<実施形態1>
図1は、本実施形態に係る電子鍵盤楽器の外観を示す斜視図である。この図に示すように電子鍵盤楽器1は、鍵盤ユニット2と、鍵盤ユニット2を支持する筐体部3と、筐体部3の下部中央付近に設けられるペダルユニット4とを有する。
鍵盤ユニット2は、図面手前側(演奏者側)に設けられ、水平方向に伸びる板状の口棒部14と、口棒部14の両端からそれぞれ背側に伸びる板状の腕木部13,13と、口棒部14および腕木部13,13によって構成されるコ字状の枠体の底部を覆うように設けられる棚板19(図3参照)を有している。腕木部13,13と、口棒部14と棚板19によって構成される枠体には、白鍵と黒鍵が配列された鍵盤11が収納配置され、鍵盤11の奥側の上部を覆うように電源スイッチや各種操作スイッチを含む操作パネル12が設けられている。また、鍵盤11を覆う鍵盤蓋15が設けられ、鍵盤蓋15は、スライド機構151により演奏者側に引き出し可能に構成されており、演奏者側に終端まで引き出された状態では鍵盤11を覆うようになっている。図1に示す状態では、鍵盤蓋15は奥側(演奏者の反対側)に引き戻されており、これにより鍵盤11の演奏部位が露出された状態となっている。なお、鍵盤11の各鍵には、演奏者によって押下された鍵を検出するための検出スイッチ(図示略)が設けられている。検出スイッチは、検出した鍵に応じた操作信号を後述する楽音信号検出回路に出力する。
筐体部3は、鍵盤ユニット2の左右両端部を各々支持する上下方向に伸びる側板18,18を有している。側板18、18の下端部は底部部材21により連結され、また、側板18,18の上端部は、板状の屋根板17によって連結されている。屋根板17は、側板18,18の上部形状に沿うように、電子鍵盤楽器1の上部を覆っている。これら側板18,18、屋根板17および棚板19の背後側は背面板部 (図示略)によって覆われている。側板18,18の底部付近から妻土台22,22が演奏者側に突出するように設けられており、この妻土台22によって筐体部3が安定して立位するようになっている。屋根板17の中央上面には譜面板16が設けられると共に、鍵盤蓋15の上方付近には幅方向に複数設けられたトーンエスケープ17a(破線枠)が形成されている。以下、17aは、音響逃部又はTEと言う。該音響逃部17aは逃がし孔とその外面を覆うサランネットとからなる。該TEは、前記音響逃がし孔のみからなるもの(サランネットなし)でもよい。
上述の構成においては、口棒部14、棚板19、腕木部13,側板18、屋根板17、背面板部、鍵盤11、操作パネル12によって仕切られる空間が構成される。この空間は、ほぼ閉空間に近い性質をもつが、TE17aや鍵盤11の鍵と鍵の隙間などから空気の出入りが可能になっている。
ペダルユニット4は、ペダルが演奏者側に突出する状態で、底部部材21の中央部に収納されている。
次に、筐体部3の詳細について説明する。図2は、図1に示した電子鍵盤楽器1の鍵盤蓋15で鍵盤11を覆い、屋根板17を取り外した状態の斜視図を示しており、図3は図2に示す電子鍵盤楽器1を上面から見た図である。図2及び図3に示すように、筐体部3の内部空間には、楽音信号を放音する2つのスピーカ30(30a,30b)が設けられている。スピーカ30は放音面が下を向くように取り付けられており、放音面に対応する位置における棚板19には放音用の穴が設けられている。スピーカ30から発せられる音は、この放音用の穴を介して演奏者に伝搬される。この伝搬経路を以下に第1の放音経路という(図1の破線矢印W1)。また、鍵盤11の操作部位が露出している状態において、スピーカ30の放音面の背後から発せられた音が筐体部3の内部空間を経由し、屋根板17に設けられたTE17a及び鍵盤11における鍵と鍵との隙間から演奏者の側に伝搬する。この伝搬経路を以下に第2の放音経路(図1の破線矢印W2)という。
筐体部3の内部空間には、直方体の管形状で構成された4つの共鳴器32(32a,32b)、押下された鍵を示す操作信号に基づく楽音信号を生成する楽音信号生成回路等の回路基板34が設けられている。ここで、本実施形態に係る共鳴器32について図4を用いて説明する。図4は、本実施形態の共鳴体の一例である共鳴器32を示す図である。図4の左図(a)は、共鳴器32の外観を模式的に表した図であり、共鳴器32は、例えば金属や合成樹脂などの素材を管状となるように形成された共鳴管である。共鳴器32は、長手方向の一方の端部が開口された開口部321(制御点)と、開口部321に通じる中空領域322と、他方の端部が閉じられた閉口部323とを有する。各共鳴器32の中空領域322の長さは同じ長さLとなっている。なお、共鳴器32の開口部321の近傍はグラスウール、クロス、ガーゼ等の通気性を有し、流れ抵抗を有している流れ抵抗材でふさがれていてもよい。
図2及び図3に戻り、説明を続ける。共鳴器32は、筐体部3の内部空間において、共鳴器32の長手方向の面が背面板部20の面と接し、スピーカ30が設けられている位置より外側の位置となるように固定具や接着剤等により定着されている。また、2つの共鳴体32aは、各開口部321が矢印L方向とR方向、つまり、筐体外側に各々向くように配置されており、2つの共鳴体32bは、各開口部321が矢印L方向とR方向、つまり、互いに対面して筐体内側に向けられている。
ところで、TE17aは、鍵盤11の操作に応じた楽音の音像を高めるために設けられたものである。図5(a)に示すように、第1の放音経路(図1の破線矢印W1)から伝搬される楽器本来の鍵盤毎の音の残響Aより第2の放音経路(図1の破線矢印W2)から伝搬される鍵盤毎の音の残響Bの大きさ及び長さが小さくなることが望ましい。例えば、図5(b)や(c)に示すように、残響Bが残響Aよりも大きい場合や長くなる場合には、残響Bによって残響Aがかき消されてしまい、音の粒立ちや鍵盤毎の音量のバランスを崩す要因となる。なお、デジタルイコライザーを用い、スピーカ30に入力される楽音信号の周波数特性を増幅前に調整した場合、図6(a)に示すように、調整前の残響A及び残響Bは残響A’及び残響B’に調整されるが、残響Aと残響Bの音圧レベルを全体的に低下させただけで残響Bの傾きは変化しない。
本実施形態では、上記した共鳴器32を設けることにより、図6(b)に示すように、残響Aの傾きは変化させず、残響Aより小さく且つ短くなるように残響Bの傾きを調整する。具体的には、筐体部3の内部空間における共鳴周波数の固有振動姿態のうち、スピーカ30の駆動によって励起されている共鳴周波数の音の残響が上記図6(b)で示す状態となるように、当該共鳴周波数の固有振動姿態の音圧の腹となる位置に共鳴器32を設ける。
ここで、共鳴器32によって音圧を低減させる作用について説明する。図4の左図に示した共鳴器32の開口部321に筐体部3の内部空間からの音波が入射すると、音波は、開口部321から中空領域322内に入射して閉口部323で反射され、開口部321から再び内部空間に放出される、このとき、図4の右図に示すように中空領域322の長さLの4倍に相当する波長の音波が固有振動姿態SWを作り、振動を繰り返すうちに共鳴器32の内壁面での摩擦や開口部321での気体分子間の粘性作用、共鳴器の共鳴周波数の音波にとって半波長(=半周期)おくれた音波が共鳴器から放出され続ける位相干渉作用、これら2つの作用のどちらか一方またはその両方によって音響エネルギーを消費し、この波長を中心に開口部321近傍で音圧が低減する。共鳴器32は、中空領域322が音を減衰させる対象とする空間に繋がるように配置されることで、その空間における音が共鳴器32の開口部321に入りこんで共鳴器32が共鳴し、その付近の音圧を低減させる。
発明者らは、例えば、鍵の配列方向の筐体部3の幅(以下、筐体部3の横幅と言う)が1300mm程度(88鍵の場合に多い)である場合に、280〜340Hzの周波数(C3〜F3の鍵盤音に相当)が励起されることを実験によって得ている。従って、筐体部3の内部空間において励起されている280〜340Hzの音圧を低減すべく、共鳴器32の中空領域322の長さを当該周波数帯域の音波の波長の1/4の長さに設定すればよい。
ここで、筐体部3の内部空間に生じる固有振動姿態について説明する。密閉された中空の直方体における固有周波数f
Nは、直方体の寸法について、x軸方向の長さをL
x、y軸方向の長さをL
y、z軸方向の長さをL
zとした場合、固有周波数f
Nは下記式(1)の関係を満たす。式(1)において、c
0は音速を表し、n
x,n
y,n
zはそれぞれ固有振動姿態の次数を表す値であり、「0」以上の任意の整数である。
直方体の内部空間において、次数nx,ny,nzの値の任意の組み合わせに対して固有周波数が存在する。式(1)により、nx,ny,nzのうち2つが“0”として求められる固有周波数は、一次元モードの固有周波数である。この固有周波数は、内部空間における1の軸に平行な固有振動姿態の周波数に相当する。nx,ny,nzのうち1つが“0”である固有周波数は、二次元モードの固有周波数である。この固有周波数は、内部空間における1対の平行壁面に平行で、他の2対の壁面に斜めに入射する固有振動姿態の周波数に相当する。nx,ny,nzのうちのいずれも“0”でない固有周波数は、三次元モードの固有周波数である。この固有周波数は、直方体の内部空間におけるすべての壁面に斜めに入射する固有振動姿態の周波数に相当する。
筐体部3が密閉されている状態、即ち、TE17a等が設けられていない場合における1次元モードの2次(nx=2)の固有周波数は上記(1)式より250Hzとなる。これは、筐体部3の横幅に相当する波長の周波数である。実験によって得られた280〜340Hzはこの周波数より15〜30%高く、密閉された状態より短い波長となっている。これは、筐体部3にTE17aや鍵盤11の鍵の隙間等の放音経路の影響によるものであると発明者らは考えた。例えば、図7(a)に示すような開口部v1と中空領域v2を有する音響管Mの場合、開口部v1が中空領域v2に対して極めて小さい場合には両閉管と同様であり、図7(b)(i)に示すように音響管M内の1次の固有振動姿態の波長は1/2波長となる。また、音響管Mの開口部v1が中空領域v2に対して極めて大きい場合には片開管と同様であり、図7(b)(iii)に示すように音響管M内の1次の固有振動姿態の波長は3/4波長となり、図7(b)(i)と比べて波長が短くなる。これは、2次の場合についても同様である。TE17a等が設けられた筐体部3の場合には、実験結果からも分かるように、図7(b)(i)と図7(b)(iii)の中間的な図7(b)(ii)に示す波長になる。つまり、両閉管の場合より波長が短く、片開管の場合より波長が長くなるものと考えられる。
筐体部3の内部空間においては、2つのスピーカ30が同相で駆動するため、内部空間における音圧の節が偶数となる2次や4次の固有振動姿態の固有周波数が特に励起されやすく、音圧の節が一つとなる1次の固有振動姿態の固有周波数は励起されにくい。従って、共鳴器32は、筐体部3の横幅相当の波長の周波数より15〜30%高い特定周波数の波長の1/4の長さとなるように設計すればよい。また、筐体部3の内部空間において、共鳴器32は、特定周波数の固有振動姿態の音圧の腹の少なくとも一つに当該共鳴器32の開口部321(制御点)が位置するように配置されることで、スピーカ30の放音による音響が発生したときの内部空間で生じる音の特定周波数(この例では280〜340Hz)の音圧が低減される。
図8(a)は、上記のように設計された共鳴器32を筐体部3の内部空間に設けた場合と設けない場合の内部空間における周波数特性を示す図である。図8(b)は、共鳴器32を筐体部3の内部空間に設けた場合と設けない場合の演奏者位置における周波数特性を示している。図8(a)(b)の実線は共鳴器32を内部空間に設けていない場合の周波数特性を示しており、280〜340Hzの周波数において励起されているのがわかる。図8(a)(b)の破線は共鳴器32を内部空間に設けた場合の周波数特性を示しており、共鳴器32が設けられることにより、280〜340Hzの音圧が低減されている。また、図8(c)は、共鳴器32を筐体部3の内部空間に設けた場合と設けない場合における280〜340Hzの音の音圧変化を示した図である。図8(c)において、実線は共鳴器32を内部空間に設けていない場合の周波数特性を示し、破線は共鳴器32を内部空間に設けた場合の周波数特性を示している。この図によると、共鳴器32が設けられることにより、不要な共鳴が抑えられる結果、ピーク位置が前にずれこむので音の立ち上がりが速くなり音がクリアに聞こえるようになっている。
なお、上述した実施形態では、筐体部3の内部空間においてスピーカ30が設けられている位置より外側の位置であって、特定周波数の固有振動姿態の音圧の腹となる場所に共鳴器32の開口部321が位置するように4つの共鳴器32が設けられている例を図1〜3にて示した。この例では筐体部3の鍵の配列方向の長さに略等しい波長の固有振動姿態が発生し、音圧を低減させるべき制御対象の周波数の固有振動姿態の音圧のプラスの腹が筐体部3の両端に位置し、また、音圧のマイナスの腹が中央付近に位置するため、そのいずれの腹にも相当する位置に4つの共鳴器32の開口部(制御点)321を設けるように構成した。このように制御対象となる周波数の固有振動姿態の音圧の全ての腹の場所に共鳴器32の開口部321を設けることで、当該周波数の音圧を低減させてもよいが、いずれかの音圧の腹の場所に共鳴器32の開口部321を設けるようにしてもよい。つまり、図2に示す4つの共鳴器32のうち中央寄りの2つの共鳴器32bを除いてもよいし、中央寄りの2つ共鳴器32bを除いた両端の共鳴器32aだけを配置するようにしてもよい。また、図2に示す中央寄りの共鳴器32bのいずれか一方の共鳴器を一つだけ配置するようにしてもよい。つまり、制御対象の周波数の固有振動姿態の音圧の腹の少なくとも一つに、当該周波数で共鳴する共鳴器32の開口部321が位置するように設けられていればよい。このような場合でも共鳴器32を設けない場合と比べて音圧を低減させる効果を奏する。
以上から分かるように、筐体の諸条件(形状や筐体内の障害物(電源等の電子部品)の配置によって、音響特性のあばれが生じた場合又は特に強調したい周波数特性を上下させたい場合に、その周波数に応じた位置及び長さの共鳴器を配設することである程度の設計者の意思に沿った音響特性を有する筐体を製作することができるということになる。
<実施形態2>
図9は、本実施形態に係る電子鍵盤楽器の斜視図を示している。電子鍵盤楽器1Aは、鍵盤ユニット2Aと鍵盤ユニット2Aを支持する筐体部3Aとを有する。
鍵盤ユニット2Aは、水平方向に伸びる板状の口棒部44と、口棒部44の両端からそれぞれ背側に伸びる板状の側板48,48と、口棒部44および側板48,48によって構成されるコ字状の枠体の底部を覆うように設けられる棚板53(図12参照)を有している。側板48,48と、口棒部44と棚板53によって構成される枠体には、白鍵と黒鍵が配列された鍵盤41が配置されている。また、鍵盤41の奥側を覆うと共に、鍵盤蓋45が回動自在に設けられ、さらに、拍子木部42には電源スイッチや各種操作スイッチが設けられている。鍵盤41が見えるように鍵盤蓋45を開いたときに鍵盤蓋45の演奏者に見える面には譜面受け46と蓋前451を有し、また、鍵盤蓋45は、鍵盤蓋45が演奏者側に回動された状態では鍵盤41を覆うようになっており、図9に示す状態では鍵盤41の演奏部位が露出された状態となっている。なお、鍵盤41の各鍵には、演奏者によって押下された鍵を検出するための検出スイッチ(図示略)が設けられている。検出スイッチは、検出した鍵に応じた操作信号を後述する楽音信号検出回路に出力する。
筐体部3Aは、鍵盤ユニット2Aの左右両端部を各々支持する上下方向に伸びる腕木部43,43を有している。腕木部43の後方の側板48,48の下端部は、板状の底板54(図12参照)によって連結されており、また、側板48,48の上端部は、板状の屋根板47によって連結されている。これら側板48,48、屋根板47の背後側は背面板(図示略)によって覆われている。前板49は、屋根板47の上端部から鍵盤の後方部までを覆うように取り付けられ、前板49の上部には、TE49a(破線枠)が設けられている。また、棚板53の底面から底板54の下端部までを覆うように下前板上52aと下前板下52bとが取り付けられている。下前板上52aには、スピーカ60(図12参照)に対応する位置にスピーカ60からの楽音を放音する放音孔とサランネット51a,51bがそれぞれ設けられている。
また、腕木部43,43の底部付近から前脚部50,50が演奏者側に突出するように設けられており、この前脚部によって筐体部3Aが安定して立位するようになっている。また、ペダルユニット4Aは、各ペダルが演奏者側に突出する状態で、下前板下52bの中央部に収納されている。
上述の構成においては、屋根板47、側板48、上前板49、背面板55、鍵盤41、下前板上52a、下前板下52b、底板54によって仕切られる空間が構成される。この空間は、実施形態1と同様ほぼ閉空間に近い性質をもつが、TE49aや鍵盤41の鍵と鍵の隙間などから空気の出入りが可能になっている。
ここで、筐体部3Aの内部構造について説明する。図10は、図9に示す電子鍵盤楽器1Aの正面図であり、図11は、図10に示す電子鍵盤楽器1Aの下前板上52aを取り外した状態の図である。図12は、図10中の切断線B−Bで切断した場合の電子鍵盤楽器1Aの断面図である。
図12に示すように、棚板53は、前脚部50、下前板上52a、下前板下52b、側板48によって支持されている。棚板53と背面板55との間には音響通路空間Pが設けられている。筐体部3Aの内部空間は、棚板53より上の音響通路空間(以下、上側内部空間S1と言う)とスピーカ60a,60bが設けられている音響通路空間(以下、下側内部空間S2と言う)とが、棚板53と背面板部55の間の音響通路空間Pを介して繋がっている構造となっている。音響通路空間Pは、図12に示すように、上側内部空間S1や下側内部空間S2よりも奥行き方向の幅が狭くなっている。筐体部3Aの内部空間は、上述の実施形態1で示した筐体部3の構造のように単純な矩形構造に比べて複雑なものとしている。また、図12に示すように、筐体部3Aの下前板上52aの位置には、スピーカ60(60a,60b)が取り付けられたバッフル板61(61a,61b)が設けられている。筐体部3Aの内部空間における棚板53の下方には、スピーカ60a,60bが鍵の配列方向において空間的に独立して設けられるように、棚板53の下面から底板54までを仕切る仕切板70(70a,70b)が設けられている(図11及び図12参照)。スピーカ60は放音面が演奏者側を向くように取り付けられており、放音面に対応する位置における下前板上52aには放音用の孔62が設けられている。スピーカ60から発せられる音は、この孔62を介して演奏者に伝搬される(第1の放音経路W1)。また、スピーカ60の放音面の背後から発せられた音が下側内部空間S2から狭くなった音響通路空間Pを経由して上側内部空間S1に伝搬し、前板49に設けられたTE49a及び鍵盤41における鍵と鍵との隙間から演奏者の側に伝搬される(第2の放音経路W2)。
また、図13は、電子鍵盤楽器1Aの下前板上52a及び下前板下52bと、スピーカ60が取り付けられたバッフル板61を取り外した状態を示している。この図に示すように、仕切板70aと仕切板70bの間の空間には、楽音信号生成回路や音源回路等の回路基板90とペダルユニット4Aとが設置されている。また、下側内部空間S2に設けられた仕切板70a,70bで仕切られた空間のうち、スピーカ60a,60bが各々設けられているそれぞれの空間(以下、スピーカ設置空間と言う)には、第1共鳴器80a及び第2共鳴器80bとからなる共鳴体80がそれぞれに設置されている。ここで、図10中の切断線A−Aで切断したときの電子鍵盤楽器1Aの断面図を図14に示す。この図で示されているように、各共鳴体80は、スピーカ60の位置より下側内部空間S2において外側となる位置に設けられている。
ここで、仕切板70a,70bが設けられる位置について説明する。本実施形態に係る電子鍵盤楽器1Aの筐体部3Aの内部空間は、実施形態1に係る電子鍵盤楽器1の筐体部3の内部空間と比べて高さ方向の長さが長くなっている。そのため、筐体部3Aの内部空間には高さ方向と鍵の配列方向との2次元の固有振動姿態が生じ、スピーカの駆動によって励起される固有振動姿態は実施形態1の場合より多くなる。
図15(a)に示す筐体部3Aは、仕切板70が設けられていない状態の筐体部3Aの内部空間を正面方向から見た簡略図である。この図に示すように、鍵の配列方向に例えば4次の固有振動姿態SW2が生じている場合、スピーカ60a,60bの位置が固有振動姿態SW2の音圧の腹の場所となっていると、スピーカ60が振動しやすくなりその固有振動姿態SW2が励起されやすくなる。一方、図15(b)に示すように、スピーカ60a,60bの位置が固有振動姿態SW2の音圧の節の位置となるように仕切板70a,70bを設けることで、スピーカ60の振動によって固有振動姿態SW2は励起されにくくなる。
スピーカ60が取り付けられる位置は、筐体部3Aの内部空間に設けられる電子部品や筐体部3Aの大きさ等によって制約されるため、スピーカの位置を容易に変更することは難しい。そのため、本実施形態に係る筐体部3Aでは、内部空間に生じる固有振動姿態の音圧の節となる位置を仕切板70によって調整し、スピーカ60の振動によって励起される固有振動姿態の数を低減させている。
このように仕切板70を設けた場合の演奏者位置における聴取音圧周波数特性を図16に示す。図16のR1に示す部分にピークが発生し、R2で示す部分にディップが発生している。ピークは、実施形態1と同様、スピーカ60の振動によって励起された特定の周波数(図5(b)(c)の破線Bとなる周波数)である。ディップは、スピーカ60の振動を抑止する反力によって生じたものと考えられる。つまり、スピーカ60の放音面より背後の空間において音圧がプラスになるタイミングでスピーカ60の振動板が内部空間に向けて空気を押そうとしたり、背後の空間の音圧がマイナスになるタイミングで振動板が外部空間に向けて空気を押そうとする反力が働いて振動が抑制されたものと考えられる。
本実施形態に係る筐体部3Aの各スピーカ設置空間に設けられている共鳴体80は、図16に示したピークとディップを抑制するために設けられている。ここで、本実施形態に係る共鳴体80の構造について図17を用いて説明する。図17(a)は、共鳴体80の外観を表す斜視図であり、図17(b)は、図17(a)に示す共鳴体80の平面図である。また、図17(c)は、共鳴体80の背面図であり、図17(d)は、共鳴体80の正面図である。
図17(a)に示すように、共鳴体80は、円筒形状の第1共鳴器80aと第2共鳴器80bとが取付板81に取り付けられて形成されている。第1共鳴器80aと第2共鳴器80bは、実施形態1で説明した共鳴器32と同様、金属や合成樹脂などの素材を管状となるように形成されており中空領域を有する。また、図17(b)〜(d)に示すように、第1共鳴器80aと第2共鳴器80bは、長手方向の一方の端部が開口された開口部(制御点)801a,801bを有し、他方の端部は取付部材82で塞がれた閉口部811a,811bを有する。
第1共鳴器80aは、本発明の共鳴体の一例である。第1共鳴器80aは、スピーカ60の振動によって励起される特定の周波数の音圧を低減させる機能、即ち、図16のR1で示したピークを抑制する機能を有する。第1共鳴器80aの中空領域の長さは、ピークが発生している周波数の音波の波長の1/4の長さに設計されている。
また、第2共鳴器80bは、本発明の第2の共鳴体の一例である。第2共鳴器80bは、スピーカ60の振動を抑止する反力を解放する機能、即ち、図16のR2で示したディップを抑制する機能を有する。第2共鳴器80bの中空領域の長さは、ディップが生じている周波数の音波の波長の1/4の長さに設計されている。
各スピーカ設置空間において第1共鳴器80aの開口部801aが位置する場所は、実施形態1と同様、ピークが発生している周波数の固有振動姿態の音圧の腹の場所である。また、各スピーカ設置空間において第2共鳴器80bの開口部801bが位置する場所は、ディップが発生している周波数の音波の波長の略1/4の距離だけスピーカ60の中心(スピーカのボイスコイルの軸心)から離れた境界面上である。即ち、第2共鳴器80bの開口部801bは、ディップが発生している周波数の固有振動姿態の音圧の腹であって、スピーカ60が取り付けられているバッフル板61近傍の位置である。第2共鳴器80bの開口部801bから当該周波数を含む音波が中空領域801bに入りこむことで第2共鳴器80bが共鳴し、開口部801b近傍で当該周波数を中心として音圧が低減され、スピーカ60の反力が解放される。
なお、本実施形態に係る電子鍵盤楽器1Aのように鍵盤41より上方にTE49aが設けられている場合には、第1共鳴器80aの開口部801aは、各スピーカ設置空間の横方向(鍵配列方向)において、スピーカ60の位置より側板48寄りの位置、つまり、外部空間寄りの位置であって、各スピーカ設置空間の高さ方向の中央近傍に設置することでより効果が高まることを発明者らは実験によって得ている。また、第2共鳴器80bの開口部801bは、各スピーカ設置空間の底部側、つまり、図18に示す下側内部空間S2のように、スピーカ60の中心から距離l(スピーカ60の振動に対する反力が生じる周波数の音波の波長の略1/4の距離)だけ離れた下方の境界面上の位置に設置することが望ましいことを発明者らは実験によって得ている。TE49aの設ける位置等によって、筐体部3A内の固有振動姿態が変わるため、第1共鳴器80a及び第2共鳴器80bの開口部の位置は、TE49aの設け方に応じて実験等により調整することが望ましい。
図19Aに示す周波数特性は、図19Bの(A)で示すように下側内部空間S2の各スピーカ設置空間に上記第1共鳴器80aだけを設置した場合(波形A)、図19Bの(B)で示すように下側内部空間S2の各スピーカ設置空間に上記第共鳴器80bだけを設置した場合(波形B)、図19Bの(C)で示すように下側内部空間S2の各スピーカ設置空間に上記第1共鳴器80a及び上記第2共鳴器80bを設置した場合(波形C)について発明者らが測定した結果と、図20Bの(D)で示すように下側内部空間S2の各スピーカ設置空間に上記第1共鳴器80a及び上記第2共鳴器80bを設置しない場合(波形D:図16と同様)の周波数特性とを示しており、図16中のR1及びR2を含む部分を拡大したものである。
図19Aに示すように、ディップが生じている部分については、上記第2共鳴器80bだけを設置した波形Bで示されているように、共鳴体80を入れない場合と比べてスピーカ60a,60bの振動を抑止する反力が解放されてディップが生じていた周波数の音波の音圧が上がっている。また、ピークが生じている部分については、上記第1共鳴器80aだけを設置した波形Aで示されているように、共鳴体80を設置しない場合と比べて励起されていた周波数の音圧が低減されている。そして、波形Cで示されているように、上記第1共鳴器80a及び第2共鳴器80bを設置した場合には、波形Bよりもディップの部分の音圧が上がり、波形Aよりもピークの部分の音圧が低減されており、第1共鳴器80aと第2共鳴器80bとを設置することでより効果が高まっている。
本実施形態に係る電子鍵盤楽器1Aのように、2次元の固有振動姿態が生じうる筐体部3Aの場合、スピーカ60の位置が固有振動姿態の音圧の節となるように仕切板70を設けることで、スピーカ60の振動によって励起される固有振動姿態を低減させることができる。また、共鳴体80を各スピーカ設置空間に設けることで、励起されている周波数で共鳴する第1共鳴器80aによって当該周波数の音圧を低減させることができ、スピーカ60の振動を抑止する反力を生じさせている周波数で共鳴する第2共鳴器80bによって当該反力を解放して当該周波数の音圧を上げることができる。
また、上述した実施形態では、スピーカ60の振動に対する反力を生じさせる周波数で共鳴する第2共鳴器80bの開口部801bを、スピーカ60の中心から当該周波数の音波の波長の1/4だけ下方に離れた位置に設けてディップを低減させる例を説明したが、ディップが発生している原因として、TE49a付近において、ディップが発生している周波数の固有振動姿態の音圧が節となっている状況が考えられる。即ち、ディップが発生している周波数の固有振動姿態はスピーカ60の振動によって励起されているものの、TE49a付近での音圧が弱くなり、TE49aから放射された音量が小さくなっている。従って、このような場合には、TE49a付近がディップが生じている周波数の固有振動姿態の音圧の腹となるように、当該周波数で共鳴する第2共鳴器80bの開口部を設けるようにすればよい。このように構成することで、第2共鳴器80bの開口部801bによって当該固有振動姿態の節の位置が強制的に生み出され、TE49a付近の音圧が腹に制御され、ディップが生じている周波数の音圧を上げることができる。この場合、第2共鳴器80bは本発明に係る第3の共鳴体として機能する。
<変形例>
以下、上述した実施形態の変形例について説明する。
(1)上述した実施形態1に係る筐体部3の内部空間では共鳴器32を4つ設置する例を説明したが、以下のように構成してもよい。図20は、筐体部3の内部空間を上面から見た簡略図である。図20(a)に示すように共鳴器32を設けず、スピーカ30a,30bの位置が内部空間における固有振動姿態の音圧の節となるように、スピーカ30aとスピーカ30bの間に仕切板70を設けるようにしてもよい。また、図20(b)に示すように、図20(a)と同様に仕切板70を設けると共に、仕切板70によって仕切られた各空間に、当該空間における固有振動姿態の音圧の腹の場所に共鳴器32aの開口部321が位置するように共鳴器32aを配置するようにしてもよい。
(2)上述した実施形態2に係る筐体部3Aの内部空間に設けられる第1共鳴器80a、第2共鳴器80bの配置は実施形態2で説明した態様に限られず、以下のような態様であってもよい。図21は、本変形例に係る筐体部3Aの下側内部空間を正面から見た簡略図である。図21(a)は、仕切板70を設けず、2つの第1共鳴器80aと2つの第2共鳴器80bの各組を、スピーカ60aとスピーカ60bの上部及び下部の所定位置に設けたものである。スピーカ60aの側に設けられた第1共鳴器80aの開口部801aと第2共鳴器80bの開口部801bは、矢印L方向に向けられている。また、スピーカ60bの側に設けられた第1共鳴器80aの開口部801aと第2共鳴器80bの開口部801bは、矢印R方向に向けられている。なお、実施形態2と同様、各第1共鳴器80aの開口部801aの位置は、励起されている周波数の固有振動姿態の音圧の腹の場所であり、各第2共鳴器80bの開口部801bの位置は、スピーカ60a,60bの各重心位置からスピーカ60a、60bの振動を抑止する反力を生じさせる周波数の波長の1/4の距離だけ離れた境界面上である。
また、図21(a)で示した第1共鳴器80a及び第2共鳴器80bの配置において、図21(b)や(c)に示すように仕切板を設けるようにしてもよい。図21(b)の場合、仕切板70を一つだけ設ける構成となっている。この場合には、例えば、スピーカ60aの位置が固有振動姿態の音圧の節となるように仕切板70を設けるようにしてもよい。つまり、少なくとも一つのスピーカの位置が固有振動姿態の音圧の節となるように仕切板70を設けることにより当該スピーカの振動によって励起される固有振動姿態の数を低減させるようにしてもよい。
また、図21(d)に示すように、図21(c)で示した配置において、仕切板70a及び70bの間に共鳴器80c,80dを設けるようにしてもよい。共鳴器80c,80dは、第1共鳴器80a及び第2共鳴器80bと同様、開口部と中空領域を有する。共鳴器80cの開口部は下方に向けて配置され、共鳴器80dの開口部は上方に向けて配置されている。共鳴器80cは、第2共鳴器80bと同様の周波数で共鳴するものでもよいし、共鳴器80dは、第1共鳴器80aと同様の周波数で共鳴するものでもよい。また、共鳴器80c及び共鳴器80dは、他の周波数で共鳴するものであってもよい。
(3)上述した実施形態に係る電子鍵盤楽器の筐体部は、図22に示すような形状であってもよい。図22(a)に示す筐体部3Bのような直方体形状や、図22(b)に示す筐体部3cのように上面及び底面が多角形の形状を有するものなど、実施形態1と同様、筐体部の内部空間において鍵の配列方向に1次元の固有振動姿態が生じるような筐体の形状であってもよい。この場合には、スピーカ30の放音面が筐体部の底面方向又は上面方向に向くようにスピーカ30を配置してもよい。また、図22(c)に示す筐体部3Dのような直方体形状であってもよい。つまり、実施形態2と同様、高さ方向及び鍵の配列方向に2次元の固有振動姿態が生じるような形状であれば実施形態2以外の形状であってもよい。この場合には、スピーカ60の放音面が演奏者側又は背面側に向くように配置してもよい。
(4)上述した実施形態1及び実施形態2では、管形状の共鳴器を用いる例を説明したが、板振動共鳴、ヘルムホルツ共鳴、屈曲板振動、ピストン板振動等の各種共鳴体を用いてもよい。要は、共鳴体は、電子鍵盤楽器の筐体部の内部空間における音場との連成を考慮して設計された共鳴器であり、筐体部の内部空間における音響エネルギーを制御するものであればよい。以下に共鳴体の具体例を示す。
図23(a)は、板振動共鳴体の外観を模式的に表した図である。図23(b)は、図23(a)中の矢視VI−VIから板振動共鳴体110を見た断面図である。板振動共鳴体110は、筐体部110Aと振動部110Bとからなる。筐体部110Aは、上面側の全体が開口する直方体の箱状の部材である。筐体部110Aは、開口部110Cと、開口部110Cに通じる中空領域として、直方体の気体層110Dとを有している。筐体部110Aは、例えば木材で形成されるが、振動部110Bよりも相対的に硬い素材であれば、例えば合成樹脂や金属など他の素材を用いてもよい。振動部110Bは、弾性を有し、板状又は膜状に形成された矩形の部材である。振動部110Dには、例えば合成樹脂、金属、繊維板、独立気泡発砲体などの弾性を有し弾性振動を生じる素材を板状に形成したもの、又は弾性を有する素材や高分子化合物を膜状に形成したものが用いられる。振動部110Bは、その一方の面の端部付近の領域が筐体部110Aによって支持されており、筐体部110Aの開口部110Cを塞ぐようにして設けられている。開口部110Cが振動部110Dで塞がれることにより、板振動共鳴体110の内部に閉じた気体層110Dが形成される。なお、気体層110Dは、気体粒子からなる層であり、この例では空気分子からなる空気層であるが、多孔質材料等の弾性体が気体層110Dに設けられていてもよい。板振動共鳴体110は、対象とする周波数の音波の音圧の腹の場所に振動部110Bが位置するように設ける。空間に音が発生すると、その音の音圧に応じて板振動共鳴体110は共鳴する。この共鳴により、空間の音圧と、板振動共鳴体110の気体層110D内の圧力とに差が生じる。この圧力差により振動部110Bが振動して、音響エネルギーが消費された後に、音響エネルギーが再放射される。この作用により、板振動共鳴体110の表面であり、振動部110B面近傍の空間で音圧が低減される。
図24(a)は、ヘルムホルツ共鳴体の外観を模式的に表した図であり、図24(b)は、図24(a)中の矢視VIII−VIIIからヘルムホルツ共鳴体120を見た断面図である。ヘルムホルツ共鳴体120は、胴部120Aと管部120Bとによって構成されている。このヘルムホルツ共鳴体120において、胴部120A及び管部120B内に形成される空間が中空領域となり、この中空領域が開口部120Cに通じている。
胴部120Aは、内部に気体層が形成され、例えばFRP(繊維強化プラスチック)によって円筒状に形成されている。管部120Bは、例えば塩化ビニール製のいわゆる両端開口の管状部材を成しており、胴部120Aの孔部に挿入されて両者は連結されている。ヘルムホルツ共鳴体120は、対象とする周波数の音波の音圧の腹の場所に開口部120Cが位置するように設ける。これにより、開口部120Cに音が入り込んでヘルムホルツ共鳴体120は共鳴し、開口部120C付近の音圧を低減させる。つまり、ヘルムホルツ共鳴体120は、管部120Bの内部にある気体を質量成分とし、胴部120Aの気体層をバネ成分としたバネマス系を形成する。管部120Bの内壁と空気との摩擦によって音のエネルギーが熱エネルギーに変換されて開口部120C付近で音圧を低減させ、また粒子速度を増大させる。なお、ヘルムホルツ共鳴体120のバネマス系の共鳴周波数fは、式(3)の関係を満たす。ただし、式(3)において、Leは管部120Bの有効長を表す。図24(b)に示すように、有効長Leは、管部120Bの空洞の一端から他端までの長さを、開口端補正値で補正した長さである。また、Vは胴部120A内に形成された気体層の体積(すなわち容積)であり、Soは開口部33の面積である。
f=c0/2π・(So/Le・V)1/2 ・・・(3)
なお、管部120Bの数をここでは1本としているが、複数設けるようにしても良い。また、管部120Bの開口部120C又はその近傍には、グラスウール、クロス、ガーゼ等の通気性を有し、流れ抵抗を有している流れ抵抗材で塞がれていてもよい。
図25は、本変形例に係る共鳴体を示す図である。図25(a)は、本変形例の共鳴体の外観を示す図である。共鳴体130の外観は、一方(図中左側)の端部で開口しており、他方(図中右側)の端部で閉じた管状を成している。共鳴体130の構成は、管状部材130Aと、抵抗材130Bとに大別される。管状部材130Aは、本発明の筐体の一例であり、材料として例えば金属やプラスチックを用いて円筒状に形成されている。管状部材130Aは、いわゆる一端開口の管状部材であり、ここでは1方向に延在している。抵抗材130Bは、円柱の両底面の中心付近を貫通するようにして、円柱状の空洞が開けられた形状の部材である。抵抗材130Bは、管状部材130Aの開口する端部付近において、円柱の外周面に相当する面が管状部材130Aの内側の面と接するように設けられている。抵抗材130Bは、材料として多孔質材の一例であるウレタンフォームを用いて形成され、気体粒子(ここでは、空気分子)の運動に対して抵抗となって、その気体粒子の運動を阻害する部材である。抵抗材130Bが配置される領域は、抵抗材130Bが配置されないときに比べて、気体粒子の運動に対する抵抗が増大する。また、この抵抗の抵抗値を定量的に表す物理量として、媒質の特性インピーダンスがある。
図25(b)は、図25(a)中の切断線II-IIで共鳴体130を切断したときの断面を表す図である。つまり、図25(b)は、管状部材130Aの延在方向に沿って、後述するx軸を含む平面で音響共鳴体10を切断した場合の断面図である。図25(c)及び(d)は、管状部材130Aの延在方向に直交する平面で共鳴体130を切断した場合の断面を表す図である。なお、共鳴体130の延在方向に対して抵抗材130Bが設けられている各位置を切断した場合に、管状部材130Aの断面形状はそれぞれ同一の形状で、且つ同一の寸法である。また、抵抗材130Bの断面形状もそれぞれ同一の形状で、且つ同一の寸法である。管状部材130Aは、一端に円形の開口端131を有し、他端にこれと同じ円形の閉口端132を有している。閉口端132は音響的に完全反射面(つまり、剛壁)と同じ振る舞いをするものとみなす。管状部材130Aの内部には、開口端131と閉口端132との間で延在する、円柱状の中空領域130Cが構成されている。中空領域130Cは、開口端131を介して外部空間に通じている。ここで、開口端131と閉口端132との間の距離である、中空領域130Cの両端間の長さをLとする。そして、中空領域130Cの延在方向に直交する断面の中心どうしを結ぶ線を「中心軸x」(一点鎖線で図示。)と定める。なお、管状部材130Aの開口端131の直径は、共鳴体130の共鳴周波数の波長よりも十分に短い(例えば、1/2以下)。これにより、管状部材130A単体である場合、中空領域130Cに進む音波は、中心軸xに沿った方向に進む平面波のみとみなすことができる。よって、中空領域130Cにおいて、中心軸xに沿った方向に対する位置が同じ領域、すなわち中心軸xに直交する断面に含まれる領域では、実質的に音圧が一様に分布する。抵抗材130Bは、開口端131の位置を一端として、中空領域130Cに設けられている。ここでは、抵抗材130Bは中心軸x方向に沿って長手方向を有している。この長手方向に対する抵抗材130Bの長さであり、開口端131に位置する一端から他端までの距離をl0と定める。抵抗材130Bは、円筒の長さ方向に相当する方向に貫く空洞を有しているから、管状部材130Aの開口端131と閉口端132とは、この空洞を介して通じている。この空洞は、ここでは、気体粒子の運動に対する抵抗を増大させる部材が設けられていない領域である。共鳴体130の共鳴周波数は、抵抗材130Bの長さl0が大きいほど、つまり、中空領域130Cの長さL−l0が小さくなるほど、より低周波数側にシフトする。
(5)また、共鳴体において当該共鳴体の共鳴周波数を調整するための調整機構が設けられていてもよい。電子鍵盤楽器における筐体部に設ける共鳴体として、共鳴周波数を調整する調整機構が設けられた共鳴体を用いることで、複数の異なる周波数の固有振動姿態の音圧を低減させる場合でも、調整機構によって共鳴周波数を調整すればよいため形状や大きさが共通の共鳴体を用いることができる。以下、このような調整機構の例について説明する。
(a)例えば、上述した実施形態1や実施形態2のような管形状の共鳴体の場合、共鳴体の中空領域の長さを調整する調整機構の一例として、ウレタンフォームなどの多孔質材を用いて形成され、気体粒子(ここでは、空気分子)の運動に対して抵抗となって、その気体粒子の運動を阻害する部材を共鳴体の中空領域の閉口部に接着することで中空領域の長さを変えるようにしてもよい。中空領域の長さを長くするほど共鳴周波数が低周波数側にシフトされる。
(b)また、調整機構の一例として、例えば図26(a)に示すように、実施形態2と同様の円筒形の共鳴体200において、閉口部210の位置を調整することで中空領域211の長さを調整する円柱形状の部材212を設けるようにしてもよい。この場合には、部材212は、中空領域211の内周径と同じ外周径を有し、共鳴体200の部材212が挿入される面には部材212の外周と同じ大きさの孔が設けられている。また、中空領域211の内周と円柱の部材212の外周にはネジ山とネジ溝が各々設けられ、ネジ山とネジ溝の締結によって部材212が中空領域211に嵌合される。部材212を共鳴体200に対して回転させることにより中空領域の長さLが調整される。中空領域211の長さLが長くなるほど共鳴周波数が低周波数側にシフトされる。
(c)また、調整機構の一例として、例えば図26(b1)に示すように、実施形態2と同様、一端が開口され他端が閉口されている円筒形の共鳴体310は、可撓性素材を蛇腹状に形成した側面311を有し、閉口部312を上に動かすことで図27(b2)に示すように中空領域313の長さLが長くなる。中空領域313の長さLが長くなるほど共鳴周波数が低周波数側にシフトされる。
(d)また、調整機構の一例として、例えば実施形態1に係る共鳴体の閉口部側の面を開口し、閉口部側の外周面にネジ山を設けた管部における中空領域の長さを、当該ネジ山と嵌合するネジ溝を有し、閉口部側の面を塞ぐ蓋部材によって調整するようにしてもよい。図26(c1)は上記した管部320Aの断面を示す図である。管部320Aは、長さLの中空領域を有し、開口部321と閉口部側となる開口部323Aとを有する。管部320Aの閉口部側の外周面には所定の長さだけネジ山が設けられている。図26(c2)(c3)は上記蓋部材の例を示す図である。図26(c2)(c3)に示すように、蓋部材320B及び320Cには、管部320Aのネジ山と嵌合するネジ溝が設けられると共に、管部320Aの中空領域の径d(管部320Aの軸心から管部320Aの内周までの距離×2)よりやや小さい径を有する突起部324が設けられている。蓋部材320Bと蓋部材320Cの突起部324の長さはl1、l2(l1>l2)と異ならせている。
蓋部材320B及び320Cの突起部324を管部320Aの閉口部側の開口部323Aに嵌めこむことで、管部320Aの閉口部側が塞がれて閉口部が形成される。例えば、蓋部材320Bを突起部324の長さl1だけ管部320Aに嵌めこんだ場合には、管部320Aの中空領域の長さは(L-l1)となる。また、蓋部材320Cを突起部324の長さl2だけ管部320Aに嵌めこんだ場合には、管部320Aの中空領域の長さは(L-l2)となり、蓋部材320Bを管部320Aに嵌めこむ場合より中空領域の長さが長くなる。このように、突起部324の長さが異なる複数の蓋部材によって管部320Aの中空領域の長さを調整することで、共鳴体の共鳴周波数を調整することができる。また、各蓋部材の突起部を管部320Aに嵌めこむ長さを変えることで管部320Aの中空領域の長さを調整してもよい。また、図26(c2)(c3)に示した蓋部材320B及び320Cを各々突起部324の長さだけ管部320Aに嵌めこんだ状態においては、共鳴体の長手方向の長さが見かけ上は同じ長さとなる。そのため、筐体部3の内部空間に共鳴体や電子部品等を配置する際に無駄なスペースを減らすことができる。
(e)上述した(a)〜(d)の変形例では、管状の共鳴体の中空領域の長さを調整することで、共鳴体の共鳴周波数を調整する例を説明したが、管状の共鳴体の中空領域の長さを変えずに中空領域の体積を調整して共鳴周波数を調整してもよい。図26(d1)は、本変形例に係る共鳴体の断面を示す図である。図26(d1)に示すように、共鳴体330は、一端が開口され他端が閉口された中空領域P1を有する管形状で構成されている。共鳴体330の側面の一部には直径d1を有する開口部331が設けられており、この図においては、部材331Aによって開口部331が塞がれている。この開口部331を塞ぐ部材331Aは着脱可能に構成されており、共鳴体330の共鳴周波数を調整する場合には、図26(d2)に示すように、この部材331Aの代わりに、外周面にネジ山が設けられ両端が開口された管状部材332を開口部331の端部に接着し、図26(c2)(c3)で示した形状と同様の形状を有し、管状部材332のネジ山と嵌合するネジ溝を有する蓋部材333を管状部材332に連結させる。蓋部材333が管状部材332に連結された状態において、中空領域P1と繋がる開口部331から蓋部材333の突起部までの空間P2が形成され、共鳴体330の中空領域の体積が増加する。共鳴体330の中空領域の体積が増加することで、共鳴体330の共鳴周波数は低周波数側にシフトされる。
上記した図26の共鳴体を使用する好適な例として、筐体構造が異なる複数機種で同一の共鳴体を使用する場合や、製品の設計変更によって内部部品の配置や追加により音響特性が変わる場合に容易に対応することができることが挙げられる。
(f)次に調整機構を備えるヘルムホルツ共鳴体の例を図27に示す。図27(a)に示すヘルムホルツ共鳴体410は、上述したヘルムホルツ共鳴体120と同様、胴部410Aと管部410Bとによって構成されている。胴部410Aは、ネック部411を有する壷形状であり、ネック部411は、管部410Bの内周径と同じ外周径の管路を有する。管部410Bの内周とネック部411の外周にはネジ山とネジ溝が各々設けられており、ネジ山とネジ溝の締結によって管部410Bと胴部410Aの管部410Bとが嵌合される。胴部410Aを管部410Bに対して回転させることで、ネック部411と管部410Bとからなる管長Lが調整される。管長Lが長くなるほどヘルムホルツ共鳴体410の共鳴周波数が低周波数側にシフトされる。なお、上記ヘルムホルツ共鳴体120の管部120Bの側面を上記(c)のように可撓性素材を蛇腹状に形成し、胴部120Aを動かして管部120Bの長さを変えることで管部120Bの中空領域の長さを調整してもよい。
上記図27(a)に示すヘルムホルツ共鳴体410では管長Lを調整することで共鳴周波数を調整する例であったが、胴部410Aの体積を調整することで共鳴周波数を調整するようにしてもよい。図27(b)は胴部の体積を調整する調整機構を有するヘルムホルツ共鳴体420の例を示している。ヘルムホルツ共鳴体420は、中空領域422を有する胴部420Aと、外部空間と接する開口部421及び開口部421から胴部420の中空領域422に通じる管路423を有する管部420Bとから構成されている。胴部420Aの内周面にはネジ山が設けられ、胴部420Aの底面に設けられた孔に円柱状の部材420Cが挿入されている。部材420Cは、胴部420Aの内周径と同じ外周径を有し、外周には前記ネジ山と嵌合するネジ溝が設けられている。部材420Cを胴部420Aに対して回転させ、部材420Cを胴部420Aに対して接離する方向に動かすことで、胴部420Aの中空領域422の体積が増える。胴部420Aの中空領域422の体積が増えるほど低周波数側に共鳴周波数がシフトされる。なお、図27(a)及び(b)のように、ヘルムホルツ共鳴体に、管長を調整する調整機構又は胴部の中空領域の容積を調整する調整機構のいずれか一方が設けられていてもよいし、両方の調整機構が設けられていてもよい。
また、上記したヘルムホルツ共鳴体120の管部120Bの内径を調整する調整機構が設けられていてもよい。調整機構としては、例えば、管部120Bの中空領域の径と同じ外周径を有すると共に、管部120Bの中空領域の長さと同じ長さを有し、両端が開口された円筒形状の部材を管部120Bに装着し、管部120Bの径を小さくする。管部120Bの内径が小さくなるほど共鳴周波数が低周波数側にシフトする。また、板振動共鳴体や屈曲板振動共鳴体等の共鳴周波数を調整する調整機構としては、合成樹脂、金属、繊維板、独立気泡発砲体などの弾性を有し弾性振動を生じる素材を板状に形成した振動板に錘等の付加材料を設けるようにしてもよい。付加部材は、振動板が屈曲振動したときに振幅が極大となる位置を含む領域に貼り付けるようにしてもよい。振動板の質量が重くなることにより、屈曲系の共鳴周波数が低周波数側にシフトする。
(6)上述した実施形態2では、仕切板70を設ける例を説明したが、仕切板70の位置に回路基板等の電気部品を配置することで、電気部品を仕切板として用いるようにしてもよい。また、実施形態2において、共鳴体80は背面板55の内壁に取り付けられている例を説明したが、筐体部3Aの内部空間に設けられる他の部材(側板49の内壁、棚板53の底面など)と一体に形成されていてもよい。例えば、図28に示すように、共鳴体と仕切板とが一体成型された仕切・共鳴部材を用いてもよい。図28(a)は、スピーカ設置空間を示す簡略図である。図28(b)に示すように、仕切・共鳴部材700は、設置された状態において、スピーカ60a,60bの側に位置する面712が、当該面712と対向する面711より短く、底部710aが開口され上部710bが塞がれた直方体状の形状を有し、内部には中空領域713が設けられている。例えば、仕切・共鳴部材700を第2共鳴器として機能させる場合には、中空領域713の長さLが音圧を低減させる対象となる周波数の波長の1/4の長さとなるように面712の長さを設計すればよい。
(7)上述した実施形態1に係る電子鍵盤楽器として図29に示すような卓上型電子ピアノ等を適用してもよい。この図において、電子鍵盤楽器1の筐体部3Eには鍵盤11が設けられ、鍵盤11の上部にはTE17aが設けられている。筐体部3Eの内部空間には放音面が上面方向となるようにスピーカ30が設けられており、スピーカ30より下側の空間に共鳴器32が設けられている。筐体部3Eの内部空間において、スピーカ30が設けられている空間と鍵盤11が設けられている空間とは繋がっており、筐体部3Eは、スピーカ30からの音を放音面から外部空間に伝搬させる第1の放音経路と、スピーカ30の背後空間、つまり、スピーカ30の下側の空間を経由してTE17a及び鍵盤11の鍵の隙間から外部空間にスピーカ30の音を伝搬させる第2の放音経路とを有する。実施形態1と同様、共鳴器32の開口部の位置は、スピーカ30が設けられている空間において音圧を低減させる対象となる周波数の固有振動姿態の音圧の腹の場所である。なお、第2の放音経路としては、電子鍵盤楽器の上側ケースと下側ケースとが結合された部分の隙間から鍵盤11の側又は背面側に向けて音が伝搬される放音経路を有していてもよい。
(8)上述したように、実施形態及び変形例に係る管状の共鳴体は、長手方向に延設される任意位置での長手方向に垂直な断面が一様な管であって、その一方端を音響的に遮蔽する遮蔽端とした管材からなる音響ダンパ体であると言うことができる。また、上述した実施形態及び変形例に係るヘルムホルツ的共鳴体は、空洞部のある容器であって、該空洞部の一方端を開放し該一方端から他方端に向かって奥まった部分が前記一方端の開放部開口面積より大きい面積を有する洞穴部を備えた音響ダンパ体であると言うことができる。さらに狭義のヘルムホルツ型共鳴体は、前記一方端から奥方向に所定長を有する洞部が一様な断面を有しつつ更なる奥部が前記断面の断面積より大の洞穴部を有した音響ダンパ体であると言うことができる。要するに、上述した実施形態及び変形例に係る共鳴体とは、一方端を開口し該一方端から奥まる方向に洞部を有した音響ダンパ体である、と定義される。
(9)上述した実施形態及び変形例では、電子鍵盤楽器にTEが設けられている例を説明したが、TEが設けられていない電子鍵盤楽器でもよい。要するに、スピーカが設けられている筐体の内部空間を経由して鍵盤の鍵の隙間等の筐体外に音響的に通じる経路から外部空間にスピーカの音を伝搬させる第2の放音経路を有する電子鍵盤楽器でもよい。また、スピーカが設けられている筐体の内部空間を経由して外部空間にスピーカの音を伝搬させる第2の放音経路は、TEや鍵盤の鍵の隙間に限らない。例えば、内部にスピーカを備え、その放音面の背面の音を外部に導く経路を持った電子ギター、電子バイオリン等の電子弦楽器、スピーカを備え、その放音面の背面の音を外部に導く経路を持ったエレキギター等の電気弦楽器、スピーカを備え、その放音面の背面の音を外部に導く経路を持ったパーカッション等の電子打楽器などに適用してもよい。
(10)上述した実施形態2及び変形例2では、筐体部3Aの下側内部空間S2において仕切られた空間には各々1つのスピーカが設けられている例を説明したが、例えば、図30(a)に示すように、仕切られた空間S21,S21において複数のスピーカ60a及び60bが各々設けられてもよい。また、図30(b)に示すように、下側内部空間S2において共鳴体80が設けられていない空間にスピーカ60cが設けられていてもよい。また、図30(c)に示すように、下側内部空間S2において、共鳴体80が設けられた一の空間S22には2つのスピーカ60aが設けられ、他の空間S23には3つのスピーカ60bが設けられていてもよい。要は、2以上のスピーカを少なくとも2組以上に分割するように内部空間が仕切られ、仕切られた空間のうちスピーカが位置する空間のいずれか2つ以上に共鳴体80が設けられていればよい。
(11)上述した実施形態2では、電子鍵盤楽器の例で示したが、スピーカの放音面の背面からの振動を外部に導く放音経路を持ったスピーカを持つ音響システムであれば適用できる。例えば、自動車に搭載されるスピーカボックスなどに適用してもよい。具体的には、筐体構造が複雑な形状となり、その筐体内で発生する音響について、少なくともひとつの特定周波数の固有振動姿態における音圧を低減させる第1の共鳴体を備えると共に、さらに前記特定周波数とは異なる周波数で生じる、スピーカの動きに対する反力を低減させる共鳴体を備えるものであればよい。