以下、図面等を参照して本発明の実施形態について説明する。
燃料電池は、電解質膜をアノード電極(燃料極)とカソード電極(酸化剤極)とによって挟み、アノード電極に水素を含有するアノードガス(燃料ガス)、カソード電極に酸素を含有するカソードガス(酸化剤ガス)を供給することによって発電する。アノード電極及びカソード電極の両電極において進行する電極反応は以下の通りである。
アノード電極 : 2H2 →4H+ +4e- …(1)
カソード電極 : 4H+ +4e- +O2 →2H2O …(2)
この(1)(2)の電極反応によって燃料電池は1ボルト程度の起電力を生じる。
燃料電池を自動車用動力源として使用する場合には、要求される電力が大きいため、数百枚の燃料電池を積層した燃料電池スタックとして使用する。そして、燃料電池スタックにアノードガス及びカソードガスを供給する燃料電池システムを構成して、車両駆動用の電力を取り出す。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による燃料電池システム100の概略図である。
燃料電池システム100は、燃料電池スタック1と、カソードガス給排装置2と、アノードガス給排装置3と、コントローラ4と、を備える。
燃料電池スタック1は、数百枚の燃料電池を積層したものであり、アノードガス及びカソードガスの供給を受けて、車両の駆動に必要な電力を発電する。
カソードガス給排装置2は、燃料電池スタック1にカソードガスを供給するとともに、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスを外気に排出する。
カソードガス給排装置2は、カソードガス供給通路21と、カソードガス排出通路22と、フィルタ23と、カソードコンプレッサ24と、インタークーラ25と、水分回収装置(Water Recovery Device;以下「WRD」という。)26と、カソード調圧弁27と、エアフローセンサ41と、温度センサ42と、カソード圧力センサ43と、を備える。
カソードガス供給通路21は、燃料電池スタック1に供給するカソードガスが流れる通路である。カソードガス供給通路21は、一端がフィルタ23に接続され、他端が燃料電池スタック1のカソードガス入口孔に接続される。
カソードガス排出通路22は、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスが流れる通路である。カソードガス排出通路22は、一端が燃料電池スタック1のカソードガス出口孔に接続され、他端が開口端となっている。カソードオフガスは、カソードガスと電極反応によって生じた水蒸気の混合ガスである。
フィルタ23は、カソードガス供給通路21に取り込むカソードガス中の異物を取り除く。
カソードコンプレッサ24は、カソードガス供給通路21に設けられる。カソードコンプレッサ24は、フィルタ23を介してカソードガスとしての空気(外気)をカソードガス供給通路21に取り込み、燃料電池スタック1に供給する。
インタークーラ25は、カソードコンプレッサ24よりも下流のカソードガス供給通路21に設けられる。インタークーラ25は、カソードコンプレッサ24から吐出されたカソードガスを冷却する。
WRD26は、カソードガス供給通路21及びカソードガス排出通路22のそれぞれに接続されて、カソードガス排出通路22を流れるカソードオフガス中の水分を回収し、その回収した水分でカソードガス供給通路21を流れるカソードガスを加湿する。
カソード調圧弁27は、WRD26よりも下流のカソードガス排出通路22に設けられる。カソード調圧弁27は、コントローラ4によって開閉制御されて、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力を所望の圧力に調節する。
エアフローセンサ41は、カソードコンプレッサ24よりも上流のカソードガス供給通路21に設けられる。エアフローセンサ41は、カソードコンプレッサ24に供給されて、最終的に燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量(以下「スタック供給流量」という。)を検出する。
温度センサ42は、インタークーラ25とWRD26との間のカソードガス供給通路21に設けられる。温度センサ42は、WRD26のカソードガス入口側の温度(以下「WRD入口温度」という。)を検出する。
カソード圧力センサ43は、WRD26よりも上流のカソードガス供給通路21に設けられる。具体的にはカソード圧力センサ43は、インタークーラ25とWRD26との間のカソードガス供給通路21に設けられる。カソード圧力センサ43は、WRD26のカソードガス入口側の圧力(以下「WRD入口カソード圧力」という。)を検出する。
アノードガス給排装置3は、燃料電池スタック1にアノードガスを供給するとともに、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスを、カソードガス排出通路22に排出する。アノードガス給排装置3は、高圧タンク31と、アノードガス供給通路32と、アノード調圧弁33と、アノードガス排出通路34と、パージ弁35と、アノード圧力センサ44と、を備える。
高圧タンク31は、燃料電池スタック1に供給するアノードガスを高圧状態に保って貯蔵する。
アノードガス供給通路32は、高圧タンク31から排出されるアノードガスを燃料電池スタック1に供給するための通路である。アノードガス供給通路32は、一端が高圧タンク31に接続され、他端が燃料電池スタック1のアノードガス入口孔に接続される。
アノード調圧弁33は、アノードガス供給通路32に設けられる。アノード調圧弁33は、コントローラ4によって開閉制御されて、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力を所望の圧力に調節する。
アノード圧力センサ44は、アノード調圧弁33と燃料電池スタック1のアノードガス入口孔との間のカソードガス供給通路21に設けられる。アノード圧力センサ44は、燃料電池スタック1のアノードガス入口孔における圧力(以下「スタック入口アノード圧力」という。)を検出する。
アノードガス排出通路34は、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスが流れる通路である。アノードガス排出通路34は、一端が燃料電池スタック1のアノードガス出口孔に接続され、他端がカソードガス排出通路22に接続される。アノードオフガスは、電極反応で使用されなかった余剰のアノードガスと、カソード側からリークしてきた窒素等の不活性ガスと、水蒸気と、の混合ガスである。
アノードガス排出通路34を介してカソードガス排出通路22に排出されたアノードオフガスは、カソードガス排出通路22内でカソードオフガスと混合されて燃料電池システム100の外部に排出される。
また、アノードオフガスには、電極反応に使用されなかった余剰のアノードガス(水素)が含まれているので、カソードオフガスと混合させて燃料電池システム100の外部に排出する。これにより、その排出ガス中の水素濃度が予め定められた所定濃度以下となるようにしている。
パージ弁35は、アノードガス排出通路34に設けられる。パージ弁35は、コントローラ4によって開閉制御され、アノードガス排出通路34からカソードガス排出通路22に排出するアノードオフガスの流量を制御する。
コントローラ4は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
コントローラ4には、エアフローセンサ41、温度センサ42、カソード圧力センサ43、アノード圧力センサ44の他にも、大気圧を検出する大気圧センサ45などの各種センサからの信号が入力される。大気圧センサ45は、例えば車室内に設けられる。また各種センサとしては、アクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセル操作量」)を検出するアクセルストロークセンサがある。
コントローラ4は、これら各種センサの検出信号や各種電気部品の作動状態等に基づいて、カソードコンプレッサ24、カソード調圧弁27、アノード調圧弁33や、パージ弁35などを制御する。
図2は、コントローラ4の機能構成を示すブロック図である。
コントローラ4は、監視部200及びシステム制御部300を備える。
監視部200は、燃料電池システム100の状態、例えばアノードガス及びカソードガスの圧力状態や燃料電池スタック1の電圧状態などを監視する。
監視部200は、燃料電池スタック1の電解質膜に過大な応力が加わると電解質膜が劣化して発電性能が低下してしまうので、燃料電池スタック1内のカソードガス圧力とアノードガス圧力との差圧(以下「極間差圧」という。)を監視する。
監視部200は、スタック入口圧力推定部210と、WRD圧損保持部211と、極間差圧診断部220を備える。
WRD圧損保持部211には、WRD圧力損失が予め保持されている。WRD圧力損失とは、WRD26のカソードガス入口端とカソードガス出口端との間で生じる圧力損失の最大値のことである。なお、WRD圧力損失は、WRD26に流入するカソードガスの流量から求めることも可能であるが、流量センサの故障に伴う誤動作の危険性などを考慮して燃料電池スタック1の運転中に採り得る圧力損失の最大値が用いられる。
スタック入口圧力推定部210は、カソード圧力センサ43の検出値とWRD圧損保持部211のWRD圧力損失とを用いて燃料電池スタック1の入口を流れるカソードガスの圧力(以下「スタック入口カソード圧力」という)を推定する。
本実施形態では、スタック入口圧力推定部210は、カソード圧力センサ43からWRD入口カソード圧力を取得し、そのWRD入口カソード圧からWRD圧力損失を減算した値を、スタック入口カソード圧力の推定値として極間差圧診断部220に出力する。
極間差圧診断部220は、燃料電池スタック1内の電解質膜に生じるアノードガス圧力とカソードガス圧力との極間差圧が許容閾値を超えるか否かを診断する。許容閾値は、過大な極間差圧から電解質膜を保護するための閾値である。極間差圧診断部220は、アノード圧力センサ44の検出値と、スタック入口圧力推定部210で推定された推定値とに基づいて診断する。
システム制御部300は、燃料電池システム100を制御する。システム制御部300は、例えば、アノードガス圧力とカソードガス圧力との極間差圧が許容閾値を超えていると診断された場合には、極間差圧と許容閾値との差に基づいてアノードガスの圧力又はカソードガスの圧力を制御する。
このような燃料電池システムにおいて、WRD26に流入するカソードガスの流量が少なくなるほど、WRD26の圧力損失は小さくなるので、実際の圧力損失値とWRD圧損保持部211の最大値との誤差は大きくなる。その結果、図3に示すように、スタック入口カソード圧力が、非現実的な圧力値に推定される場合がある。
図3は、WRD26に流量するカソードガスの流量が少ないときの極間差圧を示す図である。
図3には、アノード圧力センサ44で検出されたスタック入口アノード圧力と、カソード圧力センサ43で検出されたWRD入口カソード圧力と、大気圧センサ45で検出された大気圧とが示されている。
そして、センサ誤差を考慮したアノードガス圧力Pa_gsとカソードガス圧力の推定値Pc_gsとの推定差圧が破線で示され、実差圧が実線で示されている。
アノードガス圧力Pa_gsは、アノード圧力センサ44で検出されたスタック入口アノード圧力にアノード圧力センサ44の誤差Er3を加算した値である。
カソードガス圧力Pc_gsは、カソード圧力センサ43で検出されたWRD入口カソード圧力Pc_wrdにカソード圧力センサ43の誤差Er1を減算した圧力値から、WRD圧力損失の最大値を減算した値である。
図3では、WRD26に流入するカソードガスの流量が少なくWRD26の圧力損失が小さい状況であり、WRD圧力損失の最大値と実際の値との誤差が大きいため、カソードガス圧力の推定値Pc_gsが大気圧よりも低く見積もられている。しかしながら、カソードガス供給通路21は外気と連通しているため、カソードガス圧力が大気圧よりも低くなることは、現実的に起こり得ない。
このような場合であっても、現実的に起こり得ないカソードガス圧力の推定値Pc_gsとアノードガス圧力Pa_gsとの推定差圧が許容閾値を超えるか否かが診断される。そして、推定差圧が許容閾値を超えると判断された場合には、許容閾値を超えないように例えばアノードガス圧力が低く制限されてしまう。
そこで本発明では、大気圧センサ45を利用して、スタック入口カソード圧力の推定値が大気圧よりも低い場合には、スタック入口カソード圧力の推定値を大気圧に変更してから差圧診断を行う。
図4は、本発明の第1実施形態における極間差圧の診断方法を示すフォローチャートである。
まず、ステップS901において極間差圧診断部220は、アノード圧力センサ44からスタック入口アノード圧力Pagを取得する。
ステップS902においてスタック入口圧力推定部210は、カソード圧力センサ43からWRD入口カソード圧力Pcg_wrdを取得する。
そしてステップS903においてスタック入口圧力推定部210は、WRD圧損保持部211からWRD圧力損失を取得し、WRD入口カソード圧力Pcg_wrdからWRD圧力損失を減算した値をスタック入口カソード圧力Pcgとして推定する。
また、ステップS904において極間差圧診断部220は、大気圧センサ45から大気圧の検出値Pairを取得する。
そしてステップS905において極間差圧診断部220は、スタック入口カソード圧力Pcgが大気圧Pair以上か否かを判断する。極間差圧診断部220は、スタック入口カソード圧力Pcgが大気圧Pairの値以上である場合には、スタック入口カソード圧力Pcgを燃料電池スタック1内のカソードガス圧力として設定する。
その後ステップS906において極間差圧診断部220は、スタック入口アノード圧力Pagからスタック入口カソード圧力Pcgを減算した値を極間差圧Pdに設定する。
そしてステップS907において極間差圧診断部220は、予め定められた許容差圧にカソード圧力センサ43の誤差Er_cgを加算した値を許容閾値Thに設定する。許容差圧は、電解質膜で許容できる応力によって定められる値である。許容差圧の値は、例えば、実験データに基づいて決定される。
一方、ステップS905でスタック入口カソード圧力Pcgが大気圧Pairよりも低い場合には、極間差圧診断部220は、大気圧Pairを燃料電池スタック1内のカソードガス圧力として設定する。
その後ステップS910において極間差圧診断部220は、スタック入口アノード圧力Pagから大気圧Pairを減算した値を極間差圧Pdに設定する。
そしてステップS911において極間差圧診断部220は、許容差圧に大気圧センサ45の誤差Er_airを加算した値を許容閾値Thに設定する。本実施形態では、大気圧センサ45の誤差Er_airは、カソード圧力センサ43の誤差Er_cgよりも小さい。なお、大気圧センサ45は、カソード圧力センサ43よりも検出可能なレンジが狭い検出器である。一般的に検出レンジが狭い検出器ほど、検出誤差は小さくなる。
ステップS908において極間差圧診断部220は、極間差圧Pdが許容閾値Thを超えるか否かを判断する。
そしてステップS909において極間差圧診断部220は、極間差圧Pdが許容閾値Thを超える場合には、システム制御部300に異常指令を出力する。システム制御部300は、異常指令を受けると、アノードガス圧力を低下させる。
一方、ステップS912において極間差圧診断部220は、極間差圧Pdが許容閾値Th未満である場合には、システム制御部300に正常指令を出力する。ステップS909又はステップS912の処理後、診断方法の一連のステップS901からステップS912までの処理が終了する。
本発明の第1実施形態によれば、極間差圧診断部220は、WRD26の圧力損失の最大値を用いてスタック入口カソード圧力を推定した結果、その推定値が大気圧よりも低くなる場合には、カソードガス圧力を推定値から大気圧の検出値に変更する。そして極間差圧診断部220は、変更後のカソードガス圧力とアノードガス圧力との極間差圧が許容閾値を超えるか否かの差圧診断を実行する。
これにより、極間差圧診断部220は、大気圧よりも低いスタック入口カソード圧力の推定値に基づいて差圧診断を実行することを回避できる。したがって、差圧診断の結果、現実的に起こり得ない推定値に基づいて極間差圧が過大に見積もられ、必要以上にカソードガスやアノードガスの圧力が制限されるようなことを防ぐことができる。
したがって、燃料電池スタック1内のカソードガス圧力の推定誤差に起因する運転制限を解消することができる。
また、差圧診断に用いられる許容閾値には、圧力センサの検出誤差が加味されている。図3に示すように、大気圧センサ45の検出誤差Er1は、スタック入口カソード圧力の推定に使用されるカソード圧力センサ43の検出誤差Er2よりも小さい。
そこで本実施形態では、極間差圧診断部220は、スタック入口カソード圧力の推定値を大気圧に変更した場合には、許容閾値に加算されるセンサ誤差を、カソード圧力センサ43の誤差から大気圧センサ45の誤差に切り替える。
大気圧センサ45の検出誤差は、カソード圧力センサ43の検出誤差よりも小さいため、許容閾値に加算するセンサ誤差を大気圧センサ45の検出誤差に切り替えることによって、極間差圧の診断誤差を小さくすることができる。
また、本実施形態では極間差圧診断部220は、スタック入口圧力推定部210で推定された推定値が大気圧よりも低い場合において大気圧とスタック入口アノード圧力との差圧が許容閾値を超えるときには、異常指令を出力する。そしてシステム制御部300は、異常指令を受けると、許容閾値を超えないようにアノードガスの圧力を制限する。
このように、カソードガス圧力を大気圧に変更することで推定差圧が小さくなり実差圧に近づき、この状態でアノードガス又はカソードガスの圧力が制限されるので、過剰な差圧制限を緩和することができる。
なお、第1実施形態では、スタック入口カソード圧力の推定値が大気圧よりも低い場合に大気圧に変更する例について説明したが、このような推定誤差の補正処理は、システム制御部300を構成するアノードガス制御部の差圧制御にも適用することができる。そこで、アノードガス制御部の差圧制御への適用例について第2実施形態で説明する。
(第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態におけるアノードガス制御部310の構成例を示す図である。
アノードガス制御部310は、燃料電池スタック1内に滞留する窒素や水蒸気などの不純物を押し出すために、アノード調圧弁33を制御してアノードガスの圧力を脈動させる。本実施形態では、アノードガスの脈動下限圧力は、極間差圧を極力低くする目的で、カソードガスの圧力を基準に設定される。
アノードガス制御部310は、過大圧防止上限値演算部321と、アノードガス差圧制御部400と、目標脈動幅演算部323と、目標上限圧力算出部324と、脈動上限圧力設定部325と、脈動波形演算部326と、を備える。
過大圧防止上限値演算部321は、アノードガスの過大圧力を防止するための過大アノード圧防止上限値を演算し、演算結果を脈動上限圧力設定部325に出力する。過大アノード圧防止上限値は、例えば、過大圧防止上限値演算部321に予め記憶されており、燃料電池スタック1内のアノードガス流路の耐久性を考慮して決められる。
アノードガス差圧制御部400は、電解質膜への過大な極間差圧を防止するために、極間差圧が許容閾値を超えないようにアノードガスの圧力を制御する。本実施形態では、アノードガス差圧制御部400は、WRD入口カソード圧力及び大気圧の検出値を用いて、過大差圧防止上限値を演算する。アノードガス差圧制御部400は、その過大差圧防止上限値を脈動上限圧力設定部325に出力する。アノードガス差圧制御部400の詳細構成については、図6を参照して後述する。
目標脈動幅演算部323は、燃料電池スタック1から取り出される発電電流の目標値(以下「目標電流」という。)に基づいて、不純物の排出性確保のための脈動幅の目標値を演算する。目標脈動幅演算部323は、目標電流が大きくなるほど、脈動幅の目標値を大きくする。
なお、目標電流は、燃料電池スタック1に接続される駆動モータなどの負荷に基づいて設定される。例えば、アクセル操作量が大きくなるほど、駆動モータに必要な要求電力が大きくなるため、目標電流は大きな値に設定される。また、目標電流は、燃料電池システム100に設けられた各種センサの検出信号や各種電気部品の作動状態などによっても調整される。
本実施形態では、目標脈動幅演算部323には、発電電流と脈動幅とが互いに対応付けられた脈動幅マップが予め記憶されている。そして目標脈動幅演算部323は、目標電流を受け付けると、脈動幅マップを参照して目標電流に対応付けられた脈動幅の目標値を目標上限圧力算出部324に出力する。
目標上限圧力算出部324は、目標上限圧力算出部324から脈動幅の目標値を取得すると共に、脈動下限圧力信号線327から目標カソード圧力を取得する。目標カソード圧力は、燃料電池スタック1の発電に必要なカソードガス圧力の目標値であり、目標電流に基づいて設定される。
目標上限圧力算出部324は、目標カソード圧力に脈動幅の目標値を加算し、その加算した値を目標上限圧力として脈動上限圧力設定部325に出力する。
脈動上限圧力設定部325は、過大アノード圧防止上限値と、過大差圧防止上限値と、目標上限圧力の算出値とのうち最も小さな値を選択し、その選択した値を脈動上限圧力として脈動波形演算部326に設定する。
例えば、過大アノード圧防止上限値よりも過大差圧防止上限値の方が小さい状況で、目標電流の上昇に伴い目標上限圧力が過大差圧防止上限値を超えると、脈動上限圧力設定部325は、脈動上限圧力を過大差圧防止上限値に制限する。
あるいは、目標電流の上昇に伴いスタック入力カソード圧力が上昇し、過大差圧防止上限値が過大アノード圧防止上限値よりも高くなる場合もある。この場合に、目標上限圧力が過大差圧防止上限値を超えると、脈動上限圧力設定部325は、脈動上限圧力を過大アノード圧防止上限値に制限する。
脈動波形演算部326は、脈動上限圧力設定部325から脈動上限圧力を受け付けると共に、目標カソード圧力を脈動下限圧力として受け付ける。また、脈動波形演算部326は、アノード圧力センサ44からスタック入口アノード圧力を取得する。そして脈動波形演算部326は、脈動上限圧力及び脈動下限圧力の設定値と、スタック入口アノード圧力の検出値とに基づいて、アノードガス圧力の目標値(以下「目標アノード圧力」という)を演算する。
例えば、脈動波形演算部326は、目標アノード圧力を脈動上限圧力に設定し、スタック入口アノード圧力が脈動上限圧力まで上昇することを確認すると、目標アノードガス圧力を脈動下限圧力に切り替える。そして脈動波形演算部326は、スタック入口アノード圧が脈動下限圧力まで低下したことを確認した後に、再び目標アノードガス圧力を脈動上限圧力に設定する。このようにして脈動波形演算部326は、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力を脈動させる。
図6は、アノードガス差圧制御部400の詳細構成を示すブロック図である。
アノードガス差圧制御部400は、WRD圧損保持部411と、スタック入口圧力算出部412と、カソード圧力切替部413と、過大差圧防止上限値算出部414と、閾値設定部420と、を備える。なお、WRD圧損保持部411は、図2に示したWRD圧損保持部211と同じものであるため、ここでの説明を省略する。
スタック入口圧力算出部412は、カソード圧力センサ43からWRD入口カソード圧力の検出値を取得し、その検出値から、WRD圧損保持部411に保持された圧力損失の最大値を減算する。スタック入口圧力算出部412は、その減算した値をスタック入口カソード圧力の推定値としてカソード圧力切替部413に出力する。
カソード圧力切替部413は、スタック入口圧力算出部412からスタック入口カソード圧力の推定値を取得すると共に、大気圧センサ45から大気圧の検出値を取得する。そしてカソード圧力切替部413は、スタック入口カソード圧力の推定値と大気圧の検出値とのうち大きい方の値を選択し、選択した値を燃料電池スタック1内のカソードガス圧力として過大差圧防止上限値算出部414に出力する。
例えば、カソード圧力切替部413は、スタック入口カソード圧力の推定値が大気圧よりも小さい場合には、選択した大きい方の大気圧をカソードガス圧力として出力する。
また、カソード圧力切替部413は、その選択した値がスタック入口カソード圧力の推定値である場合には、センサ切替フラグを「0」に設定し、選択した値が大気圧センサの検出値である場合には、センサ切替フラグを「0」から「1」に切り替える。
閾値設定部420は、電解質膜を保護するための許容閾値を過大差圧防止上限値算出部414に設定する。
閾値設定部420は、許容差圧保持部421と、カソード圧力センサ誤差保持部422と、大気圧センサ誤差保持部423と、センサ誤差切替部424と、許容閾値算出部425と、を備える。
許容差圧保持部421には、カソードガス圧力とアノードガス圧力との許容差圧として、電解質膜で許容できる極間差圧の耐圧上限値が保持されている。
カソード圧力センサ誤差保持部422には、カソード圧力センサ43の検出誤差(センサ誤差)に関する誤差値が保持されている。
カソード圧力センサ43に関する誤差値としては、例えばアノードガスの脈動制御で使用されるアノード圧力センサ44の検出誤差とカソード圧力センサ43の検出誤差との二乗和平均値が用いられる。なお、カソード圧力センサ43及びアノード圧力センサ44の各検出誤差と制御誤差との二乗和平均値を用いても良い。これにより、検出誤差及び制御誤差によって電解質膜に過大な差圧が生じることをより確実に防止することができる。
大気圧センサ誤差保持部423には、大気圧センサ45の検出誤差に関する誤差値が保持されている。
大気圧センサ45の検出誤差に関する誤差値としては、カソード圧力センサ43に関する誤差値と同様に、アノード圧力センサ44及び大気圧センサ45の各検出誤差との二乗和平均値を用いても良い。あるいは、アノード圧力センサ44及び大気圧センサ45の各検出誤差と制御誤差との二乗和平均値を用いても良い。この場合にも、検出誤差及び制御誤差に伴う電解質膜に対する過大差圧をより確実に防止することができる。
センサ誤差切替部424は、センサ切替フラグに基づいて、許容閾値に見込むべきセンサ誤差量を、カソード圧力センサ誤差保持部422の誤差値から、大気圧センサ誤差保持部423の誤差値に切り替える。
例えば、センサ誤差切替部424は、センサ切替フラグが「0」を示す場合には、過大差圧防止上限値の算出にスタック入口カソード圧力の推定値が使用されるため、カソード圧力センサ誤差保持部422から誤差値を許容閾値算出部425に出力する。
また、センサ誤差切替部424は、センサ切替フラグが「1」を示す場合には、過大差圧防止上限値の算出に大気圧が使用されるため、大気圧センサ誤差保持部423から誤差値を許容閾値算出部425に出力する。
許容閾値算出部425は、許容差圧保持部421に保持された許容差圧からセンサ誤差値を減算し、その減算した値を許容閾値として過大差圧防止上限値算出部414に出力する。
過大差圧防止上限値算出部414は、許容閾値にカソード圧力切替部413からのカソードガス圧力を加算し、その加算した値をアノードガスの過大差圧防止上限値として脈動上限圧力設定部325に出力する。
このようにアノードガス差圧制御部400では、カソードガス圧力に許容閾値を加算した値(過大差圧防止上限値)を脈動上限圧力設定部325に設定することにより、アノードガスの脈動上限圧力が許容閾値を超えないように目標アノードガス圧力が制限される。
そしてカソードガス圧力については、スタック入口カソード圧力の推定値が大気圧よりも低い場合には、カソード圧力切替部413によって、カソードガス圧力が大気圧よりも低い値にならないように推定値から大気圧に切り替えられる。これにより、大気圧よりも低い推定値によって過大差圧防止上限値が低く設定されることを回避できるので、過剰に脈動上限圧力を低く設定して脈動運転を制限することを防止できる。
また、許容閾値については、カソードガス圧力が大気圧に設定された場合にセンサ誤差切替部424によって、許容閾値に加味されるセンサ誤差量がカソード圧力センサ43に関する誤差から大気圧センサ45に関する誤差に切り替えられる。これにより、カソードガス圧力が大気圧に設定されたときに、カソード圧力センサ43に比べて検出誤差の小さい大気圧センサ45の誤差が適切に許容閾値に反映されるので、アノードガスの差圧制御の誤差を小さくすることができる。
本実施形態では、アノードガス差圧制御によって脈動上限圧力を制限しているので、センサ誤差が大きくなるほど、制限値である過大差圧防止上限値を低くしなければならないため、許容差圧からセンサ誤差を減算する。
一方、アノードガス差圧制御によって脈動下限圧力を低く制限するような構成では、センサ誤差が大きいほど、脈動下限圧力の下限値を低く制限しなければならない。したがって、カソード圧力切替部413によってカソードガス圧力が大気圧に設定されたときには、大気圧センサ45のセンサ誤差が許容差圧に加算されて許容閾値が算出される。
このように、閾値設定部420では、差圧制御によって上限圧力を制限する場合には許容閾値からセンサ誤差が減算され、下限圧力を制限する場合には許容閾値にセンサ誤差が加算される。
本発明の第2実施形態によれば、アノードガス差圧制御部400は、スタック入口カソード圧力の推定値が大気圧よりも低い場合には、カソード圧力切替部413によって大気圧がカソードガス圧力として設定される。脈動上限圧力設定部325は、カソードガス圧力の設定値を脈動下限圧力に設定し、脈動下限圧力の設定値に脈動幅の目標値を加算して目標上限圧力を出力する。
そして脈動上限圧力設定部325は、目標上限圧力がアノードガス差圧制御部400の過大差圧防止上限値を超えたときに、大気圧と目標上限圧力との差圧が許容閾値を超えたと判断し、脈動上限圧力を過大差圧防止上限値に設定する。すなわち、アノードガス差圧制御部400は、大気圧と目標上限圧力との差圧が許容閾値を超えると判断されたときに、過大差圧防止上限値によって脈動上限圧力を制限する。
このように、カソードガス圧力を推定値から大気圧に変更し、変更後のカソードガス圧力に基づいて脈動上限圧力の差圧制御を実行することにより、アノードガスの脈動幅の制限を抑制することができる。このため、現実的でないカソードガス圧力の推定値によって脈動運転が極端に制限されることを防止することができる。
なお、本実施形態では、システム制御部300で行われる差圧制御としてアノードガスの圧力を制御する例について説明したが、脈動上限圧力の設定値とカソードガス圧力の設定値との差圧が許容閾値を超えないように、カソードガスの圧力を制御するようにしても良い。このようにカソードガス制御部で差圧制御を実行する場合にも、同様の効果が得られる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
例えば、本実施形態では、極間差圧を推定するためにスタック入口アノード圧力の検出値を用いたが、目標アノードガス圧力の設定値を用いても良い。
また、本実施形態では、WRD26がカソードガスを加湿する加湿器として用いられたが、加湿器は、加湿の際に圧力損失を伴うものであれば良い。
なお、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。