以下、図面を参照しながら、本発明の例を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
1. 概要
本発明の例は、電流直接駆動による磁化反転技術(スピン注入磁化反転技術)を前提とする。この技術において、熱揺らぎ耐性及びMR特性を劣化させることなく、磁化反転のためのスピン注入電流の電流密度を低減するために、以下の構成を採用する。
まず、磁気記録層(magnetic free layer)の磁化容易軸方向を膜面に垂直となる方向にする。
ここで、膜面とは、磁気記録層を「膜」と捉えたときの膜の表面を意味する。従って、膜面に垂直となる方向とは、磁気固着層、磁気記録層及びこれらの間の非磁性バリア層(例えば、トンネルバリア層)を積層する方向となる。
このような構造の磁気記録層(磁性材料)は、垂直磁化膜と称される。これに対し、磁化容易軸方向が膜面に平行となる磁気記録層(磁性材料)については、面内磁化膜(水平磁化膜)と称される。
垂直磁化膜は、面内磁化膜よりも、微細化し易く、磁化反転のためのスピン注入電流の電流密度も小さい。
磁気記録層の磁化容易軸方向を膜面に垂直となる方向にするためには、磁気記録層を構成する磁性材料の飽和磁化Ms(emu/cc)と異方性磁界Han(Oe)との関係を、Han>12.57Msに設定すればよい。なお、異方性磁界Hanは、膜面垂直方向の磁気異方性Kuを用いて、Han=2Ku/Msで与えられる。
尚、磁気固着層(magnetic pinned layer)の磁化については、例えば、反強磁性層により膜面に垂直となる方向に固定する。また、永久磁石となるような保磁力が大きな磁性材料を用いて磁化固着してもよい。
次に、スピン注入電流の電流密度を2×106 A/cm2以下にするために、磁気記録層を構成する磁性材料の飽和磁化Ms(emu/cc)と異方性磁界Han(Oe)との関係を、Han<1.2E7Ms-1+12.57Msに設定し、その厚さを、5nm以下に設定する。この数値は、実験により見出されたものであり、上記電流密度を実現するためには、上記関係と厚さの双方を同時に満たすことが必要である。
このように、本発明の例によれば、磁気記録層としての磁性材料の飽和磁化Msの値のみを小さくすることなく、磁化反転のためのスピン注入電流の電流密度をバリア材の破壊を素子し,配線および周辺回路の動作保障を確保するために望ましい2×106 A/cm2以下に低減できる。このため、熱揺らぎ耐性及びMR特性を劣化させることもないため、高記録密度の磁気メモリなどのスピンエレクトロニクスデバイスを実現できる。
2. 実施の形態
次に、最良と思われるいくつかの実施の形態について説明する。
(1) 第1実施の形態
図1は、第1実施の形態の磁気記録素子の構造を示す側面図である。
磁気記録層11は、磁化が可変で磁化容易軸方向が膜面に対し垂直方向となる。磁気固着層12は、磁化が膜面に垂直となる方向に固定される。磁気記録層11と磁気固着層12との間には、非磁性バリア層13が配置される。
磁気記録層11は、飽和磁化Ms(emu/cc)と異方性磁界Han(Oe)との関係が、Han>12.57Ms、かつ、Han<1.2E7Ms-1+12.57Msを満たし、厚さが5nm以下の磁性材料から構成される。
磁気固着層12は、磁性材料から構成される。磁気記録層12の磁化方向は、例えば、反強磁性層により固定する。非磁性バリア層13は、例えば、トンネルバリア層としての絶縁材料から構成される。
スピン注入電流Isが磁気記録層11から磁気固着層12に向かって流れるとき、磁気記録素子の磁化状態は、磁気記録層11の磁化方向と磁気固着層12の磁化方向とが同じとなる平行状態になる。
また、スピン注入電流Isが磁気固着層12から磁気記録層11に向かって流れるとき、磁気記録素子の磁化状態は、磁気記録層11の磁化方向と磁気固着層12の磁化方向とが逆となる反平行状態になる。
図2は、第1実施の形態で指定する範囲を表している。
磁気記録層の飽和磁化Ms(emu/cc)と異方性磁界Han(Oe)に関して、薄く塗り潰してある範囲が第1実施の形態の磁気記録素子として成立する範囲である。
第1実施の形態によれば、熱揺らぎ耐性及びMR特性を劣化させることなく、磁化反転のためのスピン注入電流の電流密度を低減できる。
(2) 第2実施の形態
図3は、第2実施の形態の磁気記録素子の構造を示す側面図である。
磁気記録層11は、磁化が可変で磁化容易軸方向が膜面に対し垂直方向となる。磁気固着層12は、磁化が膜面に垂直となる方向に固定される。磁気記録層11と磁気固着層12との間には、非磁性バリア層13が配置される。
磁気記録層11は、飽和磁化Ms(emu/cc)と異方性磁界Han(Oe)との関係が、Han>12.57Ms、かつ、Han<1.2E7Ms-1+12.57Msを満たし、厚さが5nm以下の磁性材料から構成される。
また、磁気記録層11を構成する磁性材料の飽和磁化Msは、600emu/ccを超える値に設定される。これはMR特性を示す指標であるところのMR比を20%以上とするために必要である。
磁気固着層12は、磁性材料から構成される。磁気記録層12の磁化方向は、例えば、反強磁性層により固定する。非磁性バリア層13は、例えば、トンネルバリア層としての絶縁材料から構成される。
スピン注入電流Isが磁気記録層11から磁気固着層12に向かって流れるとき、磁気記録素子の磁化状態は、磁気記録層11の磁化方向と磁気固着層12の磁化方向とが同じとなる平行状態になる。
また、スピン注入電流Isが磁気固着層12から磁気記録層11に向かって流れるとき、磁気記録素子の磁化状態は、磁気記録層11の磁化方向と磁気固着層12の磁化方向とが逆となる反平行状態になる。
図4は、第2実施の形態で指定する範囲を表している。
磁気記録層の飽和磁化Ms(emu/cc)と異方性磁界Han(Oe)に関して、薄く塗り潰してある範囲が第2実施の形態の磁気記録素子として成立する範囲である。
第2実施の形態によれば、第1実施の形態と同様に、熱揺らぎ耐性及びMR特性を劣化させることなく、磁化反転のためのスピン注入電流の電流密度を低減できる。また、磁気記録層11を構成する磁性材料の飽和磁化Msを600emu/ccを超える値に設定することで、熱揺らぎ耐性を維持したまま反転に必要な電流密度Jcを小さくでき、磁気記録素子のMR比が大きくなり、再生信号出力も大きくなる。
(3) 第3実施の形態
図5は、第3実施の形態の磁気記録素子の構造を示す側面図である。
磁気記録層11は、磁化が可変で磁化容易軸方向が膜面に対し垂直方向となる。磁気固着層12は、磁化が膜面に垂直となる方向に固定される。磁気記録層11と磁気固着層12との間には、非磁性バリア層13が配置され、磁気記録層11と非磁性バリア層13との間には、挿入層14が配置される。
磁気記録層11は、飽和磁化Ms(emu/cc)と異方性磁界Han(Oe)との関係が、Han>12.57Ms、かつ、Han<1.2E7Ms-1+12.57Msを満たし、厚さが5nm以下の磁性材料から構成される。
また、挿入層14は、磁性材料から構成され、その飽和磁化Msは、600emu/ccを超える値に設定される。これは第2の実施の形態でも述べたとおり、MR特性を示す指標であるところのMR比を20%以上とするために必要である。
挿入層14の厚さについては、磁気記録層11の磁化(垂直磁化)に影響を与えないように、2nm未満、さらに好ましくは、0.6nm未満に設定される。
磁気固着層12は、磁性材料から構成される。磁気記録層12の磁化方向は、例えば、反強磁性層により固定する。非磁性バリア層13は、例えば、トンネルバリア層としての絶縁材料から構成される。
スピン注入電流Isが磁気記録層11から磁気固着層12に向かって流れるとき、磁気記録素子の磁化状態は、磁気記録層11の磁化方向と磁気固着層12の磁化方向とが同じとなる平行状態になる。
また、スピン注入電流Isが磁気固着層12から磁気記録層11に向かって流れるとき、磁気記録素子の磁化状態は、磁気記録層11の磁化方向と磁気固着層12の磁化方向とが逆となる反平行状態になる。
図6は、第3実施の形態で指定する範囲を表している。
磁気記録層の飽和磁化Ms(emu/cc)と異方性磁界Han(Oe)に関して、薄く塗り潰してある範囲が第3実施の形態の磁気記録素子として成立する範囲である。
第3実施の形態によれば、第1実施の形態と同様に、熱揺らぎ耐性及びMR特性を劣化させることなく、磁化反転のためのスピン注入電流の電流密度を低減できる。また、挿入層を構成する磁性材料の飽和磁化Msを600emu/ccを超える値に設定することで、磁気記録素子のMR比が大きくなり、再生信号出力も大きくなる。
尚、磁気記録素子のMR比は、磁気記録層と非磁性バリア層との界面における磁性材料の飽和磁化Msに影響される。
従って、挿入層に代えて、磁気記録層の飽和磁化Msを磁気記録層内で連続的又は不連続に変化させ、磁気記録層と非磁性バリア層との界面における磁気記録層の飽和磁化Msを600emu/ccを超える値に設定しても、同様の効果が得られる。
(4) 第4実施の形態
図12乃至図14は、第4実施の形態の磁気記録素子の構造を示す図である。
磁気記録層11は、非磁性材料16により空間的に分離された磁性微粒子101からなり、磁性微粒子101の磁化は、可変で、磁化容易軸方向が膜面に対し垂直方向となる。
磁気固着層12は、磁化が膜面に垂直となる方向に固定される。磁気記録層11と磁気固着層12との間には、非磁性バリア層13が配置される。磁気記録層11上には、キャップ層15が配置される。
磁性微粒子101は、飽和磁化Ms(emu/cc)と異方性磁界Han(Oe)との関係が、Han>12.57Ms、かつ、Han<1.2E7Ms-1+12.57Msを満たし、厚さが10nm以下の磁性材料から構成される。
磁気固着層12は、磁性材料から構成される。磁気記録層12の磁化方向は、例えば、反強磁性層により固定する。非磁性バリア層13は、例えば、トンネルバリア層としての絶縁材料から構成される。
スピン注入電流Isが磁気記録層11から磁気固着層12に向かって流れるとき、磁気記録素子の磁化状態は、磁性微粒子101の磁化方向と磁気固着層12の磁化方向とが同じとなる平行状態になる。
また、スピン注入電流Isが磁気固着層12から磁気記録層11に向かって流れるとき、磁気記録素子の磁化状態は、磁性微粒子101の磁化方向と磁気固着層12の磁化方向とが逆となる反平行状態になる。
第4実施の形態で磁性微粒子が形成される磁性材料は、図2に指定する範囲にある。
磁気記録層の飽和磁化Ms(emu/cc)と異方性磁界Han(Oe)に関して、薄く塗り潰してある範囲が第4実施の形態の磁気記録素子として成立する範囲である。
第4実施の形態によれば,磁性微粒子の磁化をそれぞれ独立に磁化し,各々を記録単位(1ビット)とすることで超高密度を得ることができる。また,複数個の磁性微粒子で1つの記録単位(1ビット)を形成させることで特性バラツキを低減させることができる。
第4実施の形態においては、さらに、図14の例に示すように、磁性微粒子と非磁性バリア材料の間に、異種原子102が存在してもよい。この異種原子102は、磁性微粒子101、非磁性バリア層13、非磁性材料16のいずれを構成する材料には含まれない材料からなる。
これらの材料が3原子層以下の厚さの場合、磁気特性に大きな影響を与えず、磁性微粒子の配列を制御することができる。
第4実施の形態によれば、第1実施の形態と同様に、熱揺らぎ耐性及びMR特性を劣化させることなく、磁化反転のためのスピン注入電流の電流密度を低減できる。
(5) 第5実施の形態
図15は、第5実施の形態の磁気記録素子の構造を示す図である。
磁気記録層11は、磁化が可変で磁化容易軸方向が膜面に対し垂直方向となる。磁気固着層12は、磁化が膜面に垂直となる方向に固定される。磁気記録層11と磁気固着層12との間には、非磁性バリア層13が配置される。
磁気記録層11の非磁性バリア層13との反対側の面には非磁性導電層102を具備し、
さらに非磁性導電層102の磁気記録層11と反対側の面に磁化が膜面に垂直となる方向に固定される第2の磁気固着層103を有することを特徴とする。
磁気記録層11は、飽和磁化Ms(emu/cc)と異方性磁界Han(Oe)との関係が、Han>12.57Ms、かつ、Han<1.2E7Ms-1+12.57Msを満たし、厚さが5nm以下の磁性材料から構成される。
磁気記録層11は材質的に均一な層からなる場合の他に,第4の実施の形態にあるように磁化は可変で磁化容易軸方向が膜面に対し垂直方向となる微粒子から形成されてもよい。
磁気固着層12および第2磁気固着層103は、磁性材料から構成される。磁気記録層12および第二磁気固着層103の磁化方向は、例えば、反強磁性層により固定する。その際, 磁気固着層12および第2磁気固着層103のそれぞれの磁化が互いに反平行となるように固着すると,反転効率をあげることが出来て低電流密度化を促進する。
非磁性バリア層13は、例えば、トンネルバリア層としての絶縁材料から構成される。
非磁性導電層102は,例えばCu(銅),Au(金),Ag(銀),Al(アルミニウム)の中から選択される1つ以上の元素を含む導電性金属により構成される。
スピン注入電流Isが第2磁気固着層103から磁気固着層12に向かって流れるとき、磁気記録素子の磁化状態は、磁気記録層11の磁化方向と磁気固着層12の磁化方向とが同じとなる平行状態になる。
また、スピン注入電流Isが磁気固着層12から第2磁気固着層103に向かって流れるとき、磁気記録素子の磁化状態は、磁気記録層11の磁化方向と磁気固着層12の磁化方向とが逆となる反平行状態になる。
磁気記録層の飽和磁化Ms(emu/cc)と異方性磁界Han(Oe)に関して、薄く塗り潰してある範囲が第4実施の形態の磁気記録素子として成立する範囲である。
第5実施の形態によれば,磁性微粒子の磁化をそれぞれ独立に磁化し,各々を記録単位(1ビット)とすることで超高密度を得ることができる。また,複数個の磁性微粒子で1つの記録単位(1ビット)を形成させることで特性バラツキを低減させることができる。
第5実施の形態によれば、第1実施の形態と同様に、熱揺らぎ耐性及びMR特性を劣化させることなく、磁化反転のためのスピン注入電流の電流密度を低減できる。
3. 材料例
第1乃至第3実施の形態の磁気記録素子を実現するための材料例について以下に説明する。
(1) 磁気記録層及び磁気固着層
磁気記録層及び磁気固着層は、例えば、Fe(鉄), Co(コバルト), Ni(ニッケル), Mn(マンガン), Cr(クロム)のグループから選択される1つ以上の元素を含む磁性金属により構成する。
磁気記録層については、Fe, Co, Ni, Mn, Crのグループから選択される1つ以上の元素と、Pt(白金), Pd(パラジウム), Ir(イリジウム),Ru(ルテニウム),Rh(ロジウム)のグループから選択される1つ以上の元素との組み合わせによる合金にすると、磁気記録層の異方性磁界Hanの値が大きくなり、磁気記録層の飽和磁化Msの値を600emu/cc以上に設定し易くなる。
磁気記録層の異方性磁界Hanの値については、磁気記録層を構成する磁性材料の組成や、熱処理による結晶規則性などによっても調整できる。
磁気記録層及び磁気固着層は、例えば、TbFeCo, GdFeCoなどの希土類−遷移金属のアモルファス合金や、 Co/Ptの積層構造などにより構成してもよい。
磁気記録層及び磁気固着層を構成する磁性材料は、連続的な磁性体、又は、非磁性体内に磁性体からなる微粒子がマトリクス状に析出した複合構造とすることができる。特に、微粒子を含む複合構造は、素子の微細化に適しているため,高密度化に好ましい。
磁性微粒子の形状は、例えば、図12乃至図14に示すように、円柱形や球形である。
複合構造に関し、非磁性体を、Al2O3-x, MgO1-x, SiOx、ZnOx、TiOxなどの酸化物系の高抵抗材料とする場合には、書き込み電流としてのスピン注入電流は、微粒子へ集中するため、低電流密度での磁化反転が可能となる。また、特に、非磁性材料が非磁性バリア層と同じ材料を用いると、微粒子の結晶制御および磁気異方性制御が容易となる。
(2) 挿入層
挿入層は、例えば、Fe(鉄), Co(コバルト), Ni(ニッケル)のうちの1つ、又は、Fe(鉄), Co(コバルト), Ni(ニッケル), Mn(マンガン), Cr(クロム)のグループから選択される1つの元素を含む合金から構成される。
また、挿入層は、CoNbZr, FeTaC, CoTaZr, FeAlSi, FeB, CoFeBなどの軟磁性材料、Co2MnSiなどのホイスラー合金、CrO2, Fe3O4, La1-xSrxMnO3などのハーフメタルの酸化物又は窒化物,磁性半導体としてもよい。
(3) 非磁性バリア層
低抵抗材料と高抵抗材料の2通りについて説明する。
非磁性バリア層には,読み出し時にTMR(tunnel magneto resistive)効果により大きな再生信号出力を得るためのトンネルバリア層としての絶縁材料を用いることができる。
具体的には、Al(アルミニウム), Ti(チタン), Zn(亜鉛)、Zr(ジルコニウム)、Ta(タンタル), Co(コバルト), Ni(ニッケル), Si(シリコン), Mg(マグネシウム), Fe(鉄)のグループから選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物、窒化物又は弗化物により非磁性バリア層を構成することができる。
特に、非磁性バリア層は、Al2O3-x(アルミナ), MgO(酸化マグネシウム), SiO2-x, Si-O-N, Ta-O, Al-Zr-O, ZnOx、TiOx大きなエネルギーギャップを有する半導体(GaAlAsなど)から構成するのが好ましい。
また、非磁性バリア層に関しては、絶縁体に設けられたピンホール内に磁性材料が挿入されたナノコンタクトMR(magneto resistive)材料や、絶縁体に設けられたピンホール内にCuが挿入されたCPP(current-perpendicular-to-plane) -CPP-MR材料などから構成することにより、大きな再生信号出力を得ることができる。
非磁性バリア層がトンネルバリア層の場合、その厚さは、0.2nm〜2.0nmの範囲内の値とするのが大きな再生信号出力を得るに当たって好ましい。同様に、非磁性バリア層がナノコンタクトMR材料の場合、その厚さは、0.4nm〜40nmの範囲内の値とするのが大きな再生信号出力を得るに当たって好ましい。
4. 実施例
実際にサンプルを作成し、その特性を評価した実施例について説明する。
(1) 第1実施例
図7は、第1実施例で試作した磁気記録素子の構造を示している。
磁気記録素子は、磁気記録層11、磁気固着層12及びこれらの間の非磁性バリア層13の積層構造から構成され、かつ、下部電極21と上部電極22との間に配置される。また、磁気記録層11と上部電極22との間には、厚さが10nm以下のキャップ層15が配置される。
キャップ層15は、例えば、Ta, Al, Mg, Feなどの酸化物、又は、Cu, Ag, Auなどの非磁性金属とTa, Al, Mg, Feなどの酸化物との積層構造から構成でき、磁気記録素子を保護する。
キャップ層15については、さらに好ましくは、厚さ1nm以下の酸化物、窒化物及び弗化物のグループから選択される1つにより構成する。
キャップ層15は、スピン注入電流の低電流密度化が実現されている場合には、Ru, Cu, Ag, Au, Taなどの非磁性金属から構成してもよい。
なお,磁気固着層12は図7においては上部のみをピラー形状としているが,磁気固着層の下部までピラー形状になるように下部まで幅を狭くしてもよい。
表1に示すように、サンプルは17種類である。共通して、磁気固着層21がFePt規則合金から構成され、非磁性バリア層13はMgOから構成されている。磁気記録層はFe-Pt合金,Fe-Co-Pt合金,Co-Pt合金,Co-Cu-Pt合金,Co-Ph-Pt合金等から構成されている。
サンプルAA1〜AA8は、本発明の例に関わる磁気記録素子であり、図8に示すように、第1実施の形態に提示した条件の範囲内にある。また、磁気記録層の膜厚は5nm以下である。
これに対し、サンプルBB1〜BB4は、比較例としての磁気記録素子であり、図8に示すように、第1実施の形態に提示した条件の範囲から外れている。
一方、サンプルCC1〜CC5は、図8に示すように、MsとHanの関係は第1実施の形態に提示した条件の範囲内にあるが、磁気記録層11が膜厚の異なるFeCoPtから構成される。
これらのサンプルは、次の手順により製造する。
まず、ウェハ上に下部電極21を形成した後、そのウエハを超高真空スパッタ装置内に配置し、下部電極21上に、磁気固着層12、非磁性バリア層13、磁気記録層11及びキャップ層15を順次堆積させる。下部電極21には、例えばAu(001)あるいはPt(001)バッファ層を用いることができる。FePt規則合金からなる磁化固着層は,例えば基板加熱されたバッファ層上に成長させることができる。その後,基板温度を室温まで下げてMgO膜を形成したのち,磁気記録層を形成する合金材料を基板温度350℃から700℃の範囲で成長させて,所望のMsおよびHanをもつ磁気記録層を得る。これらの膜には,さらにキャップ層を形成する。磁気記録層のHanは,この例のように合金の成長温度を変化させることにより変化させることができるが,ポストアニールの温度によって変化させることもできる.
次に、EB(electron beam:電子線)レジストを塗布してEB露光を行い、マスクを形成する。マスクの形状は、例えば、70nm×100nmの楕円とし、その長辺に沿った長手方向が磁気記録層の磁気異方性の方向に平行となる。
また、イオンミリング装置を用いて、マスクにより被覆されない領域に存在する磁気記録層11、磁気固着層12、非磁性バリア層13及びキャップ層15をエッチングする。ここで、エッチング量については、スパッタされた粒子を差動排気による四重極分析器に導入して質量分析を行うことで正確に把握できる。
このエッチングにより磁気記録素子が完成する。
この後、マスクを剥離し、さらに、磁気記録素子を完全に覆うSiO2を形成する。また、SiO2の表面をイオンミリングにより平坦化し、キャップ層15の上面をSiO2から露出させる。そして、最後に、キャップ層15上に上部電極22を形成する。
これらのサンプルに対して、磁気記録素子の積層方向にスピン注入電流(磁化反転電流)を流し、磁気記録層の磁化を反転させるために必要な反転電流密度についてモニタリングした。
その結果、サンプルAA1〜AA8では、反平行から平行へ反転する場合の反転電流密度の絶対値と平行から反平行へ反転する場合の反転電流密度の絶対値を平均化した反転電流密度Jcが表1に示すように、2×106A/cm2以下となった。これに対し、サンプルBB1〜BB4では、反転電流密度が2×106A/cm2を十分に超える値となった。なお,本明細書で記載している反転電流密度Jcは,特別の記載がない限り,上記のように反平行から平行へ反転する場合の反転電流密度の絶対値と,平行から反平行へ反転する場合の反転電流密度の絶対値とを平均化した値で定義している。
さらにサンプルCC1〜CC5では、図9に示すように、反転電流密度Jcが磁気記録層の厚さにほぼ比例し、良好な特性を得るための反転電流密度2×106A/cm2を実現するためには、磁気記録層は5nm以下であることが望ましいことが分かる。
この結果から明らかなように、本発明の例によれば、スピン注入電流の電流密度を2×106A/cm2以下に低減化できることが確認された。また、非磁性バリア層をAl2O3―X, SiO2―X, TiOx, ZnOxとした場合も同様の傾向がえられた。
図10及び図11は、サンプルA1の書き込み特性の評価結果を示している。
まず、図10に示すように、外部磁場が零の条件でスピン注入電流Isを流し、磁気記録層11の残留磁化の磁化方向を決定する。
スピン注入電流Isが磁気記録層11から磁気固着層12に向かって流れるとき、磁気記録素子の磁化状態は、磁気記録層11の磁化方向と磁気固着層12の磁化方向とが同じとなる平行状態になる。
また、スピン注入電流Isが磁気固着層12から磁気記録層11に向かって流れるとき、磁気記録素子の磁化状態は、磁気記録層11の磁化方向と磁気固着層12の磁化方向とが逆となる反平行状態になる。
次に、磁気記録素子に読み出し電流を流し、平行/反平行状態の抵抗Rを測定する。その結果、図11に示すように、スピン注入電流Isと磁気記録素子の抵抗Rとの関係が得られる。
この評価により、小さな反転電流密度で、きちんと磁化反転が行われていることが確認された。
尚、磁気記録層の磁化を反転させるために必要な電流の最小値を臨界電流Icとすると、臨界電流Ic以上の電流で書き込みが行えると共に、読み出し電流については、読み出し時における誤書き込みを防止するために、臨界電流Icよりも小さな値にする。
(2) 第2実施例
図12乃至図14は、第2実施例で試作した磁気記録素子の構造を示している。
磁気記録素子は、磁気記録層11、磁気固着層12及びこれらの間の非磁性バリア層13の積層構造から構成される。この磁気記録素子の特徴は、磁気記録層11が非磁性材料16により分離された複数の磁性微粒子101の集合体から構成され、各々の磁性微粒子101の磁化方向が独立に決定される点にある。
ここで、磁気記録層11を構成する磁性微粒子101の結晶粒界に非磁性材料16を存在させるのが製造プロセスの観点から好ましい。非磁性材料16は、例えば、MgOX, Al2O3―X, SiO2などの酸素を含む材料から構成される。特に,非磁性材料16が非磁性バリア層13と同様の材料からなる場合には,結晶配向の制御が容易となり,製造上および磁気異方性の特性上,好ましい。
磁気記録層11上には、厚さが10nm以下のキャップ層15が配置される。
キャップ層15は、例えば、Ta, Al, Mg, Feなどの酸化物、又は、Cu, Ag, Auなどの非磁性金属とTa, Al, Mg, Feなどの酸化物との積層構造から構成でき、磁気記録素子を保護する。キャップ層15は、スピン注入電流の低電流密度化が実現されている場合には、Ru, Cu, Ag, Au, Taなどの非磁性金属から構成してもよい。
キャップ層15については、さらに好ましくは、厚さ1nm以下の酸化物、窒化物及び弗化物のグループから選択される1つにより構成する。
キャップ層15は、スピン注入電流の低電流密度化が実現されている場合には、Ru, Cu, Ag, Au, Taなどの非磁性金属から構成してもよい。
このような構造の磁気記録素子について、第1実施例と同様に、複数のサンプルを作成し、その特性を評価した。
具体的には、第1実施例のサンプルAA1〜AA8において、磁気記録層を、MgO、もしくはAl2O3-X, SiO2―X, TiOx, ZnOxからなる非磁性体と、これにより分断されたAA1〜AA8磁気記録層材料からなる微粒子とで形成した。磁気記録層の形成は、例えば非磁性材料と磁性微粒子材料を同時蒸着することにより可能である。また、磁性膜をパターンに微細加工して周囲を非磁性材料により埋め込むことでも可能である。
この場合、磁気記録層の厚さは第1実施例のサンプルAA1〜AA8よりも若干厚くなる場合があり、最大10nmとなった。しかし、この構造においては、電流集中効果が起こるため、2×106 A/cm2以下の小さな反転電流密度で、きちんと磁化反転が行われていることが確認された。
(3) 第3実施例
図16は、第3実施例で試作した磁気記録素子の構造を示している。
磁気記録素子は、磁気記録層11、磁気固着層12及びこれらの間の非磁性バリア層13の積層構造から構成される。この磁気記録素子の特徴は、磁気固着層12内に、酸素を含む層17が形成されている点にある。酸素を含む層17は、磁気固着層12の磁化状態を安定させる機能を有する。
磁気記録層11上には、厚さが10nm以下のキャップ層15が配置される。
キャップ層15は、例えば、Ta, Al, Mg, Feなどの酸化物、又は、Cu, Ag, Auなどの非磁性金属とTa, Al, Mg, Feなどの酸化物との積層構造から構成でき、磁気記録素子を保護する。
キャップ層15については、さらに好ましくは、厚さ1nm以下の酸化物、窒化物及び弗化物のグループから選択される1つにより構成する。
キャップ層15は、スピン注入電流の低電流密度化が実現されている場合には、Ru, Cu, Ag, Au, Taなどの非磁性金属から構成してもよい。
このような構造の磁気記録素子について、第1実施例と同様に、複数のサンプルを作成し、その特性を評価したところ、2×106 A/cm2以下の小さな反転電流密度で、きちんと磁化反転が行われていることが確認された。
(4) 第4実施例
図17は、第4実施例で試作した磁気記録素子の構造を示している。
磁気記録素子は、磁気記録層11、磁気固着層12及びこれらの間の非磁性バリア層13の積層構造から構成される。この磁気記録素子の特徴は、磁気記録層11の上面を覆うキャップ層15が2層構造を有している点にある。
キャップ層15Aは、厚さ3nm以下の非磁性金属から構成される。また、キャップ層15Bは、厚さ1nm以下の酸化物、窒化物及び弗化物のグループから選択される1つにより構成される。
このような構造の磁気記録素子について、第1実施例と同様に、複数のサンプルを作成し、その特性を評価したところ、2×106 A/cm2以下の小さな反転電流密度で、きちんと磁化反転が行われていることが確認された。
(5) 第5実施例
図18及び図19は、第5実施例の磁気記録素子の構造を示している。
磁気記録素子は、磁気記録層11、磁気固着層12及びこれらの間の非磁性バリア層13の積層構造から構成され、かつ、下部電極21と上部電極22との間に配置される。
磁気固着層12と下部電極21との間には、磁気固着層12の磁化を固着するための反強磁性層18が配置される。また、磁気記録層11と上部電極22との間には、磁気記録素子を保護するためのキャップ層15が配置される。
第5実施例では、垂直磁化膜を採用した場合と面内磁化膜を採用した場合とについて、その効果を比較検討する。
サンプルA1,A2は、図18に示すように、磁気記録層11の磁化容易軸方向が膜面に対して垂直方向になるため、磁気記録層11の残留磁化の磁化方向も膜面に対して垂直方向、即ち、磁気記録層11、磁気固着層12及び非磁性バリア層13の積層方向になる。また、磁気固着層12の磁化は、反強磁性層18により膜面に対して垂直方向に固定される。
サンプルB1,B2は、図19に示すように、磁気記録層11の磁化容易軸方向が膜面に対して水平方向になるため、磁気記録層11の残留磁化の磁化方向も膜面に対して水平方向、即ち、磁気記録層11の面内方向になる。また、磁気固着層12の磁化は、反強磁性層18により膜面に対して水平方向に固定される。
サンプルA1, A2は、本発明の例に関わる磁気記録素子であり、図20に示すように、第1実施の形態に提示した条件の範囲内にある。
サンプルA1は、磁気記録層11がFe(0.2nm)/FeCuPt(1nm)の積層構造から構成され、磁気固着層12がPt/Coの積層構造から構成され、非磁性バリア層13がAl2O3―xから構成される。括弧内の数値は厚さである。
サンプルA2は、磁気記録層11がCoPt(2nm)から構成され、磁気固着層12がGdFeCo/Fe3O4の積層構造から構成され、非磁性バリア層13がMgOから構成される。括弧内の数値は厚さである。
これに対し、サンプルB1,B2は、比較例としての磁気記録素子であり、図20に示すように、第1実施の形態に提示した条件の範囲から外れている。
サンプルB1は、磁気記録層11がCoFe(2.5nm)から構成され、磁気固着層12がCoFe/Ru/CoFeのSAF(synthetic anti-ferromagnetic)構造から構成され、非磁性バリア層13がAl2O3―xから構成される。括弧内の数値は厚さである。
サンプルB2は、磁気記録層11がCoFeB(2.5nm)から構成され、磁気固着層12がCoFe/CoFeBの積層構造から構成され、非磁性バリア層13がMgOから構成される。括弧内の数値は厚さである。
これらのサンプルA1, A2, B1, B2に対して、磁気記録素子の積層方向にスピン注入電流(磁化反転電流)を流し、磁気記録層の磁化を反転させるために必要な反転電流密度についてモニタリングした。
その結果、サンプルA1では、反平行から平行へ反転する場合の反転電流密度の絶対値と平行から反平行へ反転する場合の反転電流密度の絶対値の平均化された反転電流密度Jcが8×105A/cm2となり、サンプルA2では、反転電流密度が9×105A/cm2となった。これに対し、サンプルB1では、反転電流密度が4×107A/cm2となり、サンプルB2では、反転電流密度が6×106A/cm2となった。
この結果から明らかなように、本発明の例によれば、従来よりもスピン注入電流の電流密度を1/5以下に小さくでき、2×106A/cm2以下の反転電流密度を実現できることが確認された。
(6) その他
本発明の例による効果は、磁気記録素子の形状及び寸法、下部/上部電極の形状、寸法、材料、さらには、パッシベーション層などの絶縁層の種類などによって変わることはないため、これらを当業者が公知の範囲から適宜選択して採用することができる。
磁気記録素子を構成する磁性記録層、磁気固着層及び非磁性バリア層の各々についても、全て同一形状、同一サイズとする必要はなく、互いに異なる形状、サイズとなるように設計してもよい。
但し、製造プロセス上、磁気記録層の平面形状としては、縦横比で1:1から1:4までの範囲内にある正方形、長方形、多角形(例えば、六角形)、円形、楕円形、菱型、又は、平行四辺形とすることが好ましい。
また、磁気記録層のサイズは、一辺が5nm〜200nmの範囲内の値にすることが好ましい。
磁気記録素子の断面形状としては、四角形、台形など、磁性記録層、磁気固着層及び非磁性バリア層の断面のサイズが同じ又は連続的に変化するようにすることが製造プロセス上好ましいが、各層の断面のサイズを不連続に変化させてもよい。
また、反強磁性層、磁気固着層、非磁性バリア層、磁気記録層、キャップ層、絶縁層などの構成要素については、それぞれ、単層でもよいし、複数の層から構成されていてもよい。
5. 適用例
本発明の例に関わる磁気記録素子の適用例について説明する。
ここでは、磁気メモリとしての磁気ランダムアクセスメモリ(magnetic random access memory: MRAM)及びプローブメモリ(probe memory)の例と、リコンフィギャブル(re-configurable)なロジック回路を実現するためのスピンFET(field effect transistor)の例とについて述べる。
(1) 磁気ランダムアクセスメモリ
本発明の例に関わる磁気記録素子を磁気ランダムアクセスメモリに適用するに当たっては、メモリセルアレイの種類又は構造に制限を受けることはない。以下では、スピン注入書き込みに適した1トランジスタ−1MTJ(magneto tunnel junction)タイプを代表例とする。
A. 回路構造
図21は、本発明の例に関わる磁気ランダムアクセスメモリのメモリセルアレイの回路構造を示している。
メモリセルアレイ31は、アレイ状に配置される複数のメモリセルMC1,MC2,MC3,MC4から構成される。メモリセルMC1,MC2,MC3,MC4は、それぞれ、直列接続された磁気記録素子MTJとMOSトランジスタTRとから構成される。
MOSトランジスタTRのゲートは、ワード線WL(i),WL(i+1)に接続される。ワード線WL(i),WL(i+1)は、x方向に延び、その一端は、ロウ選択スイッチとしてのMOSトランジスタRSWを経由して、ワード線ドライバ32に接続される。
MOSトランジスタRSWのゲートには、読み出し/書き込み時に、メモリセルアレイ31の1つのロウを選択するためのロウ選択信号RSL(i),RSL(i+1)が入力される。
ワード線ドライバ32は、選択された1つのロウ内のワード線をドライブする。例えば、ワード線WL(i)が選択される場合、ワード線WL(i)の電位を“H”にし、ワード線WL(i)に接続されるMOSトランジスタTRをオンにする。
メモリセルMC1,MC2,MC3,MC4を構成する磁気記録素子MTJの一端は、ビット線BLu(j),BLu(j+1)に接続される。
ビット線BLu(j),BLu(j+1)は、x方向に交差するy方向に延び、その一端は、カラム選択スイッチとしてのMOSトランジスタCSWuを経由して、ビット線ドライバ/シンカー33に接続される。
MOSトランジスタCSWuのゲートには、読み出し/書き込み時に、メモリセルアレイ31の1つのカラムを選択するためのカラム選択信号CSLu(j),CSLu(j+1)が入力される。
メモリセルMC1,MC2,MC3,MC4を構成するMOSトランジスタTRの一端は、ビット線BLd(j),BLd(j+1)に接続される。
ビット線BLd(j),BLd(j+1)は、y方向に延び、その一端は、カラム選択スイッチとしてのMOSトランジスタCSWdを経由して、ビット線ドライバ/シンカー34に接続される。
MOSトランジスタCSWdのゲートには、書き込み時に、メモリセルアレイ31の1つのカラムを選択するためのカラム選択信号CSLd(j),CSLd(j+1)が入力される。
また、ビット線BLd(j),BLd(j+1)の一端は、カラム選択スイッチとしてのMOSトランジスタCSWrを経由して、共通読み出し線RLに接続され、共通読み出し線RLは、センスアンプS/Aに接続される。
MOSトランジスタCSWrのゲートには、読み出し時に、メモリセルアレイ31の1つのカラムを選択するためのカラム選択信号CSLr(j),CSLr(j+1)が入力される。
センスアンプS/Aは、参照電位Vrefに基づいて、選択されたメモリセルMC内の磁気記録素子MTJのデータ値を判定し、これを出力信号DATAとして出力する。
ここで、ビット線ドライバ/シンカー33,34は、選択された1つのカラム内のビット線にスピン注入電流Isを流すために設けられる。
磁気記録素子MTJの磁化状態が反平行のときを“1”とし、平行のときを“0”とアサイン(assign)する。
メモリセルMC1に“1”を書き込む場合、ロウ選択信号RSL(i)を“H”にし、ワード線WL(i)を“H”にして、メモリセルMC1内のMOSトランジスタTRをオンにする。
また、カラム選択信号CSLu(j),CSLd(j)を“H”にし、ビット線ドライバ/シンカー33から、メモリセルMC1を経由して、ビット線ドライバ/シンカー34に向かうスピン注入電流Isを流す。この時、メモリセルMC1内の磁気記録素子MTJでは、スピン偏極された電子により磁化状態が反平行となり、“1”が書き込まれる。
また、メモリセルMC1に“0”を書き込む場合、同様に、ロウ選択信号RSL(i)を“H”にし、ワード線WL(i)を“H”にして、メモリセルMC1内のMOSトランジスタTRをオンにする。
また、カラム選択信号CSLu(j),CSLd(j)を“H”にし、ビット線ドライバ/シンカー34から、メモリセルMC1を経由して、ビット線ドライバ/シンカー33に向かうスピン注入電流Isを流す。この時、メモリセルMC1内の磁気記録素子MTJでは、スピン偏極された電子により磁化状態が平行となり、“0”が書き込まれる。
読み出しに関しては、例えば、センスアンプS/Aとビット線ドライバ/シンカー33を用いて実行する。
例えば、メモリセルMC1のデータを読み出す場合、ロウ選択信号RSL(i)を“H”にし、ワード線WL(i)を“H”にして、メモリセルMC1内のMOSトランジスタTRをオンにする。
また、カラム選択信号CSLu(j)を“H”にし、ビット線BLu(j)をビット線ドライバ/シンカー33に電気的に接続し、カラム選択信号CSLr(j)を“H”にし、ビット線BLd(j)をセンスアンプS/Aに電気的に接続する。
ビット線ドライバ/シンカー33は、例えば、ビット線BLu(j)の一端を接地点に接続し、センスアンプS/Aは、メモリセルMC1に読み出し電流を供給する。センスアンプS/Aは、読み出し電流がメモリセルMC1内の磁気記録素子MTJに流れるときの抵抗値を検出し、それに記憶されたデータ値を判定する。
B. デバイス構造
図22乃至図25は、図21のメモリセルMC1,MC2,MC3,MC4のデバイス構造の例を示している。
メモリセルは、MOSトランジスタTRと本発明の例に関わる磁気記録素子(磁気抵抗効果素子)MTJとから構成される。
MOSトランジスタTRは、半導体基板41上に形成される。MOSトランジスタTRのゲート電極は、ワード線WL(i)としてx方向(紙面に直交する方向)に延びる。
MOSトランジスタTRの2つのソース/ドレイン拡散層の一方は、下部ビット線BLd(j)に接続され、他方は、磁気記録素子MTJの一端(下面)に接続される。磁気記録素子MTJの他端(上面)は、上部ビット線BLu(j)に接続される。
上部ビット線BLu(j)及び下部ビット線BLd(j)は、それぞれy方向に延びる。
磁気記録素子は、トップピン構造を有する。即ち、半導体基板41側から、下地層42、磁気記録層11、トンネルバリア層(絶縁層)13、磁気固着層12、反強磁性層18、キャップ層15A,15Bの順序で積層される。
尚、磁気記録素子については、ボトムピン構造であってもよい。
このようなデバイス構造のメモリセルにおいて、図22に示すように、“1”−書き込み時には、図21のビット線ドライバ/シンカー33内の電流源から、上部ビット線BLu(j)→磁気記録素子MTJ→下部ビット線BLd(j)という経路を経て、接地点に向かってスピン注入電流Isを流す。
この時、磁気記録素子MTJの内部では、電子流は、磁気記録層11から磁気固着層12に向かって流れることになる。一般的には、電子流が磁気記録層11から磁気固着層12に向かって流れるとき、磁気記録層11の磁化は、磁気固着層12の磁化に対して反平行になる。
また、図23に示すように、“0”−書き込み時には、図21のビット線ドライバ/シンカー34内の電流源から、下部ビット線BLd(j)→磁気記録素子MTJ→上部ビット線BLu(j)という経路を経て、接地点に向かってスピン注入電流Isを流す。
この時、磁気記録素子MTJの内部では、電子流は、磁気固着層12から磁気記録層11に向かって流れることになる。一般的には、電子流が磁気固着層12から磁気記録層11に向かって流れるとき、磁気記録層11の磁化は、磁気固着層12の磁化に対して平行になる。
読み出し時には、図24及び図25に示すように、例えば、センスアンプS/Aから磁気記録素子MTJを経由して接地点に向かって読み出し電流Irを流す。読み出し電流Irが磁気記録素子MTJに流れるとき、センスアンプS/Aの入力電位は、磁気記録素子MTJの状態によって変化する。
例えば、図24に示すように、磁気記録素子MTJに“1”−データが記憶されているとき、磁気記録素子MTJの抵抗値は、大きくなっており(反平行状態)、センスアンプS/Aの入力電位は、参照電位Vrefよりも高くなる。
従って、センスアンプS/Aは、出力信号DATAとして“1”を出力する。
また、図25に示すように、磁気記録素子MTJに“0”−データが記憶されているとき、磁気記録素子MTJの抵抗値は、小さくなっており(平行状態)、センスアンプS/Aの入力電位は、参照電位Vrefよりも低くなる。
従って、センスアンプS/Aは、出力信号DATAとして“0”を出力する。
尚、本例では、読み出し電流Irの向きは、下部ビット線BLd(j)から上部ビット線BLu(j)に向かう方向であるが、これと逆向き、即ち、上部ビット線BLu(j)から下部ビット線BLd(j)に向かう方向にしてもよい。また、読み出し方法については、本例とは異なる方法を採用してもよい。
読み出し電流Irの値は、読み出し時におけるディスターブを抑制するため、スピン注入電流Isの値よりも十分に小さくする。具体的には、読み出し電流Irの値は、磁化反転の臨界電流Icよりも小さくすればよい。
本例では、磁気記録素子MTJの磁化状態が反平行のときを“1”とし、平行のときを“0”とアサインしたが、その逆であってもよい。
読み出しに関しては、MR(magneto-resistive)比を大きくして高信号出力を得るために、トンネルバリア層を、高抵抗材料、例えば、アルミナや、MgOなどの絶縁材料から構成するのが好ましい。
また、このようなトンネルバリア層に代えて、絶縁材料に設けられた多数のホール内にCuや磁性体などを埋め込んだCPP-CPP-MR材料又はナノコンタクトMR材料を、磁気記録層と磁気固着層との間の非磁性バリア層として採用すれば、読み出しに関しては、さらに好都合である。
メモリセルを構成するMOSトランジスタTRは、選択スイッチとしての機能を有していれば、バイポーラトランジスタ、ダイオードなどの素子に代えても問題はない。
C. 磁気記録素子のレイアウト
磁気記録素子MTJのレイアウトについては、メモリセルアレイの構造との関連も含め、様々なタイプを想定できる。
図22乃至図25のメモリセルアレイは、メモリセルが1つのトランジスタと1つの磁気記録素子とから構成される1トランジスタ−1MTJタイプである。この場合、1つのメモリセルに対して、独立した1つの磁気記録素子MTJが割り当てられる。
これに対し、図26に示すように、1トランジスタ−1MTJタイプのメモリセルアレイにおいて、磁気記録素子MTJを、非磁性材料により分離された複数の磁性粒子(多結晶構造)の集合体から構成し、全てのメモリセルの磁気記録素子MTJを一体化してもよい。
この場合、磁気記録素子MTJは、半導体基板41の上部にベタに形成されるため、製造プロセスが簡略化され、製造コストの低下を実現できる。
このような構造においても、磁気記録素子MTJは、複数の磁性粒子の集合体からなり、磁性粒子ごとに磁化方向を決定できるため、プラグa,bの間の領域の磁化のみを選択的に変えることが可能である。
従って、磁気メモリとしての機能は、図22乃至図25の構造の磁気メモリと何ら変わることはない。
図27乃至図29のメモリセルアレイは、クロスポイントタイプである。
図27の構造では、図22乃至図25の構造と同様に、1つのメモリセルに対して、独立した1つの磁気記録素子MTJが割り当てられる。
また、図28の構造では、ビット線BL(j),BL(j+1)の直下に、ビット線BL(j),BL(j+1)に沿うように磁気記録素子MTJがレイアウトされる。この場合、磁気記録素子MTJは、ビット線BL(j),BL(j+1)の加工と同時に加工されるため、製造プロセスが簡略化され、製造コストの低下を実現できる。
図29の構造では、磁気記録素子MTJは、ワード線WL(i),BL(i+1)とビット線BL(j),BL(j+1)との間の領域にベタに形成される。この場合、磁気記録素子MTJの加工を省略することができるため、製造プロセスが簡略化され、製造コストの低下を実現できる。
図28及び図29の構造においても、磁気記録素子MTJは、複数の磁性粒子の集合体からなり、磁性粒子ごとに磁化方向を決定できるため、ワード線WL(i),BL(i+1)とビット線BL(j),BL(j+1)との交差部の磁化のみを選択的に変えることが可能である。
従って、磁気メモリとしての機能は、図27乃至図29の全てのクロスポイントタイプ磁気メモリにおいて同じである。
(2) プローブメモリ
プローブメモリは、現在のメモリに比べて記録密度を飛躍的に向上できる可能性を持つ次世代メモリである。
プローブメモリは、記録媒体の上部に、例えば、カンチレバー状のプローブを有し、記録媒体とプローブとの位置関係を制御することでアクセス動作を行う。特に、MEMS(micro electro mechanical systems)技術を使えば、半導体チップ上に、記録媒体とプローブを混載することも可能であり、事実、ミリピード(Millipede)など、具体的なものも提案されている。
本発明の例における磁気記録素子をこのようなプローブメモリの記録媒体として使用すれば、プローブメモリの実用化に貢献できる。
A. 基本構造
図30は、プローブメモリの基本構造を示している。
絶縁基板51上には、導電層52が形成され、導電層52上には、アレイ状に本発明の例に関わる複数の磁気記録素子MTJが配置される。各々の磁気記録素子MTJは、例えば、磁気固着層53、非磁性バリア層(例えば、トンネルバリア層)54及び磁気記録層55の積層構造を有する。複数の磁気記録素子MTJの間のスペースは、絶縁層56により満たされる。
このような磁気記録素子MTJのアレイは、「パターンド(patterned)媒体」と称される。
パターンド媒体上には、例えば、カンチレバー状のプローブ57が配置される。プローブ57の形状については、特に、制限されることはなく、針状などであってもよいが、カンチレバー状にする場合には、例えば、MEMS技術により半導体チップ上にプローブを作り込む場合に有利である。
プローブ57の位置は、位置制御装置58により制御される。例えば、位置制御装置58は、プローブ57を2次元(x,y)又は3次元(x,y,z)で駆動し、これによりアクセス動作を行う。プローブ57は、パターンド媒体の上面に常に接触していてもよいし、常に一定距離だけ離れていてもよい。
読み出し/書き込み回路59は、読み出し時に、読み出し電流を磁気記録素子MTJに流し、磁気記録素子MTJに記憶されたデータを読み出す。また、読み出し/書き込み回路59は、書き込み時に、書き込みデータに応じた向きのスピン注入電流を磁気記録素子MTJに流し、磁気記録素子MTJの磁化状態を制御する。
このようなプローブメモリにおいて、“1”−書き込み時には、位置制御装置58は、アドレス信号に基づいて、パターンド媒体とプローブ57との相対的位置を決定し、読み出し/書き込み回路59は、導電層52からプローブ57に向かう方向にスピン注入電流Isを流す。
この時、磁気記録素子MTJの内部では、電子流は、磁気記録層55から磁気固着層53に向かって流れるため、磁気記録層55の磁化は、磁気固着層53の磁化に対して反平行になる。
また、“0”−書き込み時には、位置制御装置58は、アドレス信号に基づいて、パターンド媒体とプローブ57との相対的位置を決定し、読み出し/書き込み回路59は、プローブ57から導電層52に向かう方向にスピン注入電流Isを流す。
この時、磁気記録素子MTJの内部では、電子流は、磁気固着層53から磁気記録層55に向かって流れるため、磁気記録層55の磁化は、磁気固着層53の磁化に対して平行になる。
読み出し時には、位置制御装置58は、アドレス信号に基づいて、パターンド媒体とプローブ57との相対的位置を決定し、読み出し/書き込み回路59は、磁気記録素子MTJに読み出し電流Irを供給する。
読み出し電流Irの向きについては制約されることはないが、読み出し電流Irの値については、読み出し時におけるディスターブを抑制するため、スピン注入電流Isの値よりも十分に小さくする。具体的には、読み出し電流Irの値は、磁化反転の臨界電流Icよりも小さくする。
尚、本例では、磁気記録素子MTJの磁化状態が反平行のときを“1”とし、平行のときを“0”とアサインしたが、その逆であってもよい。
読み出しに関しては、MR比を大きくして高信号出力を得るために、非磁性バリア層54をトンネルバリア層(例えば、アルミナや、MgOなどの絶縁材料)とするのが好ましい。
また、このようなトンネルバリア層に代えて、絶縁材料に設けられた多数のホール内にCuや磁性体などを埋め込んだCPP-CPP-MR材料又はナノコンタクトMR材料を、磁気記録層と磁気固着層との間の非磁性バリア層として採用すれば、読み出しに関しては、さらに好都合である。
ここで、図27の例では、パターンド媒体の位置を固定し、位置制御装置58によりプローブ57の位置を制御するシステムになっているが、パターンド媒体とプローブ57との相対的位置の制御が可能であれば、プローブ及び絶縁基板51のどちらを駆動しても構わない。
例えば、図31に示すように、位置制御装置58A,58Bにより、パターンド媒体とプローブとの相対的位置を制御することもできる。
また、ハードディスクドライブのように、絶縁基板51を回転させ、プローブ57を直線的に駆動することによりアクセス動作を行ってもよい。
図32及び図33は、図30のプローブメモリの変形例である。
図32のプローブメモリは、磁気固着層53と非磁性バリア層54を全ての磁気記録素子MTJで共有した点に特徴を有する。この場合、磁気固着層53と非磁性バリア層54は、導電層52上にベタに形成され、磁気記録層55のみをパターニングすればよいため、製造プロセスの簡易化と素子特性の向上を実現できる。
図33のプローブメモリは、パターンド媒体の上面を保護層60により覆った点に特徴を有する。保護層60は、例えば、極薄の絶縁体から構成される。この場合、プローブ57が磁気記録素子MTJに直に接触することがないため、磁気記録素子MTJの信頼性と読み出し/書き込み回数の向上を実現できる。
尚、保護層60の代わりに、プローブ57を磁気記録素子MTJから一定距離だけ離し、プローブ57と磁気記録素子MTJとの間にスペースを設けてもよい。また、保護層60を設けると共に、プローブ57を保護層60から一定距離だけ離すようにしてもよい。
B. マルチプローブ構造
高記録密度化に適したマルチプローブ構造のプローブメモリの例について説明する。
図34は、本発明の例に関わるプローブメモリの回路構造を示している。
ブロックBK11,・・・BKijは、マトリックス状に配置される。ブロックBK11,・・・BKijは、それぞれ、物理的に分離されていてもよいし、一体化されていてもよい。ブロックBK11,・・・BKijの各々は、例えば、図29に示すように、複数の磁気記録素子からなるパターンド媒体から構成される。
ブロックBK11,・・・BKijが、全体として32個×32個のマトリックス状に配置され、ブロックBK11,・・・BKijの各々が、32個×32個の磁気記録素子から構成される場合、1つのブロックの記憶容量としては、1キロビット、プローブメモリとしては、1メガビットの記憶容量となる。
プローブ57は、ブロックBK11,・・・BKijと同様にマトリックス状に配置され、プローブ57とブロックBKijとが一対一に対応する。
プローブ57は、MOSトランジスタTRを経由して、ビット線BLu(1),・・・BLu(j)に接続される。
MOSトランジスタTRのゲートは、ワード線WL(1),・・・WL(i)に接続される。ワード線WL(1),・・・WL(i)は、x方向に延び、その一端は、ロウ選択スイッチとしてのMOSトランジスタRSWを経由して、ワード線ドライバ32に接続される。
MOSトランジスタRSWのゲートには、読み出し/書き込み時に、ブロックBK11,・・・BKijの1つを選択するためのロウ選択信号RSL(1),・・・RSL(i)が入力される。
ワード線ドライバ32は、選択された1つのロウ内のワード線をドライブする。例えば、ワード線WL(1)が選択される場合、ワード線WL(1)の電位を“H”にし、ワード線WL(1)に接続されるMOSトランジスタTRをオンにする。
ビット線BLu(1),・・・BLu(j)は、y方向に延び、その一端は、カラム選択スイッチとしてのMOSトランジスタCSWuを経由して、ビット線ドライバ/シンカー33に接続される。
MOSトランジスタCSWuのゲートには、読み出し/書き込み時に、ブロックBK11,・・・BKijの1つを選択するためのカラム選択信号CSLu(1),・・・CSLu(j)が入力される。
ブロックBK11,・・・BKijの一端(図25の導電層52に相当)は、ビット線BLd(1),・・・BLd(j)に接続される。
ビット線BLd(1),・・・BLd(j)は、y方向に延び、その一端は、カラム選択スイッチとしてのMOSトランジスタCSWdを経由して、ビット線ドライバ/シンカー34に接続される。
MOSトランジスタCSWdのゲートには、書き込み時に、ブロックBK11,・・・BKijの1つを選択するためのカラム選択信号CSLd(1),・・・CSLd(j)が入力される。
また、ビット線BLd(1),・・・BLd(j)の一端は、カラム選択スイッチとしてのMOSトランジスタCSWrを経由して、共通読み出し線RLに接続され、共通読み出し線RLは、センスアンプS/Aに接続される。
MOSトランジスタCSWrのゲートには、読み出し時に、ブロックBK11,・・・BKijの1つを選択するためのカラム選択信号CSLr(1),・・・CSLr(j)が入力される。
センスアンプS/Aは、参照電位Vrefに基づいて、選択されたブロックBKij内の選択された磁気記録素子のデータ値を判定し、これを出力信号DATAとして出力する。
ここで、ビット線ドライバ/シンカー33,34は、選択された1つのブロックBKij内の選択された磁気記録素子にスピン注入電流Isを流すために設けられる。
磁気記録素子の磁化状態が反平行のときを“1”とし、平行のときを“0”とアサインする。
ブロックBK11内の磁気記録素子に“1”を書き込む場合、ロウ選択信号RSL(1)を“H”にし、ワード線WL(1)を“H”にして、ブロックBK11に対応するMOSトランジスタTRをオンにする。
また、カラム選択信号CSLu(1),CSLd(1)を“H”にし、ビット線ドライバ/シンカー33から、ブロックBK11内の磁気記録素子を経由して、ビット線ドライバ/シンカー34に向かうスピン注入電流Isを流す。この時、ブロックBK11内の磁気記録素子の磁化状態は反平行となり、“1”が書き込まれる。
ブロックBK11内の磁気記録素子に“0”を書き込む場合、ロウ選択信号RSL(1)を“H”にし、ワード線WL(1)を“H”にして、ブロックBK11に対応するMOSトランジスタTRをオンにする。
また、カラム選択信号CSLu(1),CSLd(1)を“H”にし、ビット線ドライバ/シンカー34から、ブロックBK11内の磁気記録素子を経由して、ビット線ドライバ/シンカー33に向かうスピン注入電流Isを流す。この時、ブロックBK11内の磁気記録素子の磁化状態は平行となり、“0”が書き込まれる。
読み出しに関しては、例えば、センスアンプS/Aとビット線ドライバ/シンカー33を用いて実行する。
例えば、ブロックBK11内の磁気記録素子のデータを読み出す場合、ロウ選択信号RSL(1)を“H”にし、ワード線WL(1)を“H”にして、ブロックBK11に対応するMOSトランジスタTRをオンにする。
また、カラム選択信号CSLu(1)を“H”にし、ビット線BLu(1)をビット線ドライバ/シンカー33に電気的に接続し、カラム選択信号CSLr(1)を“H”にし、ビット線BLd(1)をセンスアンプS/Aに電気的に接続する。
ビット線ドライバ/シンカー33は、例えば、ビット線BLu(1)の一端を接地点に接続し、センスアンプS/Aは、ブロックBK11内の磁気記録素子に読み出し電流を供給する。センスアンプS/Aは、読み出し電流が磁気記録素子に流れるときの抵抗値を検出し、それに記憶されたデータ値を判定する。
図35は、マルチプローブ構造のプローブメモリのデバイス構造の一例を示している。
このプローブメモリでは、半導体チップ61の中央部に記録媒体としてのパターンド媒体がベタに形成され、かつ、パターンド媒体が複数のブロックBKに区分けされている。複数のブロックBK上には、複数のブロックBKに対応して複数のプローブ57が配置される。
半導体チップ61の周辺部には、例えば、図30の位置制御装置58が形成されるサーボ領域62と、図30の読み出し/書き込み回路59が形成される周辺回路領域63とが設けられる。
このデバイス構造の特徴は、半導体チップ61上に、図30に示す全てのシステムを搭載した点にある。このような半導体デバイスは、MEMS技術を使うことにより可能となる。
(3) スピンFET
本発明の例に関わる磁気記録素子は、スピンFETに適用可能である。
スピンFETは、それ自体を磁気メモリのメモリセルとして使用できると共に、リコンフィギャブル(re-configurable)なロジック回路の構成要素として注目されている。
図36は、スピンFETのデバイス構造の一例を示している。
本例は、スピン注入書き込み方式によりデータ書き込みを実行するトンネルバリアタイプスピンFETに関する。
半導体基板70内には、強磁性層から構成されるソース/ドレイン領域が形成される。ソース/ドレイン領域の一つは、磁化方向が変化する磁気記録層11であり、他の一つは、磁気固着層12である。磁気固着層12の磁化は、反強磁性層18により固着される。
半導体基板70と磁気記録層11との間及び半導体基板70と磁気固着層12との間には、非磁性バリア層(トンネルバリア層)13Aが形成される。また、磁気記録層11と磁気固着層12との間のチャネル領域上には、ゲート絶縁層71を介してゲート電極72が形成される。
反強磁性層18上及び磁気記録層11上には、それぞれソース/ドレイン電極73,74が形成される。
ソース/ドレイン電極73は、スピン注入電流を発生させるためのドライバ/シンカー、即ち、PチャネルMOSトランジスタP1及びNチャネルMOSトランジスタN1に接続される。
同様に、ソース/ドレイン電極74は、スピン注入電流を発生させるためのドライバ/シンカー、即ち、PチャネルMOSトランジスタP2及びNチャネルMOSトランジスタN2に接続される。
このような構造のスピンFETにおいて、データ書き込みは、ゲート電極72に書き込みゲート電圧Wを与え、ソース/ドレイン領域としての磁気記録層11にスピン注入電流を流すことにより行う。
書き込みデータの値は、スピン注入電流の向きにより決定され、スピン注入電流の向きは、制御信号A,B,C,DによるPチャネルMOSトランジスタP1,P2及びNチャネルMOSトランジスタN1,N2のオン/オフにより制御される。
例えば、ソース/ドレイン領域11,12の磁化状態を反平行にするときは、スピン注入電流をPチャネルMOSトランジスタP1からNチャネルMOSトランジスタN2に向かって流す。この時、電子流は、磁気記録層11から磁気固着層12に向かって流れるため、磁気記録層11の磁化方向は、磁気固着層12の磁化方向とは反対向きになる。
また、ソース/ドレイン領域11,12の磁化状態を平行にするときは、スピン注入電流をPチャネルMOSトランジスタP2からNチャネルMOSトランジスタN1に向かって流す。この時、電子流は、磁気固着層12から磁気記録層11に向かって流れるため、磁気記録層11の磁化方向は、磁気固着層12の磁化方向と同じ向きになる。
尚、本例では、トンネルバリアタイプスピンFETについて説明したが、スピンFETは、トンネルバリア層13Aを有しないショットキーバリアタイプであっても構わない。
(4) その他
以上、3つの適用例について説明したが、本発明の例は、これら以外のスピンエレクトロニクスデバイスにも適用可能である。
6. まとめ
本発明の例によれば、電流直接駆動による磁化反転技術において、熱揺らぎ耐性及びMR特性の劣化なく、反転電流密度Jcを低減できる、これにより、平面サイズ(最大幅)が20nm以下の低消費電力で発熱によるダメージが少ない高信頼性の磁気記録素子を実現でき、これを様々なスピンエレクトロニクスデバイスに適用することが可能になる。
本発明の例は、磁気記録素子の高機能化、磁気メモリ(ストレージデバイス)の高密度化、低消費電力化などの効果に関しては絶大であり、電流直接駆動による磁化反転技術の実用化を促進するもので、産業上のメリットは多大である。
本発明の例は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、各構成要素を変形して具体化できる。また、上述の実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を構成できる。例えば、上述の実施の形態に開示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよいし、異なる実施の形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。