A.実施形態:
A−1.プラズマジェットプラグの全体構成:
図1は実施形態のプラズマジェットプラグ100の全体を示す図である。図1の軸線COより右側には、プラズマジェットプラグ100の外観が図示され、軸線COの左側には、軸線COを含む面で切断した断面図が示されている。図2は、プラズマジェットプラグ100の中心電極20近傍の断面図である。図1、図2の一点破線COは、プラズマジェットプラグ100の軸線を示している。軸線COと平行な方向(図1、図2の上下方向)を、「軸線COの方向」、あるいは、単に「軸線方向」とも呼ぶ。軸線COを中心とする円の径方向を、単に「径方向」とも呼び、軸線COを中心とする円の周方向を、単に「周方向」とも呼ぶ。図1、図2における下方向を先端方向D1と呼び、上方向を後端方向D2とも呼ぶ。図1、図2における下側をプラズマジェットプラグ100の先端側と呼び、図1、図2における上側をプラズマジェットプラグ100の後端側と呼ぶ。
プラズマジェットプラグ100は、絶縁体としての絶縁碍子10と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50と、中間電極60と、を備える(図1)。
絶縁碍子10はアルミナ等を焼成して形成されている。絶縁碍子10は、軸線方向に沿って延び、絶縁碍子10を貫通する軸孔12を有する略円筒形状の部材(筒状体)である。絶縁碍子10は、鍔部19と、後端側胴部18と、先端側胴部17と、段部14と、脚長部13と、を備えている。後端側胴部18は、鍔部19より後端側に位置し、鍔部19の外径より小さな外径を有している。先端側胴部17は、鍔部19より先端側に位置し、後端側胴部18の外径より小さな外径を有している。脚長部13は、先端側胴部17より先端側に位置し、先端側胴部17の外径より小さな外径を有している。段部14は、先端方向D1に向かって外径が小さくなる部分であり、絶縁碍子10の脚長部13と先端側胴部17との間に形成されている。
絶縁碍子10の内周面の先端部分(ここでは、脚長部13の内周面の先端部分)には、絶縁壁部11が接続されている。絶縁壁部11は、中央に貫通孔11x(図2)を有するO字形状の円板部分である。絶縁壁部11の外周部分は、全周に亘って、脚長部13の内周面に接続されている。絶縁壁部11の内径は、脚長部13の内径よりも、小さい。絶縁壁部11は、絶縁碍子10と同じ材料で形成されている。そして、絶縁壁部11は、絶縁碍子10の製造時に、絶縁碍子10と一体的に形成されている。ただし、絶縁壁部11が、絶縁碍子10とは異なる材料で形成されてもよい。また、絶縁壁部11が、他の部材(例えば、絶縁碍子10、または、接地電極30)に、接着剤(例えば、耐熱性無機接着剤)によって、接着されてもよい。
軸孔12のうち脚長部13の内周面によって形成される部分は、電極収容孔15として形成されている(図1、図2)。軸孔12のうちの電極収容孔15よりも後端側の部分の内径は、電極収容孔15の内径よりも大きい。この電極収容孔15の先端部分に、絶縁壁部11が配置されている。
主体金具50は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼材)で形成され、内燃機関のエンジンヘッド(図示省略)にプラズマジェットプラグ100を固定するための略円筒形状の部材(筒状体)である。主体金具50は、軸線COに沿って貫通する貫通孔59が形成されている。主体金具50は、絶縁碍子10の後端側胴部18の先端側の一部と、鍔部19と、先端側胴部17と、脚長部13との外周に配置される。すなわち、主体金具50の貫通孔59内に、絶縁碍子10が挿入、そして、保持されている(図1)。
主体金具50は、スパークプラグレンチが係合する六角柱形状の工具係合部51と、内燃機関に取り付けるための取付ネジ部52と、工具係合部51と取付ネジ部52との間に形成された鍔状の座部54と、を備えている(図1)。
主体金具50の取付ネジ部52と座部54との間には、金属板を折り曲げて形成された環状のガスケット5が嵌挿されている(図1)。ガスケット5は、プラズマジェットプラグ100が内燃機関に取り付けられた際に、プラズマジェットプラグ100と内燃機関(エンジンヘッド)との隙間を封止する。
主体金具50は、さらに、工具係合部51の後端側に設けられた薄肉の加締部53と、座部54と工具係合部51との間に設けられた薄肉の圧縮変形部58と、を備えている(図1)。主体金具50における工具係合部51から加締部53に至る部位の内周面と、絶縁碍子10の後端側胴部18の外周面との間に形成される環状の領域には、環状のリング部材6、7が配置されている。当該領域における2つのリング部材6、7の間には、タルク(滑石)9の粉末が充填されている。また、主体金具50の貫通孔59を形成する内周面は、取付ネジ部52の軸方向の中央部で後端側から先端側に向かって縮径しており、これによって内周面に段状の係止部56が形成されている(図2)。
加締部53の後端は、径方向内側に折り曲げられて、絶縁碍子10の外周面に固定されている。主体金具50の圧縮変形部58は、製造時において、絶縁碍子10の外周面に固定された加締部53が先端側に押圧されることにより、圧縮変形する。圧縮変形部58の圧縮変形によって、リング部材6、7およびタルク9を介し、絶縁碍子10が主体金具50内で先端側に向け押圧される。この結果、金属製の環状の板パッキン80(図2)を介して、主体金具50の内周面の係止部56に、絶縁碍子10の段部14が押圧される。この結果、絶縁碍子10の段部14と、主体金具50の係止部56との間は、板パッキン80を挟んで封止される。この結果、内燃機関の燃焼室内のガスが、主体金具50と絶縁碍子10との隙間から外部に漏れることが、防止される。
中心電極20は、軸線COに沿って延びる棒状の部材であり、絶縁碍子10の軸孔12の内部に配置されている。中心電極20は、電極母材20Aと、電極母材20Aの内部に埋設された芯材20Bと、を含む構造を有する(図2)。電極母材20Aは、ニッケルまたはニッケルを主成分とする合金(インコネル600等(アルファベットのINCONELは登録商標))で形成されている。主成分は、含有率(重量%)が最も高い成分を意味している。芯材20Bは、電極母材20Aを形成する合金よりも熱伝導性に優れる材料(例えば、銅または銅を主成分とする合金)で形成されている。なお、中心電極としては、上記中心電極20のように母材と芯材との2重構造を有するものに代えて、他の構造を有する電極を採用可能である。例えば、タングステン等の高融点材料で形成された一体成形品を採用してもよい。
また、中心電極20は、頭部21と、頭部21よりも先端側に位置し、頭部21より外径が小さい脚部22と、を備えている。中心電極20の脚部22は、絶縁碍子10の軸孔12のうちの電極収容孔15に収容され、中心電極20の頭部21は、軸孔12のうちの電極収容孔15より内径の大きな部分に収容されている。中心電極20は、脚部22の先端にギャップ形成部材26を備えている(図2)。ギャップ形成部材26は、主成分としてイリジウムを含む合金で形成されている(他の材料を採用可能である)。また、ギャップ形成部材26は、例えば、レーザー溶接によって脚部22の先端に接合されている。
図2に示すように、接地電極30は、主体金具50の先端面57に形成された係合部57Aに係合されている。図2に示すように、接地電極30は中央に貫通孔31を有するO字形状の板状部材(すなわち、円板部材)である。接地電極30は、厚み方向を軸線CO方向とし、絶縁碍子10の先端面16に当接した状態、あるいは、先端面16と微小な隙間(例えば、0.05mm以下の隙間)を有する状態で、係合部57Aに係合され、レーザー溶接などによって主体金具50に接合されている。これにより、主体金具50と接地電極30は電気的に導通している。接地電極30の後端方向D2側には、絶縁壁部11が配置されている。接地電極30は、主成分としてイリジウムを含む合金で形成されている(他の材料を採用可能である)。
中間電極60は、中央に貫通孔61(図2)を有するO字形状の円板部材である。中間電極60は、電極収容孔15内において、中心電極20の先端面よりも先端方向D1側、かつ、接地電極30よりも後端方向D2側に配置されている。具体的には、中間電極60は、絶縁壁部11の後端方向D2側に配置されている。すなわち、絶縁壁部11は、中間電極60と接地電極30との間に配置されている。中間電極60は、中心電極20と接地電極30とのいずれからも離れている。中間電極60は、主成分として、イリジウムを含む合金で形成されている(他の材料(例えば、ニッケル合金、または、タングステン合金)も採用可能である)。また、中間電極60は、例えば、耐熱性無機接着剤によって、軸孔12の内周面に接着されている。
本実施形態では、中間電極60の貫通孔61と、絶縁壁部11の貫通孔11xと、接地電極30の貫通孔31とは、いずれも、軸線COを中心とする円柱形状の孔である。本実施形態においては、接地電極30の貫通孔31は、主体金具50の先端側で開口する第1貫通孔の例である。また、後述するように、中間電極60の貫通孔61は、軸線COの方向に投影した投影面において貫通孔31と少なくとも一部が重なるように開口する第2貫通孔の例である。絶縁壁部11の貫通孔11xは、軸線COの方向に投影した投影面において貫通孔31と貫通孔61のそれぞれに少なくとも一部が重なるように開口する第3貫通孔の例である。
中心電極20と接地電極30との間に電圧が印加されることによって、中心電極20のギャップ形成部材26と接地電極30との間(すなわち、ギャップ)で放電が生じる。本実施形態では、中心電極20と接地電極30との間に中間電極60が配置されている。従って、放電経路は、中心電極20のギャップ形成部材26から、中間電極60を経由して、絶縁壁部11の貫通孔11xを通って、接地電極30に至る。
なお、詳細は後述するが、絶縁碍子10の電極収容孔15内であって、中心電極20より先端側で、かつ、接地電極30より後端側には、プラズマを生成するためのキャビティCVが形成されている。中間電極60と絶縁壁部11とは、このキャビティCV内に露出している。
端子金具40(図1)は、軸線COに沿って延びる棒状の部材である。端子金具40は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼)で形成され、その表面は、防食のための金属層(例えば、Ni層)がめっきなどによって形成されている。端子金具40は、軸線方向の所定位置に形成された鍔部42と、鍔部42より後端側に位置するキャップ装着部41と、鍔部42より先端側の脚部43と、を備えている。端子金具40の後端を含むキャップ装着部41は、絶縁碍子10の後端側に露出している。端子金具40の先端を含む脚部43は、絶縁碍子10の軸孔12に挿入されている。キャップ装着部41には、高圧ケーブル(図示省略)が接続されたプラグキャップが装着され、火花を発生するための高電圧が印加される。
絶縁碍子10の軸孔12内において、端子金具40の脚部43と中心電極20との間の領域には、導電性シール4が配置されている。この導電性シール4を通じて、端子金具40と中心電極20とは、電気的に導通している。導電性シール4は、例えば、金属粒子とガラスなどのセラミックス粒子を含む組成物で形成されている。
A−2.プラズマジェットプラグの動作:
図3は、点火装置120の例の概略構成を示すブロック図である。プラズマジェットプラグ100は、図3に一例を示す点火装置120に接続され、点火装置120から電力の供給を受けることにより、内燃機関の燃焼室内の混合気への点火を行う。
点火装置120は、例えば、自動車のECU(電子制御回路)からの指示に従ってプラズマジェットプラグ100に電力を供給する。点火装置120は、火花放電回路部140と、プラズマ放電回路部160と、制御回路部130、150と、逆流防止用の2つのダイオード145、165と、を有している。
火花放電回路部140は、プラズマジェットプラグ100の中心電極20と接地電極30の間のギャップに、高電圧を印加することで絶縁破壊させて火花放電を生じさせる、いわゆるトリガー放電を行うための電源回路である。火花放電回路部140は、ECUに接続された制御回路部130によって制御される。火花放電回路部140は、ダイオード145を介し、電力供給先となるプラズマジェットプラグ100の中心電極20に電気的に接続されている。
また、プラズマ放電回路部160は、火花放電回路部140によって行われるトリガー放電により絶縁破壊が生じたギャップに高エネルギーを供給するための電源回路である。プラズマ放電回路部160は、ECUに接続された制御回路部150によって制御される。プラズマ放電回路部160も同様に、逆流防止用のダイオード165を介し、プラズマジェットプラグ100の中心電極20に接続されている。なお、プラズマジェットプラグ100の接地電極30は、主体金具50を介し、接地されている。
プラズマ放電回路部160は、電気エネルギーを蓄えておくコンデンサ162と、コンデンサ162を充電するための高電圧発生回路161と、を備えている。コンデンサ162は、一端が接地され、他端が、高電圧発生回路161と、上記ダイオード165を介して中心電極20に接続されている。ここで、1回のプラズマ噴出を行うため、火花ギャップに供給されるエネルギー量EG(単位は、mJ)は、トリガー放電によるエネルギーの供給量と、コンデンサ162からのエネルギーの供給量との和である。コンデンサ162の静電容量は、エネルギー量EGが、所定量となるように調整されている。なお、プラズマジェットプラグ100は、例えば、プラズマ放電回路部160を備えていないタイプの点火装置、すなわち、トリガー放電によるエネルギーのみを供給するタイプの点火装置でも駆動することができるが、図3に示すような点火装置120を用いることによって、より高エネルギーのプラズマを生成することができる。
点火装置120によって高電圧が供給されることによって、プラズマジェットプラグ100のギャップで放電が生じると、点火装置120から供給されるエネルギーによって、図2に示すキャビティCV内の気体が励起されて、キャビティCV内にプラズマが形成される。キャビティCV内に形成されたプラズマが膨張し、キャビティCV内の圧力が高まると、キャビティCV内のプラズマは、火柱状に、接地電極30の貫通孔31から噴出される。噴出されたプラズマによって、内燃機関の燃焼室内の混合気が着火される。
A−3.プラズマジェットプラグ100の先端近傍の構成:
上記で説明したプラズマジェットプラグ100の先端近傍の構成について、さらに、詳細に説明する。図4は、プラズマジェットプラグ100の先端近傍を、軸線COが含まれる面で切断した断面図である。なお、図4では、先端方向D1は上向きであり、後端方向D2は下向きである。図中の内径R2は、電極収容孔15の内径R2である。本実施形態では、内径R2は、中心電極20の脚部22を収容している部分から絶縁壁部11まで、一定である。すなわち、図4の断面において、絶縁碍子10の脚長部13の電極収容孔15を形成する内周面は、脚部22を収容する部分から絶縁壁部11まで、軸線COに並行な直線になっている。
中心電極20の脚部22は、外径R1の棒状の大径部23と、大径部23の先端側に配置された縮径部24と、縮径部24の先端側に配置された台座部25と、を備えている。大径部23は、電極収容孔15の先端側から後端側に伸び、脚部22の大部分を占めている。電極収容孔15の内径R2と、大径部23の外径R1と、の径差(R2−R1)は、0.1mm以下である。絶縁碍子10の脚長部13と、中心電極20の脚部22(大径部23を含む)とは、同軸上に配置されているので、大径部23の外周面と、電極収容孔15の内周面と、の間隔STは、(R2−R1)/2である。すなわち、大径部23の外周面と、電極収容孔15の内周面と、の間隔STは、0.05mm以下である。
縮径部24は、後端側から先端側に向かって外径が小さくなる円錐台の形状を有している。台座部25は、円柱形状を有している。台座部25の先端側には、ギャップ形成部材26が、例えば、レーザー溶接によって溶接されている。ギャップ形成部材26は、本実施形態では、外径Dを有する円柱状のチップである。ギャップ形成部材26の先端面20sは、中心電極20の先端面と言うこともできる。したがって、外径Dは、中心電極20の先端面20sの外径、すなわち、径方向の幅Dと言うこともできる。なお、縮径部24と台座部25とギャップ形成部材26とは、いずれも大径部23の外径R1より小さな外径を有している。縮径部24と台座部25とギャップ形成部材26との全体を、小径部27とも呼ぶ。小径部27は、大径部23よりも先端側に位置し、大径部23より小さな外径を有する部分である。
小径部27の表面(すなわち、縮径部24の外周面と、台座部25の外周面と、ギャップ形成部材26の外周面および先端面20s)と、絶縁碍子10の脚長部13の電極収容孔15を形成する内周面(すなわち、絶縁碍子10の軸孔12を形成する内周面)と、によって、プラズマを生成するためのキャビティCVが形成される。電極収容孔15の内径R2は、キャビティCVの内径とも言うことができるので、電極収容孔15の内径R2を、キャビティ径R2とも呼ぶ。なお、上述したように、大径部23の外周面と電極収容孔15の内周面との間の隙間の間隔STは、0.05mm以下であるので、キャビティCV内で生じたプラズマが、その隙間に移動することは、抑制されている。
図4中には、プラズマジェットプラグ100の種々のパラメータが示されている。距離Gは、中心電極20の先端面20s(すなわち、ギャップ形成部材26の先端面20s)から中間電極60までの軸線方向の最短距離である。また、距離DAは、中心電極20の先端面20sの縁と、絶縁碍子10の内周面(すなわち、電極収容孔15を形成する内周面)と、の間の最短距離である。距離DAは、本実施形態では、図4の断面における点P1から点P2までの距離である。点P1は、ギャップ形成部材26の先端面20sの縁上の点である。点P2は、軸線CO上の1点と点P1とを通り、軸線COに垂直な直線と、電極収容孔15を形成する内周面との交点である。また、距離DBは、小径部27の後端P4から中間電極60までの軸線方向の最短距離である。小径部27の後端P4は、縮径部24の後端あるいはキャビティCVの後端と言うこともでき、大径部23の先端と言うこともできる。
接地電極30の貫通孔31の形状は、軸線COを中心とする円柱形状である。貫通孔31の内径Eは、図4の例では、ギャップ形成部材26の外径Dとほぼ同じである。貫通孔31の内径Eは、貫通孔31の径方向の幅Eと言うことができる。貫通孔31の内径Eは、電極収容孔15の内径R2より小さい(E<R2)ので、貫通孔31を形成する接地電極30の内縁部33は、電極収容孔15を形成する絶縁碍子10(脚長部13)の内周面より径方向の内側に径差Fの1/2だけ突出している。径差Fは、電極収容孔15の内径R2と貫通孔31の内径Eとの径差である(F=(R2−E))。換言すれば、本実施形態では、E<R2であるので、接地電極30の貫通孔31は、絶縁碍子10の電極収容孔15の内周面より径方向の内側に形成されている。なお、本実施形態では、突出長Fは、ゼロよりも大きい。
絶縁壁部11の貫通孔11xの形状も、軸線COを中心とする円柱形状である。貫通孔11xの内径Jは、図4の例では、ギャップ形成部材26の外径Dとほぼ同じである。貫通孔11xの内径Jは、貫通孔11xの径方向の幅Jということができる。この絶縁壁部11は、接地電極30の内縁部33と同様に、電極収容孔15を形成する内周面より径方向の内側に径差Fの1/2だけ突出している。
中間電極60の貫通孔61の形状も、軸線COを中心とする円柱形状である。貫通孔61の内径Hは、図4の例では、ギャップ形成部材26の外径Dとほぼ同じである。貫通孔61の内径Hは、貫通孔61の径方向の幅Hということができる。この中間電極60は、絶縁壁部11の後端方向D2側で、径方向に沿って、電極収容孔15の内周面から、貫通孔11xの内周面と同じ位置まで、延びている。
中心電極20と接地電極30との間に、中間電極60が配置されている。従って、中心電極20と接地電極30との間で生じる火花放電の放電経路は、中間電極60を経由する。すなわち、放電経路は、中心電極20から中間電極60へ至り、中間電極60から、絶縁壁部11の貫通孔11xを通って、接地電極30へ至る。中間電極60は、電気的に、中心電極20と接地電極30とのいずれからも離れている。従って、放電経路は、中間電極60で止まることなく、中間電極60を介して、中心電極20と接地電極30とを接続する。このように、中間電極60を通る経路に沿って放電が生じるので、中間電極60が省略された場合と比べて、意図しない放電経路に沿って放電が生じる可能性を低減できる。
中間電極60は、後端側の表面である平らな第1面60s1と、第1面60s1に平行な先端側の表面である平らな第2面60s2と、を有する円板状の電極である。従って、中間電極60の固定が容易であるので、キャビティCV内の意図された位置に中間電極60を容易に配置できる。この結果、中間電極60を経由する放電経路が意図しない位置を通ることを抑制できる。
放電経路には、気中経路と、沿面経路と、の2種類の経路が考えられる。気中経路は、キャビティCV内の空間を通る経路である。沿面経路は、プラズマジェットプラグ100の部材の表面上(例えば、絶縁碍子10の内周面上)を通る経路である。中心電極20から接地電極30へ至る放電経路は、気中経路を含み得る。また、放電経路は、沿面経路を含み得る。
図4中の部分経路Qxは、中間電極60から接地電極30へ至る放電経路の例である。この部分経路Qxは、中間電極60の内周面の後端方向D2側の端から、中間電極60の内周面上と絶縁壁部11の内周面上とを通って接地電極30に至る沿面経路である。この部分経路Qxは、中間電極60と接地電極30とを結ぶ最短の経路である。従って、このような部分経路Qxを含む放電経路で、放電が生じ易い。
図4中の部分経路Q1、Q2、Q3は、中心電極20から中間電極60へ至る放電経路の例である。第1部分経路Q1は、中心電極20のギャップ形成部材26の先端面20sから、軸線COに平行に先端方向D1に延びて、キャビティCV内の空間を通って、中間電極60に至る気中経路である(気中経路Q1とも呼ぶ)。火花放電は、例えば、第1部分経路Q1と部分経路Qxとで形成される経路を、通り得る。
第2部分経路Q2は、第1部分Q2aと第2部分Q2bとで構成されている。第1部分Q2aは、中心電極20のギャップ形成部材26の先端から絶縁碍子10の内周面(具体的には、絶縁碍子10のうち電極収容孔15を形成する部分(ここでは、脚長部13)の内周面)に至る径方向の気中経路である。第2部分Q2bは、絶縁碍子10の内周面上における第1部分Q2aの端の位置から、絶縁碍子10の内周面に沿って、軸線COに平行に先端方向D1に延びて、中間電極60に至る沿面経路である。火花放電は、例えば、第2部分経路Q2と部分経路Qxとを含む経路を、通り得る。図示を省略するが、第2部分経路Q2と部分経路Qxとを結ぶ経路としては、例えば、中間電極60の後端方向D2側の表面60s1上を通る経路が、実現され得る。
第3部分経路Q3は、絶縁碍子10の内周面上における小径部27の後端P4と径方向に対向する位置から、絶縁碍子10の内周面に沿って、軸線COに平行に先端方向D1に延びて、中間電極60に至る沿面経路である(沿面経路Q3とも呼ぶ)。火花放電は、例えば、第3部分経路Q3と部分経路Qxとを含む経路を、通り得る。この場合、部分経路Qxと第3部分経路Q3とは、軸線COから見て同じ方向に配置される(図示省略)。また、第3部分経路Q3と部分経路Qxとを結ぶ経路としては、例えば、中間電極60の後端方向D2側の表面60s1上を通る経路が、実現され得る。
一般的には、沿面経路の長さが短いことが好ましい。この理由は、以下の通りである。すなわち、沿面経路を通る放電が生じる場合、火花のエネルギーによって絶縁碍子10が損傷を受ける。例えば、絶縁碍子10に傷や、チャンネリングと呼ばれる溝状の削れなどが発生し得る。この結果、プラズマジェットプラグ100の耐久性能が低下し得る。
また、沿面経路を通る放電が生じる場合には、放電経路が接地電極30の貫通孔31から遠い位置を通るので、貫通孔31から噴出されるプラズマの噴出力が低下する。また、上記のチャンネリングが発生すると、キャビティCVの容積が大きくなるので、プラズマの噴出力が低下する。貫通孔31から噴出されるプラズマの噴出力が低下すると、燃焼室内の混合気に着火するためのエネルギーが低下するので、プラズマジェットプラグ100の着火性能が低下する。プラズマは、接地電極30の貫通孔31から噴出する。また、プラズマは、放電経路に沿って生じる。従って、放電経路が貫通孔31から遠い位置を通る場合に、プラズマの噴出力が低下し易い。
図5は、軸線COに垂直な投影面上に、中心電極20の先端面20sと接地電極30と絶縁壁部11と中間電極60とを、軸線COの方向に投影して得られる投影図である。本実施形態では、投影面において、先端面20sと接地電極30の貫通孔31と中間電極60の貫通孔61と絶縁壁部11の貫通孔11xとのそれぞれの形状は、軸線COを中心とし直径がおおよそ同じである円形状である。
本実施形態では、中間電極60は、図5の投影面において中間電極60の貫通孔61が接地電極30の貫通孔31と一致するように、構成されている。従って、中間電極60は、中間電極60を経由する放電経路を、接地電極30の貫通孔31の近くに導くことが可能である。例えば、中間電極60は、図4の部分経路Qxのように、中間電極60の貫通孔61の内周面と接地電極30の貫通孔31の内周面の近傍とを通るように、放電経路を形成可能である。この結果、接地電極30の貫通孔31の近傍でプラズマが発生するので、着火性能を向上できる。
さらに、本実施形態では、中心電極20と接地電極30との間に絶縁壁部11が配置されている。絶縁壁部11は、図5に示す投影面において絶縁壁部11の貫通孔11xが接地電極30の貫通孔31と一致するように、構成されている。また、図4、図5に示すように、接地電極30を中心電極20側から先端方向D1に向かって見る場合、接地電極30のうちの絶縁碍子10(ここでは、脚長部13)に隠れていない部分、すなわち、絶縁碍子10の内周面(ここでは、電極収容孔15の内周面)よりも内側の部分は、絶縁壁部11に覆われている。この結果、絶縁壁部11は、放電経路が接地電極30のうち貫通孔31よりも外周側の部分に到達することを抑制でき、そして、放電経路を、接地電極30の貫通孔31の近くに導くことが可能である。例えば、絶縁壁部11は、図4の部分経路Qxのように、絶縁壁部11の貫通孔11xの内周面と接地電極30の貫通孔31の内周面の近傍とを通るように、放電経路を形成可能である。この結果、接地電極30の貫通孔31の近傍でプラズマが発生するので、着火性能を向上できる。
また、本実施形態では、絶縁壁部11は、図5の投影面において絶縁壁部11の貫通孔11xが中間電極60の貫通孔61と一致するように、構成されている。また、図4、図5に示すように、絶縁壁部11を中心電極20側から先端方向D1に向かって見る場合、絶縁壁部11の後端方向D2側の表面は、中間電極60に覆われている。放電は、絶縁壁部11の表面よりも中間電極60に沿って生じ易い。従って、放電経路が絶縁壁部11の後端方向D2側の表面を通ることを抑制できる。この結果、絶縁壁部11の損傷を抑制できる。
なお、プラズマの噴出力は、キャビティCVの容積が過度に大きい場合に、低下し易い。この理由は、キャビティCVの容積に対して放電によって生成されたプラズマによるエネルギーが小さいので、キャビティCV内の圧力上昇が小さくなり、噴出力が低下するからである。また、プラズマの噴出力は、沿面経路の長さが長い場合に、低下し易い。例えば、第2部分経路Q2や第3部分経路Q3を通る放電が生じる場合、キャビティCVの奥の部分、すなわち、接地電極30の貫通孔31から遠い部分でプラズマが形成される。この結果、プラズマの貫通孔31からの噴出力が低下し得る。
B:第1評価試験
プラズマジェットプラグのサンプルを用いた第1評価試験について説明する。第1評価試験では、距離G(図4)に対する距離DAの大きさと、耐久性と、着火性能と、の関係が評価された。このような関係を評価するために、第1評価試験では、中間電極60と絶縁壁部11とが省略され、中間電極60の位置に配置された接地電極30を有するプラズマジェットプラグの試験用のサンプルが用いられた(図示省略)。このように、試験用のサンプルでは、中間電極60の代わりに接地電極30が配置されている。サンプルの接地電極30の貫通孔31は、軸線COを中心とする円柱形状の孔である。そして、サンプルのキャビティのうち中心電極20と接地電極30との間の部分の構成は、プラズマジェットプラグ100のキャビティCVのうち中心電極20と中間電極60との間の部分の構成と、同一である。図4で説明した放電経路Q1、Q2、Q3は、試験用のサンプルにおいては、中心電極20と接地電極30との間の経路として、実現される。また、試験用のサンプルでは、距離Gは、中心電極20の先端面20s(すなわち、ギャップ形成部材26の先端面20s)から接地電極30までの軸線方向の距離に対応する。距離DBは、小径部27の後端P4から接地電極30までの軸線方向の距離に対応する。サンプルの他の部分の構成は、図1のプラズマジェットプラグ100の構成と同じである。以下の表1は、第1評価試験の結果を示している。
表1は、サンプルの種類の番号と、距離DAと、キャビティ径R2(単位は、mm)と、耐久性を表すチャンネリングの評価結果と、着火性能を表すプラズマ噴出の評価結果と、の対応関係を示している。距離DAは、距離Gと係数との積で表されている。表1に示すように、第1評価試験では、5種類のサンプルが評価された。各サンプルに共通な寸法は、以下の通りである。
中心電極20の先端面20sの外径D:1.5mm
小径部27の後端P4から接地電極30までの軸線方向の距離DB:2.5mm
中心電極20の先端面20sから接地電極30までの軸線方向の距離G:1.0mm
5種類のサンプルの間では、距離DAが互いに異なっている。距離DAは、キャビティ径R2を変更することによって、変更されている。また、キャビティ径R2に応じて、中心電極20の大径部23の外径R1も変更されている。例えば、1番のサンプルでは、距離DAが距離Gの0.33倍の値に設定されている。上述したように、G=1.0mmであるので、この1番のサンプルの距離DAは、0.33mmである。
また、1番から5番の5種類のサンプルのそれぞれは、径差Fが、0.5mm、0.8mmにそれぞれ設定された2個のサンプルを含んでいる。ただし、5種類のサンプルのそれぞれにおいて、チャンネリングの評価結果とプラズマ噴出の評価結果とは、2個のサンプルの間で同じであった。従って、表1では、径差Fが省略されている。なお、径差Fは、接地電極30の貫通孔31の内径Eを、キャビティ径R2に応じて変更することによって、変更されている(F=(R2−E))。
耐久性能の評価試験では、沿面経路を通る放電によるチャンネリングの発生の有無を評価した。チャンネリングは、沿面経路を通る放電によって絶縁碍子10の内周面に溝状の形状変化が発生する現象である。具体的には、各サンプルに対し、0.6MPaに加圧したチャンバー内で、1秒間に60回の火花放電を発生させる放電試験を100時間行った。放電時には、所定の電源装置(例えば、フルトランジスタ点火装置)を用いて、1回の火花放電ごとに50mJの放電エネルギーを供給した。
そして、点火試験後に各サンプルを解体し、先ず、沿面放電の痕跡の有無を拡大鏡を用いて、目視で確認した。沿面経路を通る放電の痕跡(火花が絶縁碍子10の内周面を這うことで生じる黒色の汚れ)が確認された場合には、沿面経路を通る放電の痕跡を三次元形状測定器(具体的には、X線CTスキャナー)を用いて測定して、チャンネリングの発生の有無を確認した。表1中のチャンネリングの評価欄において、「A評価」は、チャンネリングが発生しなかったことを示し、「B評価」は、チャンネリングが発生したことを示している。
表1に示す試験結果から、距離DAが、距離Gの0.5倍以上であるサンプル、すなわち、2番から5番のサンプルでは、径差Fに拘わらずに、チャンネリングの評価結果がA評価であった。また、距離DAが、距離Gの0.5倍未満であるサンプル、すなわち、1番のサンプルでは、径差Fの値に拘わらずに、チャンネリングの評価結果がB評価であった。
この理由は、以下のように推定される。火花放電は、放電経路が長いほど発生しにくく、放電経路が短いほど発生しやすい。気中経路である第1部分経路Q1(図4)は、距離Gが長いほど長くなる。沿面経路を含む第2部分経路Q2の長さは、距離Gと距離DAとの和にほぼ等しい。したがって、距離Gに対して距離DAを十分に長くすれば、第2部分経路Q2を、第1部分経路Q1に対して十分に長くすることができる。第1評価試験の結果から、DA≧0.5×Gが満たされることによって、第2部分経路Q2を、第1部分経路Q1に対して十分に長くすることができるので、沿面経路を通る放電が抑制されると考えられる。
また、同じ経路長であっても、気中経路の抵抗は、沿面経路の抵抗より大きいことが知られている。そして、沿面経路の経路長を、気中経路の経路長の2倍以上確保すれば、同じ電圧が印加された場合に、気中経路で火花放電を発生させることができると考えられる。したがって、沿面経路の経路長に係数として(1/2)を乗じて得られる値を用いて算出される補正付き経路長を用いることによって、2つの経路の間で、放電の生じ易さを比較可能と考えられる。例えば、沿面経路を含む第2部分経路Q2の補正付き経路長が、気中経路Q1の経路長以上になるように、距離DAを決定すれば、気中経路Q1で火花放電を発生させることができると考えられる。ここで、第2部分経路Q2は、気中経路Q2a(距離DA)+沿面経路Q2b(距離G)であるので、第2部分経路Q2の補正付き経路長は、「距離DA+(1/2)×距離G」である。気中経路Q1の経路長は、距離Gとほぼ等しい。したがって、DA+(1/2)×G≧G、すなわち、DA≧0.5×Gを満たすように、距離DAを設定することが好ましい。この算出結果は、第1評価試験の結果と、一致している。ただし、DA<0.5×Gであってもよい。
着火性能の評価試験では、いわゆるシュリーレン撮影により、接地電極30の貫通孔31から噴出されたプラズマ(フレーム)のサイズを測定した。具体的には、0.6MPaに加圧したチャンバー内で、所定の電源装置を用いて、128mJの放電エネルギーを供給して、火花放電を行った。そして、火花放電から100μs後に、接地電極30の貫通孔31から噴出されたプラズマのシュリーレン画像を撮影した。そして、撮影されたシュリーレン画像を所定の閾値で二値化して、シュリーレン画像を構成する複数個の画素を、高密度部分を表す画素と、低密度部分を表す画素と、に分類した。そして、高密度部分を表す画素の個数を、噴出されたプラズマのサイズとして算出した。噴出されたプラズマのサイズは、プラズマの噴出力が大きいほど大きくなる。なお、サンプルごとに10回のシュリーレン撮影を実行し、10回の撮影により算出されたプラズマのサイズの平均値を、そのサンプルのプラズマのサイズとした。
表1中のプラズマ噴出の評価欄において、「A評価」は、算出されたプラズマのサイズが、1200画素以上であったことを示し、「B評価」は、算出されたプラズマのサイズが、1200画素未満であったことを示している。
なお、本評価試験で撮影されたシュリーレン画像の解像度では、プラズマのサイズが1200画素以上であることは、着火限界が空燃比で22以上であることに相当する。着火限界が空燃比で22であるとは、プラズマジェットプラグが、空燃比22までの混合気に着火可能な着火性能を有することを意味する。
表1に示す試験結果から、距離DAが、距離Gの0.8倍以下であるサンプル、すなわち、1番から4番のサンプルでは、径差Fの値に拘わらずに、プラズマ噴出の評価結果が「A評価」であった。また、距離DAが、距離Gの0.8倍を超えるサンプル、すなわち、5番のサンプルでは、プラズマ噴出の評価結果は、径差Fの値に拘わらずに、「B評価」であった。
この理由は、以下のように推定される。また、キャビティCVの容積が過度に大きい場合には、プラズマの噴出力が低下しやすい。上記の距離DAが長いほどキャビティ径R2が大きくなるので、キャビティCVの容積が大きくなる。従って、DA≦0.8×Gが満たされることによって、キャビティCVの容積が過度に大きくなることを抑制できる。この結果、プラズマの噴出力の低下を抑制して、着火性能を向上することができると考えられる。ただし、DA>0.8×Gであってもよい。
チャンネリングおよびプラズマ噴出の両方についてA評価が得られた距離DAは、具体的には、0.5×G、0.75×G、0.8×Gであった。従って、これらの値のうち任意の値を、距離DAの好ましい範囲(下限以上、上限以下の範囲)の下限として採用可能である。また、これらの値のうちの下限以上の任意の値を、上限として採用可能である。
以上、評価用のサンプルを用いた評価結果について説明した。上記のように、評価用のサンプルのキャビティのうち中心電極20と接地電極30との間の部分の構成は、実施形態のプラズマジェットプラグ100のキャビティCVのうち中心電極20と中間電極60との間の部分の構成と、同一である。従って、距離DAの上記の好ましい範囲は、実施形態のプラズマジェットプラグ100にも適用可能である。
C.第2評価試験
プラズマジェットプラグのサンプルを用いた第2評価試験について説明する。第2評価試験では、距離G(図4)に対する距離DBの大きさと、着火性能と、の関係が評価された。このような関係を評価するために、第2評価試験では、第1評価試験のサンプルと同じ構成のサンプルを用いた(図示省略)。以下の表2は、第2評価試験の結果を示している。
表2は、サンプルの番号と、距離DBと、着火性能を表すプラズマ噴出の評価結果と、の対応関係を示している。距離DBは、距離Gと係数との積で表されている。表2に示すように、第2評価試験では、5種類のサンプルが評価された。各サンプルに共通な寸法は、以下の通りである。
中心電極20の先端面の外径D:1.5mm
接地電極30の貫通孔31の内径E:1.5mm(D=E)
中心電極20の先端面20sから接地電極30までの軸線方向の距離G:1.0mm
中心電極20の先端面20sと絶縁碍子10の内周面との最短距離DA:0.75mm(0.75G)
11番から15番の5種類のサンプルの間では、距離DBが互いに異なっている。距離DBは、小径部27の縮径部24の軸線方向の長さを変更することによって、変更されている。例えば、11番のサンプルの距離DBは、距離Gの1.5倍の長さである。上述したように、G=1.0mmであるので、11番のサンプルの距離Bは、1.5mmである。
着火性能の評価試験では、上述したシュリーレン撮影により、接地電極30の貫通孔31から噴出されたプラズマのサイズを測定した。プラズマ噴出の評価欄において、「A評価」は、算出されたプラズマのサイズが1200画素以上であったことを示し、「B評価」は、算出されたプラズマのサイズが、1200画素未満であったことを示している。
表2に示すように、距離DBが、距離Gの2倍以上であり、かつ、距離Gの3倍以下であるサンプル、すなわち、12番、13番、14番のサンプルでは、プラズマ噴出の評価結果がA評価であった。そして、距離DBが、距離Gの1.5倍である11番のサンプルおよび、距離DBが、距離Gの3.5倍である15番のサンプルでは、プラズマ噴出の評価結果がB評価であった。
この理由は、以下のように推定される。上記距離DBが長いほどキャビティCVの容積が大きくなる。従って、距離DBが、距離Gの3倍を超えると、キャビティCVの容積が過度に大きくなり、この結果、プラズマの噴出力が低下したと考えられる。また、距離DBが、距離Gの2倍未満であると、気中経路Q1の経路長に対して、沿面経路Q3の補正付き経路長が短くなるので、沿面経路Q3に沿って放電が発生すると考えられる。従って、キャビティ内における貫通孔31から遠い部分でプラズマが生成され、プラズマの噴出力が低下したと考えられる。
また、上述したように、沿面経路を通る放電を抑制するためには、沿面経路の経路長を、気中経路の経路長の2倍以上確保することが好ましい。この観点からも、沿面経路Q3の実際の距離(距離DBとほぼ同じ)が、距離Gの2.0倍未満である場合に、沿面経路を通る放電が発生していると考えることが妥当である。
以上のように、プラズマの噴出力の低下を抑制して着火性能を向上する観点から、DB≧2×Gが満たされることが好ましい。そして、DB≦3×Gが満たされることが更に好ましい。プラズマの噴出についてA評価が得られた距離DBは、具体的には、2×G、2.5×G、3×Gであった。従って、これらの値のうち任意の値を、距離DBの好ましい範囲(下限以上、上限以下の範囲)の下限として採用可能である。また、これらの値のうちの下限以上の任意の値を、上限として採用可能である。また、沿面経路を通る放電を抑制して耐久性を向上する観点から、DB≧2×Gが満たされることが好ましい。ただし、DB<2×Gであってもよく、DB>3×Gであってもよい。
以上、評価用のサンプルを用いた評価結果について説明した。上記のように、評価用のサンプルのキャビティのうち中心電極20と接地電極30との間の部分の構成は、実施形態のプラズマジェットプラグ100のキャビティCVのうち中心電極20と中間電極60との間の部分の構成と、同一である。従って、距離DBの上記の好ましい範囲は、実施形態のプラズマジェットプラグ100にも適用可能である。
D.変形例:
(1)図5に示す投影面において、中心電極20の先端面20sの形状が非円形状であってもよい。また、接地電極30の貫通孔31の形状が非円形状であってもよい。また、絶縁壁部11の貫通孔11xの形状が非円形状であってもよい。また、中間電極60の貫通孔61の形状が非円形状であってもよい。
(2)図5の投影面において、中間電極60の貫通孔61と接地電極30の貫通孔31とのうちの一方の全体が他方の内に包含されてもよい。また、貫通孔61の一部が貫通孔31の外に配置されてもよい。また、貫通孔31の一部が貫通孔61の外に配置されてもよい。いずれの場合も、中間電極60が、図5の投影面において中間電極60の貫通孔61が接地電極30の貫通孔31と少なくとも一部が重なるように、構成されていることが好ましい。こうすれば、中間電極60は、図4の部分経路Qxのように、中間電極60を経由する放電経路を、接地電極30の貫通孔31の近くに導くことが可能である。
(3)図5の投影面において、絶縁壁部11の貫通孔11xと接地電極30の貫通孔31とのうちの一方の全体が他方の内に包含されてもよい。また、貫通孔11xの一部が貫通孔31の外に配置されてもよい。また、貫通孔31の一部が貫通孔11xの外に配置されてもよい。いずれの場合も、絶縁壁部11が、図5に示す投影面において絶縁壁部11の貫通孔11xが接地電極30の貫通孔31と少なくとも一部が重なるように、構成されていることが好ましい。こうすれば、放電経路のうちの中間電極60と接地電極30との間の部分の変動が絶縁壁部11によって抑制されるので、意図しない放電経路に沿って放電が生じる可能性を低減できる。例えば、絶縁壁部11は、図4の部分経路Qxのように、放電経路を、接地電極30の貫通孔31の近くに導くことが可能である。
(4)接地電極30を中心電極20側から先端方向D1に向かって見る場合(例えば、図5のような投影面)、接地電極30のうち絶縁壁部11の貫通孔11xと重なる部分を除いた残りの部分が、絶縁碍子10または絶縁壁部11に隠れていることが好ましい。すなわち、接地電極30のうち絶縁壁部11の貫通孔11xと重なる部分を除いた残りの部分の後端方向D2側に、絶縁碍子10または絶縁壁部11が配置されていることが好ましい。こうすれば、絶縁壁部11は、放電経路が接地電極30のうち貫通孔31よりも外周側の部分に到達することを抑制できる。従って、絶縁壁部11は、図4の部分経路Qxのように、放電経路を、接地電極30の貫通孔31の近くに導くことが可能である。
(5)図5の投影面において、絶縁壁部11の貫通孔11xと中間電極60の貫通孔61とのうちの一方の全体が他方の内に包含されてもよい。また、貫通孔11xの一部が貫通孔61の外に配置されてもよい。また、貫通孔61の一部が貫通孔11xの外に配置されてもよい。いずれの場合も、中間電極60が、図5に示す投影面において中間電極60の貫通孔61が絶縁壁部11の貫通孔11xと少なくとも一部が重なるように、構成されていることが好ましい。こうすれば、中間電極60は、放電経路が絶縁壁部11のうち貫通孔11xよりも外周側の部分を通ることを抑制できる。従って、中間電極60は、図4の部分経路Qxのように、放電経路を、接地電極30の貫通孔31の近くに導くことが可能である。
(6)絶縁壁部11を中心電極20側から先端方向D1に向かって見る場合(例えば、図5のような投影面)、絶縁壁部11のうちの中間電極60の貫通孔61と重なる部分以外の部分は、中間電極60に覆われていることが好ましい。こうすれば、放電経路が絶縁壁部11の後端方向D2側の表面を通ることを抑制できるので、絶縁壁部11の損傷を抑制できる。
(7)図6は、プラズマジェットプラグの変形例の説明図である。図中には、図5と同様の投影図が示されている。図4、図5の実施形態との差異は、中心電極20の先端面20sの外径D(ここでは、台座部25とギャップ形成部材26との外径D)が、中間電極60の貫通孔61の内径Hよりも大きい点だけである。図6の変形例のプラズマジェットプラグの他の構成は、図1〜図5のプラズマジェットプラグ100の構成と、同じである(詳細な説明を省略する)。このように、中心電極20の先端面20sの外径D(より一般的には、最大幅)は、中間電極60の貫通孔61の内径H(より一般的には、最大幅(すなわち、最大内径))よりも大きいことが好ましい。この構成によれば、中心電極20の先端面20sが消耗した場合であっても、中心電極20と中間電極60との間の最短距離が長くなることを抑制できる。従って、気中経路Q1(図4)のような気中経路の代わりに沿面経路(例えば、沿面経路Q2b)を通る放電が生じることを抑制できる。ただし、中心電極20の先端面20sの最大幅が、中間電極60の貫通孔61の最大幅以下であってもよい。
(8)図6の投影面に示すように、中心電極20の先端面20sの角部20eの全体(すなわち、先端面20sの縁20eの全体)が、中間電極60と重なるように配置されていることが好ましい。この構成によれば、図4の気中経路Q1のような気中経路を通る放電が生じ易いので、沿面経路(例えば、沿面経路Q2b)を通る放電が生じることを抑制できる。ただし、投影面において、中心電極20の先端面20sの角部20eの少なくとも一部が、中間電極60と重なっていなくても良い。
(9)接地電極30の貫通孔31の内径(より一般的には、最大幅(最大内径))と、中間電極60の貫通孔61の内径(より一般的には、最大幅(最大内径))と、絶縁壁部11の貫通孔11xの内径(より一般的には、最大幅(最大内径))とは、それぞれ略同じであることが好ましい。この構成によれば、放電が、3つの部材30、11、60のそれぞれの内周面上を通る場合に、一部の部材の内周面が他の部材の内周面よりも速く消耗することを抑制できる。なお、3つの貫通孔31、11x、61のそれぞれの最大幅が略同じであるとは、3つの貫通孔31、11x、61の3つの最大幅のうちの最大値と最小値との間の差分が、0mm以上、0.5mm以下であることを意味している。ただし、3つの貫通孔31、11x、61の3つの最大幅のうちの最大値と最小値との間の差分が、0.5mmを超えていても良い。
(10)中心電極20の構成としては、上記の構成に代えて、他の種々の構成を採用可能である。例えば、中心電極20の台座部25が省略されてもよい。この場合、ギャップ形成部材26が、縮径部24に溶接されてもよい。また、中心電極20の縮径部24が省略されてもよい。この場合、台座部25が、大径部23に接続されてもよい。
中心電極20のうちの放電が生じる部分である先端部(例えば、図4のギャップ形成部材26)は、融点が摂氏1400度以上の金属材料によって形成されていることが好ましい。そのような金属材料としては、例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)等の貴金属や、タングステン(W)や、これらの金属を主成分とする合金、例えば、Ir−5Pt合金(5質量%の白金を含有したイリジウム合金)を採用可能である。このように、高融点の金属材料を用いて、中心電極20の先端部を形成することによって、火花放電による中心電極20の消耗を抑制することができる。従って、意図しない放電経路に沿って放電が生じる可能性を低減できる。
なお、中心電極20のうち、高融点の金属材料(例えば、主成分として貴金属またはタングステンを含む材料)で形成される部分は、中心電極20のうちの放電が生じる部分である先端部(例えば、図4のギャップ形成部材26)を含むことが好ましく、また、先端部に加えて他の部分(例えば、台座部25)を含んでも良い。ただし、中心電極20から、高融点の材料で形成される部分が省略されてもよい。
(11)接地電極30の構成としては、上記の構成に代えて、他の種々の構成を採用可能である。例えば、接地電極30のうちの放電が生じる部分(例えば、図4の貫通孔31を形成する部分、すなわち、内周面を含む部分)は、中心電極20の材料として説明した上記の高融点の金属材料によって形成されていることが好ましい。高融点の金属材料を用いることによって、火花放電による接地電極30の消耗を抑制することができる。従って、意図しない放電経路に沿って放電が生じる可能性を低減できる。
なお、接地電極30のうちの、高融点の金属材料(例えば、主成分として貴金属またはタングステンを含む材料)で形成される部分は、接地電極30のうちの放電が生じる部分を含むことが好ましく、また、接地電極30の一部分であってもよい。ここで、中心電極20の放電が生じる部分と接地電極30の放電が生じる部分との間で、材料が異なっていても良い。また、接地電極30から、高融点の材料で形成される部分が省略されてもよい。この場合、接地電極30の材料としては、例えば、ニッケルまたはニッケルを主成分とする合金を採用可能である。
(12)中間電極60の構成としては、上記の構成に代えて、他の種々の構成を採用可能である。例えば、中間電極60の外径が、電極収容孔15の内径よりも小さくてもよい。また、中間電極60の後端方向D2側の表面である第1面60s1が、平らではなく、凹凸を形成してもよい。また、中間電極60の先端方向D1側の第2面60s2は、平らではなく、凹凸を形成してもよい。
また、中間電極60は、融点が摂氏1400度以上の金属材料で形成されていることが好ましい。この構成によれば、中間電極60の消耗を抑制できるので、意図しない放電経路に沿って放電が生じる可能性を低減できる。なお、そのような金属材料としては、例えば、ニッケル、白金、イリジウム、タングステン等の高融点金属、または、そのような高融点金属を主成分として含む合金を採用可能である。また、金属材料に代えて、他の種々の材料を採用可能である。例えば、アルミナ等の絶縁材料に酸化銅等の導電材料を分散させた材料を採用してもよい。一般的には、抵抗率が3×10−3Ωm以下であるような材料を採用すれば、適切な放電経路を容易に実現できる。いずれの場合も、融点が摂氏1400度以上の材料を用いることが好ましい。
一般的には、中間電極60としては、中心電極20と接地電極30との間において放電経路が通ることが意図された位置に配置された部分を含む電極を採用可能である。
(13)プラズマジェットプラグ100の構成としては、上記の構成に代えて、他の種々の構成を採用可能である。例えば、絶縁壁部11を省略してもよい。この場合も、中間電極60によって、適切な放電経路を実現できる。また、絶縁壁部11が省略された場合にも、距離DAの上記の好ましい範囲を適用可能と推定され、そして、距離DBの上記の好ましい範囲を適用可能と推定される。また、キャビティCVの内径(すなわち、電極収容孔15の内径)が、軸線COの方向の位置に応じて変化してもよい。
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。