多くの個人は、心臓及び他の主な器官を灌流する血管の進行性の閉塞により生じる循環器疾患に苦しんでいる。そのような個人における、より重篤な血管閉塞によって、度々、高血圧、虚血性損傷、卒中又は心筋梗塞がもたらされる。冠動脈血流を制限又は妨害する動脈硬化病変は、虚血性心疾患の主な原因である。経皮的冠動脈形成術は、動脈を通る血流を増大させることを目的とする医療手順である。経皮的冠動脈形成術は、広く行われている冠動脈狭窄の処置である。この手順が益々使用される理由は、冠動脈バイパス手術と比較したその高い成功率と低侵襲性である。経皮的冠動脈形成術に関する限界は、この手順の直後に生じ得る血管の突然閉鎖、及びこの手順の後に除々に生じる再狭窄である。加えて、再狭窄は、伏在静脈バイパス移植を受けた患者における慢性的な問題である。急性閉塞のメカニズムはいくつかの要因が関与すると思われ、血管反跳及びその結果の動脈閉鎖、並びに/又は新たに開放した血管の、損傷した長さに沿った血小板及びフィブリンの沈着により生じ得る。
経皮的冠動脈形成術後の再狭窄は、血管損傷により開始される、より漸進的なプロセスである。再狭窄のプロセスには、血栓症、炎症、増殖因子及びサイトカイン放出、細胞増殖、細胞遊走並びに細胞外マトリックス合成を含む多数のプロセスのそれぞれが寄与する。
再狭窄の正確なメカニズムは完全には理解されていないが、再狭窄プロセスの一般的な局面は確認されている。正常な動脈壁では、平滑筋細胞は、1日当たり約0.1パーセント未満の低速で増殖する。血管壁内の平滑筋細胞は、細胞質体積の80%〜90%が収縮器官で占められるという特徴を有する収縮表現型で存在する。小胞体、ゴルジ及び遊離リボソームは殆ど存在せず、核周辺領域内に位置している。細胞外マトリックスは平滑筋を包囲し、平滑筋細胞を収縮表現型の状態に維持する役割を有すると思われるヘパリン様グリコシルアミノグリカンに富んでいる(Campbell及びCampbell,1985)。
血管形成術中の冠動脈内バルーンカテーテルの加圧拡張により、血管壁内の平滑筋細胞及び内皮細胞が損傷され、血栓性及び炎症性応答が開始する。血小板、侵入するマクロファージ及び/若しくは白血球から、又は平滑筋細胞から直接放出される、血小板由来増殖因子、塩基性線維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子、トロンビン等の細胞由来増殖因子は、中膜平滑筋細胞における増殖及び遊走応答を誘発する。これらの細胞は、収縮表現型から合成表現型への変化を受け、合成表現型は僅かな収縮フィラメント束、大幅に粗い小胞体、ゴルジ及び遊離リボソームにより特徴付けられる。増殖/遊走は、通常、損傷から1〜2日後に開始し、その後数日でピークに達する(Campbell及びCampbell,1987;Clowes及びSchwartz,1985)。
娘細胞は、動脈平滑筋の内膜層に遊走し、増殖を継続して有意な量の細胞外マトリックスタンパク質を分泌する。増殖、遊走及び細胞外マトリックスの合成は、損傷した内皮層が修復されるまで継続し、その時点で、増殖は、通常損傷から7〜14日後、内膜内で遅延する。新たに形成された組織は、新生内膜と呼ばれる。次の3〜6ヶ月間にわたって生じる更なる血管の狭まりは、主に負のリモデリング又は狭窄リモデリングによるものである。
局所増殖及び遊走と同時に、炎症細胞が血管損傷の部位に付着する。損傷から3〜7日後には、炎症細胞が血管壁のより深い層に遊走している。バルーン損傷又はステント植え込みのいずれかを用いた動物モデルでは、炎症細胞は、血管損傷部位に少なくとも30日間存続し得る(Tanakaら,1993;Edelmanら,1998)。したがって、炎症細胞は存在し、再狭窄の急性期及び慢性期の両方に寄与し得る。
多数の薬剤が、再狭窄における推定抗増殖作用に関して試験されており、実験動物モデルにて幾分かの活性を示している。動物モデルにおいて、内膜過形成の程度の低減に成果を示している薬剤の一部としては:ヘパリン及びヘパリン断片(Clowes,A.W.及びKarnovsky M.,Nature 265:25〜26,1977;Guyton,J.R.ら,Circ.Res.,46:625〜634,1980;Clowes,A.W.及びClowes,M.M.,Lab.Invest.52:611〜616,1985;Clowes,A.W.及びClowes,M.M.,Circ.Res.58:839〜845,1986;Majeskyら,Circ.Res.61:296〜300,1987;Snowら,Am.J.Pathol.137:313〜330,1990;Okada,T.ら,Neurosurgery 25:92〜98,1989)、コルヒチン(Currier,J.W.ら,Circ.80:11〜66,1989)、タクソール(Sollot,S.J.ら,J.Clin.Invest.95:1869〜1876,1995)、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤(Powell,J.S.ら,Science,245:186〜188,1989)、アンギオペプチン(Lundergan,C.F.らAm.J.Cardiol.17(Suppl.B):132B〜136B,1991)、シクロスポリンA(Jonasson,L.ら,Proc.Natl.,Acad.Sci.,85:2303,1988)、ヤギ−アンチ−ウサギPDGF抗体(Ferns,G.A.A.,ら,Science 253:1129〜1132,1991)、テルビナフィン(Nemecek,G.M.ら,J.Pharmacol.Exp.Thera.248:1167〜1174,1989)、トラピジル(Liu,M.W.ら,Circ.81:1089〜1093,1990)、トラニラスト(Fukuyama,J.ら,Eur.J.Pharmacol.318:327〜332,1996)、インターフェロン−γ(Hansson,G.K.及びHolm,J.,Circ.84:1266〜1272,1991)、ラパマイシン(Marx,S.O.ら,Circ.Res.76:412〜417,1995)、ステロイド(Colburn,M.D.ら,J.Vasc.Surg.15:510〜518,1992)、更にまた、Berk,B.C.ら,J.Am.Coll.Cardiol.17:111B〜117B,1991も参照されたい)、電離放射線(Weinberger,J.ら,Int.J.Rad.Onc.Biol.Phys.36:767〜775,1996)、融合毒素(Farb,A.ら,Circ.Res.80:542〜550,1997)、オリゴヌクレオチド(Simons,M.ら,Nature 359:67〜70,1992)、及び遺伝子ベクター(Chang,M.W.ら,J.Clin.Invest.96:2260〜2268,1995)が挙げられる。ヘパリン及びヘパリンコンジュゲート、タキソール、トラニラスト、コルヒチン、ACE阻害剤、融合毒素、アンチセンスオリゴヌクレオチド、ラパマイシン並びに電離放射線を含むこれらの多数の薬剤に関して、平滑筋細胞に対するインビトロでの抗増殖作用が示されている。それ故、平滑筋細胞抑制の多様なメカニズムを備える薬剤は、内膜過形成の低減における治療的用途を有する可能性がある。
しかしながら、動物モデルとは対照的に、全身的な薬理学的手段によるヒト血管形成術患者の再狭窄予防の試みは、成功とは程遠いものとなっている。アスピリン−ジピリダモール、チクロピジン、抗血液凝固療法(急性ヘパリン、慢性ワルファリン、ヒルジン又はヒルログ)、トロンボキサン受容体拮抗作用及びステロイドのいずれも、再狭窄の予防に有効なものとなってはいないが、血小板阻害剤は血管形成術後の急性再閉塞の予防に有効なものとなっている(Mak及びTopol,1997;Langら,1991;Popmaら,1991)。血小板GP llb/llla受容体、拮抗薬、Reopro(登録商標)は尚、研究中であるが、Reopro(登録商標)は、血管形成術及びステント留置後の再狭窄の低減に関して決定的な結果を示していない。再狭窄の予防において不成功であった他の薬剤は、カルシウムチャネル拮抗薬、プロスタサイクリン模倣体、アンギオテンシン変換酵素阻害剤、セロトニン受容体拮抗薬及び抗増殖剤を含む。しかしながら、これらの薬剤は全身に提供される必要があり、治療的有効用量の達成が不可能であり得て、抗増殖(又は抗再狭窄)濃度がこれらの薬剤の公知の毒性濃度を超え、平滑筋抑制を生じるに十分なレベルに到達し得ない可能性がある。(Mak及びTopol,1997;Langら,1991;Popmaら,1991)。
食用魚油サプリメント又はコレステロール低下薬を使用して再狭窄予防の効果を試験した更なる臨床試験では、矛盾した又は負の結果を示したため、血管形成術後の再狭窄の予防に臨床的に利用可能な薬理学的薬剤は今尚存在しない。(Mak及びTopol,1997;Franklin及びFaxon,1993:Serruys,P.W.ら,1993)最近の観察により、抗脂肪/抗酸化剤、プロブコールが再狭窄の予防に有用であり得ることが示唆されているが、この研究は立証される必要である。(Tardifら,1997;Yokoi,ら,1997)プロブコールは現在、米国内での使用が承認されていず、30日間の前処置期間により、緊急血管形成術におけるその使用は不可能であると思われる。また、電離放射線の適用は、ステントによる血管形成術後の患者の再狭窄の低減又は予防に有意な展望を示している。(Teirsteinら,1997)しかしながら、米国食品医薬品局の承認を有する血管形成術後の再狭窄の予防のために使用される治療薬は現在全く存在しないため、再狭窄の最も有効な処置は、目下の所、反復血管形成術、粥腫切除術又は冠動脈バイパス移植である。
全身的な薬理学的療法とは異なり、ステントは、再狭窄の有意な低減に有用であることが証明されている。一般に、ステントはバルーン拡張型の孔のある金属管(通常、非限定的にステンレス鋼)であり、血管形成術が実行された冠動脈管腔内で拡張されると、動脈壁に対する剛性の足場作用により構造的支持を提供する。この支持は、血管管腔の開存性の維持に役立つ。2つの無作為化臨床試験では、ステントは最小の管腔直径を増大させ、6ヶ月後の再狭窄の発生率を、排除せずとも低減したことにより、経皮的冠動脈形成術後の血管造影成功率を向上させた(Serruysら,1994;Fischmanら,1994)。
また、ステントのヘパリン被覆は、ステント植え込み後の亜急性血栓症の低減を生じる付加的な利益を有すると思われる。(Serruysら,1996)このように、ステントによる狭窄した冠動脈の持続性の機械的拡張は、再狭窄予防にある程度の手段を提供することが示されており、ステントをヘパリンで被覆することは、損傷組織の部位に薬物を局所送達する実行可能性及び臨床的有用性の両方を示している。
上述したように、ヘパリン被覆ステントの使用は、局所薬物送達の実行可能性と臨床的有用性を示すが、特定の薬物又は薬物の組み合わせが局所送達デバイスに付着される形態は、この種類の処置の有効性にある役割を果たすであろう。例えば、局所送達デバイスに薬物/薬物の組み合わせを付着させるために使用されるプロセス及び材料は、薬物/薬物の組み合わせの作用を妨害するものであってはならない。また、使用されるプロセス及び材料は、生体適合性を有し、かつ薬物/薬物の組み合わせを、送達中に及び所定の時間にわたり、局所デバイス上に維持する必要がある。例えば、局所送達デバイスの送達中の薬物/薬物の組み合わせの除去により、デバイスが破損する可能性があり得る。
本発明の薬物/薬物の組み合わせ及び送達デバイスは、血管疾患、特に損傷により生じる血管疾患を有効に予防及び処置するために使用することができる。血管疾患の処置に使用されている様々な医療処置デバイスは、最終的には更なる合併症を誘導し得る。例えば、バルーン血管形成術は、動脈を通る血流を増大させるために使用される手順であり、冠動脈血管狭窄の優位な処置である。しかしながら、上述したように、この手順は一般に、血管壁に対してある程度の損傷をもたらすため、後の時点で問題を悪化させる可能性がある。他の手順及び疾病も同様の損傷をもたらし得るが、本発明の例示的な実施形態では、経皮的冠動脈形成術、並びに動脈、静脈及び他の流体輸送導管の連結を含む他の同様の動脈/静脈手順後の再狭窄及び関連した合併症の処置に関して記載する。また、被覆された医療デバイスを有効に送達するための様々な方法及びデバイスを記載する。
本発明の例示的な実施形態を、経皮的冠動脈形成術後の再狭窄及び関連した合併症の処置に関連付けて記載するが、薬物/薬物の組み合わせの局所送達は、任意の数の医療デバイスを使用する非常に様々な状態の処置、又はデバイスの機能及び/若しくは寿命の向上に使用し得ることに留意することが重要である。例えば、白内障の手術後に視力を回復するために留置される眼内レンズはしばしば後発白内障の形成によって機能が損なわれる。後発白内障はしばしばレンズ表面における細胞の異常増殖の結果起こり、薬物をデバイスと組み合わせることによって最小限にされる可能性がある。組織の内部成長やデバイスの内部、表面、及び周囲へのタンパク性物質の蓄積によってその機能がしばしば損なわれる、水頭症用のシャント、透析グラフト、人工肛門形成術用バッグ取り付け装置、耳のドレナージ管、ペースメーカーのリード、及び移植型除細動器といった他の医療デバイスもこうしたデバイス−薬物の複合的アプローチによって利するものである。組織又は臓器の構造及び機能を改善する機能を有するデバイスも、適当な薬剤又は薬物と組み合わせた場合にやはり効果を示す。例えば、移植されるデバイスの安定性を高める整形外科用デバイスの骨結合(osteointegration)は、デバイスを骨形成タンパク質等の薬剤と組み合わせることによって達成する可能性がある。同様に他の手術デバイス、縫合糸、ステープル、吻合装置、椎間板(vertebral disk)、骨ピン、縫合糸アンカー、止血バリア、クランプ、スクリュー、プレート、クリップ、血管インプラント、組織接着剤及びシーラント、組織スキャフォールド、各種ドレッシング、骨代用材、管腔内装置、及び血管支持具もこうした薬物−デバイスの複合的アプローチを用いることで患者にとって利するところが大きい。血管周囲ラップは単独又は他の医療デバイスと組み合わせても特に効果的である。血管周囲ラップは治療部位に更なる薬物を供給することが可能である。本質的に、任意の種類の医療デバイスを薬物又は薬物の組み合わせによって何らかの方法で被覆することが可能であり、これによりデバイス又は治療薬の単独の使用と比較して優れた治療効果が得られる。
様々な医療デバイスに加えて、これらのデバイス上の被膜を使用して送達することができる治療薬及び医薬品としては:ビンカアルカロイド(すなわち、ビンブラスチン、ビンクリスチン、及びビノレルビン)、パクリタキセル、エピジポドフィロトキシン(すなわち、エトポシド、テニポシド)、抗生物質(ダクチノマイシン(アクチノマイシンD)、ダウノルビシン、ドキソルビシン、及びイダルビシン)、アントラサイクリン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、プリカマイシン(ミトラマイシン)、及びマイトマイシン、酵素(L−アスパラギンを全身代謝し、自己のアスパラギンを合成する能力を有していない細胞を取り除くL−アスパラギナーゼ)等の、天然産物を含む抗増殖剤/抗有糸***剤;G(GP)llb/llla阻害剤及びビトロネクチン受容体拮抗薬のような抗血小板薬;ナイトロジェンマスタード(メクロレタミン、シクロホスファミド及び類似体、メルファラン、クロラムブシル)、エチレニミン、及びメチルメラミン(ヘキサメチルメラミン及びチオテパ)、アルキルスルホネート−ブスルファン、ニトロソ尿素(カルムスチン(BCNU)及び類似体、ストレプトゾシン)、トラゼン−ダカルバジン(DTIC)のような抗増殖/抗有糸***アルキル化剤;葉酸類似体(メトトレキサート)、ピリミジン類似体(フルオロウラシル、フロクスウリジン、及びシタラビン)、プリン類似体及び関連する阻害剤(メルカプトプリン、チオグアニン、ペントスタチン、及び2−クロロデオキシアデノシン{クラドリビン})のような抗増殖/抗有糸***性の代謝拮抗薬;プラチナ配位化合物(シスプラチン、カルボプラチン)、プロカルバジン、ヒドロキシ尿素、ミトタン、アミノグルテチイミド;ホルモン(すなわち、エストロゲン);抗凝固剤(ヘパリン、合成ヘパリン塩、及び他のトロンビン阻害剤);フィブリン溶解剤(組織プラスミノゲン活性剤、ストレプトキナーゼ、及びウロキナーゼ等)、アスピリン、ジピリダモール、チクロピジン、クロピドグレル、アブシキシマブ;抗遊走剤、抗分泌剤(ブレベルジン);抗炎症剤:例えば副腎皮質ステロイド(コルチゾール、コルチゾン、フルドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、6a−メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、及びデキサメタゾン)、非ステロイド剤(サリチル酸誘導体、すなわちアスピリン;パラ−アミノフェノール誘導体、すなわちアセトミノフェン;インドール及びインデン酢酸(インドメタシン、スリンダク、及びエトダラク)、ヘテロアリール酢酸(トルメチン、ジクロフェナク、及びケトロラク)、アリールプロピオン酸(イブプロフェン、及び誘導体)、アントラニル酸(メフェナム酸、及びメクロフェナム酸)、エノール酸(ピロキシカム、テノキシカム、フェニルブタゾン、及びオキシフェンタトラゾン)、ナブメトン、金化合物(オーラノフィン、オーロチオグルコース、金チオリンゴ酸ナトリウム);免疫抑制剤(シクロスポリン、タクロリムス(FK−506)、シロリムス(ラパマイシン)、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル);血管新生剤:血管内皮増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF);アンギオテンシン受容体遮断剤;一酸化窒素ドナー;アンチセンスオリゴヌクレオチド、及びそれらの組み合わせ;細胞周期阻害剤、mTOR阻害剤、及び増殖因子受容体シグナル伝達キナーゼ阻害剤;レテノイド;サイクリン/CDK阻害剤;HMG補酵素レダクターゼ阻害剤(スタチン);及びプロテアーゼ阻害剤が挙げられる。
本明細書で述べるように、バルーン血管形成術に伴う冠動脈ステントの植え込みは、急性血管閉鎖の処置に非常に有効であり、再狭窄の危険を低減し得る。血管内超音波試験(Mintzら,1996)は、冠動脈ステント留置が血管収縮を効果的に予防し、またステントの植え込み後の後期管腔損失の殆どが、おそらく新生内膜過形成に関連したプラーク増殖によるものであることを示唆している。冠動脈ステント留置後の後期管腔損失は、従来型バルーン血管形成術後に観察される損失のほぼ2倍高い。このように、ステントが再狭窄プロセスのうちの少なくとも一部を防止することから、平滑筋細胞増殖を防止し、炎症を低減し、また凝固を低減する薬物、薬剤又は化合物の組み合わせ、あるいは複数のメカニズムにより平滑筋細胞増殖を防止し、ステントと組み合わされて炎症を低減し、また凝固を低減する、薬物、薬剤又は化合物の組み合わせは、血管形成術後の再狭窄の最も効果的な処置を提供し得る。同一又は異なる薬物/薬物の組み合わせの局所送達と組み合わせた、薬物、薬剤又は化合物の全身使用も、有益な処置選択を提供し得る。
ステントからの薬物/薬物の組み合わせの局所送達は、以下の利点を有する。すなわち、ステントの足場作用を介した血管反跳及びリモデリングの予防、新生内膜過形成又は再狭窄の多数の構成成分の予防、並びに炎症及び血栓症の低減である。この薬物、薬剤又は化合物の、ステント留置された冠動脈への局所投与は、更なる治療的利益も有し得る。例えば、全身投与ではなく局所送達を用いると、薬物、薬剤又は化合物のより高い組織濃度が達成され得る。加えて、全身投与ではなく局所送達を用いると、より高い組織濃度を維持する一方、低減された全身毒性が達成され得る。また、全身投与ではなくステントからの局所送達を用いると、単一の手順により患者コンプライアンスをより満足し得る。組み合わせ薬物、薬剤及び/又は化合物療法の更なる利益は、治療的薬物、薬剤又は化合物のそれぞれの用量が低下されることにより、それらの毒性が制限される一方、尚、再狭窄、炎症及び血栓症の低下が達成されることであり得る。したがって、局所ステントベースの治療法は、抗再狭窄、抗炎症、抗血栓薬物、薬剤又は化合物の治療的な比(有効性/毒性)を改善する手段である。
経皮的冠動脈形成術後に使用し得る多数の異なるステントが存在する。本発明に従って任意の数のステントを使用することができるが、簡略化のため、本発明の例示的な実施形態では、限定数のステントを記載する。当業者には、任意の数のステントを本発明に関連して利用し得ることが理解されるであろう。加えて、上述したように、他の医療デバイスを使用することもできる。
ステントは通常、閉塞を解放するために、管の管腔内部に残された管状構造体として使用される。通常、ステントは非拡張形態で管腔内に挿入され、次いでその場で自律的に拡張されるか、又は第2のデバイスの補助により拡張される。典型的な拡張方法は、カテーテルに装着された血管形成術用バルーンを使用して行なわれ、このバルーンは狭窄した血管又は身体通路内で膨張されて、血管の壁構成成分に関連した閉塞を剪断及び破壊し、拡大した管腔を得る。
図1に、本発明の例示的な実施形態に従って使用し得る例示的なステント100を示す。拡張可能な円筒形のステント100は、血管、管又は管腔内に配置されて血管、管又は管腔の開放を保持するための、より詳細には動脈セグメントを血管形成術後の再狭窄から保護するための有窓の構造体を含む。ステント100は、周囲方向に拡張され、周囲方向又は径方向に剛性な拡張形態を維持し得る。ステント100は軸線方向に可撓性であり、バンドにて屈曲された場合、ステント100は、いずれの構成部品も外部に突出させない。
ステント100は一般に、第1の末端部及び第2の末端部と、その間の中間部分とを含む。ステント100は長手方向軸線を有し、長手方向に配置された複数のバンド102を含み、各バンド102は、長手方向軸線に平行な線セグメントに沿って概ね連続する波を画成している。周囲方向に配置された複数の結合部104は、バンド102を実質的に管状構造体に維持する。本質的に、長手方向に配置された各バンド102は、周囲方向に配置された短い結合部104により、隣接するバンド102に複数の周期的位置にて接続されている。各バンド102に関連した波は、中間部分においてほぼ同一の基本空間頻度を有し、バンド102は、バンドに関連した波が概ね整合されるように配置され、それにより波は互いに概ね同相である。図に示すように、長手方向に配置された各バンド102は、隣接するバンド102に対する結合部が存在する前に、ほぼ2周期を経て波状にうねる。
ステント100は、任意数の方法を用いて製作することができる。例えば、ステント100は、レーザー、放電フライス加工、化学的エッチング又は他の手段を用いて機械加工されてもよい中空又は形成されたステンレス鋼から製作することができる。ステント100は未拡張形態で身体内に挿入され、所望の部位に配置される。例示的な実施形態では、拡張はバルーンカテーテルにより血管内で達成されてもよく、ステント100の最終直径は、使用されるバルーンカテーテルの直径の関数である。
本発明によるステント100は、例えばニッケルとチタンとの適切な合金、又はステンレス鋼を含む形状記憶合金で具現化し得ることを理解されたい。ステンレス鋼から形成される構造体は、ステンレス鋼を所定の様式に構成することにより、例えば網目状に編むことにより自己拡張型に作製されてもよい。この実施形態では、ステント100の形成後、ステントは、適切なカテーテル又は可撓性の棒を含む挿入手段によって、血管又は他の組織へ挿入可能となるための十分に小さい空間を占めるように、圧縮することができる。カテーテルから出現した際、ステント100は所望の形態に拡張するよう構成されてもよく、拡張は自動的であるか、又は圧力、温度若しくは電気刺激の変化により誘発される。
図2に、図1に示したステント100を使用する、本発明の例示的な実施形態を示す。図示するように、ステント100は、1つ以上のリザーバ106を含むよう変更されてもよい。各リザーバ106は、所望により開放又は閉鎖されてもよい。これらのリザーバ106は、送達するべき薬物/薬物の組み合わせを保持するよう特に設計されていてもよい。ステント100の設計に関わらず、病変領域内に有効用量を提供するのに十分な特異性及び十分な濃度にて適用される薬物/薬物の組み合わせの用量を有することが好ましい。この点から、バンド102内のリザーバの寸法は、薬物/薬物の組み合わせの用量を所望の位置及び所望の量で十分に適用する寸法であることが好ましい。
代替的な例示的実施形態では、ステント100の内面及び外面全体が、治療的用量の薬物/薬物の組み合わせで被覆されてもよい。以下に、再狭窄の処置用の薬物及び例示的な被覆技術の詳細な説明を記載する。しかしながら、被覆技術は、薬物/薬物の組み合わせに応じて異なっていてもよいことを留意することが重要である。また、被覆技術は、ステント又は他の管腔内医療デバイスを構成する材料に応じて異なっていてもよい。
ラパマイシンは、米国特許第3,929,992号に開示されているように、Streptomyces hygroscopicusにより産生される大環状トリエン抗生物質である。とりわけラパマイシンは、インビボで血管平滑筋細胞の増殖を阻害することが見出されている。したがって、ラパマイシンは、特に生物学的若しくは機械的に仲介される血管損傷後の哺乳動物における内膜平滑筋細胞過形成、再狭窄及び血管閉塞の処置に使用され、又はそのような血管損傷により哺乳動物が苦しむであろう条件下で使用され得る。ラパマイシンは、平滑筋細胞増殖を阻害するよう機能し、血管壁の再内皮化を妨害しない。
ラパマイシンは、血管形成術により誘導された損傷の期間に放出される細胞増殖シグナルに応答した平滑筋増殖に拮抗することにより、血管過形成を低減する。細胞周期の後期G1期における増殖因子及びサイトカイン仲介による平滑筋増殖の阻害は、ラパマイシンの優勢な作用メカニズムであると思われる。しかしながら、ラパマイシンは、全身投与された際に、T細胞増殖及び分化を防止することも公知である。このことは、その免疫抑制活性及びその移植片拒絶を防止する能力の基礎である。
本明細書で使用する場合、ラパマイシンは、ラパマイシン、並びにFKBP12及び他のイムノフィリンに結合し、TOR阻害剤若しくはmTOR阻害剤を含むラパマイシンと同一の薬理学的性質を所有する全ての類似体、誘導体、及びコンジュゲートを含む。
ラパマイシンの抗増殖効果は、全身使用を介して達成され得るが、優れた結果は、化合物の局所送達を介して達成され得る。本質的に、ラパマイシンは、化合物に近接する組織内で作用し、送達デバイスからの距離が増大するにつれその効果が減少する。この効果の利点を利用するために、ラパマイシンを管腔壁と直接接触させることが望まれるであろう。したがって、好ましい実施形態では、ラパマイシンはステント又はステントの一部の表面上に組み込まれる。基本的に、ラパマイシンは、図1に示したステント100内に、ステント100が管腔壁と接触する箇所にて組み込まれることが好ましい。
ラパマイシンは、多数の方法でステント上に組み込まれ、又はステントに付着され得る。例示的な一実施形態において、ラパマイシンはポリマーマトリックス中に直接組み込まれ、ステントの外面上に噴霧される。ラパマイシンは時間と共にポリマーマトリックスから溶出し、周囲の組織に入り込む。ラパマイシンは、少なくとも3日間〜約6ヶ月間、より好ましくは7〜30日間、ステント上に残留することが好ましい。
ラパマイシンの被膜は、浸漬、噴霧若しくは回転被覆方法、及び/又はこれらの方法の任意の組み合わせにより、ステント上に適用され得る。様々なポリマーを使用することができる。例えば、ポリ(エチレン−コ−ビニルアセテート)及びポリブチルメタクリレートのブレンドを使用することができる。他のポリマー、例えばフッ化ポリビニリデン−コ−ヘキサフルオロプロピレン及びポリエチルブチルメタクリレート−コ−ヘキシルメタクリレートも使用することができるが、これらに限定されない。バリア又はトップコートを適用して、ポリマーマトリックスからのラパマイシンの溶解を調節してもよい。
上述したように、ステントは、様々な金属、ポリマー材料及びセラミック材料を含む任意数の材料から形成され得ることに留意することが重要である。したがって、様々な技術を使用して、様々な薬物、薬剤及び化合物の組み合わせをステント上に固定化し得る。詳細には、上述したポリマーマトリックスに加えて、バイオポリマーを使用してもよい。バイオポリマーは一般に天然ポリマーとして分類され得る一方、上述したポリマーは合成ポリマーとして記載され得る。使用し得る例示的なバイオポリマーは、アガロース、アルギネート、ゼラチン、コラーゲン及びエラスチンを含む。加えて、薬物、薬剤又は化合物は、例えば移植片及び多数のバルーン等、他の経皮送達医療デバイスと共に使用されてもよい。
新生内膜過形成の大きさ及び持続時間を低減するよう作用する、公知の抗増殖剤であるラパマイシンの作用を担う分子事象は、尚解明中である。しかしながら、ラパマイシンは細胞に入り込み、FKBP12と称される高親和性の細胞質タンパク質に結合することが公知である。ラパマイシンとFKPB12との複合体は、次に「ラパマイシンの哺乳動物標的(mammalian Target of Rapamycin)」又はTORと称されるホスホイノシチド(Pl)−3キナーゼに結合し、ホスホイノシチド(Pl)−3キナーゼを阻害する。TORは、平滑筋細胞及びTリンパ球内での、マイトジェン(mitogenic)増殖因子及びサイトカインに関連した下流シグナリング事象の仲介においてキーとなる役割を果たす、タンパク質キナーゼである。これらの事象には、p27のリン酸化、p70 s6キナーゼのリン酸化、及び、タンパク質翻訳の重要な制御因子である4BP−1のリン酸化が含まれる。
ラパマイシンが新生内膜過形成を抑制することにより再狭窄を低減することは認識されている。しかしながら、ラパマイシンが再狭窄の他の主な構成成分、すなわち負のリモデリングも抑制し得る証拠が存在する。リモデリングは、そのメカニズムが明白に理解されていないが、時間と共に、一般にヒトでほぼ3〜6ヶ月間の期間で外弾性板の収縮と、管腔面積の縮小とをもたらすプロセスである。
負のリモデリング又は狭窄血管リモデリングは、病変部位におけるパーセント直径狭窄として血管造影法により定量することができ、ここでプロセスを妨害するステントは存在しない。後期管腔損失が病変内で消滅した場合、負のリモデリングが抑制されていることを推測し得る。リモデリングの程度を決定する他の方法の一つは、血管内超音波(IVUS)を使用して、病変内外弾性板領域を測定することを含む。血管内超音波は、外弾性板と血管腔とを画像化することができる技術である。手順後の時点から4ヶ月及び12ヶ月の経過観察の、ステント近位及び遠位における外弾性板の変化は、リモデリング変化を反映する。
ラパマイシンがリモデリングに影響を及ぼす証拠は、ラパマイシン被覆ステントが非常に低い程度の病変内及びステント内再狭窄を示したヒトインプラント研究に由来する。病変内パラメータは、通常、ステントの両側の約5ミリメートル、すなわち近位及び遠位で測定される。ステントは、尚バルーン拡張の影響を受けるこれらのゾーン内のリモデリングを制御するよう存在しないため、ラパマイシンが血管リモデリングを予防することが推測され得る。
下記の表1のデータは、ラパマイシン処置グループにおいて、病変内パーセント直径狭窄が12ヶ月後でも低いままであることを示す。したがって、これらの結果は、ラパマイシンがリモデリングを低減するという仮説を支持する。
ラパマイシンによる負のリモデリングの低減を支持する更なる証拠は、下記の表2に示すファースト・イン・ヒューマン(first-in-man)臨床プログラムから得られた血管内超音波データに由来する。
データは、近位又は遠位で血管面積の最小損失が存在することを示し、このことはラパマイシン被覆ステントで処置した血管内で、負のリモデリングの抑制が生じたことを示す。
ステント自体を除けば、血管リモデリングの問題に対する有効な解決法は全く存在しなかった。したがって、ラパマイシンは、血管リモデリング現象を制御する生物学的アプローチを提示し得る。
ラパマイシンがいくつかの方法で作用して負のリモデリングを低減すると仮定することができる。ラパマイシンは、損傷に応答した血管壁内での線維芽細胞の増殖を特異的に遮断することにより、血管瘢痕組織の形成を低減し得る。ラパマイシンは、コラーゲン形成又は代謝に関与するキーとなるタンパク質の翻訳にも影響し得る。
好ましい実施形態において、ラパマイシンは、再狭窄を低減又は予防する手段として局所送達デバイスにより送達されて、バルーン血管形成術後の動脈セグメントの負のリモデリングを制御する。任意の送達デバイスを使用することができるが、送達デバイスは、ラパマイシンを溶出又は放出する被膜又はシースを含むステントを備えることが好ましい。それらのデバイスのための送達システムは、ラパマイシンを管理者により制御される速度で送達する局所注入カテーテルを備えてもよい。別の実施形態では、注射針を使用し得る。
またラパマイシンを経口剤形又は慢性注射デポー形態若しくはパッチを使用して全身に送達し、ラパマイシンを約7〜45日の範囲の期間送達して、負のリモデリングを抑制するのに十分な血管組織レベルを達成してもよい。そのような処置は、ステントを用いた又は用いない選択的血管形成術(elective angioplasty)に先だって数日間投与される場合、再狭窄を低減又は予防するよう使用されるべきである。
ブタ及びウサギモデルにて生成されたデータは、表3に示すように、ラパマイシンの耐食性ポリマーステント被膜から血管壁内への用量範囲(35〜430μg/15〜18mm冠動脈ステント)での放出が、新生内膜過形成のピーク50〜55パーセント低下を生じたことを示している。約28〜30日にて最大であるこの低下は、一般に、下記の表4に示すように、ブタモデルでは、90〜180日の範囲内では持続されない。
1ステント名称:EVA/BMA 1X、2X及び3Xは、それぞれ約500μg、1000μg、及び1500μgの全質量(ポリマー+薬物)を意味する。TC、トップコート30μg、100μg又は300μgの薬物フリーBMA;二相;100μgの薬物フリーBMA層により分離されたEVA/BMA中ラパマイシンの2×1X層。
2ステント植え込み前の充填用量0.5mg/kg/d×3dにより先行された0.25mg/kg/d×14d。
*p<0.05EVA/BMA対照から。
**p<0.05金属から;
#炎症スコア:(0=本質的に内膜関与なし;1=<25%内膜関与;2=≧25%内膜関与;3=>50%内膜関与与。
耐食性ポリマーステント被膜からのラパマイシンのヒト血管壁内への放出は、ステント内での新生内膜過形成の低減の大きさ及び持続時間に関して、上記に示した動物の血管壁と比較して優れた結果を提供する。
上述したものと同一のポリマーマトリックスを使用して、動物モデルで研究されたものと同一の用量範囲のラパマイシンを含むラパマイシン被覆ステントを植え込まれたヒトは、新生内膜の低減の大きさ及び持続時間に基づき、動物モデルで観察されたものと比較してかなり大きい新生内膜過形成の低減を示す。血管造影法及び血管内超音波測定の両方を使用した、ラパマイシンに対するヒト臨床応答は、本質的に、ステント内部での新生内膜過形成の全消滅を示す。これらの結果は、下記の表5に示すように、少なくとも1年持続される。
QCA=定量的冠動脈血管造影
SD=標準偏差
IVUS=血管内超音波
ラパマイシンは、ステントから送達された際、少なくとも1年持続するステント内新生内膜過形成の大きな低減をもたらすことにより、ヒト内で予想外の利益を生じる。ヒトでのこの利益の大きさ及び持続時間は、動物モデルデータから予想されない。この文脈において使用のラパマイシンは、ラパマイシン、並びにFKBP12に結合してラパマイシンと同一の薬理学的特性を有する全ての類似体、誘導体、及びコンジュゲートを含む。
これらの結果は、多数の要因によるものであり得る。例えば、ヒトでのラパマイシンのより高い効果は、血管形成術の動物モデルの病態生理学と比較してヒト血管病変の病態生理学に対するそのメカニズムの感受性が高いことによる。加えて、ステントに適用される用量と、薬物放出を制御するポリマー被膜との組み合わせが薬物の効果に重要である。
上述したように、ラパマイシンは、血管形成術損傷の期間に放出される細胞増殖シグナルに応答した平滑筋増殖に拮抗することにより、血管過形成を低減する。また、ラパマイシンは、全身投与された際に、T細胞の増殖及び分化を防止することが公知である。ラパマイシンは、持続された期間(約2〜6週間)、ステントから低用量で投与された際に、血管壁内で局所炎症効果を与えることも測定されている。局所抗炎症の利益は顕著であり、予想外である。平滑筋抗増殖効果と組み合わせて、このラパマイシンの二重の作用モードは、その並外れた有効性を担い得る。
したがって、局所デバイスプラットホームから送達されるラパマイシンが、抗炎症効果と平滑筋抗増殖効果との組み合わせにより、新生内膜過形成を低減する。局所デバイスプラットホームは、ステント被膜、ステントシース、移植片及び局所薬物注入カテーテル若しくは多孔質バルーン、又は薬物、薬剤若しくは化合物のその場での、若しくは局所送達のための任意の他の好適な手段を含む。
ラパマイシンの抗炎症効果は、ステントから送達されたラパマイシンを、ステントから送達されたデキサメタゾンと比較した、表6に示す実験からのデータにて明らかである。強力なステロイド性抗炎症剤であるデキサメタゾンを、参照基準として使用した。デキサメタゾンは炎症スコアを低下できるが、ラパマイシンは、炎症スコアの低下においてデキサメタゾンより遙かに効果的であった。加えて、ラパマイシンはデキサメタゾンとは異なり、新生内膜過形成を有意に低減する。
*=有意水準P<0.05
ラパマイシンは、ステントから送達された際に、血管組織内のサイトカインレベルを低減することも見出されている。図1のデータは、ラパマイシンが単球走化性タンパク質の低減に高い効果を有することを示す。血管壁内の(MCP−1)レベルMCP−1は、血管損傷中に生産される炎症性/走化性サイトカインの一例である。MCP−1の低下は、炎症性メディエータの発現の低減と、ステントから局所的に送達されるラパマイシンの抗炎症効果に対する寄与とにおけるラパマイシンの有益な効果を示す。損傷に応答した血管炎症は、新生内膜過形成の発達に対する主要な寄与因子であることが認識されている。
ラパマイシンは、局所炎症事象を阻害することが示され得るため、このことが新生内膜阻害におけるラパマイシンの予想外の優位性を説明し得ると思われる。
上記に示したように、ラパマイシンは、T細胞増殖の防止、負のリモデリングの阻害、炎症の低減及び平滑筋細胞増殖の防止等の所望の効果を生成するよう多数の水準にて機能する。これらの機能の正確なメカニズムは完全には分かっていないが、確認されたメカニズムを発展させることができる。
ラパマイシンを使用した研究は、細胞周期の遮断による平滑筋細胞増殖の防止が、新生内膜過形成の低減に有効な戦略であることを示唆している。後期管腔損失及び新生内膜プラーク容積の劇的かつ持続的な低下が、ステントから局所的に送達されるラパマイシンを受容している患者に観察されている。本発明は、ラパマイシンのメカニズムを、毒性を生成することなく細胞周期を阻害し、新生内膜過形成を低減する追加のアプローチを含むように発展させる。
細胞周期は、細胞複製のプロセスを調整する、厳重に制御された生化学的な事象カスケードである。細胞が適切な増殖因子により刺激されると、細胞は細胞周期のG0(静止状態)からG1期へ移動する。DNA複製(S期)に先だったG1期における細胞周期の選択的阻害は、細胞周期の後期に、すなわちS期、G2期又はM期に作用する治療薬(therapeutics)と比較した場合、抗増殖効果を保持すると共に細胞を保存及び生存させる治療的利点を提供することができる。
したがって、血管及び身体内の他の導血管内での内膜過形成の予防は、細胞周期のG1期に選択的に作用する細胞周期阻害剤を使用して達成することができる。これらの細胞周期のG1期の阻害剤は、小分子、ペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド又はDNA配列であってもよい。より詳細には、これらの薬物又は薬剤は、G1期を通した細胞周期の進行に関与したサイクリン依存性キナーゼ(cdk)、特にcdk2及びcdk4の阻害剤を含む。
細胞周期のG1期に選択的に作用する薬物、薬剤又は化合物の例は、フラボピリドール及びその構造的類似体等の小分子を含み、これらの小分子は、サイクリン依存性キナーゼの拮抗作用により後期G1期における細胞周期を阻害することが見出されている。サイクリン依存性キナーゼを選択的に阻害する、時折P27kip1として参照され、P27と呼ばれる内在性キナーゼ阻害タンパク質kipを上昇させる治療薬を使用することができる。この治療薬は、遺伝子をトランスフェクトしてP27を生成し得る遺伝子ベクターを含む、P27の分解を遮断し又はP27の細胞生産を向上させる小分子、ペプチド及びタンパク質を含む。タンパク質キナーゼの阻害により細胞周期を遮断するスタウロスポリン及び関連した小分子を使用することができる。タンパク質キナーゼを選択的に阻害して、PDGF及びFGF等の広い範囲の増殖因子に応答した平滑筋内のシグナル伝達に拮抗する、チルホスチンのクラスを含むタンパク質キナーゼ阻害剤も使用することができる。
上述した任意の薬物、薬剤又は化合物は、全身に、例えば経口、静脈内、筋内、皮下、経鼻若しくは皮内投与され、又は例えばステント被膜、ステント覆い若しくは局所送達カテーテルにより局所投与され得る。加えて、上述した薬物又は薬剤は、3日間〜8週間の範囲の期間、薬物又は薬剤の標的組織との接触を維持する目的で、急速放出又は遅延放出用に処方されてもよい。
上述したように、ラパマイシンとFKPB12との複合体は「ラパマイシンの哺乳動物標的」又はTORと称されるホスホイノシチド(PI)−3キナーゼに結合し、ホスホイノシチド(PI)−3キナーゼを阻害する。活性部位阻害剤、又はアロステリックモジュレータ、すなわちアロステリックに調節する間接的な阻害剤のいずれかとして機能する、TORの触媒活性の拮抗薬は、ラパマイシンの作用を模倣するが、FKBP12に関する要求を迂回するであろう。TORの直接阻害剤の潜在的な利点は、より良好な組織浸透と、より良好な物理的/化学的安定性とを含む。また、他の潜在的な利点は、異なる組織内に存在し得るTORの多数のイソ型の1つに対する拮抗薬の特異性と、薬物のより高い効果及び/又は安全性をもたらす、下流効果の潜在的に異なる範囲とに起因する、作用のより高い選択性及び特異性を含む。
阻害剤は、合成又は天然由来の生成物のいずれかである小有機分子(概算mw<1000)であってもよい。Wortmaninは、このクラスのタンパク質の機能を阻害する薬剤であり得る。阻害剤は、ペプチド又はオリゴヌクレオチド配列でもあり得る。阻害剤は、全身に(経口、静脈内、筋内、皮下、経鼻、若しくは皮内)又は局所的に(ステント被膜、ステント覆い、局所薬物送達カテーテル)投与されてもよい。例えば、阻害剤は、耐食性ポリマーステント被膜からヒトの血管壁内へ放出されてもよい。加えて、阻害剤は、3日間〜8週間の範囲の期間、ラパマイシン又は他の薬物、薬剤若しくは化合物の標的組織との接触を維持する目的で、急速放出又は遅延放出用に処方されてもよい。
前述したように、バルーン血管形成術に伴う冠動脈ステントの植え込みは、急性血管閉鎖の処置に非常に有効であり、再狭窄の危険を低減し得る。血管内超音波試験(Mintzら,1996)は、冠動脈ステント留置が血管収縮を効果的に予防し、またステントの植え込み後の後期管腔損失の殆どが、おそらく新生内膜過形成に関連したプラーク増殖によるものであることを示唆している。冠動脈ステント留置後の後期管腔損失は、従来型バルーン血管形成術後に観察される損失のほぼ2倍高い。このように、ステントが再狭窄プロセスのうちの少なくとも一部を防止することから、炎症及び増殖を予防する、又は多数のメカニズムにより増殖を防止する、薬物、薬剤又は化合物の使用は、ステントと組み合わせて血管形成術後の再狭窄に最も効果的な処置を提供することができる。
更に、ステント等のラパマイシン溶出血管デバイスを受容しているインスリン補充糖尿病患者は、その患者の正常な又は非インスリン補充糖尿病相対者よりも高い再狭窄の発生率を示し得る。したがって、薬物の組み合わせは有益であり得る。
ステントからの薬物、薬剤又は化合物の局所送達は、以下の利点を有する。すなわち、ステント及び薬物、薬剤又は化合物の足場作用を介した血管反跳及びリモデリングの予防、並びに新生内膜過形成の多数の構成成分の予防である。この薬物、薬剤又は化合物の、ステント留置された冠動脈への局所投与は、更なる治療的利益も有し得る。例えば、全身投与にて生じるであろう組織濃度よりも高い組織濃度、全身毒性の低減、並びに単一処置及び投与の容易さが達成できるであろう。薬物療法の更なる利益は、狭窄の低減を達成する一方で治療的化合物の用量が低下し、それによりそれらの毒性が制限されることであり得る。
更に別の代替的な例示的実施形態では、ラパマイシンはシロスタゾールと組み合わせて使用され得る。シロスタゾール{6[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)−ブトキシ]−3,4−ジヒドロ−2−(1H)−キノリノン}は、タイプIII(環状GMP阻害)ホスホジエステラーゼの阻害剤であり、抗血小板及び血管拡張特性を有する。シロスタゾールは、元は、環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ3の選択的阻害剤として開発された。血小板及び血管平滑筋細胞内のホスホジエステラーゼ3の阻害は、抗血小板効果及び血管拡張を提供することが期待された。しかしながら、最近の前臨床試験では、シロスタゾールが様々な細胞によるアデノシン取り込みを阻害する能力も有することが証明されており、この性質はシロスタゾールをミルリノン等の他のホスホジエステラーゼ3阻害剤から区別している。したがって、シロスタゾールは、多数の新規な作用メカニズムに基づく独特な抗血栓及び血管拡張特性を有することが示されている。タイプIIIホスホジエステラーゼのクラスの阻害剤における、他の薬物としては、ミルリノン、ベスナリノン、エノキシモン、ピモベンダン、及びメリベンダンが挙げられる。
研究により、ステント植え込み後の再狭窄を低減するシロスタゾールの有効性も示されている。例えば、Matsutani M.,Ueda H.ら:「Effect of cilostazol in preventing restenosis after percutaneous transluminal coronary angioplastyy)、Am.J.Cardiol Cardiol 1997,79:1097〜1099、Kunishima T.,Musha H.,Eto F.ら:A randomized trial of aspirin versus cilostazol therapy after successful coronary stent implantation,Clin Thor 1997,19:1058〜1066、及びTsuchikane E.,Fukuhara A.,Kobayashi T.ら:Impact of cilostazol on restenosis after percutaneous coronary balloon angioplasty,Circulation 1999,100:21〜26を参照されたい。
本発明に従って、シロスタゾールを、医療デバイス又は医療デバイス被膜からの持続放出用に構成し、医療デバイスの表面上の血小板沈着及び血栓形成の低減を助けてもよい。本明細書に記載するように、そのような医療デバイスは、例えば心血管、末梢及び頭蓋内ステント等の、血液と定常的に接触する任意の短期及び長期インプラントを含む。所望により、シロスタゾールは、ラパマイシン又は他の強力な抗再狭窄剤と組み合わせて適切なポリマー被膜又はマトリックス中に組み込まれてもよい。
このシロスタゾールの組み込み、並びにその後の医療デバイス又は医療デバイス被膜からの持続放出は、好ましくは医療デバイス表面上の血小板沈着及び血栓形成を低減するであろう。上記に記載したように、シロスタゾールは、その血管拡張作用に一部起因して、抗再狭窄効果も有することを示す前臨床及び臨床的証拠が存在する。したがって、シロスタゾールは薬物溶出ステント等の血液接触デバイスのうちの少なくとも2つの局面に有効である。したがって、シロスタゾールと、シロリムス、その類似体、誘導体、同類物及びコンジュゲート、又はパクリトキセル(paclitoxel)、その類似体、誘導体、同類物及びコンジュゲート等のラパマイシンを含む他の強力な抗再狭窄剤の1種との組み合わせは、心血管疾患の局所処置、並びに医療デバイスの表面上の血小板沈着及び血栓形成の低減に使用することができる。ステントに関して記載したが、この例示的な実施形態に関して記載した薬物の組み合わせは、そのいくつかが本明細書に記載されている任意数の医療デバイスに関連して使用し得ることに留意することが重要である。
図3に、ステント上のシロスタゾールとラパマイシンとの組み合わせの第1の例示的な形態を示す。この例示的な実施形態では、ステントは、Cordis Corporationから入手可能なBx Velocity(登録商標)ステントである。この特定の形態において、ステント7500は、3つの層で被覆されている。第1の層、すなわち内側層7502は、内側層7502の総重量の45重量パーセントと等価である180(μg)マイクログラムのシロリムスと、内側層7502の総重量の55重量パーセントと等価であるポリエチレン−コ−ビニルアセテート及びポリブチルメタクリレート、EVA/BMAからなるコポリマーマトリックスとを含む。第2の層、すなわち外側層7504は、外側層7504の総重量の45重量パーセントと等価である100(μg)マイクログラムのシロスタゾールと、外側層7504の総重量の55重量パーセントと等価であるEVA/BMAからなるコポリマーマトリックスとを含む。第3の層、すなわち拡散オーバーコート7506は、200(μg)マイクログラムのBMAを含む。含有量回復の範囲は、シロリムスに関して公称薬物含有量の85パーセント、シロスタゾールに関して公称薬物含有量の98パーセントであった。シロスタゾールとシロリムスの両方に関するインビトロでの放出動力学を図4に示し、次により詳細に記載する。
図5に、ステント上のシロスタゾールとラパマイシンとの組み合わせの第2の例示的な形態を示す。上述したように、ステントは、Cordis Corporationから入手可能なBx Velocity(登録商標)ステントである。この例示的な実施形態において、ステント7700は、3つの層で被覆されている。第1の層、すなわち内側層7702は、内側層7702の総重量の45重量パーセントと等価である180(μg)マイクログラムのシロリムスと、内側層7702の総重量の55重量パーセントと等価であるEVA/BMAからなるコポリマーマトリックスとを含む。第2の層、すなわち外側層7704は、外側層7704の総重量の45パーセントと等価である100(μg)マイクログラムのシロスタゾールと、外側層7704の重量の55重量パーセントと等価であるEVA/BMAからなるコポリマーマトリックスとを含む。第三の層、すなわち拡散オーバーコート7706は、100(μg)マイクログラムのBMAを含む。再度、含有量回収の範囲は、シロリムスに関して公称薬物含有量の85パーセント、シロスタゾールに関して公称薬物含有量の98パーセントであった。シロスタゾール及びシロリムスの両方に関するインビトロでの放出動力学を図6に示し、続いて、より詳細に記載する。
図4と図6との比較から容易に理解し得るように、シロリムスとシロスタゾールの両方の薬物放出速度は、より厚いBMA、すなわち100マイクログラムではなく200マイクログラムの拡散オーバーコートを含む形態にて比較的遅い。したがって、本明細書により完全に記載するように、拡散オーバーコートの選択的使用により、両方の薬物に関する薬物溶出速度の追加の制御を達成することができる。拡散オーバーコートの選択的な使用は、厚さ、及び化学的不適合を含む他の特徴を含む。
図7に、ステント上のシロスタゾールとラパマイシンとの組み合わせの第3の例示的な形態を示す。この形態は、図3の形態と同一の構造体であるが、シロスタゾールの量が、50(μg)マイクログラムに低下されている。以前の例示的な実施形態と同様、ステント7900と、3つの追加の層7902、層7904及び層7906が存在する。しかしながら、重量の百分率は同一のままである。
図8に、上述した3つの形態の抗血栓効果を示す。図8は、インビトロでのウシ血液ループモデルでの上述したシロリムス/シロスタゾールの組み合わせ被膜の抗血栓特性を示す。インビトロでのウシ血液ループモデルでは、新鮮なウシ血液にヘパリンが添加されて急性凝固時間(ACT)が約200秒に調整される。血液中の血小板含有量を、インジウム111の使用により標識する。この研究では、血液循環の閉ループシステムの一部であるシリコーン管内にステントを留置する。循環ポンプを用いて、ヘパリン添加血液を閉ループシステムを通して循環させる。時間と共にステント表面上に凝血及び血栓が蓄積し、ステント留置ループを通した血液の流量が低下する。流量は、開始値の50パーセント迄低下した時に、又は試験ステントのいずれも流量を50パーセント低下させない場合には、90分で停止される。ステント表面上の総放射能(111内)をβカウンターにより計数し、チャート内で100パーセントに設定した対照ユニットにより正規化する。より小さい数は、表面の血栓形成がより低いことを示す。全3種のシロリムス/シロスタゾール二薬被膜群は、ステント表面上の血小板沈着と血栓形成とを、追加のシロスタゾール化合物なしで、対照薬物溶出ステントと比較して90パーセントを超えて低減した。棒グラフ8002は、100パーセントに正規化された対照薬物溶出ステントを表す。対照薬物溶出ステントは、Cordis Corporationから入手可能なCypher(登録商標)シロリムス溶出冠動脈ステントである。棒グラフ8004は、ヘパリンで被覆されたステントであり、Cordis Corporationから、Bx Velocity(登録商標)冠動脈ステント商標上のHEPACOAT(登録商標)で入手可能である。棒グラフ8006は、図3に示す構造に関連して示されるよう構成されたステントである。棒グラフ8008は、図5に示す構造に関連して示されるよう構成されたステントである。棒グラフ8010は、図7に示す構造に関連して示されるよう構成されたステントである。図8から容易に理解し得るように、シロスタゾールは血栓形成を有意に低減する。
シロスタゾールで被覆されたデバイスの血栓抵抗性の能力に関する他の臨床パラメータは、被膜からの薬物放出の持続時間である。これは、デバイス植え込みから2週間後に特に有意である。二薬溶出被膜のブタ薬物溶出PK研究において、シロスタゾール及びシロリムスの両方が被膜から遅延放出され、持続性の薬物放出プロファイルが得られた。ブタPK研究の目的は、所定の植え込み時間における薬物溶出ステントの局所薬物動態の評価である。通常、ブタの3つの異なる冠動脈内に、所定の時点で3つのステントが植え込まれ、その後薬物回収分析のために回収される。ステントは、所定の時点で、すなわち1、3及び8日目に回収される。ステントが抽出され、ステント上に残留する総薬物量は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて総薬物量に関して分析することにより決定される。ステント上の元の薬物量と、所定の時間に回収された薬物量との間の差異は、その期間に放出された薬物量を表す。周囲の動脈組織内への薬物の連続放出は、冠動脈内の新生内膜増殖と再狭窄を防止するものである。正規プロットは、全薬物放出の百分率(%、y軸)対植え込みの時間(日、x軸)を表す。図9に示すように、植え込みから8日後、2種の薬物の約80パーセント(80%)が薬物被膜中に残留していた。更に、それぞれのlogP値及び水溶性が比較的大きい差を有するにも関わらず、両方の薬物は同様の速度で放出されていた。曲線8102はシロスタゾールを表し、曲線8104はシロリムスを表す。それらのそれぞれのインビトロでの放出プロファイルを、図10に示す。インビボでの放出プロファイルと同様、正方形で表すシロリムスと菱形で表すシロスタゾールとの両方が比較的ゆっくりと放出され、両方の薬物から約35パーセントのみ放出された。図9及び図10は、それぞれ、図11の形態に従って被覆されたステントからのインビボ及びインビトロでの放出速度を表し、ここでシロリムス及びシロスタゾールは2つの別個の層ではなく、単一の層である。この例示的な形態において、ステント8300は、2つの層で被覆されている。第1の層8302は、シロリムス、シロスタゾールの組み合わせ及びEVA/BMAからなるコポリマーマトリックスを含む。第2の層、すなわち拡散オーバーコート8304は、BMAのみを含む。より詳細には、この実施形態において、第1の層8302は、第1の層8302の総重量の45重量パーセントを占めるシロリムスとシロスタゾールとの組み合わせと、第1の層8302の総重量の55パーセントを占めるEVA/BMAコポリマーマトリックスとを含む。拡散オーバーコートは、100(μg)マイクログラムのBMAを含む。
図12及び図13は、それぞれ、図3の形態に従って被覆されたステントからのインビボ及びインビトロでの放出速度を表す。層状の二薬溶出被膜は、図12と図9との比較から容易に理解し得るように、同一のブタPKモデルにおいて、二薬ベースの被膜と比較してより速い放出速度を有した。図12にて、曲線8402はシロスタゾールを表し、曲線8404はシロリムスを表す。しかしながら、両方の薬物の放出の百分率は、各時点で類似している。それぞれのインビトロでの放出速度プロファイルを図12に示し、ここで菱形はシロスタゾールを表し、正方形はシロリムスを表す。二薬ベースの被膜と比較して、両方の薬物は遙かに速い速度で放出され、インビボでのPK研究に示された速い放出プロファイルを反映している。したがって、単一層中の薬物の組み合わせにより、より高い程度の溶出速度の制御がもたらされる。
シロリムス等のラパマイシンとシロスタゾールとの組み合わせは、上述したように、いずれかの薬物単独と比較して、平滑筋細胞増殖及び遊走の低減においてより有効であり得る。加えて、本明細書に示すように、組み合わせ被膜からのシロスタゾールの放出は持続様式で制御されて、ステント表面又は他の血液接触医療デバイスの表面上の延長された抗血小板沈着及び血栓形成を達成することができる。組み合わせ被膜中のシロスタゾールは、シロリムスと共に単一の層で、又はシロリムス含有層の外部の別個の層中に組み込まれてもよい。その比較的低い水溶性により、シロスタゾールは、ステント又は他の医療デバイスの留置後、身体内で被膜中に比較的長時間維持される可能性がある。内側層中のシロリムスと比較して遅いインビトロでの溶出は、そのような可能性を示唆する。シロスタゾールは、安定で、通常の有機溶媒に可溶であり、本明細書に記載する様々な被膜技術と類似する。シロリムス及びシロスタゾールの両方が、非吸収性ポリマーマトリックス又は吸収性マトリックス中に組み込めることに留意することも重要である。
図14は、拡張可能な医療デバイスによる組織への送達のための、有益な薬剤を収容する複数の孔を有する、拡張可能な医療デバイスの代替的な実施例を示す。図14に示す拡張可能な医療デバイス9900は、材料の管から切られて、円筒形の拡張可能なデバイスが形成される。拡張可能な医療デバイス9900は、複数の架橋要素9904により相互接続された複数の円筒部分9902を含む。架橋要素9904は、脈管の曲がりくねった経路を留置部位まで通過する際に、組織支持デバイスが軸方向に屈曲することを可能にし、また支持される管腔の屈曲に一致する必要がある場合、デバイスが軸方向に屈曲することを可能にする。各円筒管9902は、延性ヒンジ9910と周囲方向ストラット9912とにより相互接続された細長ストラット9908のネットワークにより形成される。医療デバイス9900の拡張中、延性ヒンジ9910は変形するが、ストラット9908は変形されない。拡張可能な医療デバイスの一例の詳細は、米国特許第6,241,762号に記載され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
図14に示すように、細長ストラット9908及び周囲方向ストラット9912は開口部9914を含み、開口部の数個は、拡張可能な医療デバイスが内部に植え込まれた管腔に送達するための、有益な薬剤を収容する。更に、図18に関連して下記に説明するように、架橋要素9904等の、デバイス9900の他の部分が、開口部を含んでもよい。好ましくは、開口部9914は、ストラット9908等の、デバイス9900の非変形部分に提供され、それ故、デバイスの拡張中に開口部が変形されず、有益な薬剤は破砕、排出、又は別様に損傷される危険性なしで送達される。有益な薬剤を開口部9914内に充填することができる方法の一例に関する更なる説明は、2001年9月7日に出願された米国特許出願第09/948,987号に記載され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
図示した本発明の代表的な実施形態は、有限要素解析、及び他の技術によって更に洗練し、開口部9914内の有益な薬剤の留置を最適化してもよい。基本的に、開口部9914の形状及び位置は、空隙の容積を最大にすると共に、延性ヒンジ9910に対する、ストラットの比較的高い強度及び剛性を保持するように変更してもよい。本発明の好ましい例示的な一実施形態によれば、開口部は、少なくとも3.2E−5cm2(5×10−6平方インチ)、好ましくは少なくとも4.5E−5cm2(7×10−6平方インチ)の面積を有する。一般に、開口部は、約50%〜約95%だけ有益な薬剤で充填される。
本明細書に記載の、本発明の様々な例示的な実施形態は、拡張可能なデバイス内の異なる開口部内に、異なる有益な薬剤を提供するか、又は一部の開口部内に有益な薬剤を提供して、他には提供しないかである。別の実施形態では、有益な薬剤又は治療薬の組み合わせは、単一の開口部内で使用されてもよい。拡張可能な医療デバイスの特定の構造は、本発明の趣旨から逸脱することなく、変えることができる。それぞれの開口部は独立して充填されるので、それぞれの開口部における有益な薬剤に、別々の化学組成及び薬物動力学特性を与えることができる。
拡張可能な医療デバイス内の異なる開口部内に、異なる有益な薬剤を使用すること、又は一部の開口部内に有益な薬剤を使用し、他には使用しないことの一例は、エッジ効果による再狭窄への対処にある。本明細書で説明するように、現行の被覆ステントは、エッジ効果による再狭窄の問題、すなわち、ステントのエッジを丁度超えた箇所で生じ、ステントの周囲及び管腔空間内に進行する再狭窄の問題を有し得る。
第一世代の薬物送達ステントにおけるエッジ効果による再狭窄の原因は、現在のところよく分かっていない。血管形成術及び/又はステント植え込みによる組織損傷領域が、パクリタキセル及びラパマイシン等の現世代の有益な薬剤の拡散範囲を超えて拡大し、これが組織内で強く仕切る傾向を有するためであり得る。同様の現象は放射線治療でも観察されており、ステントのエッジにおける放射線量が低いことにより、損傷がある場合に刺激を与えることが判明している。このような場合、損傷のない組織が照射されるまで、より長期間にわたって放射線を照射することにより問題は解決する。薬物送達ステントの場合、ステントのエッジに沿ってより多量の、若しくはより高濃度の有益な薬剤を配置すること、ステントのエッジに組織の中をより拡散しやすい異なる薬剤を配置すること、又はデバイスのエッジに異なる有益な薬剤若しくは異なる組み合わせの有益な薬剤を配置することが、エッジ効果による再狭窄の問題の改善に役立ち得る。
図14に、エッジ効果による再狭窄を処置及び低減するために「ホットエンド」を備える、すなわち有益な薬剤がデバイスの末端部の開口部9914a内に提供された、拡張可能な医療デバイス9900を示す。デバイスの中心部分内の、残余の開口部9914bは、空(図示するように)であっても、又はより低い濃度の有益な薬剤を含んでいてもよい。
エッジ効果による再狭窄の他のメカニズムは、特定の薬物又は薬物の組み合わせの細胞毒性に関するものであり得る。このようなメカニズムは、上皮瘢痕組織形成で見られるのと同様の組織の物理的な又は機械的な収縮を含んでもよく、ステントはそれ自体の境界内では収縮反応を防ぎ得るが、ステントのエッジより先では防ぐことはできない場合がある。更に、再狭窄の後者の形態のメカニズムは、薬物自体がもはや壁部に存在しなくなった後であっても発生する、大動脈壁への持続的又は局所的な薬物送達の後遺症に関連している場合がある。すなわち、再狭窄は、薬物及び/又は薬物担体に関連した有害な損傷の形態に対する反応であり得る。このような状況では、特定の薬剤をデバイスのエッジから排除することが有益であり得る。
図15は、デバイスの中心部分内の開口部10230bが有益な薬剤で充填され、デバイスのエッジの開口部10230aが空のままである、複数の開口部10230を有する拡張可能な医療デバイス10200の別の例示的な実施形態を示す。図15のデバイスは、「クールエンド」を有すると称される。
エッジ効果による再狭窄の低減における使用に加えて、図15の拡張可能な医療デバイス10200は、最初のステント留置の手順が追加のステントを用いて補足される必要がある場合、図14の拡張可能な医療デバイス9900又は別の薬物送達ステントと共に使用することができる。例えば、場合によっては、「ホットエンド」を備える図14のデバイス9900、又は均一な薬物分配を備えるデバイスは、不適切に植え込まれ得る。デバイスが管腔の十分な部分を被覆していないとの結論を医師が下した場合、補足デバイスを既存のデバイスの一端に付け加え、その既存のデバイスに若干重ね合わせることができる。補足デバイスが植え込まれる際、図15のデバイス10200は、医療デバイス10200の「クールエンド」がデバイス9900及びデバイス10200の重なる部分に有益な薬剤が二重に投与されることを防止するように使用される。
図16に、拡張可能な医療デバイス11300の異なる孔内に異なる有益な薬剤が配置された、本発明の更なる代替的な例示的実施形態を示す。第1の有益な薬剤はデバイス末端部の孔11330a内に提供され、第2の有益な薬剤はデバイス中心部分の孔11330b内に提供されている。有益な薬剤は、異なる薬物を含んでもよく、同一の薬物を異なる濃度で含んでもよく、又は同一の薬物の異なるバリエーションを含んでもよい。図16の例示的な実施形態を用いて、「ホットエンド」又は「クールエンド」のいずれかを備える拡張可能な医療デバイス11300を提供することができる。
好ましくは、第1の有益な薬剤を含む孔11330aを有するデバイス11300の各末端部は、エッジから少なくとも1つの孔、最大約15個の孔まで延びる。この距離は、未拡張デバイスのエッジから約0.127〜約2.54mm(約0.005〜約0.1インチ)に対応する。第1の有益な薬剤を含むデバイス11300のエッジからの距離は、好ましくは約一部分であり、ここで一部分は架橋要素間で画定される。
異なる薬物を含む異なる有益な薬剤を、ステントの異なる開口部に配置することもできる。これは、1つのステントから2種以上の有益な薬剤を任意の所望の送達パターンで送達することを可能にする。あるいは、同一の薬物を異なる濃度で含む異なる有益な薬剤を、異なる開口部に配置することもできる。これは、均一ではないデバイスの構造を備える組織に薬物を均一に分配することを可能にする。
本明細書に記載されるデバイスに入れる2種以上の異なる有益な薬剤は、(1)異なる薬物、(2)異なる濃度の同一の薬物、(3)放出動力学が異なる、すなわち、マトリクス侵食速度が異なる同一の薬物又は(4)同一薬物の異なる形態を含んでもよい。異なる放出動力学を備える同一の薬物を含む、異なる有益な薬剤の例は、異なる形状の溶出プロファイルを達成するための、異なる担体を使用し得る。同一薬物の異なる形態のいくつかの例としては、様々な親水性又は親油性を有する薬物の形態を含む。
図16のデバイス11300の一例において、デバイス末端部の孔11330aは、高い親油性を備える薬物を含有する第1の有益な薬剤で充填される一方、デバイス中心部分の孔11330bは、より低い親油性を有する薬物を含む第2の有益な薬剤で充填される。「ホットエンド」における、親油性の高い第1の有益な薬剤は、周囲の組織の中に、より容易に拡散し、エッジ効果による再狭窄を抑制する。
デバイス11300は、有益な薬剤が第1の薬剤から第2の薬剤へ変化する突然移行ラインを有していてもよい。例えば、デバイスの末端部から1.27mm(0.05インチ)内にある全ての開口部が第1の薬剤を含み、残りの開口部が第2の薬剤を含んでもよい。あるいは、このデバイスでは、第1の薬剤と第2の薬剤との間が徐々に移行してもよい。例えば、開口部に入っている薬物の濃度が、デバイスの末端部に向かって次第に増加(又は減少)してもよい。別の例において、デバイスの末端部の方へ移るに従い、開口部の第1の薬物の量が増加し、開口部の第2の薬物の量が減少する。
図17に、拡張可能な医療デバイス12400の更なる別の例示的な実施形態を示し、ここで異なる有益な薬剤は、デバイス内の異なる開口部12430a、12430b内に交互又は散在様式で配置されている。この方法において、複数の有益な薬剤を、デバイスで支持している領域の全体又は一部の組織に送達することができる。この例示的な実施形態は、デバイスに充填するために複数の薬剤を組み合わせて1つの組成物にすることが、その有益な薬剤間の相互作用又は安定性の問題から不可能である場合に、複数の有益な薬剤を送達するのに有用であろう。
組織における異なる規定領域での、異なる薬物濃度を達成するために、異なる開口部内に異なる有益な薬剤を用いることに加えて、異なる開口部内に異なる有益な薬剤を充填することは、拡張可能な医療デバイスが、拡張した形態で不均一な開口部分布を有する場合に、送達する有益な薬剤の、更により均一な空間分布を提供するために用いることもできる。
異なる薬物を、散在するように、又は交互になるように、異なる開口部内に使用することにより、同一のポリマー/薬物マトリックス組成物内で組み合わせた場合には送達することができない2種の異なる薬物を送達することが可能となる。例えば、薬物自体が望ましくない方法で相互に作用することがある。あるいは、2種の薬物は、マトリックスを形成するために同一のポリマーと適合可能ではないことがあり、又はポリマー/薬物マトリックスを開口部内へ送達するために同一の溶媒と適合可能ではないことがある。
更に、散在配置で異なる開口部内に異なる薬物を有する図17の例示的な実施形態は、異なる薬物を同一の医療デバイス又はステントから極めて異なる所望の放出動力学で送達する能力と、個々の薬剤のメカニズム及び性質に応じて放出動力学を最適化する能力とを提供する。例えば、薬剤の水溶解度は、ポリマー又は他のマトリックスからの薬剤の放出に大きく影響する。高度に水溶性の化合物は、一般に、ポリマーマトリックスから非常に速く送達されるが、親油性の薬剤は、同じマトリックスからより時間をかけて送達される。よって、親水性の薬剤及び親油性の薬剤を1つの医療デバイスから2種の薬物の組み合わせとして送達しようとする場合、同一のポリマーマトリックスから送達されたこれらの2種の薬剤について、所望の放出プロファイルを達成することは困難である。
図17のシステムにより、同一のステントから親水性薬物及び親油性薬物を容易に送達することができる。更に、図17のシステムにより、2種の薬剤を2つの異なる放出動力学及び/又は投与期間にて送達することができる。最初の24時間の初期放出、最初の24時間の後の放出速度、総投与期間及びその2種の薬物の他のあらゆる放出特性のそれぞれを、別個に制御することができる。例えば、第1の有益な薬剤の放出速度は、送達される薬物の少なくとも40%(好ましくは少なくとも50%)が最初の24時間で送達されるように準備することができ、第2の有益な薬剤は、送達される薬物の20%未満(好ましくは10%未満)が最初の24時間で送達されるように準備することができる。第1の有益な薬剤の投与期間は、約3週間以内(好ましくは2週間以内)であってもよく、第2の有益な薬剤の投与期間は、約4週間以上であってもよい。
再狭窄又は介入後の閉塞の再発は、生物過程の組み合わせ又は一連の生物過程を伴う。これらのプロセスには、血小板及びマクロファージの活性化が含まれる。サイトカイン及び増殖因子は、平滑筋細胞増殖に寄与し、遺伝子及びメタロプロテイナーゼの上方制御は、細胞増殖、再妨害マトリックスのリモデリング及び平滑筋細胞遊走を誘導する。薬物を組み合わせることによって、これらのプロセスのうちの複数のものに対処する薬物治療が、最も成功する抗再狭窄治療であろう。本発明は、そのような成功する組み合わせの薬物療法を達成する手段を提供する。
以下に検討する例は、異なる孔又は開口部に入っている異なる薬物を放出できることから利益を得る組み合わせの薬物システムのいくつかを説明する。散在する又は交互の孔から2種の薬物を送達する有益なシステムの一例は、抗炎症剤又は免疫抑制剤を、抗増殖剤若しくは抗遊走剤と組み合わせて送達することである。また、これらの薬剤の他の組み合わせは、再狭窄に伴う複数の生物過程を標的とするために用いることもできる。抗炎症剤は、血管形成術及びステント留置に対する血管の初期炎症反応を緩和し、炎症反応を刺激するマクロファージの発達のピークに合わせて、最初は速い速度で送達され、その後、約2週間の期間にわたりゆっくりと送達される。抗増殖剤は、平滑筋細胞の移動及び増殖を抑制するために、比較的一様な速度で長い期間にわたって送達される。
以下に示す実施例に加えて、以下の表、表7.0は、医療デバイス内の異なる開口部に薬物を配置することにより達成し得る、有用な二薬組み合わせ療法のいくつかを示す。
薬物を異なる開口部に配置することにより、その薬物が疎水性であるか疎油性であるかに関わらず、放出動力学をその特定の薬剤に合わせることができる。親油性の薬物を実質的に一定の又は線形の放出速度で送達するためのいくつかの配置例が、2004年12月23日に公開された国際公開第04/110302号に記載され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。親水性薬物を送達するためのいくつかの配置例が、2004年5月27日に公開された国際公開第04/043510号に記載され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。上記に列挙した親水性薬物としては、CdA、グリベック、VIP、インスリン及びアポリポタンパク質A−I(ApoA-1)ミラノがある。上記に列挙した親油性薬物としては、パクリタキセル、エポシロンD、ラパマイシン、ピメクロリムス、PKC−412及びデキサメタゾンがある。ファルグリタザルは、部分的に親油性であり、部分的に親水性である。
再狭窄に伴う異なる生物過程に対応するために複数の薬物を送達することに加え、本発明は、異なる疾患を治療するために、同一のステントから異なる2種の薬物を送達することができる。例えば、1つのステントで、パクリタキセル又はリムス薬(limus drug)等の抗増殖剤を一組の開口部から再狭窄を治療するために送達しつつ、インスリン等の心筋保護薬(myocardial preservative drug)を他の開口部から送達して急性心筋梗塞を治療してもよい。
公知の拡張可能なデバイスの多数において、また図18に示したデバイスに関して、デバイス13500の適用範囲は、デバイスの円筒形の管部分13512が架橋要素13514と比較して大きい。適用範囲は、デバイス表面積の、デバイスが配備される管腔の面積に対する比として定義される。可変の適用範囲を有するデバイスが、デバイス内の開口部内に収容された有益な薬剤の送達に使用される場合、円筒形の管部分13512に隣接した組織に送達される有益な薬剤の濃度は、架橋要素13514に隣接した組織に送達される有益な薬剤よりも高い。有益な薬剤の不均等な送達濃度に繋がるこのデバイス構造の長手方向の偏差及びデバイス適用範囲内の他の偏差に対処するために、有益な薬剤の濃度を、デバイスの一部分の開口部において異ならせ、組織全体に対する有益な薬剤の均等な分配を達成し得る。図18に示す例示的な実施形態の場合、管部分13512内の開口部13530aは、架橋要素13514内の開口部13530bよりも低い薬物濃度を有する有益な薬剤を収容する。薬剤送達の均一性は、薬物濃度、開口部の直径又は形状、開口部内の薬剤の量(すなわち、開口部の充填(filed)の百分率)、マトリックス材料、又は薬物の形態を変更することを含む様々な方法で達成することができる。
異なる開口部内に異なる有益な薬剤を使用する他の適用の例は、血管内の分岐に使用するよう構成された図19に示す拡張可能な医療デバイス14600にある。分岐デバイスは側部孔14610を含み、この側部孔は、血管の側枝を通して血液を流すように配置されている。分岐デバイスの一例は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,293,967号に記載されている。分岐デバイス14600は、デバイスのその他の部分を形成するビームの規則的なパターンを中断する側部孔の特徴14610を含む。分岐の周囲の領域は、再狭窄に関して特に問題のある領域であるため、抗増殖薬物の濃度は、デバイス14600の側部孔14610を囲む領域における開口部14630a内で増大されて、必要な場所に、増大した濃度の薬物を送達することができる。側部孔から離れた範囲内の残りの開口部14630bは、より低い濃度の抗増殖剤を有する有益な薬物を収容する。分岐孔を囲む領域に送達されるより多くの抗増殖剤は、異なる薬物を含有する異なる有益な薬剤によって提供されてもよく、又はより高濃度の同じ薬物を含有する異なる有益な薬剤によって提供されてもよい。
血管壁を処置するために、異なる有益な薬剤を、拡張可能な医療デバイスの壁面又は反管腔側へ送達することに加え、有益な薬剤は、血栓症を予防又は低減させるために、拡張可能な医療デバイスの管腔側へ送達してもよい。有益な薬剤は、血栓症を予防又は低減させるために、拡張可能な医療デバイスの管腔側へ送達してもよい。
異なる有益な薬剤を拡張可能な医療デバイスの異なる開口部の中に充填する方法としては、浸漬及び被覆等公知の手法を含んでよく、更には、公知の圧電式マイクロ噴出法(piezoelectric micro-jetting technique)を含んでもよい。マイクロインジェクション装置(micro-injection devices)は、的確な量の2種以上の液状の有益な薬剤を拡張可能な医療デバイスの的確な位置に送達するように、公知の方法でコンピュータ制御されてもよい。例えば、二薬噴出装置(dual agent jetting device)は、2種の薬剤を同時に又は順に開口部の中に送達することができる。有益な薬剤を、拡張可能な医療デバイスの貫通開口部の中に充填する場合は、充填する間、その貫通開口部の管腔側を、弾性のマンドレルで塞ぐことにより、有益な薬剤を、溶媒を用いる等、液状の形態で送達することが可能になり得る。有益な薬剤は、手動注入デバイスによっても充填することができる。
図20に、ステント内の異なる孔から送達される抗炎症剤及び抗増殖剤を有して、再狭窄の生物過程に一致するよう特にプログラムされた2種の薬物の独立した放出動力学を提供する二薬ステント15700を示す。この実施例によれば、二薬ステントは、第2の組の開口部15720内の抗増殖剤であるパクリタキセルと組み合わせて、第1の組の開口部15710内の抗炎症剤であるピメクロリムスを含む。各薬剤は、ステントの孔内のマトリックス材料中に、図21に示す放出動力学をもたらすよう構成された特定のインレー配置で提供される。各薬物は、再狭窄の処置のために、主として壁面から送達される。
図20に示すように、ピメクロリムスは、孔の管腔側にバリア15712を用いることにより、ステントの壁面側に定方向送達されるようステント内に提供されている。バリア15712は、生分解性ポリマーにより形成されている。ピメクロリムスは、二相を有する放出動力学をもたらすように孔の中に充填される。ピメクロリムス放出の第1の相は、マトリックスの壁面に位置する領域15716により提供され、この領域は急速放出製剤を含み、製剤は、ピメクロリムスと生分解性ポリマー(PLGA)とを含み、ここで薬物は高い百分率を有し、例えば約10%のポリマーに対して約90%の薬物を含む。放出の第2の相は、ピメクロリムスと生分解性ポリマー(PLGA)が、50%のポリマーに対して約50%の薬物の比を有するマトリックスの中心領域15714により提供される。図21のグラフから明らかであり得るように、ピメクロリムス放出の第1の相は、ほぼ最初の24時間にて約50%の充填された薬物を送達する。放出の第2の相は、残りの50%を約2週間にわたって送達する。この放出は、特に血管形成術及びステント術後の炎症過程の進行に適合するようにプログラムされる。2つの相の放出を達成するために、2つの領域の間の薬物濃度を変化させることに加えて、又はその代替として、薬物の異なる2つの領域に、異なるポリマー、又は同一ポリマーの異なるコモノマー率を使用して、2つの異なる放出速度を達成してもよい。
パクリタキセルは、図21に示すように、最初の約24時間後に実質的に線形放出を有する放出動力学を形成するよう、開口部15720内に充填される。パクリタキセル開口部15720は3つの領域で充填され、これらの領域は、孔の管腔側の最小限の薬物を含む主にポリマーからなる基部領域15722、濃度勾配にて提供されるパクリタキセル及びポリマー(PLGA)を有する中心領域15724、並びにパクリタキセル放出を制御する主にポリマーを有するキャップ領域15726を含む。パクリタキセルは、第1日目に全薬物充填の約5〜約15%の初期放出、その後約20〜90日間、実質的に線状に放出される。濃度勾配を用いた孔の中のパクリタキセルの配置の更なる実施例が、上記国際公開第04/110302号に記載されている。
図20に、説明を容易にするために、開口部内の区別される領域として薬物、バリア、及びキャップ領域を示す。これらの領域は明瞭ではなく、異なる区域の混合により形成されていることを理解されたい。よって、バリア層は主として薬物を含まないポリマーであるが、利用される製造プロセスにより、次の領域のいくらかの少量の薬物がバリア領域の中に組み込まれる場合がある。
送達される薬物の量は、ステントのサイズによって異なる。3mm×6mmのステントに関して、ピメクロリムスの量は約50〜約3マイクログラム、好ましくは約100〜約250マイクログラムである。このステントから送達されるパクリタキセルの量は、約5〜約50マイクログラム、好ましくは約10〜約30マイクログラムである。一実施例において、約200マイクログラムのピメクロリムス及び約20マイクログラムのパクリタキセルが送達される。薬物は、ステント内の交互の孔内に配置されてもよい。しかしながら、2つの薬物間で送達される用量に大きな差異があることを考慮すると、パクリタキセルをステントの4つの孔の3つ目ごとに定置することが望ましくあり得る。あるいは、低用量の薬物(パクリタキセル)を送達するための孔は、高用量用の孔よりも小さく形成されてもよい。
ポリマー/薬物インレーは、2004年4月1日に公開された国際公開第04/026182号に記載されるコンピュータ制御の圧電式注入法によって形成され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。まず第1の薬剤のインレーが形成され、その後圧電式注入器を使用して第2の薬剤のインレーを形成する。あるいは、国際公開第04/02182号のシステムに二重圧電ディスペンサーを搭載して、2種の薬剤を同時に分配してもよい。
この例示的な実施形態によれば、二薬ステントは、第2の組の開口部15720内の抗増殖剤であるパクリタキセルと組み合わせて、第1の組の開口部15710内のグリベックを含む。各薬剤は、ステントの孔内のマトリックス材料中に、図21に示す放出動力学をもたらすよう構成された特定のインレー配置で提供される。
グリベックは、第1日目の初期高放出及びその後の1〜2週間の持続放出を含む二相放出で送達される。グリベック放出の第1の相は、最初の約24時間に充填される薬物の約50%を送達する。放出の第2の相は、残りの50%を約1〜2週間にわたって送達する。パクリタキセルは、図21に示し、また上述したように、最初の約24時間後に実質的に線形放出を有する放出動力学を形成するよう、開口部15720内に充填される。
送達される薬物の量は、ステントのサイズによって異なる。3mm×6mmのステントに対して、グリベックの量は約200〜約500マイクログラム、好ましくは約300〜約400マイクログラムである。このステントから送達されるパクリタキセルの量は、約5〜約50マイクログラム、好ましくは約10〜約30マイクログラムである。上述した例示的な実施形態と同様、薬物は、ステント内の交互孔内に配置され、又は非交互に散在されてもよい。ポリマー/薬物インレーは、上述した方法により形成される。
この例示的な実施形態によれば、二薬ステントは、第2の組の開口部内の抗増殖剤であるパクリタキセルと組み合わせて、第1の組の開口部内のPKC−412(細胞増殖制御因子)を含む。それぞれの薬剤は、以下に論じられる放出動力学を達成するように設計される特定のインレー配置で、ステントの孔内にマトリックス材料中で供給される。
PKC−412は、最初の約24時間後、約4〜16週、好ましくは約6〜12週の期間にわたり、実質的に一定した放出速度で送達される。パクリタキセルは、最初の約24時間後、約4〜16週、好ましくは約6〜12週の期間にわたって放出し、実質的に線状の放出を有する放出動力学をもたらすように、開口部内に充填される。
送達される薬物の量は、ステントのサイズによって異なる。3mm×6mmのステントに対して、PKC−412の量は約100〜約400マイクログラム、好ましくは約150〜約250マイクログラムである。このステントから送達されるパクリタキセルの量は、約5〜約50マイクログラム、好ましくは約10〜約30マイクログラムである。上述した例示的な実施形態と同様、薬物は、ステント内の交互孔内に配置され、又は非交互に散在されてもよい。ポリマー/薬物インレーは、上述した方法により形成される。
本明細書に記載されるいくつかの薬剤は、薬剤の活性を保存する添加剤と組み合わされてもよい。例えば、界面活性剤、制酸剤、抗酸化剤及び洗浄剤を含む添加剤は、タンパク質薬物の変性及び凝集を最小限にするために用いることができる。アニオン性、カチオン性又は非イオン性界面活性剤を使用してもよい。非イオン性賦形剤の例としては、ソルビトール、ショ糖、トレハロースを含む糖;デキストラン、カルボキシメチル(CM)デキストラン、ジエチルアミノエチル(DEAE)デキストランを含むデキストラン類;D−グルコサミン酸及びD−グルコースジエチルメルカプタール(diethylmercaptal)を含む糖誘導体;ポリエチレングリコール(PEO)及びポリビニルピロリドン(PVP)を含む合成ポリエーテル;D−乳酸、グリコール酸及びプロピオン酸を含むカルボン酸;N−ドデシル−β−D−マルトシド、N−オクチル−β−D−グルコシド、PEO−脂肪酸エステル(例えば、ステアリン酸エステル(myrj 59)又はオレイン酸エステル)、PEO−ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、Tween 80、PEO−20モノオレイン酸ソルビタン)、ソルビタン−脂肪酸エステル(例えば、SPAN 60、ソルビタンモノステアリン酸エステル)、PEO−グリセリン脂肪酸エステルを含む、疎水性界面に親和性を持つ界面活性剤;グリセリン脂肪酸エステル(例えば、モノステアリン酸グリセリン)、PEO−炭化水素エーテル(例えば、PEO−10オレイルエーテル);triton X−100;並びにLubrolが挙げられるが、これらに限定されない。イオン性洗浄剤の例としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸亜鉛を含む脂肪酸塩;レシチン及びフォスファチジルコリンを含むリン脂質;(PC)CM−PEG;コール酸;ドデシル硫酸ナトリウム(SDS);ドクサート(AOT);並びにタウロコール酸が挙げられるが、これらに限定されない。
別の例示的な実施形態によれば、本明細書に記載されるようなステント又は管腔内スキャフォールドは、孔又は開口部に堆積した1種以上の治療薬に加え、抗血栓剤で被覆されてもよい。例示的な一実施形態において、ステントを、内部に開口部を有するように製作し、開口部の中に他の治療薬を加える又は堆積させる前に、担体媒体物(carrier vehicle)(ポリマー又はポリマーマトリックス)と共に又は担体媒体物なしで、抗血栓剤をステント又はステントの一部に付着させてもよい。この例示的な実施形態において、開口部の壁部の表面だけでなく、ステントの管腔側及び反管腔側表面が、抗血栓剤又は抗血栓被膜で被覆され得る。代替の例示的な実施形態において、ステントは、最初に抗血栓剤又は抗血栓被膜で被覆され、その後、開口部を製作してもよい。この例示的な実施形態において、管腔側及び反管腔側表面のみに抗血栓剤又は抗血栓被膜を有し、開口部の壁部には有さない。これらの実施形態のそれぞれにおいて、任意の数の抗血栓剤をステントの全体又は一部に付着させることができる。更に、公知の手法をいくつでも利用して、Cordis Corporation製のBx Velocity(登録商標)冠状動脈用ステント上のHEPACOAT(商標)で利用されたようなステントに、抗血栓剤を付着させてもよい。あるいは、ステントは、抗血栓剤被膜とは独立して又はそれに加えて、細胞接着及び内皮化を高めるために、粗い表面性状で製造されてもよく、又は微細構造を有してもよい。更に、任意の数の治療薬を、開口部の中に堆積させてもよく、異なる薬剤は、ステントの異なる領域で利用してもよい。
図22A、図22B、及び図22Cを参照すると、ステントの一部分の図表が示されている。
図22Aに示すように、ステント17900は、実質的に円形の複数の開口部17902を含む。この例示的な実施形態では、実質的に円形の複数の開口部17902は、ステント17900の壁を貫通して延びる。換言すれば、実質的に円形の複数の開口部17902は、ステント17904の反管腔側表面からステント17906の反管腔側表面へ延び、ここで壁厚は、管腔側表面と、反管腔側表面との間の距離として定義される。しかしながら別の実施形態では、開口部は、ステント17900の壁を貫通して延びる必要はない。例えば、開口部又はリザーバは、管腔側表面又は反管腔側表面のいずれか、又は両方から部分的に延びていてよい。図22Aのステント17900は、未処理の表面17904、表面17906及び空の開口部17902を有する。
図22Bでは、少なくとも1つの表面が、治療薬17908で被覆されている。治療薬は、好ましくは例えばヘパリン等の抗血栓剤を含む。しかしながら、任意の抗血栓剤を使用することができる。抗血栓剤は、簡単に前述したように、任意の手法を利用して付着させることができる。この例示的な実施形態において、反管腔側表面及び管腔側の表面の両方は、そこに付着した抗血栓剤がある。加えて、この時点では実質的に円形の複数の開口部17902内に何も存在しないため、開口部17902の壁は、そこに付着された幾分かの抗血栓剤を有し得る。開口部17910の壁に付着される抗血栓剤の量は、薬物の付着方法に依存する。例えば、薬剤を浸漬被覆によって付着させる場合、開口部の壁部は、薬剤を噴霧被覆を利用して付着させる場合よりもそこに付着した多くの薬剤があるであろう。本明細書に記載されるように、この例示的な実施形態において、露出している全ての表面には、そこに付着した相当量の抗血栓剤被膜があるが、別の例示的な実施形態において、特定の表面のみ、そこに付着した抗血栓剤があってもよい。例えば、例示的な一実施形態において、血液と接触する表面だけが抗血栓剤で処理されていてもよい。更に別の例示的な代替的な実施形態において、開口部の壁部は被覆されていないが、一方又は両方の表面は、抗血栓剤で被覆されてもよい。このことは、被覆の前に開口部に栓をすること、又は抗血栓剤を付着させた後に開口部を形成することを含む、多くの方法で行うことができる。
図22Cに、この例示的な実施形態による完成したステントを示す。この図に示すように、実質的に円形の複数の開口部17902は、再狭窄及び炎症等の血管疾患、又は本明細書に記載される任意の他の疾病(diseases)を処置するための1種以上の治療薬で充填されている。各開口部17902は、上記に詳細に説明したように、同一の治療薬又は異なる薬剤で充填され得る。図に示すように、これらの異なる薬剤17912、17914及び17916は特定のパターンで使用されるが、上記に詳細したように、任意の組み合わせが可能であり、1種の薬剤を異なる濃度で使用することも可能である。ラパマイシン等の薬物は、任意の好適な方法で開口部17902内に堆積され得る。薬剤を堆積させる手法としては、マイクロピペット法(micro-pippetting method)及び/又はインクジェット式充填法(ink-jet filling method)がある。例示的な一実施形態において、薬物の充填は、開口部内の薬物及び/又は、薬物/ポリマーマトリックスがステント表面の高さより低くなり、周囲組織と接触しないように行なわれ得る。あるいは、開口部は、薬物及び/又は薬物/ポリマーマトリックスが周囲組織と接触できるように充填されてもよい。更に、薬物のそれぞれの全用量は、複数の薬物を利用する場合、最大限の柔軟性を考慮して設計されてもよい。更に、それぞれの薬物の放出速度は個別に制御されてもよい。例えば、末端部近傍の開口部は、エッジ再狭窄を治療するために、より多くの薬物が入っていてもよい。
この例示的な実施形態によれば、孔又は開口部は、最も効果的な薬物治療のためだけではなく、異なる薬物間の物理的分離をもたらすためにも構成することができる。このように物理的分離は、薬剤が互いに作用するのを防止するのに役立つことができる。
別の例示的な実施形態によれば、立体特異的なポリマーの層対層配置を含むポリマー構成物は、医療デバイスと共に使用される薬物又は治療薬デポー剤担体又は被膜として使用されてもよい。本明細書で使用される医療デバイスは、局所又は領域薬物送達のための本明細書に記載される任意のデバイスを意味する。本質的に、このポリマー構成物は、本明細書に記載される任意の治療薬又は治療薬の組み合わせ、本明細書に記載される任意の薬物送達デバイス、及び本明細書に記載される任意の植え込み可能な医療デバイスと共に使用されることができる。加えて、上記に暗示したように、ポリマー構成物は、植え込み可能な医療デバイスの表面の一部又は全てを被覆するための被膜として、又は植え込み可能な医療デバイス内の充填リザーバ用の担体として使用されてもよい。ポリマー構成物は、以下に詳細に記載するように、任意数の形態をとることができる。
例示的な一実施形態において、構成物は、異なる旋光度を有する、化学的に同一の生分解性ポリマーの交互層から形成される。この例示的な実施形態では、生分解性ポリマーは、ポリ(D−乳酸)(PDLA)及びポリ(L−乳酸)(PLLA)である。ポリ(D−乳酸)は、開環重合(ROP)プロセス中にキラル配置を維持する触媒を使用して、立体特異的なRR−ラクチド二量体から合成される。逆に、ポリ(L−乳酸)は、ROPプロセスを用いてSS−ラクチド二量体から合成される。ROP条件は、関連技術の当業者でもある当業者に公知である。互いにごく接近したこれらの交互層は、局所及び領域的な薬物及び/又は治療薬送達に関連して優れた結果を提供する立体複合体(sterocomplex)を形成する。換言すれば、様々な物理的性質を有する2種の立体特異的なポリマーの同一の化学的性質は、治療薬の幅広い安定性と放出制御とを可能にする。加えて、これらの立体複合生分解性ポリマーの流動学的性質における変化はこれらの材料の密度をより高くし、非立体複合ポリマーと等しいか又はより良好な結果を達成する一方で、厚さがより薄い被膜と、潜在的により小さい分子量のポリマーとの使用がもたらされる。より薄いこれらの被膜は、好ましくは被膜の長期間の生体適合性を改善し、再吸収時間を短縮させる筈である。本質的に、層状のポリ(D−乳酸)とポリ(L−乳酸)とは立体複合体をその場で形成し、この立体複合体は、より少量の薬物担体マトリックスにより治療薬放出の薬物動態(pharmakinetics)をより良好に制御する。
ポリマー−ポリマー複合体は、異なる化学組成を有するポリマーを、好適な条件下で混合して形成することができる。これらの複合体は、ポリカチオンとポリアニオンとの間のポリ電解質複合体、ポリ(カルボン酸)とポリエーテル又はポリオールとの間の水素結合複合体、及びポリマードナーとアクセプターとの間の電荷移動複合体を含む。しかしながら、同一の組成を有するが異なる立体構造体を有するポリマー間で複合体の形成が生じ得る、限定された場合のみ公知である。そのような想定された最初の複合体は、Ikada,Y.,ら,Sterocomplex formation Between Enantiomeric poly(lactides),Marcomolecter,1987,20,904〜906,1987により、ポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)との間で観察された。D,L−ラクチドから形成されるポリマーは無定形であり、光学不活性である一方、L−ラクチドとD−ラクチドとから形成されるポリマーは部分結晶性であり、光学活性であることが公知である。L−ラクチドポリマーは、D−ラクチドベースのポリマーよりも結晶性が高く、より疎水性であり得るため、結果として分解がより遅い。Ikadaの研究は、等モルのポリ(L−乳酸)及びポリ(D−乳酸)が混合された場合、ポリマーブレンドは、約180℃である個々の融点のいずれよりも高い230℃の単一の融点を有することも示した。図23Aに示すように、SS−ラクチドから形成されたポリ(L−ラクチド)の結晶構造体は、左回転の螺旋鎖からなり、図23Bに示すように、RR−ラクチドから形成されたポリ(D−ラクチド)の結晶構造体は、右回転の螺旋結晶構造体を有する。図23Cに、重合した場合、無定形のラセミ体ポリマーをもたらすメソ−ラクチドを示す。
Ikadaらにより為された観察は、これらのラクチド二量体が、図24にポリ(L−ラクチド)及び図25にポリ(D−ラクチド)を示すように、立体特異的なポリラクチドの合成に使用された場合に有意な意味を有し得る。これは、ポリ(D−乳酸)とポリ(L−乳酸)との間で形成される立体複合体が、比較的少量の担体又はより薄い被膜、あるいは場合によっては、より低い分子量であることによって、薬物溶出に対する制御を提供する上でより効果的であり得るという、本明細書に記載される理由による。ポリ(D−乳酸)とポリ(L−乳酸)との間で形成される立体複合体は、結果として得られるそのより高い融点によって、物理的安定性がより高くなる可能性があり、また立体複合体中に含まれる治療薬又は薬剤の貯蔵も良好になる可能性がある。加えて、立体複合体に使用されるポリ(D−乳酸)及びポリ(L−乳酸)のより低い分子量は、より高い分子量の個々のポリマーと比較して、より短い再吸収時間とより良好な生体適合性とをもたらす可能性がある。
そのようなポリ(D−乳酸)とポリ(L−乳酸)との立体複合体の利点を利用した例示的なプロセスは、立体特異的かつ光学的に純粋なポリ乳酸の1つを、治療薬又は薬剤の組み合わせと混合し、噴霧被覆等の通常の被覆方法を使用して医療デバイスのうちの少なくとも一部の表面に被覆することを含む。本明細書に記載したような任意の種類の被膜技術を使用することができる。次の工程は、反対の旋光度を有する別の立体特異的かつ光学的に純粋なポリ乳酸を、治療薬又は薬剤の組み合わせと混合し、場合によっては、以前の層が尚「湿潤」している間に、以前の層の頂部に被覆することを含む。反対の立体特異性を有するこれらのポリマーは、その場で結合して立体複合体を形成し、治療薬又は治療薬の組み合わせを局所又は領域薬物送達のために定位置に保持するであろう。上述したプロセスは、治療薬又は治療薬の組み合わせの適切なレベルが達成される迄、任意の回数だけ反復されてもよい。2種の光学活性ポリマーのいずれか又はその組み合わせからなる頂部層又は被膜は、被膜からの治療薬又は薬剤の組み合わせの放出速度を更に調節するよう適用されてもよい。
このプロセスは、本明細書に記載した任意の医療デバイスの表面のうちの少なくとも一部又は複数の表面に、本明細書に記載した任意の治療薬又はその組み合わせを使用し、また本明細書に記載した任意の被覆技術を使用して適用されてもよい。加えて、上述したプロセスは、治療薬を用いて又は用いずに使用することができる。
代替的な例示的実施形態では、治療薬は、ポリマー層と混合されず、各層がデバイス上に被覆された後に加えられてもよい。
更に別の代替的な例示的実施形態では、上述した光学的に純粋なポリラクチド及び/又は治療薬の組み合わせを混合し、医療デバイス内の置場、例えばウェル内に堆積して、層対層の治療薬案内形態を達成してもよい。
図26A、図26B及び図26Cを参照すると、所望により間に治療薬又は薬剤が挟まれる、ポリ(D−乳酸)とポリ(L−乳酸)との交互の層対層を用いた、例示的な被膜又は堆積スキームが示される。詳細には、図26Aに、表面に層対層の立体複合被膜を有する医療デバイスの部分11102が示される。この例示的な実施形態では、1つ以上の第1の治療薬11104をポリ(D−乳酸)11106と混合し、医療デバイスの部分11102の表面に付着させる。ポリ(L−乳酸)11108を含む第2の層を第1の層に付着し、それにより層対層構成物からなる基本構築ブロックを形成する。化学的に同一であるが物理的に異なるポリマーが使用される限り、同一又は異なる治療薬11110を用いた追加の層を使用し得ることに留意することが重要である。図示するように、1つ以上の追加の治療薬11110をポリマー構築ブロック層に付着し、次いでポリ(D−乳酸)11106とポリ(L−乳酸)11108とを含む第2のポリマー構築ブロック層をそこに付着する。
図26Bに、内部に層対層の立体複合被膜が堆積された、医療デバイスの部分11114内のリザーバ11112を示す。この例示的な実施形態では、ポリ(D−乳酸)11116及びポリ(L−乳酸)11118からなる第1の底部バリア層を、インクジェット等の標準的な堆積方法によって配置する。ポリ(D−乳酸)及びポリ(L−乳酸)を通常の溶媒中で予め混合し、リザーバ内に堆積させ、連続的に堆積させて立体複合体バリア層を形成することができる。ポリ(D−乳酸)及びポリ(L−乳酸)の量は、実質的に同一であることが好ましい。次に、治療薬11120又は治療薬11120の組み合わせと混合したポリ(D−乳酸)11116をリザーバ内に堆積させ、その後ポリ(D−乳酸)11118を堆積させて、その場で立体複合体及び薬物ポリマーマトリックスを形成する。所望により、同一又は異なる治療薬11122と混合された、ポリ(D−乳酸)とポリ(L−乳酸)との立体複合体からなる第2の層が、第1の層上に堆積されて、再度、層対層構成物を形成し得る。そのような交互層を、多数回反復してもよい。ポリ(D−乳酸)及びポリ(L−乳酸)1118を含む、追加的な頂部バリア層を堆積させて、リザーバの頂部側からの薬物放出を調節してもよい。
上記に示したように、治療薬又は薬剤は、ポリマーと混合され、又はポリマー間に単に堆積若しくは被覆されてもよい。
図26Cに、医療デバイスの部分11126の表面上の治療薬又は薬剤の組み合わせ11128のための薬物拡散バリアとして使用される、ポリ(D−乳酸)11130とポリ(L−乳酸)11132の層対層堆積を示す。
図27A及び図27Bに、ポリマー溶液11202を用いた被膜又は堆積スキームを示し、この溶液は、ポリ(D−乳酸)及びポリ(L−乳酸)の両方を実質的に1対1のモル比で含み、所望により、溶液中に治療薬又は薬剤11204が分散され、デバイス表面11206上に付着され、又はデバイスのリザーバ11208内に堆積される。
別の例示的な実施形態によれば、本発明は、上述したような、リザーバを有する血管二薬溶出ステントに関し、これらのリザーバの一部はシロリムス(ラパマイシン)を壁方向又は反管腔方向に優位に放出する組成物を含み、これらのリザーバの相補部分は、シロスタゾールを管腔方向に優位に放出する組成物を含む。より詳細には、二薬溶出ステントが患者の動脈内に配置された際に、シロリムスが動脈組織内に局所的に溶出し、動脈内の再狭窄を処置及び緩和する一方、シロスタゾールが血流中に溶出して、二薬溶出ステントの管腔内及び薬物溶出ステントに隣接した局所動脈壁内の抗血栓効果を提供するであろう。抗血栓効果は二倍であり、すなわち、植え込まれた二薬溶出ステント上の、又は同ステント近傍の血栓形成の軽減、並びに二薬溶出ステント上の、又は同ステント近傍の血小板凝集及び沈着の阻害である。また、二薬溶出ステントが心筋梗塞に苦しむ患者の処置に使用される場合、シロスタゾールは、例えばステント留置後の「無再流」状態を制限し、再灌流損傷を軽減し、及び/又は梗塞寸法を縮小することにより、処置動脈により血液が供給される心筋組織に対して心保護効果を提供することができる。二薬溶出ステントは、糖尿病を有する患者等、乏しい治癒特性を有する患者の臨床成績を改善することができる。
この二薬溶出ステントの例示的な実施形態において、リザーバは、ステントからの2種の異なる治療薬又は薬物の定方向送達に使用される。ポリマー及びシロリムスからなる組成物は、ステントのリザーバの一部から患者の動脈組織への反管腔方向のシロリムスの制御された徐放性局所送達を提供する。ポリマー及びシロスタゾールからなる組成物は、ステントの異なる及び別個のリザーバから、処置下の動脈の血流への直接的な、又はステントの植え込み後、ステントの管腔側表面を覆うよう成長する生物学的組織内へのシロスタゾールの制御された徐放性送達を提供する。
本明細書では別個の区別されるリザーバが記載されているが、任意の他の好適な定方向送達メカニズムを使用できることに留意することが重要である。
図28は、本発明による二薬溶出ステントの概略側面図である。治療薬又は薬物送達に関するパターンは多数の異なる状況又は処置計画に対して調整することができるが、説明の容易さのため、隣接するリザーバは異なる薬物を含むものとして記載される。二薬溶出ステント2800は、2つのリザーバ2802及びリザーバ2804を含むよう図示され、一方はシロリムス組成物2806で充填され、他方はシロスタゾール組成物2808で充填されている。
シロリムス組成物は、シロリムス及びPLGAマトリックスを含む。例示的な実施形態において、162マイクログラムのシロリムスが93マイクログラムのPLGAと混合される。混合及びリザーバ充填プロセスは、以下に詳細に記載される。大部分のシロリムスが、矢印2810で示されるように二薬ステント2800の壁面又は反管腔側に確実に放出されるために、基部構造体2812は、リザーバ2802の管腔側の開口部内の栓として使用される。この基部構造体2812は、任意の好適な生体適合性材料を含んでもよい。例示的な実施形態において、基部構造体2812はPLGAを含む。基部構造体2812の形成は、次に詳細に説明される。
シロスタゾール組成物は、シロスタゾール及びPLGAマトリックスを含む。例示的な実施形態において、120マイクログラムのシロスタゾールが120マイクログラムのPLGAと混合される。混合及びリザーバ充填プロセスは、以下に詳細に記載される。大部分のシロスタゾールが、矢印2814で示されるように二薬ステント2800の管腔側に確実に放出されるために、キャップ構造体2816は、リザーバ2804の反管腔側の開口部内の栓として使用される。このキャップ構造体2816は、任意の好適な生体適合性材料を含んでもよい。例示的な実施形態において、キャップ構造体2816はPLGAを含む。キャップ構造体2816の形成は、次に詳細に説明される。
上記に示された薬物及びポリマーの量は、3.5ミリメートル×17ミリメートル寸法のステントに関する合計である。各薬物に関する用量範囲は、次に詳細に説明される。加えて、ポリマー重量は、基部又はキャップ構造体内のマトリックス+ポリマー中のポリマーの合計である。使用されるポリマーの量も、次に詳細に説明される。
上述したように、ステントのリザーバは、任意数の方法により充填され、又は充填(loaded)され得る。例示的な実施形態において、組成物は、2つの別個の連続した一連の工程にてリザーバウェル又はリザーバ内に充填され、この工程は、最初に流体充填溶液組成物をリザーバ内に堆積し、次に充填溶液の溶媒の実質的に全てではなくとも大部分を蒸発させることを含む。最終組成物中に溶媒を有さないことが、理想的な状態である。上述した本発明による組成物は、充填溶液組成物から溶媒を実質的に全て、好ましくは全て除去した後、リザーバ内に残留する固体材料である。
シロリムスを含む固体組成物の形成に使用される流体組成物は、生体再吸収性ポリマー又は生体吸収性ポリマー、好ましくはポリ(ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA)ポリマー、ジメチルスルホキシド、すなわちDMSO、若しくはN−メチルピロリジノン等の好適な溶媒、NMP、シロリムス、及び所望により安定剤、すなわちBHT等の抗酸化剤を含有する。好ましくは、ステントリザーバ内の最終的なシロリムス組成物を形成する堆積工程に使用される流体充填溶液組成物のうちの少なくとも1つは、BHTを含む。BHTの代替物としては、ブチル化ヒドロキシアニソール、BHA、没食子酸プロピル等の没食子酸エステル、又はパルミトイルアスコルビン酸等のアスコルビン酸エステルが挙げられる。BHTは、シロリムスの安定化におけるその高いレベルの有効性、その低い毒性、及びその疎水性に基づき好ましい。BHTはリザーバからシロリムスとほぼ同一の速度で溶出するため、BHTは常にシロリムスと共に存在する。DMSO及びNMPの代替物としては、ジメチルアセトアミド(DMAc)又はジメチルホルムアミド(DMF)が挙げられる。DMSOは、シロリムスがDMSO中でより安定に存在するため好ましい。
堆積される各連続流体組成物は同一の成分を含んでもよく、又は連続充填溶液は異なる成分を含む充填溶液から調製されてもよい。好ましくは、最初の一連の充填溶液堆積物は、ポリマー及び溶媒のみ含み、これらは各充填工程後に乾燥される。このプロセスの部分により、基部構造体2812が形成又は構築される。基部構造体2812が形成された後、ポリマー、溶媒、シロリムス及び好ましくはBHTを含む次の溶液を加え、これらも各充填工程後に乾燥される。この製造の連続は、リザーバの管腔側面の領域内でより低い濃度のシロリムスが存在し、各リザーバの壁面の領域内で比較的高い濃度のシロリムスが存在するリザーバ組成物を形成するであろう。そのような形態は、上記に詳細に説明したように、壁面と比較して、薬物の管腔側面へのより長い経路、又は薬物の管腔側面への溶出に対するより高い抵抗を形成し、したがって実質的に全てのシロリムスがステントの壁面側へ、そして動脈組織内へ送達される筈である。換言すれば、シロリムスを優位に壁方向へ送達するリザーバ部分は、ステントの管腔側表面上及び管腔側表面近傍のリザーバの容積が優位にポリマーを含み、最小量のシロリムスを含む一方、同一のリザーバの壁面又は壁面近傍の容積は、優位にシロリムスを含み、最小の割合のポリマーを含む設計を有するであろう。
リザーバ内のシロリムス組成物は、好ましくはシロリムス、生体再吸収性ポリマー、安定化剤及び溶媒を含み、互いに所定の割合で存在するであろう。好ましくは、薬物溶出ステントから得られるシロリムスの全用量又は全量は、動脈組織領域1平方ミリメートル当たり0.6〜3.2マイクログラムであり、ここで動脈組織領域は、その直径及び長さが、動脈内に留置された際の拡張されたステントの直径及び長さである理論円筒の表面積として定義される。より好ましくは、薬物溶出ステントから得られるシロリムスの全用量又は全量は、動脈組織1平方ミリメートル当たり0.78〜1.05マイクログラムである。
上記に示したように、組成物中に使用される生体再吸収性ポリマーはPLGAを含む。より好ましくは、組成物はPLGAポリマーを含み、ここでポリマー鎖中のラクチド対グリコリド残基のモル比(L:G)は、約85:15〜約65:35である。更により好ましくは、組成物はPLGAポリマーを含み、ここでポリマー鎖中のラクチド対グリコリド残基のモル比(L:G)は、約80:20〜70:30である。PLGAは、約0.3〜約0.9の範囲内の固有粘度を有することが好ましいと思われる。PLGAは、約0.6〜約0.7の範囲内の固有粘度を有することが、更により好ましいと思われる。シロリムス対PLGAの重量比はD/P比と指定され、好ましくは約50/50〜約70/30の範囲内、より好ましくは約54/46〜約66/34の範囲内にある。全ての比は、重量パーセントである。あるいは、シロリムスとPLGAとの相対的な重量の割合は、正規化した形態D:Pで表わされてもよい。したがって、好ましいD:P比は、約1:0.4〜約1:1.2の範囲内、より好ましくは約1:0.52〜約1:0.85の範囲内にある。
また上述したように、シロリムス組成物は、好ましくはBHT、ブチル化ヒドロキシルトルエンを含む。添加されるBHTの量は、好ましくはシロリムスの量の約1重量パーセント〜約3重量パーセントの範囲内にある。更により好ましくは、添加されるBHTの量は、好ましくはシロリムスの量の約1.2重量パーセント〜約2.6重量パーセントの範囲内にある。
上述した成分を作製するためには、充填目的のための溶液、好適な溶媒が必要である。ジメチルスルホキシド、DMSOが、好ましい溶媒であり、好ましくはシロリムスの重量に対して約1重量パーセント〜約20重量パーセントの範囲内の量で使用される。更に好ましくは、DMSOは、シロリムスの重量に対して約1重量パーセント〜約15重量パーセントの範囲内の量で使用される。更により好ましくは、DMSOは、シロリムスの重量に対して約4重量パーセント〜約12重量パーセントの範囲内の量で使用される。
シロスタゾールを含む固体組成物の形成に使用される流体組成物は、生体再吸収性又は生体吸収性ポリマー、好ましくはポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、PLGA、ポリマー、DMSO若しくはNMP等の好適な溶媒、及びシロスタゾールを含有する。この組成物中にDMSO及びNMPに関する同一の代替物を使用してもよいが、再度、DMSOが好ましい。
堆積される各連続流体組成物は同一の成分を含んでもよく、又は連続充填溶液は異なる成分を含む充填溶液から調製されてもよい。好ましくは、最初の一連の充填溶液堆積物は、ポリマー、シロスタゾール及び溶媒を含み、これらは各充填工程後に乾燥され、最後の一連の充填溶液は、ポリマー及び溶媒のみ含み、これらも各充填工程後に乾燥される。このプロセスにより、キャップ構造体2816が形成又は構築される。この製造の連続は、リザーバの壁面の領域内でより低い濃度のシロスタゾールが存在し、各リザーバの管腔側面の領域内で比較的高い濃度のシロスタゾールが存在するリザーバ組成物を形成するであろう。そのような形態は、上記に詳細に説明したように、管腔側面と比較して、薬物の壁面へのより長い経路、又は薬物の壁面への溶出に対するより高い抵抗を形成し、したがって実質的に全てのシロスタゾールがステントの管腔側へ、そして血流及び/又は動脈組織内へ送達される筈である。換言すれば、シロスタゾールを優位に管腔方向へ送達するリザーバ部分は、ステントの壁側表面上及び壁側表面近傍のリザーバの容積が優位にポリマーを含み、最小量のシロスタゾールを含む一方、同一のリザーバの管腔側表面又は管腔側表面近傍の容積は、優位にシロスタゾールを含み、最小の割合のポリマーを含む設計を有するであろう。
リザーバ内のシロスタゾール組成物は、好ましくはシロスタゾール、生体再吸収性ポリマー及び溶媒を含み、互いに所定の割合で存在するであろう。好ましくは、薬物溶出ステントから得られるシロスタゾールの全用量又は全量は、動脈組織領域1平方ミリメートル当たり0.4〜2.5マイクログラムであり、ここで動脈組織領域は、その直径及び長さが、動脈内に留置された際の拡張されたステントの直径及び長さである理論円筒の表面積として定義される。より好ましくは、薬物溶出ステントから得られるシロスタゾールの全用量又は全量は、動脈組織1平方ミリメートル当たり0.56〜1.53マイクログラムである。
上記に示したように、組成物中に使用される生体再吸収性ポリマーは、PLGAを含む。より好ましくは、組成物はPLGAポリマーを含み、ここでポリマー鎖中のラクチド対グリコリド残基のモル比(L:G)は、約90:10〜約25:75である。更により好ましくは、組成物はPLGAポリマーを含み、ここでポリマー鎖中のラクチド対グリコリド残基のモル比(L:G)は、約80:20〜45:55である。PLGAは、約0.1〜約0.9の範囲内の固有粘度を有することが好ましいと思われる。PLGAは、約0.4〜約0.7の範囲内の固有粘度を有することが更により好ましいと思われる。シロスタゾール対PLGAの重量比はD/P比と指定され、好ましくは約35/65〜約95/5の範囲内、より好ましくは約47/53〜約86/14の範囲内にある。全ての比は、重量パーセントである。あるいは、シロスタゾールとPLGAとの相対的な重量の割合は、正規化した形態D:Pで表わされてもよい。したがって、好ましいD:P比は、約1:0.05〜約1:2.0の範囲内、より好ましくは約1:0.16〜約1:1.20の範囲内にある。
上述した成分を作製するためには、充填又は充填(loading)目的のための溶液、好適な溶媒が必要である。ジメチルスルホキシド、DMSOが好ましい溶媒であり、好ましくはシロスタゾールの重量に対して約0.01重量パーセント〜約20重量パーセントの範囲内の量で使用される。更により好ましくは、DMSOは、シロスタゾールの重量に対して約1重量パーセント〜約15重量パーセントの範囲内の量で使用される。更により好ましくは、DMSOは、シロスタゾールの重量に対して約3重量パーセント〜約12重量パーセントの範囲内の量で使用される。
本明細書に示すように、ステントは任意の好適な生体適合性材料から製作されてもよい。この例示的な実施形態では、ステントは、好ましくはコバルト−クロム合金から形成される。加えて、PLGA中のポリマーの比は変動してもよい。例えば、PLGAは、約100:0〜約0:100、より好ましくは約50:50〜約85:15、より好ましくは約60:40〜約80:20のL:G比を有してもよい。
本発明の二薬溶出ステントの独特の設計又は構成は、シロリムス及びシロスタゾールの完全に独立した溶出速度を提供する。加えて、この独特の構成は、シロリムスを優位に壁方向又は反管腔方向へ送達させる一方、シロスタゾールを優位に管腔方向へ送達させる。
図29を参照すると、各薬物に関しての、30日の期間にわたる、リザーバ溶出ステントからの、累積的なインビボでの薬物放出の百分率が示される。曲線2902は、シロスタゾールに関するプロファイルを表す一方、曲線2904は、シロリムスに関するプロファイルを表す。図30は、インビボで放出される、各薬物のマイクログラムでの量のグラフである。曲線3002は、シロスタゾールに関するプロファイルを表す一方、曲線3004は、シロリムスに関するプロファイルを表す。図の曲線は、両方の薬物が互いに独立して溶出し、相互作用は最小か又は実質的に存在しないことを示す。両方の薬物に関して、30日の時点で約60〜70パーセント溶出が観察された。薬物の量(重量による)は、それらの対応するリザーバ内の薬物に関して異なるため、30日間で放出された薬物の全量は、シロスタゾールと比較してシロリムスがより多かった。
各薬物に関する薬物充填又は用量は、上記に示すものを含む任意数の方法で表し得ることに留意することが重要である。好ましい例示的な実施形態では、用量範囲は、標準的な3.5mm×17mmステント寸法に基づき、薬物重量のネスト絶対範囲(nested absolute range)として表されてもよい。この方法では、用量範囲は、ステントの寸法及びリザーバ数に対応するであろう。例えば、3.5mm×17mmのステント寸法では、孔又はリザーバの数は585である。別の例示的な実施形態では、所定の寸法のステントのリザーバの数は、2.5mm×8mmステントに関して211のリザーバ、3.0mm×8mmステントに関して238、3.5mm×8mmステントに関して290のリザーバ、2.5mm×12mmステントに関して311のリザーバ、3.0mm×12mmステントに関して347、3.5mm×12mmステントに関して417のリザーバ、2.5mm×17mmステントに関して431のリザーバ、3.0mm×17mmステントに関して501、2.5mm×22mmステントに関して551のリザーバ、3.0mm×22mmステントに関して633、3.5mm×22mmステントに関して753のリザーバ、2.5mm×28mmステントに関して711のリザーバ、3.0mm×28mmステントに関して809、3.5mm×28mmステントに関して949のリザーバ、2.5mm×33mmステントに関して831のリザーバ、3.0mm×33mmステントに関して963及び3.5mm×33mmステントに関して1117のリザーバを含んでもよい。本明細書に提供される用量範囲は、シロリムスを収容するリザーバの、シロスタゾールを収容するリザーバに対する比が、20パーセント/80パーセント〜80パーセント/20パーセントにわたるであろう。3.5mm×17mmステント上のシロリムスの充填又は用量は、約30マイクログラム〜約265マイクログラム、より好ましくは約130マイクログラム〜約200マイクログラム、更により好ましくは約150マイクログラム〜約180マイクログラムの範囲内にあってもよい。これらは例示的な寸法及びリザーバ数であることに留意することが重要である。同一の3.5mm×17mmステント上のシロスタゾールの充填又は用量は、約50マイクログラム〜約200マイクログラム、より好ましくは約90マイクログラム〜約200マイクログラム、更により好ましくは約100マイクログラム〜約150マイクログラムの範囲内にあってもよい。上述したように、用量範囲は、ステントの寸法及びリザーバ数に対応するであろう。これらの用量は、最終的な滅菌済みステント製品のためのものである。
本発明の二薬溶出ステントは、再狭窄、血栓症、急性心筋梗塞、再灌流損傷、毛細血管の非再流状態、虚血関連の状態を含む、上記に示した多数の疾病状態の処置のために、及び/又はシロリムスの抗再狭窄効果に対する糖尿病患者の応答を高めるために、使用することができる。シロリムス及びシロスタゾールの使用に加えて、デバイスに他の薬物を追加してもよい。例えば、上記に示したように、ヘパリン等の抗血栓剤を追加してもよい。追加の薬物が被膜として又はリザーバ内に含まれてもよい。留意される重要な点は、任意数の薬物とリザーバの組み合わせ、及び被膜を使用して、特定の疾病状態にデバイスを調整することができることである。
シロスタゾールのクラスに属する他の薬物は、ミルリノン、ベスナリノン、エノキシモン、ピモベンダン、イナムリノン、シロスタミド、サテリノン、モタピゾン、リキサジノン、イマゾダン、プレタール、プリマコール、乳酸アムリノン、及びメリベンダンを含む。
放出の継続時間も誂え得ることに留意することも重要である。例えば、シロリムスに関するインビトロでの放出は、約7〜約120日間、より好ましくは約14〜約90日間であってもよい一方、シロスタゾールに関するインビトロでの放出は、約5〜約61日間であってもよい。放出状態は、異なる各薬物に関して誂えることができる。
代表的な別の実施形態によれば、本発明は、血管用の、コバルト−クロム合金製、ラパマイシン充填リザーバ溶出ステントを目的とし、このリザーバは、シロリムス(ラパマイシン)を、壁方向、すなわち反管腔方向に優位に放出する組成物を含む。したがって、シロリムスは動脈組織中へ局所的に溶出して、動脈内の再狭窄を処置し、緩和する。
上述のように、本明細書に記載の例示的なステントは、コバルト−クロム合金を含む。本発明に従って、L605等のコバルト−クロム合金を使用してステントを製作することができる。植え込み可能な生体適合性のデバイス材料としても広く利用される、L605(すなわち、UNS R30605)等の従来のコバルト系合金は、約19〜21重量パーセントの範囲のクロム(Cr)、約14〜16重量パーセントの範囲のタングステン(W)、約9〜11重量パーセントの範囲のニッケル(Ni)、最大3重量パーセントの範囲の鉄(Fe)、最大2重量パーセントの範囲のマンガン(Mn)、最大1重量パーセントの範囲のケイ素(Si)を、組成物の残部(約49重量パーセント)を構成するコバルト(コバルト)と共に含み得る。
あるいは、植え込み可能な生体適合性のデバイス材料としても広く利用されるHaynes 188(すなわち、UNS R30188)等の別の従来のコバルト系合金は、約20〜24重量パーセントの範囲のニッケル(Ni)、約21〜23重量パーセントの範囲のクロム(Cr)、約13〜15重量パーセントの範囲のタングステン(W)、最大3重量パーセントの範囲の鉄(Fe)、最大1.25重量パーセントの範囲のマンガン(Mn)、約0.2〜0.5重量パーセントの範囲のケイ素(Si)、約0.02〜0.12重量パーセントの範囲のランタン(La)、最大0.015重量パーセントの範囲のホウ素を、組成物の残部(約38重量パーセント)を構成するコバルト(Co)と共に含み得る。
一般に、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)及びモリブデン(Mo)といった元素添加物が、臨床的に関連した使用条件の範囲内で強度、加工性及び耐腐食性等の所望の性能属性を向上又は実現する目的で必要に応じて鉄及び/又はコバルト系合金に添加されていた。
血管用の、コバルト−クロム合金製、ラパマイシン充填リザーバ溶出ステントの、この例示的な実施形態では、ポリマーとシロリムスとの組成物は、ステントのリザーバから反管腔方向で患者の動脈組織へ至る、シロリムスの制御された徐放性局所送達を提供する。
本発明による組成物は、流体充填溶液組成物をリザーバ内に堆積させる工程、及び充填溶液の溶媒の、実質的に全てではないが、大部分を蒸発させる工程を含む、連続的な一連の工程でリザーバ内に充填される。最終組成物中に溶媒を有さないことが、理想的な状態である。本明細書で記載する、任意の好適な堆積プロセスが利用できることを理解されたい。上述の、本発明による組成物は、実質的に全ての、又は好ましくは全ての溶媒を充填溶液組成物から除去した後に、リザーバ内に残留する固体材料である。
シロリムスを含む固体組成物の形成に使用される流体組成物は、生体再吸収性ポリマー又は生体吸収性ポリマー、好ましくはポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、PLGA、ポリマー、ジメチルスルホキシド、DMSO、若しくはN−メチルピロリジノン等の好適な溶媒、NMP、シロリムス、及び所望によりブチル化ヒドロキシトルエン若しくはBHT等の安定剤、すなわち抗酸化剤を含有する。BHTの代替の綴りは、ブチル化ヒドロキシトルエンである。好ましくは、ステントリザーバ内の最終的なシロリムス組成物を形成するための堆積工程に使用される、流体充填溶液組成物のうちの少なくとも1つは、BHTを含む。
BHTの代替物としては、ブチル化ヒドロキシアニソール、BHA、没食子酸プロピル等の没食子酸エステル、又はパルミトイルアスコルビン酸等のアスコルビン酸エステルが挙げられる。BHTは、シロリムスの安定化におけるその高いレベルの有効性、その低いレベルの毒性、及びその疎水性に基づき好ましい。BHTは、シロリムスとほぼ同じ速度でリザーバから溶出し、したがって好ましくは、BHTはシロリムスと共に存在する。DMSO及びNMPの代替物は、ジメチルアセトアミド(DMAc)又はジメチルホルムアミド(DMF)を含む。DMSOは、シロリムスがDMSO中でより安定に存在するため好ましい。
堆積させる各連続流体組成物は、同一の配合成分、すなわち構成成分を含んでもよく、又は連続充填溶液は、異なる配合成分、すなわち構成成分を含む充填溶液から調製してもよい。好ましくは、最初の一連の充填溶液堆積物は、ポリマー及び溶媒のみを含み、これらを上述のように、各充填工程後に乾燥させる。プロセスのこの部分によって、基部構造体が形成される。好ましい実施例では、5回の個別の基部充填工程を実施すると共に、各充填工程の間の、55度Cにて1時間の乾燥期間によって、組成物から溶媒を除去する。基部構造体が形成された後、ポリマー、溶媒、シロリムス及びBHTを含む後続の溶液を加え、これらも各充填工程後に乾燥させる。好ましい実施例では、4回の個別の薬物含有充填工程を実施すると共に、各充填工程の間の、55度Cにて1時間の乾燥期間によって、薬物含有組成物から溶媒を除去する。最終充填工程の後、55度Cにて24時間の期間、ステントを乾燥させる。この製造の順序によって、ステントの管腔側表面の領域ではシロリムスの濃度がより低く、ステントの壁面、すなわち反管腔側面の領域ではシロリムスの濃度が比較的高い、リザーバ組成物が作り出される。この形態は、壁面、すなわち反管腔側面と比較して、薬物の管腔側面領域へのより長い経路、又は薬物の管腔側面領域への溶出に対するより高い抵抗を作り出し、したがって実質的に全てのシロリムスがステントの壁面、すなわち反管腔側へ、及び動脈組織内へと送達される筈である。
リザーバ内のシロリムス組成物は、好ましくは、シロリムス、生体再吸収性ポリマー、安定化剤、及び溶媒を含み、各組成物は、互いに対して一定の比率となる。好ましくは、ステントから得られるシロリムスの全用量又は全量は、動脈組織領域の1平方ミリメートル当たり0.15〜2.7マイクログラムであり、ここで動脈組織領域は、その直径及び長さが、動脈内に留置されて拡張されたステントの直径及び長さである理論円筒の表面積として定義される。より好ましくは、ステントから得られるシロリムスの全用量又は全量は、動脈組織の1平方ミリメートル当たり0.7〜1.2マイクログラムである。より好ましくは、ステントから得られるシロリムスの全用量又は全量は、動脈組織の1平方ミリメートル当たり0.87〜1.1マイクログラムである。しかしながら、この例示的な実施形態に関する発行仕様書(release specification)は、表示値の90〜110パーセントであり、したがってステントから得られるシロリムスの全用量又は全量は、動脈組織の1平方ミリメートル当たり0.78〜1.21マイクログラムである。
上記に示したように、組成物中に使用される生体再吸収性ポリマーは、PLGAを含む。より好ましくは、組成物はPLGAポリマーを含み、ここでポリマー鎖中のラクチド対グリコリド残基のモル比(L:G)は、約100:0〜約50:50である。更により好ましくは、組成物はPLGAポリマーを含み、ここでポリマー鎖中のラクチド対グリコリド残基のモル比(L:G)は、約80:20〜70:30である。シロリムス対PLGAの重量比は、D:P比と指定され、好ましくは約30/70〜約60/40、より好ましくは約42/58〜約50/50、より好ましくは約46/54の範囲内である。全ての比は、重量パーセントである。あるいは、シロリムスとPLGAとの相対的な重量比率は、正規化した形態のD:Pで表わしてもよい。したがって、好ましいD:P比は、約1:0.66〜約1:2.3、より好ましくは約1:1.00〜約1:1.38、また更に好ましくは約1:1.17の範囲内にある。ポリマーの固有粘度は、0.66〜0.72dL/gである。
上記でも説明したように、シロリムス組成物は、好ましくは、BHT、ブチル化ヒドロキシトルエン、又はブチル化ヒドロキシトルエンを含む。添加されるBHTの量は、好ましくは、シロリムスの量の約3重量パーセント未満である。更により好ましくは、添加されるBHTの量は、好ましくはシロリムスの量の約1.2重量パーセント〜約2.6重量パーセントの範囲内にある。更により好ましくは、添加されるBHTの量は、好ましくはシロリムスの量の約1.6重量パーセント〜約2.0重量パーセントの範囲内にある。
上述の構成成分とするためには、堆積を目的とする溶液である、好適な溶媒が必要である。ジメチルスルホキシド、すなわちDMSOが好適な溶媒であり、好ましくは本発明で使用される。その存在量は、シロリムスの重量に対して約0.01重量パーセント〜約20重量パーセントの範囲内にある。更により好ましくは、DMSOは、シロリムスの重量に対して約1重量パーセント〜約15重量パーセントの範囲内の量で使用される。更により好ましくは、DMSOは、シロリムスの重量に対して約4重量パーセント〜約12重量パーセントの範囲内で、より好ましくはシロリムスの重量に対して約7重量パーセント〜約10重量パーセントの範囲内の量で使用される。
各薬物に関する薬物充填又は用量は、上記に示すものを含む任意数の方法で表し得ることに留意することが重要である。好ましい例示的な実施形態では、用量範囲は、標準的な3.5mm×17mmステント寸法に基づき、薬物重量のネスト絶対範囲として表されてもよい。この方法では、用量範囲は、ステントの寸法及びリザーバ数に対応するであろう。例えば、3.5mm×17mmのステント寸法では、孔又はリザーバの数は585である。別の例示的な実施形態では、所定の寸法のステントのリザーバの数は、2.5mm×8mmステントに関して211のリザーバ、3.0mm×8mmステントに関して238、3.5mm×8mmステントに関して290のリザーバ、2.5mm×12mmステントに関して311のリザーバ、3.0mm×12mmステントに関して347、3.5mm×12mmステントに関して417のリザーバ、2.5mm×17mmステントに関して431のリザーバ、3.0mm×17mmステントに関して501、2.5mm×22mmステントに関して551のリザーバ、3.0mm×22mmステントに関して633、3.5mm×22mmステントに関して753のリザーバ、2.5mm×28mmステントに関して711のリザーバ、3.0mm×28mmステントに関して809、3.5mm×28mmステントに関して949のリザーバ、2.5mm×33mmステントに関して831のリザーバ、3.0mm×33mmステントに関して963及び3.5mm×33mmステントに関して1117のリザーバを含んでもよい。3.5mm×17mmステント上のシロリムスの充填又は用量は、約30マイクログラム〜約500マイクログラム、より好ましくは約130マイクログラム〜約200マイクログラム、更により好ましくは約140マイクログラム〜約185マイクログラムの範囲内にあってもよい。これらは例示的な寸法及びリザーバ数であることに留意することが重要である。上述したように、用量範囲は、ステントの寸法及びリザーバ数に対応するであろう。これらの用量は、最終的な滅菌済みステント製品のためのものである。
放出の継続時間も誂え得ることに留意することも重要である。例えば、シロリムスに関するインビボでの放出は、約7〜約120日、より好ましくは約14〜約90日であってもよい。
本発明の例示的なステントは、可撓性及び送達性に極めて優れながらも、血管開存性を維持するに十分な半径方向強度を提供する。このステントは、コバルトクロム合金、ステンレス鋼合金、又はニッケルチタン合金を含む好適な材料から作製される管を、レーザー切断することによる等、任意の好適な方法で形成することができる。本発明の冠動脈可撓性ステントは、本発明の例示的な一実施形態を説明するために開示されるが、開示された本発明の例示的な実施形態は、身体内の他の場所及び他の管腔、例えば脈管、非脈管、及び末梢の血管、管等に等しく適用し得ることを当業者は理解されたい。
本発明の一態様により、可撓性ステントは、小径へと収縮し、送達カテーテルによって、身体管腔を通り標的部位へと経皮的に送達されるように設計される。標的部位は、例えば心臓動脈であってよい。一旦留置されると、可撓性ステントは、血管開存性を維持し、必要な場合は、制御された量の薬物又は薬剤を送達する働きをする。
本発明の例示的な一実施形態による、可撓性ステント31100の拡張(留置)状態、収縮状態、及び「切り出したままの」すなわち製造時の状態の斜視図を、それぞれ図31A、図31B、図31Cに示す。ステント31100は、図31Cに示すように、最初に製造した時の「切り出したままの」直径D3を有する。ステント31100は、患者への挿入、及び血管を通したナビゲーションのために、図31Bに示す第1の直径D1にまで収縮され、図31Aに示す第2の直径D2は、血管の標的領域内に留置するためであり、第2の直径は第1の直径よりも大きい。
可撓性ステント31100は、管腔側表面31101、反管腔側表面31102、及びそれらの間の厚み(壁厚)である「T」を有する構造的要素の管状形態を伴う円筒形である。このステントの円筒形状は、長手方向軸線31103を画定し、近位端部分31104及び遠位端部分31105を有する。
近位及び遠位という用語は、一般的に、人体に対する方向又は位置を意味するために使用される。例えば、骨の近位端は、身体の中心により近い、骨の末端部を言及するために使用してもよい。逆に、遠位という用語は、身体から最も遠い、骨の末端部を言及するために使用することができる。脈管構造においては、近位及び遠位は、それぞれ、心臓へと向かう血液の流れ、又は心臓から離れる血液の流れを言及するために使用される場合がある。本発明に記載の可撓性ステントは、動脈系及び静脈系の双方を含め、多くの異なる身体管腔内で使用し得るため、本出願での、近位及び遠位という用語の使用は、送達の方向に関する相対的位置を説明するために使用される。例えば、本出願での遠位端部分という用語の使用は、送達経路に関連して、脈管内に最初に導入され、身体内への挿入ポイントから最も遠い、ステントの末端部分を説明する。逆に、近位端部分という用語の使用は、送達経路に関連して、身体内への挿入ポイントに最も近い、ステントの後端部分を説明するために使用される。
図32及び図33は、本発明の例示的な一実施形態による、ステント31100の部分的な拡張状態の平面図である。本明細書で使用する場合、平面図という用語は、その底端縁が円筒を包み込んで上端縁に接続可能なように、長手方向軸線に沿って切られて平坦に広げられているステントの2次元(2−D)図であると理解される。
ステント31100の構造は、通常、近位端31104に沿った環状端部の部分31106、遠位端31105に沿った環状端部の部分31107、及びそれらの間の螺旋状内側部分31108を含む。螺旋状内側部31108は、中央領域31111、近位遷移領域31109、及び遠位遷移領域31110を更に含む。遷移領域31109及び31110は、中央領域31111と、近位環状端部の部分31106及び遠位環状端の部分31107との間で遷移する。図33は、ステント31100の、これらの異なる部分及び領域を示す分解組立平面図である。
ステント31100は、円周方向に配向された一連の延性ヒンジ31114によって接続される、長手方向に配向された複数のストラット31113を含む。円周方向に隣接するストラット31113は、ヒンジ31114によって、実質的にS又はZ形状の正弦波状パターンとして両端で接続され、バンドを形成する。可撓性接続部31112は、様々な充填状態の下での構造安定性のために、ステント31100の構造の全体に分配される。図31A、図31B、図31C、図32、及び図33に示すステントの設計は、可撓性の接続部形状を有するが、多種多様な接続部形状が想定される。一般的には、図36B〜図36Hを参照されたい。
ステント31100内の、内側螺旋状部31108が環状端部の部分31106及び31107に最初に接続する領域は、アンカーポイントと呼ばれ、その場所のヒンジ31114は、「アンカーヒンジ」と呼ばれる。この「テイクオフ」ポイントは、設計制約に基づいて変化し得る。更には、傾斜角度、ストラットの厚さ、ストラットの幅、ヒンジの幅、ヒンジの長さ、デポーの位置及び寸法、並びに接続の長さは、最適化及び設計制約に基づいて変化し得る。
本明細書で使用する、長手方向に配向、周囲方向に配向、及び半径方向に配向、という用語は、ステント31100及び長手方向軸線31103に対する特定の方向を表すものとして知られる。長手方向に配向される部材は、両端間方向で(部材の軸線に沿って)方向付けられ、通常は長手方向軸線31103の方向である。図を検討すれば、ストラット31113の長手方向は、ステント31100が図31Aに示すような拡張、留置状態の場合よりも、ステント31100が図31Bに示すような収縮状態の場合に、より長手方向軸線と平行に近いことが明らかである。いずれにせよ、どちらの場合も、ストラット31113の軸線が実質的に長手方向軸線と同じ方向に配向されているため、ストラット31113は長手方向に配向されると考慮される。ヒンジ31114等の、周囲方向に配向される部材は、実質的に管状ステント31100の外周に沿って方向付けられる。同様に、半径方向、又は半径方向の配向は、一般に、長手方向軸線から外方に管状ステント31100の外周へと横断面内で延びる半径に沿う。
図34A、図34B、及び図34Cは、本発明の様々な例示的な実施形態による、典型的なストラット31113を示す。各ストラット31113は、長手方向に延びる長辺31115及び周囲方向に延びる短辺31116を有する、実質的に矩形形状の部材である。対向する長辺31115及び対向する短辺31116は、図34Aに示すストラット31113によって表されるように、実質的に互いに平行で完全に近い矩形形状を形成してもよく、又は図34Bに示すストラット31113によって表されるように、傾斜、すなわち角度が付けられてテーパー形状のストラット31113を形成してもよい。図34A及び図34Bでわかるように、ヒンジ31114は、ストラット31113に、ストラットの短辺31116に沿って取り付けられるが、本発明の好ましい例示的な実施形態では、ストラットの幅(短辺31116の長さ)は、ヒンジ31114の幅よりも大きい。図34Bに示すように、可撓性接続部31112は、ストラット31113に、ストラット31113の短辺31116に沿って取り付けられるが、ヒンジ31114には接続しない。
図34Cは、ステント31100の設計の、例示的な実施形態の一部で見ることができる、独特なストラット31113を表す。図34Cに示されるストラット31113は、円形ヒンジ31114(後述)に対する2つの接続ポイント及び可撓性接続部31112に対する2つの接続ポイントによって特徴付けられる。このストラット31113は、近位端及び遠位端(ヒンジ31114及び可撓性接続部31112の接続ポイント)で最大幅であり、長手方向のストラット31113の長さの中点近傍で最小幅となるようにテーパーが付けられる。換言すれば、図34Cに示すストラット31113の短辺31116の長さは、ストラット31113の長手方向の中心点近傍の幅よりも大きい。
ストラット31113は、少なくとも1種の治療薬を収容するための、1つ以上のデポー、すなわちリザーバ31117を有し得る。本明細書に記載の治療薬の任意の1種を使用することができる。デポー31117は、薬剤を保持することが可能な、陥凹、溝、孔、又は空洞のいずれの形状であってもよいが、好ましくは、ステント31100を貫通して精密に形成される、貫通孔である。好ましい例示的な実施形態では、貫通孔は、管腔側表面から反管腔側表面へと、ストラットを貫通している。この好ましい形態によって、薬物又は薬剤が、半径方向内方及び半径方向外方の両方の方向で、ステント31100の管腔側面及び反管腔側面に沿って送達されることが可能になる。加えて、デポー31117には、ポリマーインレーを、単独で、又は1種以上の薬剤を溶液中若しくは別の方法で含有して、充填することができる。同一のステント内の様々なデポー31117には、同じ薬剤、又は異なる薬剤を充填してもよく、また同じ濃度の薬剤、又は異なる濃度の薬剤を有してもよい。いずれの個別のデポー31117にも、1つ又は複数種の薬剤を充填することができ、また薬剤をバリア層によって隔てることができる。バリア層は、薬剤を隔てる必要に応じて、デポー31117内に様々な形態で配置し得る。好ましい例示的な実施形態では、バリア層は、管腔側ステント表面と平行に配向される。
ストラット31113は、図34A〜図34Cに示すように、対称的な寸法のデポー31117を有してもよく、又は図34Dに示すように、有機的に最適化されたデポー31117を含んでもよい。有機的に最適化されたデポー31117は、いずれのストラット31113の所定の寸法に対しても、デポー31117の容積を最大化する一方で、ステント31100が拡張された時の構造的一体性の維持に不可欠な、材料の追加又は除去による、全機構の応力状態を低減するように設計される。
上述のような1種以上の治療薬を、1つ以上のデポー31117内に分配するか、管腔側若しくは反管腔側のステント31100表面の少なくとも1部分に沿って分配するか、又はデポー及び/若しくはステント表面の任意の組み合わせで分配してもよい。好ましい例示的な実施形態では、薬剤はデポー31117内にのみ分配され、したがって薬剤が露出する表面積は、ステント31100表面(管腔側、反管腔側、又は双方)のデポー開口部の断面積に制限される。この設計によって、患者への挿入時には実質的にベアメタルの表面積を有するステント31100からの、薬剤の送達が可能になる。好ましい例示的な実施形態では、ステント31100の患者への挿入時に、ステント31100のベアメタルが露出する表面積は、40〜95%であり、最も好ましくは、ステント31100の患者への挿入時に、約75%がベアメタルである。すなわち、ステント31100の表面積は、約25%が薬剤であり、約75%がベアメタルである。薬剤が放出されると、ステント31100は、以下により詳細に説明するように、純粋なベアメタルステントになる。
好ましい例示的な実施形態では、デポー31117は、ストラットパターン全体にほぼ均一に分配され、使用するステントの直径又は長さとは関係なく、留置されたステント31100の単位表面積当たりの、一定の薬剤用量を提供する。ストラット31113は、製品設計に適合させる必要に応じて、長さ、傾斜角度、デポー形態、及び幅を変化させてもよい。
延性ヒンジ31114は、周囲方向で隣接する2つのストラット31113の間の接続要素として使用される。ステント31100内には、2種類の延性ヒンジ31114が存在する。図35A及び図35Bは、本発明の例示的な一実施形態に見られる、2つの代表的な延性ヒンジを示す。図35Aは、周囲方向で隣接する2つのストラット31113を接続する、単一の「自由ヒンジ」31114aを表す。好ましい例示的な実施形態では、この自由ヒンジ31114aは「C」形状であり、湾曲部上の頂点を通って描かれた基準線「A」を中心として実質的に対称である。図35Bは、周囲方向で隣接する2つのストラット31113を接続する、延性ヒンジ31114bを表し、このストラットの一方は、可撓性接続部31112に更に接続する。この延性ヒンジ31114bは、図35Aに開示した「C」形状の自由ヒンジ31114aよりも円形であり、本明細書で「円形ヒンジ」31114bと称される場合がある。自由ヒンジ31114a及び接続ヒンジ31114bは、本明細書では個別に特定されるが、一般的に、双方とも延性ヒンジ31114と称される場合がある。円形ヒンジ31114b周辺の領域は、円形ヒンジ領域と称される。可撓性接続部31112及び円形延性ヒンジ31114bは双方とも、円形ヒンジ領域内で、ストラット31113の同一短辺31116に接続するが、相互には接続されない。
図36Aは、螺旋状部31108の隣接する屈曲部上の2対のストラット間の接続ポイントとして働く「円形ヒンジ領域」31118の更なる詳細を提供する。このヒンジ領域31118は、数個の構成要素を含み、1対のストラットを形成する周囲方向で隣接するストラット31113の間に延性領域を提供する一方で、可撓性接続部31112によって、長手方向で隣接するストラット対の間に必要な接続性を提供する。長手方向で隣接するストラット対、及び相互接続する可撓性接続部31112は、組み合わされた時、「4連(quad)ヒンジ領域」として知られる領域を作り出す。この領域は、円形ヒンジ31114b及び可撓性接続部31112によって直接的に、又は間接的に接続される4つのストラットを含む。傾斜角度、ヒンジ31114bの幅、テーパーの度合、長さ、及び孔のパターンは、ステントの設計意図、機構の位置、及びステント性能の最適化に基づいて変更される。図36B〜図36Mは、円形ヒンジ領域31118内の隣接するストラット対を接続するために使用し得る、様々な接続部31112を示す。
図37は、ステント31100の製造プロセス中で重要な、ステントの別の主要属性を示す。円内の延性ヒンジ31114は、「指標ヒンジ」として知られる。この「指標ヒンジ」は、より長いストラット31113の長さで特徴付けられ、そのため、この延性ヒンジ又はストラット31113先端部は、正弦波形状末端環内の残りのストラット上のストラット31113先端部の平面を超えて突出する。説明を容易にするため、長手方向軸線31103に対して垂直、かつ指標ヒンジの上と下のヒンジ31114の両方の湾曲面に接する基準線Aが描かれている。基準線Bは、長手方向軸線31103に対して垂直、かつ指標ヒンジを表すヒンジ31114の湾曲面に接して描かれている。長手方向軸線に沿った、基準線Aと基準線Bとの間の距離は、この指標によって提供されるオフセットである。このオフセットは、ステント31100の配向を判定する助けとなる基準ポイントとして役立つ。「指標ヒンジ」は、近位環状端部31106及び遠位環状端部31107に沿った任意の位置に存在し得る。
一般的に言えば、延性ヒンジ31114は、周囲のストラット31113よりも実質的に幅が薄い、変形可能な要素である。このことによって、延性ヒンジ31114は、塑性変形を保持しつつ、その変形状態においても依然として可撓性を維持することが可能になる。したがって、ストラット31113は、延性ヒンジ31114よりも遙かに強固であり、それ故ステントの拡張中に塑性変形を全く起こさない。ストラット31113は、本質的に、剛体として回転するが、一方、延性ヒンジ31114は、ステントの拡張に関連する塑性ひずみに耐えるべく設計される。結果として、ストラット31113内のデポー31117は、薬剤及び/又はポリマーインレーの損傷若しくは脱落を引き起こす恐れのある、拡張中の過度の応力から守られる。デポー31117は、ステント留置プロセスの全体を通して、応力の残留しない状態が理想的である。
本発明の好ましい代表的な実施形態では、延性ヒンジ31114は、ステント31100に十分な半径方向剛性を与えると同時に、完全拡張時のピーク塑性ひずみが、材料のひずみ伝搬能力を超えることがないように、テーパーを付けた幅を使用することによって最適化される。この、幅のテーパー付けは、ヒンジ31114の各種類に関して、その延性ヒンジ31114の長さに沿った、むらのない均一な塑性ひずみの分布を達成するように最適化される。ひずみ分布にむらをなくし、延性ヒンジ31114内のひずみの集中を排除することによって、延性ヒンジ31114の幅が最大化され、またそれによって剛性が最大化される。延性ヒンジ31114の剛性の最大化は、ステント31100に半径方向剛性及び疲労耐久性を提供するという点で有利である。
概して、テーパー状延性ヒンジ31114の幅は、ヒンジ31114の根部に近づくにつれて徐々に増大し、ヒンジ31114は、その根部で、より幅広のストラット31113(又はより剛性の構造)へと急激に遷移する。このことが、塑性ひずみがヒンジ根部へ集中することを防ぐが、これはテーパー状ヒンジ根部がより剛性があり、それ故、塑性ひずみがヒンジ31114の中央部分に分配されるためである。延性ヒンジ31114の中央部分は、湾曲部の頂点を含み、通常は均一な幅を有する。
再び図32及び図33に戻ると、環状端部31106及び31107は、周囲方向に配列されて長手方向に配向された複数のストラット部材31113を含み、このストラット部材31113は、周囲方向に配向された複数の延性ヒンジ31114によって両端部を接続され、実質的に正弦波状のS又はZ形状のパターンで、バンドを無終端の環に形成する。図示の実施形態では、端部分31106及び31107は、ステント設計の最適化の必要に応じて長さが変わるストラット31113から形成され、内側螺旋状部分31108が最初に環状端部分31106及び31107に接続するアンカーポイントでの接続に必要な形状を提供する。
環状端部31106と環状端部31107との間に、ステント31100の内側螺旋状部31108があり、そこでは正弦波形状に配列されたストラット31113及びヒンジ31114のバンドが螺旋状の経路をたどる。内側部31108の螺旋状バンドは、ストラット31113を、長短の長さが交互に反復するパターンで配列することによって達成される。螺旋状内側部31108は、近位遷移領域31109、遠位遷移領域31110、及び中央領域31111へと更に区分することができる。
中央領域31111は、ストリング(要素の集合体)を含み、このストリングは、隣接するストラット部材31113及びヒンジ部材31114の群から形成され、一定のストリングパターンを形成するように編成される。本発明の例示的な一実施形態では、隣接するストリングは、異なるストリングパターンを有し、反復ストリングは、幾何学的に対称であって、反復する中央パターンを形成する。本発明の好ましい例示的な実施形態では、反復する中央パターンは、2つの異なる反復ストリングからなる。したがって、中央領域31111は、一定のピッチ及び一定の傾斜角度を有する。
本明細書で使用するピッチという用語は、所定の領域にわたる正弦波形状の回数であると理解される。これは、歯車の直径ピッチに類似した命名法である。ピッチが大きくなるにつれて、正弦波形状の回数が増加し、すなわち、正弦波状バンドが長手方向軸線31103を中心に巻かれた際に、1巻き当たりに認められるストラット31113及び延性ヒンジ31114の数が増大することになる。このことによって、ストラット31113及びヒンジ31114の非常に密なパターンが作り出される。逆に、ピッチが小さくなるにつれて、正弦波形状の回数が減少し、したがって、正弦波状バンドが長手方向軸線31103を中心に巻かれた際に、1巻き当たりに認められるストラット31113及びヒンジ31114の数が減少することになる。傾斜角度という用語は、具体的には、ステント31100の螺旋巻成形区域に言及し、正弦波状バンドが長手方向軸線で作る(巻かれる)角度を意味すると理解される。
図38は、図33に示した中央領域31111の、クローズアップ2次元図である。第1基準線「A」は、長手方向軸線31103に平行に描かれている。第2基準線「B」は、正弦波状バンドの方向を表すよう描かれている。傾斜角度(α)は、基準線「A」と基準線「B」との角度である。
図39A及び図39Bは、本発明の例示的な一実施形態による、ステント31100の中央領域31111を形成する反復パターンの部分である2つのストラットストリングを示す。図33、図38、図39A、及び図39Bを参照すると、中央領域31111は、図39Bに示す自由ストラットストリング31119によって、遠位遷移領域31110の近位端から開始する。図示の自由ストラットストリング31119は、自由ヒンジ31114aによって、2つのデポーの短いストラット31113を両末端部に接続された、3つのデポーの長いストラット31113を含む。自由ストラットストリング31119は、その近位端を、接続ストラットストリング31120の遠位端に取り付けられる。接続ストラットストリング31120は、その近位端及び遠位端の接続ヒンジ31114b、並びに自由ヒンジ31114aによって接続された3つの長い(3つのデポーの)ストラット31113及び2つの短い(2つのデポーの)ストラット31113の交互の配列を含む。この自由ストラットストリング31119及び接続ストラットストリング31120の交互のパターンは、中央領域31111が、近位遷移領域31109に出合うまで継続する。図33の例示的な実施形態は、5つの自由ストラットストリング31119と4つの接続ストラットストリング31120とを含む中央領域を有する。ステント31100の長さは、近位遷移領域31109及び遠位遷移領域31110、並びに近位環状端部31106及び遠位環状端部31107を開示のように維持しつつ、中央領域31111の追加又は短縮によって、すなわち、反復パターンの維持に必要な、自由ストラットストリング31119若しくは接続ストラットストリング31220の追加又は除去によって変更することができる。
近位遷移領域31109及び遠位遷移領域31110は、様々なピッチの区域であって、そこに反復性又は対称性は存在しない。近位遷移領域31109及び遠位遷移領域31110は、中央領域31111と、近位環状端部31105及び遠位環状端部31107との間の遷移において、ピッチの逓減をもたらすように構成される。近位遷移領域31109及び遠位遷移領域31110は、アンカーヒンジと呼ばれる接続形状によって、それぞれ近位環状端部31106及び遠位環状端部31107に接続される。
上記の図で示したステント31100の設計は、オープンセル設計として公知であり、長手方向に隣接する正弦波形状要素の屈曲部間の接続部が、長手方向に隣接するあらゆるヒンジ31114又はストラット31113にわたって存在するのではなく、構造体全体に断続的にのみ存在することを意味する。長手方向に隣接するあらゆるヒンジ又はストラットが接続される設計は、クローズドセル設計として公知である。オープンセル構造は、通常、クローズドセル構造よりも可撓性である。
前述のように、ステント31100の通常の構造は、環状端部31106及び31107を備える螺旋状内側部31108、並びに様々な充填状態の下での構造的安定性のための、構造全体に分布する接続部31112を含む。螺旋状内側部31108は、一定のピッチ及び傾斜角度を有する中央領域31111、近位遷移領域31109、並びに遠位遷移領域31110に更に区分することができる。この通常の構造は、異なる寸法の様々なステントに関して同一のままであるが、要素(ストラット、ヒンジ、及び屈曲接続部)の形状及びパターンは、様々な所望のステント直径に適合させる必要に応じて変更することができる。
図40〜図45は、異なる直径を有するステントに関する、ステント設計の様々な実施形態を示す。図40、図42、及び図44は、それぞれ、異なる寸法及びパターンのステント40200、42300、44000を示す、図32に類似の2次元平面図である。図41、図43、及び図45は、それぞれ、ステント40200、42300、44400の、異なる部分及び領域を示す、図33に類似の分解組立平面図である。説明の容易性のために、ステント31100の同様の要素に対し、同様の参照番号を割り当てており、故にステント31100の要素の説明は、ステント40200、42300、44400における同様の要素に対して等しく適用されることが理解される。
各ステントのパターンの設計は、そのステントの意図する標的血管の処置に基づき、標的となる最良の結果に向けてカスタマイズされる。図40及び図41は、極小径の標的血管の病変を対象とするステント40200の、例示的な一実施形態を表す。極小径のステント類は、いくつかの設計特徴により、非常に小さい血管径に最適化されており、小径の管状材料から製作するように意図されている。
極小ステントに関する、例示的な現行の実施形態は、正弦波形状の近位環状端部40206及び遠位環状端部40207を含み、環状端部40206及び40207のそれぞれは、10個のストラット40213から構成される。環状端部40206と環状端部40207との間に、ステント40200の内側螺旋状部40208があり、そこではストラット40213及びヒンジ40214の正弦波形状の配列が、螺旋状の経路をたどる。内側部40208の螺旋状経路は、ストラット40213を、長短の長さが交互に反復するパターンで配列し、バンドを形成することによって達成される。各内側バンドの中には、1巻き当たり9個のストラット40213が存在する。重要な加工パラメータを維持しつつ、ストラットの数を減らすことで、ステントの性能を向上させることができる。螺旋状内側部40208は、図41に示すように、近位遷移領域40209、遠位遷移領域40210及び中央領域40211へと更に区分することができる。
中央領域40211は、バンド内で反復パターンを形成するように、幾何学的に対称な、反復ストラットストリング又はストラットの集合体を含む。したがって、中央領域40211は、一定のピッチ及び一定の傾斜角度を有する。反復内側部パターンは、3つのストラットの2種類のパターンから構成され、これらのパターンが交互に現れ、9個のストラットの反復内側部パターンを形成する。
図48は、本発明の例示的な一実施形態による、ステント40200の中央領域40211からの、反復パターンの部分である、2つのストラットストリング40219及び40220を示す。図40、図41、及び図48を参照すると、中央領域40211は、図48に示す自由ストラットストリング40219によって、近位遷移領域40209の遠位端から開始する。図示の自由ストラットストリング40219は、自由ヒンジ40214aによって、短い(2つのデポーの)ストラット40213を両末端部に接続された、長いストラット(4つのデポーの)40213を含む。自由ストラットストリング40219は、その遠位端上で、接続ストラットストリング40220の近位端に取り付けられる。接続ストラットストリング40220は、その近位端及び遠位端の接続ヒンジ40214b、並びに自由ヒンジ40214aによって接続された2つの長い(4つのデポーの)ストラット40213及び1つの短い(2つのデポーの)ストラット40213の交互の配列を含む。この自由ストラットストリング40219及び接続ストラットストリング40220の交互のパターンは、中央領域40211が、遠位遷移領域40210に出合うまで継続する。図40及び図41に示す例示的な実施形態は、6つの自由ストラットストリング40219と6つの接続ストラットストリング40220とを含む中央領域を有する。
中程度の寸法のステントに関する、例示的な現行の実施形態は、12個のストラット42313の末端環からなる、正弦波形状の近位環状端部42306及び遠位環状端部42307を含む。環状端部42306と環状端部42307との間に、ステント42300の内側螺旋状部42308があり、そこではバンド内のストラット42313及びヒンジ42314の正弦波形状の配列が、螺旋状の経路をたどる。内側部42308の螺旋状経路は、ストラット42313を、長短の長さが交互に反復するパターンで配列し、バンドを形成することによって達成される。内側螺旋状部42308の中には、バンド1巻き当たり13個のストラット42313が存在する。重要な加工パラメータを維持しつつ、ストラットの数を増やすことで、ステントの性能を向上させることができる。螺旋状内側部42308は、図43に示すように、近位遷移領域42309、遠位遷移領域42310及び中央領域42311へと更に区分することができる。
中央領域42311は、反復パターンを形成するように、幾何学的に対称な、反復ストラットストリング、又はストラットの集合体を含む。したがって、中央領域42311は、一定のピッチ及び一定の傾斜角度を有する。反復内側部パターンは、3つのストラットの1種類のパターン及び5つのストラットの1種類のパターンから構成され、これらのパターンが交互に現れ、13個のストラットの反復内側部パターンを形成する。
図47は、本発明の例示的な一実施形態による、ステント42300の中央領域42311を形成する反復パターンの部分である、2つのストラットストリング42319及び42320を示す。図42、図43、及び図47を参照すると、中央領域42311は、図47に示す自由ストラットストリング42320によって、近位遷移領域の遠位端から開始する。図示の接続ストラットストリング42320は、その近位端及び遠位端の接続ヒンジ42314b、並びに自由ヒンジ42314aによって接続された3つの長い(3つのデポーの)ストラット42313の配列を含む。自由ストラットストリング42319は、その近位端上で、接続ストラットストリング42320の遠位端に取り付けられる。図示の自由ストラットストリング42319は、自由ヒンジ42314aによって相互接続された、一連の3つの長い(3つのデポーの)ストラット42313を含む。3つの、3つのデポー(three, three depot)のストラット42313は、両末端部上で、自由ヒンジ42314aによって、短い2つのデポーのストラット42313に接続される。接続ストラットストリング42320及び自由ストラットストリング42319の交互のパターンは、中央領域42311が、遠位遷移領域42310に出合うまで継続する。図42及び図43に示す例示的な実施形態は、3つの接続ストラットストリング42320と2つの自由ストラットストリング42319とを含む中央領域を有する。ステント42300の長さは、近位遷移領域42309及び遠位遷移領域42310、並びに近位環状端部42306及び遠位環状端部42307を開示のように維持しつつ、中央領域42311の追加又は短縮によって、すなわち、反復パターンの維持に必要な、接続ストラットストリング42320若しくは自由ストラットストリング42319の追加又は除去によって変更することができる。
図44及び図45は、大径の標的血管の病変を対象とするステント44400の、例示的な一実施形態を表す。大径のステント類は、いくつかの設計特徴により、より太い血管に最適化されている。従来の設計と同様に、例示的な現行の実施形態は、12個のストラット44413から構成される正弦波形状の近位環状端部44406及び遠位環状端部44407を含む。端部44406及び44407内のストラット44413は、様々な長さであるが、全体として、より大径のステント設計におけるストラットは、同等のより小さい公称ステント設計の典型的なストラットよりも長い。端部44406及び44407は、図45に示すように、いくつかのポイントによって、近位遷移領域44409及び遠位遷移領域44410に接続される。
図46は、本発明の例示的な一実施形態による、ステント44400の中央領域44411からの、反復パターンの部分である、2つのストラットストリングを示す。図44、図45、及び図46を参照すると、中央領域44411は、図46に示す自由ストラットストリング44419によって、遠位遷移領域44410の近位端から開始する。図示の自由ストラットストリング44419は、自由ヒンジ44414aによって相互接続された、短い(3つのデポーの)ストラット44413及び長い(4つのデポーの)ストラットの交互配列を含む。自由ストラットストリング44419は、その近位端上で、接続ストラットストリング44420の遠位端に取り付けられる。接続ストラットストリング44420は、3つのストラット44413の長さであり、その近位端及び遠位端に、接続ヒンジ44414bを含む。接続ストリング44420内の3つのストラットは、自由ヒンジ44414aによって相互接続された、長い(4つのデポーの)ストラット44413及び短い(3つのデポーの)ストラット44413の交互配列を含む。この自由ストラットストリング44419及び接続ストラットストリング44420の交互のパターンは、中央領域44411が、近位遷移領域44409に出合うまで継続する。図45に示す例示的な実施形態は、3つの自由ストラットストリング44419と2つの接続ストラットストリング44420とを含む中央領域を有する。
本発明はまた、図32、図40、図42、及び図44に開示したものに類似したストラット/ヒンジ配向となる、中実ストラットの使用も考慮する。図49は、類似の設計構造を有するが、ストラット49513に沿ったデポーを有さないステント49500を示す。ステント49500は、ベアメタルステントと使用してもよく、あるいは当該技術分野において既知であるような薬剤及び/又は適切な担体で、部分的に若しくは完全に被覆することができる。
リザーバ溶出ステントは、標準的な表面被覆薬物溶出ステントをしのぐ、数多くの利点を提供する。例えば、リザーバは、その中に堆積した、ポリマー及び薬物のマトリックス又は組成物を、標準的な表面被覆ステントでは層間剥離を引き起こす恐れのある、蛇行性の解剖学的構造及び高度石灰化病変を通過する間の機械的破砕から守る。リザーバ内のポリマーは、ポリマー表面被膜に関連した伸び及び変形を受けないため、高い薬物充填容量及びポリマーに対する薬物の高い比率が、リザーバによってもたらされる。リザーバはまた、従来の表面被膜よりも少ない量のポリマーしか必要とせず、ストラットの厚さを10〜30マイクロメートル低減することができる。リザーバはまた、複数の薬物及び/又は複数の治療薬を、個別の放出プロファイルで、ステントから送達すること、並びに、薬物及びポリマーの属性に影響を与えずに、ステントの金属表面を取り扱うことも容易にする。更には、リザーバは、選択的な定方向送達、並びに、定位置及び/又は定方向の局所送達の提供に関連する、より多大な柔軟性及び選択肢を提供する。加えて、リザーバは、植え込み時に、血管壁に接触するポリマーを実質上有さない、大部分がベアメタルのステント表面を提供することによって、より良好な血管の生体適合性を提供し得る。このことは、後に詳細に説明するように、組成物のメニスカスが、リザーバ内部にあって、使用可能なリザーバの完全な充填よりも少ない場合であれば、真実である。
ベアメタルステントは、上記の簡単な説明の他にも、利点を提供する。本発明のリザーバ溶出ステントは、ベアメタルステントの最良の特徴と、薬物溶出ステントの最良の特徴とを兼ね備える。本明細書に記載される代表的な実施形態では、リザーバ溶出ステントは、その外側、すなわち反管腔側表面上又はその近傍では、約75パーセントがベアメタルであり、約25パーセントがポリマー及び薬物である。リザーバが完全には充填されず、上述のように層、すなわちインレーが管腔側から開始するように充填される場合、リザーバ溶出ステントは、反管腔側表面に関しては、75パーセントがベアメタルであり、25パーセントが開放したリザーバ表面区域である。換言すれば、ステントの外側表面上では、全表面積の約25パーセントがリザーバの区域であり、一方、残りの75パーセントがストラット及びヒンジの表面積である。この百分率は初期値である。換言すれば、後に詳細に説明するように、ステントの植え込み時には、血管壁に接触するステント表面積の75パーセントがベアメタルであり、ステントの表面積の25パーセントが、ポリマー及び薬物によって少なくとも部分的に充填されたリザーバである。しかしながら、PLGAは、エステル結合の加水分解による生分解性であるため、約90日で、ポリマー及び/又は薬物は、ステントのリザーバ内にはもはや全く残されていない。したがって、90日で、ステントの100パーセントがベアメタルであり、リザーバは、内部に収容していた薬物及びポリマーが枯渇している。より具体的には、血管に露出したステントの全表面積はベアメタルであり、リザーバ内には、ポリマー並びに/又はポリマー及び薬物は存在しない。それ故、薬物の送達により、再狭窄が排除され、ベアメタルステントは反跳を防ぐ足場として後に残される。この設計により、ベアメタルステントの利益、すなわち、血栓症及び/又は塞栓の潜在的危険性の低減、並びに局所薬物送達の抗再狭窄効果が達成される。
上述のように、例示的なステントのそれぞれは、シロリムス(ラパマイシン)、PLGAポリマー及びBHT(酸化防止剤)の混合物によって充填される、又は部分的に充填される複数のリザーバを含む。個々のリザーバはそれぞれ、実質的に同じ量の混合物を含む。シロリムスの所望の用量及び患者の動脈内に一旦配置されたステントからの、シロリムスの所望の溶出速度、若しくは所望の動力学的放出プロファイルの双方を達成するために、シロリムス、PLGA、及びBHTのそれぞれを特定の重量比(「製剤」と呼ばれる)で、ステントのリザーバ内に堆積させなければならない。用量の比率及び放出動力学は、上記で説明される。ステント内の全リザーバの利用可能な総容積及び拡張によるステント内の個々のリザーバのそれぞれにおける利用可能な容積が、患者に所望の効果を提供する製剤に求められる合計体積以上であることのみが要求される。つまり、製剤の体積として同等に正確に表すことができる製剤の必要量が、利用可能な総容積よりも少ない場合には、ステントのリザーバの総容積未満が、所望の量の製剤で充填されることになる。つまり、本発明の例示的なデバイスに関しては、利用可能な総容積よりも少ない体積が、効果的なステント製品のために要求される。好ましくは、利用可能なリザーバの総容積に、製剤が占める百分率は、利用可能な総容積の40パーセント〜70パーセント、及びより好ましくは、利用可能な総容積の50パーセント〜61パーセントである。以下の表8.0は、リザーバ充填の最大容積及び最小容積の百分率の、理論計算に関するデータを含む。リザーバの堆積物は、ステントのストラットの管腔側、すなわち近位面から充填され、100パーセントよりも遙かに少ない利用可能な容積が製剤で充填されるために、リザーバのインレーの頂部は、ステントの反管腔側、すなわち遠位表面よりも必然的に下方になり、したがってインレーは、その表面から陥凹することになる。したがって、反管腔側表面積の75パーセントがベアメタルであり、25パーセントがリザーバでありながらも、ポリマー、及び/又はポリマーと薬物との組み合わせは、この表面よりも下方にある。このことにより、薬物/ポリマーの層、すなわちインレーを、充填及び留置の間に保護するという付加的な利益がもたらされる。
また表8.0には、上記のように全てのリザーバではなく、1つ置きのリザーバに充填したステントに関するデータがある。この例示的な実施形態では、同一の全体用量を得るために、充填される又は部分的に充填されるリザーバ内で、製剤が占める容積は76〜88パーセントである。
以下に示す表9.0及び表10.0は、それぞれ、ポリマー/薬物の組成物を有するステント及びポリマー/薬物の組成物を有さないステントの外径の、完成デバイスの金属と管との比の百分率を含む。したがって、デバイスの、ポリマー(ポリマー及び薬物の組成物)の設置面積は、ステント留置した管の設置面積の約4.1パーセント〜5.0パーセントを占め、一方、ベアメタルの外径ステント表面と管との比率は、13.3パーセント〜17.8パーセントの範囲である。
・NEVOステント留置された管の比は、17.4%〜22.6%の範囲である。
・ポリマー設置面積は、ステント留置した管の設置面積の4.1%〜5%を占める。
・NEVOステント外径露出表面の、管に対する比率は、13.3%〜17.8%の範囲
ここで図示及び説明した実施形態は、最も実用的で好適な実施形態と考えられるが、当業者であれば、ここに図示及び開示した特定の設計及び方法からの変更はそれ自体当業者にとって自明であり、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく使用できることは明らかであろう。本発明は、記載及び図示された特定の構成に限定されず、添付の特許請求の範囲内に含まれ得る全ての変更物と一致すると解釈されるべきである。
〔実施の態様〕
(1) 生体の管状器官内に植え込むための、薬物溶出リザーバを備えるベアメタルステントであって、
管腔側表面及び反管腔側表面を有する細長管状構造体であって、前記細長管状構造体は、相互接続する複数の要素を含み、前記相互接続する要素の一部分は、前記管腔側表面から前記反管腔側表面へと延びる少なくとも1つのリザーバを備える、細長管状構造体と、
前記細長管状構造体の前記管腔側表面に近接し、前記少なくとも1つのリザーバ内に堆積される、ポリマーを含む少なくとも1つの基部組成物インレーと、
前記リザーバ内に、前記基部組成物インレーの頂部、かつ前記細長管状構造体の前記反管腔側表面より下方で堆積される、治療薬を含む少なくとも1つの頂部組成物インレーと、を含み、植え込みの際は、前記反管腔側表面の約75パーセントがベアメタルであり、前記反管腔側表面の約25パーセントが、前記少なくとも1つの基部組成物インレー及び前記少なくとも1つの前記頂部組成物インレーによって少なくとも部分的に充填される前記リザーバを含み、植え込みの約90日後には、前記少なくとも1つの基部組成物インレー及び前記少なくとも1つの頂部組成物インレーは存在しない、ベアメタルステント。
(2) 生体の管状器官内に植え込むための、薬物溶出リザーバを備えるベアメタルステントであって、
管腔側表面及び反管腔側表面を有する細長管状構造体であって、前記細長管状構造体は、相互接続する複数の要素を含み、前記相互接続する要素の一部分は、前記管腔側表面から前記反管腔側表面へと延びる少なくとも1つのリザーバを備える、細長管状構造体と、
前記細長管状構造体の前記管腔側表面に近接し、前記少なくとも1つのリザーバ内に堆積される、PLGAを含む少なくとも1つの基部組成物インレーと、
前記リザーバ内に、前記基部組成物インレーの頂部、かつ前記細長管状構造体の前記反管腔側表面より下方で堆積される、PLGA、ラパマイシン、及びBHTを含む少なくとも1つの頂部組成物インレーと、を含み、植え込みの際は、前記反管腔側表面の約75パーセントがベアメタルであり、前記反管腔側表面の約25パーセントが、前記少なくとも1つの基部組成物インレー及び前記少なくとも1つの前記頂部組成物インレーによって少なくとも部分的に充填される前記リザーバを含み、植え込みの約90日後には、前記少なくとも1つの基部組成物インレー及び前記少なくとも1つの頂部組成物インレーは存在しない、ベアメタルステント。
(3) 生体の管状器官内に植え込むための、薬物溶出リザーバを備えるベアメタルステントであって、管腔側表面及び反管腔側表面を有する細長管状構造体であって、前記細長管状構造体は、相互接続する複数の要素を含み、前記相互接続する要素の一部分は、前記管腔側表面から前記反管腔側表面へと延びる少なくとも1つのリザーバを備える、細長管状構造体を含み、前記反管腔側表面の約75パーセントがベアメタルであり、前記反管腔側表面の約25パーセントが、少なくとも1つのリザーバを含む、ベアメタルステント。