JP5918187B2 - 焼付け塗装硬化性に優れたアルミニウム合金板 - Google Patents

焼付け塗装硬化性に優れたアルミニウム合金板 Download PDF

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Description

本発明はAl−Mg−Si系アルミニウム合金板に関するものである。本発明で言うアルミニウム合金板とは、熱間圧延板や冷間圧延板などの圧延板であって、溶体化処理および焼入れ処理などの調質が施された後であって、焼付け塗装硬化処理などの人工時効硬化処理される前の、アルミニウム合金板を言う。また、以下の記載では、アルミニウムをアルミやAlとも言う。
近年、地球環境などへの配慮から、自動車等の車両の軽量化の社会的要求はますます高まってきている。かかる要求に答えるべく、自動車パネル、特にフード、ドア、ルーフなどの大型ボディパネル(アウタパネル、インナパネル)の材料として、鋼板等の鉄鋼材料にかえて、成形性や焼付け塗装硬化性に優れた、より軽量なアルミニウム合金材の適用が増加しつつある。
この内、自動車のフード、フェンダー、ドア、ルーフ、トランクリッドなどのパネル構造体の、アウタパネル (外板) やインナパネル( 内板) 等のパネルには、薄肉でかつ高強度アルミニウム合金板として、Al−Mg−Si系のAA乃至JIS 6000系 (以下
、単に6000系とも言う) アルミニウム合金板の使用が検討されている。
この6000系アルミニウム合金板は、Si、Mgを必須として含み、特に過剰Si型の6000系アルミニウム合金は、これらSi/Mgが質量比で1以上である組成を有し、優れた時効硬化能を有している。このため、プレス成形や曲げ加工時には低耐力化により成形性を確保するとともに、成形後のパネルの塗装焼付処理などの、人工時効( 硬化) 処理時の加熱により時効硬化して耐力が向上し、パネルとしての必要な強度を確保できる焼付け塗装硬化性(以下、ベークハード性=BH性、焼付硬化性とも言う) がある。
また、6000系アルミニウム合金板は、Mg量などの合金量が多い他の5000系アルミニウム合金などに比して、合金元素量が比較的少ない。このため、これら6000系アルミニウム合金板のスクラップを、アルミニウム合金溶解材 (溶解原料) として再利用する際に、元の6000系アルミニウム合金鋳塊が得やすく、リサイクル性にも優れている。
一方、自動車のアウタパネルは、周知の通り、アルミニウム合金板に対し、プレス成形における張出成形時や曲げ成形などの成形加工が複合して行われて製作される。例えば、フードやドアなどの大型のアウタパネルでは、張出などのプレス成形によって、アウタパネルとしての成形品形状となされ、次いで、このアウタパネル周縁部のフラットヘムなどのヘム (ヘミング) 加工によって、インナパネルとの接合が行われ、パネル構造体とされる。
ここで、6000系アルミニウム合金は、優れたBH性を有するという利点がある反面で、室温時効性を有し、溶体化焼入れ処理後、数ヶ月間の室温保持で時効硬化して強度が増加することにより、パネルへの成形性、特に曲げ加工性が低下する課題があった。例えば、6000系アルミニウム合金板を自動車パネル用途に用いる場合、アルミメーカーで溶体化焼入れ処理された後(製造後)、自動車メーカーでパネルに成形加工されるまでに、通常は1〜4ヶ月間程度室温におかれ(室温放置され)、この間で、かなり時効硬化(室温時効)することとなる。特に、厳しい曲げ加工が入るアウタパネルにおいては、製造直後は問題無く成形可能であっても、時効硬化(室温時効)後にはヘム加工時に割れが生じるなどの問題が有った。
更に、このような室温時効が大きい場合には、BH性が低下して、前記した成形後のパネルの塗装焼付処理などの人工時効( 硬化) 処理時の加熱によっても、パネルとしての必要な強度までに、耐力が向上しなくなるという問題も生じる。
従来から、6000系アルミニウム合金板の組織、特にクラスタ(原子の集合体)の観点から、BH性の向上と、室温時効の抑制を図る点について、種々の提案がなされている。ただ、その多くは、6000系アルミニウム合金板のBH性や室温時効性に直接影響するクラスタ(原子の集合体)の存在状態ついては、あくまでその挙動を間接的に類推するものに過ぎなかった。
これに対して、6000系アルミニウム合金板のBH性や室温時効性に影響するクラスタ(原子の集合体)を直接測定して、規定する試みがなされている。
特許文献1では、6000系アルミニウム合金板の組織を100万倍の透過型電子顕微鏡によって分析した際に観察されるクラスタ(原子の集合体)の内、円等価直径が1〜5nmの範囲のクラスタの平均数密度を4000〜30000個/μm2 の範囲で規定して、BH性に優れ、室温時効を抑制したものとしている。
更に進んで、特許文献2、3では、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により直接測定された特定の原子の集合体(クラスタ)を制御して、室温時効後の車体塗装焼付け処理であっても高いBH性が発揮できる6000系アルミニウム合金板を得ることが提案されている。これら特許文献では、この原子の集合体として、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で10個以上、または30個以上含み、これらに含まれるMg原子かSi原子のいずれの原子を基準としても、その基準となる原子と隣り合う他の原子のうちのいずれかの原子との互いの距離が0.75nm以下であるものとしている。
その上で、特許文献2では、これらの条件を満たす原子の集合体を1.0×105個/μm3以上の平均数密度で含むこととしている。
また、特許文献3では、これらの条件を満たす原子の集合体を原子の集合体を5.0×1023個/m3以上の平均数密度で含むとともに、これらの条件を満たす原子の集合体のうち、最大となる円相当径の半径が1.5nm未満のサイズの原子の集合体の平均数密度を10.0×1023個/m3以下に規制する一方、この最大となる円相当径の半径が1.5nm未満のサイズの原子の集合体の平均数密度aと、最大となる円相当径の半径が1.5nm以上のサイズの原子の集合体の平均数密度bとの比a/bが3.5以下となるように、前記最大となる円相当径の半径が1.5nm以上のサイズの原子の集合体を含むこととしている。
一方、本発明におけるSnの添加に関係する先行特許として、6000系アルミニウム合金板にSnを積極的に添加し、室温時効を抑制と焼付け塗装硬化を向上させる方法も特許文献4、5のほか多数提案されている。例えば、特許文献4はMgとSiの成分関係を-2.0>4Mg-7Siと限定し、経時変化抑制効果を有するSnを適量添加し、また溶体化処理後に予備時効を施すことで、室温時効抑制と焼付け塗装硬化を兼備する方法が兼備されている。また、特許文献5はMgとSiの成分関係を-2.0≦4Mg-7Si≦1.0と限定し、経時変化抑制効果を有するSnと成形性を向上させるCuを添加し、かつ亜鉛系めっきを施すことで成形性、焼付け塗装性、耐食性を向上させる方法が提案されている。
特開2009−242904号公報 特開2012−193399号公報 特開2013−60627号公報 特開平09-249950号公報 特開平10-226894号公報
ただし、自動車の燃費向上の要求は依然高く、より一層の軽量化が促進しつつある。これにより、アルミニウム合金板の薄肉化が要求される傾向にある。これに対して、原子の集合体(クラスタ)について、間接的な測定によってその挙動を類推している従来技術か、またはTEM観察にて評価した比較的大きな原子の集合体の大きさや数密度を制御するにとどまっている特許文献1では、原子の集合体を、正確にあるいは詳細に評価できていない。このため、原子集合体の緻密な制御ができておらず、室温時効後のBH性が不十分であった。また、100万倍の透過型電子顕微鏡か、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により、直接測定された特定の原子の集合体(クラスタ)を制御している特許文献2、3も、長時間の室温時効後の高いBH性と良好な加工性とを兼備するのには、未だ改善の余地があった。この点は、6000系アルミニウム合金板にSnを積極的に添加した特許文献4、5などでも同様である。
このような課題に鑑み、本発明の目的は、組織中の原子の集合体をより詳細に評価することによって、室温時効後の車体塗装焼付け処理であっても、高いBH性と良好な加工性が発揮できるAl―Si―Mg系アルミニウム合金板を提供することである。
この目的を達成するために、本発明の焼付け塗装硬化性に優れたアルミニウム合金板の要旨は、質量%で、Mg:0.2〜2.0%、Si:0.3〜2.0%、Sn:0.005〜0.3%を各々含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg−Si系アルミニウム合金板であって、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された全てのMg原子とSi原子との個数の和をNtotalとする一方、この3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された原子の集合体として、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で10個以上含むとともに、これらのMg原子かSi原子のいずれの原子を基準としても、その基準となる原子と隣り合う他の原子のうちのいずれかの原子との互いの距離が0.75nm以下である条件を満たす原子集合体の全部に含有された、全てのMg原子とSi原子との個数の和をNclusterとした時、このNclusterの前記Ntotalに対する割合(Ncluster/Ntotal)×100が、1%以上、15%以下であり、かつ前記原子の集合体の円相当径の平均半径が1.20nm以上、1.50nm以下であることとする。
本発明では、Snを含むAl−Mg−Si系アルミニウム合金板について、3DAPにより測定される原子の集合体(クラスタ)のうち、前記原子間の互いの距離が0.75nm以下の微細なクラスタを数多く存在させることを前提とする。そして、更に、これらクラスタ中に存在するMgとSiとの総量(合計量)を、マトリックスに固溶するMgとSiとの合計量とバランスさせるとともに、前記クラスタのサイズの分布状態もクラスタの円相当径の平均半径として制御して、BH性を高める。
前記の通り規定したクラスタ中に存在するMg原子とSi原子との総量を、マトリックスに固溶するMgとSiとの合計量とのバランスさせた上で確保すれば、BH性を高くできる。また、6000系アルミニウム合金板に含まれるMgとSiは、本発明で規定したクラスタとマトリックスへの固溶以外の態様として、規定よりも粗大なクラスタか、更に粗大な析出物あるいは金属間化合物に含まれて存在する可能性がある。これに対して、クラスタ中に存在するMgとSiとの合計量を、マトリックスに固溶するMgとSiとの合計量とのバランスの上で制御すれば、MgとSiとに起因する、粗大なクラスタか、更に粗大な析出物あるいは金属間化合物自体を減らすことにもつながる。
更に、前記クラスタのサイズの分布状態もBH性に大きく影響し、Snを含むAl−Mg−Si系アルミニウム合金板のBH性向上のためには、前記原子の集合体の円相当径の平均半径が1.20nm以上、1.50nm以下とすることも合わせて必要である。これら、クラスタ中に存在するMg原子とSi原子との総量と、クラスタのサイズの分布状態とを合わせて制御することによって、100日間の長時間室温時効した場合であっても、成形性もよく、より高いBH性も発揮できるAl―Si―Mg系アルミニウム合金板を提供できる。
以下に、本発明の実施の形態につき、要件ごとに具体的に説明する。
クラスタ(原子の集合体):
先ず、本発明でいうクラスタの意味につき説明する。本発明でいうクラスタとは、前記特許文献2、3と同様に、後述する3DAPにより測定される原子の集合体(クラスタ)を言い、以下の記載では主としてクラスタと表現する。6000系アルミニウム合金においては、溶体化および焼入れ処理後に、室温保持、あるいは50〜150℃の熱処理中に、Mg、Siがクラスタと呼ばれる原子の集合体を形成することが知られている。但し、これら室温保持と50〜150℃の熱処理中とで生成するクラスタは、全くその挙動(性質)が異なる。
室温保持で形成されるクラスタは、その後の人工時効又は焼付塗装処理において強度を上昇させるGPゾーン或いはβ’相の析出を抑制する。一方、50〜150℃で形成されるクラスタ(或いはMg/Siクラスタ)は、逆に、GPゾーン或いはβ’相の析出を促進することが示されている(例えば、山田ら:軽金属vol.51、第215頁に記載)。
ちなみに、前記特許文献1では、その段落0021〜0025にかけて、これらのクラスタが、従来では、比熱測定や3DAP(3次元アトムプローブ)等によって解析されていると記載されている。そして、同時に、3DAPによるクラスタの解析では、観察されることによって、クラスタ自体の存在は裏付けられても、本発明で規定する前記クラスタのサイズや数密度までは不明或いは限定的にしか測定できなかったと記載されている。
確かに、6000系アルミニウム合金において、前記クラスタを3DAP(3次元アトムプローブ)によって解析する試みは従来からされている。しかし、前記前記特許文献1に記載する通り、クラスタ自体の存在は裏付けられても、そのクラスタのサイズや数密度までは不明であった。これは、3DAPにより測定される原子の集合体(クラスタ)のうちの、どのクラスタとBH性とが大きく相関するのか不明であり、BH性に大きく関わる原子の集合体がどれであるのか不明であったことによる。
これに対して、本発明者らは、前記特許文献2において、BH性に大きく関わるクラスタを明確化した。すなわち、3DAPにより測定されるクラスタのうち、前記規定の通り、Mg原子かSi原子かを合計で特定以上含み、これらに含まれる隣り合う原子同士の互いの距離が特定以下であるような特定のクラスタと、BH性とが大きく相関することを知見した。そして、これらの条件を満たす原子の集合体の数密度を増すことによって、室温時効後に車体塗装焼付け処理された場合でも、高いBH性が発揮できることを知見した。
この前記特許文献2によれば、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で30個以上含み、互いに隣り合う原子同士の距離が0.75nm以下であるクラスタの存在が、BH性を向上させる。そして、これらクラスタを一定量以上存在させることで、室温時効したAl―Si―Mg系アルミニウム合金板を、150℃×20分の低温、短時間化された車体塗装焼付け処理の場合であっても、より高いBH性を発揮させることができるとしている。
これに対して、本発明者らは、3DAPにより測定されるクラスタのうち、前記クラスタを多く存在させることは、確かにBH性を向上させるものの、それだけではまだ向上効果が十分ではないことを知見した。言い換えると、前記クラスタを多く存在させることは、BH性向上の前提条件(必要条件)ではあるものの、必ずしも十分条件ではないことを知見した。
このため、本発明者らは、更に前記特許文献3を出願した。これは、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を含むクラスタには当然ながら、そのサイズ(大きさ)の違い(分布)があり、クラスタの大きさによるBH性への作用の大きな違いがあるという考え方に基づく。比較的小さなサイズのクラスタはBH性を阻害する一方で、比較的大きなサイズのクラスタはBH性を促進するという、クラスタの大きさによるBH性への作用の正反対の違いがある。これに基づけば、前記特定のクラスタのうち、比較的小さなサイズのクラスタを少なくし、比較的大きなサイズのクラスタを多くすれば、よりBH性が向上できることとなる。比較的小さなサイズのクラスタは、BH処理時(人工時効硬化処理時)には消滅するものの、却って、このBH時に、強度向上に効果の高い大きなクラスタの析出を阻害してBH性を低くしていると推考される。一方で、比較的大きなサイズのクラスタは、BH処理時に成長して、BH処理時の析出物の析出を促進して、BH性を高くすると推考される。
その後の研究により、Snを含むAl−Mg−Si系アルミニウム合金板において、前記した原子の集合体(クラスタ)と固溶しているMg、Si量のバランスも、BH性およびBH処理後の強度に大きく影響することを知見した。すなわち、本発明は、前記規定条件を満たす原子の集合体に含有しているMg、Si原子とマトリックスに存在するMg、Siの割合を制御することによって、焼付け塗装前の強度を高くしつつ、BH性を高くできるという知見に基づいている。
また、同時に、Snを含むAl−Mg−Si系アルミニウム合金板においては、大きすぎるクラスタは、BH処理時に成長すると、サイズが大きくなりすぎてしまい、逆にBH性を低下させるとともに、BH処理前の強度が高くなりすぎてしまい、加工性が劣化することも見出した。つまり、加工性を劣化させずにBH性を高くするためには、最適なサイズのクラスタが存在することも知見した。前記特定の原子の集合体のサイズの分布状態は重要だが、これら前記特定の原子の集合体の平均サイズである円相当径の平均半径も、BH性に大きく影響することも知見した。すなわち、Snを含むAl−Mg−Si系アルミニウム合金板のBH性向上のためには、前記特定の原子の集合体の円相当径の平均半径が特定の範囲である1.20nm以上、1.50nm以下であることがBH性向上に必要である。
(本発明のクラスタ規定)
以下に、本発明のクラスタの規定につき具体的に説明する。
本発明がクラスタを規定するアルミニウム合金板は、前記した通り、熱間圧延板や冷間圧延板などの圧延板であって、溶体化処理および焼入れ処理などの調質が施された後であって、プレス成形などによってパネルに成形加工される前の板(焼付け塗装硬化処理などの人工時効硬化処理される前の板)のことを言う。ただ、前記自動車部材などとして成形されるには、板の製造後0.5〜4ヶ月間程度の比較的長期に亙って室温放置されることが多い。このため、この長期に亘って室温放置された後の板の組織状態であっても、本発明で規定する組織とすることが好ましい。この点、長期の室温経時後の特性を問題とする場合には、100日程度の室温経時後では特性が変化せず、組織も変化していないことが予想されるため、十分に室温経時が進行した、前記一連の調質が施された後、100日以上が経過した後の板の組織と特性を、調査および評価することがより好ましい。
(本発明のクラスタの定義)
このようなアルミニウム合金板の任意の板厚中央部における組織を、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定する。この測定された組織に存在するクラスタとして、本発明では、先ず、そのクラスタが、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で10個以上含むものとする。なお、この原子の集合体に含まれるMg原子やSi原子の個数は多いほどよく、その上限は特に規定しないが、製造限界からすると、このクラスタに含まれるMg原子やSi原子の個数の上限は概ね10000個程度である。
前記特許文献2では、そのクラスタが、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で30個以上含むものとしている。しかし、本発明は、前記した通り、比較的小さなサイズのクラスタはBH性を阻害するので、これを規制して少なくする。このため、この規制すべき比較的小さなサイズのクラスタを、測定可能な範囲で制御するために、前記特許文献3と同様に、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で10個以上含むものと規定する。
本発明では、前記特許文献2、3と同様に、さらに、これらクラスタに含まれるMg原子かSi原子のいずれの原子を基準としても、その基準となる原子と隣り合う他の原子のうちのいずれかの原子との互いの距離が0.75nm以下であるものを、本発明で規定する(本発明の規定を満たす)原子の集合体(クラスタ)とする。この互いの距離0.75nmは、MgやSiの互いの原子間の距離が近接し、室温時効後のBH性向上効果がある大きなサイズのクラスタの数密度を保障し、逆に、小さなサイズのクラスタを規制し、数密度を少なく制御するために定めた数値である。本発明者らは、これまでに車体塗装焼付け処理で高いBH性を発揮できるアルミ合金板と原子レベルの集合体の関係を詳細に検討した結果、上記定義で規定される原子集合体の数密度が大きいことが、高いBH性を発揮する組織形態であることを実験的に見出した。従って、原子間の距離0.75nmの技術的意味合いは十分に明らかになっていないが、高いBH性を発揮する原子集合体の数密度を厳密に保証するために必要であり、そのために定めた数値である。
本発明で規定するクラスタは、Mg原子とSi原子とを両方含む場合が最も多いものの、Mg原子を含むがSi原子を含まない場合や、Si原子を含むがMg原子を含まない場合を含む。また、Mg原子やSi原子だけで構成されるとは限らず、これらに加えて、非常に高い確率でAl原子を含む。
更に、本発明が対象とする、Snを含むAl−Mg−Si系アルミニウム合金板の成分組成によっては、合金元素や不純物として含む、Sn、Fe、Mn、Cu、Cr、Zr、V、Ti、ZnあるいはAgなどの原子がクラスタ中に含まれ、これらその他の原子が3DAP分析によりカウントされる場合が必然的に生じる。しかし、これらその他の原子(合金元素や不純物由来)がクラスタに含まれるとしても、Mg原子やSi原子の総数に比べると少ないレベルである。それゆえ、このような、その他の原子をクラスタ中に含む場合でも、前記規定(条件)を満たすものは、本発明のクラスタとして、Mg原子やSi原子のみからなるクラスタと同様に機能する。したがって、本発明で規定するクラスタは、前記した規定さえ満足すれば、他にどんな原子を含んでも良い。
また、本発明の「これらに含まれるMg原子かSi原子のいずれの原子を基準としても、その基準となる原子と隣り合う他の原子のうちのいずれかの原子との互いの距離が0.75mm以下である」とは、クラスタに存在する全てのMg原子やSi原子が、その周囲に互いの距離が0.75nm以下であるMg原子やSi原子を少なくとも1つ有しているという意味である。
本発明のクラスタにおける、原子同士の距離の規定は、これらに含まれるMg原子かSi原子のいずれの原子を基準としても、その基準となる原子と隣り合う他の原子のうちの全ての原子の距離が各々全て0.75nm以下にならなくてもよく、反対に、各々全て0.75nm以下になっていてもよい。言い換えると、距離が0.75nmを超える他のMg原子やSi原子が隣り合っていても良く、特定の(基準となる)Mg原子かSi原子の周りに、この規定距離(間隔)を満たす、他のMg原子かSi原子が最低1個あればいい。
そして、この規定距離を満たす隣り合う他のMg原子かSi原子が1個ある場合には、距離の条件を満たす、カウントすべきMg原子かSi原子の数は、特定の(基準となる)Mg原子かSi原子を含めて2個となる。また、この規定距離を満たす隣り合う他のMg原子かSi原子が2個ある場合には、距離の条件を満たす、カウントすべきMg原子かSi原子の数は、特定の(基準となる)Mg原子かSi原子を含めて3個となる。
以上説明したクラスタは、前記し、また詳しくは後述する、圧延後の調質における、溶体化および高温での焼入れ停止後の温度保持処理によって生成させるクラスタである。すなわち、本発明でのクラスタは、溶体化および高温での焼入れ停止後の温度保持処理によって生成させる原子の集合体であって、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で10個以上含み、これらに含まれるMg原子かSi原子のいずれの原子を基準としても、その基準となる原子と隣り合う他の原子のうちのいずれかの原子との互いの距離が0.75nm以下のクラスタである。
(クラスタ中のMgとSiの量)
本発明では、以上のように定義される(前提条件を満たす)クラスタであって、Snを含むAl−Mg−Si系アルミニウム合金板全体に含まれる、クラスタ全部の中に存在するMgとSiとの原子の総量を、前記アルミニウム合金板全体が含有するMgとSiの合計量との関係で制御する。これは、前記定義されるクラスタの中に存在するMgとSiとの原子の総量と、前記アルミニウム合金板のマトリックスに固溶するMgとSiとの原子の合計量とのバランスを適切に制御していることとなる。これによってBH性を高くできる。
このバランス制御のために、本発明では、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定されることを前提に、測定された特定のクラスタ(原子集合体)に含有される全てのMg、Si原子の個数の和(総量)であるNclusterを、測定された全てのMg、Si原子の個数の和(総量)であるNtotalに対して、一定の割合とする。
すなわち、前記NclusterのNtotalに対する割合(Ncluster/Ntotal)×100を1%以上、15%以下の範囲とする。ここで、この(Ncluster/Ntotal)×100で計算されるNclusterのNtotalに対する割合は、再現性の点で、後述する実施例の通り、供試板の板厚中央部の複数測定個所での平均(平均割合)とする。
このようなバランスのとれた組織とすることにより、板の製造後に室温保持(室温放置)100日後において、焼付け塗装後の強度が200MPa以上、BH性(焼付け塗装処理前後での強度差)90MPa超を実現できる。
ただ、このような組織とBH性との相関性の事実は実験的に見出したもので、その機構は未だ十分には解明できていない。ただ、前記したNclusterのNtotalに対する平均割合(Ncluster/Ntotal)×100が1%未満では、アルミニウム合金板に固溶するMgとSiとが多くなる結果、クラスタによる析出強化が弱くなって、固溶強化の限界から、焼付け塗装前の強度が低くなる。このため、焼付け塗装後の強度も必然的に低くなりやすい。
一方、前記したNclusterのNtotalに対する平均割合(Ncluster/Ntotal)×100が15%を超えた場合、クラスタに含有されるMgとSi量が多すぎて、アルミニウム合金板に固溶するMgとSiとが少なくなる。このため、人工時効硬化処理時に生成する強化相(β’’)の数が減って、BH性が低くなりやすく、このため焼付け塗装後の強度も低くなりやすい。
(クラスタの密度)
前記したNclusterのNtotalに対する平均割合(Ncluster/Ntotal)×100を1%〜15%の範囲内に制御するためには、本発明で規定するクラスタを2.5×1023個/m3以上の平均数密度で含むことが好ましい。このクラスタの平均数密度が2.5×1023個/m3よりも少なすぎると、このクラスタ自体の形成量が不十分となり、前記室温時効で形成されるクラスタに、添加した(含有する)MgやSiの多くが消費されていることを意味する。このため、クラスタの中に存在するMgとSiとの総量を前記1%以上とすることが難しくなり、長期に亙る室温放置(室温時効)後では、BH性の向上効果が低下する。ちなみに、このクラスタの平均数密度の好ましい範囲としては2.5×1023個/m3以上、20.0×1023個/m3以下の平均数密度範囲である。
(本発明クラスタのサイズ分布規定)
本発明では、Snを含むAl−Mg−Si系アルミニウム合金板において、前記したクラスタ中のMgとSiとの原子の総量の制御とともに、更に、これらの条件を満たす原子の集合体の、円相当径の平均半径を1.20nm以上、1.50nm以下とする。前記MgとSiとの原子の総量が制御されたクラスタで、そのサイズが円相当径の平均半径E(r)で1.20nm以上、1.50nm以下の範囲のものは、BH時に、強度向上に効果が高い(強度向上に寄与する)β´´あるいはβ´などの中間析出物となって析出する。したがって、プレス成形や曲げ加工の段階では強度が低く加工性が良く、BH後に始めて強度が高くなる特性を有することができる。
前記原子の集合体の円相当径の平均半径E(r)(nm)は、E(r)=(1/n)Σrで表される。ここで、nは前記前提条件を満足する原子の集合体の個数である。rは前記前提条件を満足する個々の原子の集合体の円相当径の半径(nm)である。
前記円相当径の平均半径E(r)が小さすぎる原子の集合体(クラスタ)は、BH処理時(人工時効硬化処理時)に消滅し、このBH時に、強度向上に効果が高いβ´´あるいはβ´などの中間析出物の析出を抑制して、BH性を阻害する。一方、円相当径の平均半径E(r)が大きすぎる原子の集合体(クラスタ)も、BH処理以前(手前あるいは事前)の時点で、室温時効によって、既にβ´´あるいはβ´などの中間析出物となって析出してしまい、却ってBH前の強度を高くしすぎて、プレス成形性や曲げ加工性を阻害する。また、BH処理の前の時点で既にβ´´あるいはβ´などの中間析出物となって析出してしまっていると、BH時に、新たなβ´´あるいはβ´などの中間析出物が析出するのを抑制してしまい、やはりBH性を阻害する。ちなみに、前記β´´、β´ともに中間析出相であり、ともにMgSiだが、結晶構造(原子の並び方)が異なり、別表現をするのが難しいので、「´」が使用できない場合は、β´はβプライム、β´´はβダブルプライムと称される。
このように、前記MgとSiとの原子の総量が制御されたクラスタであっても、BHを阻害するサイズが小さなクラスタが多いと、円相当径の平均半径が1.20nm未満と小さくなり、BH性が低下する。一方、本発明で規定するクラスタであっても、BHを阻害するサイズが大きなクラスタが多くても、前記規定のうち、円相当径の平均半径が1.50nmを超えて大きくなり、BH前の強度を高くしすぎて、プレス成形性や曲げ加工性が低下し、BH性も低下する。
これに対して、前記した前提条件を満たす原子の集合体で、そのサイズが円相当径の平均半径E(r)で1.20nm以上、1.50nm以下の範囲のものは、このBH時に、強度向上に効果が高い(強度向上に寄与する)β´´あるいはβ´などの中間析出物となって析出する。したがって、プレス成形や曲げ加工の段階では強度が低く加工性が良く、BH後に始めて強度が高くなる特性を有することができる。
(3DAPの測定原理と測定方法)
本発明の3DAPの測定原理と測定方法は、前記特許文献2、3に開示されている。すなわち、3DAP(3次元アトムプローブ)は、電界イオン顕微鏡(FIM)に、飛行時間型質量分析器を取り付けたものである。このような構成により、電界イオン顕微鏡で金属表面の個々の原子を観察し、飛行時間質量分析により、これらの原子を同定することのできる局所分析装置である。また、3DAPは、試料から放出される原子の種類と位置とを同時に分析可能であるため、原子の集合体の構造解析上、非常に有効な手段となる。このため、公知技術として、前記した通り、磁気記録膜や電子デバイスあるいは鋼材の組織分析などに使用されている。また、最近では、前記した通り、アルミニウム合金板の組織のクラスタの判別などにも使用されている。
この3DAPでは、電界蒸発とよばれる高電界下における試料原子そのもののイオン化現象を利用する。試料原子が電界蒸発するために必要な高電圧を試料に印加すると、試料表面から原子がイオン化されこれがプローブホールを通りぬけて検出器に到達する。
この検出器は、位置敏感型検出器であり、個々のイオンの質量分析(原子種である元素の同定)とともに、個々のイオンの検出器に至るまでの飛行時間を測定することによって、その検出された位置(原子構造位置)を同時に決定できるようにしたものである。したがって、3DAPは、試料先端の原子の位置及び原子種を同時に測定できるため、試料先端の原子構造を、3次元的に再構成、観察できる特長を有する。また、電界蒸発は、試料の先端面から順次起こっていくため、試料先端からの原子の深さ方向分布を原子レベルの分解能で調べることができる。
この3DAPは高電界を利用するため、分析する試料は、金属等の導電性が高いことが必要で、しかも、試料の形状は、一般的には、先端径が100nmφ前後あるいはそれ以下の極細の針状にする必要がある。このため、測定対象となるアルミニウム合金板の板厚中央部などから試料を採取して、この試料を精密切削装置で切削および電解研磨して、分析用の極細の針状先端部を有する試料を作製する。測定方法としては、例えば、Imago Scientific Instruments 社製の「LEAP3000」を用いて、この先端を針状に成形したアルミニウム合金板試料に、1kVオーダーの高パルス電圧を印加し、試料先端から数百万個の原子を継続的にイオン化して行う。イオンは、位置敏感型検出器によって検出し、パルス電圧を印加されて、試料先端から個々のイオンが飛び出してから、検出器に到達するまでの飛行時間から、イオンの質量分析(原子種である元素の同定)を行う。
更に、電界蒸発が、試料の先端面から順次規則的に起こっていく性質を利用して、イオンの到達場所を示す、2次元マップに適宜深さ方向の座標を与え、解析ソフトウエア「IVAS」を用いて、3次元マッピング(3次元での原子構造:アトムマップの構築)を行う。これによって、試料先端の3次元アトムマップが得られる。
この3次元アトムマップを、更に、析出物やクラスタに属する原子を定義する方法であるMaximum Separation Methodを用いて、原子の集合体(クラスタ)の解析を行う。この解析に際しては、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方の数(合計で10個以上)と、互いに隣り合うMg原子かSi原子か同士の距離(間隔)、そして、前記特定の狭い間隔(0.75nm以下)を有するMg原子かSi原子かの数をパラメータとして与える。
そして、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で10個以上含み、これらに含まれるMg原子かSi原子のいずれの原子を基準としても、その基準となる原子と隣り合う他の原子のうちのいずれかの原子との互いの距離が0.75nm以下であり、これらの条件を満たすクラスタを、本発明の原子の集合体と定義する。その上で、この定義に当てはまる原子の集合体の分散状態を評価して、原子の集合体の数密度を、測定試料数が3個以上で平均化して、1m3当たりの平均密度(個/m3)として計測し、定量化する。
そいて、この条件を満たす全ての原子の集合体に含有されるMgとSiの原子の個数Nclusterを求める。また検出器にて検出された、固溶と原子集合体の両方に含まれる、すなわち、3DAPによって測定される全てのMgとSiの原子の個数Ntotalを求める。そして、NclusterのNtotalに対する割合を、Ncluster/Ntotal×100の式からを求め、この平均値(平均割合)が1%以上、15%以下となるように制御する。
また、前記3DAPが元々有する固有の解析ソフトによって、測定対象となった前記原子の集合体を球と見なした際の、最大となる回転半径lを下記数1の式により求める。
この数1の式において、lは3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡の固有のソフトウエアにより自動的に算出される回転半径である。x、y、zは3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡の測定レイアウトにおいて不変のx、y、z軸である。x、y、zは、このx、y、z軸の長さで、前記原子の集合体を構成するMg、Si原子の空間座標である。「x」「y」「z」の上に各々「−」が乗った「エックスバー」なども、このx、y、z軸の長さだが、前記原子の集合体の重心座標である。nは前記原子の集合体を構成するMg、Si原子の数である。
次に、この回転半径lをギニエ半径rに下記数2の式、r=√(5/3)・lの関係により換算する。
この換算されたギニエ半径rを原子の集合体の半径とみなし、測定対象となった前記原子の集合体の各々の最大となる円相当径rを算出する。また、前記前提条件を満足する原子の集合体の個数nも算出する。更に、この個数nから前記前提条件を満足する原子の集合体の平均数密度(個/m3)も算出できる。
これら3DAPによるクラスタの測定は、前記調質が施された後のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板の任意の板厚中央部の部位10箇所について行い、これらの前記各測定値(算出値)を平均化して、本発明で規定する各平均の値とする。
そして、この算出した最大となる円相当径rと前記前提条件を満足する原子の集合体の個数nから、前記原子の集合体の円相当径の平均半径E(r)(nm)を、前記したE(r)=(1/n)Σrの式から求める。
(3DAPによる原子の検出効率)
これら3DAPによる原子の検出効率は、現在のところ、イオン化した原子のうちの50%程度が限界であり、残りの原子は検出できない。この3DAPによる原子の検出効率が、将来的に向上するなど、大きく変動すると、本発明が規定する各サイズのクラスタの平均個数密度(個/μm3 )の3DAPによる測定結果が変動してくる可能性がある。したがって、この測定に再現性を持たせるためには、3DAPによる原子の検出効率は約50%と略一定にすることが好ましい。
(化学成分組成)
次に、6000系アルミニウム合金板の化学成分組成について、以下に説明する。本発明が対象とする6000系アルミニウム合金板は、前記した自動車の外板用の板などとして、優れた成形性やBH性、強度、溶接性、耐食性などの諸特性が要求される。
このような要求を満足するために、アルミニウム合金板の組成は、質量%で、Mg:0.2〜2.0%、Si:0.3〜2.0%、Sn:0.005〜0.3%を各々含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものとする。なお、各元素の含有量の%表示は全て質量%の意味である。
本発明が対象とする6000系アルミニウム合金板は、BH性がより優れた、SiとMgとの質量比Si/ Mgが1 以上であるような過剰Si型の6000系アルミニウム合金板とされるのが好ましい。6000系アルミニウム合金板は、プレス成形や曲げ加工時には低耐力化により成形性を確保するとともに、成形後のパネルの塗装焼付処理などの、人工時効処理時の加熱により時効硬化して耐力が向上し、必要な強度を確保できる優れた時効硬化能(BH性)を有している。この中でも、過剰Si型の6000系アルミニウム合金板は、質量比Si/ Mgが1未満の6000系アルミニウム合金板に比して、このBH性がより優れている。
本発明では、これらMg、Si以外のその他の元素は基本的には不純物あるいは含まれても良い元素であり、AA乃至JIS 規格などに沿った各元素レベルの含有量 (許容量) とする。
すなわち、資源リサイクルの観点から、本発明でも、合金の溶解原料として、高純度Al地金だけではなく、Mg、Si以外のその他の元素を添加元素(合金元素)として多く含む6000系合金やその他のアルミニウム合金スクラップ材、低純度Al地金などを多量に使用した場合には、下記のような他の元素が必然的に実質量混入される。そして、これらの元素を敢えて低減する精錬自体がコストアップとなり、ある程度含有する許容が必要となる。また、実質量含有しても、本発明目的や効果を阻害しない含有範囲がある。
したがって、本発明では、このような下記元素を各々以下に規定するAA乃至JIS 規格などに沿った上限量以下の範囲での含有を許容する。具体的には、Mn:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Cu:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Fe:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Cr:0.3%以下(但し、0%を含まず)、Zr:0.3%以下(但し、0%を含まず)、V:0.3%以下(但し、0%を含まず)、Ti:0.05%以下(但し、0%を含まず)、Zn:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Ag:0.2%以下(但し、0%を含まず)の1種または2種以上を、この範囲で、上記した基本組成に加えて、更に含んでも良い。なお、これらの元素を含有する場合、Cuは含有量が多いと耐食性を劣化させやすいので、好ましくはCuの含有量を0.7%以下、より好ましくは0.3%以下とする。また、Mn、Fe、Cr、Zr、Vは含有量が多いと比較的粗大な化合物を生成しやすく、ヘム曲げ性を劣化させやすい。このため、Mn含有量は好ましくは、0.6%以下、より好ましくは0.3%以下、Cr、Zr、V含有量は好ましくは0.2%以下、より好ましくは0.1%以下と各々する。上記6000系アルミニウム合金における、各元素の含有範囲と意義、あるいは許容量について以下に説明する。
Si:0.3〜2.0%
SiはMgとともに、本発明で規定する前記クラスタ形成の重要元素である。また、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの人工時効処理時に、強度向上に寄与する時効析出物を形成して、時効硬化能を発揮し、自動車のアウタパネルとして必要な強度(耐力)を得るための必須の元素である。更に、本発明6000系アルミニウム合金板にあって、プレス成形性に影響する全伸びなどの諸特性を兼備させるための最重要元素である。また、パネルへの成形後の塗装焼き付け処理での優れた時効硬化能を発揮させるためには、Si/ Mgを質量比で1.0以上とし、一般に言われる過剰Si型よりも更にSiをMgに対し過剰に含有させた6000系アルミニウム合金組成とすることが好ましい。
Si含有量が少なすぎると、Siの絶対量が不足するため、本発明で規定する前記クラスタを規定する数密度だけ形成させることができず、塗装焼付け硬化性が著しく低下する。更には、各用途に要求される全伸びなどの諸特性を兼備することができない。一方、Si含有量が多すぎると、粗大な晶出物および析出物が形成されて、曲げ加工性や全伸び等が著しく低下する。更に、溶接性も著しく阻害される。したがって、Siは0.3〜2.0%の範囲とする。さらに好ましい下限値は0.6%であり、さらに好ましい上限値は1.4%である。
Mg:0.2〜2.0%
Mgも、Siとともに本発明で規定する前記クラスタ形成の重要元素である。また、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの前記人工時効処理時に、Siとともに強度向上に寄与する時効析出物を形成して、時効硬化能を発揮し、パネルとしての必要耐力を得るための必須の元素である。
Mg含有量が少なすぎると、Mgの絶対量が不足するため、本発明で規定する前記クラスタを規定する数密度だけ形成させることができず、塗装焼付け硬化性が著しく低下する。このためパネルとして必要な耐力が得られない。一方、Mg含有量が多すぎると、粗大な晶出物および析出物が形成されて、曲げ加工性や全伸び等が著しく低下する。したがって、Mgの含有量は0.2〜2.0%の範囲とする。さらに好ましい下限値は0.3%であり、さらに好ましい上限値は1.0%である。また、好ましくはSi/ Mgが質量比で1.0以上となるような量とする。
Sn:0.005〜0.3%
Snは、室温において空孔をトラップすることで、室温での拡散を抑制し、室温におけるクラスタ生成を抑制する。このため、室温時効初期(7日)、室温時効後期(100日)ともにAs耐力を低減し、ヘム加工性を向上させる効果がある。また焼付け塗装された際の高温時にはトラップしていた空孔を放出するため、逆に拡散を促進し、BH性を高くすることができる。このため、Snを含有していない場合と比べて、同程度のクラスタ数密度であっても、Snを含有した場合はBH性を高くすることが可能となる。Snの含有量が少なすぎると、室温におけるクラスタ生成を抑制できず、クラスタの数密度が多すぎたり、前記したNclusterのNtotalに対する平均割合(Ncluster/Ntotal)×100が15%を超える場合が生じる。このため、100日間室温保持後の、As耐力が高すぎてプレス成形性やヘム加工性に劣り、人工時効硬化処理時に生成する強化相(β’’)の数が減って、BH性が低くなりやすい。したがって、Snの含有量は0.005〜0.3%の範囲とする。さらに好ましい下限値は0.01%であり、さらに好ましい上限値は0.2%である。Snを含有したAl―Si―Mg系アルミニウム合金板は、後述する通り、組織的にも、Snを含有しないものと比較して異なる。ただ、同じようにSnを含有しても、製造条件が違えば、この組織は異なるため、本発明の高いレベルで室温時効を抑制するとともに焼付け塗装硬化を向上させる効果のある組織が得られるとは限らない。
(製造方法)
次ぎに、本発明アルミニウム合金板の製造方法について以下に説明する。本発明アルミニウム合金板は、製造工程自体は常法あるいは公知の方法であり、上記6000系成分組成のアルミニウム合金鋳塊を鋳造後に均質化熱処理し、熱間圧延、冷間圧延が施されて所定の板厚とされ、更に溶体化焼入れなどの調質処理が施されて製造される。
但し、これらの製造工程中で、BH性を向上させるために本発明のクラスタを制御するためには、後述する通り、溶体化および焼入れ処理および適正な焼入れ(冷却)停止温度と、その温度範囲での保持をより適正に制御する必要がある。また、他の工程においても、本発明の規定範囲内に前記クラスタを制御するための好ましい条件もある。
(溶解、鋳造冷却速度)
先ず、溶解、鋳造工程では、上記6000系成分組成範囲内に溶解調整されたアルミニウム合金溶湯を、連続鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。ここで、本発明の規定範囲内にクラスタを制御するために、鋳造時の平均冷却速度について、液相線温度から固相線温度までを30℃/分以上と、できるだけ大きく(速く)することが好ましい。
このような、鋳造時の高温領域での温度(冷却速度)制御を行わない場合、この高温領域での冷却速度は必然的に遅くなる。このように高温領域での平均冷却速度が遅くなった場合、この高温領域での温度範囲で粗大に生成する晶出物の量が多くなって、鋳塊の板幅方向,厚さ方向での晶出物のサイズや量のばらつきも大きくなる。この結果、本発明の範囲に前記規定クラスタを制御することができなくなる可能性が高くなる。
(均質化熱処理)
次いで、前記鋳造されたアルミニウム合金鋳塊に、熱間圧延に先立って、均質化熱処理を施す。この均質化熱処理(均熱処理)は、組織の均質化、すなわち、鋳塊組織中の結晶粒内の偏析をなくすことを目的とする。この目的を達成する条件であれば、特に限定されるものではなく、通常の1回または1段の処理でも良い。
均質化熱処理温度は、500℃以上で融点未満、均質化時間は4時間以上の範囲から適宜選択される。この均質化温度が低いと結晶粒内の偏析を十分に無くすことができず、これが破壊の起点として作用するために、伸びフランジ性や曲げ加工性が低下する。この後、直ちに熱間圧延を開始又は、適当な温度まで冷却保持した後に熱間圧延を開始しても、本発明で規定するクラスタの数密度に制御することはできる。
この均質化熱処理を行った後、300℃〜500℃の間を20〜100℃/hの平均冷却速度で室温まで冷却し、次いで20〜100℃/hの平均加熱速度で350℃〜450℃まで再加熱し、この温度域で熱間圧延を開始することもできる。
この均質化熱処理後の平均冷却速度および、その後の再加熱速度の条件を外れると、粗大なMg−Si化合物が形成される可能性が高くなる。
(熱間圧延)
熱間圧延は、圧延する板厚に応じて、鋳塊 (スラブ) の粗圧延工程と、仕上げ圧延工程とから構成される。これら粗圧延工程や仕上げ圧延工程では、リバース式あるいはタンデム式などの圧延機が適宜用いられる。
この際、熱延(粗圧延)開始温度が固相線温度を超える条件では、バーニングが起こるため熱延自体が困難となる。また、熱延開始温度が350℃未満では熱延時の荷重が高くなりすぎ、熱延自体が困難となる。したがって、熱延開始温度は350℃〜固相線温度、更に好ましくは400℃〜固相線温度の範囲とする。
(熱延板の焼鈍)
この熱延板の冷間圧延前の焼鈍 (荒鈍) は必ずしも必要ではないが、結晶粒の微細化や集合組織の適正化によって、成形性などの特性を更に向上させる為に実施しても良い。
(冷間圧延)
冷間圧延では、上記熱延板を圧延して、所望の最終板厚の冷延板 (コイルも含む) に製作する。但し、結晶粒をより微細化させるためには、冷間圧延率は60%以上であることが望ましく、また前記荒鈍と同様の目的で、冷間圧延パス間で中間焼鈍を行っても良い。
(溶体化および焼入れ処理)
冷間圧延後、溶体化焼入れ処理を行う。溶体化処理焼入れ処理については、通常の連続熱処理ラインによる加熱,冷却でよく、特に限定はされない。ただ、各元素の十分な固溶量を得ること、および前記した通り、結晶粒はより微細であることが望ましいことから、520℃以上、溶融温度以下の溶体化処理温度に、加熱速度5℃/秒以上で加熱して、0〜10秒保持する条件で行うことが望ましい。
また、成形性やヘム加工性を低下させる粗大な粒界化合物形成を抑制する観点から、溶体化温度から焼入れ停止温度までの平均冷却速度が3℃/s以上とすることが望ましい。溶体化の冷却速度が小さいと、冷却中に粗大なMgSiおよび単体Siが生成してしまい、成形性が劣化してしまう。また溶体化後の固溶量が低下し、BH性が低下してしまう。この冷却速度を確保するために、焼入れ処理は、ファンなどの空冷、ミスト、スプレー、浸漬等の水冷手段や条件を各々選択して用いる。
(再加熱処理)
溶体化焼入れ処理後に再加熱処理を行う。この再加熱処理は2段階で行い、1段目を到達温度(加熱温度)80〜250℃の温度範囲で保持時間数秒から数分の範囲で行う。1段目の再加熱処理後の冷却は、放冷でも、生産の効率化のために前記溶体化焼入れ時の冷却手段を用いて強制急冷しても良い。ついで、この1段目の再加熱処理後の冷却終了後、室温での保持時間が24hr以内のうちに、2段目の再加熱を到達温度(加熱温度)70〜130℃の温度範囲で保持時間3〜48hrの範囲で行う。1段目の再加熱処理後の冷却終了後の室温での保持時間が24hrを超えると、室温時効が進みすぎて、2段目の再加熱処理の効果が損なわれる。
このような再加熱処理条件から外れた場合、前記した原子の集合体に含有されるMgとSiとを合計した平均含有量を、アルミニウム合金板が含有するMgとSiとを合計した含有量の10%以上、30%以下とすることが難しくなる。例えば、1段目の再加熱の到達温度が100℃未満、あるいは2段目の再加熱の到達温度が70℃未満であると、BH性を促進するMg−Siクラスタが十分に生成されない。一方、再加熱の到達温度が高すぎると、クラスタとは異なるβ’’やβ’などの金属間化合物相が一部形成するため、クラスタの数密度が未満となりやすく、BH性が低くなりすぎてしまう。またβ’’やβ’が原因で、成形性が悪くなりやすい。
前記2段目の再加熱処理後の室温までの冷却は、放冷でも、生産の効率化のために前記焼入れ時の冷却手段を用いて強制急冷しても良い。すなわち、本発明で規定するサイズが均等あるいは類似のクラスタを前記温度保持処理によって出尽くさせているため、従来の再加熱処理のような強制急冷や、数段にわたる複雑な平均冷却速度の制御は不要である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
次に本発明の実施例を説明する。本発明で規定する組成やクラスタ条件が異なる6000系アルミニウム合金板を、溶体化および焼入れ処理終了後の2段階の再加熱処理条件によって作り分けた。そして、これらの各例の室温に100日間保持後の、組織(クラスタ)と強度、BH性(塗装焼付け硬化性)、プレス成形性や曲げ加工性としてのヘム加工性も各々評価した。
前記クラスタ条件とは、原子の集合体に存在するMgとSiとの原子の総量、円相当径の平均半径、平均数密度である。そして、この原子の集合体とは、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で10個以上含み、これらに含まれるMg原子かSi原子のいずれの原子を基準としても、その基準となる原子と隣り合う他の原子のうちのいずれかの原子との互いの距離が0.75nm以下の条件を満たす原子の集合体である。
アルミニウム合金板の具体的な製造条件は以下の通りとした。表1に示す各組成のアルミニウム合金鋳塊を、DC鋳造法により共通して溶製した。この際、各例とも共通して、鋳造時の平均冷却速度について、液相線温度から固相線温度までを50℃/分とした。各例の6000系アルミニウム合金板の組成を示す表1中の各元素の含有量の表示において、各元素における数値をブランクとしている表示は、その含有量が検出限界以下で、これらの元素を含まない0%であることを示す。
続いて、鋳塊を、各例とも共通して、540℃×4時間均熱処理した後、熱間粗圧延を開始した。そして、各例とも共通して、続く仕上げ圧延にて、厚さ3.5mmまで熱延し、熱間圧延板とした。熱間圧延後のアルミニウム合金板を、各例とも共通して、500℃×1分の荒焼鈍を施した後、冷延パス途中の中間焼鈍無しで加工率70%の冷間圧延を行い、各例とも共通して、厚さ1.0mmの冷延板とした。
更に、この各冷延板を、各例とも共通して、560℃の硝石炉にて溶体化処理を行い、目標温度に到達後10秒保持し、水冷にて焼入れ処理した。この焼入れ処理が終了後、表2に示す各条件にて、100〜250℃での1段目の予備時効処理を行い、室温まで水冷を行った。その後70〜130℃にて2段目の予備時効処理を行い、室温まで水冷にて冷却した。ここで、本実施例では、1段目および2段目の再加熱処理の後に、各々水冷にて冷却を行っているが、この冷却は放冷であっても同様の組織が得られる。
これらの調質処理後100日間室温で放置した後の各板から供試板 (ブランク) を切り出し、各供試板の組織、強度(AS耐力)を測定した。前記3DAPを用いた組織観察はこの調質処理後100日間後の試料についてのみ実施した。これらの結果を表3に示す。
(クラスタ)
前記100日間室温時効後の供試板の板厚中央部の板厚方向断面における組織を前記3DAP法により分析し、前記した各々の解析方法にて、本発明で規定する、クラスタの数密度(×1023個/m3)、円相当径の平均半径(nm)、クラスタに含有される全てのMg、Si原子の個数の総量Nclusterの、測定された全てのMg、Si原子の個数のであるNtotalに対する割合を求めた。
これらの結果を表3に示す。なお、表3では、前記本発明規定のクラスタ条件のうち、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で10個以上含みを、単に「Mg、Si原子10個以上」と簡略化して記載している。また、これらに含まれるMg原子かSi原子のいずれの原子を基準としても、その基準となる原子と隣り合う他の原子のうちのいずれかの原子との互いの距離が0.75nm以下を、単に「距離0.75nm以下」と簡略化して記載している。
これらの3DAP法による測定は、厚さ1mmの供試板から、幅方向に1mmずつ間隔をあけて、長さ30mm×幅1mm×厚さ1mmの角柱を精密切削装置で3本切りだし、その後電解研磨により、角柱を細く加工し、先端の半径が50nmの針状試料を作製した。このため測定箇所は、板厚の中心部近傍を測定していることになる。この先端を針状に成形したアルミニウム合金板試料を、Imago Scientific Instruments 社製の「LEAP3000」を用いて3DAP測定を行った。そして、前記3本の角柱のそれぞれの、クラスタの数密度(×1023個/m3)、円相当径の平均半径(nm)、クラスタに含有される全てのMg、Si原子の個数の総量Nclusterの、測定された全てのMg、Si原子の個数のであるNtotalに対する割合を求めて平均化した。したがって、本実施例での各値は、測定数N=3の平均値である。ちなみに3DAP法による測定体積はおおよそ1.0×10-22〜10-21mm3である。
(塗装焼付硬化性)
前記100日間室温時効後の各供試板の機械的特性として、0.2%耐力(As耐力)および、185℃×20分の人工時効硬化処理した後(BH後)の0.2%耐力(BH後耐力)を同じく引張試験により求めた。そして、これら0.2%耐力同士の差(耐力の増加量)から各供試板のBH性を評価した。
前記引張試験は、前記各供試板から、各々JISZ2201の5号試験片(25mm×50mmGL×板厚)を採取し、室温にて引張り試験を行った。このときの試験片の引張り方向を圧延方向の直角方向とした。引張り速度は、0.2%耐力までは5mm/分、耐力以降は20mm/分とした。機械的特性測定のN数は5とし、各々平均値で算出した。なお、前記BH後の耐力測定用の試験片には、この試験片に、板のプレス成形を模擬した2%の予歪をこの引張試験機により与えた後に、前記BH処理を行った。
(ヘム加工性)
ヘム加工性は、前記調質処理後7日間または100日間室温放置後の各供試板についてのみ行った。試験は、30mm幅の短冊状試験片を用い、ダウンフランジによる内曲げR1.0mmの90°曲げ加工後、1.0mm厚のインナを挟み、折り曲げ部を更に内側に、順に約130度に折り曲げるプリヘム加工、180度折り曲げて端部をインナに密着させるフラットヘム加工を行った。
このフラットヘムの曲げ部(縁曲部)の、肌荒れ、微小な割れ、大きな割れの発生などの表面状態を目視観察し、以下の基準にて目視評価した。
0;割れ、肌荒れ無し、1;軽度の肌荒れ、2;深い肌荒れ、3;微小表面割れ、4;線状に連続した表面割れ、5;破断
発明例を、表1の合金番号0〜9、表2の番号0、1、7、13、19〜24に各々示す通り、各発明例は、本発明成分組成範囲内で、かつ好ましい条件範囲で製造、調質処理を行なっている。このため、これら各発明例は、表3に示す通り、本発明で規定するクラスタ条件を満たしている。すなわち、本発明で既定する条件を満たすクラスタは、好ましい平均数密度(3.0×1024個/m以上)を満たした上で、Nclusterの前記Ntotalに対する割合(Ncluster/Ntotal)×100が1%以上、15%以下であり、かつ円相当径の平均半径が1.20nm以上、1.50nm以下である。
この結果、各発明例は、表3に示す通り、100日間などの長期の室温時効後であっても、BH性に優れ、As耐力が比較的低いために自動車パネルなどへのプレス成形性に優れ、ヘム加工性にも優れている。すなわち、本発明例によれば、100日間の長期間室温時効した後に車体塗装焼付け処理された場合であっても、耐力差が100MPa以上のより高いBH性や、プレス成形性や曲げ加工性が発揮できるAl―Si―Mg系アルミニウム合金板を提供できることが分かる。
表2の比較例2〜6、8〜12、14〜18は表1の発明合金例1、2、3を用いている。しかし、これら各比較例は、表2に示す通り、溶体化および焼入れ処理終了後の2段階の再加熱処理条件が好ましい条件から外れている。
比較例2、8、14は再加熱処理が2段目のみの1段である。
比較例3、9、15は1段目の再加熱処理温度が低すぎる。
比較例4、10、16は1段目の再加熱処理温度が高すぎる。
比較例5、11、17は2段目の再加熱処理温度が高すぎる。
比較例6、12、18は2段目の再加熱処理温度が低すぎる。
このため、これら各比較例は、表3に示す通り、前記原子の集合体の円相当径の平均半径が1.20nm未満か、1.50nmを超えるか、あるいは前記Ncluster/Ntotal×100で計算される、原子集合体に含有されるMg、Si原子の平均割合が1%未満か、15%を超えるかして、本発明の規定から外れている。この結果、同じ合金組成である発明例1、2、3に各々比較して、100日間室温保持後のAs耐力が比較的高いために自動車パネルなどへのプレス成形性やヘム加工性に劣るか、BH性に劣っている。
また、表2の比較例25〜34は、前記調質処理を含めて好ましい範囲で製造しているものの、表1の合金番号10〜19を用いており、必須元素のMg、Si、Cuの含有量が各々本発明範囲を外れているか、あるいは不純物元素量が多すぎる。この結果、これら比較例は、表3に示す通り、各発明例に比して、BH性やヘム加工性が各々劣っている。特に、Snが少なすぎる表3の比較例27は、クラスタの数密度が多くなっており、前記したNclusterのNtotalに対する平均割合(Ncluster/Ntotal)×100も15%を超えて高すぎる。この結果、室温時効が抑制されておらず、100日間室温保持後の、As耐力が高すぎてプレス成形性やヘム加工性に劣り、BH性も耐力増加量で100MPa未満であり高くない。また、Snが多すぎる比較例28は熱延時に割れを生じて板の製造自体ができなかった。
比較例25は表1の合金10であり、Siが少なすぎる。
比較例26は表1の合金11であり、Siが多すぎる。
比較例27は表1の合金12であり、Snが少なすぎる。
比較例28は表1の合金13であり、Snが多すぎる。
比較例29は表1の合金14であり、Feが多すぎる。
比較例30は表1の合金15であり、Mnが多すぎる。
比較例31は表1の合金16であり、Cuが多すぎる。
比較例32は表1の合金17であり、Crが多すぎる。
比較例33は表1の合金18であり、TiとZnが多すぎる。
比較例34は表1の合金19であり、ZrとVが多すぎる。
以上の実施例の結果から、焼付け塗装前の強度が高くなる場合であっても、より高いBH性、BH後耐力が発揮できるためには、前記本発明で規定するクラスタの条件を満たす必要性があることが裏付けられる。また、このようなクラスタ条件やBH性などを得るための、本発明における成分組成の各要件あるいは好ましい製造条件の臨界的な意義乃至効果も裏付けられる。
本発明によれば、焼付け塗装前の強度が高くなる室温時効した場合であっても、より高いBH性が発揮できる6000系アルミニウム合金板を提供できる。この結果、自動車用のパネル材をはじめ、自動車の骨格部材あるいは構造部材である、センターピラーなどのピラー類やサイドアームなどのアーム類、あるいはバンパレインフォースメントやドアビームなどの補強材、更には、自動車以外の骨格部材や構造部材に薄板で使用する場合に好適である。

Claims (2)

  1. 質量%で、Mg:0.2〜2.0%、Si:0.3〜2.0%、Sn:0.005〜0.3%を各々含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg−Si系アルミニウム合金板であって、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された全てのMg原子とSi原子との個数の和をNtotalとする一方、この3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された原子の集合体として、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で10個以上含むとともに、これらのMg原子かSi原子のいずれの原子を基準としても、その基準となる原子と隣り合う他の原子のうちのいずれかの原子との互いの距離が0.75nm以下である条件を満たす原子集合体の全部に含有された、全てのMg原子とSi原子との個数の和をNclusterとした時、このNclusterの前記Ntotalに対する割合(Ncluster/Ntotal)×100が、1%以上、15%以下であり、かつ前記原子の集合体の円相当径の平均半径が1.20nm以上、1.50nm以下であることを特徴とする焼付け塗装硬化性に優れたアルミニウム合金板。
  2. 前記アルミニウム合金板が、更に、Mn:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Cu:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Fe:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Cr:0.3%以下(但し、0%を含まず)、Zr:0.3%以下(但し、0%を含まず)、V:0.3%以下(但し、0%を含まず)、Ti:0.1%以下(但し、0%を含まず)、Zn:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Ag:0.2%以下(但し、0%を含まず)の1種または2種以上を含む請求項1に記載の焼付け塗装硬化性に優れたアルミニウム合金板。
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