一般的な消耗電極式アーク溶接では、消耗電極である溶接ワイヤを一定速度で送給し、溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶接が行なわれる。消耗電極式アーク溶接では、溶接ワイヤと母材とが短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返す溶接状態になることが多い。
溶接品質をさらに向上させるために、溶接ワイヤの正送と逆送とを周期的に繰り返して溶接する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。以下、この溶接方法について説明する。
図8は、送給速度の正送と逆送とを周期的に繰り返す溶接方法における波形図である。同図(A)は送給速度Fwの波形を示し、同図(B)は溶接電流Iwの波形を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの波形を示す。以下、同図を参照して説明する。
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、0よりも上側が正送期間となり、下側が逆送期間となる。正送とは溶接ワイヤを母材に近づける方向に送給することであり、逆送とは母材から離反する方向に送給することである。送給速度Fwは、正弦波状に変化しており、正送側にシフトした波形となっている。このために、送給速度Fwの平均値は正の値となり、溶接ワイヤは平均的には正送されている。
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、時刻t1時点では0であり、時刻t1〜t2の期間は正送加速期間となり、時刻t2で正送の最大値となり、時刻t2〜t3の期間は正送減速期間となり、時刻t3で0となり、時刻t3〜t4の期間は逆送加速期間となり、時刻t4で逆送の最大値となり、時刻t4〜t5の期間は逆送減速期間となる。そして、時刻t5〜t6の期間は再び正送加速期間となり、時刻t6〜t7の期間は再び正送減速期間となる。
溶接ワイヤと母材との短絡は、時刻t2の正送最大値の前後で発生することが多い。同図では、正送最大値の後の正送減速期間中の時刻t21で発生した場合である。時刻t21において短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減し、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは次第に増加する。
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、時刻t3からは逆送期間になるので、溶接ワイヤは逆送される。この逆送によって短絡が解除されて、時刻t31においてアークが再発生する。アークの再発生は、時刻t4の逆送最大値の前後で発生することが多い。同図では、逆送ピーク値の前の逆送加速期間中の時刻t31で発生した場合である。したがって、時刻t21〜t31の期間が短絡期間となる。
時刻t31においてアークが再発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増する。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、短絡期間中の最大値の状態から変化を開始する。
時刻t31〜t5の期間中は、同図(A)に示すように、送給速度Fwは逆送状態であるので、溶接ワイヤは引き上げられてアーク長は次第に長くなる。アーク長が長くなると、溶接電圧Vwは大きくなり、定電圧制御されているので溶接電流Iwは小さくなる。したがって、時刻t31〜t5のアーク期間逆送期間Tar中は、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは次第に大きくなり、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは次第に小さくなる。
そして、次の短絡が、時刻t6〜t7の正送減速期間中の時刻t61に発生する。但し、時刻t61に発生した短絡は、時刻t21に発生した短絡よりも正送最大値からの時間(位相)が遅くなっている。時刻t31〜t61の期間がアーク期間となる。時刻t5〜t61の期間中は、同図(A)に示すように、送給速度Fwは正送状態であるので、溶接ワイヤは正送されてアーク長は次第に短くなる。アーク長が短くなると、溶接電圧Vwは小さくなり、定電圧制御されているので溶接電流Iwは大きくなる。したがって、時刻t5〜t61のアーク期間正送期間Tas中は、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは次第に小さくなり、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは次第に大きくなる。
上述したように、溶接ワイヤの正送と逆送とを繰り返す溶接方法では、定速送給の従来技術では不可能であった短絡とアークとの繰り返しの周期を所望値に設定することができるので、スパッタ発生量の削減、ビード外観の改善等の溶接品質の向上を図ることができる。
しかし、上述したように、時刻t5〜t61のアーク期間正送期間Tas中は、アーク長が短くなるのに伴い溶接電流Iwが次第に大きくなるために、溶接ワイヤ先端の溶滴に作用する持ち上げ力が次第に大きくなる。この結果、短絡の発生タイミングがばらつくことになる。短絡発生タイミングのばらつきが大きくなると、短絡とアークとの周期と正送と逆送との周期とが同期しなくなり、短絡とアークとの周期がばらつくことになる。この同期ズレ状態を元の同期状態に戻すための方法が、特許文献1に開示されている。
特許文献1の発明では、溶接ワイヤの正送中で送給速度の減速中に、送給速度が所定の送給速度になるまでに短絡が発生しない場合には、周期的な変化を中止して送給速度を第1の送給速度に一定制御し、第1の送給速度による正送中に短絡が発生すると第1の送給速度から減速を開始して周期的な変化を再開して溶接を行うものである。これにより、同期ズレ状態を同期状態に戻そうとしている。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、出力電圧Eを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器、上記の誤差増幅信号Eaを入力としてパルス幅変調制御を行う変調回路、パルス幅変調制御信を入力としてインバータ回路のスイッチング素子を駆動するインバータ駆動回路を備えている。
リアクトルWLは、上記の出力電圧Eを平滑する。このリアクトルWLのインダクタンス値は、例えば200μHである。
送給モータWMは、後述する送給制御信号Fcを入力として、正送と逆送とを周期的に繰り返して溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。この送給モータWMには、過渡応答性の速いモータが使用される。溶接ワイヤ1の送給速度Fwの変化率及び送給方向の反転を速くするために、送給モータWMは溶接トーチ4の先端の近くに設置される場合がある。また、送給モータWMを2個使用して、プッシュプル方式の送給系とする場合もある。
溶接ワイヤ1は、上記の送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号vdを出力する。短絡判別回路SDは、この電圧検出信号vdを入力として、この値が予め定めた短絡判別値未満のときは短絡期間であると判別してHighレベルとなり、以上のときはアーク期間であると判別してLowレベルとなる短絡判別信号Sdを出力する。この短絡判別値は、15V程度に設定される。
送給速度設定回路FRは、図2(A)で詳述するように、正送と逆送とが周期的に繰り返される予め定めたパターンの送給速度設定信号Frを出力する。この送給速度設定信号Frが0以上のときは正送期間となり、0未満のときは逆送期間となる。
送給制御回路FCは、この送給速度設定信号Frを入力として、この設定値に相当する送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
出力電圧設定回路ERは、予め定めた出力電圧設定信号Erを出力する。出力電圧検出回路EDは、上記の出力電圧Eを検出し平滑して、出力電圧検出信号Edを出力する。
ゲイン設定回路GRは、上記の短絡判別信号Sd及び上記の送給速度設定信号Frを入力として、以下の処理を行ない、ゲイン設定信号Grを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときは、予め定めた高ゲイン設定値となるゲイン設定信号Grを出力する。
2)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)であり、かつ、送給速度設定信号Frが0未満(逆送期間)であるときは、上記の高ゲイン設定値をゲイン設定信号Grとして出力する。
3)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)であり、かつ、送給速度設定信号Frが0以上(正送期間)であるときは、予め定めた低ゲイン設定値をゲイン設定信号Grとして出力する。当然、低ゲイン設定値は、高ゲイン設定値よりも小さな値である。
誤差増幅回路EAは、上記のゲイン設定信号Gr、上記の出力電圧設定信号Er及び上記の出力電圧検出信号Edを入力として、出力電圧設定信号Er(+)と出力電圧検出信号Ed(−)との誤差をゲイン設定信号Grによって定まるゲイン(増幅率、利得)で増幅して、誤差増幅信号Eaを出力する。この回路によって、溶接電源は定電圧制御される。したがって、ゲイン設定信号Grは、定電圧制御系のゲインを設定する信号である。
図2は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を説明するための図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)はゲイン設定信号Grの時間変化を示す。同図は上述した図8と対応しており、時刻t5〜t61のアーク期間正送期間Tas中の動作が異なる。以下、同図を参照して説明する。
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、0よりも上側が正送期間となり、下側が逆送期間となる。送給速度Fwは、正弦波状に変化しており、正送側にシフトした波形となっている。このために、送給速度Fwの平均値は正の値となり、溶接ワイヤは平均的には正送されている。
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、時刻t1時点では0であり、時刻t1〜t2の期間は正送加速期間となり、時刻t2で正送の最大値となり、時刻t2〜t3の期間は正送減速期間となり、時刻t3で0となり、時刻t3〜t4の期間は逆送加速期間となり、時刻t4で逆送の最大値となり、時刻t4〜t5の期間は逆送減速期間となる。そして、時刻t5〜t6の期間は再び正送加速期間となり、時刻t6〜t7の期間は再び正送減速期間となる。この正送と逆送との繰り返し周期は、所定値に設定されている。例えば、時刻t1〜t2の正送加速期間は2.7msであり、時刻t2〜t3の正送減速期間は2.7msであり、時刻t3〜t4の逆送加速期間は2.3msであり、時刻t4〜t5の逆送減速期間は2.3msであり、正送の最大値は50m/minであり、逆送の最大値は−50m/minである。この場合は、正送と逆送との繰り返し周期は10msとなり、送給速度Fwの平均値は約4m/min(平均溶接電流は約150A)となる。
溶接ワイヤと母材との短絡は、時刻t2の正送最大値の前後で発生することが多い。同図では、正送最大値の後の正送減速期間中の時刻t21で発生した場合である。時刻t21において短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減し、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは次第に増加する。
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、時刻t3からは逆送期間になるので、溶接ワイヤは逆送される。この逆送によって短絡が解除されて、時刻t31においてアークが再発生する。アークの再発生は、時刻4の逆送最大値の前後で発生することが多い。同図では、逆送ピーク値の前の逆送加速期間中の時刻t31で発生した場合である。したがって、時刻t21〜t31の期間が短絡期間となる。この短絡期間中は、同図(D)に示すように、ゲイン設定信号Grは予め定めた高ゲイン設定値となっている。このために、定電圧制御系のゲインは高ゲイン設定値となっている。この点は、従来技術と同一である。
時刻t31においてアークが再発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増する。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、短絡期間中の最大値の状態から変化を開始する。
時刻t31〜t5の期間中は、同図(A)に示すように、送給速度Fwは逆送状態であるので、溶接ワイヤは引き上げられてアーク長は次第に長くなる。アーク長が長くなると、溶接電圧Vwは大きくなり、定電圧制御されているので溶接電流Iwは小さくなる。したがって、時刻t31〜t5のアーク期間逆送期間Tar中は、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは次第に大きくなり、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは次第に小さくなる。このアーク期間逆送期間Tar中は、同図(D)に示すように、ゲイン設定信号Grは上記の高ゲイン設定値のままである。このために、定電圧制御系のゲインも高ゲイン設定値のままである。この点も従来技術と同一である。
そして、次の短絡が、時刻t6〜t7の正送減速期間中の時刻t61に発生する。但し、図8とは異なり、時刻t61に発生した短絡と時刻t21に発生した短絡とは正送最大値からの時間(位相)が略一致している。時刻t31〜t61の期間がアーク期間となる。時刻t5〜t61の期間中は、同図(A)に示すように、送給速度Fwは正送状態であるので、溶接ワイヤは正送されてアーク長は次第に短くなる。このアーク期間正送期間Tas中は、同図(D)に示すように、ゲイン設定信号Grは予め定めた低ゲイン設定値に切り換わる。このために、定電圧制御系のゲインは低ゲイン設定値となる。アーク長が短くなると、溶接電圧Vwは小さくなり、定電圧制御されているので溶接電流Iwは大きくなる。しかし、溶接電流Iwの増加率は図8のときよりも小さくなる。これは、上述したように、定電圧制御系のゲインが低ゲイン設定値となっているためである。したがって、時刻t5〜t61のアーク期間正送期間Tas中は、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは次第に小さくなり、同図(B)に示すように、溶接電流Iwはほとんど増加しない。
上述した実施の形態1によれば、アーク期間中の溶接電圧の変動に対する溶接電流の変動を、正送期間(アーク期間正送期間Tas)中は逆送期間(アーク期間逆送期間Tar)中よりも小さくする変動制御を行なっている。実施の形態1では、この変動制御を、溶接電源の定電圧制御のゲインを正送期間中は逆送期間中よりも小さく設定することによって行なっている。これにより、実施の形態1では、アーク期間中の正送期間中にアーク長が次第に短くなり、溶接電圧が次第に小さくなっても、溶接電流の増加を抑制することができるので、溶滴が持ち上げられることを防止することができる。この結果、短絡が発生するタイミングのばらつきを抑制することができる。このために、本実施の形態では、短絡とアークとの周期と送給速度の正送と逆送との周期とが同期ズレ状態になることを抑制し、安定した溶接を行うことができる。
実施の形態1において、アーク期間逆送期間Tar中の定電圧制御系のゲインを低ゲイン設定値にすると、定電圧制御系のゲインが低いためにアーク長制御の過渡応答性が悪くなる。この結果、アーク長が長くなるときにオーバーシュートをしてしまい、溶接状態が不安定になる。したがって、定電圧制御系のゲインは、アーク期間逆送期間Tar中は高くなり、アーク期間正送期間Tas中は低くなる必要がある。
[実施の形態2]
実施の形態2の発明は、インダクタンス値を電子的に形成する電子リアクトル制御をさらに備え、変動制御は、電子リアクトル制御によって形成されるインダクタンス値を正送期間中は逆送期間中よりも大きな値に設定することによって行う。
まず、従来技術(特許文献2参照)である電子リアクトル制御について説明する。溶接電源の出力電圧をE(V)とし、リアクトルWLのインダクタンス値をL(H)とし、溶接電流Iwの通電路の抵抗値をr(Ω)とし、溶接電圧をVw(V)とすると、溶接電源の出力に関して下式が成立する。
E=L・dIw/dt+r・Iw+Vw
上式において、抵抗値rは通常小さな値であるので省略し、電流変化率(電流微分値)dIw/dtで整理すると下式となる。
dIw/dt=(E−Vw)/L …(1)式
出力電圧設定信号をEr(V)とし、適正インダクタンス値をLm(μH)とし、溶接電流Iwを平滑するための数十μHの固定インダクタンス値をLi(μH)とし、電子リアクトル制御によって形成されるインダクタンス値をLr(μH)とする。したがって、Lm=Li+Lrとなる。これらを上記の(1)式に代入して整理すると下式となる。
Er−Lr・dIw/dt=Li・dIw/dt+Vw …(2)式
上式において、出力電圧E=Er−Lr・dIw/dtになるように制御することによってインダクタンス値Lrを電子的に形成することができる。すなわち、溶接電流Iwを検出し、出力電圧制御設定信号Ecr=Er−Lr・dIw/dtを算出し、出力電圧Eがこの出力電圧制御設定信号Ecrの値と等しくなるように制御すれば良い。
ここで、Lr=Lm−Liであるので、種々の溶接条件に応じて適正インダクタンス値Lmが決まると、電子リアクトル制御によって形成するインダクタンス値Lrが決まる。したがって、適正インダクタンス値Lmを任意の値に電子リアクトル制御によって設定することができる。
図3は、本発明の実施の形態2に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は上述した図1と対応しており、同一のブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、図1に電流検出回路ID、インダクタンス値設定回路LR及び電子リアクトル制御回路ECRを追加し、図1のゲイン設定回路GRを第2ゲイン設定回路GR2に置換し、図1の誤差増幅回路EAを第2誤差増幅回路EA2に置換したものである。以下、同図を参照してこれらのブロックについて説明する。
同図では、リアクトルWLのインダクタンス値Liを50μH程度の小さな値にする。これは、溶接電流Iwのリップルを所望値未満にできる程度の値である。適正インダクタンス値Lmとの差分は、電子リアクトル制御によって形成されるインダクタンス値Lrによって補填する。
電流検出回路IDは、溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。
インダクタンス値設定回路LRは、短絡判別信号Sd及び送給速度設定信号Frを入力として、以下の処理を行ない、インダクタンス値設定信号Lrを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときは、予め定めた短絡期間インダクタンス値となるインダクタンス値設定信号Lrを出力する。
2)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)であり、かつ、送給速度設定信号Frが0未満(逆送期間)であるときは、予め定めたアーク期間低インダクタンス値をインダクタンス値設定信号Lrとして出力する。
3)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)であり、かつ、送給速度設定信号Frが0以上(正送期間)であるときは、予め定めたアーク期間高インダクタンス値をインダクタンス値設定信号Lrとして出力する。当然、アーク期間高インダクタンス値は、アーク期間低インダクタンス値よりも大きな値である。
電子リアクトル制御回路ECRは、上記の電流検出信号Id、上記のインダクタンス値設定信号Lr及び出力電圧設定信号Erを入力として、出力電圧制御設定信号Ecr=Er−Lr・dId/dtを算出して出力する。
第2ゲイン設定回路GR2は、予め定めた高ゲイン設定値のゲイン設定信号Grを出力する。第2誤差増幅回路EA2は、上記のゲイン設定信号Gr、出力電圧制御設定信号Ecr及び出力電圧検出信号Edを入力として、出力電圧制御設定信号Ecr(+)と出力電圧検出信号Ed(−)との誤差をゲイン設定信号Grによって定まるゲインで増幅して、誤差増幅信号Eaを出力する。この回路によって、溶接電源は定電圧制御される。
図4は、本発明の実施の形態2に係るアーク溶接制御方法を説明するための図3の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)はインダクタンス値設定信号Lrの時間変化を示す。同図は上述した図2と対応しており、時刻t5〜t61のアーク期間正送期間Tas中の動作が異なる。以下、同図を参照して説明する。
同図(A)に示す送給速度Fwの波形は、図2と同一である。図2と同様に、時刻t21において短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減し、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは次第に増加する。そして、図2と同様に、時刻t31においてアークが再発生するので、時刻t21〜t31の期間が短絡期間となる。この短絡期間中は、同図(D)に示すように、インダクタンス値設定信号Lrは予め定めた短絡期間インダクタンス値となっている。このために、電子リアクトル制御によって短絡期間インダクタンス値を有するリアクトルが形成される。この結果、短絡期間中の溶接電流Iwの増加率が適正化される。
時刻t31においてアークが再発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増する。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、短絡期間中の最大値の状態から変化を開始する。
時刻t31〜t5の期間中は、同図(A)に示すように、送給速度Fwは逆送状態であるので、溶接ワイヤは引き上げられてアーク長は次第に長くなる。アーク長が長くなると、溶接電圧Vwは大きくなり、定電圧制御されているので溶接電流Iwは小さくなる。したがって、時刻t31〜t5のアーク期間逆送期間Tar中は、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは次第に大きくなり、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは次第に小さくなる。このアーク期間逆送期間Tar中は、同図(D)に示すように、インダクタンス値設定信号Lrは予め定めたアーク期間低インダクタンス値となる。このアーク期間逆送期間Tar中の溶接電圧Vw及び溶接電流Iwの波形は、電子リアクトル制御によって形成されるインダクタンス値が比較的小さな値であるので変化を抑制しないために、図2と同一になる。
そして、次の短絡が、時刻t6〜t7の正送減速期間中の時刻t61に発生する。時刻t31〜t61の期間がアーク期間となる。時刻t5〜t61の期間中は、同図(A)に示すように、送給速度Fwは正送状態であるので、溶接ワイヤは正送されてアーク長は次第に短くなる。このアーク期間正送期間Tas中は、同図(D)に示すように、インダクタンス値設定信号Lrは予め定めたアーク期間高インダクタンス値に切り換わる。このアーク期間高インダクタンス値は、上記のアーク期間低インダクタンス値よりも大きな値である。このために、電子リアクトル制御によって形成されるインダクタンス値は大きくなる。アーク長が短くなると、溶接電圧Vwは小さくなり、定電圧制御されているので溶接電流Iwは大きくなる。しかし、溶接電流Iwの増加率は図2のときと同様に小さくなる。これは、上述したように、電子リアクトル制御によって形成されるインダクタンス値が大きな値(アーク期間高インダクタンス値)に切り換わっているためである。したがって、時刻t5〜t61のアーク期間正送期間Tas中は、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは次第に小さくなり、同図(B)に示すように、溶接電流Iwはほとんど増加しない。
上述した実施の形態2によれば、インダクタンス値を電子的に形成する電子リアクトル制御をさらに備え、変動制御は、電子リアクトル制御によって形成されるインダクタンス値を、正送期間(アーク期間正送期間Tas)中は逆送期間(アーク期間逆送期間Tar)中よりも大きな値に設定することによって行う。これにより、実施の形態2では、アーク期間中の正送期間中にアーク長が次第に短くなり、溶接電圧が次第に小さくなっても、溶接電流の増加を抑制することができるので、実施の形態1と同様の効果を奏する。
実施の形態2において、アーク期間逆送期間Tar中の電子リアクトル制御によって形成されるインダクタンス値をアーク期間高インダクタンス値にすると、溶接電流Iwの変化が抑制されるために、アーク長制御の過渡応答性が悪くなる。この結果、アーク長が長くなるときにオーバーシュートをしてしまい、溶接状態が不安定になる。したがって、電子リアクトル制御によって形成されるインダクタンス値は、アーク期間逆送期間Tar中は小さくなり、アーク期間正送期間Tas中は大きくなる必要がある。
[実施の形態3]
実施の形態3の発明は、溶接電源の任意の外部特性を形成する外部特性制御をさらに備え、変動制御は、外部特性制御によって形成される外部特性の傾きの絶対値を正送期間中は逆送期間中よりも大きな値に設定することによって行う。
まず、溶接電源の外部特性制御について説明する。
図5は、溶接電源の外部特性を示す図である。同図の横軸は溶接電流Iwを示し、縦軸は出力電圧Eを示す。外部特性L1及びL2は、溶接電流Iwと出力電圧Eとの関係を表すものであり、一般的に右下がりの直線となる。したがって、外部特性は下式で表すことができる。
E=Kr×(Iw−Ir)+Er …(3)式
但し、Kr[V/A]は傾き設定値、Ir[A]は溶接電流設定値、Er[V]は出力電圧設定値である。Kr、Is及びEsを設定することによって外部特性を設定することができる。例えば、外部特性L1は傾き設定値Kr=−0.03V/Aの場合であり、外部特性L2は傾き設定値Kr=−0.1V/Aの場合である。本書においては、傾きの大小は絶対値の大小のことを意味している。
図6は、本発明の実施の形態3に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は上述した図1と対応しており、同一のブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、図1に電流検出回路ID、溶接電流設定回路IR、傾き設定回路KR及び外部特性制御回路ECR2を追加し、図1のゲイン設定回路GRを第2ゲイン設定回路GR2に置換し、図1の誤差増幅回路EAを第2誤差増幅回路EA2に置換したものである。以下、同図を参照してこれらのブロックについて説明する。
電流検出回路IDは、溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。この回路は、図3の電流検出回路IDと同一の回路である。
溶接電流設定回路IRは、予め定めた溶接電流設定信号Irを出力する。
傾き設定回路KRは、短絡判別信号Sd及び送給速度設定信号Frを入力として、以下の処理を行ない、傾き設定信号Krを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときは、予め定めた第1傾きとなる傾き設定信号Krを出力する。
2)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)であり、かつ、送給速度設定信号Frが0未満(逆送期間)であるときは、上記の第1傾きを傾き設定信号Krとして出力する。
3)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)であり、かつ、送給速度設定信号Frが0以上(正送期間)であるときは、予め定めた第2傾きを傾き設定信号Krとして出力する。第1傾き及び第2傾きは共に負の値である。第2傾きの絶対値は、第1傾きの絶対値よりも大きな値である。
外部特性制御回路ECR2は、出力電圧設定信号Er、上記の溶接電流設定信号Ir、上記の傾き設定信号Kr及び上記の電流検出信号Idを入力として、上述した(3)式に従って、Ecr=Kr×(Id−Ir)+Erを演算して、出力電圧制御設定信号Ecrを出力する。この回路では、図5で上述したように、所望の外部特性を形成するために電流検出信号Id(溶接電流Iw)に対応した出力電圧制御設定信号Ecrを算出して出力する。
第2ゲイン設定回路GR2は、予め定めた高ゲイン設定値のゲイン設定信号Grを出力する。この回路は、図3の第2ゲイン設定回路GR2と同一の回路である。
第2誤差増幅回路EA2は、上記のゲイン設定信号Gr、上記の出力電圧制御設定信号Ecr及び出力電圧検出信号Edを入力として、出力電圧制御設定信号Ecr(+)と出力電圧検出信号Ed(−)との誤差をゲイン設定信号Grによって定まるゲインで増幅して、誤差増幅信号Eaを出力する。この回路は、図3の第2誤差増幅回路EA2と同一の回路である。
図7は、本発明の実施の形態3に係るアーク溶接制御方法を説明するための図6の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)は傾き設定信号Krの時間変化を示す。同図は上述した図2と対応しており、時刻t5〜t61のアーク期間正送期間Tas中の動作が異なる。以下、同図を参照して説明する。
同図(A)に示す送給速度Fwの波形は、図2と同一である。図2と同様に、時刻t21において短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減し、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは次第に増加する。そして、図2と同様に、時刻t31においてアークが再発生するので、時刻t21〜t31の期間が短絡期間となる。この短絡期間中は、同図(D)に示すように、傾き設定信号Krは予め定めた第1傾きとなっている。このために、外部特性制御によって第1傾きの外部特性が形成される。
時刻t31においてアークが再発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増する。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、短絡期間中の最大値の状態から変化を開始する。
時刻t31〜t5の期間中は、同図(A)に示すように、送給速度Fwは逆送状態であるので、溶接ワイヤは引き上げられてアーク長は次第に長くなる。アーク長が長くなると、溶接電圧Vwは大きくなり、定電圧制御されているので溶接電流Iwは小さくなる。したがって、時刻t31〜t5のアーク期間逆送期間Tar中は、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは次第に大きくなり、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは次第に小さくなる。このアーク期間逆送期間Tar中は、同図(D)に示すように、傾き設定信号Krは上記の第1傾きのままである。このアーク期間逆送期間Tar中の溶接電圧Vw及び溶接電流Iwの波形は、外部特性制御によって形成される外部特性の傾きが比較的小さな値であるので変化を抑制しないために、図2と同一になる。
そして、次の短絡が、時刻t6〜t7の正送減速期間中の時刻t61に発生する。時刻t31〜t61の期間がアーク期間となる。時刻t5〜t61の期間中は、同図(A)に示すように、送給速度Fwは正送状態であるので、溶接ワイヤは正送されてアーク長は次第に短くなる。このアーク期間正送期間Tas中は、同図(D)に示すように、傾き設定信号Krは上記の第1傾きよりも大きな値に予め定めた第2傾きに切り換わる。このために、外部特性制御によって形成される外部特性の傾きは大きくなる。アーク長が短くなると、溶接電圧Vwは小さくなり、定電圧制御されているので溶接電流Iwは大きくなる。しかし、溶接電流Iwの増加率は図2のときと同様に小さくなる。これは、外部特性制御によって形成される外部特性の傾きが大きな値(第2傾き)に切り換わっているために、アーク長が短くなり溶接電圧Vwが変化してもその変化に対する溶接電流Iwの変化が小さくなるからである。したがって、時刻t5〜t61のアーク期間正送期間Tas中は、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは次第に小さくなり、同図(B)に示すように、溶接電流Iwはほとんど増加しない。
上述した実施の形態3によれば、溶接電源の任意の外部特性を形成する外部特性制御をさらに備え、変動制御は、外部特性制御によって形成される外部特性の傾きの絶対値を正送期間(アーク期間正送期間Tas)中は逆送期間(アーク期間逆送期間Tar)中よりも大きな値に設定することによって行う。これにより、実施の形態3では、アーク期間中の正送期間中にアーク長が次第に短くなり、溶接電圧が次第に小さくなっても、溶接電流の増加を抑制することができるので、実施の形態1と同様の効果を奏する。
実施の形態3において、アーク期間逆送期間Tar中の外部特性制御によって形成される外部特性の傾きを第2傾きにすると、溶接電流Iwの変化が抑制されるために、アーク長制御の過渡応答性が悪くなる。この結果、アーク長が長くなるときにオーバーシュートをしてしまい、溶接状態が不安定になる。したがって、外部特性制御によって形成される外部特性の傾きは、アーク期間逆送期間Tar中は小さくなり、アーク期間正送期間Tas中は大きくなる必要がある。