げてその組成を説明する。ここで具体的には、フッ素系重合体としては、1種類以上のフッ素含有単量体の単独重合体または共重合体や、1種類以上のフッ素含有単量体とフッ素を含有しない単量体(以下、「フッ素非含有単量体」と称する。)との共重合体が挙げられる。
なお、フッ素系重合体におけるフッ素含有単量体単位の割合は、フッ素系重合体中の全単量体単位を100質量%とした場合に、通常70質量%以上、好ましくは80質量%以上である。また、フッ素系重合体におけるフッ素非含有単量体単位の割合は、フッ素系重合体中の全単量体単位を100質量%とした場合に、通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。
ここで、フッ素含有単量体単位を形成し得るフッ素含有単量体としては、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、三フッ化塩化ビニル、フッ化ビニル、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、フッ素含有単量体としては、フッ化ビニリデンが好ましい。
また、フッ素非含有単量体単位を形成し得るフッ素非含有単量体としては、フッ素含有単量体と共重合可能なフッ素を含まない単量体、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの1−オレフィン;スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレンなどの芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル化合物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル化合物;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド化合物;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸などのカルボキシル基を含有するビニル化合物;アリルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有不飽和化合物;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルなどのアミノ基含有不飽和化合物;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸などのスルホン酸基含有不飽和化合物;3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパン硫酸などの硫酸基含有不飽和化合物;(メタ)アクリル酸−3−クロロ−2−リン酸プロピル、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンリン酸などのリン酸基含有不飽和化合物などが挙げられる。
そして、フッ素系重合体としては、フッ素含有単量体としてフッ化ビニリデンを用いた重合体およびフッ素含有単量体としてフッ化ビニルを用いた重合体が好ましく、フッ素含有単量体としてフッ化ビニリデンを用いた重合体がより好ましい。
具体的には、フッ素系重合体としては、フッ化ビニリデンの単独重合体(ポリフッ化ビニリデン)、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体およびポリフッ化ビニルが好ましく、ポリフッ化ビニリデンがより好ましい。
なお、上述したフッ素系重合体は、一種単独で用いてもよく、また、2種以上を併用してもよい。
そして、第二のバインダーとしてのフッ素系重合体は、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合することにより製造される。なお、単量体組成物中の各単量体の含有割合は、フッ素系重合体中の所望の単量体単位(繰り返し単位)の含有割合に準じて定めることができる。
なお、重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの反応も用いることができる。そして、重合に際しては、必要に応じて既知の乳化剤や重合開始剤を使用することができる。
ここで、第二のバインダーの8質量%NMP溶液の60rpmでの粘度は、1000mPa・s以上であることが好ましく、4000mPa・s以上であることが好ましい。8質量%NMP溶液の60rpmでの粘度が1000mPa・s以上である第二のバインダーを導電材ペーストに配合させれば、得られる電極用スラリーの粘度が十分に確保され、特に電極活物質等の比重が大きい成分の分散安定性を向上させることができる。また、第二のバインダーの8質量%NMP溶液の60rpmでの粘度の上限は特に限定されないが、電極用スラリー調製の際の希釈に必要とする溶剤量を低減し、電極製造時の乾燥時間を短縮する観点から、通常、100000mPa・s以下である。
ここで、第二のバインダーの8質量%NMP溶液の60rpmでの粘度は、第二のバインダーを構成する重合体の分子量や架橋性の単量体単位の割合などにより制御することができる。具体的には、例えば第二のバインダーを構成する重合体の分子量を大きくしたり、当該重合体の重合の際にアリルグリシジルエーテルや(メタ)アクリル酸グリシジルなどの架橋性の単量体を多く使用したりすることで、第二のバインダーの8質量%NMP溶液の60rpmでの粘度を上昇させることができる。
なお、「第二のバインダーの8質量%NMP溶液の60rpmでの粘度」は、後述する「導電材ペーストの60rpmでの粘度」と同様の方法で測定することができる。
ここで、第二のバインダーの導電材への吸着量(第二バインダー吸着量)は0mg/g以上110mg/g未満であることが必要であり、好ましくは100mg/g以下、より好ましくは80mg/g以下、更に好ましくは50mg/g以下、特に好ましくは40mg/g以下である。第二バインダー吸着量が110mg/g以上であると、第一のバインダーと相まって、導電材の表面が絶縁体であるバインダー成分で完全に覆われてしまう虞がある。そのため二次電池の低温での直流抵抗が上昇し、またイオン伝導性が低下する。
具体的には、例えば、第二のバインダー中のニトリル基含有単量体の割合を増加させることにより、第二バインダー吸着量を低下させることができる。更に、導電材の比表面積を増加させることにより、第二バインダー吸着量を増加させることができる。
導電材ペースト中における第二のバインダーの配合量は、導電材100質量部当たり、好ましくは100質量部以上、より好ましくは300質量部以上であり、好ましくは700質量部以下、より好ましくは500質量部以下である。導電材ペースト中の第二のバインダーの配合量が上述の範囲内であることで、二次電池の低温での直流抵抗を低下させ、また高温保存特性を向上させることができる。
また、導電材ペースト中における第一のバインダーおよび第二のバインダーの合計量中に占める第一バインダーの量の割合は、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。第一のバインダーおよび第二のバインダーの合計量中に占める第一バインダーの量の割合が上述の範囲内であれば、電極用スラリーを適度な固形分濃度および粘度にしつつ、導電材の経時安定性を向上させ、また二次電池の低温での直流抵抗を低下させることができる。
導電材ペーストに配合する溶剤としては、例えば、上述した第一のバインダーおよび第二のバインダーを溶解可能な極性を有する有機溶媒を用いることができる。
具体的には、有機溶媒としては、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、アセチルピリジン、シクロペンタノン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルホルムアミド、メチルエチルケトン、フルフラール、エチレンジアミンなどを用いることができる。これらの中でも、取扱い易さ、安全性、合成の容易さなどの観点から、有機溶媒としてはN−メチルピロリドン(NMP)が最も好ましい。
なお、これらの有機溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
導電材ペーストには、上記成分の他に、例えば、粘度調整剤、補強材、酸化防止剤、電解液の分解を抑制する機能を有する電解液添加剤などの成分を混合してもよい。これらの他の成分は、公知のものを使用することができる。
上述の導電材、第一のバインダー、第二のバインダー、溶剤および任意のその他の成分を混合して導電材ペーストを調製する方法は特に限定されない。導電材ペーストの調製に際し、これらの成分を一括混合してもよく逐次混合してもよいが、導電材と第一のバインダーを予混合してから、第二のバインダーを混合することが好ましい。導電材と第一のバインダーを、第二のバインダーに先んじて混合することで、第一のバインダーが導電材に好適に吸着し、導電材の経時安定性が確保され、また導電材ペーストのTI値を低下させ好適な範囲内とすることができる。
また混合方法は特に制限されず、例えば、ディスパー、ミル、ニーダーなどの一般的な混合装置を用いることができる。ディスパーを使用する場合を例に挙げると、各混合工程における混合条件は、例えば回転数2000rpm以上5000rpm以下、攪拌時間5分以上60分以下の範囲内で適宜設定することができる。
導電材ペーストは、60rpmでの粘度が500mPa・s以上であることが好ましく、1000mPa・s以上であることがより好ましく、10000mPa・s以下であることが好ましく、8000mPa・s以下であることがより好ましく、5000mPa・s以下であることが更に好ましい。導電材ペーストの粘度が上記範囲内であれば、導電材ペーストの経時安定性が良好となる。
なお、導電材ペーストの60rpm(回転数)での粘度は、JIS Z8803:1991に準じて単一円筒形回転粘度計(25℃、スピンドル形状:4)により測定することができる。
ここで、導電材ペーストの60rpmでの粘度は、混合時に添加する溶剤の量、導電材ペーストの固形分濃度、並びに第一のバインダーおよび第二のバインダーの種類によって調整可能である。
そして、導電材ペーストは、単一円筒形回転粘度計を用いる上述の方法で測定した60rpmでの粘度に対する、回転数のみを変更した以外は当該60rpmでの粘度と同様の方法で測定した6rpmでの粘度の比(TI値)が1.0以上6.0以下であることが必要であり、2.0以上であることが好ましく、また5.0以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましい。導電材ペーストのTI値が上述の範囲外であると、導電材ペーストの経時安定性が確保できず、そして二次電池の低温での直流抵抗が上昇する。
導電材ペーストは、固形分濃度が5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、また50質量%以下であることが好ましい。
導電材ペーストの固形分濃度を上記範囲内とすることで、電極合材層中において導電材が良好に分散し、二次電池の低温での直流抵抗を低下させることができる。
なお、導電材ペーストの固形分濃度が50質量%を超えると、導電材の優れた分散性が得に難くペースト中に凝集塊が残り易くなり、二次電池の低温での直流抵抗が高くなる虞がある。一方、導電材ペーストの固形分濃度が5質量%未満であると、導電材ペースト中の導電材の沈降が生じ、導電材ペーストの経時安定性が損なわれる虞がある。
本発明の二次電池正極用スラリーは、上述した二次電池電極用導電材ペーストおよび正極活物質を含む。
このように、上述した導電材ペーストを含む二次電池正極用スラリーは経時安定性に優れ、かつ当該正極用スラリーから形成される正極を用いることで、二次電池の低温での直流抵抗を十分に低下させることができる。
二次電池正極用スラリーに配合する正極活物質としては、特に限定されることなく、既知の正極活物質を用いることができる。
例えばリチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質としては、特に限定されることなく、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO2)、Co−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物、Ni−Mn−Alのリチウム含有複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)、Li1+xMn2-xO4(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O2、LiNi0.5Mn1.5O4等が挙げられる。
なお、正極活物質の配合量や粒径は、特に限定されることなく、従来使用されている正極活物質と同様とすることができる。
二次電池正極用スラリーは、上記成分の他に、「二次電池電極用導電材ペースト」の項でその他の成分として挙げたものを含んでいてもよい。
また、二次電池正極用スラリーは、上記成分の他に、当該スラリーの調製時に任意に追加された溶剤を含んでいてもよい。なお、追加する溶剤としては、導電材ペーストの調製に使用し得る溶剤と同様のものを使用することができる。
導電材ペーストに対して、上述の正極活物質と、任意に、その他の成分および追加の溶剤とを混合して二次電池正極用スラリーを得るにあたり、混合方法には特に制限は無く、例えば、ディスパー、ミル、ニーダーなどの一般的な混合装置を用いることができる。例えば、ディスパーを使用する場合には、2000rpm以上5000rpm以下で、20分以上600分以下攪拌することが好ましい。
正極活物質を、導電材やバインダー成分と同時に一括混合するのではなく、導電材ペーストを調製した後で、二次電池正極用スラリーの調製の際に導電材ペーストに添加して混合することで、二次電池正極用スラリーの経時安定性の悪化を抑制することができる。また、導電材の分散状態が一括混合で作製した際よりも均一化され、製造バッチ間の粘度や濃度の違いを小さく抑えることができる。そのため、工業的に同程度の粘度・固形分の電極用スラリーを作製し易くなる。
また、集電体上への塗工性を確保する観点から、二次電池正極用スラリーの60rpmでの粘度は、1500mPa・s以上10000mPa・s以下であることが好ましく、固形分濃度は50質量%以上90質量%以下であることが好ましい。なお、「二次電池正極用スラリーの60rpmでの粘度」は、「導電材ペーストの60rpmでの粘度」と同様の方法で測定することができる。
なお、導電材ペーストの量(固形分相当量)と正極活物質の量との比率は、適宜に調整し得る。
本発明の二次電池用正極の製造方法は、本発明の二次電池正極用スラリーを、集電体の少なくとも一方の面に塗布し、乾燥して正極合材層を形成する工程を含む。より詳細には、当該製造方法は、二次電池正極用スラリーを集電体の少なくとも一方の面に塗布する工程(塗布工程)と、集電体の少なくとも一方の面に塗布された二次電池正極用スラリーを乾燥して集電体上に正極合材層を形成する工程(乾燥工程)とを含む。
上記二次電池正極用スラリーを集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、二次電池正極用スラリーを集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる正極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
集電体上の二次電池正極用スラリーを乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上の二次電池正極用スラリーを乾燥することで、集電体上に正極合材層を形成し、集電体と正極合材層とを備える二次電池用正極を得ることができる。
さらに、正極合材層が硬化性の重合体を含む場合は、正極合材層の形成後に前記重合体を硬化させることが好ましい。
本発明の二次電池は、正極と、負極と、セパレーターと、電解液とを備え、正極として、本発明の二次電池用正極の製造方法により得られた二次電池用正極を用いたものである。そして、本発明の二次電池は、本発明の二次電池用正極の製造方法により製造した正極を用いているので、低温での直流抵抗が十分に低く、出力特性などの電気的特性に優れる。以下、本発明の二次電池の一例として、リチウムイオン二次電池について詳述する。
二次電池の負極としては、二次電池用負極として用いられる既知の負極を用いることができる。具体的には、負極としては、例えば、金属リチウムの薄板よりなる負極や、負極合材層を集電体上に形成してなる負極を用いることができる。
なお、集電体としては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金等の金属材料からなるものを用いることができる。また、負極合材層としては、負極活物質と結着材とを含む層を用いることができる。更に、結着材としては、特に限定されず、任意の既知の材料を用いうる。
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、例えば、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましく、LiPF6が特に好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
なお、電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができ、例えば0.5〜15質量%することが好ましく、2〜13質量%とすることがより好ましく、5〜10質量%とすることが更に好ましい。また、電解液には、既知の添加剤、例えばフルオロエチレンカーボネートやエチルメチルスルホンなどを添加してもよい。
セパレーターとしては、特に限定されることなく、例えば特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレーター全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
本発明の二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレーターを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。二次電池の内部の圧力上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
実施例および比較例において、導電材ペーストの粘度およびTI値、第一のバインダーの導電材への吸着量および第二のバインダーの導電材への吸着量、導電材ペーストの経時安定性、並びに二次電池の低温での直流抵抗および高温保存特性は、それぞれ以下の方法を使用して評価した。
導電材ペーストの回転数6rpmでの粘度(X)、60rpmでの粘度(Y)を、それぞれ、JIS Z8803:1991に準じて単一円筒形回転粘度計(25℃、スピンドル形状:4)により測定した。そして、TI値を、TI=X/Yの式により算出した。
<第一のバインダーの導電材への吸着量>
導電材(アセチレンブラック(デンカブラック粉:電気化学工業、比表面積68m2/g、平均粒子径35nm)と、当該導電材と同量(固形分相当量)の第一のバインダーをNMPに溶解させてなる溶液と、適量のNMPとをディスパーに添加しその後撹拌(3000rpm、60分)し、固形分濃度が10質量%の吸着量測定用導電材ペースト1を調製した。そして吸着量測定用導電材ペースト1に、固形分濃度が1質量%となるようにNMPを添加し、希釈液1を得た。
この希釈液1を、遠心分離機を用いて、回転速度10000rpmで10分間遠心分離した。得られた沈殿物を真空乾燥機にて150℃で3時間乾燥させ乾燥物を得た。この時、乾燥による質量変化がなくなったことを確認した。
この乾燥物を、熱天秤を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で500℃まで加熱し、熱天秤による加熱処理前(乾燥物)の質量W1(g)、加熱処理後の質量W2(g)から、以下の式により第一バインダー吸着量を算出した。
第一バインダー吸着量(mg/g)={(W1−W2)×1000}/W2
<第二のバインダーの導電材への吸着量>
導電材(アセチレンブラック(デンカブラック粉:電気化学工業、比表面積68m2/g、平均粒子径35nm)と、当該導電材と同量(固形分相当量)の第二のバインダーをNMPに溶解させてなる溶液と、適量のNMPとをディスパーに添加しその後撹拌(3000rpm、60分)し、固形分濃度が10質量%の吸着量測定用導電材ペースト2を調製した。そして吸着量測定用導電材ペースト2に、固形分濃度が1質量%となるようにNMPを添加し、希釈液2を得た。
この希釈液2を、遠心分離機を用いて、回転速度1000rpmで10分間遠心分離した。得られた沈殿物を真空乾燥機にて150℃で3時間乾燥させ乾燥物を得た。この時、乾燥による質量変化がなくなったことを確認した。
この乾燥物を、熱天秤を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で500℃まで加熱し、熱天秤による加熱処理前(乾燥物)の質量W3(g)、加熱処理後の質量W4(g)から、以下の式により第二バインダー吸着量を算出した。
第二バインダー吸着量(mg/g)={(W3−W4)×1000}/W4
<導電材ペーストの経時安定性>
導電材ペーストを15mLのガラス瓶中で2週間静置した。そして、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、静置後の導電材ペースト中の粒子の分散粒子径を測定し、体積平均粒子径D50を求め、下記基準で分散性を判断した。体積平均粒子径D50が小さいほど(すなわち、バインダーが吸着していない状態での導電材の平均粒子径(1次粒子径)に近いほど)凝集性が小さく、導電材ペーストの経時安定性が良好であることを示す。
A:体積平均粒子径D50が2μm未満
B:体積平均粒子径D50が2μm以上5μm未満
C:体積平均粒子径D50が5μm以上10μm未満
D:体積平均粒子径D50が10μm以上15μm未満
E:体積平均粒子径D50が15μm以上
<二次電池の低温での直流抵抗>
二次電池を−10℃雰囲気下、1C(Cは、定格容量(mA)/1h(時間)で表される数値)でSOC(State Of Charge、充電深度)の50%まで充電した後、SOCの50%を中心として0.5C、1.0C、1.5C、2.0Cで15秒間充電と15秒間放電とをそれぞれ行い、それぞれの場合(充電側および放電側)における0.1秒後の電池電圧を電流値に対してプロットし、その傾きをIV抵抗(Ω)(充電時IV抵抗および放電時IV抵抗)として求めた。得られたIV抵抗の値(Ω)について、以下の基準で評価した。IV抵抗の値が小さいほど、内部抵抗が少なく、低温での直流抵抗が低いことを示す。
A:IV抵抗が10Ω以下
B:IV抵抗が10Ω超12Ω以下
C:IV抵抗が12Ω超15Ω以下
D:IV抵抗が15Ω超
<二次電池の高温保存特性>
まず、二次電池を25℃雰囲気下、0.2Cの定電流法によってセル電圧4.2Vまで充電し、次いで3.0Vまで放電して、保管前の電気容量を測定した。次いで二次電池を25℃雰囲気下、0.2Cの定電流法によってセル電圧4.2Vまで充電した。充電状態の電池を60℃の恒温槽内にて4週間保管(高温保存)した。高温保存後に0.2Cの定電流法にて3Vまで放電し、再度0.2Cの定電流法によって4.2Vまで充電、その後3Vまで放電をし、保管後の電気容量を測定した。この保管後の電気容量と予め測定しておいた保管前の電気容量の比(=(保管後の回復電気容量/保管前の電気容量)×100)(%)を5セル分求め、その平均を充放電容量保持率とし、以下の基準で評価した。充放電容量保持率の値が大きいほど高温保存特性に優れることを示す。
A:充放電容量保持率が85%以上
B:充放電容量保持率が80%以上85%未満
C:充放電容量保持率が75%以上80%未満
D:充放電容量保持率が70%以上75%未満
E:充放電容量保持率が70%未満
<第一のバインダーの調製>
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、乳化剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてn−ブチルアクリレート(BA)35部、ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリル(AN)20部をこの順で入れ、ボトル内を窒素で置換した後、共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン(BD)45部(以上BA、AN,BDで単量体組成物を構成)を圧入し、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.25部を添加して反応温度40℃で重合反応させ、共役ジエン単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位およびニトリル基含有単量体単位を含んでなる重合体を得た。重合転化率は85%であった。
導電材としてのアセチレンブラック(デンカブラック粉:電気化学工業、比表面積68m2/g、平均粒子径35nm)3.0部と、上述のようにして得た第一のバインダーのNMP溶液を固形分相当量で0.6部と、適量のNMPとをディスパーにて攪拌(3000rpm、10分)し、その後、さらに第二のバインダーとしてのPVDF(株式会社クレハ社製「KFポリマー#7200」、8%質量溶液の60rpmでの粘度:6000mPa・s)のNMP溶液を固形分相当量で2.4部と、導電材ペーストの固形分濃度が10質量%になるように適量のNMPとを入れてディスパーで撹拌(3000rpm、10分)し、導電材ペーストを調製した。なお、第二のバインダーの導電材への吸着量を別途測定した。結果を表1に示す。
そして、得られた導電材ペーストの粘度(6rpm、60rpm)およびTI値、並びに経時安定性を評価した。結果を表1に示す。
上述の導電材ペースト中に、正極活物質として層状構造を有する三元系活物質(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2)(平均粒子径:10μm)100部と、溶剤として適量のNMPとを添加し、ディスパーにて攪拌し(3000rpm、20分)、正極用スラリーを調製した。NMPの添加量は、得られる正極用スラリーの60rpmでの粘度が4000〜5000mPa・sの範囲内となるように調整した。
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、負極活物質として比表面積4m2/gの人造黒鉛(体積平均粒子径:24.5μm)を100部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースの1%水溶液(第一工業製薬株式会社製「BSH−12」)を固形分相当で1部加え、イオン交換水で固形分濃度55%に調整した後、25℃で60分混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度52%に調整した。その後、さらに25℃で15分混合し混合液を得た。
単層のポリプロピレン製セパレーター(幅65mm、長さ500mm、厚さ25μm、乾式法により製造、気孔率55%)を、5cm×5cmの正方形に切り抜いた。
電池の外装として、アルミニウム包材外装を用意した。上記で得られた正極を、4cm×4cmの正方形に切り出し、集電体側の表面がアルミニウム包材外装に接するように配置した。正極の正極合材層の面上に、上記で得られた正方形のセパレーターを配置した。さらに、上記で得られた負極を、4.2cm×4.2cmの正方形に切り出し、これをセパレーター上に、負極合材層側の表面がセパレーターに向かい合うよう配置した。さらに、ビニレンカーボネート(VC)を1.5%含有する、濃度1.0MのLiPF6溶液を充填した。このLiPF6溶液の溶媒はエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒(EC/EMC=3/7(体積比))である。さらに、アルミニウム包材の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミニウム外装を閉口し、リチウムイオン二次電池を製造した。得られたリチウムイオン二次電池について低温での直流抵抗および高温保存特性を評価した。結果を表1に示す。
第一のバインダーの製造に用いる単量体組成物として、BDを49部、BAを27部およびANを24部使用した以外は、実施例1と同様にして、第一のバインダーを製造した。当該第一のバインダーを使用した以外は、実施例1と同様にして、導電材ペースト、正極用スラリー、正極、負極および二次電池を製造した。そして、第一のバインダーの導電材への吸着量、第二のバインダーの導電材への吸着量、導電材ペーストの粘度、TI値、および経時安定性、並びに二次電池の低温での直流抵抗および高温保存特性を評価した。結果を表1に示す。
第一のバインダーの製造に用いる単量体組成物として、BDを56部、ANを44部使用し、BAを使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、第一のバインダーを製造した。そして当該第一のバインダーを使用した以外は、実施例1と同様にして、導電材ペースト、正極用スラリー、正極、負極および二次電池を製造した。そして、第一のバインダーの導電材への吸着量、第二のバインダーの導電材への吸着量、導電材ペーストの粘度、TI値、および経時安定性、並びに二次電池の低温での直流抵抗および高温保存特性を評価した。結果を表1に示す。
第一のバインダーの製造に用いる単量体組成物として、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのBA、グリシジルメタクリレート(GMA)をそれぞれ82部および3部、そしてANを15部使用し、BDを使用せず、さらに水素添加反応を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、第一のバインダーを製造した。当該第一のバインダーを使用した以外は、実施例1と同様にして、導電材ペースト、正極用スラリー、正極、負極および二次電池を製造した。そして、第一のバインダーの導電材への吸着量、第二のバインダーの導電材への吸着量、導電材ペーストの粘度、TI値、および経時安定性、並びに二次電池の低温での直流抵抗および高温保存特性を評価した。結果を表1に示す。
導電材ペーストの製造時に、第一のバインダーのNMP溶液の添加と同時に第二のバインダー(PVDF)のNMP溶液を添加した以外は、実施例1と同様にして、導電材ペーストを製造した。当該導電材ペーストを使用した以外は、実施例1と同様にして、正極用スラリー、正極、負極および二次電池を製造した。そして、第一のバインダーの導電材への吸着量、第二のバインダーの導電材への吸着量、導電材ペーストの粘度、TI値、および経時安定性、並びに二次電池の低温での直流抵抗および高温保存特性を評価した。結果を表1に示す。
導電材ペーストの製造時に、第一のバインダーのNMP溶液の添加タイミングと第二のバインダー(PVDF)のNMP溶液の添加タイミングを入れ替えた以外は、実施例1と同様にして、導電材ペーストを製造した。当該導電材ペーストを使用した以外は、実施例1と同様にして、正極用スラリー、正極、負極および二次電池を製造した。そして、第一のバインダーの導電材への吸着量、第二のバインダーの導電材への吸着量、導電材ペーストの粘度、TI値、および経時安定性、並びに二次電池の低温での直流抵抗および高温保存特性を評価した。結果を表1に示す。
第一のバインダーの製造に用いる単量体組成物として、BDを55部、BAを20部およびANを25部使用した以外は、実施例1と同様にして、第一のバインダーを製造した。当該第一のバインダーを使用した以外は、実施例1と同様にして、導電材ペースト、正極用スラリー、正極、負極および二次電池を製造した。そして、第一のバインダーの導電材への吸着量、第二のバインダーの導電材への吸着量、導電材ペーストの粘度、TI値、および経時安定性、並びに二次電池の低温での直流抵抗および高温保存特性を評価した。結果を表1に示す。
第一のバインダーの製造に用いる単量体組成物として、BDを42部、BAを30部、ANを20部および親水性基含有単量体としてのメタクリル酸(MAA)を8部使用した以外は、実施例1と同様にして、第一のバインダーを製造した。当該第一のバインダーを使用した以外は、実施例1と同様にして、導電材ペースト、正極用スラリー、正極、負極および二次電池を製造した。そして、第一のバインダーの導電材への吸着量、第二のバインダーの導電材への吸着量、導電材ペーストの粘度、TI値、および経時安定性、並びに二次電池の低温での直流抵抗および高温保存特性を評価した。結果を表1に示す。
導電材としてのアセチレンブラック(デンカブラック粉:電気化学工業、比表面積68m2/g、平均粒子径35nm)3.0部と正極活物質としての層状構造を有する三元系活物質(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2)(平均粒子径:10μm)100部とをプラネタリーミキサーにて粉体混合(20rpm、10分間)し、粉体混合物を得た。当該粉体混合物に、実施例1と同様にして製造した第一のバインダーのNMP溶液を固形分相当で0.6部と、第二のバインダーとしてのPVDF(株式会社クレハ社製「KFポリマー#7200」、8%質量溶液の60rpmでの粘度:6000mPa・s)のNMP溶液を固形分相当量で2.4部と、適量のNMPとを添加し、プラネタリーミキサーにて混合(60rpm、1時間)した。混合しながら更にNMPを添加し、60rpmでの粘度が4000〜5000mPa・sの範囲内である正極用スラリーを調製した。
上述の正極用スラリーを使用した以外は、実施例1と同様にして、正極、負極および二次電池を製造した。そして二次電池の低温での直流抵抗および高温保存特性を評価した。結果を表1に示す。
導電材ペーストの製造時に、第一のバインダーのNMP溶液を添加しない以外は、実施例1と同様にして、導電材ペーストを製造した。当該導電材ペーストを使用した以外は、実施例1と同様にして、正極用スラリー、正極、負極および二次電池を製造した。そして、第一のバインダーの導電材への吸着量、第二のバインダーの導電材への吸着量、導電材ペーストの粘度、TI値、および経時安定性、並びに二次電池の低温での直流抵抗および高温保存特性を評価した。結果を表1に示す。
また、表1の実施例1〜4、7、8より、第一のバインダーの組成を変更し、第一バインダー吸着量、TI値を変更することにより、導電材の経時安定性および二次電池の高温保存特性を更に向上させ得り、そして二次電池の低温での直流抵抗を更に低下させ得ることがわかる。
そして、表1の実施例1、5、6より、第一のバインダーおよび第二のバインダーの添加順を変更し、TI値を変更することにより、導電材の経時安定性を更に向上させ得り、そして二次電池の低温での直流抵抗を更に低下させ得ることがわかる。
また、本発明によれば、経時安定性に優れ、かつ、二次電池の低温での直流抵抗を十分に低下させることが可能な二次電池正極用スラリーを提供することができる。
更に、本発明によれば、二次電池の低温での直流抵抗を十分に低下させることが可能な正極を製造し得る二次電池用正極の製造方法、および当該二次電池用正極の製造方法で製造された正極を備える二次電池を提供することができる。
Claims (7)
- 導電材、第一のバインダー、第二のバインダーおよび溶剤を含み、
前記導電材は、比表面積が10m 2 /g以上1500m 2 /g以下の導電性炭素材料であり、
前記溶剤は、前記第一のバインダーおよび前記第二のバインダーを溶解可能な極性を有する有機溶媒であり、
前記第一のバインダーは、アルキレン構造単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の少なくとも一方を含み、前記第一のバインダー中のニトリル基含有単量体単位の含有割合が2質量%以上50質量%以下であり、前記第一のバインダー中の親水性基含有単量体単位の含有割合が0.05質量%未満であり、
前記第二のバインダーは、フッ素含有単量体単位を70質量%以上含み、
前記第一のバインダーの前記導電材への吸着量が110mg/g以上1000mg/g以下であり、
前記第二のバインダーの前記導電材への吸着量が0mg/g以上110mg/g未満であり、
前記導電材100質量部当たりの前記第一のバインダーの配合量が、20質量部以上200質量部以下であり、
そして、TI値(60rpmでの粘度に対する6rpmでの粘度の比)が1.0以上6.0以下である、二次電池電極用導電材ペースト。 - 60rpmでの粘度が、500mPa・s以上10000mPa・s以下である、請求項1に記載の二次電池電極用導電材ペースト。
- 前記第一のバインダーおよび前記第二のバインダーの合計量中に占める前記第一バインダーの量の割合が、10質量%以上50質量%以下である、請求項1または2に記載の二次電池電極用導電材ペースト。
- 前記TI値が2.0以上3.0以下である、請求項1〜3の何れかに記載の二次電池電極用導電材ペースト。
- 請求項1〜4の何れかに記載の二次電池電極用導電材ペーストに正極活物質を添加する工程を含む、二次電池正極用スラリーの製造方法。
- 請求項5に記載の二次電池正極用スラリーの製造方法により、二次電池正極用スラリーを得る工程、および、前記二次電池正極用スラリーを、集電体の少なくとも一方の面に塗布し、乾燥して正極合材層を形成する工程を含む、二次電池用正極の製造方法。
- 正極、負極、セパレーターおよび電解液を有する二次電池の製造方法であって、
請求項6に記載の二次電池用正極の製造方法で、前記正極を製造する工程を含む、二次電池の製造方法。
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