しかしながら上記の従来構造では、ボールベアリングの内輪が複雑な形状であるため、ボールベアリングに別途の加工が必要となり、その加工に手間や時間がかかっていた。また、カウンタシャフトにボールベアリングを組み付ける際、軸方向の前後の組付方向(向き)を揃えて組み付ける必要がある。そのため、変速機の組立工程が増加していた。また、ボールベアリングに形成した溝部の内部にスナップリングを配置するために、スナップリングの位置に制限が生じることで、スナップリングと他の部品との隙間を無くす必要がある。そのため、スナップリングに対してボールベアリングと反対側に隣接するカラー部材(31mmカラー)が別途に必要であった。これにより、変速機の部品点数が増加していた。したがって、変速機の製造コストの低減や重量の低減を図る余地がある。
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、回転軸に取り付ける部品の特殊な形状の加工が不要となり、回転軸上に部品を取り付ける取付工程の簡素化を図ることができ、かつ、回転軸上の部品点数を少なく抑えることができる回転軸の部品取付構造、及び回転軸の部品取付方法を提供することにある。
上記課題を解決するため、本発明にかかる回転軸の部品取付構造は、回転軸(100)と、回転軸(100)の外周面(100c)に形成した溝部(101)と、溝部(101)に嵌合して回転軸(100)上に取り付けた一又は複数の部品の位置決めを行うための位置決め部材(45)と、回転軸(100)上で位置決め部材(45)に対して軸方向の一方に隣接する第1の部材(43a)と、回転軸(100)上で位置決め部材(45)に対して軸方向の他方に隣接する第2の部材(50)と、回転軸(100)上で第2の部材(50)又は該第2の部材(50)よりも軸方向の他方側に配置された他の部材(11a)に隣接して配置され、第2の部材(50)又は他の部材(11a)の軸方向の他方の端部(11d)を係止する係止部材(49)と、第2の部材(50)又は他の部材(11a)に形成されて係止部材(49)の外れを防止する外れ防止部(19)と、を備え、第2の部材(50)及び他の部材(11a)は、回転軸(100)に対して軸方向に相対移動可能に設置されており、外れ防止部(19)は、第2の部材(50)又は他の部材(11a)の端部(11d)から係止部材(49)の外径側に突出する突起状の部分であり、回転軸(100)から位置決め部材(45)を取り外した状態で、第2の部材(50)を軸方向の一方に移動させることで、外れ防止部(19)が係止部材(49)の外径側から退避する一方、第2の部材(50)を軸方向の他方に移動させて回転軸(100)に位置決め部材(45)を取り付けた状態で、外れ防止部(19)が係止部材(49)の外径側に位置するように構成したことを特徴とする。
本発明にかかる回転軸の部品取付構造によれば、回転軸から位置決め部材を取り外した状態で、第2の部材を軸方向の一方に移動させることで、外れ防止部が係止部材の外径側から退避する一方、第2の部材を軸方向の他方に移動させて回転軸に位置決め部材を取り付けた状態で、外れ防止部が係止部材の外径側に位置するように構成したことで、回転軸上に第2の部材又は他の部材を係止する係止部材を設置する際に、位置決め部材を取り付けるよりも前に予め係止部材を取り付けておき、その後、第2の部材又は他の部材の外れ防止部で係止部材の外れ止めを施した状態で位置決め部材を取り付けることができる。したがって、係止部材よりも前に回転軸に組み付ける第2の部材又は他の部材に係止部材の外れを防止する外れ防止部を設けることが可能となる。したがって、係止部材の後に回転軸に組み付ける部品に係止部材の外れ防止部を設けずに済むので、回転軸上に設置する部品の構成の簡素化を図ることができる。
また、第2の部材を軸方向の他方に移動させて回転軸に位置決め部材を取り付けた状態で、外れ防止部が係止部材の外径側に位置するように構成したことで、係止部材を外れ防止部の内径側に配置するための他の部材(間隔調整用の別部材)が不要となる。したがって、回転軸上に設置する部品の点数を少なく抑えることができ、当該回転軸を備える変速機などの部品点数の削減、構成の簡素化及び軽量化を図ることができる。
上記の点を非特許文献1に記載の従来技術に照らして説明すると、本発明にかかる上記の部品取付構造は、非特許文献1に記載のセカンダリシャフトへのアイドルギヤ、コッター、コッター外れ防止用のつば付のカラー部材(ディスタンスカラー)、1速ギヤ類(1速ギヤ及びその周辺の構成部品)、1速用クラッチ(LOWクラッチ)、カラー部材(31mmカラー)、スナップリング(係止部材)の各部品の取付構造に適用することができる。この場合、上記の外れ防止部として、1速クラッチのクラッチガイドから軸方向に沿ってスナップリングの外径側に突出するつば部を設けるようにする。これにより、当該つば部でスナップリングの外れが防止されるので、ボールベアリングの内輪にスナップリングの外れ止めを設ける必要が無くなる。したがって、スナップリングよりも後で取り付けるボールベアリングの内輪に従来設けていた溝部を省略することが可能となる。したがって、特殊加工を施していない通常のボールベアリングを用いることができるので、変速機の構成の簡素化、低コスト化を図ることができる。また、ボールベアリングの組付方向(軸方向の前後の組付方向)の区別が無くなるので、変速機の組立工程の簡素化を図ることができる。
また、スナップリングをボールベアリングの溝部の内部に配置する必要が無いので、スナップリングに対してボールベアリングと反対側に隣接するカラー部材(31mmカラー)を省略することができる。これにより、変速機の部品点数を少なく抑えることができ、構成の簡素化、低コスト化を図ることができる。
また、本発明にかかる回転軸の部品取付構造では、第2の部材(50)に対して軸方向に相対移動可能に取り付けられた移動部材(51)と、第1の部材(43a)に設けられ、軸方向の一方へ移動する移動部材(51)を当接させてその移動を規制する当接部(44)と、第2の部材(50)上に固定され、移動部材(51)が当接部(44)に当接した状態で該移動部材(51)の軸方向の他方への移動を規制する規制部材(52)と、を備え、当接部(44)と規制部材(52)との間に設置された移動部材(51)が位置決め部材(45)の外径側に配置されていることで、位置決め部材(45)の溝部(101)からの外れ防止が施されていてよい。
本発明にかかる部品取付構造では、位置決め部材を係止部材よりも後で取り付ける必要があるため、位置決め部材の外れを防止するための構造が必要となる。これに対して、上記の構成によれば、当接部と規制部材との間に設置された移動部材が位置決め部材の外径側に配置されていることで、位置決め部材の溝部からの外れ防止が施されるようにしたので、係止部材よりも後に位置決め部材を取り付ける構造でありながら、当該位置決め部材の外れ防止を施すことが可能となる。
また、本発明にかかる回転軸の部品取付構造では、位置決め部材(45)は、溝部(101)に嵌合するコッターであり、係止部材(49)は、回転軸(100)に固定するサークリップであってよい。
また、本発明にかかる回転軸の部品取付方法は、回転軸(100)と、回転軸(100)の外周面(100c)に形成した溝部(101)と、溝部(101)に嵌合させて回転軸(100)上に取り付けた一又は複数の部品の位置決めを行うための位置決め部材(45)と、回転軸(100)上で位置決め部材(45)に対して軸方向の一方に隣接する第1の部材(43a)と、回転軸(100)上で位置決め部材(45)に対して軸方向の他方に隣接し、回転軸(100)に対して軸方向に相対移動可能に設置された第2の部材(50)と、第2の部材(50)に対して軸方向に相対移動可能に取り付けられた移動部材(51)と、第1の部材(43a)に設けられ、軸方向の一方へ移動する移動部材(51)を当接させてその移動を規制する当接部(44)と、第2の部材(50)上に固定され、移動部材(51)が当接部(44)に当接した状態で該移動部材(51)の軸方向の他方への移動を規制する規制部材(52)と、回転軸(100)上で第2の部材(50)又は該第2の部材(50)よりも軸方向の一方側に配置された他の部材(11a)に隣接して配置され、第2の部材(50)又は他の部材(11a)の軸方向の一方の端部(11d)を係止する係止部材(49)と、第2の部材(50)又は他の部材(11a)の端部(11d)から係止部材(49)の外径側に突出する突起状の部分からなる外れ防止部(19)と、を備える回転軸の部品取付方法であって、溝部(101)から位置決め部材(45)を取り外した状態で、回転軸(100)上に設置した第2の部材(50)又は第2の部材(50)と他の部材(11a)を軸方向の一方へ移動させて、回転軸(100)に係止部材(49)を取り付ける第1の工程と、第2の部材(50)又は第2の部材(50)と他の部材(11a)を軸方向の他方へ移動させて外れ防止部(19)を係止部材(49)の外径側に配置する第2の工程と、移動部材(51)を軸方向の他方に配置した状態で溝部(101)に位置決め部材(45)を嵌合させる第3の工程と、移動部材(51)を当接部(44)に当接する位置まで軸方向の一方に移動させることで、該移動部材(51)を位置決め部材(45)の外径側に配置する第4の工程と、第2の部材(50)に規制部材を(52)取り付けることで移動部材(51)の軸方向の移動を規制する第5の工程と、を有することを特徴とする。
本発明にかかる回転軸の部品取付方法によれば、上記の第1の工程から第5の工程までをこの順に行うことで、回転軸上に第2の部材又は他の部材を係止する係止部材を設置する際に、位置決め部材を取り付けるよりも前に予め係止部材を取り付けておき、その後、第2の部材又は他の部材の外れ防止部で係止部材の外れ止めを施した状態で位置決め部材を取り付けることができ、その後、位置決め部材の外れ防止を施すことができる。これにより、係止部材よりも前に回転軸に組み付ける第2の部材又は他の部材の外れ防止部で係止部材の外れを防止することが可能となる。したがって、係止部材の後に回転軸に組み付ける部品に係止部材の外れを防止する外れ防止部を設けずに済むので、回転軸上に設置する部品の構成の簡素化を図ることができる。
また、位置決め部材を係止部材よりも後で取り付ける必要があるため、位置決め部材の外れを防止するための構造が必要となる。これに対して、上記の取付方法によれば、移動部材を当接部に当接する位置まで軸方向の一方に移動させることで、該移動部材を位置決め部材の外径側に配置する第4の工程と、第2の部材に規制部材を取り付けることで移動部材の軸方向の移動を規制する第5の工程とを有することで、位置決め部材の溝部からの外れ防止を施すことができるので、係止部材よりも後に位置決め部材を取り付ける取付方法でありながら、当該位置決め部材の外れ防止を施すことが可能となる。
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態の対応する構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
本発明にかかる回転軸の部品取付構造及び部品取付方法によれば、回転軸に取り付ける部品の特殊な形状の加工が不要となり、回転軸上に部品を取り付ける取付工程の簡素化を図ることができ、かつ、回転軸上の部品点数を少なく抑えることができる。
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる部品取付構造を備える変速機の回転軸(セカンダリシャフト)及び該回転軸上に設置された構成部品を示す側断面図である。また、図2は、図1のX部分の部分拡大図である。図1に示す回転軸は、車両用の自動変速機(以下、単に「変速機」と称する。)が備えるセカンダリシャフト100である。このセカンダリシャフト100を備える変速機は、図示は省略するが、当該セカンダリシャフト100と平行に延びるインプットシャフト及びカウンタシャフトと、インプットシャフト及びセカンダリシャフトとカウンタシャフトとの間に設けた複数のギヤからなる有段式の変速機構とを備えたいわゆる平行軸式の変速機である。この変速機は、インプットシャフトに入力された駆動力による回転を変速機構で変速してカウンタシャフトに出力し、当該カウンタシャフトからディファレンシャル機構を介して車両の駆動輪に伝達する構成である。
上記の変速機は、前進4速段、後進1速段の有段式の変速機であり、上記の変速機構は、互いに噛合する1速(LOW)用ギヤ組と、2速用ギヤ組と、3速用ギヤ組と、4速用ギヤ組と、リバース用ギヤ組とを有する。リバース用ギヤ組は、回転方向を逆転させるためのリバースアイドラギヤを介して互いに噛合する。これら各ギヤ組におけるドライブ側ギヤがインプットシャフト又はセカンダリシャフト100の上に配設され、ドリブン側ギヤがカウンタシャフト上に配設されている。
そして、上記の構成の変速機におけるセカンダリシャフト100上に設置した2速ドライブギヤ(以下、単に「2速ギヤ」と記す。)42や3速用アイドルギヤ(以下、単に「アイドルギヤ」と記す。)43と、1速ドライブギヤ(以下、単に「1速ギヤ」と記す。)41を含む複数の部品の取付構造及び取付方法として、本発明に係る回転軸の部品取付構造及び部品取付方法を用いることが可能である。
図1に示すように、セカンダリシャフト100は、軸方向の一方側の端部と他方側の端部とがそれぞれ第1ボールベアリング71と第2ボールベアリング72で変速機のケース5に対して回転自在に支持されている。そして、セカンダリシャフト100上には、第1ボールベアリング71側から順に、2速クラッチ(摩擦係合装置)20、2速ギヤ42、アイドルギヤ(第1の部材)43、コッター部材(位置決め部材)45、カラー部材(第2の部材)50、ワッシャー(スペーサ部材)47、1速ギヤ41、1速クラッチ(摩擦係合装置)10、スナップリング(係止部材)49が取り付けられている。以下、各部材について順に説明する。なお、以下の説明で左又は左側あるいは右又は右側というときは、セカンダリシャフト100の軸方向における図1に示す左又は左側あるいは右又は右側を指すものとする。
2速クラッチ20は、セカンダリシャフト100に固定されたクラッチガイド21を備える。クラッチガイド21は、セカンダリシャフト100上に固定された小径筒状の基部21aと、軸方向における基部21aの左端から径方向の外側に延びる側壁部21bと、側壁部21bの外径端から軸方向に沿って右側へ延びる大径筒状の外筒部21cとを一体に有している。そして、側壁部21b及び外筒部21cの内側にシリンダ室22を有し、シリンダ室22内にクラッチピストン23が軸方向に移動自在に嵌入されている。クラッチピストン23に対向してリターンスプリング24が配設されている。リターンスプリング24は、その左端がクラッチガイド21に固定された受止プレート25に係止されており、クラッチピストン23を図の左方に押圧(付勢)する。
クラッチガイド21の外筒部21cの内周側には、2速ギヤ42と一体に形成されたクラッチハブ26が配置されている。クラッチハブ26は、2速ギヤ42に対して軸方向の左側に隣接して配置されている。そして、クラッチピストン23のピストン部23aに対向する位置には、クラッチガイド21側に取り付けた複数の摩擦材とクラッチハブ26側に取り付けた複数の摩擦材とが軸方向に沿って交互に積層されてなる摩擦係合部28が配設されている。摩擦係合部28のピストン部23aと反対側の端部には、クラッチガイド21に固定されたエンドプレート27が設置されている。
セカンダリシャフト100には、潤滑油供給用の第1油路100fとクラッチ作動油供給用の第2油路100gとが設けられている。これら第1、第2油路100f,100gからそれぞれ潤滑油およびクラッチ作動油が2速クラッチ20に供給される。潤滑油供給用の第1油路100fは、クラッチガイド21に形成された第1通路21fを介してクラッチガイド21の内側に通じている。クラッチ作動油供給用の第2油路100gは、クラッチガイド21に形成された第2通路21gを介してシリンダ室22に繋がっている。
第2油路100g及び第2通路21gを通してシリンダ室22にクラッチ作動油が供給されると、作動油の油圧力によりクラッチピストン23がリターンスプリング24の付勢力に抗して右方に押圧される。これにより、ピストン部23aが摩擦係合部28をエンドプレート27に押しつける。その結果、摩擦係合部28の摩擦材が係合し、クラッチハブ26及び2速ギヤ42がクラッチガイド21と一体に回転する。こうして、2速ギヤ42による動力伝達が行われ、変速機の2速段が設定される。
このようにして2速クラッチ20により係脱される2速ギヤ42は、ラジアルベアリング33によりセカンダリシャフト100上に回転自在に保持され、軸方向の両側の第1、第2スラストベアリング31,32によりスラスト方向の位置決めがなされている。
図2に示すように、アイドルギヤ43は、2速ギヤ42(第2スラストベアリング32)に対して軸方向の右側に隣接して配置されている。アイドルギヤ43は、セカンダリシャフト100上にスプライン嵌合で固定された筒状部43aを備えている。筒状部43aの右端43bに隣接する位置には、コッター部材45が設置されている。コッター部材45は、詳細な図示は省略するが、セカンダリシャフト100の外径側で互いに対向する位置に設置した一対の半円弧状の部材からなる。このコッター部材45は、セカンダリシャフト100の外周面に形成した環状の溝部101に嵌合している。コッター部材45は、その外径側が後述するコッターカバー51で覆われており、当該コッターカバー51でコッター部材45の外れ止めが施されている。
図3(a)は、図2のA部分の部分拡大図である。同図及び図2に示すように、コッター部材45の軸方向の右側に設置したカラー部材50は、セカンダリシャフト100の外周面に回転可能に取り付けた略円筒状の部材である。カラー部材50は、左側の端面50aがコッター部材45に当接しており、右側の端面50bがワッシャー47に当接している。また、カラー部材50には、コッター部材45の外れを防止するためのコッターカバー(移動部材)51と、コッターカバー51を係止するためのスナップリング(規制部材)52とが取り付けられている。
コッターカバー(移動部材)51は、カラー部材50の外周面に摺動可能に取り付けた略円筒状の部材である。一方、アイドルギヤ43の筒状部43aの右端43bには、軸方向の左方へ移動するコッターカバー51を当接させてその移動を規制する当接部(当接面)44が設けられている。また、カラー部材50には、該カラー部材50の外周面50c上に固定されたスナップリング(規制部材)52が設置されている。スナップリング52は、コッターカバー51が当接部44に当接した状態で該コッターカバー51の軸方向の右側への移動を規制する。そして、アイドルギヤ43(筒状部43a)の当接部44とスナップリング52との間に設置されたコッターカバー51によって、セカンダリシャフト100の溝部101に嵌合しているコッター部材45の該溝部101からの外れ防止が施されている。
図2に示すように、カラー部材50の軸方向の右側に設置したワッシャー47は、カラー部材50と1速ギヤ41との軸方向のクリアランスを調整するための円環状の部材である。1速ギヤ41は、1速クラッチ10のクラッチハブ16と一体に形成されており、セカンダリシャフト100上にラジアルベアリング48で相対回転自在に支持されている。
1速クラッチ10は、セカンダリシャフト100に固定されたクラッチガイド11を備える。クラッチガイド11は、セカンダリシャフト100上に固定された小径筒状の筒状部11aと、軸方向における筒状部11aの右端の近傍から径方向の外側に延びる側壁部11bと、側壁部11bの外径端から軸方向に沿って左側へ延びる大径筒状の外筒部11cとを一体に有している。そして、側壁部11b及び外筒部11cの内側にシリンダ室12を有し、シリンダ室12内にクラッチピストン13が軸方向に移動自在に嵌入されている。クラッチピストン13に対向してリターンスプリング14が配設されている。リターンスプリング14は、その左端がクラッチガイド11に固定された受止プレート15に係止されており、クラッチピストン13を右方に押圧(付勢)する。
クラッチガイド11の外筒部11cの内周側には、1速ギヤ41と一体に形成されたクラッチハブ16が配置されている。クラッチハブ16は、1速ギヤ41に対して軸方向の右側に隣接して配置されている。そして、クラッチピストン13のピストン部13aに対向する位置には、クラッチガイド11側に取り付けた複数の摩擦材とクラッチハブ16側に取り付けた複数の摩擦材とが軸方向に沿って交互に積層されてなる摩擦係合部18が配設されている。摩擦係合部18のピストン部13aと反対側の端部には、クラッチガイド11に固定されたエンドプレート17が設置されている。
図1に示すように、セカンダリシャフト100には、クラッチ作動油供給用の油路100hが設けられている。この油路100hは、クラッチガイド11に形成された通路11hを介してシリンダ室12に繋がっている。
油路100h及び通路11hを通してシリンダ室12にクラッチ作動油が供給されると、作動油の油圧力によりクラッチピストン13がリターンスプリング14の付勢力に抗して左方に押圧される。これにより、ピストン部13aが摩擦係合部18をエンドプレート17に押しつける。その結果、摩擦係合部18の摩擦材が係合し、クラッチハブ16及び1速ギヤがクラッチガイド11と一体に回転する。こうして、1速ギヤ41による動力伝達が行われ、変速機の1速段(Low)が設定される。
上記のカラー部材50と1速ギヤ41とクラッチガイド11は、コッター部材45を取り外した状態で、セカンダリシャフト100に対して軸方向に相対移動可能に設置されている。そして、クラッチガイド11の筒状部11aに隣接してセカンダリシャフト100上に配置されたスナップリング49を備えている。
図3(b)は、図2のB部分の部分拡大図である。同図及び図2に示すように、スナップリング49は、セカンダリシャフト100の外周面100cに係合しており、クラッチガイド11の筒状部11aの右端11dを係止している。これにより、セカンダリシャフト100に対して、カラー部材50と1速ギヤ41とクラッチガイド11の軸方向の右側への移動が係止されている。また、クラッチガイド11の筒状部11aの右端11dには、軸方向の右側に突出してスナップリング49の外径側に張り出している突起状のつば部19が設けられている。このつば部19によって、スナップリング49の外れ止めが施されている。
次に、セカンダリシャフト100上に上記の2速クラッチ20及び2速ギヤ42、アイドルギヤ43、コッター部材45、カラー部材50、ワッシャー47、1速ギヤ41及び1速クラッチ10、スナップリング49の各部品を取り付ける手順(工程)について説明する。図4乃至図6は、当該手順を説明するための図である。セカンダリシャフト100に上記の各部品を取り付けるには、まず、図4(a)に示すように、上記の各部品のうちコッター部材45とスナップリング49を除いた部品を上記の記載順にセカンダリシャフト100に組み付ける。この際、各部品をセカンダリシャフト100の右端側から該セカンダリシャフト100上に取り付けてゆく。これにより、コッター部材45とスナップリング49を除く各部品がセカンダリシャフト100上に取り付けられる。この状態では、カラー部材50と1速ギヤ41とクラッチガイド11は、一体的にセカンダリシャフト100に対して軸方向に相対移動が可能である。
その後、図4(b)に示すように、セカンダリシャフト100上に設置したカラー部材50と1速ギヤ41とクラッチガイド11を軸方向の左側へ一杯に移動させることで、カラー部材50の左端50aをアイドルギヤ43の筒状部43aの右端43b(当接部44)に当接させる。この状態で、セカンダリシャフト100の外周面100cにスナップリング49を取り付ける(第1の工程)。
スナップリング49を取り付けたら、図5(a)に示すように、カラー部材50と1速ギヤ41とクラッチガイド11を軸方向の右側へ移動させることで、クラッチガイド11の筒状部11aの右端11dをスナップリング49に当接させる(第2の工程)。この状態で、クラッチガイド11(筒状部11a)に設けたつば部(外れ防止部)19がスナップリング49の外径側に張り出して配置されることで、つば部19によってスナップリング49の外れ止めが施される。
その後、図5(b)に示すように、コッターカバー51をカラー部材50に対して軸方向の右側に移動(摺動)させることで、溝部101の上方から右側に退避させる。この状態で溝部101にコッター部材45を嵌合させて取り付ける(第3の工程)。そして、図6(a)に示すように、コッターカバー51をアイドルギヤ43の当接部44に当接する位置まで軸方向の左側へ移動させることで、コッターカバー51をコッター部材45の外径側に配置する(第4の工程)。これにより、コッターカバー51によってコッター部材45の外れ止めが施される。
その後、図6(b)に示すように、カラー部材50にスナップリング52を取り付ける(嵌合する)ことで、コッターカバー51の軸方向の右側への移動を規制する(第5の工程)。これにより、コッターカバー51がアイドルギヤ43の当接部44とスナップリング52との間に挟まれた状態で係止される。したがって、コッター部材45がセカンダリシャフト100から外れるおそれが無い。また、スナップリング49もクラッチガイド11のつば部19によって外れ防止が施されているので、セカンダリシャフト100から外れるおそれが無い。以上により、セカンダリシャフト100への各部品の取り付けが完了する。
以上説明したように、本実施形態のセカンダリシャフト100の部品取付構造によれば、セカンダリシャフト100からコッター部材45を取り外した状態で、カラー部材50を軸方向の左側に移動させることで、クラッチガイド11(筒状部11a)のつば部19がスナップリング49の外径側から退避する一方、カラー部材50を軸方向の右側に移動させてセカンダリシャフト100にコッター部材45を取り付けた状態で、つば部19がスナップリング49の外径側に位置するように構成したことで、セカンダリシャフト100上にクラッチガイド11(筒状部11a)を係止するためのスナップリング49を設置する際に、コッター部材45を取り付けるよりも前に予めスナップリング49を取り付けておき、その後、クラッチガイド11(筒状部11a)のつば部19でスナップリング49の外れ止めを施した状態でコッター部材45を取り付けることができる。これにより、スナップリング49よりも前にセカンダリシャフト100に組み付けるクラッチガイド11にスナップリング49の外れを防止するためのつば部(外れ防止部)19を設けることが可能となる。したがって、スナップリング49の後にセカンダリシャフト100に組み付ける部品(第2ボールベアリング72の内輪72a)にスナップリング49の外れを防止する溝部を設けずに済むので、セカンダリシャフト100上に設置する第2ボールベアリング72など部品の構成の簡素化を図ることができる。
また、カラー部材50を軸方向の右側に移動させてセカンダリシャフト100にコッター部材45を取り付けた状態で、クラッチガイド11のつば部19がスナップリング49の49の外径側に位置するように構成したことで、スナップリング49をつば部19の内径側に配置するための他の部材(間隔調整用の別部材)が不要となる。したがって、セカンダリシャフト100上に設置する部品の点数を少なく抑えることができ、当該セカンダリシャフト100を備える変速機の部品点数の削減、構成の簡素化及び軽量化を図ることができる。
上記の点を非特許文献1に記載の従来技術に照らして説明すると、本実施形態にかかる上記の部品取付構造は、非特許文献1に記載のセカンダリシャフトへのアイドルギヤ、コッター、コッター外れ防止用のつば付のカラー部材(ディスタンスカラー)、1速ギヤ類(1速ギヤ及びその周辺の構成部品)、1速用クラッチ(LOWクラッチ)、カラー部材(31mmカラー)、スナップリング(係止部材)の各部品の取付構造に適用することができる。これにより、クラッチガイドのつば部でスナップリングの外れが防止されるので、ボールベアリングの内輪にスナップリングの外れ止めを設ける必要が無くなる。したがって、スナップリングよりも後で取り付けるボールベアリングの内輪に設けていた溝部を省略することが可能となる。これにより、特殊加工を施していない通常のボールベアリングを用いることができるので、変速機の構成の簡素化、低コスト化を図ることができる。また、ボールベアリングの軸方向の前後の組付方向の区別が無くなるので、変速機の組立工程の簡素化を図ることができる。
また、スナップリングをボールベアリングの溝部に内部に配置する必要が無いので、スナップリングに対してボールベアリングと反対側に隣接するカラー部材(31mmカラー)を省略することができる。これにより、変速機の部品点数を少なく抑えることができ、構成の簡素化、低コスト化を図ることができる。
また、本実施形態のセカンダリシャフト100の部品取付方法によれば、上記の第1の工程から第5の工程までをこの順に行うことで、セカンダリシャフト100上にクラッガイド11を係止するためのスナップリング49を設置する際に、コッター部材45を取り付けるよりも前に予めスナップリング49を取り付けておき、その後、クラッチガイド11のつば部19でスナップリング49の外れ止めを施した状態で、コッター部材45を取り付けることができる。
また、本実施形態の部品取付方法では、コッター部材45をスナップリング49よりも後で取り付ける必要があるため、コッター部材45の外れを防止するための対策が必要となる。この点、上記の取付方法によれば、コッターカバー51を当接部44に当接する位置まで軸方向の左側に移動させることで、該コッターカバー51をコッター部材45の外径側に配置する第4の工程と、カラー部材50にスナップリング52を取り付けることでコッターカバー51の軸方向の移動を規制する第5の工程とを有することで、コッター部材45の溝部101からの外れ防止を施すことができる。したがって、スナップリング49よりも後にコッター部材45を取り付ける構造でありながら、当該コッター部材45の外れ防止を施すことが可能となる。
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明にかかる回転軸の部品取付構造を平行軸式の自動変速機が備えるセカンダリシャフト上に部品を取り付ける構造に適用した例を示したが、本発明にかかる部品取付構造を適用する回転軸は、変速機の他の回転軸であってもよいし、他の部品を取り付ける取付構造であってもよい。また、変速機以外の駆動力伝達装置などが備える回転軸上に部品を取り付けるための取付構造に適用してもよい。
また、上記実施形態では、スナップリング(係止部材)49の外れを防止するためのつば部(外れ防止部)19をカラー部材(第2の部材)50よりも軸方向の右側に配置したクラッチガイド(他の部材)11に設けた場合を示したが、本発明にかかる係止部材の外れを防止するための外れ防止部は、第2の部材が係止部材に隣接している場合には、第2の部材に設けるようにする。すなわち、本発明の外れ防止部は、第2の部材、又は第2の部材よりも軸方向の他方側に位置する他の部材のうち、係止部材と隣接している部材に設けることができる。