JP5943001B2 - 等化信号処理装置、それを用いた光受信装置および等化信号処理方法 - Google Patents
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Description
デジタル信号処理技術を用いることによって、例えば、偏波モード分散によって光信号に時間広がりが生じている受信信号を補償することができる。ここで偏波モード分散とは、ファイバの真円からのずれなどに起因する偏波モード間の光ファイバ伝送路中における伝搬速度の相違をいう。また、偏波モード分散や偏波回転などのような、伝送路中において偏波依存性のある現象は周波数依存性があり、またファイバに加わる圧力など様々な外的作用によって時間的に変化する。したがって、このような時間的な変化を伴う要因によって劣化した受信信号を等化するためには、デジタル信号処理も適応的に行う必要がある。
時間領域における適応等化信号処理は、有限インパルス応答(Finite Impulse Response:FIR)フィルタを用いて行うことができる。光通信技術においては一般に、偏波依存性のある要因によって劣化した信号の等化を行うために、図9に示すようなバタフライ型FIRフィルタが使用される。FIRフィルタの係数は、例えば、CMA(Constant Modulus Algorithm)法やDDLMS(Decision Directed Least Mean Square)アルゴリズムに基づくフィードバック制御により適応的に調整される。
バタフライ型FIRフィルタの制御方法の一例が非特許文献1に記載されている。図9に示すように、関連するバタフライ型FIRフィルタ900には、X偏波入力EX(k)およびY偏波入力EY(k)が入力され、その出力Ex(k)、Ey(k)は以下のように表わされる。
ここで、hxx=[hxx(0)・・・hxx(M−1)]等はFIRフィルタのタップ係数であり、Mはタップ長を表わす。なお、添え字「T」は転置行列を示す。CMA法を用いる場合には、このタップ係数を非特許文献1に記載された式(12)−(15)に基づいて制御する。X偏波入力とY偏波入力は、CMA法によって制御された係数を用いて重み付けられ、足し合わされる。これにより、偏波依存性のある劣化要因が相殺されて補償処理が行われる。その結果、適切な受信処理が実現できる。
このように、デジタル信号処理を用いたコヒーレント受信方式においては、バタフライ型のFIRフィルタが使用される。このとき、FIRフィルタのタップ長が長くなると、それに応じてタップ係数の更新に必要な計算量が増大し、大きな回路リソースが必要となる。そのため、FIRフィルタのタップ長はできる限り短くすることが望ましい。一方、偏波モード分散による信号の時間広がりを、バタフライ型FIRフィルタを使用して補償するためには、時間広がりの逆応答をFIRフィルタによって実現する必要がある。しかし、FIRフィルタのタップ長が有限である場合、所望の応答を実現できない可能性がある。
非特許文献2には、バタフライ型FIRフィルタの係数をCMA法によって制御することによる、コヒーレント受信器における偏波分離の一例が記載されている。非特許文献2においても述べられているように、一般に、バタフライ型FIRフィルタによって補償される主な要因である偏波モード分散の応答は、ユニタリ行列で表わすことができるので、その逆応答もユニタリ行列で表現できる。したがって、逆応答では以下の関係が成り立つ。
ここで、添え字「*」は複素共役を表わす。式(3)の関係から、次式が成り立つ。
式(4)、(5)からわかるように、偏波モード分散の逆応答の大きさは一種の時間的な中心対称性を有している。バタフライ型FIRフィルタのタップ係数を適応制御する場合において、タップ係数の初期値も上記関係を考慮し、有意な係数はFIRフィルタの中央のタップに設定し、他の係数は「0」に設定するのが一般的である。ここで有意な係数とは、バタフライ型FIRフィルタによって実現される、それぞれの偏波信号に対する入出力関係を表すジョーンズ行列に相当する。ここで、バタフライ型FIRフィルタのタップ係数の初期値は、例えば非特許文献2に記載されているように、以下のように設定することができる。
ここでは、始めは伝送による偏波回転および時間広がりは生じないと想定し、タップ長Mは7としている。この例では、それぞれのFIRフィルタにおける中央のタップ係数であるhxx(3)、hxy(3)、hyx(3)、hyy(3)に、恒等的なジョーンズ行列
が設定されている。そして、CMA法によって収束した後のタップ係数を用いることにより、適応等化信号処理を行うことができる。
一方、光学素子を用いて光ファイバ中で生じた歪みを補償する補償装置の一例が、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載された関連する補償装置は、広帯域適応光イコライザ、光フィードバックモニタ、およびコントローラを有する。広帯域適応光イコライザは、ビームスプリッタと差動遅延素子からなる複数のチューナブル光フィルタユニットを備える。光フィードバックモニタは広帯域適応光イコライザを通過する信号をサンプリングする。そして、コントローラはチューナブル光フィルタユニットの初期コントロールパラメータを設定し、光フィードバックモニタのサンプル結果に基づいて決定したコントロールパラメータによって広帯域適応光イコライザを制御することとしている。しかし、偏波モード分散は時間的に変化し、光学素子がその変化に追従することは困難であるため、関連する補償装置によっては偏波モード分散を補償することは困難である。
しかしながら、伝送される信号が影響を受ける要因は、時間的な中心対称性を有するものには限られない。特に、帯域制限のようなアナログ・ローパスフィルタに相当する影響は、時間的な中心対称性を持たず、立下りで裾野を引くような応答である場合が多い。ここで、コヒーレント光通信では例えば、送信機の変調器に入力する電気信号に対して帯域制限が行われる。また、コヒーレント受信した信号をアナログ/デジタル変換するアナログ/デジタル変換器(Analog Digital Converter:ADC)において信号の帯域制限が行われる。
上述したように送受信機を含むチャネル応答に時間的な中心対称性のない要因が含まれる場合がある。このとき、関連するFIRフィルタにおける場合のようにタップ係数の初期値を設定すると、適応制御による収束後のタップ係数が立下りの裾野の応答を実現できない場合が生じる。すなわち、タップ係数の初期値として、FIRフィルタの中央のタップ係数にジョーンズ行列を設定し、他の係数はゼロに設定すると、最適な等化信号処理が困難になる。
このように、関連するコヒーレント受信方式における等化信号処理装置においては、光ファイバ伝送路におけるチャネル応答に時間的な中心対称性のない要因が含まれると、最適な等化信号処理が困難になるという問題があった。
本発明の目的は、上述した課題である、光ファイバ伝送路におけるチャネル応答に時間的な中心対称性のない要因が含まれると、コヒーレント受信方式における最適な等化信号処理が困難になる、という課題を解決する等化信号処理装置、それを用いた光受信装置および等化信号処理方法を提供することにある。
本発明の光受信装置は、コヒーレント光受信手段と、局部発振光源と、アナログ/デジタル(A/D)変換手段と、デジタル信号処理手段とを有し、デジタル信号処理手段は等化信号処理装置を備え、等化信号処理装置は、コヒーレント受信したデジタル信号を入力する等化フィルタ手段と、等化フィルタ手段の特性を規定する係数を制御する係数制御手段と、係数の初期値のうち有意な値である有意係数を保持する有意係数保持手段と、有意係数の初期値における位置である有意係数位置を、等化フィルタ手段の等化特性が最適となるように決定する有意係数位置決定手段と、有意係数位置に有意係数を設定する有意係数設定手段とを有する。
本発明の等化信号処理方法は、等化フィルタ特性を規定する数値列からなる係数の初期値のうち有意な値である有意係数を保持し、有意係数の初期値における位置である有意係数位置を、等化フィルタ特性が最適となるように決定し、有意係数位置に有意係数を設定する。
図2は本発明の第1の実施形態に係る光受信装置を用いた光伝送システムの構成を示すブロック図である。
図3は本発明の第2の実施形態に係る等化信号処理装置の構成を示すブロック図である。
図4は本発明の第2の実施形態に係る等化信号処理装置の初期値設定動作を説明するためのフローチャートである。
図5は本発明の第3の実施形態に係る等化信号処理装置の構成を示すブロック図である。
図6は本発明の第4の実施形態に係る等化信号処理装置の構成を示すブロック図である。
図7は本発明の第4の実施形態に係る等化信号処理装置における収束後のタップ係数の大きさの算出結果の一例を示す図である。
図8は本発明の第4の実施形態に係る等化信号処理装置における収束したタップ係数に対する移動積算値の算出結果の一例を示す図である。
図9は関連するバタフライ型FIRフィルタの構成を示すブロック図である。
〔第1の実施形態〕
図1は、本発明の第1の実施形態に係る等化信号処理装置100の構成を示すブロック図である。等化信号処理装置100は、等化フィルタ手段110、係数制御手段120、有意係数保持手段130、有意係数位置決定手段140、および有意係数設定手段150を有する。
等化フィルタ手段110は、コヒーレント受信したデジタル信号EX、EYを入力し、等化フィルタ手段の特性を規定する係数によって重み付けた出力信号Ex、Eyを出力する。係数制御手段120は、等化フィルタ手段110の係数を制御する。有意係数保持手段130は、係数の初期値のうち有意な値である有意係数を保持する。ここで有意係数とは、ゼロでない有意な値を有する係数をいう。有意係数位置決定手段140は、有意係数が初期値において占める位置である有意係数位置を、等化フィルタ手段110の等化特性が最適となるように決定する。そして、有意係数設定手段150は、有意係数位置決定手段140が決定した有意係数位置に有意係数を設定する。そして係数制御手段120は、このときの有意係数が設定された初期値を等化フィルタ手段110に設定する。
本実施形態の等化信号処理装置100によれば、有意係数位置決定手段140が等化フィルタ手段110の係数の初期値として、初期値の中央に限らず任意の位置に有意な値を設定することができる。そのため、チャネル応答に時間的な中心対称性のない要因が含まれる場合であっても、コヒーレント受信方式における最適な等化信号処理を行うことが可能になる。
ここで、等化フィルタ手段110は有限インパルス応答(Finite Impulse Response:FIR)フィルタとすることができ、有意係数はFIRフィルタのタップ長より少ない個数からなる、とすることができる。これにより、複数の初期値の候補を用いて最適化を行う場合であっても、タップ長より少ない個数からなる有意係数について最適化処理を実行すればよいので、初期値の決定処理を簡略化することができる。その結果、初期値の候補を保持するための記憶手段の容量を削減することができ、初期値の決定に要する立ち上げ時間を短縮することが可能となる。
次に、本実施形態による等化信号処理装置100を用いた光受信装置について説明する。図2は、本実施形態による光受信装置1000を用いた光伝送システムの構成を示すブロック図である。
光受信装置1000は、光送信装置2000から送出され、光ファイバ等の伝送路3000を伝搬してくる光信号を受信する。本実施形態では、光送信装置2000が送出する光信号は偏波多重QPSK(Dual Polarization − Quadrature Phase Shift Keying:DP−QPSK)信号とした。
光受信装置1000は、コヒーレント光受信手段1100、局部発振光源1200、アナログ/デジタル(A/D)変換手段1300、およびデジタル信号処理手段1400を有する。光受信装置1000では、受信した光信号をコヒーレント光受信手段1100において局部発振光源1200からの局部発振光と干渉させ、コヒーレント受信を行う。コヒーレント受信手段1100は、例えば光ハイブリッド回路とバランス型フォトディテクタによって構成される。
コヒーレント受信された信号は、アナログ/デジタル(A/D)変換手段1300によってデジタル化され、後段のデジタル信号処理手段1400に入力される。デジタル信号処理手段1400に入力される信号は、コヒーレント検波されたX偏波方向の電場の複素包絡線の実数成分EXiと虚数成分EXq、およびY偏波方向の電場の複素包絡線の実数成分EYiと虚数成分EYqにそれぞれ相当する信号である。
デジタル信号処理手段1400は、伝送チャネルでの信号劣化の要因を補償する処理をした後に、信号の識別を行う。デジタル信号処理手段1400は、例えば図2に示すように、分散補償手段1410、リタイミング手段1420、偏波分離手段1430、キャリア位相補償手段1440、およびデータ識別手段1450を備えた構成とすることができる。分散補償手段1410は伝送路3000による波長分散を補償し、リタイミング手段1420はサンプリングタイミングの最適化を行う。ここで、リサンプリング後のサンプリングレートを1シンボル時間当たり1サンプルとすることができる。これに限らず、リサンプリング後のサンプリングレートは1シンボル時間当たりNサンプルとし、偏波分離手段1430の後段に図示しないダウンサンプリング手段を挿入して1シンボル時間当たり1サンプルとする構成としてもよい。
偏波分離手段1430は偏波分離と偏波モード分散補償を行い、キャリア位相補償手段1440は受信信号におけるキャリアと局部発振光との間の位相差の補償を行う。最後に、データ識別手段1450が信号の識別を行う。ここで、偏波分離手段1430は本実施形態の等化信号処理装置100により構成される。そのため、本実施形態による光受信装置1000によれば、伝送路3000におけるチャネル応答に時間的な中心対称性のない要因が含まれる場合であっても、最適な偏波分離および偏波モード分散補償を行うことが可能となる。
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図3は、本発明の第2の実施形態に係る等化信号処理装置200の構成を示すブロック図である。等化信号処理装置200は、等化フィルタ手段110、係数制御手段120、有意係数保持手段130、有意係数位置決定手段240、および有意係数設定手段150を有する。等化信号処理装置200においては、有意係数位置決定手段240が信号品質モニタ手段242を備えた構成とした点が第1の実施形態による等化信号処理装置100と異なる。信号品質モニタ手段242は等化フィルタ手段110の出力の信号品質を検出し、有意係数位置決定手段240は信号品質に基づいて有意係数位置を決定する。その他の構成については等化信号処理装置100と同様であり、第1の実施形態と同様の構成については同一の符号を付す。
次に、本実施形態による等化信号処理装置200について、さらに詳細に説明する。等化フィルタ手段110にはバタフライ型FIRフィルタを用いることができ、このとき係数制御手段120はFIRフィルタのタップ係数を制御する。
有意係数保持手段130は、FIRフィルタのタップ係数の初期設定に用いる有意係数として、FIRフィルタのタップ長より時間広がりが短いジョーンズ行列を保持する。ここでジョーンズ行列とは、対象としている媒体(例えば、ファイバ伝送路)の2つの直交する偏波(X、Y)における光の応答、すなわち入出力関係を表す。
等化フィルタ手段110には、X偏波入力EX(k)およびY偏波入力EY(k)が入力される。以下の説明では、デジタル信号処理は複素数信号を扱うものとする。等化フィルタ手段110は、X偏波入力をタップ係数hxxで重み付けし、Y偏波入力をタップ係数hxyで重み付けした後に、複素加算器によって足し合わせて式(1)で表されるX偏波出力Ex(k)を出力する。同様に、X偏波入力をタップ係数hyxで重み付けし、Y偏波入力をタップ係数hyyで重み付けした後に、複素加算器によって足し合わせて式(2)で表されるY偏波出力Ey(k)を出力する。タップ係数hxx等は、係数制御手段120によって初期値が設定され、その後適応的に制御される。適応制御の一例としてCMA法を用いて係数の制御を行う場合、係数制御手段120は非特許文献1に記載された式(12)−(15)の右辺第二項を計算することによってタップ係数の更新量を算出し、タップ係数を制御する。
本実施形態では、光受信装置の立ち上げ時に、係数制御手段120によって設定されるタップ係数の初期値を、有意係数保持手段130、有意係数設定手段150、および有意係数位置決定手段240が備える信号品質モニタ手段242によって制御する。有意係数保持手段130は、適応制御を行うFIRフィルタよりもタップ長の短いFIRフィルタで表現されるタップ係数の設定値として有意係数を保持する。すなわち、バタフライ型FIRフィルタのタップ長よりも短いジョーンズ行列を保持する。以下では、タップ係数の設定値としての有意係数をジョーンズ行列という。例えば、適応制御を行うFIRフィルタ(等化フィルタ手段110)のタップ長を「M」とすると、タップ係数は以下に示す合計4M個だけ存在することになる。
それに対して有意係数保持手段130は、以下に示すようにタップ長Mより短いN個(N<M)の係数からなる合計4組の係数(4N個)を保持する。
以下では、FIRフィルタのタップ長MをM=7として説明する。また、初期値として設定するジョーンズ行列に関してはN=1とし、有意係数保持手段130は以下のジョーンズ行列を保持しているとして説明する。
タップ長MがM=7であるバタフライ型FIRフィルタのタップ係数は、全部で28個存在するが、本実施形態による上記例では2×2行列で表される係数のみを保持しておけばよいことがわかる。なお、有意係数保持手段130は以下に表わされるような複数の異なるジョーンズ行列を保持することとしてもよい。
次に、本実施形態による等化信号処理装置200の動作について説明する。図4は、本実施形態による等化信号処理装置200の初期値設定動作を説明するためのフローチャートである。まず、係数制御手段120は、有意係数保持手段130が保持するジョーンズ行列をFIRフィルタの数値列からなるタップ係数の中央に設定し、タップ係数の第1の初期値とする(ステップS11)。すなわち、タップ係数hxx等を以下のように設定する。
有意係数設定手段150は、初期値としてジョーンズ行列を設定するFIRフィルタ係数中の位置を保持する。このとき、FIRフィルタ係数中の設定位置miは以下のようになる。
次に、第1の初期値を用いてCMA等による適応制御を動作させることによってタップ係数を収束させ、第1の係数を取得する(ステップS12)。続いて、信号品質モニタ手段242によって信号の品質(第1の信号品質)を確認する(ステップS13)。信号品質モニタ手段242では例えば、信号のビットエラーレート、Error Vector Magnitude(EVM)に代表される信号点の分布の広がり、およびCMAのコスト関数
(1−|Ex|2)2
等を指標として用いて信号の品質を監視する。
次に、有意係数設定手段150は、ジョーンズ行列を設定するFIRフィルタ係数中の位置を1つ前方にシフトさせる。この場合、FIRフィルタ係数中の設定位置miは以下のようになる。
mi→mi−1=2
係数制御手段120は、有意係数保持手段130が保持するジョーンズ行列の設定する位置をこれに応じて変更し、タップ係数の初期値を変更して第2の初期値を設定する(ステップS14)。すなわち、タップ係数hxx等を以下のように設定する。
その後、上記と同様にCMA等による適応制御を動作させてタップ係数を収束させて第2の係数を取得る(ステップS15)。その後、信号品質モニタ手段242によって再度、信号品質(第2の信号品質)の確認を行い、信号品質が改善したか否か判定する(ステップS16)。
信号品質の判定の結果、信号品質の悪化が確認された場合(ステップS16/NO)、有意係数設定手段150は、ジョーンズ行列を設定するFIRフィルタ係数中の位置を1つ後方にシフトさせる。係数制御手段120は、これに応じてタップ係数の初期値を設定する(ステップS17)。これにより、タップ係数の初期値の制御が完了する。
一方、信号品質を確認した結果、信号品質の改善が判明した場合(ステップS16/YES)、再びステップS14に戻って処理を繰り返す。
図4に示した処理フローにおいては、FIRフィルタ係数中の最適な設定位置の探索をフィルタ係数の中央から前方に向かう範囲で行う場合について示した。ここで、時間的な中心対称性をもたない主要なチャネル応答は、ローパス効果に起因した立下りで裾を引く応答であるので、前方に向かう範囲だけで探索を行うこととしても十分に有用である。立ち上がりがなだらかなチャネル応答が予想される場合には、同様の手法でFIRフィルタ係数の設定位置の探索を中央から後方まで行うこととすればよい。
また、有意係数保持手段130が有意係数の候補として複数のジョーンズ行列を保持している場合、図4に示した処理フローの前段または後段において、信号品質モニタ手段242を用いて最適な候補の探索を行うことができる。具体的には例えば、以下のようにして最適な候補の探索を行うことができる。
有意係数保持手段130が保持する、バタフライ型FIRフィルタのタップ長よりも短いジョーンズ行列をH1、H2、・・・、Hnとする。まず、有意係数保持手段130はジョーンズ行列H1を係数制御手段120に出力する。次に、図4に示した処理フローに従って、最適な初期値設定位置を得る。有意係数設定手段150は、そのときの最適な位置を保持する。その後、有意係数保持手段130はジョーンズ行列H2を係数制御手段120に出力する。係数制御手段120は、ジョーンズ行列H2と有意係数設定手段150から得られる最適な初期値設定位置によってタップ係数の初期値を設定する。その後、受信信号に対しタップ係数の適応制御を行ってタップ係数を収束させる。そして、このときの信号品質を確認する。同様の処理を繰り返すことにより、有意係数保持手段130はジョーンズ行列をH1、H2、・・・、Hnの中で信号品質を最大にするジョーンズ行列を保持し、それに対応する最適な初期値位置によってタップ係数の初期値を設定する。このようにして、最適なタップ係数の初期値を設定することができる。
以上述べたように、光受信装置の立ち上げ時に、出力信号の品質モニタによるフィードバック制御を行うことによって、フィルタ係数の初期値におけるジョーンズ行列の設定位置を制御する。これにより、伝送特性の応答が時間的な中心対称性をもたない場合であっても、最適な等化処理が可能になる。また、あらかじめ設定したバタフライ型FIRフィルタの初期値の候補を探索して最適化を行う場合、初期値の候補としてジョーンズ行列だけを用いればよいので、最適化の処理を簡略化することができる。
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。図5は、本発明の第3の実施形態に係る等化信号処理装置300の構成を示すブロック図である。等化信号処理装置300は、等化フィルタ手段110、係数制御手段120、有意係数保持手段130、有意係数位置決定手段340、および有意係数設定手段150を有する。等化信号処理装置300においては、有意係数位置決定手段340が信号品質モニタ手段242に加えて係数初期化手段342を備えた構成とした点が、第2の実施形態による等化信号処理装置200と異なる。
ここで、係数制御手段120が等化フィルタ手段110としてのバタフライ型FIRフィルタのフィルタ係数を適応的に制御している間に、伝送路の状態が大きく変化したような場合には、適応制御の結果が局所最適解に陥る可能性がある。
また、非特許文献2に記載されているように、タップ係数の初期値の選択は適応等化処理におけるその収束性に大きな寄与をする。そのため初期値の選択によっては、適応制御によって局所最適解に陥る場合も発生し得る。このような局所最適解に陥ることを回避するため、簡易的にはタップ係数の初期値として複数の候補を準備しておくことが考えられる。しかしながら、取り得るタップ係数の初期値全体を探索することとすると、タップ係数初期値の候補に要するメモリの増加、探索に伴う立ち上げ時間の増大などの問題が発生するため不都合である。
本実施形態による等化信号処理装置300によれば、以下に説明するように、適応制御の結果が局所最適解に陥ることを回避することができる。
有意係数位置決定手段340が備える信号品質モニタ手段242は、等化フィルタ手段110の出力の信号品質を監視する。信号品質の指標には、第2の実施形態における場合と同様に、信号のビットエラーレート、Error Vector Magnitude(EVM)に代表される信号点の分布の広がり、およびCMAのコスト関数
(1−|Ex|2)2
等を用いることができる。
係数初期化手段342は、信号品質モニタ手段242の出力に基づいてタップ係数が局所最適解に陥っているか否かを判断する。局所最適解へ陥っているか否かは、モニタされる信号品質にある閾値を設けることによって判断が可能である。そして局所最適解に陥ったと判断した場合、タップ係数を再度設定し、再び適応制御を行うことによって局所最適解に陥ることを回避する。
次に、本実施形態による等化信号処理装置300の動作について説明する。まず、等化信号処理装置300は、第2の実施形態による等化信号処理装置200と同様の動作により、タップ係数の初期値を設定する。有意係数保持手段130および有意係数設定手段150はそれぞれ、このときの初期値を保持する。そして係数制御手段120はこの初期値を用いて、受信信号に対してタップ係数の適応制御を行う。
係数初期化手段342は信号品質モニタ手段242の出力に基づいて、タップ係数が局所最適解に陥っているか否かを判断する。局所最適解に陥ったと判断した場合、係数初期化手段342はその旨を係数制御手段120へ通知する。通知を受けた係数制御手段120はタップ係数の初期化を行う。タップ係数の初期化は、有意係数保持手段130および有意係数設定手段150に保持されたタップ係数の設定値を使用し、ジョーンズ行列を指定の位置にしてタップ係数を再設定することにより行う。係数制御手段120は、タップ係数の再設定後に再び適応制御を行う。
これにより、適応制御の結果が局所最適解に陥ることを回避できる。さらに最適な特性を得るための制御に要する時間を低減することができる。その理由は以下の通りである。初期値として最適なジョーンズ行列は、伝送路の変動により容易にまた高速に変動するが、ジョーンズ行列を設定する最適位置はアナログ/デジタル変換器(ADC)等の送受信機に使用されているデバイスがそれを決定する大きな要因となる。そのため時間変動が起こりにくく、最初に調整しそのまま保持していた値が使用できる。その結果、ジョーンズ行列を中央に再設定して再度制御をやり直すよりも、最適な特性を得るための制御に要する時間を低減することができる。
さらに、有意係数設定手段150における設定は保持したままで、有意係数保持手段130は準備した複数の候補のうち、保持していたものと異なるジョーンズ行列を指定することとしてもよい。係数制御手段120は、このジョーンズ行列を指定の位置に設定し、タップ係数を再設定して適応制御を行う。これを繰り返すことによって、局所最適解に陥ることを回避することが可能である。初期値として設定するジョーンズ行列の最適位置は、最適なジョーンズ行列とは異なり、時間変動が起こりにくい。そのため、上述した手法によって、局所最適解を回避するまでに要するタップ係数の初期化回数を低減することができる。
〔第4の実施形態〕
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。図6は、本発明の第4の実施形態に係る等化信号処理装置400の構成を示すブロック図である。等化信号処理装置400は、等化フィルタ手段410、係数制御手段120、有意係数保持手段130、有意係数位置決定手段440、および有意係数設定手段150を有する。等化信号処理装置400においては、等化フィルタ手段410の構成、および有意係数位置決定手段440がチャネル応答測定手段442を備えた構成とした点が第2の実施形態による等化信号処理装置200と異なる。
本実施形態では、等化フィルタ手段410としてタップ長の異なる2種類のバタフライ型FIRフィルタを用いる。一つは、データ信号受信時の信号処理に使用するバタフライ型FIRフィルタであり、そのタップ長を第1のタップ長Mとする。もう一つは、等化信号処理装置400の立ち上げ時に、初期値における有意係数(ジョーンズ行列)の最適位置を求めるために使用するバタフライ型FIRフィルタであり、そのタップ長である第2のタップ長M’は上記のタップ長Mよりも長く構成されている。以下の説明では、MおよびM’の値はいずれも奇数であるとし、M=7、M’=13とした場合について説明する。
ここで、上述の2種類のバタフライ型FIRフィルタは、それぞれ異なる回路構成とすることができる。しかし、これに限らず、初期値における有意係数(ジョーンズ行列)の最適位置を求めた後に、このとき用いたバタフライ型FIRフィルタのタップ係数h’xx等を固定的に
h’xx(M)=・・・=h’xx(M’−1)=0
と設定することにより、一つのバタフライ型FIRフィルタを共通に用いることとしてもよい。
次に、本実施形態による等化信号処理装置400の動作について説明する。等化信号処理装置400は、FIRフィルタのタップ係数の初期値の設定において、有意係数(ジョーンズ行列)の最適位置を以下のように求める。
係数制御手段120はまず、タップ長M’のバタフライ型FIRフィルタのタップ係数の中央にジョーンズ行列を設定する。例えば、以下のように設定する。
次に、係数制御手段120はCMA法等による適応制御を行うことによって、タップ係数を収束させる。適応制御が適正に行われた場合、収束したタップ係数はチャネル応答の逆応答になる。ここでチャネルとは、伝送チャネルすなわち光通信におけるファイバ伝送路であり、チャネル応答とはファイバ伝送路の入出力関係をいう。タップ係数が収束した後に、係数制御手段120は有意係数位置決定手段440に収束後のタップ係数を送出する。
有意係数位置決定手段440において、チャネル応答測定手段442が収束後のタップ係数の大きさ(タップ係数絶対値)をそれぞれ算出する。例えば、収束後のタップ係数h’xx(m)の大きさとして|h’xx(m)|2を算出する。収束後のタップ係数の大きさの算出結果の一例を図7に示す。なお、受信信号の偏波状態によっては、|h’xx(m)|2の値が有意な大きさを持たない可能性がある。そこで、より適切なジョーンズ行列の最適位置を推定するために、|h’xx(m)|2+|h’yx(m)|2等の値をタップ係数絶対値として算出することとしてもよい。
次に、チャネル応答測定手段442は、収束後のタップ係数の大きさの移動積算値を求める。そしてその結果から、データ信号受信時の信号処理に使用するタップ長MのFIRフィルタについて、初期値におけるジョーンズ行列の最適な設定位置を推定する。
以下に、ジョーンズ行列の最適な設定位置の推定についてさらに詳細に説明する。収束したタップ長M’のタップ係数のうち、中央の位置を中心とした
番目から
番目までのM個の係数は、タップ長MのFIRフィルタの中央の位置である
番目にジョーンズ行列を設定した場合の応答に相当すると推定することができる。
同様に、収束したタップ長M’のタップ係数のうち、
番目から
番目までのM個の係数は、タップ長MのFIRフィルタのmi番目の位置に、初期値におけるジョーンズ行列を設定した場合の応答に相当すると推定することができる。
したがって、タップ長M’の収束したタップ係数|h’xx(m)|2のうち、
番目から
番目までを切り出して積算した移動積算値
は、タップ長MのFIRフィルタのmi番目の位置に初期値のジョーンズ行列を設定した場合に、適応制御によってどれだけチャネル応答の逆応答を表現できるかの指標となる。以上より、収束後のタップ係数の大きさの移動積算値によって初期値におけるジョーンズ行列の最適な設定位置を推定することができる。
図8に、収束したタップ係数(図7参照)に対して移動積算値を求めた結果の一例を示す。図8に示した場合には、mi=2のときに最大値をとる。したがって、初期値におけるジョーンズ行列の設定位置は、中央から一つ前方にシフトしたmi=2の位置が最適であると推定できる。
このように、収束後のタップ係数の大きさの移動積算値を算出し、その最大値を求めることによって、初期値におけるジョーンズ行列の最適な設定位置を推定することができる。有意係数位置決定手段440は、推定されたジョーンズ行列の最適な設定位置を有意係数設定手段150に送出する。有意係数設定手段150は、この情報を基にデータ受信信号処理用のバタフライ型FIRフィルタのタップ係数の初期値を設定する。
以上述べたように、本実施形態による等化信号処理装置400においては、収束後のタップ係数の大きさの移動積算値を算出し、その最大値を求めることによって、初期値におけるジョーンズ行列の最適な設定位置を推定する。これにより、伝送特性の応答が時間的な中心対称性をもたない場合であっても、最適な等化処理が可能になる。
本発明は上記実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることはいうまでもない。
110、410 等化フィルタ手段
120 係数制御手段
130 有意係数保持手段
140、240、340、440 有意係数位置決定手段
150 有意係数設定手段
242 信号品質モニタ手段
342 係数初期化手段
442 チャネル応答測定手段
900 関連するバタフライ型FIRフィルタ
1000 光受信装置
1100 コヒーレント光受信手段
1200 局部発振光源
1300 アナログ/デジタル(A/D)変換手段
1400デジタル信号処理手段
1410 分散補償手段
1420 リタイミング手段
1430 偏波分離手段
1440 キャリア位相補償手段
1450 データ識別手段
2000 光送信装置
3000 伝送路
Claims (4)
- コヒーレント受信したデジタル信号を入力する等化フィルタ手段と、
前記等化フィルタ手段の特性を規定する係数を制御する係数制御手段と、
前記係数の初期値のうち有意な値である有意係数を保持する有意係数保持手段と、
前記有意係数の前記初期値における位置である有意係数位置を、前記等化フィルタ手段の等化特性が最適となるように決定する有意係数位置決定手段と、
前記有意係数位置に前記有意係数を設定する有意係数設定手段
とを有し、
前記有意係数位置決定手段は、信号品質モニタ手段を備え、
前記信号品質モニタ手段は、前記等化フィルタ手段の出力の信号品質を検出し、
前記有意係数位置決定手段は、前記信号品質に基づいて前記有意係数位置を決定し、
前記有意係数位置決定手段は、係数初期化手段をさらに備え、
前記係数初期化手段は、前記信号品質モニタ手段の出力に基づいて前記係数が局所最適解に陥っているか否かを判断し、局所最適解に陥ったと判断した場合、前記係数制御手段に通知し、
前記係数制御手段は、前記通知を受けたときに最適な有意係数位置を保持したまま前記係数を再度設定し、再び適応制御を行う
等化信号処理装置。 - 請求項1に記載した等化信号処理装置において、
前記等化フィルタ手段は、有限インパルス応答フィルタであり、
前記有意係数は、前記有限インパルス応答フィルタのタップ長より少ない個数からなる等化信号処理装置。 - コヒーレント光受信手段と、局部発振光源と、アナログ/デジタル(A/D)変換手段と、デジタル信号処理手段とを有し、
前記デジタル信号処理手段は等化信号処理装置を備え、
前記等化信号処理装置は、
コヒーレント受信したデジタル信号を入力する等化フィルタ手段と、
前記等化フィルタ手段の特性を規定する係数を制御する係数制御手段と、
前記係数の初期値のうち有意な値である有意係数を保持する有意係数保持手段と、
前記有意係数の前記初期値における位置である有意係数位置を、前記等化フィルタ手段の等化特性が最適となるように決定する有意係数位置決定手段と、
前記有意係数位置に前記有意係数を設定する有意係数設定手段
とを有し、
前記有意係数位置決定手段は、信号品質モニタ手段を備え、
前記信号品質モニタ手段は、前記等化フィルタ手段の出力の信号品質を検出し、
前記有意係数位置決定手段は、前記信号品質に基づいて前記有意係数位置を決定し、
前記有意係数位置決定手段は、係数初期化手段をさらに備え、
前記係数初期化手段は、前記信号品質モニタ手段の出力に基づいて前記係数が局所最適解に陥っているか否かを判断し、局所最適解に陥ったと判断した場合、前記係数制御手段に通知し、
前記係数制御手段は、前記通知を受けたときに最適な有意係数位置を保持したまま前記係数を再度設定し、再び適応制御を行う
光受信装置。 - 等化フィルタ特性を規定する数値列からなる係数の初期値のうち有意な値である有意係数を保持し、
前記有意係数の前記初期値における位置である有意係数位置を、前記等化フィルタ特性が最適となるように決定し、
前記有意係数位置に前記有意係数を設定し、
前記有意係数位置の決定は、
前記有意係数を前記係数の中央に配置することによって第1の初期値を設定し、
前記第1の初期値を用いて適応制御を行うことにより前記係数を収束させて第1の係数を取得し、
前記第1の係数によって規定される等化フィルタ特性で定まる信号品質である第1の信号品質を取得し、
前記有意係数の前記係数中における配置位置を、前記数値列の一の方向に1列分だけ移動させることによって第2の初期値を設定し、
前記第2の初期値を用いて適応制御を行うことにより前記係数を収束させて第2の係数を取得し、
前記第2の係数によって規定される等化フィルタ特性で定まる信号品質である第2の信号品質を取得し、
前記第1の信号品質と前記第2の信号品質を比較し、
前記第1の信号品質が前記第2の信号品質よりも良好である場合、前記有意係数の前記係数中における配置位置を、前記一の方向とは逆の方向に1列分だけ移動させた位置を前記有意係数位置と決定し、
前記第2の信号品質が前記第1の信号品質よりも良好である場合、前記有意係数の前記係数中における配置位置を、前記一の方向にさらに1列分だけ移動させ、前記第2の信号品質を取得する処理を繰り返し、
前記第2の信号品質に基づいて前記第2の係数が局所最適解に陥っているか否かを判断し、局所最適解に陥ったと判断した場合、前記第2の初期値を再度設定し、再び適応制御を行う
等化信号処理方法。
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