図16は、空間分割多重伝送システムの概要を示す。
図16において、1は基地局装置、2は無線局装置、3は見通し波、4は安定反射波、5〜6はランダム多重反射波、7は構造物を示す。基地局装置1は、多数(例えば 100本以上)のアンテナ素子を備え、ビルの屋上や高い鉄塔の上など高所に設置される。無線局装置2も同様に、ビルの屋上、家屋の屋根の上、電信柱や鉄塔の上など高所に設置される。そのため、基地局装置1と無線局装置2との間は概ね見通し環境にある。基地局1と無線局2との間には、見通し波3のパスや大型の安定的な構造物7に反射する安定反射波4などに加え、地上付近の車や人などの移動体などに反射する多重反射波5〜6が混在する。ただし、指向性アンテナを用いる場合などは、地上付近の多重反射波5〜6は、見通し波3および安定反射波4などに比べて受信レベルが低くなる。
図17は、見通し環境および見通し外環境におけるインパルス応答を示す。
図17において、横軸は遅延時間、縦軸は各遅延波の受信レベルを表す。図17(a) に示す見通し外環境の場合、見通し区間の直接波成分は存在せず、様々な経路の多重反射波が数多く成分として存在し、各振幅および複素位相は時間と共にランダムに激しく変動する。
これに対し、図17(b) に示す見通し環境の場合、図16に示す見通し波3および安定反射波4のような安定パスはレベルが高い。一方、多重反射波5〜6などの時変動パスは、多重反射と経路長に伴う減衰により相対的にレベルが小さくなる。このようなチャネル情報を複数回取得して平均化した場合、安定パスの成分は振幅および複素位相共に毎回安定しているので、平均化されたチャネル情報からの変化は小さい。一方、時変動パスは複素空間上でランダムに合成され平均化されるため複素空間の原点付近に収束し、その結果として安定パス成分のみを効果的に抽出することが可能になる。
このようにして得られる平均化されたチャネル情報を基に、基地局装置1は送受信ウエイトを算出する。基地局装置1は、算出した送受信ウエイトを用いて多数のアンテナ素子で同位相合成を行うための指向性制御を行う。この送受信ウエイトを用いることで、基地局1は、指向性制御のターゲットとする通信相手の無線局装置への指向性利得をアンテナ本数Nの2乗倍に比例して高めることができる。また、ターゲット以外の無線局装置への与干渉の指向性利得はN倍に留まるため、相対的に希望信号と干渉信号との間には単純計算でN倍のギャップが生じる。結果的にSIR(Signal to Interference Ratio)の期待値は、10Log10(N)dBとなる。この期待値は、Nが100 の場合には20dBとなる。また、相関の小さな無線局装置を選択的に空間多重する場合には、さらにSIR特性の改善が期待され、より高い空間多重が実現できる。
ここで、これらの多数のアンテナを用いた指向性制御においては、その送受信ウエイトを算出するためにチャネル情報が必要になる。基地局装置が多数のアンテナ素子を備え、無線局側は1本ないしは少数のアンテナ素子を備えている場合、アップリンクでは例えば1シンボル分のチャネル推定用のトレーニング信号を送信することで、その信号を受信する多数の基地局アンテナとの間のMIMOチャネルを一括して取得可能であるが、ダウンリンクに関しては基地局アンテナ数分のチャネル推定用のトレーニング信号を送信するのが基本となる。しかし、アップリンクとダウンリンクのチャネルの対称性が確保できている場合には、例えば以下に示すインプリシット・フィードバック法と呼ばれる手法でアップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報を推定することが可能になる。
(一般的なインプリシット・フィードバック法)
図18は、インプリシット・フィードバック法の概要を示す。
図18において、301−1および301−2はアンテナ、302−1および302−2は切り替えスイッチ、303−1および303−2はハイパワーアンプ(HPA)、304−1および304−2はローノイズアンプ(LNA)を示す。便宜上、図中左側を基地局装置、右側を無線局装置とする。基地局装置および無線局装置は、信号の送受信に際してハイパワーアンプ303−1,303−2を介して送信し、ローノイズアンプ304−1,304−2を介して受信する。各アンプの位相・振幅の変化量は、ハイパワーアンプ303−1でATx1exp(iθTx1)、ハイパワーアンプ303−2でATx2exp(iθTx2)、ローノイズアンプ304−1でARx1exp(iθRx1)、ローノイズアンプ304−2でARx2exp(iθRx2)である。また、基地局装置と無線局装置の各アンテナ間のチャネル係数をhとおけば、ダウンリンクのチャネル情報hDLは式(1) で表される。
hDL=hATx1ARx2 exp i(θTx1+θRx2) …(1)
同様にアップリンクのチャネル情報hULは式(2) で表される。
hUL=hATx2ARx1 exp i(θTx2+θRx1) …(2)
ここで、基地局装置のアンテナに関するキャリブレーション係数CBSを式(3) 、無線局装置のアンテナに関するキャリブレーション係数CTEを式(4) で定義する。
CBS=ATx1 exp(iθTx1)/ARx1 exp(iθRx1) …(3)
CTE=ARx2 exp(iθRx2)/ATx2 exp(iθTx2) …(4)
アップリンクとダウンリンクのチャネル情報の間には、式(1) 〜式(4) から式(5) の関係が成り立つ。
hDL=CBS・CTE・hUL …(5)
ここでは送受信双方で1本のアンテナのみに限定したが、基地局装置のそれぞれのアンテナ素子に関するキャリブレーション係数、および無線局装置のそれぞれのアンテナ素子に関するキャリブレーション係数を用いると、MIMOチャネルに関してもこれを拡張することができる。例えばアップリンクのチャネル情報として、無線局装置の第jアンテナから基地局装置の第iアンテナへのチャネル情報をh
i,j 、無線局装置の第jアンテナのキャリブレーション係数をC
TE,j、基地局装置の第iアンテナのキャリブレーション係数をC
BS,iとすると、ダウンリンクのチャネル行列H
DLは、式(6) で表すことができる。
式(6) の右辺の左端の行列を無線局装置固有のキャリブレーション行列CTEと定義し、右端の行列を基地局装置固有のキャリブレーション行列CBSと定義し、さらにアップリンクのチャネル行列をHULと表すとする。ここで、基地局装置のアンテナ素子数はN、無線局装置のアンテナ素子数をMとする。この時、式(6) は式(5) の拡張の行列形式として、式(7) のように表すことができる。
HDL=CBS・HUL T・CTE …(7)
ここで、HUL T は行列HULの転置行列を表す。このように、基地局装置と無線局装置のキャリブレーション行列CBSおよびCTEが既知であれば、基地局装置はアップリンクのチャネル行列からダウンリンクのチャネル行列を推定することが可能になる。特に、無線局装置が1素子アンテナ(ないしは、複数素子で仮想的なひとつのビームを形成する場合も同様)の場合には、無線局装置のキャリブレーション係数CTEは単なる定数であり、送受信ウエイト形成には影響を与えないので、この係数を無視して処理をすることが可能になる。なお、現実的にはこのキャリブレーション係数の取得は、例えば工場出荷時に無線局装置として1素子の試験用局を用意し、その試験用局を介してHULとHDLのチャネル情報を取得し、その行列の関係からCBS,j・CTEが求まる。上述のようにCTEは単なる定数で意味はないが、この定数が全てのキャリブレーション係数に乗算されていても、実質的には何ら問題はない。
アップリンクのチャネルを推定する場合、無線局装置では1本のアンテナに対してひとつのチャネル推定用の信号を送信したとしても、受信側では同時にN本のアンテナに関するチャネル情報を同時に測定することが可能である。すなわち、大規模アンテナシステム(非特許文献1〜4)ないしはMassive MIMOシステムにおいても、基地局装置のアンテナ素子数の増加の影響を受けずにチャネルフィードバックを効率的に行うことが可能になる。
図19は、インプリシット・フィードバック法を用いたチャネル推定手順を示す。
図19において、処理を開始すると(S101)、まず着目する無線局装置と基地局装置の間のアップリンクのチャネル行列HUL (k) を取得し(S102)、さらに式(6) または式(7) に記載の基地局装置BSのキャリブレーション行列CBS (k) および無線局装置TEのキャリブレーション行列CTE (k) を取得し(S103)、式(6) または式(7) に従いダウンリンクのチャネル行列HDL (k) を算出し(S104)、処理を終了する(S105)。以上の説明では、各チャネル行列やキャリブレーション行列は周波数成分ごとに異なる値を持つのが一般的であり、周波数成分を明示的に記載した。本願明細書では一般に広帯域のシステムを想定し、キャリブレーションないしはインプリシット・フィードバックを含む各信号処理は広帯域の中に含まれる複数の周波数成分ごとに同様の処理を行うことになるが、これらの周波数成分についての表記は説明を煩雑にするために、以降の説明では特に断らない限り周波数成分ごとに関する記述を省略し、同様の処理を個別の周波数成分で実施するものとする。
以上がインプリシット・フィードバック法の概要であるが、この方式の適用においては2つの要求条件がある。第1の要求条件は、求めたいダウンリンクチャネルで用いる基地局送信アンテナと無線局受信アンテナの物理的な組み合わせと全く同じ組み合わせで、アップリンクのチャネル推定を行う必要があることである。第2の要求条件は、アップリンクのチャネル推定用のトレーニング信号を送信する際の周波数と、ダウンリンクで信号送信する際の周波数が同一であることである。すなわち、ダウンリンクで用いる周波数を用い、無線局受信アンテナと同一アンテナからアップリンクのチャネル推定用の信号を送信し、基地局送信アンテナと同一アンテナにてアップリンクのチャネル推定用の信号を受信する必要がある。しかるに、アップリンクとダウンリンクの双方向通信を実現するに当たり、同一周波数で時間をアップリンクとダウンリンクで時間を棲み分ける時分割複信(TDD:Time Division Duplex)を用いる場合には問題がないが、異なる周波数を用いる周波数分割複信(FDD:Frequency Division Duplex )の場合には、アップリンクとダウンリンクで周波数が異なり、システムによってはアンテナ自体も異なるものを利用する場合がある。
このような問題を回避するための従来技術としては、特許文献1において以下に示す技術が開示されている。この特許文献1では、前述の大規模アンテナシステムとの組み合わせでの利用を前提とし、ここでは特許文献2にて開示された技術として、通信相手となる無線局装置ごとに個別に、固定的な受信ウエイトおよび送信ウエイトを送受信信号に定常的に乗算するための回路および送受信ベースバンド信号の処理を行う回路を備えることを前提としている。以下にその技術の詳細を示す。
(FDDシステムにおけるインプリシット・フィードバック法)
基地局装置が空間多重伝送の対象とする無線局装置の数をNとし、基地局装置が備えるアンテナ素子の数をK(FDD方式の場合には送信アンテナ素子と受信アンテナ素子のペアの数をK組み)として説明する。
図20は、FDDシステムにおけるダウンリンクのチャネル情報推定例を示す。図20(a) は通常運用状態における無線信号の流れを示し、図20(b) はチャネル情報推定時の無線信号(トレーニング信号)の流れを示す。
FDD方式を用いる場合、図20(a) に示すように基地局装置500と端末装置700は、送信と受信とにおいて物理的に異なるアンテナ素子を利用する。さらに、アップリンクとダウンリンクとにおいて、基地局装置500と無線局装置700とは異なる周波数チャネルを用いて通信をする。
具体的には、通常通信時には図20(a) に示すように、アップリンクでは無線局装置700がアンテナ素子701tから周波数F1で送信した信号を、基地局装置500がアンテナ素子401r−1〜401r−Kで受信する。ダウンリンクでは、基地局装置500がアンテナ素子401t−1〜401t−Kから周波数F2で送信した信号を、無線局装置700がアンテナ素子701rで受信する。すなわち、図20(a) の下側の矢印(アップリンク)と上側の矢印(ダウンリンク)では、用いるアンテナ素子の組み合わせの違いから伝搬の物理的な経路も全く異なる上、周波数自体も異なる。このため、アップリンクのチャネル情報の推定結果からダウンリンクのチャネル情報の予測を高い精度で行うことは困難である。
そこで、FDD方式を用いた無線通信システムにおいてチャネル情報を取得するために、チャネル情報の推定時には図20(b) に示すように、無線局装置700は通常運用時に受信アンテナとして用いるアンテナ素子701rよりトレーニング信号を送信する。基地局装置500は、通常運用時に送信アンテナとして用いるアンテナ素子401t−1〜401t−Kを用いて、無線局装置700から送信されたトレーニング信号を受信し、受信したトレーニング信号に基づいてアップリンクのチャネル情報を取得する。すなわち、図20(b) の上側の矢印に示すアップリンクのチャネル情報の推定が可能な構成とする。基地局装置500は、周波数F2で受信したトレーニング信号を用いて得られたアップリンクのチャネル情報をもとに、このアップリンクのチャネル情報に対してキャリブレーション係数を乗算することにより、ダウンリンクのチャネル情報を推定する(図19)。
上述したとおり、FDD方式を用いて通信を行う場合、基地局装置および無線局装置において送信に用いるアンテナ素子と受信に用いるアンテナ素子とが異なるため、無線局装置から基地局装置へのアップリンクの伝送路と、基地局装置から無線局装置へのダウンリンクの伝送路とが異なりインプリシット・フィードバック法が成立しない。
そこで、通常運用時にダウンリンクで用いる、無線局装置の受信アンテナ素子と基地局装置との送信アンテナ素子とを使用してダウンリンクの周波数で、無線局装置から基地局装置へトレーニング信号を送信し、ダウンリンクで用いるアンテナの組み合わせおよび周波数でアップリンクのチャネル情報の推定を行い、得られたアップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報を推定することにより、この問題を解決することができる。
図21は、従来技術における基地局装置500の構成を示す。
図21において、基地局装置500は、FDD方式を用いて、複数の無線局装置と同一周波数上で同一時刻に空間分割多重伝送を行う。また、基地局装置500は、K本のアップリンク用のアンテナ素子401r−1〜401r−Kと、K本のダウンリンク用のアンテナ素子401t−1〜401t−Kと、K個の無線信号処理回路510−1〜510−Kと、N個の送受信信号処理部430−1〜430−Nと、送受信ウエイト算出部502と、通信制御回路503と、インタフェース部404とを備えている。以下、アンテナ素子401r−1〜401−Kの全体またはいずれか一つを示す場合にアンテナ素子401rという。同様に、アンテナ素子401t−1〜401t−Kの全体またはいずれか一つを示す場合にアンテナ素子401tという。また、無線信号処理回路510−1〜510−Kの全体またはいずれか一つを示す場合に無線信号処理回路510という。
アンテナ素子401r−i(i=1,2,…,K)とアンテナ素子401t−iとは対となっている。また、アンテナ素子401r−iとアンテナ素子401t−iは、無線信号処理回路510−iと一対一に対応付けて接続されている。
通信制御回路503は、無線信号処理回路510−1〜510−Kおよび送受信信号処理部430−1〜430−Nを制御する。
無線信号処理回路510は、接続されているアンテナ素子401rを介して受信した受信信号を無線周波数からアナログ・ベースバンドに周波数変換し、さらにA/D変換によりデジタル信号に変換して送受信信号処理部430−1〜430−Nに出力する。また、無線信号処理回路510は、送受信信号処理部430−1〜430−Nそれぞれから入力する各周波数成分のデジタル信号をD/A変換によりアナログ・ベースバンド信号にし、さらに無線周波数帯域のアナログ信号に周波数変換して、アンテナ素子401tを介して送信する。また、無線信号処理回路510は、通信制御回路503に接続されており、通信制御回路503から各種制御情報が入力される。例えば、フレームタイミングや送信および受信のシンボルタイミングに関する情報も通信制御回路503から無線信号処理回路510に入力され、このシンボルタイミングに従ってFFTやIFFTなどの信号処理を実施する。
送受信ウエイト算出部502には、アップリンク用の周波数を用いて無線局装置から送信されるアップリンクのトレーニング信号であってアンテナ素子401rで受信されるアップリンクのトレーニング信号が無線信号処理回路510から入力される。送受信ウエイト算出部502は、入力されたアップリンクのトレーニング信号を基に受信ウエイトを算出し、算出した受信ウエイトを記憶する。
また、送受信ウエイト算出部502には、ダウンリンク用の周波数を用いて無線局装置から送信され、アンテナ素子401tで受信されるアップリンクのトレーニング信号が無線信号処理回路510から入力される。送受信ウエイト算出部502は、入力されたダウンリンク用の周波数を用いて送信されたトレーニング信号を基に送信ウエイトを算出し、算出した送信ウエイトを記憶する。なお、送受信ウエイト算出部502は、ダウンリンク用の周波数を用いて伝送されたトレーニング信号からチャネル情報を算出する際にキャリブレーション処理を施してから送信ウエイトを算出する。
送受信ウエイト算出部502では、アンテナ素子401rで受信されたトレーニング信号に対応する長時間平均のチャネル情報から受信ウエイトを算出する。また、アンテナ素子401tで受信されたトレーニング信号に対応する長時間平均のチャネル情報を取得し、キャリブレーション係数を乗算してダウンリンクのチャネル情報を取得する。
図22は、基地局装置500の無線信号処理回路510の構成例を示す。
図22において、無線信号処理回路510は、ローノイズアンプ(LNA)412、ミキサ414、フィルタ415、A/D変換器416、FFT回路417、加算合成回路421、IFFT・GI付与回路422、D/A変換器423、ミキサ425、フィルタ426、ハイパワーアンプ(HPA)427、スイッチ(SW)521,531,541を備える。
ローカル発振器413とローカル発振器424は、無線信号処理回路510の外部に設けられている。ローカル発振器413は、基地局装置500が備える各無線信号処理回路510に対してアップリンク用の局部発振信号(周波数:F1)を供給する。ローカル発振器424は、基地局装置500が備える各無線信号処理回路510に対してダウンリンク用の局部発振信号(周波数: F2)を供給する。すなわち、ローカル発振器413とローカル発振器424とは、基地局装置500に1つずつ設けられており、各無線信号処理回路510に対して局部発振信号を供給する。これにより、各無線信号処理回路510には、同期したアップリンク用の局部発振信号と、同期したダウンリンク用の局部発振信号とが供給される。
スイッチ521,531は、無線局装置との通信を行う前にチャネル情報を取得するとき、またはチャネル情報を更新するために新たにチャネル情報を取得するときに、アンテナ素子401tとローノイズアンプ412とを接続する。この結果、ダウンリンク用のアンテナ素子401tで受信したトレーニング信号をローノイズアンプ412に出力する。それ以外では、スイッチ521はアンテナ素子401tとハイパワーアンプ427とを接続して、ハイパワーアンプ427で増幅された信号がアンテナ素子401tから送信されるようにし、同様にスイッチ531は、ローノイズアンプ412とアンテナ素子401rとを接続し、アンテナ素子401rで受信した信号をローノイズアンプ412にて増幅し、これをミキサ414へ出力する。なお、スイッチ521および531の制御は、通信制御回路503が行う。
無線信号処理回路510において、各送受信信号処理部430−1〜430−Nから送信すべきデジタル・ベースバンド信号が入力されると、加算合成回路421にて周波数成分ごとにデジタル・ベースバンド信号が加算合成される。加算合成で得られた信号は、IFFT・GI付与回路422で周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換され、さらにガードインターバルが付与される。このとき、必要に応じてシンボル間の波形整形などの処理が施される。ガードインターバルが付与された信号は、D/A変換器423にてアナログ信号に変換され、ミキサ425にてローカル発振器424より入力される局部発振信号(周波数: F2)が乗算され、ベースバンド帯の信号から無線周波数帯の信号に周波数変換される。さらに、無線周波数帯の信号は、フィルタ426で帯域外の信号を除去され、ハイパワーアンプ427で増幅され、スイッチ521を経由してアンテナ素子401tから送信される。
また、トレーニング信号以外の通常の信号を無線局装置から受信するときには、アンテナ素子401rで受信された受信信号は、ローノイズアンプ412に入力され、ローノイズアンプ412が微弱な受信信号を増幅する。増幅された受信信号は、ミキサ414にてローカル発振器413より入力される局部発振信号(周波数:F1)が乗算されることにより無線周波数帯からベースバンド帯の信号に変換され、帯域外の信号をフィルタ415で除去され、A/D変換器416にてデジタル・ベースバンド信号に変換される。このデジタル・ベースバンド信号は、更にガードインターバルが除去され、FFT回路417にて時間軸上の信号から周波数軸上の信号に変換され、各送受信信号処理部430−1〜430−Nに出力される。
一方、通用運用状態とは異なるチャネル情報推定時には、ダウンリンクのチャネル情報を推定するための受信信号を取得するために、無線信号処理回路510はアンテナ素子401tを介してトレーニング信号を受信する。このとき、通信制御回路503からの指示により、スイッチ521およびスイッチ531を介してアンテナ素子401tとローノイズアンプ412が接続される。また、スイッチ541はローカル発振器424をミキサ414に接続する。
アンテナ素子401tに受信されたトレーニング信号は、ローノイズアンプ412で増幅され、ミキサ414にてローカル発振器424からスイッチ541を介して入力される局部発振信号(周波数:F2)が乗算されることにより、無線周波数帯からベースバンド帯の信号に変換される。このベースバンド帯の信号は、帯域外の信号をフィルタ415により除去され、A/D変換器416にてデジタル・ベースバンド信号に変換される。デジタル・ベースバンド信号は、FFT回路417に入力され、FFT回路417では時間軸上の信号から周波数軸上の信号に変換される。この周波数軸上の信号は、送受信ウエイト算出部502に出力される。
無線信号処理回路510の特徴は、ダウンリンクのチャネル情報を推定するためのもとになるチャネル情報を取得するとき、ダウンリンク用のローカル発振器424が出力する局部発振信号(周波数:F2)を用いる点である。
各スイッチ521,531,541による接続の切り替えは、通信制御回路503の制御に基づいて行われる。通信制御回路503がスイッチ521,531,541を上述のように連動して切り替えることにより、ダウンリンクのチャネル情報を取得する処理と、アップリンクの受信処理とにおいてローノイズアンプ412からFFT回路417まで受信系統を共用化することができる。
図23は、無線局装置700の構成例を示す。
図23において、無線局装置700は、アンテナ素子701t,701r、通信制御装置710、MAC層処理回路720、送信信号処理回路730、受信信号処理回路740、インタフェース回路750、無線信号処理回路760を備える。無線局装置700はここでは図示されていない外部機器やネットワークとの間で、インタフェース回路750を介してデータの入出力を行う。
データがインタフェース回路750に入力された場合、MAC層処理回路720は必要なMAC層の処理を行い、ここでネットワーク上を流れる通常の信号に対し、基地局装置500と無線局装置700との間で送受信される信号のフォーマットに変換する。この信号は通信制御回路710の指示に従いMAC層処理回路720から送信信号処理回路730に入力される。送信信号処理回路730は入力された信号に対して所定の物理レイヤの処理を施す。無線信号処理回路760は、物理レイヤの処理が施された信号に対して所定の処理によりデジタル・ベースバンド信号を無線周波数帯のアナログ信号に変換し、アンテナ素子701tを介して信号送信する。
また、アンテナ素子701rにて受信した信号は、無線信号処理回路760にて所定の処理により無線周波数帯のアナログ信号からデジタル・ベースバンド信号に変換される。受信信号処理回路740はデジタル・ベースバンド信号に所定の物理レイヤの処理を施す。MAC層処理回路720は物理レイヤの処理が施された信号を無線回線上で送受信される信号のフォーマットから通常のネットワーク上で伝送される信号のフォーマットに変換し、インタフェース回路750を介して外部にデータ出力する。例えば各種のタイミング制御などの一連の送受信動作の基本制御は、通信制御回路710が指示をして制御を行う。
図24は、無線局装置700における無線信号処理回路760の構成例を示す。
図24において、無線信号処理回路760は、ローノイズアンプ(LNA)712、ローカル発振器713、ミキサ714、フィルタ715、A/D変換器716、FFT回路717、IFFT・GI付与回路722、D/A変換器723、ローカル発振器724、ミキサ725、フィルタ726,736、ハイパワーアンプ(HPA)727、スイッチ(SW)711,741,742,744,745を備える。
アップリンクとダウンリンクとで用いる周波数が異なるので、周波数変換に用いる局部発振信号が異なる。そのため、無線局装置700は、アップリンクにおける周波数変換に用いる局部発振信号を生成するローカル発振器724と、ダウンリンクにおける周波数変換に用いる局部発振信号を生成するローカル発振器713とを備えている。
基地局装置500と無線局装置700の間でデータ通信を行う通常運用時においては、アンテナ素子701rで受信された受信信号がスイッチ711を経由してローノイズアンプ712に入力される。ローノイズアンプ712からFFT回路717は、受信信号を各周波数成分のデジタル・ベースバンド信号に変換し、受信信号処理回路740に出力する。なお、無線周波数帯からベースバンド帯への周波数変換には、ローカル発振器713が生成した局部発振信号(周波数:F2)が用いられる。
一方、信号の送信時においては、IFFT・GI付与回路722には、基地局装置500に送信すべき信号が送信信号処理回路730から入力される。IFFT・GI付与回路722からハイパワーアンプ727は、送信すべき信号を無線周波数帯の信号に変換してアンテナ素子701tから送信する。なお、ベースバンド帯から無線周波数帯への周波数変換には、ローカル発振器724が生成した局部発振信号(周波数:F1)が用いられる。
これに対し、通常運用時とは異なるダウンリンクのチャネル情報を推定するためのもとになるチャネル情報を基地局装置が取得する際には、D/A変換器723には、基地局装置500がアップリンクのチャネル情報を取得するときに用いるトレーニング信号に対応したデジタル・ベースバンド信号がIFFT・GI付与回路722から入力される。D/A変換器723は、入力されたデジタル・ベースバンド信号をアナログ化してミキサ725に出力する。ミキサ725は、D/A変換器723から入力された信号に、ローカル発振器713が生成する局部発振信号(周波数:F2)を乗算して無線周波数帯の信号に周波数変換し、スイッチ745を介してフィルタ736に出力する。フィルタ736は、ミキサ725から入力された信号から、送信すべきチャネルの帯域外の信号を除去し、スイッチ742を介してハイパワーアンプ727に出力する。ハイパワーアンプ727は、フィルタ736から入力された信号を増幅し、スイッチ741およびスイッチ711を経由してアンテナ素子701rを介して送信する。
通常運用時(基地局装置500がダウンリンクおよびアップリンクのチャネル情報を推定するためのもとになるチャネル情報を取得するとき以外)において、スイッチ711は、アンテナ素子701rとローノイズアンプ712とを接続して、アンテナ素子701rで受信された受信信号をローノイズアンプ712に出力する。スイッチ741は、ハイパワーアンプ727とアンテナ素子701tとを接続して、ハイパワーアンプ727から出力された信号をアンテナ素子701tより送信する。これに対して通常運用時とは異なる基地局装置500がダウンリンクのチャネル情報を推定するためのもとになるチャネル情報を取得するときには、スイッチ741,711は、ハイパワーアンプ727とアンテナ素子701rとの接続に切り替えてアンテナ素子701rより信号送信を行う。
IFFT・GI付与回路722は、基地局装置500がダウンリンクのチャネル情報を取得するとき以外において、入力される信号を時間軸上の信号に変換し、さらにガードインターバルを付与してD/A変換器723に出力する。基地局装置500がダウンリンクのチャネル情報を取得するときには、IFFT・GI付与回路722は、チャネル推定用のトレーニング信号が入力され、トレーニング信号をガードインターバルを含まない時間軸上の信号に変換してD/A変換器723に出力する。
スイッチ711,741、スイッチ745,742、スイッチ744の出力先の動作の切り替えは、通信制御回路710の指示に従う。通常運用モードとは異なり基地局装置500がダウンリンクのチャネル情報を取得するタイミングを、通信制御回路710がいかなる方法で設定しても構わない。例えば、基地局装置500から受信する制御信号に基づいて行っても良い。無線局装置700がこの制御信号を基地局装置500から受信すると、その制御信号にて指示されたタイミングでチャネル推定用のトレーニング信号がIFFT・GI付与回路722に入力され、IFFT・GI付与回路722にてトレーニング信号が時間軸上の信号に変換され、この時間軸上の信号がD/A変換器723にてアナログ信号に変換され、ミキサ725、スイッチ745、フィルタ736、スイッチ742、ハイパワーアンプ727、スイッチ741およびスイッチ711を経由してアンテナ素子701rから送信される。
ダウンリンクのチャネル情報を推定するためのもとになるチャネル情報を基地局装置500が取得する場合において、アップコンバートには、ローカル発振器713が生成する局部発振信号(周波数:F2)が用いられる。なお、基地局装置500がダウンリンクのチャネル情報を推定するためのもとになるチャネル情報を取得することを示す制御信号を基地局装置500から無線局装置700に送信すること以外の手段を用いて、無線局装置700の各スイッチ711,741,744,745およびIFFT・GI付与回路722を制御するようにしてもよい。例えば、基地局装置500と無線局装置700とが通信を行う前のサービス開始前であれば、無線局装置700を設置する際に設置作業者が手作業でチャネル推定を開始させるトリガを与えてもよい。また、基地局装置500と無線局装置700との間で、通常のデータ通信を行う無線回線とは別の回線を用いて、ダウンリンクのチャネル情報を取得する制御を行うようにしてもよい。
このように、特許文献1における基地局装置では、チャネル情報を平均化して得られた推定値に基づいて算出した送信ウエイトおよび受信ウエイトを用いて定常的に送受信処理を行うことにより、基地局集中制御による各無線局装置に対する無線リソースの割り当て管理を行わずとも、各無線局装置との間で空間多重された伝送を行うことができる。さらに、通信の対象となる無線局装置ごとに、受信処理と送信処理とを行う処理部を基地局装置が個別に備えることで、各無線局装置との通信を独立かつ並行に行うことができる。これにより、各無線局装置が必要とする帯域を帯域要求用の制御情報などを用いて把握する必要がなくなり、余計な制御信号を送受信することによるオーバーヘッドを回避し、MACレイヤの効率を損なうことなく複数の無線局装置と空間多重伝送を行うことができる。
さらに、各無線局装置と基地局装置が個別のPoint-to-Point型の通信を並列で実施しながらも、空間多重数の上限が特性劣化に至らないように管理することで、安定的な通信を効率的に実現することが可能になる。
(無線における全二重通信について)
基地局装置と無線局装置の間のアップリンクおよびダウンリンクの双方向で通信する場合、一般には時間軸上で時分割でアップリンクとダウンリンクを棲み分けるTDDと、周波数軸の異なる周波数チャネルで済み分けるFDDが存在する。それぞれの利点は、例えばTDDの場合にはトラヒックに応じてアップリンクとダウンリンクの時間率の配分をダイナミックに変更することが可能であり、状況に応じた適応的な運用が可能である。しかし一方で、急を要する信号を送信すべき場合(リアルタイム性の高いアプリケーションのデータや再送要求信号などを含む制御信号)でも、アップリンクの時間帯ではダウンリンクの送信は行うことができない。一例として、再送制御を行う場合には、ダウンリンクで送信したデータに対するACK信号などの送信は早くても後続するアップリンクの時間帯であり、そこで再送の必要性を認識しても再送を実施できるのは早くても次のダウンリンクの時間帯になってからである。
このように、前述の大規模アンテナシステムとの組み合わせでの利用を前提とした特許文献1にて開示された技術であっても、アクセス制御にTDDを利用する場合には少なくともアップリンクとダウンリンクにより構成されるフレーム構成に起因した遅延時間が避けられない。すなわち、TDDは半二重通信に相当し、一方でFDDなどは全二重通信に相当する。一般には無線で全二重通信を行うためにはFDDを用いるのが一般的だが、例えば以下の構成で同一周波数チャネルを用いた全二重化通信も可能である。
図25は、無線における同一周波数チャネルを用いた全二重通信の概要を示す。
図25において、基地局装置101は、送信アンテナ103−1,104−1と受信アンテナ105−1を備える。無線局装置102は、送信アンテナ103−2,104−2と受信アンテナ105−2を備える。基地局装置101において、受信アンテナ105−1と送信アンテナ103−1との距離が利用する信号の波長λに設定され、受信アンテナ105−1と送信アンテナ104−1との距離が波長λの 1.5倍に設定されている。同様に無線局装置102において、受信アンテナ105−2と送信アンテナ103−2との距離が波長λに設定され、受信アンテナ105−2と送信アンテナ104−2との距離が波長λの 1.5倍に設定されている。
ここで重要な点は、2本の送信アンテナが受信アンテナに対して1/2波長ずれて設定されている点である。例えば基地局装置101において、2本の送信アンテナ103−1と104−1から全く同一の信号を送信すると、自らの受信アンテナ105−1で受信される信号は、それぞれの経路長がちょうど1/2波長ずれているために、それぞれが逆位相で入力されることになる。したがって、送信アンテナ103−1と104−1から送信された信号は受信アンテナ105−1までの距離が非常に近距離であるにも関わらず、アナログ信号上で相互にキャンセルし合うことになる。無線局装置102においても同様である。一方で相手局の受信アンテナで受信される際には、2本の送信アンテナの経路長のずれはランダムであり、さらにマルチパス環境により様々な反射波が合成されるため、統計的には2本アンテナ分の総送信電力の信号として信号が弱められることはない。したがって、同一周波数チャネルで基地局装置101から送信された信号が、無線局装置102では信号を送信しながらも正常に受信することが可能になる。また同様に、無線局装置102から送信された信号も、基地局装置101にて信号を送信しながらも正常に受信することが可能になる。この状況は基地局装置101と無線局装置102の位置関係が特別な関係である必要はないため、無線局装置102が複数となるPoint-to-Multipoint 型の通信であっても実現が可能である。
なお、このような無線における全二重通信においては、送信信号の受信側への漏れ込を抑制するため、3つのアプローチが考えられている。第1のアプローチは、上述のようにアナログの信号レベルでの送信信号の自局受信側へのループバックに伴う干渉低減のアプローチが適用される。想定するシステムや、以下の2つのアプローチとの兼ね合いになるが、一般的にはアナログ的な干渉低減は不完全な場合が多い。
第2のアプローチは、例えば非特許文献5に示されるように、指向性利得の高い送信アンテナおよび受信アンテナを横に並べ、電波伝搬的に送信アンテナからの信号が直接的に受信アンテナ側に漏れ込むことを低減するアプローチである。例えばPoint-to-Point型の通信のみを想定するのであれば、指向性利得を極端に高めてペンシルビーム状に狭いビーム幅で2局を対向させれば、途中の反射物による反射波の影響も含めて、ある程度までは送信信号の受信側への漏れ込を低減可能である。しかし、Point-to-Multipoint 型の通信の場合を想定すると、基地局はある程度の空間的な広がりの中に配置された複数の無線局と通信可能とするために、極端なビーム幅の絞り込みは困難であり、その結果として反射に伴う干渉信号が残留する。
第3のアプローチは、排除しきれない干渉信号をデジタル信号処理で除去するアプローチで対応する。これは、前述のマルチユーザMIMOや大規模アンテナシステムなどと同様に、アップリンクでの複数の信号系列の空間多重に加え、ダウンリンクの信号も一種の空間多重とみなすならば、受信アンテナに漏れこむ信号の抑圧もデジタル信号処理でキャンセルすることが可能であるという考え方に基づくものである。ただし、これらはあくまでも、最後のデジタル信号処理で除去する排除しきれない干渉信号が微弱なものであるという前提が必要となる。
(本発明の基本原理)
無線全二重通信を行う際には、上述のように3つのアプローチがあるが、図25に示したような無指向性アンテナを用いたアナログ的な干渉信号の抑圧法では、HPAから各アンテナ素子までのケーブルやコネクタなどにおいて無線信号の位相が微妙にずれた場合、受信アンテナにて受信される信号が完全に逆位相とはならずに残留干渉となるため、装置化する際の部品材料、ケーブル類の高度な品質管理が必要となる。一方、非特許文献5で示したような超高指向性アンテナを利用する電波伝搬的な干渉信号の低減法では、余計な反射波による送信系から受信系への干渉信号の流入を回避するために電波の放射方向を非常に狭い範囲に限定される。しかし、複数の無線局を同時に収容するPoint-to-Multipoint 型の通信を想定すれば、ある程度までは電波の放射方向を広げる必要があり、送信系から受信系に漏れこむ干渉信号の低減が難しくなる。
ここで、非特許文献1〜4などに記載の大規模アンテナシステムでは、 360度の全方位に分布した無線局装置の収容を想定したが、当然ながら収容する無線局装置が概ね特定の方向に集中している際にも利用可能である。例えば、直線的な道路の両側のビルの壁面等にアクセス系の無線基地局を設置する際に、そこまで光回線を新たに引くことは困難なケースがあり、そのような場合にはアクセス系の無線基地局までのエントランス回線の無線化が有効となる。その際には、エントランス基地局側には平面上に2次元的に指向性アンテナ(例えば平面パッチアンテナ)を配置し、カバーするエリアが 360度よりも十分小さなエリアに限定された形で大規模アンテナシステムを実現することになる。アクセス系の無線基地局側にはエントランス基地局側と通信する無線局(中継局)機能が実装され、この無線局も同様にひとつまたは複数の指向性アンテナを備え、エントランス基地局側に指向性を向けることになる。この無線局は通信相手がエントランス基地局のみに限定されるため、超高指向性のアンテナを利用することが可能であり、この場合には余計な反射波による送信系から受信系への干渉信号の流入を回避し易くなる。さらに、エントランス基地局が同時に10局の無線局と空間多重して同時並行的に通信を行う場合、宛先である10局分の合計の総送信電力は、1局に対してしか送信しない無線局側の送信電力の10倍になり、これは直接的に送信系から受信系への干渉信号の流入が期待値として10倍になることを意味する。このように、無線全二重通信をPoint-to-Multipoint 型の大規模アンテナシステムで活用する際には、Point-to-Point型の場合に比べて、エントランス基地局において条件的に厳しい状態で運用することが余儀なくされる。
そこで、本発明では、送信系の送信アンテナ素子群と受信系の受信アンテナ群を物理的に十分に離して設置する。通常、携帯電話などのセルラー系のシステムでは、最後のラスト1ホップのアクセス系の通信品質を確保するために、より低い周波数帯の割り当てをキャリア会社は希望する。したがって、周波数の低いマイクロ波帯などはアクセス系に割り当てられ、特に広帯域を必要とするエントランス系への周波数の割り当てを考えると、準ミリ波帯ないしはミリ波帯などの高周波数帯をエントランス系では利用することを想定しなければならない。周波数が高くなれば高くなるほど同軸ケーブル等での信号の伝送において損失が生じ、送信系と受信系の距離を離して設置する場合には、その間を無線周波数帯の信号を高価な低損失の同軸ケーブルで伝送する構成は信号の損失および経済性を考えた場合には効率的ではない。特に、送受信アンテナの素子数が膨大な大規模アンテナシステムなどでは、そのアンテナ素子1本1本に個別の無線信号を入力する必要があるため、アンテナ素子数分のケーブルを用いて分配するのは、膨大な数の高価な低損失の同軸ケーブルを長い距離に渡り引き回すことになり、これも低損失が要求されることに起因した太さや曲げ耐性に劣る点で物理的な制約となる。
本発明においては、ベースバンド信号処理からD/A変換およびA/D変換、さらにアップコンバートおよびダウンコンバートの無線周波数変換、信号増幅や帯域外信号除去のフィルタ等のいわゆるRF部などに、多数の送信アンテナ群を加えた送信系と、多数の受信アンテナ群を加えた受信系をそれぞれ物理的に分離した構成(少なくとも筐体が異なる)とし、各筐体間で交換される信号はデジタル信号とする。このデジタル信号は光ファイバないしは同軸ケーブル等で伝送可能であるが、高周波信号のような大きなケーブルロスは発生しない。さらに、アンテナ素子1本1本に対応した個別のケーブル(光ファイバないしは同軸ケーブル)を必要としないため、安価で経済的でかつ物理的な制約も少ない。
また、送信系と受信系を別筐体にして物理的に離して設置することにより、送信系と受信系の間で情報交換しなければならない情報を上記のケーブル上で伝送する必要が新たに生じるが、基本的にはここで生じる追加の情報とは一部の限定的な制御情報のみである。例えば、再送制御を行う場合には、受信系で受信した情報を基に再送要求用の信号を生成し、これを送信系から送信しなければならない。しかし、例えば1Gbit/sないしは10Gbit/s(またはそれ以上)が要求されるような無線エントランス回線と異なり、ACKないしNACKなどの制御情報の情報量は数桁以上少なく、光ファイバの他に同軸ケーブルを用いても信号の損失を意識することなく容易に10m単位で離れた場所に情報を伝達することが可能である。
なお、後述するように基地局装置の送信アンテナ群11から送信された信号が受信アンテナ群21にループバックする干渉信号をキャンセルするためには、そのためのレプリカ生成のために送信信号の情報を送信信号処理部13から受信信号処理部23に対して通知する必要があるが、光ファイバを用いる場合にはその通知による情報量の増加にも簡易に対応可能である。
図1は、本発明の基地局装置の基本構成例を示す。
図1において、11は送信アンテナ群、12は送信アンテナ群の各アンテナ素子、13は送信信号処理部、14は送信アンテナ群の各素子の最大指向性利得方向を示す矢印、15は送信側アナログ信号伝達信号線、16は送信側デジタル信号伝達信号線、21は受信アンテナ群、22は受信アンテナ群の各アンテナ素子、23は受信信号処理部、24は受信アンテナ群の各素子の最大指向性利得方向を示す矢印、25は受信側アナログ信号伝達信号線、26は受信側デジタル信号伝達信号線、30は制御部、31はネットワーク側光回線を表す。送信アンテナ群11と送信信号処理部13が1つの筐体に納められ、受信アンテナ群21と受信信号処理部23が1つの筐体に納められている場合は、送信側アナログ信号伝達信号線15および受信側アナログ信号伝達信号線25に相当する線は、ある程度の設置自由度をもつ同軸ケーブルのようなもの以外にも、導波管などを用いて実現することも可能となる。また、制御部30と送信信号処理部13と受信信号処理部23についても、図2(a) に示すようにそれぞれ個別の筐体に収納する他に、図2(b) および図2(c) に示すように、制御部30と送信信号処理部13、または制御部30と受信信号処理部23をそれぞれ1つの筐体に収納していてもよい。
重要な点は、送信アンテナ群11と送信信号処理部13は、送信側アナログ信号伝達信号線15の通過損失を抑えるために近距離または同一筐体に配置され、同様に受信アンテナ群21と受信信号処理部23も受信側アナログ信号伝達信号線25の通過損失を抑えるために近距離または同一筐体に配置され、一方で送信アンテナ群11と受信アンテナ群21が物理的に離れて設置されるため、結果的に送信信号処理部13と受信信号処理部23とが物理的に個別の筐体に分かれた独立の構成となっている点である。このため、送信信号処理部13と受信信号処理部23とが例えばローカル発振器などの構成要素を共用することが不可能になると共に、高周波の信号(ないしは大容量の情報)を相互に情報交換することが困難になっている。したがって、それぞれは基本的に独立に運用され、再送要求信号などに代表される僅かな制御情報のみを交換可能な構成となっている。
ちなみに、送信信号処理部13と受信信号処理部23と制御部30は、それぞれの間で相互に様々な信号を交換するに際し、その信号の終端的な機能を司るインタフェース部を一般的には内在する。ただし、図2(a) のように各部が独立している場合にはそのインタフェース部で信号を終端することになるが、図2(b) および図2(c) のように制御部30が送信信号処理部13または受信信号処理部23と同一筐体にある場合は、それらの間のインタフェース部は省略された構成となる場合がある。しかし、図2ではそのような僅かな差異を意識せず、基本的な機能部分のみを意識して同一の番号を付与して説明を行っている。
基地局装置の送信アンテナ群11と受信アンテナ群21の位置関係は、図1、図3に示すように、受信アンテナ群21と基地局装置の通信相手となる無線局装置のアンテナ素子18とを結ぶ直線方向で、受信アンテナ群21より前方x(m)の位置に送信アンテナ群11を配置し、さらに受信アンテナ群21とアンテナ素子18との間に形成される第一フレネルゾーンの範囲に送信アンテナ群11が入らないように、送信アンテナ群11をフレネル半径y(m)以上ずらした位置とする。
ここで、フレネル半径yは、受信アンテナ群21とアンテナ素子18とを結ぶ直線に送信アンテナ群11から垂線を下ろした位置を基準に、受信アンテナ群21との距離をx、アンテナ素子18との距離をz、信号波長をλとすると、次式のように定義される。
y=[(λ・x・z)/(x+z)] 1/2 …(8)
受信アンテナ群21を通信相手の無線局装置のアンテナ素子18から見たときの送信アンテナ群11と受信アンテナ群21の位置関係を図3(b) に示す。厳密には、送信アンテナ群11の筐体と受信アンテナ群21のアンテナ素子22との最短距離がフレネル半径yよりも大きくなればよい。ただし、xは3m以上(より安定性を高めるためには10m以上)であることが好ましい。
一例として、xを10m、zを 300m、周波数60GHzで波長を0.005 mとしたときに、フレネル半径yは 0.220mとなる。すなわち、通信相手の複数の無線局装置のアンテナ素子18が約 300mの範囲にあるときに、送信アンテナ群11を受信アンテナ群21より10m程度前方に配置し、かつ22cm程度ずれて配置すれば、送信アンテナ群11が受信アンテナ群21にとって第一フレネルゾーン内の障害物となることを回避することができる。なお、Point-to-Multipoint 型の通信の場合には、複数の無線局装置全てとの間でこの関係が満たされるように構成する。
ここで、送信アンテナ群11と受信アンテナ群21が横並びに配置されていた場合、例えば送信アンテナ群11の近傍1m程度の場所で反射した信号が受信アンテナ群21に入射したとする。この場合の経路長は往復なので約2mとなる。これに対し、図1でxが10mとなる配置の場合には、経路長は12mとなる。経路長は6倍なので、自由空間の2乗則で減衰すると仮定すれば、15.6dBほど信号を相対的に低減することが可能になる。さらに、送信アンテナ群11の各アンテナ素子12の偏波と受信アンテナ群21の各アンテナ素子22の偏波を異なる設定にすれば、反射により偏波面が回転することで完全に偏波間の漏れ込みをカットすることはできないが、ある程度の信号分離は可能となる。ここで10dB程度の分離度を確保できれば、約25dB程度の信号抑圧が可能になる。例えば 256素子のアンテナを送受信アンテナ群に実装する場合、1素子の場合に比べて 256倍の総送信電力となる可能性があるが、これは24.1dB増しに相当し、上述の25dBの信号抑圧でキャンセルすることができることに相当する。
LNAでのダイナミックレンジを考えた場合、例えば上述のように経路長12mで反射した信号(反射時に電力が3dB損失すると仮定)に対して 300m離れた無線局装置の信号との受信レベル差は、自由空間を想定しても約40dB程度に収まる。これは最悪値であって、実際の反射点は更に離れた点になる可能性が高く、希望信号は見通し波が支配的なのでフェージングのマージンは殆ど見込む必要が無く、LNAのダイナミックレンジが50〜60dBあれば、反射波によるLNAの飽和を回避しながら無線伝送を実現することは十分に可能となる。
以上、本発明の基地局装置の基本構成について説明したが、以下にさらに詳細な実施例について説明する。
(実施例1)
まず、アップリンクとダウンリンクの周波数チャネルを同一とする無線全二重通信への適用例を、図を用いて説明する。本発明の基地局装置は、基本的に図2に示す装置構成がとられ、送信信号処理部13と受信信号処理部23が物理的に異なる構成となる。
図4は、実施例1における送信信号処理部13の構成例を示す。
図4において、11は送信アンテナ群、12−1〜12−Kは送信アンテナ群の各アンテナ素子、13は送信信号処理部、68はローカル発振器、69は送信ウエイト算出・記憶回路、81−1〜81−Kは送信RF回路#1〜#K、82−1〜82−Kは加算回路#1〜#K、83−1〜83−Nは送信ウエイト乗算回路#1〜#N、84−1〜84−Nは送信信号処理回路#1〜#N、85−1〜85−Nは送信MAC層処理回路#1〜#N、86はインタフェース部を表す。
図1,2に示す制御部30から送信側デジタル信号伝達信号線16を介して送信信号が送信信号処理部13に入力すると、インタフェース部86では光または電気のデジタル信号を終端し、受信信号から送信データを取り出す。ここでの処理は、Ethernet(登録商標)フレームのようなパケットベースでの信号でも、所定のフレームに組まれた信号であっても構わず、一般的な有線での信号伝送の仕組みによるデジタル信号処理で対応する。ここで取得したデータのヘッダ領域や様々な制御情報などを参照し、無線回線にて転送すべきデータを選択し、その宛先情報を基に、宛先の無線局装置に対応した送信MAC層処理回路85−i(iは1〜N)に情報を入力する。送信MAC層処理回路85−iでMACレイヤの信号処理を施された信号は後続する送信信号処理回路84−iに入力され、ここで物理レイヤの信号処理を施す。ここではOFDMやSC−FDEなど様々な方式が適用可能であるが、送信ウエイトの乗算は周波数軸上での処理とするために、各周波数成分ごとの信号を送信信号処理回路84−iで生成する。一例としてOFDM変調方式を用いるのであれば、必要に応じて誤り訂正の符号化処理およびインタリーブ処理を行い、送信すべきビット列情報を各サブキャリアに対応させ、各サブキャリアごとに変調処理が施された信号をシンボルごとに生成し、これを後続する送信ウエイト乗算回路83−iに入力する。なお、送信すべき信号がなければ、各シンボルの各周波数成分の信号をゼロとして入力する。
送信ウエイト乗算回路83−iでは、前段の送信信号処理回路84−iからの信号にアンテナ素子ごとに異なる送信ウエイトを乗算し、これを送信ウエイトに対応する加算回路82−1〜82−Kに入力する。例えば、送信ウエイト乗算回路83−iは、アンテナ素子12−1に対応した送信ウエイトを乗算した信号を加算回路82−1に、アンテナ素子12−2に対応した送信ウエイトを乗算した信号を加算回路82−2に、アンテナ素子12−Kに対応した送信ウエイトを乗算した信号を加算回路82−Kに出力する。なお、以上の乗算は周波数成分ごとに個別に実施する。
加算回路82−1〜82−Kでは、前段の送信ウエイト乗算回路83−1〜83−Nより入力された信号を周波数成分ごとに個別に加算する。例えば、加算回路82−1では、各周波数成分ごとに送信ウエイト乗算回路83−1〜83−Nから入力された信号を加算し、N系統の信号を1系統に集約して送信RF回路81−1に入力する。送信RF回路81−1〜81−Kでは、それぞれ加算回路82−1〜82−Kから入力された各周波数成分のデジタル信号を、無線伝送で用いる無線周波数のアナログ信号に変換して出力する。通常はデジタル信号をアナログ・ベースバンド信号に変換し、さらにベースバンドから無線周波数の信号に周波数変換を行う。この無線周波数への周波数変換においては、ローカル発振器68から入力される信号を利用する。この処理の詳細は、図5を参照して改めて説明する。送信RF回路81−1〜81−Kから出力された無線周波数のアナログ信号は、それぞれ送信アンテナ群11の対応する各アンテナ素子12−1〜12−Kに出力され、無線信号として送信される。
なお、インタフェース部86で終端した際に、取得したデータのヘッダ領域や様々な制御情報などを参照し、例えば再送制御などを含む無線区間での各種制御情報である場合には、送信MAC層処理回路85で必要に応じて制御用の情報を収容した無線パケットを生成し、通常のデータと同様に送信信号処理回路84に出力し、以降の処理を行う。
また、送信RF回路81−1〜81−Kは、インプリシット・フィードバック手法で通信相手となる無線局ごとおよび周波数成分ごとにダウンリンクのチャネル情報を取得する機能を備え、この機能により取得したダウンリンクのチャネル情報を送信ウエイト算出・記憶回路69に出力する。送信ウエイト算出・記憶回路69は、全ての送信RF回路81−1〜81−Kから各周波数成分のチャネル情報を収集し、最終的に空間多重で用いる送信ウエイトを周波数成分ごとに算出して記憶する。送信ウエイト乗算回路83−1〜83−Nでは、送信ウエイト算出・記憶回路69から対応する無線局宛ての周波数成分ごとの送信ウエイト情報を取得し、これをもとに送信ウエイトの乗算を行う。ここで、送信ウエイトは大規模アンテナシステムではある程度固定的に設定されるが、送信ウエイトを逐次更新する構成とすることも可能である。
また、送信ウエイト乗算回路83−1〜83−Nで送信ウエイトが乗算された信号を、加算回路82−1〜82−Kで送信RF回路81−1〜81−Kごとの信号として加算合成した送信信号は、送信RF回路81−1〜81−Kに入力すると共に、インタフェース部86から制御部30を介して受信信号処理部23にも転送する。この送信信号は、後述するように基地局装置の送信アンテナ群11から送信された信号が受信アンテナ群21にループバックする干渉信号をキャンセルするためのレプリカ生成に利用される。
図5は、実施例1における送信信号処理部13の送信RF回路81の構成例を示す。
図5において、52はスイッチ、53はローノイズアンプ、54はミキサ、55はフィルタ、56はA/D変換器、57はFFT回路、58はチャネル推定回路、61はIFFT・GI付与回路、62はメモリ、63はD/A変換器、64はミキサ、65はフィルタ、66はハイパワーアンプ、67はスイッチ、68はローカル発振器、69は送信ウエイト算出・記憶回路を示す。送信RF回路81はアンテナ素子12ごとに存在するため、本来ならば「第iアンテナ素子に接続された・・・」との説明書きを加えて個別の回路について説明すべきだが、以降の一連の説明では説明の簡略化のために当該説明書きを省略し、番号にも添え字の子番号を付与せずに説明を行う。また、前述のように本発明はOFDMやSC−FDEなどの技術に適用可能であるが、一般的な汎用の同様の技術であるために、ここではOFDMの場合を例にとって説明を行う。
ここで、図4に示す送信信号処理部13において、アップリンクとダウンリンクで同一周波数チャネルを用いた全二重無線通信を行う上でのインプリシット・フィードバックを実現するために、送信RF回路81には、ローノイズアンプ53、ミキサ54、フィルタ55、A/D変換器56、FFT回路57で構成される受信系と、IFFT・GI付与回路61、メモリ62、D/A変換器63、ミキサ64、フィルタ65、ハイパワーアンプ66で構成される送信系を備えている。これらの送信系と受信系は、スイッチ52を介して分岐され、チャネル情報のフィードバック時には受信系を、通常運用時には送信系を利用することになる。
なお、ローカル発振器68は、図4に示すように全ての送信RF回路81で共通化されており、これにより各送信RF回路81の位相の不確定性が排除され、高精度な送信指向性制御が可能となる。
まず、送信系に関する説明を行う。図4の送信信号処理部13の加算回路82より入力された周波数成分ごとのデジタル信号は、IFFT・GI付与回路61にて時間軸上の信号に変換され、さらにガードインターバルが付与される。ガードインターバルが付与された時間軸のサンプリング信号はD/A変換器63に入力され、ここでデジタルサンプリング信号からアナログのベースバンド信号に変換する。このアナログのベースバンド信号はミキサ64に入力され、ここでスイッチ67を介してローカル発振器68から入力される信号と乗算され、無線周波数帯の信号にアップコンバートされる。さらにフィルタ65にて帯域外周波数成分を除去し、ハイパワーアンプ66にて信号増幅され、スイッチ52を介して送信アンテナ素子12へ出力される。ここで、通常運用時のスイッチ67は、「ローカル発振器68→スイッチ67→ミキサ64」の方向への信号導通となるように切り替わり、ローカル発振器68からの信号はミキサ64に出力される。同様に、通常運用時のスイッチ52は、「ハイパワーアンプ66→スイッチ52→送信アンテナ素子12」の方向への信号導通となるように切り替わり、ハイパワーアンプ66からの信号は送信アンテナ素子12に出力される
これに対し、無線局装置との間のチャネル情報のフィードバックを行う際には、送信アンテナ素子12で受信した信号はスイッチ52を介してローノイズアンプ53に入力され、ここで信号増幅が行われる。増幅された受信信号はミキサ54に入力され、ここでスイッチ67を介してローカル発振器68から入力される信号と乗算され、無線周波数帯の信号からベースバンド信号にダウンコンバートされる。さらにフィルタ55にて帯域外周波数成分を除去し、A/D変換器56にてデジタルのサンプリング信号に変換され、その時間軸の信号をFFT回路57にて各周波数成分の信号に分離される。なお、チャネル情報のフィードバックを行う際にガードインターバルを含まない連続信号をトレーニング信号として利用する場合には、各送信RF回路81で同期した任意のシンボルタイミングでFFTポイント数の周期で時間軸の信号をFFT回路57にて各周波数成分の信号に分離する。一方、チャネル情報のフィードバックを行う際にガードインターバルを含む通常のOFDMのトレーニング信号を利用する際には、FFTを実施するに当たってOFDMなどのシンボルタイミング検出が必要となるが、タイミング検出に関しては任意の手法を用いることが可能とし、必要に応じてFFT回路57内にその機能が実装されているものとし、ここでは説明を省略する。実際、非特許文献1〜4にて行うチャネル情報のフィードバックでは、特にシンボルタイミングの検出を行わずに処理が可能な構成となっている。このようにして周波数軸上の信号に変換したのち、チャネル推定回路58にてアップリンクのチャネル推定を行い、このアップリンクのチャネル情報を基に上述のキャリブレーション処理などによりダウンリンクのチャネル情報に変換し、送信ウエイト算出・記録回路69に出力する。送信ウエイト算出・記録回路69では、これらのチャネル情報を収集し記憶し、空間多重に必要なチャネル情報を全て取得後に、送信ウエイトを算出する。算出された送信ウエイトは送信ウエイト算出・記憶回路69内に記憶され、必要に応じて送信ウエイト乗算回路83に出力する。
なお、一般に同一周波数チャネルを用いた無線全二重通信を行う場合には、送信アンテナ群11から送信された信号が受信アンテナ群21にループバックし、無線局装置からのアップリンクの受信信号に対して干渉信号となるため、受信信号処理回路23においてキャンセルする処理が必要になる。当該干渉信号のキャンセルには、ループバックするチャネル情報を全ての送信側のアンテナ素子12と受信側のアンテナ素子22の組み合わせに対し取得する必要があり、そのためのチャネル情報取得のためのトレーニング信号を送信する必要がある。送信信号処理部13の送信RF回路81には、このためのトレーニング信号のサンプリングパターンを記憶するメモリ62が実装され、ループバックチャネル推定の必要に応じて、送信信号処理回路84から入力される信号の代わりに、このメモリ62から読み出したサンプリングパターンをIFFT・GI付与回路61を介してD/A変換器63に出力する。D/A変換器63以降の信号処理は、一般のデータ通信時の信号処理と同じである。なお、ループバックのチャネル情報を取得する際には、複数の送信RF回路81はひとつずつ順番に信号送信を行い、同一時刻に同一周波数成分を含むトレーニング信号が異なる送信アンテナ素子12より同時に送信されることはない。また、アップリンクにおけるチャネル推定と同様にループバックチャネル推定の場合にも、非特許文献1〜4にて行うチャネル情報のフィードバックと同様のガードインターバルを含まないトレーニング信号を用いることも可能であるが、この場合にはIFFT・GI付与回路61ではガードインターバルの付与は行わず、IFFT処理のみを行う構成としても構わない。
図6は、実施例1における受信信号処理部23の構成例を示す。
図6において、21は受信アンテナ群、22−1〜22−Kは受信アンテナ群の各アンテナ素子、23は受信信号処理部、79はローカル発振器、80は受信ウエイト算出・記憶回路、87は干渉信号レプリカ生成回路、91−1〜91−Kは受信RF回路#1〜#K、92−1〜92−Kは複製回路#1〜#K、93−1〜93−Nは受信ウエイト乗算回路#1〜#N、94−1〜94−Nは受信信号処理回路#1〜#N、95−1〜Nは受信MAC層処理回路#1〜#N、96はインタフェース部を示す。
まず、通常のデータ通信の場合においては、受信アンテナ群21の各アンテナ素子21−1〜21−Kで受信した信号は、それぞれ対応する受信RF回路に入力される。受信RF回路91−1〜91−Kでは、対応する各アンテナ素子21−1〜21−Kで受信した信号を増幅すると共に、無線周波数のアナログ信号から各周波数成分のデジタル・ベースバンド信号に変換する。ここでの処理の詳細は、図7を参照して改めて説明する。デジタル・ベースバンド信号は対応する複製回路92−1〜92−Kに入力され、ここで同一内容の信号に複製してそれぞれを受信ウエイト乗算回路93−1〜93−Nに入力する。受信ウエイト乗算回路93−1〜93−Nでは、受信ウエイト算出・記憶回路80から受信ウエイトが入力される他、干渉信号レプリカ生成回路87から干渉信号レプリカも入力される。
この干渉信号レプリカ生成回路87には、図4に示す送信信号処理部13の加算回路82−1〜82−Kから出力された送信信号が、送信信号処理部13のインタフェース部86、制御部30、受信信号処理部23のインタフェース部96を介して入力され、受信RF回路91−1〜91−Kからループバックリンクのチャネル情報が入力され、ループバックされた干渉信号をキャンセルするための干渉信号レプリカを生成して受信ウエイト乗算回路93−1〜93−Nへ出力される。
受信ウエイト乗算回路93−1〜93−Nでは、各複製回路92−1〜92−Kからのベクトル状の信号から、干渉信号レプリカ生成回路87から出力されるベクトル状の干渉信号レプリカを減算し、このベクトルの減算により得られた信号にベクトル状の受信ウエイトをベクトル乗算する処理を周波数成分ごとに実施する。ここでの処理は、基本的には実際に該当する無線局装置からの信号受信の有無に関係なく処理を実施する。そのベクトル乗算結果は対応する受信信号処理回路94−1〜94−Nに入力され、ここで受信信号処理を行う。ここでの受信信号処理とは、受信ウエイト乗算回路93−1〜93−Nから入力された一連の信号が所定のレベルの信号として認識された場合において一般的な信号処理を行い、逆に所定のレベルと判断されなかった場合には信号受信がなかったものとして処理を行わない。一般的な信号処理とは、例えばOFDMの場合であれば、一連の受信信号の先頭に付与されたトレーニング信号にてチャネル推定を行い、そのチャネル推定結果を基に各OFDMシンボルの各周波数成分の信号を除算し、その結果を基に信号検出処理を行う。一般的な無線通信では誤り訂正の符号化やインタリーブ処理などを送信側で実施するが、本発明実施例においても同様の誤り訂正処理が施されている場合には、信号検出を軟判定処理し、デインタリーブ処理の後に尤度情報などを基に誤り訂正を行い、送信データの再生を実施する。
再生されたデータは、対応する受信MAC層処理回路95−1〜95−Nに入力され、誤り検出符号により符号誤りの有無を判断し、符号誤りがなければ所定のMAC処理の後インタフェース部96から受信側デジタル信号伝達信号線26を介して制御部30へデータが転送される。受信MAC層処理回路95−1〜95−Nでは、例えば再送制御の機能が実装されている場合には、再生された送信データに付与されていたシーケンス番号の連続性を確認し、不連続となるシーケンス番号に相当する未受信のデータの再送を要求するための制御情報を生成し、この制御情報についてもインタフェース部96から制御部30へ転送される。この制御部30へ転送された制御情報は、制御部30にてその情報に付与されたヘッダ情報などの何らかの識別情報を基に判断され、必要に応じて送信信号処理部13に転送される。なお、再送制御が行われる場合には、受信MAC層処理回路95−1〜95−Nでは、データが受信MAC層処理回路95−1〜95−Nからインタフェース部96に出力される前に、シーケンス番号を参照して順番通りの出力となるようにデータの出力の順番の調整が行われる。
これに対し、データ通信の行われていないタイミングでのチャネル情報のフィードバックを行う際には、受信RF回路91−1〜91−Nでは各無線局装置との間のアップリンクのチャネル推定によりチャネル情報を取得し、このチャネル情報を受信ウエイト算出・記憶回路80へ出力し、受信ウエイト算出・記憶回路80ではこのチャネル情報を無線局ごとおよび周波数成分ごとに記憶する。受信ウエイト算出・記憶回路80では、無線局ごとのチャネル情報を一旦集約した後、これらのチャネル情報を基に空間多重を行う際の受信ウエイトを算出し、この受信ウエイトを記憶する。受信ウエイト乗算回路93−1〜93−Nでは、この受信ウエイト算出・記憶回路80より受信ウエイトを取得し、この受信ウエイトを定常的に乗算する。
また、チャネル情報のフィードバックを行う処理の中では、無線局装置と基地局装置のアンテナ素子間のチャネル情報を取得するフィードバック処理に加え、基地局装置の送信アンテナ群11の各アンテナ素子12から、基地局装置の受信アンテナ群21の各アンテナ素子22へループバックするチャネル情報も合わせて取得する。これは、送信信号処理部13の送信RF回路から出力したループバックのチャネル情報を取得するためのトレーニング信号を送信アンテナ群11から送信し、受信アンテナ群12が受信した信号に対して、受信RF回路91−1〜91−Nが行った各チャネル推定結果を干渉信号レプリカ生成回路87に入力し、この干渉信号レプリカ生成回路87にてループバックのチャネル情報を記憶する。このループバックのチャネル情報は、基地局装置の送信アンテナ群11側から送信された信号が無線局装置の送信信号に混在して受信される信号から、送信アンテナ群11側から送信された信号成分をキャンセルするための干渉信号レプリカの生成に用いる。
また、受信ウエイトやループバック行列は逐次更新する構成とすることも可能である。例えば忘却係数などを用いて徐々に受信ウエイトを更新する場合には、チャネル情報を忘却係数などを用いて更新し、この更新されたチャネル情報を基に受信ウエイト算出・記憶回路80にて更新されたチャネル情報に基づき受信ウエイトの更新処理を行うことになる。
図7は、実施例1における受信信号処理部23の受信RF回路91の構成例を示す。
図7において、71はローノイズアンプ、72はミキサ、73はフィルタ、74はA/D変換器、75はFFT回路、77はチャネル推定回路、79はローカル発振器、80は受信ウエイト記憶回路を示す。
まず最初に、通常のデータ通信の場合の信号処理について説明する。受信アンテナ素子22に受信した信号はローノイズアンプ71に入力され、ここで信号増幅が行われる。増幅された受信信号はミキサ72に入力され、ここでローカル発振器79から入力される信号と乗算され、無線周波数帯の信号からベースバンド信号にダウンコンバートされる。さらにフィルタ73にて帯域外周波数成分を除去し、A/D変換器74にてデジタルのサンプリング信号に変換され、その時間軸の信号をFFT回路75にて1シンボル分のサンプリング信号からガードインターバルを除去し、その後にFFTを実施することにより各周波数成分の信号に分離される。なお、FFTを実施するに当たってはOFDMなどのシンボルタイミング検出が必要となるが、タイミング検出に関しては任意の手法を用いることが可能とし、必要に応じてFFT回路75内にその機能が実装されているものとし、ここでは説明を省略する。FFT回路75で周波数成分に分離された信号は出力され、受信信号処理部23内の複製回路92に入力される。
一方、チャネル情報のフィードバック処理においては若干処理が異なる。チャネル情報のフィードバックにおいて、無線局装置からチャネル推定用の信号が送信されたとき、または基地局装置の送信信号処理部13よりチャネル推定用の信号が送信されたとき、それぞれFFT回路75にて周波数軸上の信号に変換された信号はチャネル推定回路77でチャネル推定を行い、推定されたアップリンクのチャネル情報は受信ウエイト算出・記憶回路80に出力され、ループバックのチャネル情報は干渉信号レプリカ生成回路87に出力される。以上が受信RF回路91の信号処理の内容である。
ここで、ローカル発振器79は、図6に示す受信信号処理部23の全ての受信RF回路91で共通化されており、これにより各受信RF回路91の位相の不確定性が排除され、受信指向性制御が可能となる。
ところで、無線局装置のアンテナは基地局装置に比べて少ない素子数で足りるため、必ずしも図1に示したような送信系と受信系を物理的に隔離した構成とする必然性はない。一般には無線局装置は小規模な筐体内に収まっていることが好ましいので、以下では一体化された構成例を示す。
図8は、本発明の基地局装置に対応する無線局装置の無線信号処理回路の構成例を示す。無線局装置に関しては、従来技術における図23および図24における無線信号処理回路760を、無線信号処理回路760bに置き換えることで、本発明の基地局装置に対応させることができる。
図8において、無線信号処理回路760bは、図24の無線信号処理回路760におけるローカル発振器713、スイッチ745、フィルタ736、スイッチ742、スイッチ744を省略し、ローカル発振器724からの信号をミキサ714およびミキサ725で乗算する構成である。スイッチ711およびスイッチ741の切り替えに関しては以下のとおりである。通常の通信状態における信号の送信に当たっては、スイッチ741はハイパワーアンプ272からの信号をアンテナ素子701tに出力し、逆に信号の受信に当たってスイッチ741は、アンテナ素子701rで受信した信号をローノイズアンプ712に出力する。一方、チャネル情報のフィードバックを行う際には、ハイパワーアンプ272からの信号がアンテナ素子701rから送信されるように、スイッチ741およびスイッチ711を切り替える。
以上の動作について、図20と対比する図9の構成により、インプリシット・フィードバックによるダウンリンクのチャネル情報を推定することになる。図20と図9の差分は次の通りである。基地局装置は、制御部30、送信信号処理部13、受信信号処理部23、送信アンテナ群11、受信アンテナ群21により構成される。同一周波数チャネルを用いる無線全二重通信とするために、図9(a) の基地局装置の送信アンテナ群11から無線局装置のアンテナ素子701rへの信号、および図9(b) の無線局装置のアンテナ素子701rから基地局装置の送信アンテナ群11への信号が、図20ではFDDに対応して周波数F2であったものを、図9では同一周波数チャネルを用いる無線全二重通信の場合に、その逆方向の信号と同じく周波数F1を用いる構成としている。このため、図8に示すように、図24の無線信号処理回路760における周波数チャネルF2に対応したフィルタ736が不要になり、この結果、フィルタ726とフィルタ736を切り替えるためのスイッチ745およびスイッチ742が不要となっている。同様にミキサ725への入力も、ローカル発振器713とローカル発振器724で切り替える必要が無く、スイッチ744が不要となっている。
また、図9(a),(b) で最も重要な図20との相違点は、基地局装置の送信アンテナ群11から送信された信号が、アップリンクとダウンリンクで同一周波数チャネルを用いるが故に、受信アンテナ群21にループバックするチャネルに関しても同様にチャネル推定する必要がある点である。図20(b) では、インプリシット・フィードバック法を用いてダウンリンクのチャネル推定を行うために、無線局装置700の本来は受信アンテナである701rからチャネル推定用のトレーニング信号を周波数F2で送信し、基地局装置500の本来は送信アンテナである送信アンテナ401t−1〜401t−Kにて信号受信を行いアップリンクのチャネル推定を行った。一方、本発明において同一周波数チャネルを用いる無線全二重通信を適用する場合においては、無線局装置700の本来は受信アンテナである701rからチャネル推定用のトレーニング信号を周波数F1で送信し、基地局装置の本来は送信アンテナである送信アンテナ群11にて信号受信を行いアップリンクのチャネル推定を行うことに加えて、送信アンテナ群11からチャネル推定用のトレーニング信号を送信し、これを受信アンテナ群21で受信することで、送信アンテナ群11と受信アンテナ群21の各アンテナ素子の全ての組み合わせに対するループバックのチャネル情報を取得する。このチャネル情報の取得に際しては、送信信号処理部13内の送信RF回路81−1〜81−Kの中からひとつずつが順番に、メモリ62に記憶されたトレーニング信号のサンプリングパターンを読み出し信号の送信を行う。送信信号処理部13からの信号の送信タイミングと受信信号処理部23でのトレーニング信号の受信タイミングは、制御部30を介して同期が図られているものとし、受信信号処理部23では全ての受信RF回路91が同時に信号受信およびチャネル推定を実施し、ループバックのMIMOチャネル行列を取得する。
(ループバックした干渉信号除去のための信号処理)
以上が本発明の実施例1の説明である。なお、上記の説明では詳細を省略した基地局装置の送信アンテナ群11から送信されて、受信アンテナ群21にループバックした干渉信号成分を除去する信号処理の詳細について以下に説明する。
まず、基地局装置の送信信号処理部13の送信RF回路81−iから出力された信号が送信アンテナ群11のアンテナ素子12−iから送信され、受信アンテナ群21のアンテナ素子22−jで受信されて受信RF回路91−jに入力された際のチャネル情報をb
j,i とすると、ループバックチャネル行列H
LBは以下のように定義される。
ここで、基地局装置と第nの無線局装置に対する送信ウエイト行列W
Txを以下のように定義する。
同様に、アップリンクでの受信ウエイトW
Rxを以下のように定義する。
この送信ウエイト行列、受信ウエイト行列は、如何なる方法で算出しても良い。例えば、マルチユーザMIMOで用いられるブロック対角化法やZF(Zero Forcing)法、MMSE(Minimum Mean Square Error )法などの、従来技術の如何なるものを用いても構わない。また、非特許文献1などで記載の大規模アンテナシステムと同様に、同位相合成のウエイトないしは最大比合成のウエイトを用いても構わない。
次に、基地局装置より第nの無線局装置に送信する信号をs
n とし、全無線局装置宛ての送信信号をベクトルとした送信信号ベクトルs
1 〜s
N に対し、送信ウエイトを乗算することで実際に送信アンテナ素子22−1〜22−Kより送信される信号ベクトルt
1 〜t
N は以下の式で表される。
このようにして、送信信号ベクトルがsの時、基地局装置の第i送信アンテナから送信される信号t
i が求まるが、この送信信号ベクトルtが送信されたとき、これらの信号がどこかで反射または回折してループバックする形で基地局装置の受信アンテナで受信される干渉信号ベクトルδr は以下の式で与えられる。
すなわち、第nの無線局装置から送信された信号と、基地局装置が送信してループバックした干渉信号が混在する形で基地局装置の第jアンテナで受信された信号r
j を第j成分とする場合、この受信信号に含まれる干渉信号δr
j をキャンセルすれば、基地局装置の第j受信アンテナの受信信号から純粋に各無線局装置から送信された信号を抽出することが可能であり、その信号に受信ウエイトを乗算すれば、干渉成分が抑圧された信号に変換することが可能になる。
ここで、rj の上に「^」が記された信号を便宜上「^rj 」と表記するが、これは干渉成分が抑圧された信号であり、いわばMIMO伝送からSISO伝送に信号処理により変換した信号となっており、このような手順で生成された^rj に対し、各受信信号処理回路94−iでは一般的な受信信号処理を行えば良い。例えば、受信した無線パケットの先頭領域のトレーニング信号等を基に周波数成分ごとにチャネル推定を行い、そのチャネル推定結果で^rj を除算するなどの所定の信号検出処理を行う。また、誤り訂正処理などの付随する各信号処理も、受信信号処理回路94−jでは実施される。なお、非特許文献3などでは、ヌル制御を伴わない同位相合成処理を採用する為、この信号処理でも残留する各無線局からの信号のクロストーク成分をさらに抑圧するための信号処理が提案されており、そのような追加の信号処理を実施することも当然可能である。
(実施例2、実施例3)
図10は、本発明の基地局装置の実施例2および実施例3の構成例を示す。ここに示す構成例は、図2に示す本発明の基地局装置の基本構成に対応させたものである。
本発明の基地局装置では、無線周波数信号が伝送される送信信号処理部13の送信RF回路81と送信アンテナ群11との間、および受信信号処理部23の受信RF回路91と受信アンテナ群21との間は近接させる必要がある。一方、物理的に離れている送信アンテナ群11と受信アンテナ群21に対応して送信信号処理部13と受信信号処理部23との間も物理的に離れるが、それぞれにおいてベースバンド信号を扱う部分は分離させて制御部30側に集約することが可能である。ただし、送信信号処理部13における送信ウエイト乗算回路83と加算回路82との間、受信信号処理部23における受信ウエイト乗算回路93と複製回路92との間は、アンテナ素子数に応じて配線数が膨大になるので、その間の分離は好ましくない。
実施例2では、図4に示す実施例1の送信信号処理部13において、デジタルベースバンド信号を扱う送信MAC層処理回路85、送信信号処理回路84、送信ウエイト乗算回路83、加算回路82および送信ウエイト算出・記憶回路69を制御部30側に移動し、残りの送信RF回路81およびローカル発振器68のみで送信信号処理部35aとする。さらに、図6に示す実施例1の受信信号処理部23において、デジタルベースバンド信号を扱う受信MAC層処理回路95、受信信号処理回路94、受信ウエイト乗算回路93、複製回路92、受信ウエイト算出・記憶回路80および干渉信号レプリカ生成回路87を制御部30側に移動し、残りの受信RF回路91およびローカル発振器79のみで受信信号処理部36aとする。一方、拡張制御部34aは、これら移動した各部と制御部30を含む構成とする。
図11は、実施例2における送信信号処理部35aおよび受信信号処理部36aの構成例を示す。
図11(a) において、送信信号処理部35aは、送信RF回路81−1〜81−K、ローカル発振器68、インタフェース部97を備える。図11(b) において、受信信号処理部36aは、受信RF回路91−1〜91−K、ローカル発振器79、インタフェース部98を備える。
図12は、実施例2における拡張制御部34aの構成例を示す。
図12において、拡張制御部34aは、送信MAC層処理回路85−1〜85−N、送信信号処理回路84−1〜84−N、送信ウエイト乗算回路83−1〜83−N、加算回路82−1〜82−K、送信ウエイト算出・記憶回路69、受信MAC層処理回路95−1〜95−N、受信信号処理回路94−1〜94−N、受信ウエイト乗算回路93−1〜93−N、複製回路92−1〜92−K、受信ウエイト算出・記憶回路80、干渉信号レプリカ生成回路87、インタフェース部99a、制御部30を備える。
拡張制御部34aのインタフェース部99aと送信信号処理部35aのインタフェース部97が接続され、インタフェース部99a,97を介して、拡張制御部34aの加算器82−1〜82−Kから送信信号処理部35aの送信RF回路81−1〜81−Kへ送信信号が集約して転送される。また、インタフェース部97,99aを介して、送信信号処理部35aの送信RF回路81−1〜81−Kから拡張制御部34aの送信ウエイト算出・記憶回路69へ、ダウンリンクのチャネル情報が集約して転送される。
拡張制御部34aのインタフェース部99aと受信信号処理部36aのインタフェース部98が接続され、インタフェース部98,99aを介して、受信信号処理部36aの受信RF回路91−1〜91−Kから拡張制御部34aの複製回路92−1〜92−Kへ受信信号が集約して転送される。また、インタフェース部98,99aを介して、受信信号処理部36aの受信RF回路91−1〜91−Kから拡張制御部34aの受信ウエイト算出・記憶回路80へアップリンクのチャネル情報が集約して転送され、さらに受信信号処理部36aの受信RF回路91−1〜91−Kから拡張制御部34aの干渉信号レプリカ生成回路87へループバックのチャネル情報が集約して転送される。また、干渉信号レプリカ生成回路87には、インタフェース部99aを介して加算器82−1〜82−Kからループバック干渉信号をキャンセルするための送信信号が転送される。
なお、図12の拡張制御部34aの制御部30は、図2の制御部30と基本的には等価である。例えば、図2(a) では制御部30と送信信号処理部13および受信信号処理部23の間では、相互に交換する信号を終端するためのインタフェース部を相互に備えているが、図12に示すように拡張制御部34aにまとめられる場合にはこのようなインタフェース部は省略可能であり、このインタフェース部の省略の有無を除けば、機能的には全く同じである。
実施例3では、図4に示す実施例1の送信信号処理部13において、図13に示すように、送信MAC層処理回路85のみを制御部30側に移動して送信信号処理部35bとする。図6に示す実施例1の受信信号処理部23において、図14に示すように、受信MAC層処理回路95のみを制御部30側に移動して受信信号処理部35bとする。
拡張制御部34bは、図15に示すように、送信MAC層処理回路85と、受信MAC層処理回路95と、インタフェース部99bと、制御部30を含む構成とする。
(実施例4)
以上説明した実施例1〜実施例3では、アップリンクとダウンリンクで同一周波数チャネルを用いる場合について説明したが、アップリンクとダウンリンクで異なる周波数チャネルを用いるFDDにおいても、本発明の基地局装置のように送信アンテナ群11と受信アンテナ群21を物理的に離して配置する構成は有効である。特に、強烈な反射波が送信側から受信側にループバックした際に、ローノイズアンプが飽和する可能性がある場合に本発明の構成は有効である。
その場合には、図4に示す送信信号処理部13のローカル発振器68と、図6に示す受信信号処理部23のローカル発振器79の周波数が異なることになるが、その他の構成は同様である。また、無線局装置は、図24に示す構成により対応可能である。
(各実施例に係る補足事項)
以下、各実施例に係る補足事項を説明する。
以上の説明においては、簡単のため周波数成分を表すk(例えば第kサブキャリア等)を省略したり、さらに個別の周波数成分に関する説明も省略されているところがあるが、本発明の想定するシステムは広帯域のシステムであり、チャネル情報や送受信ウエイト、さらには送信信号や受信信号などにおける全ての信号処理は全て周波数軸上で周波数成分ごとに個別に規定され処理されるべきものである。各信号処理回路の内部では、例えば送信側におけるIFFT処理の前段までの信号処理(ビット列のインタリーブ処理、信号点のマッピング、信号の変調処理、送信ウエイトの乗算など)は全て周波数成分ごとに行われるものであり、同様に受信側におけるFFT処理河野信号処理(受信ウエイトの乗算、信号検出処理、信号のデマッピング、デインタリーブ処理など)も全て周波数成分ごとに行われるものである。回路構成上は、それぞれの周波数成分ごとに個別の回路を備えても良いし、同一の処理を実施することから周波数成分ごとにシリアルに順番に処理を行い、回路を周波数成分に対して共用化することも可能である。さらに、この中間的に、複数の回路を用意して、周波数成分を適宜分割し、複数の回路でパラレルな処理をシリアルに実施する処理としても構わない。これらは全ての実施例に共通する。
また、本発明の基地局装置に対応する無線局装置では、送信アンテナおよび受信アンテナを1素子ずつ備える構成について説明したが、当然ながら複数素子を備えた構成であっても構わない。この場合、例えば基地局側からの送信ウエイトを形成する際には、ある無線局宛ての信号のアンテナ素子間の信号分離は不要であり、例えばブロック対角化法などの送信ウエイト生成法を用い異なる無線局間の信号分離ができていれば、同一無線局内の信号分離は無線局側の信号処理で対処することが可能である。
また、通常のデータ通信とチャネル情報のフィードバック(送信アンテナ群から受信アンテナ群へのループバックのチャネル情報取得を含む)のための各種処理は、基本的には独立に行われることになるが、これらの処理を行うための判断および処理の開始の指示、全体的な制御は制御部が管轄し、必要に応じて送信信号処理部、受信信号処理部に対して指示を行うとともに、処理開始のタイミング管理なども行う。上述の説明ではこのための指示の信号線などを全て明示的に示してはいないが、それぞれのインタフェース部から個別の回路に、タイミングやクロックなども含めて必要な信号線が存在しているものとする。
さらに、チャネル情報のフィードバックは非特許文献1〜4に記載の大規模アンテナシステムでは通常のデータ通信とは別のタイミング(例えばサービス運用開始前など)に行うものとしていたが、基地局装置と無線局装置の間の交わされる制御情報に記載の指示に従い、無線局が空間多重なしの状態でチャネル推定用のトレーニング信号を送信すれば、そのトレーニング信号を用いて送信信号処理部および受信信号処理部にてチャネル情報を取得することも可能である。この際、ダウンリンクのチャネル情報を取得するためには、無線局側は通常の送信アンテナではなく、チャネル情報のフィードバックの際と同様に、通常の受信アンテナ側からトレーニング信号を送信することになる。