JP5901827B1 - 有機酸生成の酒酵母株およびそれを用いた清酒の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】十分な発酵力を維持し且つ有機酸生成能に優れた酒酵母株の提供。【解決手段】VID24遺伝子が下記(F1)のペプチドを含む変異VID24タンパク質をコードする変異VID24遺伝子である、有機酸生成の酒酵母株。(F1)特定の配列からなるアミノ酸配列において、アミノ酸残基Xが、ヒスチジン、リシンまたはアルギニンの塩基性アミノ酸残基であるアミノ酸配列からなるペプチド、特に、前記アミノ酸残基Xがアルギニン残基である酒酵母株。【選択図】なし

Description

本発明は、有機酸生成の酒酵母株およびそれを用いた清酒の製造方法に関する。
酸味の強い爽やかな口当たりの清酒を製造するために、近年、有機酸を高生成する酒酵母の改良が行われている。しかしながら、報告されている自然変異法による酵母の改良は、有機酸を高生成できるものの、発酵力が不十分であり、結果として清酒が甘口に、あるいは、低アルコールになるという問題があった(非特許文献1)。また、どのような改良であれば、有機酸の高生成と発酵力の維持とを両立できるかも不明である。
Matsuda et al., " Selection of yeasts for giving a good sour taste to sake and a sake brewing test", Journal of the brewing society of Japan, 2010, Vol.105, No.1, p.39-48.
そこで、本発明は、十分な発酵力を維持し且つ有機酸生成能に優れる酒酵母株の提供を目的とする。
本発明の有機酸生成の酒酵母株は、VID24遺伝子が下記(F1)のペプチドを含む変異VID24タンパク質をコードする変異VID24遺伝子であることを特徴とする。
(F1)配列番号1のアミノ酸配列において、アミノ酸残基Xが、ヒスチジン、リシンまたはアルギニンの塩基性アミノ酸残基であるアミノ酸配列からなるペプチド
(配列番号1)
FTXYQISGYKRYQVT
本発明の清酒の製造方法は、前記本発明の有機酸生成の酒酵母株を用いることを特徴とする。
本発明の有機酸生成の酒酵母株の製造方法は、酒酵母株について、そのVID24遺伝子を変異VID24遺伝子に変異させる変異工程を含み、
前記変異工程が、前記VID24遺伝子における配列番号3の塩基配列で示される部分領域について、塩基NNNを、グリシン残基のコドンから、塩基性アミノ酸残基であるヒスチジン残基、リシン残基またはアルギニン残基のコドンに変異させる工程であることを特徴とする。
(配列番号3)
TTTACANNNTACCAGATATCAGGATACAAACGCTATCAGGTAACA
本発明の変異VID24遺伝子は、VID24遺伝子における配列番号3の塩基配列で示される部分領域において、塩基NNNが、塩基性アミノ酸残基であるヒスチジン残基、リシン残基またはアルギニン残基のコドンであることを特徴とする。
(配列番号3)
TTTACANNNTACCAGATATCAGGATACAAACGCTATCAGGTAACA
本発明の変異VID変異タンパク質は、VID24タンパク質における配列番号1のアミノ酸配列で示される部分領域において、アミノ酸残基Xが、塩基性アミノ酸残基であるヒスチジン残基、リシン残基またはアルギニン残基であることを特徴とする。
(F1)配列番号1のアミノ酸配列において、アミノ酸残基Xが、ヒスチジン、リシンまたはアルギニンの塩基性アミノ酸残基であるアミノ酸配列からなるペプチド
(配列番号1)
FTXYQISGYKRYQVT
本発明によれば、十分な発酵力を維持し且つ有機酸生成能に優れる酒酵母株を提供できる。
<有機酸生成の酒酵母株>
本発明の有機酸生成の酒酵母株は、前述のように、VID24遺伝子が前記(F1)のペプチドを含む変異VID24タンパク質をコードする変異VID24遺伝子であることを特徴とする。
(F1)配列番号1のアミノ酸配列において、アミノ酸残基Xが、ヒスチジン(H)、リシン(K)またはアルギニン(R)の塩基性アミノ酸残基であるアミノ酸配列からなるペプチド
(配列番号1)
FTXYQISGYKRYQVT
前記(F1)における配列番号1のアミノ酸配列は、酵母のVID24遺伝子における保存領域に相当する。前記変異VID24遺伝子において、前記保存領域におけるアミノ酸残基Xは、グリシン(G)ではなく、G以外のアミノ酸残基、すなわち、H、KまたはRの塩基性アミノ酸残基である。
本発明の有機酸生成の酒酵母株は、例えば、VID24遺伝子が、前記(F2)のペプチドからなる変異VID24タンパク質をコードする変異VID24遺伝子である。
(F2)配列番号2のアミノ酸配列において、アミノ酸残基Xが、H、KまたはRの塩基性アミノ酸残基であるアミノ酸配列からなるペプチド
(配列番号2)
MINNPKVDSVAEKPKAVTSKQSEQAASPEPTPAPPVSRNQYPITFNLTSTAPFHLHDRHRYLQEQDLYKCASRDSLSSLQQLAHTPNGSTRKKYIVEDQSPYSSENPVIVTSSYNHTVCTNYLRPRMQFTXYQISGYKRYQVTVNLKTVDLPKKDCTSLSPHLSGFLSIRGLTNQHPEISTYFEAYAVNHKELGFLSSSWKDEPVLNEFKATDQTDLEHWINFPSFRQLFLMSQKNGLNSTDDNGTTNAAKKLPPQQLPTTPSADAGNISRIFSQEKQFDNYLNERFIFMKWKEKFLVPDALLMEGVDGASYDGFYYIVHDQVTGNIQGFYYHQDAEKFQQLELVPSLKNKVESSDCSFEFA
前記(F2)における配列番号2のアミノ酸配列は、酵母のVID24遺伝子全長配列に相当する。前記変異VID24遺伝子において、前記全長配列におけるアミノ酸残基Xは、グリシン(G)ではなく、G以外のアミノ酸残基、すなわち、すなわち、H、KまたはRの塩基性アミノ酸残基である。なお、前記(F2)の配列番号2のアミノ酸配列において、下線部で示した領域は、前記(F1)の配列番号1のアミノ酸配列に対応する。
前記(F1)および(F2)のアミノ酸配列において、アミノ酸残基X(一文字表記)は、例えば、A(アラニン)、C(システイン)、D(アスパラギン酸)、E(グルタミン酸)、F(フェニルアラニン)、H(ヒスチジン)、I(イソロイシン)、K(リシン)、L(ロイシン)、M(メチオニン)、N(アスパラギン)、P(プロリン)、Q(グルタミン)、R(アルギニン)、S(セリン)、T(スレオニン)、V(バリン)、W(トリプトファン)またはY(チロシン)のアミノ酸残基であってもよいし、C(システイン)、D(アスパラギン酸)、E(グルタミン酸)、H(ヒスチジン)、K(リシン)、N(アスパラギン)、Q(グルタミン)、R(アルギニン)、S(セリン)、T(スレオニン)またはY(チロシン)の親水性アミノ酸残基であってもよいし、H(ヒスチジン)、K(リシン)もしくはR(アルギニン)の塩基性アミノ酸残基であってもよい。前記アミノ酸残基Xは、より好ましくは、R(アルギニン)のアミノ酸残基である。
本発明の有機酸生成の酒酵母株において、前記変異VID24遺伝子は、例えば、前記(F1)のペプチドをコードする下記(f1)のポリヌクレオチドを含む遺伝子である。
(f1)配列番号3の塩基配列において、塩基NNNが、塩基性アミノ酸残基であるヒスチジン残基、リシン残基またはアルギニン残基をコードするコドンであるポリヌクレオチド
(配列番号3)
TTTACANNNTACCAGATATCAGGATACAAACGCTATCAGGTAACA
本発明の有機酸生成の酒酵母株は、例えば、前記変異VID24遺伝子が、前記(F2)のペプチドをコードする下記(f2)のポリヌクレオチドからなる遺伝子である。
(f2)配列番号4の塩基配列において、塩基NNNが、塩基性アミノ酸残基であるヒスチジン残基、リシン残基またはアルギニン残基をコードするコドンであるポリヌクレオチド
(配列番号4)
ATGATCAATAATCCTAAGGTAGACAGTGTAGCGGAGAAACCCAAAGCTGTGACATCAAAGCAGTCGGAGCAAGCGGCTTCGCCAGAACCAACACCAGCCCCCCCTGTTTCTAGAAATCAGTATCCGATCACGTTCAACTTGACTTCAACCGCACCCTTTCATCTTCATGACCGTCATCGCTACTTACAAGAGCAAGATCTTTACAAGTGCGCTTCTAGGGATTCGTTGTCTTCCCTGCAGCAACTCGCCCATACACCTAATGGGTCGACAAGGAAGAAATATATTGTTGAGGACCAATCTCCCTATAGTTCGGAAAATCCAGTCATTGTGACCTCTTCCTATAACCATACGGTTTGCACAAACTACTTAAGACCAAGAATGCAGTTTACANNNTACCAGATATCAGGATACAAACGCTATCAGGTAACAGTTAACTTAAAGACTGTAGATTTGCCAAAGAAAGATTGCACGTCGCTGTCCCCTCATTTATCTGGATTTTTGTCGATAAGAGGACTCACGAACCAACACCCGGAAATCAGTACATATTTTGAAGCCTACGCGGTAAACCACAAGGAATTAGGGTTCTTGTCCTCTAGTTGGAAAGATGAACCTGTTTTAAACGAATTCAAAGCCACAGACCAAACAGACTTAGAACACTGGATAAATTTCCCCTCCTTTAGACAGCTTTTCCTGATGAGCCAAAAAAACGGTCTCAACTCAACTGACGACAATGGCACTACAAATGCAGCCAAGAAGTTGCCTCCACAGCAGCTTCCTACTACACCAAGCGCAGACGCTGGTAACATATCAAGAATTTTTAGCCAAGAGAAACAATTTGACAACTACTTGAACGAACGGTTTATATTTATGAAATGGAAGGAAAAATTTTTGGTACCAGATGCCCTATTAATGGAAGGTGTAGACGGCGCATCTTATGATGGGTTTTATTACATTGTCCATGATCAAGTTACCGGGAACATTCAAGGGTTTTACTATCATCAAGATGCTGAAAAGTTCCAACAGCTGGAATTAGTACCATCTTTGAAAAATAAAGTCGAGTCCAGTGATTGTTCTTTTGAGTTTGCTTGA
前記(f2)における配列番号4の塩基配列は、VID24遺伝子の全長塩基配列に相当する。前記変異VID24遺伝子において、前記塩基配列における塩基NNNは、Gをコードするコドンではなく、G以外のアミノ酸残基、すなわち、H、KまたはRの塩基性アミノ酸残基をコードするコドンである。なお、前記(f2)の配列番号4の塩基配列において下線部で示した領域は、前記(f1)の配列番号3の塩基配列に対応する。
前記(f1)および(f2)の塩基配列において、塩基NNNは、例えば、A、C、D、E、F、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、WまたはYのアミノ酸残基をコードするコドンであってもよいし、C、D、E、H、K、N、Q、R、S、TまたはYの親水性アミノ酸残基をコードするコドンであってもよいし、H、KまたはRの塩基性アミノ酸残基をコードするコドンであってもよい。前記塩基NNNは、好ましくは、Rのアミノ酸残基をコードするコドンであり、例えば、CGT、CGC、CGA、CGG、AGA、AGGである。
本発明の有機酸生成の酒酵母株は、酵母のVID24遺伝子が、前述のように前記変異VID24遺伝子であればよく、酒酵母株の種類は、特に制限されない。酒酵母株とは、例えば、商品としての酒の製造に使用する酵母でもよいし、酒製造の実験に使用する酵母でもよい。酒酵母株の種類としては、例えば、清酒の製造や清酒製造の実験に使用する清酒酵母等があげられる。また、酒酵母は、例えば、Saccharomyces属、Schizosaccharomyces属、Candida属、Yarrowia属、Hansenula属、Kluyveromyces属等があげられ、好ましくはSaccharomyces属である。Saccharomyces属の中でも、例えば、Saccharomyces cerevisiaeが特に好ましい。前記酒酵母の具体例としては、例えば、Saccharomyces cerevisiaeに属しているものがあげられ、一倍体でも、二倍体でもよく、二倍体が好ましい。前記酒酵母は、例えば、広義の意味で市販(契約酵母も含む)されているものでもよく、また、天然界から単離しても良い(例えば、特開2014-212782号公報)が、清酒醸造用酵母として市販されているものがより好ましい。清酒醸造用酵母として市販されているものは、例えば、日本醸造協会が販売している酵母(K-6、K-7、K-9、K-10、K-11、K-14、K-601、K-701、K-901、K-1001、K-1401、K-1501、K-1801、K-1601、K-1701、きょうかいNo.28、きょうかいNo.77等)、その他公的機関が開発した清酒酵母、例えば、青森県工業総合研究センター開発酵母(まほろば華酵母、イ号酵母・ロ号酵母等)等があげられる。前記清酒用酵母は、例えば、前述のように入手し得る清酒酵母を直接用いても良いし、自然変異等でさらに育種改良したもの(例えば、セルレニン耐性性が付与され、吟醸香生産の高くなった清酒用酵母等)を用いてよく、具体例として、日本醸造協会が販売しているK-901(別名:きょうかい901号酵母)があげられる。前記清酒酵母は、コメを原料とした清酒の製造に使用できればよく、例えば、焼酎用の酵母等であってもよい。
本発明の有機酸生成の酒酵母株は、例えば、前記VID24遺伝子が欠失しておらず且つ前記変異VID遺伝子を有していない酵母株を親株として、そのVID24遺伝子に対して、前述のような変異を付与することによって、製造できる。前記変異の付与の方法は、特に制限されず、例えば、公知の遺伝子工学的手法等により行うことができる。
本発明の有機酸生成の酒酵母株は、例えば、VID24遺伝子以外が同一である酵母(以下、「親株」ともいう)と比較した場合、発酵力を維持し且つより優れた有機酸生成能を示す。つまり、本発明によれば、本来、有機酸生成能に劣る酵母株(親株)であっても、例えば、前述のように、前記VID24遺伝子を前記変異VID24遺伝子に改変させた改変酵母株(すなわち、本発明の有機酸生成の酒酵母株)とすることで、前記親株と比較して有機酸の生成量を増大する、優れた有機酸生成能を獲得できる。
本発明の有機酸生成の酒酵母株において、生成量が増大される有機酸は、特に制限されず、具体的に、前記親株と比較して生成量が増大される有機酸は、例えば、リンゴ酸およびコハク酸の少なくとも一方であり、いずれか一方でも、両方でもよい。本発明において、前記リンゴ酸の生成量の増大割合は、特に制限されないが、前記親株の生成量に対して、下限は、例えば、1.7倍以上、1.8倍以上、1.9倍以上であり、上限は、例えば、3倍以下、2.5倍以上、2.3倍以下である。前記コハク酸の生成量の増大割合は、特に制限されないが、前記親株の生成量に対して、例えば、1.7〜3倍、1.9〜2.5倍、1.9〜2.3倍である。
本発明の有機酸生成の酒酵母株において、リンゴ酸およびコハク酸以外であって、本発明の有機酸生成酵母において生成される各種有機酸(例えば、αケトグルタル酸、クエン酸、ピルビン酸、乳酸、フマル酸、酢酸、ピログルタミン酸)は、例えば、前記親株と比較した場合、その生成量が増大されてもよいし、同程度でもよい。
本発明の有機酸生成の酒酵母株において、エタノールの生成量は、前記親株の生成量に対して、下限は、例えば、0.9倍以上、0.95倍以上、0.97倍以上、0.99倍以上であり、上限は、特に制限されないが、例えば、1.2倍以下、1.1倍以下である。
本発明の有機酸生成の酒酵母株は、優れた有機酸生成能を有するため、これを使用することで、例えば、前記親株を使用するよりも、高含量の有機酸を含む発酵産物を得ることができる。
前記発酵産物の種類は、特に制限されず、例えば、原料の種類によって種々の発酵産物を得ることができる。前記原料としては、例えば、コメ類、ムギ類等の穀類、芋類、マメ類等の野菜、ブドウ類等の果実等が原料としてあげられる。前記発酵産物としては、例えば、コメ類を用いた清酒、各種原料を用いた焼酎、ビール、ワイン、原料の一部にコメ等の副原料を用いたビール様飲料(発泡酒、リキュール等)、果実酒、その他酒税法で雑酒に分類される醸造飲料等があげられる。
<清酒の製造方法>
本発明の清酒の製造方法は、前記本発明の有機酸生成の酒酵母株を用いることを特徴とする。
本発明においては、前記本発明の有機酸生成の酒酵母株を使用することが特徴であって、その他の条件および工程は、何ら制限されない。本発明の有機酸生成の酒酵母株を使用することによって、十分な発酵力を維持し、且つ、前記親株よりも高含量の有機酸を含む清酒を得ることができる。
本発明は、例えば、前記本発明の有機酸生成の酒酵母株により、原料を発酵させる工程を含む。前記原料は、例えば、コメ類であり、発酵の条件は、特に制限されず、従来の酵母による発酵条件と同様の条件が採用できる。
<有機酸生成の酒酵母株の製造方法>
本発明の有機酸生成の酒酵母株の製造方法は、前述のように、酒酵母株について、そのVID24遺伝子を変異VID24遺伝子に変異させる変異工程を含み、
前記変異工程が、前記VID24遺伝子における配列番号3の塩基配列で示される部分領域について、塩基NNNを、グリシン残基のコドンから、塩基性アミノ酸残基であるヒスチジン残基、リシン残基またはアルギニン残基のコドンに変異させる工程であることを特徴とする。
(配列番号3)
TTTACANNNTACCAGATATCAGGATACAAACGCTATCAGGTAACA
本発明においては、いわゆる前述のような親株に前記変異工程を施せばよい。前記親株としては、例えば、前述の通りであり、中でも、優れた有機酸生成能を示す変異酵母株の取得が困難であったK−9またはその派生株であるK−901を、親株として使用することが好ましく、K−901使用することがより好ましい。本発明によれば、このような親株であっても、優れた有機酸生成能を有する変異酵母株を得ることができる。
本発明において、前記VID24遺伝子を変異させる方法は、特に制限されず、例えば、遺伝子工学的手法により行ってもよいし、非遺伝子工学的手法により製造してもよい。
また、本発明の有機酸生成の酒酵母株は、例えば、以下のスクリーニング方法により製造することもできる。すなわち、本発明の有機酸生成の酒酵母株の製造方法は、以下の本発明のスクリーニン方法により有機酸生成の酒酵母株をスクリーニングするスクリーニング工程を含むことを特徴とする。
<有機酸生成の酒酵母株のスクリーニング方法>
本発明の有機酸生成の酒酵母株のスクリーニング方法は、酵母株を、生存率5〜25%となるように変異原を用いて処理する変異工程と、
前記変異処理後の酵母株から、下記条件(1)および(2)を満たす酵母株を、有機酸生成の酒酵母株として選択する選択工程とを含むことを特徴とする。
(1)変異原を用いて処理する前と比較して、アルコール生成量が0.9倍〜1.2倍である。
(2)変異原を用いて処理する前と比較して、リンゴ酸生成量が1.7倍〜3倍であり、かつ、コハク酸生成量が1.2倍〜1.6倍である。
本発明のスクリーニング方法によれば、前記変異処理を施す前の酵母株(以下、「親株」ともいう)と比較して、十分な発酵力を維持し且つ有機酸生成能に優れる酵母株、すなわち、本発明の有機酸生成の酒酵母株を得ることができる。
前記変異工程において、前記変異原は、例えば、エチルメタンスルホン酸(EMS)、N−メチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、亜硝酸、アクリジン系色素等があげられ、好ましくは、EMSである。また、前記変異は、例えば、UV照射、各種イオンビーム、各種放射線照射等によって、誘発してもよい。
前記変異工程において、前記変異原による変異処理の方法は、特に制限されず、例えば、前記変異原の存在下で、前記親株をインキュベートすればよく、具体的には、前記変異原を含有する溶媒中で、前記親株をインキュベートすればよい。前記溶媒の種類は、特に制限されず、例えば、緩衝液、培地等があげられる。前記溶媒中の前記変異原の濃度は、特に制限されず、例えば、0.1%〜10%である。前記変異処理の条件は、特に制限されず、処理温度は、例えば、4〜50℃であり、処理時間は、例えば、0.5〜360分である。
前記変異工程においては、生存率は、0.01〜90%に設定し、好ましくは、0.1〜50%、1〜30%、5〜25%、5〜20%に設定する。前記生存率を前記範囲に設定する方法は、特に制限されず、例えば、変異処理の時間によって調整してもよいし、前記変異原の量によって調整してもよいし、処理温度によって調整してもよく、中でも、経時変化により、生存率をモニターすることが好ましい。
本発明における前記生存率とは、前記変異処理に供する全親株のうち、前記変異処理後にも生存する親株の割合を意味する。本発明においては、例えば、以下の方法により、前記生存率を算出できる。まず、親株の混合液を準備し、前記混合液のうち所定量Yを下記培養条件Aで培養し、得られた生存コロニー数Xを100%とする。そして、前記混合液のうち同量Yについて、前記変異処理を施した後、同じ培養条件Aで培養し、得られた生存コロニー数Xの割合(100×[X/X])を、生存率%とする。前記培養条件は、例えば、以下の通りである。
培地:YPD寒天培地、YPD培地に相当する栄養源豊富な培地、YM寒天培地(独立行政法人製品評価技術基盤機構推奨培地、http://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/cultures/cultures.html:平成27年7月14日付)
培養温度:30℃前後(例えば、25℃±7℃)
培養時間:数日間(例えば、1〜10日間)
培養方法:静置培養
生存率の調整方法:EMS処理中に、前記混合液から数分ごとにサンプリングし、前記条件で培養を行い、目的となる生存率のものを選択する。
生存率の測定において、前記変異処理後の親株は、例えば、洗浄処理を施した後、培養を行うことが好ましい。前記洗浄方法は、特に制限されず、例えば、滅菌水等の滅菌溶媒で洗浄する方法があげられる。
本発明のスクリーニング方法において、前記変異処理工程後、前記変異処理した酵母株(親株)を培養し、生存した酵母株を採取する工程を含んでもよい。前記培養の方法および条件は、特に制限されないが、例えば、前述した生存率の測定方法における培養の方法および条件が例示できる。また、前記変異処理した親株は、例えば、前記培養に先立って、例えば、滅菌水等の滅菌溶媒で洗浄することが好ましい。
本発明のスクリーニング方法において、前記選択工程は、前記変異工程によって得られた酵母株から、前記条件(1)および(2)を満たす酵母株を選択する工程である。前記変異工程によって得られた酵母株とは、例えば、前記変異処理した親株のうち、前記変異処理後の培養によって生存を示した酵母株である(以下、変異酵母株ともいう)。
前記変異酵母株からの前記条件(1)および(2)の条件を満たす酵母株の選択は、例えば、以下のようにして行うことができる。すなわち、まず、前記変異処理を施す前の前記親株について、所定の条件下、コメ原料のアルコール発酵を行い、得られた発酵産物中のアルコール、リンゴ酸およびコハク酸を測定する。そして、前記変更処理によって得られた前記変異酵母株について、同様の条件でアルコール発酵を行い、得られた発酵産物中のアルコール、リンゴ酸およびコハク酸を測定する。そして、前記親株を用いた発酵産物中のアルコール、リンゴ酸およびコハク酸の生成量と、前記変異酵母株を用いた発酵産物中のアルコール、リンゴ酸およびコハク酸の生成量とを比較する。そして、前記条件(1)および(2)を満たす変異酵母株を、本発明の有機酸生成の酒酵母株として選択することができる。前記アルコールとは、例えば、エタノールである。
本発明において、前記有機酸生成の酒酵母株の選択は、前記親株を使用した生成量に対する前記変異処理株を使用した生成量の倍率により判断できることから、前記親株と前記変異処理株とにおいて前記アルコール発酵は、例えば、同条件であればよく、その方法は、特に制限されない。
前記コメ原料のアルコール発酵は、例えば、コメを含む仕込み液を使用できる。前記仕込み液は、例えば、1トンスケール程度の大型仕込みでも、小仕込みでもよく、前記小仕込みで調製されていることが好ましい。
前記小仕込みは、特に制限されず、例えば、一段仕込みでもよく、三段仕込みでもよい。また、前記仕込みに使用するコメの総量、すなわち総米は、例えば、10gから1kg程度が例示できる。使用するコメの種類は、特に制限されず、例えば、酒造好適米でもよいし、コシヒカリ等の飯米等でもよい。また、前記コメの精米歩合は、特に制限されず、例えば、60〜85%である。また、前記仕込み液の調製においては、例えば、乳酸を仕込み時に添加することが好ましい。仕込み時には、例えば、前記総米に、掛米、麹米、汲水、乳酸および酵母を加えて、発酵を開始することが好ましい。
前記仕込み液に対する被検酵母株(前記変異処理株または前記親株)の添加量は、特に制限されず、例えば、前記仕込み液中の最終濃度が、10の6乗〜10の7乗cells/mL程度であればよい。
前記アルコール発酵の発酵工程は、例えば、温度一定で管理してもよいし、適宜温度調節してもよく、具体例として、例えば、4℃〜20℃で温度調整を行うことが好ましい。発酵期間は、特に限定されず、例えば、10日〜25日程度が好ましい。
前記発酵産物中のアルコール、有機酸(リンゴ酸およびコハク酸)の生成量の測定方法および発酵経過に伴う炭酸ガスの生成量の測定は、特に制限されず、従来の方法や機器が使用できる。前記機器としては、アルコール生成量の測定には、例えば、市販のアルコール濃度計(例えば、商品名アルコメイトAL−3、ウッドソン社)等が使用でき、前記有機酸生成量の測定には、例えば、汎用HPLC、具体的には、例えば、汎用HPLCシステム(例えば、商品名LCsolutionで制御されたHPLCシステム、島津製作所社製)が使用でき、前記炭酸ガス生成量の測定には、例えば、ガス発生量自動計測装置(例えば、商品名ファーモグラフ、アトー社製)等があげられる。前記アルコール発酵の終了後、前記発酵産物におけるアルコール(例えば、エタノール)、日本酒度、酸度、アミノ酸度は、例えば、市販の汎用機器を用いて測定することができ、具体例として、国税庁が定める所定分析法(国税庁訓令第1号、改正平19国税庁訓令第6号、http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kobetsu/sonota/kaisei070622/01.pdf:平成27年7月15日付)に従うことが好ましく、また、それに準じた方法でもよい。
<変異VID24遺伝子>
本発明の変異VID24遺伝子は、VID24遺伝子における配列番号3の塩基配列で示される部分領域において、塩基NNNが、塩基性アミノ酸残基であるヒスチジン残基、リシン残基またはアルギニン残基のコドンであることを特徴とする。
(配列番号3)
TTTACANNNTACCAGATATCAGGATACAAACGCTATCAGGTAACA
本発明において、前記変異VID24遺伝子は、例えば、配列番号4の塩基配列からなり、塩基NNNが、塩基性アミノ酸残基であるヒスチジン残基、リシン残基またはアルギニン残基のコドンであるG以外のアミノ酸残基をコードするコドンであることが好ましい。
(配列番号4)
ATGATCAATAATCCTAAGGTAGACAGTGTAGCGGAGAAACCCAAAGCTGTGACATCAAAGCAGTCGGAGCAAGCGGCTTCGCCAGAACCAACACCAGCCCCCCCTGTTTCTAGAAATCAGTATCCGATCACGTTCAACTTGACTTCAACCGCACCCTTTCATCTTCATGACCGTCATCGCTACTTACAAGAGCAAGATCTTTACAAGTGCGCTTCTAGGGATTCGTTGTCTTCCCTGCAGCAACTCGCCCATACACCTAATGGGTCGACAAGGAAGAAATATATTGTTGAGGACCAATCTCCCTATAGTTCGGAAAATCCAGTCATTGTGACCTCTTCCTATAACCATACGGTTTGCACAAACTACTTAAGACCAAGAATGCAGTTTACANNNTACCAGATATCAGGATACAAACGCTATCAGGTAACAGTTAACTTAAAGACTGTAGATTTGCCAAAGAAAGATTGCACGTCGCTGTCCCCTCATTTATCTGGATTTTTGTCGATAAGAGGACTCACGAACCAACACCCGGAAATCAGTACATATTTTGAAGCCTACGCGGTAAACCACAAGGAATTAGGGTTCTTGTCCTCTAGTTGGAAAGATGAACCTGTTTTAAACGAATTCAAAGCCACAGACCAAACAGACTTAGAACACTGGATAAATTTCCCCTCCTTTAGACAGCTTTTCCTGATGAGCCAAAAAAACGGTCTCAACTCAACTGACGACAATGGCACTACAAATGCAGCCAAGAAGTTGCCTCCACAGCAGCTTCCTACTACACCAAGCGCAGACGCTGGTAACATATCAAGAATTTTTAGCCAAGAGAAACAATTTGACAACTACTTGAACGAACGGTTTATATTTATGAAATGGAAGGAAAAATTTTTGGTACCAGATGCCCTATTAATGGAAGGTGTAGACGGCGCATCTTATGATGGGTTTTATTACATTGTCCATGATCAAGTTACCGGGAACATTCAAGGGTTTTACTATCATCAAGATGCTGAAAAGTTCCAACAGCTGGAATTAGTACCATCTTTGAAAAATAAAGTCGAGTCCAGTGATTGTTCTTTTGAGTTTGCTTGA
本発明の変異VID24遺伝子は、本発明の有機酸生成の酒酵母株における説明を援用できる。
<変異VID24タンパク質>
本発明の変異VID24タンパク質は、VID24タンパク質における配列番号1のアミノ酸配列で示される部分領域において、アミノ酸残基Xが、塩基性アミノ酸残基であるヒスチジン残基、リシン残基またはアルギニン残基であることを特徴とする。
(F1)配列番号1のアミノ酸配列において、アミノ酸残基Xが、ヒスチジン、リシンまたはアルギニンの塩基性アミノ酸残基であるアミノ酸配列からなるペプチド
(配列番号1)
FTXYQISGYKRYQVT
本発明において、前記変異VID24タンパク質は、下記(F2)のペプチドからなることが好ましい。
(F2)配列番号2のアミノ酸配列において、アミノ酸残基Xが、ヒスチジン、リシンまたはアルギニンの塩基性アミノ酸残基であるアミノ酸配列からなるペプチド
(配列番号2)
MINNPKVDSVAEKPKAVTSKQSEQAASPEPTPAPPVSRNQYPITFNLTSTAPFHLHDRHRYLQEQDLYKCASRDSLSSLQQLAHTPNGSTRKKYIVEDQSPYSSENPVIVTSSYNHTVCTNYLRPRMQFTXYQISGYKRYQVTVNLKTVDLPKKDCTSLSPHLSGFLSIRGLTNQHPEISTYFEAYAVNHKELGFLSSSWKDEPVLNEFKATDQTDLEHWINFPSFRQLFLMSQKNGLNSTDDNGTTNAAKKLPPQQLPTTPSADAGNISRIFSQEKQFDNYLNERFIFMKWKEKFLVPDALLMEGVDGASYDGFYYIVHDQVTGNIQGFYYHQDAEKFQQLELVPSLKNKVESSDCSFEFA
本発明の変異VID24タンパク質は、本発明の有機酸生成の酒酵母株における説明を援用できる。
次に、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。
[実施例1]
本発明の有機酸生成の酒酵母株が、親株と比較して、優れた有機酸生成能を有することを確認した。
(1)変異型酵母株の取得
清酒醸造用酵母K−901を親株として使用した。3重量% EMS含有カリウムリン酸緩衝液にK−901を懸濁し、撹拌しながら30℃で60分間インキュベートして変異処理を施した。前記変異処理後の親株(以下、「変異処理株」という)をYPD寒天培地で生育させたところ、生存率(前記親株の生存率を100%とした場合の相対値)は、約10%であった。前記変異処理株のうち生存した900株を選抜し、小仕込み試験を行い、親株よりも多酸性を示す19株を選抜し、これら19株から、さらに、親株と同程度以上のエタノール生成能を示す8株を選抜した(試験例1)。
前記試験例1で得られた多酸性かつエタノール生産に優れる8株を、さらに小仕込み試験に供し、1株選抜して、これをK−901Hとした。
次に、得られたK−901Hと親株であるK−901との比較を行った。比較は、総米1kgの小仕込み試験により行った。前記小仕込み試験は、使用した株が異なる以外、掛米量、酵母株の最終濃度、発酵温度等、全て同じ条件とした。前記小仕込み試験において、仕込み液の発酵経過をファーモグラフィで測定したところ、K−901HとK−901との間において、発酵経過の遅延等の差異は見られなかった。つまり、K−901Hは、親株K−901と同様の発酵力であることがわかった。
下記表1に、前記仕込み試験の結果、すなわち、前記仕込み開始から15日経過時の発酵産物における各測定項目の結果を示す。測定した項目は、日本酒度、エタノール、酸度、アミノ酸度、グルコース、各種有機酸(αケトグルタル酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸、ピログルタミン酸等)およびエキス分等である。
Figure 0005901827
前記表1に示すように、K−901Hによれば、アルコール生成量に関して、親株の0.97倍であり、親株と同等のアルコール生成量(エタノール生成量)を維持していた。また、前記アルコール発酵の過程において、経時的に炭酸ガスの発生量と炭酸ガスの発生速度を確認した結果、K−901Hは、親株と同様の挙動を示した。そして、K−901Hは、リンゴ酸生成量に関しては、親株の約2.2倍であり、コハク酸生成量に関しては、親株の約1.3倍であり、これらを反映する酸度に関しては、親株の1.28倍であった。つまり、取得した変異酵母株K−901Hは、前記条件(1)および条件(2)を満たすことが確認できた。これらの結果から、本発明の有機酸生成の酒酵母株が、親株と同程度の発酵能を維持しつつ、且つ、親株よりも優れた有機酸生成能を有することがわかった。
(2)K−901Hの遺伝子解析
K−901Hは、親株と異なり優れた有機酸生成能を有することから、K−901Hについて、この特性に対応する遺伝子変異の解析を行った。その結果、親株のVID24遺伝子に対して、K−901Hは、複数の変異が確認された。そのうちの一つは、配列番号4からなる親株K−901のVID24遺伝子において、NNNがアミノ酸残基GのコドンGGGであるのに対して、配列番号4からなるK−901HのVID24遺伝子は、NNNがアミノ酸残基RのコドンAGG(391番目の塩基GがAに変異)となった点変異の変異VID24遺伝子であることがわかった。
[実施例2]
前記実施例1において得られた点変異の前記変異VID24遺伝子を、親株S. cerevisiae 4011(水津、醸協、91、87、1992年)に、遺伝子工学的に導入した。そして、得られた点変異導入株について、発酵試験を行い、エタノール発酵性を損じることなく、有機酸を前記親株よりも向上させることを確認した。
(1)点変異導入株の調整
前記親株S. cerevisiae 4011から、一倍体4011a(MATa)を分離し、これにウラシル要求性を付与し、これを宿主GX−11として使用した。前記宿主は、URA3遺伝子について、46番目のアミノ酸残基が終始コドン(アンバーコドン)となっていることを確認済みである。
前記実施例1におけるK−901Hのゲノムを鋳型として、PCRにより、XbaI−HindIII断片となるように、配列番号4の塩基配列における102番目から787番目の領域を増幅した。前記領域は、前記実施例1において確認された変異のうち、391番目の変異(G→A)を含む領域である。この増幅断片を、pRS406プラスミドベクターの制限酵素部位(XbaI/HindIII)に挿入し、組換えプラスミドベクターを作製した。前記ベクターは、マーカー配列として、URA3遺伝子およびアンピシリン耐性遺伝子を有する。そして、前記組換えプラスミド制限酵素処理物を、酢酸リチウム法により、宿主GX−11に導入して形質転換を行い、ウラシル未添加のSD培地での培養により、前記組換えベクターが、前記宿主のVID24遺伝子座に挿入された形質転換体の選択を行った。さらに、選択された形質転換体について、5−フルオロオロチン酸(FOA)とウラシルを含むアミノ酸未添加のSD培地での培養を行い、さらに、ループアウトにより前記URA3遺伝子およびアンピシリン遺伝子が除かれた形質転換体のみを選択した。このようにして選択された形質転換体を、目的の変異酵母株として、変異VID24遺伝子の確認を行った。その結果、配列番号4の塩基配列において391番目の塩基がAに点変異した変異VID24遺伝子を有することが確認された。前記変異酵母株を、以下、K−901H型の点変異導入株という。
(2)エタノール生成能および有機酸生成能の測定
前記宿主および前記K−901H型の点変異導入株について、前記実施例1と同様にして、エタノール生成能および有機酸生成能等を測定した。その結果、前記点変異導入株は、アルコール生成量(エタノール生成量)に関しては、宿主GX−11の約1.02倍であり、前記宿主と同等のアルコール生成量を維持しており、エタノール発酵性を損じていないことが確認できた。また、前記点変異導入株は、リンゴ酸生成量に関しては、前記宿主の約3.75倍であり、コハク酸生成量に関しては、前記宿主の約1.95倍であり、有機酸生成を宿主よりも向上させることを確認した。この結果から、本発明の有機酸生成の酒酵母株が、宿主と同程度の発酵能を維持しつつ、且つ、宿主よりも優れた有機酸生成能を有すること、また、このような性質が、VID24遺伝子の391番目の塩基の点変異により得られることが確認できた。
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をできる。
本発明によれば、十分な発酵力を維持し且つ有機酸生成能に優れる酵母株を提供できる。

Claims (5)

  1. 酒酵母株について、そのVID24遺伝子を変異VID24遺伝子に変異させる変異工程を含み、
    前記変異工程が、前記VID24遺伝子における配列番号3の塩基配列で示される部分領域について、塩基NNNを、グリシン残基のコドンから、塩基性アミノ酸残基であるヒスチジン残基、リシン残基またはアルギニン残基のコドンに変異させる工程であることを特徴とする、有機酸生成の酒酵母株の製造方法。
  2. VID24遺伝子における配列番号3の塩基配列で示される部分領域において、塩基NNNが、塩基性アミノ酸残基であるヒスチジン残基、リシン残基またはアルギニン残基のコドンであることを特徴とする変異VID24遺伝子。
  3. 前記変異VID24遺伝子が、配列番号4の塩基配列からなり、塩基NNNが、塩基性アミノ酸残基であるヒスチジン残基、リシン残基またはアルギニン残基のコドンであるG以外のアミノ酸残基をコードするコドンである、請求項記載の変異VID24遺伝子。
  4. VID24タンパク質における配列番号1のアミノ酸配列で示される部分領域において、アミノ酸残基Xが、塩基性アミノ酸残基であるヒスチジン残基、リシン残基またはアルギニン残基であることを特徴とする変異VID24タンパク質。
    (F1)配列番号1のアミノ酸配列において、アミノ酸残基Xが、ヒスチジン、リシンまたはアルギニンの塩基性アミノ酸残基であるアミノ酸配列からなるペプチド
  5. 前記変異VID24タンパク質が、下記(F2)のペプチドからなる、請求項記載の変異VID24タンパク質。
    (F2)配列番号2のアミノ酸配列において、アミノ酸残基Xが、ヒスチジン、リシンまたはアルギニンの塩基性アミノ酸残基であるアミノ酸配列からなるペプチド
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