以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態にかかる電流制御装置及びその制御対象である無段変速機を示す図である。同図に示す無段変速機1は、駆動源としてのエンジン(内燃機関)10を備える車両に搭載される変速機であって、エンジン10の動力がフライホイール11及び発進クラッチ12を介して伝達される入力軸2と、入力軸2と平行に配置された出力軸(カウンタシャフト)3と、入力軸2及び出力軸3と平行に配置された中間軸4と、トロイダル型無段変速機構5と、アイドルギア列6と、差動機構としての遊星歯車機構7とを備えて構成されている。
トロイダル型無段変速機構(以下、単に「無段変速機構」と記す。)5は、入力軸2と同心であって一体に回転する一対の入力側ディスク51と、入力側ディスク51の間であって入力軸2に対して同心且つ回転自在に配置された出力側ディスク52と、入力側ディスク51と出力側ディスク52との間に配置され、入力側ディスク51と出力側ディスク52との間で動力を伝達させるパワーローラ(転動体)53とを備える。
パワーローラ53は、入力側ディスク51の内面に形成されたトロイダル面(転動面)51bと、出力側ディスク52の内面に形成されたトロイダル面(転動面)52bを転動するための回転軸53aを備えると共に、回転軸53aと直交し紙面垂直方向に延びる揺動軸53b(トラニオン)に対して揺動自在となっており、パワーローラ53を揺動軸53bの周りで揺動させて傾斜角度を変化させることで、トロイダル面51b,52bに対する接触圧(摩擦力)を変化させながら該トロイダル面51b,52bを転動する。これにより、無段変速機構5の速度比(レシオ)を無段階に変化できるように構成されている。すなわち、エンジン10の駆動力が入力された入力側ディスク51の回転はパワーローラ53に伝達され、パワーローラ53から出力側ディスク52に伝達される。無段変速機構5では、パワーローラ53の傾斜角度を連続的に変化させることで無段変速を行う。
詳細な図示は省略するが、パワーローラ53は、トラニオン95(図2参照)に上下で支えられており、該トラニオン95の全体が油圧ピストンとつながっている。これにより、油圧ピストンに供給される油圧に応じてトラニオン95が上下方向に移動するようになっている。また、パワーローラ53は、トラニオン95を中心に回転する構造となっている。パワーローラ53の揺動軸53bが入力側ディスク51及び出力側ディスク52の中心を通る場合、パワーローラ53を傾斜させる力が発生しない。そのため、パワーローラ53の傾きが変化せず変速が行われない。その一方で、パワーローラ53の揺動軸53bを上方へ移動させると、入力側ディスク51及び出力側ディスク52からパワーローラ53に該パワーローラ53を外方へ押し出す力が伝達される。このパワーローラ53を外方へ押し出す力によって、パワーローラ53が傾いてゆく。一方、パワーローラ53の揺動軸53bを下方へ移動させると、入力側ディスク51及び出力側ディスク52からパワーローラ53に該パワーローラ53を内方へ引き込む力が伝達される。このパワーローラ53を内方へ引き込む力によって、パワーローラ53は反対方向に傾いてゆく。
そして、上記のパワーローラ53の揺動は、後述する油圧制御装置100が備えるトラニオン(ロー側)用コントロールバルブLS4及びトラニオン(ハイ側)用コントロールバルブLS5によって、トラニオン95を上下方向に移動させる動作で行われる。
また、無段変速機1は、入力側ディスク51と出力側ディスク52との間にパワーローラ53を圧接する手段として、圧接用の押圧力(ローダ圧)を発生するローダピストン96(図2参照)を備える。そして、後述する油圧制御装置100には、ローダピストン用コントロールバルブLS3が設けられている。これにより、コントロールバルブLS3による制御油圧(ローダ圧)の大きさに応じてパワーローラ53を押圧し、その反作用としてローダピストン96は入力側ディスク51をパワーローラ53に押圧する。ローダ圧による押付力(スラスト力)は、入力側ディスク51と出力側ディスク52との間でパワーローラ53を挟み付け、伝達トルクの大きさに応じた摩擦係合力を与える。
出力側ディスク52の外周には、出力用の外歯52aが設けられている。この外歯52aには、中間軸4に一体回転するように固定された第1伝達ギア81が噛合している。
遊星歯車機構7は、中間軸4に同心に固定されたサンギア71と、リングギア72と、サンギア71及びリングギア72に噛合するピニオン73を自転及び公転自在に軸支するキャリア74との3つの要素を備える。
アイドルギア列6は、入力軸2に固定された第1中間ギア61と、中間軸4と同心であってキャリア74に連結された第2中間ギア62と、第1中間ギア61と第2中間ギア62とに噛合し、図示省略した無段変速機1のケーシングに回転自在に軸支された第3中間ギア63とで構成される。
中間軸4には、第2伝達ギア82が回転自在に軸支されている。また、無段変速機1には、ロークラッチ91とハイクラッチ92とが設けられている。ロークラッチ91は、第2伝達ギア82とリングギア72とを連結する連結状態と、この連結を断つ解放状態とに切換自在に構成されている。ハイクラッチ92は、第2伝達ギア82と第1伝達ギア81とを連結する連結状態と、この連結を断つ解放状態とに切換自在に構成されている。ロークラッチ91及びハイクラッチ92は、湿式多板クラッチで構成されている。なお、本発明の第1クラッチ及び第2クラッチは、湿式多板クラッチに限らず、他のクラッチを用いてもよい。
第2伝達ギア82は、出力軸3に固定された第3伝達ギア83と噛合している。出力軸3には、デファレンシャルギア13と噛合する出力ギア3aが固定されている。また、出力ギア3aと第3伝達ギア83との間に位置させてパーキングギア3bが出力軸3に固定されている。
また、車両には、無段変速機1の変速動作を制御するための変速制御ユニット(TCU:電流制御装置)30が設けられている。変速制御ユニット(以下、「電流制御装置」と記す。)30は、後述する油圧制御装置100が備えるリニアソレノイドLS1〜LS6に流れる電流を制御することで、トラニオン95及びローダピストン96に供給される作動油の油圧を制御する。これにより、パワーローラ53の回転及び揺動を制御して無段変速機構5による速度比(レシオ)を無段階に制御すると共に、ハイクラッチ92及びロークラッチ91の締結力を制御することで、無段変速機1の全体の速度比を制御する。
また、車両には、運転者によるアクセルペダルの操作に伴うアクセル開度APを検出するアクセル開度センサ16、車速Vを検出するための車速センサ17、エンジンの回転数を検出するエンジン回転数センサ18、シフトレバーの位置を検出するポジションセンサ19が設けられている。アクセル開度センサ16、車速センサ17、エンジン回転数センサ18、ポジションセンサ19の検出値(データ)は、電流制御装置30に入力される。
図2は、本実施形態の無段変速機1が備える変速制御用の油圧制御装置(油圧回路)を示す図である。同図に示す油圧制御装置100は、ロークラッチ91及びハイクラッチ92、トラニオン95、ローダピストン96などを駆動するための作動油が循環する油圧回路101と、オイルタンクOTの作動油を油圧回路101に供給するオイルポンプOPと、油圧回路101に供給された作動油をライン圧(元圧)に調圧するレギュレータバルブ110及びコントロールバルブ(リニアソレノイドバルブ:制御対象)LS6と、レギュレータバルブ110及びコントロールバルブLS6でライン圧に調圧された作動油を更に調圧する複数のコントロールバルブ(リニアソレノイドバルブ:制御対象)LS1〜LS5とを備えている。
コントロールバルブLS6は、ノーマルオープン型のリニアソレノイドバルブであり、非通電時(オフ時)にその油路が開放されて、下流側の油路111へ最大圧(ライン圧の最大値)の信号油圧が供給されるようになっている。
レギュレータバルブ110及びコントロールバルブLS6の下流側の油路111は複数に分岐して、それぞれロークラッチ用コントロールバルブLS1、ハイクラッチ用コントロールバルブLS2、無段変速機構5のローダピストン用コントロールバルブLS3、トラニオン(ロー側)用コントロールバルブLS4、トラニオン(ハイ側)用コントロールバルブLS5に繋がっている。
これにより、オイルポンプOPから排出された作動油は、油路112を経由してレギュレータバルブ110及びコントロールバルブLS6に導入されてライン圧に調圧される。その後、油路111を経由して各コントロールバルブLS1〜LS6に供給されて、ロークラッチ91、ハイクラッチ92、ローダピストン96、トラニオン95のロー側油室95a、トラニオン95のハイ側油室95bの少なくともいずれかに供給される。
各コントロールバルブLS1〜LS6は、電流制御装置30と接続されて制御信号が入力され、レギュレータバルブ110で一次調圧された作動油を制御信号に基づいて二次調圧する。各コントロールバルブLS1〜LS6は、ソレノイド(図示せず)を備えており、電流制御装置30から制御信号として入力される電流で該ソレノイドが駆動し、入力される制御信号の大きさ(電流の大きさ)に応じて作動油を二次調圧する。そして、入力される制御信号(電流)の増加に応じて作動油の油圧を昇圧して出力するように構成されている。
各コントロールバルブLS1〜LS6とロークラッチ91、ハイクラッチ92、ローダピストン96、トラニオンのロー側油室95a、トラニオンのハイ側油室95bそれぞれとの間の油路121〜125には、油圧センサ(状態検出手段)P1〜P5が設置されている。また、油路111には、油圧センサ(状態検出手段)P6が設置されている。油圧センサP1〜P5は、コントロールバルブLS1〜LS5からクラッチ91,92やトラニオン95、ローダピストン96に供給される作動油の油圧を検出する。油圧センサP6は、レギュレータバルブ110及びコントロールバルブLS6で調圧された作動油の油圧(ライン圧)を検出する。油圧センサP1〜P6で検出された油圧のデータは、電流制御装置30に入力される。
ロークラッチ用コントロールバルブLS1でロークラッチ91に供給される油圧によって、ロークラッチ91の締結制御が行われる。また、ハイクラッチ用コントロールバルブLS2でハイクラッチ92に供給される油圧によって、ハイクラッチ92の締結制御が行われる。また、ローダピストン用コントロールバルブLS3でローダピストン96に供給される油圧によって、ローダピストン96による押圧力の制御が行われる。また、トラニオン(ハイ側)用コントロールバルブLS5でトラニオン95のハイ側油室95bに油圧を供給すると、パワーローラ53の軸を上方に移動させることができる。一方、トラニオン(ロー側)用コントロールバルブLS4でトラニオン95のロー側油室95aに油圧を供給すると、パワーローラ53の軸を下方に移動させることができる。
次に、電流制御装置30の構成について説明する。本実施形態の電流制御装置30は、トロイダル型の無段変速機1の変速制御を行うものである。そのため、無段変速機1に設けられた複数(本実施形態では6個)のコントロールバルブ(リニアソレノイドバルブ)LS1〜LS6を各々に通電制御する機能を有する。
図3は、電流制御装置30の構成を示すブロック図である。同図に示すように、電流制御装置30は、主制御部31、油圧センサP1〜P6による検出値が入力されるセンサ入力回路L1〜L6、コントロールバルブLS1〜LS6用のスイッチング素子などからなる駆動回路(ソレノイド駆動回路)M1〜M6を含んで構成されている。この電流制御装置30のシステムは、イグニッションスイッチ(IG−SW)33が「ON」することで、バッテリ(主電源)34から電源回路32に電力が供給されて起動する。また、油圧センサP1〜P6で検出されて電流制御装置30に入力された油圧のデータは、電流制御装置30が内蔵するセンサ入力回路L1〜L6を介して主制御部31に入力される。また、バッテリ34と駆動回路M1〜M6との間には、フェイルセーフリレー(FSR)39が介在している。主制御部31がフェイルセーフリレー39を「OFF」すると、バッテリ34と駆動回路M1〜M6との間が遮断される。
各リニアソレノイドバブルLS1〜LS6の駆動回路M1〜M6には、ロークラッチ用コントロールバルブLS1の駆動回路M1、ハイクラッチ用コントロールバルブLS2の駆動回路M2、ローダピストン用コントロールバルブLS3の駆動回路M3、トラニオン(ロー側)用コントロールバルブLS4の駆動回路M4、トラニオン(ハイ側)用コントロールバルブLS5の駆動回路M5、ライン圧用コントロールバルブLS6の駆動回路M6がある。
各駆動回路M1〜M6は、各コントロールバルブLS1〜LS6を制御する制御信号を生成する回路である。各駆動回路M1〜M6にはバッテリ34が接続され、主制御部31のPMW信号出力回路38から出力されるPWM(Pulse Width Modulation)信号に応じて、バッテリ34から各コントロールバルブLS1〜LS6のソレノイドを駆動する電流を生成し、制御信号としてソレノイドに入力する。
主制御部31は、CPU(Central Processing Unit:駆動信号計算手段、出力値セット手段、出力手段、待ち時間設定手段)35と、A/D変換器(A/D変換手段)36と、タイマ回路(待ち時間設定手段)37と、PWM信号出力回路(駆動手段)38とを備えている。A/D変換器36は、センサ入力回路L1〜L6から入力された油圧センサP1〜P6による検出値をA/D変換してCPU35に出力する。CPU35は、リニアソレノイドLS1〜LS6の通電制御を司るもので、当該CPU35にて演算された各リニアソレノイドLS1〜LS6に流すべき電流を表すデータ(目標電流値)に従って、各リニアソレノイドLS1〜LS6に流れる電流をフィードバック制御する。タイマ回路37は、CPU35が時間を計測するために用いるもので、図示は省略するが、定周期を計測するための回路と、後述する待ち時間タイマT1を計測するための回路と、後述する制御進行計測用カウンタCnt1を計測するための回路とが内蔵されている。なお、定周期を計測するための回路と制御進行計測用カウンタCnt1を計測するための回路とは、別々の回路として備えていても良いし、同一の回路を共用するように構成することも可能である。
図4は、本実施形態におけるPWMデューティ制御の具体例を説明するためのタイミングチャートである。なお同図では、制御対象である複数のチャンネルの各チャンネルを例に挙げて説明するが、各チャンネルそれぞれの制御内容は共通である。同図に示すように、各チャンネルの制御は、予め定めた定周期S(例えば、S=10msec)を一サイクルとして行われる。一連の制御処理(1回分)の最初に前回の制御処理でセットした出力値(制御量)の出力処理(PWM信号のデューティ比の出力処理)を行う。その後、設定された待ち時間T1が経過したら、A/D変換器36によるA/D変換処理を行い、そのA/D変換値を用いてCPU35による出力値(制御量)の計算(演算)処理を行い、その後、CPU35による出力値のセットを行う。出力値のセットを行ったら、定周期Sが経過するまでの残り時間(以下、この時間を「無駄時間」という。)T2の間、待機する。そして、次回の制御処理(定周期S)の最初にCPU35からPWM信号出力回路38への出力値の出力が行われる。すなわち、出力値の出力は、上記の定周期Sごとに(一定周期で)実施される。
ここで、上記の一連の制御処理における各制御の内容を説明する。A/D変換器36によるA/D変換処理は、センサ入力回路L1〜L6から入力した油圧センサP1〜P6の検出値をA/D変換する処理である。また、CPU35による出力値(制御量)の計算(演算)処理は、電流フィードバック制御を行うために、油圧センサP1〜P6の検出値が目標値となるようにPWM信号のデューティ比を算出する処理である。また、CPU35による出力値のセット処理は、計算したPWM信号のデューティ比をPWM信号出力回路38に出力するための値としてセットする処理である。すなわち、CPU35は、各リニアソレノイドLS1〜LS6をデューティ制御するためのPWM信号PWM1〜PWM6のデューティ比を定期的に計算し、その計算結果をPWMデータ(PWM指示値)としてPWM信号出力回路38に出力する。
図5は、本実施形態の制御における複数チャンネルのPWMデューティ制御の具体例を示すタイミングチャートである。ここでは、複数チャンネルとして、チャンネルA〜チャンネルDの4チャンネルを例示する。チャンネルA〜チャンネルDのそれぞれの制御対象は、上記のリニアソレノイドLS1〜LS6のうちいずれか4つが該当する。本実施形態の制御では、同図のタイミングチャートに示すように、CPU35による制御量のセットからPWM信号出力回路38への出力値の出力までの無駄時間(遅れ時間)T2を遂次計測し、計測した無駄時間T2に基いてCPU35によるA/D変換後に制御量の計算(F/B演算)を開始するタイミングを補正する制御を行う。すなわち、CPU35によるA/D変換後に制御量の計算が完了する時間を監視し、次のA/D変換後に制御量の計算の開始タイミングを調整することで、A/D変換器36によるA/D変換及びCPU35によるA/D変換とCPU35による制御量の計算とをPWM信号出力回路38への出力の直前に行うようにしている。すなわち、CPU35によるA/D変換後に制御量の計算が完了するタイミングが早すぎる場合は、次回の計算を開始するタイミングを遅らせる。その一方で、PWM信号出力回路38への出力までにCPU35によるA/D変換、制御量の計算、出力値のセットの少なくともいずれかが間に合わないときは、次回のA/D変換後に制御量の計算を開始するタイミングを早める。また、本実施形態の制御では、PWM信号出力回路38への出力のタイミング(PWMデューティを出力するタイミング)を複数のチャンネルごとに異ならせるようにしている。出力を異ならせるタイミングは、各チャンネルで一定時間DTごとに異ならせている。以下、これらの制御について詳細に説明する。
図6は、本実施形態のPWMデューティ制御を詳細に説明するためのタイミングチャートである。また、図7及び図8は、本実施形態の制御の手順を示すフローチャートである。図6のタイミングチャートには、図7及び図8のフローチャートのステップ番号(符号)を併記している。本実施形態の制御では、各リニアソレノイドLS1〜LS6を制御するための制御量の出力処理が定周期になったときに、図7に示す定周期制御が開始される。ここでいう定周期制御とは、具体的には、CPU35からPWM信号出力回路38への制御量の出力処理であるが、当該出力処理は、定周期Sごとに実行される制御であるため、後述する待ち時間タイマT1による待ち時間T1が経過した後に行われるA/D変換などの制御と区別して定周期制御と称している。この定周期制御では、まず、タイマ回路37は、図6に示す定周期Sを計測するための定周期計測用カウンタCnt0の計時を開始する(ステップS1)。また、タイマ回路37は、図6に示す制御進行計測用カウンタCnt1の計時を開始する(ステップS2)。この制御進行計測用カウンタCnt1は、例えば、定周期SがS=10msecで1カウントが0.1msecの場合には、1回の制御ジョブでのカウント数が100となる。次に、CPU35は、前回の制御ジョブで計算した(最後に計算した)出力値(PWMデューティ値)をPWM信号出力回路38へ出力する(ステップS3)。なお、PWMデューティは搬送周波数が一定なので、出力値を出力するタイミングを各回で異ならせることはできない。したがって、一定の周期(定周期S)ごとに出力値を出力する。
そして、前回の制御ジョブでの制御量の計算が完了しているか否かを判断する(ステップS4)。その結果、前回の制御ジョブでの制御量の計算が完了していれば(YES)、前回の制御ジョブで算出した無駄時間T2のデータを用いて、待ち時間タイマT1の値を計算する(ステップS5)。ここでは、待ち時間タイマT1(今回値)=待ち時間タイマT1(前回値)+無駄時間T2×調整係数k1とすることで、待ち時間タイマT1の今回値を前回値から増加させる補正を行う。つまり、無駄時間T2が長いほど待ち時間T1は長い時間に設定される。例えば、待ち時間タイマT1(前回値)=6msec、無駄時間T2=2msec、調整係数k1=0.5とすると、待ち時間タイマT1(今回値)=7msecとなる。上記の調整係数k1を無駄時間T2に乗じるのは、待ち時間タイマT1の今回値が前回値に対して急変しないようにするためである。なお、上記の無駄時間T2は、後述するステップS12で算出される値であり、前回の制御ジョブでの無駄時間T2を反映して算出された時間である。
続けて、ステップS5で設定した待ち時間タイマT1をセットする(ステップS6)。例えば、ステップS5での計算値である7msecを待ち時間タイマT1としてセットする。なお、待ち時間タイマT1の値は、タイマ回路37とは別のCPU35に内蔵されたタイマにセットする。待ち時間タイマT1をセットしたら、待ち時間タイマT1のカウント(計測)を行う。待ち時間タイマT1のカウントでは、待ち時間タイマT1の設定時間が経過したか否かを判断する(ステップS7)。その結果、待ち時間タイマT1の設定時間が経過していなければ(NO)、待ち時間タイマT1の設定時間が経過するまで待機し、待ち時間タイマT1の設定時間が経過していれば(YES)、待ち制御(ウエイトジョブ)を開始する(符合A)。
一方、先のステップS4で前回の制御量の計算が完了していない場合(NO)には、待ち時間タイマT1の前回値を用いて今回値を計算する(ステップS8)。ここでは、待ち時間タイマT1(今回値)の最大値T1Max=待ち時間タイマT1(前回値)×(調整係数k2)とすることで、待ち時間タイマT1(今回値)の最大値を待ち時間タイマT1(前回値)を超えない値に設定する。例えば、待ち時間タイマT1(前回値)=6msecの場合、待ち時間タイマT1(今回値)の最大値T1Max=6×0.95(調整係数k2)となる。待ち時間タイマT1(前回値)に調整係数k2を掛けることにより、待ち時間タイマT1の今回値が前回値よりも小さな値に収束するようにする。このようにして、制御量の計算が完了しなかった分の遅れ時間を反映した待ち時間T1を計算する。
その後、ステップS8で設定した待ち時間タイマT1をセットする(ステップS6)。待ち時間タイマT1をセットしたら、待ち時間タイマT1のカウント(計測)を行う。待ち時間タイマT1のカウントでは、待ち時間タイマT1の設定時間が経過したか否かを判断する(ステップS7)。その結果、待ち時間タイマT1の設定時間が経過していなければ(NO)、待ち時間タイマT1の設定時間が経過するまで待機し、待ち時間タイマT1の設定時間が経過していれば(YES)、待ち制御(ウエイトジョブ)を開始する(符合A)。
次に、待ち制御(ウエイトジョブ)について説明する。ここでいう待ち制御とは、具体的には、A/D変換器36によるA/D変換、CPU35によるリニアソレノイドLS1〜LS6の制御量の計算及びセットの制御であって、先に設定した待ち時間タイマT1による待ち時間が経過した後に行われる制御であるため、ここでは、上記の定周期制御と区別して待ち制御と称している。待ち制御が開始されると、図8に示すように、まず、油圧センサP1〜P6の検出値の取得、及び取得した検出値のA/D変換処理が行われる(ステップS9)。その後、CPU35は、リニアソレノイドLS1〜LS6の制御量の計算を行う(ステップS10)。この制御量の計算は、例えば、既述の油圧フィードバック(F/B)制御の制御量である。そして本制御では、上記のセンサ検出値の取得(ステップS9)、制御量の計算(ステップS10)、及び後述する出力値のセット(ステップS12)のいずれかの処理を実行している途中に定周期計測用カウンタCnt0が定周期Sに達したか否かを判断し(ステップS11)、定周期計測用カウンタCnt0が定周期Sに達した場合(YES)には、その時点で実行している処理を中断(中止)して定周期制御の開始時点に戻る(符合B)。すなわち、制御量の計算途中の場合は、次の制御処理が割り込まれて強制的にスタートされるので、ステップS10の制御量計算処理などは途中で中断される。なお、図8では、定周期Sが経過したか否かを判断するステップS11は、制御量計算を実行するステップS10の後に記載しているが、実際には、センサ検出値を取得するステップS9、制御量計算を実行するステップS10、出力値をセットするステップS12の各ステップの実行中には、定周期Sが経過したか否かの監視が常時行われており、各ステップの実行中に定周期Sが経過したら、実行中のステップの処理が中止される。図8のフローチャートでは、ステップS11を便宜的にステップS10とステップS12の間に設けている。
一方、定周期Sが経過する前に制御量の計算が完了していれば(ステップS11でNO)、CPU35は、PWM信号出力回路38に出力するための出力値をセットする(ステップS12)。出力値のセットは、例えば、PMW制御のデューティ比を45%にセットすることで行われる。その後、制御進行計測用カウンタCnt1を取得し、無駄時間T2を計算する(ステップS13)。すなわち、制御進行計測用カウンタCnt1のカウント数を計測し、当該カウント数から無駄時間T2を計算する。ここでの無駄時間T2とは、出力値のセットの完了時点における定周期Sの終了までの残り時間であり、無駄時間T2=定周期S−出力値のセットまでの所要時間TA、である。例えば、制御進行計測用カウンタCnt1のカウント数が70であれば、今回の制御処理に要した所要時間はTA=7msecとなる。したがって、定周期S=10msecから所要時間のTA=7msecを引いた3msecが無駄時間T2となる。ステップS12で無駄時間T2を計算したら待ち制御を終了する。その後、定周期計測用カウンタCnt0が定周期Sに達したか否かを判断し(ステップS14)、定周期計測用カウンタCnt0が定周期Sに達していなければ(NO)、定周期Sに達するまで待った後(YES)、定周期制御処理の開始時点に戻る(符号B)。
上記の制御の一部を図6に基いて再度説明すると、図6に示すチャンネルA(chA)の制御では、PWM信号出力回路38は、前回の制御ジョブで計算し、セットした出力値(PWMデューティ値)を出力する(ステップS3)。その後、前回の制御ジョブでの無駄時間T2を反映した待ち時間タイマ(待ち時間)T1を設定する(ステップS5,ステップS6)。待ち時間タイマT1の設定時間が経過したら(ステップS7)、A/D変換器36によるA/D変換を行い(ステップS9)、A/D変換した値に基づいてCPU35による制御量の計算を行い(ステップS10)、PWM信号出力回路38に出力するための出力値をセットする(ステップS12)。その後、無駄時間T2を計測する(ステップS13)。
また、図6に示すチャンネルC(chC)の制御は、前回の制御ジョブでの計算処理の時間よりも今回の制御ジョブでの計算処理の時間が長くなり、PWM信号出力回路38による制御量の出力までに制御量の計算(演算)が間に合わないケースである。この場合、前回の制御において、出力値を出力(ステップS3)し、その後、前々回の制御ジョブでの無駄時間T2を反映した待ち時間タイマ(待ち時間)T1を設定する(ステップS5,ステップS6)。待ち時間タイマT1の設定時間が経過したら(ステップS7)、A/D変換器36によるA/D変換を行い(ステップS9)、A/D変換した値に基づいてCPU35による制御量の計算を行う(ステップS10)。そしてここでは、制御量の計算の途中で今回の制御ジョブの定周期Sが経過した場合を示しており、この場合、定周期Sが経過した時点で制御量の計算が中断されて(ステップS11)、次回の制御ジョブにおいて、前々回の制御ジョブでセットされた出力値の出力が行われる(ステップS3)。そしてこの場合は、前回の制御量計算が完了していない場合(ステップS4でNO)に該当するので、前回の遅れ時間を反映した待ち時間の計算が行われる(ステップS8)。すなわち、待ち時間タイマT1の前回値から今回値の最大値を計算し、当該最大値を越えない範囲で待ち時間タイマT1の今回値を設定する(ステップS6)。なお、上述した前々回の制御ジョブでセットされた出力値は、本願発明(請求項4)における「前回の処理において出力値セット手段でセットされた出力値」に該当する。
以上説明したように、本実施形態の制御によれば、CPU35からPWM信号出力回路38へ駆動信号を出力してからA/D変換器36によるA/D変換を実施するまでの待ち時間(待ち時間タイマ)T1を設定し、この設定した待ち時間T1が経過したらA/D変換を実施するようにしている。これにより、駆動回路M1〜M6へ出力するための駆動信号を計算するタイミングと、計算した駆動信号に基づく出力値を出力するタイミングとの間隔を短くできる。したがって、制御対象であるリニアソレノイドLS1〜LS6(駆動回路M1〜M6)の直前の状態に基づいて駆動信号を算出できるので、リニアソレノイドLS1〜LS6の制御の追従性を向上させることができる。たとえば、F/B制御を実施するときには、リニアソレノイドLS1〜LS6の現在の状態は時々刻々と変化するため、リニアソレノイドLS1〜LS6に駆動信号の出力値を出力する直前の状態を検出して出力用の駆動信号を計算することで、制御の追従性が良くなる。
また、PWM信号出力回路38への出力値の出力は定周期Sごとに実施されるため、A/D変換器36によるA/D変換やCPU35による出力値のセットが早い時期に実施されると、PWM信号出力回路38への出力値の出力が実施されるまでの間に無駄時間T2が発生する。しかしながら、リニアソレノイドLS1〜LS6(駆動回路M1〜M6)を駆動するための駆動信号を計算するタイミングと、計算した駆動信号に基づく出力値を出力するタイミングとの間隔を短くするためには、この無駄時間T2を短い時間に抑えることが必要である。そこで、本実施形態の制御では、上記の待ち時間T1を上記の無駄時間T2に基づいて設定するようにしている。これにより、無駄時間T2を短い時間に抑えるように待ち時間T1を設定することが可能となる。
また、無駄時間T2が長いほど待ち時間T1を長い時間に設定することで、無駄時間T2を短く抑えることができる。したがって、リニアソレノイドLS1〜LS6を駆動するための駆動信号を計算するタイミングと、計算した駆動信号に基づく出力値を出力するタイミングとの間隔を効果的に短くできる。
また、図5及び図6に示すチャンネルCの場合のように、待ち時間T1が経過した後のA/D変換器36によるA/D変換、CPU35による駆動信号の計算、CPU35による出力値のセットのいずれかの最中に定周期Sが経過した場合には、その時点で実行している処理を中止し、CPU35は、前回の制御ジョブでセットされた出力値をPWM信号出力回路38へ再度出力するようにしている。
待ち時間T1の経過後のA/D変換、駆動信号の計算、出力値のセットのいずれかの最中に定周期Sが経過したときは、今回の制御ジョブで新たな出力値の計算及びセットが行えないので、前回の制御ジョブでセットした出力値を再度出力する。これにより、制御量の計算が間に合わない場合でも、リニアソレノイドLS1〜LS6への出力値の出力が行えるので、制御対象であるリニアソレノイドLS1〜LS6の制御が行えない状態を回避できる。
また、本実施形態では、待ち時間T1が経過した後のA/D変換器36によるA/D変換、CPU35による駆動信号の計算、CPU35による出力値のセットのいずれかの最中に定周期Sが経過した場合には、次回の制御ジョブの待ち時間T1を今回の制御ジョブの待ち時間T1よりも短い時間に設定するようにしている。
待ち時間T1の経過後のA/D変換、制御量の計算のいずれかの最中に定周期Sが経過したときには、次回の待ち時間T1を今回の待ち時間T1より短く設定することで、次回の制御ジョブでは、定周期Sが経過する前に制御量の計算が確実に終わるようにすることができる。したがって、次回の制御ジョブでは、計算が終わった最新の制御量を出力することができる。
また、本実施形態では、CPU35からPWM信号出力回路38へ出力値を出力するチャンネルとしてチャンネルA〜Dの複数のチャンネルを備えている。そして、複数のチャンネルごとにCPU35からPWM信号出力回路38へ出力値を出力するタイミングを一定時間(DT)ずつ異ならせている。
この構成によれば、PWM信号出力回路38への出力値の出力が同じタイミングに集中することを回避できるので、電源装置34などに高い負荷がかかることを防止できる。また、A/D変換器36によるA/D変換やCPU35による出力値(制御量)の計算が同じタイミングに集中することも回避できるので、A/D変換の精度が低下することや、CPU35への負荷が集中することを防止できる。
また、トロイダル型の無段変速機1の変速制御を行うためのコントロールバルブLS1〜LS6は、比較的に早い動作が要求される制御対象であるところ、本実施形態の電流制御装置30は、その制御対象をトロイダル型の無段変速機1の変速制御を行うためのコントロールバルブLS1〜LS6としたことで、無段変速機1の制御の良好な追従性を確保でき、変速制御性を向上させることができる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、本発明にかかる無段変速機が備える無段変速機構の一例として、入力側ディスクと出力側ディスクとの間で摩擦転動する転動体(ローラ)を備えるトロイダル型の無段変速機構を示したが、本発明にかかる電流制御装置による制御対象を含む無段変速機構は、変速比を無段階で変更可能な無段変速機構であれば、これ以外にも、駆動プーリと従動プーリとの間に架け渡した無端ベルトを備えるベルト式の無段変速機構であってもよい。その場合、本発明にかかる制御対象は、駆動プーリと従動プーリの側圧を調整するための油圧を供給するコントロールバルブ用のリニアソレノイドとすることができる。さらには、本発明にかかる電流制御装置の制御対象は、無段変速機だけでなく有段変速機の変速制御を行うためのコントロールバルブ用のリニアソレノイドであってもよい。
また、上記実施形態では、本発明にかかる制御対象がいずれもリニアソレノイドを備えたコントロールバルブ(制御量を線型に制御できるバルブ)である場合を示したが、本発明にかかる制御対象はこれ以外にも、オンオフ型のソレノイドバルブなど、他の構成のバルブであっても良い。また、バルブ以外のアクチュエータなどを駆動するためのリニアソレノイドを備えた機構であってもよい。
また、上記実施形態に示す電流制御装置による制御チャンネルの数や制御ジョブの定周期の期間などの数値はいずれも一例であり、他の数値を選択することも可能である。
また、上記実施形態では、本発明にかかる駆動手段が主制御部31内のPWM信号出力回路38であって、CPU35で計算してセットした出力値をPWM信号出力回路38から出力し、さらにPWM信号出力回路38から出力されるPWM信号で駆動される各駆動回路M1〜M6からの制御信号が各コントロールバルブLS1〜LS6に入力されるように構成した場合を示している。しかしながらこれ以外にも、近年用いられるようになってきた各コントロールバルブ(リニアソレノイド)ごとに設けられたドライバIC(バルブ駆動IC)を備えた構成を採用することも可能である。この場合のドライバICは、CPUから電流指令値といったPWM信号以外の信号を受けてコントロールバルブを駆動する駆動手段である。すなわち、本発明の実施態様としては、CPUなどの計算手段で算出した結果をどのように処理して、リニアソレノイドなどの制御対象をどのように作動させるかは、適宜選択することが可能である。
また、上記実施形態では、本発明にかかる主電源がバッテリ34である場合を示したが、これ以外にも、図示は省略するが、本発明にかかる主電源は、高圧電源からDC−DCコンバータを用いて降圧した低電圧の電源を生成するような電源であってもよい。