以下、本発明に係る3次元造形装置について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
本発明の一実施形態に係る3次元造形装置10は、図1及び図2に示すように、造形材料を造形台30に供給し、次に造形材料を結合するバインダを塗布することで、所望の3次元形状の造形物を製造するシステムである。具体的に、3次元造形装置10は、粉体(粉状や粒状を含む)である造形材料の供給により所定の厚みの粉体層100(略2次元層)を作り、この粉体層100にバインダを塗布して粉体を結合することで、一層の造形層102を形成する(図5も参照)。これにより造形層102には、造形物を構成する結合部104が形成される。そして、3次元造形装置10は、同様の造形層形成動作(粉体の供給及びバインダの塗布)を繰り返して造形層102を積層していくことで、結合部104がまとまって1つの造形物を構築する。
以下では、3次元造形装置10が製造する造形物として中子を製造する場合について説明する。なお、3次元造形装置10は、中子を製造する装置に限定されないことは勿論であり、種々の造形物を製造する装置に適用してよい。
中子を製造する場合の造形材料は、特に限定されるものではないが、例えば、珪砂、アルミナ砂、ジルコン砂、クロマイト砂、オリビン砂及びムライト砂等があげられ、またこの他にもフェロクロム系スラグ、フェロニッケル系スラグ、転炉スラグ等のスラグ系粒子、アルミナ系粒子、ムライト系粒子等の多孔質粒子及びこれらの再生粒子等を適用することができる。或いは、他の造形物を造形する場合の造形材料としては、例えば、石膏(α石膏等)、デンプン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の樹脂があげられる。造形材料は、粉体以外にも、液体やゲルの状態で供給されてもよい。
一方、造形材料に塗布されるバインダも、造形材料に応じて適切なものが採用されればよく、例えば、フェノール系樹脂、フラン樹脂等の有機材料、水溶性無機化合物(クレー類、セメント、水ガラス等)の無機材料等を主成分に含むもの等があげられる。また、バインダには、造形材料自体が硬化反応するための触媒が含まれていてもよい。換言すれば、本明細書におけるバインダによる「結合」とは、化学的な結合、或いは物理的な接着の概念を含む表現である。
3次元造形装置10は、設置基部16と、この設置基部16に連結され上方に延びる複数のフレーム18と、複数のフレーム18の間を囲う図示しない周壁とで構成されたハウジング20を有し、ハウジング20内の閉じた造形室で造形物を製造する。このハウジング20内の設置基部16上には、図1及び図3に示すように供給装置(供給部)12と、塗布装置(塗布部)14と、上記の造形台30を有する台座装置22と、供給装置12及び塗布装置14を回転する回転装置(回転部)24とが設けられている。一方、ハウジング20の外部には、各装置の動作を制御する制御装置(制御部)26が設けられている。
設置基部16は、作業場所等の設置面に対し水平に固定される。この設置基部16から上方向に延びる幾つかのフレーム18又は周壁には、回転装置24の外フレーム86の回転を支持及びガイドするガイドレール28が設けられている。なお図示は省略するが、3次元造形装置10は、造形時に、ハウジング20の上方で動作する供給装置12や回転装置24に対するユーザの接触を防止するため、これらの装置12、14又はハウジング20を全体的に覆う筐体を備えていてもよい。
3次元造形装置10の台座装置22は、粉体の供給及びバインダの塗布がなされる造形台30を有している。造形台30の上面には、造形物が造形される(すなわち、造形層102が積層される)平坦状の造形領域30aが形成されている。造形台30は、所定の厚みを有する板体に形成され、3次元造形装置10の設置面に対して水平に設置される。
また、台座装置22は、回転装置24の回転軸Oを間に挟んで一対配置され、ハウジング20内の異なる位置で造形物を製造可能としている。一対の造形台30上に形成される造形物は、互いに同形状に造形されてもよく、異なる形状に造形されてもよい。一対の造形台30は、平面視(図3参照)で、略半月形状に形成され互いに対称に配置されている。また、造形台30は、平面視で、回転装置24の回転盤32の外壁32bよりも内側に配置されることで、造形領域30aを定常的に回転盤32に対向させている。
そして、台座装置22は、造形物の造形において、造形層102を一層形成していく毎に造形台30が一層分下降する構成となっている。このため、台座装置22は、造形台30の下側に昇降駆動部34を備える。昇降駆動部34は、制御装置26の制御下に、造形台30の水平の姿勢を維持しつつ昇降動作を行う。
具体的には、昇降駆動部34は、造形台30に駆動力を付与するシリンダ機構36と、シリンダ機構36の周囲で造形台30の昇降をガイドするガイド機構38とを有する。シリンダ機構36は、例えば、空気圧シリンダや油圧シリンダ等を適用することができ、制御装置26の制御下に、造形台30を固定支持する可動棒36aを上下動させる。可動棒36aは、造形台30の重心位置付近の下面に連結されている。なお、造形台30を昇降させる昇降駆動部34の構成は、上記に限定されるものではく、例えば、モータとギア機構等により構成されてもよい。
ガイド機構38は、例えば、造形台30に連結され下方に延出する中空状の筒部38aと、設置基部16に固定支持され筒部38a内に挿入される柱部38bとを含む。そして、シリンダ機構36の駆動時に筒部38aが柱部38bに沿って上下動することで造形台30を昇降させる。
3次元造形装置10の供給装置12は、粉体を貯留する粉体貯留槽40と、回転装置24の回転盤(保持体)32に設けられる供給構造部42とを含んで構成される。粉体貯留槽40は、供給構造部42(回転盤32)の上方に設けられ、その下部には、粉体流出口、及び粉体流出口を開閉する開閉駆動部が設けられている(共に図示せず)。開閉駆動部は、制御装置26の制御下に適宜のタイミングで粉体流出口を開閉し、開放状態で粉体を供給構造部42に流出(落下)させる。
一方、供給構造部42は、回転盤32の上面に形成されて粉体貯留槽40から流出した粉体を一時的に受ける受面44と、受面44の所定位置で回転盤32の下面に貫通形成された供給口46と、供給口46を開閉する開閉蓋48とを有する。
受面44は、一対の造形台30に対応するように、回転装置24の回転軸Oを挟んで一対形成されている。各受面44は、図3に示す平面視で、回転盤32の周方向に沿って概ね半円弧状を描き、回転盤32の径方向に幅広な扇状を呈している。また、受面44は、回転盤32の周方向に沿った側面断面視で、周方向の両端部44a、44b側が高い一方で、周方向(円弧方向)中央部に向かって下方向に傾斜したすり鉢状に構成されている。そして、受面44の周方向中央部に供給口46が設けられている。
図3及び図4Aに示すように、供給装置12の受面44、回転盤32の内壁32a及び外壁32bで形成される受容空間50は、1個分の造形物が造形可能な量の粉体を受け入れる容積に設定されるとよい。これにより、造形物の造形時に粉体貯留槽40からの粉体の供給動作がなくなるので、回転盤32をより一層高速に回転させることが可能となる。なお、受容空間50には、回転盤32の回転中に適宜のタイミングで、粉体貯留槽40から粉体が供給されてもよい。
供給口46は、受容空間50に流入し、受面44の傾斜に沿って流動してきた粉体を回転盤32の下側に流出させる。供給口46は、平面視で、幅方向(周方向)に短く回転盤32の径方向に沿って長い方形状に形成されている。この供給口46は、造形台30の幅方向の長さよりも短く設定され、ちょうど造形領域30aに重なる(対向可能な)位置に設けられる。なお、供給口46の形成位置は、受面44の周方向中央部に限定されず、例えば、受面44の回転方向基端側に設置されてもよい。これにより、回転盤32の回転による作用力を受けて回転方向基端側に流動する粉体を、供給口46から良好に排出させることができる。
開閉蓋48は、回転盤32の周方向中央部の受面44側で、図示しない駆動機構により供給口46に対しスライド自在に設けられる。この開閉蓋48は、制御装置26の制御指示(電気的信号)により供給口46を開閉し、開放状態で造形台30上に粉体を供給し、閉塞状態で粉体の供給を停止する。
一方、3次元造形装置10の塗布装置14は、制御装置26によりバインダの塗布タイミングや塗布量、噴射速度が制御されることで、造形台30上で2次元に展開している粉体層100の所定位置にバインダを落とすように構成される。この塗布装置14は、図3及び図4Bに示すように、直方形状に形成された本体部52を有し、この本体部52は、回転装置24の回転盤32の下面(造形台30の対向面)に連結固定される。本体部52は、受面44が形成されていない一対の境界部分(すなわち、回転盤32の上面が最も高い部分の下面)にそれぞれ設けられている。なお、本体部52は回転盤32に一体成形されてもよい。
より具体的には、一対の本体部52は、回転盤32の回転方向(周方向)に180°ずれる、つまり回転軸Oを挟んで互いに対称となる位置で、その長手方向が回転盤32の径方向に沿うように設置される。これにより一対の本体部52は、供給装置12の一対の供給口46に対して周方向に90°ずれている。
一対の本体部52は、図3、図5及び図6に示すように、回転盤32の径方向内側から外側に向かって、貯留部54及び塗布ヘッド部56をそれぞれ有する。貯留部54は、回転盤32の径方向に延在する本体部52において回転軸O寄りに設けられ、その内部にバインダを貯留する貯留空間54aを有する。なお、貯留部54は、例えば、後述する回転装置24の回転シャフト76の内部に設けられる、又は支持フレーム84に取り付ける等、本体部52の外部に設けられてもよい。
塗布ヘッド部56は、貯留空間54aに貯留されているバインダを流動させて、本体部52外にバインダを塗布する。この塗布ヘッド部56は、貯留空間54aと連通して本体部52の長手方向に直線状に延びる連通路58と、連通路58から分岐する複数の分岐路59と、各分岐路59に連通してバインダを実際に噴射する複数の噴射部60とを有する。
連通路58は、図示しないポンプ(或いは、回転盤32の回転時の遠心力)によって、貯留空間54aに貯留されている液体状のバインダを流動させる。また、複数の分岐路59は、各分岐路59に連なる噴射部60の駆動下に、連通路58を流動するバインダを該噴射部60に引き込む。
複数の噴射部60は、本体部52の長手方向、つまり回転盤32の径方向に沿って相互に等間隔に並設され、制御装置26により個別に駆動が制御される。そのため、塗布装置14は、本体部52の径方向の異なる位置から異なるタイミングでバインダを塗布し、造形領域30aの径方向(幅方向)上にバインダをドット状に滴下する。
噴射部60の構成は、特に限定されるものではないが、図5に示すように、ピエゾ方式によってバインダを噴射する構造を採るとよい。この場合、噴射部60は、分岐路59に連通する圧力室62と、制御装置26に駆動制御される圧電素子64と、圧電素子64に連結されると共に圧力室62の一部の内壁を構成する振動板66と、圧力室62に供給されたバインダを噴射する噴射口70を有するノズル68とを備える。
この場合、噴射部60は、制御装置26が制御する電力(電気的信号)に応じて圧電素子64が変形することで、振動板66を適宜振動させて圧力室62の圧力を変化させる。そして例えば、圧力室62を負圧にすることで分岐路59からバインダを吸引し、圧力室62を正圧にすることで圧力室62から噴射路72を介してバインダを押し出し、噴射路72に連通する噴射口70からバインダを噴射する。この場合、各噴射部60は、圧電素子64及び振動板66の変形量を予め設定しておくことで、噴射するバインダの噴射速度を個々に設定することができる。
また、本実施形態に係る塗布装置14は、回転盤32の回転時に、本体部52の下方に供給されている粉体層100の塗布座標上にバインダを精度よく塗布するため、噴射部60によるバインダの噴射速度及び噴射方向を適切に規定している。この塗布装置14の構成については後に詳述する。
図1に戻り、3次元造形装置10の回転装置24は、供給装置12の供給構造部42及び塗布装置14を造形台30に対して相対回転させる機能を有している。回転装置24は、上述した供給構造部42及び本体部52を保持する回転盤32と、回転盤32の中心位置に設けられる非回転の固定シャフト74と、回転盤32に連結され固定シャフト74の周りを回転する回転シャフト76と、回転シャフト76に回転駆動力を付与する駆動機構78とを備える。
回転盤32は、平面視(図3参照)で、上下に所定の厚みを有する円環状を呈し、その中心部分には空洞部80が貫通形成されている。回転盤32は、その径方向内側を周回して空洞部80を構成する内壁32aと、径方向外側を周回する外壁32bとを有し、この内壁32a及び外壁32bの間と上面(受面44)とにより、粉体を受容する供給構造部42の受容空間50を形成している。
回転盤32の下面には、上記のとおり塗布装置14の本体部52が一対取り付けられている(図4B参照)。また、回転盤32の上面及び下面を貫通する供給口46の近傍には、供給口46から造形台30に供給された粉体を均すヘラ(均し部)82が設けられている。
ヘラ82は、長方形の平板に形成されており、回転盤32の下面に固定されて、回転盤32の下方に向かって所定長さ突出している。このヘラ82は、その長手方向の長さが供給口46の長手方向の長さと同程度に(又は供給口46よりも多少長く)設定されており、回転盤32の径方向に沿って延設される。ヘラ82の下端部は、造形台30の上面に対して平行(つまり水平)となっている。
またヘラ82は、回転盤32の回転方向において供給口46よりも基端側(後側)に配置されている。換言すれば、3次元造形装置10は、回転盤32の回転方向の異なる位置に、供給装置12の供給口46、ヘラ82、塗布装置14の本体部52を順に配置している。これにより、回転盤32の回転時に、供給口46から造形台30に粉体を供給して粉体層100を概ね形成した後に、ヘラ82により粉体層100を平坦状に均すことができる。そして、塗布装置14は、均した後の粉体層100にバインダを塗布する。
図1に戻り、回転盤32は、回転シャフト76の外周面から径方向外側に突出する支持フレーム84に固定支持され、回転シャフト76と一体的に回転するように構成されている。回転盤32の外周面には、支持フレーム84に連結された外フレーム86が設けられており、この外フレーム86は、支持フレーム84の回転に伴い、ハウジング20のガイドレール28に案内されつつ回転する。これにより回転盤32の回転が安定化する。
また、回転盤32の空洞部80には、固定シャフト74の上部と、固定シャフト74の上部に設けられ径方向外側に突出するフランジ部88が配置される。固定シャフト74は、回転盤32の軸心に配置され、回転盤32からハウジング20の設置基部16まで上下方向に延在し、回転盤32及び回転シャフト76の回転をぶれずに回転させる支柱として機能する。また、固定シャフト74の内部には、回転盤32内の電気駆動部(供給装置12の開閉蓋48や噴射部60、ポンプ等)と、制御装置26との間を電気的に接続する図示しない導線が設けられている。
フランジ部88は、固定シャフト74から回転盤32に電気的信号(電力)を供給するために設けられ、その内部に固定シャフト74の導線が配線されている。そして、フランジ部88の外周面と、回転盤32の内壁32aの内周面との間には、電気的信号を伝達するスリップリング機構90が設けられている。
図1及び図3に示すように、スリップリング機構90は、例えば、フランジ部88の外周面に設けられる複数の接触端子92と、回転盤32の内周面に設けられる複数の回転端子94とを有する。各接触端子92は、径方向外側で対向する回転端子94に対して、弾力的に接触することが可能な板バネ等に構成されている。一方、各回転端子94は、回転盤32の上下方向に並び、且つ回転盤32の内周面の周方向全周にわたって設けられて、回転盤32と共に回転する。そのため、接触端子92は、回転端子94が回転した状態でも常に接触することができる。
なお、回転盤32に電力(電気的信号)を伝達する構成は、スリップリング機構90に限定されるものではなく、種々の手段を採用し得る。例えば、回転装置24は、固定シャフト74を備えずに、中空筒状の回転シャフト76の内部に周知のロータリコネクタ(回転接続用コネクタ)を収容して、回転シャフト76と一体的に回転する配線に電力を伝える構成でもよい。
一方、回転装置24の回転シャフト76は、固定シャフト74を内部に収容する空間を有する円筒状に形成され、その軸心(回転軸O)に固定シャフト74を配置している。固定シャフト74と回転シャフト76の間には、ベアリング75が設けられ、このベアリング75により回転シャフト76の回転が軸支される。回転シャフト76の上端には、上述した支持フレーム84が固定されている。
回転装置24の駆動機構78は、回転シャフト76を挟んだ対称位置に一対設けられている。駆動機構78は、例えば、モータ78aと、モータ78aの駆動シャフトに連結されるモータギア78bと、回転シャフト76の外周面に連結されモータギア78bと噛み合う回転シャフトギア78cとを有する。モータ78aは、制御装置26により回転駆動が制御され、モータギア78bを介して回転シャフトギア78cに駆動力を伝達する。これにより、回転シャフト76は、固定シャフト74と相対的に回転し、回転盤32を回転軸O(固定シャフト74)周りに一体的に回転させる。
また、3次元造形装置10の制御装置26は、図示しない入出力インターフェース、プロセッサ及びメモリを有する周知のコンピュータを適用することができる。この制御装置26は、図示しない制御プログラムを実行処理することで、ユーザが提供する3次元モデルデータに応じて各装置の動作を制御する。特に、制御装置26は、3次元モデルデータに応じて、複数の噴射部60から噴射するバインダの噴射タイミングや噴射量等を制御することで、粉体層100上の適宜の位置にバインダを塗布する。
ここで、回転盤32を回転させながら造形物を造形する場合には、回転盤32の回転時に、回転軸Oから径方向外側に距離(回転半径)が遠くなるにつれて、回転速度(周速度)や遠心力が増加する。従って、3次元造形装置10は、回転速度及び遠心力に基づき、バインダを塗布することが望ましい。
そのため、塗布装置14は、図4Bに示すように、各噴射部60のノズル68を回転盤32の回転方向に対向する向きに配置し、回転方向の反対側に向けてバインダを塗布する構成となっている。具体的に、本体部52は、断面視(図5参照)で、回転盤32の下面で回転盤32と連結している連結面52aと、連結面52aと反対面で造形台30に対向する下面52bと、回転方向を臨む回転先端面52cと、回転先端面52cの反対側の回転基端面52dとを有する。そして、塗布装置14は、ノズル68を回転基端面52dに設けている。
従って、噴射部60は、回転盤32の回転方向とは逆方向に、圧電素子64及び振動板66の変形量に応じた噴射速度でバインダを噴射する。このように噴射されたバインダは、回転時の回転速度に応じたトルクを受けることで、結局、噴射口70から噴射された時点の粉体層100上に落下することになる。
また図6に示すように、回転盤32の径方向に並ぶ複数の噴射部60にかかる回転速度は、回転軸O側(径方向内側)が最も遅く、径方向外側に向かうにつれて速くなる。回転速度(周速度)は、回転軸Oからの回転半径に比例するからである。従って、図6中において径方向に並ぶ4つの噴射部60を、径方向外側から径方向内側に向かって順に第1噴射部60A、第2噴射部60B、第3噴射部60C、第4噴射部60Dとした場合は、白抜きの矢印で示すように、第4噴射部60D、第3噴射部60C、第2噴射部60B、第1噴射部60Aの順に回転速度が速くなる。
そのため、塗布装置14は、各噴射部60によるバインダの噴射速度(噴射力)を、回転半径に応じた回転速度とそれぞれ釣り合うように設定している。つまり、径方向外側の第1噴射部60Aの噴射速度が最も速く、第2噴射部60B、第3噴射部60C、第4噴射部60Dの順に噴射速度が段階的に遅くなっている。これにより、各噴射部60から噴射されたバインダは、回転方向にかかるトルクが相殺されることになり、噴射口70からの噴射直後に、真下に落下する。
また、噴射口70から噴射されたバインダには、回転盤32の回転時に遠心力がかかる。このため、塗布装置14の噴射部60は、平面視で、回転盤32の径方向に対しバインダを直交する方向(回転時の各噴射口70の接線方向)に噴射させずに、接線方向よりも内側に傾いた方向にバインダを噴射する構成となっている。
そして、この遠心力も、図6中のハッチで示す矢印のように、径方向内側の噴射部60が弱く、径方向外側に向かうにつれて強くなる。そのため、塗布装置14は、各噴射部60によるバインダの噴射方向を、噴射口70にかかる遠心力と釣り合うように設定している。例えば、各噴射部60は、平面視で各ノズル68を内側に傾けると共に、各噴射路72の角度が斜めに設定されることで、バインダの噴射方向を規定する。
つまり、第1噴射部60Aは、接線方向(回転方向)に対する噴射角度θ1が最も大きく設定され、最も回転軸O側にバインダを噴射する構成となっている。そして、第1噴射部60Aの噴射角度θ1、第2噴射部60Bの噴射角度θ2、第3噴射部60Cの噴射角度θ3、第4噴射部60Dの噴射角度θ4の順に、段階的に角度が小さくなるように設定されている。これにより、各噴射部60の噴射口70から吐出したバインダにかかる遠心力を相殺することができ、各噴射部60の噴射口70と同位置(同じ径方向位置)の粉体層100上に、バインダを落下させることが可能となる。
なお、塗布装置14は、噴射部60の傾斜角度θを調整可能な調整機構(図示せず)を備えていてもよい。調整機構は、個々の噴射部60の姿勢を変動させる、本体部52の姿勢を変動させる等、種々の手段を採用し得る。また、回転盤32の回転速度に基づき、制御装置26が自動的に調整機構を駆動して傾斜角度θを調整するとより好ましい。
上記の各噴射部60によるバインダの噴射状態についてまとめると、図6に示すように、バインダ噴射時における噴射速度のベクトルVs(以下、噴射ベクトルVsという)は黒い矢印で示すベクトルとなる。なお、噴射ベクトルVsのスカラー量は噴射速さである。その一方で、回転盤32の回転時にバインダ(噴射部60)にかかる、回転速度のベクトルVrは白抜きの矢印で示され、遠心力のベクトルVcはハッチの矢印で示される。
そして、噴射ベクトルVsを分解すると、回転速度のベクトルVr及び遠心力のベクトルVcと反対方向且つ同じ大きさになる。その結果、噴射部60から噴射されるバインダは、噴射時点における噴射部60の噴射口70の位置に一致した粉体層100上に滴下される。
本実施形態に係る3次元造形装置10は、基本的には、以上のように構成されるものであり、以下その作用効果について説明する。
3次元造形装置10は、図1に示す制御装置26が制御プログラムを実行することで、3次元造形装置10の各装置を連動させて造形物の造形を行う。制御プログラムは、ユーザが提供した3次元モデルデータを読み込み、このデータを造形層102毎にスライス(分割)して、バインダの塗布座標をスライスした層毎に設定する。そして、スライス層毎の塗布座標に応じて、台座装置22、供給装置12、塗布装置14及び回転装置24の動作を制御する。
詳細には、供給装置12の粉体貯留槽40から回転盤32(供給構造部42)の受容空間50に粉体を供給して、造形物の造形に必要な量の粉体を受容空間50に溜める。その後、制御装置26は、回転装置24のモータを回転駆動して、固定シャフト74の軸周りに回転シャフト76を回転させることで、造形台30と相対的に回転盤32を回転させる。さらに、制御装置26は、回転盤32の速度(角速度)が上がって一定となる、つまり等速円運動になるまで回転盤32を回転させる。
回転盤32が等速円運動になった後、制御装置26は、供給装置12による造形台30上への粉体の供給、塗布装置14による造形台30上へのバインダの塗布、及び台座装置22による造形台30の下降を連動させて、造形層102の形成及び積層を行う。制御時において、供給装置12の開閉蓋48の開閉を行う電気的信号、及び塗布装置14の各噴射部60によるバインダの噴射を行う電気的信号は、上述したスリップリング機構90を介して回転盤32内に送られる。
造形層102を一層形成する場合には、回転盤32の回転下に、供給口46が造形領域30aの一端に対向したタイミングで開閉蓋48を開放して、造形領域30aに粉体を供給する。また供給口46が造形領域30aの他端に達するタイミングで開閉蓋48を閉塞して、粉体の供給を停止する。さらに、供給口46の回転方向基端側に設けられたヘラ82は、造形領域30aに供給された粉体層100を均して平坦面とする。
そして、制御装置26は、回転盤32の回転下に、塗布装置14(本体部52)が造形領域30a上の所定位置(塗布座標により設定された位置)に移動すると、回転盤32の径方向に並ぶ噴射部60のうち適宜の噴射部60を動作させてバインダの噴射を行う。図6に示すように、各噴射部60は、回転盤32の回転速度及び遠心力に応じた噴射ベクトルVsでバインダを噴射する。これにより、所定タイミングで噴射口70から噴射されたバインダは、そのタイミングに噴射口70が位置した場所(噴射部60の設置点)、つまり塗布座標に応じた粉体層100上に精度よく滴下される。結果として、塗布装置14は、塗布面積が狭いドット状のバインダを粉体層100に塗布して、塗布座標に基づく結合部104を粉体層100に高精度に形成することができる。
バインダの塗布後、制御装置26は、台座装置22のシリンダ機構36を駆動して、造形台30を所定量(一層の造形層102分)下降させる。造形台30の下降は、バインダの塗布後であれば供給口46が粉体を供給している間でもよく、少なくともヘラ82が粉体層100を均す前に下降させればよい。そして、制御装置26は、次の造形層102を形成するため、上記と同様に、粉体の供給及びバインダの塗布を行い、以下同様の動作を繰り返して造形物を造形する。
ここで、図7Aに示すように、供給装置212及び塗布装置214が造形台230の上方を往復動(並進運動)する従来の3次元造形装置210は、1層の造形層102の形成毎に、供給装置212及び塗布装置214の移動を停止する動作を繰り返していた。特に、3次元造形装置210は、図7Cに示す供給装置212及び塗布装置214の速度が増加又は低下する間(移動開始時付近及び移動停止時付近)は、速度が安定しないため造形作業を実施していない。そのため、3次元造形装置210は、時間的損失が増加して、造形物の造形に時間がかかることになる。
これに対し、本実施形態に係る3次元造形装置10は、図7Bに示すように、回転盤32を等速円運動で回転させた状態で、供給装置12の粉体の供給及び塗布装置14のバインダの塗布を行う。すなわち、図7Dに示すように、移動開始後は、回転盤32の回転を停止することなく、供給口46と本体部52(複数の噴射部60)を、時間差をもって繰り返し造形台30に対向させて造形層102を積層していく。従って、3次元造形装置10は、供給装置12及び塗布装置14の移動開始時や移動停止時における時間的損失がなくなり、造形物の造形作業の短時間化を図ることができる。
以上のように、3次元造形装置10は、簡単な構成によって、供給装置12と塗布装置14の移動を止めることなく、粉体の供給及びバインダの塗布を繰り返して、造形層102を効率的に形成していくことができる。また、3次元造形装置10は、造形層102の積層方向と直交する面方向に、造形台30を移動させないようにすることが可能となり、造形台30に対しバインダを良好に塗布して、造形物を精度よく造形することができる。
この場合、塗布装置14は、回転盤32の回転方向よりも回転軸O側に傾斜させてバインダを塗布することで、回転盤32の回転時に塗布装置14にかかる遠心力の影響を抑えることができる。これに加えて、複数の噴射部60が回転軸Oから径方向外側に向かうにつれて回転軸O側への傾斜を大きくしてバインダを噴射するので、径方向に異なる遠心力に対応することができる。従って、造形材料に対し、複数の噴射部60の離間幅に応じてバインダを正確に塗布することができる。さらに、塗布装置14は、バインダの噴射方向の傾斜角を、遠心力を相殺する角度に設定することで、遠心力の影響を殆どなくすことが可能となる。そのため、噴射口70の径方向同位置にバインダを落下させることになり、設定した塗布座標上にバインダをより正確に塗布することができる。
そして、塗布装置14は、回転方向の反対側に向けてバインダを塗布することで、回転盤32の回転時に塗布装置14にかかる回転速度(周速度)の影響を抑えることができる。これに加えて、複数の噴射部60が回転軸Oから径方向外側に向かうにつれて噴射速度を速めてバインダを噴射することで、径方向に異なる回転速度の影響に対応することができる。従って、造形材料に対し、バインダの塗布面積の広がりを抑えて、バインダを正確に塗布することができる。さらに、塗布装置14は、回転速度を相殺する速度にバインダの噴射速度を設定することで、回転速度の影響を殆どなくすことが可能となる。よって、設定した塗布座標上にバインダをより一層正確に塗布することができる。
また、3次元造形装置10は、回転盤32が等速円運動となった状態で粉体の供給とバインダの塗布とを行うことで、塗布装置14にかかる遠心力や回転速度が安定化するので、さらに精度よく造形作業を行うことが可能となる。さらにまた、台座装置22は、造形層102を形成する毎に造形台30を移動させるので、回転盤32側を回転と共に回転軸O方向に移動させることがなくなる。よって、3次元造形装置10の構成を簡素化することができる。
なお、本発明に係る3次元造形装置10は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形例及び応用例をとり得る。例えば、図8及び図9に示す変形例に係る3次元造形装置10は、バインダの塗布速度(噴射速度)に応じて塗布装置14Aの本体部52Aを回転可能としている。なお、塗布装置14A以外の構成は、上述した3次元造形装置10の各構成と同一であり、その詳細な説明は省略する。
この場合、本体部52Aは、回転盤32の径方向に沿った回転軸を基点に回転盤32に対して相対回転するように構成されている。より詳細には、本体部52Aは、ノズル68が回転方向の基端側を臨む基端指向位置と、ノズル68が造形台30(粉体層100)を臨む下方指向位置との間、すなわち90°を回転することが可能となっている。
そのため、塗布装置14Aは、制御装置26の制御下に、本体部52Aを回転駆動させる回転駆動部96を有する。回転駆動部96は、本体部52Aを軸支する軸支部材96a、サーボモータ等の駆動源96bと、駆動源96bの回転駆動力を本体部52Aに伝達する回転伝達機構96cとを有する。回転伝達機構96cは、本変形例において本体部52Aの角部に連結されたワイヤであり、駆動源96bは、ワイヤの長さを制御することで、軸支部材86aに軸支された本体部52Aを回転させる。また、本体部52Aの下面52bと回転先端面52cの間の角部には、図示しない重りが埋め込まれてワイヤにテンションをかけている。なお、回転駆動部96の構成は、特に限定されず、本体部52Aを回転させ得る適宜の機構(例えば、ギア機構)を適用してよい。
上記のように構成された塗布装置14Aは、制御装置26の制御下に、本体部52Aの姿勢をバインダの塗布速度に応じて自動的に設定することができる。例えば、制御装置26は、回転盤32の回転速度(周速度)に基づき、噴射部60の噴射速度を遅くした場合には、本体部52Aの角度を基端指向位置から所定角度(45°)傾けて、ノズル68を傾斜させた姿勢とする(図9の2点鎖線参照)。これにより、バインダに対する回転速度の影響を、噴射速度と共に噴射方向に反映することができ、バインダをより粉体層100に正確に塗布することが可能となる。また例えば、回転盤32の回転速度が充分に遅く、バインダの塗布において回転速度や遠心力の影響がない場合には、本体部52Aを下方指向位置とし、ノズル68を造形台30に対向させることで、噴射口70の直下にバインダを塗布することも可能となる。
なお、塗布装置14Aの姿勢は、制御装置26の制御に依らず、作業者が手動で変更してもよい。また、3次元造形装置10は、噴射部60の傾斜角度θを調整可能な調整機構と、回転駆動部96とを連動させることで、回転盤32の回転速度やバインダの塗布量等に基づき、適切な噴射方向に設定することもできる。
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。