上記のようにスイッチング素子のON−OFFのためのフィードバック制御に用いるリアクトル電流は、コンデンサを流れる前の電流であるため、応答に対する時間の遅れがない。そのため、リアクトル電流に基づいてスイッチング素子のON−OFF制御を行うことによって、指令電圧に対する制御の応答性を良くすることができるものの、以下のような不都合があった。
かかるスイッチング電源装置は、電流検出器でリアクトル電流を検出し、それら検出した複数のリアクトル電流の平均値を演算し、その演算された平均リアクトル電流値に基づいてスイッチング素子のON−OFFを制御するように構成されているが、電流検出器が、例えばリアクトル電流を所定周期毎に検出(デジタルサンプリング)するように構成されている場合には、次のような不都合が発生する。つまり、リアクトル電流には、大きなリップル(スイッチング周波数に依存した交流電流)が含まれているため、このリアクトル電流を所定周期で検出して演算した平均リアクトル電流値は、出力電圧の大小によって、リアクトルに流れる電流を連続的(アナログ的)に検出しそれら検出した実リアクトル電流を平均した平均実リアクトル電流値に対して誤差を含んでしまう。
次に、前記誤差を含んでしまうことを説明する。スイッチング電源装置を構成する上側のトランジスタがON状態である場合に、リアクトルに流れるリアクトル電流を電流検出器により検出すると、検出したリアクトル電流はリップルを含むことになる。ここで、前記リアクトル電流を所定周期毎に検出しそれら検出した複数の電流の平均値を演算した平均リアクトル電流値と、リアクトルに流れる電流を連続的(アナログ的)に検出しそれら検出した実リアクトル電流を平均した平均実リアクトル電流値とをプロットしてグラフにしたものを、図6〜図11に示している。
図6〜図11は、特許文献1のスイッチング電源装置を用いて実験を行った時のデータをグラフにしたものである。尚、図においてfcは、PWMの搬送波である。sampは、リアクトル電流Idclを検出するためのタイミング信号である。VGPは、上側のスイッチング素子(特許文献1の図1では11)のON信号である。VGNは、下側のスイッチング素子(特許文献1では13)のON信号である。Idclは、リアクトル(特許文献1の図1では16)に流れる電流を連続的(アナログ的)に検出した連続リアクトル電流の値である。IdclAveは、リアクトル(特許文献1の図1では16)に流れるリアクトル電流を連続的(アナログ的)に検出して平均することで得られる平均実リアクトル電流値、つまり、連続リアクトル電流の平均値である。IdclSampは、リアクトル電流を所定周期毎に検出した検出値(リアクトル電流値)である。IdclSampAveは、前記複数のリアクトル電流値を平均した平均リアクトル電流値である。
まず、図6(a),(b),(c)及び図7(a),(b),(c)は、いずれも出力電圧Vout=0.5×入力電圧Viの時、つまり出力電圧が入力電圧の半分になっている時で、誤差が発生しない例を挙げている。また、図6は、力行時の場合を示し、図7は、回生時の場合を示している。図6(c)及び図7(c)を見れば、いずれの場合も、リアクトル(特許文献1の図1では16)に流れるリアクトル電流を連続的(アナログ的)に検出した電流値を平均したときの平均実リアクトル電流値IdclAveと、リアクトル電流を所定周期毎に検出し、それら検出したリアクトル電流値を平均した平均リアクトル電流値IdclSampAveとが同一線上にある。これは、両者の電流値の差が零になっており、よって、平均リアクトル電流値IdclSampAveには、誤差は含まれていない。
これに対して、図8〜図11は、誤差が発生している例を挙げている。図8(a),(b),(c)は、出力電圧Vout>0.5×入力電圧Vi時、つまり出力電圧が入力電圧の半分よりも大きい値の時で、力行時の場合を示し、図9(a),(b),(c)は、図8と同様に、出力電圧Vout>0.5×入力電圧Vi時であるが、回生時の場合を示している。また、図10(a),(b),(c)は、出力電圧Vout<0.5×入力電圧Vi時、つまり出力電圧が入力電圧の半分よりも小さい場合で、力行時の場合を示し、図11(a),(b),(c)は、図10と同様に、出力電圧Vout<0.5×入力電圧Vi時で、回生時の場合を示している。図8(c)、図9(c)、図10(c)、図11(c)を見れば、平均実リアクトル電流値IdclAveと、平均リアクトル電流値IdclSampAveとの間には差があり、よって、平均リアクトル電流値IdclSampAveには、前記差に相当する誤差Sが含まれていることがわかる。尚、この例では、前記誤差Sをわかりやすくするために、デッドタイム(2つのスイッチング素子11,13のスイッチング空き時間)を極端に大きくした場合を示している。
このように、目標の出力電圧値が入力電圧値の半分の電圧値よりも大きい又は小さい値に設定されている場合に、平均リアクトル電流値IdclSampAveと平均実リアクトル電流値IdclAveとの間に誤差が発生してしまう。
上記誤差Sは、出力電圧値の大きさに応じてリアクトル電流の増減についての傾きが変化してしまうために発生する。具体的には、誤差Sの発生がない図6及び図7では、リアクトル電流値Idclの立ち上がりの傾きK1と立ち下がりの傾きK2との絶対値が同一になっているのに対して、図8及び図9のリアクトル電流値Idclの立ち上がりの傾きK11と立ち下がりの傾きK21との絶対値が異なっている。また、図10及び図11のリアクトル電流値Idclの立ち上がりの傾きK12と立ち下がりの傾きK22の傾きとの絶対値が異なっている。このため、前記誤差Sが発生する。この誤差Sを無くすためには、リアクトル電流の検出回数を多くすることが考えられるが、平均リアクトル電流値を計算するCPUの演算能力に限界があるため、検出回数を多くすることができない。そのため、特に精度を必要とする定常状態でのフィードバック制御時において、出力電圧(出力電流)が指令値に対してずれてしまい、出力電圧の精度を上げることができない不都合がある。
因みに、負荷への出力電流を検出し、検出した複数の出力電流値を平均して得られた平均出力電流値に基づいて、スイッチング素子をON−OFF制御することが考えられる。しかし、出力電流値を用いたフィードバック制御では、過渡状態での応答性が悪く、使用し難いものである。
そこで本発明は、過渡状態における出力電圧への制御の応答性を良くしながらも、特に、定常状態における出力電圧の精度を高めることができるスイッチング電源装置を提供することを課題とする。
本発明のスイッチング電源装置は、スイッチング素子、リアクトル、コンデンサを有し、直流電源からの入力電圧を大きさの異なる出力電圧に変換して負荷へ出力するDC−DCコンバータと、前記負荷へ出力される電流の目標出力電流値を入力する入力手段と、前記リアクトルに流れる電流を所定周期毎に検出するリアクトル電流検出手段と、前記リアクトルから負荷へ出力される電流を検出する出力電流検出手段と、前記リアクトル電流検出手段により検出された複数の電流値の平均値を割り出す平均リアクトル電流値割出手段と、前記目標出力電流値に対する前記出力電流検出手段により検出された出力電流値の出力電流偏差に基づいて該目標出力電流値を補償し、補償された目標出力電流値を目標リアクトル電流値として出力する目標出力電流値補償手段と、該目標出力電流値補償手段により補償されて出力された目標リアクトル電流値に対する前記平均リアクトル電流値割出手段により割り出された平均リアクトル電流値のリアクトル電流偏差に基づいてPWM制御のデューティ比を決定し、そのデューティ比に基づいて前記スイッチング素子を駆動制御するPWM制御手段と、を備え、前記出力電流検出手段により所定周期毎に検出された複数の電流値の平均値を割り出す平均出力電流値割出手段を更に備え、前記目標出力電流値補償手段は、前記出力電流偏差を、前記目標出力電流値から、前記平均出力電流値割出手段により割り出された平均出力電流値を差し引いて求め、前記出力電流偏差がプラスである場合には、前記目標出力電流値に該出力電流偏差を加算し、前記出力電流偏差がマイナスである場合には、前記目標出力電流値から該出力電流偏差を減算することで該目標出力電流値を補償する手段であることを特徴とする。
本発明によれば、PWM制御手段が、目標リアクトル電流値に対する平均リアクトル電流値のリアクトル電流偏差に基づいてPWM制御のデューティ比を決定し、スイッチング素子を駆動制御する。この平均リアクトル電流値は、コンデンサへ流れる前の電流の平均値であるため、応答に対する時間の遅れがない。従って、平均リアクトル電流値を用いてスイッチング素子を駆動制御することによって、過渡状態における出力電圧への制御の応答性を良くすることができる。また、目標出力電流値補償手段より出力される目標リアクトル電流値は、目標出力電流値に対する出力電流値の出力電流偏差に基づいて目標出力電流値を補償して得られる値である。つまり、目標リアクトル電流値は、リップルが平滑にされた出力電流値に基づいて目標出力電流値を補償して得られる値である。ここで、前記出力電流偏差は、平均リアクトル電流値と、リアクトルに流れるリアクトル電流を連続的(アナログ的)に検出して平均することで得られる平均実リアクトル電流値との誤差に相当する。よって、目標出力電流値を前記出力電流偏差に基づいて補償することによって、平均リアクトル電流値と平均実リアクトル電流値との間に発生している誤差を見込んだ目標リアクトル電流値を得ることができる。よって、特に定常状態における出力電圧(出力電流)の精度を高めることができる。また、過渡状態においても出力電圧(出力電流)の精度も高めることが可能になる。
また、目標出力電流値から平均出力電流値を差し引いて出力電流偏差を求め、求めた出力電流偏差がプラスである場合には、目標出力電流値に出力電流偏差を加算し、該出力電流偏差がマイナスである場合には、目標出力電流値から出力電流偏差を減算した値を目標リアクトル電流値とすることによって、出力電流偏差の状態に応じて適切に目標出力電流値の補償を行うことができる。
また、本発明のスイッチング電源装置は、スイッチング素子、リアクトル、コンデンサを有し、直流電源からの入力電圧を大きさの異なる出力電圧に変換して負荷へ出力するDC−DCコンバータと、前記負荷への出力電圧指令値に基づいて前記負荷へ出力される電流の目標出力電流値を入力する入力手段と、前記リアクトルに流れる電流を所定周期毎に検出するリアクトル電流検出手段と、前記リアクトルから負荷へ出力される電流を検出する出力電流検出手段と、前記リアクトル電流検出手段により検出された複数の電流値の平均値を割り出す平均リアクトル電流値割出手段と、該平均リアクトル電流値割出手段により割り出された平均リアクトル電流値の、リアクトルに流れるリアクトル電流を連続的(アナログ的)に検出して平均することで得られる平均実リアクトル電流値に対する誤差を、目標出力電流値に見込むことで該目標出力電流値を補償し、補償された目標出力電流値を目標リアクトル電流値として出力する目標出力電流値補償手段と、該目標出力電流値補償手段より出力された目標リアクトル電流値に対する前記平均リアクトル電流値割出手段により割り出された平均リアクトル電流値のリアクトル電流偏差に基づいてPWM制御のデューティ比を決定し、そのデューティ比に基づいて前記スイッチング素子を駆動制御するPWM制御手段とを備えることを特徴とする。
上記構成によれば、PWM制御手段は、目標リアクトル電流値に対する平均リアクトル電流値の偏差であるリアクトル電流偏差に基づいてPWM制御のデューティ比を決定し、スイッチング素子を駆動制御する。この平均リアクトル電流値は、コンデンサへ流れる前の電流の平均値であるため、応答に対する時間の遅れがない。従って、平均リアクトル電流値を用いてスイッチング素子を駆動制御することによって、過渡状態における出力電圧への制御の応答性を良くすることができる。また、目標出力電流値補償手段より出力される目標リアクトル電流値は、平均リアクトル電流値の平均実リアクトル電流値に対する誤差を目標出力電流値に見込む補償を行うことで得られる値である。よって、特に定常状態における出力電圧(出力電流)の精度を高めることができる。また、過渡状態においても出力電圧(出力電流)の精度も高めることが可能になる。
本発明によれば、平均リアクトル電流値割出手段により割り出された平均リアクトル電流値、つまり応答に対する時間の遅れがないリアクトルに流れる電流値を用いてスイッチング素子を駆動制御することによって、過渡状態における制御の応答性を良くすることができる。しかも、目標出力電流値補償手段より目標出力電流値を補償して目標リアクトル電流値とすることによって、平均リアクトル電流値と平均実リアクトル電流値との間の誤差を見込んだ目標リアクトル電流値を得ることができる。その目標リアクトル電流値と平均リアクトル電流値とのリアクトル電流偏差に基づいてPWM制御のデューティ比を決定し、その決定したデューティ比に基づいてスイッチング素子を駆動制御することによって、特に、定常状態における出力電圧の精度を高めることができる。
次に、本発明につき、実施形態を取り上げて説明を行う。
図1に示す本発明に係るスイッチング電源装置Dは、例えば電気自動車に搭載されるバッテリユニットを模擬したバッテリシミュレータ(バッテリエミュレータ)に可変電圧電源として用いられるものである。あるいは、スイッチング電源装置Dは、電気自動車に実際に搭載される製品としてのスイッチング電源装置であってもよい。特に、高い応答性と高い精度が要求されるバッテリシミュレータ(バッテリエミュレータ)にとって本発明に係るスイッチング電源装置Dは有効である。
スイッチング電源装置Dは、直流電源1、2つのスイッチング素子2,3、リアクトル4、コンデンサ5、2つの電流検出器6,7、制御部8を備えている。2つのスイッチング素子2,3とリアクトル4とコンデンサ5とから、DC−DCコンバータを構成し、図1のDC−DCコンバータは、直流電源1の入力電圧を下げて出力する降圧型に構成されている。
スイッチング素子2,3としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)素子を用いているが、これに限られず、FET(Field Effect Transistor)やバイポーラトランジスタを用いてもよい。また、2つのスイッチング素子2,3には、ダイオード9,10が逆方向でそれぞれ並列に接続されている。
なお、スイッチング電源装置Dに2つのスイッチング素子2,3が用いられているのは、力行及び回生の動作の両方を実行するためである。
リアクトル4の一端(入力側端)は、一方(図の上側)のスイッチング素子2のエミッタと他方(図の下側)のスイッチング素子3のコレクタとを接続する接続線11に接続されている。また、リアクトル4の他端(出力側端)には、接続線12を介して負荷13が接続されている。コンデンサ5は、接続線12から分岐して負荷13に並列に接続される。負荷13としては、供試体としてのインバータが用いられる。
リアクトル4及びコンデンサ5は、スイッチング素子2,3からのリップル(スイッチング周波数に依存した交流電流)を含んだ出力を平滑化する平滑フィルタとして機能する。
一方の電流検出器6は、接続線12からコンデンサ5へ分岐する前の電流(つまりリアクトル4に流れるリアクトル電流Idcl)を検出するリアクトル電流検出手段を構成する。また、他方の電流検出器7は、コンデンサ5側とは反対側の負荷13へ出力される出力電流Ioを検出する出力電流検出手段を構成する。
なお、出力電流検出手段7で検出される電流値は、力行時においては、スイッチング電源装置Dから負荷13への出力電流Ioとなるが、回生時においては負荷13からスイッチング電源装置Dへの入力電流Iinとなる。
制御部8は、電流検出器6,7で検出された電流値Idcl、Ioに基づき、負荷13への出力電圧Voutが目標の出力電圧(出力電圧指令値)となるようにスイッチング素子2,3を制御するものである。
前記負荷13への出力電圧を所定電圧とするための指令値に基づいて負荷13へ出力される電流の目標出力電流値(Iref)を演算して制御部8に入力する入力手段14(図2参照)を設けている。
図1及び図2に示すように、制御部8は、リアクトル電流検出手段6により所定周期毎に検出された複数のリアクトル電流値の平均値を割り出す平均リアクトル電流値割出手段81と、出力電流検出手段7により所定周期毎に検出された複数の出力電流値の平均値を割り出す平均出力電流値割出手段82と、入力手段14から入力された目標出力電流値Irefに対する平均出力電流値割出手段82により割り出された平均出力電流値の出力電流偏差を求め、その出力電流偏差に基づいて目標出力電流値Irefを補償し、補償された目標出力電流値を目標リアクトル電流値Idclrefとして出力する目標出力電流値補償手段83と、目標出力電流値補償手段83により補償されて出力された目標リアクトル電流値Idclrefを受け取り、その目標リアクトル電流値Idclrefに対する平均リアクトル電流値割出手段81により割り出された平均リアクトル電流値のリアクトル電流偏差に基づいてPWM制御のデューティ比を決定し、そのデューティ比に基づいてスイッチング素子2,3を駆動制御するPWM制御手段84とを備えている。
前記リアクトル電流検出手段6によりリアクトル電流を検出するタイミングは、例えば図6(a)に示すタイミング信号sampの立ち上がり時であり、図6(b)に示すスイッチング素子2,3のスイッチングの一周期内に複数(ここでは2回であるが何回でもよい)の割合で検出している。また、前記出力電流検出手段7により出力電流を検出するタイミングは、リアクトル電流を検出するタイミングと同一に設定されている。
制御部8に備えている前記各種手段を更に具体的に説明する。平均リアクトル電流値割出手段81は、CPUでリアクトル電流検出手段6により前述したタイミング(所定周期)で検出した複数の電流値を平均する演算を行い、演算された平均リアクトル電流値をRAM(メモリ)に順次記憶する手段である。また、平均出力電流値割出手段82は、CPUで出力電流検出手段7により前述したタイミング(所定周期)で検出した複数の電流値を平均する演算を行い、演算された平均出力電流値をRAM(メモリ)に順次記憶する手段である。
目標出力電流値補償手段83は、平均リアクトル電流値割出手段81で割り出した平均リアクトル電流値の、リアクトル4に流れる電流を連続的(アナログ的)に検出して平均することで得られる平均実リアクトル電流値に対する誤差を目標出力電流値Irefに盛り込んで補償する手段である。具体的には、目標出力電流値補償手段83は、平均実リアクトル電流値に対する平均リアクトル電流値の誤差分だけ目標出力電流値Irefを補償(補正)する機能を有している。詳細には、目標出力電流値補償手段83は、入力手段14から入力される目標出力電流値Irefから、平均出力電流値割出手段82により割り出(ここでは演算)された平均出力電流値を差し引いて出力電流偏差を演算する減算器831と、減算器831により演算された出力電流偏差を出力するACR(Automatic Current Regulator)832と、ACR832から出力された出力電流偏差を目標出力電流値Irefに加える加算器833とから構成されている。本実施形態の加算器833では、前記出力電流偏差がプラスである場合には、目標出力電流値に出力電流偏差を加算し、該出力電流偏差がマイナスである場合には目標出力電流値に出力電流偏差を減算している。目標出力電流値補償手段83は、補償した目標出力電流値を、目標リアクトル電流値Idclrefとして(換言すると、目標リアクトル電流値という呼び名で)PWM制御手段84に送る。
PWM制御手段84は、目標リアクトル電流値Idclrefから、平均リアクトル電流値割出手段81により割り出(ここでは演算)された平均リアクトル電流値を減算してリアクトル電流偏差を演算する減算器841と、減算器841により演算されたリアクトル電流偏差を出力するACR(Automatic Current Regulator)842と、ACR842からのリアクトル電流偏差に基づいてPWM制御のデューティ比を決定し、デューティ比に基づいてスイッチング素子2,3を駆動制御するPWM制御部(Pulse Width Modulation)843とから構成されている。このPWM制御部843は、決定されたデューティ比に基づいて、2つのスイッチング素子2,3のゲートに加えられるゲート信号をそれぞれ制御する。つまり、ACR842からのリアクトル電流偏差がプラスである場合には、デューティ比を増加させ、ACR842からのリアクトル電流偏差がマイナスである場合には、デューティ比を減少させる。
加算器833と減算器841との間に、加算器833から出力される目標リアクトル電流値Idclrefが上限の電流閾値と下限の電流閾値との間に位置しているか否かを監視する電流監視部85を設けている。
前記のように補償された目標リアクトル電流値Idclrefに対する平均リアクトル電流値のリアクトル電流偏差に基づいてスイッチング素子2,3のON−OFFを制御する。その際、目標出力電圧値が入力電圧値の半分の電圧値よりも大きい又は小さい値に設定されている場合において、平均リアクトル電流値と平均実リアクトル電流値との間に誤差が発生する。この誤差は、目標出力電流値Irefから、平均出力電流値を差し引いたときの出力電流偏差に含まれる。本実施形態では、その出力電流偏差(誤差)を出力の目標値である目標出力電流値Irefに見込んだ目標リアクトル電流値IdclrefをPWM制御の基準値とすることによって、誤差を含む平均リアクトル電流値を、目標出力電流値Irefに対して誤差(補償量)を見込んだ目標リアクトル電流値Idclrefに一致させることができ、その結果、誤差を含まない平均実リアクトル電流値(ひいては、平均出力電流値)を、誤差(補償量)を含まない出力の目標値である目標出力電流値Irefに一致させることができる。
前記誤差が発生することは、前述したように、図6(a),(b),(c)〜図11(a),(b),(c)で示されている。
誤差が発生する場合と、誤差が発生しない場合について説明する。まず誤差が発生しない場合は、目標出力電圧が入力電圧の半分の電圧値に設定されている場合である。これは、図6(a),(b),(c)に力行時の場合を示し、図7(a),(b),(c)に回生時の場合を示し、いずれにおいても誤差が発生しない場合を示している。図6(a)及び図7(a)は、PWMの搬送波fcと、リアクトル電流Idclを検出するためのタイミング信号sampとの関係を示すグラフであり、図6(b)及び図7(b)は、図1に示す上側のスイッチング素子2のON信号VGPと、図1に示す下側のスイッチング素子3のON信号VGNとの関係を示すグラフであり、図6(c)及び図7(c)は、リアクトル4に流れるリアクトル電流を連続的(アナログ的)に検出した電流値Idclと、リアクトル4に流れるリアクトル電流を連続的(アナログ的)に検出し平均することで得られる平均実リアクトル電流値IdclAveと、リアクトル電流を所定周期毎(デジタル的)に検出したときのリアクトル電流値IdclSampと、リアクトル電流を所定周期毎(デジタル的)に検出した複数のリアクトル電流値を平均した平均リアクトル電流値IdclSampAveとの関係を示すグラフである。
図6(c)及び図7(c)を見れば、リアクトル電流値Idclの三角波の立ち上がりの傾きK1と立下りの傾きK2との絶対値が同一になっている。このため、三角波の立ち上がりの周期と三角波の立ち下がりの周期が同一になり、三角波の最低値と最高値との中間値が平均実リアクトル電流値IdclAveとなる。一方、リアクトル電流の所定周期毎(デジタル的)の検出は、PWM搬送波fcに同期したタイミングで行われるため、所定周期毎(デジタル的)に検出したリアクトル電流値IdclSampは、連続的(アナログ的)に検出したリアクトル電流値Idclと同様に、最高値と最低値とが同一周期で切り換わる。よって、平均リアクトル電流値IdclSampAveは、平均実リアクトル電流値IdclAveと一致し、平均リアクトル電流値IdclSampAveには、誤差は含まれていないことがわかる。
これに対して、前記誤差が発生するのは、図8(a),(b),(c)〜図11(a),(b),(c)に示されている。図8(a),(b),(c)は、出力電圧が入力電圧の半分よりも大きい値の時で、力行時の場合を示し、図9(a),(b),(c)は、出力電圧が入力電圧の半分よりも大きい値の時で、回生時の場合を示している。また、図10(a),(b),(c)は、出力電圧が入力電圧の半分よりも小さい場合で、力行時の場合を示し、図11(a),(b),(c)は、出力電圧が入力電圧の半分よりも小さい場合で、回生時の場合を示している。図8〜図11のグラフは、図6及び図7と波形が異なるだけで、同じ関係を示すグラフを示し、グラフに関する説明は省略する。
図8(c)及び図9(c)を見れば、リアクトル電流値Idclの三角波の立ち上がりの傾きK11と立下りの傾きK21との絶対値が異なっている。このため、三角波の立ち上がりの周期と三角波の立ち下がりの周期が異なって、検出のタイミングとの間にズレが生じ、三角波の最低値と最高値との中間値が、平均実リアクトル電流値IdclAveとなっているのに対して、平均リアクトル電流値IdclSampAveは、平均実リアクトル電流値IdclAveよりも下方へずれた位置に位置している。このため、平均実リアクトル電流値IdclAveと平均リアクトル電流値IdclSampAveとの間に差があり、よって、平均リアクトル電流値IdclSampAveには、差に相当する誤差Sが含まれていることがわかる。
また、図10(c)及び図11(c)を見れば、リアクトル電流値Idclの三角波の立ち上がりの傾きK12と立下りの傾きK22との絶対値が異なっている。このため、三角波の立ち上がりの周期と三角波の立ち下がりの周期が異なって、検出のタイミングとの間にズレが生じ、三角波の最低値と最高値との中間値が、平均実リアクトル電流値IdclAveとなっているのに対して、平均リアクトル電流値IdclSampAveは、平均実リアクトル電流値IdclAveよりも上方へずれた位置に位置している。このため、平均実リアクトル電流値IdclAveと平均リアクトル電流値IdclSampAveとの間に差があり、よって、平均リアクトル電流値IdclSampAveには、差に相当する誤差Sが含まれていることがわかる。
本実施形態におけるスイッチング電源装置Dにあっては、前記のように誤差Sが発生した場合でも、誤差Sを出力の目標値である目標出力電流値Irefに見込むことで補償された目標出力電流値を目標リアクトル電流値Idclrefとして出力し、目標リアクトル電流値IdclrefをPWM制御の基準値として平均リアクトル電流値IdclSampAveが目標リアクトル電流値Idclrefに一致するようにスイッチング素子2,3をPWM制御する。その結果、平均リアクトル電流値IdclSampAveから誤差を除いた平均実リアクトル電流値IdclAve(出力電流値Ioに相当)と、目標リアクトル電流値Idclrefから補償分を除いた目標出力電流値Irefとが一致し、特に定常時における出力電圧Voutの精度を高めることができる。
次に、スイッチング電源装置Dの動作説明に基づいて説明する。まず、出力電圧Voutを得るために、スイッチング素子2がONされ、スイッチング素子3がOFFされる。これにより、負荷13に電圧及び電流が印加され、負荷13により電力が消費される。
続いて、スイッチング素子2がOFFされ、スイッチング素子3がONされる。これにより、コンデンサ5に充電された電荷が放電される。
なお、力行時においてスイッチング素子3がONされる。これは、スイッチング素子2,3を交互にONする制御が実行されているからであり、スイッチング回路の原理では、コンデンサ5に充電された電荷が放電されるためには、必ずしもスイッチング素子3がONである必要はない。
回生時においても、力行時と同様に、スイッチング素子2,3は、交互にONとなるようにスイッチングされる。スイッチング素子2がONのときも、スイッチング素子3がONのときも、負荷13からスイッチング電源装置D側へ電力が供給される。
次に、スイッチング電源装置Dの制御部8の動作について説明する。
制御部8は、出力電流検出手段7により検出した複数の出力電流の平均値を平均出力電流値割出手段82を用いて演算して減算器831に出力する。減算器831は、入力手段14から入力された目標出力電流値Irefから平均出力電流値を差し引いて出力電流偏差を演算する。続いて、演算された出力電流偏差をACR832から加算器833に出力する。尚、出力電流偏差が零の場合も、零をACR832から加算器833に出力し、加算器833は、補償された目標出力電流値を目標リアクトル電流値IdclrefとしてPWM制御手段84に出力する。また、加算器833は、出力電流偏差がプラスである場合には、目標出力電流値Irefに出力電流偏差を加算し、出力電流偏差がマイナスである場合には、目標出力電流値Irefに出力電流偏差を減算することで目標出力電流値Irefを補償し、その補償された目標出力電流値を目標リアクトル電流値Idclrefという呼び名でPWM制御手段84の減算器841に出力する。尚、出力される目標リアクトル電流値Idclrefは、電流監視部85で上限の電流閾値と下限の電流閾値との間に位置しているか否かを確認し、位置している場合には、減算器841に出力する。また、制御部8は、リアルトル電流検出手段6により検出した複数のリアクトル電流の平均値を平均リアクトル電流値割出手段81を用いて演算し、その演算された平均リアクトル電流値を減算器841に出力する。減算器841は、目標リアクトル電流値Idclrefから平均リアクトル電流値を減算してリアクトル電流偏差を求める。そのリアクトル電流偏差をACR842が増幅してPWM制御部843に出力する。PWM制御部843は、リアクトル電流偏差に基づいてPWM制御のデューティ比を決定(演算)し、そのデューティ比に基づいてスイッチング素子2,3を駆動制御する。
従って、応答に対する時間の遅れがないリアクトルに流れる電流値(平均リアクトル電流値)を用いてスイッチング素子2,3を駆動制御することによって、過渡状態における制御の応答性を良くすることができる。しかも、目標出力電流値補償手段83により補償された目標出力電流値を目標リアクトル電流値Idclrefとして出力することによって、平均リアクトル電流値と平均実リアクトル電流値との間の誤差を見込んだ目標リアクトル電流値Idclrefを得ることができる。その目標リアクトル電流値Idclrefと平均リアクトル電流値とのリアクトル電流偏差に基づいてPWM制御のデューティ比を決定し、その決定したデューティ比に基づいてスイッチング素子2,3を駆動制御することによって、特に、定常状態における出力電圧Vout(出力電流Io)の精度を高めることができる。
前述のように、過渡状態における出力電圧Voutへの制御の応答性を良くすることができるとともに、定常状態における出力電圧Voutの精度を高めることができることを実験により確かめることができる。図3に従来のスイッチング電源装置(目標出力電流値を補償していない場合)の出力電流の波形を示し、図4に本発明のスイッチング電源装置(目標出力電流値を補償した場合)の出力電流の波形を示している。図において破線が目標出力電流値Irefであり、実線が測定した出力電流値である。図3と図4を見てみると、過渡状態である立ち上がり部分W1の勾配の角度が図3よりも図4の方が大きくなっており、応答性が良いことがわかる。また、過渡状態から一定電流値となる定常状態W2において、図3では、目標出力電流値Irefに対して実際の出力電流値が低い値になっているのに対して、図4では、目標出力電流値Irefと実際の出力電流値とが同一の値になっており、出力電圧Voutの精度を高めることができることがわかる。また、立ち下り部分の過渡状態W3においても、目標出力電流値Irefへの追従性が、図3よりも図4の方が良好な結果である。
また、比較例として、図5のグラフを示している。図5では、ACRの定数を安定に設定した状態にし、出力電流を検出し、その検出した出力電流値でスイッチング素子2,3を制御した場合の出力電流波形を示している。この場合には、過渡状態W1における出力電流値の応答が非常に悪いため、出力電圧の応答性も非常に悪く、使用できないものとなる。
尚、本発明に係るスイッチング電源装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
前記実施形態では、出力電流検出手段7を、所定周期毎に検出する手段で構成したが、常時出力電流を検出する(連続的に検出する)手段から構成してもよい。また、出力電流検出手段7で検出される電流は、リップルをほとんど含んでいないため、実際に流れている実出力電流値との差が少ない。よって、平均値を演算することなく、そのままの検出値を目標出力電流値補償手段84に出力して目標出力電流Irefを補償するように構成してもよい。
また、前記実施形態では、降圧型のDC−DCコンバータに本発明を適用した場合を示したが、昇圧型のDC−DCコンバータに本発明を適用してもよい。また、スイッチング素子の数は、2個に限定されるものではなく、1個又は3個以上のスイッチング素子を設けて実施することもできる。
また、前記実施形態では、リアクトル電流値割出手段81及び出力電流値割出手段82が、検出手段6,7により検出した複数の電流値を平均する計算(演算)を行うことによって、電流値を割り出す手段であったが、電流値に対する平均値がプロットされたグラフを読み出したり、電流値に対する平均値を表にしたテーブルを読み出すことにより電流値を割り出す構成であってもよい。
また、前記実施形態では、目標出力電流値補償手段84が、入力手段14から入力された目標出力電流値Irefに対する平均出力電流値割出手段82により割り出された平均出力電流値の出力電流偏差を求め、その出力電流偏差に基づいて目標出力電流値Irefを補償し、補償された目標出力電流値を目標リアクトル電流値Idclrefとして出力する手段であったが、平均リアクトル電流値割出手段81により割り出された平均リアクトル電流値IdclSampAveと、リアクトル4に流れる電流を連続的(アナログ的)に検出して平均することで得られる平均実リアクトル電流値IdclAveとの間の誤差を目標出力電流値Irefに見込むことで目標出力電流値を補償し、補償された目標出力電流値を目標リアクトル電流値Idclrefとして出力する手段であってもよい。
また、前記実施形態では、リアクトル電流検出手段6をリアクトル4の負荷側で検出するように配置したが、リアクトル4のスイッチング素子2,3側で検出するように配置してもよい。