本発明を適用した実施形態として、被検者の上腕を計測対象部位とし、計測対象血管を上腕動脈として、被検者の血圧を計測する血圧計測装置の実施形態について説明する。また、本実施形態では、血圧の推定に係るパラメーター(以下、「血圧推定用パラメーター」と称す。)を算定することによって、血圧計測装置を校正する。本明細書では、血圧推定用パラメーターの値を算定することを、血圧推定用パラメーターの校正と称して説明する。
1.概略構成
図1は、本実施形態の血圧計測に係るシステムの構成図である。この血圧計測システムは、被検者が一方の腕の上腕部に装着して利用可能に構成された超音波血圧計1と、他方の腕の上腕部に巻き付けて使用するカフ型血圧計3とを有して構成される。
カフ型血圧計3は、血圧を感知するカフを被検者の上腕に巻き付け、上腕動脈の血圧を計測する。本実施形態では、カフ型血圧計3は、超音波血圧計1の校正を行うために使用する。校正を行った後は、カフ型血圧計3を取り外し、超音波血圧計1を単体で用いて血圧の計測を行う。
超音波血圧計1は、カフ帯とカフ帯に空気を送り込んで上腕を加圧するための加圧機構とを有する加圧部30を備え、被検者の測定対象部位を等方的に加圧可能に構成されている。また、超音波血圧計1の本体部には、操作ボタン12と、液晶表示器13と、スピーカー14とが設けられている。
操作ボタン12は、血圧の計測開始指示や、血圧の計測に係る各種諸量を被検者が操作入力するために用いられる。
液晶表示器13には、超音波血圧計1による血圧の計測結果が表示される。表示方法としては、血圧の計測値を数値で表示することとしてもよいし、グラフなどで表示することとしてもよい。
スピーカー14からは、血圧の計測に係る各種の音声ガイダンス等が音出力される。本実施形態では、超音波血圧計1の校正のためにカフ型血圧計3による血圧の計測が必要となる。そのため、例えば、カフ型血圧計3の着脱を指示する音声ガイダンスをスピーカー14から音出力させるなどしてもよい。
また、超音波血圧計1の本体内部であって、被検者側から見て本体の左部には、超音波センサー20が設けられている。超音波血圧計1を装着した場合に、被検者の上腕動脈の直上に超音波センサー20が位置するように超音波センサー20が位置決めされている。超音波センサー20は、超音波振動子をアレイ状に配列した超音波の送受信部であり、送信部から数MHz〜数十MHzの超音波のパルス信号或いはバースト信号を上腕動脈に向けて送信する。そして、上腕動脈の前壁及び後壁からの反射波を受信部で受信し、前壁及び後壁の反射波の受信時間差から、上腕動脈の血管径を計測する。
なお、図示を省略しているが、超音波血圧計1の本体部には、機器を統合的に制御するための制御基板が内蔵されている。制御基板には、マイクロプロセッサーやメモリー、超音波の送受信に係る回路、電源回路等が実装されている。
超音波血圧計1とカフ型血圧計3とは、例えば近距離無線通信を利用して、計測データの授受を行うことができるように構成されている。具体的には、カフ型血圧計3を用いて上腕部で計測された血圧が近距離無線通信を利用して超音波血圧計1に送信される。そして、超音波血圧計1は、超音波を用いて計測した血管径とカフ型血圧計3から受信した血圧とを用いて血圧推定用パラメーターの値を算定することで、自装置を校正する。
2.原理
超音波血圧計1が有する加圧部30により、被検者の上腕が加圧され、上腕動脈が等方的に圧迫される。この上腕動脈の圧迫に伴い、上腕動脈の内外圧差が変化する。本実施形態では、この特性に着目し、上腕動脈に異なる2つの外圧をかけるように加圧部30を制御する。そして、加圧部30によって加圧された圧力を検知し、この場合に検知された第1圧力及び第2圧力の差圧を算出する。そして、第1圧力及び第2圧力をかけた時に超音波を用いて計測された第1血管径及び第2血管径の差である血管径差と、血圧と上腕動脈の血管径との相関特性と、算出した差圧とを用いて、被検者の血圧を推定する。
図2は、血管径と血圧との相関特性の一例を示す図である。血管径と血圧とは、ある非線形な相関特性で結びつけることができる。具体的には、血管にかかる圧力と、各血圧時における血管径とを用いて、例えば次式(1)のような相関式で相関特性を表すことができる。
P=Pd・exp[β(D/Dd−1)] ・・・(1)
但し、β=ln(Ps/Pd)/(Ds/Dd−1)
但し、「Ps」は収縮期血圧(最高血圧)であり、「Pd」は拡張期血圧(最低血圧)である。また、「Ds」は収縮期血圧のときの血管径である収縮期血管径であり、「Dd」は拡張期血圧のときの血管径である拡張期血管径である。また、「β」はスティフネスパラメーターと呼ばれる血管弾性指標値である。本実施形態では、このスティフネスパラメーター「β」を血圧推定用パラメーターとして説明する。
図2では、計測対象血管を第1圧力で加圧した状態(以下、「第1状態」として説明する。)における拡張期の血管径及び血圧でなる座標値を、黒丸の座標値P1として相関式上にプロットしている。また、計測対象血管を第2圧力で加圧した状態(以下、「第2状態」として説明する。)における拡張期の血管径及び血圧でなる座標値を、白丸の座標値P2として相関式上にプロットしている。なお、ここでは第2圧力を第1圧力よりも高い圧力として説明する。つまり、第2状態は、第1状態と比べて計測対象血管を強く加圧した状態として説明する。
第2状態では第1状態と比べて計測対象血管に外部から強い圧力がかかるため、計測対象血管の内圧は低くなる。そのため、点P2は点P1と比べて血圧が低くなっている。この血圧の減少分は、第1圧力と第2圧力との差圧「ΔPo」に相当する。「ΔDHd」は、第1状態での拡張期血管径「Dd1」(以下、「第1拡張期血管径」と称す。)と、第2状態での拡張期血管径「Dd2」(以下、「第2拡張期血管径」と称す。)との差(以下、「拡張期血管径差」と称す。)である。拡張期血管径差「ΔDHd」は、超音波を利用して計測することができる。
また、図2では、第1状態での収縮期の血管径及び血圧でなる座標値を、黒三角形の座標値Q1として相関式上のプロットしている。また、第2状態での拡張期の血管径及び血圧でなる座標値を、白三角形の座標値Q2として相関式上にプロットしている。収縮期血圧についても、差圧「ΔPo」分だけ、第2状態での収縮期血圧の方が低くなっている。
また、「ΔDHs」は、第1状態での収縮期血管径「Ds1」(以下、「第1収縮期血管径」と称す。)と、第2状態での収縮期血管径「Dd2」(以下、「第2収縮期血管径」と称す。)との差(以下、「収縮期血管径差」と称す。)である。収縮期血管径差「ΔDHs」は、超音波を利用して計測することができる。
本実施形態の目的は、被検者の血圧を推定することである。血圧の推定方法としては、(A)最初に拡張期血圧を推定し、推定した拡張期血圧を用いて収縮期血圧を推定する方法と、(B)最初に収縮期血圧を推定し、推定した収縮期血圧を用いて拡張期血圧を推定する方法とがある。ここでは、(A)の方法を用いて血圧を推定する場合について説明する。なお、詳細は変形例で後述するが、(B)の方法を用いて血圧を推定することとしてもよいことは勿論である。
図3は、拡張期血圧の推定方法の説明図である。図2で説明した拡張期血管径差「ΔDHd」を底辺とし、差圧「ΔPo」を高さとするL字形図形のパターンを考える。具体的には、図3のグラフの上部に示すようなパターンを考える。このとき、差圧「ΔPo」を高さとする線分の頂点を特性値Rとし、拡張期血管径差「ΔDHd」を底辺とする線分の左端の点に対応する値を特性値Sとする。
このとき、例えば、特性値Rを相関式上でスライドさせながら、血管径方向に対する誤差が最小となる特性値R及び特性値Sを探索する。つまり、差圧を血圧差とみなした当該血圧差と血管径差との関係に適合する特性値を相関特性から探索する。そして、当該探索した特性値に基づいて被検者の血圧を推定する。
具体的に説明する。特性値Rに対応する血管径を「Dd1」とし、特性値Sに対応する血管径を「Dd2」とする。特性値Rに対応する血圧を「P」とする。また、血圧「P」から差圧「ΔPo」を減算した血圧「P−ΔPo」を相関式に代入することで得られる座標値に対応する血管径を「Dd3」とする。このとき、「Ed=Dd2−Dd3」によって拡張期誤差を定義し、この拡張期誤差「Ed」を小さくするように特性値Rを相関式上でスライドさせる。
図3において、特性値R1では拡張期誤差「Ed>0」であり、その絶対値も比較的大きな値となっている。特性値をR1からR2にスライドさせると、拡張期誤差「Ed」の絶対値は特性値R1の場合と比べて小さくなる。さらに、特性値をR2からR3にスライドさせると、拡張期誤差「Ed」はほぼゼロとなる。この状態から特性値をさらに上方向にスライドさせていくと、拡張期誤差「Ed」は負の値となる。そして、相関式に沿って特性値を上方向にスライドさせていくと(R4やR5)、拡張期誤差「Ed」の絶対値は次第に大きくなっていく。
このことから、血圧の値を相関式上で変化させながら、拡張期誤差「Ed」の絶対値が最小となる特性値を探索することで、差圧「ΔPo」及び拡張期血管径差「ΔDHd」により定まるパターンに適合する血圧を求めることができる。図3では、特性値R3及びS3が、拡張期誤差「Ed」の絶対値が最小となる特性値である。従って、この場合は、特性値R3に対応する血圧を拡張期血圧と推定する。
なお、上記の説明では、血管径方向(図3の横軸方向)に対して「Ed=Dd2−Dd3」として拡張期誤差を定義し、この拡張期誤差を指標値として血圧差と血管径差との関係に適合する特性値を相関特性から探索したが、指標値は何もこれに限られるわけではない。例えば、血管径方向ではなく血圧方向(図3の縦軸方向)に対して同様に拡張期誤差を定義し、この血圧方向について定義した拡張期誤差が最小となる特性値を探索するようにしてもよい。
図4は、収縮期血圧の推定方法の説明図である。図3で説明した原理に従って拡張期血圧を推定したならば、この推定した拡張期血圧である拡張期血圧推定値に対応する血管径を相関式から求めて、拡張期血管径とする。次いで、超音波を利用して、拍動に伴う血管径変動量「ΔD」を計測する。そして、拡張期血管径に血管径変動量「ΔD」を加算した血管径を収縮期血管径とする。最終的に、収縮期血管径を相関式に代入することで得られる血圧を収縮期血圧と推定し、これを収縮期血圧推定値とする。
3.機能構成
図5は、超音波血圧計1の機能構成の一例を示すブロック図である。超音波血圧計1は、処理部100と、超音波センサー20と、加圧部30と、操作部200と、表示部300と、音出力部400と、通信部500と、時計部600と、記憶部800とを有して構成される。
超音波センサー20は、超音波の送受信部であり、超音波の送受信回路を有して構成される。送受信回路は、例えば、送受信制御部120から出力される送受信制御信号に従って、超音波の送信モードと受信モードとを時分割方式で切り替えて超音波を送受信する。
送受信回路は、送信用の構成として、所定周波数のパルス信号を生成する超音波発振回路や、生成されたパルス信号を遅延させる送信遅延回路等を有して構成される。また、受信用の構成として、受信信号を遅延させる受信遅延回路や、受信信号から所定の周波数成分を抽出するフィルター、受信信号を増幅する増幅器等を有して構成される。
加圧部30は、被検者の計測対象部位を加圧する。本実施形態において、加圧部30は、カフ帯とカフ帯に空気を送り込んで計測対象部位を圧迫するための加圧機構とを有して構成される。加圧部30は、処理部100から出力される加圧制御信号に従って加圧動作を行い、加圧状態を示す加圧信号を処理部100に出力する。
処理部100は、超音波血圧計1の各部を統括的に制御する制御装置及び演算装置であり、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等のマイクロプロセッサーや、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等を有して構成される。
処理部100は、主要な機能部として、送受信制御部120と、血管径算出部130と、血圧推定部140と、加圧制御部150と、圧力検知部160とを有する。但し、これらの機能部は一実施例として記載したものに過ぎず、必ずしもこれら全ての機能部を必須構成要素としなければならないわけではない。また、これら以外の機能部を必須構成要素として追加することも可能である。
送受信制御部120は、超音波センサー20による超音波の送受信を制御する。具体的には、超音波センサー20に対して送受信制御信号を出力し、上記の送信モードと受信モードとを切り替える制御を行う。
血管径算出部130は、超音波センサー20から入力した信号処理結果に基づいて、計測対象血管の血管径を算出する。具体的には、計測対象血管の前壁及び後壁からの超音波の反射波の受信時間差を検出することで、計測対象血管の血管径を算出する。
超音波センサー20と、送受信制御部120と、血管径算出部130とによって、計測対象部位における計測対象血管の血管径を計測する血管径計測部110が構成される。血管径計測部110は、血管径を連続的に計測可能に構成されている。血管径を連続的に計測する手法としては、例えば位相差トラッキング法を適用することができる。なお、位相差トラッキング法それ自体は従来公知であるため、その詳細については説明を省略する。
血圧推定部140は、血管径計測部110によって計測された血管径と、校正データ820に記憶された血圧と血管径との相関特性を表す相関式821とを用いて、被検者の血圧を推定する。血圧推定部140は、拡張期血圧を推定する拡張期血圧推定部141と、収縮期血圧を推定する収縮期血圧推定部143とを有する。また、第1状態及び第2状態の時に圧力検知部160により検知された第1圧力及び第2圧力を用いて内外圧差の差圧を算出する差圧算出部145と、血圧差と血管径差との関係に適合する特性値を相関特性から探索する特性値探索部147とを有する。
加圧制御部150は、加圧部30による計測対象部位の加圧を制御する。具体的には、加圧部30に対して加圧制御信号を出力し、加圧部30による加圧動作の開始、停止及び終了を制御する。加圧制御部150は、計測対象血管の内外圧差が異なる第1状態及び第2状態に計測対象部位を順次維持させる制御を行う状態維持制御部の一種と言える。
圧力検知部160は、加圧部30から出力される加圧信号に従って、加圧部30によって加圧された圧力を検知する。
操作部200は、ボタンスイッチ等を有して構成される入力装置であり、押下されたボタンの信号を処理部100に出力する。操作部200の操作により、血圧の計測開始指示等の各種指示入力がなされる。操作部200は、図1の操作ボタン12に相当する。
表示部300は、LCD(Liquid Crystal Display)等を有して構成され、処理部100から入力される表示信号に基づく各種表示を行う表示装置である。表示部300には、血圧推定部140によって推定された血圧の推定値等の情報が表示される。表示部300は、図1の液晶表示器13に相当する。
音出力部400は、処理部100から入力される音出力信号に基づく各種音出力を行う音出力装置である。音出力部400は、図1のスピーカー14に相当する。血圧の推定値を音出力部400から音出力させることとしてもよい。
通信部500は、処理部100の制御に従って、装置内部で利用される情報を外部の情報処理装置との間で送受するための通信装置である。この通信部500の通信方式としては、所定の通信規格に準拠したケーブルを介して有線接続する形式や、クレイドルと呼ばれる充電器と兼用の中間装置を介して接続する形式、近距離無線通信を利用して無線接続する形式等、種々の方式を適用可能である。本実施形態では、通信部500は、近距離無線通信を利用してカフ型血圧計3との間でデータの送受を行う。
時計部600は、水晶振動子及び発振回路でなる水晶発振器等を有して構成され、時刻を計時する計時装置である。時計部600の計時時刻は、処理部100に随時出力される。
記憶部800は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置を有して構成される。記憶部800は、超音波血圧計1のシステムプログラムや、送受信制御機能、血管径計測機能、血圧推定機能といった各種機能を実現するための各種プログラム、データ等を記憶している。また、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを有する。
記憶部800には、プログラムとして、例えば、処理部100によって読み出され、メイン処理(図6参照)として実行されるメインプログラム810が記憶されている。メインプログラム810は、超音波血圧計測処理(図7参照)として実行される超音波血圧計測プログラム811と、血圧推定処理(図8参照)として実行される血圧推定プログラム813とをサブルーチンとして含む。これらの処理については、フローチャートを用いて詳細に後述する。
また、記憶部800には、データとして、校正データ820と、血管径データ830と、血圧データ840とが記憶される。
校正データ820は、校正処理を行うことで求められた血管径と血圧との相関特性が記憶されたデータであり、例えば血管径と血圧との相関式821がこれに含まれる。
血管径データ830は、血管径計測部110によって計測された血管径が記憶されたデータである。拡張期血管径と収縮期血管径とがこれに含まれる。
血圧データ840は、血圧推定部140によって計測された血圧が記憶されたデータである。拡張期血圧と収縮期血圧とがこれに含まれる。
4.処理の流れ
図6は、処理部100が、記憶部800に記憶されているメインプログラム810に従って実行するメイン処理の流れを示すフローチャートである。
最初に、送受信制御部120が、超音波センサー20に対して超音波の送受信制御信号を出力することで、超音波の送受信制御を開始する(ステップA1)。そして、処理部100は、被検者に対して、カフ型血圧計3の装着指示を行う(ステップA3)。装着指示は、表示部300に所定のメッセージ等を表示させることで実現してもよいし、音出力部400から所定の音声ガイダンス等を音出力させることで実現してもよい。
次いで、処理部100は、拡張期血圧「Pd」及び収縮期血圧「Ps」を、通信部500を介してカフ型血圧計3から取得して、記憶部800に記憶させる(ステップA5)。そして、血管径算出部130は、超音波センサー20で受信された超音波の反射波に基づいて、拡張期血管径「Dd」及び収縮期血管径「Ds」を算出し、記憶部800の血管径データ830に記憶させる(ステップA7)。
次いで、処理部100は、血管径と血圧との相関特性を示す相関式821を決定して、記憶部800の校正データ820に記憶させる(ステップA9)。具体的には、ステップA5で取得した拡張期血圧「Pd」及び収縮期血圧「Ps」と、ステップA7で算出した拡張期血管径「Dd」及び収縮期血管径「Ds」とを用いて、式(1)のスティフネスパラメーター「β」の値を算定する。そして、算定したスティフネスパラメーター「β」の値と、拡張期血圧「Pd」と、拡張期血管径「Dd」とを用いて、式(1)の相関式を決定する。その後、処理部100は、被検者に対してカフ型血圧計3の取り外し指示を行う(ステップA11)。
次いで、処理部100は、血圧の計測タイミングであるか否かを判定する(ステップA13)。そして、計測タイミングであると判定した場合は(ステップA13;Yes)、記憶部800に記憶されている超音波血圧計測プログラム811に従って、超音波血圧計測処理を行う(ステップA15)。
図7は、超音波血圧計測処理の流れを示すフローチャートである。
最初に、加圧制御部150は、加圧部30の加圧動作を開始させるように制御する(ステップB1)。一定時間経過後、加圧制御部150は、加圧部30の加圧動作を一時停止させるように制御する(ステップB3)。そして、圧力検知部160は、加圧部30の加圧信号に従って、その時の圧力を検知し、これを第1圧力として記憶部800に一時記憶させる(ステップB5)。
血管径計測部110は、この状態を第1状態とし、当該第1状態で超音波を用いて血管径Dを計測する。そして、その計測結果を、それぞれ第1拡張期血管径「Dd1」及び第1収縮期血管径「Ds1」として記憶部800の血管径データ830に記憶させる(ステップB7)。
計測が終了したならば、加圧制御部150は、第1状態から加圧部30の加圧動作を再開させるように制御する(ステップB9)。一定時間経過後、加圧制御部150は、加圧部30の加圧動作を一時停止させるように制御する(ステップB11)。そして、圧力検知部160は、加圧部30の加圧信号に従って、その時の圧力を検知し、これを第2圧力として記憶部600に一時記憶する(ステップB13)。
血管径計測部110は、この状態を第2状態とし、当該第2状態で超音波を用いて血管径Dを計測する。そして、その計測結果を、それぞれ第2拡張期血管径「Dd2」及び第2収縮期血管径「Ds2」として記憶部800の血管径データ830に記憶させる(ステップB15)。
なお、本実施形態では、圧力が異なる2状態を作り出して血管径を計測すればよいため、第1状態を無加圧状態(加圧力を0mmHgとした状態)として血管径(第1血管径)を計測し、第2状態を所定の加圧力(例えば20mmHg)で加圧した状態として血管径(第2血管径)を計測することとしてもよい。
また、第1状態から第2状態に遷移するまでの期間は、例えば位相差トラッキング法を用いて、計測対象血管の血管径を連続的に計測するようにすると効果的である。第1血管径と第2血管径とをそれぞれ独立に計測した場合、超音波による血管径の計測精度では十分でない場合がある。つまり、それぞれの加圧状態での血管径の絶対的な値を用いたのでは、血管径差を正しく算出できないおそれがある。しかし、加圧状態を変化させる一連の制御中に連続して血管径を計測するようにすれば、血管径の相対的な変化を捉えることが可能となり、血管径差を正しく算出することができる。
次いで、差圧算出部145は、第1圧力と第2圧力との差圧「ΔPo」を算出する(ステップB17)。そして、血圧推定部140は、記憶部800に記憶されている血圧推定プログラム813に従って、血圧推定処理を行う(ステップB19)。
図8は、血圧推定処理の流れを示すフローチャートである。この血圧推定処理は、差圧「ΔPo」を血圧差とみなした当該血圧差と血管径差との関係に適合する特性値を相関特性から探索する特性値探索処理とも言える。
先ず、特性値探索部147は、拡張期血管径差「ΔDHd」を算出する(ステップC1)。具体的には、ステップB7で算出した第1拡張期血管径「Dd1」と、ステップB15で算出した第2拡張期血管径「Dd2」とを用いて、「ΔDHd=Dd1−Dd2」に従って拡張期血管径差を算出する。
次いで、特性値探索部147は、血圧を初期設定して「Pn」とする(ステップC3)。血圧の初期値としては、初回の血圧計測では任意の値を設定し、2回目以降の計測では前回計測した血圧の値を設定するなどすることができる。
その後、特性値探索部147は、校正データ820に記憶されている相関式821を用いて、「Pn」に対応する血管径「Dn1」を算出する(ステップC5)。また、相関式821を用いて、「Pn−ΔPo」に対応する血管径「Dn2」を算出する(ステップC7)。
次いで、特性値探索部147は、ステップC1で算出した拡張期血管径差「ΔDHd」と、ステップC5で算出した血管径「Dn1」と、ステップC7で算出した血管径「Dn2」とを用いて、拡張期誤差「Ed=(Dn1−Dn2)−ΔDHd」を算出する(ステップC9)。
その後、特性値探索部147は、ステップC9で算出した拡張期誤差「Ed」の正負の符号が反転したか否かを判定し(ステップC11)、反転しなかったと判定した場合は(ステップC11;No)、拡張期誤差「Ed」の正負の符号を判定する(ステップC13)。
符号が正であると判定したならば(ステップC13;正)、特性値探索部147は、現在の血圧の設定値「Pn」に1[mmHg]を加算して、設定値「Pn」を更新する(ステップC15)。また、符号が負であると判定したならば(ステップC13;負)、現在の血圧の設定値「Pn」から1[mmHg]を減算して、設定値「Pn」を更新する(ステップC17)。これらのステップの後、ステップC5に戻る。
ステップC11において拡張期誤差「Ed」の正負の符号が反転したと判定したならば(ステップC11;Yes)、拡張期血圧推定部141は、正負の符号が反転する前後で拡張期誤差「Ed」の絶対値が小さい方の「Pn」を拡張期血圧と推定し、記憶部800の血圧データ840に記憶させる(ステップC19)。
次いで、収縮期血圧推定部143は、拍動に伴う血管径変動幅「ΔD」を算出する(ステップC21)。具体的には、ステップB9で求めた第2拡張期血管径「Dd2」及び第2収縮期血管径「Ds2」を用いて、血管径変動幅を「ΔD=Ds2−Dd2」として算出する(ステップC21)。
その後、収縮期血圧推定部143は、相関式821と、ステップC19で推定した拡張期血圧と、ステップC21で算出した血管径変動幅「ΔD」とを用いて、収縮期血圧を推定し、記憶部800の血圧データ840に記憶させる(ステップC23)。そして、血圧推定部140は、血圧推定処理を終了する。
図7の超音波血圧計測処理に戻り、血圧推定処理を行った後、加圧制御部150は、加圧部30による加圧を終了させるように制御する(ステップB21)。そして、処理部100は、超音波血圧計測処理を終了する。
図6のメイン処理に戻り、超音波血圧計測処理を行った後、処理部100は、記憶部800に記憶されている最新の拡張期血圧推定値及び収縮期血圧推定値で、表示部300の表示を更新する(ステップA17)。
その後、処理部100は、血圧の計測を終了するか否かを判定し(ステップA19)、まだ計測を終了しないと判定した場合は(ステップA19;No)、校正タイミングであるか否かを判定する(ステップA21)。この場合における校正タイミングとしては、種々のタイミングを設定することが可能である。例えば、時計部600の計時時刻が予め定められた時刻(例えば朝の8時)となった場合に、校正タイミングであると判定することとしてもよい。
校正タイミングであると判定したならば(ステップA21;Yes)、処理部100は、ステップA3に戻る。そして、再びカフ型血圧計3を用いた校正を行う。また、校正タイミングではないと判定したならば(ステップA21;No)、処理部100は、ステップA13に戻る。ステップA19において血圧の計測を終了すると判定したならば(ステップA19;Yes)、処理部100は、メイン処理を終了する。
5.作用効果
超音波血圧計1は、計測対象部位に外圧を加える加圧部30を有し、加圧部30によって加圧された圧力を圧力検知部160が検知する。そして、加圧制御部150が、加圧部30を制御し、差圧算出部145が、計測対象血管の内外圧差が異なる第1状態及び第2状態の時に圧力検知部160により検知された第1圧力及び第2圧力を用いて、内外圧差の差圧を算出する。血圧推定部140は、第1状態及び第2状態の時に血管径計測部110により計測された第1血管径及び第2血管径の差である血管径差と、血圧と計測対象血管の血管径との相関特性を示す相関式821と、差圧算出部145によって算出された差圧とを用いて、被検者の血圧を推定する。
異なる圧力で体表面から計測対象部位を加圧するように加圧部30を動作制御し、計測対象血管を圧迫することで、計測対象血管の内外圧差を変化させることができる。この特性を利用して、血圧と計測対象血管の血管径との相関特性と、第1血管径及び第2血管径の血管径差と、第1圧力及び第2圧力との差圧とを用いて血圧を推定することで、従来の手法と比較して被検者の血圧を正しく推定することが可能となる。
血圧推定部140は、差圧を血圧差とみなした当該血圧差と血管径差との関係に適合する特性値を相関特性から探索し、当該探索した特性値に基づいて被検者の血圧を推定する。具体的には、拡張期血圧推定部141は、差圧を血圧差とみなした当該血圧差と、拡張期における血管径差とにより定まるパターン(血圧差と血管径差との関係)が、相関式821上のどの部分に適合するかを、拡張期誤差に基づいて特性値をずらしながら探索する。そして、拡張期誤差が最小となる特性値から被検者の拡張期血圧を推定する。相関式に沿ってパターンが適合する部分を逐次的に探索する手法により、被検者の拡張期血圧を簡易且つ適切に推定することができる。
上記のようにして拡張期血圧を推定したならば、収縮期血圧推定部143は、当該拡張期血圧と、血管径計測部110により計測された血管径の拍動に伴う変動幅と、相関式821とを用いて、被検者の収縮期血圧を推定する。血管径の拍動に伴う変動幅と、相関式823とから、被検者の収縮期血圧を容易に推定することができる。
また、血管径計測部110は、血管径を連続的に計測可能に構成されている。そして、血圧推定部140は、計測対象部位を第1加圧力で加圧した時の第1血管径と第2加圧力で加圧した時の第2血管径との差から血管径差を算出する。それぞれの圧力で加圧した時の血管径の絶対的な値を見るのではなく、血管径を連続的に計測することで得られる第1血管径と第2血管径との差から血管径差を算出することで、血管径差の算出精度を高め、ひいては血圧推定の正確性を向上させることができる。
6.変形例
本発明を適用可能な実施例は、上記の実施例に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは勿論である。以下、変形例について説明する。なお、上記実施形態と同一の構成やフローチャートの同一のステップについては、同一の符号を付して再度の説明を省略する。
6−1.計測対象血管
上記の実施形態では、計測対象血管を上腕動脈として説明したが、それ以外の血管を計測対象血管としてもよいことは勿論である。本実施形態の手法は、比較的硬い血管を計測対象とした場合に特に効果的であるため、例えば上腕動脈以外の四肢動脈(橈骨動脈や太腿動脈等)を計測対象血管としてもよい。
6−2.超音波血圧計
超音波血圧計は、必ずしも被検者の上腕に装着する装置として構成しなければならないわけではない。例えば、橈骨動脈を計測対象血管として、手首に巻き付けて使用する超音波血圧計としてもよい。また、太腿や足首に巻き付けて使用する超音波血圧計としてもよい。
また、超音波血圧計1とカフ型血圧計3とは、必ずしも異なる腕に装着して計測を行わなければならないわけではない。超音波血圧計1とカフ型血圧計3を装着する腕を同じにすることも可能である。例えば、一方の腕の上腕に超音波血圧計1を装着し、同じ腕の手首に手首式のカフ型血圧計3を装着して、上記の実施形態と同様の手順で計測を行うこととしてもよい。
また、超音波血圧計1とカフ型血圧計3とは、何れもカフによる加圧機構を有している。このため、超音波血圧計1とカフ型血圧計3とを一体的に構成することも可能である。この場合は、血圧計の校正と血圧の推定とを1つの装置で行うことができる。
6−3.血管径の計測方法
上記の実施形態では、超音波を利用した血管径の計測方法を例示したが、血管径の計測方法はこれに限られないことは勿論である。例えば、発光素子から所定波長の光を計測対象の動脈に向けて照射し、その反射光に基づいて、血管径の計測を行う手法(光を利用した血管径の計測方法)を採用してもよい。
6−4.相関特性
上記の実施形態では、血管径と血圧との相関特性として、式(1)で表される相関式を適用する場合を例に挙げて説明した。しかし、式(1)の相関式は一例として記載したものに過ぎず、これ以外の相関式を適用してもよいことは勿論である。非線形の相関式であれば、上記の実施形態と同様の手順で被検者の血圧を推定することが可能である。
なお、記憶部800には、必ずしも相関式のデータを記憶させる必要はなく、テーブル形式で血管断面指標値(血管径又は血管断面積)と血圧との相関特性を定めたデータ(ルックアップテーブル)を記憶させることとしてもよい。
また、相関式を決定する際に、連続的に計測した収縮期血管径及び拡張期血管径をそれぞれ平均処理し、収縮期血管径の平均値及び拡張期血管径の平均値を用いて相関式を決定することとしてもよい。この場合は、血管径と血圧の相関特性としてより適確な相関式を求めることができるため、当該相関式を用いて血圧を推定することで、血圧の計測精度をより一層向上させることができる。
6−5.校正タイミング
上記の実施形態では、血圧計測の初回時や決められた時刻といったタイミングで超音波血圧計1の校正を行うこととして説明したが、校正を行うタイミング(校正タイミング)は適宜設定可能である。
具体的には、例えば急激な気温の変化により被検者の計測対象血管の性状が変化する場合がある。そこで、温度センサーを内蔵し、血圧計測時の気温を記憶することとし、前回計測時の気温と今回計測時の気温の温度差が所定の閾値を超えたタイミングを校正タイミングとしてもよい。また、ユーザーにより校正が指示されたタイミングを校正タイミングとしてもよいことは勿論である。
6−6.通信方式
上記の実施形態では、超音波血圧計1とカフ型血圧計3との通信方式を無線通信としたが、ケーブルを用いて接続することにより、有線通信としてもよい。また、被検者にカフ型血圧計3を用いて血圧計測を行わせ、その計測値を被検者が超音波血圧計1に手入力するように構成してもよい。
6−7.血圧推定方法
6−7−1.探索範囲を絞り込んで特性値を判定する方法
上記の実施形態では、特性値探索部147が、第1圧力と第2圧力との差圧を血圧差とみなした当該血圧差と血管径差との関係に適合する特性値を相関特性から逐次的に探索する方法を例示したが、特性値を探索する方法はこれに限られない。網羅的に特性値を探索するのではなく、探索範囲を絞り込んで探索するように構成することも可能である。
具体的には、特性値探索部147が、計測対象部位が無加圧状態の時に血管径計測部110により計測された血管径に基づいて、相関特性のうちの探索範囲を設定し、当該設定された探索範囲内で特性値を探索するようにしてもよい。この場合は、図9に示すように、特性値探索部147が探索範囲設定部147Aを機能部として有することとし、探索範囲設定部147Aが、加圧部30による加圧が無い状態(無加圧状態)の時に血管径計測部110により計測された血管径に基づいて探索範囲を設定するようにすればよい。
図10は、この場合に処理部100の血圧推定部140が、図8の血圧推定処理に代えて実行する第2血圧推定処理の流れを示すフローチャートである。この処理の前提として、図7の超音波血圧計測処理では、第1状態を無加圧状態として血管径を計測し、その計測結果を第1拡張期血管径「Dd1」及び第1収縮期血管径「Ds1」として記憶することとして説明する。
血圧推定部140は、ステップC1の後、第1拡張期血管径Dd1と血管径の計測精度とに基づいて血管径の誤差範囲を算出する(ステップE2)。具体的には、血管径計測部110の計測誤差を±εとし、第1拡張期血管径Dd1を基準血管径とする。そして、基準血管径を中心とする±εの血管径範囲を誤差範囲として算出する。以下の説明では、Dd1〜(Dd1+ε)の範囲を「上側誤差範囲」とし、(Dd1−ε)〜Dd1の範囲を「下側誤差範囲」として説明する。
次いで、探索範囲設定部147Aは、下側誤差範囲を探索範囲として設定する(ステップE3)。無加圧状態で計測した血管径には、計測誤差が含まれ得るものの、その値はある程度信頼できる値と考えることができる。つまり、無加圧状態で計測した血管径の近傍に血管径の真値が存在するはずである。そこで、上側誤差範囲及び下側誤差範囲を探索範囲として特性値を探索する。どちらの誤差範囲から探索を開始してもよいが、ここでは最初に下側誤差範囲を探索範囲とすることとして説明する。
血圧推定部140は、探索範囲内で血圧Pnの初期値を設定する(ステップE4)。血圧Pnの初期値は、例えば基準血管径Dd1に対応する血圧としてもよいし、探索範囲のうち基準血管径Dd1とは逆側の境界の血管径に対応する血圧としてもよい。そして、血圧Pnを所定の刻み幅で変化させながら、探索範囲内で拡張期誤差Edの正負の符号が変化する点を探索する。
ステップC11において拡張期誤差Edの正負の符号が変化しなかったと判定したならば(ステップC11;No)、血圧推定部140は、拡張期誤差Edの絶対値が減少する方向に変化しているか否かを判定する(ステップE13)。拡張期誤差Edの絶対値が減少する方向に変化しているのであれば、やがて拡張期誤差Edの正負の符号が変化する点が見つかるはずである。しかし、拡張期誤差Edの絶対値が増加する方向に変化しているのであれば、探索の方向が誤っていることになる。そこで、この場合は、探索対象を逆側の探索範囲に変更する。
すなわち、拡張期誤差Edの絶対値が減少する方向に変化していると判定したならば(ステップE13;Yes)、血圧推定部140は、所定の刻み幅だけ血圧Pnを更新する(ステップE15)。そして、血圧推定部140は、更新した血圧Pnに対応する血管径が探索範囲内に含まれるか否かを判定し(ステップE17)、含まれると判定した場合は(ステップE17;Yes)、ステップC5に戻る。一方、含まれないと判定した場合は(ステップE17;No)、ステップE19へと処理を移行する。
ステップE13において拡張期誤差Edの絶対値が減少する方向に変化していないと判定した場合(ステップE13;No)、血圧推定部140は、上側及び下側の両方の誤差範囲について探索を実行したか否かを判定する(ステップE19)。まだ上側誤差範囲について探索を実行していないと判定したならば(ステップE19;No)、血圧推定部140は、探索範囲を下側誤差範囲から上側誤差範囲に切り替える(ステップE21)。そして、ステップE4に戻る。
一方、ステップE19において両方の誤差範囲について探索済みであると判定したならば(ステップE19;Yes)、血圧推定部140は、上側及び下側の誤差範囲の中で拡張期誤差Edの絶対値が最小となった血圧Pnを拡張期血圧と推定する(ステップE23)。そして、ステップC21へと移行する。
このように、無加圧状態で計測された血管径の近傍に設定した誤差範囲内で特性値を探索することで、任意の初期値を設定して特性値を逐次的に探索する場合と比べて、特性値の探索に係る演算量を削減することができる。また、無加圧状態で計測された血管径の近傍に血管径の真値が存在するはずであるため、上記の誤差範囲内で探索を行うことで、特性値として正しい値を求めることが可能となる。
なお、無加圧状態で計測した血管径(基準血管径)を中心に誤差範囲を設定しなければならないわけではなく、基準血管径の前後(上側と下側)で誤差幅が異なる範囲を探索範囲として設定してもよい。血管径の計測精度に基づいて誤差幅を定めるのではなく、任意に設定した値(固定幅)で決め打ちとしてもよい。また、探索を行う際に、下側誤差範囲と上側誤差範囲とに分けて順番に探索を行うのではなく、誤差範囲全体を探索範囲として逐次的に探索を行うこととしてもよい。
6−7−2.拡張期血圧及び収縮期血圧を同時に推定する方法
また、拡張期血圧及び収縮期血圧のうちの何れか一方の血圧を推定した後に他方の血圧を推定するのではなく、血圧と血管径との相関特性と、拡張期血管径及び収縮期血管径それぞれに係る血管径差と、血管径の拍動に伴う変動幅と、差圧とを用いて、被検者の拡張期血圧及び収縮期血圧を同時に推定することも可能である。
図11は、この場合に処理部100の血圧推定部140が、図8の血圧推定処理に代えて実行する第3血圧推定処理の流れを示すフローチャートである。
最初に、血圧推定部140は、複数の拡張期血圧の候補値を設定する(ステップD1)。拡張期血圧の候補値の設定方法は任意であるが、例えば1[mmHg]の刻み幅で所定数(例えば20個)の候補値を設定する。
次いで、血圧推定部140は、「ΔDHd=Dd1−Dd2」に従って拡張期血管径差を算出する(ステップD3)。そして、血圧推定部140は、ステップD1で設定した拡張期血圧の各候補値それぞれについて、ループAの処理を実行する(ステップD5〜D17)。
ループAの処理では、血圧推定部140は、校正データ820に記憶された相関式821を用いて、当該候補値「Pdn」に対応する血管径「Dn1」を算出する(ステップD7)。また、血圧推定部140は、相関式821を用いて、「Pdn−ΔPo」の血圧に対応する血管径「Dn2」を算出する(ステップD9)。
次いで、血圧推定部140は、ステップD3で算出した拡張期血管径差「ΔDHd」と、ステップD7で算出した血管径「Dn1」と、ステップD9で算出した血管径「Dn2」とを用いて、拡張期誤差「Ed=(Dn1−Dn2)−ΔDHd」を算出する(ステップD11)。
その後、血圧推定部140は、拍動に伴う血管径変動幅「ΔD=Ds2−Dd2」を算出する(ステップD13)。そして、血圧推定部140は、相関式821と、当該候補値「Pn」と、血管径変動幅「ΔD」とを用いて、収縮期血圧「Psn」を算出して、収縮期血圧の候補値とする(ステップD15)。そして、次の候補値へと処理を移行する。拡張期血圧の全ての候補値についてこれらのステップを行ったならば、ループAの処理を終了する(ステップD17)。
次いで、血圧推定部140は、「ΔDHs=Ds1−Ds2」に従って収縮期血管径差を算出する(ステップD19)。そして、血圧推定部140は、収縮期血圧の各候補値それぞれについて、ループBの処理を実行する(ステップD21〜D29)。
ループBの処理では、血圧推定部140は、相関式821を用いて、当該候補値「Psn」に対応する血管径「Ds1」を算出する(ステップD23)。また、血圧推定部140は、相関式821を用いて、「Psn−ΔPo」の血圧に対応する血管径「Ds2」を算出する(ステップD25)。
次いで、血圧推定部140は、ステップD19で算出した収縮期血管径差「ΔDHs」と、ステップD23で算出した血管径「Ds1」と、ステップD25で算出した血管径「Ds2」とを用いて、収縮期誤差「Es=(Ds1−Ds2)−ΔDHs」を算出する(ステップD27)。そして、血圧推定部140は、次の候補値へと処理を移行する。収縮期血圧の全ての候補値についてこれらのステップを行ったならば、ループBの処理を終了する(ステップD29)。
その後、血圧推定部140は、拡張期血圧の各候補値「Pdn」それぞれについて算出した拡張期誤差「Ed」と、収縮期血圧の各候補値「Psn」それぞれについて算出した収縮期誤差「Es」との和を、対応する候補値の組合せ同士で算出する(ステップD31)。そして、血圧推定部140は、算出した誤差の和が最小となった候補値の組合せを、拡張期血圧及び収縮期血圧の推定値とし、記憶部800の血圧データ840に記憶させる(ステップD33)。そして、血圧推定部140は、第3血圧推定処理を終了する。
6−7−3.収縮期血圧から拡張期血圧を推定する方法
上記の実施形態の血圧推定方法では、最初に拡張期血圧推定部141が、相関式と拡張期血管径差と差圧とを用いて、被検者の拡張期血圧を推定する。そして、その後に、収縮期血圧推定部143が、拡張期血圧推定部141によって推定された拡張期血圧と、血管径計測部110により計測された血管径の拍動に伴う変動幅と、相関式とを用いて、被検者の収縮期血圧を推定するものとして説明した。しかし、この手順を逆転させることも可能である。つまり、上記の実施形態で説明した(A)の方法ではなく、(B)の方法を用いて血圧を推定することも可能である。
具体的には、最初に収縮期血圧推定部143が、相関式と収縮期血管径差と差圧とを用いて、被検者の収縮期血圧を推定する。そして、その後に、拡張期血圧推定部141が、収縮期血圧推定部143によって推定された収縮期血圧と、血管径計測部110により計測された血管径の拍動に伴う変動幅と、相関式とを用いて、被検者の拡張期血圧を推定するようにしてもよい。
この場合は、図3で説明した原理に倣って、収縮期血管径差「ΔDHs」と差圧「ΔPo」とにより定まるパターンが相関式で適合する特性値を判定し、判定した特性値により定まる血圧を収縮期血圧と推定する。その後、図4で説明した原理に倣って、推定した収縮期血圧に対応する血管径(収縮期血管径)を相関式から求め、収縮期血管径から血管径変動幅「ΔD」を減算することで拡張期血管径を算出する。そして、算出した拡張期血管径を相関式に代入することで拡張期血圧を推定すればよい。
6−7−4.血圧を再推定する方法
上記の実施形態では、血圧推定処理を1回実行することとして説明した。しかし、1回の血圧推定処理で必ずしも確からしい血圧が推定されるとは限らないため、血圧推定部140の推定結果が確からしくないと考えられる場合には、被検者の血圧を再推定するようにしてもよい。
図12は、この場合に処理部100の血圧推定部140が、図7の超音波血圧計測処理に代えて実行する第2超音波血圧計測処理の流れを示すフローチャートである。
ステップB19において血圧推定処理を行った後、処理部100は、血圧推定精度判定処理を行う(ステップF21)。具体的には、例えば過去の血圧の推定結果の履歴に基づいて、今回の血圧推定処理で推定された血圧の精度(正確性)を判定する。この場合は、過去所定回数分(例えば過去10回分)の血圧の推定値の平均値を算出する。そして、算出した平均値を今回の血圧の推定値と比較し、その差分が所定の閾値を超えている場合に、今回の血圧の推定精度が低いと判定する。
血圧の推定精度が低いと判定したならば(ステップF23;低い)、処理部100は、ステップB9に戻る。つまり、加圧制御部150が加圧部30の加圧動作を再開させるように制御し、1回前の計測で検知した第2圧力よりも強い圧力で計測対象部位を加圧するように動作制御する。ステップB9〜F23の一連の処理を繰り返し、精度の高い血圧の推定値が得られた時点で(ステップF23;高い)、図7のステップB21へ移行する。
なお、上記の血圧の推定精度の判定方法はあくまでも一例として例示したものに過ぎず、適宜変更可能であることは勿論である。例えば、被検者に対して、自身の平静時における大凡の血圧値を入力するように促し、この入力値に対して血圧の推定値が一定以上乖離している場合に、血圧の推定精度が低いと判定してもよい。
また、上記の処理フローでは、加圧制御部150が血圧推定部140の推定結果に基づいて、第2状態を変更する加圧部30の再制御を実行することとして説明したが、第1状態を変更する加圧部30の再制御を実行することとしてもよいし、第1状態及び第2状態の両方の状態を変更する加圧部30の再制御を実行することとしてもよい。つまり、血圧推定部140の推定結果に基づいて、第1状態及び第2状態の少なくとも一方を変更する加圧部30の再制御を実行すればよい。