上記特許文献1では、例えば前記サーモスタットを開弁させたときに、前記入口から前記ブロック内ウォータジャケットに外部の比較的低温の冷却液が流入すると、この冷却液が流入直後に前記サーモスタットの感温部とシリンダ(気筒)の壁部とに当たることになる。
そのために、前記サーモスタットの感温部が反応して開弁後すぐに閉弁するようになり、さらに閉弁後すぐに前記ブロック内ウォータジャケット内で昇温していた冷却液に反応して開弁するというハンチングが発生することが懸念される他、前記気筒の壁部の一部が急激に冷却されることになることが懸念される。
ところで、前記特許文献1では、ブロック内ウォータジャケットにウォータジャケットスペーサが収納されていないが、このウォータジャケットスペーサを用いる場合には、ブロック内ウォータジャケットにおいて前記入口に対向する領域の幅方向寸法(気筒の径方向に沿う寸法)が狭くなるので、前記入口に設置されるサーモスタットの感温部が前記ウォータジャケットスペーサに干渉するおそれがある。
それに対し、仮に、前記ウォータジャケットスペーサにおいて前記入口と対向する領域に、前記サーモスタットの感温部との干渉を避けるための大きな貫通孔を設けると、次のような不具合が懸念される。
つまり、例えば前記サーモスタットを開弁させたときに、前記入口からブロック内ウォータジャケットに外部の比較的低温の冷却液が流入すると、その冷却液が流入直後に前記サーモスタットの感温部に当たる他、前記貫通孔を通って前記気筒の壁部に当たるようになる。
これにより、前記サーモスタットの感温部が前記当たった冷却液に反応して開弁後すぐに閉弁するようになり、さらに閉弁後すぐにブロック内ウォータジャケット内で昇温していた冷却液に反応して開弁するというハンチングが発生することが懸念される。さらに、前記気筒の壁部の一部が前記当たった比較的低温の冷却液により急激に冷却されることが懸念される。
この他、上記特許文献2では、前記ブロック内ウォータジャケットへの冷却液の入口にサーモスタットを設置するようになっていないので、当然ながら、前記ウォータジャケットスペーサに前記したようなサーモスタットの感温部との干渉を避けるための貫通孔を設置するという記載は無い。
このような事情に鑑み、本発明は、シリンダブロックのウォータジャケット(ブロック内ウォータジャケット)への冷却液の入口に、当該入口からの冷却液流入量を制限するためのサーモスタットが設置され、前記ブロック内ウォータジャケットにウォータジャケットスペーサが収納されるエンジンの冷却装置において、前記サーモスタットの開弁に伴い前記入口から流入する冷却液が流入直後に前記サーモスタットの感温部や気筒の壁部に当たることを回避可能とすることを目的としている。
本発明に係るエンジンの冷却装置は、シリンダブロックのウォータジャケットへの冷却液の入口に、当該入口からの冷却液流入量を制限するためのサーモスタットが設置され、前記ウォータジャケットにウォータジャケットスペーサが収納され、このウォータジャケットスペーサにおいて前記入口と対向する領域に、前記サーモスタットの開弁時に当該サーモスタットの感温部が嵌入されることで閉塞される貫通孔が設けられており、前記ウォータジャケットスペーサには、前記貫通孔に連なるとともに前記入口側へ向けて突出する筒状突出部が設けられ、前記サーモスタットの感温部は、前記筒状突出部にスライド可能に嵌入可能な外形とされる、ことを特徴としている。
なお、サーモスタットとは、公知のように、自動車関連業界において温度感知型の自動開閉弁のことを意味している。このようなサーモスタットを用いる場合、前記コントローラなどにより開閉作動させる制御弁を用いる場合に比べて制御ロジックが不要となるなど、冷却装置の設備コストを低減できるというメリットがある。
そもそも、ブロック内ウォータジャケットにウォータジャケットスペーサが収納される場合、ブロック内ウォータジャケットにおいて前記入口に対向する領域の幅方向寸法(気筒の径方向に沿う寸法)が狭くなるので、前記入口に設置されるサーモスタットの感温部が前記ウォータジャケットスペーサに干渉するおそれがある。
それに対し、仮に、前記ウォータジャケットスペーサにおいて前記入口と対向する領域に、前記サーモスタットの感温部との干渉を避けるための大きな貫通孔を設けると、次のような不具合が懸念される。
つまり、例えばエンジンの暖機時のように前記サーモスタットが閉弁している状態で前記ブロック内ウォータジャケットの冷却液温度が昇温することに伴い前記サーモスタットが開弁したときに、前記入口からブロック内ウォータジャケットに外部の比較的低温の冷却液が流入することになるが、その冷却液が流入直後に前記サーモスタットの感温部に当たる他、前記貫通孔を通って前記気筒の壁部に当たるようになる。
これにより、前記サーモスタットの感温部が前記当たった冷却液に反応して開弁後すぐに閉弁するようになり、さらに閉弁後すぐにブロック内ウォータジャケット内の冷却液に反応して開弁するというハンチングが発生することが懸念される。さらに、前記気筒の壁部の一部が前記当たった冷却液により急激に冷却されることが懸念される
しかしながら、本発明の前記構成では、前記貫通孔について、前記サーモスタットの開弁時に当該サーモスタットの感温部が嵌入されることで閉塞されるものとしているから、前記したような懸念を払拭することが可能になる。
詳しくは、前記サーモスタットが開弁すると、前記入口からブロック内ウォータジャケットに比較的低温の冷却液が流入するが、前記サーモスタットの感温部が前記貫通孔に嵌入して当該貫通孔を閉塞することになるので、前記ウォータジャケットスペーサに対する前記サーモスタットの感温部の干渉を避けることが可能になる他、前記入口からブロック内ウォータジャケットに流入した冷却液が流入直後に前記ウォータジャケットスペーサに当たるようになるものの、前記サーモスタットの感温部や前記気筒の壁部には当たらなくなるか、あるいは当たり難くなる。
これにより、前記したようなサーモスタットのハンチング現象や前記気筒の壁部の一部が急激に冷却される現象の発生を抑制または防止することが可能になる。
そして、前記ウォータジャケットスペーサに、前記貫通孔に連なるとともに前記入口側へ向けて突出する筒状突出部を設け、前記サーモスタットの感温部を、前記筒状突出部にスライド可能に嵌入可能な外形とした構成では、前記貫通孔に連なる筒状突出部でもってサーモスタットの開弁時の感温部のスライド動作をガイドすることが可能になるから、当該サーモスタットの開弁動作の安定化が図れる。
好ましくは、前記サーモスタットの感温部は、その閉弁時に前記貫通孔に嵌入される状態となるように設定される。これにより、前記サーモスタットを設置するにあたって、その感温部を前記ウォータジャケットスペーサに干渉させない状態に設定することが可能になる。
好ましくは、前記ウォータジャケットは、多気筒型エンジンにおける隣り合う複数の気筒すべての壁部の外周を囲むような環状空間とされ、前記入口は、前記ウォータジャケットにおいて気筒配列方向に沿う2つの長尺領域のうちの一方長尺領域の長手方向一端側に設置される、構成とすることができる。
この構成では、前記サーモスタットが開弁したときに前記入口から前記ウォータジャケットに流入される冷却液がウォータジャケットスペーサの外面に当たることによって前記サーモスタットから遠ざかるように流されるようになる。
このように流される冷却液は徐々に気筒の壁部の熱を回収しつつ、前記ウォータジャケットスペーサと前記気筒の壁部との対向空間に流入して、前記サーモスタットの感温部に当たるようになる。つまり、前記シリンダブロックのウォータジャケット内において気筒の壁部の熱を回収して昇温した冷却液がサーモスタットの感温部に当たるようになる。
そのため、シリンダブロックの温度とほぼ同等に昇温された冷却液の温度でもって前記サーモスタットの開度が制御されることになるので、前記入口からの冷却液流入量をシリンダブロックの温度に応じて適正に制限することが可能になる。
好ましくは、前記エンジンの冷却装置は、シリンダヘッドのウォータジャケットから流出される冷却液をラジエータを通してから当該シリンダヘッドのウォータジャケットおよび前記シリンダブロックのウォータジャケットのそれぞれに独立して流入可能にするためのラジエータ通路と、このラジエータ通路に前記ラジエータをバイパスするように接続されるラジエータバイパス路と、前記冷却液を流動させるためのウォータポンプと、前記ラジエータ通路において前記ラジエータバイパス路の下流側接続部と前記ラジエータよりも冷却液流通方向下流側との間に設けられる制御弁とをさらに含む、構成とすることができる。
ここでは、エンジンの外部に設置される冷却液流通経路の構成を明らかにしている。この構成では、前記シリンダヘッドのウォータジャケットと前記シリンダブロックのウォータジャケットとに対する冷却液の流入を独立して制御することが可能になる。
本発明は、シリンダブロックのウォータジャケットへの冷却液の入口に、当該入口からの冷却液流入量を制限するためのサーモスタットが設置され、前記ブロック内ウォータジャケットにウォータジャケットスペーサが収納されるエンジンの冷却装置において、前記サーモスタットの開弁に伴い前記入口から流入する冷却液が、流入直後に前記サーモスタットの感温部や気筒の壁部に当たらないように、あるいは当たり難くすることが可能になる。したがって、本発明では、従来例で説明したような前記サーモスタットのハンチング現象や前記気筒が急激に冷却される現象の発生を抑制または防止することが可能になるなど、信頼性の向上に貢献できる。
以下、本発明を実施するための最良の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1から図6に、本発明の一実施形態を示している。この実施形態に示すエンジン1には、冷却液を外部に取り出してから戻すための閉ループの冷却液循環経路として、エンジン1の内部通路と外部通路とが設けられている。
前記内部通路は、エンジン1のシリンダブロック2内に設けられるウォータジャケット(ブロック内ウォータジャケットと言う)4と、エンジン1のシリンダヘッド3内に設けられるウォータジャケット(ヘッド内ウォータジャケットと言う)5とを含んでいる。また、前記外部通路は、ラジエータ通路7と、ラジエータバイパス路8とを少なくとも含んでいる。
ヘッド内ウォータジャケット5の冷却液の出口5aは、シリンダヘッド3において気筒配列方向の他端(例えば後端)側に設けられている。ヘッド内ウォータジャケット5の冷却液の入口5bは、シリンダヘッド3において気筒配列方向の一端(例えば前端)側に設けられている。
ブロック内ウォータジャケット4の冷却液の入口4aは、シリンダブロック2において気筒配列方向の一端(例えば前端)側に設けられている。ブロック内ウォータジャケット4は、ヘッド内ウォータジャケット5に接続されている。つまり、ヘッド内ウォータジャケット5の冷却液の出口5aは、ブロック内ウォータジャケット4の出口を兼ねている。
ヘッド内ウォータジャケット5の出口5aとブロック内ウォータジャケット4の入口4aおよびヘッド内ウォータジャケット5の入口5bとには、ラジエータ通路7が連通連結されている。
このラジエータ通路7は、ヘッド内ウォータジャケット5から取り出される冷却液をヘッド内ウォータジャケット5とブロック内ウォータジャケット4とに還流させるものである。
このラジエータ通路7の一端側(冷却液流通方向の上流端側)は1本の冷却液導入部7aとされているが、ラジエータ通路7の他端側(冷却液流通方向の下流端側)は二股に分岐されている。この分岐した2つの支流部のうち、一方がブロック側冷却液還流部7bとされ、他方がヘッド側冷却液還流部7cとされている。
そして、ラジエータ通路7における1本の冷却液導入部7aがヘッド内ウォータジャケット5の出口5aに接続されている。また、ラジエータ通路7のブロック側冷却液還流部7bがブロック内ウォータジャケット4の入口4aに接続されており、また、ラジエータ通路7のヘッド側冷却液還流部7cがヘッド内ウォータジャケット5の入口5bに接続されている。
このラジエータ通路7には、ラジエータ11およびウォータポンプ12が設けられている。
ラジエータ11は、ラジエータ通路7を流通する冷却液と大気との間で熱交換するもので、主に冷却用の熱交換器とされている。
ウォータポンプ12は、ラジエータ通路7および下記ラジエータバイパス路8内で冷却液を流動させるものであって、例えばラジエータ通路7の前記二股分岐部分よりも冷却液流通方向上流側に設けられている。このウォータポンプ12は、例えば電動式とされ、図示していないエレクトロニックコントロールユニット(ECU)により制御される。
ラジエータバイパス路8は、ラジエータ通路7に対してラジエータ11をバイパスするように接続されている。このラジエータバイパス路8の途中には、ヒータコア13が設けられている。
ヒータコア13は、ラジエータバイパス路8を流通する冷却液と車両室内との間で熱交換するための熱交換器である。このヒータコア13から放出される熱は、図示していないヒータブロアでもって車両室内に供給されて、車両室内を暖房するようになる。
そして、ラジエータ通路7においてラジエータ11よりも冷却液流通方向の下流側の位置でラジエータバイパス路8の下流側接続部分よりも冷却液流通方向の上流側には、サーモスタット20が設けられている。
このサーモスタット20は、ノーマリークローズタイプとされており、ラジエータ通路7の冷却液導入部7aからラジエータ11への冷却液の流入を遮断または許容する。このサーモスタット30を「ラジエータ用サーモスタット」と言うことにする。
このラジエータ用サーモスタット20は、公知の構成であるので詳細な図示や説明を割愛するが、主として、フレーム、サーモアクチュエータ、弁体などを備えている。サーモアクチュエータは、サーモワックスが充填されかつ一端に弁体が取り付けられる感温部と、フレームに固定されかつ前記感温部に出し入れ可能に挿入されるガイドロッドとを備えている。
ここで、ラジエータ用サーモスタット20の動作を説明する。ラジエータ通路7においてラジエータバイパス路8との下流側接続部分の冷却液温度が第1設定温度未満の場合に前記サーモワックスが凝固収縮して前記ガイドロッドが前記感温部内に埋没する状態になるので、前記弁体が全閉位置に変位させられる。この閉弁時にはラジエータ通路7の冷却液導入部7aからラジエータ11へ冷却液が流通できなくなるが、ラジエータバイパス路8のみからウォータポンプ12へ冷却液が流通することが可能になっている。そして、前記冷却液温度が前記第1設定温度以上になると、前記サーモワックスが溶融膨張して前記ガイドロッドが前記感温部から飛び出す状態になるので、前記弁体が開側に変位させられる。この開弁時にはラジエータ通路7とラジエータバイパス路8の両方からウォータポンプ12へ冷却液が流通するようになる。
さらに、ブロック内ウォータジャケット4の入口4aには、サーモスタット30が設けられている。
このサーモスタット30は、ノーマリークローズタイプとされており、ブロック側冷却液還流部7bからブロック内ウォータジャケット4への冷却液流入を制限する。このサーモスタット30を「ブロック用サーモスタット」と言うことにする。
このブロック用サーモスタット30は、前記したラジエータ用サーモスタット20と基本的に同じ構成であるが、図5および図6に示すように、主として、フレーム31、サーモアクチュエータ32、弁体33などを備えている。
フレーム31は、弁体33の弁座となるリングプレート31aにアッパーアーチ31bとロアーアーチ31cとを設けた構成である。
サーモアクチュエータ32は、冷却液の温度変化を感知して弁体33を変位させるための駆動源であり、フレーム31に支持されている。このサーモアクチュエータ32は、サーモワックスが充填される感温部32a、フレーム31のアッパーアーチ31bに固定されるガイドロッド32bなどを備えている。
感温部32aの一端側には弁体33が取り付けられている。ガイドロッド32bの他端は、感温部32aのボディ(符号省略)内にシール(符号省略)を介して出し入れ可能に挿入されている。
弁体33はフレーム31のリングプレート31aの中心孔(符号省略)を開閉するものである。なお、弁体33がリングプレート31aの中心孔を開いた状態が開弁状態であり、塞いだ状態が閉弁状態である。この弁体33は円筒形の圧縮コイルスプリング34により閉弁状態になるように付勢されている。
次に、ブロック用サーモスタット30の設置形態を説明する。
このブロック用サーモスタット30をブロック内ウォータジャケット4内の冷却液温度に応答して作動させるために、ブロック用サーモスタット30の感温部32aをブロック内ウォータジャケット4の内部に収めるような状態にしている。
そして、図5および図6に示すように、ブロック内ウォータジャケット4の入口4aであるシリンダブロック2の開口の外側拡径部分に、ブロック用サーモスタット30のフレーム31のリングプレート31a(弁座)が当接させられていて、ブロック用サーモスタット30の弁体33がブロック内ウォータジャケット4の入口4aを開放または閉塞するように変位可能に配置されている。
このような構成のブロック用サーモスタット30の動作としては、感温部32a内のサーモワックスがブロック内ウォータジャケット4の冷却液温度の高低変化に反応して溶融膨張または凝固収縮することによって感温部32aがガイドロッド32bに沿って中心軸線方向に進退変位し、当該感温部32aに固定された弁体33でもってブロック内ウォータジャケット4の入口4aを開閉する。
具体的に、ブロック用サーモスタット30の動作を説明する。
ブロック内ウォータジャケット4の冷却液温度が第2設定温度(前記第1設定温度よりも低く設定される)未満の場合、サーモワックスが凝固収縮してガイドロッド32bが感温部32a内に埋没する状態になるので、図5に示すように弁体33が全閉位置に変位させられる。この閉弁時にはブロック内ウォータージャケット4への冷却液の流入を遮断する。一方、ブロック内ウォータジャケット4内の冷却液の温度が前記第2設定温度以上になると、サーモワックスが溶融膨張してガイドロッド32bが感温部32aから飛び出す状態になるので、図6に示すように弁体33が開側に変位させられる。この開弁時にはブロック内ウォータージャケット4への冷却液流入を許容する。
この実施形態のエンジン1の冷却装置は、エンジン1の内部通路(ウォータジャケット4,5)、外部通路(ラジエータ通路7、ラジエータバイパス路8)、ウォータポンプ12と、ラジエータ用サーモスタット20、ブロック用サーモスタット30などを含んで構成されている。
この実施形態では、ブロック用サーモスタット30が開弁することに伴い比較的低温の冷却液がブロック側冷却液還流部7bから第1入口4aを経てブロック内ウォータジャケット4に流入したときに、当該低温の冷却液が流入直後にブロック用サーモスタット30の感温部32aおよび気筒2aの壁部2bに当たらないように、あるいは当たり難くするようにしているので、以下で詳しく説明する。
まず、ブロック内ウォータジャケット4が、図2および図3に示すように、多気筒型エンジン1の隣り合う複数の気筒2aすべての壁部2bの外周を囲むような環状空間とされている。
このシリンダブロック2は、オープンデッキタイプとされている。つまり、シリンダブロック2においてシリンダヘッド3との合わせ面に、ブロック内ウォータジャケット4が開放されている。
このブロック内ウォータジャケット4内には、ウォータジャケットスペーサ40が収納されている。このウォータジャケットスペーサ40は、ブロック内ウォータジャケット4での冷却液の流れを調整するものであって、ブロック内ウォータジャケット4と近似した形状、例えば環状に形成されている。
また、シリンダブロック2とシリンダヘッド3との合わせ面には、図2に示すように、ガスケット50が介装される。このガスケット50には、ブロック内ウォータジャケット4とヘッド内ウォータジャケット5とを連通するために複数の連通部51が設けられている。この連通部51は、ガスケット50の厚み方向に貫通する孔とされている。
さらに、シリンダブロック2においてブロック用ウォータジャケット4の入口(以下、第1入口と言う)4aの近傍には、ブロック内ウォータジャケット4への冷却液流入を常に許容するための第2入口4bが設けられている。
この第2入口4bには、ブロック側冷却液還流部7bから分岐しているバイパス路7dが接続されている。この第2入口4bの内径寸法は、第1入口4aの内径寸法よりも小さく設定されている。つまり、この第2入口4bは、ブロック用サーモスタット30が閉じていてもブロック内ウォータジャケット4に少量の冷却液を常時流入させることにより、ブロック内ウォータジャケット4の冷却液を滞留させないようにするために設けられている。
そして、前記第1入口4aおよび第2入口4bは、ブロック内ウォータジャケット4において気筒2aの配列方向に沿う2つの長尺領域4c,4dのうちの第1長尺領域4cの長手方向一端側に設置されている。
ウォータジャケットスペーサ40において気筒2aの配列方向に沿う2つの長壁41,42のうちの第1長壁41において前記第1入口4aと対向する領域には、ブロック用サーモスタット30の感温部32aとの干渉を避けるとともに、ブロック用サーモスタット30の感温部32aが嵌入されることで閉塞される貫通孔43が設けられているとともに、この貫通孔43に連なるとともに第1入口4a側へ向けて突出する筒状突出部44が設けられている。
ブロック用サーモスタット30の感温部32aは、筒状突出部44にスライド可能に嵌入可能な外形とされている。筒状突出部44の内周および感温部32aの外形は、円形とされている。
特に、この実施形態では、ブロック用サーモスタット30が閉弁しているときに、例えば図5に示すように、感温部32aの一部がウォータジャケットスペーサ40の筒状突出部44内に嵌入させられることによって貫通孔43が閉塞される状態となるように設定されている。
そして、ブロック用サーモスタット30が開弁すると、図6に示すように、その感温部32aが筒状突出部44内の奥へと押し込まれることになる。
次に、ブロック用サーモスタット30が開弁したときの冷却液の流れを説明する。
例えばエンジン1の暖機過程のようにブロック用サーモスタット30が閉じている状態でも比較的低温の冷却液が第2入口4bからブロック内ウォータジャケット4に流入することになるが、この低温の冷却液はブロック内ウォータジャケット4においてブロック用サーモスタット30から遠ざかる向きに流されるようになるとともに、気筒2aの壁部2bの熱を回収しながらブロック用サーモスタット30の感温部32aに当たるようになる。なお、この冷却液の流動過程で複数の連通部51を通じてヘッド内ウォータジャケット5に流入するようになる。
そして、ブロック内ウォータジャケット4内の冷却液温度が昇温することに伴いブロック用サーモスタット30が開弁すると、第1入口4aが開放されることになるとともに、感温部32aがウォータジャケットスペーサ40の筒状突出部44の奥へと押し込まれることになって、ブロック内ウォータジャケット4に露呈する部分が大幅に減ることになる。なお、感温部32aにおいて前記露呈する部分の面積などは、任意に設定することが可能である。
前記ブロック用サーモスタット30の開弁に伴い、第1入口4aから外部の比較的低温の冷却液が流入することになるが、この冷却液は、ウォータジャケットスペーサ40の外面に当たるようになるものの、ブロック用サーモスタット30の感温部32aや気筒2aの壁部2bには当たらなくなるか、あるいは当たり難くなる。
そのため、ブロック用サーモスタット30のハンチング現象や気筒2aの壁部2bの一部が急激に冷却される現象の発生を抑制または防止することが可能になる。
詳しくは、第1入口4aからブロック内ウォータジャケット4に流入する冷却液は、ウォータジャケットスペーサ40の第1長壁41に当たることによって方向転換させられることになりブロック内ウォータジャケット4の第1長尺領域4cの長手方向両方へ流されるようになる。
しかし、この実施形態では、第1入口4aをブロック内ウォータジャケット4の第1長尺領域4cの長手方向一端側に設置している関係より、第1入口4aから流入した冷却液の大半が、第1長尺領域4cの長手方向一端側から長手方向他端側に向けて流れるように案内される。この冷却液は、第1長尺領域4cの長手方向他端側でUターンして第2長尺領域4dの長手方向他端側から長手方向一端側へ向けて流れるように案内され、この第2長尺領域4dの長手方向一端側からさらにUターンして流れるように案内される。
このようにブロック内ウォータジャケット4内を大きく迂回して流れる冷却液がブロック用サーモスタット30の感温部32aに当たるようになる。
特に、この実施形態では、前記のように迂回して流れる冷却液を感温部32aに当てやすくするために、筒状突出部44にスリット45を設けている。このスリット45は、筒状突出部44において第1入口4a側から見て左側半円領域に周方向に沿うように設けられている。これにより、スリット45が前記のように迂回して流れる冷却液の流通方向下流側に配置されることになるので、このスリット45から露呈する感温部32aに冷却液が当たりやすくなるのである。
このようなことから、ブロック用サーモスタット30の開弁に伴い第2入口4bから流入する比較的低温の冷却液が、その流入直後にブロック用サーモスタット30の感温部32aに当たらなくなるか、あるいは当たり難くなって、気筒2aの壁部2bの熱を回収して昇温した冷却液がブロック用サーモスタット30の感温部32aに当たるようになる。
そのため、ブロック内ウォータジャケット4内においてシリンダブロック2の温度とほぼ同等に昇温された冷却液の温度でもってブロック用サーモスタット30の開度が制御されることになるので、第1入口4aからの冷却液流入量をシリンダブロック2の温度に応じて適正に制限することが可能になる。
以上説明したように本発明を適用した実施形態では、ブロック用サーモスタット30が開弁することに伴い比較的低温の冷却液がブロック側冷却液還流部7bから第1入口4aを経てブロック内ウォータジャケット4に流入したときに、当該低温の冷却液が流入直後にブロック用サーモスタット30の感温部32aおよび気筒2aの壁部2bに当たらないように、あるいは当たり難くするように工夫している。
これにより、ブロック用サーモスタット30のハンチング現象や気筒2aの壁部2bの一部が急激に冷却される現象の発生を抑制または防止することが可能になるなど、信頼性の向上に貢献できる。
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲内で適宜に変更することが可能である。
(1)上記実施形態において、ラジエータ11への冷却液流通を許容または遮断するためのラジエータ用サーモスタット20を、例えばECUにより作動指示を受けて作動するタイプの制御弁とすることが可能である。
具体的に、このタイプの制御弁としては、感温部のサーモワックスをヒータなどで加熱することが可能な構成の電子式サーモスタット、電磁弁、あるいはモータなどで作動される電動弁などが挙げられる。
(2)上記実施形態では、ブロック内ウォータジャケット4とヘッド内ウォータジャケット5とにそれぞれ独立して冷却液を流通可能とする構成にした例を挙げているが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えばヘッド内ウォータジャケット5から冷却液を取り出してブロック内ウォータジャケット4に戻すような閉ループとしている構成であっても本発明を適用することが可能である。
(3)上記実施形態では、ブロック内ウォータジャケット4内での冷却液の滞留を防止するために、第2入口4bを設けるようにした例を挙げているが、本発明はこれに限定されるものではなく、前記第2入口4bを設けていない構成であっても本発明を適用することが可能である。
(4)上記実施形態では、ブロック用サーモスタット30の閉弁時に感温部32aを筒状突出部44に嵌入させる状態にした例を挙げているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えばブロック用サーモスタット30の閉弁時に感温部32aを筒状突出部44に嵌入させずに、開弁したときに感温部32aが筒状突出部44に嵌入するような形態にすることが可能である。