JP5839151B1 - 鋼材、この鋼材を用いた船舶のバラストタンク及び船倉、並びにこのバラストタンクまたは船倉を備える船舶 - Google Patents

鋼材、この鋼材を用いた船舶のバラストタンク及び船倉、並びにこのバラストタンクまたは船倉を備える船舶 Download PDF

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Abstract

この鋼材は、所定の化学成分を有し、軟質組織と硬質組織とを有し、前記軟質組織中のSn濃度に対する前記硬質組織中のSn濃度の比であるSn濃度比が1.2以上6.0未満である。

Description

本発明は、海水環境のような、塩化物を含む腐食環境下で用いられる、耐食性に優れた鋼材に関する。また、本発明は、耐食性に優れたこの鋼材を用いて形成された、船舶のバラストタンク及び船倉に関する。また、本発明は、これらのバラストタンク又は船倉を備えた船舶に関する。
鋼材の腐食を加速する因子として、塩化物の影響が極めて大きいことが良く知られている。特に、船舶におけるバラストタンク、外板および上部構造、海岸地域にある橋梁等の構造物、港湾施設の矢板および管杭、海洋構造物、ならびに洋上風力発電設備などにおいて使用される鋼材は、直接海水の飛沫を受けるとともに、乾湿繰り返し環境にさらされるので、きわめて腐食されやすい。海水中に設置される鋼材も、乾湿繰り返し環境に設置される鋼材ほどではないが、腐食されやすい。海浜地域で使用される鋼材においては、海水の飛沫を受けることは無いものの、海塩粒子の飛来により腐食が促進される。また、内陸部においても、冬季には路面凍結を防ぐために塩化物を含む凍結防止剤の散布等がなされる場合があり、塩化物による鋼材の腐食が問題となっている。
さらには、石炭および鉄鉱石等を運搬する船舶の貨物を積載する区画である船倉内は、直接海水環境にはさらされないが、海水による洗浄等が行われるので塩化物による鋼材の腐食が問題となる。また、塩運搬船のタンクなどにおいても塩化物による鋼材の腐食が問題となる。また、タンカーの原油タンク内は、高濃度塩化物溶液であるドレン水が存在する厳しい腐食環境となっているので、鋼材の腐食が問題となる。その他、オイルサンドの掘削・輸送設備においても塩化物による鋼材の腐食が問題となる。このように、塩化物による鋼材の腐食は大きな問題となっている。
上述したような、塩化物による腐食が問題となる環境では、通常、鋼材は塗装して用いられる。しかし、塗膜が劣化したり、鋼材のエッジなどの塗膜厚の薄い部分から腐食が発生・進行したりするので、構造物において鋼材を長期使用する際には再塗装などのメンテナンスが必須である。例えば再塗装を行う場合、構造物によっては足場を設置する必要があることなどからメンテナンス費が莫大なものとなること、および塗装により人体に有害とされているVOC(揮発性有機化合物)が大量に発生することなどが問題となる。このような事情から、塗装がされていなくても耐食性に優れた鋼材、または再塗装が必要になるまでの期間を長くできる鋼材の開発が従来から強く望まれてきた。
このような塩化物環境下での耐食性を向上させた鋼材として、例えば特許文献1〜3には、Snをそれぞれ0.005〜0.3質量%、0.02〜0.40質量%、0.01〜0.50質量%含有することで、塩化物イオン(Clイオン)を含む環境下における耐食性向上させた鋼材が開示されている。
また、特許文献4には、W:0.01〜0.5質量%、Mo:0.02〜0.5質量%のうち1種以上、及び、Sn:0.001〜0.2質量%、Sb:0.01〜0.2質量%のうち1種以上を含み、海水腐食環境下において補修塗装までの期間の延長が可能な鋼材が開示されている。
日本国特開2010−064110号公報 日本国特開2012−057236号公報 日本国特開2012−255184号公報 日本国特開2009−046750号公報
上述したように、Snを含む鋼材、または、Sn及びSbの1種以上及びW及びMoの1種以上を含む鋼材が、塩化物を含む腐食環境において、優れた耐食性を有することが開示されている。しかしながら、本発明者らは、Sn及び/又はWを含む鋼材に対して腐食試験を行った結果、単にSnを含む鋼材、または、Sn及びSbの1種以上及びW及びMoの1種以上を含む鋼材を用いても、腐食環境によっては、十分な耐食性が確保できないことを確認した。
具体的には、以下のような腐食試験を行った。
表1に示す化学成分を有する鋼板A〜Cを準備し、これらの鋼板を用いて、バラストタンクの腐食環境を模擬した2種類の腐食試験、すなわち、SAEJ2334試験及びウエーブタンク試験(以下「WT試験」とする)を行った。SAEJ2334試験、WT試験のいずれにおいても鋼板の表面に防食皮膜を形成させた試験片を用いた。
Figure 0005839151
SAEJ2334試験について説明する。
SAEJ2334試験とは、乾湿繰り返し(湿潤→塩分付着→乾燥)の条件を1サイクル(合計24時間)として行う加速劣化試験であり、飛来塩分量が1mddを超えるような厳しい腐食環境を模擬する試験である。SAEJ2334試験は以下の条件を1サイクルとして行った。下記の条件下における腐食形態は、大気暴露試験の腐食形態と類似している。
(試験条件)
・湿潤:50℃、100%RH、6時間、
・塩分付着:0.5質量%NaCl、0.1質量%CaCl、0.075質量%NaHCO水溶液浸漬、0.25時間、
・乾燥:60℃、50%RH、17.75時間
SAEJ2334試験では、厚さが20mmの各鋼板(鋼板A、B、C)から採取した、縦60mm×横100mm×厚さ3mmの試験片を用いた。各試験片の表面には、ショットブラスト処理を施し、ショットブラスト処理を施した後、変性エポキシ系塗料(中国塗料株式会社製「ノバ2000」)を鋼板の表面にスプレー塗装することによって、350μmの塗膜厚の防食皮膜を形成させた。防食皮膜を形成させた後、各試験片について、防食皮膜に十字の疵を形成させることによって、下地としての鋼板の一部を露出させた。
SAEJ2334試験での評価は、以下の(a)及び(b)によって行った。
(a)防食皮膜の疵部が形成された位置において、下地としての鋼材の最大腐食深さ(鋼材表面からの腐食深さの最大値)を測定した。
(b)防食皮膜のうち疵部から進展して剥離した部分の面積を評価するために、皮膜剥離面積率(%)を求めた。具体的には、防食皮膜が剥離した部分(疵部から進展して剥離した部分)をカッター等によって取り除き、上記取り除いた部分を皮膜剥離部とした。そして、画像処理ソフトの2値化処理を用いて、(皮膜剥離部面積)/(試験片面積)×100の値を求めて皮膜剥離面積率(%)とした。試験片面積とは、試験片の6つの面うち疵部が形成された面の面積を意味する。
SAEJ2334試験では、最大腐食深さが0.45mm以下でかつ、皮膜剥離面積率が60%以下の場合を合格とした。
次に、ウエーブタンク試験(WT試験)について説明する。
ウエーブタンク試験(WT試験)は、船舶のバラストタンク内の環境を模擬した試験である。WT試験は、船舶のバラストタンクの甲板の裏面側(図1の(2)の位置)を模擬した以下の条件で行った。
(試験条件)
・「50℃、12時間」と「20℃、12時間」を繰り返す温度サイクル(試験片の温度)のもとで、海水面から飛散した海水飛沫を試験片表面に付着させる。
WT試験では、厚さが20mmの各鋼板(鋼板A〜C)から採取した、縦140mm×横30mm×厚さ2.5mmの試験片を用いた。採取した各試験片の表面には、変性エポキシ系塗料(中国塗料株式会社製「バンノー500」)をスプレー塗装して、350μmの塗膜厚の防食皮膜を形成した。そして、図2Bに示すように、試験片の中央部において、防食皮膜に、試験片の幅方向に延びる長さ10mmの直線状の疵を形成し、下地としての鋼材の一部を露出させた。
WT試験での評価は、以下の(c)及び(d)によって行った。
(c)防食皮膜の疵部が形成された位置において、下地としての鋼材の最大腐食深さ(鋼材表面からの腐食深さの最大値)を測定した。
(d)防食皮膜の疵部から進展して剥離した部分の面積を評価するために、皮膜剥離面積率(%)を求めた。具体的には、防食皮膜が剥離した部分(疵部から進展して剥離した部分)をカッター等によって取り除き、上記取り除いた部分を皮膜剥離部とした。そして、画像処理ソフトの2値化処理を用いて、(皮膜剥離部面積)/(皮膜疵部を中心とした30mm×100mmの面積)×100の値を求めて皮膜剥離面積率(%)とした。ここで、30mm×100mmの面積を分母として皮膜剥離面積率を標準化したのは、この面積以上の大きさで皮膜剥離が進むことは考えられないためである。
WT試験では、最大腐食深さが0.3mm以下で、かつ、皮膜剥離面積率35%以下の場合を合格とした。
上記試験の結果を表2に示す。
鋼板A、B、Cのいずれについても、SAEJ2334試験の結果は良好であった。しかしながら、鋼板A及びBは、WT試験において皮膜剥離面積率及び最大腐食深さにおいて、悪い結果となった。一方、鋼板CはSAEJ2334試験とWT試験の両方の試験において、良好な結果を示した。
鋼板A及びBにおいて、SAEJ2334試験では良好な結果を示したものの、WT試験では、悪い結果となった。その理由として、WT試験の条件では、濡れ時間が長く、塗膜下への水の浸透が大きくなるので、Fe2+の溶解反応によるpHの上昇が起こり、SAEJ2334試験の場合に比べて、塗膜剥離がより促進されるためであると考えられる。
Figure 0005839151
上述の事情を鑑み、本発明は、例えば船舶のバラストタンクの甲板の裏面側のような、塩化物を含む厳しい環境下でも、優れた耐食性を確保できる鋼材を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の試験結果を受け、鋼板A〜Cの試験片の組織を光学顕微鏡観察によって調査した。その結果、WT試験のような厳しい条件でも優れた耐食性を確保するためには、鋼板の化学成分だけでなく、その組織を制御することが重要である可能性を新たに見出した。
本発明者らは、更に、上記知見に関し、詳細な調査を行った。具体的には、表1の鋼板Aと同じ化学成分を有する鋼に対し、製造条件を表3に示すように変化させて、鋼板A1〜A4を作成した。また、これらの鋼板A1〜A4から採取した試験を用いてWT試験を行った。試験条件は、上述した条件と同じ条件とした。
Figure 0005839151
鋼板A1〜A4に対して行ったWT試験の結果を表4に示す。鋼板A3において、皮膜剥離面積率、最大腐食深さともに、良好な結果が得られた。また、鋼板A1〜A4の組織を詳細に調査したところ、硬質組織におけるSn濃度の軟質組織におけるSn濃度に対する比(硬質組織中のSn濃度/軟質組織中のSn濃度、以下Sn濃度比とする)を所定の範囲に制御することで、WT試験のような厳しい条件下でも優れた耐食性を確保できることを知見した。
Figure 0005839151
製造条件によって、Sn濃度比が変化する理由は以下の通りであると考えられる。
(i)鋼板A1の製造条件の場合
圧延後の冷却は空冷であり、冷却速度が遅い。そのため、フェライトなどの軟質組織(軟質相)が成長しやすく、フェライトなどを中心とする軟質組織と層状(バンド状)の硬質組織(硬質相)とが形成される。また、冷却速度が遅いので、軟質組織から硬質組織へのSnの拡散が起こりやすく、Sn濃度比が高くなる。
(ii)鋼板A2の製造条件の場合
Snは融点が他の元素に比べて低いため、550〜400℃間でも拡散するものの、650℃〜400℃まで強冷却(水冷)された場合には、Snが十分硬質組織に拡散できず、Sn濃度比が小さくなる。
(iii)鋼板A3の製造条件の場合
圧延後、550℃以上までの温度域を強冷却されることにより、軟質組織と硬質組織が分散した組織となる。その後、550℃〜400℃を緩冷却されることで、分散した硬質相に適度にSnが拡散する。
(iv)鋼板A4の製造条件の場合
圧延後に450℃まで強冷却されるため、組織が硬質相中心となり、また、Snが硬質相に十分拡散しないため、Sn濃度比が低くなる。
本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであって、その要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係る鋼材は、化学組成が、質量%で、C:0.01〜0.20%、Si:0.01〜1.00%、Mn:0.05〜3.00%、Sn:0.01〜0.50%、O:0.0001〜0.0100%、Cu:0〜0.10%未満、Cr:0〜0.10%未満、Mo:0〜0.050%未満、W:0〜0.050%未満、Cu+Cr:0〜0.10%未満、Mo+W:0〜0.050%未満、Sb:0〜0.05%未満、Ni:0〜0.05%、Nb:0〜0.050%、V:0〜0.050%、Ti:0〜0.020%、Al:0〜0.100%、Ca:0〜0.0100%未満、Mg:0〜0.0100%、REM:0〜0.0100%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、残部:Feおよび不純物であり;フェライトである軟質組織と、パーライト、ベーナイト、およびマルテンサイトである硬質組織とを有し;前記軟質組織中のSn濃度に対する前記硬質組織中のSn濃度の比であるSn濃度比が1.2以上6.0未満である。
(2)上記(1)に記載の鋼材では、前記化学組成が、質量%で、Cu+Cr:0〜0.05%未満を含有してもよい。
(3)上記(1)または(2)に記載の鋼材では、前記化学組成が、質量%で、Mo+W:0.0005〜0.050%未満を含有してもよい。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の鋼材では、前記化学組成が、質量%で、Nb:0.001〜0.050%、V:0.005〜0.050%、Ti:0.001〜0.020%、Al:0.01〜0.100%、Ca:0.0002〜0.0100%未満、Mg:0.0002〜0.0100%、およびREM:0.0002〜0.0100%、から選択される1種以上を含有してもよい。
(5)上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の鋼材では、表面が、膜厚が20μm以上の防食皮膜により被覆されていてもよい。
(6)本発明の別の態様に係るバラストタンクまたは船倉は、上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の鋼材を用いて形成される。
(7)本発明の別の態様に係る船舶は、上記(6)に記載のバラストタンクまたは船倉を備える。
本発明の上記態様によれば、塩化物を含む腐食環境下においても優れた耐食性を有する鋼材を提供することができる。また、本発明によれば、耐食性に優れたこの鋼材を用いて形成された、船舶のバラストタンク及び船倉、並びに、これらのバラストタンク及び船倉を備えた船舶を提供することができる。
ウエーブタンク試験(WT試験)に用いる試験槽の模式図である。 ウエーブタンク試験(WT試験)に用いる試験片の例である。 ウエーブタンク試験(WT試験)に用いる試験片の例である。 本実施形態に係る鋼材を適用するバラストタンク、船倉、船舶を示す模式図である。
本発明の一実施形態に係る鋼材(以下、本実施形態に係る鋼材と言う場合がある)について詳しく説明する。各元素の含有量の「%」は「質量%」を示している。
化学組成(化学成分)について
本実施形態に係る鋼材において、その化学組成を規定する理由は次のとおりである。
C:0.01〜0.20%
Cは、鋼材の強度を向上させる元素である。この効果を得るため、C含有量の下限を0.01%とする。好ましいC含有量の下限は、0.02%であり、より好ましいC含有量の下限は0.03%である。C含有量の下限を、0.05%、0.07%又は0.09%としてもよい。一方、C含有量が0.20%を超えると溶接性が著しく低下する。また、C含有量の増大とともに、pHが低い環境でカソードとなって腐食を促進するセメンタイトの生成量が増大し、鋼材の耐食性が低下する。このため、C含有量の上限を0.20%とする。好ましいC含有量の上限は、0.18%であり、より好ましいC含有量の上限は0.16%である。C含有量の上限を、0.15%又は0.13%としてもよい。
Si:0.01〜1.00%
Siは脱酸に必要な元素である。十分な脱酸効果を得るため、0.01%以上含有させる必要がある。好ましいSi含有量の下限は、0.03%であり、より好ましいSi含有量の下限は0.05%である。Si含有量の下限を、0.10%、0.15%又は0.20%としてもよい。一方、Si含有量が1.00%を超えると、母材および溶接継手部の靱性が損なわれる。このため、Si含有量の上限を1.00%とする。好ましいSi含有量の上限は、0.80%であり、より好ましいSi含有量の上限は0.60%である。Si含有量の上限を、0.50%、0.40%又は0.30%としてもよい。
Mn:0.05〜3.00%
Mnは低コストで鋼材の強度を高める作用を有する元素である。この効果を得るため、Mn含有量の下限を0.05%とする。好ましいMn含有量の下限は、0.20%であり、より好ましいMn含有量の下限は0.40%である。Mn含有量の下限を、0.60%、0.80%又は0.90%としてもよい。一方、Mn含有量が3.00%を超えると、溶接性及び継手靭性が劣化する。このため、Mn含有量の上限を3.00%とする。好ましいMn含有量の上限は、2.50%であり、より好ましいMn含有量の上限は2.00%である。Mn含有量の上限を、1.80%、1.60%又は1.50%としてもよい。
Sn:0.01〜0.50%
Snは本実施形態に係る鋼材において重要な元素である。SnはSn2+として溶解し、2Fe3++Sn2+→2Fe2++Sn4+なる反応によりFe3+の濃度を低下させることで、腐食反応を抑制する。また、Snは、低pH塩化物環境において鋼材のアノード溶解反応を著しく抑制するので、塩化物腐食環境における鋼材の耐食性を大幅に向上させる。これらの効果を得るため、Sn含有量の下限を0.01%とする必要がある。好ましいSn含有量の下限は、0.03%であり、より好ましいSn含有量の下限は0.05%である。Sn含有量の下限を、0.08%、0.12%、0.16%又は0.19%としてもよい。一方、Sn含有量が0.50%を超えると、上記の効果が飽和するだけでなく、母材および大入熱溶接継手の靭性が劣化する。したがって、Sn含有量の上限は0.50%とする。好ましいSn含有量の上限は、0.45%であり、より好ましいSn含有量の上限は0.40%である。Sn含有量の上限を、0.35%又は0.30%としてもよい。
O:0.0001〜0.0100%
O(酸素)はSnと同様に本実施形態に係る鋼材において重要な元素である。Oは微量の含有により溶接継手の靭性を向上させる。この効果を得るには、O含有量の下限を0.0001%とする必要がある。好ましいO含有量の下限は、0.0002%以上であり、より好ましいO含有量の下限は、0.0003%である。O含有量の下限を、0.0005%、0.0010%、0.0015%又は0.0019%としてもよい。一方、OはSnOおよびSnO等の酸化物を形成する。そのため、O含有量が0.0100%を超えると、硬質組織中におけるSn濃度を十分に確保できない。また、上記酸化物は腐食の起点となるので、鋼材の耐食性が低下する。したがって、O含有量の上限は0.0100%とする。好ましいO含有量の上限は、0.0090%であり、より好ましいO含有量の下限は、0.0080%である。O含有量の上限を、0.0060%、0.0040%又は0.0030%としてもよい。
Cr:0〜0.10%未満
Crは一般に、鋼材の耐食性を向上させる元素であると考えられている。しかしながら、本発明者らは、本実施形態で想定されるような塩化物を含む腐食環境下では、Crを含有すると鋼材の耐食性が悪化することを見出した。Cr含有量は、少ない方が好ましく、含有量の下限を0%とする。一方、不純物として混入する場合を考慮し、Cr含有量の上限を0.10%未満とする。Cr含有量は、0.07%以下又は0.05%未満に制限することが好ましく、0.03%以下又は0.02%以下に制限することがより好ましい。Cr含有量を0.01%以下に制限することがより一層好ましい。
Cu:0〜0.10%未満
Cuは一般に、鋼材の耐食性を向上させる元素であると考えられている。しかしながら、本発明者らは、本実施形態で想定されるような塩化物を含む腐食環境下では、Cuを含有すると鋼材の耐食性が低下することを見出した。Cu含有量は、少ない方が好ましく、Cu含有量の下限を0%とする。一方、不純物として混入する場合を考慮し、Cu含有量の上限を0.10%未満とする。耐食性の向上のためには、Cu含有量を0.07%以下又は0.05%以下に制限することが好ましく、0.03%以下又は0.02%以下に制限することがより好ましい。Cu含有量を0.01%以下に制限することがより一層好ましい。
鋼材がCuを含有する場合にはCuとSnが共存することになる。この場合、製造方法によっては圧延割れが生じることがある。圧延割れを抑制するためには、Sn含有量に対するCu含有量の比(Cu/Sn)を小さくすることが重要となる。Cuを含有させる場合、Cu/Snを1.0以下とすることが好ましい。Cu/Snを0.5以下又は0.3以下とすることがより好ましい。
Cu+Cr:0〜0.10%未満
上述したように、Cr及びCuは塩化物を含む腐食環境下において、鋼材の耐食性を低下させる元素である。そのため、これらの元素を同時に含有する場合、個々の元素の含有量だけでなく、合計含有量を制限する必要がある。すなわち、Cu及びCrの合計含有量を0.10%未満に制限する必要がある。好ましくは、0.07%未満、より好ましくは0.05%未満、さらに好ましくは0.04%未満、より一層好ましくは0.03%未満である。
Mo:0〜0.050%未満
Mo含有量が0.050%以上であると、耐食性が低下する場合があることに加え、鋼材のコストが大幅に上昇する。したがって、Mo含有量は少ない方が好ましく、Mo含有量は0.050%未満とする。好ましくは、Mo含有量は、0.040%以下である。Mo含有量の上限を0.030%、0.020%、0.010%又は0.005%としてもよい。耐食性の改善のためにはMo含有量は少ない方が好ましく、Mo含有量の下限は0%である。しかし、強度又は靭性などの特性向上のため、Mo含有量の下限を0.010%又は0.020%としてもよい。
W:0〜0.050%未満
W含有量が0.050%以上であると、耐食性が低下する場合もあることに加え、鋼材のコストが大幅に上昇する。したがって、Mo含有量は少ない方が好ましく、W含有量は0.050%未満とする。より好ましくは、W含有量は、0.040%である。W含有量の上限を0.030%、0.020%、0.010%又は0.005%としてもよい。耐食性の改善のためにはW含有量は少ない方が好ましく、W含有量の下限は0%である。しかし、強度又は靭性などの特性向上のため、Mo下限を0.010%又は0.020%としても差し支えない。
Mo+W:0〜0.050%未満
耐食性の向上のため、Mo及びWについては個々の元素の含有量だけでなく、合計含有量を制限する必要がある。すなわち、Mo及びWの合計含有量を0.050%未満に制限する。この合計含有量の上限を0.030%、0.020%、0.010%又は0.005%としてもよい。耐食性の改善のためにはこの合計含有量は少ない方が好ましいが、強度又は靭性などの特性向上のため、合計含有量の下限を0.005%、0.010%又は0.020%としても差し支えない。
本実施形態に係る鋼材は、上記の成分を有し、残部がFe及び不純物であることを基本とするが、上記の成分のほか、必要に応じて、下記に示す元素のうちから選択される1種以上の成分を含有させてもよい。
また、本実施形態において、不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、その他の要因により混入する成分を意味する。
Sb:0〜0.05%
Sbは、耐酸性を向上させる元素である。しかし、Sbを0.05%超含有させても、その効果が飽和するだけでなく、鋼材の靭性等の劣化を招く。そこで、Sbの含有量は0.05%以下とする。Sb含有量の上限を、0.04%又は0.03%としてもよい。Sbの含有は必須でなく、Sb含有量の下限は0%である。しかし、耐酸性を向上させるために、Sb含有量の下限を0.005%、0.010%又は0.015%としてもよい。
Ni:0〜0.05%
Niは一般に、Cuと同様に、鋼材の耐食性を向上させると考えられている。しかしながら、本発明者らは、本実施形態で想定されるような塩化物を含む腐食環境下では、Niを含有すると鋼材の耐食性が低下することを見出した。Ni含有量は、少ない方が好ましく、Ni含有量の下限は0%である。不純物として混入する場合を考慮し、Ni含有量の上限を0.05%とする。耐食性の向上のため、Ni含有量を0.03%以下又は0.02%以下に制限することが好ましく、0.01%以下に制限することがより好ましい。
Nb:0〜0.050%
Nbは鋼材の強度を上昇させる元素である。しかし、Nb含有量が0.050%を超えると上記の効果が飽和する。したがって、含有させる場合のNb含有量は0.050%以下とする。必要に応じて、Nb含有量を、0.030%以下又0.020%以下としてもよい。Nbは必ずしも含有させる必要がないのでNb含有量の下限は0%であるが、強度向上の効果を得るために、Nbを0.001%以上含有させてもよく、0.003%以上又は0.005%以上含有させてもよい。
V:0〜0.050%
Vは、Nbと同様に鋼材の強度を上昇させる元素である。また、Vは、MoおよびWと同様に、腐食環境中(水溶液中)に溶解して酸素酸イオンの形で存在し、さび層中の塩化物イオンの透過を抑制する。しかし、V含有量が0.050%を超えると、上記の効果が飽和するだけでなく、コストが著しく上昇する。したがって、含有させる場合のV含有量は0.050%以下とする。V含有量を、0.040%以下又は0.030%以下としてもよい。Vは必ずしも含有させる必要がないのでV含有量の下限は0%であるが、上記の効果を得るために、Vを0.005%以上又は0.010%以上含有させてもよい。
Ti:0〜0.020%
Tiは、鋼材の脱酸に有効であり、かつ鋼材の腐食の起点となるMnSの形成を抑える。しかし、Ti含有量が0.020%を超えると、上記の効果が飽和するだけでなく、鋼材のコストが上昇する。したがって、含有させる場合のTi含有量は0.020%以下とする。Ti含有量は、0.015%以下とすることが好ましい。Tiは必ずしも含有させる必要がないのでTi含有量の下限は0%であるが、上記の効果を得るために、Tiを0.005%以上又は0.008%以上含有させてもよい。
Al:0〜0.100%
Alは、鋼材の脱酸に有効な元素である。本実施形態では鋼材中にSiを含有させるので、Siによって脱酸が行われる。よって、Alで脱酸処理することは必ずしも必要でなく、Al含有量の下限は0%とする。しかし、Siに加えて、さらにAlによる脱酸を行ってもよい。Alによる脱酸効果を得るためには、Al含有量を0.010%以上とすることが好ましく、0.020%以上とすることがより好ましく、0.030%以上とすることがさらに好ましい。一方、Al含有量が0.100%を超えると、低pH環境における鋼材の耐食性が低下することによって塩化物腐食環境における鋼材の耐食性が低下する。また、Al含有量が0.100%を超えると窒化物が粗大化することによって鋼材の靱性の低下を引き起こす。したがって、含有させる場合のAl含有量は、0.100%以下とする。好ましいAl含有量の上限は、0.060%であり、より好ましいAl含有量の上限は0.045%である。
Ca:0〜0.0100%未満
Caは鋼材中に酸化物の形で存在し、腐食反応部における界面のpHの低下を抑制して、腐食を抑える。上記の効果を得る場合、Caを0.0002%以上含有させることが好ましく、0.0005%以上含有させることがより好ましい。一方、Ca含有量が0.0100%以上であると、上記の効果が飽和する。したがって、含有させる場合のCa含有量は、0.0100%未満とする。Ca含有量を0.0050%以下又は0.0030%以下としてもよい。必ずしもCaを含有させる必要はないので、Caの含有量の下限は0%である。
Mg:0〜0.0100%
Mgは、Caと同様に、腐食反応部における界面のpHの低下を抑制して、鋼材の腐食を抑える。上記の効果を得る場合、Mg含有量を0.0002%以上含有させることが好ましく、0.0005%以上含有させることがより好ましい。一方、Mg含有量が0.0100%を超えると、上記の効果が飽和する。したがって、含有させる場合のMg含有量は0.0100%以下とする。Mg含有量は、0.0050%以下又は0.0030%以下としてもよい。必ずしもMgを含有させる必要はないので、Mgの含有量の下限は0%である。
REM:0〜0.0100%
REM(希土類元素)は鋼材の溶接性を向上させる元素である。この効果を得る場合、REM含有量を0.0002%以上とすることが好ましく、0.0005%以上とすることがより好ましい。一方、REM含有量が0.0100%を超えると上記の効果が飽和する。したがって、含有させる場合のREM含有量は0.0100%以下とする。REM含有量の上限を、0.0050%又は0.0030%としてもよい。必ずしもREMを含有させる必要はなく、REMの含有量の下限は0%である。本実施形態において、REMとは、ランタノイドの15元素にYおよびScを合わせた17元素の総称である。本実施形態に係る鋼材は、これらの17元素のうちの1種以上を鋼材に含有することができ、REM含有量は、これらの元素の合計含有量を意味する。
不純物のうち、下記の元素については、その含有量を厳密に制限する必要がある。
P:0.050%以下
Pは鋼材中に不純物として存在する元素である。Pは鋼材の耐酸性を低下させる元素であり、腐食界面のpHが低下する塩化物腐食環境においては鋼材の耐食性を低下させる。また、Pは鋼材の溶接性および溶接熱影響部の靭性を低下させる。そのため、P含有量を0.050%以下に制限する。P含有量は、0.040%以下に制限することが好ましく、0.030%未満に制限することがより好ましい。溶接熱影響部の靭性の向上のため、P含有量の上限を0.020%、0.015%又は0.010%としてもよい。Pを完全に取り除くことは容易ではないが、これを排除する必要はなく、P含有量の下限は0%である。
S:0.010%以下
Sは鋼材中に不純物として存在する元素である。Sは鋼材中に腐食の起点となるMnSを形成する。S含有量が0.010%を超えると、鋼材の耐食性の低下が顕著になる。このため、S含有量は0.010%以下に制限する。S含有量は、0.008%以下に制限することが好ましく、0.006%以下に制限することがより好ましく、0.004%以下に制限することがさらに好ましい。Sを完全に取り除くことは容易ではないが、これを排除する必要はなく、S含有量の下限は0%である。
本実施形態に係る鋼材のミクロ組織について説明する。
本実施形態に係る鋼材は、硬質組織と軟質組織とを有する。本実施形態において、硬質組織とはパーライト、ベーナイト、およびマルテンサイトであり、軟質組織とはフェライトである。硬質組織と軟質組織との割合は、鋼材の強度設計に合わせて決定すればよく、特に限定する必要はないが、船体構造用鋼として必要な強度および靭性を確保するためには、本実施形態に係る鋼材のミクロ組織は、パーライトおよびフェライトを含む複合組織であることが好ましく、面積%(面積率)で、フェライト組織が全組織の80%以下であることが好ましい。
また、本実施形態に係る鋼材は、硬質組織と軟質組織とが積層および/または分散した組織構造を有する。後述するSn濃度比を所定の範囲内に制御する場合、硬質組織と軟質組織とが分散した組織が好ましい。また、後述する平均粒径を小さくする場合も、硬質組織と軟質組織とが分散した組織が好ましい。硬質組織と軟質組織とが分散した組織とは、鋼材中において、硬質組織および軟質組織がそれぞれ分散して存在している組織構造のことをいう。
鋼材の結晶粒が粗大化すると、鋼材の機械特性が低下する上、粒内腐食が起こりやすくなる。粒内腐食した結晶粒は腐食の起点となる恐れがある。そのため、軟質組織の平均粒径および硬質組織の平均粒径はそれぞれ、15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。なお、「平均粒径」は、EBSP(Electron Backscatter Diffraction Pattern:電子線後方散乱パターン)により評価した場合の方位差15°以上の組織境界を結晶粒界とし、その結晶粒界で囲まれる部分を結晶粒とみなして算出できる。具体的には、例えば、EBSP法を用いて、倍率2000倍で5視野以上の観察を行い、15°以上の方位差を有する組織境界を結晶粒界とみなし、各結晶粒の面積を求める。そして、求めた各面積から円相当径を算出し、算出した値を各結晶粒の結晶粒径とみなし、それらの平均値を平均粒径とする。EBSP法による評価では、例えば、鋼材から切り出した試験片の断面を観察する。より具体的には、例えば、鋼材の圧延方向および板厚方向に平行な断面を、当該断面に垂直な方向から観察する。観察する領域は、例えば、鋼材の表面から板厚の1/4の位置とする。
一般に、中性塩化物水溶液中では、軟質組織の耐食性が優れ、硬質組織の耐食性が低いとされる。ここで、塩化物を含みかつ乾湿が繰り返される厳しい腐食環境では、鋼材表面に付着する薄い水膜は、酸性塩化物水溶液に変化する。このため、上記のような腐食環境で使用される鋼材では、中性塩化物水溶液中で先んじて腐食した硬質組織が起点となり、腐食が進行し、軟質組織を含めた全面的な腐食に発展することがある。
上述の通り、硬質組織は軟質組織よりも耐食性が低く、硬質組織が腐食の起点となる。しかしながら、硬質組織中のSnが多ければ、腐食の進行を回避でき、軟質組織を含めた鋼の全面的な腐食の進行を抑制することができる。
本実施形態に係る鋼材では、このような腐食を防止するために、各組織中のSn濃度を制御し、硬質組織中のSn濃度を軟質組織中のSn濃度の1.2倍以上とする。先に述べたように、腐食により溶解したSnイオンは、鋼材の耐食性を向上させる。したがって、先行して腐食する硬質組織中にSnが高濃度で存在させれば、硬質組織での初期腐食を回避でき、鋼材全体への腐食進行を防止することができる。しかしながら、硬質組織中のSn濃度が軟質組織中のSn濃度の6倍以上になると、硬質組織と軟質組織との間で電位差が生じ、耐食性に優れる軟質組織が硬質組織に優先して腐食されるので、むしろ耐食性が低下する。したがって、Snによる耐食効果をより発揮するためには、硬質組織中のSn濃度が軟質組織中のSn濃度の1.2倍以上6.0倍未満であることが必要である。好ましくは、硬質組織中のSn濃度は、軟質組織中のSn濃度の1.3倍以上、より好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは1.7倍以上、より一層好ましくは2.0倍以上である。好ましくは、硬質組織中のSn濃度は、軟質組織中のSn濃度の5.0倍以下、より好ましくは4.0倍以下、さらに好ましくは3.5倍以下である。
本実施形態に係る鋼材は、上述の化学成分及び組織を有することで、そのまま使用しても優れた耐食性を有する。しかし、塗装等によって鋼材の表面に防食皮膜を形成することによって、鋼材の耐食性をさらに向上させることができる。具体的には、例えば、有機樹脂からなる防食被膜によって、鋼材の表面を被覆することができる。
ここで、有機樹脂からなる防食被膜としては、ビニルブチラール系、エポキシ系、ウレタン系、またはフタル酸系等の樹脂被膜を挙げることができる。これらのうちの一または複数の樹脂を積層させて防食皮膜としてもよい。防食皮膜の膜厚(乾燥時の膜厚)は20μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。膜厚の下限を100μm又は150μmとしてもよい。防食皮膜の膜厚(乾燥時の膜厚)が500μmを超える場合、樹脂と鋼材との熱膨張係数の違いにより、熱サイクルにより防食皮膜の剥離が進展する可能性がある。そのため、防食皮膜の膜厚は、500μm以下とすることが好ましい。膜厚の上限を400μm又は300μmとしてもよい。
また、本実施形態に係る鋼材では、従来の鋼材に比べて防食皮膜の耐久性が向上する。その結果、鋼材の耐食性がさらに向上する。防食皮膜の耐久性が向上する理由としては、以下のことが考えられる。すなわち、上述のように、本実施形態に係る鋼材では、防食皮膜の有無に関係無く、腐食を著しく抑制できる。このため、防食被膜が欠陥部を有している場合でも、下地としての鋼材が上記欠陥部から腐食されることを抑制できる。これにより、鋼材の腐食に起因する防食皮膜の膨れおよび剥離を抑制できる。この結果、防食皮膜の耐久性が向上すると考えられる。
本実施形態に係る鋼材は、塩化物を含む腐食環境下においても優れた耐食性を有する。そのため、本実施形態に係る鋼材は、船舶のバラストタンクや、石炭運搬船、鉱石運搬船などのばら積み船の船倉の材料として好適に用いられる。
本実施形態に係る鋼材を用いて形成された、船舶のバラストタンクまたは船倉では、腐食が抑制されるため、再塗装などのメンテナンスの頻度を低下させることができる。また、これらのバラストタンクや船倉を備えた船舶では、メンテナンス頻度の低下による運航コストの削減や、腐食により板厚が薄くなった鋼材の所要の板厚の鋼材への取り換え(補修)を防止できることによる安全性の向上や補修コスト低減などの効果が得られる。
以下、本実施形態に係る鋼材の好ましい製造方法を説明する。本実施形態に係る鋼材は、化学成分、組織等が満足していれば、製造方法を限定するものではないが、以下の製造方法であれば容易に製造できるため好ましい。
本実施形態に係る鋼材の製造に際しては、硬質組織中のSn濃度を高めるため、例えば、Snと化合物を形成しやすいSおよびO(酸素)の含有量を低く抑えたスラブを用いることが好ましい。その理由は、SnはO(酸素)またはSと化合物を形成し、酸化スズ(SnO、SnOなど)または硫化スズ(SnS、SnS)を形成し、これらの化合物が鋼材中に形成されると、鋼材中のSnは減少するからである。SおよびOの含有量を低く抑えたスラブを溶製する場合、以下に示すように、脱酸および/または脱硫の管理することが望ましい。
すなわち、脱酸については、溶製初期段階で予めSiとMnとを添加して予備脱酸を行い、溶鋼中の溶存酸素濃度を30ppm以下とした後、Alを添加して改めて脱酸を行うことが望ましい。このとき、必要に応じて、Alと共に、脱酸効果を有するTiを添加してもよい。一方、脱硫は、溶製により形成されたスラグにスラグ改質剤とともに生石灰を投入することにより行うことが望ましい。Snの添加は、脱酸で溶鋼中の溶存酸素濃度を30ppm以下、および/または脱硫で溶鋼中の溶存硫黄濃度を100ppm以下にした後に行うことが望ましい。なお、脱酸の場合、Alを添加して予備脱酸を行い、溶鋼中の溶存酸素濃度を30ppm以下とした後、SiとMnとを添加して改めて脱酸を行ってもよい。なお、S、O以外の化学成分は、上述した好ましい範囲に、公知の方法で調整すればよい。
上記のようにしてSnと化合物を形成しやすいSおよびOの含有量を低く抑えスラブを、鋼材の組成に応じて、例えば、1000〜1150℃程度で加熱後、圧延1パスあたりの圧下率が3.0%以上、圧延仕上温度が700〜900℃程度の条件で熱間圧延すればよい。
熱間圧延後の鋼材は、例えば、圧延終了後〜650℃までの温度域を1.0〜3.0℃/sの平均冷却速度で水冷(弱水冷)した後、続けて650℃〜550℃の温度域を平均冷却速度3.0〜25℃/sで水冷(強水冷)し、550℃〜400℃の温度域を平均冷却速度0.01〜1.0℃/sで冷却(緩冷却)し、その後、室温まで空冷すればよい。ここで言う温度とは、鋼材表面の温度である。
Snは硬質組織において濃化しやすい性質を有する。650℃以上の温度域での冷却速度が、1.0℃/s未満(例えば0.8℃/s)のように遅い場合には、軟質組織および硬質組織に、巨視的なバンド組織が形成されるとともに、Snが硬質組織に濃化し、硬質組織と軟質組織とのSn濃度比(硬質組織中のSn濃度/軟質組織中のSn濃度、以下Sn濃度比とする)が6.0以上になるおそれがある。この場合、硬質組織を起点とする鋼材の靭性低下の可能性があるとともに、鋼材が腐食される際に軟質組織が優先的に溶解されることによって、局部的に腐食が進む。
また、圧延後〜400℃の温度域において一様に強冷却を行うと、組織が硬質相中心となり、Sn濃度比が低くなる可能性がある。
また、550℃〜400℃の冷却速度が1.0℃超となった場合、Snが十分硬質組織に拡散されず、Sn濃度比が小さくなる。
上記のような方法で鋼材を製造することにより、軟質組織および硬質組織が共に細粒化し、硬質組織中のSn濃度が軟質組織中のSn濃度の1.2倍以上6.0倍未満(すなわち、Sn濃度比が1.2以上6.0未満)となり、さらに硬質組織が鋼材中に微細に分散する。これにより、鋼材が腐食される際に、より均一な腐食形態となる。硬質組織が粗大であることによって、硬質組織および軟質組織のSn濃度比(硬質組織中のSn濃度/軟質組織中のSn濃度)が6.0以上となる場合には、鋼材が腐食される際に軟質組織が優先的に溶解されるので、局部的な腐食形態となる。
本実施形態に係る鋼材は、鋼板であってもよい。鋼板の板厚を特に限定する必要はないが、板厚の下限を6mm又は10mmとしてよく、板厚の上限を50mm又は40mmとしてもよい。
本実施形態に係る鋼材の強度(引張強さ)は、特に限定する必要はない。しかしながら、実構造体への適用を考慮して、400MPa以上600MPa以下としてもよい。
本実施形態に係る鋼材の表面に防食皮膜を形成する場合、防食皮膜は、公知の通常の方法によって形成することができる。なお、鋼材の全面が防食皮膜によって被覆されていてもよく、鋼材の表面の一部のみが防食皮膜によって被覆されていてもよい。具体的には、防食皮膜は、腐食環境にさらされる部分(たとえば、鋼材の片面)のみに形成してもよい。鋼材を鋼管として用いる場合には、鋼管の外面または内面のみに防食皮膜を形成してもよい。防食皮膜を形成する前に、鋼材の表面に化成処理を施してもよい。化成処理には、ジンク、チタン、ジルコニウム、クロム、およびシラン化合物等から調製された処理剤を用いることができる。
本実施形態に係る鋼材を用いて、バラストタンクや船倉を形成する場合、公知の方法で行えばよい。また、これらの本実施形態に係る鋼材を用いたバラストタンクや船倉を備える船舶の建造する場合も、公知の方法で行えばよい。図3は、本実施形態に係る鋼材を用いて形成された、バラストタンクや船倉、及びこれらのバラストタンクや船倉を備える船舶の構成の一例を示す模式図である。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
真空溶解炉を用いて27種類の鋼を溶製し、50kg鋼塊とした後、通常の方法で熱間鍛造して厚さが60mmのブロック(鋼No.1〜27)を作製した。表5に、作製したブロックの化学組成を示す。
Figure 0005839151
次いで、上記ブロックのそれぞれを、表6に示すように1100℃〜1120℃で1時間以上加熱してから仕上圧延温度が750〜900℃となるように熱間圧延し、厚さ20mmの鋼板を得た。その後この鋼板を種々の冷却条件で室温まで冷却し、試験No.1〜30の鋼板とした。なお、表6における冷却開始温度は、圧延後に水冷を開始する温度を示し、冷却速度1は、圧延終了〜650℃における平均冷却速度、冷却速度2は、650℃〜550℃における平均冷却速度、冷却速度3は、550〜400℃における平均冷却速度である。
Figure 0005839151
上記の鋼板(試験No.1〜30)から、縦20mm×横15mm×厚さ20mmの鋼材を切り出し、ミクロ試料を作製した。各ミクロ試料を、鏡面研磨した後、ナイタール腐食液を用いて腐食させた。その後、各ミクロ試料を、顕微鏡およびSEM(走査型電子顕微鏡)によって観察した。SEM観察と同時に、EDX(エネルギー分散型X線分光装置:日本電子株式会社製JED2300、観察倍率:3500倍、視野幅:46μm×33μm)にて、硬質組織のSn濃度(A)および軟質組織のSn濃度(B)を定量分析した。そして、硬質組織と軟質組織とのSn濃度比(=(A)/(B))を求めた。
その結果、表7に示すように、本発明例に係る試験No.1〜24では、硬質組織と軟質組織とのSn濃度比が1.2以上6.0未満であった。なお、表7には示していないが、本発明例のいずれのも鋼板も、軟質層と硬質相とを含み、軟質層であるフェライト組織の面積率は全組織の80%以下であった。
一方、比較例に係る試験No.25〜27、29は、Sn濃度比が本発明の範囲を外れていた。比較例に係る試験No.28は、Snが含有されていない。比較例に係る試験No.30は、Sn濃度比は本発明の規定範囲外内であるが、Cu+Crの合計含有量が本発明の範囲外であった。
Figure 0005839151
上記の観察とは別に、下記の腐食試験を実施した。腐食試験としては、バラストタンクの腐食環境を模擬した、SAEJ2334試験およびウエーブタンク試験(WT試験)を実施した。WT試験としては、後述するWT試験(1)およびWT試験(2)の2種類の試験を実施した。SAEJ2334試験では、防食皮膜を有しない試験片および防食皮膜を有する試験片の2種類の試験片を用いた。WT試験(1)およびWT試験(2)では、防食皮膜を有する試験片を用いた。
まず、SAEJ2334試験について説明する。SAEJ2334試験とは、下記の乾湿繰り返し(湿潤→塩分付着→乾燥)の条件を1サイクル(合計24時間)として行う加速劣化試験であり、飛来塩分量が1mddを超えるような厳しい腐食環境を模擬する試験である。
・湿潤:50℃、100%RH、6時間、
・塩分付着:0.5質量%NaCl、0.1質量%CaCl2、0.075質量%NaHCO水溶液浸漬、0.25時間、
・乾燥:60℃、50%RH、17.75時間
SAEJ2334試験では、厚さが20mmの各鋼板(試験No.1〜30)から採取した、縦60mm×横100mm×厚さ3mmの試験片を用いた。各試験片の表面には、ショットブラスト処理を施し、防食皮膜を有する試験片については、上記ショットブラスト処理を施した後、2種類の変性エポキシ系塗料(A:中国塗料株式会社製「ノバ2000」、B:中国塗料株式会社製「バンノー500」)のうちのいずれか一方を鋼材表面にスプレー塗装することによって、防食皮膜を形成した。防食皮膜を有する各試験片については、防食皮膜に十字の疵を形成して、下地としての鋼材の一部を露出させた。
次に、ウエーブタンク試験(WT試験)について説明する。WT試験とは、図1に示すような、船舶のバラストタンクの腐食環境を模擬した試験槽で行う試験である。試験サイクルは、バラストタンク内の環境を模擬するために、試験槽内に人工海水(塩水)を貯留した状態での2週間と、試験槽内を空の状態にした1週間とからなる。人工海水の温度は35℃を維持し、試験槽を揺動させることによって人工海水の飛沫を試験片に付着させた。
ウエーブタンク試験(WT試験)のうち、WT試験(1)は、図1に示すように、バラストタンクの側面の環境を模擬した試験である。WT試験(1)では、海水面から飛散した海水飛沫が試験片表面に付着する。WT試験(1)では、厚さが20mmの各鋼板(試験No.1〜30)から採取した、縦290mm×横30mm×厚さ2.5mmの試験片を用いた。採取した各試験片の表面には、上記の2種類の変性エポキシ系塗料(A:中国塗料株式会社製「ノバ2000」、B:中国塗料株式会社製「バンノー500」)のうちのいずれか一方をスプレー塗装して、防食皮膜を形成した。そして、図2Aに示すように、試験片の下部(没水ゾーン)を人工海水に浸漬させた。試験片の上部すなわち人工海水に浸漬させていない領域(スプラッシュゾーン)において、防食皮膜に、試験片の幅方向に延びる一対の直線状の疵(長さ10mm)を形成し、下地としての鋼材の一部を露出させた。より具体的には、海水面より20mm上方の位置および海水面より110mm上方の位置にそれぞれ、上記直線状の疵を形成した。なお、図2A、図2B中の数字は寸法(単位:mm)を表す。
ウエーブタンク試験(WT試験)のうち、WT試験(2)は、図1に示すように、甲板の裏面側の環境を模擬した試験である。WT試験(2)では、「50℃、12時間」と「20℃、12時間」を繰り返す温度サイクル(試験片の温度)のもとで、海水面から飛散した海水飛沫を試験片表面に付着させる。WT試験(2)では、厚さが20mmの各鋼板(試験No.1〜30)から採取した、縦140mm×横30mm×厚さ2.5mmの試験片を用いた。採取した各試験片の表面には、上記の2種類の変性エポキシ系塗料(A:中国塗料株式会社製「ノバ2000」、B:中国塗料株式会社製「バンノー500」)のうちのいずれか一方をスプレー塗装して、防食皮膜を形成した。そして、図2Bに示すように、試験片の中央部において、防食皮膜に、試験片の幅方向に延びる直線状の疵(長さ10mm)を形成し、下地としての鋼材の一部を露出させた。
SAEJ2334試験での評価は、以下のように実施した。防食皮膜を形成しなかった各試験片には、試験後にその表面全域に均一なさび層が形成された。これらの各試験片については、腐食量を求めた。「腐食量」は、表面のさび層を除去した場合における試験片の平均の板厚減少量として求めた。具体的には、試験の前後における試験片の重量減少量と、試験片の表面積とを用いて板厚減少量を算出し、腐食量とした。
防食被膜を形成した各試験片については、防食皮膜の疵部が形成された位置において、下地としての鋼材の最大腐食深さ(鋼材表面からの腐食深さの最大値)を測定した。また、防食皮膜のうち疵部から進展して剥離した部分の面積を評価するために、皮膜剥離面積率(%)を求めた。具体的には、防食皮膜が剥離した部分(疵部から進展して剥離した部分)をカッター等によって取り除き、上記取り除いた部分を皮膜剥離部とした。そして、画像処理ソフトの2値化処理を用いて、(皮膜剥離部面積)/(試験片面積)×100の値を求めて皮膜剥離面積率(%)とした。なお、試験片面積とは、試験片の6つの面うち疵部が形成された面の面積を意味する。
なお、SAEJ2334試験における合否判断基準は、腐食量については0.60mm以下を合格とした。また、防食皮膜の疵部における上記最大腐食深さについては、0.45mm以下を合格とした。さらに、皮膜剥離面積率は60%以下を合格とした。
WT試験での評価は、以下のように実施した。まず、防食皮膜のうち疵部から進展して剥離した部分の面積を評価するために、皮膜剥離面積率(%)を求めた。具体的には、防食皮膜が剥離した部分(疵部から進展して剥離した部分)をカッター等によって取り除き、上記取り除いた部分を皮膜剥離部とした。そして、画像処理ソフトの2値化処理を用いて、(皮膜剥離部面積)/(皮膜疵部を中心とした30mm×100mmの面積)×100の値を求めて皮膜剥離面積率(%)とした。ここで、30mm×100mmの面積を分母として皮膜剥離面積率を標準化したのは、この面積以上の大きさで皮膜剥離が進むことは考えられないためである。なお、WT試験における合否判断基準は、WT試験(1)、WT試験(2)ともに、皮膜剥離面積率35%以下を合格とした。最大腐食深さについては、0.3mm以下を合格とした。
試験結果を上記表7に示す。なお、表7において、「WT(1)上」は海水面の110mm上方の位置の疵部(図2A参照)における評価結果を、「WT(1)下」は海水面の20mm上方の位置の疵部(図2A参照)における評価結果を示す。
表7に示すように、本発明例に係る試験No.1〜24では、SAEJ2334試験において、皮膜無しの試験片の腐食量は0.60mm以下と小さく、皮膜有りの試験片についても、最大腐食深さが0.45mm以下と小さく、皮膜剥離面積率も60%以下と低い。また、WT試験(1)、WT試験(2)ともに、皮膜剥離面積率が35%以下と低い。さらに、鋼材No.1〜24では、Sn含有量を0.5%以下に抑制することによって十分な靱性が得られた。
一方、比較例に係る試験No.25はSn濃度比が6.0以上であり、WT試験におけるWT(1)上皮膜剥離面積率、WT(1)下皮膜剥離面積率、WT(2)皮膜剥離面積率、WT(2)最大腐食深さが目標値を満足しなかった。
比較例に係る試験No.26、27は、Sn濃度比が1.2を下回っており、WT試験におけるWT(1)上皮膜剥離面積率、WT(1)下皮膜剥離面積率、WT(2)皮膜剥離面積率、WT(2)最大腐食深さが目標値を満足しなかった。また、比較例に係る試験No.29は、O含有量が0.0100%を超えるとともに、Sn濃度比が1.2を下回っており、SAEJ2334試験における無塗装耐食性、皮膜剥離面積率及び最大腐食深さ、並びに、WT試験におけるWT(1)上皮膜剥離面積率、WT(1)下皮膜剥離面積率、WT(2)皮膜剥離面積率、WT(2)最大腐食深さが目標値を満足しなかった。
比較例に係る試験No.28は、Snを含有しておらず、SAEJ2334試験における腐食量、皮膜剥離面積率及び最大腐食深さ、並びに、WT試験におけるWT(1)上皮膜剥離面積率、WT(1)下皮膜剥離面積率、WT(2)皮膜剥離面積率、WT(2)最大腐食深さが目標値を満足しなかった。
比較例に係る試験No.30は、Sn含有量、Sn濃度比が本発明の範囲内であるものの、Cu+Crの合計含有量が0.10%以上であり、SAEJ2334試験における皮膜剥離面積率及び最大腐食深さ、並びに、WT試験におけるWT(1)上皮膜剥離面積率、WT(1)下皮膜剥離面積率、WT(2)皮膜剥離面積率、WT(2)最大腐食深さが目標値を満足しなかった。
以上の試験結果からも、本発明に係る鋼材によれば、靱性の低下を防止しつつ優れた耐食性が得られることが分かる。
本発明によれば、塩化物を含む腐食環境下においても優れた耐食性を有する鋼材を提供することができる。
1 船舶
2 バラストタンク
3 船倉

Claims (7)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C:0.01〜0.20%、
    Si:0.01〜1.00%、
    Mn:0.05〜3.00%、
    Sn:0.01〜0.50%、
    O:0.0001〜0.0100%、
    Cu:0〜0.10%未満、
    Cr:0〜0.10%未満、
    Mo:0〜0.050%未満、
    W:0〜0.050%未満、
    Cu+Cr:0〜0.10%未満、
    Mo+W:0〜0.050%未満、
    Sb:0〜0.05%未満、
    Ni:0〜0.05%、
    Nb:0〜0.050%、
    V:0〜0.050%、
    Ti:0〜0.020%、
    Al:0〜0.100%、
    Ca:0〜0.0100%未満、
    Mg:0〜0.0100%、
    REM:0〜0.0100%、
    P:0.05%以下、
    S:0.01%以下、
    残部:Feおよび不純物
    であり;
    フェライトである軟質組織と、パーライト、ベーナイト、およびマルテンサイトである硬質組織とを有し;
    前記軟質組織中のSn濃度に対する前記硬質組織中のSn濃度の比であるSn濃度比が1.2以上6.0未満である;
    ことを特徴とする鋼材。
  2. 前記化学組成が、質量%で、
    Cu+Cr:0〜0.05%未満
    を含有することを特徴とする請求項1に記載の鋼材。
  3. 前記化学組成が、質量%で、
    Mo+W:0.0005〜0.050%未満
    を含有することを特徴とする請求項1に記載の鋼材。
  4. 前記化学組成が、質量%で、
    Nb:0.001〜0.050%、V:0.005〜0.050%、Ti:0.001〜0.020%、Al:0.01〜0.100%、Ca:0.0002〜0.0100%未満、Mg:0.0002〜0.0100%、およびREM:0.0002〜0.0100%、から選択される1種以上を含有する
    ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の鋼材。
  5. 表面が、膜厚が20μm以上の防食皮膜により被覆されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の鋼材。
  6. 請求項1から5のいずれか一項に記載の鋼材を用いて形成されたバラストタンクまたは船倉。
  7. 請求項6に記載のバラストタンクまたは船倉を備える船舶。
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