JP6136771B2 - 物質同定方法及び該方法を用いる質量分析装置 - Google Patents
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Description
[ステップ1]分析対象である試料に含まれる各種物質をLC、CE等により分離し、その溶出液を分取・分画して多数のサンプルを調製する(以下、分取・分画により得られた個々のサンプルを「分画試料」と呼ぶ)。なお、試料を分取・分画する際には、予め決めた一定の時間間隔で分画を行う又は一定量の試料液を採取するように分画を行うことにより、該試料中の物質ができるだけ漏れなくいずれかの分画試料に含まれるようにする。
[ステップ3]上記ステップ2で選択されたピークをプリカーサイオンに設定して当該分画試料に対しMS2測定を実行し、その測定結果に基づくデータベース検索やデノボシーケシングサーチを行い、その分画試料に含まれる物質を同定する。
[ステップ5]上記ステップ2〜4の処理を複数の分画試料に対してそれぞれ行い、元の試料に含まれている様々な物質を網羅的に同定する。
また、MALDI(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)イオン源を用いた質量分析装置では、レーザ光照射毎に生成される試料成分由来のイオンの量のばらつきが比較的多いため、同一試料に対する測定を複数回繰り返し、その複数回の測定結果を積算することで同定のためのスペクトルを算出する。その際、測定の繰り返し回数、つまりは積算回数を多くすれば、同定の精度は向上するもののそれだけ時間が掛かることになる。そこで、或る成分を同定しようとする際にMS2プリカーサイオンの選択を最適化するだけでなく、積算回数も最適化することが好ましい。
特許文献2に記載された従来の手法では、こうした分画試料の最適な選択、或いは積算回数の最適化は考慮されておらず、それらについての最適な選択を行うことはできない。
a)所定の試料から得られた複数の分画試料に対するMSn-1測定により求まるMSn-1ピークのSN比、及び該各MSn-1ピークをプリカーサイオンとして実行されたMSn測定の結果に基づく物質同定の結果を利用して、同種試料に由来するMSn-1ピークのSN比と複数のMSn-1ピークをSN比順に従ってプリカーサイオンとして選択してMSn測定及び同定を実行していったときに充分な確度で何らかの物質が同定できたピークの累積数との関係を示す同定確率推定モデルを求め、該同定確率推定モデルを表現する同定確率推定モデル情報を記憶する同定確率推定モデル構築ステップと、
b)同定対象である目的試料から得られた時間的に連続する2以上の分画試料に対するMSn-1測定が終了した状況で、それらMSn-1測定により求まったMSn-1ピークの中でMSn測定のためのプリカーサイオンの候補である複数のMSn-1ピークについてそれぞれSN比を算出し、前記同定確率推定モデル情報より求まる同定確率推定モデルを参照して、前記プリカーサイオン候補である複数のMSn-1ピークのSN比から各MSn-1ピークの同定確率推定値を算出する同定確率推定ステップと、
c)同一のMSn-1ピークに対するMSn測定を複数回行ってその測定結果を積算したときの同定確率の改善度合を想定した上で、所定の複数の分画試料に対する全てのプリカーサイオン候補であるMSn-1ピークについて前記同定確率推定ステップにおいてそれぞれ推定された同定確率推定値に基づいて、MSn-1ピークの選択の組み合わせを変えるとともに積算回数を1から所定回数まで変化させたときの同定確率の総和を最大化する目的関数を定め、少なくとも、前記所定の複数の分画試料に対するMSn測定の実行回数の総和、及び、1つの分画試料に対するMSn測定の実行回数の総和を制約条件として前記目的関数を最大化する解を求めることにより、MSn測定すべきMSn-1ピークと各MSn-1ピークに対する積算回数を求める測定条件最適化ステップと、
を有することを特徴としている。
a)所定の試料から得られた複数の分画試料に対するMSn-1測定により求まるMSn-1ピークのSN比、及び該各MSn-1ピークをプリカーサイオンとして実行されたMSn測定の結果に基づく物質同定の結果を利用して、同種試料に由来するMSn-1ピークのSN比と複数のMSn-1ピークをSN比順に従ってプリカーサイオンとして選択してMSn測定及び同定を実行していったときに充分な確度で何らかの物質が同定できたピークの累積数との関係を示す同定確率推定モデルを求め、該同定確率推定モデルを表現する同定確率推定モデル情報を記憶するステップであって、同一のMSn-1ピークに対するMSn測定を複数回行ってその測定結果を積算する回数を変えたときの物質同定の結果を利用して、積算回数毎の同定確率推定モデルを求め、該同定確率推定モデルを表現する同定確率推定モデル情報を記憶する同定確率推定モデル構築ステップと、
b)同定対象である目的試料から得られた時間的に連続する2以上の分画試料に対するMSn-1測定が終了した状況で、それらMSn-1測定により求まったMSn-1ピークの中でMSn測定のためのプリカーサイオンの候補である複数のMSn-1ピークについてそれぞれSN比を算出し、前記同定確率推定モデル情報より求まる同定確率推定モデルを参照して、前記プリカーサイオン候補である複数のMSn-1ピークのSN比から各MSn-1ピークの同定確率推定値を積算回数毎に算出する同定確率推定ステップと、
c)所定の複数の分画試料に対する全てのプリカーサイオン候補であるMSn-1ピークについて前記同定確率推定ステップにおいてそれぞれ推定された同定確率推定値に基づいて、MSn-1ピークの選択の組み合わせを変えるとともに積算回数を1から所定回数まで変化させたときの同定確率の総和を最大化する目的関数を定め、少なくとも、前記所定の複数の分画試料に対するMSn測定の実行回数の総和、及び、1つの分画試料に対するMSn測定の実行回数の総和を制約条件として前記目的関数を最大化する解を求めることにより、MSn測定すべきMSn-1ピークと各MSn-1ピークに対する積算回数を求める測定条件最適化ステップと、
を有することを特徴としている。
この例による方法では、予備的に、つまり同定対象である目的試料の測定及び同定処理に先立って、多くの物質を含む同定確率推定モデル構築用試料(以下、単に「モデル構築用試料」という)に対する測定及び同定処理の結果を利用して、同定確率推定モデルを作成しておく。この同定確率推定モデルは、MS2測定及び同定実行前のMS1ピークをプリカーサイオンとしてMS2測定及び同定処理を実行したと仮定したときに同定が成功する確率を推測するための参照データである。モデル構築用試料は目的試料と同種、例えば目的試料がペプチド混合物である場合にはモデル構築用試料もペプチド混合物であることが好ましい。
まず、モデル構築用試料をLCで分離して、所定の分画時間毎に分取された多数の分画試料を調製する。そして、各分画試料に対しMS1測定が実施され、MS1スペクトルデータが収集される。さらに、このMS1スペクトルデータに基づいて抽出される各MS1ピークに対して、1回の解離操作を加えたMS2測定が実施されてMS2スペクトルデータが収集され、そのMS2スペクトルデータを用いた同定処理が試みられる。
後述する同定確率はMS1スペクトルのノイズレベルの影響を受ける。そこで、モデル構築用試料に対するMS1スペクトルのノイズレベルを評価する。本例では、次のステップS121〜S123の手順により、 MS1測定により得られた生データ(加工されていないデータ)であるMS1ロー(raw)プロファイル(以下、単に「ロープロファイル」という)からノイズレベルを分画試料毎に、つまりMS1スペクトル毎に評価する。以下の説明では、離散化されたロープロファイルの信号強度をRmとおく。ただし、m=0、1、…は、評価対象である試料のロープロファイルの、サンプリング点における質量電荷比の順序を示す番号である。ロープロファイルに含まれるサンプリング点全体の集合はMで表すものとする。
ロープロファイルの最大ピーク強度をP(max)とおく。つまり、次の(1)式のようにおく。
P(max)= max Rm …(1)
(ただしm∈M)
ここで、ピーク近傍の判定用閾値μ(0<μ<1)を適宜に選び、信号強度が最大ピーク強度P(max)のμ倍以上であるサンプリング点をピーク部分であるとみなす。そして、ピーク部分に含まれるサンプリング点、つまり信号強度がμ・P(max)以上であるサンプリング点からの距離がW以内であるサンプリング点、を除いたサンプリング点の集合M’(W,μ)を求める。図4(a)はm/z 1060-m/z 1080の範囲についてMS1スペクトルのロープロファイルに対しサンプリング点集合M’(W,μ)を求めた例であり、図4(b)は(a)のm/z 1070-m/z 1075の範囲の拡大図である。
次に、上記ピーク部分とピーク近傍とを除外したサンプリング点集合M’(W,μ)において、通過帯域が半値幅Wであるフィルタによりロープロファイルを平滑化した、平滑化プロファイル*Rm(w,μ)を求める。つまり、*Rm(w,μ)は次の(2)式で求まる。
*Rm(w,μ)={1/(2W+1)}ΣRm' …(2)
(ただしm∈M’(W,μ))
ここで、Σはm’=−WからWまでの総和である。この平滑化プロファイル*Rm(W,μ)と元のロープロファイルとの差を局所的な信号変動量と定義し、ΔRm(W,μ)で表す。つまり、ΔRm(W,μ)は次の(3)式で求まる。
ΔRm(W,μ)=Rm−*Rm(W,μ) …(3)
ここでは、上記局所的な信号変動量ΔRm(W,μ)の2乗平均のc倍をノイズレベルN(Rm;W,μ)と定義する。cはノイズレベルを定義するための適当な定数である。つまり、N(Rm;W,μ)の定義式は次の(4)式である。
N(Rm;W,μ)=c・√{ΣΔRm(W,μ)2} …(4)
なお、ノイズレベルの定義は上記説明のものに限定されるわけではなく、MS1スペクトルのノイズレベルを適切に定義できる方法でありさえすればよい。
実際の2つのMS1ロープロファイルに基づいて、上記方法によりノイズレベルN(Rm;W,μ)を算定した結果の例を図5に示す。
図6は、モデル構築用試料由来の全てのMS1ピークの質量電荷比m/zとSN比とをプロットした結果の例である。ここで、SN比はピーク強度とステップS12で求めたノイズレベルとの比である。図6に□印で示したプロット点はMS1ピークを示している。また、●印で示したプロット点は、そのMS1ピークをプリカーサイオンとしたMS2測定によって物質同定が可能であった、即ち、同定に成功したMS1ピークを示している。図6を見ると、この例では、SN比が大きいほど同定に成功するMS1ピークの割合が大きくなる傾向にあることが分かる。これは本例に限らず、一般的な傾向である。
SN比の大きい順にMS1ピークを抽出して「1」から順位付けし(つまりMS1ピークをSN比が大きい順にソートして順位を付け)、その順位毎にそれまでに同定に成功したMS1ピークの数(累積数)を求めると、図7に示すように、累積数が右上がりの階段状に増加するグラフが描ける。例えば、図7中の実線で示す階段状の折れ線は、順位1のSN比を示すMS1ピークは同定に成功し、順位1よりも低いSN比である順位3のSN比を示すMS1ピークは同定に失敗したことを意味している。この折れ線は、或るSN比以上を示すMS1ピークのうち幾つのMS1ピークが同定に成功したのかを示す経験累積分布関数であるといえる。
ステップS14で得られた階段状のプロファイルに対し解析的な関数を用いてフィッティングを行うことにより、SN比に従ったMS1ピークの累積数と同定成功累積数との滑らかなカーブ状の関係を求める。ここでは、フィッティング関数の形状として、次の(5)式の双曲線関数を用いた。
N(ident)tanh(m/N(all)σ) …(5)
ただし、ここでmは或る順位よりも上位順位であるMS1ピークの総数であり、N(all)及びN(ident)はそれぞれMS1ピークの総数及び同定に成功したMS1ピークの総数である。また、σはフィッティング関数の立ち上がりの速さを定めるパラメータであり、先に求めた階段状のプロファイルにフィットするように算出する。図8中に階段状のプロファイルにフィットさせたフィッティング関数を一点鎖線で示している。このフィッティング関数のカーブが同定確率推定モデルであり、σはこのモデルを規定するパラメータである。
まず、目的試料から調製された多数の分画試料に対してそれぞれMS1測定が実行され、MS1スペクトルデータが収集される。そして、各分画試料のMS1スペクトルを保持時間の順に並べて3次元的なMS1スペクトルを求める。
各分画試料に対して得られたMS1スペクトルを分画の時間順に並べて表示すると、図9(a)に示すように、質量電荷比m/z−保持時間の2次元平面上において信号強度を濃淡(又はカラー)で表したヒートマップが得られる。このヒートマップにおいて2次元的にピーク検出を行ってMS1ピークを抽出する。これによって検出されたピークを2Dピークと呼ぶ。図9(a)では1個の点が1個の2Dピークに相当する。
∪w{Pwj|∃jP wj ∈ Pk (2D)}=P k (2D) …(6)
なお、∪ w はwに関する和集合を意味する。
以下、こうして抽出されたMS1ピークであるPwjをMS2測定のプリカーサイオン候補として、適切なプリカーサイオン選択と積算回数の最適化を行う。
次に、上記ステップS12(S121〜S123)と同様の処理を行うことで、各分画試料におけるMS1スペクトル毎にそれぞれノイズレベルを評価する。
ステップS22で抽出されたMS1ピークPwj毎に、そのピーク強度、及び該ピークが存在する分画試料についてステップS23で算出されたノイズレベルからSN比を算出する。
上記(5)式に示したフィッティング関数の傾きが1であるということは100%、その傾きが0.5であるということは50%の確率で以て同定に成功することを示している。したがって、フィッティング関数の微分である次の(7)式により、或る1つのMS1ピークに対して、その順位値mから、同定に成功する確率を推定することができる。
(N(ident)/N(all)σ)sech2(m/N(all)σ) …(7)
図8には上記(7)式による微分関数で示される推定同定確率(図8中右側の目盛り)も重ねて示してある。
pn(rwj)=p1(√(n)rwj) …(8)
pwj (n)=pn(rwj)=p1(√(n)rwj) …(9)
なお、実際の積算回数に戻すには、通常の積算回数を乗じればよい。
ここでは、多数の物質の同定確率の期待値を最大化するためのプリカーサイオン選択及び積算回数の最適化問題を、MS2測定対象となるMS1ピークPwjに対する同定確率pwj (n)の和の最大化であると定義する。この問題を線形計画問題の1つである0-1整数計画問題に帰着させ、以下の手順で定式化する。
即ち、MS1ピークPwjに対するMS2測定の回数について、以下の二値をとる0-1変数xwj (n)を定義する。
xwj (n)=1 :MS1ピークPwjに対してn回積算のMS2測定を実施する
xwj (n)=0 :それ以外
上記定義は全てのnに対してxwj (n)=0であるときは、MS1ピークPwjに対してMS2測定を全く行わないことを意味する。また、xwj (1)=1且つn=1以外の全てのnに対してxwj (n) =0であるときは、MS1ピークPwjに対して1回のみMS2測定を行う、つまり積算を実行しないことを意味する。なお、後述する制約(10)式により、w、jの組毎にxwj (n)=1となるnはたかだか一つであり、その他のnに対してはxwj (n)=0であることを保証される。
f(xwj (n))=Σpwj (n)xwj (n) …(10)
ここで、Σはw、j、nについての総和である。つまり、(10)式は、対象としている全ての分画試料について各分画試料で抽出された全てのプリカーサイオン候補であるMS1ピークの組み合わせにおいて、積算回数を1から所定値までの範囲で変化させたときの、それぞれの総和である。この(10)式のfを最大化すべき目的関数とする。このとき、同定確率pwj (n)は同定確率推定モデルとMS1ピークPwjのSN比とから求めることができる既知の値である。
上記目的関数fの最大化に際して、以下の制約条件を設定する。
(A)MALDIイオン化質量分析装置の利用を想定した場合、測定を実行する毎に少しずつ試料は消費されていく。そのため、測定の繰り返しによって試料は枯渇していくため、1つの分画試料に対して実施できる測定回数、つまり積算回数の総和には上限がある。そこで、或る1つの分画試料wに対する積算回数の上限をUwとおく。
(B)測定時間等の制約から、対象としている全ての分画試料に亘る積算回数の総和にも上限がある。そこで、この総積算回数の上限をU(Total)とおく。
(C)上記条件のほかに、下記2つの条件を課すものとする。
・MS1ピークPwj毎に積算回数は一意的に選択される(複数の値をとらない)。
・同一質量電荷比を持つMS1ピークが連続する複数の分画試料において存在する場合であっても、いずれか1つの分画試料におけるMS1ピークのみをMS2測定の対象とする。
Σnxwj (n)≦Uw …(11)
(11)式は任意のwについて成り立ち、Σはj、nについての総和である。
Σnxwj (n)≦U(Total) …(12)
(12)式においてΣはw、j、nについての総和である。
Σxwj (n)≦1 …(13)
(13)式は任意のkについて成り立ち、Σはw、j、nについての総和である。
ただし、(13)式の左辺に含まれるw、jに関する総和はMS1ピークPwjが存在する特定の2DピークPk (2D)に含まれる範囲で和をとるものとする。
(11)式〜(13)式の制約条件の下で、(10)式に示した目的関数を最大化する0-1変数xwj (n)を求める問題は一般に0-1整数計画問題と呼ばれる。0-1整数計画問題の解法については様々な手法があるが、いずれも一般によく知られているので、ここではその解法については説明を略す。いずれにしても、(10)式を最大化する0-1変数を調べると、最適な0-1変数xwj (n)の組が得られる。そこで、その最適変数の組からxwj (n)=1であるw、j、nの組を全て抽出する。抽出されたw、jの組で表されるMS1ピークPwjが選択すべきプリカーサイオンであり、それらw、jと組をなすnが、そのプリカーサイオンに対する最適な積算回数である。こうして、多くの物質の同定確率が全体として高くなるような、最適なプリカーサイオンの選択と積算回数の最適化が実現できる。
11…LC部
12…分取分画部
13…MS部
2…制御部
3…データ処理部
31…スペクトルデータ収集部
32…同定確率推定モデル構築部
33…同定確率推定パラメータ記憶部
34…同定確率推定値算出部
35…MS2測定条件最適化部
351…目的関数設定部
352…制約条件設定部
353…プリカーサイオン選択・積算回数算出処理部
38…同定処理部
4…表示部
Claims (10)
- 各種物質が含まれる試料を分離用パラメータに従って分離し分画することで得られた複数の分画試料に対しMSn測定(nは2以上の整数)をそれぞれ実行することで得られたMSnスペクトルに基づいて、各分画試料に含まれる物質を同定する物質同定方法であって、
a)所定の試料から得られた複数の分画試料に対するMSn-1測定により求まるMSn-1ピークのSN比、及び該各MSn-1ピークをプリカーサイオンとして実行されたMSn測定の結果に基づく物質同定の結果を利用して、同種試料に由来するMSn-1ピークのSN比と複数のMSn-1ピークをSN比順に従ってプリカーサイオンとして選択してMSn測定及び同定を実行していったときに充分な確度で何らかの物質が同定できたピークの累積数との関係を示す同定確率推定モデルを求め、該同定確率推定モデルを表現する同定確率推定モデル情報を記憶する同定確率推定モデル構築ステップと、
b)同定対象である目的試料から得られた時間的に連続する2以上の分画試料に対するMSn-1測定が終了した状況で、それらMSn-1測定により求まったMSn-1ピークの中でMSn測定のためのプリカーサイオンの候補である複数のMSn-1ピークについてそれぞれSN比を算出し、前記同定確率推定モデル情報より求まる同定確率推定モデルを参照して、前記プリカーサイオン候補である複数のMSn-1ピークのSN比から各MSn-1ピークの同定確率推定値を算出する同定確率推定ステップと、
c)同一のMSn-1ピークに対するMSn測定を複数回行ってその測定結果を積算したときの同定確率の改善度合を想定した上で、所定の複数の分画試料に対する全てのプリカーサイオン候補であるMSn-1ピークについて前記同定確率推定ステップにおいてそれぞれ推定された同定確率推定値に基づいて、MSn-1ピークの選択の組み合わせを変えるとともに積算回数を1から所定回数まで変化させたときの同定確率の総和を最大化する目的関数を定め、少なくとも、前記所定の複数の分画試料に対するMSn測定の実行回数の総和、及び、1つの分画試料に対するMSn測定の実行回数の総和を制約条件として前記目的関数を最大化する解を求めることにより、MSn測定すべきMSn-1ピークと各MSn-1ピークに対する積算回数を求める測定条件最適化ステップと、
を有することを特徴とする物質同定方法。
- 各種物質が含まれる試料を分離用パラメータに従って分離し分画することで得られた複数の分画試料に対しMSn測定(nは2以上の整数)をそれぞれ実行することで得られたMSnスペクトルに基づいて、各分画試料に含まれる物質を同定する物質同定方法であって、
a)所定の試料から得られた複数の分画試料に対するMSn-1測定により求まるMSn-1ピークのSN比、及び該各MSn-1ピークをプリカーサイオンとして実行されたMSn測定の結果に基づく物質同定の結果を利用して、同種試料に由来するMSn-1ピークのSN比と複数のMSn-1ピークをSN比順に従ってプリカーサイオンとして選択してMSn測定及び同定を実行していったときに充分な確度で何らかの物質が同定できたピークの累積数との関係を示す同定確率推定モデルを求め、該同定確率推定モデルを表現する同定確率推定モデル情報を記憶するステップであって、同一のMSn-1ピークに対するMSn測定を複数回行ってその測定結果を積算する回数を変えたときの物質同定の結果を利用して、積算回数毎の同定確率推定モデルを求め、該同定確率推定モデルを表現する同定確率推定モデル情報を記憶する同定確率推定モデル構築ステップと、
b)同定対象である目的試料から得られた時間的に連続する2以上の分画試料に対するMSn-1測定が終了した状況で、それらMSn-1測定により求まったMSn-1ピークの中でMSn測定のためのプリカーサイオンの候補である複数のMSn-1ピークについてそれぞれSN比を算出し、前記同定確率推定モデル情報より求まる同定確率推定モデルを参照して、前記プリカーサイオン候補である複数のMSn-1ピークのSN比から各MSn-1ピークの同定確率推定値を積算回数毎に算出する同定確率推定ステップと、
c)所定の複数の分画試料に対する全てのプリカーサイオン候補であるMSn-1ピークについて前記同定確率推定ステップにおいてそれぞれ推定された同定確率推定値に基づいて、MSn-1ピークの選択の組み合わせを変えるとともに積算回数を1から所定回数まで変化させたときの同定確率の総和を最大化する目的関数を定め、少なくとも、前記所定の複数の分画試料に対するMSn測定の実行回数の総和、及び、1つの分画試料に対するMSn測定の実行回数の総和を制約条件として前記目的関数を最大化する解を求めることにより、MSn測定すべきMSn-1ピークと各MSn-1ピークに対する積算回数を求める測定条件最適化ステップと、
を有することを特徴とする物質同定方法。
- 請求項1に記載の物質同定方法であって、
前記測定条件最適化ステップでは、積算回数をm倍にした際の同定確率をSN比が√m倍である同定確率と想定することを特徴とする物質同定方法。 - 請求項1〜3のいずれか1項に記載の物質同定方法であって、
前記目的試料に対する測定に先立って前記所定の試料に対する測定を実行し、前記同定確率モデル構築ステップではその測定結果に基づいて同定確率推定モデルを作成することを特徴とする物質同定方法。 - 請求項1〜4のいずれか1項に記載の物質同定方法であって、
前記測定条件最適化ステップは、線形計画問題として前記目的関数及び制約条件を定め、該目的関数を最大化する解を求めることを特徴とする物質同定方法。 - 請求項5に記載の物質同定方法であって、
前記測定条件最適化ステップは、0-1整数計画問題として前記目的関数及び制約条件を定め、変数が1となるMS1ピーク及び積算回数を前記目的関数を最大化する解として求めることを特徴とする物質同定方法。 - 請求項1〜6のいずれか1項に記載の物質同定方法であって、
前記測定条件最適化ステップによりMSn測定すべきMSn-1ピークが求まったあとに、その中でSN比の小さいMSn-1ピークから優先的にMSn測定を実行することを特徴とする物質同定方法。 - 請求項1〜7のいずれか1項に記載の物質同定方法であって、
MSn測定の実行に先立って、前記同定確率推定ステップ及び前記測定条件最適化ステップにおける一連の処理の結果に基づいてMSn測定の測定シーケンスを決定することを特徴とする物質同定方法。 - 請求項8に記載の物質同定方法であって、
MSn測定の実行に先立って、前記同定確率推定ステップ及び前記測定条件最適化ステップにおける一連の処理の結果に基づいてMSn測定の測定シーケンスを決定するとともに、該測定シーケンスに従ってMSn測定を開始しその測定の途中段階で得られた同定結果を利用してその測定シーケンスを変更することを特徴とする物質同定方法。 - 請求項1〜9のいずれか1項に記載の物質同定方法を用いて物質同定を行うMSn測定可能な質量分析装置であって、
前記測定条件最適化ステップで得られた結果に基づくMSn測定の測定シーケンスに従って自動的にプリカーサイオン及び積算回数を自動的に設定したMSn測定を実施する制御部を備えることを特徴とする質量分析装置。
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