JP6039465B2 - 口腔用医薬組成物、口腔乾燥症改善剤、口腔乾燥症予防剤、及びアクアポリン産生促進剤 - Google Patents
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Description
口腔乾燥症の患者数は正確な統計がないものの、約800万人ともいわれている。ドライマウスは男性よりも女性に表れやすく、全体の9割は女性で、更にその9割は50歳代〜70歳代が占めているといわれている。
口腔乾燥症は口腔粘膜の潰瘍、齲食、歯周病を含めた歯科疾患、口腔内や呼吸器感染症の頻度の増加、口臭の原因となり、これらに対する適切な対応が強く望まれているのが現状である。
前記セビメリンには唾液分泌の持続的な促進作用がみられる。セビメリンは、ムスカリン性アセチルコリン受容体の作用薬であり,脳においてはM1ムスカリン受容体に作用し、唾液腺においてはM3ムスカリン受容体に作用している。
唾液の分泌は、唾液腺を支配している自律神経(交感神経、副交感神経)の興奮により制御されている。夜間眠っている時には唾液の分泌量が少なく、昼間起きている時には分泌量が多い。
アクアポリンは全身に広く分布して,体内の水の恒常性に関わっている。
例えば、AQP1は脳や赤血球、血管内皮をはじめ多くの臓器に存在し、AQP2は主に腎臓の管腔膜側、AQP3は表皮や腎臓の血管側膜、AQP4は脳のグリア細胞や内耳、網膜、AQP5は表皮や、唾液腺や涙腺の管腔膜側などに分布する。
即ち、セビメリンは唾液腺細胞のM3ムスカリン受容体に作用してAQP5を管腔膜で増量させることで、唾液の分泌を促進していると考えられる。
セビメリンは現在のところ、シェーグレン症候群以外は処方対象となっていない。
したがって、口腔乾燥症の改善及び予防効果を有し、かつ安全性が高く、そのため、口腔用組成物として広く利用が可能な、優れた物質は、未だ提供されておらず、その速やかな提供が強く求められているのが現状である。
天然物由来のAQP5発現促進剤としては、例えば、バラ科のイチゴ属などの植物抽出物が知られている(特許文献5参照)。
また、本発明は、優れたアクアポリン産生促進作用を有し、安全性の高いアクアポリン産生促進剤を提供することを目的とする。
<1> パイナップルセラミドを含有することを特徴とする口腔用医薬組成物である。
<2> パイナップルセラミドを含有することを特徴とする口腔乾燥症改善剤である。
<3> パイナップルセラミドを、アクアポリンの産生促進作用の有効成分として含有されてなる前記<2>に記載の口腔乾燥症改善剤である。
<4> パイナップルセラミドを含有することを特徴とする口腔乾燥症予防剤である。
<5> パイナップルセラミドを、アクアポリンの産生促進作用の有効成分として含有されてなる前記<4>に記載の口腔乾燥症予防剤である。
<6> パイナップルセラミドを含有することを特徴とするアクアポリン産生促進剤である。
また、本発明によれば、従来における前記諸問題を解決することができ、優れたアクアポリン産生促進作用を有し、安全性の高いアクアポリン産生促進剤を提供することができる。
本発明の口腔用医薬組成物、口腔乾燥症改善剤、口腔乾燥症予防剤、及びアクアポリン産生促進剤は、パイナップルセラミドを含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
前記口腔用医薬組成物、前記口腔乾燥症改善剤、前記口腔乾燥症予防剤、及び前記アクアポリン産生促進剤中の前記パイナップルセラミドの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記パイナップルセラミドは、パイナップルから抽出されたグルコシルセラミド(ヒドロキシ脂肪酸誘導体)として、下記構造式(1)で表されるヒドロキシ脂肪酸誘導体を主成分として含有してなり、更に必要に応じてパイナップルから抽出された他のヒドロキシ脂肪酸誘導体を含有してなる。前記パイナップルセラミドは、下記構造式(2)〜(5)で表されるヒドロキシ脂肪酸誘導体の少なくともいずれかを更に含有することが好ましい。
前記構造式(1)で表されるヒドロキシ脂肪酸誘導体は、グルコシル基と、脂肪酸として炭素数20の直鎖α−ヒドロキシ酸と、スフィンゴイド塩基としてスフィンゴシン(2−アミノ−4−オクタデセン−1,3−ジオール)の8位が2重結合となった2−アミノ−4,8−オクタデシジエン−1,3−ジオールからなる、化学式C44H83NO9のヒドロキシ脂肪酸誘導体である。
前記構造式(2)で表されるヒドロキシ脂肪酸誘導体は、グルコシル基と、脂肪酸として炭素数18の直鎖α−ヒドロキシ酸と、スフィンゴイド塩基として2−アミノ−8−オクタデシジエン−1,3−ジオールからなる、化学式C44H79NO9のヒドロキシ脂肪酸誘導体である。
前記構造式(3)で表されるヒドロキシ脂肪酸誘導体は、グルコシル基と、脂肪酸として炭素数24の直鎖α−ヒドロキシ酸と、スフィンゴイド塩基として2−アミノ−4−オクタデセン−1,3,4−トリオールからなる、化学式C49H95NO10のヒドロキシ脂肪酸誘導体である。
前記構造式(4)で表されるヒドロキシ脂肪酸誘導体は、グルコシル基と、脂肪酸として炭素数25の直鎖α−ヒドロキシ酸と、スフィンゴイド塩基として2−アミノ−4−オクタデセン−1,3,4−トリオールからなる、化学式C50H97NO10のヒドロキシ脂肪酸誘導体である。
前記構造式(5)で表されるヒドロキシ脂肪酸誘導体は、グルコシル基と、脂肪酸として炭素数26の直鎖α−ヒドロキシ酸と、スフィンゴイド塩基として2−アミノ−4−オクタデセン−1,3,4−トリオールからなる、化学式C51H99NO10のヒドロキシ脂肪酸誘導体である。
前記ヒドロキシ脂肪酸誘導体の同定方法としては、特に制限はなく、常法により行うことができる。例えば、TCL分析により、単糖をもった糖脂質であるモノヘキソシルセラミド(CMH)の分子骨格を有することを確認し、次いで、MALDI−TOFMS分析などの質量分析によって測定した分子量と、先の分子骨格情報から、分子構造を推定する。続いて、前記ヒドロキシ脂肪酸誘導体を加水分解することにより、構成単位であるグルコシル基と、脂肪酸と、スフィンゴイド塩基とに分解し、脂肪酸部分及びスフィンゴイド塩基部分についてそれぞれ構造解析を行い、推定した分子構造情報と併せて、ヒドロキシ脂肪酸誘導体の分子構造を決定することができる。
脂肪酸部分及びスフィンゴイド塩基部分の同定方法としては、GC−MS分析などの質量分析により行うことができる。
パイナップル(Pinapple)は、パイナップル科アナナス属に属する多年生の植物で、学名:Ananas comosus(L.)Merr.乃至Ananas sativus Schultであり、中国では鳳梨とも呼ばれている。果実は大角形で多肉、黄色く熟し芳香を放ち、食用として用いられる。パイナップルの産地は、米国、フィリピン、マレーシア、ブラジル、オースラリアなどを主としているが、本発明に用いられるパイナップルセラミドを得るにあたっては、その種類や産地は特に限定されない。
前記抽出原料は、採取後、洗浄して乾燥し、粉砕したものを用いることが好ましい。前記乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を使用して行ってもよい。
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール;ヘキサン;低級脂肪族アルコール、低級脂肪族ケトン、多価アルコール等の親水性有機溶媒と水との混合溶媒などが挙げられる。これらの中でも、親水性有機溶媒と水との混合溶媒が好ましい。前記親水性有機溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、メタノール、エタノール、プロパノール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールが好ましく、エタノールがより好ましい。
水と親水性有機溶媒との混合溶媒において、前記親水性有機溶媒として低級脂肪族アルコールを用いる場合、前記低級脂肪族アルコールの前記混合溶媒における含有量としては、10体積%〜100体積%が好ましく、70体積%〜100体積%がより好ましく、90体積%が特に好ましい。前記親水性有機溶媒として低級脂肪族ケトンを用いる場合、前記低級脂肪族ケトンの前記混合溶媒における含有量としては、10体積%〜80体積%が好ましい。前記親水性有機溶媒として多価アルコールを用いる場合、前記多価アルコールの前記混合溶媒における含有量としては、10体積%〜90体積%が好ましい。
具体的には、前記パイナップルセラミドの抽出方法としては、例えば、エタノール水溶液などの前記溶媒を満たした処理槽に、パイナップル可食部を圧搾した後の残渣(パイナップルパルプ)などの前記抽出原料を投入し、必要に応じて適宜攪拌しながら、還流抽出器で80℃にて2時間加熱抽出し、熱時濾過して脂溶性成分を溶出した後、エバポレーターを用いて減圧下で濃縮し、更に同様の濾過処理を行い、目的とするパイナップルセラミドを得る方法などが挙げられる。
この際、抽出条件は、前記抽出原料などに応じて適宜調整し得るが、前記抽出溶媒量は、前記抽出原料としてのパイナップル可食部に対して5倍量〜20倍量(質量比)が好ましく、抽出時間は1時間〜3時間が好ましく、抽出温度は20℃〜95℃が好ましい。
得られた前記パイナップルセラミドは、そのままでも前記口腔用医薬組成物、前記口腔乾燥症改善剤、前記口腔乾燥症予防剤及び前記アクアポリン産生促進剤のいずれかとして使用することができるが、利用しやすい点で、前記濃縮物、前記乾燥物が好ましい。前記乾燥物を得るに当たって、吸湿性を改善するためにデキストリン、シクロデキストリンなどのキャリアーを加えてもよい。
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、流動化剤、甘味剤、崩壊剤、安定化剤、着色剤、香料、コーティング剤、矯味剤、矯臭剤などが挙げられる。
前記賦形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、D−マンニトール、白糖(精製白糖含む)、炭酸水素ナトリウム、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、部分アルファー化デンプン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸、無水リン酸水素カルシウム、沈降炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウムなどが挙げられる。
前記滑沢剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウムなどが挙げられる。
前記結合剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポビドン、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルファー化デンプン、アルギン酸ナトリウム、プルラン、アラビアゴム末などが挙げられる。
前記流動化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、タルクなどが挙げられる。
前記甘味剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アスパルテーム、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、ステビア、ソーマチン、白糖、マンニトール、アセスルファムカリウム、スクラロースなどが挙げられる。
前記崩壊剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドンなどが挙げられる。
前記安定化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、タルク、デキストラン、水酸化マグネシウムなど挙げられる。
前記着色剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、酸化チタンなどが挙げられる。
前記香料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メントール、はっか油、レモン油、オレンジ油などが挙げられる。
前記コーティング剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒドロシキプロピルセルロース、シェラック、ツエイン、酵母由来物質などが挙げられる。
前記矯味剤、及び前記矯臭剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
本発明の口腔用医薬組成物、口腔乾燥症改善剤、口腔乾燥症予防剤、及びアクアポリン産生促進剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、錠剤、丸剤、トローチ剤、チュアブル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、グミ、ゼリー等の飲食品、医薬品としての剤型などが挙げられる。
本発明の口腔用医薬組成物、口腔乾燥症改善剤、口腔乾燥症予防剤、及びアクアポリン産生促進剤の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、チュアブル剤を製造する周知の方法などが挙げられる。
前記アクアポリン産生促進剤は、有効成分として含有される前記パイナップルセラミドの作用により、アクアポリン産生促進作用を発揮する。
パイナップル可食部の圧搾後の残渣(パイナップルパルプ)10kgを90体積%エタノール1,000mLに加え、還流抽出器で80℃にて2時間加熱抽出し、熱時濾過した。その後、エバポレーターを用いて減圧下で濃縮し、更に同様の濾過処理を行った。得られた残渣について500mLの水で洗浄し、ペースト状のパイナップルセラミド15gを得た。抽出物の収率は、0.15(質量%)であった。
−ヒドロキシ脂肪酸誘導体の測定−
前記パイナップルセラミドを乾燥させた乾燥物100mgをエタノール1mLに溶解したものを被験試料として用い、市販のスフィンゴ糖脂質標準品エタノール溶液(0.25mg/mL、0.5mg/mL、1、2mg/mL、5mg/mL)とともにシリカゲル薄層クロマトグラフィープレートにアプライし、クロロホルム:メタノール混合溶液(9:1、体積比)で展開した。展開後、硫酸を噴霧し、加熱を行い、スフィンゴ糖脂質標準品と同じRf値となるスポットをスフィンゴ糖脂質のスポットとした。薄層クロマトグラフィーの発色強度を、デンシトメーター(株式会社島津製作所製 CS−9300PC)により測定し、得られた標準品の発色強度に基づいて検量線を作成し、試料の発色強度よりスフィンゴ糖脂質量を求めた。測定の結果、前記パイナップルセラミドは、20質量%のヒドロキシ脂肪酸誘導体を含有することがわかった。
下記の手順により、得られたパイナップルセラミドに含まれるヒドロキシ脂肪酸誘導体を同定した。
下記のTLC分析条件において、下記標準試料と共に被験試料を展開した結果、被験試料が単糖をもった糖脂質であるモノヘキソシルセラミド(CMH)を含むと推定された。
[TLC分析条件]
プレート:HPTLC silica gel 60(Merck社製)
使用直前に120℃、30分間の活性化を行う
展開溶媒:クロロホルム:メタノール:水=65:25:4(体積比)
発色: オルシノール硫酸試薬
標準試料:モノヘキソシルセラミド(CMH)及びステリルグリコシド
マトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型質量分析法(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization−Time of Flight Mass Spectrometry;MALDI−TOFMS)により、以下の手順で、得られたパイナップルセラミドに含まれるヒドロキシ脂肪酸誘導体の分子構造を推定した。
マトリックス(試料分子イオン化補助剤)としての2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)を、10体積%エタノール水溶液で10mg/mLの濃度に調製した溶液をマトリックス溶液として用いた。次いで、被験試料を1mg/mL濃度となるようにクロロホルム:メタノール=1:1(体積比)溶液に溶解して糖脂質溶液を調製し、該糖脂質溶液0.2μLとマトリックス溶液1.0μLとをサンプルプレート上で混合した後、風乾して結晶化させた。このサンプルプレートをMALDI−TOFMS分析装置であるVoyager DE−STR(Applied Biosystems製)にセットし、質量分析を行った。
ガス・クロマトグラフを直結した質量分析計(Gas Chromatography−Mass Spectrometer;GC−MS)により、以下の手順で、脂肪酸部分の構造同定を行った。
被験試料中の糖脂質100μg〜200μg当たり2.5体積%無水塩酸メタノール0.3mLを加えて80℃で12時間加水分解した(メタノリシス)。反応液に等量のヘキサンを加え、生成した脂肪酸メチルエステルをヘキサンで抽出した。ヘキサン抽出を3回繰り返し、得られたヘキサン層を一度窒素気流下で乾固した後、残渣にトリメチルシリル(TMS)化試薬(ピリジン:1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン(HMDS):トリメチルクロロシラン(TMCS)=1:1.3:0.8、体積比)200μLを加え、60℃で10分間加熱した。反応液を遠心分離し、得られた上清0.2μLをGC−MSにて分析した。GC−MS分析のカラムには、J&W Scientific社のDB−5M(0.25mm×30m)を用い、カラム温度は試料注入後、最初の1分間は60℃に保ち、その後、毎分8℃で300℃まで昇温させ、300℃で9分間保つ条件で行った。
被験試料中の糖脂質200μg当たり水性塩酸メタノール(濃塩酸8.6mL、水0.4mL、メタノール41.0mLを混合して調製)0.3mLを加えて75℃で16時間加水分解した。反応液に等量のヘキサンを加え、脂肪酸メチルエステルをヘキサンで抽出除去した。酸性メタノール層を窒素気流下で乾固した後、0.1N水酸化ナトリウム溶液0.6mLとメタノール1.0mLを加え、次いでクロロホルム2.0mLを加えて混合し、遠心分離して上層を除去した。下層のクロロホルム層をFolchの上層(クロロホルム:メタノール:水=1:50:49、体積比)で2回洗浄した。得られたクロロホルム層を窒素気流下で乾固した後、残渣にTMS化試薬(ピリジン:HMDS:TMCS=1:1.3:0.8、体積比)100μLを加え、60℃で10分間加熱した。反応液を遠心分離し、得られた上清0.2μLをGC−MSにて分析した。GC−MSの分析は、脂肪酸分析と同じ条件で行った。
以上の分析結果から、上記MALDI−TOFMS分析で推定した通り、前記パイナップルセラミドに含まれるヒドロキシ脂肪酸誘導体の主成分は、グルコシル基と、脂肪酸として炭素数20の直鎖α−ヒドロキシ酸と、スフィンゴイド塩基として2−アミノ−4,8−オクタデシジエン−1,3−ジオールからなる、化学式C44H83NO9の前記構造式(1)で表されるヒドロキシ脂肪酸誘導体であることが確認できた。また、前記パイナップルセラミドは、前記構造式(1)で表されるヒドロキシ脂肪酸誘導体を主成分として、更にその脂肪酸部分の炭素数及びスフィンゴイド塩基が異なる前記構造式(2)〜(5)で表されるヒドロキシ脂肪酸誘導体を含む混合物であることが確認できた。
下記表1に示される組成のパイナップルセラミド配合チュアブルを製造した。
製造例1のグルコシルセラミド20質量%含有パインセラミド6g、デンプン(エフメルト(登録商標)F−1、富士化学工業株式会社製)250g、デキストリン(松谷化学工業株式会社製)121.5g、セルロース(株式会社伏見製造所製)100g、微粒酸化ケイ素(富士シリア化学株式会社製)7.5g、ショ糖脂肪酸エステル(三菱化学フーズ株式会社製)15gを用いて、パイナップルセラミド配合チュアブルを製造した。前記チュアブルの製造方法としては、周知の方法を用いた。
得られたパイナップルセラミド配合チュアブルの組成(各成分の含有量)を表1に示す。
実施例1のパイナップルセラミドの代わりに、色素(クチナシ色素、粉末サンエロー(登録商標)No.2FU、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)4gを用いた以外は、実施例1と同様にして、パイナップルセラミド無配合チュアブル(プラセボ)を製造した。得られたパイナップルセラミド無配合チュアブルの組成(各成分の含有量)を表2に示す。
被験者に4週間、毎日、昼食後1時間以内に実施例1のパイナップルセラミド配合チュアブル、又は比較例1のパイナップルセラミド無配合チュアブル(プラセボ)のどちらかを、口腔内に5分以上、飴を舐める感覚で保持する形式で摂取してもらった。その際、各被験者には、自身が摂取しているものが、パイナップルセラミド配合チュアブルとパイナップルセラミド無配合チュアブル(プラセボ)のどちらであるかは告げなかった。
被験者は計12名(男性5名、女性7名)であった。以下、パイナップルセラミド配合チュアブルを4週間摂取した被験者をパインセラ群、パイナップルセラミド無配合チュアブル(プラセボ)を4週間摂取した被験者をプラセボ群と称する。
(パインセラ群)
人数: 6名
年齢: 平均47.5歳
(プラセボ群)
人数: 6名
年齢: 平均44.2歳
以下、口腔内乾燥の改善効果について評価を行った。
試験期間(2012年9月29日〜2012年10月27日)の温度及び湿度を図1に示す。
各被験者の口腔内の状態について、摂取前、及び摂取4週間後のそれぞれの時期に、肉眼で観察し、下記の5段階評価で評価した。
A : 乾燥した舌粘膜や頬粘膜が認められる
B : 唾液の塊や唾液中の泡が認められる
C : 唾液の粘稠度が増加している
D : 口蓋及び舌背が唾液で湿っている
E : 口蓋及び舌背上の唾液が十分に見える
評価結果を表3に示す。
パインセラ群において、摂取4週間後で口腔内状態の改善がみられた。
各被験者の口腔内水分量について、摂取前、及び摂取4週間後のそれぞれの時期に口腔水分計(ムーカス(登録商標)、株式会社ライフ製)を用いて、測定を3回行い、その中央値を採用した。結果を図3A〜図3Cに示す。
図3Aは、各被験者におけるチュアブル摂取前後の口腔水分測定値を示す。
図3Bは、各被験者におけるチュアブル摂取前後の口腔水分測定値の増減量(チュアブル摂取前を100%とした相対値)を示す。
図3Cは、各群で、チュアブル摂取前後の口腔水分測定値の増減量をまとめた結果を示す。口腔水分計による測定値を、Parametric−testであるt検定を用いて比較した。
口腔水分計により口腔内水分量を測定した結果、プラセボ群では摂取前後で口腔内水分量が低下していたのに対して、パインセラ摂取群では摂取前後で唾液分泌に大きな差はなく、プラゼボ群と比較し、有意な差が確認された。
摂取前、及び摂取4週間後のそれぞれの時期に口腔乾燥の自覚症状に関するアンケート(下記の5段階評価の中から選択)に対して、各被験者が直接記入、回答した結果を集計した。
A : ひどく乾燥している
B : 乾燥している
C : やや乾燥している
D : あまり乾燥していない
E : 全く乾燥していない
評価結果を表4に示す。
主観的な項目である自覚的口腔乾燥症状を数値化するためにVAS(visual analog scale)法を用いた。VAS法により乾燥症状3項目(「口腔内の潤い」、「寝起きの口腔内のネバネバ感」、「***の潤い」)を評価した。スケールは10.0cmとし、被験者には主観を2点の間で自由に印してもらい、0.0cmの点からの長さを測定した。
「口腔内の潤い」については、0.0cmの点を「全く感じない」、10.0cmの点を「最も潤っている」とした。
「寝起きの口腔内のネバネバ感」については、0.0cmの点を「全く感じない」、10.0cmの点を「最もネバネバしている」とした。
「***の潤い」については、0.0cmの点を「全く感じない」、10.0cmの点を「最も潤っている」とした。
図5Aは、「口腔内の潤い」に関するVAS値をプラセボ群とパインセラ群でまとめた結果を示す。
図5Bは、「口腔内の潤い」に関するVAS値の増減をプラセボ群とパインセラ群でまとめた結果を示す。
図5Cは、「寝起きの口腔内のネバネバ感」に関するVAS値をプラセボ群とパインセラ群でまとめた結果を示す。
図5Dは、「寝起きの口腔内のネバネバ感」に関するVAS値の増減をプラセボ群とパインセラ群でまとめた結果を示す。
図5Eは、「***の潤い」に関するVAS値をプラセボ群とパインセラ群でまとめた結果を示す。
図5Fは、「***の潤い」に関するVAS値の増減をプラセボ群とパインセラ群でまとめた結果を示す。
「寝起きの口腔内のネバネバ感」、及び「***の潤い」について、プラセボ群と比較して、パインセラ群で改善効果が確認された。
製造例1のグルコシルセラミド20質量%含有パイナップルセラミドを被験試料として用い、下記の試験方法により、アクアポリン3(AQP3)産生促進作用を試験した。
培地にEpilife−KG2を用いて、回収した細胞を35mmシャーレ(FALCON社製)に40×104細胞/2mLずつ播種し、37℃、5%CO2の条件下で24時間培養した。24時間後に培養液を捨て、Epilife−KG2で必要濃度に溶解した被験試料(試料濃度:50μg/mL)を各シャーレに2mLずつ添加し、37℃、5%CO2の条件下にて24時間培養した。培養後、培養液を捨て、ISOGEN(Cat.No.311−02501、ニッポンジーン株式会社製)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計(日本分光株式会社製)にて測定し、200μg/mLになるように総RNAを調製した。
AQP3のmRNA発現促進率(%)は、被験試料無添加及び被験試料添加でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基にして、GAPDHの値で補正値を求め、更に被験試料無添加の補正値を100としたときの被験試料添加の補正値を算出した。結果を表5に示す。
AQP3のmRNA発現促進率(%)の計算方法は以下の通りである。
AQP3 mRNA発現促進率(%)=A/B×100
ただし、前記式中、Aは被験試料添加時の補正値を表し、Bは被験試料無添加時(コントロール)の補正値を表す。
ちなみに、レチノイン酸を10μM濃度になるように添加した陽性対照実験におけるAQP3 mRNA発現促進率は、518.1%であった。
製造例1のグルコシルセラミド20質量%含有パイナップルセラミドを被験試料として用い、下記の試験方法により、アクアポリン5(AQP5)産生促進作用を試験した。
培地に4質量%FBS含有D−MEMを用いて、回収した細胞を35mmシャーレ(FALCON社製)に90×104細胞/2mLずつ播種し、37℃、5%CO2の条件下で24時間培養した。24時間後に培養液を捨て、4質量%FBS含有D−MEMで必要濃度に溶解した被験試料(試料濃度:0.2μg/mL又は12.5μg/mL)を各シャーレに2mLずつ添加し、37℃、5%CO2の条件下にて24時間培養した。培養後、培養液を捨て、ISOGEN(Cat.No.311−02501、ニッポンジーン株式会社製)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計(日本分光株式会社製)にて測定し、200μg/mLになるように総RNAを調製した。
AQP5のmRNA発現促進率(%)は、被験試料無添加及び被験試料添加でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基にして、GAPDHの値で補正値を求め、更に被験試料無添加の補正値を100としたときの被験試料添加の補正値を算出した。結果を表6に示す。
AQP5のmRNA発現促進促進率(%)の計算方法は以下の通りである。
AQP5 mRNA発現促進率(%)=A/B×100
ただし、前記式中、Aは被験試料添加時の補正値を表し、Bは被験試料無添加時(コントロール)の補正値を表す。
ちなみに、レチノイン酸を10μM濃度になるように添加した陽性対照実験におけるAQP5 mRNA発現促進率は、241.2%であった。
Claims (5)
- 下記構造式(1)で表されるヒドロキシ脂肪酸誘導体を含有することを特徴とする口腔用医薬組成物(ただし、カンジダ菌に対する抗菌剤としての用途を除く。)。
- 下記構造式(1)で表されるヒドロキシ脂肪酸誘導体を含有することを特徴とする口腔乾燥症改善剤(ただし、カンジダ菌に対する口腔乾燥症改善剤としての用途を除く。)。
- 下記構造式(1)で表されるヒドロキシ脂肪酸誘導体を含有することを特徴とする口腔乾燥症予防剤(ただし、カンジダ菌に対する口腔乾燥症予防剤としての用途を除く。)。
- 下記構造式(1)で表されるヒドロキシ脂肪酸誘導体を含有することを特徴とするアクアポリン産生促進剤。
- 下記構造式(2)から(5)で表されるヒドロキシ脂肪酸誘導体の少なくともいずれかを更に含有する請求項1に記載の口腔用医薬組成物、請求項2に記載の口腔乾燥症改善剤、請求項3に記載の口腔乾燥症予防剤、又は請求項4に記載のアクアポリン産生促進剤。
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