JP6202424B2 - 液中プラズマ処理装置及び液中プラズマ処理方法 - Google Patents
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Description
例えば、金、銀、銅などの電気抵抗値が小さい金属のナノ粒子は、分散剤や希釈剤によってペースト状のインクとすることで、IC基板などに電気配線を形成できる。また、金のナノ粒子は、様々な反応に対して触媒活性を示すことが見出されており、例えば、トイレの脱臭触媒として実用化されている。
このように、所望の金属を特定の担体に担持させた触媒を、金属担持触媒という。
この金属担持触媒の他の具体例として、例えば、アルミナナノ粒子を担体とし、白金を担持対象とする白金金属担持触媒などがある。この金属担持触媒は、近年、燃料電池などに使用されている。
この特許文献1に記載の液中プラズマ処理装置では、次のような原理により、ナノ粒子が生成される。ナノ粒子となる金属を用いて形成された電極の先端部を、容器に収められた液体に浸漬し、この電極を介してマイクロ波を液体に与えると、電極の先端部の近傍では、液体が加熱され、気化して気泡が発生し、この気泡中にプラズマが発生する。また、電極の先端部は、温度上昇により蒸発し、この電極材料が気泡内又は液中で凝縮する。これにより、ナノ粒子が生成される。
このプロセスでは、プラズマが熱源としてのみ働くので、プラズマが定常的である必要はない。一方で、気泡の維持は重要であり、このためにプラズマは不可欠である。すなわち、気泡が消滅すると、電極の先端部が液体にさらされ、温度が急速に低下するとともに、このときに生じるキャビテーションにより、直径数μmクラスの巨大な粒子が生じ、これがナノ粒子に混入する。このキャビテーションの現象は、レーザーアブレーションにおけるドロップレットと同じ現象と考えられる。
このような巨大粒子の混入は、ナノ粒子の品質を低下させる原因となる。そこで、巨大粒子の形成を抑制すべく、電極の先端部付近で気泡が発生している状態を維持可能にする技術の提案が求められていた。
まず、本発明の液中プラズマ処理装置の実施形態について、図1を参照して説明する。
同図は、本実施形態の液中プラズマ処理装置の構成を示す正面図である。
なお、この[液中プラズマ処理装置]においては、液中プラズマ処理装置の概略構成について説明することとし、本発明に関する詳細な説明については、後記の[本発明の原理]以降にて詳述する。
ここで、マイクロ波発振器10は、本発明におけるパルス波出力手段として動作するものであって、マグネトロンボックス11と、マイクロ波電源12と、マイクロ波電源コントローラ13とを有している。
マグネトロンボックス11は、生成したマイクロ波をパルス波として出力する。マイクロ波は、一般に、波長が100μm〜1m、周波数が300MHz〜3THzの電磁波をいう。
マイクロ波電源12は、マグネトロンボックス11にマイクロ波生成用の電力を供給する。
マイクロ波電源コントローラ13は、マイクロ波電源12に信号を送って、マイクロ波の出力などの調整及び制御を行う。
導波管20には、アイソレータ21、パワーメータ22、チューナ23などの立体回路を取り付けることができる。
アイソレータ21は、負荷から反射してきたマイクロ波が再びマグネトロンへ戻らないように、ダミーロードで吸収し、熱に変換する。
パワーメータ22は、出射、反射それぞれのマイクロ波電力を測定する。
また、導波管20には、終端プランジャ24などを取り付けることができる。
さらに、導波管20には、同軸導波管変換器25が取り付けられている。
この同軸導波管変換器25の構造については、後記の(液中プラズマ源)で詳述する。
この容器30は、例えば、テフロン(登録商標)などの樹脂やガラスで形成することができる。また、テフロン(登録商標)製の容器30の外側に、ステンレス容器を備えたり、金属製の容器の内側にテフロン(登録商標)塗装を施すなどして使用することもできる。
金属ナノ粒子を製造する場合、溶液には、水などの溶媒を使用する。
これに対し、金属担持物を製造する場合、上記の溶媒に担体粒子を分散させたものを使用する。担体は、各種セラミック、ガラス、あるいはカーボン材料などがあり、目的に応じて、適宜選ぶことが可能であり必要である。担体の濃度は、溶媒に対し、10重量%以下の範囲に設定できる。
この状態で、溶液中にプラズマを発生させると、プラズマの熱などにより、電極金属が蒸発し、気泡内又は溶液内で凝縮して金属ナノ粒子が生成され、これが担体に付着して金属担持物が生成される。
光ファイバ51は、電極42の先端部42−1の近傍で発生したプラズマからの電磁波を受光して、分光器52へ送る光伝送路である。
分光器52は、その電磁波を分光して発光スペクトルを得る。
温度管理装置53は、プログラム制御により動作する情報処理装置であって、分光器52で得られた発光スペクトルにもとづいて、電極42の先端部42−1の温度を算出する。そして、この算出した温度にもとづいて、調整後のパルス波電力の平均値を決定し、マイクロ波電源コントローラ13へ送る。
次に、液中プラズマ源40の構成について、図2を参照して説明する。
液中プラズマ源40は、導波管20を伝搬してきたマイクロ波を容器30に収められた液体に供給するための装置である。
この液中プラズマ源40は、図2に示すように、同軸管41と、電極42と、支持体43とを有している。
一般に、同軸導波管変換器25では、導波管20(管体25−1)と同軸管41とが直交に接続されている。このため、マイクロ波は、管体25−1から同軸管41に伝わるときに、その伝搬方向を直交方向に変えて伝わっていく。
同軸管外部導体41−1は、同軸導波管変換器25の管体25−1の表面から外方に向かって突設された管状部材である。この同軸管外部導体41−1の中心軸方向は、同軸導波管変換器25の管体25−1の中心軸に対して直交方向である。
この同軸管外部導体41−1の内径は、特性インピーダンスが50Ωとなるような寸法にしてある。
特性インピーダンスは、管の内外径比により変更できる。負荷(プラズマ)に整合するよう調整することも可能である。
支持体43においては、キャップ状の天板部の中央に、円形状の孔43−1が穿設されている。また、この孔43−1を囲繞する位置に、耐熱部材43−2が取り付けられている。
耐熱部材43−2は、プラズマ熱により支持体43が損耗して孔43−1の径が大きくなるのを防ぐ。この耐熱部材43−2は、電極42と同様、ナノ粒子を生成したい金属(例えば、金や白金など)で形成することができる。
また、絶縁部材45は、封止部材44がプラズマに直接暴露して熱的損傷を受けるのを防止している。これにより、封止部材44の寿命を延ばして、液中プラズマ源40の延命を可能とする。
なお、封止部材44の材料としては、例えば、プラスチックを用いることができる。また、絶縁部材45の材料としては、例えば、セラミックを用いることができる。
この同軸管内部導体41−2の一方の端部(容器30側)は、先細りの円錐形状に形成されており、支持体43の天板部の内側面に当接している。
同軸管内部導体41−2の他方の端部は、同軸導波管変換器25の管体25−1のうち、同軸管外部導体41−1が取り付けられている部分に対向する部分から外部に貫通している。
具体的には、プランジャ41−3の外周に雄ネジ41−4が形成されており、このプランジャ41−3の外周を覆う位置に形成された管体突部25−2の内面に形成された雌ネジ25−3と螺合している。そして、そのプランジャ41−3を同軸管内部導体41−2の内部へ向かって捻じ込むことで、このプランジャ41−3の捻じ込み方向先端が電極42を押圧し、この電極42の先端部42−1が、支持体43の孔43−1を通って外方へ(すなわち、容器30に収められた液体の中に向かって)繰り出すようになっている。
なお、電極42の繰り出し機構は、図2に示す構造に限るものではなく、従来公知の任意好適な繰り出し構造を用いることができる。また、繰り出し機構を設けていない同軸管41を液中プラズマ処理装置1に備えることもできる。
電極42の一部である先端部42−1は、支持体43の孔43−1から外部に突出している。
そして、容器30に収められた液体の液面に対して上方から、その液体内に向かって液中プラズマ源40の支持体43を浸漬させることで、電極42の先端部42−1がその液体に浸漬する。これにより、その電極42の先端部42−1が液体中に露出した状態となる。
この液中プラズマ処理装置1においては、容器30に収められた液体に電力を供給することで、この液体内にプラズマを発生させて、金属ナノ粒子又は金属担持物を生成する。
次に、その液体に供給される電力について説明する。
液体には、この液中にプラズマを発生させて金属ナノ粒子又は金属担持物を生成するための電力が供給される。
この電力は、2.45GHz、5.8GHz、9.5GHz帯などの周波数スペクトルが単一のマイクロ波により供給することができる。これにより、共振構造、伝送路インピーダンスの最適化などにより、高い電力供給効率が可能となる。
マイクロ波は、理論的には無反射にすることも可能であり、この場合の負荷への電力供給効率は、マグネトロンの発振効率のみが最も大きな損失となるだけなので、電力効率は、70%近くになる。この数値は、他の方法と比較して極めて高い効率である。
例えば、定常的にプラズマ放電可能なマイクロ波電力を液中プラズマ源40に投入すると、その電力により激しい発熱が生じ、電極42が破壊する。ただし、プラズマが生じるための電力は高く、試作機では、2kW以上のピークパワーを必要とした。この相反する要求を同時に実現するためには、電力供給はマイクロ波パルスであることが必要になる。
一方、マイクロ波パルスのパルス幅を1μ秒よりも短くすれば、プラズマはコロナ放電すなわち非熱平衡プラズマとなり、温度上昇が抑えられ、電極42の損耗は著しく少なくなる。しかし、液体に与えられるエネルギーは小さくなるため、反応速度が遅くなるか、または条件によっては金属ナノ粒子や金属担持物が生成されない可能性がある。
また、プラズマの発生には、印加電力の尖頭値が必要であり、電極42の先端部42−1の温度の制御(後述)は、概して平均電力となる。そこで、図4に示すように、パルス状のマイクロ波を定常出力(連続波 CW:Continuous Wave)に重畳して印加するようにすることもできる。
この場合、液中プラズマ処理装置1の構成としては、マイクロ波発振器10に代えて、パルス状のマイクロ波を定常出力に重畳して出力する発振器を、本発明のパルス波出力手段として設けることができる。
この場合、液中プラズマ処理装置1の構成としては、マイクロ波発振器10に代えて、直流パルスを出力可能なパルス電源である直流パルス発振器を、本発明のパルス波出力手段として設けることができる。
そして、本発明は、そのパルス波の周波数やDuty比等を制御することにより、ナノ粒子の品質向上と収量の増加を可能としている。
次に、このような特徴を有する本発明の原理及びその詳細について説明する。
液中プラズマによるナノ粒子の生成過程は、次の通りである。
先端部42−1が液体に浸漬した電極42に電流が流れることで、液体が加熱されて気化し、その先端部42−1の周囲に気泡が発生する。また、この気泡の発生と同時に、あるいは、その直後に、気泡内でプラズマが発生する。さらに、電極42の先端部42−1が、温度上昇により蒸発し、この蒸発した電極材料が気泡内又は液中で凝縮して、ナノ粒子が生成される。
液体が気化して気泡が発生する過程は、電力供給にマイクロ波を使った場合には、液体がマイクロ波による誘電加熱となり、直流パルスを使った場合は、液体中を直流電流が通るジュール加熱となる。
また、気泡の発生は、電極42中を流れる電流により、電極42そのものが加熱され、電極42に接触している液体が気化する過程も考えられる。
ナノ粒子の生産量は、電極材料の蒸気が気泡へ拡散する速度、すなわち蒸発速度に律速することになるため、蒸気圧は、高くすることが必要となる。一般的に、温度を高くすれば、蒸気圧が高くなるが、高くしすぎれば、電極42が溶融し脱落あるいは変形を生じてしまう。この間の最適温度を保つことが必要である。
気泡が消滅し、電極42の先端部42−1が液体に接触すれば、瞬時に冷却し、その間は、造粒が停止するとともに、その際に生じるキャビテーション等により巨大粒子が生じ、粒径の均一性が低下する。これにより、生成されたナノ粒子の品質が低下する。このような事態を回避するためには、電極42の先端部42−1が液体に接触しない状態を維持すること、すなわち、その先端部42−1の周囲に気泡を常に存在させておくことが必要である。
しかしながら、電極42の温度維持だけのために電極42に印加される電力を調整することはできない。なぜならば、マイクロ波電力は、電極42の温度維持に使われるのと、プラズマを維持するのに使われるのと、二つの側面が存在するからである。
一方を満たすだけでは、造粒プロセスが進行しなかったり、過熱のために装置が破壊される恐れがある。すなわち、放電維持に必要な電力を印加し続ければ、供給される熱量に液中プラズマ源40の先端部の温度が上昇しすぎて、溶融してしまう恐れがある。そのため、定常的に電力を印加するのではなく、断続的に電力を供給することにより、気泡維持と温度制御を個別にコントロールすることとした。
(I)パルス波の周波数を、気泡が発生している状態を維持可能な周波数とする。
(II)気泡が膨張と収縮とを繰り返すように、パルス波に対してパルス幅変調(PWM)を行う。
(III)電極42の先端部42−1の温度に応じて、パルス波電力の平均値を制御する。
これら(I)〜(III)の内容について、以下、順に説明する。
(b)に記載したように、巨大粒子が生じないようにするためには、電極42の先端部42−1の周囲に、気泡が常に存在している状態をつくることが望まれる。
電力供給が例えば図3(ii)に示すパルス波による場合、気泡は、パルス波がONのときには膨張し、OFFのときには収縮に転じる。
そして、OFFの時間が長いとき、気泡は、収縮後に消滅する。この現象から言えることとして、気泡が消滅する前にパルス波をONにすれば、気泡は、消滅することなく、膨張に転じるものと推察される。つまり、パルス波のOFFの時間を、気泡が消滅するまでの時間(正確には、パルス波がONからOFFに切り替わったことで、発生していた気泡が、収縮を開始した後、消滅するまでの時間)よりも短くすれば、気泡は、消滅しなくなり、電極42の先端部42−1の周囲に存在し続けるようになる。
この観測結果を参酌するとき、パルス波のOFFの時間を3msecよりも短い時間に設定すれば、気泡は、消滅しなくなるので、その発生状態を維持させることができる。
パルス波の周波数を設定するとき、周期にはパルス幅も含まれるが、その周波数を333.33Hz以上とすれば、パルス幅に関係なく、OFFの時間を3msecよりも短くすることができる。
ところが、パルス波の周波数を333.33Hz以上とし、かつ、この333.33Hzに近い周波数とした場合、気泡は、完全に消滅しないまでも、その大きさが非常に小さくなる。そうすると、電極42の先端部42−1が液体に接触して温度が急激に低下し、アブレーションにより巨大粒子が生じる可能性がある。
このように、パルス波の周波数を500Hz以上とすることにより、気泡が、一定以上の大きさに保たれた状態で、電極42の先端部42−1の周囲に常に存在するようになるので、電極42の先端部42−1が液体に接触して温度が急激に低下する状況が回避され、巨大粒子の生成が抑制されて、生成されるナノ粒子の粒径の均一性が確保され、当該ナノ粒子の品質が向上する。また、このように、気泡が電極42の先端部42−1の周囲に存在し続ける間は、ナノ粒子の生成が継続されるので、その収量を増やすことができる。
このように気泡の大きさが維持され続ける状態を、図5に示す。同図は、パルス波の周波数を1kHzとした場合の当該パルス波電力の変化と、気泡の状態とを示した図である。同図を参照して、気泡の大きさが維持される様子について、ナノ粒子の生成のプロセスにしたがって説明する。
液中プラズマ源40及び電極42の先端部42−1を液体に浸漬した後、この電極42にパルス波電力を印加すると、液体が熱せられ、気化して、電極42の先端部42−1の周囲に気泡が発生し、その中にプラズマが生じる(同図(1))。
プラズマを含んだ気泡は、次第に大きくなり、電極金属がその熱によって蒸発し、凝集し、気泡内に分散する(同図(2))。そして、気泡内に分散しているナノ粒子は、気液界面に吸い込まれるようにして、液体に分散する(同図(3))。
さらに、その後、パルス波電力がOFFからON(又は弱から強)に切り替わると、気泡内にプラズマが生じ、電極金属がその熱によって蒸発し、凝集し、気泡内に分散する(同図(4))。
以降、パルス波電力のONとOFFとの切り替え又は強と弱との切り替えを繰り返す制御が行われても、気泡の大きさは、見かけ上、ほとんど変化することなく、維持される(同図(5))。
このように、パルス波の周波数を500Hz以上とすることにより、気泡の大きさをある程度の大きさで維持させることができるので、巨大粒子の発生が抑制されるとともに、気泡が発生している間は、ナノ粒子の生成を継続させることができる。
また、電力供給が図4に示すようにパルス波と定常出力とを重畳した重畳波による場合には、定常電力を、気泡が消滅しない程度の電力を超える電力とすることで、気泡の発生状態を維持できる。
さらに、電力供給が直流パルスによる場合には、図3(ii)に示すパルス波の場合と同様、その周波数を500Hz以上とすることで、気泡の発生状態を維持できる。
気泡は、液体との界面で冷却され、常に液化していくので、気液界面にある微粒子は、常に液へ分散しているものと考えられる。ここで、気泡がある一定の大きさで維持している場合でも、微粒子の液への分散が起こっているものと考えられるが、(c)より、気泡が膨張収縮を繰り返す方が、気泡から液中へのナノ粒子拡散を促進することとなり、効果的であるものと考えられる。
そこで、気泡の膨張収縮を促す手法として、パルス波のパルス幅変調を発案した。
なお、同図(1)は、気泡がある程度の大きさにまで膨張した状態を示しているが、この状態に至るまでのプロセスは、図5(1)〜(3)におけるプロセスと同様であるため、ここでの説明は、省略する。
その後、Duty比が次第に大きくなるように、パルス波に対してパルス幅変調を行うと、気泡が次第に膨張していく(同図(3)、(4))。
さらに、その後、Duty比が次第に小さくなるように、パルス波に対してパルス幅変調を行うと、気泡が次第に収縮していく(同図(5))。その際、気泡内に分散しているナノ粒子は、気液界面に吸い込まれるようにして、液体に分散する。
なお、発明者が実験を行った結果、パルス波に対してパルス幅変調を行わなかった場合と比較して、パルス幅変調を行った方が、ナノ粒子の収量が一桁増加した。
パルス幅変調は、マグネトロンボックス11から出力されるマイクロ波のパルス波電力のDuty比をマイクロ波電源コントローラ13が制御することにより行われる。
マイクロ波電源コントローラ13は、本発明の変調部として機能し、パルス波電力のDuty比の可変範囲と、パルス幅変調の変調周波数が設定されることで、この設定された変調周波数にしたがって、パルス波電力のDuty比を可変することにより、パルス波のパルス幅変調を行う。
具体例として、例えば、図6に示すように、パルス幅変調(PWM)の1周期を10msec(変調周波数100Hz)とし、7.7%のDuty比を中心としてパルス幅変調を行うことができる。
また、ここでは、パルス波のパルス幅変調について説明したが、加熱しすぎない範囲で、パルス幅変調に代えて、周波数変調を行うこともできる。ただし、気泡の発生状態を維持するために、パルス波の周波数は、500Hz以上とすることが望ましい。
(a)、(c)でも説明したように、電極42の先端部42−1の温度を管理することは、電極42の溶融、脱落、変形を防止するとともに、電極材料の蒸発速度を促進する上で重要である。
そこで、電極42の先端部42−1の温度を測定するために液中プラズマ処理装置1に温度測定手段50を備えるとともに、その測定結果にもとづいてマイクロ波電源コントローラ13がパルス波電力の平均値の制御を行うことにより、電極42の温度をコントロールする構成とした。
この構成について、以下に説明する。
温度測定手段50は、電極42の先端部42−1の温度を測定する手段である。
ここで、電極42の温度をコントロールするためには、電極42の先端部42−1の温度を厳密に測定する必要がある。
電極42の先端部42−1は、マイクロ波が印加されており、かつ、面積が微小であるので、通常の接触式の温度計は使えない。
非接触式温度計としては、赤外放射を観察する形式のものがあるが、水をはじめとする多くの溶媒の場合、溶媒による赤外線吸収により、測定が困難である。
また、正確な測定には、放射率による校正の必要があり、状況の変化に対応できず、一般に赤外センサーは、レスポンスが遅いことも本応用では問題となり得る。
そこで、分光器52により可視光付近の分光スペクトルを得て、黒体放射スペクトルから温度を算出することとした。この方法では、広い波長域から情報を得るので、外乱に強く、溶媒の吸収スペクトル、プラズマからの発光スペクトルを除去可能である。
受光部54の位置は、プラズマの発生に影響を与えず、かつ溶液の混濁の影響をなるべく受けない位置に設置する。
なお、光ファイバ51を使用せずに、石英ガラス棒を導波路として用いることもできる。
温度管理装置53は、分光器52から送られてきた信号にもとづいて分光スペクトルを取得し、各種のノイズを除去した上で、黒体放射スペクトルのみを取り出して演算し、電極42の先端部42−1の温度を得る。
同図は、パルス波電力のDuty比を制御することにより電極42の温度を制御した際の黒体放射を含むプラズマ発光スペクトルを示す波形図である。具体的に、同図では、パルス波電力のDuty比を15%、12%、10%、8%とした場合のプラズマ発光スペクトルを示している。同図に示すプラズマ発光スペクトルは、定常電源を液体に供給してプラズマを点火した後、パルス電源(1kHz、Duty比8〜15%、安定放電)を供給し、スターラーを用いて回転速度275rpmで液体を攪拌したときに得られたプラズマ発光スペクトルである。なお、電極42の先端部42−1と光ファイバ51の受光部54との距離は、22mmとした。
一方、黒体放射は、500〜900nm付近のブロードなスペクトルであり、上述したプラズマからの発光スペクトル等とは、容易に見分けがつく。
そこで、プラズマからの発光スペクトルや蛍光灯からの輝線スペクトルをノイズとして除去する信号処理を行うことにより、これらノイズと黒体放射スペクトルとを分離できる。
例えば、図7に示す黒体放射スペクトルのうち500〜700nm付近のなだらかなスロープ(傾斜)を、各波形ごとに見てみると、電極42の先端部42−1の温度に応じて左右にシフトしている。
具体的には、パルス波電力のDuty比を大きくすることで電極42の先端部42−1の温度が上昇したときは、黒体放射スペクトルは、左側にシフトする(特定の波長において測光値すなわち発光強度が高くなる)。一方、パルス波電力のDuty比を小さくすることで電極42の先端部42−1の温度が下降したときは、黒体放射スペクトルは、右側にシフトする(特定の波長において測光値すなわち発光強度が低くなる)。
よって、所定の波長、例えば、700nm付近での黒体放射スペクトルを算出することにより、電極42の先端部42−1の温度を特定できる。
この特定を行うために、温度管理装置53は、電極42の先端部42−1の温度と、所定の波長における黒体放射スペクトルの測光値とを対応付けた管理テーブルを記憶しており、所定の波長における黒体放射スペクトルの測光値を算出すると、当該管理テーブルを参照して、対応する電極42の先端部42−1の温度を得ることができるようになっている。
温度管理装置53は、電極42の先端部42−1の温度を得ると、調整後のパルス波電力の平均値を特定する。
図8は、パルス波電力のDuty比と、プランクの法則を用いて黒体放射により計測されたスペクトルから算出した電極温度との関係を示すグラフである。同図に示す電極温度は、定常電源を液体に供給してプラズマを点火した後、パルス電源(1kHz、Duty比8〜15%、安定放電)を供給し、スターラーを用いて回転速度275rpmで液体を攪拌したときに得られた電極温度である。
同図は、パルス波のDuty比を変えることで、パルス波電力の平均値が変化し、電極42の先端部42−1の温度が変化することを示している。
そして、温度管理装置53は、特定したパルス波電力の平均値を、マイクロ波電源コントローラ13へ送る。
具体的には、図3(ii)に示したパルス波電力の平均値が温度管理装置53から受け取ったパルス波電力の平均値と一致するように、当該パルス波のDuty比を制御する。
これにより、温度測定手段50において得られた電極42の先端部42−1の温度が、マイクロ波電源12にフィードバックされ、パルス波電力の平均値が制御されて、電極42の先端部42−1の温度が一定となる。
これに対し、電力供給が、図4に示す重畳波電力による場合、温度の制御は、定常電力の強さ、又は、パルス電力のDuty比によって制御できる。
また、ここでは、パルス波のパルス幅変調について説明したが、加熱しすぎない範囲で、パルス幅変調に代えて、周波数変調を行うこともできる。ただし、気泡の発生状態を維持するために、パルス波の周波数は、500Hz以上とする。
次に、本実施形態の液中プラズマ処理装置1の動作(液中プラズマ処理方法)について、図9、図10を参照して説明する。
図9は、本実施形態の液中プラズマ処理装置1を用いてナノ粒子を生成する手順を示すフローチャートである。図10は、本実施形態の液中プラズマ処理装置1を用いて金属担持物を生成する手順を示すフローチャートである。
これら、ナノ粒子を生成する手順である金属ナノ粒子製造方法と、金属担持物を生成する手順である金属担持物製造方法について、順に説明する。
図9に示すように、液中プラズマ処理装置1には、ナノ粒子を作成したい金属で形成された電極42が取り付けられている(ステップ10)。
液中プラズマ処理装置1の容器30に、水などの液体を溶媒として投入する(ステップ11)。
この溶媒に対して、液面の上方から液中プラズマ源40を浸漬する。
マイクロ波電源コントローラ13において、マイクロ波のパルス波電力の周波数を、気泡の発生状態が維持可能な周波数(500Hz以上、具体例として、1kHz)に設定する(ステップ12)。
また、マイクロ波電源コントローラ13において、マイクロ波のパルス波電力のDuty比(又は、Duty比の可変範囲)と、変調周波数を設定する(ステップ13)。
これにより、電極42の先端部42−1の近傍で、液体の温度上昇により気泡が発生する。また、この気泡内に、プラズマが発生する(ステップ15)。
さらに、電極42の先端部42−1が温度上昇により蒸発し、この蒸発した電極材料が気泡内又は溶媒中で凝縮して、ナノ粒子が生成される(ステップ16)。
温度管理装置53は、その発光スペクトルにもとづいて黒体放射スペクトルを算出し、電極42の先端部42−1の温度を算出する(ステップ17)。そして、この算出した温度にもとづいて調整しようとするパルス波電力の平均値を特定する。特定したパルス波電力の平均値は、マイクロ波電源コントローラ13へ送られる。
マイクロ波電源コントローラ13は、特定されたパルス波電力の平均値にもとづいて、マイクロ波電源12を制御し、マグネトロンボックス11から出力されるマイクロ波のパルス波電力の平均値を制御する(ステップ18)。これにより、電極42の先端部42−1の温度が制御される。
図10に示すように、液中プラズマ処理装置1には、ナノ粒子を作成したい金属で形成された電極42が取り付けられている(ステップ20)。
液中プラズマ処理装置1の容器30に、担体粒子が分散した溶媒を投入する(ステップ21)。担体の濃度は、例えば、溶媒に対し、10重量%以下の範囲に設定する。
この溶媒に対して、液面の上方から液中プラズマ源40を浸漬する。
マイクロ波電源コントローラ13において、マイクロ波のパルス波電力の周波数を、気泡の発生状態が維持可能な周波数(500Hz以上、具体例として、1kHz)に設定する(ステップ22)。
また、マイクロ波電源コントローラ13において、マイクロ波のパルス波電力のDuty比(又は、Duty比の可変範囲)と、変調周波数を設定する(ステップ23)。
これにより、電極42の先端部42−1の近傍で、液体の温度上昇により気泡が発生する。また、この気泡内に、プラズマが発生する(ステップ25)。
さらに、電極42の先端部42−1が温度上昇により蒸発し、この蒸発した電極材料が気泡内又は溶媒中で凝縮して、これが溶媒中に分散した担体上に付着・成長し、金属担持物が生成される(ステップ26)。
温度管理装置53は、その発光スペクトルにもとづいて黒体放射スペクトルを算出し、電極42の先端部42−1の温度を算出する(ステップ27)。そして、この算出した温度にもとづいて調整しようとするパルス波電力の平均値を特定する。特定したパルス波電力の平均値は、マイクロ波電源コントローラ13へ送られる。
マイクロ波電源コントローラ13は、特定されたパルス波電力の平均値にもとづいて、マイクロ波電源12を制御し、マグネトロンボックス11から出力されるマイクロ波のパルス波電力の平均値を制御する(ステップ28)。これにより、電極42の先端部42−1の温度が制御される。
図1に示す構成を備えた液中プラズマ処理装置1を用意した。ただし、温度測定手段50(光ファイバ51、分光器52、温度管理装置53)は、接続していない。
容器30内に液体として水を収め、この液面の上方から液中プラズマ源40を当該液体に浸漬した。
白金(Pt)を用いて形成された電極42に、尖頭印加電力3500Wを印加して、液中にプラズマを発生させ、白金ナノ粒子を生成した。
このとき、パルス波の周波数を300Hzとし、パルス波のDuty比を20%とした。
この比較例においては、液中プラズマ処理装置1に温度測定手段50が接続されていないため、電極42の温度制御は、行っていない。また、パルス波に対するパルス幅変調も行っていない。
同図に示すように、生成された粒子は、大半が数μmの巨大粒子であった。
これは、パルス波の周波数が300Hzであり、333.33Hzよりも小さいことから、気泡の消滅により電極42の先端部42−1が液体に接触して温度が急激に低下し、キャビテーション等により巨大粒子が生じたためであるものと考えられる。
なお、粒子生成速度は、1mg/minであった。
図1に示す構成を備えた液中プラズマ処理装置1を用意した。ただし、温度測定手段50(光ファイバ51、分光器52、温度管理装置53)は、接続していない。
容器30内に液体として水を収め、この液面の上方から液中プラズマ源40を当該液体に浸漬した。
白金(Pt)を用いて形成された電極42に、尖頭印加電力3500Wを印加して、液中にプラズマを発生させ、白金ナノ粒子を生成した。
このとき、パルス波の周波数を1kHzとし、パルス波のDuty比を8%とした。
この実施例1においては、液中プラズマ処理装置1に温度測定手段50が接続されていないため、電極42の温度制御は、行っていない。また、パルス波に対するパルス幅変調も行っていない。
同図に示すように、生成された白金ナノ粒子は、粒径が均一化しており、数μmの巨大粒子は、みられなかった。
これは、パルス波の周波数が1kHzであり、333.33Hzよりも高いことから、気泡がある程度の大きさで維持されたために、電極42の先端部42−1が液体に接触しなくなり、キャビテーション等による巨大粒子の生成が生じなかったためであるものと考えられる。
これは、パルス波のDuty比を8%で一定とし、パルス幅変調を行わなかったことにより、気泡の大きさが、見かけ上変化せず、一定の大きさで維持されたため、気泡の温度が高い状態で維持し且つ滞留し、蒸発した電極材料が凝縮しないことで、蒸発速度が低下したためであるものと考えられる。
図1に示す構成を備えた液中プラズマ処理装置1を用意した。この液中プラズマ処理装置1には、温度測定手段50(光ファイバ51、分光器52、温度管理装置53)を接続した。
容器30内に液体として水を収め、この液面の上方から液中プラズマ源40を当該液体に浸漬した。
白金(Pt)を用いて形成された電極42に、尖頭印加電力3500Wを印加して、液中にプラズマを発生させ、白金ナノ粒子を生成した。
このとき、パルス波の周波数を1kHzとした。また、パルス波の平均Duty比を7.7%、Duty比変動値を7.6%とし、変調周波数100Hzの鋸波によりパルス幅変調を行った。さらに、電極42の温度を測定し、この温度にもとづいて、パルス波電力の平均値を制御して、当該電極42の温度を制御した。
同図に示すように、生成された白金ナノ粒子は、粒径が均一化しており、数μmの巨大粒子は、みられなかった。
これは、実施例1の場合と同様、パルス波の周波数が1kHzであり、333.33Hzよりも高いことから、気泡がある程度の大きさで維持されたために、電極42の先端部42−1が液体に接触しなくなり、キャビテーション等による巨大粒子の生成が生じなかったためであるものと考えられる。
これは、パルス波に対してパルス幅変調を行ったことにより、気泡が膨張と収縮とを繰り返すようになり、併せて、電極42の温度制御を行ったことにより、電極材料の蒸発速度が上昇したためであるものと考えられる。
また、電極の温度を測定し、この測定結果にもとづいて、パルス波のパルス幅変調を行うことにより、ナノ粒子の収量を増加させることができる。
例えば、上述した実施形態では、図1に示すように、マグネトロンボックス、マイクロ波電源、マイクロ波電源コントローラをそれぞれ別構成で示したが、別構成に限るものではなく、これらを一体構成とすることができる。
さらに、上述した実施形態では、本発明の特徴的なパルス波の制御として、[パルス波の周波数の設定]と、[パルス波のパルス幅変調]と、[電極先端部の温度制御]とを挙げたが、これらは、任意に組み合わせて実施することができる。
10 マイクロ波発振器(パルス波出力手段)
13 マイクロ波電源コントローラ(変調部)
30 容器
42 電極
42−1 先端部
50 温度測定手段
51 光ファイバ
52 分光器
53 温度算出装置
Claims (3)
- 液体中でプラズマを発生させてナノ粒子を生成する液中プラズマ処理装置であって、
前記液体を収めるための容器と、
パルス状マイクロ波電力を出力するマイクロ波発振器と、
一部が前記液体に浸漬されるとともに、前記液体中に前記プラズマを発生させるために、前記マイクロ波発振器から出力された前記パルス状マイクロ波電力を前記液体に与える電極であって、前記プラズマ中で加熱され蒸発して前記ナノ粒子となる材料で形成された電極とを備え、
加熱により前記液体が気化して気泡が発生している状態を維持するように、前記パルス状マイクロ波電力のパルス周波数を500Hz以上とし、
前記気泡が膨張と収縮を繰り返すように、前記パルス状マイクロ波電力のパルス幅をパルス幅変調により周期的に変化させる変調部を備える
ことを特徴とする液中プラズマ処理装置。 - 一部を液体に浸漬させた電極を介して、パルス状マイクロ波電力を前記液体に与えて、液体中でプラズマを発生させ、前記プラズマ中で前記電極を加熱して蒸発させ、ナノ粒子を生成する液中プラズマ処理方法であって、
加熱により前記液体が気化して気泡が発生している状態を維持するように、前記パルス状マイクロ波電力のパルス周波数を500Hz以上とし、
前記気泡が膨張と収縮を繰り返すように、前記パルス状マイクロ波電力のパルス幅をパルス幅変調により周期的に変化させる
ことを特徴とする液中プラズマ処理方法。 - 前記電極は、前記ナノ粒子として生成する金属を材料として形成されている、
ことを特徴とする請求項2記載の液中プラズマ処理方法。
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