JP6036438B2 - 高強度抵抗溶接継手およびその製造方法 - Google Patents

高強度抵抗溶接継手およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、高強度抵抗溶接継手およびその製造方法に関するものであり、より詳しくは、自動車分野等で使用される高強度鋼板の抵抗溶接継手および抵抗溶接方法に関するものである。
近年、自動車分野においては、車体や部品等に高強度鋼板を使用するニーズが高まっている。これは、低燃費化や炭酸ガス(CO)排出量削減を達成するために車体の軽量化が必要であり、また、衝突安全性を向上させることが必要なためである。
一方、車体の組立や部品の取付等の工程においては、主としてスポット溶接に代表される抵抗溶接が用いられている。しかしながら、高強度鋼板、特に引張強さの高い高強度鋼板を抵抗溶接した場合には、以下のような問題が生じる。
抵抗溶接した継手(以下、溶接継手と称することがある)で、まず重要な特性としては引張強さがある。溶接継手の引張強さには、せん断方向に引張荷重を負荷して測定する引張せん断強さ(TSS)と、剥離方向に引張荷重を負荷して測定する十字引張強さ(CTS)がある。引張せん断強さと十字引張強さの測定方法は、例えば、JIS Z3136、JIS Z3137に規定されている。
一般に、ナゲットの硬さが低く、かつナゲットにおける偏析が抑制されている場合には、引張試験時の破断形態が良好(ナゲットの周囲で破断が生じる)で、十分に高い引張強さが得られ、そのばらつきも小さい。ここで、ナゲットとは図1に示すように、抵抗溶接によって一旦溶融状態となり、凝固した部分を指す。一方、このナゲットが硬い場合や、ナゲット内の偏析が顕著な場合には、引張試験時に剥離破断(ナゲット内での破断)や部分プラグ破断(ナゲット内での部分的な破断)が生じ、良好な破断形態が得られなくなる。このような場合には、引張強さが著しく低下し、そのばらつきも大きくなる。このような引張強さの低下や強度ばらつきは、特に十字引張強さで顕著に現れる。また、高強度鋼板の抵抗溶接では、ナゲット内に割れや欠陥が発生する場合もあるが、そのような場合には、継手強度の低下や強度ばらつきは顕著になる。このため、高強度鋼板の抵抗溶接部では、破断形態の改善と、それに伴う十字引張強さの向上、および、そのばらつき低減が求められている。
ナゲット内での破断は、炭素当量が高い高強度鋼板を抵抗溶接した場合に生じやすい。ここで炭素当量とは、例えば非特許文献1に示されるように、鋼板の成分から求められる計算式で表される。このような問題を解決することを目的とした方法が、非特許文献2および特許文献1に記載されている。これらの方法では、抵抗溶接の通電が終了して一定時間が経過した後にテンパー通電を行い、抵抗溶接部(ナゲット部および熱影響部)を焼鈍して溶接部の硬さを低下させている。しかしながら、これらの方法では、何れも溶接に長時間を要するために生産性が低下するという問題がある。また、ある頻度で発生するナゲット内剥離破壊と、それに伴う継手強度の低下を完全に抑制できず、その結果、継手の信頼性が確保できないという問題点があった。
また、継手強度が低下する問題を解決する方法が、特許文献2および特許文献3に記載されている。これらの方法では、抵抗溶接後に高周波で溶接部を加熱して焼き戻し処理を行っている。しかしながら、これらの方法では、溶接後に別工程が必要となって煩雑になり、工程増加になるとともに、高周波を利用するために特殊な装置が必要になるという問題がある。また、ある頻度で発生するナゲット内剥離破壊と、それに伴う継手強度の低下を完全に抑制できず、その結果、継手の信頼性が確保できないという問題点があった。
さらに、非特許文献3および特許文献4には、自動車生産工程内の塗装焼付け処理による加熱および温度保持によって、L字溶接継手の引張強さ(剥離強度)が向上することが記載されている。しかしながら、非特許文献3および特許文献4では、鋼種やナゲット内での金属組織や鋼板成分と十字引張強さとの関係が明確にされていない。また、各種鋼種を用いた場合の溶接部の詳細な破断形態、および破断形態と十字引張強さとの関係も示されていない。
特許文献5には、所定の高強度鋼板を用いてスポット溶接を行い、溶接通電後に所定の条件でテンパー通電を行って溶接部の硬さを低下させる方法が記載されている。特許文献5では、所定の高強度鋼板としては、炭素当量が所定範囲に規定され、引張試験で求められる真歪み3〜7%の範囲の応力−歪線図の傾きが5000MPa以上に規定されたものが用いられる。しかしながら、この方法でも、ある頻度で発生するナゲット内剥離破壊と、それに伴う継手強度の低下を完全に抑制できず、その結果、継手の信頼性が確保できないという問題点があった。
特許文献6には、本通電によるナゲット形成の後に、本通電における電流値以上の電流値で後熱通電するという方法が記載されている。また、特許文献7には、本通電によるナゲット形成の後に、加圧力を増加させて後熱通電するという方法が記載されている。しかしながら、これらの方法でも、溶接部の軟化によってナゲット内での剥離破断が起こりやすくなったり、安定して高い継手強度が得られないという問題がある。
特許文献8には、ナゲット内の炭化物およびデンドライト間隔を適正範囲内にしてナゲット内破壊を抑制することで継手強度を向上させる技術が、また、特許文献9には、母材の炭素量および他の成分を適正化するとともに、素材鋼板表層の平均酸素濃度を適正範囲内にすることで、溶接部強度に優れるスポット溶接継手を提供する方法が提案されている。しかしながら、これらの方法でも、十字継手引張試験を行うと、ある頻度で発生するナゲット内剥離破壊と、それに伴う継手強度の低下を完全に抑制できず、その結果、継手の信頼性が確保できないという問題点があった。
特開2002−103048号公報 特開2009−125801号公報 特開2009−127119号公報 特開2009−291797号公報 特開2009−138223号公報 特開2010−115706号公報 特開2010−149187号公報 特願2010−173929号公報 特開2012−102370号公報
「自動車用高強度鋼板のスポット溶接性」、新日鉄技報 第385号、2006年、P36〜41 「高張力鋼における点溶接継手疲労強度の改善−鉄と鋼−」,日本鉄鋼協会,1982年,第68巻,第9号 P318〜325 「自動車鋼板のスポット溶接継手強度に及ぼす塗装焼付けの熱履歴の影響−溶接学会全国大会講演概要−」,社団法人溶接学会,第83巻,2008年,第9号,P4−5
上述したように、従来の技術では、炭素当量が高い鋼板を抵抗溶接すると、ナゲット内で脆性的に破壊して継手の強度が低下するか、あるいは継手強度のばらつきが大きく、低い確率ではあるものの強度が低下した継手になるという問題点があった。たとえ、低い確率であっても、このような低い継手強度が観られると、溶接継手に対する信頼性、およびこの溶接継手を含む部材の信頼性が損なわれてしまう。
従来の技術では、抵抗溶接時の溶接方法を最適化することにより、ナゲット内の硬さやナゲット内の金属組織を制御することでナゲット内の破壊を抑制している。しかしながら、ある確率でナゲット内破壊が起こり、継手強度が低下するという問題を解決できていない。
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、炭素当量が高い高強度鋼板を用いた場合でも、高い継手強度と優れた継手強度ばらつきを有する高強度抵抗溶接継手およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者等は、上記問題を解決するたに鋭意検討を行い、まず始めに、高強度鋼板を溶接した際に、ある確率で発生するナゲット内破壊の原因について調査を行った。その結果、図2の電子顕微鏡写真に示すように、脆性破壊の起点には介在物が存在しており、多くの介在物は鋼中の成分であるSi、Mn、Al等を含有する酸化物系介在物であることを知見した。また、脆性破壊の起点となっていた介在物は1μmを超えるものが大部分であり、またその量が多いほど脆性破壊が起こりやすかった。
次いで、本発明者等は、ナゲット内に分散していた酸化物系介在物の起源の調査を行った。その結果、ナゲット内の酸化物は2種類の異なる起源があることを知見した。すなわち、一つ目は、抵抗溶接により溶融した部分が、板間の隙間を通じて外気と接触することによって酸化物を形成し、その酸化物がナゲット内に取り込まれた場合であり、二つ目は、継ぎ手を構成する素材鋼板中に元々含まれていた介在物が、溶融状態下でも分解せずに残存し、そのままナゲット内に取り込まれた場合であった。
次いで、本発明者等は、種々の組成を有する鋼板の抵抗溶接を行い、溶融部が外気と接触する際に形成される酸化物のサイズや量を調査した。その結果、素材の成分に応じて、形成される酸化物の組成やサイズ、形成量が異なることを知見した。特に、素材鋼板の成分として、MgやLa、Ceといった特定元素を含む場合に、溶融中に形成される酸化物系介在物が微細に形成されることを知見した。
一方で、素材に元々存在する介在物に関しては、微細であり、かつ、その量が少ない方が、抵抗溶接後に分解せずに残存する介在物のサイズが小さく、またその量も少なかった。
以上の知見を元に、本発明者等は、様々な成分の鋼板を組み合わせた溶接継手を作製して十字継手引張試験を行い、ナゲット内の介在物とナゲット内脆性破壊との関係を調査した。さらに、ナゲットを詳細に観察することにより、ナゲットの硬さやナゲット内の金属組織を最適化することで、この介在物制御の効果が最大化することを見出し、ナゲット内の耐脆性破壊特性に優れた高強度抵抗溶接継手を完成させた。
即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] ナゲット内の平均組成が、質量%で、P:0.03%以下、S:0.01%以下、O:0.02%以下を含有し、さらに、Mg、La、Ceのうちの1種または2種以上を、合計量で0.005%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物であり、前記ナゲット内の平均硬さがHVで320〜500であり、かつ、前記ナゲット内に存在する粒子径1μm以上の酸化物系介在物の分布密度が20個/mm以下であるとともに、全介在物の最大粒子径が50μm以下であり、前記ナゲット内の金属組織が焼戻しマルテンサイトおよび下部ベイナイトからなることを特徴とする高強度抵抗溶接継手。
[2] 前記ナゲット内に存在する粒子径1μm以上の酸化物系介在物のうち、Mg、La、Ceのうちの1種または2種以上を含有する前記酸化物系介在物の個数割合が3%以上であることを特徴とする上記[1]に記載の高強度抵抗溶接継手。
[3] 前記ナゲット内の平均組成が、さらに、質量%で、C:0.06〜0.25%、Si+Al:2%以下、Mn:3.0%以下を含有し、残部がFeであることを特徴とする上記[1]または[2]に記載の高強度抵抗溶接継手。
[4] 前記ナゲット内の平均組成が、さらに、質量%で、Nb、Ti、V、Taのうちの1種または2種以上を、合計量で0.2%以下を含有することを特徴とする上記[3]に記載の高強度抵抗溶接継手。
[5] 前記ナゲット内の平均組成が、さらに、質量%で、Cr、Cu、Ni、Moのうちの1種または2種以上を、合計量で2.0%以下を含有することを特徴とする上記[3]または[4]に記載の高強度抵抗溶接継手。
[6] 前記ナゲット内の平均組成が、さらに、質量%で、Bを0.005%以下で含有することを特徴とする上記[3]〜[5]の何れかに記載の高強度抵抗溶接継手。
[7] 上記[1]〜[6]の何れかに記載の高強度抵抗溶接継手を製造する方法であって、抵抗溶接継手を構成する鋼板の平均組成が、質量%で、P:0.03%以下、S:0.01%以下、O:0.003%以下を含有し、さらに、Mg、La、Ceのうちの1種または2種以上を合計量で0.005%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物であり、前記鋼板中に含まれる粒子径1μm以上の酸化物系介在物の分布密度が15個/mm以下であり、さらに、全介在物の最大粒子径が50μm以下である鋼板を用いて抵抗溶接継手を作製することを特徴とする高強度抵抗溶接継手の製造方法。
[8] 抵抗溶接継手を構成する前記鋼板の平均組成が、さらに、質量%で、C:0.06〜0.22%、Si+Al:1.0%以下、Mn:3.0%以下を含有することを特徴とする上記[7]に記載の高強度抵抗溶接継手の製造方法。
[9] さらに、抵抗溶接継手を構成する前記鋼板の平均組成が、質量%で、Nb、Ti、V、Taのうちの1種又は2種以上を、合計量で0.2%以下を含有することを特徴とする上記[8]に記載の高強度抵抗溶接継手の製造方法。
[10] さらに、抵抗溶接継手を構成する鋼板の平均組成で、質量%で、Cr、Cu、Ni、Moのうちの1種又は2種以上を合計量で2.0%以下を含有することを特徴とする上記[8]または[9]に記載の高強度抵抗溶接継手の製造方法。
[11] さらに、抵抗溶接継手を構成する前記鋼板の平均組成が、質量%で、Bを0.005%以下で含有することを特徴とする上記[8]〜[10]の何れかに記載の高強度抵抗溶接継手の製造方法。
本発明のナゲット内の耐脆性破壊特性に優れた高強度抵抗溶接継手によれば、上記構成により、高強度鋼板を含む溶接継手の場合でも、高強度であり、かつ、低い継手強度の発生頻度が極めて小さい溶接継手が得られる。これにより、従来の鋼板において、これまで使用不可能であった炭素当量が高い高強度鋼板を用いた溶接継手が実現可能になり、自動車部材の軽量化に貢献する。さらに、ナゲット内脆性破壊に起因した低い継手強度の発生頻度が低下することで、自動車車体の安全性向上に寄与するとともに、溶接部後熱処理の簡略化や、抵抗溶接打点数の低減を通じて、部材の製造コストや生産性向上への寄与が期待できることから、産業上の効果は極めて大きく、また、自動車などの安全性の観点から社会に対する貢献も計り知れない。
図1は、2枚組のスポット溶接継ぎ手の模式断面図であり、中心部がナゲットを示す。 図2は、ナゲット内の脆性破壊の起点を観察した電子顕微鏡写真である。 図3は、十字引張試験後の試験片からプラグ率を求める方法を説明する模式図である。
以下、本発明の高強度抵抗溶接継手およびその製造方法の実施の形態について、図面を適宜参照しながら説明する。
なお、この実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために詳細に説明するものであるから、特に指定の無い限り、本発明を限定するものではない。
また、以下の説明において、化学成分組成における各成分の含有量を示す「%」は、特に指定の無い限り「質量%」を示す。
[高強度抵抗溶接継手]
本発明のナゲット内の耐脆性破壊特性に優れた高強度抵抗溶接継手は、ナゲット内の平均組成が、質量%で、P:0.03%以下、S:0.01%以下、O:0.02%以下を含有し、さらに、Mg、La、Ceのうちの1種または2種以上を、合計量で0.005%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物であり、ナゲット内の平均硬さがHVで320〜500であり、かつ、ナゲット内に存在する粒子径1μm以上の酸化物系介在物の分布密度が20個/mm以下であるとともに、全介在物の最大粒子径が50μm以下であり、ナゲット内の金属組織が焼戻しマルテンサイトおよび下部ベイナイトからなる構成とされている。
<ナゲット内の形態>
以下に、本発明におけるナゲット内の形態について、その限定理由を説明する。
「ナゲット内の平均硬さ」ビッカース硬さ(HV)で320〜500
ナゲット内の平均硬さがビッカース硬さ(HV)で320未満であると、酸化物系介在物分布にかかわらず、ナゲット内脆性破壊はほとんど起こらない。また、HVで500を超えると、ナゲット径4.5√t以上で、脆性破壊を回避することが困難である。このため、ビッカース硬さの適正範囲を、HVで320〜500の範囲に制限した。また、ナゲット内の平均硬さは、HVで480以下がより望ましい範囲である。なお、ナゲット径5√t以上の場合の上限は、HV:520である。
「ナゲット内に存在する粒子径1μm以上の酸化物系介在物の分布密度」20個/mm以下
ナゲット内に存在する酸化物系介在物は、多量に存在すると脆性破壊の起点となり、継手強度低下の原因となる。本発明者等が検討した結果、1μm未満の酸化物系介在物は破壊の起点となっていることが認められなかっことから、1μm以上の酸化物系介在物の量を制限する。1μm以上の酸化物系介在物が20個/mmを超えると、十字引張試験でのナゲット内破壊傾向が強くなることから、その量を20個/mm以下に制限した。また、この酸化物系介在物の分布密度は、17個/mm以下であることがより望ましい。
なお、本発明において説明する酸化物系介在物とは、酸素を含有する介在物であり、酸素と同時にSや他の元素を含んでいても構わない。
「介在物の最大粒子径」50μm以下
ナゲット内に存在する介在物は、脆性破壊の起点となり、継手強度低下の原因となる。この介在物の最大粒子径が50μmを超えると、ナゲット内の脆性破壊傾向が強まり、継手強度が低下するため、その適正範囲を50μm以下に制限した。また、この最大粒子径は、40μm以下がより望ましい範囲である。なお、本発明者等が検討した結果、粗大な介在物に関しては、介在物の種類を問わず、脆性破壊の起点になっていたことから、本発明における「介在物」は、酸化物、窒化物、硫化物など、ナゲット中に存在する全ての介在物とする。
「ナゲット内の金属組織」焼戻しマルテンサイトおよび下部ベイナイト
ナゲット内の金属組織は、ナゲット内の脆化傾向に影響を及ぼす因子である。ナゲット内の金属組織を、焼戻しマルテンサイトおよび下部ベイナイトを主組織とすると、介在物を制御した時の脆性破壊傾向が顕著に抑制される。焼戻しマルテンサイトおよび下部ベイナイトの合計面積分率は90%以上であることが好ましい。なお、残部組織としては、フェライト、上部ベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイトの1種または2種以上を含有しても構わない。
「ナゲット内に存在する粒子径1μm以上の酸化物系介在物のうち、Mg、La、Ceのうちの1種または2種以上を含有する酸化物系介在物の個数割合」3%以上
本発明者等が検討した結果、ナゲット内に存在する酸化物系介在物のうち、Mg、La、Ceのうちの1種または2種以上を含有する酸化物系介在物が多い場合に、ナゲット内の酸化物が微細化し、ナゲット内脆性破壊が抑制される傾向がある。ナゲット内に存在する粒子径1μm以上の酸化物系介在物のうち、Mg、La、Ceのうちの1種または2種以上を含有する酸化物系介在物の個数割合が3%未満であると、効果が観られなかったことから、3%以上を適正範囲とした。
<ナゲット内の平均組成>
以下に、本発明におけるナゲットの平均組成の限定理由を説明する。
「P」:0.03%以下
Pは、ナゲット内において固溶状態で存在することにより、ナゲットの脆性破壊傾向を強める。Pが0.03%を超えると、ナゲット内の硬さや、介在物や金属組織の制御をしても、ある確率で発生するナゲット内破壊を完全に抑止できない。このため、その範囲を0.03%以下に制限した。P量の下限は特に限定しないが、含有量を減らすと製造コストが高くなるので、0.003%が実質的な下限である。
「S」:0.01%以下
Sは、ナゲット内で固溶状態あるいは硫化物として存在することにより、ナゲットの脆性破壊傾向を強める。Sが0.01%を超えると、ナゲット内の硬さや酸化物系介在物や金属組織の制御をしても、ある確率で発生するナゲット内破壊を完全に抑止できない。このため、その範囲を0.01%以下に制限した。S量の下限は特に限定しないが、含有量を減らすと製造コストが高くなるので、0.0001%が実質的な下限である。
「O」:0.02%以下
Oは、ナゲット中で主に酸化物系介在物として存在することで、ナゲットの脆化に影響する。Oが0.02%を超える場合、酸化物系介在物の量が増加するため、ナゲット内脆性破壊を抑止できない。このため、その適正範囲を0.02%以下に制限した。また、O量は、0.01%以下がより好ましい範囲である。O量の下限は特に限定しないが、含有量を減らすと製造コストが高くなるので、0.0003%が実質的な下限である。
「Mg、La、Ceのうちの1種または2種以上」合計で0.005%以下
Mg、La、Ceは、素材鋼板の介在物サイズおよび量と、溶接時に溶融部と外気との反応により形成される酸化物系介在物のサイズと量を制御するために用いられる。素材鋼板に、これらの元素が含有されていると、ナゲット内で形成される介在物が微細化し、ナゲット内の脆性破壊傾向が弱まる。上記各元素の合計量が0.005%を超えると、素材鋼板に含まれる粗大な介在物量が増加し、結果的にナゲット内に包含される介在物が増加し、ナゲットの脆性破壊傾向が強まる。このため、その範囲を0.005%以下に制限した。上記各元素の合計量の下限は特に限定しないが、介在物微細化の効果が発現するのが0.0001%以上であるので、その下限は0.0001%であることが望ましい。
「C」:0.06〜0.25%
Cは、素材鋼板の組織制御とナゲットの硬さ制御のために用いられる。ナゲット内の平均C量が0.06%未満であると、ナゲットの硬さがHV:320未満となるため、ナゲット内脆性破壊がそもそも起こらず、また、0.25%を超えるとナゲット内の硬さが増加するため、介在物や金属組織の制御をしても、ある確率で発生するナゲット内破壊を完全に抑止できない。このため、その範囲を0.06〜0.25%に制限した。また、C量は、0.22%以下がより望ましい範囲内である。
「Si+Al」:2.0%以下
SiおよびAlは、いずれも素材鋼板とナゲットの組織制御と、素材鋼板の介在物サイズおよび量と、溶接時に溶融部と外気との反応により形成される酸化物系介在物のサイズと量を制御するために用いられる。SiとAlの合計量が2%を超えると、ナゲット内の粗大な介在物量が増加し、ナゲットの脆性破壊傾向が強まる。また、合計の含有量が2%を超えると、ナゲット内の焼戻しマルテンサイト量および下部ベイナイト量が減少する傾向になるため、その範囲を2%以下に制限した。SiとAlの合計量の下限は特に限定しないが、含有量を減らすと酸化物が逆に増大する場合があるので、0.003%をその下限とすることが望ましい。
「Mn」:3.0%以下
Mnは、素材鋼板とナゲットの組織制御と、素材鋼板の介在物サイズおよび量と、溶接時に溶融部と外気との反応により形成される酸化物系介在物のサイズと量を制御するために用いられる。Mnが3.0%を超えると、ナゲット内の粗大な介在物量が増加し、ナゲットの脆性破壊傾向が強まる。このため、その範囲を3.0%以下に制限した。Mn量の下限は特に限定しないが、Mnが1.0%未満であると、継手強度バラツキが発生しない傾向にあるので、これを下限とすることが望ましい。
「Nb、Ti、V、Taのうちの1種または2種以上」合計で0.2%以下
Nb、Ti、V、Taは、素材鋼板とナゲット内の組織制御と介在物制御のために用いられる。その合計量が0.2%を超えると、粗大な介在物量が増加するとともに、酸化物系介在物の密度も増加し、ある確率で発生するナゲット内破壊を完全に抑止できない。このため、その範囲を0.2%以下に制限した。
「Cr、Cu、Ni、Moの1種又は2種以上」合計で2.0%以下
Cr、Cu、Ni、Moは、素材鋼板とナゲット内の組織制御に用いられる。この合計量が2.0%を超えると、ナゲット内の介在物量が増加し、ナゲット内破壊が発生する傾向がある。このため、その合計量の範囲を2.0%以下に制限した。上記各元素の合計量の下限は特に限定しないが、含有量を減らすと製造コストが高くなるので、0.003%が実質的な下限である。
「B」0.005%以下
Bは、素材鋼板とナゲット内の組織制御に用いられる。この合計量が0.005%を超えると、B系の粗大介在物が形成される傾向があるとともにナゲット内のマルテンサイト量が増加し、ナゲット内の脆性破壊傾向が増大する。このため、その適正範囲を0.005%以下に制限した。
「ナゲット内の平均組成の求め方」
ナゲット内の平均組成は、以下のようにして求める。
まず始めに、継手を切断してナゲットを含む断面試料を準備する。
次いで、研磨した断面試料のナゲット部について、JIS G0321の表1に記載の規格に従い、定量分析を行うことで、平均組成を求める。
<ナゲットの直径>
なお、本発明に係る高強度抵抗溶接継手では、ナゲットの直径が4.2√t(tは継手を構成する素材鋼板の平均板厚(mm))以上であるものを対象とする。すなわち、ナゲットの直径が4.5√t以上であることが、より優れた抵抗溶接継手が得られる条件である。
[高強度抵抗溶接継手の製造方法]
次に、上記構成を備えた本実施形態の高強度抵抗溶接継手を製造する方法について説明する。
本発明の高強度抵抗溶接継手の製造方法は、上記構成の高強度抵抗溶接継手を製造する方法であって、抵抗溶接継手を構成する鋼板の平均組成が、質量%で、P:0.03%以下、S:0.01%以下、O:0.003%以下を含有し、さらに、Mg、La、Ceのうちの1種または2種以上を合計量で0.005%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物であり、鋼板中に含まれる粒子径1μm以上の酸化物系介在物の分布密度が15個/mm以下であり、さらに、全介在物の最大粒子径が50μm以下である鋼板を用いて抵抗溶接継手を作製する方法である。
<継手作製に用いる鋼板中の介在物>
以下に、本発明において、抵抗溶接継手の作製に用いる鋼板中の介在物について、その限定理由を説明する。
「鋼板中に含まれる粒子径1μm以上の酸化物系介在物の分布密度」:15個/mm以下
鋼板中に含まれる酸化物系介在物は、抵抗溶接後のナゲット内にも残留する場合があり、ナゲット内破壊の原因となる。1μm以上の酸化物系介在物が15個/mmを超えると、十字引張試験でのナゲット内破壊傾向が強くなることから、その量を15個/mm以下に制限した。また、酸化物系介在物の分布密度は、12個/mm以下であることがより望ましい。なお、本発明において説明する酸化物系介在物とは、ナゲットの平均組成における説明と同様、酸素を含有する介在物であり、Sや他の元素を含んでいても構わない。
「介在物の最大粒子径」50μm以下
鋼板中に含まれる酸化物系介在物は、抵抗溶接後のナゲット内にも残留する場合があり、ナゲット内破壊の原因となる。介在物の最大粒子径が50μmを超えると、溶接後のナゲット内に残存した際に脆性破壊傾向が強まり、継手強度が低下するため、その適正範囲を50μm以下に制限した。また、この最大粒子径は、30μm以下がより望ましい範囲である。なお、本発明者等が検討した結果、鋼板中に含まれる粗大な介在物に関しては、介在物の種類を問わず、脆性破壊の起点になっていたことから、本発明における「介在物」は、酸化物、窒化物、硫化物など、鋼板中に含まれる全ての介在物を対象とする。
<継手を構成する鋼板の平均組成>
以下に、本発明における、継手を構成する鋼板の平均組成の限定理由を説明する。
「P」:0.03%以下
Pは、ナゲット内において固溶状態で存在することにより、ナゲットの脆性破壊傾向を強める。Pが0.03%を超えると、ナゲット内の硬さや、介在物や金属組織の制御をしても、ある確率で発生するナゲット内破壊を完全に抑止できない。このため、その範囲を0.03%以下に制限した。P量の下限は特に限定しないが、含有量を減らすと製造コストが高くなるので、0.003%が実質的な下限である。
「S」:0.01%以下
Sは、ナゲット内で固溶状態あるいは硫化物として存在することにより、ナゲットの脆性破壊傾向を強める。Sが0.01%を超えると、ナゲット内の硬さや、酸化物系介在物や金属組織の制御をしても、ある確率で発生するナゲット内破壊を完全に抑止できない。このため、その範囲を0.01%以下に制限した。S量の下限は特に限定しないが、含有量を減らすと製造コストが高くなるので、0.0001%が実質的な下限である。
「O」:0.003%以下
Oは、主に、酸化物系介在物と、一部固溶状態で素材鋼板中に存在する。素材鋼板中の酸化物系介在物は、溶接後にナゲット中に残留し、ナゲットの脆化に影響するとともに、溶接中における溶融した部分の酸化物形成量にも影響する。Oが0.003%を超えると、酸化物系介在物の量が増加し、ナゲット内の脆性破壊を抑止できない。このため、その適正範囲を0.003%以下に制限した。また、O量は、0.002%以下がより好ましい範囲である。Oの含有量は少ないほど好ましいが、含有量を減らすと製造コストが高くなるので、コスト観点では0.0003%が実質的な下限である。
「Mg、La、Ceのうちの1種または2種以上」合計で0.005%以下
Mg、La、Ceは、素材鋼板の脱酸のためと、ナゲット内の介在物制御に用いられる。素材鋼板にこれら元素が含有していると、ナゲット内で形成される介在物が微細化し、ナゲット内の脆性破壊傾向が弱まる。その合計量が0.005%を超えると、ナゲット内の粗大な介在物量が増加し、ナゲットの脆性破壊傾向が強まるため、その範囲を0.005%以下に制限した。上記各元素の合計量の下限は特に限定しないが、介在物微細化の効果が発現するのが0.0002%以上であるので、その下限は0.0002%であることが望ましい。
「C」:0.06〜0.25%
Cは、素材鋼板の組織制御と、ナゲットの硬さ制御のために用いられる。ナゲット内の平均C量が0.06%未満であると、ナゲット硬さがHV:320未満となるため、ナゲット内脆性破壊がそもそも起こらず、また、0.25%を超えるとナゲット内の硬さが増加するため、介在物や金属組織の制御をしても、ある確率で発生するナゲット内破壊を完全に抑止できない。このため、その範囲を0.06〜0.25%に制限した。また、C量は、0.22%以下がより望ましい範囲内である。
「Si+Al」:2.0%以下
SiおよびAlは、いずれも素材鋼板とナゲットの組織制御と、素材鋼板の介在物サイズおよび量と、溶接時に溶融部と外気との反応により形成される酸化物系介在物のサイズと量を制御するために用いられる。SiとAlの合計量が2%を超えると、ナゲット内の粗大な介在物量が増加し、ナゲットの脆性破壊傾向が強まる。また、Si+Alの合計の含有量が2%を超えると、ナゲット内の焼戻しマルテンサイト量および下部ベイナイト量が減少する傾向になるため、その範囲を2%以下に制限した。Si+Alの合計含有量の下限は特に限定しないが、含有量を減らすと酸化物が逆に増大する場合があるので、0.003%をその下限とする。
「Mn」:3.0%以下
Mnは、素材鋼板とナゲットの組織制御と、素材鋼板の介在物サイズおよび量と、溶接時に溶融部と外気との反応により形成される酸化物系介在物のサイズと量を制御するために用いられる。Mnが3.0%を超えると、ナゲット内の粗大な介在物量が増加し、ナゲットの脆性破壊傾向が強まる。このため、その範囲を3.0%以下に制限した。Mn量の下限は特に限定しないが、Mnが1.0%未満であると、継手強度バラツキが発生しない傾向にあるので、これを下限とすることが望ましい。
「Nb、Ti、V、Taのうちの1種または2種以上」合計で0.2%以下
Nb、Ti、V、Taは、素材鋼板とナゲット内の組織制御と、介在物制御のために用いられる。その合計量が0.2%を超えると、粗大な介在物量が増加するとともに、酸化物系介在物の密度も増加し、ある確率で発生するナゲット内破壊を完全に抑止できない。このため、その範囲を0.2%以下に制限した。
「Cr、Cu、Ni、Moのうちの1種又は2種以上」合計で2.0%以下
Cr、Cu、Ni、Moは、素材鋼板とナゲット内の組織制御に用いられる。この合計量が2.0%を超えると、ナゲット内の介在物量が増加し、ナゲット内破壊が発生する傾向がある。このため、その合計量の範囲を2.0%以下に制限した。上記各元素の合計量の下限は特に限定しないが、含有量を減らすと製造コストが高くなるので、0.003%が実質的な下限である。
「B」0.005%以下
Bは、素材鋼板とナゲット内の組織制御に用いられる。この合計量が0.005%を超えると、B系の粗大介在物が形成される傾向があるとともに、ナゲット内のマルテンサイト量が増加し、ナゲット内の脆性破壊傾向が増大する。このため、その適正範囲を0.005%以下に制限した。
なお、本実施形態における鋼成分においては、上記した元素以外の残部は実質的にFeからなり、不可避不純物をはじめ、その他の元素については特に限定はなく、本発明の作用効果を害さない範囲で、各種元素を適宜含有しても良い。
「鋼板の平均組成の求め方」
継手を構成する鋼板の平均組成は、2枚の鋼板の溶接の場合、鋼板AのX元素の含有量をXA、板厚をtA、鋼板BのX元素の含有量をXB、板厚をtBとした時に、X元素の平均組成Xaveは、次式{Xave=(tA・XA+tB・XB)/(tA+tB)}により求める。
また、鋼板の組成分析としては、JIS G0321における表1に記載の規格に従い、定量分析を行う。
<鋼板表面のめっき>
本発明の高強度抵抗溶接継手の製造方法において、継手に用いる素材鋼板は、表面にめっきが施されていても構わない。この場合のめっきの種類や、めっきの厚さは特に限定することなく、いずれにおいても本発明に示す効果を得ることができる。
<溶接条件>
本発明の高強度抵抗溶接継手の製造方法において、スポット溶接を行う溶接条件については特に限定されないが、以下に示す方法で、溶融ナゲットの冷却中の温度履歴を制御することにより、ナゲット内の金属組織を制御することが望ましい。
すなわち、以下の(A)〜(E)に示すような手順により、高強度抵抗溶接継手を製造できる。
(A)溶接電流Wpにより、溶接する部分を高温で塑性変形させて鋼板間の隙間を無くす工程と、
(B)溶接電流WC(kA)によって溶融したナゲット部を形成させる工程と、
(C)次いで、加圧力を保持したままで溶接電流を印加せずに、下記(1)式を満たす溶接後冷却時間Ct(ms)を設けることでナゲット部の冷却速度を制御する工程と、
(D)次いで、下記(2)式を満たす後加熱通電電流PC(kA)、および、下記(3)式を満たす後加熱通電時間Pt(ms)で後加熱通電を行い、ナゲット部の加熱あるいは冷却速度を制御する工程と、
(E)次いで、加圧力を保持したまま、下記(4)式を満たす保持時間Ht(ms)を設けることでナゲット部の冷却速度を制御することにより、高強度抵抗溶接継手を製造する。
0≦Ct≦600 ・・・・・(1)
0.40×WC≦PC≦0.95×WC ・・・(2)
30≦Pt≦300 ・・・・・(3)
0≦Ht≦240 ・・・・・(4)
但し、上記(1)〜(4)式において、Ct:溶接後冷却時間(ms)、WC:ナゲット溶接電流(kA)、PC:後加熱通電電流(kA)、Pt:後加熱通電時間(ms)、Ht:保持時間(ms)である。
ここで、上記工程(A)は、主に、ナゲット形成時のナゲットへの酸素侵入を抑制してナゲット内の酸化物を制御するための工程であり、上記工程(B)〜(E)は、ナゲット内の金属組織および介在物を調整するための工程である。
[作用効果]
以上説明したような、本発明に係るナゲット内の耐脆性破壊特性に優れた高強度抵抗溶接継手およびその製造方法によれば、上記構成により、高強度鋼板を含む溶接継手の場合でも、高強度であり、かつ、低い継手強度の発生頻度が極めて小さい溶接継手が得られる。これにより、従来の鋼板において、これまで使用不可能であった炭素当量が高い高強度鋼板を用いた溶接継手が実現可能になり、自動車部材の軽量化に貢献する。さらに、ナゲット内脆性破壊に起因した低い継手強度の発生頻度が低下することで、自動車車体の安全性向上に寄与するとともに、溶接部後熱処理の簡略化や、抵抗溶接打点数の低減を通じて、部材の製造コストや生産性向上への寄与が期待できることから、産業上の効果は極めて大きく、また、自動車などの安全性の観点から社会に対する貢献も計り知れない。
以下、本発明に係るナゲット内の耐脆性破壊特性に優れた高強度抵抗溶接継手およびその製造方法の実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例に限定されるものではなく、前、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
[サンプルの製造]
先ず、下記表1に示す成分を有する、板厚:1.6mmの鋼板(高強度冷延鋼板、電気めっき鋼板、および、合金化溶融亜鉛めっき鋼板)を準備した。
そして、同鋼種および異鋼種の組合せで各鋼板同士を重ね合わせ、サーボガンタイプの溶接機を用いてスポット溶接を行った。この際、ナゲット内の介在物と金属組織を変化させるために、まず、加圧力5000N、溶接電流4.0kA〜9.0kAの予備通電を行い、次いで、溶接電流6.5kA〜8.0kA、通電時間320msでの本溶接を行った後、40ms間の無通電を経て、さらに、本通電の70%の電流値で300ms間の通電を行い、最後に無通電で200msのホールドを行う条件(条件(1))にてスポット溶接を行い、溶接継手の試験片を作製した。
また、一部の試験片に関しては、加圧力5000N、溶接電流6.5kA〜8.0kA、通電時間320ms、ホールド時間200msの条件(条件(2))にて、スポット溶接を行って溶接継手の試験片を作製した。
なお、上記条件における本通電の溶接電流は、ナゲット径が、1枚の鋼板の板厚の平方根の4.5倍となる値(4.5√t)になるように設定した。
以上の溶接条件にて、各板組について、それぞれ11個の十字継手試験片を作製した。
[評価試験]
上記方法によって製造した十字継手試験片について、以下のような評価試験を行った。
まず、条件毎に、11個の試験片のうちの1個を用いて、ナゲットのミクロ組織の観察を行い、残りの10個の十字継手試験片を用いて、抵抗スポット溶接継手の十字引張試験方法(JIS Z3137)に基づいて十字継手引張強さ(CTS)の測定を行った。
また、十字引張試験時の破壊形態は、図3に示すような形でプラグ径を測定した時に、次式{プラグ率=プラグ径(d1)/ナゲット径(dn)}によりプラグ率を定義し、プラグ率が80%以下のものをナゲット内破壊として判定した。なお、プラグ率が低いものは、ナゲット内で脆性破壊していた。
また、引張強さが289MPaであり、板厚が1.6mmのIF鋼板同士を2枚重ね合わせ、ナゲット径が4.5√tとなる条件にてスポット溶接を行うことで、5個の溶接継手の基準試験片を作製した。これらの基準試験片の十字継手の引張強さを測定したところ、その平均値は8.2kNであった。この値(8.2kN)をCTSの基準とし、被評価サンプルの10個のCTSのうち、基準値(8.2kN)以上のCTSが得られた継ぎ手の個数が9個以上(90%以上)であるものを、バラツキの小さい高強度の溶接継手として評価した。
また、金属組織の観察では、ナゲットと鋼板との境界からナゲット側に1mm入った領域において、ナゲットを構成するマルテンサイト(FM)、焼戻しマルテンサイト(TM)および残留オーステナイト(A)、下部ベイナイト(LB)、上部ベイナイト(UB)の割合(面積率)を測定した。ここで、上記の焼戻しマルテンサイト(TM)は、マルテンサイトラス内に炭化物が析出している組織であり、オートテンパードマルテンサイトを含むものである。
また、ナゲット内の介在物はSEMにより観察し、介在物を構成する元素については、EDS(エネルギー分散X線分光)法により測定した。
本実施例における素材鋼板の鋼種、鋼板成分および介在物の状態の一覧を下記表1に示すとともに、上記評価結果および測定結果を下記表2に示す。
[評価結果]
表1、2に示すように、本発明で規定する各条件で作製された抵抗溶接継手(表2中に示す本発明例)は、何れも、CTSが8.2kN以上であり、プラグ率が高いことから、ナゲット内の耐脆性破壊特性に優れ、高強度であることが確認できた。
これに対して、表2中に示す比較例の抵抗溶接継手は、本発明における上記各規定の少なくとも何れかが範囲外となっていることから、ナゲット内破壊の発生率が高く(=プラグ率が低く)、継ぎ手の一部は基準のCTSを満たさなかった。
ここで、表2中に示す継手No.1〜28は、同一鋼種の2枚重ねのスポット溶接継手の引張試験を行った例である。
No.1、No.3は、素材鋼板のC量が少ないため、ナゲットの硬さが低く、ナゲット内破断は観られなかったものの、8.2kN以上の継ぎ手強度が得られなかった例である。
No.5、No.8は、ナゲットの金属組織が適正でなく、さらに、ナゲット内の介在物の最大サイズが大きいか、あるいは、1μm以上の酸化物系介在物の量が多かったため、ナゲット内の破壊が生じ、CTSの低い継手が得られた例、すなわち、強度ばらつきの大きい継ぎ手の例である。
No.16、No.18は、ナゲットの硬さが大きく、かつナゲットの金属組織が適正でなく、さらに、ナゲット内の介在物の最大サイズが大きいか、あるいは、1μm以上の酸化物系介在物の量が多かかったため、ナゲットの脆性破壊が起きる場合があり、強度ばらつきが大きくなった継手の例である。
No.19は、ナゲットの硬さに問題があるために、金属組織の制御を行っても、継ぎ手の脆性破壊が抑制できなかった例である。
No.20、21、23、24、25、27、28は、ナゲット内の平均組成が適正範囲外であるため、ナゲット内の介在物の最大サイズが大きいか、あるいは、1μm以上の酸化物系介在物の量が多かったために、脆性破壊が生じ、CTSのばらつきが大きくなった例である。
なお、No.29〜38は、異なる鋼種の2枚重ねのスポット溶接継手の引張試験を行った例である。これらの例からわかるように、同一鋼種の板を使用した継ぎ手ではCTSばらつきが大きかった場合でも、異鋼種の継ぎ手の場合には、継ぎ手を構成する相手の鋼板の成分により、ナゲットの成分が適正範囲内に入れば、CTSばらつきの小さい高強度抵抗溶接継ぎ手が得られている。
以上説明した実施例の結果より、本発明のナゲット内の耐脆性破壊特性に優れた高強度抵抗溶接継手およびその製造方法が、高強度鋼板を含む溶接継手の場合でも、ナゲット内の耐脆性破壊特性に優れ、高強度であり、かつ、低い継手強度の発生頻度が極めて小さい溶接継手が得られることが明らかである。
本発明によれば、自動車やトラックのフレームやメンバー、シャシー等の素材として用いられる炭素当量の高い高強度鋼板においても、高強度であり、かつ、異常破壊の発生頻度が極めて小さい溶接継手が得られる。これにより、従来の鋼板において、これまで使用不可能であった炭素当量が高い鋼板を用いた溶接継手が実現可能になり、自動車部材の軽量化に貢献する。さらに、ナゲット内脆性破壊に起因した低い継手強度の発生頻度が低下することで、自動車車体の安全性向上に寄与すると共に、溶接部後熱処理簡略化や抵抗溶接打点数低減を通じて、部材の製造コストや生産性向上への寄与が期待できることから、産業上の効果は極めて大きい。

Claims (11)

  1. ナゲット内の平均組成が、質量%で、
    P :0.03%以下、
    S :0.01%以下、
    O :0.02%以下
    を含有し、さらに、Mg、La、Ceのうちの1種または2種以上を、合計量で0.005%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物であり、
    前記ナゲット内の平均硬さがHVで320〜500であり、かつ、前記ナゲット内に存在する粒子径1μm以上の酸化物系介在物の分布密度が20個/mm以下であるとともに、全介在物の最大粒子径が50μm以下であり、前記ナゲット内の金属組織が焼戻しマルテンサイトおよび下部ベイナイトからなることを特徴とする高強度抵抗溶接継手。
  2. 前記ナゲット内に存在する粒子径1μm以上の酸化物系介在物のうち、Mg、La、Ceのうちの1種または2種以上を含有する前記酸化物系介在物の個数割合が3%以上であることを特徴とする請求項1に記載の高強度抵抗溶接継手。
  3. 前記ナゲット内の平均組成が、さらに、質量%で、
    C :0.06〜0.25%、
    Si+Al:2%以下、
    Mn:3.0%以下
    を含有し、残部がFeであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高強度抵抗溶接継手。
  4. 前記ナゲット内の平均組成が、さらに、質量%で、Nb、Ti、V、Taのうちの1種または2種以上を、合計量で0.2%以下を含有することを特徴とする請求項3に記載の高強度抵抗溶接継手。
  5. 前記ナゲット内の平均組成が、さらに、質量%で、Cr、Cu、Ni、Moのうちの1種または2種以上を、合計量で2.0%以下を含有することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の高強度抵抗溶接継手。
  6. 前記ナゲット内の平均組成が、さらに、質量%で、Bを0.005%以下で含有することを特徴とする請求項3〜請求項5の何れか一項に記載の高強度抵抗溶接継手。
  7. 請求項1〜請求項6の何れかに記載の高強度抵抗溶接継手を製造する方法であって、
    抵抗溶接継手を構成する鋼板の平均組成が、質量%で、
    P :0.03%以下、
    S :0.01%以下、
    O :0.003%以下
    を含有し、さらに、Mg、La、Ceのうちの1種または2種以上を、合計量で0.005%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物であり、
    前記鋼板中に含まれる粒子径1μm以上の酸化物系介在物の分布密度が15個/mm以下であり、さらに、全介在物の最大粒子径が50μm以下である鋼板を用いて抵抗溶接継手を作製することを特徴とする高強度抵抗溶接継手の製造方法。
  8. 抵抗溶接継手を構成する前記鋼板の平均組成が、さらに、質量%で、
    C :0.06〜0.22%、
    Si+Al:1.0%以下、
    Mn:3.0%以下
    を含有することを特徴とする請求項7に記載の高強度抵抗溶接継手の製造方法。
  9. さらに、抵抗溶接継手を構成する前記鋼板の平均組成が、質量%で、Nb、Ti、V、Taのうちの1種又は2種以上を、合計量で0.2%以下を含有することを特徴とする請求項8に記載の高強度抵抗溶接継手の製造方法。
  10. さらに、抵抗溶接継手を構成する鋼板の平均組成で、質量%で、Cr、Cu、Ni、Moのうちの1種又は2種以上を合計量で2.0%以下を含有することを特徴とする請求項8または請求項9に記載の高強度抵抗溶接継手の製造方法。
  11. さらに、抵抗溶接継手を構成する前記鋼板の平均組成が、質量%で、Bを0.005%以下で含有することを特徴とする請求項8〜請求項10の何れか一項に記載の高強度抵抗溶接継手の製造方法。
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