本発明における積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムは単層構成であっても多層構成であってもよく、2層、3層構成以外にも本発明の要旨を越えない限り、4層またはそれ以上の多層であってもよく、特に限定されるものではない。
本発明において使用するポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。ホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート等が例示される。一方、共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、p−オキシ安息香酸など)等の一種または二種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種または二種以上が挙げられる。
ポリエステルの重合触媒としては、特に制限はなく、従来公知の化合物を使用することができ、例えば、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物等が挙げられる。
本発明のフィルムのポリエステル層中には、易滑性の付与および各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を配合することも可能である。粒子を配合する場合、配合する粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機粒子、アクリル樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機粒子等が挙げられる。さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
また、用いる粒子の平均粒径は、通常5μm以下、好ましくは0.1〜3μmの範囲である。平均粒径が5μmを超える場合には、フィルムの表面粗度が粗くなりすぎて、例えば、転写用に使用する場合、転写する成型面の表面形状に影響を与える場合がある。
さらにポリエステル層中の粒子含有量は、通常5重量%以下、好ましくは0.0003〜3重量%の範囲である。粒子含有量が5重量%を超えて添加する場合にはフィルムの透明性が不十分な場合がある。
ポリエステル層中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化もしくはエステル交換反応終了後、添加するのが良い。
なお、本発明におけるポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
本発明におけるポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、機械的強度、ハンドリング性及び生産性などの点から、通常5〜300μm、好ましくは10〜150μmの範囲がよい。
本発明のフィルムの製膜方法としては、通常知られている製膜法を採用でき、特に制限はない。例えば、二軸延伸ポリエステルフィルムを製造する場合、まず先に述べたポリエステル原料を、押出機を用いて、ダイから溶融押し出しし、溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法や液体塗布密着法が好ましく採用される。次に得られた未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃であり、延伸倍率は通常2.5〜7倍、好ましくは3.0〜6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に、通常70〜170℃で、延伸倍率は通常2.5〜7倍、好ましくは3.0〜6倍で延伸する。引き続き180〜270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る方法が挙げられる。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
また、本発明においては積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルム製造に関しては同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃で温度コントロールされた状態で機械方向および幅方向に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で4〜50倍、好ましくは7〜35倍、さらに好ましくは10〜25倍である。そして、引き続き、170〜270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
次に本発明における積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層の形成について説明する。塗布層に関しては、ポリエステルフィルムの製膜工程中にフィルム表面を処理する、インラインコーティングにより設けられてもよく、一旦製造したフィルム上に系外で塗布する、オフラインコーティングを採用してもよい。より好ましくはインラインコーティングにより形成されるものである。
インラインコーティングは、ポリエステルフィルム製造の工程内でコーティングを行う方法であり、具体的には、ポリエステルを溶融押出ししてから延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階でコーティングを行う方法である。通常は、溶融、急冷して得られる未延伸シート、延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルム、熱固定後で巻上前のフィルムの何れかにコーティングする。以下に限定するものではないが、例えば逐次二軸延伸においては、特に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルムにコーティングした後に横方向に延伸する方法が優れている。かかる方法によれば、製膜と塗布層形成を同時に行うことができるため製造コスト上のメリットがあり、また、コーティング後に延伸を行うために、塗布層の厚みを延伸倍率により変化させることもでき、オフラインコーティングに比べ、薄膜コーティングをより容易に行うことができる。また、延伸前にフィルム上に塗布層を設けることにより、塗布層を基材フィルムと共に延伸することができ、それにより塗布層を基材フィルムに強固に密着させることができる。さらに、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造において、クリップ等によりフィルム端部を把持しつつ延伸することで、フィルムを縦および横方向に拘束することができ、熱固定工程において、しわ等が入らず平面性を維持したまま高温をかけることができる。それゆえ、塗布後に施される熱処理が他の方法では達成されない高温とすることができるために、塗布層の造膜性が向上し、塗布層と基材フィルムをより強固に密着させることができ、さらには、強固な塗布層とすることができ、塗布層の脱落を防ぎ、離型性能や帯電防止性能を向上させることができる。
本発明においては、長鎖アルキル基含有化合物および帯電防止剤と、アクリル樹脂またはポリビニルアルコールとを含有する塗布液から形成された塗布層を有することを必須の要件とするものである。
塗膜に離型性と帯電防止性とをともに付与するために、離型剤と帯電防止剤を併用する検討をしたところ、透明性が悪化する場合が散見された。本発明者らが各種検討した結果、アクリル樹脂またはポリビニルアルコールの少なくとも1種を加えることで、透明性が向上し、保護フィルムなどにより適応性の高いフィルムを初めて作り出せることが判明した。
本発明における塗布層は、例えば成形同時転写等の転写用、フレキシブルプリント配線板の製造用、プラスチックシート製造用の工程紙用等、各種工程中で用いられる工程用フィルムやカバーテープなどの保護フィルムとして好適な離型性能を向上させ、帯電を防止させるために設けられるものである。
本発明のフィルムの塗布層の形成に使用する長鎖アルキル基含有化合物は、フィルムの離型性を向上させるために用いる。
長鎖アルキル化合物とは、炭素数が通常6以上、好ましくは8以上、さらに好ましくは12以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する化合物のことである。アルキル基としては、例えば、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ラウリル基、オクタデシル基、ベヘニル基等が挙げられる。アルキル基を有する化合物とは、例えば、各種の長鎖アルキル基含有高分子化合物、長鎖アルキル基含有アミン化合物、長鎖アルキル基含有エーテル化合物、長鎖アルキル基含有四級アンモニウム塩等が挙げられる。耐熱性、汚染性を考慮すると高分子化合物であることが好ましい。また、効果的に離型性を得られるという観点から、長鎖アルキル基を側鎖に持つ高分子化合物であることがより好ましい。
長鎖アルキル基を側鎖に持つ高分子化合物とは、反応性基を有する高分子と、当該反応性基と反応可能なアルキル基を有する化合物とを反応させて得ることができる。上記反応性基としては、例えば、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、酸無水物等が挙げられる。これらの反応性基を有する化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレンアミン、反応性基含有ポリエステル樹脂、反応性基含有ポリ(メタ)アクリル樹脂等が挙げられる。これらの中でも離型性や取り扱い易さを考慮するとポリビニルアルコールであることが好ましい。
上記の反応性基と反応可能なアルキル基を有する化合物とは、例えば、ヘキシルイソシアネート、オクチルイソシアネート、デシルイソシアネート、ラウリルイソシアネート、オクタデシルイソシアネート、ベヘニルイソシアネート等の長鎖アルキル基含有イソシアネート、ヘキシルクロライド、オクチルクロライド、デシルクロライド、ラウリルクロライド、オクタデシルクロライド、ベヘニルクロライド等の長鎖アルキル基含有酸クロライド、長鎖アルキル基含有アミン、長鎖アルキル基含有アルコール等が挙げられる。これらの中でも離型性や取り扱い易さを考慮すると長鎖アルキル基含有イソシアネートが好ましく、オクタデシルイソシアネートが特に好ましい。
また、長鎖アルキル基を側鎖に持つ高分子化合物は、長鎖アルキル(メタ)アクリレートの重合物や長鎖アルキル(メタ)アクリレートと他のビニル基含有モノマーとの共重合によって得ることもできる。長鎖アルキル(メタ)アクリレートとは、例えば、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、本発明ではフィルムの離型性を向上させるために、長鎖アルキル基含有化合物を用いることを必須とするが、それ以外に従来公知の離型剤を複数種併用してもよい。従来公知の離型剤とは、例えば、ワックス、フッ素化合物、シリコーン化合物等が挙げられる。
塗布層の形成に使用する帯電防止剤とは、アンモニウム基含有化合物、ポリエーテル化合物、スルホン酸化合物、ベタイン化合物等のイオン導電性の高分子化合物や、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリイソチアナフテン、ポリチオフェンなどのπ電子共役系の高分子化合物が挙げられる。これらはフィルムに帯電防止性を付与するために用いられる。これらの中でもイオン導電性の高分子化合物が好ましく、アンモニウム基含有化合物が特に好ましい。π共役系導電性高分子、たとえばポリチオフェンやポリアニリン含有の塗布液から形成される塗布層は一般に強く着色するため、透明性が求められる光学用途には好適でない場合がある。またπ共役系導電性高分子塗料はイオン導電性塗料に比べ一般に高価になるため、製造コストの観点からもイオン導電性の帯電防止剤が好適に用いられる。
アンモニウム基含有化合物とは、分子内にアンモニウム基を有する化合物を指し、アンモニウム基を有する高分子化合物であることが好ましい。例えば、アンモニウム基と不飽和性二重結合を有する単量体を成分として含む重合体を用いることができる。
かかる重合体の具体的な例としては、例えば下記式(1)または下記式(2)で示される構成要素を繰返し単位として有する重合体が挙げられる。これらの単独重合体や共重合体、さらに、その他の複数の成分を共重合していても構わない。他の材料との相溶性や、得られる塗膜の透明性を向上させるという観点からは、下記式(1)で示される構成要素を繰り返し単位として有する重合体が好ましい。また、得られる帯電防止性能の高さや耐熱性の観点からは下記式(2)で示される構成要素を繰り返し単位として有する重合体が好ましい。
上記式(1)中、R2は−O− または −NH−、R3はアルキレン基、または式(1)の構造を成立しうるその他の構造、R1、R4、R5、R6はそれぞれが、水素原子、アルキル基、フェニル基等であり、これらのアルキル基、フェニル基が以下に示す基で置換されていてもよい。置換可能な基は、例えば、ヒドロキシ基、アミド基、エステル基、アルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基、チオアルコキシ基、チオフェノキシ基、シクロアルキル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、シアノ基、ハロゲン等である。
上記式(2)中、R1、R2はそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、フェニル基等であり、これらのアルキル基、フェニル基が以下に示す基で置換されていてもよい。置換可能な基は、例えば、ヒドロキシル基、アミド基、エステル基、アルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基、チオアルコキシ基、チオフェノキシ基、シクロアルキル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、シアノ基、ハロゲン等である。また、R1およびR2は化学的に結合していてもよく、例えば、−(CH2)m−(m=2〜5の整数)、−CH(CH3)CH(CH3)−、−CH=CH−CH=CH−、−CH=CH−CH=N−、−CH=CH−N=C−、−CH2OCH2−、−(CH2)2O(CH2)2−などが挙げられる。
上記式(1)で示される構成要素を繰返し単位として有する重合体の場合、他の材料との相溶性を高め、得られる塗膜の透明性を向上させるという観点や、離型性がさらに向上するという観点から、他の繰り返し単位と共重合していることが好ましい。他の繰り返し単位は、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸アルキルが挙げられる。
上記式(2)で示される構成要素を繰返し単位として有する重合体の場合、離型性の低下を抑えるという観点から、他の繰り返し単位と共重合していることが好ましい。他の繰り返し単位は、例えば、上記のアクリル酸アルキルやメタクリル酸アルキル、n−メチロールアクリルアミド等のアクリルアミドが挙げられる。
また、より帯電防止性能を高めるという観点からは、上記式(2)で示される構成要素を繰り返し単位とした単独重合体が好ましい。
上記式(1)および(2)中のX-は本発明の要旨を損なわない範囲で適宜選択することができる。例えば、ハロゲンイオン、スルホナート、ホスファート、ニトラート、アルキルスルホナート、カルボキシラート等が挙げられる。
上記式(1)で示される構成要素を持つ重合体は、得られる塗布層の透明性に優れ好ましい。ただし塗布延伸法においては、耐熱性に劣る場合があり、塗布延伸法に用いる場合、X-はハロゲンではないことが好ましい。
上記式(2)で示される構成要素や、その他のアンモニウム塩基が高分子骨格内にある化合物は、耐熱性に優れており好ましい。
また、上記式(1)ないし(2)で示される構成要素と、ポリエチレングリコール含有(メタ)アクリレートとが共重合されているポリマーは、構造が柔軟となり、塗布延伸の際には、均一性に優れた塗布層が得られるので好ましい。
あるいは、ポリエチレングリコール含有(メタ)アクリレートポリマーを、塗布液中に含有して塗布することでも、同様に均一性に優れた塗布層を得ることができる。
かかるポリエチレングリコール含有(メタ)アクリレートとしては具体的には、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(ポリエチレグリコール単位の重合度は4〜14の範囲が好ましい。)、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)ジアクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)ジアクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコール−ポリブチレングリコールモノメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールモノアクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノアクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノアクリレート等を出発原料とする重合体が例示される。
また、アンモニウム基含有化合物の数平均分子量は、通常1000〜500000、好ましくは2000〜350000、さらに好ましくは5000〜200000である。分子量が1000未満の場合は塗膜の強度が弱かったり、耐熱安定性に劣ったりする場合がある。また分子量が500000を超える場合は、塗布液の粘度が高くなり、取扱い性や塗布性が悪化する場合がある。
塗布層の形成にはアクリル樹脂またはポリビニルアルコールの少なくとも1種を用いるが、これはフィルムの透明性を向上させるために用いる。
アクリル樹脂とは、アクリル系、メタアクリル系のモノマーに代表されるような、炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーからなる重合体である。これらは、単独重合体あるいは共重合体いずれでも差し支えない。また、それら重合体と他のポリマー(例えばポリエステル、ポリウレタン等)との共重合体も含まれる。例えば、ブロック共重合体、グラフト共重合体である。あるいは、ポリエステル溶液、またはポリエステル分散液中で炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマーの混合物)も含まれる。同様にポリウレタン溶液、ポリウレタン分散液中で炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマーの混合物)も含まれる。同様にして他のポリマー溶液、または分散液中で炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマー混合物)も含まれる。また、ヒドロキシル基、アミノ基を含有することも可能である。塗膜による透明性の悪化を抑える観点から、ヒドロキシル基を含有していることが好ましい。
上記炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーとしては、特に限定はしないが、特に代表的な化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸のような各種カルボキシル基含有モノマー類、およびそれらの塩;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、モノブチルヒドロキルフマレート、モノブチルヒドロキシイタコネートのような各種の水酸基含有モノマー類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートのような各種の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドまたは(メタ)アクリロニトリル等のような種々の窒素含有化合物;スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエンのような各種スチレン誘導体、プロピオン酸ビニルのような各種のビニルエステル類;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のような種々の珪素含有重合性モノマー類;燐含有ビニル系モノマー類;塩化ビニル、塩化ビリデンのような各種のハロゲン化ビニル類;ブタジエンのような各種共役ジエン類が挙げられる。
アクリル樹脂がヒドロキシル基を含有する場合、アクリル樹脂の水酸基価は、好ましくは2〜100mgKOH/g、より好ましくは5〜50mgKOH/gである。水酸基価が上記範囲に入る場合は、塗布外観や透明性が良化する。
ポリビニルアルコールとは、ポリビニルアルコール部位を有する化合物であり、例えば、ポリビニルアルコールに対し、部分的にアセタール化やブチラール化等された変成化合物も含め、従来公知のポリビニルアルコールを使用することができる。ポリビニルアルコールの重合度は特に限定されるものではないが、通常100以上、好ましくは300〜40000の範囲である。重合度が100未満の場合、塗布層の耐水性が低下する場合がある。また、ポリビニルアルコールのケン化度は特に限定されるものではないが、通常70モル%以上、好ましくは70〜99.9モル%の範囲、より好ましくは80〜97モル%、特に好ましくは86〜95モル%であるポリ酢酸ビニルケン化物が実用上用いられる。
本発明のフィルムの塗布層の形成には、アクリル樹脂やポリビニルアルコール以外の各種のポリマーや架橋剤を併用することも可能である。
ポリマーの具体例としては、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンイミン、メチルセルロース、ヒドロキシセルロース、でんぷん類等が挙げられる。
ポリエステル樹脂とは、主な構成成分として例えば、下記のような多価カルボン酸および多価ヒドロキシ化合物からなるものが挙げられる。すなわち、多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、フタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸および、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2−カリウムスルホテレフタル酸、5−ソジウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、グルタル酸、コハク酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、p−ヒドロキシ安息香酸、トリメリット酸モノカリウム塩およびそれらのエステル形成性誘導体などを用いることができ、多価ヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオ−ル、2−メチル−1,5−ペンタンジオ−ル、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、p−キシリレングリコ−ル、ビスフェノ−ルA−エチレングリコ−ル付加物、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコ−ル、ポリプロピレングリコ−ル、ポリテトラメチレングリコ−ル、ポリテトラメチレンオキシドグリコ−ル、ジメチロ−ルプロピオン酸、グリセリン、トリメチロ−ルプロパン、ジメチロ−ルエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロ−ルプロピオン酸カリウムなどを用いることができる。これらの化合物の中から、それぞれ適宜1つ以上を選択し、常法の重縮合反応によりポリエステル樹脂を合成すればよい。
ウレタン樹脂とは、ウレタン結合を分子内に有する高分子化合物のことである。通常ウレタン樹脂はポリオールとイソシアネートの反応により作成される。ポリオールとしては、ポリカーボネートポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリオレフィンポリオール類、アクリルポリオール類が挙げられ、これらの化合物は単独で用いても、複数種用いてもよい。
ポリカーボネートポリオール類は、多価アルコール類とカーボネート化合物とから、脱アルコール反応によって得られる。多価アルコール類としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3,3−ジメチロールヘプタン等が挙げられる。カーボネート化合物としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート等が挙げられ、これらの反応から得られるポリカーボネート系ポリオール類としては、例えば、ポリ(1,6−ヘキシレン)カーボネート、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン)カーボネート等が挙げられる。
ポリエステルポリオール類としては、多価カルボン酸(マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等)またはそれらの酸無水物と多価アルコール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−ヘキシル−1,3−プロパンジオール、シクロヘキサンジオール、ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、ジメタノールベンゼン、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、アルキルジアルカノールアミン、ラクトンジオール等)の反応から得られるものが挙げられる。
ポリエーテルポリオール類としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
ウレタン樹脂を得るために使用されるポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート等が例示される。これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。
ウレタン樹脂を合成する際に鎖延長剤を使用しても良く、鎖延長剤としては、イソシアネート基と反応する活性基を2個以上有するものであれば特に制限はなく、一般的には、水酸基またはアミノ基を2個有する鎖延長剤を主に用いることができる。
水酸基を2個有する鎖延長剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等の脂肪族グリコール、キシリレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン等の芳香族グリコール、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレート等のエステルグリコールといったグリコール類を挙げることができる。また、アミノ基を2個有する鎖延長剤としては、例えば、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン等の芳香族ジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサンジアミン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、トリメチルヘキサンジアミン、2−ブチル−2−エチル−1,5−ペンタンジアミン、1 ,8−オクタンジアミン、1 ,9−ノナンジアミン、1 ,10−デカンジアミン等の脂肪族ジアミン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジアミン、イソプロピリデンシクロヘキシル−4,4’−ジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1 ,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂環族ジアミン等が挙げられる。
本発明におけるウレタン樹脂は、溶剤を媒体とするものであってもよいが、好ましくは水を媒体とするものである。ウレタン樹脂を水に分散または溶解させるには、乳化剤を用いる強制乳化型、ウレタン樹脂中に親水性基を導入する自己乳化型あるいは水溶型等がある。特に、ウレタン樹脂の構造中にイオン基を導入しアイオノマー化した自己乳化タイプが、液の貯蔵安定性や得られる塗布層の耐水性、透明性に優れており好ましい。また、導入するイオン基としては、カルボキシル基、スルホン酸、リン酸、ホスホン酸、第4級アンモニウム塩等、種々のものが挙げられるが、カルボキシル基が好ましい。ウレタン樹脂にカルボキシル基を導入する方法としては、重合反応の各段階の中で種々の方法が取り得る。例えば、プレポリマー合成時に、カルボキシル基を持つ樹脂を共重合成分として用いる方法や、ポリオールやポリイソシアネート、鎖延長剤などの一成分としてカルボキシル基を持つ成分を用いる方法がある。特に、カルボキシル基含有ジオールを用いて、この成分の仕込み量によって所望の量のカルボキシル基を導入する方法が好ましい。例えば、ウレタン樹脂の重合に用いるジオールに対して、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ビス−(2−ヒドロキシエチル)プロピオン酸、ビス−(2−ヒドロキシエチル)ブタン酸等を共重合させることができる。またこのカルボキシル基はアンモニア、アミン、アルカリ金属類、無機アルカリ類等で中和した塩の形にするのが好ましい。特に好ましいものは、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミンである。かかるポリウレタン樹脂は、塗布後の乾燥工程において中和剤が外れたカルボキシル基を、他の架橋剤による架橋反応点として用いることができる。これにより、塗布前の液の状態での安定性に優れる上、得られる塗布層の耐久性、耐溶剤性、耐水性、耐ブロッキング性等をさらに改善することが可能となる。
架橋剤の具体例としては、メラミン化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物、シランカップリング化合物等が挙げられる。これら架橋剤の中でも架橋密度の高さの観点において、特にメラミン化合物を使用することが好ましい。また、これらの架橋剤は2種以上を併用しても良い。
メラミン化合物とは、化合物中にメラミン骨格を有する化合物のことであり、例えば、アルキロール化メラミン誘導体、アルキロール化メラミン誘導体にアルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、およびこれらの混合物を用いることができる。エーテル化に用いるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール等が好適に用いられる。また、メラミン化合物としては、単量体、あるいは2量体以上の多量体のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物を用いてもよい。さらに、メラミンの一部に尿素等を共縮合したものも使用できるし、メラミン化合物の反応性を上げるために触媒を使用することも可能である。
オキサゾリン化合物とは、分子内にオキサゾリン基を有する化合物であり、特にオキサゾリン基を含有する重合体が好ましく、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作成できる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等を挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。他のモノマーは、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば制限なく、例えばアルキル(メタ)アクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基)等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸およびその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等の含ハロゲンα,β−不飽和モノマー類;スチレン、α−メチルスチレン、等のα,β−不飽和芳香族モノマー等を挙げることができ、これらの1種または2種以上のモノマーを使用することができる。
エポキシ化合物とは、分子内にエポキシ基を有する化合物であり、例えば、エピクロロヒドリンとエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ビスフェノールA等の水酸基やアミノ基との縮合物が挙げられ、ポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物、モノエポキシ化合物、グリシジルアミン化合物等がある。ポリエポキシ化合物としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネート、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジエポキシ化合物としては、例えば、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、モノエポキシ化合物としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、グリシジルアミン化合物としてはN,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノ)シクロヘキサン等が挙げられる。
なお、架橋剤は、乾燥過程や、製膜過程において、反応させて塗布層の性能を向上させる設計で用いている。できあがった塗布層中には、これら架橋剤の未反応物、反応後の化合物、あるいはそれらの混合物が存在しているものと推測できる。
また、本発明の主旨を損なわない範囲において、本発明のフィルムの塗布層の形成に、塗布層のブロッキング性や滑り性改良等を目的として粒子を併用することも可能である。
さらに本発明の主旨を損なわない範囲において、塗布層の形成には必要に応じて消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、染料、顔料等を併用することも可能である。
本発明における積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、離型剤は、通常8〜70重量%の範囲、好ましくは10〜60重量%の範囲、さらに好ましくは15〜50重量%の範囲である。8重量%より少ない場合は十分な離型性能が得られない可能性があり、70重量%よりも多い場合は他の成分が少ないため帯電防止性や透明性が得られない可能性がある。
本発明における積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、帯電防止剤は、通常10〜70重量%の範囲、好ましくは15〜60重量%の範囲、さらに好ましくは20〜50重量%の範囲である。10重量%より少ない場合は十分な帯電防止性能が得られない可能性があり、70重量%よりも多い場合は他の成分が少ないため離型性や透明性が得られない可能性がある。
本発明における積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、アクリル樹脂またはポリビニルアルコールは、通常3〜70重量%の範囲、好ましくは5〜60重量%の範囲、さらに好ましくは10〜50重量%の範囲である。上記範囲を外れる場合は十分な透明性が得られない場合や、帯電防止性や離型性が得られない可能性がある。
塗布層中の成分の分析は、例えば、TOF−SIMS、ESCA、蛍光X線等の分析によって行うことができる。
インラインコーティングによって塗布層を設ける場合は、上述の一連の化合物を水溶液または水分散体として、固形分濃度が0.1〜50重量%程度を目安に調整した塗布液をポリエステルフィルム上に塗布する要領にて積層ポリエステルフィルムを製造するのが好ましい。また、本発明の主旨を損なわない範囲において、水への分散性改良、造膜性改良等を目的として、塗布液中には少量の有機溶剤を含有していてもよい。有機溶剤は1種類のみでもよく、適宜、2種類以上を使用してもよい。
本発明における積層ポリエステルフィルムに関して、ポリエステルフィルム上に設けられる塗布層の膜厚は、通常0.005〜1μm、好ましくは0.01〜0.2μm、より好ましくは0.02〜0.1μm、特に好ましくは0.02〜0.04μmの範囲である。膜厚が1μmを超える場合は、外観や透明性が悪化する可能性があり、膜厚が0.005μm未満の場合は十分な離型性や帯電防止性が得られない可能性がある。
本発明の塗布層を形成する方法としては、例えば、グラビアコート、リバースロールコート、ダイコート、エアドクターコート、ブレードコート、ロッドコート、バーコート、カーテンコート、ナイフコート、トランスファロールコート、スクイズコート、含浸コート、キスコート、スプレーコート、カレンダコート、押出コート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。
本発明において、ポリエステルフィルム上に塗布層を形成する際の乾燥および硬化条件に関しては特に限定されるわけではなく、例えば、オフラインコーティングにより塗布層を設ける場合、通常、80〜200℃で3〜40秒間、好ましくは100〜180℃で3〜40秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
一方、インラインコーティングにより塗布層を設ける場合、通常、70〜270℃で3〜200秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
また、オフラインコーティングあるいはインラインコーティングに係わらず、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。本発明における積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムにはあらかじめ、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
本発明のポリエステルフィルムの粘着テープに対する剥離力として、好ましくは2000mN/cm以下、より好ましくは1700mN/cm以下、さらに好ましくは1200mN/cm以下である。剥離力が2000mN/cmより高い場合、離型層の上にくる材料が上手く剥離できない場合がある。
本発明のポリエステルフィルムの表面抵抗値として、好ましくは5×1012Ω以下、より好ましくは5×1011Ω以下、さらに好ましくは1×1011Ω以下、特に好ましくは1×1010Ωである。
本発明において、ポリエステルフィルムのフィルムヘーズとして好ましくは2.5%以下、より好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.5%以下、特に好ましくは1.3%以下である。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明で用いた測定法および評価方法は次のとおりである。
(1)ポリエステルの極限粘度の測定方法
ポリエステルに非相溶な他のポリマー成分および顔料を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
(2)平均粒径の測定方法
TEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 H−7650、加速電圧100V)を使用して塗布層を観察し、粒子10個の粒径の平均値を平均粒径とした。
(3)塗布層の膜厚測定方法
塗布層の表面をRuO4で染色し、エポキシ樹脂中に包埋した。その後、超薄切片法により作成した切片をRuO4で染色し、塗布層断面をTEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 H−7650、加速電圧100V)を用いて測定した。
(4)離型フィルムの剥離力の評価
試料フィルムの離型層表面に粘着テープ(日東電工株式会社製「No.31B」)を2kgゴムローラーにて1往復圧着し、室温にて1時間放置後の剥離力を測定した。剥離力は、株式会社島津製作所製「Ezgraph」を使用し、引張速度300mm/分の条件下、180°剥離を行った。
(5)フィルムヘーズの測定
試料フィルムをJIS−K−7136に準じ、株式会社村上色彩技術研究所製ヘーズメーター「HM−150」により、フィルムヘーズを測定した。
(6)帯電防止性の評価方法
日本ヒューレット・パッカード株式会社製高抵抗測定器:HP4339Bおよび測定電極:HP16008Bを使用し、23℃,50%RHの測定雰囲気でサンプルを30分間調湿後、表面抵抗値を測定した。
実施例および比較例において使用したポリエステルは、以下のようにして準備したものである。
<ポリエステル(A)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩0.09重量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェート0.04重量部を添加した後、三酸化アンチモン0.04重量部を加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.63に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させた。得られたポリエステル(A)の極限粘度は0.63であった。
<ポリエステル(B)の製造方法>
ポリエステル(A)の製造方法において、エチルアシッドフォスフェート0.04重量部を添加後、平均粒子径2μmのシリカ粒子を0.2重量部、三酸化アンチモン0.04重量部を加えて、極限粘度0.65に相当する時点で重縮合反応を停止した以外は、ポリエステル(A)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(B)を得た。得られたポリエステル(B)は、極限粘度0.65であった。
塗布層を構成する化合物例は以下のとおりである。
(化合物例)
・離型剤(長鎖アルキル化合物):(IA)
4つ口フラスコにキシレン200部、オクタデシルイソシアネート600部を加え、攪拌下に加熱した。キシレンが還流し始めた時点から、平均重合度500、ケン化度88モル%のポリビニルアルコール100部を少量ずつ10分間隔で約2時間にわたって加えた。ポリビニルアルコールを加え終わってから、さらに2時間還流を行い、反応を終了した。反応混合物を約80℃まで冷却してから、メタノール中に加えたところ、反応生成物が白色沈殿として析出したので、この沈殿を濾別し、キシレン140部を加え、加熱して完全に溶解させた後、再びメタノールを加えて沈殿させるという操作を数回繰り返した後、沈殿をメタノールで洗浄し、乾燥粉砕して得た。
・帯電防止剤:IIA
下記式3−1の構成単位と、下記式3−2の構成単位とを重量比率で95/5の重量比率で共重合した、数平均分子量30000の高分子化合物
・帯電防止剤:IIB
式3−1の構成単位を共重合した、数平均分子量30000の高分子化合物
・帯電防止剤:IIC
対イオンがメチルスルホネートである、2−(トリメチルアミノ)エチルメタクリレート/エチルメタクリレート/ブチルメタクリレート/ポリエチレングリコール含有モノアクリレートが、重量比で75/12/15/30 である共重合ポリマー。数平均分子量が40000。
・帯電防止剤:IID
下記式4の構成単位からなる、数平均分子量50000の帯電防止剤
・アクリル樹脂:(IIIA)下記組成で重合したアクリル樹脂の水分散体
エチルアクリレート/n−ブチルアクリレート/メチルメタクリレート/N−メチロールアクリルアミド/アクリル酸=65/21/10/2/2(重量%)の乳化重合体(乳化剤:アニオン系界面活性剤)。水酸基価11mgKOH/g。
・アクリル樹脂:(IIIB)下記組成で重合したアクリル樹脂の水分散体
エチルアクリレート/メチルアクリレート/2−ヒドロキシエチルメタクリレート/N−メチロールアクリルアミド/アクリル酸=65/28/3/2/2(重量%)の乳化重合体(乳化剤:アニオン系界面活性剤)。水酸基価24mgKOH/g。
・ポリビニルアルコール:(IIIC)
ケン化度88モル%、重合度500のポリビニルアルコール
・ヘキサメトキシメチロールメラミン:(IV)
実施例1:
ポリエステル(A)、(B)をそれぞれ90%、10%の割合で混合した混合原料を最外層(表層)の原料とし、ポリエステル(A)のみを中間層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、40℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(表層/中間層/表層=1:8:1の吐出量)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.4倍延伸した後、この縦延伸フィルムの片面に、下記表1に示す塗布液1を塗布し、テンターに導き、横方向に110℃で4.3倍延伸し、235℃で熱処理を行った後、横方向に2%弛緩し、膜厚(乾燥後)が0.03μmの離型層を有する厚さ50μmのポリエステルフィルムを得た。
得られたポリエステルフィルムを評価したところ、剥離力や帯電防止性、透明性が良好であった。このフィルムの特性を下記表2に示す。
実施例2〜18:
実施例1において、塗布剤組成を表1に示す塗布剤組成に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。でき上がったポリエステルフィルムは表2に示すとおりであり、離型性、帯電防止性、透明性が良好であった。
比較例1:
実施例1において、塗布層を設けないこと以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。でき上がった積層ポリエステルフィルムを評価したところ、表2に示すとおりであり、離型性や帯電防止性が劣るものであった。
比較例2〜4:
実施例1において、塗布剤組成を表1に示す塗布剤組成に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。でき上がった積層ポリエステルフィルムを評価したところ、表2に示すとおりであり、離型性や帯電防止性、透明性が劣る場合が見られた。