以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における成分濃度測定方法を説明するためのフローチャートである。
まず、ステップS101で、第1の波長における水の吸収係数をα1、第2の波長における水の吸収係数をα2、第1の波長における対象物質の吸収係数をαs1、第2の波長における対象物質の吸収係数をαs2とし、対象物質の濃度変化係数Qsを「Qs=[{Min(α1,α2)}/{Max(α1,α2)}]×(δαs2/α2−δαs1/α1)・・・(1)」により、第1の波長および第2の波長を各々変化させて求めることで得られる第1の波長および第2の波長の各々の変化に対する濃度変化係数Qsの変化の中で、ピークが出現する第1の波長および第2の波長の組を選択する(波長選択ステップ)。なお、αs1およびαs2は、分光器などを用いて予め測定しておく。
次に、ステップS102で、(M−1)個の成分の濃度Ca,Cb,Cc,・・・と温度TとからなるM個の未知パラメータを有する被測定物に対して、ステップS101で選択されたいずれかの組のいずれかの波長の1つの光を照射して周波数シフト(FS)法により測定する(第1の測定ステップ)。
次に、ステップS103で、ステップS101で選択されたM個の組の各々の波長の2つの光を照射して光パワーバランスシフト(OPBS)法により測定する(第2の測定ステップ)。
次に、ステップS104で、ステップS102の測定による測定結果と、ステップS103の測定による測定結果とから、被測定物中の測定対象の成分の濃度を決定する(濃度導出ステップ)。
ステップS104では、まず、ステップS102による測定結果をFS(λ1)、ステップS103による測定結果をOPBS(λ1,λ2),OPBS(λ1,λ3),OPBS(λ1,λ4),・・・,OPBS(λn−1,λn)としたとき(λ1,λ2,λ3,λ4,・・・,λn−1,λnは、選択されたM個の組の各々の光の波長)、以下の連立方程式(Ka,Kb,Kc,・・・,Kt,Qaλi,λj,Qbλi,λj,Qcλi,λj,・・・,Qtλi,λj(i,j=1〜nで、i≠j)は所定の係数)を解くことにより、被測定物中の成分の濃度Ca,Cb,Cc,・・・を決定する。
・ステップS102の測定結果を表現する式;
FS(λ1)=KaCa+KbCb+KcCc+・・・+KtT。
・ステップS103の測定結果を表現する式;
OPBS(λ1,λ2)=Qaλ1,λ2Ca+Qbλ1,λ2Cb+Qcλ1,λ2Cc+・・・+Qtλ1,λ2T、
OPBS(λ1,λ3)=Qaλ1,λ3Ca+Qbλ1,λ3Cb+Qcλ1,λ3Cc+・・・+Qtλ1,λ3T、
OPBS(λ1,λ4)=Qaλ1,λ4Ca+Qbλ1,λ4Cb+Qcλ1,λ4Cc+・・・+Qtλ1,λ4T、
・・・
OPBS(λn−1,λn)=Qaλn-1,λnCa+Qbλn-1,λnCb+Qcλn-1,λnCc+・・・+Qtλn-1,λnT。
上述した実施の形態の成分濃度測定方法によれば、まず、周波数シフト(FS)法による測定と、光パワーバランスシフト(OPBS)法による測定とを実施し、これらの測定結果から被測定物中の測定対象の成分の濃度を決定するので、測定対象の選択性を向上させることができ、異なる複数の物質を含む多成分系の被測定物においてグルコース等の測定対象の成分濃度を高い精度で測定することが可能になる。
また、式(1)を用い、第1の波長および第2の波長を各々変化させて求めることで得られる第1の波長および第2の波長の各々の変化に対する濃度変化係数Qsの変化の中で、ピークが出現する第1の波長および第2の波長の組を選択し、選択した波長の組で、上述した濃度の測定を行うので、血液中の目的の成分の濃度を、煩雑な操作をすることなく、選択的かつ高精度に測定できるようになる。
次に、式(1)について説明する。式(1)は、FS法とOPBS法を組み合わせた波長λ1の光(第1の光)と波長λ2の光(第2の光)とを用いた測定における受光強度OPBS(λ1,λ2)を、次の式(2)で表すものとし、この式(2)より得ている。
なお、式(2)では、グルコースの場合を例にしており、Cgはグルコース濃度、QGはグルコース濃度変化係数である。α1、α2は2種類の光の波長における水の吸収係数、αg 1、αg 2は、2種類の光の波長におけるグルコースの吸収係数を示している。
式(2)より、グルコースの濃度変化係数QG(濃度変化係数Qsに対応)は、β(Ag2−Ag1)に等しく、βは、「β={Min(α1,α2)}/{Max(α1,α2)}」であり、Ag2−Ag1は、一般式「δαs2/α2−δαs1/α1」で表すことができる。これらのことをまとめると、式(1)が得られる。
次に、上述した式(2)について説明する。
まず、OPBS法では、2つの波長の光を用いた従来技術(特許文献1参照)で定義されるような利点を活用する。互いに異なる波長の2波のレーザ光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ強度変調して矩形波ビームを生成し、この矩形波ビームを合波した上で被測定物(例えば、血漿)に照射すると、2つのレーザ光が、各々の光吸収係数で被測定物に吸収される。この結果、光音響効果(被測定物で吸収される光学エネルギーが熱エネルギーに変化し、変化した熱エネルギーによる体積膨張により音響波が発生する効果)によって音響波が生成される。音響波は、2つのレーザ光の各々による2つの信号(被測定物の光吸収係数に光パワーを乗じた値)の強度の差に比例する。
OPBS法では、最初に、例えば既知の参照血液グルコース濃度により参照光音響信号のレベル(信号振幅)を定める。血液グルコース濃度が参照血液グルコース濃度から変化するとき、2つの光による光音響信号の振幅は光波長と光吸収係数によって変わる。このとき、光波長は、既知の吸収スペクトルに基づき予め決定されている。2つの光(例えばレーザ光)のパワーを変化させ、血液グルコース濃度の変化による光吸収効果とのバランスをとり、光音響信号の振幅を参照血液グルコース濃度のときに定めた参照光音響信号のレベルに戻す。
1つの光を被測定物に照射した場合、生成される光音響信号の強度S(信号振幅)は、以下の式(3)のように表すことができる。
ここで、Kは定数、γは被測定物の熱膨張係数、vは音速、nはセットアップに依存する実験系パラメータ、Cpは被測定物の比熱、αは被測定物の光吸収係数、Pは光パワーである。
また、互いに異なる波長の2つの光を同一周波数で逆位相の信号により各々強度変調して被測定物に照射した場合、生成される光音響信号の強度Sは以下の式(4)のように表すことができる。
式(4)におけるP1,P2は光パワー、α1,α2はそれぞれ光パワーがP1,P2の光に対する被測定物の光吸収係数である。
ただし、上記で説明したとおり、定数K、熱膨張係数γ、音速v、比熱Cpといったパラメータが、温度または混合物の濃度に依存するため、光音響信号強度Sをそのまま血液グルコース濃度の算出に使うことはできない。このような依存性を抑えるために、特許文献1に開示された測定方法では、一方の波長の信号で規格化を行った。
OPBS法の測定方法では、式(4)の(α1P1−α2P2)により光音響信号強度Sを最小にする光パワーP1またはP2を探索する。理論的には、光音響信号強度Sの最低値は0であるが、実験的には、ノイズが存在するため、0にはならない。このときの光音響信号強度Sは1波長の光ビームを用いる場合の光音響信号強度よりもおよそ100倍小さくなる。簡単に説明をするために、ここではノイズを無視して、光音響信号強度Sを0とする。S=0の場合には、「α1P1−α2P2=0・・・(5)」のように新しい理論式が書ける。
測定したい成分の濃度が変化した場合、例えば血液グルコース濃度がCgだけ変化し、この濃度変化により光吸収係数α1,α2がそれぞれδα1,δα2だけ変化した場合、式(5)が成立する状態から「(α1+δα1Cg)P1−(α2+δα2Cg)P2≠0・・・(6)」の状態に変化する。
S=0の状態に戻すために一方の光ビームのパワー(例えばP1)を変えると「(α1+δα1Cg)(P1+δP1)−(α2+δα2Cg)P2=0・・・(7)」が成立する。
また、式(7)より次式が得られる。
また、δα1、δP1は十分小さく、ゼロに近似すると、以下の式(9)となる。
式(7)、式(9)におけるδP1は光パワーP1の変化量である。式(9)より、OPBS法では、光パワーの変化量δP1と既知の光吸収係数α1,α2および光吸収係数変化量δα1,δα2から血液グルコース濃度を測ることができることが分かる。
また、OPBS法では、2つの波長に対して、「α1P1=α2P2」が前提となる。この場合、「α1>>α2⇒P1<<P2=PLIMIT」の関係が得られる。
また、水の吸収係数とβとの関係から、以下の式(10)が得られる。なお、β={Min(α1,α2)}/{Max(α1,α2)}である。
以上のことより、FS法とOPBS法を組み合わせた波長λ1の光と波長λ2の光とを用いた測定における受光強度OPBS(λ1,λ2)は、前述した(2)で示すことができる。
なお、グルコース濃度に加え、温度およびアルブミン濃度が同時に変化した場合は、受光強度OPBS(λ1,λ2)は、次の式(11)で示すことができる。
なお、QG=β(Ag2−Ag1)である。また、QAはアルブミン濃度変化係数、QTは温度変化係数である。
また、グルコース濃度変化ΔCg、アルブミン濃度変化ΔCA、温度変化ΔTにより変化する吸収係数は、以下の式(12)で示すことができる。
吸収係数は、分光機などの測定装置で計測することができる。従って、計測した吸収係数を基に、上述した式により、λ1およびλ2を各々変化させたときのQG、QA、QTを計算(シミュレート)することができる。
次に、測定対象の血漿中の成分をグルコースとし、また、血漿にはグルコースの他にアルブミンも含まれ、グルコース濃度,アルブミン濃度,および血漿の温度が変化する場合を例に説明する。
まず、グルコース,アルブミンなどの吸収係数の測定結果より、各成分の波長に対する相対吸収係数変化率は、図2に示すようになる。この結果を用い、第1の波長および第2の波長に対するグルコース濃度変化係数の変化を、「Qs=[{Min(α1,α2)}/{Max(α1,α2)}]×(δαs2/α2−δαs1/α1)」により計算し、プロットすると、図3に示すグラフが得られる。この中で、ピークが出現する位置を確認すると、第1の波長および第2の波長の組は、PG1「2120nmと1410nm」、PG2「1610nmと1380nm」、PG3「2140nmと1870nm」となる。
このようにして得られた波長の組を用い、まず、いずれかの組のいずれかの波長の1つの光を照射してFS法により測定し、次に、得られた組の各々の波長の2つの光を照射してOPBS法により測定し、FS法の測定結果とOPBS法の測定結果とから被測定物中の測定対象の成分であるグルコースの濃度を決定すればよい。
ところで、上述したように得られたピークによっては、各成分のパラメータが同時に変化する場合や、一部のパラメータのみ変化しない場合などが発生する。従って、選択された組の中で、例えば、第2の波長を固定した場合の第1の波長による各成分の濃度変化係数の依存性の組み合わせを確認することで、測定対象の濃度変化の検出を高感度化することができる。図3に、第2波長を、1870nmに固定した場合の第1の波長による各成分の濃度変化係数の依存性(a)、1380nmに固定した場合の第1の波長による各成分の濃度変化係数の依存性(b)、1410nmに固定した場合の第1の波長による各成分の濃度変化係数の依存性(c)を示す。
ところで、上述では、測定対象の血漿中の成分をグルコースとしたが、測定対象の成分をアルブミンとすることもできる。この場合、第1の波長および第2の波長に対するアルブミン濃度変化係数の変化を、「Qs=[{Min(α1,α2)}/{Max(α1,α2)}]×(δαs2/α2−δαs1/α1)」により計算し、プロットする。この結果、図5に示すグラフが得られる。この中で、ピークが出現する位置を確認すると、第1の波長および第2の波長の組は、PA1「2170nmと1870nm」、PA2「2280nmと1870nm」、PA3「2170nmと1490nm」、PA4「2280nmと1490nm」、PA5「2170nmと1410nm」、PA6「2280nmと1410nm」となる。
このようにして得られた波長の組を用い、まず、いずれかの組のいずれかの波長の1つの光を照射してFS法により測定し、次に、得られた組の各々の波長の2つの光を照射してOPBS法により測定し、FS法の測定結果とOPBS法の測定結果とから被測定物中の測定対象の成分であるアルブミンの濃度を決定すればよい。
また、この場合においても、上述したように得られたピークによっては、各成分のパラメータが同時に変化する場合や、一部のパラメータのみ変化しない場合などが発生する。従って、選択された組の中で、例えば、第2の波長を固定した場合の第1の波長による各成分の濃度変化係数の依存性の組み合わせを確認することで、測定対象の濃度変化の検出を高感度化することができる。図6に、第2波長を、1870nmに固定した場合の第1の波長による各成分の濃度変化係数の依存性(a)、1490nmに固定した場合の第1の波長による各成分の濃度変化係数の依存性(b)、1410nmに固定した場合の第1の波長による各成分の濃度変化係数の依存性(c)を示す。
なお、グルコース濃度,アルブミン濃度,および血漿の温度が変化する中で、血漿の温度について検討すると、第1の波長および第2の波長に対する温度変化係数の変化を、「Qs=[{Min(α1,α2)}/{Max(α1,α2)}]×(δαs2/α2−δαs1/α1)」により計算し、プロットする。この結果、図7に示すグラフが得られる。この中で、ピークが出現する位置を確認すると、第1の波長および第2の波長の組は、PT1「1870nmと1520nm」、PT2「2010nmと1890nm」、PT3「2110nmと1390nm」、PT4「1580nmと1410nm」となる。
また、この場合においても、上述したように得られたピークによっては、各成分のパラメータが同時に変化する場合や、一部のパラメータのみ変化しない場合などが発生する。従って、選択された組の中で、例えば、第2の波長を固定した場合の第1の波長による各成分の濃度変化係数の依存性の組み合わせを確認することで、温度変化の検出を高感度化することができる。図8に、第2波長を、1870nmに固定した場合の第1の波長による各成分の濃度変化係数の依存性(a)、1890nmに固定した場合の第1の波長による各成分の濃度変化係数の依存性(b)、1390nmに固定した場合の第1の波長による各成分の濃度変化係数の依存性(c)、1410nmに固定した場合の第1の波長による各成分の濃度変化係数の依存性(d)を示す。
上述した実施の形態によれば、測定対象のパラメータ変化(例えば、グルコース濃度)以外のパラメータ(例えば、温度,アルブミン濃度)が一定の場合、測定対象のパラメータ変化の検出を高感度化するために効果的な方法である。また、複数のパラメータが同時に変化する場合でも、複数の測定結果を組み合わせることで、測定対象とする濃度変化の検出を高感度化することができる。
次に、上述した実施の形態における方法において、選択した波長の光を用いたFS法,OPBS法による測定、および濃度算出を実施する装置について図9,図10を用いて説明する。図9は、本発明の実施の形態における成分濃度測定方法を実施する成分濃度測定装置の構成を示す構成図である。図10は、情報処理装置112の構成を示す構成図である。
成分濃度測定装置は、所定の波長の光としてレーザ光を照射する光照射手段となるレーザ101−1,101−2,101−3,101−4,・・・,101−nと、レーザ101−1,101−2,101−3,101−4,・・・,101−nを駆動するレーザ駆動部102と、レーザ101−1,101−2,101−3,101−4,・・・,101−nから放射されたレーザ光を導く光ファイバ103−1,103−2,103−3,103−4,・・・,103−nと、レーザ101−1,1−2,1−3,1−4,・・・,1−nから放射されたレーザ光を合波する光カプラ104と、光カプラ104によって合波されたレーザ光を導く光ファイバ105とを備える。
また、被測定物113を収容するケースである光音響セル106と、レーザ光を透過させるガラス製の光学窓107と、光音響効果によって被測定物113から発生する光音響信号を検出し、音圧に比例した電気信号に変換する光音響信号検出手段となる音響センサ108と、音響センサ108から出力された電気信号を増幅する増幅器109と、参照信号を発生する関数発生器110と、増幅器109の出力信号と関数発生器110から出力された参照信号とを入力として、増幅器109の出力信号から所望の周波数の測定信号を検出するロックインアンプ111と、関数発生器110およびロックインアンプ111を制御すると共に、ロックインアンプ111が検出した測定信号を処理して被測定物113中の測定対象の成分の濃度を決定するコンピュータからなる情報処理装置112とを備える。
レーザ101−1,101−2,101−3,101−4,・・・,101−nの例としては、例えば分布帰還型半導体レーザ(DFB−LD)等がある。各レーザ101−1,101−2,101−3,101−4,・・・,101−nから放射される光の波長は、前述した実施の形態で説明したように選択された各波長に対応し、互いに異なる。音響センサ108の例としては、マイクロホンがある。
情報処理装置112は、図10に示すように、関数発生器110を制御する関数発生器制御部201と、測定信号の振幅を測定する振幅測定部202と、測定信号の位相を測定する位相測定部203と、位相のオフセットを調整する位相オフセット調整部204と、測定信号の振幅と位相と周波数の情報または測定信号の周波数と位相の情報を記録する情報記録部205と、測定信号の周波数シフトを校正する周波数シフト校正部206と、測定信号の周波数の変化率を導出する周波数変化率導出部207と、測定信号の周波数を測定する周波数測定部208と、光パワーを制御する光パワー制御部209と、2つの強度変調光の光パワーの差を測定する光パワー測定部210と、光パワーの変化量を導出する光パワー変化量導出部211と、FS法による測定結果とOPBS法による測定結果とから測定対象の成分濃度を決定する濃度導出部212と、情報記憶のための記憶部213とを有する。関数発生器制御部201は、周波数探索手段を構成している。
以下、成分濃度測定装置の動作について説明する。成分濃度測定装置は、最初にFS法による測定を行い、続いてOPBS法による測定を行い、FS法による測定結果とOPBS法による測定結果とから測定対象の成分濃度を決定する。
以下、FS法による測定について詳細に説明する。図11は成分濃度測定装置のFS法による測定時の動作を示すフローチャートである。FS法では1波長で測定を行うので、レーザを1個だけ用いる。ここでは、レーザ101−1を用いるものとする。
被測定物113は、光音響セル106内に導入される。レーザ駆動部102から駆動電流が供給されると、レーザ101−1はレーザ光を放射する。従来のCW法と同様に、レーザ101−1から放射されるレーザ光は連続波である。このレーザ光は、光ファイバ103−1によって導かれ光カプラ104を通過して、さらに光ファイバ105によって導かれ、光学窓107を通って光音響セル106内の被測定物113に照射される(図11ステップS301)。
音響センサ108は、被測定物113から発生する光音響信号を検出し、増幅器109は、音響センサ108から出力された電気信号を増幅する。ロックインアンプ111は、増幅器109の出力に含まれる信号のうち、関数発生器110から出力される参照信号によって決まる周波数の測定信号を検出する。
情報処理装置112の関数発生器制御部201は、関数発生器110が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、ロックインアンプ111が検出する測定信号の周波数を漸次変化させる周波数掃引を行う(図11ステップS302)。こうして、測定信号の共鳴ピークを探索する。
次に、情報処理装置112の位相オフセット調整部204は、ロックインアンプ111を通じてレーザ駆動部102を制御し、レーザ駆動部102からレーザ101−1に供給される駆動電流の位相を変化させ、被測定物113に照射するレーザ光の位相を変化させることにより、測定信号の位相P0を0に設定する(図11ステップS303)。
次に、測定信号の振幅のピークを見つけたときに、情報処理装置112の振幅測定部202は、このピークの周波数(基準周波数f0)における測定信号の振幅A0を測定し(図11ステップS304)、位相測定部203は、基準周波数f0における測定信号の位相P0を測定する(ステップS305)。
情報記録部205は、振幅測定部202が測定した振幅A0と、位相測定部203が測定した位相P0(P0=0)と、ピークの周波数(基準周波数f0)とを記憶部213に記憶させる(図11ステップS306)。
次に、ステップS301〜S306の最初の測定から任意の時間経過後の時刻tにおける測定について説明する。最初の測定の場合と同様に、被測定物113にレーザ光を照射する(図11ステップS307)。ここでは、レーザ駆動部102からレーザ101−1に供給する駆動電流の位相をステップS303の場合と同じにすることにより、被測定物113に照射されるレーザ光の位相をステップS303の場合と同じにしている。
情報処理装置112の関数発生器制御部201は、関数発生器110が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、ロックインアンプ111に基準周波数f0の測定信号を検出させる。情報処理装置112の位相測定部203は、基準周波数f0における測定信号の位相P1を測定する(図11ステップS308)。測定信号の位相P1が位相P0(P0=0)と等しい場合、時刻tにおける血液グルコース濃度は、ステップS301〜S306の最初の測定のときの血液グルコース濃度と同じとなる。
一方、測定信号の位相P1が位相P0(P0=0)と異なる場合、情報処理装置112の関数発生器制御部201は、関数発生器110が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、測定信号の位相P1がP0と等しくなる(ここでは、位相P1が0になる)測定信号の周波数を探す(図11ステップS309)。位相P1がP0と等しくなる周波数をf1とする。
周波数f1を見つけたときに、情報処理装置112の振幅測定部202は、周波数f1における測定信号の振幅A1を測定する(図11ステップS310)。次いで、情報記録部205は、振幅測定部202が測定した振幅A1と、測定信号の位相P1(P1=P0=0)と、周波数f1とを記憶部213に記憶させる(図11ステップS311)。
情報処理装置112の周波数変化率導出部207は、測定信号の周波数変化率(f1−f0)/f0×100を算出する(図11ステップS312)。レーザ101−1から放射される光の波長をλ1とし、測定結果である信号レスポンス(周波数変化率導出部207が算出した周波数変化率)をFS(λ1)と表現する。以上で、成分濃度測定装置のFS法による測定時の動作が終了する。
FS法による測定では、測定信号の振幅を測定しなくてもよい。ただし、血液グルコース濃度に変化が生じていない場合について、振幅A0と振幅A1とを使うことにより、グルコース濃度変化以外の他の影響によって生じる測定信号の周波数シフトを校正することができる。以下、この周波数シフトの校正について説明する。
グルコース濃度変化以外の他の成分が混合している場合において、グルコース濃度変化による測定信号の位相変化を打ち消され、ステップS308において測定信号の位相P1を測定したときに位相P1が位相P0(P0=0)と等しい場合が生じる。この場合は、情報処理装置112の振幅測定部202は、基準周波数f0における測定信号の振幅A1を測定する。測定信号の振幅A1が振幅A0と異なる場合、測定信号の振幅A1からグルコース以外の他の成分、例えば、アルブミンなどの成分を推定することができる。
グルコース濃度変化以外の他の成分が混合している場合において、測定信号の位相P1と位相P0(P0=0)とが異なる場合は、情報処理装置112の周波数シフト校正部206は、関数発生器110が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、ロックインアンプ111が検出する測定信号の周波数を漸次変化させる周波数掃引を行い、基準周波数f0に最も近いピークを探索する。
周波数シフト校正部206は、測定信号の振幅のピークを見つけたときに、このピークの周波数を新たな基準周波数f0とする。こうして、基準周波数f0を更新することができ、グルコース濃度変化以外の他の影響によって生じる測定信号の周波数シフトを校正することができる。
血液グルコース濃度が変化してしまうと校正ができなくなるので、定期的(例えば数時間毎)にステップS301〜S306の処理を実施して、振幅A0と位相P0と基準周波数f0とを適宜更新すればよい。
OPBS法では、光音響信号の位相が0の点を探すために、光パワーを変化させる。より具体的には、光パワーを変化させるために、レーザ101−1,101−2の駆動電圧を変化させる。光音響信号の位相が0の点では、上記の式(5)、式(6)が成立する。式(6)から明らかなように、血液グルコース濃度Cgは、グルコースに特有な新しい光パワーバランスのシフト値δP1と相対的な光吸収係数δα1とδα2から求めることができる。測定したい成分濃度がアルブミン濃度の場合も同様にして求めることができる。なお、光吸収係数α1,α2と光吸収係数変化量δα1,δα2とは、光吸収スペクトル測定から求めることができる。
OPBS法は、非侵襲的に光音響測定に基づく溶液の成分を測るために、効率的な方法である。この測定方法は、2つの光学波長を選ぶことによって1つの特定の合成物に非常に選択的なアプローチを最適化することができる。利用できる多様な光学波長を考慮すれば、異なる溶媒において多くの溶質を検出できることは明らかである。また、対応する光学パワーを調節しパワーバランスを求める方法により、どのような吸収係数(濃度)の違いに対しても測定可能である。
光学波長の選択は吸収係数によって制限されない。さらにまた、位相0の変曲点に基づく測定方法は、速く収束して非常に正確な測定を提供する。光音響信号の位相を測定するため、数ポイントの測定点を記憶しておく必要がある。ノイズを完全に無視するならば、パラボラ(2次多項式)が3ポイントの測定データを必要とするのに対し、2ポイントの測定データから線形斜面を決定することは可能である。この観点から、光音響信号の直線的な特性の方が、位相が0の変曲点を早く求めることができる。
しかしながら、ノイズと必要な測定精度の依存関係に基づき、測定ポイントの数は抜本的に増加させられるべきである。光音響信号の変化が線形的な挙動であれば、2ポイントの測定データから位相0の位置を非常に正確な精度で得ることができ、小さい範囲の中で位置を検索することができる。一方、光音響信号の変化が放物線状の場合には、二分検索アルゴリズム(二分探索)は最高の方法である。ただし、位相が0の位置を求めるのに要する時間は非常に長くなる。実験的な見解からセンサの反応時間に関連して、測定時間の量的増加を推定することは困難である。しかしながら、光音響信号の位相の線形的な挙動を利用すれば、より早く測定することができ、正確な成分濃度値を提供することができる。
次に、OPBS法による測定についてさらに詳細に説明する。図12は、成分濃度測定装置のOPBS法による測定時の動作を示すフローチャートである。
初めに時刻t0の初期状態において参照レベルの決定を行うために、レーザ101−1のみを動作させる。被測定物113は、光音響セル106内に導入される。レーザ駆動部102から駆動電流が供給されると、レーザ101−1はレーザ光を放射する。このとき、レーザ駆動部102から矩形波の駆動電流が供給されることにより、レーザ101−1は強度変調光を放射する。光の波長は例えば1384nmである。この強度変調光は、光ファイバ103−1によって導かれ光カプラ104を通過して、さらに光ファイバ105によって導かれ、光学窓107を通って光音響セル106内の被測定物113に照射される(図12ステップS401)。
音響センサ108は、被測定物113から発生する光音響信号を検出し、増幅器109は、音響センサ108から出力された電気信号を増幅する。ロックインアンプ111は、増幅器109の出力に含まれる信号のうち、関数発生器110から出力される参照信号によって決まる周波数の測定信号を検出する。
情報処理装置112の関数発生器制御部201は、関数発生器110が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、レーザ駆動部102からレーザ101−1に供給される駆動電流の周波数を変化させ、光変調周波数を漸次変化させると共に、ロックインアンプ111が検出する測定信号の周波数(光変調周波数と同一の周波数)を漸次変化させる光変調周波数掃引を行う(図12ステップS402)。こうして、音響共振ピークを探索する。
次に、測定信号の最大振幅を見つけたときに、情報処理装置112の周波数測定部208は、この最大振幅時の測定信号の周波数(参照周波数F0)を測定し、位相測定部203は、最大振幅時の測定信号の位相(参照位相P0)を測定する(図12ステップS403)。情報処理装置112の情報記録部205は、周波数測定部208が測定した参照周波数F0と位相測定部203が測定した参照位相P0とを記憶部213に記憶させる(図12ステップS404)。
次に、2つのレーザ101−1,101−2を動作させて、2つの光を合波して測定を行う。レーザ駆動部102から駆動電流が供給されると、レーザ101−1,101−2はレーザ光を放射する。このとき、レーザ駆動部102は、同一周波数で逆位相の矩形波の駆動電流をレーザ101−1,101−2に供給することにより、レーザ101−1,101−2から放射される光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ強度変調する。各レーザから放射される光の波長は、選択されたいずれかの組の第1の波長および第2の波長である。また、2つの光のパワーは同一である。レーザ101−1,101−2から放射された強度変調光は、それぞれ光ファイバ103−1,103−2によって導かれ、光カプラ104によって合波され、さらに光ファイバ105によって導かれ、光学窓107を通って光音響セル106内の被測定物113に照射される(図12ステップS405)。
続いて、情報処理装置112の関数発生器制御部201は、関数発生器110が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、レーザ駆動部102からレーザ101−1,101−2に供給される駆動電流の周波数を変化させ、光変調周波数を参照周波数F0に設定すると共に、ロックインアンプ111が検出する測定信号の周波数を参照周波数F0に設定する。情報処理装置112の光パワー制御部209は、レーザ駆動部102からレーザ101−1に供給される駆動電流の大きさを変化させることにより、レーザ101−1から放射される光のパワーを漸次変化させる光パワー掃引を行う(図12ステップS406)。
情報処理装置112の位相測定部203は、測定信号の位相の変曲点、すなわち位相が0になる点を探索する(図12ステップS407)。位相の変曲点が見つかったときに、情報処理装置112の光パワー測定部210は、変曲点における2つの光の光パワーの差を測定する(図12ステップS408)。光パワー測定部210は、レーザ101−1に供給される駆動電圧とレーザ101−2に供給される駆動電圧との差である参照駆動電圧差VOPBS0を光パワーの差として測定する。
なお、ステップS404の時点における2つの光パワーは同一なので、2つの光のうち一方の光のパワーのみを変化させる場合には、この一方の光についてステップS404時点の初期の光パワーと変曲点における光パワーとの差(駆動電圧差)を求めるようにしてもよい。また、ステップS405における光パワー掃引において、2つのレーザ101−1,101−2から放射される光のパワーを変化させるようにしてもよい。
次に、時刻t0から任意の時間経過後の時刻tにおける測定について説明する。初めに、一方のレーザ101−1のみを動作させて、1つの光のみによる測定を行う。レーザ101−1から放射された強度変調光は、光ファイバ103−1によって導かれ光カプラ104を通過して、さらに光ファイバ105によって導かれ、光学窓107を通って光音響セル106内の被測定物113に照射される(図12ステップS409)。
情報処理装置112の関数発生器制御部201は、関数発生器110が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、レーザ駆動部102からレーザ101−1に供給される駆動電流の周波数を変化させ、光変調周波数を参照周波数F0に設定する。さらに、関数発生器制御部201は、関数発生器110が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、光変調周波数を参照周波数F0から変化させる。
情報処理装置112の位相測定部203は、測定信号の位相が参照位相P0となる点を探索し、情報処理装置112の周波数測定部208は、この点における周波数F1を測定する。こうして、参照位相P0に対応する周波数F1を探索する(図12ステップS410)。なお、周波数F1は参照周波数F0の近傍に位置する。
次に、2つのレーザ101−1,101−2を動作させて、2つの光を合波して測定を行う。レーザ駆動部102は、同一周波数で逆位相の矩形波の駆動電流をレーザ101−1,101−2に供給することにより、レーザ101−1,101−2から放射される光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ強度変調する。上記と同様に、レーザ101−1から放射される光の波長は例えば1384nm、レーザ101−2から放射される光の波長は例えば1610nmである。また、2つの光のパワーは同一である。レーザ101−1,101−2から放射された強度変調光は、それぞれ光ファイバ103−1,103−2によって導かれ、光カプラ104によって合波され、さらに光ファイバ105によって導かれ、光学窓107を通って被測定物113に照射される(図12ステップS411)。
続いて、情報処理装置112の関数発生器制御部201は、関数発生器110が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、レーザ駆動部102からレーザ101−1,101−2に供給される駆動電流の周波数を変化させ、光変調周波数を周波数F1に設定すると共に、ロックインアンプ111が検出する測定信号の周波数を周波数F1に設定する。情報処理装置112の光パワー制御部209は、レーザ駆動部102からレーザ101−1に供給される駆動電流の大きさを変化させることにより、レーザ101−1から放射される光のパワーを漸次変化させる光パワー掃引を行う(図12ステップS412)。
情報処理装置112の位相測定部203は、測定信号の位相の変曲点、すなわち位相が0になる点を探索する(図12ステップS413)。位相の変曲点が見つかったときに、情報処理装置112の光パワー測定部210は、変曲点における2つの光の光パワーの差を測定する(図12ステップS414)。光パワー測定部210は、レーザ101−1に供給される駆動電圧とレーザ101−2に供給される駆動電圧との差である駆動電圧差VOPBS1を光パワーの差として測定する。
なお、ステップS411の時点における2つの光パワーは同一なので、2つの光のうち一方の光のパワーのみを変化させる場合には、この一方の光についてステップS411時点の初期の光パワーと変曲点における光パワーとの差(駆動電圧差)を求めるようにしてもよい。また、ステップS412における光パワー掃引において、2つのレーザ101−1,101−2から放射される光のパワーを変化させるようにしてもよい。
情報処理装置112の記憶部213には、駆動電圧差VOPBS1と参照駆動電圧差VOPBS0との差(VOPBS1―VOPBS0)と、光パワー変化量δPとの関係を示すキャリブレーションデータが予め記憶されている。このようなキャリブレーションデータは、予め実測することにより求めることができる。情報処理装置112の光パワー変化量導出部211は、記憶部213を参照して駆動電圧差(VOPBS1―VOPBS0)に対応する光パワー変化量δPを取得する(図12ステップS415)。レーザ101−1から放射される光の波長をλ1、レーザ101−2から放射される光の波長をλ2とし、測定結果である信号レスポンス(光パワー変化量導出部211が求めた光パワー変化量)をOPBS(λ1,λ2)と表現する。以上で、レーザ101−1,101−2を用いた測定が終了する。
次に、ステップS401に戻り、レーザ101−1,101−2とは別のレーザ101−1,101−3を用いてステップS401〜S415の測定を行う。こうして、レーザ101−1,101−2,101−3,101−4,・・・,101−nの中から、選択された組の第1波長および第2波長に対応する2つのレーザの全ての組み合わせについてステップS401〜S414の測定を実施する。
例えば、レーザ101−3から放射される光の波長をλ3、レーザ101−4から放射される光の波長をλ4とすれば、レーザ101−1,101−3の組み合わせを用いたときの測定結果である信号レスポンス(光パワー変化量導出部211が求めた光パワー変化量)はOPBS(λ1,λ3)と表現され、レーザ101−1,101−4の組み合わせを用いたときの測定結果である信号レスポンスはOPBS(λ1,λ4)と表現される。
選択し得る2つのレーザダイオードの全ての組み合わせについてステップS401〜S414の測定が終了した時点で(図12ステップS416においてYES)、成分濃度測定装置のOPBS法による測定時の動作が終了する。
なお、OPBS法では、2つの光を同一周波数でかつ逆位相の信号により強度変調しているが、位相差が180°以外の信号で光を強度変調してもよい。
次に、情報処理装置112の濃度導出部212は、FS法による測定結果とOPBS法による測定結果とから測定対象の成分濃度を決定する。
人体組織には多種類の分子がある濃度レベルで存在し、かつ、時間とともに変容している。1つの組成物(ここでは、グルコース)を正確にモニタするには、それゆえ、いくつかの偏在的偏り(それらの変化がグルコース濃度測定に影響を与える組成物やパラメータ)を取り除く必要がある。さらには、ノイズや測定の不確定性などのため、その結果の一貫性や精度を見積もるためには、測定値を得るために必要な測定よりも多くの測定が必要である。
2波長によるOPBS法をn波長によるOPBS法に拡張すると、n(n−1)/2の組み合わせを取り得る。ただし、nは、前述した実施の形態で選択された波長の数となる。例えば、3組の第1の波長および第2の波長が選択された場合、単純にはnは6となる。また、OPBS法による測定を実施する前に、周波数シフトは評価され、補正されなければならない。しかし、この周波数シフトはFS測定を導くことにもなる。このプロトコルは光波長に依存しないので、どの光波長でも実施可能であり、かつ、一度の実施でよい。FS法は高感度であるが、グルコース選択性が低い。さらに、周波数シフトのレスポンスは波長や音響モードにかかわらず一定となっている。
結果として、n個の光波長から、(n(n−1)/2+1)の方程式を得ることができる。ここで、M個(Mは2以上の整数)の未知パラメータ、例えばCa,Cb,Cc,・・・,Tを有するシステムを考える。Ca,Cb,Cc,・・・は被測定物中のある成分の濃度であり、Tは被測定物の温度である。濃度Caの例としては、血液グルコースの濃度がある。濃度Cbの例としてはアルブミンの濃度がある。M個の未知パラメータの中の1つのパラメータに注目したとしても、少なくともM個の方程式を得るためにシステム全体を解析しなければならない。しかしながら、n個のレーザダイオードから(n(n−1)/2+1)の方程式を得ることができるので、nは(n(n−1)/2+1)>=Mを満たす整数である必要がある。
一度nを決定すれば、それぞれの波長コンビネーションに対して下記のような方程式を得ることができる。
FS法による測定結果である信号レスポンスFS(λ1)は、次式のように表現できる。
FS(λ1)=KaCa+KbCb+KcCc+・・・+KtT ・・・(13)
ここで、Ka,Kb,Kc,・・・,Ktは比例係数である。
OPBS法による測定結果である信号レスポンスOPBS(λ1,λ2),OPBS(λ1,λ3),OPBS(λ1,λ4),・・・,OPBS(λn−1,λn)は、次式のように表現できる。n個のレーザダイオードの中から選択し得る2つのレーザダイオードの全ての組み合わせはn(n−1)/2通りであるから、OPBS法により得られる信号レスポンスもn(n−1)/2個となる。
OPBS(λ1,λ2)=Qaλ1,λ2Ca+Qbλ1,λ2Cb+Qcλ1,λ2Cc+・・・+Qtλ1,λ2T
OPBS(λ1,λ3)=Qaλ1,λ3Ca+Qbλ1,λ3Cb+Qcλ1,λ3Cc+・・・+Qtλ1,λ3T
OPBS(λ1,λ4)=Qaλ1,λ4Ca+Qbλ1,λ4Cb+Qcλ1,λ4Cc+・・・+Qtλ1,λ4T
・・・
OPBS(λn−1,λn)=Qaλn-1,λnCa+Qbλn-1,λnCb+Qcλn-1,λnCc+・・・+Qtλn-1,λnT ・・・(14)
ここで、Qaλi,λj,Qbλi,λj,Qcλi,λj,・・・,Qtλi,λj(i,j=1〜nで、i≠j)は比例係数である。式(13)、式(14)をマトリクスで記述すると、以下のようになる。
中央のマトリクス、すなわち係数マトリクスには係数Ka,Kb,Kc,・・・,KtとQaλi,λj,Qbλi,λj,Qcλi,λj,・・・,Qtλi,λjとが含まれている。この係数Ka,Kb,Kc,・・・,KtとQaλi,λj,Qbλi,λj,Qcλi,λj,・・・,Qtλi,λjの値は、想定されるそれぞれの組成物(グルコースやアルブミン、その他の血液成分等)を一つ一つ評価したキャリブレーション測定で予め実験的に得ることができる。従って、情報処理装置112の濃度導出部212は、式(13)、式(14)の連立方程式を解くことにより、M個の未知パラメータCa,Cb,Cc,・・・,Tを決定することができる。
係数マトリクスが正方マトリクスであれば、未知パラメータCa,Cb,Cc,・・・,Tについて1つの解が存在する。係数マトリクスの行が列より多ければ複数の解が存在するので、最も確からしいCa,Cb,Cc,・・・,Tを決定するには、いくつかの数学的なプロセスが必要になる。解は一義的には決定できないが、複数の解の中でどれが最適解かはチェックすることができる。不安定性と雑音を考慮すると、(n(n−1)/2+1)=Mである1つ目のアプローチより、(n(n−1)/2+1)>Mである2つ目のアプローチが、より安定であることは疑いようがない。
たとえ測定精度が重要であるとしても、無期限に光源の数を増やすことができない場合がある。光源数の増加が装置のコストや大きさ、測定時間などの増加をもたらすためである。論理的には、本実施の形態のアプローチが、未知のパラメータの数で制限されることはない。しかしながら、OPBS法の構成で実施可能なFS法を用いることで、変数の数を減らすことは、実際のシステムを簡素化するのに有用である。
また、上述した測定では、研究室環境での実験により組成物マトリクスを評価することになる。しかしながら、患者の生体での実験では、個人個人で係数が若干変化する。よって、連続測定を始める前にグルコース濃度の開始値をセットするためには、標準的な方法に基づく少なくとも1つの測定値が必要である。上述した測定方法による測定結果と標準的な方法による測定結果とを比較することにより、マトリクス係数を患者に合わせることができる。
なお、情報処理装置112は、例えばCPU、記憶装置およびインタフェースを備えたコンピュータとこれらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このようなコンピュータを動作させるためのプログラムは、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、メモリカードなどの記録媒体に記録された状態で提供される。CPUは、読み込んだプログラムを記憶装置に書き込み、このプログラムに従って上述した各処理を実行する。
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。