JP6250288B2 - T細胞レセプターおよびその利用 - Google Patents

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Description

本発明は、HLA-A*24:02に拘束された癌抗原を認識するT細胞レセプター(T cell receptor, 以下、「TCR」と称する)、およびHLA-A*24:02に拘束された癌抗原の検出や癌治療などにおける当該TCRの利用に関する。
日本国内では毎年約35万人が、癌が原因で死亡しており、約70万人が新規に癌と診断されている。癌治療は、手術・抗癌剤・放射線治療の3本柱を中心とした標準治療が行われており、この治療後に改善が見られない場合は、癌に伴う様々な苦痛の除去を目的とした緩和医療を行う以外選択肢は存在していない。この様な日本国内の癌治療状況の中、患者本人あるいは患者の家族が更なる治療法を求めてさまよう姿は、「癌難民」と呼ばれて社会問題化している。
現在、標準治療と、緩和医療の隙間を埋める位置付けで、癌ワクチン療法の研究が盛んに行われている。癌ワクチン療法は、患者本来の免疫力を活性化して癌を消滅あるいは退縮させることを目的に行われる治療であり、米国食品医薬品局(FDA)が2010年4月に承認したProvenge(Sipuleucel-T)も癌ワクチン療法の1つである。転移性でホルモン療法抵抗性の前立腺癌患者に対して承認されたProvengeは、前立腺癌の殆どで過剰発現しているPAP(prostatic-acid phosphatase)タンパク質を用いて患者末梢血を刺激後、患者体内に移入する治療法である。癌ワクチン療法の成否は患者本来の免疫力に依存するため、様々な標準療法を受けて患者の症状が悪化する前に実施することができれば、より効果的に奏功すると考えられている。将来的には抗癌剤療法に代わる治療選択肢として、あるいは抗癌剤と併用可能な治療法として承認されることが望まれている。
癌ワクチン療法は、抗原非特異的な治療法と抗原特異的な治療法の2つに大別される。抗原非特異的な免疫療法は、免疫賦活作用のあるビシバニルやクレスチン、結核死菌(BCG-CWS)等を用いて1970年代から始まった。1980年代にはIL-2等のサイトカインを用いた免疫療法や、非特異的に増幅させたT細胞を患者体内に戻すLAK(リンフォカイン活性化キラー細胞)療法が行われてきたが、いずれも明確な臨床的効果を上げることができず、保険診療として認められることはなかった。
1991年に患者から分離増幅させた細胞傷害性T細胞(Cytotoxic T Lymphocyte、以下、「CTL」と称する)が、癌細胞で高発現しているMAGE(melanoma antigen)と呼ばれる癌抗原を特異的に認識し、癌細胞を殺傷することが報告された(非特許文献1)。また、1994年にはCTLが、癌細胞表面上のMHC(主要組織適合性抗原、Major Histocompatibility Complex、ヒトではHLAと呼ばれる)に提示されたペプチド断片を認識して殺傷するメカニズムが報告された(非特許文献2)。その後、世界中の研究者によってHLAに提示される様々なペプチド断片が同定された。1996年にはAltmanらによって、特異的なCTLを検出することが可能なMHCテトラマー試薬が開発され(非特許文献3)、それまでは51Crリリースアッセイ法により間接的にしか検証できなかったCTLの検出を、直接的に証明することが可能になった。1998年に報告されたメラノーマ(悪性黒色腫)を対象とする癌ペプチドワクチン療法は、驚くべき臨床的成果を上げ、一気に癌免疫療法を開花させるに至った(非特許文献4)。その後、ペプチドを皮下あるいは皮内に接種する癌ペプチドワクチン療法は世界的な規模で進められている。
2004年に報告されたRosenbergらの報告では、癌ワクチン療法の奏功率は期待されたよりも低く、臨床試験の対象が末期癌患者であることを考慮すべきとの報告がなされた(非特許文献5)。これは、ペプチドワクチンを接種後、患者体内で癌細胞を攻撃するCTLが思惑通りに増幅されるかどうかは、患者自身の免疫力という要因に左右されるからである。したがって、化学療法や放射線療法で著しく免疫力が低下している状態では、当然奏効率も下がるであろうと考えられている。ペプチドワクチンを接種された患者では、その接種部位周辺に存在する抗原提示細胞と呼ばれる樹状細胞やマクロファージが、ペプチドを取り込んで細胞表面上のMHCに提示することでT細胞を活性化し、さらに所属リンパ節からも抗原提示細胞がリクルートされてT細胞を活性化するステップが必要である。抗癌剤や放射線療法で免疫力が著しく低下した患者では、抗原提示細胞の数が減少していたり、正常に機能していないことも想定され、抗癌効果が限定される一因と考えられている。そこで、これら樹状細胞やマクロファージといった抗原提示細胞を、体外で分離・培養増幅し、予め抗原を提示させた状態で患者に接種する樹状細胞療法が行われている。しかしながら、この方法を用いても、ペプチドワクチン療法と同様に、免疫力が低下した患者では体内のT細胞の量がそもそも不十分であったり、あるいは十分活性化されないため、効果が限定される場合もあると考えられている。
続いて、ペプチドワクチンや樹状細胞療法の欠点を補う目的で、体外で活性化させたT細胞を患者体内に戻すCTL移入療法が実施されている。この方法では、血中に細胞を移入するため、専用の培養施設(CPC、Cell Processing Center)が必要になる。煩雑な細胞培養を繰り返すため、例えば自動培養装置などの開発も進んでいるが、体外で特異的なCTLを如何に効率よく短期間で増幅させるかという非常に難しい培養技術が必要である。
T細胞はその細胞表面上に発現しているTCRを介して、抗原提示細胞や癌細胞、感染細胞などの標的細胞表面上に提示されているMHC分子と抗原ペプチドの複合体(以下、「MHC/ペプチド複合体」と称する)を認識して結合することで作用する。CD8陽性T細胞は、MHC class I分子/抗原ペプチドの複合体のみに結合し(MHC class I拘束性)、CD4陽性T細胞はMHC class II分子/抗原ペプチドの複合体のみにしか結合できない(MHC class II拘束性)とされている。MHC class I分子はほとんどの有核細胞と血小板に発現しているが、MHC class II分子は限られた一部の細胞しか発現していない。このためCD4陽性T細胞はMHCクラスII分子を発現した樹状細胞やB細胞、活性化T細胞などとは結合できるが、これら以外の腫瘍細胞や感染細胞などには直接結合することができない。しかしながら、遺伝子操作によってMHC class I拘束性とされるCD8陽性T細胞(CTL)由来のTCR遺伝子をMHC class II拘束性とされるCD4陽性CD8陰性T細胞に導入すると、このT細胞は対応抗原をパルスした抗原提示細胞とCD8分子非依存的に反応して活性化し、細胞傷害性活性を発揮することが示された。また、非特異的な抗腫瘍活性をもつ末梢血リンパ球に癌抗原特異的CTL由来のTCR遺伝子を導入することにより、特異的に癌を傷害できることが報告されている(非特許文献6)。そこで、特異的なCTLから単離されたTCR遺伝子を末梢リンパ球に人為的に発現させ、人工的なCTLを作製して患者体内に戻す、TCR遺伝子治療が積極的に試みられている(非特許文献7)。
約20年間に、癌、感染症、自己免疫疾患や移植に関連するタンパク質由来のペプチド断片(CTLエピトープ)が非常に多く同定されている。同一のタンパク質由来のCTLエピトープであっても、HLA型によって提示されるペプチド断片の種類は異なり、このことは一般にCTLエピトープのHLA拘束性と呼ばれている。
癌ワクチン療法を行う上で、対象患者に対してどの癌抗原由来のCTLエピトープを選択するかということは非常に重要なポイントである。CTLエピトープは、非常に多様性に富んだHLA型の中でも、広く人種間で保持されているHLA型の拘束性を受けていることが望ましい。例えば、HLA-Aは、1527種類のタンパク質が登録されているが、1018名の日本人のHLA型を分析した論文によれば、0.1%以上の保有率を有するHLA-A型は21種類の遺伝子型が存在する(非特許文献8)。その中でもHLA-A*24:02は36.2%の頻度で検出されることから、日本人の60〜70%が保有していると考えられており、このように頻度の高いHLA型に拘束性を受けるCTLエピトープの同定は非常に有意義である。
非常に多くのCTLエピトープが報告される中で、癌抗原特異的な75種類のCTLエピトープについて9つの項目で評価した結果が2009年に報告されている(非特許文献9)。9項目とは、(a)臨床成績、(b)免疫原性、(c)抗原と発癌との関係、(d)特異性、(e)発現量、(f)幹細胞での発現、(g)抗原を発現していた患者の数、(h)エピトープの数、(i)細胞内局在である。この報告によれば、WT1が75種類の癌抗原の中で最も有望な癌ワクチン療法のCTLエピトープであると報告されている。
対象患者でどの癌抗原に対するワクチン療法を実施すべきであるかという点については、ワクチン療法を開始する前に診断されることが望ましい。例えば、HLA-A*24:02拘束性のWT1ペプチドワクチン療法を行うには、まず対象患者のHLA型がHLA-A*24:02であることが必須条件となる。HLA型検査は、臓器移植や骨髄移植では必須の検査であり、様々な施設で実施されている。また、標的となる癌細胞表面上にHLA-A*24:02拘束性のWT1ペプチドが提示されていることがCTLによる認識において必須であることから、HLA-A*24:02拘束性のWT1ペプチドワクチン療法を行うには、このことが証明されることが最も望ましい。しかしながら、現時点では直接的に証明する検査方法は存在せず、間接的な検査が行われている。例えばWT1の場合は、生検試料を用いて定量的PCR法でWT1 mRNAの発現量を確認する方法や、抗WT1抗体を用いて細胞内でのWT1タンパク質の発現を確認する方法、抗HLA抗体を用いてHLAの発現を確認する方法が利用されている。直接的に証明するためのツールとして研究されているものには、MHCにペプチドが結合した状態を特異的に認識する抗体(以下、「抗pMHC抗体」と称する)や、TCRを利用したTCRテトラマーや、1本鎖化したTCRを利用したscTCR(single chain TCR)マルチマーなどが存在する。
抗pMHC抗体に関しては、1989年にペプチドが提示されたMHC class IIを特異的に認識する抗体が報告され(非特許文献10)、1997年にマウスのMHC class I分子であるH-2KbにOVA(ovalbumin)由来ペプチドが提示された状態を認識する抗体が報告され(非特許文献11)、多くの研究者が同様の抗体を取得する試みを開始した。
MHC/ペプチド複合体を構成する分子は、分子量約45kDaのMHCと、約12kDaのβ2m(β2-microglobulin)が非共有結合した状態に、例えばMHC class Iに提示されるペプチドであれば、8〜11個程度のアミノ酸が結合している。この提示されたペプチドの違いだけを特異的に認識する抗体をハイブリドーマ法で取得することは大変難しく、実際に、過去20年間に数種類の抗体しか報告されていない。
例えば、1996年に、免疫したマウス由来のライブラリーを使用したファージディスプレイ法によりMHC/ペプチド複合体に対する抗体を取得したという報告がある(非特許文献12)。続けて2000年には免疫されていないヒト由来のライブラリーからHLA-A1/MAGE-A1複合体特異的な抗体を取得したという報告がなされている(非特許文献13)。この様にして得られた抗体は、細胞表面上で人工的にペプチドを結合させた場合は反応性を示すことができる。しかしながら、細胞表面上に自然な状態で内在性のペプチドが提示されている場合に反応性を示すことができる抗体の開発は大変難しいことが知られている。CTLは1個の標的細胞の細胞表面上に発現している数万個のMHC/ペプチド複合体の中から、特異的に認識できる数個から10個程度のMHC/ペプチド複合体と特異的に結合することで活性化し、細胞傷害性活性を発揮すると考えられている。この現象を特異的なCTLを用いずに検出するためには、1個の細胞当たり、同じく数個から10個程度のMHC/ペプチド複合体に対して結合する試薬を開発し、これを分析機器で検出しなければならないが、例えばフローサイトメトリー法で細胞表面に発現するタンパク質の解析を特異的な抗体を用いて行う場合でも、1個の細胞当たりの対象タンパク質の発現が100個未満の場合は、解析結果からその分子が発現していると判断することが難しいケースが多く、現行の分析機器では、検出感度が十分ではない可能性が指摘されている。
可溶性のTCRを利用するMHC/ペプチド複合体の検出系は古くから考えられていたが(非特許文献14)、TCRを構成するタンパク質α鎖、β鎖を、機能的な組み換えタンパク質複合体としてその立体構造を保持した状態で取得することの難しさや、TCRとMHC/ペプチド複合体の結合力の弱さからその実用性は低いと思われた。しかしながらMHC テトラマー試薬合成技術と同様に、TCRを4量体化することで実用的に使用できることが2004年に報告されている(非特許文献15)。2006年には、α鎖とβ鎖のヘテロ2量体を形成しているTCRタンパク質を、Vα、Vβ、およびCβを連結させた一本鎖TCR(scTCR)に改変し、これを多量体化することで、MHC/ペプチド複合体を特異的に検出することが可能な試薬を製造することに成功している(非特許文献16)。
Science 1991. 254: 1643-1647 Science 1994; 264: 716-719 Science, 1996; 274: 94‐96 Nat Med, 1998; 4: 321-327 Nat Med, 2004; 10: 909-915 J.Immunol., 2003; 171: 3287-3295 Science 2006; 314: 126-129 Immunogenetics, 2005; 57: 717-729 Clin. Cancer Res., 2009; 15: 5323-5337 Nature, 1989; 338: 765-768 Immunity, 1997; 6: 715-726 PNAS, 1996; 93: 1820-1824 PNAS, 2000; 97: 7969-7974 J Mol Biol, 1994; 242: 655-669 Nat Biotechnol, 2004; 22: 1429-1434 J. Immunol. 2006; 176: 3223-3232
本発明は、野生型のWT1特異的ペプチドがHLA-A*24:02に提示された状態および変異型のWT1特異的ペプチドがHLA-A*24:02に提示された状態の双方を認識することができるTCRおよび該TCRをコードするDNAを提供することを目的とする。
癌抗原特異的CTLの存在頻度は非常に低い。本発明者らによる健常人の末梢血を用いた検証では、その存在頻度は、比較的頻度が高いと思われるHLA-A*24:02拘束性のWT1特異的CTLの場合でも、末梢血から定法に従い分離した末梢血単核球(PBMC)約1×107個当たり1個の計算となった。これは末梢血約10mLに1個のWT1特異的CTLしか存在しない計算になる。従って、目的のTCR遺伝子を有するCTLを得るには、CTLを増殖培養するなどの工夫が必要である。
また、TCRの遺伝子配列は極めて多様性に富んでいる。TCRは、T細胞表面に存在する膜表面タンパク質であり、α鎖/β鎖から成るヘテロ二量体と、γ鎖/δ鎖から成るヘテロ二量体の二種類が同定されている。TCR遺伝子は免疫グロブリン遺伝子と同様に、細胞膜表面へ表出する時に切断されるシグナル配列、可変領域(V:variable)、多様性領域(D:diversity)、結合領域(J:joining)と呼ばれる分子の多様性を生じるVドメインと、細胞外定常領域、膜貫通領域、細胞内領域を含む定常領域(C:constant)からなるCドメインにより構成されている。これらのアミノ酸配列はT細胞ごとに異なっていることから、TCRは抗原認識分子であると同時に個々のT細胞の目印にもなっている。このTCRの多様性は後天的なTCR遺伝子の再構成によって生みだされており、TCRβとδ鎖はV−D−Jを、TCRαとγ鎖はV−Jを再構成することが知られている。IMGTのデータベースに登録されている配列を連結させるだけでも、α鎖はVα(105種類)、Jα(66種類)、Cα(1種類)で6,930種類の組合せがあり、β鎖は、Vβ(129種類)、Dβ(3種類)、Jβ(16種類)、Cβ(2種類)で12,384種類の組合せになる。そして、α鎖とβ鎖の組合せは、8.6x107個の組合せとなる(但し、T細胞の多様性は、各領域の結合部位における塩基の挿入や欠失が多く存在するため、正確に算出することは難しく、1015の多様性とする報告もある)。従って、目的とするTCR遺伝子の正しいα鎖とβ鎖の組合せを同定するためには、単一のTCRを有するCTLを増殖させる工夫が必要である。
そこで、本発明者らは、まず、限界希釈条件下で効率良くWT1ペプチド特異的なCTLを増殖し、培養する方法につき鋭意検討を行った。ここで、WT1特異的CTLの存在頻度に関する上記本発明者らの知見によれば、PBMCをウェル当たり1〜5×105個となるように96ウェルプレートに分注した場合、目的のCTLを有するウェルは、1枚のプレートに付き0〜2個となる。従って、この方法により取得されたCTLは、もともと1個のCTL由来である可能性が非常に高い。実際、本発明者らは、96ウェルプレートに上記細胞数となるように分注したCTLに、WT1ペプチド刺激を加えて2週間培養することによりCTLを増殖させ、その後、MHCテトラマー試薬を用いて分析することにより、野生型のWT1特異的ペプチドがHLA-A*24:02に提示された状態および変異型のWT1特異的ペプチドがHLA-A*24:02に提示された状態の双方を認識することができるCTLを取得することに成功した。
取得したCTLの細胞傷害性活性の検証を行ったところ、野生型のWT1特異的ペプチドがHLA-A*24:02に提示されているリンパ芽球様細胞株および変異型のWT1特異的ペプチドがHLA-A*24:02に提示されているリンパ芽球様細胞株の双方に対して、細胞傷害性活性を示した。 また、取得したCTL細胞集団のTCRのレパトア解析を行ったところ、そのVβ鎖がサブグループVβ5.1に属することが判明した。
また、本発明者らは、取得したCTLから抽出した全RNAから逆転写酵素反応にてcDNA合成後、PCR法等によりTCRα鎖とβ鎖の全長配列を決定した。さらに、TCRα鎖とβ鎖を培養細胞に発現させ、HLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬による分析を行うことにより、HLA-A*24:02に提示されたWT1ペプチドを特異的に認識する正しいα鎖とβ鎖の組み合わせを同定した。
正しいα鎖とβ鎖の組み合わせを発現させた形質転換細胞株は、HLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬によって効率的に検出することができる一方、該形質転換細胞株を用いることにより、HLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬や、WT1特異的ペプチドがHLA-A*24:02に提示されている細胞を効率的に検出することができた。
従って、本発明は、野生型のWT1特異的ペプチドがHLA-A*24:02に提示された状態および変異型のWT1特異的ペプチドがHLA-A*24:02に提示された状態の双方を認識することができるTCRおよび該TCRをコードするDNA、並びにそれらの利用に関するものであり、より詳しくは以下の発明を提供するものである。
(1)配列番号:1から3に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質と配列番号:5から7に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質とからなる、T細胞レセプター複合体。
(2)配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質と配列番号:8に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質とからなる、(1)に記載のT細胞レセプター複合体。
(3)配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質と配列番号:15に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質とからなる、(1)に記載のT細胞レセプター複合体。
(4)HLA-A*24:02に拘束された野生型WT1ペプチドおよびHLA-A*24:02に拘束された変異型WT1ペプチドを認識する、(1)から(3)のいずれかに記載のT細胞レセプター複合体。
(5)配列番号:1から3に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質。
(6)配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有する、(5)に記載のT細胞レセプターα鎖タンパク質。
(7)配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有する、(5)に記載のT細胞レセプターα鎖タンパク質。
(8)配列番号:5から7に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質。
(9)配列番号:8に記載のアミノ酸配列を有する、(8)に記載のT細胞レセプターβ鎖タンパク質。
(10)配列番号:15に記載のアミノ酸配列を有する、(8)に記載のT細胞レセプターβ鎖タンパク質。
(11)(5)から(7)のいずれかに記載のT細胞レセプターα鎖タンパク質をコードするDNA。
(12)(8)から(10)のいずれかに記載のT細胞レセプターβ鎖タンパク質をコードするDNA。
(13)以下の(a)から(c)のいずれかに記載のDNAを発現可能に含有するベクター。
(a)(11)に記載のDNA
(b)(12)に記載のDNA
(c)(11)に記載のDNAおよび(12)に記載のDNA
(14)以下の(a)から(c)のいずれかに記載のDNAが導入された形質転換細胞。
(a)(11)に記載のDNA
(b)(12)に記載のDNA
(c)(11)に記載のDNAおよび(12)に記載のDNA
(15)(11)に記載のDNAおよび(12)に記載のDNAが導入された形質転換細胞であって、HLA-A*24:02に拘束された野生型WT1ペプチドを結合して多量体化した分子およびHLA-A*24:02に拘束された変異型WT1ペプチドを結合して多量体化した分子によって検出することができる形質転換細胞。
(16)リンパ球である、(14)または(15)に記載の形質転換細胞。
(17)(16)に記載の形質転換細胞を有効成分とする、WT1陽性の癌を治療するための医薬組成物。
(18)以下の(a)から(c)のいずれかに記載の分子に特異的に結合する抗体。
(a)(5)から(7)のいずれかに記載のT細胞レセプターα鎖タンパク質
(b)(8)から(10)のいずれかに記載のT細胞レセプターβ鎖タンパク質
(c)(1)から(4)のいずれかに記載のT細胞レセプター複合体
(19)(1)から(4)のいずれかに記載のT細胞レセプター複合体を結合して多量体化した分子。
(20)HLA-A*24:02に拘束された野生型WT1ペプチドまたはHLA-A*24:02に拘束された変異型WT1ペプチドを検出または捕捉するための薬剤であって、(19)に記載の分子を含む薬剤。
(21)HLA-A*24:02に拘束された野生型WT1ペプチドまたはHLA-A*24:02に拘束された変異型WT1ペプチドを検出するためのキットであって、以下の(a)から(h)の少なくとも1つの構成要素を含むキット。
(a)(5)から(7)のいずれかに記載のT細胞レセプターα鎖タンパク質
(b)(8)から(10)のいずれかに記載のT細胞レセプターβ鎖タンパク質
(c)(1)から(4)のいずれかに記載のT細胞レセプター複合体
(d)(11)または(12)に記載のDNA
(e)(13)に記載のベクター
(f)(14)から(16)のいずれかに記載の形質転換細胞
(g)(18)に記載の抗体
(h)(19)に記載の分子
(22)HLA-A*24:02に拘束された野生型WT1ペプチドを結合して多量体化した分子またはHLA-A*24:02に拘束された変異型WT1ペプチドを結合して多量体化した分子の品質管理方法であって、該分子と(14)から(16)のいずれかに記載の形質転換細胞との反応性を確認する工程を含む方法。
癌患者末梢血中のWT1特異的なCTLの分析には、野生型WT1ペプチドとHLA-A*24:02を用いて合成されたMHCテトラマー試薬と、変異型WT1ペプチドとHLA-A*24:02を用いて合成されたMHCテトラマー試薬の両方を用いて、WT1ペプチドワクチン療法の有効成分であるWT1特異的CTLの分析が行われてきたが、本発明のTCRを利用することにより、野生型のWT1特異的ペプチドがHLA-A*24:02に提示された状態および変異型のWT1特異的ペプチドがHLA-A*24:02に提示された状態の双方を効率的に検出することが可能となった。本発明のTCRは、野生型のHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬と変異型のHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬との結合力の比が約2倍と少なく、かつ、HLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬との結合力が強いため、陽性と陰性の区別が明確であるという利点を有する。また、本発明のTCR分子やその形質転換細胞は、HLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬の使用条件の設定や品質管理に有用であり、また、生体試料中にWT1特異的ペプチドがHLA-A*24:02に提示されている細胞が存在するか否かを確認するためのコンパニオン診断薬として有用である。さらに、WT1に関連する癌の治療薬としても有用である。
図1Aは、2種類のCTL集団(37F8と32F3)のMHCテトラマー試薬に対する反応性を示す図である。X軸にFITC標識抗CD8抗体の染色強度(logスケール)を、Y軸にPE標識MHCテトラマー試薬の染色強度(logスケール)を示したドットプロット展開図である。各ドットプロット上部に使用したMHCテトラマー試薬の種類を示した。各ドットプロットを四分割した右上に抗CD8抗体陽性かつMHCテトラマー試薬陽性CTLの生細胞中での存在率(%)を示した。上段が37F8の結果であり、下段は32F3の結果である。 図1Bは、2種類のCTL集団(37F8と32F3)のMHCテトラマー試薬に対する反応性を示す図である。X軸にPE標識MHCテトラマー試薬の染色強度(logスケール)を、Y軸に細胞数を示したヒストグラム展開図である。各ヒストグラム展開図上部に使用したMHCテトラマー試薬の種類を示した。上段が37F8の結果であり、下段は32F3の結果である。ヒストグラム展開図中の横線はMFI(平均蛍光強度、mean fluorescence intensity)を算出したマーカーの位置を示す。 図2は、CTL細胞集団37F8の細胞傷害性活性を検出した結果を示す図である。X軸にエフェクター細胞の細胞数と標的細胞の細胞数の比(E/T 割合)を、Y軸に細胞傷害性活性(%)を示した。(a)は標的細胞にHLA-A*24:02陽性LCL(Bリンパ芽球:lymphoblastoid cell lines)を使用した場合の結果であり、(b)は標的細胞にHLA-A*24:02陰性LCLを使用した場合の結果である。 図3は、CTL細胞集団37F8のTCRのVβ領域を染色分析した結果を示す図である。図3のX軸がFTIC標識抗Vβ抗体の蛍光強度(logスケール)を、Y軸がPE標識抗Vβ抗体の蛍光強度(logスケール)を示す。四分割されたドットプロット展開図の左下領域はいずれの抗体でも染色されなかった細胞集団を示し、左上領域はPE標識抗Vβ抗体で染色された細胞集団を示し、右上領域はPEとFITCの両方で標識された抗Vβ抗体で染色された細胞集団を示し、右下領域は、FTIC標識抗Vβ抗体で染色された細胞集団を示す。各抗Vβ抗体が特異的に染色するVβ領域のサブグループ名を図中に表記した。 図4は、CTL細胞集団37F8のHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬に対する反応性を検出した結果を示す図である。陽性画分(Positive fraction)は磁気カラムに保持された細胞集団であり、フロースルー(flow-through)は磁気カラムに保持されなかった細胞集団である。X軸にFITC標識抗CD8抗体の染色強度(logスケール)を、Y軸にPE標識MHCテトラマー試薬の染色強度(logスケール)を示した。各ドットプロットを四分割した左上と右上に存在する細胞集団がMHCテトラマー試薬陽性の細胞集団であり、左下と右下に存在する細胞集団がMHCテトラマー試薬陰性の細胞集団である。 図5は、TCRα鎖特異的なフォワードプライマーのミックスとTCRα鎖のCα領域に設計した1種類のリバースプライマーを用いて得られたcDNAを鋳型にPCRを実施した結果を示す電気泳動写真(上)、およびIMGTに登録されているTRBV5-1のシグナル配列特異的なフォワードプライマーと2種類のTCR Cβ領域に特異的なリバースプライマー(TRBC1とTRBC2)を用いて得られたcDNAを鋳型にPCRを実施した結果を示す電気泳動写真(下)である。 図6は、37F8由来のTCRα鎖(A12-3とA41)と1種類のβ鎖(B5-1)の組合せを発現させた細胞の、HLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬に対する反応性を検出した結果を示す図である。コントロールとして、HLA-A*02:01 Mart-1特異的TCRのα鎖とβ鎖を用いた。X軸にFITC標識抗CD8抗体の染色強度(logスケール)を、Y軸にPE標識MHCテトラマー試薬の染色強度(logスケール)を示した。 図7は、37F8由来のHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬と特異的に結合するTCRα鎖とTCRβ鎖の構造を示す図である。 図8は、薬剤耐性のTCR遺伝子発現形質転換細胞株SK37のMHCテトラマー試薬に対する反応性を検出した結果を示す図である。X軸にFITC標識抗CD8抗体の染色強度(logスケール)を、Y軸にPE標識MHCテトラマー試薬の染色強度(logスケール)を示した。各ドットプロット上部に使用したMHCテトラマー試薬の種類を示した。各ドットプロットを四分割した右上に、生細胞中での、抗CD8抗体陽性かつMHCテトラマー試薬陽性の細胞の存在率(%)を示した。 図9は、SK37を用いてHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬の性能を評価するために行った添加回収試験の結果を示す図である。X軸にFITC標識抗CD8抗体の染色強度(logスケール)を、Y軸にPE標識MHCテトラマー試薬の染色強度(logスケール)を示した。(a)はHLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬を用いて染色した結果である。SK37の各混合率のドットプロット展開図を四分割した右上に陽性率を示した。なお、SK37が100%の時の陽性率が77.5%であったことから、混合率から期待される陽性率を、ドットプロット展開図を四分割した右上のカッコ内に示した。(b)はHLA-A*24:02 WT1(変異型)テトラマー試薬を用いて染色した結果である。SK37が100%の時の陽性率が82.0%であったことから、混合率から期待される陽性率を、ドットプロット展開図を四分割した右上のカッコ内に示した。 図10Aは、SK37を用いてHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬の濃度依存的染色性を評価した結果を示す図である。X軸にFITC標識CD8抗体の蛍光強度(logスケール)を、Y軸にHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬の蛍光強度(logスケール)を展開したドットプロット展開図である。上段は、HLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬の染色結果を、下段はHLA-A*24:02 WT1(変異型)テトラマー試薬染色結果である。各ドットプロット展開図の四分割右上にMHCテトラマー試薬陽性かつCD8陽性の細胞集団の陽性率とMFIを示した。 図10Bは、SK37を用いてHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬の濃度依存的染色性を評価した結果を示す図である。MFIと試薬濃度の関係を示した。 図10Cは、SK37を用いてHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬の濃度依存的染色性を評価した結果を示す図である。陽性率と試薬濃度の関係を示した。 図11Aは、SK37を用いてHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬の濃度依存的染色性と保存安定性との関係を評価した結果を示す図である。野生型と変異型のHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬のMFIの比をまとめた。 図11Bは、SK37を用いてHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬の濃度依存的染色性と保存安定性との関係を評価した結果を示す図である。野生型と変異型のHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬の陽性率の比をまとめた。 図12は、SK37を用いて、HLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬の反応性における用時調製後の時間の影響を評価した結果を示す図である。X軸にFITC標識CD8抗体の蛍光強度(logスケール)を、Y軸にHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬の蛍光強度(logスケール)を示した。ドットプロット展開図の上に、用時調製したHLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬を冷蔵室に保存した日数を示した。各ドットプロット展開図の四分割右上にMHCテトラマー試薬陽性かつCD8陽性の細胞集団の陽性率とMFIを示した。 図13は、HLA-A*24:02 WT1特異的なTCRのα鎖とβ鎖を発現させた細胞株を利用して、抗原提示細胞を検出した結果を示す図である。該細胞株から分泌されるIL-2の濃度とLCLの細胞数との関係を示した。X軸はLCLの細胞数であり、Y軸は培養上清中に分泌されたIL-2の濃度である。 図14は、HLA-A*24:02 WT1特異的なTCRのα鎖の構造的特徴を示す図である。 図15は、HLA-A*24:02 WT1特異的なTCRのβ鎖の構造的特徴を示す図である。
<TCR複合体、TCRα鎖、TCRβ鎖>
本発明は、TCRα鎖タンパク質とTCRβ鎖タンパク質とからなるTCR複合体を提供する。本発明のTCR複合体の典型的な特徴は、HLA-A*24:02に拘束された野生型WT1ペプチドおよびHLA-A*24:02に拘束された変異型WT1ペプチドに対する認識である。
本発明における「HLA-A*24:02」は、ヒト組織適合性白血球抗原(HLA)のクラスI分子のA座にコードされており、血清学的HLA型ではA*24に分類され、アミノ酸変異を伴うサブタイプに分類され、日本人では保有頻度が最も高い型である(HLA-A*24:02のアミノ酸配列を配列番号:13に示す)。また、「HLA-A*24:02に拘束された野生型WT1ペプチド」および「HLA-A*24:02に拘束された変異型WT1ペプチド」とは、これらペプチドが細胞表面上に存在する場合、および単離もしくは精製された分子として存在する場合(例えば、多量体化されたTCR複合体にこれらペプチドが拘束された分子)の双方を含む意である。
本発明において「野生型WT1ペプチド」とは、「CMTWNQMNL」(配列番号:9)を意味し、「変異型WT1ペプチド」とは、「CYTWNQMNL」(配列番号:10)を意味する。変異型WT1ペプチドは、野生型WT1ペプチドの2番目のメチオニン(M)をチロシン(Y)に置換し、HLAとの結合性と安定性を高めたものであり、WT1特異的な抗腫瘍免疫応答をより強く誘導できる。また、変異型WT1ペプチドで誘導されたCTLが野生型WT1ペプチドを提示したHLA-A*24:02を認識して細胞傷害性活性を有することが報告されている(Cancer Immunol Immunother, 2002; 51: 614-620)。これらのペプチド断片をワクチンとして胆癌患者に接種することで、誘導されたCTLが特異的に癌を殺傷することが証明されており、数々の臨床試験が実施されている(PNAS, 2004; 101: 13885-13890)。しかしながらHLA-A*24:02拘束性の変異型WT1ペプチドを用いた臨床試験において、患者末梢血中のWT1特異的なCTLの分析には、野生型WT1ペプチドとHLA-A*24:02を用いて合成されたMHCテトラマー試薬と、変異型WT1ペプチドとHLA-A*24:02を用いて合成されたMHCテトラマー試薬の両方を用いて、WT1ペプチドワクチン療法の有効成分であるWT1特異的CTLの分析が行われている。本発明で提供されるTCRは、この両方のHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬と特異的に反応することができることを特徴とする。
本発明は、また、上記TCR複合体を構成するTCRα鎖タンパク質およびTCRβ鎖タンパク質を提供する。本発明者らにより同定されたTCR複合体を構成するTCRα鎖タンパク質は、可変領域上の相補性決定領域として、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号:2にに記載のアミノ酸配列からなるCDR2、および配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を有する。従って、本発明は、配列番号:1から3に記載のアミノ酸配列を有するTCRα鎖タンパク質を提供する。なお、本発明におけるCDRは、文献(Nucleic Acids Res. 2008 July 1; 36(Web Server issue): W503-W508)に記載の方法およびIMGT提供のソフトウェアによる解析で特定することができる。
これら相補性決定領域を含む可変領域は、当該相補性決定領域以外の領域におけるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸(例えば、数個以内のアミノ酸、3個以内のアミノ酸、2個以内のアミノ酸)が置換、欠失、付加などしていてもよいが、好ましくは配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなる可変領域である。本発明のTCRα鎖タンパク質は、好ましくは配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有する(配列番号:14は、図14に記載のTCRα鎖タンパク質からリーダー配列およびTM配列を除いたアミノ酸配列である)。
一方、本発明者らにより同定されたTCR複合体を構成するTCRβ鎖タンパク質は、可変領域上の相補性決定領域として、配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号:6にに記載のアミノ酸配列からなるCDR2、および配列番号:7に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を有する。従って、本発明は、配列番号:5から7に記載のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖タンパク質を提供する。これら相補性決定領域を含む可変領域は、当該相補性決定領域以外の領域におけるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸(例えば、数個以内のアミノ酸、3個以内のアミノ酸、2個以内のアミノ酸)が置換、欠失、付加などしていてもよいが、好ましくは配列番号:8に記載のアミノ酸配列からなる可変領域である。本発明のTCRβ鎖タンパク質は、好ましくは配列番号:15に記載のアミノ酸配列を有する(配列番号:15は、図15に記載のTCRβ鎖タンパク質からリーダー配列およびTM配列を除いたアミノ酸配列である)。
<遺伝子、ベクター、形質転換細胞>
本発明は、また、上記TCRα鎖タンパク質をコードするDNA、および上記TCRβ鎖タンパク質をコードするDNAを提供する。これらDNAを発現ベクターに組み込んで細胞に導入することにより、上記TCRα鎖タンパク質、上記TCRβ鎖タンパク質、またはこれらタンパク質からなるTCR複合体を、細胞において発現させることができる。これらタンパク質を細胞に発現させるためのベクターとしては、本実施例に示したベクターを用いることができるが、それに制限されない。例えば、2種類の遺伝子をIRESを介して単一mRNAから翻訳可能なベクターpIRES(TaKaRa Bio社)やMammalian PowerExpress System(東洋紡)のベクターなどを利用することもできる。ベクターは、上記TCRα鎖タンパク質をコードするDNAと上記TCRβ鎖タンパク質をコードするDNAのいずれかを発現可能に含有するベクターであってもよく、両者を発現可能に含有するベクターであってもよい。上記ベクターを導入する細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の細胞を用いることができる。細胞への遺伝子導入は、エレクトロポレーション法など当業者に公知の方法で行うことができる。
こうして調製された形質転換細胞は、例えば、ペプチドワクチン療法を行う際のコンパニオン診断薬として利用することが可能である。ペプチドワクチン療法を行う場合には、どのペプチドをワクチンとして使用すべきかは重要な診断情報となるが、当該形質転換細胞を用いれば、対象細胞の膜表面中にHLA-A*24:02に拘束されたWT1ペプチドが提示されているか否かを評価することができる。このような目的においては、形質転換細胞の調製に用いる細胞として、Jurkat、HPB-ALLやHPB-MLTなど、刺激に応答してサイトカインを産生する細胞を用いることができる。これにより形質転換細胞におけるサイトカインの産生を指標として、対象細胞の膜表面におけるHLA-A*24:02に拘束されたWT1ペプチドの存在を検出することが可能である(実施例10を参照のこと)。また、患者から分離した樹状細胞にペプチドを結合させ患者に接種する樹状細胞ワクチン療法が行われているが、実際に樹状細胞上の特定のHLAにペプチドが提示されていることを確認する試薬としても利用することが可能である。
本発明の形質転換細胞の他の好ましい態様は、HLA-A*24:02に拘束された野生型WT1ペプチドを結合して多量体化した分子およびHLA-A*24:02に拘束された変異型WT1ペプチドを結合して多量体化した分子によって検出することができる形質転換細胞である。
「HLA-A*24:02に拘束された野生型WT1ペプチドを結合して多量体化した分子」あるいは「HLA-A*24:02に拘束された変異型WT1ペプチドを結合して多量体化した分子」は、Science, 1996; 274: 94‐96、米国特許5,635,363号、日本特許第3506384号に記された方法により調製することができる。具体的には、HLA-A*24:02とβ2m(β2-microglobulin)の組換えタンパク質と化学合成した野生型WT1ペプチドあるいは変異型WT1ペプチドをフォールディング溶液中で撹拌することで会合させ、HLA-A*24:02とβ2mとペプチドの複合体(以下「モノマー」と称する)を形成させる。つづいて、モノマーを構成するHLA-A*24:02のC末端側の1箇所のアミノ酸に酵素反応によりビオチンを結合させる。ビオチン化されたモノマーをカラムクロマトグラフィー法で精製し、これをアビジンと反応させることで多量体化した分子を合成できる。アビジンを予めFITC(fluorescein isothiocyanate)、PE(Phycoerythrin)あるいはAPC(allophycocyanin)などの蛍光物質で標識することで、フローサイトメーターや蛍光顕微鏡を用いて、抗原特異的T細胞の検出が可能である。
「HLA-A*24:02に拘束された野生型WT1ペプチドを結合して多量体化した分子」の製品としては、例えば、T-Select HLA-A*24:02 WT1(wild) Tetramer-CMTWNQMNL-PE用時調製Kit(MBL社;受注生産)が挙げられ、「HLA-A*24:02に拘束された変異型WT1ペプチドを結合して多量体化した分子」の製品としては、例えば、T-Select HLA-A*24:02 WT1(mutant) Tetramer-CYTWNQMNL-PEやT-Select HLA-A*24:02 WT1(mutant) Tetramer-CYTWNQMNL-APC(MBL社;製品コードはそれぞれ、TS-M014-1とTS-M014-2)が挙げられる。
このような形質転換細胞の調製に用いる細胞としては、例えば、ヒト白血病由来であるJurkatの変異株で、TCRβ鎖を欠損しているJ.RT3-T3.5や、TCRα鎖を欠損しているSup-T1が挙げられる。これら細胞を用いて調製した形質転換細胞株SK37(実施例6参照のこと)は、無限の増殖性を持つ細胞株であり、感染性の心配もない。また、煩雑で特殊な培養方法により、増殖させる必要もないことから、HLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬の陽性コントロール細胞として頒布することも可能である。SK37を陽性コントロール細胞として利用することで、実験者がHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬の反応性を随時確認できるため、臨床検体で得られたデータの正確性と信頼性は非常に高くなると思われる。また、当該細胞株はフローサイトメトリーの取り込み条件の設定にも有効である。SK37を頒布する場合には、通常の液体窒素やドライアイスを利用した保存や輸送も可能であるし、フローサイトメトリー用のヒト全血コントロール細胞であるImmuno-TROLTM Cells(Beckman Coulter社)のように適切な溶液中に希釈することで冷蔵条件下での保存や輸送も可能になる。さらに凍結乾燥することで利便性を高めることも可能である(米国特許第第5,861,311号)。
本発明の形質転換細胞の他の好ましい態様は、リンパ球を利用して調製した形質転換細胞である。例えば、ヒトから末梢血リンパ球を採取し、これに遺伝子導入して、生体内に戻すことにより、癌の治療を行うことが可能である。従って、本発明は、本発明の形質転換細胞を有効成分とする、WT1陽性の癌を治療するための医薬組成物をも提供する。
治療の対象となるWT1陽性の癌としては、例えば、白血病や脳腫瘍、膵癌、腎癌中皮腫、胃癌、大腸癌、肺癌、乳癌、胚細胞癌、肝癌、皮膚癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌等の固形癌など(特許3819930号参照)が挙げられるが、これらに制限されない。
なお、調製した細胞の細胞傷害性活性は、放射性同位元素である51Crを利用して標的細胞を標識して利用するクロムリリースアッセイにより測定することが可能である(実施例2を参照のこと)。また、例えば、CFSE(同仁化学社)で標的細胞を標識するIMMUNOCYTO Cytotoxity Detection Kit(MBL社)や、標的細胞から放出されるLDH(乳酸脱水素酵素)を測定するCytotoxicity Detection Kit(Roche社)等を利用して測定することも可能である。
<抗体>
また、本発明は、上記TCRα鎖タンパク質に特異的に結合する抗体、上記TCRβ鎖タンパク質に特異的に結合する抗体、およびこれらタンパク質からなるTCR複合体に特異的に結合する抗体を提供する。
これらの抗体を用いることで細胞表面上に発現された本発明のTCRを特異的に検出することが可能である。本発明の抗体は、例えば、上記本発明の形質転換細胞や医薬品組成物の検定に使用することができる。また、本発明の形質転換細胞や医薬品組成物を製造する過程で、これらの純度を上げるための単離において使用することもできる。また医薬品組成物として投与された後、投与された患者の末梢血中における有効成分の定量に使用することもできる。
本発明の抗体は、好ましくはモノクローナル抗体である。モノクローナル抗体を生産する方法としては、代表的には、コーラーおよびミルスタインの方法(Kohler & Milstein, Nature, 256:495(1975))が挙げられる。この方法における細胞融合工程に使用される抗体産生細胞は、抗原であるTCRα鎖タンパク質またはTCRβ鎖タンパク質で免疫された動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ)の脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血白血球などである。免疫されていない動物から予め単離された上記の細胞またはリンパ球などに対して、抗原を培地中で作用させることによって得られた抗体産生細胞も使用することが可能である。ミエローマ細胞としては公知の種々の細胞株を使用することが可能である。ハイブリドーマは、例えば、抗原で免疫されたマウスから得られた脾臓細胞と、マウスミエローマ細胞との間の細胞融合により産生され、その後のスクリーニングにより、抗原に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。抗原に対するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマを培養することにより、また、ハイブリドーマを投与した哺乳動物の腹水から、取得することができる。
上記抗体をコードするDNAをハイブリドーマやB細胞などからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞(例えば哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞など)に導入することにより、抗体を組換え抗体として産生させることもできる(例えば、Antibody Production:Essential Techniques,1997 WILEY、Monoclonal Antibodies,2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS、Eur.J.Biochem.192:767-775(1990))。トランスジェニック動物作製技術を用いて、抗体遺伝子が組み込まれたトランスジェニック動物(ウシ、ヤギ、ヒツジまたはブタなど)を作製すれば、そのトランスジェニック動物のミルクから、抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を大量に取得することも可能である。
本発明の抗体は、TCRの検出のために、標識されていてもよい。標識としては、例えば、放射性物質、蛍光色素、化学発光物質、酵素、補酵素などを用いることが可能である。また、TCRの単離のために、タグが付加されていてもよい。タグとしては、例えば、磁性ビーズ、ビオチン、アビジンなどを用いることが可能である。
<TCR多量体>
本発明は、また、上記TCR複合体を結合して多量体化した分子を提供する。当該分子の調製は、例えば、次の通り、行うことができる。TCRの細胞外領域をコードするDNAを発現ベクターに組み込み、人工的にTCRα鎖およびβ鎖の組み換えタンパク質を作製し、TCRα鎖あるいはβ鎖のC末端を酵素反応を利用してビオチン化する。ビオチン化されたTCR複合体をカラムクロマトグラフィー法で精製し、これをアビジンと反応させることで多量体化した分子を調製できる。アビジンを予めFITC(fluorescein isothiocyanate)、PE(Phycoerythrin)あるいはAPC(allophycocyanin)などの蛍光物質で標識することでフローサイトメーターや蛍光顕微鏡を用いて、特異的なMHC/ペプチド複合体を発現する細胞の検出が可能である。scTCRは、TCRα鎖およびβ鎖の細胞外領域を短鎖ペプチドリンカーを利用して連結させ一本のタンパク質として発現させることで調製できる。TCRテトラマーと同様にC末端側をビオチン化して多量体化することも可能であり、また、IgGの可変領域に組み込んで多量体化することも可能である。
こうして調製された分子は、上記本発明の形質転換細胞と同様に、ペプチドワクチン療法を行う際のコンパニオン診断薬として、あるいは樹状細胞ワクチン療法を行う際に、樹状細胞上の特定のHLAにペプチドが提示されていることを確認するための試薬として利用することが可能である。さらには、癌治療目的で放射性同位元素や抗癌剤と結合され、薬物送達システム(DDS)のツールとして利用することも可能である。従って、本発明は、HLA-A*24:02に拘束された野生型WT1ペプチドまたはHLA-A*24:02に拘束された変異型WT1ペプチドを検出または捕捉するための薬剤であって、上記本発明の分子を含む薬剤をも提供する。
<検出キット>
本発明は、また、HLA-A*24:02に拘束された野生型WT1ペプチドまたはHLA-A*24:02に拘束された変異型WT1ペプチドを検出するためのキットであって、以下の(a)から(h)の少なくとも1つの構成要素を含むキットを提供する。
(a)本発明のTCRα鎖タンパク質
(b)本発明のTCRβ鎖タンパク質
(c)本発明のTCR複合体
(d)(a)または(b)のタンパク質をコードするDNA
(e)(d)のDNAを発現可能に保持するベクター
(f)(d)のDNAが導入された形質転換細胞
(g)(a)もしくは(b)のタンパク質または(c)の複合体に特異的に結合する抗体
(h)(c)の複合体を結合して多量体化した分子
ここで「HLA-A*24:02に拘束された野生型WT1ペプチド」および「HLA-A*24:02に拘束された変異型WT1ペプチド」とは、上記の通り、これらペプチドが細胞表面上に存在する場合、および単離もしくは精製された分子(例えば、多量体化されたTCR複合体にこれらペプチドが拘束された分子)として存在する場合の双方を含む意である。本発明のキットにおいては、さらに、当該キットの使用説明書が含まれていてもよい。
<WT1マルチマーの品質管理>
本発明は、また、HLA-A*24:02に拘束された野生型WT1ペプチドを結合して多量体化した分子またはHLA-A*24:02に拘束された変異型WT1ペプチドを結合して多量体化した分子の品質管理方法であって、当該分子と上記本発明の形質転換細胞との反応性を確認する工程を含む方法を提供する。本発明の品質管理方法における反応性の確認は、例えば、本実施例8や9に記載の方法で実施することができる。その結果、反応性が維持されている場合には、当該分子の品質が維持されていると評価することができ、一方、反応性が低下した場合には、当該分子の品質が劣化したと評価することができる。なお、反応性の維持は、例えば、陽性率の維持および/またはMFI(平均蛍光強度、mean fluorescence intensity)の維持を指標に判定することができる。また、いずれかの指標の低下で、その品質の欠陥点を推認し、改善策を立てることができる。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1] HLA-A*24:02 WT1ペプチド特異的CTL lineの誘導と増幅培養
本発明者らは、2003年に報告されたKaraniksらの論文(J.Immunol., 2003; 171: 4898-4904)を参考に、限界希釈条件下で効率よく癌抗原特異的CTLを増殖培養するMLPC法(mixed lymphocyte-peptide cultures)を様々な癌抗原由来ペプチドを用いて検証と改良を繰り返し、癌抗原特異的CTLの誘導法として利用してきた。本発明者らは、癌抗原特異的CTLの存在比率は、健常人由来の末梢血単核球(PBMC) 1×107個中に1個未満であることを経験的に見出している。例えば96-ウェルプレートの1個のウェルに5×105個のPBMCを添加してCTLを誘導した場合、96個のウェルの内、最大でも5個未満のウェルで特異的CTLの誘導が確認される。従って、この条件は限界希釈条件と言える。MLPC法はPBMCに抗原ペプチドを添加して培養するだけの方法であり、血液提供者の体内に存在するメモリーT細胞、あるいはメモリー/エフェクターT細胞を刺激して増殖させていると考えられる。従って試験管内で調製した抗原提示細胞を利用した場合に心配されるような、ナイーブT細胞の人為的なプライミングによる人為的なT細胞を刺激増殖してしまうリスクは低いと考えられる。本発明者らは、HLA-A*24:02 WT1ペプチド特異的CTL lineの誘導を、次の通り、本発明者らが経験的に見出している限界希釈条件下で行った。
HLA-A*24:02を保持することが予め分かっている3名分のヒトPBMCをCellular Technology社より購入した。PBMCを1〜5×106個/mLの密度になるようにCTL培地(5% human AB serum/100 U/mL Penicillin/100μg/mL Streptomycin/1×GlutaMAX/55μM 2-Mercaptoethanol/25mM HEPES/PRMI-1640)で調整し、最終濃度が10μg/mLになるようにHLA-A*24:02 WT1 mutant peptide(CYTWNQMNL, MBL社)を添加し、よく攪拌後、96-ウェルU底プレートの1個のウェル当たり100μLずつ分注した。その後、37℃の5% C02インキュベータ内で48時間培養した。48時間後に、100U/mLのIL-2(塩野義製薬)を含むCTL培地を100μL添加して培養を続けた。CTL培地の交換は、培養の状態を観察しつつ、約半量の培地を吸引除去し、50 U/mLのIL-2添加CTL培地を加えて実施した。最初の1週間は1回程度、1週間経過後は、2〜3日に一度交換を行った。
培養開始から10〜14日後に、各ウェルから70μLの細胞浮遊液を回収し、HLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー-CMTWNQMNL-PE(以下HLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬と略す、MBL社)とHLA-A*24:02 WT1(変異型)テトラマー-CYTWNQMNL-PE(以下、「HLA-A*24:02 WT1(変異型)テトラマー試薬」と略す、MBL社)で染色した。染色手順は次の通りである。
回収した細胞浮遊液にFCMバッファー[2% FBS(fetal bovine serum)/0.05% NaN3/PBS]を加え、400×gで5分間遠心した。上清を吸引除去後、再度FCMバッファーを適量加え400×gで5分間遠心後、上清を吸引除去した。20μLのFCMバッファーと10μLのClear Back Human FcR blocking reagent(MBL社)を加え良く攪拌後、室温にて5分間静置した。10μLのHLA-A*24:02 WT1(変異型)テトラマー試薬を加え穏やかに攪拌後、2〜8℃の冷蔵室で30分間反応させた。10μLのCD8(clone T8)-FITC(Beckman Coulter社)を加え、冷蔵室で20分間反応させた。適量のFCMバッファーを加え400xgで5分間遠心した。上清を注意深く捨て、7-AAD(Beckman Coulter社)を1%添加した400μLのFCMバッファーを加えて細胞を懸濁し、フローサイトメーター(FACSCalibur、BD biosciences社)で細胞を取込み分析した。分析データは、CellQuest software(BD biosciences社)あるいはFlowJo(Tree Star社)を用いて解析した。この結果、HLA-A*24:02 WT1(変異型)テトラマー試薬で染色された細胞集団が検出されたウェルを選択し、さらに各35μLの細胞浮遊液を回収し、同様に、HLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬との反応性を確認した。MHCテトラマー試薬のコントロールとしてHLA-A*24:02 HIV env テトラマー-RYLRDQQLL-PE(MBL社)を用いて染色を行い、非特異的な染色ではないことを確認した。この試薬は、MHCにHLA-A*24:02を、抗原ペプチドにHIV(ヒト免疫不全ウィルス)envelope由来のペプチドを用いて合成しており、これに特異的なCTL集団を検出定量することが可能である。日本国内ではHIV罹患率が低いことから、MHCテトラマー試薬のネガティブコントロールとしてしばしば利用されている。CTLの存在頻度は基本的に低いためMHC-テトラマー試薬陽性細胞の有無を判定する場合、このようなネガティブコントロールMHCテトラマー試薬をコントロールに用いることは非常に重要である。この染色試験の結果、7個のウェルで野生型と変異型の両方のHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬に反応性を示す細胞集団が得られた。
これらの細胞集団は、WT1(変異型)ペプチドをパルス処理した抗原提示細胞を用いて約2〜3週間間隔で再刺激を行い、約2ヶ月間培養を続けた。抗原提示細胞には、ヒトB細胞をEBウィルスで不死化させたリンパ芽球様細胞株(lymphoblastoid cell lines, LCL)を主に用いたが、抗CD3抗体やPHA(phytohemagglutinin)やIL-2等のT細胞刺激薬剤で活性化させた活性化T細胞を利用することもできる。これらの抗原提示細胞は、HLA-A*24:02を細胞表面上に発現していることが重要であり、HLA-A*24:02が発現しているかどうかの確認は、例えば抗HLA-A24抗体(MBL社)などを用いてフローサイトメトリー法で確認できる。あるいは、抗原提示細胞を用いずに抗CD137抗体によるCTLの増殖作用を利用して直接的にCTLに増殖刺激を加える方法などを用いることもできる(WO2008/023786)。
ペプチドパルス処理は次のように行った。HLA-A*24:02陽性の抗原提示細胞を2% FBS/PBSで一回洗浄後、1mLのペプチドパルス用培地[0.1% HSA(ヒト血清アルブミン)/55μM 2-Mercaptoethanol/RPMI 1640]もしくはAIM-V medium(Life Technologies社)に懸濁し、最終濃度が10μg/mLになるようにWT1(変異型)ペプチドを添加し、良く攪拌後、およそ15分間隔で穏やかに混合させながら室温にて1時間インキュベーションした。この操作を行うことで、抗原提示細胞上のHLA分子にWT1(変異型)ペプチドが結合すると考えられる。続けて適量のペプチドパルス用培地を添加し、良く攪拌後、400×gで5分間遠心した。遠心後、上清を注意深く廃棄した。過剰量のペプチドを完全に除去する目的でこの洗浄処理をさらに2回実施後、適量のCTL培地に再懸濁し細胞数を数えた。これらの抗原提示細胞はX線照射あるいはマイトマイシン処理等で増殖能を損失させたておくことが重要であり、X線照射はペプチドと抗原提示細胞を混合後1時間室温でインキュベーションする時に同時に行うことも可能である。マイトマイシン処理は、ペプチドパスル処理を行う前に実施することが望ましい。ペプチドパスル処理した抗原提示細胞は、HLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬に反応性を示す細胞集団の細胞数に対して1/10倍量〜等量を添加した。
野生型と変異型の両方のHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬に反応性を示し、2ヶ月間順調に培養することができたCTL細胞集団は、2種類(37F8と32F3)であった。
図1に2種類のCTL集団(37F8と32F3)のMHCテトラマー試薬に対する反応性を示した。図1Aは、X軸にFITC標識抗CD8抗体の染色強度(logスケール)を、Y軸にPE標識MHCテトラマー試薬の染色強度(logスケール)を示したドットプロット展開図である。各ドットプロット上部に使用したMHCテトラマー試薬の種類を示した。各ドットプロットを四分割した右上に抗CD8抗体陽性かつMHCテトラマー試薬陽性CTLの生細胞中での存在率(%)を示した。上段が37F8の結果であり、下段は32F3の結果である。
抗CD8抗体陽性かつHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬特異的なCTLが細胞集団中に占める割合は、37F8が97%であり、32F3が35〜39%であった。HLA-A*24:02 HIV envテトラマー試薬での陽性率が0%であることから、抗CD8抗体陽性かつHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬陽性細胞集団は、特異的なCTL集団と考えられる。
図1Bは、X軸にPE標識MHCテトラマー試薬の染色強度(logスケール)を、Y軸に細胞数を示したヒストグラム展開図である。各ヒストグラム展開図上部に使用したMHCテトラマー試薬の種類を示した。上段が37F8の結果であり、下段は32F3の結果である。ヒストグラム展開図中の横線はMFI(平均蛍光強度、mean fluorescence intensity)を算出したマーカーの位置を示す。MFIは、PE標識MHCテトラマー試薬とCTL細胞表面に発現しているTCRとの結合力を示唆する情報であり、MFIが高いほど結合力が強い、あるいは1個あたりの細胞表面に発現しているTCRの分子数が多いと考えられる。
PE標識MHCテトラマー試薬陽性集団のMFIは、HLA-A*24:02 WT1(変異型)テトラマー試薬で染色した場合は、37F8は1,425であり、32F3は、1,587であった。一方、HLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬で染色した場合は、37F8は703であり、32F3は、392であった。
37F8は野生型と変異型のHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬によるMFIの比が約2倍であり、32F3の場合は4倍であったこと、HLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬の検出においてMFIが大きい方が陽性と陰性の区別が明確であること、HLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬陽性細胞が全生細胞集団に占める割合が大きいことから、これ以降の解析は37F8で実施した。
[実施例2] 37F8の細胞傷害性活性の確認
37F8にはHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬と反応するTCRを有する細胞が97%の比率で存在することが明らかとなったが、HLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬は人工的に合成されたHLA-A*24:02とβ2-ミクログロブリンとWT1ペプチドの3者複合体で構成されているため、実際の細胞表面上に発現している3者複合体をこのTCRが認識できるか確認する必要がある。さらにこのTCRを有するCTLが、TCRと3者複合体との結合により活性され、3者複合体を発現している細胞に対して細胞傷害性活性を発揮できるかどうかは、37F8由来のTCRのα鎖とβ鎖を人為的に導入発現させたリンパ球が生体内で機能するかを推測する上で重要である。そこで、HLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬陽性細胞集団として検出可能なHLA-A*24:02拘束性WT1ペプチド特異的なCTL細胞集団(37F8)の細胞傷害性活性を測定した。
細胞傷害性活性の確認は37F8細胞をエフェクター細胞とし、HLA-A*24:02陽性LCLとHLA-A*24:02陰性LCLを標的細胞に用いて定法に従って実施した。
以下に具体的な実験方法を示す。HLA-A*24:02陽性あるいは陰性のLCLは100μLの培地中で3.7MBqの51Cr(Na2CrO4、日本アイソトープ協会)を添加し、5%CO2インキュベータ内で37℃で1時間標識した。2%FBS/PBSで一回洗浄後、1mLのペプチドパルス用培地に懸濁し、最終濃度が1μg/mLになるようにWT1(野生型)ペプチドまたはWT1(変異型)ペプチドを添加し、良く攪拌後、室温で1時間インキュベーションした。過剰量のペプチドパルス用培地を添加し、良く攪拌後、400×gで5分間遠心した。遠心後、上清を注意深く廃棄した。過剰量のペプチドを除去する目的でこの洗浄処理をさらに2回実施後、適量のCTL培地に再懸濁し、細胞数を数えた。96-ウェルV底プレートの1個のウェル当たり、2,000個の標的細胞を添加し、エフェクター細胞の量を6,000〜200,000個になるように添加し、37℃の5%CO2インキュベータ内で4時間培養した。96-ウェルV底プレートは400×gで5分間遠心後、上清100μLを回収し、ガンマカウンターで放射活性を測定した。
細胞傷害性活性(%)は次の計算式で算出した。[試料解離(cpm)−自然解離(cpm)]/[最大解離(cpm)−自然解離(cpm)]×100 最大解離(cpm)は標的細胞浮遊液に2%TritonX-100を加えたもの,自然解離(cpm)は標的細胞だけの浮遊液の測定値とした。細胞傷害性活性(%)値は3試料の平均値±標準誤差で示し,2群間の統計処理はt検定で行い、危険率p<0.05をもって統計的有意とした。
結果を図2に示した。X軸にエフェクター細胞の細胞数と標的細胞の細胞数の比(E/T 割合)を、Y軸に細胞傷害性活性(%)を示した。図2aは標的細胞にHLA-A*24:02陽性LCLを使用した場合の結果であり、図2bは標的細胞にHLA-A*24:02陰性LCLを使用した場合の結果である。WT1(変異型)ペプチドをパルスしたLCLでは最大73%の細胞傷害性活性が認められ、WT1(野生型)ペプチドをパルスしたLCLの場合では20%の細胞傷害性活性が認められた。一方、ペプチドをパルスしていないLCLの場合およびHLA-A*24:02陰性LCLの場合は、細胞傷害性活性はほとんど検出されなかった。
[実施例3] WT1特異的CTL細胞集団37F8のTCRのレパトア解析
本発明者らは、遺伝子を取得する過程でPCRを繰り返し行うことによる予測不可能な変異の挿入を避けるために、遺伝子情報を抽出する前に取得可能な情報を得ておくべきと考えた。この目的のため、TCRβ鎖のVβ領域を特異的に認識することが可能な抗体を用いたフローサイトメトリーにより24種類のVβ領域をレパトア分析することが可能なキット(IOTest beta Mark TCR Vβ Repertoire Kit、Beckman Coulter社)を利用した。このキットに含まれているTCRVβ領域に特異的な抗体は、Vβ1、Vβ2、Vβ3、Vβ4、Vβ5.1、Vβ5.2、Vβ5.3、Vβ7.1、Vβ7.2、Vβ8、Vβ9、Vβ11、Vβ12、Vβ13.1、Vβ13.2、Vβ13.6、Vβ14、Vβ16、Vβ17、Vβ18、Vβ20、Vβ21.3、Vβ22、Vβ23の24種類である。このキットはTCRβ鎖のVβ領域の約70%を検出可能であり、TCRβ鎖のVβ領域のみの情報が判別できる。
データーシートの操作手順に従いHLA-A*24:02 WT1ペプチド特異的なCTL細胞集団37F8を染色分析した結果を図3に示した。このキットには8本の染色試薬が入っており、37F8を8本の試薬で染色することで24種類のVβ領域の分析が可能である。1本の試薬には、FTIC標識抗Vβ抗体、PE標識抗Vβ抗体、PEとFITCの両方で標識された抗Vβ抗体が含まれている。図3に示すドットプロット展開図は、X軸がFTIC標識抗Vβ抗体の蛍光強度(logスケール)を、Y軸にPE標識抗Vβ抗体の蛍光強度(logスケール)を示す。四分割されたドットプロット展開図の左下領域はいずれの抗体でも染色されなかった細胞集団を示し、左上領域はPE標識抗Vβ抗体で染色された細胞集団を示し、右上領域はPEとFITCの両方で標識された抗Vβ抗体で染色された細胞集団を示し、右下領域は、FTIC標識抗Vβ抗体で染色された細胞集団を示す。各抗Vβ抗体が特異的に染色するVβ領域のサブグループ名を図中に表記した。この結果、37F8細胞集団に含まれる殆ど全ての細胞はVβ5.1であり、極少量のVβ5.3とVβ11を有する細胞が含まれていることが明らかになった。図1Aにも示したように、37F8は抗CD8抗体陽性かつHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬陽性細胞の存在比率が97%であることからも、37F8に含まれるHLA-A*24:02 WT1ペプチド特異的なTCRβ鎖のVβ領域はサブグループVβ5.1に属すると考えられた。
[実施例4] WT1特異的CTL細胞集団37F8由来のTCR遺伝子のクローニング
−37F8からのHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬陽性細胞の単離−
37F8は図1Aに示した通り、約97%の細胞集団がHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬に対して反応性を示す。図3に示したTCRVβ鎖のレパトア解析の結果、大多数の細胞はVβ5.1であるが、極少量のVβ5.3とVβ11を有する細胞が含まれている。Vβ5.3とVβ11を有する細胞はその存在比率から明らかに目的とするTCRを有する細胞集団ではなく、これらの細胞からの遺伝子情報が混入すれば、TCRのα鎖とβ鎖の正しい組合せを決定する上で大きな障害となる。特にPCR法では、プライマーの設計により、遺伝子増幅効率が大きく影響を受け、増幅効率の高いPCR産物が必ずしも鋳型中のcDNA量を反映しているとはいえない。特に多様性に富んだTCR遺伝子全長を取得するために設計するプライマーの設計自由度は、通常の定量的PCR用に供されるプライマーの設計自由度と比較して著しく低い。そこで、PCRを行う前に、37F8に含まれる約3%のHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬と反応しない細胞集団を排除することとした。
まず、37F8細胞浮遊液を回収し、400×gで5分間遠心した。上清を吸引除去後、FCMバッファーを適量加え400×gで5分間遠心後、上清を吸引除去した。20μLのFCMバッファーと10μLのClear Back Human FcR blocking reagentを加え良く攪拌後、室温にて5分間反応させた。10μLのHLA-A*24:02 WT1(変異型)テトラマー-CYTWNQMNL-PEを加え穏やかに攪拌後、4℃で15分間反応させた。10μLのCD8(clone T8)-FITCを加え、4℃で15分間反応させた。適量のFCMバッファーを加え400xgで5分間遠心した。上清を注意深く捨て、anti-PE microbeads(Miltenyi Biotec社)を加え4℃で15分反応させた。anti-PE microbeadsは、MHCテトラマー試薬の蛍光標識物であるPE(Phycoerythrin)に対するモノクローナル抗体が磁気ビーズに結合したものであるため、MHCテトラマー試薬で染色された細胞集団を効率的に分離濃縮することが可能である。細胞分離は、自動磁気分離装置autoMACS(Miltenyi Biotec社)を用いて実施した。陽性画分に回収された細胞集団とフロースルーの細胞集団の一部を、直ちにフローサイトメーターで分析した。
結果を図4に示した。陽性画分は磁気カラムに保持された細胞集団が濃縮されている。フロースルーは磁気カラムに保持されなかった細胞集団である。X軸はFITC標識抗CD8抗体の染色強度(logスケール)を、Y軸にPE標識MHCテトラマー試薬の染色強度(logスケール)を示す。各ドットプロットを四分割した左上と右上に存在する細胞集団がMHCテトラマー試薬陽性の細胞集団であり、左下と右下に存在する細胞集団がMHCテトラマー試薬陰性の細胞集団である。フロースルーにはHLA-A*24:02 WT1(変異型)テトラマー-CYTWNQMNL-PE陰性の細胞集団が存在するが、陽性画分には殆ど存在しないことが明らかになった。陽性画分の細胞集団を回収し凍結保存した。
−TCR遺伝子のクローニング−
本発明者らは、IMGTに登録されているTCRの遺伝子情報を網羅的に分析し、全てのTCRのα鎖とβ鎖の全長をクローニングできるように多数のプライマーを設計した。この方法の優位点は1回のPCRで全長配列が取得できることである。この方法では、PCR産物を基に得られたDNA配列情報に従ってプライマーを設計する必要が無いため、変異が含まれる可能性は最小限にとどめられている。しかしながら、プライマーの組合せが膨大になり、少ないcDNAを用いて検証できるPCRの回数は限られている。そこで、PCR反応をお互いに阻害しないことを確認したプライマーを10〜11種類混合させたプライマーミックスを用いてPCRを実施し、遺伝子産物が得られたプライマーミックスの全ての組合せでPCRを実施して、全長配列が得られるように工夫した。プライマーミックスの組合せとPCRの反応温度条件の設定は、既にTCRのレパトアが報告されているJurkat細胞、未処理のヒトPBMC、および特定のVβ鎖を発現するT細胞の3種類の細胞群から調製したcDNAを用いて行った。特定のVβ鎖を発現するT細胞は、ヒトPBMCよりVβ鎖特異的抗体を用いて自動磁気分離装置で分離濃縮して調製した。
前述の凍結保存した細胞集団から、RNeasy Protect Mini Kit(QIAGEN社)を用いて全RNAを回収した。続いて、SuperScript III First-Strand Synthesis System(Life Technologies社)のマニュアルに従ってOligo(dT)20プライマーを用いて、cDNAを調製した。TCRα鎖の全長配列を得るために、網羅的に設計した各TCRα鎖特異的なフォワードプライマーを10-11種類ずつ混合した、4種のプライマーミックスとTCRα鎖のCα領域に設計した1種類のリバースプライマーを用いて得られたcDNAを鋳型にPCRを実施した。その結果、2種類のプライマーミックスでPCR産物が得られた。2種類のプライマーミックスに含まれる個々のフォワードプライマーとCα領域に設計した1種類のリバースプライマーを用いて、得られたcDNAを鋳型にPCRを実施した。図3の結果より、TCRβ鎖の全長配列は、TCR VβではTRBV5-1であることから、IMGTに登録されているTRBV5-1のシグナル配列特異的なフォワードプライマーと2種類のTCR Cβ領域に特異的なリバースプライマー(TRBC1とTRBC2)を用いて得られたcDNAを鋳型にPCRを行った。増幅されたPCR産物を1%アガロースゲル電気泳動で展開した結果を図5に示した。TCRα鎖ではTRAV12-2、TRA12-3、TRAV41で全長配列のPCR産物が得られ、TCRβ鎖では、TRBC1とTRBC2の両方でPCR産物が得られた。PCR産物はアガロースゲルから切り出し、MinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いて精製し、TOPO TA Cloning Kit(Life Technologies社)を用いてpCR2.1-TOPOに遺伝子断片を挿入後、定法に従ってDNA配列を解析した。
その結果、TCRα鎖ではTRAV12-2とTRA12-3のPCR産物は全く同一のDNA配列であり、TCRβ鎖では、TRBC1とTRBC2のPCR産物も同一のDNA配列であった。判読した配列情報はIMGTのデータベースを用いてレパトア解析を行った。37F8由来のTCRα鎖は、2種類同定され、Vα-Jαの構成は、(A12-3; TRAV12-3/TRAJ52/TRAC(以下、「A12-3」と記す)およびTRAV41/TRAJ47/TRAC(以下、「A41」と記す)であった(図14参照のこと)。37F8由来のTCRβ鎖は、1種類同定され、Vβ/Dβ/Jβ/Cβの構成は、TRBV5-1/TRBD2/TRBJ2-5/TRBC2(以下、「B5-1」と記す)であった(図15参照のこと)。
[実施例5] 培養細胞での発現とTCRα鎖とβ鎖の組合せ確認
37F8由来の2種類のTCRα鎖(A12-3とA41)と1種類のβ鎖(B5-1)の正しい組合せを解明する為に、哺乳動物細胞用発現ベクターであるpcDNA3.1(Invitrogen社)とpEF6/Myc-His(Invitrogen社)にcDNAをサブクローニングした。コントロールとして、HLA-A*02:01 Mart-1特異的TCRのα鎖およびβ鎖のcDNAを人工合成し、同様に発現ベクターを構築した(J. Immunol., 2008; 181: 1063-1070)。
遺伝子導入に使用した培養細胞株は、ヒト白血病由来であるJurkatの変異株で、TCRβ鎖を欠損しているJ.RT3-T3.5や、TCRα鎖を欠損しているSup-T1を使用した。これら2種の細胞株がTCRを細胞表面に発現していないことは、抗TCR pan α/β抗体(Beckman Coulter社)を用いたフローサイトメトリーで確認した。遺伝子導入は、Gene pulser(Bio-Rad社)を用いてエレクトロポレーション法で実施した。3日間静置培養後、細胞集団の一部を分取し、HLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬にて染色し、フローサイトメーターにて分析した。
その結果を図6に示した。X軸はFITC標識抗CD8抗体の染色強度(logスケール)を、Y軸はPE標識MHCテトラマー試薬の染色強度(logスケール)を示す。pcDNA3.1とpEF6/Myc-Hisを遺伝子導入した細胞集団(−)とpcDNA3.1−A41とpEF6/Myc-His−B5-1を遺伝子導入した細胞集団WT1 TCR A41/B5-1は、HLA-A*24:02 WT1(変異型)テトラマー試薬陽性の細胞集団は確認できなかった。一方、pcDNA3.1−A12-3とpEF6/Myc-His−B5-1を遺伝子導入した細胞集団WT1 TCR A12-3/B5-1は、HLA-A*24:02 WT1(変異型)テトラマー試薬で5.6%の陽性細胞が確認された。またコントロールとしてMart-1 TCRのα鎖とβ鎖を同様に遺伝子導入した細胞集団では、HLA-A*02:01 Mart-1テトラマー試薬で16.7%の陽性細胞集団が確認された。
以上より、37F8由来のHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬と特異的に結合するTCRは、TCRα鎖がTRAV12-3/TRAJ52/TRACであり、TCRβ鎖がTRBV5-1/TRBD2/TRBJ2-5/TRBC2であることが明らかとなった。同定したTCRの略図を図7に示した。
[実施例6] TCR遺伝子発現形質転換細胞(SK37)の樹立
陽性像が得られた細胞集団WT1 TCR A12-3/B5-1に、各ベクターの耐性薬剤であるG418(Roche社)と、Blastisidin(Invitrogen社)を添加し、薬剤耐性のTCR遺伝子発現形質転換細胞株SK37を樹立した。SK37のMHCテトラマー試薬に対する反応性を検証した結果を図8に示した。X軸にFITC標識抗CD8抗体の染色強度(logスケール)を、Y軸にPE標識MHCテトラマー試薬の染色強度(logスケール)を示した。各ドットプロット上部に使用したMHCテトラマー試薬の種類を示した。各ドットプロットを四分割した右上に存在する抗CD8抗体陽性かつMHCテトラマー試薬陽性細胞の生細胞中での存在率(%)を示した。
SK37はHLA-A*24:02 WT1(変異型)テトラマー試薬に対して86.2%の細胞集団が反応しMFIは459であった。HLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬に対しては79.9%の細胞集団が反応し、MFIは282であった。野生型と変異型のHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬によるMFIの比は、約1.6倍であり、この結果は、37F8細胞集団の場合が約2倍であったこと(実施例1)と比較して、若干、比が小さくなっていた。一方、MHCテトラマー試薬のコントロールとして用いたHLA-A*24:02 HIV envテトラマー-RYLRDQQLL-PEでは特異的な染色は認められなかった。以上より、37F8細胞集団に97%の存在していたHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬と結合するTCR遺伝子情報は、正しくSK37に反映されたと考えられる。
[実施例7] SK37を用いたHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬の評価(添加回収試験)
SK37細胞を用いたHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬の評価の正確性を確認する目的で添加回収試験を行った。実験方法は、SK37とTCR遺伝子を導入していない親株細胞を混合し、HLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬で染色後、その陽性率と混合率から期待される陽性率とを比較した。培養中のSK37と親細胞株から20μLの細胞浮遊液を分取し、20μLのTrypan Blue Stain 0.4%(Life Technologies社)を加え血球計算盤にて生細胞数をカウントした。SK37と親細胞株を混合し、SK37の存在比率が100%、50%、25%、15%、10%、5%、2.5%、1%、0%の細胞集団を調整した。各細胞集団から5×105個細胞をエッペンドルフチューブに分取し、400×gで5分間遠心処理後、上清を注意深く廃棄した。1mLのFCMバッファーを添加し、再懸濁後、400×gで5分間遠心し、上清を注意深く廃棄した。20μLのFCMバッファーと10μLのClear Back Human FcR blocking reagentを加え良く攪拌後、室温にて5分間反応させた。10μLのHLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬あるいはHLA-A*24:02 WT1(変異型)テトラマー試薬を加え穏やかに攪拌後、冷蔵室で30分間反応させた。10μLのCD8(clone T8)-FITCを加え、冷蔵室で20分間反応させた。適量のFCMバッファーを加え400×gで5分間遠心した。上清を注意深く捨て、7-AADを1%添加したFCMバッファーを400μL加えて細胞を懸濁し、フローサイトメーターで細胞を取込み分析した。FCS/SSCドットプロット展開図中で選択した領域をR1とし、FCS/7-AADドットプロット展開図での生細胞領域(即ち、7-AAD陰性細胞集団)をR2として、「R1かつR2」の細胞集団でデータの解析を行った。
結果を図9のaとbに示した。X軸にFITC標識抗CD8抗体の染色強度(logスケール)を、Y軸にPE標識MHCテトラマー試薬の染色強度(logスケール)を示した。図9のaはHLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬を用いて染色した結果である。SK37の各混合率のドットプロット展開図を四分割した右上に陽性率を示した。SK37が100%の時の陽性率が77.5%であったことから、混合率から期待される陽性率を、ドットプロット展開図を四分割した右上のカッコ内に示した。図9のbはHLA-A*24:02 WT1(変異型)テトラマー試薬を用いて染色した結果である。SK37が100%の時の陽性率が82.0%であったことから、混合率から期待される陽性率を、ドットプロット展開図を四分割した右上のカッコ内に示した。この添加回収試験の結果より、SK37細胞の混合率はHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬によって正確に陽性率として検出されることが明らかとなった。
[実施例8] SK37を用いたHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬の評価(濃度依存的染色性の検証と保存安定性の確認)
フローサイトメーターで使用するMHCテトラマー試薬の保存安定性を確認するためには、ポジティブコントロール細胞が必須である。ポジティブコントロール細胞は、常に試薬に対して同一の反応性を示すことが重要である。SK37のようにHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬が結合するTCR遺伝子が導入された安定的形質転換細胞は理想的なポジティブコントロール細胞といえる。本発明者らはSK37を利用して、MHC WT1テトラマー試薬の保存安定性試験の実施方法を検証した。MHCテトラマー試薬の保存安定性は、フローサイトメトリーで期待される陽性率が保たれる期間として評価できる。SK37の陽性率を5〜15%に調整し、定期的に試薬の希釈系列により反応性を確認し、HLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬陽性細胞とHLA-A*24:02 WT1(変異型)テトラマー試薬陽性細胞の陽性率とMFIの比を分析することで保存安定性の検証を行った。
図10に、保存安定性試験の一つの例として、SK37細胞の存在比率を12.5%に調整した細胞集団を用いてHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬製造から49日後に実施した試験データを示した。HLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬は、精製ビオチン化モノマー濃度換算で反応溶液中の濃度が、10、5、2.5、1.25、0.625、0μg/mLとなるように調整した。図10Aは、X軸がFITC標識CD8抗体の蛍光強度(logスケール)を、Y軸がHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬の蛍光強度(logスケール)を示す。上段は、HLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬の染色結果であり、下段はHLA-A*24:02 WT1(変異型)テトラマー試薬染色結果である。各ドットプロット展開図の四分割右上にMHCテトラマー試薬陽性かつCD8陽性の細胞集団の陽性率とMFIを示した。図10BにはMFIと試薬濃度の関係を示すグラフを、図10Cには、陽性率と試薬濃度の関係を示すグラフを示した。
これらの結果より、MFIがHLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬では、HLA-A*24:02 WT1(変異型)テトラマー試薬の約1/4程度であることが明らかになった。即ちHLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬を10μg/mLで使用した時のMFIと、HLA-A*24:02 WT1(変異型)テトラマー試薬を2.5μg/mLで使用した時のMFIがほぼ同等である。この比率は、興味深いことに、WT1(変異型)ペプチドをパルスしたLCLに対する細胞傷害性活性(最大73%)とWT1(野生型)ペプチドをパルスしたLCLに対する細胞傷害性活性(最大20%)の比率と同程度である(図2参照のこと)。この様な測定を経時的に繰り返して、野生型と変異型のHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬のMFIの比をまとめたグラフを図11Aに示す。MFIの比は最終試薬濃度5μg/mL未満では著しくばらついており、正確な染色データが得られないことを示している。また野生型と変異型のHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬の陽性率の比をまとめた図11Bのグラフでも、同様に最終試薬濃度5μg/mL未満では正確な染色データが得られないことを意味している。このように経時的に反応性を確認し、試薬の有効期限と推奨使用量を設定するためにもSK37は有用である。
[実施例9] SK37を用いたHLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬の評価
HLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬は、使用しているWT1(野生型)ペプチドのHLAに対する結合性が低いため、製造後2日間以内に沈殿物が確認される。この不安定性は試薬をHPLCで分析した場合に、MHCテトラマー試薬の有効成分を示すピーク面積の減少から把握することも可能である。しかしながら、HPLCの分析データとフローサイトメーターを用いた染色性データとの関連性は、ポジティブコントロール細胞が存在しなかったため、長い間不明であった。そこで、HLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬を使用する直前に調整できる用時調製キットを開発し、用事調製後に2〜8℃に冷蔵保存した場合の経時的な反応性の変化を、SK37を用いて検証した。
結果を図12に示した。X軸にFITC標識CD8抗体の蛍光強度(logスケール)を、Y軸にHLA-A*24:02 WT1テトラマー試薬の蛍光強度(logスケール)を示す。ドットプロット展開図の上に、用時調製したHLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬を冷蔵室に保存した日数を示した。各ドットプロット展開図の四分割右上にMHCテトラマー試薬陽性かつCD8陽性の細胞集団の陽性率とMFIを示した。
用時調製キットでHLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬を調製した直後(day 0)と比較して、調製後、冷蔵室に静置保存し、44日経過した試薬と71日経過した試薬では著しく反応性が低下していることが明らかになった。
なお、本実施例以外の実施例中に使われているHLA-A*24:02 WT1(野生型)テトラマー試薬は全て用事調製後24時間以内にデータを取得した。
[実施例10] TCRのα鎖とβ鎖を利用した抗原提示細胞の検出
本実施例では、実施例5で示したJurkat細胞亜株にHLA-A*24:02 WT1特異的なTCRを安定的に発現させた細胞株(以下、「JSK37」と称する)を利用し、該細胞におけるIL-2の産生を指標に、細胞表面のHLAに目的ペプチドが提示されていることを検査することが可能かを検証した。なお、Jurkat細胞は、これまでに、抗CD3抗体とPMAの刺激によりIL-2を産生することが報告されている(J. Immunology, 1984; 133: 1123-1128)。
HLA-A*24:02陽性LCLにWT1(野生型)ペプチド、またはWT1(変異型)ペプチドをパスルして細胞数を数えた。1×105個のJSK37細胞と、ペプチドをパルスしていない16×104個のLCL、あるいはペプチドをパルスした0.125×104個、0.5×104個、2×104個、8×104個、または16×104個のLCLとを調整し、200μLの培地中でU底の96-ウェルプレートで混合培養し、37℃、5%CO2インキュベータで24時間培養した。培養後、U底の96-ウェルプレートを400×gで5分間遠心し、150μLの上清を取り、Human IL-2 Quantikine ELISA Kit(R&D Systems社)を用いてIL-2の濃度を測定した。
結果を図13に示した。X軸にLCLの細胞数を、Y軸に培養上清中に分泌されたIL-2の濃度を示した。JSK37は、WT1ペプチドをパルスしたLCLを認識し、細胞数依存的にIL-2を産生することが明らかになった。このことは、患者由来の生検試料を用いて同様の実験を行うことで、生検試料に含まれる細胞集団の細胞膜表面上のHLA-A*24:02にWT1ペプチドが提示されていることを判定できることを意味している。
本発明により提供されたTCRは、野生型のWT1特異的ペプチドがHLA-A*24:02に提示された状態および変異型のWT1特異的ペプチドがHLA-A*24:02に提示された状態の双方を認識することができる。本発明のTCRを発現させた細胞や本発明のTCRを多量体化した分子は、ペプチドワクチン療法を行う場合のコンパニオン診断薬として、また、樹状細胞ワクチン療法を行う場合に樹状細胞のHLAに目的のペプチドが提示されているか否かを確認するための試薬として利用しうる。また、癌細胞へ薬物を送達するためのツールとしても利用しうる。さらには、WT1テトラマー試薬の品質管理にも利用しうる。従って、本発明は、主として医療分野および関連する研究分野に大きく貢献しうるものである。
配列番号1
<223> α鎖 CDR1
配列番号2
<223> α鎖 CDR2
配列番号3
<223> α鎖 CDR3
配列番号4
<223> α鎖 可変領域
配列番号5
<223> β鎖 CDR1
配列番号6
<223> β鎖 CDR2
配列番号7
<223> β鎖 CDR3
配列番号8
<223> β鎖 可変領域
配列番号9
<223> α鎖
配列番号11
<223> β鎖

Claims (15)

  1. 配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるCDR2、および配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質と配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるCDR2、および配列番号:7に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質とからなる、T細胞レセプター複合体。
  2. 配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質と配列番号:8に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質とからなる、請求項1に記載のT細胞レセプター複合体。
  3. 配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質と配列番号:15に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質とからなる、請求項1に記載のT細胞レセプター複合体。
  4. HLA-A*24:02に拘束された野生型WT1ペプチドおよびHLA-A*24:02に拘束された変異型WT1ペプチドを認識する、請求項1から3のいずれかに記載のT細胞レセプター複合体。
  5. 以下の(a)から(c)のいずれかに記載の組み合わせからなるDNA。
    (a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるCDR2、および配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質をコードするDNAと配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるCDR2、および配列番号:7に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質をコードするDNAとの組合せ
    (b)配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質をコードするDNAと配列番号:8に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質をコードするDNAとの組合せ
    (c)配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質をコードするDNAと配列番号:15に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質をコードするDNAとの組合せ
  6. 請求項5に記載のDNAの組み合わせを発現可能に含有するベクター。
  7. 以下の(a)から(c)のいずれかに記載の組み合わせからなるベクター。
    (a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるCDR2、および配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質をコードするDNAを発現可能に含有するベクターと配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるCDR2、および配列番号:7に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質をコードするDNAを発現可能に含有するベクターとの組合せ
    (b)配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質をコードするDNAを発現可能に含有するベクターと配列番号:8に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質をコードするDNAを発現可能に含有するベクターとの組合せ
    (c)配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターα鎖タンパク質をコードするDNAを発現可能に含有するベクターと配列番号:15に記載のアミノ酸配列を有するT細胞レセプターβ鎖タンパク質をコードするDNAを発現可能に含有するベクターとの組合せ
  8. 請求項5に記載のDNAまたは請求項6もしくは7に記載のベクターが導入された形質転換細胞。
  9. 請求項5に記載のDNAまたは請求項6もしくは7に記載のベクターが導入された形質転換細胞であって、HLA-A*24:02に拘束された野生型WT1ペプチドを結合して多量体化した分子およびHLA-A*24:02に拘束された変異型WT1ペプチドを結合して多量体化した分子によって検出することができる形質転換細胞。
  10. リンパ球である、請求項8または9に記載の形質転換細胞。
  11. 請求項10に記載の形質転換細胞を有効成分とする、WT1陽性の癌を治療するための医薬組成物。
  12. 請求項1から4のいずれかに記載のT細胞レセプター複合体の細胞外領域を結合して多量体化した分子。
  13. HLA-A*24:02に拘束された野生型WT1ペプチドまたはHLA-A*24:02に拘束された変異型WT1ペプチドを検出または捕捉するための薬剤であって、請求項12に記載の分子を含む薬剤。
  14. HLA-A*24:02に拘束された野生型WT1ペプチドまたはHLA-A*24:02に拘束された変異型WT1ペプチドを検出するためのキットであって、以下の(a)から(e)の少なくとも1つの構成要素を含むキット。
    (a)請求項1から4のいずれかに記載のT細胞レセプター複合体
    (b)請求項5に記載のDNA
    (c)請求項6または7に記載のベクター
    (d)請求項8から10のいずれかに記載の形質転換細胞
    (e)請求項12に記載の分子
  15. HLA-A*24:02に拘束された野生型WT1ペプチドを結合して多量体化した分子またはHLA-A*24:02に拘束された変異型WT1ペプチドを結合して多量体化した分子の品質管理方法であって、該分子と請求項8から10のいずれかに記載の形質転換細胞との反応性を確認する工程を含む方法。
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