JP6044576B2 - 成形性および耐水素脆性に優れた高強度薄鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
しかしながら、一般的に、鋼板を高強度化すると、延性や曲げ性などの加工性(成形性)が低下する。そのため、高強度と優れた成形性とを兼備する高強度鋼板が強く要望されている。さらに、引張強さ:1180MPa以上とさらに高い強度領域では、使用環境から鋼板中に侵入する水素により鋼板が脆化する、いわゆる水素脆性や遅れ破壊と呼ばれる現象が生じるため、水素脆性や遅れ破壊を回避できる、耐水素脆性、あるいは耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼板が要望されている。
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、引張強さTS:1180MPa以上の高強度を有し、成形性および耐水素脆性に優れた高強度薄鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。ここで「成形性に優れる」とは、強度−延性バランスTS×Elが16000MPa%以上、好ましくは18000MPa%以上である場合をいう。
本発明者らは、界面の密着性や、生産性の問題から、上記したような板厚方向に特性が変化する材料を、従来とは異なる製造プロセスを適用して製造することに思い至った。
コールドスプレー法は、表面改質技術の一つであり、低温の高速作動ガスによって粒子を加速させて、基材表面に皮膜を形成するために利用されている(例えば、榊和彦:表面技術、vol.59、N0.8、2008、p.490〜494)。
本発明者らは、コールドスプレー法の製造条件や、使用する基板、スプレーする粒子の性質を厳密に制御して、より厚みのある層構造を形成する手段として利用することに思い至った。そして、本発明者らは、低温の高速作動ガスによって粒子を加速させて、基材表面に衝突させ、堆積させるというコールドスプレー法の技術的特徴から、得られる層(堆積層)が、空隙が少なく所望の厚さに制御でき、かつ優れた界面密着性をも実現できることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は、つぎの通りである。
Mneq=Mn+0.26×Si+1.3×Cr+3.5×P+2.68×Mo+180×B+0.37×Ni+0.46×Cu ‥‥(1)
(ここで、Mn、Si、Cr、P、Mo、B、Ni、Cu:各元素の含有量(質量%))
で定義されるMneqが2.5以上を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する熱延薄鋼板からなり、前記堆積層が、質量%で、C:0.10%未満を含み、合金元素を前記(1)式で定義されるMneqが2.5未満を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする焼鈍用原板。
(3)(1)または(2)において、前記基板部に代えて、基板部が、質量%で、C:0.10%以上を含み、合金元素を前記(1)式で定義されるMneqが2.5以上を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する冷延薄鋼板からなることを特徴とする焼鈍用原板。
Mneq=Mn+0.26×Si+1.3×Cr+3.5×P+2.68×Mo+180×B+0.37×Ni+0.46×Cu ‥‥(1)
(ここで、Mn、Si、Cr、P、Mo、B、Ni、Cu:各元素の含有量(質量%))
で定義されるMneqが2.5以上を満足するように含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する熱延薄鋼板とし、前記堆積層が、前記基板の少なくとも一方の表面に、質量%でC:0.10%未満で、かつ前記(1)式で定義されるMneqが2.5未満を満足する鉄基粒子を、加熱した作動ガスと混合したのち、スプレーノズルを用いて吹付けるコールドスプレー法で形成してなることを特徴とする焼鈍用原板の製造方法。
(6)(4)または(5)において、前記加熱した作動ガスの温度が、500〜1000℃の範囲の温度であることを特徴とする焼鈍用原板の製造方法。
(7)(4)ないし(6)のいずれかにおいて、前記堆積層が、片面当たり10μm以上500μm以下であることを特徴とする焼鈍用原板の製造方法。
(9)(1)または(2)に記載の焼鈍用原板に、さらに、冷間圧延と焼鈍処理とを、施してなる基板部と該基板部の少なくとも一方の側に軟質層を有する薄鋼板であって、前記基板部が、質量%で、C:0.10%以上、合金元素を前記(1)式で定義されるMneqが2.5以上を満足するように含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、板厚中央位置でビッカース硬さで400HV以上の硬さを有し、前記軟質層が、質量%で、C:0.10%未満を含み、あるいはさらに他の合金元素を前記(1)式で定義されるMneqが2.5未満を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、表面から板厚方向に10μmまでの領域で、気孔率が面積率で10%未満で、かつフェライト相が面積率で50%以上である組織を有する層であることを特徴とする成形性と耐水素脆性に優れた高強度薄鋼板。
(12)(4)ないし(7)のいずれかに記載の焼鈍用原板の製造方法により製造された焼鈍用原板に、冷延圧下率:20〜90%の冷間圧延と焼鈍温度:700〜900℃に加熱する焼鈍処理とを、施すことを特徴とする成形性と耐水素脆性に優れた高強度薄鋼板の製造方法。
まず、本発明高強度薄鋼板の製造方法について説明する。
本発明高強度薄鋼板は、焼鈍用原板に、冷間圧延および焼鈍処理、あるいは焼鈍処理、を施して製造される。
基板は、最終製品の強度に大きく影響するため、最終製品の所望強度に対し十分な強度を保持する熱延薄鋼板、または冷延薄鋼板とする必要がある。なお、基板の板厚は、目的や用途に応じて適宜設定できる。基板とする薄鋼板の製造方法としては、公知の薄鋼板の製造方法がいずれも適用でき、とくに限定する必要はないが、例えば、熱延鋼板では、連続鋳造法、造塊法、薄スラブ鋳造法などにより製造されたスラブを、再加熱して粗圧延および仕上圧延を行う熱間圧延を施し、引続き、ランアウトテーブル上で所定の冷却を施し、巻き取る方法が、また、冷延鋼板では、熱延鋼板にさらに、酸洗によりスケールを除去したのち、冷間圧延を施す方法が、例示できる。
Mneq=Mn+0.26×Si+1.3×Cr+3.5×P+2.68×Mo+180×B+0.37×Ni+0.46×Cu ‥‥(1)
(ここで、Mn、Si、Cr、P、Mo、B、Ni、Cu:各元素の含有量(質量%))
で定義されるMneqが2.5以上を満足するように含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する熱延薄鋼板、または、質量%で、C:0.10%以上を含み、合金元素を前記(1)式で定義されるMneqが2.5以上を満足するように含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する冷延薄鋼板、を使用する。なお、(1)式を計算するに際しては、表示された元素のうち、含有しない元素については零として計算するものとする。
C:0.10質量%以上
Cは、固溶強化により、さらには焼入れ性の向上を介して、鋼を強化する作用を有する重要な元素で、最終製品で所望の高強度(TS:1180MPa以上)を確保するために0.10質量%以上の含有を必要とする。Cが0.10%未満では、最終製品(薄鋼板)で引張強さTS:1180MPa以上を確保することが困難になる。このため、基板のCを0.10質量%以上に限定した。なお、好ましくは0.15質量%以上である。基板のCの上限はとくに限定しないが、所望の溶接性、靭性を確保する観点から、0.7質量%をその上限とすることが好ましい。より好ましくは0.7質量%未満である。
Mneqは、前記(1)式で定義され、焼入れ性の程度を示す指標であり、Mneq値が大きいほど焼入れ性が高く、焼鈍処理後の冷却で低温変態相を生成しやすく、高強度が得やすくなる。Mneqが2.5未満では、焼鈍処理で軟質な変態相が生成され、最終製品での強度が所望の高強度を確保することが困難となる。
基板における上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。
なお、詳しくは具体的に、基板の組成は、質量%で、C:0.10〜0.70%、Si:0.001〜2.0%、Mn:1.5〜5.0%、P:0.001〜0.1%、S:0.0001〜0.005%、Al:0.001〜1.0%、N:0.001〜0.02%、を含み、あるいはさらにCu:0.01〜1.0%、Ni:0.01〜1.0%、Cr:0.01〜1.0%、Mo:0.01〜1.0%、Ti:0.001〜0.2%、Nb:0.001〜0.2%、V:0.001〜0.2%、B:0.0001〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.0001〜0.01%、REM:0.0001〜0.01%のうちから選ばれた1種または2種、を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する薄鋼板とすることが好ましい。
本発明では、このような薄鋼板を基板とし、該基板の少なくとも片面に、鉄基粒子を用いたコールドスプレー法で所定厚さの堆積層を形成し、焼鈍用原板とする。
コールドスプレー装置は、例えば、作動ガス供給装置、作動ガス加熱装置(ヒータ)、粒子供給装置、作動ガスと粒子を混合させるスプレーガンおよび粒子を基板に吹き付けるノズル等から構成される。ノズルには、堆積厚さを調整可能なように、走査速度を制御可能な構成が付設されていることはいうまでもない。なお、作動ガスは、通常、ヘリウム、窒素、大気、あるいはそれらの混合ガスを用いる。
本発明では最終製品(高強度薄鋼板)が優れた成形性およぶ耐水素脆性を確保するために、焼鈍用原板に焼鈍処理を施して得られる軟質層が、基板部に対して充分に高い塑性変形能を有することが要求される。このため、コールドスプレー時に鉄基粒子を基板に衝突させて、高温状態で堆積する際に、あるいはコールドスプレー後の焼鈍処理時に、低温変態相などの硬質な組織が発現することを回避し、最終的に、フェライト相が50面積%以上を占める組織を有する必要がある。
上記したように、「Mneq」は、鋼の焼入れ性を示す指標で、この値が大きいほど焼入れ性が高く、コールドスプレー処理あるいは焼鈍処理を施され、冷却された後に、高い硬さを示しやすくなる。
好ましい堆積層組成としては、具体的に、C:0.10%未満、Si:0.001〜1.0%、Mn:0.01〜2.0%、P:0.001〜0.03%、S:0.0001〜0.003%、Al:0.001〜0.1%、N:0.001〜0.005%を含み、あるいはさらにCu:0.01〜1.0%、Ni:0.01〜1.0%、Cr:0.01〜1.0%、Mo:0.01〜1.0%、Ti:0.001〜0.05%、Nb:0.001〜0.05%、V:0.001〜0.2%、B:0.0001〜0.002%のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.0001〜0.01%、REM:0.0001〜0.01%のうちから選ばれた1種または2種、を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する粒子とすることが好ましい。
使用する粒子の径が100μmを超えて大きい場合には、コールドスプレー法により形成される堆積層中に比較的に大きな空隙を有するようになり、基板部との密着性が低下する。このため、堆積層(その後の焼鈍により軟質層となる)による塑性拘束作用が充分に得られない。粒子径が1μm未満と小さい場合には、スプレーによる直進性が損なわれたり、短時間あたりの堆積量が低下するなど、所望の堆積層が充分に形成されない。このため、使用する鉄基粒子の粒子径を1〜100μmの範囲に限定した。なお、好ましくは10〜80μmである。ここで、「粒子径」とは、例えばレーザ回折・散乱法などを用いて粒度分布測定を行ない、粒径と累積(積算)個数分布の関係で、累積個数が50%となる粒子径(メジアン径:d50)をいう。
本発明で適用するコールドスプレー法は、鉄基粒子を、加熱した作動ガスと混合したのち、スプレーノズルを用いて、基板表面にスプレーして、堆積層を形成する。
使用する作動ガスの温度は、500〜1000℃の範囲の温度とする。
作動ガスの温度が、500℃未満と低いと、粒子に充分な運動エネルギーが付与されず、充分な厚さの堆積層を形成できない。一方、作動ガスの温度が1000℃超と高い場合には、鉄基粒子が過度に軟質化したり、あるいは溶融するため、所望厚さの堆積層が形成できない。このため、作動ガスの温度は500〜1000℃の範囲の温度に限定した。なお、ここで言う「作動ガス温度」とは、スプレーノズル入口での温度である。
コールドスプレー法で形成する堆積層は、最終製品で、片面あたり、10μm以上500μm以下の範囲に調整して形成することが好ましい。堆積層の厚さが10μm未満では、上記した水素の鋼中への侵入抑制効果や、水素脆性によるき裂の発生抑制効果が十分に得られない。一方、500μm超えでは、軟質な層が多くなりすぎて、所望の最終製品の強度を確保することが困難となる。
逆変態や再結晶の促進という観点からは、冷間圧下率は高い方が好ましく、20%以上とする。一方、90%を超えて冷間圧下率が高すぎると、圧延機能力への負荷が高く生産効率が低下するうえ、最終製品の材質が低下する場合がある。このため、冷間圧延の冷間圧下率は20〜90%の範囲とした。なお、好ましくは30〜70%である。
焼鈍処理により、堆積層と基板部の界面付近で原子の相互拡散が行われ、その界面の密着性を効果的に高める。また、焼鈍処理により、基板部では組織制御が可能となり強度を高めることができ、一方、堆積層では、回復、再結晶による軟質化が促進され、軟質層とすることができる。したがって、焼鈍用原板に焼鈍処理を施すことにより、基板部での強度向上と、軟質層による基板部の塑性拘束効果、水素脆性によるき裂の発生抑制効果が促進され、高強度と優れた延性、優れた耐水素脆性とを兼備することが可能となる。
基板部のC量が0.10%未満では、引張強さTS :1180MPa以上の高強度を確保することが困難になる。このため、基板部のCは0.10%以上とした。なお、より好ましくは0.15%以上である。また、Cの上限は特に限定しないが、溶接性や靭性などの実用性の観点から0.70%以下とすることが好ましい。なお、より好ましくは0.70%未満である。
基板部では、さらに、上記したC量の限定、Mneqの限定に加えて、ビッカース硬さで400HV以上の硬さを有することとした。硬さが400HV未満では、引張強さTS:1180MPa以上の高強度を確保することが困難となる。なお、基板部では、C量以外の合金元素として、上記した条件を満足するように、例えば、Si、Mn、P、S、Al、N、Ti、Nb、V、Cr、Mo、Ni、Cu、B、Ca等を適宜含有することができる。
なお、基板部での構成相は、所望の高強度を確保するために、ベイナイト相、マルテンサイト相を主相とすることが好ましい。ここでいう「マルテンサイト」には、焼戻マルテンサイトと、焼戻しをされていないフレッシュマルテンサイトのいずれをも含むことができる。主相以外の第二相としては、残留γ相、あるいはさらにフェライト相、パーライトなどが例示できるが、第二相のフェライト相、パーライトは0%であってもよい。
コールドスプレー法では、基板に、微細粒子を高速、高圧で吹き付け、堆積層を形成する。衝突速度、突出圧力、粒子サイズ等の条件が不適である場合には、付着した粒子間に空隙が生じ、堆積層中に気孔を生じる場合がある。この気孔が面積%で10%以上と多い場合には、水素の侵入を抑制する効果が損なわれるとともに、堆積層の密着性が低下し、塑性加工時に剥離し易くなる。このため、堆積層(軟質層)による、塑性拘束効果、水素脆性を抑制する効果を充分に確保できなくなる。このようなことから、コールドスプレー条件を適正範囲に調整し、軟質層の気孔率を面積%で10%以下を満足するように、軟質層を緻密な構造とすることとした。
コールドスプレー法では、作動ガスを窒素ガスとし、該作動ガスをコールドスプレー装置のヒータで表4に示す温度に加熱し、加熱した作動ガスに、コールドスプレー装置の粒子供給装置から鉄基粒子を供給して混合し、スプレーノズルで、基板に吹き付け、焼鈍用原板とした。なお、作動ガス圧は3MPa一定とした。また、機械制御でノズルの走査速度を調整して堆積層厚さを調整した。得られた焼鈍用原板について、堆積層の厚さを測定した。結果を表4に示す。なお、コールドスプレー法では、得られた堆積層の組成は使用した鉄基粒子と略同様であり、ここではとくに分析しなかった。
(1)組織観察
得られた鋼板(薄鋼板)から、組織観察用試験片を採取し、圧延方向に平行な板厚断面を研磨、腐食(腐食液:3vol.%ナイタール液)して、走査型電子顕微鏡(倍率:3000倍)を用いて、軟質層の組織を観察し、表面から板厚方向に10μmまでの領域における組織の同定および、画像処理を用いてフェライト相の組織分率を算出した。なお、観察した視野は10視野とした。
また、得られた薄鋼板の板厚は、得られた鋼板の10箇所で代表し、マイクロメータで測定し、その算術平均を当該鋼板の板厚(総厚さ)とした。
また、得られた薄鋼板の軟質層の厚さは、得られた鋼板の10箇所で代表し、その断面を板厚方向に電子線マイクロアナライザーで元素分析し、堆積層の成分組成から基板部の成分組成に変化する遷移領域の中央位置を堆積層と基板部との境界と定義し、堆積層の厚さをそれぞれ測定し、その算術平均を当該鋼板の堆積層厚とした。
(2)引張試験
得られた鋼板(薄鋼板)から、圧延方向と直角方向にJIS5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して、クロスヘッド速度:20mm/minで引張試験を実施し、引張特性(引張強さTS、全伸びEl)を測定した。
(3)硬さ試験
得られた鋼板(薄鋼板)から、硬さ測定用試験片を採取し、ビッカース硬度計(試験力:10N)を用いて、JIS Z 2241に準拠して測定した。なお、測定位置は、基板部では基板(堆積層形成前の状態)の板厚方向1/4位置相当箇所で、軟質部では堆積による板厚増加分の1/2に相当する箇所とした。各箇所でそれぞれ5点、ビッカース硬さHV0.1を測定し、算術平均して当該箇所の硬さとした。
(4)遅れ破壊試験
得られた鋼板(薄鋼板)から、遅れ破壊試験片(大きさ:15mm×120mm)を採取し、4点曲げにより当該鋼板の降伏強さの0.9倍に相当する外力を付与した状態で、浸漬液(チオシアン酸アンモニウムをマッキルベイン緩衝液に混合した溶液)に浸漬した。なお、浸漬液は、pH:4、pH:6の2種類とし、負荷応力条件は、表面応力で材料の降伏強さの1.1倍(A条件)、0.9倍(B条件)の2条件とした。浸漬時間は120hまで行い、12h毎に破壊の有無を確認した。
また、焼鈍処理が好適範囲を低く外れた比較例(鋼板No.12)は、所望の高強度を確保できていない。また、コールドスプレーにおける使用する鉄基粒子の粒径が小さすぎた比較例(鋼板No.15)は、形成される堆積層の厚さが少なく、所望の強度−伸びバランスを確保できていないうえ、耐水素脆性が低下している。
また、基板組成が本発明の好適範囲を低く外れる比較例(鋼板No.22)は、所望の高強度を確保できていない。また、コールドスプレーにおける使用する鉄基粒子の組成が本発明の好適範囲を高く外れる比較例(鋼板No.23,No.24)は、所望の強度−伸びバランスを確保できていないうえ、耐水素脆性が低下している。
Claims (13)
- 基板部と、該基板部の少なくとも一方の側にコールドスプレー製堆積層を有してなる薄鋼板製焼鈍用原板であって、
前記基板部が、質量%で、C:0.10%以上を含み、合金元素を下記(1)式で定義されるMneqが2.5以上を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する熱延薄鋼板からなり、
前記堆積層が、質量%で、C:0.10%未満を含み、合金元素を下記(1)式で定義されるMneqが2.5未満を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする焼鈍用原板。
記
Mneq=Mn+0.26×Si+1.3×Cr+3.5×P+2.68×Mo+180×B+0.37×Ni+0.46×Cu ‥‥(1)
ここで、Mn、Si、Cr、P、Mo、B、Ni、Cu:各元素の含有量(質量%) - 前記堆積層が、片面当たり10μm以上500μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の焼鈍用原板。
- 前記基板部に代えて、基板部が、質量%で、C:0.10%以上を含み、合金元素を前記(1)式で定義されるMneqが2.5以上を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する冷延薄鋼板からなることを特徴とする請求項1または2に記載の焼鈍用原板。
- 基板の少なくとも一方の表面にコールドスプレー法による堆積層を形成してなる薄鋼板製焼鈍用原板の製造方法であって、
前記基板を、質量%で、C:0.10%以上を含み、合金元素を下記(1)式で定義されるMneqが2.5以上を満足するように含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する熱延薄鋼板とし、
前記堆積層が、前記基板の少なくとも一方の表面に、質量%でC:0.10%未満で、かつ下記(1)式で定義されるMneqが2.5未満を満足する鉄基粒子を、加熱した作動ガスと混合したのち、スプレーノズルを用いて吹付けるコールドスプレー法で形成してなることを特徴とする焼鈍用原板の製造方法。
記
Mneq=Mn+0.26×Si+1.3×Cr+3.5×P+2.68×Mo+180×B+0.37×Ni+0.46×Cu ‥‥(1)
ここで、Mn、Si、Cr、P、Mo、B、Ni、Cu:各元素の含有量(質量%) - 前記鉄基粒子が、粒子径:1〜100μmであることを特徴とする請求項4に記載の焼鈍用原板の製造方法。
- 前記加熱した作動ガスの温度が、500〜1000℃の範囲の温度であることを特徴とする請求項4または5に記載の焼鈍用原板の製造方法。
- 前記堆積層が、片面当たり10μm以上500μm以下であることを特徴とする請求項4ないし6のいずれかに記載の焼鈍用原板の製造方法。
- 前記基板に代えて、基板が、質量%で、C:0.10%以上を含み、合金元素を前記(1)式で定義されるMneqが2.5以上を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する冷延薄鋼板であることを特徴とする請求項4ないし7のいずれかに記載の焼鈍用原板の製造方法。
- 請求項1または2に記載の焼鈍用原板に、さらに、冷間圧延と焼鈍処理とを、施してなる基板部と該基板部の少なくとも一方の側に軟質層を有する薄鋼板であって、前記基板部が、質量%で、C:0.10%以上、合金元素を前記(1)式で定義されるMneqが2.5以上を満足するように含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、板厚中央位置でビッカース硬さで400HV以上の硬さを有し、前記軟質層が、質量%で、C:0.10%未満を含み、あるいはさらに他の合金元素を前記(1)式で定義されるMneqが2.5未満を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、表面から板厚方向に10μmまでの領域で、気孔率が面積率で10%未満で、かつフェライト相が面積率で50%以上である組織を有する層であることを特徴とする成形性と耐水素脆性に優れた高強度薄鋼板。
- 請求項3に記載の焼鈍用原板に、さらに、焼鈍処理を施してなる基板部と該基板部の少なくとも一方の側に軟質層を有する薄鋼板であって、前記基板部が、質量%で、C:0.10%以上を含み、合金元素を前記(1)式で定義されるMneqが2.5以上を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、ビッカース硬さで400HV以上の硬さを有し、前記軟質層が、質量%で、C:0.10%未満を含み、あるいはさらに他の合金元素を前記(1)式で定義されるMneqが2.5未満を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、表面から板厚方向に10μmまでの領域で、気孔率が面積率で10%未満、かつフェライト相が面積率で50%以上である組織を有する層であることを特徴とする成形性と耐水素脆性に優れた高強度薄鋼板。
- 前記高強度冷延薄鋼板が、引張強さTS:1180MPa以上を有し、かつ強度−伸びバランスTS×Elが16000MPa%以上を有することを特徴とする請求項9または10に記載の高強度薄鋼板。
- 請求項4ないし7のいずれかに記載の焼鈍用原板の製造方法により製造された焼鈍用原板に、冷延圧下率:20〜90%の冷間圧延と焼鈍温度:700〜900℃に加熱する焼鈍処理とを、施すことを特徴とする成形性と耐水素脆性に優れた高強度薄鋼板の製造方法。
- 請求項8に記載の焼鈍用原板の製造方法により製造された焼鈍用原板に、さらに焼鈍温度:700〜900℃に加熱する焼鈍処理を施すことを特徴とする成形性と耐水素脆性に優れた高強度薄鋼板の製造方法。
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