はじめに、相変化物質の相転移を用いたキャリブレーションの原理について概説する。ここでは相変化物質の相転移を検出する要因が電気抵抗値変化とした例で説明する。
図1は時間推移における温度変化及び電気抵抗値変化を示す特性図である。同図の特性図は、時間推移と共に相変化物質を加熱したとき相変化物質に隣接して設置された温度依存性を有する抵抗体の電気抵抗値の変化を抵抗器で測定した値をプロットしたものである。この例では1つの相変化物質の既知の融点をキャリブレーションに用いる例であり、この例において、図1に示すように一定の電流値の電流を供給させて相変化物質において相転移が起きたときの温度(融点(凝固点):Mp)になると吸熱反応が生じる。相変化物質が個体であれば温度が上がっていくと相転移温度にて液体となりはじめ、全てが液体となる期間は相転移温度を維持し、全てが液体となった以降は再び温度が上昇する。そのため、抵抗体の電気抵抗値が不連続な傾向となる部分が出現する。図1において、抵抗体の電気抵抗値R2のときの温度が相転移温度と判定できる。つまり、この電気抵抗値R2となったときが相転移温度となったことに相当する。よって、温度依存性を有する抵抗体の抵抗値を測定しておき、測定抵抗値が抵抗値R2となったときの温度を既知の相転移温度とする温度較正を行う。このように、相転移温度と電気抵抗値との関係が1対1の関係となり、この関係を用いることによりキャリブレーションを行うことができる。
なお、発熱部の熱容量を小さくし、相変化物質は薄く、かつ均一な温度領域に形成することにより、相変化の時点をより正確に検出できる。具体的には、図1に示すように、相変化物質が固体から液体へ相転移が発生すると、相変化物質が吸熱反応を示し、相変化開始から終了まで温度が変化しないので温度が維持され、発熱部の電気抵抗値の増加傾向が抵抗値の平行状態へ変化する現象として検出される。電気抵抗値の時刻T0から時刻T1の推移はデータとして記憶され、抵抗値と時間の関数として演算される。この関数と時刻T1後に得られるデータを比較し、時刻T2で関数にフィットしないデータが生じれば相転移し、この時既知の相転移温度Mpであると判断する。特に基板に空洞部を形成した熱容量の小さい相変化物質と発熱部の構造であれば、T2=0.1から10[msec]の時刻で、迅速かつ顕著な特性として得ることができる。例えば、後述する図18の発熱部や相変化物質の蛇行配置構造において、発熱部と相変化物質が形成されている箇所の寸法が厚さ2[μm]で100[μm]角、相変化物質がSnで231.928℃の相転移温度であれば、1[msec]で温度標準が得られ、寸法をより一層小さくするとより一層高速にできる。このように、図1に示すように、発熱部の電気抵抗値R2が既知の温度Mpであって、発熱部の既知の抵抗温度係数TCRを用いることによって、発熱部に対しジュール発熱させないように微弱の電流を供給して、発熱部の電気抵抗値を素子の環境温度の検出として用いることができる。なお、後述する複数の異なる相転移温度を得る構造であれば、発熱部の既知の抵抗温度係数TCRを用いずに、未知の抵抗温度係数TCRを導き出すことができる。なお、実施形態において相変化物質はある温度で相転移する物質であればよい。特に、高精度に温度が決められている国際温度目盛として定められる温度を示す物質を用いれば高精度にキャリブレーションできるので、その物質としてはIn、Snなどがある。
図2は発熱部に供給される電流に対する発熱部の温度変化及び抵抗値変化を示す特性図である。図2に示すように、相変化物質が固体又は液体から気体へ既知の温度(昇華点又は沸点:Bp)で相転移するので、相変化物質が蒸散して発熱部の熱容量が相変化物質の分減少する。発熱部の熱容量の減少は発熱部の温度(電気抵抗値)を一定割合で増加させている発熱部へ供給する電力量(電気抵抗値)の推移において電流値を増加させ、沸点Bpに達した時に相変化物質が相転移する。熱容量が変化し電気抵抗値は不連続な特性として現れ、この不連続点が既知の沸点Bpである。図1と同様に、発熱部に対しジュール発熱させないように微弱の電流を供給して、発熱部の電気抵抗値を素子の環境温度の検出として用いることができる。
次に、複数の相変化物質のそれぞれの既知の相転移温度を用いたキャリブレーションの原理について概説する。なお、以下では2つの相変化物質を用いた例で概説するものとする。
図3は異なる相転移温度の2つの相変化物質において時間推移に対する温度変化を示す特性図である。同図に示すように、発熱部への電流供給を一定の割合で増加していくことによって、時刻T2で相変化物質Aが相転移する温度(相変化物質A固有の既知の値である融点(凝固点):Mpa)になる。更に、電流を供給し続けて温度を上昇させると、時刻T4で相変化物質Bが相転移する温度(相変化物質B固有の既知の値である融点(凝固点):Mpb(>Mpa))になる。なお、これらの素子は、相変化物質を相転移させるのに発熱部を用いず、従来のように素子の環境温度を温度制御することによっても、図3に示す相変化物質の相転移を検出し、既知の温度であることが決定できるので、従来のキャリブレーション設備ほど高精度の温度標準設備でなく空間温度分布のある温度制御精度の低い設備を用いた方法によっても、個々の素子の相変化物質の相転移を検出し、高精度にキャリブレーションできる。そして、所定の抵抗温度係数を有する発熱部をジュール発熱させないように十分小さな電流値を印加し、発熱部の抵抗値を検出することによって、個々の素子の発熱部を温度検出器として用い高精度にキャリブレーションできる。
なお、少なくともMpa≠Mpbであればよい。また、異なる相転移温度の2つの相変化物質において時間推移に対する発熱部の駆動電流値変化を示す特性図である図4に示すように、出力電圧値を測定し抵抗値に変換してRの偏曲点(多くはΔR=0)が2回出現する期間、時刻T0から時刻T4まで、一定の比率で電流値を増加させる。そして、抵抗値の時間微分値ΔRについて、時刻T0から時刻T1のΔRを記憶し、時刻T2後のΔRと比較する。固体から液体へ相転移を完了するまでは吸熱反応によって印加電力を増しても温度の上昇はなくΔR=0であるので、時刻T2において所定の相変化物質Aは既知の相転移温度Mpaになったと判断できる。同様に、時刻T4において所定の相変化物質Bは既知の相転移温度Mpbになったと判断できる。これによって、図5に示すように、発熱部(ヒータと温度検出部との兼用)の時刻T2における供給電流値と出力電圧値Va、すなわち図6に示す抵抗値Raが温度Mpaの時の値である。また、時刻T4における供給電流値と出力電圧値Vb(図5参照)、すなわち抵抗値Rb(図6参照)が温度Mpbの時の値であることがわかり、図7に示すように、発熱部の温度依存性(抵抗値の温度キャリブレーション)を温度と抵抗値の関数として近似する。また、図5に示すように、時刻T5、時刻T6において、測温抵抗体と同じく自己発熱させないように微小な定電流Isを供給することによって、図6に示すように、抵抗値V5/Is及び抵抗値V6/Isを検出し、先の温度と抵抗値の関数を用い、温度C5、温度C6として算出する。図6の破線に示す周囲温度が測定できる。これにより温度測定ができることになる。
このように、2つの異なる相変化物質がそれぞれ異なる相転移温度の物質であることにより、発熱部の温度が2つの異なる温度になったときにキャリブレーションすることができる。これにより、高精度の温度目盛が付与できる。なお、発熱部の温度依存性(抵抗値の温度キャリブレーション)が求まるので、未知の抵抗温度係数(TCR)の抵抗体材料を用いることができるし、発熱部の材料が予め既知の抵抗温度係数(TCR)の抵抗体材料を用いると図7の抵抗値−温度特性が更に精度が高くなる。例えば、発熱部にPtを用いると、
発熱部の抵抗値R(Ω)と温度S(℃)の温度依存性は以下の式(1)で表すことができる。
R=R0×(1+α・S)・・・・(式1)
なお、温度係数(TCR)αは3.9083E−03(0℃〜850℃)であって、これに相変化物質Aが例えばInでMpa=156.5985℃のRa、相変化物質Bが例えばSnでMpb=231.928℃のRbにより、温度係数αの補正を行えばさらに精度が高く、0℃〜850℃では線形なので、MpaからMpbまでの範囲以外の温度領域でも精度が確保される。ちなみに、図面では相転移温度が異なる相変化物質の2種類を示しているが、非線形の温度依存性である場合はより多くの異なる既知の相転移温度が必要であって、図面上の相変化物質の種類を増やせばよい。また、温度依存性を有する電気素子の温度目盛りを構成する場合電気また、相変化物質が相転移したことを検出する要因が電気抵抗値変化とした例で説明したが、その他の相変化物質が相転移したことを示すものとして、質量、熱容量、固有振動数、誘電率、粘性、光透過率、光反射率、光吸収率等がある。
次に、実施形態の電気素子の構造について説明するが、1つの相変化物質を用いて電気抵抗値変化を検出したものを示す。
図8は実施形態の電気素子の積層構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。図8に示すような積層配置した構造の電気素子では、発熱部と相変化物質が極近接し伝熱も均等になり、熱容量も小さく、迅速にキャリブレーションが完了し高精度の温度検出が可能になる。電気絶縁性材料のガラスやセラミックからなる基板11上に、Si、Pt、NiCr、SiC,Cなどの導電性物質からなる電力供給用の1組のリード12とリード先端の発熱部13とを配置し、発熱部13上に相変化物質14を積層して一体化している。発熱部13はリード12よりも厚みが薄い、あるいは幅が細くなっているので電気抵抗値が大きく、電流を供給してジュール発熱させることができる。発熱部13の電気抵抗物質の固有抵抗値と抵抗温度係数に応じた電気抵抗値が発熱部13の温度に対応する。このような構造を有する電気素子によれば、発熱部13にリード12を介して電流を供給して発熱部13によって発熱させる。そして、このリード12により発熱部13上に積層された相変化物質14の相転移となる電気抵抗値を検出する。これにより、上述した原理に基づいて電気抵抗値を検出することで相変化物質14の相変移温度となったことを検知する。なお、相変化物質14は電気的に発熱部13に影響を及ぼさない非導電性物質であり、発熱部13への熱影響を発熱部13の電気特性として得ることができる。リード12の末端から電流を供給することによって発熱部13がジュール発熱によって温度上昇し、積層した相変化物質14も発熱部13と近接し微小量なので発熱部13とほぼ同じ温度になる。
図9は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図8と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。同図に示す基板11は導電性を有する物質であり、例えばAl、Ni、Siであって、リード12や発熱部13の導電性と干渉してしまうので、図9の電気素子では、基板11の表面に電気絶縁層15を形成している。この電気絶縁層15は、相変化物質14の相転移温度よりも低いと、相転移してしまうので、相転移温度が相変化物質14よりも高い物質を選択する必要があり、SiO2、Si3N4、Al2O3等の耐熱性物質である。基板がSiであれば、周辺回路を集積しやすい。電気絶縁層15は、例えばSiの基板11を熱酸化させることによって表面にSiO2を形成したり、SOI(Si On Insulator)構造基板によって得ることができる。
図10は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図9と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。図9と異なる図10の電気素子は、発熱部13と相変化物質14を配置している領域以外を、電気絶縁層15をマスクとして基板11上にエッチングにより空洞16を設けたものである。このような構造としたことにより、発熱部13を基板11と低熱容量の空間によって断熱性を高め、発熱部13の熱容量を小さくできる。積層した相変化物質14も発熱部13と近接し微小量なので、発熱部13とほぼ同じ温度になり、温度分布も均一になる。これによって、相変化物質14と発熱部13は迅速な温度制御が可能になるため、高精度のキャリブレーションが迅速に完了できる。これらの製造方法は、基板11上に、導電性物質の基板であれば電気絶縁層15を積層した後、導電性の電気抵抗物質を薄膜状に蒸着やスパッタリングによって積層し、リード12や発熱部13として半導体微細加工のフォトエッチング技術によってパターン加工する。そして、相変化物質14を、積層された相変化物質が導電性物質あれば電気絶縁層15を介して積層した後、相変化物質14を発熱部13に対応する領域にパターン加工する。基板11上に空洞16を設ける構造においては、発熱部13と相変化物質14の領域周辺に対向する基板となる部位をエッチング除去する。この空洞16によって大きな熱容量の基板の影響を小さくし、小さな熱容量の発熱部13及び相変化物質14の構造が得られ、高速に所定の温度に調節することができる。
図11は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図10と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。図10と異なる図11の電気素子は、相変化物質14にAl、Auや発熱部13と同一材料の導電性物質の検出リード17がコンタクトした構造となっている。相変化物質14は導電性物質であり、発熱部13と電気絶縁させるため電気絶縁層18を介して積層されており、相変化物質14の状態を発熱部13と電気的に分離して独立に検出リード17を経て検出できる。このため、相転移温度を正確に検出することができ、また相変化物質14が導電性を有し、発熱部13の電気特性に影響を与えず発熱部13の電力制御が複雑にならない。また、AlやAuの検出リード17は周辺回路を集積した場合、使用される配線パターンと同一材料であるので、製造工程が複雑にならない。
図12は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図11と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。図11と異なる図12の電気素子は、発熱部13と相変化物質14を配置している領域以外を、電気絶縁層15をマスクとして基板11上にエッチングにより空洞16を設けたものである。このような構造としたことにより、発熱部13を基板11と低熱容量の空間によって断熱性を高め、発熱部13の熱容量を小さくできる。積層した相変化物質14も発熱部13と近接し微小量なので、発熱部13とほぼ同じ温度になり、温度分布も均一になる。これによって、相変化物質14と発熱部13は迅速な温度制御が可能になるため、高精度のキャリブレーションが迅速に完了できる。
図13は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す平面図である。同図において、図11と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)に示す電気素子は検出リード17のパターンも相変化物質14と同一の金属などの導電性材料で構成される場合の積層構造を有し、相変化物質14の電気特性を相変化物質の検出リード17によって検出する。このように、同一材料を用いることによって、構造及び製造工程を簡略にできる。図13の(b)は、図13の(a)の発熱部13と相変化物質14を配置している領域に対して、基板11上に空洞16を設け、迅速な温度制御により高精度のキャリブレーションを行うための構造である。
図14は実施形態の電気素子の並列構造を示す図である。同図において、図8と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。同図に示す並列構造の電気素子は、基板11上に電気抵抗物質のリード12と発熱部13とを配置し、この発熱部13に並列に離間して相変化物質14を形成したものである。半導体微細加工のフォトエッチング技術によってパターン形成する場合には積層段差が加工寸法精度に影響を与えるので、発熱部13と相変化物質14とを並列に同一平面上に配置することによって、積層段差を小さくし精度ばらつきが小さくできる。また、発熱部13と相変化物質14との間には間隔があるので、発熱部13と相変化物質14とは電気的に絶縁されていて、相変化物質14に導電性を有する場合であっても発熱部13への影響はない。
図15は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図において、図14と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。図14と異なる電気素子は、発熱部13と相変化物質14を配置している領域以外を、電気絶縁層15をマスクとして基板11上にエッチングにより空洞16を設けたものである。このような構造としたことにより、発熱部13を基板11と低熱容量の空間によって断熱性を高め、発熱部13の熱容量を小さくできる。積層した相変化物質14も発熱部13と近接し微小量なので、発熱部13とほぼ同じ温度になり、温度分布も均一になる。これによって、相変化物質14と発熱部13は迅速な温度制御が可能になるため、高精度のキャリブレーションが迅速に完了できる。
図16は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す平面図である。同図において、図15と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)に示す電気素子は検出リード17も相変化物質14と同一の金属などの導電性材料で構成される場合の並列構造を有し、相変化物質14の電気特性を相変化物質の検出リード17によって検出する。このように、同一材料を用いることによって、構造及び製造工程を簡略にできる。図16の(b)に示す電気素子は、図16の(a)の発熱部13と相変化物質14を配置している領域に対して、基板11上に空洞16を設け、迅速な温度制御により高精度のキャリブレーションを行うための並列構造となっている。
図17は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図において、図16と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)に示す電気素子は、相変化物質14にAl(アルミ)、Auや発熱部13と同一材料の導電性物質の検出リード17がコンタクトした並列構造となっている。同図の(b)に示す電気素子は、発熱部13と相変化物質14を配置している領域以外を、電気絶縁層15をマスクとして基板11上にエッチングにより空洞16を設けたものである。
図18は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のB−B’線断面図である。同図において、図17と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図に示す電気素子は、基板11の空洞16の領域に、空洞16と周囲雰囲気とが通気する一部開口領域を設けた電気絶縁層15に、発熱部13を蛇行配置させ、発熱部13の蛇行配置間の隙間に相変化物質14を並列配置させた構造を有している。このような蛇行配置としたことにより、発熱部13と相変化物質14とが、局所にかつ高密度に集中配置でき、温度分布を均一にさせ、効率良く高精度にキャリブレーションできる。
図19は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のB−B’線断面図である。同図において、図18と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。図18と異なる構造は、蛇行配置の発熱部13の表面に電気絶縁層18を積層し、その電気絶縁層18の上に相変化物質14を積層した構造である。このような蛇行配置とし、更に積層構造としたことにより、発熱部13と相変化物質14とが、局所にかつ高密度に集中配置でき、温度分布を均一にさせ、より一層効率良く高精度にキャリブレーションできる。
図20は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す平面図である。同図において、図8と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図に示す電気素子は、同一の基板11上に、発熱部13と相変化物質14を積層したユニットを複数設けて一体化したものである。このような構成によれば、一方のユニットにおけるキャリブレーションによる精度保証期間が終了したら、他方のユニットのキャリブレーションを行い、精度保証期間を長期間に渡って実現できる。また、キャリブレーション中の温度変化の影響を無くすため、温度補償用の検出器として、一方のキャリブレーション中に他方とブリッジ回路を構成させることができる。
図21は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。同図において、図17と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。相変化物質が表面に露出している構造において、金属材料など酸化しやすい相変化物質の場合に、周囲雰囲気によって金属酸化物に変化して、相転移温度が変化する。また、相変化物質が液化する場合は流動変形によって、温度分布が変わるので、これらはキャリブレーションを繰り返すと再現性が得られない。そこで、図21の電気素子においては、相変化物質14が周囲雰囲気によって化学変化するのを防止するために相変化物質14を周囲雰囲気に接しないように電気絶縁層18でパッシベーションする。電気絶縁層18には、SiO2、Si3N4、Al2O3等の耐熱性の電気絶縁材料が適している。また、国際温度目盛の定義定点を用い高精度にキャリブレーションする場合には、標準気圧下(10.1325Pa)にて物質の凝固点(融点)を検出する必要がある。この場合、耐熱性の電気絶縁層を被覆した剛性を有する構造によって、耐熱性の電気絶縁層の内部は一定圧力に維持されているので、周囲雰囲気の気圧が変化しても影響を受けず精度が高くなる。
図22は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図21と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。図21と異なる図22の電気素子は、発熱部13と相変化物質14を配置している領域以外を、電気絶縁層15をマスクとして基板11上にエッチングにより空洞16を設けたものである。よって、迅速な温度制御により高精度のキャリブレーションを行うことができる。
次に、相転移温度が異なる2つの相変化物質を用いた実施形態の電気素子の構造について説明する。
図23は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。同図において、図8と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。図23に示す電気素子は、電気絶縁性材料のガラスやセラミックからなる基板上11に、Si、Pt、NiCr、SiC,Cなどの導電性材料からなる電力供給用の1組のリード12とリード先端の発熱部13とを配置し、相転移温度が互いに異なる相変化物質31、32を離間させて発熱部13上に積層する。図23の電気素子によれば、発熱部13と相変化物質31、32が極近接し伝熱も均等になり、熱容量も小さく、迅速にキャリブレーションが完了し高精度の温度検出が可能になる。なお、相変化物質31、32が導電性材料あれば電気絶縁層を介して積層した後、相変化物質31、32を発熱部13に対応する領域にパターン加工する。また、基板11がSiであれば、周辺回路を集積しやすい。例えば、バルクシリコン構造のSi基板を用いる場合は、発熱部の材料や相変化物質がSi基板を介して導電しないように、Si基板を熱酸化させることにより表面にSiO2を形成するか、Si基板上にCVDやスパッタリングによりSiO2、Si3N4、Al2O3等の単層または複層の電気絶縁層を形成する。次に、電気絶縁層上にCVDやスパッタリングによりSi、Pt、NiCr等の発熱部の材料を積層し、フォトエッチングによりパターン形成し発熱部13として配置する。更に、相変化物質31、32をCVDやスパッタリング及び各種薄膜製造方法によって成膜、フォトリソグラフによってパターン形成する。なお、Si基板、電気絶縁層や電気絶縁層上に形成したSiをCMOS素子構造に用いることにより、同一のチップ内に周辺回路を形成し集積することができる。また、SOI(Si On Insulator)構造のSi基板を用いる場合は、BOX層を電気絶縁層とし、SOI層をフォトエッチングによりパターン形成し発熱部として配置する。次に、表面に電気絶縁層を被覆後、電気絶縁層上にCVD、スパッタリングやゾルゲル法など各種薄膜製造方法によって相変化物質を成膜、フォトリソグラフによってパターン形成する。また、基板、BOX層やSOI層をCMOS素子構造として用いることにより、同一のチップ内に周辺回路を形成し集積することができる。
図24は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図9と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。同図に示す基板11は導電性を有する物質であり、例えばAl、Ni、Siであって、リード12や発熱部13の導電性と干渉してしまうので、基板面に電気絶縁層15を形成している。この電気絶縁層15は、相変化物質31、32の相転移温度よりも低いと、相転移してしまう。そのため、相転移温度が相変化物質31、32よりも高い物質。例えばSiO2、Si3N4、Al2O3等の耐熱性材料を選択する。基板11上、または基板11上に積層した電気絶縁層15上に、リード12と発熱部13として導電性の電気抵抗材料を薄膜状にCVDやスパッタリングにより積層し、半導体微細加工のフォトエッチング技術によりパターン加工する。そして、相変化物質31、32は電気的に発熱部13に影響を及ぼさない非導電性物質であれば更に積層する。
図25は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図10と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。図24と異なる図25の電気素子は、発熱部13と相変化物質31、32を配置している領域以外を、電気絶縁層15をマスクとして基板11上にエッチングにより空洞16を設けたものである。このような構造としたことにより、発熱部13を基板11と低熱容量の空間によって断熱性を高め、発熱部13の熱容量を小さくできる。積層した相変化物質31、32も発熱部13と近接し微小量なので、発熱部13とほぼ同じ温度になり、温度分布も均一になる。これによって、相変化物質31、32と発熱部13は迅速な温度制御が可能になるため、高精度のキャリブレーションが迅速に完了できる。これらの製造方法は、基板11上に、導電性物質の基板であれば電気絶縁層15を積層した後、導電性の電気抵抗物質を薄膜状に蒸着やスパッタリングによって積層し、リード12や発熱部13として半導体微細加工のフォトエッチング技術によってパターン加工する。そして、相変化物質31、32を、積層された相変化物質が導電性物質あれば電気絶縁層15を介して積層した後、相変化物質31、32を発熱部13に対応する領域にパターン加工する。基板11上に空洞16を設ける構造においては、発熱部13と相変化物質31、32の領域周辺に対向する基板となる部位をエッチング除去する。これによって、空洞16によって大きな熱容量の基板の影響を小さくし、小さな熱容量の発熱部13及び相変化物質31、32の構造が得られ、高速に所定の温度に調節することができる。
図26は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図25と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。図25と異なる図26の電気素子における相変化物質31、32は導電性物質であり、発熱部13と電気絶縁させるため電気絶縁層18を介して積層されている。なお、発熱部13が高温度になるため表面が周囲雰囲気により酸化したり腐食する材料である場合に、耐久性を高めるために、図27に示すように、発熱部13の表面全体を耐熱性の酸化物や窒化物の電気絶縁層18で被覆しパッシベーションする。
図28は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図26と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。図26と異なる図28の電気素子は、発熱部13と相変化物質31、32を配置している領域以外を、電気絶縁層15をマスクとして基板11上にエッチングにより空洞16を設けたものである。このような構造としたことにより、発熱部13を基板11と低熱容量の空間によって断熱性を高め、発熱部13の熱容量を小さくできる。積層した相変化物質31、32も発熱部13と近接し微小量なので、発熱部13とほぼ同じ温度になり、温度分布も均一になる。これによって、発熱部13と相変化物質31、32は迅速な温度制御が可能になるため、高精度のキャリブレーションが迅速に完了できる。なお、発熱部13が高温度になるため表面が周囲雰囲気により酸化したり腐食する材料である場合に、耐久性を高めるために、図29に示すように、発熱部13の表面全体を耐熱性の酸化物や窒化物の電気絶縁層18で被覆しパッシベーションする。また、図30は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図26と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。また、同図の(a)において電気絶縁層18の表記は省略されている。同図に示すように、発熱部13、相変化物質31、32の表面全体を電気絶縁層18で被覆しパッシベーションする。
図31は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図30と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。また、同図の(a)において電気絶縁層18の表記は省略されている。図30と異なる図31の電気素子は、発熱部13と相変化物質31、32を配置している領域以外を、電気絶縁層15をマスクとして基板11上にエッチングにより空洞16を設けたものである。このような構造としたことにより、発熱部13を基板11と低熱容量の空間によって断熱性を高め、発熱部13の熱容量を小さくできる。積層した相変化物質31、32も発熱部13と近接し微小量なので、発熱部13とほぼ同じ温度になり、温度分布も均一になる。これによって、発熱部13と相変化物質31、32は迅速な温度制御が可能になるため、高精度のキャリブレーションが迅速に完了できる。
図32は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図30と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のB−B’線断面図である。また、同図の(a)において電気絶縁層18の表記は省略されている。図30と異なる図32の電気素子は、相変化物質31、32のそれぞれに検出リード17を接続させた構造を有している。検出リード17はAl、Auや発熱部と同一材料の導電性物質であり、Al、Auは周辺回路の配線材料の形成工程で兼用できる。相変化物質31、32は導電性物質であり、発熱部13と電気絶縁させるため電気絶縁層18を介して積層され、相変化物質の状態を発熱部13と電気的に分離して独立に検出リード17を経てそれぞれ検出できる。これにより、相転移温度を正確に検出することができ、かつ相変化物質31、32が導電性を有していても発熱部13の電気特性に影響を与えず発熱部13の電力制御が複雑にならない。また、AlやAuの検出リード17は周辺回路を集積した場合、使用される配線パターンと同一材料であるので、製造工程が複雑にならない。
図33は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図32と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のB−B’線断面図である。また、同図の(a)において電気絶縁層18の表記は省略されている。図32と異なる図33の電気素子は、発熱部13と相変化物質31、32を配置している領域以外を、電気絶縁層15をマスクとして基板11上にエッチングにより空洞16を設けたものである。このような構造としたことにより、発熱部13を基板11と低熱容量の空間によって断熱性を高め、発熱部13の熱容量を小さくできる。積層した相変化物質31、32も発熱部13と近接し微小量なので、発熱部13とほぼ同じ温度になり、温度分布も均一になる。これによって、発熱部13と相変化物質31、32は迅速な温度制御が可能になるため、高精度のキャリブレーションが迅速に完了できる。
図34は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図32と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のB−B’線断面図である。また、同図の(a)において電気絶縁層18の表記は省略されている。図32と異なる図34の電気素子は、相変化物質31、32のそれぞれに、各相変化物質と同一材料の導電性物質の検出リード17をそれぞれ接続させた構造を有している。この検出リード17には、In、Sn、ZnやAl、Auが用いられる。また、AlやAuの検出リード17は周辺回路を集積した場合、使用される配線パターンと同一材料であるので、製造工程が複雑にならない。
図35は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図34と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のB−B’線断面図である。また、同図の(a)において電気絶縁層18の表記は省略されている。図34と異なる図35の電気素子は、図13、図16と同じく検出リードと相変化物質が同一の導電材料であって、発熱部13と相変化物質31、32を配置している領域以外を、電気絶縁層15をマスクとして基板11上にエッチングにより空洞16を設けたものである。このような構造としたことにより、発熱部13を基板11と低熱容量の空間によって断熱性を高め、発熱部13の熱容量を小さくできる。積層した相変化物質31、32も発熱部13と近接し微小量なので、発熱部13とほぼ同じ温度になり、温度分布も均一になる。これによって、発熱部13と相変化物質31、32は迅速な温度制御が可能になるため、高精度のキャリブレーションが迅速に完了できる。
図36は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。同図において、図23と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。また、同図の(a)において電気絶縁層18の表記は省略されている。図36に示すような並列配置した構造の電気素子では、発熱部13に並列して相変化物質31、32とを形成されている。発熱部13と相変化物質31、32が極近接し伝熱も均等になり、熱容量も小さく、迅速にキャリブレーションが完了し高精度の温度検出が可能になる。半導体微細加工のフォトエッチング技術によってパターン形成する場合には積層段差が加工寸法精度に影響を与えるので、発熱部13と相変化物質31、32を並列に同一平面上に配置することによって、積層段差を小さくし精度ばらつきが小さくできる。また、発熱部13と相変化物質31、32とは間隔があるので、発熱部13と相変化物質31、32は電気絶縁されていて、相変化物質31、32に導電性を有する場合であっても発熱部13への影響はない。
図37は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図において、図36と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。また、同図の(a)において電気絶縁層18の表記は省略されている。図36と異なる図37の電気素子は、発熱部13と相変化物質31、32を配置している領域以外を、電気絶縁層15をマスクとして基板11上にエッチングにより空洞16を設けたものである。このような構造としたことにより、発熱部13を基板11と低熱容量の空間によって断熱性を高め、発熱部13の熱容量を小さくできる。積層した相変化物質31、32も発熱部13と近接し微小量なので、発熱部13とほぼ同じ温度になり、温度分布も均一になる。これによって、発熱部13と相変化物質31、32は迅速な温度制御が可能になるため、高精度のキャリブレーションが迅速に完了できる。
図38は実施形態の電気素子の並列構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。同図において、図36と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。また、同図の(a)において電気絶縁層18の表記は省略されている。図38に示すような並列配置した構造の電気素子では、相変化物質31、32が電気絶縁性材料であって、発熱部13に並列して相変化物質31、32とを互いに接触して形成されている。発熱部13と相変化物質31、32との伝熱性が高く、発熱部13を含めた熱容量が小さくなるので迅速に所定温度が得られて、温度検出温度が短く、温度分布がより均一になりキャリブレーションの精度が高くなる。
図39は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図において、図38と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。図38と異なる図39の電気素子は、発熱部13と相変化物質31、32を配置している領域以外を、電気絶縁層15をマスクとして基板11上にエッチングにより空洞16を設けたものである。このような構造としたことにより、発熱部13を基板11と低熱容量の空間によって断熱性を高め、発熱部13の熱容量を小さくできる。積層した相変化物質31、32も発熱部13と近接し微小量なので、発熱部13とほぼ同じ温度になり、温度分布も均一になる。これによって、発熱部13と相変化物質31、32は迅速な温度制御が可能になるため、高精度のキャリブレーションが迅速に完了できる。
図40は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す平面図である。同図に示す電気素子は、図39に示す発熱部13と相変化物質31、32を並列配置し、空洞16を設けたものを、同一基板上に複数一体化したものである。このような構成によれば、一方のキャリブレーションによる精度保証期間が終了したら、他方のキャリブレーションを行い、精度保証期間を長期間に渡って実現できる。また、キャリブレーション中の温度変化の影響を無くすため、温度補償用の検出器として、一方のキャリブレーション中に他方とブリッジ回路を構成させることができる。
図41は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のB−B’線断面図である。同図において、図17と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。また、同図の(a)において電気絶縁層18の表記は省略されている。同図に示す電気素子は、基板11の空洞16の領域に、空洞16と周囲雰囲気とが通気する一部開口領域を設けた電気絶縁層15に、発熱部13を蛇行配置させ、発熱部13の上に電気絶縁層18を介して相変化物質31を、更に相変化物質31の上に電気絶縁層18を介して相変化物質32をそれぞれ蛇行配置して積層配置させ、最上層に電気絶縁層18で被覆した集積構造を有している。このような蛇行配置としたことにより、発熱部13と相変化物質31、32を、局所に、高密度に集中配置し、温度分布を均一にさせ、効率良く高精度にキャリブレーションできる。
図42は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のB−B'線断面図である。同図において、図41と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図に示す電気素子は、基板11の空洞16の領域に、空洞16と周囲雰囲気とが通気する一部開口領域を設けた電気絶縁層15に、発熱部13を蛇行配置させる。そして、その発熱部13の上に電気絶縁層18を介して相変化物質31を、更に相変化物質31の上に電気絶縁層18を介して相変化物質32をそれぞれ積層配置させ、最上層に電気絶縁層18で被覆した。このような蛇行配置とした発熱部13と、積層した相変化物質31、32を、局所に高密度に集中配置し、温度分布を均一にさせ、効率良く高精度にキャリブレーションできる。
図43は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のB−B'線断面図である。同図において、図42と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。また、同図の(a)において電気絶縁層18の表記は省略されている。同図に示す電気素子は、基板11の空洞16の領域に、空洞16と周囲雰囲気とが通気する一部開口領域を設けた電気絶縁層15に、発熱部13を蛇行配置させ、更に発熱部13に相変化物質31、32をそれぞれ並列させて蛇行配置させ、最上層に電気絶縁層18で被覆した集積構造を有している。このような蛇行配置とした発熱部13と、発熱部13に並列して蛇行配置とした相変化物質31、32を、局所に高密度に集中配置し、温度分布を均一にさせ、効率良く高精度にキャリブレーションできる。
図44は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のB−B'線断面図である。同図において、図43と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。また、同図の(a)において電気絶縁層18の表記は省略されている。同図に示す電気素子は、基板11の空洞16の領域に、空洞16と周囲雰囲気とが通気する一部開口領域を設けた円形の電気絶縁層15に、電気絶縁層15上に円形の電気絶縁層を同心円とする発熱部13を円周配置し、更に発熱部13の内側に相変化物質31、32を同心円として並列配置させ、最上層に電気絶縁層18で被覆した集積構造を有している。このような同心円配置とした発熱部13と、発熱部13に並列して同心円配置とした相変化物質31、32を、局所に高密度に集中配置し、温度分布を均一にさせ、効率良く高精度にキャリブレーションできる。
図45は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のB−B'線断面図である。同図において、図44と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。また、同図の(a)において電気絶縁層18の表記は省略されている。同図に示す電気素子は、基板11の空洞16の領域に、空洞16と周囲雰囲気とが通気する一部開口領域を設けた円形の電気絶縁層15に、電気絶縁層15上に円形の電気絶縁層を同心円とする発熱部13を円周配置し、更に発熱部13の内側に相変化物質31、32を扇形の平面形状に形成して交互に並列配置させ、最上層に電気絶縁層18で被覆した集積構造を有している。このような同心円配置とした発熱部13の内側に扇形形状の相変化物質31、32を交互に分割配置したことにより、発熱部13と各相変化物質との距離が均一となって応答性も均一となるため、温度分布を均一にさせ、効率良く高精度に、かつ高信頼性のあるキャリブレーションできる。
図46は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のB−B'線断面図である。同図において、図45と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図に示す電気素子と、図45の電気素子との相違点としては、空洞16が貫通型となっている点である。
次に、相転移温度をより正確に検出する構造について概説する。
図47は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す平面図である。なお、同図の(a)において電気絶縁層18の表記は省略されている。同図に示す電気素子は、相変化物質に限定させて温度検出するために相変化物質の配置してある領域に対応させて、発熱部13の抵抗値を4端子方式で検出する積層構造を有している。詳細には、基板11の空洞16上に架橋した発熱部13上に、電気絶縁層を介して相変化物質31と相変化物質32とを積層し、電力供給用のリード12−1から発熱部13に電力を印加しジュール発熱させ、相変化物質31、32を相転移温度まで温度上昇させる。発熱部13の端部は発熱部13の中心よりも温度が低いので、温度の低い領域の特性を含めて検出すると正確な相転移温度を検出できない。そこで、発熱部13上の相変化物質31、32に対応する発熱部13の両端部に、検出用のリード12−2を配置する。発熱部13上の相変化物質31、32に対応する領域の温度(発熱部13の電気抵抗値)のみ検出することによって、キャリブレーション中の温度変動影響を少なくして正確に相転移温度が検出できる。なお、図48に示す電気素子は、基板11の空洞16上に架橋した電気絶縁層18上に発熱部13を挟んで相変化物質31と相変化物質32とが並列に配置されている4端子方式で検出する並列構造を有している。
図49は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す平面図である。なお、同図の(a)において電気絶縁層18の表記は省略されている。同図に示す電気素子は、発熱部13で温度検出を兼用させず、発熱部13は相変化物質31、32を相転移させるのみであって、温度検出は別の温度検出部19を設ける。つまり発熱部13と温度検出部19とを分離した構造を有し、検出信号だけを取り出することで検出精度を上げることができる。相変化物質31、32は発熱部13に接続された電力供給用のリード12−1によって、加熱電流Ihが印加され、既知の温度で相転移する。温度検出部19は所定の温度係数の電気抵抗材料であって、空洞16上に架橋した電気絶縁層18上に発熱部13、相変化物質31、32と隣接させて温度検出部19を配置する。温度検出部19に接続された検出用のリード12−2によって、温度検出電流Irが印加され、電圧Vdが出力され、相変化物質31、32の既知の相転移温度によってVdが温度キャリブレーションされる。
図50は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す平面図である。同図に示す電気素子は、発熱部13で温度検出を兼用させず、発熱部13は相変化物質31、32を相転移させるのみであって、温度検出は別の温度検出部20を設ける。相変化物質31、32は発熱部13に接続された電力供給用のリード12−1によって、加熱電流Ihが印加され、既知の温度で相転移する。温度検出部20はゼーベック効果を用いたサーモパイル(熱電対)であって、空洞16上に架橋した電気絶縁層15上に発熱部13、相変化物質31、32と隣接させて温度検出部20を配置する。温度検出部20は空洞16上を架橋する異種類の金属材料の対、もしくは、N型半導体21とP型半導体22の対を電極23で連結したものであって、直列に接続され検出用のリード12−2によって、熱起電力Vdが出力され、相変化物質の既知の相転移温度によってVdが温度キャリブレーションされる。バルクシリコン構造のSi基板を用いる場合は、電気絶縁層上にCVDにより積層したSi層、SOI構造のSi基板を用いる場合はSOI層に、P型とN型領域のサーモカップルパターンと接続電極をフォトエッチングによりパターン形成し温度検出部を形成する。
図51は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A'線断面図である。また、同図の(c)は平面図、同図の(d)は同図の(c)のB−B'線断面図である。同図の上述したように、既知の相転移温度で相転移する各相変化物質は、互いに接触していると相互に拡散し新たな合金や化合物に変化し相転移温度が変化してしまう。そのため、異なる相転移温度の複数の相変化物質を互いに分離させて形成する必要があった。ところが、各相変化物質からなる合金が既知の相転移温度を有することがわかっていれば、各相変化物質を互いに接触させて新たな合金や化合物を形成させておいてもよい。例えば、一方の相変化物質にInを、他方の相変化物質BにSnをそれぞれ選択し、In−Sn合金を形成させ、InとSnの混合比率により融点(凝固点)は2元合金の状態図を参照することにより得られる。そこで、当初から合金を作成しておいてその合金を単独の相変化物資として上述のように集積してもよいが、図51の(a),(b)に示すように、相変化物質31上に相変化物質32を積層しておくことでもよい。つまり、例えばInとSnの任意の混合比率を形成する電気素子の構造としては、基板11上に発熱部13を積層し、発熱部13の周りを電気絶縁層18でパッシベーションし、その電気絶縁層18上に相変化物質31と相変化物質32とを並列配置し、更に相変化物質31と相変化物質32とを積層したものとを分離配置している。最上層として電気絶縁層18で全体をパッシベーションする。そして、温度較正を行う際、あるいは事前に、発熱部13によって相変化物質31と相変化物質32とを積層したものを、2つの相変化物質の融点のうち高い融点まで加熱して各相変化物質を溶解し、図51の(c)、(d)に示すように相変化物質31と相変化物質32の合金である相変化物質33を生成する。なお、積層厚みの比率により、InとSnの混合比率が決まるので、2元合金の状態図を参照し相転移温度が設定できることになる。これにより、異なる相転移温度の2種類の相変化物質であっても、更に多数の相転移温度を得ることができる。
図52は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A'線断面図である。また、同図の(c)は平面図、同図の(d)は同図の(c)のB−B'線断面図である。同図に示す電気素子において、相変化物質31と相変化物質32とを交互に接触させて隣接配置する。そして、温度較正を行う際、あるいは事前に、発熱部13によって相変化物質31と相変化物質32とを交互に隣接配置したものを、2つの相変化物質の融点のうち高い融点まで加熱して各相変化物質を溶解し、図51の(c)、(d)に示すように相変化物質31と相変化物質32の合金である相変化物質33を生成する。相変化物質31と相変化物質32とを配置する面積の比率により、InとSnの混合比率が決まるので、2元合金の状態図を参照し相転移温度が設定できることになる。これにより、異なる相転移温度の2種類の相変化物質であっても、更に多数の相転移温度を得ることができる。
図53は実施形態の電気素子を含む集積素子の構成を示す概略平面図である。同図に示す集積素子は、実施形態の電気素子1、電気素子1の電力供給や検出等を担う電子回路40、上位装置との信号のやり取りを行うための信号の入出力用の入出力端子群50を含んで構成されている。つまり、同図の集積素子は、温度キャリブレーション機能と温度検出を集積化させた素子であって、電気素子1、電子回路40及び出入力端子群50からなる。電子回路40には、インターフェイス、制御回路、レジスタ、ΔΣA/D、発信回路などを含んでいる。また、出入力端子群50には、アドレス、GND、クロック入力、データ入出力、アドレス入力、電源の各端子を備えている。そして、端子電気絶縁性材料のガラスやセラミックからなる基板上に、Si、Pt、NiCr、SiC,Cなどの導電性材料からなる電力供給用の1組のリードとリード先端の発熱部とを配置し、発熱部上に相転移温度が互いに異なる相変化物質を離間させて積層する。なお、2つの相変化物質導電性材料あれば電気絶縁層を介して積層した後、各相変化物質を発熱部に対応する領域にパターン加工する。また、基板がSiであれば、周辺回路を集積しやすい。例えば、バルクシリコン構造のSi基板を用いる場合は、発熱材料や相変化物質がSi基板を介して導電しないように、Si基板を熱酸化させることにより表面にSiO2を形成するか、あるいはSi基板上にCVDやスパッタリングによりSiO2、Si3N4、Al2O3等の単層または複層の電気絶縁層を形成する。次に、電気絶縁層上にCVDやスパッタリングによりSi、Pt、NiCr等の発熱材料を積層し、フォトエッチングによりパターン形成し発熱部として配置する。更に、各相変化物質をCVDやスパッタリングや各種薄膜製造方法によって成膜、フォトリソグラフによってパターン形成する。なお、CMOS素子構造として、同一のチップ内に周辺回路を形成し集積することができる。また、SOI(Si On Insulator)構造のSi基板を用いる場合は、BOX層を電気絶縁層とし、SOI層をフォトエッチングによりパターン形成し発熱部として配置する。次に、表面に電気絶縁層を被覆後、電気絶縁層上にCVD、スパッタリングやゾルゲル法など各種薄膜製造方法によって相変化物質を成膜、フォトリソグラフによってパターン形成する。また、基板、BOX層やSOI層をCMOS素子構造として用いることにより、同一のチップ内に周辺回路を形成し集積することができる。
図54は実施形態の電気素子を含む集積素子の構成を示すブロック図である。同図に示すように、集積素子100は温度キャリブレーション部60と計測部70とを含んでいる。温度キャリブレーション部60は、発熱部61、検出部62、相変化物質63、電源64、記憶部65、演算部66、基準値記憶部67を有している。計測部70は、電源71、比較部72、出力部73を含んで構成されている。また、CPU80は電源64及び電源71を外部制御する。なお、発熱部61と検出部62を個別に設けているが、上述したように兼用したものを設けてもよい。また、CPU80からキャリブレーション実行の信号が、発熱部61の電源64に入力されると、発熱部61が発熱する。同時に、発熱部61の抵抗値を検出部62によって検出し、時刻と抵抗値を記憶部65に記憶する。演算部66によって時刻と抵抗値を演算し関数化しておく。関数から一定値以上はなれた値が連続して出現したら、その時の抵抗値を相変化物質63の既知の相転移温度と見なす。次に、CPU80から計測実行の信号が、検出部62の電源71に入力されると、検出部62の抵抗値が検出され、先の既知の温度と抵抗値の関係を基準とし、温度測定値として検出される。
図55は実施形態の電気素子によるキャリブリレーション動作を示すフローチャートである。同図において、時刻がT0〜T2であるときキャリブレーション電源を起動する(ステップS101;YES、ステップS102)。そして、発熱部に電流を供給し、電圧を検出する(ステップS103)。検出した電圧値を記憶しておく(ステップS104)。その後、検出電圧値Rの偏曲点ΔRを算出する(ステップS105)。このΔRの基準値が0となるまでキャリブレーションを続け(ステップS106;NO、ステップS103〜S105)、ΔRの基準値が0となったときの相変化物質Aにおける既知の相転移温度Mpaと抵抗値Raを設定する(ステップS106;YES、ステップS107)。次に、ステップS101にて時刻がT0〜T2でなく(ステップS101;NO)T3〜T4であるときキャリブレーション電源を起動する(ステップS108;YES、ステップS109)。そして、発熱部に電流を供給し、電圧を検出する(ステップS110)。検出した電圧値を記憶しておく(ステップS111)。その後、検出電圧値Rの偏曲点ΔRを算出する(ステップS112)。このΔRの基準値が0となるまでキャリブレーションを続け(ステップS113;NO、ステップS110〜S112)、ΔRの基準値が0となったときの相変化物質Aにおける既知の相転移温度Mpbと抵抗値Rbを設定する(ステップS113;YES、ステップS114)。また、時刻がT4以降であれば温度測定を実行する(ステップ108;NO、ステップS115)。温度測定電源を起動し、電流を供給し、電圧を検出する(ステップS116,S117)。このときの抵抗値を算出する(ステップS118)。以上のキャリブレーションによって得られた抵抗値に基づいて温度を算出し、算出した温度を出力する(ステップS119,S120)。
このように、電気抵抗値の時刻T0から時刻T1の推移(図1参照)はデータとして記憶され、抵抗値と時間の関数として演算される。この関数と時刻T1後に得られるデータを比較し、時刻T2で関数にフィットしないデータが生じれば相転移し、この時既知の相転移温度Mpであると判断する。特に、基板に空洞を形成した熱容量の小さい相変化物質と発熱部の構造であれば、T2=0.1から10[msec]の時刻で、迅速かつ顕著な特性として得ることができる。例えば、図7の発熱部や相変化物質の蛇行配置構造において、発熱部と相変化物質が形成されている箇所の寸法が厚さ2[μm]で100[μm]角、相変化物質がSnで231.928℃の相転移温度であれば、1[msec]で温度標準が得られ、寸法をより一層小さくするとより一層高速にできる。このように、図1に示すように、発熱部の電気抵抗値R2が既知の温度Mpであって、発熱部の既知の抵抗温度係数TCRを用いることによって、発熱部に対しジュール発熱させないように微弱の電流を供給して、発熱部の電気抵抗値を素子の環境温度の検出として用いることができる。なお、後述する複数の異なる相転移温度を得る構造であれば、発熱部の既知の抵抗温度係数TCRを用いずに、未知の抵抗温度係数TCRを導き出すことができる。
なお、発熱部13はリード12よりも厚みが薄い、あるいは幅が細くなっているので電気抵抗値が大きく、電流を供給してジュール発熱させることができる。リード12の末端から電流を供給することによって発熱部13がジュール発熱によって温度上昇し、積層した相変化物質31、32も発熱部13と近接し微小量なので発熱部13とほぼ同じ温度になる。発熱部13は温度検出も兼ねており、発熱部13の電気抵抗材料の固有抵抗値と抵抗温度係数に応じた電気抵抗値が、発熱部13の温度に対応する。更に、このリード12により発熱部13上の相変化物質31、32の相転移を検出する。そして、相変化物質31、32から発熱部13への熱影響を発熱部13の電気特性として得ることができる。
これらは、異なる相転移温度の複数の相変化物質を、発熱部によって相転移させる温度へ加熱し、それぞれの相転移が起きたことを検出することによって温度検出部を既知の温度としてキャリブレーションする仕組みである。相変化物質は、狭い温度範囲を再現性良く高い精度で相転移するものである。また、相転移前後において、温度、電気抵抗値、質量、熱容量、固有振動数、誘電率、透過率、または反射率いずれかの変化を伴う、その変化を検出することができる物質である。更に、高精度にキャリブレーションするためには、相変化物質は、利用する温度に近い相転移温度を有するものであって、狭い相転移温度の特性を持つ金属、酸化物、有機物質が好ましい。
また、相転移温度で発熱部の抵抗値がΔR=0と検出される前に、外部の急激な温度降下の影響によって発熱部の抵抗値がΔR=0となって誤検出する可能性が懸念されるが、発熱部や相変化部は微小熱容量であるため、急速に相転移するので外部の温度変化の影響を受け難く、実際はほとんど誤検出することはない。さらに、発熱領域における相変化物質の熱容量の比率を大きくしておけば、相転移の検出が容易になり、外部の温度変化の影響を受け難い。具体的には発熱部の熱容量以上であることが好ましい。また、複数回キャリブレーションを実行して精度を高めることもでき、複数の検出部の比較、ないし、複数の片側を外部の温度変化に対応した抵抗値変化を検出する仕組みとして用い、ブリッジ回路を組むことによって外部の温度変化の影響を補償することもできる。複数の相変化物質による複数のキャリブレーションポイントも有効である。また、既知の抵抗温度係数(TCR)の抵抗体材料を用い、その抵抗値の温度依存性を参照して誤検出の値を温度依存性に従っていないことを判定し、誤検出の値を棄却することができるので、さらに精度が高くなる。
なお、より高精度な温度検出を得るためには、国際温度目盛り(ITS-90)に示されている標準物質の凝固点を用い、温度検出範囲に対してできるだけ相転移温度が近いことが好ましく、例えば、一般電子機器に用いられているIC温度センサの温度検出範囲である−40から+125[℃]であれば、相変化物質AにIn(Mpa=156.5985[℃])相変化物質BにSn(Mpb=231.928[℃])を選択し、発熱部、温度検出部の物質として、−40から+232[℃]の範囲で、電気抵抗値の温度依存性において2次以上の抵抗温度係数が小さく、目的の温度検出値の精度に影響を与えない線形の特性を持つ、Ptが適する。キャリブレーションポイントはMpaとMpbの2点であるが、それ以上の数であってもよく、発熱部の材料が高温度で安定したPtやSiであれば、Zn:419.527[℃]、Al:660.323[℃]、を用いることによって、さらに精度を高めることができる。
また、CPUやパワー半導体は熱破壊を防止するため素子の温度、あるいはこれらの素子を用いて素子に伝導する熱量を測定する場合にダイオードの順電圧特性が利用されることがある。図56の(a)のダイオードの小電流領域での順電圧Vfは温度に対して約2[mV/℃]の割合でリニアに減少するので、大電流が流れた直後にチップの温度を知ることができる。例えば、100[mA]での順電圧Vfが何℃で何mVなのかを予め測定しておいて、逆に何mVかのVfを温度に読み替える。図56の(b)に示すように、チップを所定の温度(図56の(b)中のA)に加熱した時のVf(図56の(b)中のB)を測定し、小電流でのダイオード順電圧Vfと、ダイオード順電圧の温度依存性が約2[mV/℃](図56の(b)中のC)であることを用い、Vfが何℃に対応するのか較正する。これにより、Vf(図56の(b)中のD)を測定すれば何℃(図56の(b)中のE)であるかが判る。この方法はバイポーラトランジスタ、MOSFET、それらを組み合わせたオペアンプでも同様である。ダイオードの代わりにバイポーラトランジスタのベース・エミッタを温度センサとして用いている。コレクタとベースをショートさせてダイオードとなるし、MOSFETの内蔵ダイオードを用いればダイオードそのものである。
更に、バイポーラトランジスタのバンドギャップを利用するタイプの温度センサは、トランジスタのベース・エミッタ間電圧V(BE)が持つ温度特性を利用して出力特性を持たせたセンサである。Cは電子拡散係数とベース幅という構造で表される定数で表されるので、下記の式により逆算すると温度Tを求めることができる。
T=qVBE/(kln(IC−ICB0)/C)
つまり、コレクタ電流ICを測定すれば温度を求められることを示している。すなわち、図57はIC用バイポーラトランジスタの一部構成を示す断面図である。Cの構造の領域の温度を相転移の既知の温度で均一にさせることによって、高精度にキャリブレーションすることができるので、少なくともCの構造の領域に隣接させて相変化物質を配置する。また、SOI基板構造によってSiに発熱部を配置し発熱部に相変化物質を積層する。N+領域を発熱部とする発熱させる電力を端子Wh間へ供給し、端子D間で相転移を検出する。このように、温度標準とキャリブレーション機能を集積することによって、特にこれらの大量生産による素子に対して温度をキャリブレーションする設備や工程が不要になり、どこの半導体工場でも生産でき安価な価格で提供できるようになる。
図58は第1の温度検出部と第2の温度検出部の温度補償回路を示す回路図である。同図の回路は、第1の温度検出部を温度キャリブレーションするにあたり、外部の温度変化の影響を受けないように、第2の温度検出部で外部の温度変化に対する温度補償を行うためのブリッジ回路である。第1の温度検出部と第2の温度検出部とは、周囲温度が変化するときほぼ同一の温度変化に対応する応答速度である必要上、熱容量はほぼ同一であることが望ましい。従って、構成材料の種類や寸法がほぼ同一である。ただし、第1の温度検出部を温度キャリブレーションする期間中に、第1の温度検出部の相転移のみ検出する必要があるので、第1の温度検出部を温度キャリブレーションする期間中に第2の温度検出部の相転移を生じない。そのために、第2の温度検出部における第2の相変化物質は第1の温度検出部における第1の相変化物質の相転移温度よりも高い相転移温度の異なる物質である。しかし、熱容量はほぼ同一であることが望ましいので、相変化物質は質量、比熱、熱伝導率が著しく異ならない材料を選択し、例えば第1の温度検出部における第1の相変化物質はIn、第2の温度検出部における第2の相変化物質はInより相転移温度の高いSn、AlやAuあるいはPtを用いる。Al、Auであれば、一体化する集積回路部の配線材料と同一なので、またPtであれば、発熱部と同一材料なので、同一工程で製造できる。この場合、Inの相転移温度までで温度キャリブレーションが行われる。あるいは、複数の相変化物質を一体化し、複数の温度キャリブレーションを行う場合は、例えば第1の温度検出部の2箇所の相変化物質がInとSnの場合、第2の温度検出部の第2の相変化物質はInとSnより相転移温度の高い、Al、Au、あるいはPtを用いる。Al、Auであれば、一体化する集積回路部の配線材料と同一なので、またPtであれば、発熱部と同一材料なので、同一工程で製造できる。この場合、Snの相転移温度まで2つの温度キャリブレーションが行われる。
図59は周囲温度が変化しないときの第1の温度検出部の抵抗値変化と第2の温度検出部の抵抗値変化の特性を示す図である。また、図60はブリッジ回路で出力される特性を示す図である。第1の温度検出部の固有抵抗値と温度依存性は、第2の温度検出部の固有抵抗値と温度依存性は、一体化して製造されてもわずかに異なるので、それぞれ異なる温度上昇勾配を持っている。よって、図60に示すように、ブリッジ回路で出力される特性は、異なる温度上昇勾配の差分ΔVbを持っているが、第2の温度検出部の抵抗値変化にはない第1の温度検出部の抵抗値変化の相変化の特性が出現するので、相転移を検出することができる。ここで、発熱部や相変化部は微小熱容量であるため、急速に相転移し、温度キャリブレーションは1[msec]から数10[msec]程度のごく短時間で完了する。このため、図59の周囲温度の変化がないことを示しているように、外部の温度変化の影響を受け難く、実際はほとんど誤検出することはない。しかし、後述する図61では、図59の温度キャリブレーションする極短時間中に、外部の温度変化の影響を受けた場合のケースを示している。図61は周囲温度が変化するときの第1の温度検出部の抵抗値変化と第2の温度検出部の抵抗値変化の特性を示し、図62はブリッジ回路で出力される特性を示したものである。ブリッジ出力電圧の特徴は、時刻T0から時刻T2までと、相転移物質Aの相変化終了後から時刻T4までが、外部の温度変化があっても常に傾きΔVbの直線である。時刻T2以後に外部の温度影響があってブリッジ出力電圧が、傾きΔVbの直線(図62中の細線)であるとすると、第2の温度検出部の抵抗値変化が時刻T2以後増加せず減少することになり、第1の温度検出部の抵抗値変化も減少し、相変化しなくなる。従って、時刻T2において、傾きΔVbが変化することは、相転移が開始されていることを示す。傾きΔVbが変化することを検出して相転移を検出することができる。このように、第1の温度検出部、第2の温度検出部は周囲温度の変化の影響を受けても、第1の温度検出部の相変化物質が相転移した時のみ周囲温度の変化の影響を受けずブリッジ回路出力が変化するので、相転移を検出することができる。
なお、上述したように相変化物質を相転移させるために発熱部を用いているが、電気素子の設置環境の温度によって温度制御することによっても、相変化物質の相転移を検出し、既知の相転移温度を決定することができる。よって、従来のキャリブレーション設備ほどの高精度の温度標準設備でなく空気温度分布のある温度制御精度の低い設備でよい。また、個々の電気素子の相変化物質の相転移を検出し、高精度にキャリブレーションを行うことができる。そして、所定の抵抗温度係数を有する発熱部をジュール発熱させないように十分小さな値の電流を供給し、発熱部の抵抗値を検出することによって、個々の電気素子の発熱部を温度検出器として用い高精度にキャリブレーションを行うことができる。
以上説明したように、実施形態によれば、図1に示すように、既知の相転移温度を有する相変化物質は、当該相転移温度において相転移する。この相転移が起きたことを検出することで、相転移が起きたときの温度を既知の相転移温度とする温度較正を行う。そして、図8に示すように、基板11上に、相変化物質14と相変化物質14を加熱する発熱部13とが積層されて、一体化して設けられている。これにより、発熱部13の加熱制御が簡単になり、発熱部13の加熱による温度分布が制御しやすく、温度精度が確保できる。また、相変化物質の電気伝導度に影響されないので、相変化物質の適用できる種類が多くなり、相転移温度を豊富に選択できキャリブレーション温度の自由度も大きい。そして、相変化物質の相転移温度は既知の値であるので、相転移現象の発生を精度良く検出すれば、温度を高精度に決定することができる。従来のようなキャリブレーション工程実施に伴うコストが削減され、いつでもどこでもだれでもキャリブレーションできるので長期間の精度が維持できる。
また、実施形態によれば、相変化物質14における温度変化に伴う相転移としての発熱部13の電気抵抗値を検出する。そして、図1及び図2に示す特性により、この電気抵抗値が所定値に達したとき相変化物質14の温度が既知の相転移温度に達したことなり温度較正が行われたことなる。これにより、コストを抑え、複雑な制御を必要とせずに高精度な制御が可能となる。
更に、実施態様によれば、相変化物質14に供給した電流に対する出力電圧値を検出し、電流値及び出力電圧値に基づいて算出した電気抵抗値が所定値に達したとき相変化物質14における温度変化に伴った相転移が生じたものとする。つまり、そして、図4及び図5に示す特性により、この電流値及び出力電圧値に基づいて算出した電気抵抗値が所定値に達したとき相変化物質14の温度が既知の相転移温度に達したことなり温度較正が行われたことなる。これにより、コストを抑え、複雑な制御を必要とせずに高精度な制御が可能となる。
また、実施形態によれば、図8及び図9に示すように、少なくとも相変化物質14と発熱部13とを基板11上に積層している。更には、図14に示すように、少なくとも相変化物質14と発熱部13とを基板11上に並列に配置している。これにより、コストを抑え、複雑な制御を必要とせずに高精度な制御が可能となる。
更に、実施態様によれば、発熱部13に離間させた箇所に相変化物質13を分散配置するために、図18及び図19に示すように、発熱部13を蛇行配置し、蛇行状の発熱部13に沿って相変化物質14を並列に又は積層に設けている。これにより、局所に高密度配置することができ、より一層高精度な制御が可能となる。
また、実施形態によれば、相変化物質14、発熱部13、基板11のうち少なくとも1つが導電性材料で構成されていれば、導電性である部材を電気絶縁材で電気的に絶縁することが望ましい。
更に、実施形態によれば、発熱部13で相変化物質14を加熱し、相変化物質14の相転移が起きたときの、発熱部13の供給電流値及び出力電力値によって求められる発熱部13の抵抗値と、発熱部13の温度と抵抗値の関係とに基づいて、発熱部13の温度を検出することが望ましい。
また、実施形態によれば、図11に示すように、相変化物質14から検出信号を出力する検出リード線17を相変化物質14に接続し、この検出リード線17を相変化物質14と同一の材料で、あるいは導電性材料で構成する。これにより、製造工程が複雑にならない。
更に、実施形態によれば、図23に示すように、基板11上に、既知の相転移温度の異なる複数の相変化物質31、32と、それぞれの相変化物質31、32を加熱する発熱部13とが積層されている。既知の相転移温度の異なる複数の相変化物質31、32を発熱部13に隣接させて設ける。これにより、発熱部13の加熱制御が簡単になり、発熱部13の加熱による温度分布が制御しやすく、温度精度が確保できる。また、相変化物質31、32を用いることで、温度精度がより一層高まる。なお、少なくとも一方の相変化物質31、32が導電性であるときは、各相変化物質の間に電気絶縁材を設けることが望ましい。
また、実施形態によれば、図41によれば、発熱部13を蛇行配置し、蛇行状の発熱部13に沿って複数の相変化物質31、32を並列に又は積層に設けている。更には、図44に示すように、発熱部13と、複数の相変化物質31、32とを、同心円となるようにそれぞれ配置した。更に、図45に示すように、発熱部13を同心円の形状にし、その発熱部の円周内に、扇形に形成した複数の相変化物質31、32を発熱部13と同心円となるように交互に並列した。これにより、局所に高密度配置することができ、より一層高精度な制御が可能となる。
更に、実施形態によれば、図10等に示すように、少なくとも相変化物質14を設けた領域の基板11に、空洞16を設けている。これにより、迅速な温度制御を行うことができる。
また、実施形態によれば、図21等に示すように、少なくとも相変化物質14の周囲を絶縁材で覆う電気絶縁層18を形成している。これにより、相変化物質が周囲雰囲気によって化学変化することを防止でき、高精度な制御を高信頼に行うことができる。
更に、実施形態によれば、電気素子と回路素子とを集積して集積回路を構成する。これにより、温度依存性のある回路素子の温度に対する制御を精度よく行うことができる。また、自己温度較正機能より回路素子の温度較正工程が不要となり、回路素子自体のコストを抑えることができる。
また、実施形態によれば、電気素子を温度依存性のある半導体又は電子部品に集積する。これにより、大量生産される半導体又は電子部品に対する温度較正する設備や工程が不要となり、どこの製造工場でも生産でき安価な価格で半導体又は電子部品を提供することができる。