JP6288815B2 - 肺炎等を治療するための医薬組成物 - Google Patents

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本発明は、肺炎および/または肺線維症を予防および/または治療するための化合物、ならびに該化合物を含む医薬組成物に関する。
肺の炎症性疾患である肺炎(pneumonia)の病変の形態で分類されるものの1つに、間質性肺炎(interstitial pneumonia, IP)が挙げられる。間質性肺炎(IP)とは、肺の間質組織に炎症を生じる、治療の困難な難病であり、これが進行すると、炎症組織が線維化して肺線維症を惹き起こすことになる。間質性肺炎(IP)のうち、ウイルス感染や薬物中毒などの明確な原因をもたないものを特発性間質性肺炎(Idiopathic Interstitial Pneumonitis, IIP)というが、病理学的に特発性間質性肺炎(IIP)は、通常型間質性肺炎(Usual Interstitial Pneumonia, UIP)等を含む7種に分類されている。通常型間質性肺炎(UIP)は、線維芽細胞や筋線維芽細胞が凝集している領域(Fibroblastic foci)が認められ、肺間質に過剰なコラーゲンや細胞外マトリックスが蓄積し、蜂巣肺を呈する慢性疾患である。通常型間質性肺炎(UIP)は、正常肺組織の間に線維化病変が空間的および時間的な不均一性(heterogeneity)を呈するのが最大の特徴である。特発性間質性肺炎(IIP)のうち、線維化が進み、拘束性換気障害をきたすことを特徴とするものを特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis, IPF)といい、病理学的に通常型間質性肺炎(UIP)の特徴を有する原因不明の肺疾患である。特発性肺線維症(IPF)は、日本では特定疾患として指定されており、特発性間質性肺炎(IIP)の中で最も発症頻度が高いとされている。
特発性肺線維症(IPF)の治療には、間質における炎症抑制のためにステロイド、コルヒチン、シクロスポリンA投与やエンドセリン受容体拮抗薬であるボセンタン、TNF受容体阻害薬であるエタネルセプトなどの投与が行われているが、ごく一部のIPF患者にしか効果が認められない。また、IPFは予後不良の疾患であり、診断から平均3年から5年で死に至る場合が多い。肺移植の適応となる症例もあり、現在まで有効な治療法はない。
肺胞は主にI型肺胞上皮細胞、II型肺胞上皮細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞で構成され、肺胞表面の大部分をI型肺胞上皮細胞が占めている。II型肺胞上皮細胞はI型肺胞上皮細胞の間に散在している。II型肺胞上皮細胞は補充細胞(reserve cell)と考えられており、肺胞傷害すなわちI型肺胞上皮細胞傷害が生じると、II型肺胞上皮細胞が増殖し、I型肺胞上皮細胞に形態を変え修復が行われる。肺線維症では組織修復が繰り返されるため、II型肺胞上皮細胞の過形成を来たす。これまでI型細胞上皮細胞の傷害について多くの研究がなされてきたところ(非特許文献1)、期待通りの成果は上がっていない。
Idiopathic interstitial pneumonias: Primum movens: epithelial, endothelial or whatever. Calabrese F, Giacometti C, Rea F, Loy M, Valente M. Sarcoidosis Vasc Diffuse Lung Dis. 2005 Dec;22 Suppl 1:S15-23. Review.
したがって本発明の課題は、これまでの医薬組成物では解決し得ない特発性肺線維症(IPF)をも含む肺線維症の原因となる肺炎を予防および/もしくは治療するための、および/または特発性肺線維症(IPF)をも含む肺線維症を予防および/もしくは治療するための医薬組成物を提供することにある。
IPFは肺胞組織への持続的な刺激により、組織傷害と組織修復とを繰り返す結果、異常な炎症反応や線維化を引き起こすと考えられるところ、IPFの肺胞内においてシアリダーゼ活性が上昇するとの報告(C.R. Lambre et al., Clin. exp. Immunol. 73: 230-235, 1988)や、肺胞を構成する細胞の一つのII型肺胞上皮細胞がシアリダーゼにより傷害を受ける可能性があるとの報告はあるものの(本田孝行、信州医誌、47(6): 481-488, 1999)、シアリダーゼと肺線維症との関係については何ら報告がない。
そのような中、本発明者らは前記課題を解決するために鋭意研究を続ける中で、肺線維症の進行にシアリダーゼが関与している可能性に着目し、抗インフルエンザ薬として知られるインフルエンザウイルスシアリダーゼ阻害活性を有する化合物について、間質性肺炎モデルラットを用いた試験を行ったところ、意外にも、肺炎および肺線維症の治療および予防効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1] シアリダーゼ阻害活性を有する化合物を含む、肺炎および/または肺線維症を予防および/または治療するための医薬組成物。
[2] シアリダーゼ阻害活性を有する化合物が、哺乳類シアリダーゼ阻害活性を有する、[1]に記載の医薬組成物。
[3] シアリダーゼ阻害活性を有する化合物が、ウイルスシアリダーゼ阻害活性および/または細菌シアリダーゼ阻害活性を有する、[2]に記載の医薬組成物。
[4] 哺乳類シアリダーゼ阻害活性が、ヒトシアリダーゼ阻害活性である、[2]または[3]に記載の医薬組成物。
[5] シアリダーゼ阻害活性を有する化合物が、ペラミビル、オセルタミビル、ザナミビルおよびラニナミビルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、[1]〜[4]のいずれかに記載の医薬組成物。
[6] 肺炎が、間質性肺炎である、[1]〜[5]のいずれかに記載の医薬組成物。
[7] 肺炎が、II型肺胞上皮細胞の傷害に起因する肺炎である、[1]〜[6]のいずれかに記載の医薬組成物。
[8] ペラミビルおよび/またはラニナミビルを含む、哺乳類シアリダーゼ阻害剤。
[9]シアリダーゼ阻害活性を有する化合物を用いる、肺炎および/または肺線維症を予防および/または治療するための方法。
[10]シアリダーゼ阻害活性を有する化合物が、哺乳類シアリダーゼ阻害活性を有する化合物である、[9]に記載の方法。
[11]シアリダーゼ阻害活性を有する化合物が、ウイルスシアリダーゼ阻害活性および/または細菌シアリダーゼ阻害活性を有する化合物である、[10]に記載の方法。
[12]哺乳類シアリダーゼ阻害活性が、ヒトシアリダーゼ阻害活性である、[10]または[11]に記載の方法。
[13]シアリダーゼ阻害活性を有する化合物が、ペラミビル、オセルタミビル、ザナミビルおよびラニナミビルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、[9]〜[12]のいずれかに記載の方法。
[14]肺炎が、間質性肺炎である、[9]〜[13]のいずれかに記載の方法。
[15]肺炎が、II型肺胞上皮細胞の傷害に起因する肺炎である、[9]〜[14]のいずれかに記載の方法
本発明によれば、肺炎の治療および/または予防、ならびに/あるいは、肺線維症の予防および/もしくは治療に有用な化合物、ならびにこれを含む医薬製剤を提供することができる。
本発明によれば、好ましくは特発性線維症を予防および/もしくは治療するのに有用な化合物、およびこれを含む医薬製剤を提供することができる。
本発明によれば、好ましくはII型肺胞上皮細胞を傷害から防御するのに有用な化合物、およびこれを含む医薬製剤を提供することができる。
本発明によれば、好ましくはシアリダーゼの上昇に起因する疾患の治療および/または予防に有用な化合物、およびこれを含む医薬製剤を提供することができる。
本発明によれば、ウイルスシアリダーゼ阻害活性を示し、肺炎および肺線維症の治療および予防効果を有する化合物、およびこれを含む組成物を提供することができる。
肺炎・肺線維症を予防および/または治療する作用機序については必ずしも明らかではない。
比較的古い論文である、C.R. Lambre et al., Clin. exp. Immunol. 73: 230-235, 1988には、特発性間質性肺炎の肺胞内においてシアリダーゼ活性が上昇する旨記載され、IPFとシアリダーゼとの関係が示唆されているともいえるが、ここではシアリダーゼ阻害剤によるIPFの予防、治療について何ら言及されておらず、ましてその作用機序については何ら詳らかにされていない。事実、本発明者らは、同文献に記載の方法を追試すべく、同様の方法にて細気管支肺胞洗浄液中のシアリダーゼ活性測定を試みたものの、シアリダーゼ活性が低すぎて計測できなかった。しかしながら、本発明者らの知見によれば、従来の研究対象であったI型細胞上皮細胞の傷害よりもむしろ、上記の本田孝行、信州医誌、47(6): 481-488, 1999がいう、II型肺胞上皮細胞がシアリダーゼにより受ける傷害が、肺線維症の機序に関係すると考えられる。
図1は、II型肺胞上皮細胞がシアリダーゼにより傷害されるメカニズムを示す概略図である。
図2は、実施例1においてフローサイトメトリ測定用の試料を調製する方法の一部を示す概略図である。
図3は、実施例1において抗TF抗体を用いたフローサイトメトリの結果を示す図である。縦軸の「カウント」は細胞数を表し、横軸はFITC蛍光強度を表す。A)S-Siaで処理したA549細胞:シアリダーゼ濃度1 U/L以上で蛍光強度が増強し、TF抗原の露出を認めた。B)S-Siaで処理したCHO細胞:シアリダーゼ濃度1 U/L以上で蛍光強度が増強し、TF抗原の露出を認めた。C)S-Siaで処理したLec2細胞:シアリダーゼ濃度に関係なく蛍光強度が増強し、TF抗原の露出を認めた。D)A-Siaで処理したA549細胞:シアリダーゼ濃度0.1 U/L以上で蛍光強度が増強し、TF抗原の露出を認めた。E)A-Siaで処理したCHO細胞:シアリダーゼ濃度0.1 U/L以上で蛍光強度が増強し、TF抗原の露出を認めた。F)A-Siaで処理したLec2細胞:シアリダーゼ濃度に関係なく蛍光強度が増強し、TF抗原の露出を認めた。
図4は、実施例2において4MU-NANAを用いたペラミビル阻害アッセイの結果を示す図である。縦軸の「RFU」は蛍光強度を表し、横軸は4MU-NANA添加後の経過時間(分)を表す。ペラミビル濃度増加に伴い蛍光強度が減弱し、ペラミビルによりS-Sia活性が抑制された。
図5は、実施例2においてペラミビルを用いたフローサイトメトリ阻害アッセイの結果を示す図である。縦軸の「カウント」は細胞数を表し、横軸はFITC蛍光強度を表す。A)A549細胞:ペラミビル濃度増加に伴い蛍光強度が減弱し、ペラミビルによりS-Sia活性が抑制された。B)CHO細胞:ペラミビル濃度増加に伴い蛍光強度が減弱し、ペラミビルによりS-Sia活性が抑制された。C)Lec2細胞:シアリダーゼ消化およびペラミビル濃度に関係なく蛍光強度は一定である。
図6は、実施例3における抗TF抗体非特異的な補体細胞傷害を示す図である。縦軸は、490 nmにおける吸光度を表し、横軸はシアリダーゼ濃度を表し、「Iso」はアイソタイプコントロール抗体を表し、「TF」は抗TF抗体を表す。A)A549細胞:抗体に関係なく高濃度シアリダーゼ消化(1 U/L以上)で吸光度が低下し、細胞傷害を認める。B)CHO細胞:抗体に関係なく高濃度シアリダーゼ消化(1 U/L以上)で吸光度が低下し、細胞傷害を認める。C)Lec2細胞:抗体に関係なく高濃度シアリダーゼ消化(1 U/L以上)で吸光度が低下し、細胞傷害を認める。
図7は、実施例3におけるシアリダーゼ消化による補体性細胞傷害を示す図である。縦軸は吸光度(490nm)を表し、横軸はシアリダーゼ濃度を表す。A)補体無添加-A549細胞:シアリダーゼ濃度に関係なく吸光度は一定であり、細胞傷害は認めない。B)補体添加-A549細胞:シアリダーゼ濃度が1(U/L)以上で吸光度の低下があり、細胞傷害を認める。C)補体無添加-CHO細胞:シアリダーゼ濃度に関係なく吸光度は一定であり、細胞傷害を認めない。D)補体添加-CHO細胞:シアリダーゼ濃度が1(U/L)以上で吸光度の低下があり、細胞傷害を認める。
図8は、実施例4におけるラットに対する薬剤投与のレジメンを示す概略図である。
図9は、実施例4におけるペラミビル投与後のラット体重の推移および14日後のPaO2/FlO2(吸入気酸素濃度に対する動脈血中の酸素分圧の比)を示す表である。
図10は、実施例4におけるペラミビル投与群と対照群とのPaO2/FlO2を比較したグラフである。
図11は、実施例4におけるペラミビル投与群と対照群との体重を比較したグラフである。
図12は、実施例4における対照群の肺線維症の病理所見である。
図13は、実施例4におけるペラミビル投与群の肺線維症の病理所見である。
以下、本発明について詳細に説明する。
本明細書中に別記のない限り、本発明に関して用いられる科学的および技術的用語は、当業者に通常理解されている意味を有するものとする。一般的に、本明細書中に記載された化合物、細胞、生化学に関して用いられる用語、およびその技術は、当該技術分野においてよく知られ、通常用いられているものとする。
本発明の一態様は、ウイルスシアリダーゼ阻害活性かつ哺乳類シアリダーゼ阻害活性を有するか、細菌シアリダーゼ阻害活性かつ哺乳類シアリダーゼ阻害活性を有するか、または哺乳類シアリダーゼ阻害活性を有する化合物を含む、肺炎を予防および/もしくは治療するため、または肺線維症を予防および/もしくは治療するための医薬組成物に関する。
シアリダーゼは、ノイラミニダーゼとしても知られており、糖加水分解酵素の一種で、シアロ−オリゴ糖、ガングリオシド、またはシアロ糖タンパク質を含む糖タンパク質及び糖脂質のオリゴ糖成分から、シアル酸残基を開裂してこれを切り離すものである。シアリダーゼは、バクテリア、ウイルス、原生動物、脊椎動物を含む種々の生物に見出され、ウイルスシアリダーゼ、細菌シアリダーゼおよび哺乳類シアリダーゼの3種類に大別される。
本明細書において、シアリダーゼ阻害剤とは、ウイルスシアリダーゼ阻害活性、細菌シアリダーゼ阻害活性、および/または哺乳類シアリダーゼ阻害活性を有する化合物を含む組成物であれば、特に限定されないが、好ましくは、哺乳類シアリダーゼ阻害活性を有するものであり、さらには、ウイルスシアリダーゼ阻害活性または細菌シアリダーゼ阻害活性を有する化合物を含む組成物である。
ウイルスシアリダーゼ阻害剤には、例えば、インフルエンザウイルスのシアリダーゼを阻害するものとして広く知られている、ペラミビル(商品名:ラピアクタ(登録商標))、オセルタミビル(商品名:タミフル(登録商標))、ザナミビル(商品名:リレンザ(登録商標))、ラニナミビル(商品名:イナビル(登録商標))が含まれる。これらは、感染した宿主細胞からインフルエンザウイルスが出芽により遊離される際に必要となるシアリダーゼを阻害することにより、インフルエンザウイルス表面にあるヘマグルチニンと宿主細胞表面のシアル酸の結合を維持することで、インフルエンザウイルスが宿主細胞から遊離するのを阻害する。なお、これらの投与は、インフルエンザ感染初期にのみ有効であり、インフルエンザ発症から48時間以降には個体治癒効果がほとんどないことが知られている。
本発明において、「ウイルスシアリダーゼ阻害活性を有する化合物」、「細菌シアリダーゼ阻害活性を有する化合物」、または「哺乳類シアリダーゼ阻害活性を有する化合物」とは、それぞれ、ウイルス、細菌または哺乳類由来のシアリダーゼの、シアル酸を糖鎖から切り離す能力を阻害する化合物であれば特に限定されない。かかる化合物には、単一の化合物や複数の化合物群のみならず、化合物群全体として初めてそれぞれのシアリダーゼ阻害活性を有するものも含まれる。
前述のインフルエンザウイルスのシアリダーゼ阻害活性を有するもののうち、ザナミビルは、ヒトシアリダーゼ阻害活性を有するものとして知られている(特開2011-136964)。
本発明者らは、インフルエンザウイルスシアリダーゼ阻害活性を有する化合物として知られるもののいくつか、例えば、ペラミビルなどが、ヒトシアリダーゼ阻害剤活性を有することを発見した。
本発明者らは、さらに、インフルエンザウイルスシアリダーゼ阻害活性を有する化合物として知られるもののいくつか、例えば、ペラミビルなどが、肺炎および肺線維症の治療および予防効果を有することを発見した。
本発明の医薬組成物を、実際の疾患の予防または治療に用いるときにおけるシアリダーゼ阻害活性を有する化合物の投与量は、患者の性別、年齢、体重ならびに疾患の程度および投与方法によって適宜選定できる。例えば、成人の患者に投与する場合、肺炎および肺線維症の治療および予防上の有効量であれば特に限定されないが、経口投与の場合、概ね、1回あたり10mg〜1000mgを1日、1〜3回、非経口投与の場合、概ね、1回あたり1mg〜100mgを1日、1〜3回の範囲内で選定することができる。さらに、症状および副作用発現等に応じて、適宜増減することもできる。また、小児の場合は、成人の有効量を参照して、年齢、体重、疾患の程度に応じて、適宜選定することができる。
本発明の医薬組成物は、シアリダーゼ阻害活性を有する化合物とともに、必要に応じて、薬学的に許容し得る担体(例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、防腐剤、pH調整剤、矯味矯臭剤、希釈剤、注射剤用溶剤等)などの任意成分と組み合わせて、当業者が適宜調製することができる。例えば錠剤、粉末、水溶液などの剤型についても、後述する投与経路に合わせて当業者が適宜選択することができる。
本発明により、間質性肺炎および肺線維症、好ましくは、特発性間質性肺炎(IPF)、膠原病肺、薬剤性間質性肺炎、放射線肺炎、過敏性肺炎などの急性または慢性の肺疾患、じん肺、より好ましくはII型肺胞上皮細胞の傷害に起因する肺炎、を治療および/または予防することができる。
本発明において「肺炎」は、特に限定されずに肺炎全般を指すが、好ましくは、間質性肺炎などの慢性肺疾患や、II型肺胞上皮細胞の傷害に起因する肺炎を指す。
本発明において「肺線維症」は、特に限定されないが、好ましくは、特発性肺線維症(IPF)などの慢性肺疾患を指す。本発明によって治療可能な肺線維症には、線維化の程度が小さく、治療が可能である可逆的なものを指し、線維化が進行していて、治療がもはや不可能である不可逆的なものは含まれない。
本発明において、「肺炎を治療する」とは、既に肺炎を患う対象に本発明の医薬組成物を投与することによって、炎症状態を緩和ないし炎症を抑制することを指す。特に、高シアリダーゼ活性により、II型肺胞上皮細胞が傷害(図1)して生じる肺炎は、シアリダーゼの活性を阻害することにより、治療することができる。
本発明において、「肺線維症を治療する」とは、既に肺炎を患う対象に本発明の医薬組成物を投与することによって、線維化の程度が小さく、治療が可能である可逆的な肺線維症を、線維化の程度をよりさらに小さくすることを含む。
また「対象」とは、健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、様々な肺炎に対する処置が企図される場合には、肺炎に罹患している生物個体または実験的に罹患させた生物個体、例えばマウス、ラット、スナネズミ、モルモットなどの齧歯類、ネコ、ピューマ、トラなどのネコ科動物、シカ、オオシカなどのシカ科動物等の他、ウサギ、イヌ、ミンク、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、サル、ヒトなどであることが好ましい。
本発明において、「肺炎および/または肺線維症を予防する」とは、肺炎および/または肺線維症を患っていない対象に本発明の医薬組成物を投与することによって、炎症および/または線維化を生じさせないことを指す。特に、肺の間質において比較的活性の高いシアリダーゼが検出された対象に対し、本発明に係る化合物および/またはこれを含む医薬組成物を投与することにより、肺炎および/または肺線維症を予防することができる。
本発明における「投与」とは、例えば経口、経鼻、経静脈、経皮などの経路により行うことができる。例えば、ペラミビルは経静脈(静脈注射)、オセルタミビルは経口、ザナミビルおよびラニナミビルは経鼻(吸入)が好ましいが、特に限定されるものではない。
本発明者らは、肺炎およびこれに起因する肺線維症が、シアリダーゼによるII型肺胞上皮細胞の傷害(図1)によって生じるものと推測した。本推測によれば、かかるシアリダーゼの活性を阻害するこができる本発明の化合物およびこれを含む医薬組成物は、肺炎を予防および/もしくは治療するか、または肺線維症を予防および/もしくは治療することが期待できる。
前述のように、間質性肺炎において、シアリダーゼ活性が亢進し、II型肺胞上皮細胞傷害がおこる可能性があることが示されていた。
本発明者らは、II型肺胞上皮細胞が、図1に示されるようなメカニズムによって傷害されるものと考えた。かかるメカニズムによると、傷害は、肺胞内でシアリダーゼという酵素の活性が上昇することで生じる。本発明者らは、現にII型肺胞上皮細胞の培養細胞であるA549細胞をシアリダーゼ処理すると傷害が生じることを実証した。
Thomsen-Friedenreich(TF)抗原は組織血液型糖鎖抗原の1つである。ヒトはTFに対するIgM型自然抗体を有するため、自然抗体の及ばない精巣と脳の一部を除く多くの組織で、自然抗体の作用を受けないシアル酸が付加されたシアリル化TFが存在する。生体では、末端にシアル酸のない露出したTFが存在すると、補体を介した細胞傷害が働く。肺炎球菌性溶血性***症候群(Pneumococcal Hemolytic Uremic Syndrome, P-HUS)では、肺炎球菌由来シアリダーゼにより赤血球や血小板、腎糸球体内皮細胞のTFが露出し、自然抗体による細胞傷害を引き起こし発症する。また、健常人ではII型肺胞上皮細胞表面にシアリル化TFを認めるが、IPF患者では一部のII型肺胞上皮細胞表面にTFが露出している。
IPFにおいてII型肺胞上皮細胞表面のTFの露出が、P-HUSの発症メカニズムと同様にIPFでのII型肺胞上皮細胞の傷害を引き起こしている可能性がある。出願人らは、IPFの成因にII型肺胞上皮細胞傷害が関与していると考え、細胞株A549(II型肺胞上皮細胞由来)に対して、シアリダーゼ消化、TF抗体および補体が細胞傷害を生じるかについて、実施例で検討した。以下の実験例は本発明について、さらに具体的に説明するものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。当業者として通常の知識および技術を有するものは、本発明の精神を逸脱しない範囲で、下記実験例で示された態様に多様な改変を行うことができるが、かかる改変された態様も本発明に含まれる。
[実施例1]抗TF抗体を用いたフローサイトメトリ
<細胞培養>
A549細胞(ヒトII型肺胞上皮がん細胞)とCHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞)は、10%ウシ胎児血清(FCS)(Thermo Fisher Scientific, USA)、100 U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン加DMEM液体培地(DMEM)(nacalai tesque)を用い、培養した。Lec2細胞(CHO細胞由来シアル酸転移酵素欠損細胞株)は10%FCS、100 U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン加α-MEM液体培地(α-MEM)(nacalai tesque)を用い、培養した。各々の細胞は37℃に維持した5%COインキュベータで培養し、1週間に2度継代した。
<フローサイトメトリ>
(1)細胞準備
培養したA549細胞とCHO細胞の培養液を取り除き、リン酸緩衝食塩水(Phosphate buffered saline, PBS)pH7.0を加えて1回洗浄した。PBSを取り除き、トリプシンEDTA(SIGMA-ALDRICH, USA)を1 mL加えて37℃インキュベータで5分間反応させた。反応後、細胞の浮遊を確認し、DMEMを10 mL加え、全量を15 mLチューブへ移した。1000 rpm、室温5分間で遠心した。上清を取り除き、細胞浮遊液をDMEMにて細胞数1.0x105個/mLに調整し、5 mLラウンドチューブに分注した。Lec2細胞ではDMEMをα-MEMに換え、同様の操作を行った。細胞を分注した各チューブを1000 rpm、室温5分間遠心した。上清を取り除き、PBSを500μLずつチューブに加え、1回洗浄した。
(2)シアリダーゼ消化
遠心後、上清を取り除き、PBSを200μLずつチューブに加えた。次にStreptococcus 6646K由来シアリダーゼ(S-Sia)(生化学バイオビジネス)もしくはArthrobacter ureafaciens由来シアリダーゼ(A-Sia)(nacalai tesque)が0、0.01、0.1、1、5 U/Lとなるように加え、37℃で30分間反応させた。
(3)ブロッキング
反応後に遠心し、上清を取り除いた後、0.1%ウシ血清アルブミン(Bovine serum albumin, BSA)(SIGMA-ALDRICH)加PBSを500μLずつチューブに加え、洗浄した。0.1%BSA加PBSによる洗浄は、計3回行った。洗浄後、3%BSA加PBSを500μLずつチューブに加えて、室温20分間ブロッキング反応を行った。
(4)一次抗体反応
反応後に遠心し、上清を取り除いた後、0.1%BSA加PBSを100μLずつチューブに加えた。その後、一次抗体にマウスIgM 抗TF抗体(Glycotope, Germany)を5μl加え、氷上で20分間反応させた。また、アイソタイプコントロールとしてマウスIgM 抗Lipopolysaccharide抗体(Beckman coulter, USA)を5μl加え、氷上で20分間反応させた。
(5)二次抗体反応
反応後、0.1%BSA加PBS 500μLで3回洗浄した。その後、0.1%BSA加PBS 500μLで細胞を浮遊させ、二次抗体としてFITC標識ヤギ抗マウスIgM抗体(Invitorogen, USA)を0.5μL加え、氷上で20分間反応させた(図2)。
(6)測定
反応後、0.1%BSA加PBS 500μLで3回洗浄した。洗浄後、FACS Flow(BD Biosciences, USA)500μLに浮遊させ、BD FACSCalibur(BD Biosciences)で測定した。また、解析はCELLQUEST Software(BD Biosciences)を用いた。
<結果>(シアリダーゼ消化による抗TF抗体の結合)
A549細胞およびCHO細胞において、S-SiaもしくはA-Sia消化後に抗TF抗体を加えると蛍光強度が増強した。また、シアリダーゼ濃度依存的に蛍光強度は変化した。両細胞ともS-Sia濃度が5 U/Lで最大の蛍光強度を示し、0.1 U/L以下では蛍光を確認できなかった(図3−A、B)。5 U/Lと1 U/LのA-Sia消化では同様に最大の蛍光強度を示した。蛍光強度は0.5 U/Lまで確認できた(図3−D、E)。
Lec2細胞では、S-SiaまたはA-Siaで消化後抗TF抗体を加えても、蛍光強度は変化しなかった(図3−C、F)。
抗TF抗体の代わりにアイソタイプコントロール抗体を加えた場合、A549細胞、CHO細胞、Lec2細胞に蛍光強度増強はなく、反応しなかった(図3中1)。
[実施例2]
<ペラミビルによるフローサイトメトリ阻害アッセイ>
(1)実施例1(1)細胞準備と同様に、細胞を準備した。
(2)シアリダーゼ消化
S-Siaを2.5 U/Lに生理食塩水で調整した。シアリダーゼ加生理食塩水でシアリダーゼ阻害作用のある抗インフルエンザウイルス剤ペラミビル(BIOCRYST, USA)を0.01、0.1、1、10 mg/mLに調整し、200μLずつチューブに加えた後、37℃で30分間反応させた。
これ以降のブロッキング、一次抗体反応、二次抗体反応および測定を、実施例1の(3)〜(6)と同様に行った。
<4MU-NANAを用いたシアリダーゼ阻害アッセイ>
1.5 mLチューブにペラミビルが0.01、0.1、1、10 mg/mLとなるように生理食塩水で調整した。それぞれの溶液にS-Siaが2.5 U/L、4-メチルウンベリフェリル-N-アセチルノイラミン酸(4MU-NANA、Toronto Research Chemicals)が0.154 mg/mLとなるように加え、十分に混和した。その後、各溶液を96well plateに100μLずつ分注し、Cytoflour Series 4000(Applied Biosystems, USA)を用いて蛍光強度を測定した。Gain 50で37℃で60分間、5分おきに測定した。4メチルウンベリフェロン(4MU)は励起波長365 nm、蛍光波長450 nmで検出した。
<結果>
(4MU-NANAを用いた阻害アッセイにおける抑制)
ペラミビルを加えた場合、濃度依存的に蛍光強度の抑制を認めた。0.01 mg/mLペラミビルでは蛍光強度抑制は確認できなかったが、0.1 mg/mL以上で蛍光強度抑制が確認できた。10 mg/mLペラミビルで蛍光強度抑制が最大となった(図4)。
ペラミビルを加えない場合、経時的な蛍光強度増強が認められた。
(フローサイトメトリ阻害アッセイにおける抑制)
A549細胞とCHO細胞は、ペラミビル濃度依存的に蛍光強度が抑制された。A549細胞はペラミビル0.1 mg/mLから抑制が始まり1 mg/mLで完全に蛍光強度が抑制された(図5−A)。CHO細胞はペラミビル0.1 mg/mLから抑制が認められ、完全な蛍光強度抑制はA549細胞同様に1 mg/mLで得られた(図5−B)。
一方、Lec2細胞ではペラミビル濃度に関係なく全てにおいて蛍光強度の変化は確認できなかった(図5−C)。
[実施例3]
<抗TF抗体を用いた補体細胞傷害実験>
実施例1の(1)〜(4)と同様にして、細胞準備、シアリダーゼ消化、ブロッキングおよび抗体反応それぞれを行った。
(5)補体反応液の調整と補体反応
蒸留水1 mLで溶解させたウサギ補体(Cedarlane laboratories, Canada)を無血清DMEMで1.5倍希釈し、補体反応液として調製した。一次抗体反応後、0.1%BSA加PBSで3回洗浄し、補体反応液を加え、37℃で1時間反応させた。
(6)生細胞数検討
反応後、0.1%BSA加PBSで3回洗浄した。洗浄後、無血清DMEMを300μL〜500μL加え細胞を浮遊させ、96 well plateに100μLずつ分注した。CellTiter 96(登録商標) AQueous One Solution Cell Proliferation Assay(Promega, USA)の試薬を各wellに20μLずつ加え十分に混和した。37℃で2時間反応させた。
(7)測定
反応後、SPECTRAmax PLUS384(Molecular Devices, USA)を用い吸光度を測定した。吸光度は490 nmで測定した。
<抗体を用いない補体細胞傷害実験>
A549細胞とCHO細胞とに対して、前記<抗TF抗体を用いた補体細胞障害実験>の(4)抗体反応の工程を行わなかった以外は、前記と同様に処理し、測定した。
<結果>
A549細胞とCHO細胞とを高濃度シアリダーゼ消化後に、抗TF抗体またはアイソタイプコントロール抗体を加えると細胞傷害が生じた(図6−A、B)。両抗体間に細胞傷害の差は認められなかった。
A549細胞とCHO細胞とにおいて、高濃度S-Sia消化後、抗体を加えずに補体のみを加えるだけで細胞傷害が生じた(図7)。補体を加えなければ両細胞の細胞傷害が起こらなかった(図7−A、C)。
S-Sia 1 U/L以上で、細胞傷害を認め、CHO細胞がA549細胞より強く認められた(図7−B、D)。
Lec2細胞では、抗TF抗体および補体の有無にかかわらず、細胞傷害はなかった(図6−C)。
(実施例1〜3の考察)
A549細胞(II型肺胞上皮細胞由来)およびCHO細胞は、その表面にシアリル化TFという糖鎖構造を有しており、シアリダーゼ消化後に補体を加えることにより細胞傷害が生じた(図7)。シアリダーゼ消化後に抗TF抗体を加えても加えなくとも細胞傷害に影響はなく、抗TF抗体の存在は細胞傷害に関与していなかった(図6、7)。この結果は、生体の肺胞内でシアリダーゼ活性が上昇し補体が関与すれば、II型肺胞上皮細胞傷害が生じることを示唆している。IPF患者の気管支肺胞洗浄液中にシアリダーゼ活性が上昇するという報告があり、軽度なII型肺胞上皮細胞傷害がIPF発症の成因になる可能性がある。
本発明者らは、ウイルス感染などを契機に肺胞腔内のシアリダーゼ活性が上昇し、II型肺胞上皮細胞表面に現れたTF抗原に自然抗体である抗TFIgMが結合し、補体活性を誘導しII型肺胞上皮細胞傷害が生じるという仮説の下に本研究を行った。この仮説は、P-HUS発症メカニズムとして知られている。
A549細胞、CHO細胞およびLec2細胞表面に、シアリルTF、シアリルTFおよびTFの糖鎖構造が存在する。フローサイトメトリを用いて、シアリダーゼ消化後にA549細胞とCHO細胞の表面にTF抗原が、シアリダーゼ消化に関わらずLec2細胞表面にTF抗原が発現していた(図3)。シアリダーゼ阻害剤(ペラミビル)のInhibition assayでは(図4、5)、シアリダーゼが抑制されTF抗原が出現しなかったので、シアリダーゼによりシアル酸が消化され、TF抗原が現れた。
高濃度S-SiaおよびA-Sia消化は、II型肺胞上皮細胞表面に濃度依存性にTF抗原を発現させた。一方、S-Sia活性が0.1U/L以下では、シアル酸は消化されずTF抗原は発現しなかった(図3−A、B)。このことは、シアリダーゼの濃度差によりシアル酸が消化されたりされなかったりすることを示している。各肺胞内でのシアリダーゼ濃度が異なることによりIPFの最大の特徴である線維化病変の空間的、時相的heterogeneityを説明できる。IPFにおいてごく軽度の炎症性病変が継続することも、シアリダーゼ濃度で説明できる可能性がある。
抗TF抗体に補体を加えて細胞傷害を検討したが、すべての細胞で抗TF抗体の有無に関わらず補体により細胞傷害が生じ、我々の仮説とは異なる結果であった(図6−A、B)。補体系活性化経路は3種類が知られている。抗原に結合したIgMまたはIgG抗体によって生じる古典経路、抗体なしでも生じる別経路およびレクチン経路である。本研究のII型肺胞上皮細胞傷害は、P-HUSのようにIgM抗体を介した古典経路による細胞傷害は考えにくく、レクチンを使用していないのでレクチン経路の活性化による傷害も否定的である。しかし、補体による細胞傷害は存在していることから、補体別経路活性化による細胞傷害の可能性が示唆される。別経路は補体タンパク質であるC3の代謝産物C3bが病原体や自己細胞などの表面に結合し、さらにB因子と呼ばれるタンパク質が結合したC3bと複合体(C3コンベルターゼ)を形成することで活性化される。自己細胞では、β1H(Factor H)やC3b inactivator(C3bINA)と呼ばれる抑制タンパク質がB因子と競合することによって、傷害を起こさないように別経路がコントロールされている。Kazatchkineらは、ヒツジ赤血球膜のシアル酸を除去すると、別経路抑制タンパク質β1HのC3bへの結合が減弱することを報告している。また、Fearonらはβ1Hの結合が抑制される結果、B因子の結合が優先的に起こり、別経路が活性化することでヒツジ赤血球の傷害が起こるという報告をしている。β1Hは陰イオンへの結合能を有することがわかっており、シアル酸は補体別経路の活性化をコントロールする重要な因子である。IPFと補体の関連について赤血球Complement receptor 1の遺伝子多型とIPF罹患率の関係性やIPFにおける各補体因子の増加などが報告されている。IPFと補体別経路との関連を明らかにするには、IPFにおけるβ1Hやシアル酸の解析を行う必要がある。
IPF発症メカニズムで考えられている継続的な肺胞組織への刺激は、未だ解明されていない。本研究で、シアリダーゼ消化により脱シアリル化されたII型肺胞上皮培養細胞A549が補体性に傷害を受けることがわかった(図7−B)。したがって、IPF患者肺胞内でも肺胞構成細胞が補体に関連して傷害を受けるとすれば、シアリダーゼ消化を起因とする細胞傷害がIPF発症メカニズムにおける肺胞組織への刺激となる可能性がある。もしIPFにおける慢性的刺激がシアリダーゼによる補体別経路活性化と関連すれば、シアリダーゼ活性は低値であっても持続する必要がある。よって、ウイルス感染などの一時的な高シアリダーゼ活性状態ではなく、継続的にシアリダーゼ活性を維持する機構が必要となり、IPF病態解明および治療の糸口になる。
[実施例4]間質性肺炎モデルラットを用いた試験
<材料と方法>
ラットをペントバルビタール麻酔後に気管を露出し、抗がん剤として知られるブレオマイシン(0.01 U/kg)を、26G針付き注射器を用いて気管内投与した。手術部は縫合し、麻酔覚醒後に通常の飼育室に戻した。2週間の経過観察の後、再度ペントバルビタール麻酔にて安楽死させ、肺胞洗浄及び解剖を行った。治療的介入はシアリダーゼ阻害薬(ペラミビル10 mg/kg)を腹腔内投与した。ブレオマイシン投与後7〜13日目の間連続投与した(図8)。腹腔内投与に関しては、その都度1回の注射のみではあるが、動物の苦痛を考えてジエチルエーテルによる吸入麻酔を使用した。使用する動物数については、コントロール、介入群、それぞれ4匹ずつとし、計8匹を使用した。
<結果>
体重変化とPaO2/FIO2を図9〜11に示す。投与前の体重はコントロール群が326.8±6.7 g、介入群336.5±8.3 gと優位な変化はなかった。14日後では、コントロール群が234.5±25.3 g、介入群362.2±23.9 gと、コントロール群に有意な体重減少を認めた。また、PaO2/FIO2は、14日後にコントロール群149.1±23.9、介入群284.9±23.9とコントロール群で優位に呼吸状態が悪化していた。また、解剖後の肺の病理組織学的検索においても、介入群ではコントロール群に比べ明らかに肺線維化所見が抑制されていた(図12、13)。
本発明に係る化合物およびこれを含む医薬組成物は、II型肺胞上皮細胞の傷害に起因する肺炎および肺線維症の治療および/または予防をすることが可能であるから、これまで治療手段の見つからなかった、難治性の特発性肺線維症を治療することができ、国民のニーズを十分に満たす。
1・・・シアリダーゼ消化なし(アイソタイプコントロール抗体)
2・・・シアリダーゼ消化なし(抗TF抗体)
3・・・シアリダーゼ濃度0.01 U/L(抗TF抗体)
4・・・シアリダーゼ濃度0.1 U/L(抗TF抗体)
5・・・シアリダーゼ濃度1 U/L(抗TF抗体)
6・・・シアリダーゼ濃度5 U/L(抗TF抗体)
11・・・4MU-NANA無添加の陰性コントロール
12・・・ペラミビル無添加の陽性コントロール
13・・・ペラミビル濃度0.01 mg/mL
14・・・ペラミビル濃度0.1 mg/mL
15・・・ペラミビル濃度1 mg/mL
16・・・ペラミビル濃度10 mg/mL
21・・・シアリダーゼ消化なし(アイソタイプコントロール抗体)ペラミビル無添加
22・・・シアリダーゼ消化なし(抗TF抗体)ペラミビル無添加
23・・・シアリダーゼ消化あり(抗TF抗体)ペラミビル無添加
24・・・シアリダーゼ消化あり(抗TF抗体)ペラミビル濃度0.01 mg/mL
25・・・シアリダーゼ消化あり(抗TF抗体)ペラミビル濃度0.1 mg/mL
26・・・シアリダーゼ消化あり(抗TF抗体)ペラミビル濃度1 mg/mL
27・・・シアリダーゼ消化あり(抗TF抗体)ペラミビル濃度10 mg/mL

Claims (1)

  1. シアリダーゼ阻害活性を有する化合物を含む、シアリダーゼによるII型肺胞上皮細胞の傷害に起因する肺炎および/またはこれに起因する肺線維症を予防および/または治療するための医薬組成物であって、
    シアリダーゼ阻害活性を有する化合物が、ペラミビルである、前記医薬組成物
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