(第1実施形態)
以下、燃料噴射制御装置の第1実施形態を、図1〜図6を参照して詳細に説明する。
図1に示す本実施形態の燃料噴射制御装置は、車載用の4気筒エンジンの各気筒に設置された4つのインジェクタINJ1〜INJ4の噴射動作を制御する。なお、同図には、同エンジンの第4気筒に設置されたインジェクタINJ4のみ断面構造が図示され、第1〜第3気筒のインジェクタINJ1〜INJ3の断面構造の図示は省略されているが、これらは同じ構造とされている。
各インジェクタINJ1〜INJ4は、電磁ソレノイド21を内蔵する。電磁ソレノイド21は、各インジェクタINJ1〜INJ4のハウジング20の内部に設けられ、固定コア22、電磁コイル23及び可動コア24を備える。固定コア22は、ハウジング20に固定され、その周囲に設けられた電磁コイル23への通電に応じて磁化される。可動コア24は、ハウジング20の内部において、固定コア22に隣接して、図中上下方向に変位可能に設けられている。可動コア24には、ニードル弁25が一体となって変位可能に連結されている。また、ハウジング20の内部には、可動コア24を固定コア22から離間する側(図中下側)に常時付勢するスプリング26が設けられている。なお、ハウジング20の内部には、加圧された燃料が外部から導入される燃料室29が形成されている。
一方、ハウジング20の先端部分(図中下側の端部分)には、ニードル弁25の先端部分の周囲を囲むようにノズルボディ27が取り付けられている。ノズルボディ27の先端には、その内外を連通するスリット状の噴孔28が形成されている。一方、ハウジング20の内部には、加圧された燃料が外部から導入される燃料室29が形成されている。
こうしたインジェクタINJ1〜INJ4において、ニードル弁25は、その先端がノズルボディ27に当接(着座)する全閉位置から可動コア24が固定コア22に当接する全開位置までの範囲で変位可能とされている。ニードル弁25の先端がノズルボディ27から離床(リフト)すると、噴孔28が燃料室29に連通されて、燃料室29に導入された燃料が噴孔28を通じて外部に噴射される。一方、ニードル弁25が全閉位置に変位して、ノズルボディ27に着座すると、噴孔28と燃料室29との連通が遮断されて、燃料噴射が停止される。なお、以下の説明では、全閉位置からのニードル弁25の変位量を、ノズルリフト量と記載する。
なお、これらインジェクタINJ1〜INJ4の電磁ソレノイド21(電磁コイル23)への通電は、バッテリ15及びコンデンサ16から行われる。コンデンサ16は、電磁ソレノイド21の励起を早めてニードル弁25を速やかに開弁させるための高圧電流を蓄え、その充電は、バッテリ15の供給電圧を昇圧する昇圧回路19を通じて行われる。
一方、燃料噴射制御装置は、電子制御ユニット10を備える。電子制御ユニット10は、燃料噴射制御に係る各種演算処理を行う中央演算処理装置、制御用のプログラムやデータが記憶された読出専用メモリ、中央演算処理装置の演算結果やセンサの検出結果等を一時的に記憶する読書可能メモリ、外部との信号の送受のための入/出力ポートを備える。
電子制御ユニット10の入力ポートには、インジェクタINJ1〜INJ4に供給される燃料の圧力(燃圧PF)を検出する燃圧センサ11や、エンジンのクランクシャフトの回転位相(クランク角)を検出するクランク角センサ12、アクセルペダルの踏込量(アクセルペダル踏込量ACCP)を検出するアクセルペダルセンサ13が接続されている。また入力ポートには、これ以外にも、エンジンや車両の運転状況を検出する各種センサが接続されている。なお、電子制御ユニット10は、クランク角センサ12の検出結果からエンジン回転数NEを演算している。
一方、電子制御ユニット10の出力ポートには、インジェクタINJ1〜INJ4の駆動回路14がそれぞれ接続されている。各駆動回路14は、マイクロコンピュータ(以下、マイコンと記載する)14A、放電スイッチ14B及び定電流スイッチ14Cを備えている。放電スイッチ14Bは、対応するインジェクタINJ1〜INJ4の電磁ソレノイド21に対するコンデンサ16からの通電経路をその開閉に応じて断接する。また、定電流スイッチ14Cは、対応するインジェクタINJ1〜INJ4の電磁ソレノイド21に対するバッテリ15からの通電経路をその開閉に応じて断接する。一方、マイコン14Aは、対応するインジェクタINJ1〜INJ4の電磁ソレノイド21を流れる電流(インジェクタ駆動電流)を監視するとともに、その監視結果、及び電子制御ユニット10から受信した噴射指令信号に応じて、放電スイッチ14B及び定電流スイッチ14Cを操作する。
図2に、本実施形態の燃料噴射制御装置における燃料噴射時の制御態様の一例を示す。なお、同図には、駆動回路14に対して電子制御ユニット10が出力する噴射指令信号、放電スイッチ14Bに対するマイコン14Aの操作信号、及び定電流スイッチ14Cに対するマイコン14Aの操作信号の推移がそれぞれ示されている。さらに同図には、電磁ソレノイド21を流れる電流(インジェクタ駆動電流)、及びニードル弁25のノズルリフト量の推移も併せ示されている。
電子制御ユニット10は、燃料噴射毎に、その燃料噴射を実施させるインジェクタINJ1〜INJ4の駆動回路14に対して、矩形波状の噴射指令信号を生成して出力する。同図では、時刻t1にオフからオンとなり、その後の時刻t4までオンに保持された後、オフとなるように、噴射指令信号が出力されている。
この噴射指令信号を受信した駆動回路14のマイコン14Aは、時刻t1における噴射指令信号のオフからオンへの切り換わりに応じて、放電スイッチ14Bをオンに操作する。これにより、コンデンサ16に蓄えられた電荷が電磁ソレノイド21に放電される。そして、その放電による電磁ソレノイド21の励起に応じて、インジェクタ駆動電流が増大し、可動コア24がスプリング26の付勢力に抗して、磁化した固定コア22に引き寄せられる。その結果、ニードル弁25がノズルボディ27からリフトして、燃料噴射が開始される。
一方、マイコン14Aは、時刻t2においてインジェクタ駆動電流が規定のピーク電流Ipに達すると、放電スイッチ14Bをオフに操作した後、インジェクタ駆動電流を規定の保持電流Im近傍に保持すべく、定電流スイッチ14Cを開閉操作する。そして、時刻t4において噴射指令信号がオンからオフに切り換わると、マイコン14Aは、定電流スイッチ14Cをオフに保持することで、電磁ソレノイド21への通電を停止する。これによる固定コア22の消磁に応じて、スプリング26の付勢力により可動コア24が固定コア22から離間する。そして、ニードル弁25が全閉位置に達すると、燃料噴射が停止される。
なお、同図では、時刻t3に、ニードル弁25が全開位置に達している。ニードル弁25は、可動コア24が固定コア22に突き当たることで全開に達するが、その突き当りの反動で、ニードル弁25にバウンス運動が発生する。そのため、ニードル弁25が全開に達した時刻t3の直後には、ノズルリフト量に脈動が生じる。こうした全開後のノズルリフト量の脈動の振幅や期間はその時々で変化する。一方、インジェクタINJ1〜INJ4からの単位時間当たりの燃料噴射量は、ノズルリフト量に相関して変化する。そのため、全開時のニードル弁25のバウンス運動は、燃料の噴射量精度を悪化させる要因となっている。
図3に、インジェクタINJ1〜INJ4の燃料噴射量およびそのばらつきと、電磁ソレノイド21への通電時間との関係を示す。同図において、「T0」は、ニードル弁25のリフトの開始に必要な通電時間であり、「Tpmax」は、同ニードル弁25の全開位置へのリフトに必要な通電時間である。T0〜Tpmaxの区間では、通電中のノズルリフト量が変化していくため、通電時間に対する燃料噴射量の変化率は比較的大きくなる。一方、Tpmax以降の区間では、ノズルリフト量が全開時の量に保持されるため、通電時間に対する燃料噴射量の変化率は比較的小さくなる。なお、以下の説明では、ニードル弁25が全開に至らないT0〜Tpmaxまでの通電時間の区間を「パーシャルリフト(P/L)区間」と記載する。そして、ニードル弁25が全開に至ったTpmax以降の通電時間の区間を「フルリフト(F/L)区間」と記載する。
通電開始からニードル弁25のリフト開始までの時間には、ある程度のばらつきがあり、そのばらつきがパーシャルリフト区間における燃料噴射量のばらつきの要因となる。ただし、そうしたパーシャルリフト区間における燃料噴射量のばらつきは、通電時間の増加に応じて減少する。一方、通電時間がフルリフト区間に入った直後には、上述したニードル弁25のバウンス運動の影響により、燃料噴射量のばらつきが一旦大きくなる。こうしたバウンス運動の影響は、通電時間の増大に応じて相対的に小さくなる。そのため、フルリフト区間に入った直後に一旦増加した燃料噴射量のばらつきは、通電時間の増大に応じて減少する。よって、Tpmaxよりも長い規定の時間(フルリフト噴射最小通電時間Tfmin)以上に電磁ソレノイド21の通電時間を設定して燃料噴射を行えば、燃料噴射量のばらつきを許容上限値以下に抑えることができる。
一方、上述したように、パーシャルリフト区間においても、フルリフト区間に入る直前の通電時間では、燃料噴射量のばらつきは比較的小さくなっている。よって、電磁ソレノイド21の通電時間を、規定の時間(パーシャルリフト最小通電時間Tpmin)以上、Tpmax未満の範囲に設定して燃料噴射を行っても、燃料噴射量のばらつきを許容上限値以下に抑えることができる。すなわち、こうした範囲に通電時間を設定しての、ニードル弁25が全開に至らない燃料噴射、いわゆるパーシャルリフト噴射を行えば、微量の燃料噴射を高精度で行うことが可能となる。本実施形態の燃料噴射制御装置では、こうしたパーシャルリフト噴射による微量の燃料噴射を必要に応じて行うようにしている。
続いて、本実施形態の燃料噴射制御装置での燃料噴射制御の詳細を説明する。
電子制御ユニット10は、規定の制御周期毎に、アクセルペダル踏込量ACCPなどから演算されたエンジンの要求トルクに応じて、その要求トルク分のトルクの発生に必要な燃料噴射量である要求噴射量Qを演算する。さらに電子制御ユニット10は、エンジン回転数NEやエンジン負荷等に応じて、その噴射を開始するクランク角の要求値である要求噴射開始時期TSを演算する。なお、この燃料噴射制御装置では、エンジンの運転状況によって、要求トルク分のトルクの発生に必要な燃料を複数回に分割して噴射するマルチ噴射を実行することがある。その場合には、電子制御ユニット10は、その複数回の噴射のそれぞれについて、要求噴射量Q、要求噴射開始時期TSを個別に演算する。そして、電子制御ユニット10は、その演算した要求噴射量Q、要求噴射開始時期TSに基づき噴射指令信号を生成する。噴射指令信号は、各噴射の要求噴射開始時期TSにオンとされ、その時点から要求噴射時間TAUの間オンに維持された後、オフとなるように生成される。
一方、上述したように、インジェクタINJ1〜INJ4の電磁ソレノイド21に対するコンデンサ16の放電は、噴射指令信号がオンとなったときに開始される。よって、この燃料噴射制御装置では、噴射指令信号を生成する電子制御ユニット10が、エンジンの運転状況に応じて設定された要求噴射開始時期TSにコンデンサ16の放電を開始するようにインジェクタINJ1〜INJ4の通電制御を行う通電制御部に相当する。
なお、この燃料噴射制御装置では、マルチ噴射の噴射形態の一つとして、吸気行程中の主噴射と、圧縮行程中の微量噴射との2回に分けた燃料噴射を行うことがある。この噴射形態では、必要な燃料の大部分を吸気行程中に噴射する一方、圧縮行程中の微量の燃料噴射により、点火プラグ近傍の燃料濃度が局所的に高い混合気を気筒内に形成することで、燃料の燃焼状態を改善する目的で行われる。ちなみに、このときの吸気行程中の主噴射はフルリフト噴射で行われ、圧縮行程中の微量の燃料噴射は、パーシャルリフト噴射で行われる。
図4に、上記のような噴射指令信号の生成に係る噴射指令ルーチンのフローチャートを示す。同ルーチンの処理は、エンジンの運転中に電子制御ユニット10によって、規定のクランク角毎に実行される。
本ルーチンの処理が開始されると、まずステップS100において、現在のエンジン回転数NE及び燃圧PFが読み込まれる。続いて、ステップS101において、現在から次の本ルーチンの実行時までの期間(以下、対象期間と記載する)に予定の各噴射の要求噴射開始時期TS、及び要求噴射量Qが読み込まれる。
続くステップS102では、対象期間に予定の各噴射について、エンジン回転数NE及び燃圧PFに基づき、要求噴射量Q分の燃料噴射に必要な電磁ソレノイド21の通電時間である要求噴射時間TAUが演算される。なお、要求噴射量Q分の噴射に必要な電磁ソレノイド21の通電時間が燃料噴射量のばらつきを許容上限値以下に抑えられない範囲、すなわちTpminを超え、且つフルリフト噴射最小通電時間Tfmin未満の範囲にある場合、要求噴射時間TAUは、フルリフト噴射最小通電時間Tfminに設定される。なお、以下の説明では、対象期間におけるi番目の噴射の要求噴射時間をTAU[i]、要求噴射開始時期TSをTS[i]と記載する(iは任意の自然数)。
続いて、ステップS103においてカウンタnの値を「1」にセットする。その後、ステップS111においてカウンタnの値が、対象期間の予定噴射回数となったと判定されるまで、ステップS104〜ステップS111の処理が繰り返し実行される。
ステップS104では、対象期間におけるn番目に噴射を行うインジェクタと、その次(n+1番目)に噴射を行うインジェクタとが異なる気筒のインジェクタであるか否かが判定される。ここで、それら2つの噴射を異なる気筒のインジェクタが行うのであれば(YES)、ステップS105に処理が進められ、同じインジェクタが行うのであれば(NO)、ステップS110に処理が進められる。
ステップS105に処理が進められると、そのステップS105において、対象期間におけるn番目の噴射、及びn+1番目の噴射のいずれかがパーシャルリフト噴射であるか否か判定される。具体的には、n番目の噴射の要求噴射時間TAU[n]、n+1番目の噴射の要求噴射時間TAU[n+1]のいずれかがTpmax未満であるか否かが判定される。ここで、n番目、n+1番目の噴射のいずれかがパーシャルリフト噴射であれば(YES)、ステップS106に処理が進められ、そうでなければ、すなわちn番目、n+1番目の噴射のいずれもがフルリフト噴射であれば(NO)、ステップS110に処理が進められる。
ステップS106に処理が進められると、そのステップS106において、n番目の噴射及びn+1番目の噴射の要求噴射開始時期TS[n],TS[n+1]の時間差ΔTが演算される。具体的には、時間差ΔTは、要求噴射開始時期TS[n],TS[n+1]のクランク角の差を求めるとともに、現在のエンジン回転数NEにおいてその差分のクランクシャフトの回転に要する時間を算出することで演算されている。
続くステップS107では、その時間差ΔTがコンデンサ16のフル充電時間TC未満であるか否かが判定される。フル充電時間TCは、コンデンサ16のフル充電に必要な時間、より詳しくは放電し切った状態からフル充電となるまでに必要なコンデンサ16の充電時間である。ここで、時間差ΔTがフル充電時間TC未満であれば(YES)、ステップS108に処理が進められ、時間差ΔTがフル充電時間TC以上であれば(NO)、ステップS110に処理が進められる。
ステップS108に処理が進められると、そのステップS108において、フル充電時間TCに対する時間差ΔTの差(=TC−ΔT)のクランク角換算値が補正量ΔTSの値として設定される。すなわち、現在のエンジン回転数NEにおける時間差ΔT分の時間でのクランクシャフトの回転角が演算され、その演算された値が補正量ΔTSの値として設定される。そして、続くステップS109において、対象期間におけるn+1番目の噴射の要求噴射開始時期TS[n+1]が、補正量ΔTS分遅角側に補正された後、ステップS110に処理が進められる。
ステップS110に処理が進められると、そのステップS110において、カウンタnの値に1が加算される。そして、次のステップS111において、カウンタnの値が対象期間の予定噴射回数となったか否かが判定される。ここで、カウンタnの値が対象期間の予定噴射回数と同じでなければ(NO)、ステップS104に処理が戻され、上記ステップS104〜ステップS110の処理が再び実行される。一方、カウンタnの値が対象期間の予定噴射回数と同じとなっていれば(YES)、ステップS112に処理が進められる。そして、そのステップS112において、対象期間の各噴射の対象期間の各噴射の要求噴射開始時期TS[1],TS[2]・・・、要求噴射時間TAU[1],TAU[2]・・・に応じて、各インジェクタINJ1〜INJ4の噴射指令信号の生成が行われた後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
以上の本ルーチンでは、対象期間に予定の各噴射について、その対象期間における次の噴射との要求噴射開始時期TSの時間差ΔTが演算される。そして、次の要件(イ)〜(ハ)のすべてを満たすか否かがそれぞれ判定され、それら要件(イ)〜(ハ)のすべてを満している場合、その噴射と次の噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがコンデンサ16のフル充電時間TCとなるように、次の噴射の要求噴射開始時期TSが遅角側に補正される。すなわち、本ルーチンでは、コンデンサ16を共有するインジェクタINJ1〜INJ4の2つによりそれぞれ行われるパーシャルリフト噴射及びフルリフト噴射について、それらの要求噴射開始時期TSの時間差ΔTを演算している。そして、その演算した時間差ΔTがコンデンサ16のフル充電時間TC未満のときに、上記パーシャルリフト噴射及びフルリフト噴射のいずれかの要求噴射開始時期TSを、時間差ΔTがより大きくなるように補正している。
(イ)対象期間におけるその噴射の次の噴射が、その噴射を行うインジェクタと異なる気筒のインジェクタにより行われるものであること。
(ロ)その噴射、又はその噴射の次の噴射のいずれかがパーシャルリフト噴射により行われること。
(ハ)その噴射の要求噴射開始時期TSと次の噴射の要求噴射開始時期TSとの時間差ΔTがコンデンサ16のフル充電時間TC未満であること。
続いて、本実施形態の燃料噴射制御装置の作用を説明する。
上述したように本実施形態の燃料噴射制御装置では、フルリフト噴射による吸気行程中の主噴射と、パーシャルリフト噴射による圧縮行程中の微量噴射とのマルチ噴射を行うことがある。そうした場合、ある気筒の吸気行程中におけるフルリフト噴射の要求噴射開始時期TSと、別の気筒の圧縮行程中におけるパーシャルリフト噴射の要求噴射開始時期TSと時間差が小さくなる。そのため、先の噴射の開始時の放電により充電電圧が低下したコンデンサ16を、後の噴射の開始時までに十分に充電できず、ニードル弁25の開弁が遅れて噴射量精度が悪化する虞がある。すなわち、このときのパーシャルリフト噴射及びフルリフト噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがコンデンサ16のフル充電時間TC未満の場合、両噴射のうちで後に開始される噴射では、その噴射開始時のコンデンサ16の充電電圧がフル充電時の値よりも低くなり、ニードル弁25の開弁に遅れが生じてしまう。なお、要求噴射時間TAUは、噴射開始時のコンデンサ16の充電電圧がフル充電時の値であることを前提に設定されている。そのため、噴射開始時のコンデンサ16の充電電圧がフル充電時の値よりも低くなると、噴射量精度が悪化してしまう。
ちなみに、マルチ噴射における単一のインジェクタによる複数回の燃料噴射は、コンデンサ16のフル充電時間TCよりも長い時間を置いて行うように設定されている。また、この燃料噴射制御装置においては、コンデンサ16の充電不足を招くまでの気筒間の燃料噴射開始時期の近接は、フルリフト噴射による吸気行程中の主噴射とパーシャルリフト噴射による圧縮行程中の微量噴射とのマルチ噴射を行う場合に限られている。
さて、本実施形態の燃料噴射制御装置では、電子制御ユニット10は、噴射指令信号の生成に当たり、その生成の対象期間における各噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTを演算している。そして、電子制御ユニット10は、対象期間にパーシャルリフト噴射とフルリフト噴射とが行われる場合、それらの要求噴射開始時期TSと時間差ΔTがコンデンサ16のフル充電時間TC未満であれば、時間差ΔTがより大きくなるように要求噴射開始時期TSを補正している。
図5には、インジェクタAのパーシャルリフト噴射の開始後にインジェクタBのフルリフト噴射が開始される場合の要求噴射開始時期TSの設定態様を示す。同図に実線で示すように、エンジン運転状況に応じて設定された両噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがフル充電時間TC未満のときには、同図に破線で示すように、それらの時間差ΔTがフル充電時間TCまで広がるように、インジェクタBのフルリフト噴射の要求噴射開始時期TSが遅角側に補正される。そのため、インジェクタBの噴射開始時にも、コンデンサ16の充電電圧はフル充電時の値に回復するようになる。
図6には、インジェクタAのフルリフト噴射の開始後にインジェクタBのパーシャルリフト噴射が開始される場合の要求噴射開始時期TSの設定態様を示す。同図に実線で示すように、エンジン運転状況に応じて設定された両噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがフル充電時間TC未満のときには、同図に破線で示すように、それらの時間差ΔTがフル充電時間TCまで広がるように、インジェクタBのパーシャルリフト噴射の要求噴射開始時期TSが遅角側に補正される。そのため、この場合にも、インジェクタBの噴射開始時にも、コンデンサ16の充電電圧はフル充電時の値に回復するようになる。
以上の本実施形態の燃料噴射制御装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施形態の燃料噴射制御装置では、コンデンサ16を共有するインジェクタINJ1〜INJ4のうちの2つによりそれぞれ行われるパーシャルリフト噴射及びフルリフト噴射について、それらの要求噴射開始時期TSの時間差ΔTが演算される。そして、その時間差ΔTがコンデンサ16のフル充電時間TC未満のときには、時間差ΔTがより大きくなるように、要求噴射開始時期TSが補正される。そのため、エンジンの運転状況に応じて設定された要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがフル充電時間TC未満となる場合にも、噴射開始時のコンデンサ16の充電不足が抑制されるようになる。したがって、噴射開始時のコンデンサ16の充電不足による噴射量精度の悪化を好適に抑制することができる。
(2)本実施形態の燃料噴射制御装置では、フルリフト噴射及びパーシャルリフト噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがコンデンサ16のフル充電時間TC未満のときに要求噴射開始時期TSの補正を行っている。そのため、コンデンサ16の充電不足による噴射量精度の悪化の虞がないときに要求噴射開始時期TSが不要に補正されることを回避することができる。
(3)本実施形態の燃料噴射制御装置では、上記場合の要求噴射時期の補正を、フルリフト噴射及びパーシャルリフト噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがコンデンサ16のフル充電時間TCとなるように行っている。そのため、コンデンサ16がフル充電の状態で噴射を開始できるように要求噴射開始時期TSの補正を行うことができる。
(第2実施形態)
次に、燃料噴射制御装置の第2実施形態を、図7〜図9を併せ参照して詳細に説明する。なお本実施形態及び後述の各実施形態にあって、上述の実施形態と共通する構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
噴射開始時のコンデンサ16の充電不足が噴射量精度に与える影響は、そもそもの噴射量が少ないパーシャルリフト噴射において相対的に大きくなるため、そもそもの噴射量が多いフルリフト噴射については、コンデンサ16の充電不足はある程度であれば許容できる場合がある。一方、エンジンの運転状況に応じて設定された時期から要求噴射開始時期TSを補正すると、場合によっては燃焼状態が悪化することがある。そこで、本実施形態の燃料噴射制御装置では、フルリフト噴射及びパーシャルリフト噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがコンデンサ16のフル充電時間TC未満のときにも、コンデンサ16の充電不足が生じる虞のある噴射がパーシャルリフト噴射の場合にのみ要求噴射開始時期TSの補正を行うようにしている。
図7に、こうした本実施形態の燃料噴射制御装置において実行される噴射指令ルーチンのフローチャートを示す。同ルーチンの処理は、エンジンの運転中に電子制御ユニット10によって、規定のクランク角毎に実行される。
本ルーチンの処理が開始されると、まずステップS200において、現在のエンジン回転数NE及び燃圧PFが読み込まれる。続いて、ステップS201において、現在から次の本ルーチンの実行時までの、噴射指令信号生成の対象期間に予定の各噴射の要求噴射開始時期TS、及び要求噴射量Qが読み込まれる。そして、続くステップS202では、対象期間に予定の各噴射について、エンジン回転数NE及び燃圧PFに基づき、要求噴射量Q分の燃料噴射に必要な電磁ソレノイド21の通電時間である要求噴射時間TAUが演算される。
続いて、ステップS203においてカウンタnの値を「1」にセットした後、ステップS211においてカウンタnの値が、対象期間の予定噴射回数となったと判定されるまで、ステップS204〜ステップS211の処理が繰り返し実行される。すなわち、ステップS204では、対象期間におけるn番目に噴射を行うインジェクタと、n+1番目に噴射を行うインジェクタとが異なる気筒のインジェクタであるか否かが判定される。ここで、それら2つの噴射を異なる気筒のインジェクタが行うのであれば(YES)、ステップS205に処理が進められ、同じインジェクタが行うのであれば(NO)、ステップS210に処理が進められる。
ステップS205に処理が進められると、そのステップS205において、対象期間におけるn+1番目の噴射がパーシャルリフト噴射であるか否か判定される。具体的には、n+1番目の噴射の要求噴射時間TAU[n+1]がTpmax未満であるか否かが判定される。ここで、n+1番目の噴射がパーシャルリフト噴射であれば(YES)、ステップS206に処理が進められ、そうでなければ、すなわちn+1番目の噴射がフルリフト噴射であれば(NO)、ステップS210に処理が進められる。
ステップS206に処理が進められると、そのステップS206において、n番目の噴射及びn+1番目の噴射の要求噴射開始時期TS[n],TS[n+1]の時間差ΔTが演算される。具体的には、要求噴射開始時期TS[n],TS[n+1]のクランク角の差を、エンジン回転数NEに応じて時間換算することで、時間差ΔTが演算される。
続くステップS207では、その時間差ΔTがコンデンサ16のフル充電時間TC未満であるか否かが判定される。ここで、時間差ΔTがフル充電時間TC未満であれば(YES)、ステップS208に処理が進められ、時間差ΔTがフル充電時間TC以上であれば(NO)、ステップS210に処理が進められる。
ステップS208に処理が進められると、そのステップS208において、フル充電時間TCに対する時間差ΔTの差(=TC−ΔT)のクランク角換算値が補正量ΔTSの値として設定される。そして、続くステップS209において、パーシャルリフト(P/L)噴射として行われる、対象期間におけるn+1番目の噴射の要求噴射開始時期TS[n+1]が、補正量ΔTS分遅角側に補正された後、ステップS210に処理が進められる。
ステップS210に処理が進められると、そのステップS210において、カウンタnの値に1が加算される。そして、次のステップS211において、カウンタnの値が対象期間の予定噴射回数となったか否かが判定される。ここで、カウンタnの値が対象期間の予定噴射回数と同じでなければ(NO)、ステップS204に処理が戻され、上記ステップS204〜ステップS210の処理が再び実行される。
一方、カウンタnの値が対象期間の予定噴射回数と同じとなっていれば(YES)、ステップS212に処理が進められる。そして、そのステップS212において、対象期間の各噴射の対象期間の各噴射の要求噴射開始時期TS[1],TS[2]・・・、要求噴射時間TAU[1],TAU[2]・・・に応じて、各インジェクタINJ1〜INJ4の噴射指令信号の生成が行われた後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
続いて、本実施形態の燃料噴射制御装置の作用を説明する。
図8には、インジェクタAのパーシャルリフト噴射の開始後にインジェクタBのフルリフト噴射が開始される場合の要求噴射開始時期TSの設定態様を示す。同図に実線で示すように、エンジン運転状況に応じて設定された両噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがフル充電時間TC未満となっている。このとき、コンデンサ16の充電不足が噴射量精度に影響する噴射はインジェクタBのフルリフト噴射となる。こうした場合、本実施形態の燃料噴射制御装置では、要求噴射開始時期TSの補正は行われない。そのため、インジェクタBのフルリフト噴射の開始時のコンデンサ16の充電電圧がフル充電時の値よりも低くなり、同噴射の噴射量精度がある程度悪化する。ただし、噴射量の多いフルリフト噴射では、精度悪化による噴射量のばらつきは相対的に小さいものとなるため、その悪化が燃焼状態に与える影響は比較的小さいものに留まる。
図9には、インジェクタAのフルリフト噴射の開始後にインジェクタBのパーシャルリフト噴射が開始される場合の要求噴射開始時期TSの設定態様を示す。同図に実線で示すように、エンジン運転状況に応じて設定された両噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがフル充電時間TC未満となっている。このとき、コンデンサ16の充電不足が噴射量精度に影響する噴射は、インジェクタBのパーシャルリフト噴射となる。噴射量の少ないパーシャルリフト噴射では、噴射開始時のコンデンサ16の充電不足による噴射量精度の悪化は相対的に大きいものとなる。その点、本実施形態の燃料噴射制御装置では、こうした場合には、フルリフト噴射及びパーシャルリフト噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがフル充電時間TCとなるように、インジェクタBのパーシャルリフト噴射の要求噴射時期が補正される。そのため、インジェクタBのパーシャルリフト噴射も、コンデンサ16の充電電圧がフル充電時の値となった状態で開始されるようになる。
以上説明した本実施形態の燃料噴射制御装置によれば、上記(1)〜(3)に記載の効果に加え、更に以下の効果を奏することができる。
(4)本実施形態の燃料噴射制御装置では、噴射開始時のコンデンサ16の充電不足が生じる虞のある噴射がパーシャルリフト噴射の場合にのみ要求噴射開始時期TSの補正が行われる。そのため、要求噴射開始時期TSの変更による燃焼の悪化の抑制と、噴射量精度の低下の抑制とを両立させることが可能となる。
(第3実施形態)
次に、燃料噴射制御装置の第3実施形態を、図10〜図12を併せ参照して詳細に説明する。
上述したような噴射開始時のコンデンサ16の充電不足を抑制するための要求噴射開始時期TSの補正を行えば、要求噴射開始時期TSが、エンジンの運転状況に応じた最適な時期からずれるため、燃焼状態の悪化を招く虞がある。ただし、パーシャルリフト噴射に比して噴射時間の長いフルリフト噴射では、要求噴射開始時期TSの補正が燃焼状態に与える影響は相対的に小さいものとなる。そこで、本実施形態の燃料噴射制御装置では、上記要求噴射開始時期TSの補正をフルリフト噴射のみに適用するように、すなわち、パーシャルリフト噴射の要求噴射開始時期TSを維持したまま、フルリフト噴射の要求噴射時期を補正するようにしている。
図10に、こうした本実施形態の燃料噴射制御装置において実行される噴射指令ルーチンのフローチャートを示す。同ルーチンの処理は、エンジンの運転中に電子制御ユニット10によって、規定のクランク角毎に実行される。
本ルーチンの処理が開始されると、まずステップS300において、現在のエンジン回転数NE及び燃圧PFが読み込まれる。続いて、ステップS301において、現在から次の本ルーチンの実行時までの、噴射指令信号生成の対象期間に予定の各噴射の要求噴射開始時期TS、及び要求噴射量Qが読み込まれる。そして、続くステップS302では、対象期間に予定の各噴射について、エンジン回転数NE及び燃圧PFに基づき、要求噴射量Q分の燃料噴射に必要な電磁ソレノイド21の通電時間である要求噴射時間TAUが演算される。
続いて、ステップS303においてカウンタnの値を「1」にセットした後、ステップS313においてカウンタnの値が、対象期間の予定噴射回数となったと判定されるまで、ステップS304〜ステップS312の処理が繰り返し実行される。すなわち、ステップS304では、対象期間におけるn番目に噴射を行うインジェクタと、n+1番目に噴射を行うインジェクタとが異なる気筒のインジェクタであるか否かが判定される。ここで、それら2つの噴射を異なる気筒のインジェクタが行うのであれば(YES)、ステップS305に処理が進められ、同じインジェクタが行うのであれば(NO)、ステップS312に処理が進められる。
ステップS305に処理が進められると、そのステップS305において、対象期間におけるn番目の噴射及びn+1番目の噴射の要求噴射開始時期TS[n],TS[n+1]の時間差ΔTが演算される。そして、続くステップS306において、その時間差ΔTがコンデンサ16のフル充電時間TC未満であるか否かが判定される。ここで、時間差ΔTがフル充電時間TC未満であれば(YES)、ステップS307に処理が進められ、時間差ΔTがフル充電時間TC以上であれば(NO)、ステップS312に処理が進められる。
ステップS307に処理が進められると、そのステップS307において、フル充電時間TCに対する時間差ΔTの差(=TC−ΔT)のクランク角換算値が補正量ΔTSの値として設定される。そして、ステップS308において、n番目の噴射がパーシャルリフト噴射か否かが判定される。具体的には、n番目の噴射の要求噴射時間TAU[n]がTpmax未満であるか否かが判定される。
ここで、n番目の噴射がパーシャルリフト噴射であれば(S308:YES)、ステップS309に処理が進められる。なお、本実施形態の燃料噴射制御装置では、パーシャルリフト噴射、フルリフト噴射のマルチ噴射が行われる場合において、パーシャルリフト噴射は各気筒の圧縮行程中に行われ、吸気行程中にはパーシャルリフト噴射が行われることはない。そのため、この場合には、n+1番目の噴射はフルリフト噴射となる。ステップS309に処理が進められると、そのステップS309において、フルリフト噴射として行われるn+1番目の噴射の要求噴射開始時期TS[n+1]が補正量ΔTS分遅角側に補正された後、ステップS312に処理が進められる。
一方、n番目の噴射がパーシャルリフト噴射でなければ(S307:NO)、ステップS310において、n+1番目の噴射がパーシャルリフト噴射か否かが判定される。具体的には、n+1番目の噴射の要求噴射時間TAU[n+1]がTpmax未満であるか否かが判定される。ここで、n+1番目の噴射がパーシャルリフト噴射であれば(YES)、ステップS311に処理が進められる。なお、この場合には、n番目の噴射はフルリフト噴射となる。ステップS311に処理が進められると、そのステップS311において、フルリフト噴射として行われるn番目の噴射の要求噴射開始時期TS[n]が補正量ΔTS分進角側に補正された後、ステップS312に処理が進められる。
これに対して、ステップS310において、n+1番目の噴射がパーシャルリフト噴射でないと判定されたときには、ステップS312に処理が進められる。なお、このときのn番目の噴射、n+1番目の噴射はいずれも、フルリフト噴射となる。
ステップS312に処理が進められると、そのステップS312において、カウンタnの値に1が加算される。そして、次のステップS313において、カウンタnの値が対象期間の予定噴射回数となったか否かが判定される。ここで、カウンタnの値が対象期間の予定噴射回数と同じでなければ(NO)、ステップS304に処理が戻され、上記ステップS304〜ステップS311の処理が再び実行される。一方、カウンタnの値が対象期間の予定噴射回数と同じとなっていれば(YES)、ステップS314に処理が進められる。そして、そのステップS314において、対象期間の各噴射の対象期間の各噴射の要求噴射開始時期TS[1],TS[2]・・・、要求噴射時間TAU[1],TAU[2]・・・に応じて、各インジェクタINJ1〜INJ4の噴射指令信号の生成が行われた後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
続いて、本実施形態の燃料噴射制御装置の作用を説明する。
図11には、インジェクタAのパーシャルリフト噴射の開始後にインジェクタBのフルリフト噴射が開始される場合の要求噴射開始時期TSの設定態様を示す。同図に実線で示すように、エンジン運転状況に応じて設定された両噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがフル充電時間TC未満となっている。このとき、本実施形態の燃料噴射制御装置では、同図に破線で示すように、インジェクタAのパーシャルリフト噴射の要求噴射開始時期TSを維持したまま、インジェクタBのフルリフト噴射の要求噴射開始時期TSが、フルリフト噴射及びパーシャルリフト噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがフル充電時間TCとなるように補正される。
図12には、インジェクタAのフルリフト噴射の開始後にインジェクタBのパーシャルリフト噴射が開始される場合の要求噴射開始時期TSの設定態様を示す。同図に実線で示すように、エンジン運転状況に応じて設定された両噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがフル充電時間TC未満となっている。このとき、本実施形態の燃料噴射制御装置では、同図に破線で示すように、インジェクタBのパーシャルリフト噴射の要求噴射開始時期TSを維持したまま、インジェクタAのフルリフト噴射の要求噴射開始時期TSが、フルリフト噴射及びパーシャルリフト噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがフル充電時間TCとなるように補正される。
以上説明した本実施形態の燃料噴射制御装置によれば、上記(1)〜(3)に記載の効果に加え、更に以下の効果を奏することができる。
(5)本実施形態の燃料噴射制御装置では、フルリフト噴射及びパーシャルリフト噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがコンデンサ16のフル充電時間TC未満のときには、パーシャルリフト噴射の要求噴射開始時期TSを維持したまま、それらの時間差ΔTがより大きくなるようにフルリフト噴射の要求噴射開始時期TSを補正している。そのため、要求噴射開始時期TSの補正は、要求噴射開始時期TSの変更が燃焼状態に与える影響がより小さいフルリフト噴射にのみ適用され、同影響がより大きいパーシャルリフト噴射には適用されないようになる。そのため、要求噴射開始時期TSの変更による燃焼の悪化の抑制と、噴射量精度の低下の抑制とを両立させることが可能となる。
(第4実施形態)
次に、燃料噴射制御装置の第4実施形態を、図13〜図15を併せ参照して詳細に説明する。
上述したように、噴射量の多いフルリフト噴射では、噴射量が少ないパーシャルリフト噴射よりも、噴射開始時のコンデンサ16の充電不足が噴射量精度に与える影響は小さくなる。また、噴射時間の長いフルリフト噴射では、噴射時間の短いパーシャルリフト噴射よりも、要求噴射開始時期TSの変更が燃焼状態に与える影響が小さくなる。そこで、本実施形態では、噴射開始時のコンデンサ16の充電不足が生じる場合においても、その噴射がパーシャルリフト噴射である場合にのみ、要求噴射開始時期TSの補正を行うと共に、その補正をフルリフト噴射の要求噴射開始時期TSにのみ適用するようにしている。
図13に、こうした本実施形態の燃料噴射制御装置において実行される噴射指令ルーチンのフローチャートを示す。同ルーチンの処理は、エンジンの運転中に電子制御ユニット10によって、規定のクランク角毎に実行される。
本ルーチンの処理が開始されると、まずステップS400において、現在のエンジン回転数NE及び燃圧PFが読み込まれる。続いて、ステップS401において、現在から次の本ルーチンの実行時までの、噴射指令信号生成の対象期間に予定の各噴射の要求噴射開始時期TS、及び要求噴射量Qが読み込まれる。そして、続くステップS402では、対象期間に予定の各噴射について、エンジン回転数NE及び燃圧PFに基づき、要求噴射量Q分の燃料噴射に必要な電磁ソレノイド21の通電時間である要求噴射時間TAUが演算される。
続いて、ステップS403においてカウンタnの値を「1」にセットした後、ステップS411においてカウンタnの値が、対象期間の予定噴射回数となったと判定されるまで、ステップS404〜ステップS411の処理が繰り返し実行される。すなわち、ステップS404では、対象期間におけるn番目に噴射を行うインジェクタと、n+1番目に噴射を行うインジェクタとが異なる気筒のインジェクタであるか否かが判定される。ここで、それら2つの噴射を異なる気筒のインジェクタが行うのであれば(YES)、ステップS405に処理が進められ、同じインジェクタが行うのであれば(NO)、ステップS410に処理が進められる。
ステップS405に処理が進められると、そのステップS405において、対象期間におけるn+1番目の噴射がパーシャルリフト噴射か否かが判定される。具体的には、n+1番目の噴射の要求噴射時間TAU[n+1]がTpmax未満であるか否かが判定される。ここで、n+1番目の噴射がパーシャルリフト噴射であれば(YES)、ステップS406に処理が進められる。このときのn番目の噴射は、フルリフト噴射となる。
一方、n+1番目の噴射がパーシャルリフト噴射でなければ(NO)、ステップS410に処理が進められる。この場合には、n番目、n+1番目の噴射がいずれもフルリフト噴射の場合と、n番目の噴射がパーシャルリフト噴射でn+1番目の噴射がフルリフト噴射の場合とが含まれる。
ステップS406に処理が進められると、対象期間におけるn番目の噴射及びn+1番目の噴射の要求噴射開始時期TS[n],TS[n+1]の時間差ΔTが演算される。そして、続くステップS407において、その時間差ΔTがコンデンサ16のフル充電時間TC未満であるか否かが判定される。ここで、時間差ΔTがフル充電時間TC未満であれば(YES)、ステップS408に処理が進められ、時間差ΔTがフル充電時間TC以上であれば(NO)、ステップS410に処理が進められる。
ステップS408に処理が進められると、そのステップS408において、フル充電時間TCに対する時間差ΔTの差(=TC−ΔT)のクランク角換算値が補正量ΔTSの値として設定される。そして、続くステップS409において、フルリフト噴射として行われるn番目の噴射の要求噴射開始時期TS[n]が補正量ΔTS分進角側に補正された後、ステップS410に処理が進められる。
ステップS410に処理が進められると、そのステップS410において、カウンタnの値に1が加算される。そして、次のステップS411において、カウンタnの値が対象期間の予定噴射回数となったか否かが判定される。ここで、カウンタnの値が対象期間の予定噴射回数と同じでなければ(NO)、ステップS404に処理が戻され、上記ステップS404〜ステップS409の処理が再び実行される。一方、カウンタnの値が対象期間の予定噴射回数と同じとなっていれば(YES)、ステップS412に処理が進められる。そして、そのステップS412において、対象期間の各噴射の要求噴射開始時期TS[1],TS[2]・・・、要求噴射時間TAU[1],TAU[2]・・・に応じて、各インジェクタINJ1〜INJ4の噴射指令信号の生成が行われた後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
続いて、本実施形態の燃料噴射制御装置の作用を説明する。
図14には、インジェクタAのパーシャルリフト噴射の開始後にインジェクタBのフルリフト噴射が開始される場合の要求噴射開始時期TSの設定態様を示す。同図に実線で示すように、エンジン運転状況に応じて設定された両噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがフル充電時間TC未満となっている。ただし、本実施形態の燃料噴射制御装置では、このときには、インジェクタAのパーシャルリフト噴射、インジェクタBのフルリフト噴射のいずれについても、要求噴射開始時期TSの補正は行わない。
図15には、インジェクタAのフルリフト噴射の開始後にインジェクタBのパーシャルリフト噴射が開始される場合の要求噴射開始時期TSの設定態様を示す。同図に実線で示すように、エンジン運転状況に応じて設定された両噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがフル充電時間TC未満となっている。このとき、本実施形態の燃料噴射制御装置では、同図に破線で示すように、インジェクタBのパーシャルリフト噴射の要求噴射開始時期TSを維持したまま、インジェクタAのフルリフト噴射の要求噴射開始時期TSが、それら要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがフル充電時間TCとなるように補正される。
以上説明した本実施形態の燃料噴射制御装置によれば、上記(1)〜(5)に記載の効果を奏することができる。
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・図4のステップS109や図7のステップS209における要求噴射開始時期TSの補正を、n番目の噴射の要求噴射開始時期TS[n]を補正量ΔTS分進角側に補正することで行うようにしてもよい。そうした場合にも、パーシャルリフト噴射及びフルリフト噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTをコンデンサ16のフル充電時間TCとして、噴射開始時のコンデンサ16の充電不足を回避することが可能である。
・図4のステップS109や図7のステップS209における要求噴射開始時期TSの補正を、n番目の噴射の要求噴射開始時期TS[n]を進角側に、n+1番目の噴射の要求噴射開始時期TS[n+1]を遅角側にそれぞれ補正することで行うようにしてもよい。そうした場合にも、それらの補正量の合計が、フル充電時間TCに対する時間差ΔTの差(=TC−ΔT)となるように行えば、パーシャルリフト噴射及びフルリフト噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTをコンデンサ16のフル充電時間TCとして、噴射開始時のコンデンサ16の充電不足を回避することが可能である。
・上記各実施形態では、パーシャルリフト噴射及びフルリフト噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがコンデンサ16のフル充電時間TCとなるように要求噴射開始時期TSの補正を行っていた。具体的には、図4のステップS108、図7のステップS208、図10のステップS307、及び図13のステップS408において、フル充電時間TCに対する時間差ΔTの差のクランク角換算値を補正量ΔTSに設定する。そして、図4のステップS109、図7のステップS209、図10のステップS309,S311、及び図13のステップS409において、要求噴射開始時期TSをその補正量ΔTS分補正するようにしていた。こうした補正量ΔTSの値の設定を、例えば固定値とするなど、別の態様で行うようにしてもよい。そうした場合、補正後のパーシャルリフト噴射及びフルリフト噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがフル充電時間TC未満となったり、フル充電時間TC以上となったりすることがある。補正後の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがフル充電時間TC未満であっても、時間差ΔTが補正前よりも大きくなっていれば、噴射開始時のコンデンサ16の充電不足がより少なくなるため、噴射量精度の悪化がある程度に抑えられる。また、補正後の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがフル充電時間TCを超える場合、必要以上に要求噴射開始時期TSが変更されることにはなるが、噴射開始時のコンデンサ16をフル充電の状態とすることができる。ちなみに、補正後の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTが常にフル充電時間TC以上となるように補正量ΔTSを設定すれば、噴射開始時のコンデンサ16が常時フル充電となるように要求噴射開始時期TSの補正を行うことが可能である。
・上記各実施形態では、パーシャルリフト噴射及びフルリフト噴射の要求噴射開始時期TSの時間差ΔTがコンデンサ16のフル充電時間TC未満のときに要求噴射開始時期TSの補正を行うようにしていた。噴射開始時のコンデンサ電圧がフル充電時の値よりも低い所定の電圧以上であれば噴射量精度を十分確保できる場合には、時間差ΔTが、フル充電時間TCよりも短い規定時間未満のときに要求噴射開始時期TSの補正を行うようにしてもよい。また、フル充電時間TCのばらつきを考慮して、時間差ΔTが、フル充電時間TCよりも長い規定時間未満のときに要求噴射開始時期TSの補正を行うようにしてもよい。
・上記各実施形態では、すべてのインジェクタINJ1〜INJ4が単一のコンデンサ16を共有するよう構成されていたが、複数のインジェクタにそれぞれ共有された複数のコンデンサを備える構成としてもよい。そうした場合、パーシャルリフト噴射及びフルリフト噴射の要求噴射開始時期TSの時間差が規定時間未満のときの要求噴射開始時期TSの補正を、それらの噴射を行う2つのインジェクタがコンデンサを共有するものである場合にのみ行い、それらの噴射を行う2つのインジェクタがコンデンサを共有するものでない場合には行わないようにするとよい。
・上記各実施形態の燃料噴射制御装置は、4気筒エンジンに適用されていたが、気筒数の異なるエンジンにも、同様に適用することができる。