以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1〜図6は本発明の一実施形態に係る回転電機を示す図である。
図1において、回転電機100は、後述するように、外部からロータ21にエネルギー入力する必要のない構造を有しており、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車に搭載するのに好適な性能を有している。
回転電機100は、概略円筒形状に形成されたステータ(固定子)11と、図6に示すシャフト101に固定されてステータ11内に収納されるロータ(回転子)21と、を備えており、ロータ21は、シャフト101の軸心を回転軸に一致させるようにベアリング102により支持されて回転自在に取り付けられている。
ステータ11には、ロータ21のロータティース22の外周面22aにエアギャップGを介して内周面12a側を近接対面させるように、径方向に延長されて突極形状に形成されている複数本のステータティース12が周方向に均等配置されている。ステータティース(突極部)12には、隣接する側面22b間に形成される空間のスロット13を利用して、相毎の3相巻線をそれぞれ個々に集中巻きすることにより電機子極コイル14が形成されている。ステータティース12は、電機子極コイル14に駆動電流を入力することにより、内部に対面収納されているロータ21を回転させる磁束を発生する電磁石として機能する。
ロータ21には、ステータティース12と同様に径方向に延長されて突極形状に形成されている複数本のロータティース22が周方向に均等配置されている。ロータティース22は、ステータティース12と全周方向の本数を異ならせて、相対回転時に外周面22aがステータティース12の内周面12aに適宜近接対面するように形成されている。
これにより、回転電機100は、ステータ11のスロット13内の電機子極コイル14が通電されることにより磁束が発生し、その磁束をステータティース12の内周面12aから対面するロータティース22の外周面22aに鎖交させることができる。この回転電機100では、ステータティース12との間で鎖交する磁束が通過する磁路を最短にしようとするリラクタンストルク(主回転力)によりロータ21を相対回転させる。この結果、回転電機100は、ステータ11内で相対回転するロータ21と軸心を一致させつつ一体回転するシャフト101から通電入力する電気的エネルギーを機械的エネルギーとして出力することができる。すなわち、回転電機100は、リラクタンスモータとして構築されている。
このとき、回転電機100では、ステータティース12の内周面12aからロータティース22の外周面22aに鎖交する磁束には空間高調波成分が重畳している。このため、ロータ21側でも、ステータ11側から鎖交する磁束の空間高調波成分の磁束密度の変化を利用して、内蔵するコイルに誘導電流(補助電流)を発生させ電磁力を得ることができる。
詳細には、ステータ11の電機子極コイル14に基本周波数の駆動電力を供給するだけでは、ロータ21(ロータティース22)をその基本周波数で変動する主磁束で回転させるだけであることから、ロータ21側にコイルを単に配置しても鎖交する磁束に変化はなく誘導電流が生じることはない。
その一方で、磁束には空間高調波成分が重畳しており、その空間高調波成分は基本周波数と異なる周期で時間的に変化しつつロータティース22に外周面22a側から鎖交する。このことから、基本周波数の磁束に重畳する空間高調波成分は、ロータティース22の外周面22aの近傍にコイルを設置することにより、別途入力することなく、効率よく誘導電流を発生させることができる。この結果、鉄損の原因となる空間高調波磁束は自己励磁するためのエネルギーとして回収することができる。
ところで、リラクタンスモータとしては、図示することは省略するが、ロータティース22の隣接する側面22b間に形成される空間をスロット23として利用して、そのロータティース22に巻線を巻き付けて径方向2段の集中巻を形成することにより、外周面22a側に誘導コイルを形成し、その軸心側に電磁石コイルを配置することが考えられる。
この構造では、誘導コイルは、ステータティース12の内周面12aからロータティース22の外周面22aに鎖交する磁束の空間高調波成分、すなわち、磁束密度の変化により誘導電流を発生させて電磁石コイルに供給することができる。このため、電磁石コイルは、その誘導コイルから受け取った誘導電流を界磁電流として自己励磁することにより、磁束(電磁力)を発生させることができる。要するに、ロータティース22自体に誘導コイルと電磁石コイルを配置して、誘導電流を界磁電流として利用可能な独立回路を備えさせることで、主回転力を発生する電機子極コイル14の磁束とは別に鎖交する磁束が通過磁路を最短にしようとするリラクタンストルク(補助回転力)を得て、ロータ21の相対回転を補助することができ、また、損失要因となっていた磁束の空間高調波成分をエネルギーとして回収して利用することができる。
ここで、このようにロータティース22にコイルを巻くことは、野中作太郎著「自励形単相同期電動機」電気学会雑誌78巻842号、1958年11月、P.18−26にも記載されている。この非特許文献1に記載のリラクタンスモータは、基本周波数よりも高い周波数の磁束がロータ側コイルに鎖交することで誘導電流を発生させるものであり、その誘導電流を整流素子(ダイオード)で半波整流して戻すことにより、そのロータ側コイルを自己励磁式の電磁石として機能させるようになっている。
しかしながら、この文献に記載の自己励磁技術には、次のような課題がある。
1.ロータ側のコイルとしては、誘導電流を発生させるコイルおよび整流した誘導電流を界磁電流として流すコイルとして兼用するので、磁気的な干渉が生じて効率よく誘導電流を発生させることができず、また、起磁力も非常に小さくなってしまう。
2.基本周波数よりも高い高次の磁束の高周波成分は、ロータ21(ロータティース22)に鎖交するにしても外周面22a付近に分布するのに留まるため、軸心側にコイルを配置してしまうと非常に小さな誘導電流しか発生しない。なお、ロータ側コイルは、ロータティース22の外周面22a付近に設置するにしても、現実的には無理がある。例えば、線径の細い導線の極少量を巻いてコイルとしても、導体抵抗が高くなって、その結果、銅損が増加して効率のよい電磁石として機能させるのは難しい。また、ロータ表面では、ステータ側に接触してしまう懸念も生じてしまう。
3.ステータ11側のコイルとしては、分布巻にしてしまうと、高次の高調波が磁束に重畳する傾向にあり、上述するように、高次の磁束の高周波成分ではより小さな誘導電流しか期待できない。要するに、コイルの巻き方としては、分布巻は不適当である。
4.この文献では、基本周波数の2倍の高調波磁束でロータ側コイルを励磁するように説明するが、2次の高調波磁束で発生する誘導電流は整流合成したときに谷ができてしまう。また、誘導電流は磁束の時間変化が大きいほど大電流となるので、高くなり過ぎない3次程度の高調波磁束の方が有利である。
そこで、本実施形態の回転電機100では、ロータ21側において、補極部材(補極部)25に集中巻線した誘導コイル27の全体をロータティース22間のスロット23内に収容して回転方向に並列配置するとともに、直列接続して集中巻して形成した電磁石コイル28(28a、28b)がロータティース22の全体で1段となるように配置されている。
誘導コイル27は、電磁鋼(磁性体)からなる補極部材25を採用することにより、透磁率を高めて磁束を高密度に鎖交可能にしており、ステータティース12の内周面12aに極力小さなエアギャップGを介して対面する磁路上に位置させることで、より多くの空間高調波磁束を鎖交させるようになっている。この誘導コイル27は、ステータティース12の内周面12aからロータティース22の外周面22a側に鎖交する磁束の3次の空間高調波成分を有効利用するように磁界解析を行って厳密に空間高調波磁路を確認することにより、効率よく誘導電流を発生させることができるように設置している。なお、誘導コイル27は、電磁石コイル28との間に必要十分な空隙を確保するようにロータティース22の間に位置するように配置されている。
このように、集中巻構造を採用することにより、誘導コイル27や電磁石コイル28では、複数スロットに亘って周方向に巻線をする必要がなく、全体的に小型化することができる。また、誘導コイル27では、1次側での銅損損失を低減しつつ、低次である3次の空間高調波磁束の鎖交による誘導電流を効率よく発生させて、回収可能な損失エネルギーを増加させることができる。
また、誘導コイル27には、3次の空間高調波磁束を利用することにより、上述の非特許文献1で説明する2次の空間高調波磁束を利用する場合よりも、効果的に誘導電流を発生させることができる。具体的には、誘導電流は2次よりも3次の空間高調波磁束を利用する方が磁束の時間変化を大きくして大電流にすることができ、効率よく回収することができる。なお、この非特許文献1では、ロータの軸心側深部に巻線したコイルが図示されており、空間高調波の鎖交領域が考慮されておらず、有効利用できる構造になっていない。
そして、誘導コイル27は、後述するように、ロータティース22の外周面22aの間で磁気的に独立する形態でスロット23内に配置されている。
また、電磁石コイル28は、ロータティース22の全長にわたって巻線することにより全体を有効利用して磁束を発生させる。
このように、誘導コイル27および電磁石コイル28は、磁束経路が干渉し合わないように分割されているので、磁気的干渉を低減することができ、効率よく誘導電流を発生させることができるとともに、効果的に電磁石として機能させて磁束を発生させることができる。
さらに、誘導コイル27は、ロータ21の径方向に対して同一の周回巻線となる集中巻に形成されて、ロータ21の周方向に配列されて並列接続されている。また、電磁石コイル28は、ロータ21の径方向に対して隣同士が逆向きの周回巻線となる集中巻に形成されて、ロータ21の周方向の外周側と軸心側とを交互に接続する全直列接続にされている。
電磁石コイル28は、図2に示すように、全直列接続されている両端部が、並列接続されている誘導コイル27の両端部にそれぞれダイオード(整流素子)29A、29Bを介して接続されている。すなわち、電磁石コイル28は、巻線の巻き方向毎のコイル28A1〜28An(n:極数/2)とコイル28B1〜28Bnが全直列接続されており、その電磁石コイル28A1〜28An、28B1〜28Bnに対応するように直列接続されている誘導コイル27A1〜27An、27B1〜27Bnの両端部に並列接続されている。
ダイオード29A、29Bは、誘導コイル27や電磁石コイル28を多極化させる場合でも、そのうちの電磁石コイル28を全直列させることで使用数を抑えている。このダイオード29A、29Bは、大量使用を回避するために、一般的なHブリッジ型の全波整流回路を形成するのではなく、それぞれ180度位相差になるように結線して、一方の誘導電流を反転させて半波整流出力する中性点クランプ型の半波整流回路(整流素子)を形成している。
これにより、回転電機100では、誘導コイル27の透磁率の高い電磁鋼の補極部材25に、電磁石コイル28との干渉を極力少なく(誘導電流の減少を少なく)、ステータティース12の内周面12aからロータティース22の外周面22a側に鎖交する磁束の空間高調波成分を通過させることにより、誘導電流を効率よく発生させて回収することができる。誘導コイル27の個々に発生させる誘導電流は、ダイオード29A、29Bで整流させた後に合流させて、直列接続させている電磁石コイル28の個々に流し有効利用することができ、その電磁石コイル28を効果的に自己励磁させて大きな磁束(電磁力)を発生させることができる。
この結果、回転電機100は、励磁用と電磁石用とで分割して独立させる誘導コイル27および電磁石コイル28で、互いに干渉して弱め合ってしまうことを回避しつつ、発生する磁束を有効かつ平滑化させて利用することができ、効率よくエネルギーとして回収して出力することができる。すなわち、電磁石コイル28がロータティース22と共に突極を構成して、誘導コイル27が補極部材25と共に補極を構成している。
また、誘導コイル27および電磁石コイル28は、ロータ21の周方向に複数配置して多極化しているので、上述の非特許文献1に記載のような2極モータの場合よりも、ロータティース22の1歯当たりの鎖交する磁束量を周方向に分散化させることができ、個々のロータティース22に作用する電磁力(リラクタンストルク)も周方向に分散化させて電磁振動を抑えることができ、静寂化させることができる。
このように、回転電機100は、ロータ21側に誘導コイル27と電磁石コイル28を設置することで、3次空間高調波磁束をステータ11側のステータティース12から効果的に鎖交させて効率よくリラクタンストルクを発生させることができる。例えば、図3に示すように、3次空間高調波磁束の磁界解析により求めた磁束線FLを図示すると、電磁石コイル28のロータティース22の外周面22aに誘導コイル27の補極部材25の外端面32aを加えて、ステータ11とロータ21との間で磁束を鎖交させることができる。このため、ロータティース22の外周面22aのみの場合よりも、ロータ21の外周面側での磁束の鎖交面積を大きくして(鎖交位置を分散化させて)、磁気飽和してしまうことなく(磁気抵抗少なく)鎖交させて効率よくリラクタンストルクを発生させることができる。また、誘導コイル27は、補極部材25の外端面32aをロータ21の外周側に位置させていることから、磁束を直交方向から鎖交させることができ、効率よく誘導電流を発生させることができる。
このため、回転電機100では、電磁石コイル28と周方向に並列させて誘導コイル27を設置することで、その誘導コイル27内に磁束を効果的に誘導して誘導電流を発生させ電磁石コイル28に界磁電流として供給することができる。この結果、回転電機100では、エアギャップG間を介して鎖交する3次空間高調波磁束が磁気飽和近くになって抑えられることを少なくして、より多くの磁束を誘導コイル27に鎖交させて大容量の誘導電流を発生させることができる。
これにより、回転電機100では、3次空間高調波磁束(磁束ベクトル)をロータティース22の外周面22a側に高密度に発生させつつ、誘導コイル27を含めて、ステータティース12の間の全体で鎖交させることができ、周方向の広範囲にリラクタンストルクを効果的に発生させて電機子極コイル14による駆動力を補助することができる。
ここで、誘導コイル27は、周囲との間の磁気抵抗が小さいと、ロータティース22の突極比を低下させてしまうことになり、リラクタンストルクを著しく減少させてしまう。また、ロータティース22に磁束が大量に流れ込むと、ステータ11とロータ21との相対的な位置関係によっては、負(逆回転)方向へのトルクが働いたり、磁気的干渉が生じたりしてトルク低下の要因となってしまうことがある。
このため、誘導コイル27は、コイルを巻き付ける補極部材25を後述する簡易な取付構造に形成してロータ21に組み付けるようになっており、できるだけ小さな磁気結合のみに制限して磁気的に独立した状態でスロット23内に配置することによりロータティース22に磁気的に結合することによる不都合を回避するようになっている。
このことから、回転電機100は、誘導コイル27を電磁石コイル28間に磁気的に独立させつつ並列させることにより、ロータ21の回転を開始するのに伴って鎖交する3次空間高調波磁束を並列させていない場合よりも増加させることができ、誘導コイル27に誘導電流を効率よく発生させて損失エネルギーを効果的に回収できる。また、この回転電機100では、誘導コイル27を電磁石コイル28間に並列させることで、発生させる誘導電流の波形を安定させることができ、定常トルクを向上させるとともに、トルクリプルを低減させて、トルク特性を高品質にすることができる。
そして、回転電機100は、3f次の空間高調波磁束(f=1、2、3・・・)を主に利用する構造として、ロータ21側の突極(ロータティース22)の数P:ステータ11側のスロット13の数Sが2:3になる構造に作製されている。例えば、3次の空間高調波磁束は、電機子極コイル14に入力する基本周波数よりも周波数が高いために短周期で脈動する。このため、ロータ21は、ロータティース22間の誘導コイル27に鎖交する磁束強度が変化することにより、効率的に誘導電流を発生させることができ、基本周波数の磁束に重畳する空間高調波成分の損失エネルギーを効率よく回収して回転することができる。
また、このように、回転電機100は、ロータ21側とステータ11側の間での相対的な磁気的作用の品質を決定する構造として、ロータティース突極数Pとステータスロット数Sの比としてP/S=2/3を採用するのは、電磁振動を低減して電磁騒音の小さな回転を実現するためである。
詳細には、上記と同様に磁束密度分布の磁界解析をすると、ロータティース突極数Pとステータスロット数Sの比に応じて、機械角360度内の周方向に磁束密度分布も分散化されるため、ステータ11に働く電磁力分布にも偏在が認められることになる。
これに対して、回転電機100では、ロータティース突極数P/ステータスロット数S=2/3となる構造を採用することにより、機械角360度の全周に亘って均等な密度分布となる磁束を鎖交させることができ、ロータ21をステータ11内で高品質に回転させることができる。
これにより、回転電機100では、空間高調波磁束を利用して、回転動作させることができるため、損失エネルギーを効率よく回収して、電磁振動を大幅に低減し静寂性高く回転させることができる。
このように、回転電機100は、ステータ11の電機子極コイル14以外に電力供給することなく、ロータ21側に配置する誘導コイル27に誘導電流を効率よく発生させて電磁石コイル28に界磁電流として供給し、自己励磁電磁石として機能させることができるため、電機子極コイル14への電力供給による主回転力を補助する補助回転力(電磁力)を得て高効率回転させることができる。
図1に戻って、この回転電機100の補極部材25は、ロータ21の軸心と平行なシャフト101が積層する電磁鋼板を貫通してネジ止め等する形態に代えて、ロータ21におけるロータティース22で対面する両側面22bに脚部(支持部)35を支持させるようになっており、誘導コイル27を巻き付けた本体部31をその脚部35で連結支持してロータティース22の側面22b間のスロット23内に位置決め保持するようになっている。
補極部材25の本体部31は、回転軸と平行に延長されつつ、ロータ21のロータティース22の両側面22bに対面して誘導コイル27を巻き付け可能な板状になるように電磁鋼板を積層することにより形成されており、この本体部31は、ロータティース22間のスロット23内で、回転軸からロータ21の径方向外方に延伸して誘導コイル27が巻き付けられ、その径方向外端部32の外端面32aをステータ11のステータティース12の内周面12aに対面させるようにロータ21に組み付けられている。なお、この補極部材25の本体部31は、外端部32がロータ21の外周面側を軸心側よりも厚くなるように形成されており、巻き付けた誘導コイル27が回転時の遠心力でずれてしまうことを抑制するようになっている。ここで、ロータ21の径方向外方とは、軸心を通る直線上において軸心から外周面の外側に向かう方向を意味する。
補極部材25の脚部35は、回転軸と平行に延長され、電磁鋼板を積層することにより形成されている。この補極部材25の脚部35は、本体部31のロータ21の径方向内方端部31iからロータティース22の両側面22bに向かって支持するように延伸された板状になるように形成されている。また、この脚部35は、先端部(延伸端部)36を、ロータティース22の両側面22bに形成されている支持溝39内に嵌め込むことにより組み付けて(連結させて)本体部31を支持するようになっている。ここで、ロータ21の径方向内方とは、軸心を通る直線上において外周面から軸心側に向かう方向を意味する。
この補極部材25の脚部35は、本体部31を支持する十分な強度を確保し、幅をできるだけ狭く形成した電磁鋼板を積層して形成されており、例えば、積層する電磁鋼板の2枚分の厚さ以下の幅で回転軸方向に延長される形状に形成されている。すなわち、この脚部35は、本体部31とロータティース22との間を通過する磁束量をできるだけ制限するように断面積の小さな板状にして、補極部材25がロータティース22と別個の磁極(補極)として機能する磁気的に独立した形態で支持するように形成されている。
また、図4に示すように、ロータティース22の支持溝39は、側面22bの開口部39aよりも深部39b側ほど開口幅が大きくなるように形成されている。そして、補極部材25の脚部35の先端部36は、その支持溝39と略同一形状に形成されている。この補極部材25は、脚部35の先端部36をロータティース22の支持溝39内に回転軸方向の端面側から嵌め込んでスライドさせることにより組み付けるようになっている。
これにより、ロータ21は、補極部材25の脚部35を通過する磁束量が制限され、磁束線FLが直ちに密になるため、図3中の黒塗りの領域Sとして図示するように、簡単に磁気飽和する。このような構造から、補極部材25とロータティース22との磁気結合を抑制することができ、補極部材25をロータティース22から磁気的に十分に独立した状態で支持することができる。このため、ロータティース22と補極部材25のそれぞれに鎖交する磁束が干渉しあって誘導電流や電磁力の発生効率を低下させてしまうことを回避することができ、ロータ21を大トルクで高効率回転させることができる。
また、この構造により、ロータ21は、補極部材25をロータティース22に支持させる前に、そのロータティース22の軸心側内方側またはロータティース22の全体に、電磁石コイル28の一部または全部を巻き付けることができ、この後に、補極部材25の脚部35をロータティース22の支持溝39に嵌め込んで支持させることができる。
このとき、誘導コイル27は、ロータティース22に補極部材25の脚部35を支持させる前に、あるいは、支持させた後に、本体部31に巻き付ければよい。また、電磁石コイル28は、補極部材25の脚部35よりも径方向内方の第1コイル28aと、補極部材25の脚部35よりも径方向外方の第2コイル28bとに分割した状態でロータティース22に巻き付けられており、この第1、第2コイル28a、28bは直列接続されて電磁石コイル28を構成している。
このように補極部材25の脚部35によって支持させることで、ロータ21は、誘導コイル27を補極部材25の本体部31に巻き付けてロータ21の外周面側に位置させることができる。また、補極部材25の脚部35をロータティース22の支持溝39に嵌め込んで支持させるため、その補極部材25の脚部35に妨げられることなく、電磁石コイル28の第1、第2コイル28a、28bをロータティース22の全体に巻き付けることができる。本発明に係る実施形態によれば、このような構成により、スロット23内の空間を有効利用して、効率よく誘導コイル27で誘導電流を発生させ、また、その誘導電流を電磁石コイル28に供給して効果的に電磁力を発生させることができる。
なお、電磁石コイル28の第1、第2コイル28a、28bは、ロータティース22の全体(径方向内方と径方向外方の両側)に一工程で巻き付ける際には、補極部材25の脚部35がスロット23内をスライドする空間を残した状態で巻き付ければよい。また、ロータティース22に補極部材25を支持させる前後に第1、第2コイル28a、28bをそれぞれ巻き付ける際には、そのロータティース22の軸心側内方(径方向内方)に第1コイル28aを巻き付けた後に、補極部材25の本体部31に誘導コイル27を巻き付ける前に、あるいは、その本体部31に誘導コイル27が巻き付けられた状態で、そのロータティース22の外周側外方(径方向外方)に第2コイル28bを巻き付ければよい。
ここで、この誘導コイル27を巻き付ける補極部材25の本体部31は、例えば、脚部35に代えて後述するコイルエンドカバー50にネジ止めしてロータ21に支持させる形態を採用する場合には、ネジ止めするボルト頭部やナットによって渦電流を発生させてしまい、また、誘導コイル27のコイル長がロータ21の両端部側で拡大することにより長くなって導体抵抗が大きくなって、損失を発生させてしまう。しかしながら、本実施形態の補極部材25の本体部31は、脚部35によりロータティース22に直接支持させるので、渦電流が発生することを回避することができる。また、本実施形態の補極部材25の本体部31は、誘導コイル27のコイル長が無駄に長くなって導体抵抗が大きくなってしまうこともなく、効率よく誘導電流を発生させて効果的に電磁石コイル28で電磁力を発生させることができる。
また、このロータ21は、図5にも図示するように、スロット23を閉塞するようにロータティース22間にカップ部材41を取り付けるようになっている。このロータティース22は、外周面22aを軸心側よりも幅広に形成して側面22bの外周面側先端部22cが滑らかに連続する湾曲面になるように形成されている。また、このロータティース22は、外周面側先端部22cの湾曲面から側面22bの平面に切り替わる位置に取付溝24が回転軸と平行に延長されている形態で形成されている。
これに対して、カップ部材41は、補極部材25の外端面32aから両側のロータティース22の側面22bに向かって支持されるように延長されて外面側が外周面側先端部22cに連続するように形成されており、その端辺部42はロータティース22の側面22bに向かう方向に屈曲して取付溝24に嵌まり込んで取り付け状態を維持するようになっている。これにより、カップ部材41は、巻き付けた誘導コイル27や電磁石コイル28が遠心力で外れてステータ11側に干渉してしまうことを回避するようになっている。
さらに、ロータ21は、補極部材25の外端面32aに、制限溝33が回転軸と平行に延長されるように形成されている。
これに対して、カップ部材41は、補極部材25の外端面32aに対面する箇所において、ロータティース22に向かって延長されている箇所よりも厚く形成された厚板部(ロータ外周面側外端面の対面部材)45が配置されており、この厚板部45は、その補極部材25が回転時の遠心力で径方向外方に移動しようとするのを押さえるように機能する。また、この厚板部45は、補極部材25の外端部32側に向かって突出して、外端面32aの制限溝33内に嵌まり込む制限リブ(突当部)46が形成されている。この厚板部45は、制限リブ46が補極部材25の外端部32の制限溝33に嵌まり込んでその補極部材25が回転方向に移動しようとするのを制限するため、補極部材25の全体が回転方向に揺れて誘導コイル27や電磁石コイル28を損傷させてしまうことを抑制することができる。
このカップ部材41は、図6にも図示するように、ロータ21のロータティース22や補極部材25に巻き付けて軸方向外側の外端面21a側に露出する誘導コイル27や電磁石コイル28(これらコイルの図示は省略)を覆うように取り付けるコイルエンドカバー50と一体に形成されている。そして、カップ部材41は、そのコイルエンドカバー50をロータ21に取り付ける際に、ロータティース22の外周面側先端部22c内側に位置するように差し込んで端辺部42をロータティース22の側面22bの取付溝24内に嵌め込ませつつスライドさせて取り付けるようになっている。
この構造により、ロータ21は、カップ部材41の厚板部45が補極部材25の外端部32の外側に位置してロータティース22に取り付けられることから、ステータティース12の内周面12aから補極部材25の外端面32aまでの最短離隔距離が、ステータティース12の内周面12aからロータティース22の外周面22aまでの最短離隔距離よりも大きくなり(エアギャップGの隙間が大きくなり)、この補極部材25をスロット23内に位置させることによって、ロータティース22の突極比が低下してしまうことを回避することができる。
ところで、補極部材25は、本体部31の径方向内方端部31iにおいて一対の脚部35をロータティース22の両側面22bに支持されるように屈曲させて延伸し、その一対の脚部35間を大きく開いたY字形状に形成されている。この脚部35は、本体部31よりも薄板に形成されているので弾性力を有するとともに、その本体部31の径方向内方端部31i側の屈曲部35aでも弾性力を発揮して、ロータ21の回転時における振動等で損傷してしまうことを効果的に回避することができる。
このように、本実施形態においては、誘導コイル27を補極部材25の本体部31に巻き付けてロータティース22の両側面22bの支持溝39に脚部35の先端部36を嵌め込んで支持させる簡易な構造のため、誘導コイル27をスロット23内に位置させるように容易に組み付けることができる。また、補極部材25をスロット23に組み付ける前に電磁石コイル28をロータティース22の全体に亘って容易に巻き付けることができる。
また、補極部材25は、本体部31の外端面32aの制限溝33に、カップ部材41の厚板部45の制限リブ46を嵌まり込ませて位置決めされるので、回転時に移動することを制限することができ、回転負荷により外れてしまうことを抑制することができる。また、補極部材25は、ステータティース12の内周面12aと外端面32aとのエアギャップGの離隔間隔を、ステータティース12の内周面12aとロータティース22の外周面22aとのエアギャップGの離隔間隔より大きくすることができるため、ロータティース22の突極比が低くなって回転効率が低下してしまうことを回避することができる。
したがって、損失エネルギーとなっていた空間高調波成分により誘導コイル27で発生した誘導電流を効果的に界磁電流として電磁石コイル28に供給することができるため、損失エネルギーを効率よく回収して自己励磁することで高効率回転する回転電機100を簡易な構造で実現することができる。
ここで、本実施形態では、補極部材25の制限溝33内にカップ部材41の制限リブ46を嵌め込んで、その制限溝33の内面を制限リブ46の側面に突き当てて回転時の移動を制限するが、これに限るものではない。
例えば、本実施形態の第1の他の態様としては、図示することは省略するが、補極部材25の外端部32を嵌め込む枠形状をコイルエンドカバー(ロータ軸方向外端面の対面部材)50側に設けてもよい。これにより、その枠形状は、補極部材25の外端部32を突き当てて移動を制限する突当部として機能することができる。
また、本実施形態では、補極部材25の脚部35の断面積が小さくなるように薄板形状に形成して、その脚部35を通過する磁束量を制限することにより、誘導コイル27を巻き付ける補極部材25の本体部31を、電磁石コイル28を巻き付けるロータティース22から磁気的に独立させるが、これに限るものではない。
例えば、本実施形態の第2の他の態様としては、図7に示すように、ロータティース22の支持溝39の深部39b側底面39cに対面する補極部材25の先端部36の先端面36aを窪ませ、また、脚部35の長さをロータティース22の側面22bまでの離隔間隔よりも短めに形成してもよい。これにより、脚部35の先端部36は、ロータティース22の支持溝39内に嵌め込んだ状態では、そのスロット23から離隔する側で窪む先端面36aの両端部36cのみが接したり、また、そのスロット23側の一部36bのみが接したりすることができる。この結果、補極部材25は、組み付け時におけるロータティース22との間の連結部における磁気抵抗を高くして、磁気的独立性をより高めることができる。なお、補極部材25の脚部35の長さを長めに形成し、その先端部36のスロット23側の一部36b側も窪ませることにより、ロータティース22の支持溝39内に嵌め込んだ状態では、そのスロット23から離隔する側で窪む先端面36aの両端部36cのみが接するようにして連結部の磁気的独立性を高めることもできる。
さらに、第3の他の実施形態としては、図8に示すように、この補極部材25の先端部36の先端面36a側にアルミ合金や硬質樹脂材料などの非磁性材料からなる終端部材51を嵌め込んでもよい。これにより、補極部材25とロータティース22との間の連結部における磁気抵抗を大きくして、磁気的独立性をさらに高めることもできる。
また、本実施形態の第4の他の態様としては、図示することは省略するが、回転電機100のように径方向にエアギャップGを形成するラジアルギャップ構造に限らずに、回転軸方向にギャップを形成するアキシャルギャップ構造に適用することも可能である。この場合にも、ステータ側とロータ側とで対面する軸方向端面に電機子極コイルと共に誘導コイルや電磁石コイルを配置すればよい。
また、回転電機100のようなラジアルギャップ構造の場合には、ステータ11やロータ21を電磁鋼板の積層構造で形成することに限定されず、例えば、鉄粉などの磁性を有する粒子の表面を絶縁被覆処理した軟磁性複合粉材(Soft Magnetic Composites)をさらに鉄粉圧縮成形および熱処理製造した圧粉磁心、所謂、SMCコアを採用してもよい。このSMCコアは、成形が容易であることからアキシャルギャップ構造に好適である。
また、回転電機100は、車載用に限定されるものではなく、例えば、風力発電や、工作機械などの駆動源として好適に採用することができる。
本発明の実施形態を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。