JP6163862B2 - 熱可塑性樹脂組成物およびその製造方法 - Google Patents
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ポリカーボネートは、一種でもそれ以上でもよい。ポリカーボネートは、例えば、芳香族二価フェノール系化合物とホスゲンまたは炭酸ジエステルとを反応させることにより得られる。または、ポリカーボネートは、市販品であってもよいし、再生材であってもよい。ここで言う「再生材」とは、ポリカーボネートを含む製品の一部または全部から回収されたポリカーボネートを言う。再生材は、本発明の効果が得られる範囲において、不純物などの他の成分を含有していてもよい。ポリカーボネートの粘度平均分子量は、1×104〜1×106であることが好ましい。ポリカーボネートの粘度平均分子量は、ポリカーボネートの溶液を毛細管粘度計で測定したときの測定値から求められる。
ポリエステルは、一種でもそれ以上でもよい。ポリエステルは、例えば、芳香族ジカルボン酸と、脂肪族ジオールや脂環族ジオールなどのジオール成分とのエステル反応により得られる。
反応性官能基を有する樹脂が有する反応性官能基は、ポリエステル中の官能基に対する結合性を有する。このため、反応性官能基を有する樹脂は、熱可塑性樹脂組成物において、反応性官能基を介して、少なくともポリエステルと化学結合しうる。反応性官能基を有する樹脂は、さらにポリカーボネートが上記官能基を有する場合には、ポリカーボネートの上記官能基とも化学結合しうる。反応性官能基がポリカーボネートおよびポリエステルの一方または両方の官能基と反応することにより、ポリカーボネートとポリエステルの界面が補強され、両樹脂の相溶性が向上する。よって、反応性官能基を有する樹脂は、ポリカーボネートに対するポリエステルの相溶性を高める。反応性官能基を有する樹脂は、一種でもそれ以上でもよい。
ゴム系耐衝撃改良剤は、ゴム弾性を示すソフトセグメントと、芳香族基を含むハードセグメントと、によって構成される共重合体である。ゴム系耐衝撃改良剤は、熱可塑性樹脂組成物の柔軟性や加工性、耐衝撃性などを向上させる。ゴム系耐衝撃改良剤は、一種でもそれ以上でもよい。
難燃剤は、縮合リン酸化合物を含む。縮合リン酸化合物は、一種でもそれ以上でもよい。縮合リン酸エステルは、例えば二リン酸のエステルであり、上記縮合リン酸化合物の例には、芳香族縮合リン酸エステル、および、芳香族縮合リン酸エステルとポリオキシアルキレンリン酸エステルとの混合物、が含まれる。縮合リン酸化合物の市販品には、CR−741、PX−200、DAIGUARD−580、DAIGUARD−610、および、DAIGUARD−880(いずれも大八化学工業株式会社製)が含まれる。なお、「DAIGUARD」は、大八化学工業株式会社の登録商標である。
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果が得られる範囲において、任意の添加剤をさらに含有していてもよい。添加剤は、上記連続相に含有されていてもよいし、上記分散相に含有されていてもよいし、これらの両方に含有されていてもよい。添加剤の例には、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド;各種エラストマー類;ヒンダードフェノール系、含硫黄有機化合物系および含リン有機化合物系など酸化防止剤;フェノール系およびアクリレート系など熱安定剤;モノステアリルアシッドホスフェートとジステアリルアシッドホスフェートの混合物などのエステル交換抑制剤;ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系およびサリシレート系など紫外線吸収剤;有機ニッケル系およびヒンダードアミン系などの光安定剤;高級脂肪酸の金属塩類および高級脂肪酸アミド類などの滑剤;フタル酸エステル類およびリン酸エステル類などの可塑剤;カーボンブラックおよび酸化チタンなどの顔料;染料;および、金属繊維、アラミド繊維、アスベスト、チタン酸カリウムウィスカ、ワラステナイト、ガラスフレーク、ガラスビーズ、タルク、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタンおよび酸化アルミニウムなどの充填材;が含まれる。
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、海島構造を有する。海島構造の連続相は、ポリカーボネートを含み、海島構造の分散相は、ポリエステル、反応性官能基を有する樹脂、およびゴム系耐衝撃改良剤を含む。本発明の効果が得られる範囲であれば、ポリカーボネートの一部が分散相に含まれていてもよいし、ポリエステル、反応性官能基を有する樹脂、およびゴム系耐衝撃改良剤の一部が連続相に含まれていてもよい。難燃剤は、熱可塑性樹脂組成物全体に適度に分散していればよく、連続相に含まれていてもよいし、分散相に含まれていてもよいが、これらの両方に含まれていることが、少ない含有量で所期の難燃性を実現する観点から好ましい。
上記熱可塑性樹脂組成物における各材料の組成比は、少なくとも所期の衝撃強度および難燃性が得られる範囲において決められる。たとえば、熱可塑性樹脂組成物の用途が電気機器や電子機器などの外装部材であれば、相応の衝撃強度と難燃性が要求される。このような用途の観点から、ポリカーボネートの含有量は、10〜90質量部であり、分散相の含有量は、10〜90質量部であり、難燃剤の含有量は、1〜40質量部であり、分散相における100質量部のポリエステルに対する上記反応性官能基を有する樹脂の含有量は、1〜30質量部であり、分散相における100質量部のポリエステルに対する上記ゴム系耐衝撃改良剤の含有量は、1〜30質量部であることが好ましい。
前述した熱可塑性樹脂組成物を製造する方法のうち、好適な方法には、以下の方法が挙げられる。当該方法は、10〜90質量部のポリエステル樹脂組成物、10〜90質量部の上記ポリカーボネート、および、1〜40質量部の上記難燃剤を溶融混練する工程を含む。ここで、「ポリエステル樹脂組成物」とは、100質量部の上記ポリエステルに対して、1〜30質量部の上記反応性官能基を有する樹脂、および、1〜30質量部の上記ゴム系耐衝撃改良剤の溶融混練物である。
ポリカーボネートおよびポリエステルを含有する樹脂組成物が、反応性官能基を有する樹脂とゴム系耐衝撃改良剤をさらに含有すると、樹脂組成物の衝撃強度が高まる。しかしながら、上記樹脂組成物に、難燃性を付与するために、縮合リン酸化合物を含む難燃剤をさらに配合すると、衝撃強度が大幅に低下する。これは、難燃剤がポリエステルを可塑化しているため、および、反応性官能基を有する樹脂の働きを難燃剤が阻害しているため、と考えられる。
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、任意の手法で樹脂成形体に成形することができる。当該樹脂成形体を得るための成形方法は、特に限定されず、成形方法の例には、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、異形押出成形、圧縮成形およびガスアシスト成形が含まれる。
[ポリカーボネート]
PC:タフロンA−1900(出光興産株式会社)
[ポリエステル]
PET:ダイヤナイトMA521H−D25(三菱レイヨン株式会社)
PBT:トレコン1100M(東レ株式会社)
[反応性官能基を有する樹脂]
反応性樹脂A(エチレングリシジルメタクリレート−メタクリレート共重合体(GMA−MA−PE)):ボンドファースト(住友化学株式会社)
反応性樹脂B(エチレングリシジルメタクリレート共重合体(GMA−PE)):ロタダー AX8840(アルケマ社)
反応性樹脂C(スチレンアクリロニトリル−グリシジルメタクリレート共重合体(GMA−SAN)):モディパー A4400(日油株式会社製)
[難燃剤]
難燃剤A(縮合リン酸系化合物):PX−202(大八化学株式会社)
難燃剤B(縮合リン酸系化合物):CR−741(大八化学株式会社)
[ゴム系耐衝撃改良剤]
改良剤A(ABS樹脂):TFX−610(三菱化学株式会社)
改良剤B(SBS樹脂):カリフレックス TRKX65S(シェル株式会社)
100質量部のPETと、20質量部の反応性樹脂Aと、15質量部の改良剤Aとを、V型混合器を用いてドライブレンドし、真空乾燥機を用いて混合物を減圧下で70℃、4時間乾燥させた。乾燥させた混合物を二軸混練機の原材料供給口から投入し、シリンダ温度を260℃、混練物の吐出量を10kg/時、樹脂圧力を4MPa、として溶融混練した。二軸混練機から吐出した混練物を、30℃の水に浸漬することによって急冷し、ペレタイザーによりペレット状に粉砕して、中間樹脂組成物1を得た。「中間樹脂組成物」は、前述の「ポリエステル樹脂組成物」に相当する。
「反応性樹脂A」を「反応性樹脂B」に代えた以外は実施例1と同様にして、中間樹脂組成物2を得た。そして、「中間樹脂組成物1」を「中間樹脂組成物2」に代えた以外は実施例1と同様にして、最終樹脂組成物2を得た。
「反応性樹脂A」を「反応性樹脂C」に代えた以外は実施例1と同様にして、中間樹脂組成物3を得た。そして、「中間樹脂組成物1」を「中間樹脂組成物3」に代えた以外は実施例1と同様にして、最終樹脂組成物3を得た。
「改良剤A」を「改良剤B」に代えた以外は実施例1と同様にして、中間樹脂組成物4を得た。そして、「中間樹脂組成物1」を「中間樹脂組成物4」に代えた以外は実施例1と同様にして、最終樹脂組成物4を得た。
「PET」を「PBT」に代えた以外は実施例1と同様にして、中間樹脂組成物5を得た。そして、「中間樹脂組成物1」を「中間樹脂組成物5」に代えた以外は実施例1と同様にして、最終樹脂組成物5を得た。
「難燃剤A」を「難燃剤B」に代えた以外は実施例1と同様にして、最終樹脂組成物6を得た。
中間樹脂組成物1の量「15質量部」を「10質量部」に、PCの量「65質量部」を「70質量部」にそれぞれ代えた以外は、実施例1と同様にして、最終樹脂組成物7を得た。
反応性樹脂Aの量「20質量部」を「30質量部」に代えた以外は、実施例1と同様にして、中間樹脂組成物8を得た。そして、「中間樹脂組成物1」を「中間樹脂組成物8」に、難燃剤Aの量「20質量部」を「25質量部」にそれぞれ代えた以外は実施例1と同様にして、最終樹脂組成物8を得た。
改良剤Aを使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、中間樹脂組成物C1を得た。そして、「中間樹脂組成物1」を「中間樹脂組成物C1」に代えた以外は実施例1と同様にして、最終樹脂組成物C1を得た。
全ての材料(PET、反応性樹脂A、改良剤A、PCおよび難燃剤A)を一度に溶融混練した以外は実施例1と同様にして、最終樹脂組成物C2を得た。
最終樹脂組成物1を、ダイヤモンド歯を備えたミクロトームにより切り出して、薄片状の測定用試料1を作製した。次いで、測定用試料1の断面を、電界放出型走査型電子顕微鏡「JSM−7401F型」(日本電子株式会社製)を用いて、倍率7000倍にて撮像した。得られた画像を図2に示す。さらに、得られた画像を、以下の項目について観察した。
当該画像を目視で観察し、ポリカーボネートの連続相とポリエステルの分散相とによる海島構造における相互連結構造の有無を以下の基準で判定した。なお、ポリカーボネートの連続相は、当該画像において、より明るい灰色で表示され、ポリエステルの分散相は、より暗い灰色で表示される。よって、海島構造は、灰色の濃淡によって確認される。「相互連結構造」とは、海島構造のうち、一度分散した島が再結合してなる枝分かれ形状の島を含む海島構造を言う(図3参照)。相互連結構造は、再結合する複数の島が一列に連結する確率が低く、また、分散相の再結合の発生確率は内部構造全体において一定であることから、上記画像中の分散相の総面積に対する上記枝分かれ形状の分散相が占める面積の割合が70%以上であることで判定される。
○:海島構造が相互連結構造を含まない
△:海島構造が相互連結構造を含む
上記画像から、反応性樹脂の粒子もしくは改良剤の粒子と確認できる像を検出した。これらの粒子像は、いずれも、分散相中でもより明るい島として観察される。一画像から当該粒子像を無作為に50個抽出し、それらの長径を測定し、それらの平均値を当該粒子の長径(R)として求めた。
上記の一画像中における、反応性樹脂の粒子もしくは改良剤の粒子の像のうち、分散相中に位置する当該粒子の像の個数割合を、分散相中の当該粒子の含有量(C)として求めた。
上記の一画像から、上記粒子像を無作為に50個抽出し、それらの長径および短径を測定し、アスペクト比(短径に対する長径の比)を求めた。そして、それらの平均値を当該粒子のアスペクト比(Ar)として求めた。
ペレット状の最終樹脂組成物1〜8、C1およびC2のそれぞれを100℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(株式会社日本製鋼所製、J55ELII)によって、シリンダ設定温度280℃、金型温度40℃で成形し、100mm×10mm×4mmの短冊型の試験片A、および、100mm×10mm×3.2mmの短冊型の試験片B、をそれぞれ得た。
試験片Aを用いて、「JIS−K7111」に準拠してシャルピー衝撃試験(Uノッチ、R=1mm)を行い、衝撃強度を測定し、下記評価基準により評価した。「C」であれば、電子写真方式の画像形成装置の外装部材として実用上問題ないが、「D」は、上記の用途では実用上問題が生じることを意味する。
A:42kJ/m2以上
B:32kJ/m2以上42kJ/m2未満
C:6kJ/m2以上32kJ/m2未満
D:6kJ/m2未満
試験片Bを、UL−94に準拠した手法によって評価した。判定基準は、難燃性が高い順に、5VA、5VB、V−0、V−1、V−2およびHB、である。なお、HBにも該当しない程難燃性が低かった場合を、「規格外」と評価した。「規格外」は、上記の用途では実用上問題が生じることを意味する。
試験片Aを、株式会社東洋精機製作所製、HDTテスターS3−MHに供し、23℃、50%RHの条件で48時間調湿した。調湿した試験片Aについて、ISO75−1,2に従い荷重たわみ温度(荷重0.45MPa)を測定した。
最終樹脂組成物1〜8、C1およびC2のそれぞれを100℃で4時間乾燥させた後、射出成形機「J55ELII」(株式会社日本製鋼所製)によって、シリンダ温度280℃、金型温度40℃、射出圧力40MPaの条件で、棒流動試験片(流路厚さ1mm、流路幅8mm)を作製した。このときの当該試験片の長さを測定し、下記評価基準により評価した。当該試験片が長いほど流動性が良い。
A:100mm以上
B:60mm以上100mm未満
C:20mm以上60mm未満(実用上問題なし)
D:20mm未満(実用上問題あり)
11 連続相
12 分散相
13 樹脂粒子
Claims (7)
- ポリカーボネート、ポリエステル、前記ポリエステル中の官能基に対する結合性を有する反応性官能基を有する樹脂、ゴム弾性を示すソフトセグメントと芳香族基を含むハードセグメントとによって構成されるゴム系耐衝撃改良剤、および、難燃剤、を含み、海島構造を有する熱可塑性樹脂組成物であって、
前記海島構造の連続相は、前記ポリカーボネートを含み、
前記海島構造の分散相は、前記ポリエステル、前記反応性官能基を有する樹脂、および前記ゴム系耐衝撃改良剤を含み、
前記反応性官能基を有する樹脂および前記ゴム系耐衝撃改良剤の一方または両方は、粒子として存在し、
前記粒子の長径は、0.1〜10μmであり、
前記難燃剤は、縮合リン酸化合物を含み、
前記分散相における前記粒子の含有量は、前記粒子の総数の70〜100個数%である、熱可塑性樹脂組成物。 - 前記ポリエステルは、PETまたはPBTである、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 前記反応性官能基は、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基からなる群から選ばれる一以上である、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 前記ポリカーボネートの含有量は、10〜90質量部であり、
前記分散相の含有量は、10〜90質量部であり、
前記難燃剤の含有量は、1〜40質量部であり、
前記分散相における100質量部の前記ポリエステルに対する前記反応性官能基を有する樹脂の含有量は、1〜30質量部であり、
前記分散相における100質量部の前記ポリエステルに対する前記ゴム系耐衝撃改良剤の含有量は、1〜30質量部である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。 - ポリカーボネート、ポリエステル、前記ポリエステル中の官能基に対する結合性を有する反応性官能基を有する樹脂、ゴム弾性を示すソフトセグメントと芳香族基を含むハードセグメントとによって構成されるゴム系耐衝撃改良剤、および、難燃剤、を含み、海島構造を有する熱可塑性樹脂組成物、を製造する方法であって、
10〜90質量部のポリエステル樹脂組成物、10〜90質量部の前記ポリカーボネート、および、1〜40質量部の前記難燃剤を溶融混練する工程を含み、
前記ポリエステル樹脂組成物は、100質量部の前記ポリエステルに対して、1〜30質量部の前記反応性官能基を有する樹脂、および、1〜30質量部の前記ゴム系耐衝撃改良剤の溶融混練物であり、
前記難燃剤は、縮合リン酸化合物を含み、
前記反応性官能基を有する樹脂および前記ゴム系耐衝撃改良剤の一方または両方は、粒子として存在し、
前記海島構造の分散相における前記粒子の含有量は、前記粒子の総数の70〜100個数%である、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。 - 前記ポリエステルは、PETまたはPBTである、請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
- 前記反応性官能基は、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびアミド基からなる群から選ばれる一以上である、請求項5または6に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
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