JP5938726B2 - 多能性幹細胞の分化誘導効率を改善するための方法及び培地 - Google Patents
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Description
また、体細胞へ特定の遺伝子を導入することにより、ES細胞のように分化多能性と自己複製能を併せ持つヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)が作られてからは、ES細胞に加え、iPS細胞を用いて、インビトロで主要臓器細胞へと分化誘導する研究が盛んに行われている。
一方、ヒトES細胞やヒトiPS細胞も、MEF等のフィーダー細胞と共培養することにより未分化のまま維持でき、分化培地に移すことにより分化が誘導されることが報告されている(非特許文献2)。
また、マウスES細胞においては、スレオニンデヒドロゲナーゼ遺伝子が多量に発現されているため、その増殖は、アミノ酸の一つであるスレオニン代謝に依存していることが報告されている(非特許文献3)。
そこで、近年、未分化細胞から組織細胞への分化を制御する研究が盛んに行われている。例えば、インビトロで、マウスやヒトのES細胞からの、内胚葉細胞やインスリン産生細胞の作成が報告されている(非特許文献4、非特許文献5)。
さらに、マウス胎仔由来中腎細胞株(mouse mesonephric cell line)M15細胞を支持細胞として用いて、かつアクチビン・FGF(fibroblast growth factor)・レチノイン酸を培地に加えることにより、ES細胞から膵前駆細胞を効率よく分化誘導する方法(特許文献1、非特許文献6)や、mmcM15細胞を支持細胞として用いて、特定の分泌成長因子(FGFやBMP(Bone Morphogenetic Proteins))を加除する培養条件により、マウス及びヒトのES細胞から肝臓細胞を効率よく分化誘導する方法(特許文献2、非特許文献7)が報告されている。
しかしながら、ES細胞やiPS細胞から様々な細胞を分化誘導した場合には、一部に未分化な幹細胞が残存・混入してしまう。再生医療においては、このような細胞が癌化する可能性が指摘されるなどその安全性に関する懸念がある。そのため、分化細胞中の未分化細胞を除去する又は分化誘導効率を上げて未分化細胞の混入を防ぐ技術が必要とされている。
例えば、未分化特異的マーカーである、Stm1のプロモーターを利用して、分化誘導後に残る未分化ES細胞を選択することを容易にし、除去することによって、分化誘導後に残る未分化ES細胞の除去を行う方法がある(特許文献3)。
さらには、ポドカリキシン様タンパク質を表面上に発現する細胞を同定することにより、未分化型ヒト胚性幹細胞を同定し、それら細胞を単離することによる、未分化型ヒト胚性幹細胞を除去する方法がある(特許文献4)。
今後、再生医療分野において、患者由来のiPS細胞株のバンク化が進むと考えられ、多くの種類のiPS細胞株を用いて目的の細胞を分化誘導することになると予想される。その際に、株毎の分化指向性のために、株間において分化抵抗性が存在すると、同一条件で分化誘導した場合、分化誘導効率が低下し、未分化細胞が多く混入するなど、最終産物の性質に影響を与えることが予想される。そのため、株間の分化抵抗性を回避して、目的の組織へと効率よく分化誘導できる方法が望まれている。
本発明の目的は、簡便な手段で、多能性幹細胞、例えばES細胞やiPS細胞を、効率よく目的の細胞に分化誘導できる方法及び培地を提供することである。
本発明のさらなる目的は、簡便な手段で、多能性幹細胞、例えばES細胞やiPS細胞を分化誘導する際に、未分化細胞を除去する又は分化誘導効率を上げることにより、未分化細胞の混入を防ぐことができる方法及び培地を提供することである。
すなわち、本発明は、
(1)培地中に、必須アミノ酸であるメチオニン、ロイシン、及び準必須アミノ酸であるシステイン、チロシン、アルギニンからなる群より選ばれる少なくとも一つのアミノ酸を含まない分化培地で、哺乳動物由来の多能性幹細胞を培養することを含む、多能性幹細胞を分化誘導する方法、
(2)必須アミノ酸であるメチオニン又はロイシン或いはその両者を含まない分化培地で、哺乳動物由来の多能性幹細胞を培養することを含む、(1)に記載の多能性幹細胞を分化誘導する方法、
(3)メチオニンを含まない分化培地で、哺乳動物由来の多能性幹細胞を培養することを含む、(2)に記載の多能性幹細胞を分化誘導する方法、
(4)準必須アミノ酸であるシステイン、チロシン及びアルギニンからなる群より選ばれる少なくとも一つのアミノ酸を含まない分化培地で、哺乳動物由来の多能性幹細胞を培養することを含む、(1)に記載の多能性幹細胞を分化誘導する方法、
(5)哺乳動物由来の多能性幹細胞が、ES細胞又はiPS細胞である、(1)〜(4)のいずれか一つに記載の多能性幹細胞を分化誘導する方法、
(6)哺乳動物が、ヒト又はマウスである、(5)に記載の多能性幹細胞を分化誘導する方法、
(7)哺乳動物由来の多能性幹細胞が、ヒトES細胞又はヒトiPS細胞である、(6)に記載の多能性幹細胞を分化誘導する方法、
(8)(1)〜(4)のいずれか一つに記載の多能性幹細胞を分化誘導する方法であって、前記分化培地で、ES細胞又はiPS細胞を、少なくとも5時間、好ましくは1日間、さらに好ましくは2日間培養することを含む、多能性幹細胞を分化誘導する方法、
(9)(1)〜(4)のいずれか一つに記載の多能性幹細胞を分化誘導する方法であって、前記分化培地が、内胚葉分化培地である、多能性幹細胞を分化誘導する方法、
(10)(1)〜(4)のいずれか一つに記載の多能性幹細胞を分化誘導する方法であって、前記多能性幹細胞を、前もって、必須アミノ酸(スレオニン、メチオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン及びヒスチジン)及び準必須アミノ酸(システイン、チロシン及びアルギニン)を含む分化誘導培地で培養することを含む多能性幹細胞を分化誘導する方法、
(11)哺乳動物由来の多能性幹細胞を内胚葉まで分化誘導させる、(10)に記載の方法、
(12)さらに、分化した内胚葉を、肝臓分化培地で培養することにより、多能性幹細胞を肝臓細胞まで分化させる、(11)に記載の方法、
(13)さらに、分化した内胚葉を、膵臓分化培地で培養することにより、多能性幹細胞を膵臓細胞まで分化させる、(11)に記載の方法、
(14)前記肝臓分化培地又は膵臓分化培地が、プロリンを1mM以上10mM以下の濃度で添加した分化培地である、(12)又は(13)に記載の方法、
(15)多能性幹細胞が、ヒトES細胞又はヒトiPS細胞である、(10)〜(14)のいずれか一つに記載の方法、
(16)培地中に、必須アミノ酸であるメチオニン、ロイシン、及び準必須アミノ酸であるシステイン、チロシン及びアルギニンからなる群より選ばれる少なくとも一つのアミノ酸を含まない、多能性幹細胞を分化誘導するための培地、
(17)多能性幹細胞が、ヒト又はマウス由来のES細胞又はiPS細胞である、(16)に記載の培地、
(18)前記分化誘導するための培地が、マウス又はヒト由来のES細胞又はiPS細胞を内胚葉に分化誘導するための内胚葉分化培地である、(16)に記載の培地、
(19)培地中に、アミノ酸として、必須アミノ酸であるスレオニン、バリン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン及びヒスチジンを含み、かつメチオニン、ロイシン、システイン、チロシン及びアルギニンからなる群より選ばれる少なくとも一つのアミノ酸を含まない分化培地で、哺乳動物由来の多能性幹細胞を培養することを含む、多能性幹細胞を分化誘導する方法、
(20)前記分化培地でES細胞又はiPS細胞を少なくとも5時間、好ましくは1日間、更に好ましくは2日間培養することを、前記多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉の形成の直前又は形成が確認できる時期に行う、前記(8)に記載の多能性幹細胞を分化誘導する方法、
(21)培地中に、アミノ酸として少なくとも必須アミノ酸であるスレオニン、バリン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン及びヒスチジンを含み、かつメチオニン、ロイシン、システイン、チロシン及びアルギニンからなる群より選ばれる少なくとも一つのアミノ酸を含まない、前記(16)に記載の多能性幹細胞を分化誘導するための分化誘導培地、及び
(22)多能性幹細胞を分化誘導するための、培地中に、メチオニン、ロイシンシステイン、チロシン及びアルギニンからなる群より選ばれる少なくとも一つのアミノ酸を含まない培地の使用、
である。
ES細胞は、一般的には、胚盤胞期の受精卵をフィーダー細胞と一緒に培養し、増殖した内部細胞塊由来の細胞をばらばらにして、さらに、植え継ぐ操作を繰り返し、最終的に細胞株として樹立することができる。このように、ES細胞は、受精卵から取得することが多いが、受精卵以外、例えば、脂肪組織、胎盤、精巣細胞から取得することもでき、いずれのES細胞も本発明の対象である。
iPS細胞の培養も定法により行うことができる。例えば、フィーダー細胞としてMEF細胞を用いて、bFGF、KSR(ノックアウト血清代替物)、非必須アミノ酸、L-グルタミン、ペニシリン、ストレプトマイシン、β−メルカプトエタノールを加えた培地、例えばDMEM/F12培地を用いて維持することができる。
本発明で言う多能性幹細胞の「分化」又は「分化誘導」とは、多能性幹細胞が、内胚葉、中胚葉又は外胚葉のいずれかに分化誘導されることを含む意味で用いられ、更にはまた、それらが、いずれかの生体を構成する臓器又は器官細胞へと分化することを含む意味でも用いられる。
本発明の培養方法で用いられる培地は、血清含有培地、無血清培地であり得るが、異種成分の排除による細胞移植の安全性の確保という観点からは、無血清培地が好ましい。ここで、無血清培地とは、無調整又は未精製の血清を含まない培地を意味し、精製された血液由来成分や動物組織由来成分(例えば、増殖因子)が混入している培地は無血清培地に該当するものとする。かかる無血清培地としては、例えば、市販のKSRを適量(例えば、1−20%)添加した無血清培地、インスリンおよびトランスフェリンを添加した無血清培地、細胞由来の因子を添加した培地等をあげることができるが、これらに限定されない。
本発明の培地はまた、脂肪酸又は脂質、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸)、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗酸化剤、2−メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類等、任意の成分を含有できる。ただし、本発明に従って、特定のアミノ酸を培地から除く場合は、この限りではない。
アミノ酸は、一般に、必須アミノ酸(Thr、Met、Val、Leu、Ile、Phe、Trp、Lys,His)及び非必須アミノ酸(Gly、Ala、Ser、Cys、Gln、Asn、Asp、Tyr、Arg、Pro)に分けられる。しかし、非必須アミノ酸の内、Cys及びTyrはそれぞれ、前駆アミノ酸として必須アミノ酸であるMet及びPheが必要であるため、準必須アミノ酸と定義されている。また、Argは、未分化細胞(胎児・新生児)においては、アルギニン合成酵素の活性が低いため、未分化細胞においては、準必須アミノ酸と定義できる。
本発明及び本明細書においては、Cys、Tyr及びArgを準必須アミノ酸と呼ぶ。
言い換えれば、分化培地は一般に、アラニンを除くすべての必須アミノ酸、及び非必須アミノ酸を含有するが、本発明の「アミノ酸除去培地」は、必須アミノ酸であるメチオニン、ロイシン、及び準必須アミノ酸であるシステイン、チロシン、アルギニン、からなる群より選ばれる少なくとも一つのアミノ酸を含有しない分化培地である。
本明細書においては、「分化培地」又は「分化誘導培地」は、互いに同じ意味を表すものであり、相互に交換して使用できる。
本発明においては、多能性幹細胞を必須アミノ酸及び準必須アミノ酸を含む分化培地で培養した後、本発明の「アミノ酸除去培地」で培養することが好ましい。
ヒトES細胞やヒトiPS細胞から肝臓細胞又は膵臓細胞への分化を例とした場合は、好ましくは、ES細胞/iPS細胞から内胚葉へと分化する分化誘導の初期の時期であり、さらに好ましくは内胚葉への分化誘導の終期、例えば、培養4日目から10日目までの間の数日間、例えば、培養4日目〜6日目又は培養8日目〜10日目までの時期であり、最も好ましくは培養8日目〜10日目までの時期である。
また、分化させた細胞を移植する場合は、移植直前において本発明の「アミノ酸除去培地」で培養することにより、移植細胞より、未分化多能性幹細胞を減少又は除去することが可能である。
分化培地に添加するプロリンの量は、1.0mM以上100mM以下、好ましくは、1.0mM以上50mM以下、さらに好ましくは、1.0mM以上10mM以下である。
(1)ヒトES細胞の維持・培養
ヒトES細胞(khES3)(Biochem Biophys Res Commun. 2006, 345(3), 926-32)は、中辻博士と末盛博士(京都大学)より分与されたものを、ヒトES細胞の使用に関する指針(文部科学省発行)に従って使用した。
未分化ヒトES細胞は、20% KSR(ノックアウト血清代替物;Invitrogen社)、100μM 非必須アミノ酸(NEAA;GIBCO社)、2mM L−グルタミン(ナカライテスク社)、50units/ml ペニシリン及び50μg/ml ストレプトマイシン(ナカライテスク社)、100μM β−メルカプトエタノール(Sigma社)及び5ng/ml bFGF(bovine fibroblast growth factor)を添加したKnockout Dulbecco’s Modified Eagle培地(DMEM/F12)(Invitrogen社)中にて、支持細胞であるマウス胎児線維芽細胞(MEF)のフィーダー層上で、37℃、5%CO2条件下で培養した。ヒトES細胞の継代には、20% KSRおよび1mM CaCl2を含むPBS内で、37℃、5分間、0.25%トリプシンと0.1mg/ml コラゲナーゼIVで処理することによりヒトES細胞コロニーを支持細胞層から分離し、その後、培養液を加え、ピペットで優しく数回吸引することでES細胞塊を小片にした(5〜20細胞)。継代は1:2の分割比で実施した。
ヒトiPS細胞株(201B7)は、高橋博士(Takahashi K et al. Cell. 131(5): 861-72, 2007)より分与されたものを使用した。また、ヒトiPS細胞(Toe細胞株)(JCRB1338)は、梅澤明弘博士(国立成育医療センター研究所)らが独立行政法人 医薬基盤研究所に寄託したものの分譲を受けて使用した。ただし、以下の実施例の記載において、特に断りのない限りは、用いたヒトiPS細胞は、201B7である。
未分化のヒトiPS細胞も、ヒトES細胞と同様にして、維持・培養を行った。
mmcM15細胞(mouse mesonephros)は、登録番号ECACC95102517として、細胞バンク(CAMR Center for Applied Microbiology & Research (ECACC, Salisbury, Wiltshire))に登録されている。M15細胞は文献(Larsson, S. H., Charlieu, J. P., Miyagawa, K., et al. (1995). Subnuclear localization of WT1 in splicing or transcription factor domains is regulated by alternative splicing. Cell 81, 391-401)の記載に従って入手可能である。
全マウント免疫組織化学検査を行う際、ES細胞又はiPS細胞をNunc Theranox Colerslips 24ウェルタイプ(Nunc社)上に置いた。細胞を、4% パラホルムアルデヒド中、室温で20分間固定し、0.1% Tween含有リン酸緩衝生理食塩水(PBS−T)で充分に洗浄した。1% TritonX−100を含有するPBS中、室温で10分間浸透させ、ブロッキング溶液(×5 Blocking One、ナカライタスク社)で1時間インキュベートした後、ブロッキング溶液中の一次抗体を試料に添加し、4℃で一夜インキュベートした。試料をPBS−Tで充分に洗浄し、PermaFluor Aqueous Mounting培地(IMMUNON社)でマウントした。共焦点画像をLeica Spectral Confocal Scanning System、TCS−SP2(Leica社)を用いて取得した。
検出に用いた抗体は以下の通りである。ウサギ抗α−フェトプロテイン(AFP、Dako社)、ヤギ抗アルブミン(Sigma社)、ウサギ抗Pdx1(Chemicon社)、マウス抗Oct3/4(Santa Cruz社)、ヤギ抗Sox17(R&D社)。二次抗体はAlexa568標識ヤギ抗ウサギ抗体とロバ抗ヤギ抗体、及びAlexa488標識ヤギ抗マウス抗体とヤギ抗ウサギ抗体、ロバ抗ヤギ抗体(Molecular Probes社)を用いた。細胞はDAPI(Roche社)で対比染色した。また、Sox17およびOct3/4陽性細胞数については、ImageXpress(モレキュラーデバイス社)を用いて定量化した。
インドシアニングリーン(ICG;第一三共株式会社)を培地で希釈し、最終濃度を1mg/mlとした。ICGテスト溶液を、分化したiPS細胞に加え、37℃、5%CO2下で30分間インキュベートした。その後、ICG含有培地を除去し、HBSSで3回洗浄した。ICG処理後24時間の間、ICGの細胞取り込みを、電子顕微鏡により観察した。
培地を新鮮な培地に交換し、24時間もしくは48時間培養した後、培養上清を回収した。培養上清中へ分泌されたヒトアルブミンを、ELISA Quantitation kit(Bethyl Laboratories社)で測定した。
チトクロームP450活性を確認するために、P450−Gro(商標) CYP3A4 Assay with Luciferin−IPA(Promega社)を用いた。分化誘導30日目に、適当な発光CYP基質を含む培地に交換した。製造者使用説明書に従って、細胞を、37℃で3時間培養した後、培養上清を同量の検出試薬と混合した。
分化した細胞中でのグリコーゲン貯蔵の検出のために、PAS染色キット(武藤化学株式会社)を用いた。30日間培養した細胞を、3.3% ホルマリン中で10分間固定した後、製造者使用説明書に従って染色を行った。
RNeasy mini−kit(Qiagen社)を用いてES細胞からRNAを抽出した後、RNAをDNA分解酵素(Qiagen社)で処理した。RT反応を調べるため、MMLV逆転写酵素(東洋紡株式会社)とoligo dT primer(東洋紡株式会社)を用いて3μgのRNAを逆転写した。5倍に希釈したcDNA(RTプロダクトの1%)の1μlをPCR分析に使用した。定量RT−PCRを用いて、各アミノ酸培地の肝臓分化マーカー(AFP、Albumin)の発現を定量し、経時的に比較した。
実施例1:ヒトES細胞及びヒトiPS細胞の内胚葉への分化
材料と方法(1)に従って維持・培養したヒトES細胞(KhES3株)及びヒトiPS細胞(201B7)を内胚葉に分化させた。
ヒトES細胞/iPS細胞を播種する前日に、mmcM15細胞を5.0×104細胞/ウェルの細胞密度で、ゼラチンコート済の96ウェルプレートに事前に播種しておいた(mmcM15プレート)。
ヒトES細胞/iPS細胞は、分化誘導に先立ち、ReproStem培地(ReproCell社)にRock inhibitor(Y27632;10μM、和光純薬工業株式会社)及び5ng/ml bFGFを添加した培地中で1日培養した。
分化誘導のため、ヒトES細胞/iPS細胞を、0.25%トリプシン−EDTA(Invitrogen社)を用いて培養皿から剥離し、マイトマイシンC処理をしたmmcM15細胞プレートに、1x104細胞/ウェルの細胞濃度にて播種した。
結果を図1に示す。免疫蛍光染色の結果、ヒトES細胞及びヒトiPS細胞ともに、培養10日目にはSox17(赤色)陽性の内胚葉細胞が確認できた。
実施例1と同様にして、内胚葉分化培地で10日間培養した後、培地を肝臓分化培地に変更した。肝臓分化培地は、1μM デキサメタゾン(Sigma社)、10μ/ml ヒト組換えHGF(Peprotech社)、0.5% DMSO(Sigma社)、0.5mM ニコチンアミド(Sigma社)、0.2mM アスコルビン酸(Sigma社)、10% KSR、2000mg/l グルコース、50units/mlペニシリン及び50μg/mlストレプトマイシン(ナカライテスク社)、2mM L−グルタミン(ナカライテスク社)、及び100μM β−メルカプトエタノール(Sigma社)を含んだDMEM培地(Invitrogen社)を用いた。培地は、29日目まで、一日おきに新しい培地に交換した。
その結果、AFPはすべての培養期間において、iPS細胞株の方がES細胞株よりも発現量が低かった。 さらに、アルブミンに関しては、iPS細胞ではES細胞と比較して顕著な低発現を示した。これらの結果から、ヒトiPS細胞株(201B7)はヒトES細胞株(KhES3株)と比べて、内胚葉のみならず肝臓への分化に対しても抵抗性があることが示唆された。
アミノ酸を1種類ずつ除去した内胚葉分化培地を用いてヒトiPS細胞を内胚葉に分化誘導した。内胚葉への分化誘導は、mmcM15細胞を用いた内胚葉分化誘導法を用いた(非特許文献6参照)。
培地は、培養時期に応じて以下の培地を用いた。内胚葉分化培地として、培養開始(Day0)から培養6日目(Day6)又は8日目(Day8)までは、50units/mlペニシリン及び50μg/mlストレプトマイシン(GIBCO社)、2mM L−グルタミン(GIBCO社)、100μM β−メルカプトエタノール(Sigma社)、非必須アミノ酸(GIBCO社)、100ng/ml アクチビン(R&D Systems社)、及びB27培地添加物(Invitrogen社)を添加したRPMI 1640培地(Invitrogen社)を用いた。
内胚葉分化培地として、培養6日目(Day6)又は8日目(Day8)から培養10日(Day10)までは、50units/mlペニシリン及び50μg/mlストレプトマイシン、2mM L−グルタミン、100μM β−メルカプトエタノール、100ng/ml アクチビン、及びB27培地添加物を添加したRPMI 1640培地から1種類ずつアミノ酸を除去したアミノ酸除去培地又はアミノ酸を除去していない培地(コントロール培地)を用いた。
また、内胚葉分化マーカー(Sox17)と未分化マーカー(Oct3/4)の陽性細胞の割合を定量解析した結果を図4に示す。各陽性細胞の割合を、各アミノ酸除去培地とコントロールとの間で比較した。X軸は除去したアミノ酸の種類、Y軸は陽性細胞率(%)を示している。黒色バーはOct3/4陽性細胞、白色バーはSox17陽性細胞を示す。
6日目〜10日目の間のアミノ酸除去は、Oct3/4陽性細胞、Sox17陽性細胞の割合に影響した。各必須アミノ酸(Thr、Met、Val、Leu、Ile、Phe、Trp、Lys,His)及び準必須アミノ酸(Cys、Tyr、Arg))の除去はOct3/4陽性細胞率を減少させた。Serを除くいずれのアミノ酸除去においてSOX17陽性細胞率は増加しなかった
実施例3と同様にして、ヒトiPS細胞を用いて、内胚葉分化における、8日目〜10日目の間のアミノ酸除去の影響を確認した。ただし、mmcM15細胞を用いた内胚葉分化誘導法を用いて8日目(Day0〜Day8)まで通常培地で培養した後、8日目〜10日目(Day8〜Day10)までアミノ酸除去培地又はコントロール培地に変更し、ヒトiPS細胞を培養した。
10日目(Day10)に、ヒトiPS細胞の免疫蛍光染色を行い、Sox17陽性細胞とOct3/4陽性細胞の割合を定量した。各陽性細胞の割合を、各アミノ酸除去培地とコントロール培地との間で比較した。結果を、図5に示す。X軸は各除去アミノ酸、Y軸は陽性細胞率(%)を示す。黒色バーはOct3/4陽性細胞、白色バーはSox17陽性細胞を示す。
8日目〜10日目の間のアミノ酸除去は、Oct3/4陽性細胞、Sox17陽性細胞の割合に影響した。非特許文献2において、マウスES細胞の生存に必須だと報告があったThrを除去した培地では、Oct3/4陽性細胞とともにSox17陽性細胞数も減少するため、選択培地としては不向きであった(斜線バー)。各必須アミノ酸(Thr、Met、Val、Leu、Ile、Phe、Trp、Lys,His)及び準必須アミノ酸(Cys、Tyr、Arg)の除去はOct3/4陽性細胞率を顕著に減少させた。Gly,Ser,Met,Cys,Gln,Leu又はArgの除去はSox17陽性細胞率を増加させた。Oct3/4の減少とSox17の増加の両方を示したのは、Met、Cys、Leu、Argを除去した培地(ドッドバー)であり、Sox17の変化なくOct3/4の減少を示したのがTyrを除去した培地(ドッドバー)であった。
ヒトiPS細胞の内胚葉分化過程におけるメチオニン濃度変化のヒトiPS細胞の肝臓への分化に対する影響を調べるために、メチオニン除去培地及び任意の濃度のメチオニン含有培地で8日目(Day8)〜10日目(Day10)まで処理した後、肝臓分化培地で培養した場合の、肝臓マーカーであるAFPの発現変化を調べた。8日目〜10日目の期間のメチオニン添加濃度は、それぞれ1、0.1、1.0、5.0、10.0、20.0、50.0、100、200及び500μMとした。
実施例4と同様にして、mmcM15細胞を用いて、8日目までヒトiPS細胞を内胚葉に分化誘導し、8日目(Day8)〜10日目(Day10)まで、メチオニン除去培地及び任意の濃度のメチオニン含有培地に培地を変更し、37℃、5%CO2下で10日目(Day10)まで培養した。
図7Bの結果より、以下のことがわかった。メチオニン濃度に依存して、20日目におけるOct3/4陽性細胞の割合が増加していた。また、AFP陽性細胞の割合は50μM以上のメチオニン添加で減少していた。
また、図7Cより、以下のことが確認された。メチオニン濃度に依存して、20日目(Day20)におけるOct3/4陽性細胞数が増加している。メチオニン濃度0μM〜0.1μMではOct3/4陽性細胞の残存はわずかで、AFP陽性細胞が均一に存在している。メチオニン濃度1μM〜20μMでは、Oct3/4陽性細胞数が軽度の増加を示すが、AFP陽性細胞数の減少を認めない。50μM 以上のメチオニン添加ではOct3/4陽性細胞の顕著な増加とSox17陽性細胞の顕著な減少を認める。
実施例4と同様にして、mmcM15細胞を用いて、8日目までヒトiPS細胞を内胚葉に分化誘導し、8日目〜10日目までは、メチオニン除去培地(δMet培地)又はコントロール培地に培地を変更し、37℃、5%CO2下で培養した。
10日目(Day10)に肝臓分化培地(2000KSR−DMEM培地)に培地を変更し、37℃、5%CO2下で30日目(Day30)まで培養した。10日目(Day10)〜30日目(Day30)の期間、培地を1日おきに交換した。
20日間培養したヒトiPS細胞を、抗AFP抗体及び抗Oct3/4抗体を用いて、免疫蛍光染色を行った。結果を図8A示す。コントロール培地を用いて培養したヒトiPS細胞では、20日目(Day20)においてOct3/4陽性細胞の残存を認めたが、これに対して、δMet培地を用いて培養したヒトiPS細胞では、20日目にけるOct3/4陽性細胞の残存を認めなかった。
(実施例6−2)
30日間培養したヒトiPS細胞を、抗AFP抗体及び抗アルブミン抗体を用いて、免疫蛍光染色を行った。結果を図8Bに示す。コントロール培地を用いて培養したヒトiPS細胞のものと同様にδMet培地を用いて培養したヒトiPS細胞においても、30日目(Day30)においてアルブミン陽性細胞が確認できた。
材料と方法(5)に従い、30日目(Day30)における、インドシアニングリーン(ICG)の取り込み−***試験を行った。結果を図8Cに示す。
上段はコントロール培地で培養後、肝臓分化培地で培養したヒトiPS細胞(Day30)、下段はδMet培地で培養後、肝臓分化培地で培養したヒトiPS細胞(Day30)である。左欄は、ICG処理後0時間、右欄は、ICG処理後24時間である。
コントロール培地で培養したヒトiPS細胞及びδMet培地で培養したヒトiPS細胞の両方で、ICGの取り込みと、24時間後の***を認めた。
(実施例6−4)
材料と方法(6)に従い、20日目(Day20)及び30日目(Day30)における、アルブミン分泌量の測定を行った。20日目及び30日目で、培地交換48時間後の培養液中のアルブミン量を測定し、2日間に分泌されるアルブミン量を定量した(n=4)。結果を図8Dに示す。δMet培地で培養したヒトiPS細胞では、コントロールに比較して顕著に高いアルブミン分泌活性を示した。
材料と方法(7)に従い、30日目(Day30)におけるCYP3A4活性を調べた。結果を図8Eに示す。δMet培地で培養したヒトiPS細胞では、コントロール培地(ct)に比較して高いCYP3A4活性を示した。
(実施例6−6)
材料と方法(8)に従い、30日間(Day30)培養したヒトiPS細胞に対してPAS染色を行った。結果を図8Fに示す。δMet培地で培養したものは、PAS陽性細胞が存在し、一部は、二核細胞(binuclear cell)であった(矢印)。
ヒトiPS細胞の内胚葉分化過程におけるメチオニン除去がヒトiPS細胞の膵臓への分化に対する影響を調べるために、コントロール培地又はメチオニン除去培地で8日目〜10日目まで処理した後、膵臓分化培地で13日目まで培養し、機能性膵β細胞マーカーであるPdx1の発現を調べた。
実施例4と同様にして、mmcM15細胞を用いて、8日目までヒトiPS細胞を内胚葉に分化誘導し、8日目〜10日目まで、コントロール培地又はメチオニン除去培地に培地を変更し、37℃、5%CO2下で10日目まで培養した。
また、材料と方法(9)に従い、Sox17、Oct3/4、Pdx1のそれぞれの発現について、RT−PCRを行った(コントロールとして、GAPDHの発現を確認した)。結果を図9B(Day10)及び図9C(Day13)に示す。
免疫蛍光染色の結果より、メチオニン除去群では、Oct3/4陽性細胞が顕著に減少していた。また、RT−PCT解析でも同様の結果が得られた。
フィーダー細胞(mmcM15細胞)を用いないヒトiPS細胞の内胚葉分化過程におけるメチオニン除去がヒトiPS細胞の肝臓分化に及ぼす影響を調べた。具体的には、RPMI1640培地で40倍希釈したマトリゲル(BD)で一晩コートした96ウェルプレートを培養に用いた。ヒトiPS細胞は、播種24時間前からY27632(10μM)で処理し、0.25% トリプシンを用いて剥離した。剥離したヒトiPS細胞を、マトリゲルコートプレートに1×105個/ウェルの細胞濃度で播種した。播種したヒトiPS細胞を10μM Y27632、5ng/ml bFGFを添加したES培地(ReproStem、ReproCell社)で37℃、5%CO2下で24時間培養した。24時間後にPBSで一回洗浄後に、内胚葉分化培地に培地を変更した(Day0)。培養8日目まで内胚葉分化培地を1日おきに交換し、37℃、5%CO2下でヒトiPS細胞を培養した。培養8日目に、メチオニン除去培地(δMet培地)又はコントロール培地に培地を変更した。メチオニン除去培地又はコントロール培地を用いて培養10日目までヒトiPS細胞を培養した。培養10日目に、ヒトiPS細胞の免疫蛍光染色を行い、内胚葉分化マーカー(Sox17)と未分化マーカー(Oct3/4)の陽性細胞を解析した。培養10日目に肝臓分化培地(2000KSR−DMEM培地)に交換し、それ以降は1日おきに培地交換した。
また、培養18日目(Day18)の細胞を、Oct3/4、アルブミン、AFPのそれぞれの発現について、RT−PCRを行った(コントロールとして、GAPDHの発現を確認した)。結果を図10Cに示す。メチオニン除去群において、未分化細胞マーカーのOct3/4の発現が顕著に減少している一方、肝臓マーカーであるアルブミンの発現が高くなっていることが確認された。また、17日目(Day17)、25日目(Day25)及び27日目(Day27)における、アルブミン分泌量の測定を行った。17,25および27日目で、培地交換24時間後の培養液中のアルブミン量を測定し、1日間に分泌されるアルブミン量を定量した。結果を図10Dに示す。メチオニン除去培地で培養したヒトiPS細胞(黒色バー)では、コントロール(白色バー)に比較して顕著に高いアルブミン分泌活性を示した。
(実施例9−1)
肝臓分化におけるプロリン添加分化培地の影響を調べるために、プロリンを1mMの濃度に添加した肝臓分化培地を用いてヒトiPS細胞を肝臓前駆細胞に分化誘導した。
ゼラチンコートした96ウェルプレートに支持細胞としてmmcM15細胞を播種した。ヒトiPS細胞は、播種24時間前からY27632(10μM)で処理し、0.25%トリプシンを用いて剥離した。剥離したヒトiPS細胞をmmcM15細胞上に1×104個/ウェルの細胞濃度で播種した。播種したヒトiPS細胞をY27632及びbFGFを添加したES培地で37℃、5%CO2下で24時間培養した。24時間後に内胚葉分化培地に培地を変更した(Day0)。
実施例3と同様にして、培養開始日(Day0)〜8日目(Day8)まで内胚葉分化培地を1日おきに交換し、37℃、5%CO2下でヒトiPS細胞を培養した。8日目(Day8)にメチオニン除去培地又はコントロール培地に培地を変更した。メチオニン除去培地またはコントロール培地を用いて10日目(Day10)までヒトiPS細胞を培養した。
メチオニン除去群では、コントロール群に比較して、AFP陽性細胞が均一に存在し、Oct3/4陽性細胞が減少していた。プロリン添加群では、コントロール群に比較してAFP陽性細胞が多く、Oct3/4陽性細胞が減少していた。メチオニン除去とプロリン添加を行った群ではAFP陽性細胞の増加とOct3/4陽性細胞の顕著な減少を認めた。
プロリンの添加量を1mMから10mMに変えた他は、実施例9−1と同様にして実験を行った。プロリンを10mMした場合も、1mM添加の場合と、同様の結果が得られた。
実施例1と同様にして、ヒトES細胞(khES3)を内胚葉へと分化させた。ただし、培養8日目〜10日目は、ヒトiPS細胞の場合と同様に、メチオニンを除去したメチオニン除去培地で培養した。培養10日目(Day10)に、内胚葉未分化マーカー(Sox17)と未分化マーカー(Oct3/4)の遺伝子発現を、リアルタイムPCR法を用いて定量解析した。結果を図12に示す。培養8日目〜10日目にメチオニン除去培地で培養することにより、未分化マーカーであるOct3/4の発現が顕著に減少して、内胚葉マーカーであるSox17の発現が顕著に増加していた。
このことから、アミノ酸除去培地の効果は、ヒトES細胞にも有効であることが示された。
実施例8と同様にして、フィーダー細胞を用いない系において、iPS細胞(Toe細胞株)を内胚葉へと分化させた。ただし、メチオニン除去培地での培養は、8日目〜10日目及び4日目〜6日目に行い、それぞれ10日目(Day10)及び6日目(Day6)における細胞を、抗Sox17抗体及び抗Oct3/4抗体を用いて、免疫蛍光染色を行った。結果を図13に示す。
その結果、4日目〜6日目までのメチオニン除去培地での培養においても、8日目〜10日目と同様に、未分化細胞の除去効果があることが確認された。
ヒトiPS細胞の維持培養過程におけるメチオニン除去が、ヒトiPS細胞の生育に及ぼす影響を調べた。具体的には、RPMI1640培地で40倍希釈したマトリゲル(BD)で一晩コートした96ウェルプレートを培養に用いた。ヒトiPS細胞は、播種24時間前からY27632(10μM)で処理し、0.25% トリプシンを用いて剥離した。剥離したヒトiPS細胞を、マトリゲルコートプレートに5×104個/ウェルの細胞濃度で播種した。播種したヒトiPS細胞を10μM Y27632、5ng/ml bFGFを添加したES培地(CSTI−7, 細胞科学研究所)で37℃、5%CO2下で24時間培養した。24時間後にPBSで一回洗浄後に、CSTI−7培地(Complete)、CSTI−7からメチオニンを除去した培地(ΔMet)およびΔMetに様々な濃度のメチオニンを添加した培地(ΔMet+Met)に変更した(Day0)。培養2日目まで、37℃、5%CO2下でヒトiPS細胞を培養した。培養2日目に、ヒトiPS細胞の細胞数を、PrestBlue(Invitrogen)を用いて定量した。
内胚葉分化におけるメチオニン除去培地の処理時間の影響を調べるために、分化8日目にメチオニン除去培地に培地交換し、5、24及び48時間後の細胞増殖及びアポトーシスについて評価した。具体的には、ゼラチンコートした96ウェルプレートに支持細胞としてmmcM15細胞を播種した。ヒトiPS細胞は、播種24時間前からY27632(10μM)で処理し、0.25%トリプシンを用いて剥離した。剥離したヒトiPS細胞をmmcM15細胞上に1×104個/ウェルの細胞濃度で播種した。播種したヒトiPS細胞をY27632及びbFGFを添加したES培地で37℃、5%CO2下で24時間培養した。24時間後に内胚葉分化培地に培地を変更した(Day0)。
培養開始日(Day0)〜8日目(Day8)まで内胚葉分化培地を1日おきに交換し、37℃、5%CO2下でヒトiPS細胞を培養した。8日目(Day8)にメチオニン除去培地又はコントロール培地に培地を変更した。メチオニン除去培地またはコントロール培地を用いて10日目(Day10)までヒトiPS細胞を培養した。8日目の培地交換の5、24及び48時間後の細胞増殖をClick−iT EdU細胞増殖アッセイキット(Invitrogen社)を用いて評価し、アポトーシスをIn Situ細胞死検出キット(ロシュ社)を用いて評価した。さらに、メチオニン除去の期間について検討するために除去期間をD6−10、D7−10、D8−10、及びD9−10として、培養10日目のOct3/4およびSox17陽性細胞をカウントした。結果を図15及び図16に示す。
また、メチオニン除去の期間について検討するために除去期間をD6−10、D7−10、D8−10、及びD9−10として、培養10日目のOct3/4およびSox17陽性細胞をカウントした。結果を図16に示す。培養6日目からの除去ではSox17陽性細胞の減少が確認された。
内胚葉分化におけるメチオニンおよびメチルドナー除去培地の影響を調べるために、分化8日目に培地中よりメチオニンおよびメチルドナーを除去し、10日目まで培養しOct3/4及びSox17陽性細胞数を抗体染色で評価した。具体的には、ゼラチンコートした96ウェルプレートに支持細胞としてmmcM15細胞を播種した。ヒトiPS細胞は、播種24時間前からY27632(10μM)で処理し、0.25%トリプシンを用いて剥離した。剥離したヒトiPS細胞をmmcM15細胞上に1×104個/ウェルの細胞濃度で播種した。播種したヒトiPS細胞をY27632及びbFGFを添加したES培地で37℃、5%CO2下で24時間培養した。24時間後に内胚葉分化培地に培地を変更した(Day0)。培養開始日(Day0)〜8日目(Day8)まで内胚葉分化培地を1日おきに交換し、37℃、5%CO2下でヒトiPS細胞を培養した。8日目(Day8)に各種培地に培地を変更した。培地中からメチオニン・葉酸・ビタミンB12・ベタイン・コリンを除去したものをメチルドナー除去培地とした。各種培地を用いて10日目(Day10)までヒトiPS細胞を培養し、Oct3/4およびSox17陽性細胞をカウントした。
従って、本発明により分化誘導された細胞は、各種組織細胞の分析や再生医療において有用なものである。
Claims (20)
- 培地中に、以下の(i)〜(iii)の3種のアミノ酸:(i)メチオニン、(ii)ロイシン、及び、(iii)システイン及びシスチン、からなる群より選ばれる少なくとも一つのアミノ酸を含まない分化培地で、哺乳動物由来の多能性幹細胞を培養することを含む、多能性幹細胞を分化誘導する方法。
- 培地中に、アミノ酸として少なくとも必須アミノ酸であるスレオニン、バリン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン及びヒスチジンを含み、かつ以下の(i)〜(iii)の3種のアミノ酸:(i)メチオニン、(ii)ロイシン、及び、(iii)システイン及びシスチン、からなる群より選ばれる少なくとも一つのアミノ酸を含まない分化培地で、哺乳動物由来の多能性幹細胞を培養することを含む、請求項1に記載の多能性幹細胞を分化誘導する方法。
- メチオニンを含まない分化培地で、哺乳動物由来の多能性幹細胞を培養することを含む、請求項1又は2に記載の多能性幹細胞を分化誘導する方法。
- 哺乳動物由来の多能性幹細胞が、ヒト又はマウス由来のES細胞又はiPS細胞である、請求項1〜3のいずれか一つに記載の多能性幹細胞を分化誘導する方法。
- 請求項1〜4のいずれか一つに記載の多能性幹細胞を分化誘導する方法であって、前記分化培地で、ES細胞又はiPS細胞を、少なくとも5時間培養することを含む、多能性幹細胞を分化誘導する方法。
- 請求項1〜4のいずれか一つに記載の多能性幹細胞を分化誘導する方法であって、前記分化培地で、ES細胞又はiPS細胞を、少なくとも1日間培養することを含む、多能性幹細胞を分化誘導する方法。
- 前記分化培地でES細胞又はiPS細胞を培養することを、前記多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉の形成の直前又は形成が確認できる時期に行う、請求項5又は6に記載の多能性幹細胞を分化誘導する方法。
- 請求項1〜7のいずれか一つに記載の多能性幹細胞を分化誘導する方法であって、前記分化培地が、内胚葉分化培地である、多能性幹細胞を分化誘導する方法。
- 多能性幹細胞を、必須アミノ酸(スレオニン、メチオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン及びヒスチジン)及び準必須アミノ酸(システイン、チロシン及びアルギニン)を含む分化誘導培地で培養した後、以下の(i)〜(iii)の3種のアミノ酸:(i)メチオニン、(ii)ロイシン、及び、(iii)システイン及びシスチン、からなる群より選ばれる少なくとも一つのアミノ酸を含まない分化培地で哺乳動物由来の多能性幹細胞を培養することを含む、多能性幹細胞を分化誘導する方法。
- メチオニンを含まない分化培地で哺乳動物由来の多能性幹細胞を培養することを含む、請求項9に記載の多能性幹細胞を分化誘導する方法。
- 哺乳動物由来の多能性幹細胞が、ヒト又はマウス由来のES細胞又はiPS細胞である、請求項9又は10に記載の多能性幹細胞を分化誘導する方法
- 哺乳動物由来の多能性幹細胞を内胚葉まで分化誘導させる、請求項9〜11のいずれか一つに記載の方法。
- さらに、分化した内胚葉を、肝臓分化培地で培養することにより、多能性幹細胞を肝臓細胞まで分化させる、請求項12に記載の方法。
- さらに、分化した内胚葉を、膵臓分化培地で培養することにより、多能性幹細胞を膵臓細胞まで分化させる、請求項12に記載の方法。
- 前記肝臓分化培地又は膵臓分化培地がプロリンを1.0mM以上10mM以下の濃度で添加した培地である、請求項13又は14に記載の方法。
- 培地中に、以下の(i)〜(iii)の3種のアミノ酸:(i)メチオニン、(ii)ロイシン、及び、(iii)システイン及びシスチン、からなる群より選ばれる少なくとも一つのアミノ酸を含まない、多能性幹細胞を分化誘導するための培地。
- 培地中に、アミノ酸として少なくとも必須アミノ酸であるスレオニン、バリン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン及びヒスチジンを含み、かつ以下の(i)〜(iii)の3種のアミノ酸:(i)メチオニン、(ii)ロイシン、及び、(iii)システイン及びシスチン、からなる群より選ばれる少なくとも一つのアミノ酸を含まない、請求項16に記載の多能性幹細胞を分化誘導するための分化誘導培地。
- メチオニンを含まない請求項16又は17に記載の培地。
- 多能性幹細胞が、ヒト又はマウス由来のES細胞又はiPS細胞である、請求項16〜18のいずれか一つに記載の培地。
- 前記分化誘導するための培地が、マウス又はヒト由来のES細胞又はiPS細胞を内胚葉に分化誘導するための内胚葉分化培地である、請求項16〜18のいずれか一つに記載の培地。
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