JP6213702B1 - ラインパイプ用電縫鋼管 - Google Patents
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Abstract
Description
ラインパイプとして用いられる電縫鋼管(即ち、ラインパイプ用電縫鋼管)に関する種々な検討がなされている。
例えば、特許文献1では、鋼組織におけるベイニティックフェライトが95vol%以上である耐サワー高強度電縫鋼管用熱延鋼板が提案されている。
特許文献2では、造管成形前に、素材である帯鋼に例えば曲げ−曲げ戻し処理による繰返しひずみを付与してバウシンガー効果を誘起させることにより、得られる電縫鋼管の管軸方向の降伏比を低くする技術が開示されている。
また、特許文献3では、塗装加熱による降伏比の上昇を抑制し、変形特性を向上させた耐歪み時効性にすぐれた電縫鋼管の製造方法として、Nb量が0.003%以上0.02%未満である鋼片を用いた電縫鋼管の製造方法が提案されている。この特許文献3の段落0019には、「Nb量が多い従来の電縫鋼管では、造管時に導入された加工歪みによりNb炭化物の析出が進行し、降伏強度及び引張強度が上昇する。このような析出強化では、特に降伏強度が大きく上昇し、その結果、降伏比がかえって上昇することを解明した。」と記載されている。
特許文献2:特許第4466320号公報
特許文献3:国際公開第2012/133558号
かかる背景の下、ラインパイプ用鋼管の耐サワー性(即ち、サワーガスに対する耐性)をより向上させることが求められる場合がある。
また、特許文献2の技術では、帯鋼へひずみを付与する工程が必要であるため工程数が増加し、その結果、鋼管の製造コストが増加する場合がある。
また、特許文献3の技術に対し、Nb量を低減させる方法以外の方法によって電縫鋼管の降伏比を低減させることが求められる場合がある。
<1> 母材部及び電縫溶接部を含み、
前記母材部の化学組成が、質量%で、
C :0.030%以上0.080%未満、
Mn:0.30〜1.00%、
Ti:0.005〜0.050%、
Nb:0.010〜0.100%、
N :0.001〜0.020%、
Si:0.010〜0.450%、
Al:0.0010〜0.1000%、
P :0〜0.030%、
S :0〜0.0010%、
Mo:0〜0.50%、
Cu:0〜1.00%、
Ni:0〜1.00%、
Cr:0〜1.00%、
V :0〜0.100%、
Ca:0〜0.0100%、
Mg:0〜0.0100%、
REM:0〜0.0100%、並びに
残部:Fe及び不純物からなり、
下記式(1)で示されるCNeqが0.190〜0.320であり、
Siの質量%に対するMnの質量%の比が2.0以上であり、
下記式(2)で示されるLRが0.210以上であり、
前記母材部の金属組織を走査型電子顕微鏡を用いて1000倍の倍率で観察した場合に、フェライトからなる第一相の面積率が40〜80%であり、残部である第二相が焼戻しベイナイトを含み、
管軸方向の降伏強度が390〜562MPaであり、
管軸方向の引張強度が520〜690MPaであり、
管軸方向の降伏比が93%以下であり、
前記母材部における管周方向のシャルピー吸収エネルギーが、0℃において100J以上であり、
前記電縫溶接部における管周方向のシャルピー吸収エネルギーが、0℃において80J以上である
ラインパイプ用電縫鋼管。
CNeq=C+Mn/6+Cr/5+(Ni+Cu)/15+Nb+Mo+V … 式(1)
LR=(2.1×C+Nb)/Mn … 式(2)
〔式(1)及び式(2)において、C、Mn、Cr、Ni、Cu、Nb、Mo、及びVは、それぞれ、各元素の質量%を表す。〕
<2> 前記母材部の化学組成が、質量%で、
Mo:0%超0.50%以下、
Cu:0%超1.00%以下、
Ni:0%超1.00%以下、
Cr:0%超1.00%以下、
V :0%超0.100%以下、
Ca:0%超0.0100%以下、
Mg:0%超0.0100%以下、及び
REM:0%超0.0100%以下
の1種又は2種以上を含有する<1>に記載のラインパイプ用電縫鋼管。
<3> 前記母材部の金属組織を透過型電子顕微鏡を用いて100000倍の倍率で観察した場合に、円相当径100nm以下の析出物の面積率が0.100〜1.000%である<1>又は<2>に記載のラインパイプ用電縫鋼管。
<4> 前記母材部の化学組成におけるNbの含有量が、質量%で、0.020%以上である<1>〜<3>のいずれか1つに記載のラインパイプ用電縫鋼管。
<5> 肉厚が10〜25mmであり、外径が114.3〜609.6mmである<1>〜<4>のいずれか1つに記載のラインパイプ用電縫鋼管。
<6> 前記母材部から採取した試験片について水素誘起割れ試験を行った場合に、試験片長さに対する割れの合計長さの百分率であるCLRが、8%以下である<1>〜<5>のいずれか1つに記載のラインパイプ用電縫鋼管。
本明細書において、成分(元素)の含有量を示す「%」は、「質量%」を意味する。
本明細書において、C(炭素)の含有量を、「C量」と表記することがある。他の元素の含有量についても同様に表記することがある。
本明細書において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
CNeq=C+Mn/6+Cr/5+(Ni+Cu)/15+Nb+Mo+V … 式(1)
LR=(2.1×C+Nb)/Mn … 式(2)
〔式(1)及び式(2)において、C、Mn、Cr、Ni、Cu、Nb、Mo、及びVは、それぞれ、各元素の質量%を表す。〕
電縫鋼管は、一般的に、熱延鋼板を管状に成形(以下、「ロール成形」ともいう)することによりオープン管とし、得られたオープン管の突合せ部を電縫溶接して電縫溶接部(electric resistance welded portion)を形成し、次いで、必要に応じ、電縫溶接部をシーム熱処理することによって製造される。
本開示の電縫鋼管において、母材部(base metal portion)とは、電縫溶接部及び熱影響部以外の部分を指す。
ここで、熱影響部(heat affected zone;以下、「HAZ」とも称する)とは、電縫溶接による熱の影響(電縫溶接後にシーム熱処理を行う場合には、電縫溶接及びシーム熱処理による熱の影響)を受けた部分を指す。
本明細書中では、電縫溶接部を、単に「溶接部」と称することがある。
本開示において、靭性に優れるとは、0℃における管周方向のシャルピー吸収エネルギー(J)(以下、「vE」とも称する)が大きいことを意味する。
具体的には、本開示の電縫鋼管は、母材部におけるvEが100J以上であり、電縫溶接部におけるvEが80J以上である。
耐HIC性は、母材部から採取した試験片について水素誘起割れ試験(以下、「HIC試験」ともいう)を行った場合のCLR(即ち、Crack to Length Ratio)によって評価される。
CLRは、試験片長さに対する割れの合計長さの百分率、即ち、以下の式によって求められる値を意味する。
CLR(%) =(割れの合計長さ/試験片長さ)×100(%)
詳細には、Solution A液(5mass%NaCl+0.5mass%氷酢酸水溶液)に100%のH2Sガスを飽和させた試験液中に、母材部から採取した試験片を96時間浸漬する。
浸漬後、超音波探傷試験により、上述のCLR(%)を求める。
CLRは、8%以下であることが好ましい。
鋼管の座屈抑制が求められる場合の一例として、海底ラインパイプ用の鋼管をリーリング敷設によって敷設する場合が挙げられる。リーリング敷設では、あらかじめ陸上で鋼管を製造し、製造された鋼管をバージ船のスプール上に巻取る。巻取られた鋼管を海上で巻き出しながら海底に敷設する。このリーリング敷設では、鋼管の巻取り時又は巻き出し時に鋼管に塑性曲げが付与されるため、鋼管が座屈する場合がある。鋼管の座屈が発生すると、敷設作業を停止せざるを得ず、その損害は莫大である。
鋼管の座屈は、鋼管のYRを低減することによって抑制できる。
従って、本開示の電縫鋼管によれば、例えば、海底ラインパイプ用電縫鋼管として用いた場合のリーリング敷設時の座屈を抑制できるという効果が期待される。
以下、母材部の化学組成に関し、まず、化学組成における各成分について説明し、引き続き、CNeq、Mn/Si比、及びLRについて説明する。
Cは、鋼の加工硬化能を向上させ、電縫鋼管の低YR化を達成するために必要な元素である。かかる効果の観点から、C量は0.030%以上である。C量は、好ましくは0.033%以上であり、より好ましくは0.035%以上である。
一方、C量が0.080%未満であると、母材部の耐サワー性が向上する。従って、C量は0.080%未満である。C量は、好ましくは0.077%以下であり、より好ましくは0.070%以下である。
Mnは、鋼の焼入れ性を高める元素である。また、Mnは、Sの無害化のためにも必須の元素である。
Mn量が0.30%未満であると、Sによる脆化が起こり、母材部及び電縫溶接部の靭性が劣化する場合がある。従って、Mn量は0.30%以上である。Mn量は、好ましくは0.40%以上であり、より好ましくは0.50%以上である。
一方、Mn量が1.00%を超えると、肉厚中央部に粗大なMnSが生成し、また、肉厚中央部の硬度が上昇することにより、耐サワー性が損なわれる場合がある。また、Mn量が1.00%を超えると、LR0.210以上を達成できない場合があり、その結果、YR90%以下を達成できない場合がある。従って、Mn量は1.00%以下である。Mn量は、好ましくは0.90%以下であり、より好ましくは0.85%以下である。
Tiは、炭窒化物を形成し、結晶粒径の微細化に寄与する元素である。
母材部及び電縫溶接部の靭性を確保する観点から、Ti量は、0.005%以上である。
一方、Ti量が0.050%を超えると、粗大なTiNが生成され、母材部及び電縫溶接部の靭性が劣化する場合がある。従って、Ti量は0.050%以下である。Ti量は、好ましくは0.040%以下であり、更に好ましくは0.030以下であり、特に好ましくは0.025%である。
Nbは母材部の靭性向上に寄与する元素である。
未再結晶圧延による靭性向上のため、Nb量は0.010%以上である。Nb量は、好ましくは0.015%以上であり、より好ましくは0.020%以上である。
一方、Nb量が0.100%を超えると、粗大炭化物により靭性が劣化する。このため、Nb量は0.100%以下である。Nb量は、好ましくは0.095%以下であり、より好ましくは0.090%以下である。
Nは、窒化物を形成することで結晶粒の粗大化を抑制し、その結果、母材部及び電縫溶接部の靭性を向上させる元素である。かかる効果の観点から、N量は0.001%以上である。N量は、好ましくは0.003%以上である。
一方、N量が0.020%を超えると、窒化物の生成量が増加し、母材部及び電縫溶接部の靭性が劣化する。従って、N量は0.020%以下である。N量は、好ましくは0.008%以下である。
Siは、鋼の脱酸剤として機能する元素である。より詳細には、Si量が0.010%以上であると、母材及び溶接部に粗大な酸化物が生成されることが抑制され、その結果、母材及び溶接部の靭性が向上する。従って、Si量は0.010%以上である。Si量は、好ましくは0.015%以上であり、より好ましくは0.020%以上である。
一方、Si量が0.450%を超えると電縫溶接部に介在物が生成し、シャルピー吸収エネルギーが低下し靭性が劣化する場合がある。従って、Si量は0.450%以下である。Si量は、好ましくは0.400%以下であり、より好ましくは0.350%以下であり、特に好ましくは0.300%以下である。
Alは、Siと同様に、脱酸剤として機能する元素である。より詳細には、Al量が0.001%以上であると、母材及び溶接部に粗大な酸化物が生成されることが抑制され、その結果、母材及び溶接部の靭性が向上する。従って、Al量は0.001%以上である。Al量は、好ましくは0.010%以上であり、より好ましくは0.015%以上である。
一方、Al量が0.100%を越えると、電縫溶接時のAl系酸化物の生成に伴い、溶接部靭性が劣化する場合がある。従って、Al量は0.100%以下である。Al量は、好ましくは0.090%以下である。
Pは、不純物元素である。P量が0.030%を超えると、粒界に偏析することで靭性を損なう場合がある。従って、P量は0.030%以下である。P量は、好ましくは0.025%以下であり、より好ましくは0.020%以下、更に好ましくは0.010%以下である。
P量は0%であってもよい。脱燐コスト低減の観点から、P量は、0%超であってもよく、0.001%以上であってもよい。
Sは、不純物元素である。S量が0.0010%を超えると、耐サワー性がを損なう場合がある。従って、S量は0.0010%以下である。S量は、好ましくは0.0008%以下である。
S量は0%であってもよい。脱硫コスト低減の観点から、S量は、0%超であってもよく、0.0001%以上であってもよく、0.0003%以上であってもよい。
Moは、任意の元素である。従って、Mo量は0%であってもよい。
Moは、鋼材の焼入れ性を向上させ、鋼材の高強度に寄与する元素である。かかる効果の観点から、Mo量は、0%超であってもよく、0.01%以上であってもよく、0.03%以上であってもよい。
一方、Mo量が0.50%を超えると、Mo炭窒化物の生成により靭性を低下させる可能性がある。従って、Mo量は0.50%以下である。Mo量は、好ましくは0.40%以下であり、より好ましくは0.30%以下であり、更に好ましくは0.20%以下であり、特に好ましくは0.10%以下である。
Cuは、任意の元素である。従って、Cu量は0%であってもよい。
Cuは、母材の強度向上に有効な元素である。かかる効果の観点から、Cu量は、0%超であってもよく、0.01%以上であってもよく、0.03%以上であってもよい。
一方、Cu量が1.00%を超えると、微細なCu粒子を生成し、靭性を著しく劣化させるおそれがある。従って、Cu量は1.00%以下である。Cu量は、好ましくは0.80%以下であり、より好ましくは0.70%以下であり、更に好ましくは0.60%以下であり、特に好ましくは0.50%以下である。
Niは、任意の元素である。従って、Ni量は0%であってもよい。
Niは、強度及び靭性の向上に寄与する元素である。かかる効果の観点から、Ni量は、0%超であってもよく、0.01%以上であってもよく、0.05%以上であってもよい。
一方、Ni量が1.00%を超えると、強度が高くなりすぎるおそれがある。従って、Ni量は1.00%以下である。Ni量は、好ましくは0.80%以下であり、より好ましくは0.70%以下であり、更に好ましくは0.60%以下である。
Crは、任意の元素である。従って、Cr量は0%であってもよい。
Crは、焼入れ性を向上させる元素である。かかる効果の観点から、Cr量は、0%超であってもよく、0.01%以上であってもよく、0.05%以上であってもよい。
一方、Cr量が1.00%を超えると、電縫溶接部に生成したCr系介在物により溶接部の靭性が劣化するおそれがある。従って、Cr量は1.00%以下である。Cr量は、好ましくは0.80%以下であり、より好ましくは0.70%以下であり、更に好ましくは0.50%以下であり、特に好ましくは0.30%以下である。
Vは、任意の元素である。従って、V量は0%であってもよい。
Vは、靭性の向上に寄与する元素である。かかる効果の観点から、V量は、0%超であってもよく、0.005%以上であってもよく、0.010%以上であってもよい。
一方、V量が0.100%を超えると、V炭窒化物により、靭性が劣化するおそれがある。従って、V量は、0.100%以下である。V量は、好ましくは0.080%以下であり、より好ましくは0.070%以下であり、更に好ましくは0.050%以下であり、特に好ましくは0.030%以下である。
Caは、任意の元素である。従って、Ca量は0%であってもよい。
Caは、硫化物系介在物の形態を制御し、低温靭性を向上させる元素である。かかる効果の観点から、Ca量は、0%超であってもよく、0.0001%以上であってもよく、0.0010%以上であってもよく、0.0030%以上であってもよく、0.0050%以上であってもよい。
一方、Ca量が0.0100%を超えると、CaO−CaSからなる大型のクラスター又は大型の介在物が生成され、靭性に悪影響を及ぼすおそれがある。従って、Ca量は、0.0100%以下である。Ca量は、好ましくは0.0090%以下であり、より好ましくは0.0080%以下であり、特に好ましくは0.0060%以下である。
Mgは、任意の元素である。従って、Mg量は0%であってもよい。
Mgは、脱酸剤及び脱硫剤として有効な元素であり、特に、微細な酸化物を生じて、HAZ(Heat affected zone)の靭性の向上にも寄与する元素である。かかる効果の観点から、Mg量は、0%超であってもよく、0.0001%以上であってもよく、0.0010%以上であってもよく、0.0020%以上であってもよい。
一方、Mg量が0.0100%を超えると、酸化物が凝集又は粗大化し易くなり、その結果、耐HIC性(Hydrogen-Induced Cracking Resistance)の低下、又は、母材若しくはHAZの靱性の低下をもたらすおそれがある。従って、Mg量は0.0100%以下である。Mg量は、0.0080%以下が好ましい。
REMは、任意の元素である。従って、REM量は0%であってもよい。
ここで、「REM」は希土類元素、即ち、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群から選択される少なくとも1種の元素を指す。
REMは、脱酸剤及び脱硫剤として有効な元素である。かかる効果の観点から、REM量は、0%超であってもよく、0.0001%以上であってもよく、0.0010%以上であってもよい。
一方、REM量が0.0100%を超えると、粗大な酸化物を生じ、その結果、耐HIC性の低下、又は、母材若しくはHAZの靱性の低下をもたらすおそれがある。従って、REM量は0.0100%以下である。REM量は、好ましくは0.0070%以下であり、より好ましくは0.0050%以下である。
各任意の元素のより好ましい量については、それぞれ前述したとおりである。
母材部の化学組成において、上述した各元素を除いた残部は、Fe及び不純物である。
ここで、不純物とは、原材料に含まれる成分、または、製造の工程で混入する成分であって、意図的に鋼に含有させたものではない成分を指す。
不純物としては、上述した元素以外のあらゆる元素が挙げられる。不純物としての元素は、1種のみであっても2種以上であってもよい。
不純物として、例えば、O、B、Sb、Sn、W、Co、As、Pb、Bi、Hが挙げられる。
上述した元素のうち、Oは、含有量0.006%以下となるように制御することが好ましい。
また、その他の元素について、通常、Sb、Sn、W、Co、及びAsについては含有量0.1%以下の混入が、Pb及びBiについては含有量0.005%以下の混入が、Bについては含有量0.0003%以下の混入が、Hについては含有量0.0004%以下の混入が、それぞれあり得るが、その他の元素の含有量については、通常の範囲であれば、特に制御する必要はない。
母材部の化学組成において、下記式(1)で示されるCNeqは、0.190〜0.320である。
CNeq=C+Mn/6+Cr/5+(Ni+Cu)/15+Nb+Mo+V … 式(1)
〔式(1)において、C、Mn、Cr、Ni、Cu、Nb、Mo、及びVは、それぞれ、各元素の質量%を表す。〕
降伏強度390MPa以上を達成し易い観点から、CNeqは0.190以上である。CNeqは、好ましくは0.200以上であり、より好ましくは0.210以上である。
一方、降伏強度562MPa以下を達成し易い観点から、CNeqは、0.320以下である。CNeqは、好ましくは0.310以下であり、より好ましくは0.300以下である。
母材部の化学組成において、下記式(2)で示されるLRが、0.210以上である。
本開示の電縫鋼管では、LRが0.210以上であることにより、YR93%以下が達成され得る。
LRが0.210未満である場合には、YRが93%を超える場合がある。この理由は、鋼中の析出物量が少なくなり、加工硬化能が低下する(即ち、TSが低下する)ためと考えられる。
〔式(2)において、C、Nb、及びMnは、それぞれ、各元素の質量%を表す。〕
式(2)において、C量及びNb量を分子に配置する理由は、C及びNbが析出物を形成することにより、鋼の加工硬化能が向上し(即ち、TSが上昇し)、その結果、鋼のYRが低減されると考えられるためである。
C量に「2.1」を乗じる理由は、上述した析出物形成による加工硬化能向上の効果に関し、Cの含有による効果はNbの含有による効果の約2.1倍であると考えられるためである。
式(2)において、Mn量を分母に配置する理由は、Mnの含有により鋼を比較的低温で変態させることが可能となるものの、Mnの含有によって鋼の加工硬化能自体が損なわれ(即ち、TSが低下し)、その結果、鋼のYRが上昇するためである。
本開示の電縫鋼管では、LRが0.210以上であることを満足することにより、Nb量が比較的多い場合、例えば、特許文献3(国際公開第2012/133558号)におけるNb量(0.003%以上0.02%未満)よりも多い場合であっても、C量及びMn量によってはLRが0.210以上となる場合がある。この場合には、YR93%以下が達成され得る。
なお、本開示の電縫鋼管では、Nb量が0.02%未満である場合においても、LRが0.210以上であること及びLR以外の条件を満足することにより、YR93%以下が達成され得る。
LRの上限には特に制限はない。LRは、電縫鋼管の製造適性の観点から、好ましくは0.600以下である。
母材部の化学組成において、Mn/Si比(即ち、Siの質量%に対するMnの質量%の比Mn/Si比)は、2.0以上である。
本開示の電縫鋼管では、Mn/Si比が2.0以上であることにより、溶接部の靭性が向上し、溶接部におけるvE(即ち、0℃における管周方向のシャルピー吸収エネルギー)が80J以上となる。
Mn/Si比が2.0未満である場合には、vEが80J未満となる場合がある。この理由は、Mn/Si比が2.0未満である場合、溶接部において、MnSi系の介在物が脆性破壊の起点となることにより、靭性が劣化するためと考えられる。
Mn/Si比は、溶接部の靭性をより向上させる観点から、好ましくは2.1以上である。
Mn/Si比の上限には特に制限はない。Mn/Si比は、溶接部の靭性及び母材部の靭性をより向上させる観点から、50以下であることが好ましい。
本開示の電縫鋼管において、母材部の金属組織は、この金属組織を走査型電子顕微鏡を用いて1000倍の倍率で観察した場合に、フェライト分率(即ち、フェライトからなる第一相の面積率)が40〜80%であり、残部である第二相が焼戻しベイナイトを含む。
本開示の電縫鋼管では、フェライト分率が80%以下であることにより、耐サワー性が向上する。耐サワー性向上の観点から、フェライト分率は、好ましくは75%以下である。
第二相が焼戻しベイナイトを含むことは、本開示の電縫鋼管が、造管後(即ち、電縫溶接後(電縫溶接後にシーム熱処理が施された場合にはシーム熱処理後))、焼戻しが施された電縫鋼管であることを意味する。
本明細書における「ベイナイト」の概念には、ベイニティックフェライト、グラニュラーベイナイト、上部ベイナイト及び下部ベイナイトが包含される。
焼戻しベイナイト以外の組織としては、パーライトが挙げられる。
本明細書における「パーライト」の概念には、擬似パーライトも包含される。
また、本明細書において、管軸方向を「L方向」と称することがある。
図1のSEM写真は、後述の実施例1において、フェライト分率の測定及び第二相の特定に用いたSEM写真のうちの一枚(1視野)である。
図1に示すように、フェライトからなる第一相、及び、焼戻しベイナイトを含む第二相が確認できる。特に、白色の点(セメンタイト)が存在することから、第二相が焼戻しベイナイトを含むことがわかる。
特定析出物面積率が0.100%以上であると、YRが93%以下であることをより達成し易い。この理由は、特定析出物(即ち、円相当径100nm以下の析出物)が加工硬化特性の向上(即ち、TSの上昇)に寄与し、その結果、YRが低下するためと考えられる。
一方、特定析出物面積率が1.000%以下であると、脆性破壊が抑制される(即ち、母材部の靭性に優れる)。特定析出物面積率は、好ましくは0.900%以下であり、より好ましくは0.800%以下である。
より詳細には、まず、母材90°位置のL断面における肉厚1/4位置から採取したサンプルに基づき、アセチルアセトン10容積%、テトラメチルアンモニウムクロライド1容積%、及びメチルアルコール89容積%からなる電解液を用いたSPEED法により、TEM観察用レプリカを作製する。得られたTEM観察用レプリカを、TEMを用いて100000倍の倍率で観察することにより、1μm四方の視野サイズのTEM像を10視野分取得する。取得したTEM像の全面積に対する円相当径100nm以下の析出物の面積率を算出し、得られた結果を特定析出物面積率(%)とする。
なお、上記SPEED法におけるエッチングの条件は、参照電極として飽和甘こう電極を用い、約80平方ミリメートルの表面積に対して−200mVの電圧で10クーロンの電荷を印加する条件とする。
ここでいうFe以外の金属としては、Ti及びNbが考えられる。また、化学組成が、V、Mo及びCrの少なくとも1種を含有する場合には、上記Fe以外の金属として、V、Mo及びCrの少なくとも1種も考えられる。
本開示の電縫鋼管は、管軸方向の降伏強度(YS)が390〜562MPaである。
管軸方向のYSは、好ましくは410MPa以上であり、より好ましくは450MPa以上であり、更に好ましくは470MPa以上であり、特に好ましくは500MPa以上である。
管軸方向のYSは、好ましくは550MPa以下であり、より好ましくは540MPa以下であり、特に好ましくは530MPa以下である。
本開示の電縫鋼管は、管軸方向の引張強度(TS)が520〜690MPaである。
管軸方向のTSは、好ましくは550MPa以上であり、より好ましくは580MPa以上である。
管軸方向のTSは、好ましくは680MPa以下であり、より好ましくは660MPa以下であり、特に好ましくは650MPa以下である。
本開示の電縫鋼管は、管軸方向の降伏比(YR=(YS/TS)×100)が、93%以下である。
これにより、敷設時等における電縫鋼管の座屈が抑制される。
本開示の電縫鋼管の肉厚は、好ましくは10〜25mmである。
肉厚が10mm以上であると、熱延鋼板を管状に成形する際の歪みを利用してYRを低下させやすい点で有利である。肉厚は、より好ましくは12mm以上である。
肉厚が25mm以下であると、電縫鋼管の製造適性(詳細には、熱延鋼板を管状に成形する際の成形性)の点で有利である。肉厚は、より好ましくは20mm以下である。
本開示の電縫鋼管の外径は、好ましくは114.3〜609.6mm(即ち、4.5〜24インチ)である。
外径が114.3mm以上であると、ラインパイプ用電縫鋼管としてより好適である。外径は、好ましくは139.7mm(即ち、5.5インチ)以上、より好ましくは177.8mm(即ち、7インチ)以上である。
外径が609.6mm以下であると、熱延鋼板を管状に成形する際の歪みを利用してYRを低下させやすい点で有利である。外径は、好ましくは406.4mm(即ち、16インチ)以下、より好ましくは304.8mm(即ち、12インチ)以下である。
本開示の電縫鋼管の製法の一例として、以下の製法Aが挙げられる。
製法Aは、
上述した化学組成を有する熱延鋼板を用いてアズロール電縫鋼管を製造する工程と、
アズロール電縫鋼管に対し焼戻しを施すことにより電縫鋼管を得る焼戻し工程と、
を有する。
焼戻し温度が400℃以上であると、セメンタイト及び特定析出物(円相当径100nm以下の析出物)をより析出させやすいので、YR93%以下をより達成し易い。焼戻し温度として、より好ましくは420℃以上である。
焼戻し温度がAc1点以下であると、金属組織の粗大化が抑制され、その結果、靭性が向上する。焼戻し温度は、鋼のAc1点にもよるが、720℃以下であることも好ましく、710℃以下であることも好ましく、700℃以下であることも好ましい。
Ac1点は、下記式によって算出される。
Ac1点(℃) =750.8−26.6C+17.6Si−11.6Mn−22.9Cu−23Ni+24.1Cr+22.5Mo−39.7V−5.7Ti+232.4Nb−169.4Al
〔ここで、C、Si、Mn、Ni、Cu、Cr、Mo、V、Ti、Nb、及びAlは、それぞれ、各元素の質量%である。Ni、Cu、Cr、Mo、及びVは任意の元素であり、これら任意の元素のうち、鋼片に含有されていない元素については、0質量%としてAc1点を計算する。〕
製法Aにおけるアズロール電縫鋼管を製造する工程の好ましい態様については後述する。
製法Aがサイザー工程を有する場合には、上述した特定析出物面積率が0.100〜1.000%である電縫鋼管をより製造し易い。
この理由は、サイザー真円度変化量が1.0%以上となる条件の上記サイザー工程により、アズロール電縫鋼管の内部に、ある程度の量以上の転位が導入され、その後、アズロール電縫鋼管に対し400℃以上Ac1点以下の温度の焼戻しを施すことにより、転位上に微細な特定析出物が析出しやすくなるため、と考えられる。
まず、アズロール電縫鋼管の外径を、管周方向について45°ピッチで測定することにより4つの測定値を得る。得られた4つの測定値における、最大値、最小値、及び平均値をそれぞれ求める。最大値、最小値、及び平均値に基づき、以下の式によってアズロール電縫鋼管の真円度を求める。
アズロール電縫鋼管の真円度 = (最大値−最小値)/平均値
サイザー前後の真円度の変化量(%) = (|サイザーによる形状調整後のアズロール電縫鋼管の真円度−サイザーによる形状調整前のアズロール電縫鋼管の真円度|/サイザーによる形状調整前のアズロール電縫鋼管の真円度)×100
上述した化学組成を有する鋼片(スラブ)を加熱し、加熱された鋼片を熱間圧延することにより、熱延鋼板を得る熱間圧延工程と、
熱間圧延工程で得られた熱延鋼板を冷却する冷却工程と、
冷却工程で冷却された熱延鋼板を巻き取ることにより、熱延鋼板からなるホットコイルを得る巻き取り工程と、
ホットコイルから熱延鋼板を巻き出し、巻き出された熱延鋼板をロール成形することによりオープン管とし、得られたオープン管の突合せ部を電縫溶接して電縫溶接部を形成することにより、アズロール電縫鋼管を得る造管工程と、
を有することが好ましい。
造管工程は、電縫溶接後、必要に応じ、電縫溶接部に対しシーム熱処理を施してもよい。
鋼片を加熱する温度が1150℃以上であると、電縫鋼管の母材部の靭性をより向上させることができる。この理由は、鋼片を加熱する温度が1150℃以上であると、未固溶のNb炭化物の生成を抑制できるためと考えられる。
鋼片の加熱する温度が1350℃以下であると、電縫鋼管の母材部の靭性をより向上させることができる。この理由は、鋼片の加熱温度が1350℃以下であると、金属組織の粗大化を抑制できるためと考えられる。
Ar3(℃)=910−310C−80Mn−55Ni−20Cu−15Cr−80Mo
〔ここで、C、Mn、Ni、Cu、Cr、及びMoは、それぞれ、各元素の質量%である。Ni、Cu、Cr、及びMoは任意の元素であり、これら任意の元素のうち、鋼片に含有されていない元素については、0質量%としてAr3点を計算する。〕
冷却工程では、熱間圧延工程で得られた熱延鋼板を、冷却開始温度をAr3点以上として冷却することが好ましい。これにより、母材部の強度及び靭性をより向上させることができる。この理由は、冷却開始温度をAr3点以上とすることにより、粗大なフェライトの生成が抑制されるためと考えられる。
冷却速度が5℃/s以上であると、母材部の靭性劣化がより抑制される。この理由は、冷却工程における冷却速度が5℃/s以上であることにより、粗大なフェライトの生成が抑制されるためと考えられる。
冷却速度が80℃/s以下であると、母材部の靭性劣化が抑制される。この理由は、冷却工程における冷却速度が80℃/s以下であることにより、第二相分率が過剰となること(即ち、フェライト分率が40%未満となること)が抑制されるためと考えられる。
巻き取り温度が450℃以上であると、母材部の靭性劣化が抑制される。この理由は、巻き取り温度が450℃以上であると、マルテンサイトの生成が抑制されるためと考えられる。
巻き取り温度が650℃以下であると、YRの上昇を抑制できる。この理由は、巻き取り温度が650℃以下であると、Nb炭窒化物の過剰な生成が抑制され、その結果、YSの上昇が抑制されるためと考えられる。
<ホットコイルの製造>
表1及び表2に示す化学組成を有する鋼片を準備した。
比較例28(S:0.0015%)の鋼片は、通常の条件で製造した。
実施例1〜26、並びに、比較例1〜27及び29〜31の鋼片を製造する過程では、精錬時に用いるスラグの組成を最適化する技術、及び、精錬の途中でスラグを交換する技術を利用して、鋼片におけるS量が0.0010%以下となるように制御した。
ここで、熱間圧延における最終圧延終了から冷却開始までの時間は、表3に示す時間とした。
表2中、実施例18および19におけるREMはCeであり、実施例23および24におけるREMはNdであり、実施例25におけるREMはLaである。
表1〜表3中、下線を付した数値は、本開示の範囲外の数値である。
上記ホットコイルから熱延鋼板を巻き出し、巻き出された熱延鋼板をロール成形することによりオープン管とし、得られたオープン管の突合せ部を電縫溶接して溶接部を形成し、次いで溶接部をシーム熱処理することにより、アズロール電縫鋼管を得た。
上記アズロール電縫鋼管の形状を、サイザーにより、表3に示すサイザー真円度変化量(%)となる条件で調整した。
形状調整後のアズロール電縫鋼管に対し、表3に示す焼戻し温度及び焼戻し時間による焼戻しを施すことにより、電縫鋼管を得た。
得られた電縫鋼管の外径は219mmであり、この電縫鋼管の肉厚は15.9mmであった。
なお、以上の製造工程は、鋼の化学組成に影響を及ぼさない。従って、得られた電縫鋼管の母材部の化学組成は、原料である鋼片の化学組成と同一とみなせる。
得られた電縫鋼管について、以下の測定を行った。
結果を表3に示す。
前述した方法により、フェライト分率を測定し、第二相の種類を確認した。
表3中、TBは焼戻しベイナイトを意味し、Pはパーライトを意味する。
電縫鋼管の母材90°位置から、引張試験用の試験片を、引張試験の試験方向(引張方向)が電縫鋼管の管軸方向(以下、「L方向」とも称する)となる向きに採取した。ここで、試験片の形状は、アメリカ石油協会規格API 5L(以下、単に「API 5L」とする)に準拠する平板形状とした。
採取した試験片を用い、室温にて、API 5Lに準拠し、試験方向を電縫鋼管のL方向とする引張試験を行い、電縫鋼管のL方向のTS、及び、電縫鋼管のL方向のYSをそれぞれ測定した。
また、算出式「(YS/TS)×100」により、電縫鋼管のL方向のYR(%)を求めた。
電縫鋼管の母材90℃位置からVノッチ付きフルサイズ試験片(シャルピー衝撃試験用の試験片)を採取した。Vノッチ付きフルサイズ試験片は、試験方向が管周方向(C方向)となるように採取した。採取されたVノッチ付きフルサイズ試験片について、0℃の温度条件下で、API 5Lに準拠してシャルピー衝撃試験を行い、vE(J)を測定した。
以上の測定を、電縫鋼管1つ当たり5回行い、5回の測定値の平均値を、その電縫鋼管の母材部のvE(J)とした。
Vノッチ付きフルサイズ試験片を採取した位置を、電縫鋼管の溶接部に変更したこと以外は、母材部のvE(J)の測定と同様の操作を行った。
前述した方法により、特定析出物面積率(即ち、円相当径100nm以下の析出物の面積率;表3では単に「析出物面積率(%)」と表記する)を測定した。
HIC試験は、NACE−TM0284に準拠して実施した。
電縫鋼管の母材90℃位置からHIC試験用の全厚試験片を採取し、採取した全厚試験片を、Solution A液(5mass%NaCl+0.5mass%氷酢酸水溶液)に100%のH2Sガスを飽和させた試験液中に、96時間浸漬した。96時間浸漬後の試験片について、超音波探傷機にてHICの発生の有無を測定した。この測定結果に基づき、下記式によりCLR(%)を求めた。
CLRが小さいほど、耐サワー性に優れる。
CLR(%) =(割れの合計長さ/試験片長さ)×100(%)
C量が上限を超過した比較例1では、耐サワー性が低下した。
C量が下限を下回った比較例2では、YRが高くなった。この理由は、鋼の加工硬化能が劣化したためと考えられる。
Si量が上限を超過した比較例3では、溶接部の靭性が低下した。
Si量が下限を下回った比較例4では、母材部及び溶接部の靭性が低下した。この理由は、脱酸が不十分となり粗大な酸化物が生じたためと考えられる。
Mn量が下限を下回った比較例5では、母材部及び溶接部の靭性が低下した。この理由は、S起因の脆化が生じたためと考えられる。
Mn量が上限を超過した比較例6では、母材部及び溶接部の靭性が低下し、耐サワー性が低下した。この理由は、MnS起因の割れが生じたためと考えられる。
Ti量が下限を下回った比較例7では、母材部の靭性が低下した。この理由は、結晶粒が粗大となったためと考えられる。
Ti量が上限を超過した比較例8では、母材部及び溶接部の靭性が低下した。この理由は、粗大なTiNが生成したためと考えられる。
Nbが下限を下回った比較例9では、母材部の靭性が低下した。この理由は、未再結晶圧延が不十分となったためと考えられる。
Nbが上限を超過した比較例10では、母材部及び溶接部の靭性が低下した。この理由は、粗大なNb炭窒化物が生成したためと考えられる。
Alが下限を下回った比較例11では、母材部及び溶接部の靭性が低下した。この理由は、脱酸が不十分となったためと考えられる。
Alが上限を超過した比較例12では、母材部及び溶接部の靭性が低下した。この理由は、Al系介在物が多量に生成したためと考えられる。
CNeqが上限を超過した比較例13では、YSが上限を超過した。
CNeqが下限を下回った比較例14では、TSが下限を下回った。
比較例16は、TSが下限を下回り、YRが上限を超過した。この理由は、焼戻し温度が低すぎたために、焼戻しによって造管ひずみを緩和させる効果(即ち、転位密度を低減させる効果)が不十分であり、かつ、転位上析出が不十分であったためと考えられる。
比較例17では、母材部の靭性が低下した(即ち、母材部のvEが下限を下回った)。この理由は、焼戻し温度が高すぎたために、オーステナイトへの変態が起こり、金属組織が粗大化し、母材部の靭性が低下したためと考えられる。
比較例18〜21では、YRが上限を超過した。この理由は、サイザーによる真円度変化量が少ないために、十分な転位が導入されず、転位上析出が起こらなかったためと考えられる。
N量が下限を下回った比較例22では、母材部及び溶接部の靭性が低下した。この理由は、結晶粒が粗大になったためと考えられる。
N量が上限を超過した比較例23では、母材部及び溶接部の靭性が低下した。この理由は、窒化物の生成量が増大したためと考えられる。
Mn/Si比が下限を下回った比較例24では、溶接部の靭性が低下した。
フェライト分率が上限を超過した比較例25では、耐サワー性が低下した。
比較例26は、YRが上限を超過した。この理由は、焼戻し時間が短かったために、焼戻しによって造管ひずみを緩和させる効果(即ち、転位密度を低減させる効果)が不十分であり、かつ、転位上析出が不十分であったためと考えられる。
CNeqが上限を超過した比較例27では、YS及びTSがいずれも上限を超過した。
S量が上限を超過した比較例28では、耐サワー性が低下した。
LRが0.210を下回った比較例29〜31では、YRが上限を超過した。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
Claims (6)
- 母材部及び電縫溶接部を含み、
前記母材部の化学組成が、質量%で、
C :0.030%以上0.080%未満、
Mn:0.30〜1.00%、
Ti:0.005〜0.050%、
Nb:0.010〜0.100%、
N :0.001〜0.020%、
Si:0.010〜0.450%、
Al:0.0010〜0.1000%、
P :0〜0.030%、
S :0〜0.0010%、
Mo:0〜0.50%、
Cu:0〜1.00%、
Ni:0〜1.00%、
Cr:0〜1.00%、
V :0〜0.100%、
Ca:0〜0.0100%、
Mg:0〜0.0100%、
REM:0〜0.0100%、並びに
残部:Fe及び不純物からなり、
下記式(1)で示されるCNeqが0.190〜0.320であり、
Siの質量%に対するMnの質量%の比が2.0以上であり、
下記式(2)で示されるLRが0.210以上であり、
前記母材部の金属組織を走査型電子顕微鏡を用いて1000倍の倍率で観察した場合に、フェライトからなる第一相の面積率が40〜80%であり、残部である第二相が焼戻しベイナイトを含み、
管軸方向の降伏強度が390〜562MPaであり、
管軸方向の引張強度が520〜690MPaであり、
管軸方向の降伏比が93%以下であり、
前記母材部における管周方向のシャルピー吸収エネルギーが、0℃において100J以上であり、
前記電縫溶接部における管周方向のシャルピー吸収エネルギーが、0℃において80J以上である
ラインパイプ用電縫鋼管。
CNeq=C+Mn/6+Cr/5+(Ni+Cu)/15+Nb+Mo+V … 式(1)
LR=(2.1×C+Nb)/Mn … 式(2)
〔式(1)及び式(2)において、C、Mn、Cr、Ni、Cu、Nb、Mo、及びVは、それぞれ、各元素の質量%を表す。〕 - 前記母材部の化学組成が、質量%で、
Mo:0%超0.50%以下、
Cu:0%超1.00%以下、
Ni:0%超1.00%以下、
Cr:0%超1.00%以下、
V :0%超0.100%以下、
Ca:0%超0.0100%以下、
Mg:0%超0.0100%以下、及び
REM:0%超0.0100%以下
の1種又は2種以上を含有する請求項1に記載のラインパイプ用電縫鋼管。 - 前記母材部の金属組織を透過型電子顕微鏡を用いて100000倍の倍率で観察した場合に、円相当径100nm以下の析出物の面積率が0.100〜1.000%である請求項1又は請求項2に記載のラインパイプ用電縫鋼管。
- 前記母材部の化学組成におけるNbの含有量が、質量%で、0.020%以上である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のラインパイプ用電縫鋼管。
- 肉厚が10〜25mmであり、外径が114.3〜609.6mmである請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のラインパイプ用電縫鋼管。
- 前記母材部から採取した試験片について水素誘起割れ試験を行った場合に、試験片長さに対する割れの合計長さの百分率であるCLRが、8%以下である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のラインパイプ用電縫鋼管。
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