以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を、複数の形態について説明する。以下の説明においては、各形態に先行する形態ですでに説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略す場合がある。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。またそれぞれの実施形態は、本発明に係る技術を具体化するために例示するものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明に係る技術内容は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることが可能である。以下の説明は、浮遊粒子状物質測定装置10、浮遊粒子状物質測定方法についての説明をも含む。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る浮遊粒子状物質測定装置10の構成を表す図である。本実施形態において浮遊粒子状物質測定装置10は、大気中に浮遊する浮遊粒子状物質を捕集し、捕集された粒子状物質11の測定を行う装置である。同様に、浮遊粒子状物質測定方法は、大気中に浮遊する浮遊粒子状物質を捕集し、捕集された粒子状物質11の測定を行う方法である。浮遊粒子状物質測定方法は、浮遊粒子状物質測定装置10を用いて行われる。
浮遊粒子状物質測定装置10は、フィルタ12と、吸引部13と、抽出部14と、測定部16と、記録部17とを含んで構成される。フィルタ12は、大気中に含まれる粒子状物質11を捕集するためのフィルタである。具体的には、大気中に浮遊する固体状および液体状の粒子状物質11を付着する。吸引部13は、大気中の空気を一定流量で吸引することによって、大気中に含まれる粒子状物質11をフィルタ12に吸着させる。抽出部14は、フィルタ12に吸着された粒子状物質11を溶媒で溶解させることでその成分を抽出し、溶液として回収する。測定部16は、抽出部14で回収された溶液に含まれる硝酸イオンの量、および硫酸イオンの量を測定し、測定結果を出力する。記録部17は、測定部16が出力した測定結果を記録する。
浮遊粒子状物質測定装置10は、フィルタ供給部18と、分級部19とをさらに含んで構成される。フィルタ12は可撓性を有する材料によってテープ状に形成され、ポリテトラフルオロエチレン、いわゆるテフロン(登録商標)から成る。テフロン(登録商標)は、他の樹脂に比べて薬品に対する耐久性が強く、アセトニトリルなどの溶媒および粒子状物質に含有される有機物質によって、溶解されることはない。他の実施形態においてフィルタ12は、必ずしもテフロン(登録商標)で形成される必要はなく、たとえばテフロン(登録商標)以外のフッ素系メンブランフィルタで形成されていてもよい。フィルタ12は、可撓性を有し、耐薬品性を有する樹脂によってテープ状に形成されていれば、足りる。
フィルタ供給部18は、テープ状のフィルタ12を継続的に供給する。分級部19は、吸引部13で吸引される空気を、第1空気と第2空気とに分けることによって、吸引部13で吸引される空気に含まれる粒子状物質11を分級する。第1空気は、粒径が2.5μmを超える粒子を大きな質量割合で含む。第2空気は、粒径が2.5μm以下の粒子を大きな質量割合で含む。分級部19によって分級された後の粒子状物質11は、フィルタ12のうち互いに異なる複数の位置に吸着される。
吸引部13が大気中の空気を吸引することによって、大気中の空気が通過するフィルタ12上の領域を「捕集領域」20と称すると、分級部19は、捕集領域20に関して反対側に位置する。本実施形態において分級部19は、大気中に浮遊する粒子状物質11を二分して分級するので、捕集領域20は、フィルタ12が移動する移動方向Xに2つの領域として形成される。たとえば分級部19が大気中に浮遊する粒子状物質11をさらに多数に分級する場合には、その分級される数に対応した数の捕集領域20が形成される。本実施形態において2つの捕集領域20を、それぞれ「第1捕集領域」21および「第2捕集領域」22と称する。
吸引部13は、エアフィルタ23aと、流量センサ23bと、流量調整弁24aと、流量制御部24bと、吸引ポンプ25とを含む。これらのうち流量制御部24bと吸引ポンプ25とは、1つの浮遊粒子状物質測定装置10に対して1つ設けられ、エアフィルタ23aと流量センサ23bと流量調整弁24aとは、それぞれ分級部19の分級の数によって決定される捕集領域20の数に対応して設けられる。したがって本実施形態では、エアフィルタ23a、流量センサ23bおよび流量調整弁24aは、それぞれ2つずつ設けられる。分級部19からの流路管を通過し第1および第2捕集領域21,22を通過した空気は、第1および第2捕集領域21,22からエアフィルタ23a、流量センサ23bおよび流量調整弁24aを介して吸引ポンプ25に接続される流路管内を通過し、フィルタ12から吸引ポンプ25に向かって移動する。
エアフィルタ23aは、通過する空気に含まれる固体状または液体状の物質を除去する。通過する空気に含まれる固体状または液体状の物質は、フィルタ12によって捕集されるけれども、さらにエアフィルタ23aを通過した空気はその後流量センサ23bおよび流量調整弁24aを通過するので、再度固体状または液体状の物質の除去を図ることによって、流量センサ23bおよび流量調整弁24a内への固体状または液体状の物質の進入を防ぐ。
流量センサ23bは、流路管を介して通過する空気の、単位時間当たりの流量を測定し、測定結果を流量制御部24bに出力する。流量調整弁24aは、流路抵抗を可変に形成されるオリフィスを含んで構成され、流量制御部24bによって制御されることによって、オリフィスによる流路抵抗が調整される。流量制御部24bは、たとえばコンピュータなどによって実現され、流量センサ23bからの出力に応じて流量調整弁24aを制御することによって、流路管内を通過する空気の、単位時間当たりの流量を、予め定める一定流量に調整する。流量制御部24bは、後に詳述するコンピュータと一体に形成されていてもよい。
吸引ポンプ25は、たとえば真空ポンプなどによって、実現され、流路管内の空気を吸引する。吸引ポンプ25としては、1分間に20L程度の空気を吸引することができ、また吸引の圧力の変動が少なく、安定した一定の圧力で空気を吸引できるポンプで実現されることが好ましい。
図2は、本発明の第1実施形態における分級部19の断面図である。分級部19は、具体的にはバーチャルインパクタ分級器によって実現され、バーチャルインパクタ分級器は、ノズル部26と、隔壁部27と、外管部28を備える。ノズル部26は、大気中の空気が吸引ポンプによって吸引されることによってフィルタ12に向かうにつれて内径が細くなる筒状形状に形成され、ノズル部26のフィルタ12側の噴出口端部32を通過した空気およびこの空気中に散在する浮遊粒子状物質は、初速度を与えられてフィルタ12に向かって移動する。ノズル部26の内径は、フィルタ12に向かうにつれて部分的に細くなる部分が形成されていればよく、内径が一様な部分が形成されていてもよい。
隔壁部27は、筒状形状に形成されるノズル部26の軸線と同じ軸線を有する筒状の形状に形成される。隔壁部27は、最もノズル部26側の先端部として開口部33を有する。開口部33の内径は、ノズル部26のうち最もフィルタ12側の先端部の内径よりもわずかに大きく設定される。開口部33は、ノズル部26に向かって開口しており、ノズル部26の噴出口端部32を介して単位時間当たりに噴出される空気の一部が、開口部33を通過して隔壁部27の内部に進入する。ノズル部26の噴出口端部32および隔壁部27の開口部33は、いずれも円筒形に形成される。
外管部28は、ノズル部26および隔壁部27を外囲する形状に形成され、吸引部13によって吸引される空気が進入するための入口34と、隔壁部27の内部を通過した空気が出るための隔壁出口36と、ノズル部26から進入し、隔壁部27よりも外側かつ外管部28よりも内側を通過した空気が出るための外管出口38とが形成される。吸引部13によって吸引される単位時間当たりの流量は一定に設定される。ノズル部26から噴出される空気のうち、隔壁部27の開口部33の内側に進入する空気を「第1空気」と称し、隔壁の開口部33よりも外側に移動する空気を「第2空気」と称すると、単位時間当たりに移動する第1空気の流量と第2空気の流量との割合は、予め設定される。この割合は、ノズル部26のうちのフィルタ12側の噴出口端部32の内径、隔壁部27の開口部33の内径、噴出口端部32と開口部33との間隔などによって設定される。
大気中の浮遊粒子状物質には、粒径2.5μm程度を境として、これよりも粒径が大きい粗大粒子と、粒径が2.5μm以下の微小粒子とが含まれる。浮遊粒子状物質を粒径によって分析し、各粒径での存在割合を質量割合で表すと、2.5μm程度の粒径の粒子状物質11の質量割合は、2.5μmよりも大きな粒径の粒子状物質11および2.5μmよりも小さな粒径の粒子状物質11のそれぞれの質量割合よりも小さい。
ノズル部26から噴出された空気のうち、直進して開口部33に進入する空気には、粗大粒子の質量割合が多く、ノズル部26から噴出された空気のうち開口部33の外側に移動した空気には、微小粒子の質量割合が多い。これによって、ノズル部26内を通過した粒子状物質11を、粗大粒子の質量割合が多い粒子状物質11と微小粒子の質量割合が多い粒子状物質11とに分級する。粗大粒子の質量割合が多い粒子状物質11は、第1空気中に散在した状態で、フィルタ12の2つの捕集領域20のうちの一方に当たり、捕集される。2つの捕集領域20のうち第1空気が当たる領域を第1捕集領域21とすると、散在する粒子状物質11が除かれた第1空気は、第1捕集領域21を通過する。第1捕集領域21には、粒径がおよそ2.5μmを超え10μm以下の粒子状物質11の質量割合が多く捕集される。
微小粒子の質量割合が多い粒子状物質11は、第2空気中に散在した状態で2つの捕集領域20のうちの他方に当たり、捕集される。第2空気が当たる領域を第2捕集領域22とすると、散在する粒子状物質11が除かれた第2空気は、第2捕集領域22を通過する。粒子状物質11は、微小であれば微小であるほど、質量に対する表面積の割合が大きく、空気の進行の向きの変化によって、進行の向きが変化しやすい。これによって、分級部19によって粒子状物質11が分級される。
本実施形態において、第1捕集領域21のフィルタ12を通過する空気の流量は、毎分1.5リットル(litters, 略号「L」)、第2捕集領域22のフィルタ12を通過する空気の流量は、毎分15.2Lで、吸引部13による吸引によってノズル部26に進入する空気の流量は、毎分16.7Lである。粒子状物質11を捕集するために、第1および第2捕集領域21,22に空気を通過させるのは、1時間とする。第1および第2捕集領域21,22が粒子状物質11を捕集する位置を「捕集位置」39と称すると、各捕集領域20は、捕集が終了した後、捕集位置39からフィルタ12の移動方向下流側X1に移動する。これに伴ってテープ状に形成されるフィルタ12のうち、移動方向上流側X2に位置していた部分が捕集位置39に移動し、次の捕集のための時間の間、たとえば1時間、捕集位置39に位置する。
測定部16は、β線照射手段42と、β線受光測定手段44とをさらに有し、β線照射手段42は、フィルタ12のうち粒子状物質11が吸着する部分に対してβ線を照射する。β線受光測定手段44は、β線照射手段42によって照射され、フィルタ12を透過したβ線を受光し、β線量を測定する。測定部16は、β線吸収法によってフィルタ12に吸着した粒子状物質11の質量を測定し、粒子状物質11の質量に関する測定結果を出力する。記録部17は、測定部16が出力した質量に関する測定結果を記録する。
具体的には第1および第2捕集領域21,22のそれぞれに、β線を照射する。β線は、プロメシウム147から発生させて、これを第1および第2捕集領域21,22に常時照射し続ける。フィルタ12に粒子状物質11が付着していないときのβ線の透過量をβ線量基準値として、フィルタ12を透過したβ線量の測定を続けると、粒子状物質11が各捕集領域20に捕集されるにつれて、β線の透過量は減衰する。β線の透過量の、β線量基準値からの減衰量は、捕集領域20に捕集された粒子状物質11の質量に比例する。
これを利用して、捕集領域20に捕集された粒子状物質11の質量を測定することができる。記録部17は、β線の透過量の減衰量を、たとえば1時間に1回記録してもよいし、常時記録を続けてもよい。常時記録を続ければ、捕集領域20に捕集された粒子状物質11の質量が有意な変化を示す最小の時間単位で、大気中の浮遊粒子状物質の量の経時変化を測定することができる。
本実施形態において測定部16は、光学的元素状炭素量測定部15をさらに有する。光学的元素状炭素量測定部15は、フィルタ12の捕集領域20上の光学的元素状炭素(
optical black carbon, 略称「OBC」)の量を測定する。OBCは通常微小粒子に含まれているので、微小粒子の捕集を行う第2捕集領域22で測定を行う。OBCの測定は非破壊で行われるので、フィルタ12に粒子状物質の捕集を行いながら、測定することができ、かつ、β線吸収法により質量を同時に行っても、質量の測定とOBCの測定とを並行して行うことができる。
光学的元素状炭素量測定部15は、光を照射する光照射手段と、反射光を検出する反射光検出手段とを備える。フィルタ12に捕集されたOBCが多ければ多いほど、反射光が減衰する。光学的元素状炭素量測定部15には、光照射手段と反射光検出手段とが一体に設けられており、フィルタ12上のOBCからの反射光の強度を測定することによって、OBCの量を測定する。
浮遊粒子状物質測定装置10は、さらに遅延部46を含んで構成される。遅延部46は、フィルタ12の供給に関する移動方向Xに関して、吸引部13によって空気のろ過が行われる位置、すなわち捕集位置39よりも下流側で、かつ溶媒による粒子状物質11の溶解が行われる位置よりも上流側に位置する。また遅延部46は、移動方向Xに関してフィルタ12の変位を部分的に遅延させる。
遅延部46は、3つのロールを含み、3つのロールは、フィルムの移動方向Xに異なる位置に並んで配置される。各ロールは、移動方向Xに垂直かつテープ状のフィルムに平行に延びる軸線周りに回転自在に配置される。移動方向最も上流側X2の第1ロール48と下流側の第2ロール49とは固定され、第1ロール48と第2ロール49との移動方向X中間に位置する第3ロール51は、変位駆動手段によって変位可能に設けられる。フィルムに関して、第1ロール48と第2ロール49とは同じ側に、かつフィルムの位置の近傍に配置され、第3ロール51は、フィルムに関して第1および第2ロール48,49とは反対側に配置される。
第1ロール48近傍の位置から第2ロール49近傍の位置までフィルムが一平面状に配置される状態を、フィルムに関して「自然状態」と称し、自然状態におけるフィルムに垂直な方向を「垂直方向」Zと称する。垂直方向Zのうち、第3ロール51の位置する側から第1および第2ロール48,49の位置する側に向かう向きを「垂直方向一方」Z1と称し、垂直方向一方Z1とは逆の向きを「垂直方向他方」Z2と称する。
自然状態において第3ロール51は、第1および第2ロール48,49よりも垂直方向他方Z2に離れて位置し、移動方向Xに見て、第3ロール51と第1および第2ロール48,49とは、フィルムの厚み以上の距離を隔てて位置する。第3ロール51は、移動方向Xでの第1および第2ロール48,49との間の位置で、垂直方向Zに、第1および第2ロール48,49に接触することなく変位する。自然状態から第3ロール51は、垂直方向一方Z1に変位可能である。
第3ロール51が垂直方向一方Z1に変位することによって、フィルムのうち第3ロール51に接触する部分は、第3ロール51に押されて垂直方向一方Z1に変位する。この状態を、フィルムに関して「変位状態」と称すると、変位状態では、フィルムは各ロールに接触する部分で曲げられ、第1ロール48に接触する部分と第2ロール49に接触する部分との間の部分は、第3ロール51を迂回して配置される。
フィルムのうち第1ロール48に垂直方向他方Z2から接触する部分と、第2ロール49に垂直方向他方Z2から接触する部分との間のフィルムの長さは、自然状態と変位状態とにおいて差異がある。この差異を「設定長さ」と称すると、設定長さは、第1捕集領域21の中央の位置と、第2捕集領域22の中央の位置との間の、フィルムの長さに相当する。
遅延部46によって、移動方向Xに関してフィルタ12の一部の移動を遅延させるときには、まず2つの捕集領域20における粒子状物質11の捕集を終了し、第1捕集領域21よりも移動方向上流側X2に位置する第2捕集領域22を、抽出部14の位置まで移動させる。次に第3ロール51を垂直方向一方Z1に変位させることによって、フィルムを変位状態とする。このとき、第1ロール48よりも移動方向上流側X2に位置するフィルタ12の部分は、捕集位置39から移動させることなく、第3ロール51を変位させる。これによって、第2ロール49よりも移動方向下流側X1に位置するテープ状のフィルタ12の部分は、設定長さだけ移動方向上流側X2に戻され、抽出部14には第1捕集領域21が配置される。
次に第1捕集領域21に溶媒を接触させ、第1捕集領域21に捕集された粒子状物質11を抽出しその成分を溶解させて、溶液として回収する。次に、第3ロール51を変位させてフィルタ12を自然状態に戻すことによって、第2ロール49よりも下流側に設定長さ分のフィルタ12を移動させる。これによって、抽出部14には第2捕集領域22が配置される。第3ロール51が変位してフィルタ12が自然状態と変位状態とに切換えられても第1ロール48よりも上流側のフィルタ12は移動方向Xに移動しないので、第1捕集領域21の粒子状物質11と第2捕集領域22の粒子状物質11とから、成分を抽出する間、第1ロール48よりも上流側においては、次の捕集を行うことができる。
抽出部14では、第1および第2捕集領域21,22のそれぞれに300μLの溶媒を接触させる。本実施形態では、捕集領域20に接触してフィルタ12を洗浄する溶媒は、水であるものとした。ただし他の実施形態において溶媒は、pHを測定可能な範囲で一部に有機溶媒を含むものであってもよい。本実施形態において、捕集領域20に接触してフィルタ12を洗浄することで捕集領域20に捕集された粒子状物質11を溶解させた溶液は、測定部16内の測定セル54に送られる。測定セル54内では、溶媒を添加することによって、溶液の全体量を正確に1mLにする。
本実施形態において測定部16は、溶液に含まれる硝酸イオンの量と、水溶性有機物の量と、酸性度と、硫酸イオンの量とを測定する。具体的には、測定部16は、硝酸イオンの量を、溶液の吸光度を予め定める波長において測定する吸光度法によって測定し、水溶性有機物の量を、溶液の吸光度を所定の波長において測定する吸光度法によって測定する。また測定部16は、さらに溶液のpHを測定することによって、大気中に含まれる粒子状物質の酸性度を測定し、記録部17は、測定部16から出力された酸性度に関する測定結果をさらに記録する。具体的には、溶液にpH指示薬を添加した後、溶液のpHを測定し、粒子状物質の酸性度を求め、溶液の吸光度を特定の波長において測定する吸光度法によって測定し、硫酸イオンの量を、硫酸バリウム比濁法によって測定する。測定部16は、これら硝酸イオンの含有量、水溶性有機物の含有量、酸性度および硫酸イオンの含有量についての測定結果を出力する。記録部17は、測定部16が出力したこれらの量に関する測定結果を記録する。
測定部16は、測定セル54と、底部駆動手段56と、攪拌手段57と、紫外−可視光照射手段58と、分光分析手段62と、試薬添加手段63とを含む。測定セル54は、石英セル66と、底部68とを含み、石英セル66はいわゆる4面セルで、上下方向に軸線を有する角筒状に形成される。底部68は、石英セル66に嵌合することによって、石英セル66の内部空間を塞ぐ。底部68はパッキンを含んで形成され、底部68が石英セル66を塞いだ状態で、石英セル66と底部68とは、溶液を保持する。石英セル66の光路長は6mmに設定され、1mLの溶液を保持した状態で、溶液の深さは3cmに設定される。
石英セル66の上下方向の長さは、設定される溶液の深さの2倍以上の寸法に設定され、攪拌手段57は、底部68が石英セル66の下端部を塞いだ状態で、底部68から溶液の深さ以上、上方に配置される。攪拌手段57は、メカニカルスターラによって実現される。攪拌手段57は、上下に延びて一部がセル内に配置される攪拌棒69と、攪拌棒69の上端部に接続され、攪拌棒69を回転させる攪拌用モータ72と、攪拌棒69の下端部に取付けられた羽根74を含む。
図3は、本発明の第1実施形態において測定部16が、攪拌状態にあるときの測定部16の断面図である。図4は、本発明の第1実施形態において測定部16が、測定状態にあるときの測定部16の断面図である。図5は、本発明の第1実施形態において測定部16が、排液状態にあるときの測定部16の断面図である。底部駆動手段56は、リニアモータ78を含み、底部68を上下方向に駆動可能で、底部68を変位させることによって、測定状態と、攪拌状態と、排液状態とを実現する。
測定状態では、底部68が石英セル66の下端部を塞いだ状態である。攪拌状態では、底部68が攪拌棒69の下端部の羽根74の、下方近傍に配置され、溶液の液面が、底部68が攪拌棒69の下端部の羽根74よりも上方に位置する。排液状態では、底部68の石英セル66に対する嵌合が解除され、底部68が石英セル66から下方に離れて配置される。
測定状態では、石英セル66内の溶液は、紫外−可視光照射手段58と分光分析手段62との間に配置される。紫外−可視光照射手段58と分光分析手段62とは、UV−Vis吸収スペクトル測定装置によって実現される。石英セル66内の溶液は、紫外−可視光照射手段58から分光分析手段62までの光路途中に配置され、測定状態において測定部16は、溶液の可視領域、紫外領域および近赤外領域において、吸光度を測定する。
攪拌状態では、攪拌手段57の少なくとも羽根74が溶液に浸され、羽根74が攪拌用モータ72によって回転されることによって、攪拌手段57は溶液を攪拌する。排液状態では、石英セル66内の溶液は、石英セル66と底部68との間隙を通過し、予め定める排液通路76を介して廃液タンクに排出される。本実施形態において排液通路76は、透明な部材によって、溶液が排液通路76を排出される様子は、外方から視認できる。試薬添加手段63は、試薬が貯留される容器から、予め定める量の試薬を石英セル66の内部に輸送する輸送管を含む。石英セル66には、さらに溶媒を貯留する容器80から、予め定める量の溶媒を石英セル66の内部に輸送する輸送管が取付けられる。
図6は、本発明の第1実施形態に係る浮遊粒子状物質測定方法の各工程を表すフローチャートである。浮遊粒子状物質測定方法は、浮遊粒子状物質測定装置10を用い、浮遊粒子状物質測定装置10の測定部16は、抽出部14で回収された溶液に含まれる硝酸イオンの量、硫酸イオンの量、および酸性度を測定する。浮遊粒子状物質測定方法は、硝酸イオン測定工程と、酸性度測定工程と、硫酸イオン測定工程とを含んで構成される。
硝酸イオン測定工程では、溶液の吸光度を予め定める波長における吸光度法によって、硝酸イオンの量を測定する。硝酸イオン測定工程の後、酸性度測定工程において、溶液にpH指示薬を添加し、溶液の吸光度を特定の波長における吸光度法で、溶液のpHの値から粒子状物質の酸性度を測定する。酸性度測定工程の後、硫酸イオン測定工程において、硫酸バリウム比濁法で、硫酸イオンの量を測定する。本実施形態において測定部16は、水溶性有機物の量をも測定する。浮遊粒子状物質測定方法では、硝酸イオン測定工程において、水溶性有機物の量の測定も行う。
本処理を開始する前に、石英セル66は洗浄された状態で、底部68が石英セル66の下端部に嵌合した測定状態となっている。本処理開始後、ステップa1の捕集工程に移行し、フィルタ12を介して大気中の空気を一定流量で吸引する。本実施形態では吸引された空気中の粒子状物質11は、分級部19で分級されて2つの捕集領域20に捕集される。
またステップa1の捕集工程では、粒子状物質11の捕集を行うと同時に、β線吸収法による粒子状物質11の質量の測定と、光学的元素状炭素量測定部15によるOBCの量の測定とを同時並行で行う。β線照射手段42とβ線受光測定手段44とによる粒子状物質11の質量の測定は、第1および第2捕集領域21,22の両方で行い、光学的元素状炭素量測定部15によるOBCの量の測定は、微小粒子を捕集する第2捕集領域22で行う。
次にステップa2の抽出工程に移行し、フィルタ12の移動と溶媒による浮遊粒子状物質の抽出とを行う。フィルタ12は、第2捕集領域22が抽出部14に位置するまで移動させ、遅延部46の第3ロール51を垂直方向一方Z1に変位させることによって、第1捕集領域21を抽出部14に位置させる。抽出部14では溶媒を第1捕集領域21に接触させて、第1捕集領域21に捕集された粒子状物質11を抽出しその成分を溶解させて溶液として回収する。
次にステップa3の溶媒基準測定工程に移行し、溶媒のみを石英セル66に投入し、基準となる分光分析を行う。紫外−可視光照射手段58からの光のうち、溶媒のみが投入された石英セル66を透過した透過光の各波長における光強度を測定する。この測定結果を基準とし、後の測定の測定結果を相対値として求める。
次にステップa4の溶媒排出工程に移行し、底部駆動手段56のリニアモータ78を駆動して底部68を下方に下げ、排液状態とすることによって、石英セル66内の溶媒を排出する。次にステップa5の溶液投入工程に移行し、底部68を変位させて測定部16を測定状態とし、粒子状物質11が溶解した溶液を、石英セル66に投入する。次にステップa6の溶液希釈工程に移行し、溶媒を石英セル66内に投入する。溶媒が投入されることによって、石英セル66内の溶液には攪拌が起こる。
次にステップa7の硝酸イオン測定工程に移行し、予め定める波長で測定することによって、溶液中の硝酸イオンの濃度を測定する。予め定める波長は、228nmと239nmとする。波長および測定の詳細については後に述べる。本実施形態では、硝酸イオン測定工程において、同時に水溶性有機物の量も測定する。水溶性有機物の量は、所定の波長における吸光度測定を行うことによって測定する。所定の波長は、254nmとする。
次にステップa8の酸性度測定工程に移行し、溶液の攪拌と、石英セル66内へのpH指示薬の投入と、溶液の吸光度の測定とを行う。溶液の攪拌では、リニアモータ78で底部68を変位させ、測定部16を攪拌状態とし、攪拌用モータ72で攪拌棒69を回転させる。これによって羽根74が溶液内で回転し、溶液が攪拌される。この状態でpH指示薬を投入する。pH指示薬は、ブロモフェノールブルーとし、添加する量は10μLとする。次に底部駆動手段56を駆動することによって測定部16を測定状態とし、分光分析を行う。ブロモフェノールブルーは、溶液のpHの変化によって紫外−可視吸収スペクトルが変化し、495nmの波長において、等吸収点を有する。またいずれのpHにおいても、680nm以上の波長領域には、吸収を持たない。測定に利用する波長および測定の詳細については、後に述べる。
次にステップa9の硫酸イオン測定工程に移行し、溶液の攪拌と、塩化バリウムの添加と、透過光強度の測定とを行う。溶液の攪拌については、ステップa8の酸性度測定工程における攪拌と同様である。溶液を攪拌しながら、塩化バリウムを添加する。添加する塩化バリウムの量は、溶液内の硫酸イオンの量に対して十分な量で、かつ溶液に溶解可能な量とする。硫酸イオンの濃度測定は、紫外−可視光照射手段58および分光分析手段62とを用いて測定し、塩化バリウムを添加する前の透過光強度と、塩化バリウムを添加して攪拌した後の透過光強度とを比較することによって行う。
溶液に硫酸イオンが含有されていると、塩化バリウムを添加すると硫酸バリウムが生成し、水溶液中において懸濁する。本実施形態において石英セル66中の硫酸イオンの濃度範囲は、およそ10μmol/L以上100μmol/L以下の範囲であり、この濃度範囲において、塩化バリウム添加前後の透過光強度の減少割合は、硫酸イオン濃度に比例する。単位「μmol/L」は、「μM」と表記される場合もある。透過光強度の測定を行う波長は、ブロモフェノールブルーが等吸収点を示す495nmまたは吸収を持たない680nm以上の領域の波長とする。測定の詳細については、後に述べる。
次にステップa10の排液工程に移行し、石英セル66中の溶液を排出する。これは、溶媒排出工程で溶媒を排出したのと同様に、底部駆動手段56のリニアモータ78で底部68を下方に変位させ、測定装置を排液状態とすることによって行われる。
次にステップa11の洗浄工程に移行し、石英セル66、底部68および排液通路76の洗浄を溶媒によって行う。底部駆動手段56は底部68を石英セル66の下端部に嵌合し、測定部16が測定状態となった状態で、溶媒を石英セル66中に投入する。その後、底部駆動手段56は底部68を攪拌手段57の下方近傍にまで上昇させ、攪拌棒69の一部および羽根74を溶媒に浸す。この状態で攪拌棒69を回転させて攪拌手段57の洗浄を行う。その後、底部駆動手段56は底部68を石英セル66の下端部の高さにまで下降させ、さらに石英セル66との嵌合を解除して、溶媒を排出する。底部68はそのパッキンによって石英セル66の内壁に接触した状態で上昇および下降するので、このことによって石英セル66の内壁を溶媒とパッキンとによって洗浄することができる。
この洗浄工程において、溶媒の投入から排出までを何度か繰返し、石英セル66および攪拌手段57の洗浄を終了する。その後、本処理は終了する。図6のフローチャートに示した浮遊粒子状物質測定方法は、1つの捕集領域20について10分程度で終了する。本実施形態では捕集領域20は2つ設けられるので、この処理は2回繰返される。大気中の空気から粒子状物質11を捕集領域20に捕集するのは1時間としたので、図6の処理を2回繰返しても捕集にかかる時間よりも短時間に測定を終了することができる。したがって、測定部16による測定が終了しないために、次に捕集を行った捕集領域20が、測定の終了まで放置されるという状況を回避することができる。
図6に示したフローチャートに従う処理、フィルタ12の移動、遅延部46の駆動、測定部16の各動作、および測定結果の記録は、たとえば中央演算処理装置(CPU)を含むコンピュータによって制御される。コンピュータの制御動作は、CPUを含む電子部品と、CPUに読取り可能な形式で記録され、コンピュータによる制御方法を記録したプログラムなどによって実現される。
図7は、硝酸イオンの吸収スペクトルを表す図である。図7において横軸は吸光度を測定した波長を表しており、縦軸は吸光度を表す。図7中最も上方のスペクトルから第1、第2、第3および第4スペクトル81,82,83,84と称すると、第1スペクトル81は、石英セル66中の硝酸イオンの濃度が143μMのときの吸光度を示し、第2スペクトル82は、石英セル66中の硝酸イオンの濃度が107μMのときの吸光度を示し、第3スペクトル83は、石英セル66中の硝酸イオンの濃度が71μMのときの吸光度を示し、第4スペクトル84は、石英セル66中の硝酸イオンの濃度が36μMのときの吸光度を示す。
硝酸イオンの吸収スペクトルのピークは、およそ200nmにあるけれども、紫外−可視光照射手段58としてキセノンフラッシュランプを使用すると、およそ220nm以下の波長領域の光量が少ない。したがって、測定誤差を小さくするためには、220nmよりも長波長の波長領域で吸光度を測定することの方が好ましい。また240nmを超える波長領域では、硝酸イオンのモル吸光係数が小さくなることから、吸光度測定による濃度測定が難しくなる。したがって、本実施形態では、228nmと239nmとの2つの波長において測定を行った。特に228nmにおける吸光度から239nmにおける吸光度を差引いた値は、硝酸イオンの濃度に対して良好な直線関係を得ることができ、誤差の少ない濃度の指標とすることができる。
水を溶媒としたときの硝酸イオンの228nmにおけるモル吸光係数は、ε=1060cm−1mol−1Lであり、239nmにおけるモル吸光係数は、ε=130cm−1mol−1Lである。このように、複数の波長の吸光度から硝酸イオンの含有量を求めることによって、誤差の少ない硝酸イオンの含有量の測定を行うことができる。
図8は、硝酸イオンの濃度と、228nmにおける吸光度から239nmにおける吸光度を差引いた値との関係を表す図である。横軸は硝酸イオンの濃度を単位「μM」で表し、縦軸は吸光度の差(無次元単位)を表す。これを検量線として用いることによって、石英セル66中の硝酸イオンの濃度を、数10μM単位で高精度に測定することができる。
図9は、水溶性有機物としてシュウ酸の紫外−可視吸収スペクトルを表す図である。図9において、最も上方かつ右方のスペクトルから順に第1、第2、第3、および第4有機物スペクトルS1,S2,S3,S4と称すると、第1有機物スペクトルS1は、シュウ酸の濃度が1000μMの水溶液の吸収スペクトルであり、第2有機物スペクトルS2は、シュウ酸の濃度が500μMの水溶液の吸収スペクトルでありる。第3有機物スペクトルS3は、シュウ酸の濃度が200μMの水溶液の吸収スペクトルであり、第4有機物スペクトルS4は、シュウ酸の濃度が100μMの水溶液の吸収スペクトルである。
水溶性有機物の可視−紫外吸収スペクトルは、硝酸イオンが吸収を示さない254nmに吸収を示し、またいずれの水溶性有機物も680nm以上の波長領域では、吸収を示さない。したがって、254nmの吸光度を用い、または254nmと680nmとにおける吸光度の差を用いることによって、水溶性有機物の含有量を求めることができる。水溶性有機物の吸収は、硝酸イオンの含有量の算出に用いる228nmおよび239nmにおいても吸収を示すけれども、硝酸イオンが吸収を示すことのない254nmにおける吸光度から水溶性有機物の含有量を求めることによって、硝酸イオンの含有量をも正確に求めることができる。
図10は、ブロモフェノールブルーが溶解した溶液の、各水素イオン濃度(pH)における紫外−可視吸収スペクトルを表す図である。図10では、石英セル66中のブロモフェノールブルーの濃度が1.49μMである条件化で、各pHにおいて得られる紫外−可視吸収スペクトルを表している。図10中590nmにおいて最も上方のスペクトルから第5、第6、および第7スペクトル85,86,87と称すると、第5スペクトル85は、塩酸の濃度が0.2mol/L、pHが0.7である条件におけるスペクトルである。単位「mol/L」は、「M」と表されることもある。第6スペクトル86は、フタル酸水素カリウムの濃度が0.05Mで、pHが4.01である条件におけるスペクトルである。第7スペクトル87は、リン酸二水素カリウムを0.025M、リン酸二水素ナトリウムを0.025Mの濃度で溶解させ、pHが6.86である条件におけるスペクトルである。
水を溶媒としたときブロモフェノールブルーは、酸性条件下において435nmに極大の吸収を示し、中性〜アルカリ性条件下では590nmに極大の吸収を示す。等吸収点495nmにおけるモル吸光係数はε=7000cm−1mol−1Lであり、この波長における吸光度は、溶液のpHに依存しない。溶媒として用いる水には、二酸化炭素(CO2)がふくまれていない方が溶液のpHを正確に測定することができるけれども、溶液のpHの値が4.5よりも小さい場合には、溶存二酸化炭素の影響は無視することができる。また温度および攪拌の条件が一定している場合には、溶液のpHの値に対する二酸化炭素の影響も一定している。したがって、既知のpHに調整される溶液のpHを、粒子状物質に対する取扱いと同様の取扱いを行って測定し、基礎データを収集することで、二酸化炭素の影響を算出することができるので、いずれのpHが示される溶液に対しても、二酸化炭素の影響を補正することは、可能となる。
図11は、同一の溶液のpHを、第1実施形態において測定した測定結果と、pH電極を用いて測定した測定結果とを表す図である。四角でプロットした結果は、本実施形態による測定結果であり、「×」で示される測定結果は、pH電極を用いて測定した測定結果である。図11に示されるように、本実施形態において測定したpHの測定結果と、pH電極を用いて測定したpHの測定結果とは、よく一致している。本実施形態では、435nmと495nmとにおける吸光度の差、または590nmと495nmとにおける吸光度の差を測定することによって、溶液のpHを正確に求めることができる。495nmの吸光度に代えて、ブロモフェノールブルーが吸収を示さない680nm以上のいずれかの波長における吸光度を用いてもよい。このように、複数の波長の吸光度を利用して溶液のpHを測定することによって、誤差の少ないpHの測定を行うことができる。さらにこれによって、粒子状物質の酸性度を求めることができる。
図12は、硫酸バリウムを水中に分散したときの透過光強度のスペクトルを表す図である。図12中最も上方のスペクトルから第8、第9、第10、第11、第12、および第13スペクトル88,89,90,91,92,93と称すると、第8スペクトル88は、仮に水中に全て溶解すれば100μMとなる量の硫酸バリウムが、水中に分散したときの透過光強度のスペクトルを表す。第9スペクトル89は、仮に水中に全て溶解すれば82μMとなる量の硫酸バリウムが、水中に分散したときの透過光強度のスペクトルを表す。
第10スペクトル90は、仮に水中に全て溶解すれば51μMとなる量の硫酸バリウムが、水中に分散したときの透過光強度のスペクトルを表す。第11スペクトル91は、仮に水中に全て溶解すれば30μMとなる量の硫酸バリウムが、水中に分散したときの透過光強度のスペクトルを表す。第12スペクトル92は、仮に水中に全て溶解すれば10μMとなる量の硫酸バリウムが、水中に分散したときの透過光強度のスペクトルを表す。第13スペクトル93は、硫酸バリウムが、水中に分散していないときの透過光強度のスペクトルを表す。
図13は、図12に示したデータに基づいて求めた検量線を示す図である。硫酸イオンの濃度が、およそ120μM以下という低濃度であるときには、硫酸イオンの濃度を数分以内に測定することは、比濁法以外では、難しいけれども、塩化バリウムを用いて硫酸バリウムを生成させて透過光強度を測定する比濁法では、図13に示した検量線に基づいて測定することで、高い精度で短時間に測定することができる。
大気中には、種々の粒径の浮遊粒子状物質が存在する。その中で、特に粒径が10μm以下の浮遊粒子状物質は、人が呼吸するに際し、気道で濾過されずに、吸引され、肺に沈降することから、特に人に対する毒性が高い。このような理由で、公害対策基本法に基づく大気汚染に関する環境基準では、大気中の浮遊粒子状物質は、粒径が10μm以下のものと規定されている。そして、従来からこの規定に従って、粒径10μm以下の浮遊粒子状物質の重量を測定する装置が市販されている。本明細書本文中では、粒径10μm以下の粒子状物質11とは限らずに、粒径10μm以上の粒子状物質11をも含めて「浮遊粒子状物質」とする。
大気中の浮遊粒子状物質には、粒径2.5μm程度を境として粗大粒子(coarse
particle,CPと略すことがある)と微小粒子(fine particle,FPと略すことがある)とが存在する。
CPは、海塩粒子や土壌に由来する砂塵など自然に生じるものを含んでいる。これに対し、FPは工場等から排出される煤塵やディーゼル車等の発生源から直接大気に放出される一次粒子と、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、揮発性有機化合物(
volatile organic compound, 略称「VOC」)等のガス状物質が大気中で粒子状物質11に変化する二次生成粒子がある。都市部における大気中の浮遊粒子状物質の粒径についての人体に及ぼす疫学調査の結果から、FPは低濃度においても、心血管疾患、肺がん、喘息などの疾患に影響すると考えられ、FPの重量濃度と死亡率が比例することがわかっている。
図14は、本発明の第1実施形態に係る浮遊粒子状物質測定装置および浮遊粒子状物質測定方法によって測定された測定結果を表す図である。図14(a)は、微小粒子に含まれる硫酸イオンの量を示し、図14(b)は、微小粒子に含まれる硝酸イオンの量を示している。図14(c)は、微小粒子の酸性度を、空気中に含まれる水素イオンの量として示している。図14(d)は、微小粒子に含まれる水溶性有機物の量を示しており、図14(e)は、大気中の空気に含まれる粗大粒子の量と微小粒子の量とを示している。図14(e)において上方に位置するスペクトルを「FPスペクトル」Sfpと称し、下方に位置するスペクトルを「CPスペクトル」Scpと称すると、FPスペクトルSfpは、微小粒子の量を、CPスペクトルScpは、粗大粒子の量を表している。
図14において横軸は日付を表しており、縦軸は空気1m3に含まれる量に換算した値を示している。図14(a)〜(c)では、縦軸の単位は「nmol/m3」であり、図14(d)および(e)では、縦軸の単位は、「μg/m3」である。本実施形態における浮遊粒子状物質測定装置では、1時間毎の測定も可能であるが、数時間毎の測定も可能であり、また図14に示すように数日間の連続した自動測定が可能である。
図14(e)に示すように、微小粒子と粗大粒子では、微小粒子の量が多く、また人体に対する悪影響としても、微小粒子の方が粗大粒子よりも重要性を有する。図14(a)〜(d)では、微小粒子についての測定結果を示したけれども、粗大粒子に関して同様の測定を行うことも可能である。図14に示すように、大気中の空気に含まれる浮遊粒子状物質に関して、これら複数種類の測定を自動的にかつ継続的に行うことができ、経時変化についての正確なデータを得ることができる。
本実施形態によれば、浮遊粒子状物質測定装置10および浮遊粒子状物質測定方法は、前記のような硫黄酸化物、窒素酸化物、揮発性有機化合物などの粒子状物質11を測定することができる。浮遊粒子状物質測定装置10において吸引部13は、大気中の空気を一定流量で吸引することによって、大気中に含まれる粒子状物質11をフィルタ12に捕集させる。抽出部14は、フィルタ12に捕集した粒子状物質11を溶媒で溶解させることでその成分を抽出し、溶液として回収する。測定部16は、抽出部14で回収された溶液に含まれる硝酸イオンの量および硫酸イオンの量を測定し、測定結果を出力する。これによって、大気中の大容量の空気に含まれる粒子状物質11の成分を少量の溶液として濃縮して回収することができる。したがって大気中の粒子状物質11に含まれる硝酸イオンの量および硫酸イオンの量を、自動的にかつ高感度に測定することができる。
測定部16は、さらに前記溶液のpHを測定することによって、大気中に含まれる粒子状物質の酸性度を測定する。記録部17は、測定部16から出力された、酸性度に関する測定結果を、さらに記録する。これによって、大気に含まれる酸性物質の量の時間変化および環境への影響の増減を、自動的に測定することができる。したがって、酸性雨など、浮遊粒子状物質が環境に与える影響についての調査および対策の立案に対して貢献することができる。
高感度の測定が可能であるので、従来技術ではおよそ24時間の捕集の後に、測定が行われていたけれども、およそ1時間の捕集の後に測定を行うことができる。したがって、捕集された後に粒子状物質11が空気の流れに曝される時間を短縮し、化学的に変質することを予防することができる。粒子状物質に含まれる酸性の成分は、大気中の空気に含まれるアンモニアによって中和されるので、粒子状物質の捕集を長時間行うことによって中和される。したがって、長時間の捕集を行う必要があった従来技術では、粒子状物質の酸性度を正確に測定することができなかった。これに対し、本実施形態における浮遊粒子状物質測定装置および浮遊粒子状物質測定方法では、短時間の捕集の後に測定を行うことができるので、正確に粒子状物質の測定を行うことができる。
また捕集された粒子状物質は、揮発性物質を含む場合があるので、24時間の捕集では、揮発性を有する物質が損失してしまう。これに対し本実施形態では、捕集時間を従来技術に比べて短縮することができるので、飛散および蒸散を抑制して測定を行うことができる。したがって、精度の高い測定を行うことができる。また記録部17が測定結果を記録するので、記録された測定結果を測定後に参照することができる。さらにイオンクロマトグラフィ、蛍光X線分析装置(XRF)、質量分析装置(MS)などに比べて、はるかに簡便で安価、かつ安定した測定を可能とする装置を提供することができる。したがって、疫学調査、発生源の調査に貢献し、大気汚染に対する対策の立案に貢献することができる。
また本実施形態によれば、測定部16は、溶液に含まれる水溶性有機物の量をさらに測定し、測定結果を出力する。記録部17は、測定部16が出力した水溶性有機物の量に関する測定結果をさらに記録する。これによって、大気中の粒子状物質11に含まれる水溶性有機物の量を測定することができる。
また本実施形態によれば、フィルタ12はテープ状に形成され、浮遊粒子状物質測定装置10は、フィルタ供給部18をさらに含んで構成される。フィルタ供給部18は、テープ状のフィルタ12を継続的に供給する。これによって、大気中の粒子状物質11に含まれる硝酸イオンの量、硫酸イオンの量および酸性度を、継続的に測定することが可能となる。
また本実施形態によれば、吸引部13は、予め定める粒径を超える粒径を大きな質量割合で含む粒子状物質11と、予め定める粒径以下の粒子を大きな質量割合で含む粒子状物質11とを、フィルタ12のうち互いに異なる複数の位置に捕集させる。これによって、特に人体に対する影響が大きな粒径の粒子状物質11について、その成分を測定することが可能となる。粒子状物質11が人体に与える影響と、粒子状物質11の粒径との間には相関関係がある。したがって、浮遊粒子状物質測定装置10は、予め定める粒径を基準として粒子状物質11を分級することができるので、さまざまな粒径の粒子状物質11のうち、人体への影響が大きな粒径の粒子状物質11に注目し、これに含まれる硝酸イオンの量、硫酸イオンの量および酸性度を測定することができる。
特に粒径が2.5μm以下の微小粒子は、人体への悪影響が大きいとされているので、分級して微小粒子と粗大粒子とにそれぞれ特徴的な成分などの分析を行うことは、疫学調査、大気汚染の原因調査に関して大きく貢献することができる。
また本実施形態によれば、測定部16は、β線吸収法によってフィルタ12に捕集した粒子状物質11の質量を測定する。これによって、一定の量の大気中に含まれる粒子状物質11の全体量を測定することができる。また一定の量の粒子状物質11に含まれる硝酸イオンの量および硫酸イオンの量を測定することができる。したがって、粒子状物質11全体の中での硝酸イオンの割合または硫酸イオンの割合を求めることができる。これによって、疫学調査、発生源の調査に貢献し、大気汚染に対する対策の立案に貢献することができる。
またβ線吸収法での測定では、フィルタ12に捕集した粒子状物質11を化学的に変質させることなく、また測定によって、フィルタ12に捕集された粒子状物質11を消費することなく、粒子状物質11の質量を測定することができるので、フィルタ12に捕集された粒子状物質11の全部を溶媒で抽出し、その成分を溶液として回収することができる。したがって、粒子状物質11に関する質量以外の測定において誤差が生じることを防止することができる。
また本実施形態によれば、測定部16は、溶液の吸光度を予め定める波長において測定する吸光度法によって、硝酸イオンの量を測定する。これによって、たとえば数ナノモル毎立方メートル(nmol/m3)の規模で含まれる硝酸イオンの量よりもさらに少ない量で含まれる硝酸イオンの量をも、高い精度で測定することができる。また、たとえばイオンクロマトグラフィによって硝酸イオンの量を測定する場合に比べて、短時間に硝酸イオンの量を測定することができる。また粒子状物質11の捕集にかかった時間に比べて短時間に、捕集された粒子状物質11に含まれる硝酸イオンの量を測定することができる。さらにイオンクロマトグラフィに比べて簡便で安価な装置として提供することができる。
また本実施形態によれば、測定部16は、硫酸バリウム比濁法によって硫酸イオンの量を測定する。これによって、たとえば数グラムの規模で含まれる硫酸イオンの量に比べて少ない量で含まれる硫酸イオンの量を、高い精度で測定することができる。また、たとえばイオンクロマトグラフィによって硫酸イオンの量を測定する場合に比べて、短時間に硫酸イオンの量を測定することができる。また粒子状物質11の捕集にかかった時間に比べて短時間に、捕集された粒子状物質11に含まれる硫酸イオンの量を測定することができる。
また本実施形態によれば、測定部16は、溶液の吸光度を所定の波長において測定する吸光度法によって、水溶性有機物の量を測定する。これによって、粒子状物質11の捕集にかかった時間に比べて短時間に、水溶性有機物の量を測定することができる。したがって、次の測定のための粒子状物質11の捕集と、すでに捕集された粒子状物質11に関する抽出および測定とを並行して行っても、測定部16の測定終了を待つことなく、次に捕集された粒子状物質11に関する測定を行うことができる。捕集された後の粒子状物質11を捕集直後に抽出および測定することが可能となるので、捕集された粒子状物質11が、測定部16の測定終了を待つまでの時間に、測定結果に系統的誤差が含まれてしまう可能性を可及的に小さくすることができる。また、粒子状物質11の捕集を終了した直後に、次の測定のための粒子状物質11の捕集を開始することができるので、大気中に含まれる粒子状物質11に関する測定を継続的に行うことができる。
また本実施形態によれば、測定部16は、溶液にpH指示薬を添加した後、溶液の吸光度を特定の波長において測定する吸光度法によって、溶液の酸性度を測定する。これによって、硝酸イオンおよび硫酸イオンを測定する測定部16を利用して、粒子状物質11を含む溶液の酸性度を測定することができる。したがって、たとえばpH電極を利用して酸性度を測定する場合に比べて、装置を簡素化することができる。
また本実施形態によれば、硝酸イオン測定工程において、溶液の吸光度を予め定める波長における吸光度法で、硝酸イオンの量を測定する。硝酸イオン測定工程の後、酸性度測定工程において、溶液にpH指示薬を添加し、溶液の吸光度を特定の波長における吸光度法で、溶液の酸性度を測定する。酸性度測定工程の後、硫酸イオン測定工程において、硫酸バリウム比濁法で、硫酸イオンの量を測定する。
これによって、硝酸イオン測定工程では、抽出部14で回収した後の溶液に試薬を添加することなく、測定することができる。酸性度測定工程では、pH指示薬を添加するので、硝酸イオン測定工程の後でも測定することができる。硫酸イオン測定工程では、添加する塩化バリウムと硫酸イオンとで溶液を懸濁させるので、酸性度測定工程の後でも、測定を行うことができる。したがって、同一の溶液を用いて、少なくともこれら3種類の測定を行うことができる。また、硝酸イオン測定工程、酸性度測定工程および硫酸イオン測定工程において、紫外−可視分光分析装置を共通して用いることができるので、それぞれ異なる測定装置によって測定を行う場合に比べて、装置を簡素化することができる。
また浮遊粒子状物質測定装置10は、フィルタ供給部18と、遅延部46とをさらに含んで構成される。フィルタ12は可撓性を有する材料によってテープ状に形成され、フィルタ供給部18は、テープ状のフィルタ12を継続的に供給する。遅延部46は、フィルタ12の供給に関する移動方向Xに関して、吸引部13によって空気の取入れが行われる位置、すなわち捕集位置39よりも下流側で、かつ溶媒による粒子状物質11の抽出が行われる位置よりも上流側に位置する。また遅延部46は、移動方向Xに関してフィルタ12の変位を部分的に遅延させる。
これによって、空気の取入れが行われる位置では、フィルタ12のうち異なる複数の部分に、分級された後の粒子状物質11をそれぞれ付着させ、フィルタ12から粒子状物質11を回収するときには、1つの抽出部14によって、複数の回数に分けて回収することができる。したがって、粒子状物質11の回収を、1つの抽出部14で行うことができ、複数の抽出部14を設ける場合に比べて、装置を簡素化することができる。
本実施形態において浮遊粒子状物質測定装置10は、質量、硝酸イオンの量、水溶性有機物の量、硫酸イオンの量および酸性度を全て測定可能な装置としたけれども、他の実施形態においては、たとえば、硝酸イオンの量、硫酸イオンの量および酸性度を測定する構成とすることも可能である。
(第2実施形態)
図15は、本発明の第2実施形態に係る浮遊粒子状物質測定装置10の構成を表す図である。第2実施形態に係る浮遊粒子状物質測定装置10は、第1実施形態に係る浮遊粒子状物質測定装置10に類似しており、以下、第1実施形態に対する第2実施形態の相違点を中心に説明する。測定部16は、イオンクロマトグラフィおよびマススペクトロメトリーのうちいずれか一方によって測定を行う。第2実施形態において測定部16は、イオンクロマトグラフィによって測定を行う。
浮遊粒子状物質測定装置10は、計量部111を含む。計量部111は、抽出部14によって回収された溶液を貯留する。浮遊粒子状物質測定装置10は、計量部111を含む。計量部111は、抽出部14によって回収された溶液を貯留する。抽出部14によって回収された溶液は、粒子状物質を溶媒で溶解させることで抽出された成分を含み、抽出部14によって回収された後、エアーポンプによって計量部111に圧送される。計量部111に送られた溶液は、計量部111において溶媒が添加されることよって予め定める溶液量にメスアップされる。
計量部111は、溶液保持部112と、レベルセンサ114と、バイブレータ116と、バルブ118a、118bとを含む。溶液保持部112は、計量部111において溶液を保持する。レベルセンサ114は、溶液の全体量が予め定める溶液量に到達したか否かを測定し、バイブレータ116は、計量部111において増量された溶液に振動を与えることによって、溶液内における濃度の局在化を防ぎ、溶液全体を均一にする。
バルブ118aおよび118bは、抽出部14から計量部111に送られる溶液の流路方向に関して、溶液保持部112よりもさらに流路方向下流Y2側に配置される。溶液保持部112と測定部16との間には、溶液を送るための流路121が形成される。バルブ118aは、溶液の移動の許容または停止を、バルブ118bは、溶液の移動の移動方向を制御する。溶液保持部112に貯留される溶液の全体量は、バルブ118aを閉鎖した状態で、予め定める溶液量にメスアップされ、バルブ118aが開放されることによって、溶液保持部112に貯留される溶液は、測定部16に送られる。第2実施形態においてバルブ118bは、アニオン測定部124に接続される流路方向Y1側の流路と、カチオン測定部122に接続される流路方向Y2側の流路とに分岐される。
第2実施形態において測定部16は、陽イオンを検出してイオンクロマトグラフィを行うカチオン測定部122と、陰イオンを検出してイオンクロマトグラフィを行うアニオン測定部124との、少なくともいずれか一方を含む。カチオン測定部122は、カチオン、すなわち陽イオンを検出してイオンクロマトグラフィを行い、アニオン測定部124は、アニオン、すなわち陰イオンを検出してイオンクロマトグラフィを行う。流路方向はバルブ118bによって決定され、流路方向Y1側の流路121はアニオン測定部124に接続され、流路方向Y2側の流路121はカチオン測定部122に接続される。
カチオン測定部122とアニオン測定部124とにおいて充填材および溶離液として使用される材料はそれぞれ異なるけれども、装置構成としては類似する。カチオン測定部122およびアニオン測定部124のそれぞれを、各イオンクロマトグラフ部と称し、略称としてそれらをそれぞれ「IC部」(126)と称すると、各IC部126は、サンプルループ部128と、ポンプ部132と、カラム部133と、検出部134とを含む。カラム部133には、各IC部126に応じた充填材が充填され、カラム部133を含む流路121には、流路方向上流側から流路方向下流側に向けて、予め定める流速で、それぞれのIC部126に応じた溶離液が流される。ポンプ部132は、溶離液が貯留される容器から溶離液を供給し、溶離液の流れに対して動力を与える。ポンプ部132には、ポンプと、ダンパー136と、気泡抜き弁138が設けられる。ダンパー136は、ポンプによる流量の変動を抑え、気泡抜き弁138は、流路121をポンプ側からカラム部133側に向かう溶離液に含まれる気泡を除去する。
カチオン測定部122において充填材は、表面部にスルホン基を有する陽イオン交換樹脂を用いることができる。他の実施形態においては、たとえば表面部にカルボキシル基を化学修飾したスチレン系ゲルによって形成される陽イオン交換樹脂を使用することもできる。第2実施形態においてカチオン測定部122における溶離液は、11mmol/Lの塩酸とした。他の実施形態においては、たとえば11mmol/Lの硫酸水溶液、または20mmol/Lのメタンスルホン酸水溶液などを用いることができ、さらに他の実施形態では、硝酸の濃度が2.5mmol/Lで、かつヒスチジンの濃度が0.5mmol/Lの水溶液を用いることができる。カチオン測定部122における充填材および溶離液は、前記の充填材および溶離液に限定するものではない。
アニオン測定部124において充填材は、表面部に四級アンモニウムを化学修飾した親水性ポリマーゲルを用いることができる。アニオン測定部124における溶離液は、p−ヒドロキシ安息香酸の濃度が8.0mmol/L、Bis−Trisの濃度が3.2mmol/L、かつホウ酸の濃度が50mmol/Lの水溶液を用いることができる。Bis−Trisは、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)−メタン(bis(2-hydroxyethyl)iminotris(hydroxymethyl)-methane)の略称である。アニオン測定部124における充填材および溶離液は、前記の充填材および溶離液に限定するものではない。
サンプルループ部128は、カラム部133よりも流路方向上流側に配置され、計測部からカラム部133に溶液を案内する部分である。計量部111においてメスアップされた溶液は、IC部への導入時にサンプルループ部128に送られ、サンプルループ部128において一定量貯留される。余剰となった溶液は、廃棄される。その後カラム部133への投入時にポンプ132のより溶離液がサンプルループ部128に送られ、サンプルループ部128に貯留された溶液をカラム部133へ押し流す。検出部134は、溶液の電気伝導度の変化によって溶質の存在を検出する。他の実施形態において検出部134は、溶液の屈折率の変化を測定することによって溶質の存在を検出してもよい。検出部134を通過した後の溶液は、廃棄される。
各IC部126において、種類の異なる陽イオンまたは陰イオンが検出部134を通過する時刻は、カラム部133を通過することによって差異が生じる。予め定める陽イオンおよび陰イオンを各IC部126に投入し、投入から検出部134によって検出されるまでの時間を、予め測定しておき、これらのデータと粒子状物質を抽出した溶液を測定したときのデータとを比較することによって、各IC部126の検出部134において検出された陽イオンおよび陰イオンを同定することができる。
また予め定める濃度の各種の陽イオンおよび陰イオンを各IC部126に投入し、検出部134によって検出される出現ピークの大きさを測定して、出現ピークの面積と各イオンの濃度の関係を求めておくことで、それらのデータと、粒子状物質を抽出した溶液を測定したときのデータとを比較することにより、各IC部126の検出部134において検出された陽イオンおよび陰イオンの濃度を特定することができる。各IC部126に対する溶液の投入は、断続的に自動的に行われ、各IC部126の検出部134における測定、データの出力および記録部におけるデータの記録も、投入の時期に応じて自動的に行われる。各IC部126において、溶離液を含む溶液の流速は、0.5ml/minとしたが、これに限定するものではない。出現ピークがいずれも互いに相似形であると近似できる場合には、各イオンの濃度は、出現ピークの高さに対応するものとして測定結果を求めることも可能である。
図16は、本発明の第2実施形態におけるカチオン測定部122における測定結果の一例を表す図である。図16において縦軸は、各種の陽イオンの濃度に対応して得られた、溶液の電気伝導度の変化量を出現ピークとして表しており、横軸は、溶出時間を表す。溶出時間は、カチオン測定部122に溶液が到達した時刻を基準に測定する。ただし他の実施形態において溶出時間は、陽イオンカラム内での溶出時間が充分に長い、特定の種類の溶質の溶出時刻を基準に測定してもよい。
図16において、最も大きい1.3分〜1.5分の溶出時間に対応して現れている第1ピーク140aは、アンモニウムイオン(NH4 +)の出現ピークを表し、1.2分近傍に現れている第2ピーク140bは、ナトリウムイオン(Na+)の出現ピークを表している。1.8分〜1.9分近傍に現れている第3ピーク140cは、カリウムイオン(K+)の出現ピークを表している。5.1分近傍に現れている第4ピーク140dは、マグネシウムイオン(Mg+)の出現ピークを表しており、6.8分近傍に現れている第5ピーク140eは、カルシウムイオン(Ca+)の出現ピークを表している。
各イオンの濃度を求める計算においては、まず複数種類の既知の濃度の標準資料に対して同一条件で測定を行い、対応して出現した出現ピークの面積と、各濃度との関係を検量線として求める。次に実際の測定結果として出現した各種イオンの出現ピークの面積が、各種イオンにおいて、いずれの濃度に対応するものか、検量線に基づいて求める。図16に示した測定結果から、大気中に含まれる各陽イオンの濃度として、Na+の濃度は6.09nmol/m3、NH4 +の濃度は73.4nmol/m3、K+の濃度は8.36nmol/m3と求められた。
図17は、本発明の第2実施形態におけるアニオン測定部124における測定結果の一例を表す図である。図17において縦軸は、各種の陰イオンの濃度に対応して得られた、溶液の電気伝導度の変化量を出現ピークとして表しており、横軸は、溶出時間を表す。溶出時間は、アニオン測定部124に溶液が到達した時刻を基準に測定する。ただし他の実施形態において溶出時間は、陰イオンカラム内での溶出時間が充分に長い、特定の種類の溶質の溶出時刻を基準に測定してもよい。
図17において、最も大きい4.5分近傍の溶出時間に対応して現れている第6ピーク141fは、硫酸イオン(SO4 2−)の出現ピークを表し、2.2分近傍に現れている第7ピーク141gは、塩化物イオン(Cl−)の出現ピークを表している。3.7分近傍に現れている第8ピーク141hは、硝酸イオン(NO3 −)の出現ピークを表している。陰イオンの濃度を求めるときにも、陽イオンを求めるときと同様に、各出現ピークの面積と各種イオンの濃度との対応関係を検量線として求め、各種イオンにおいて求めた検量線に基づいて、得られた出現ピークの面積から、濃度を求める。図17に示した測定結果から、大気中に含まれる各陰イオンの濃度として、Cl−の濃度は5.43nmol/m3、NO3 −の濃度は53.4nmol/m3、SO4 2−の濃度は312nmol/m3として求められた。
第2実施形態によれば、測定部16は、イオンクロマトグラフィによる測定を行う。これによって、たとえば他のクロマトグラフィーにおけるカラムのように、分子を吸着してしまったり、測定対象となる試料に高い揮発性が要求されたりすることがない。したがって第2実施形態における測定部16では、粒子状物質11に含まれる、たとえばSO4-、NO3 −、Cl−、F−、Na+、NH4 +、K+、Mg+およびCa+などを測定することができる。
(第3実施形態)
図18は、本発明の第3実施形態に係る浮遊粒子状物質測定装置10の構成を表す図である。第3実施形態に係る浮遊粒子状物質測定装置10は、第2実施形態に係る浮遊粒子状物質測定に類似しており、以下、第2実施形態に対する第3実施形態の相違点を中心に説明する。測定部16は、イオンクロマトグラフィおよびマススペクトロメトリーのうちいずれか一方によって測定を行う。第3実施形態において測定部16は、マススペクトロメトリーによって測定を行い、四重極質量分析計142を含む。測定部16は、マススペクトロメトリーにおいて、エレクトロスプレーイオン化法によってイオン化を行う。
マススペクトロメトリーを行う測定装置を「質量分析計」(144)と称する。質量分析計144は、イオン化部146と、分析部148とを有する。イオン化部146は、質量分析計144に送られる溶液に含まれる分子に電荷を与えることによって、分子をイオン化する。分析部148は、イオン化された分子の質量を測定する。第3実施形態において、イオン化部146は、エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization, 略称「ESI」)法を用いて分子をイオン化する。
ESI法は、種々のイオン化法、たとえば高速原子衝撃(fast atom bombardment, 略称「FAB」)法、電子イオン化(electron ionization, 略称「EI」)法などに比べると、分子に与えるエネルギーを小さく抑えることができるので、分子内の化学結合を切断することが少なく、分子の断片化(fragmentation)を抑制することができる。ESI法を用いる質量分析計144は、「ESI−MS」と称されることがある。
分析部148は、四重極質量分析計142によって実現され四重極(quadrupole)によって質量分析を行う。四重極を実現する4つの棒状部材間に高周波の交流電界を形成し、その周波数の設定によって特定の分子量の分子を検出する。周波数を掃引することによって、検出する分子量を変化させ、それぞれの分子量の分子を検出する。これによって、分析部148に送られた試料に含まれる各分子量における分子の存在を検出する。四重極質量分析計142を用いる質量分析計は、「Q−MS」と称されることがある。4つの棒状部材を用い、四重極によって質量分析を行うときに、試料の分子が通過する空間は、高真空にする必要はないが一般的に高真空であるほうが感度が向上する。また飛行時間型(
time of flight, 略称「TOF」)質量分析計に比べ、質量/電荷の値が小さい物質を測定することに有利であるとされる。
第3実施形態において、計量部111から流路方向下流に延びて形成される流路121は、分岐することなく1つの流路121のまま測定部16に接続される。計量部111から流路下流側に送られた溶液は、一旦シリンジ152に貯留され、シリンジ152から予め定める流速でイオン化部146に注入される。質量分析計144に対してシリンジ152によって行われる溶液の注入は、断続的に自動的に行われ、質量分析計144における測定、データの出力および記録部におけるデータの記録も、シリンジ152による注入の時期に応じて自動的に行われる。第3実施形態においてイオン化部146は、ESI−MSとしたけれども、他の実施形態において大気圧光イオン化(atomospheric pressure
photoionization, 略称「APPI」)法によってイオン化する構成とすることも可能である。第3実施形態においてシリンジから注入される溶液の流速は、10μl/minとした。
イオン化部146および分析部148による測定が停止しているときには、シリンジ152からイオン化部146に向けて送られる溶液は、イオン化部146に注入されることなく、流路121の途中位置から廃棄される。また分析部148を通過した後の溶液は、廃棄される。
図19は、本発明の第3実施形態に係る質量分析計144における測定結果の一例を表す図である。質量分析計144に注入される前に、流路121を流れる溶液には、同体積のアセトニトリルを混合し、体積比で水とアセトニトリルとが1対1で混合された混合溶媒を用いた。図19において、ピークが最も大きい1電荷当たりの質量数(以下、これを「m(質量数)/z(電荷)」という)が96.6のピークは、硫酸イオン(HSO4 −)のピークである。図19においてピークの大きさが2番目に大きく、m/zが166.7のピークは、水溶性有機物のイオンのピークと考えられる。この分子を、仮に「M」と称する。
図19においてピークの大きさが3番目に大きく、m/zが229.8は、水溶性有機物の分子Mに硝酸イオンが付加した「M+NO3 −」のピークである。図19においてピークの大きさが4番目に大きく、m/zが334.9のピークは、水溶性有機物の分子Mの二量体のピークである。図19においてピークの大きさが5番目に大きく、m/zが264.8のピークは、水溶性有機物の分子Mに硫酸イオンが付加した「M+HSO4 −」のピークである。図19においては、その他、硝酸イオン(NO3 −)、硫酸ナトリウムのイオン(NaSO4 −)、シュウ酸イオン(HOOC−COO-)などのピークも確認された。
第2および第3実施形態によれば、測定部16は、イオンクロマトグラフィおよびマススペクトロメトリーのうちいずれか一方によって測定を行う。これによって、浮遊粒子状物質に含まれ、電荷を有する物質および帯電しやすい物質の測定を行うことができる。イオン化しやすい物質は、浮遊粒子状物質の酸性度に関わる物質である場合が多いので、これらの測定を行うことによって、酸性度に関係する物質の同定に貢献する情報を得ることができる。
また第3実施形態によれば、測定部16は、マススペクトロメトリーによる測定を行い、四重極質量分析計142を含む。これによって、手動で浮遊粒子状物質の捕集および測定を行う場合と比較して、短時間に捕集および測定を終了することができる。たとえば四重極質量分析計142を含む質量分析計144による測定は、測定開始から10分程度で終了するので、1日に24回、すなわち1時間に1回の捕集および測定を連続して行うことも充分に可能となる。測定を短時間で終了できるので、次の測定のための粒子状物質の捕集と、すでに捕集および抽出された粒子状物質に関する測定とを並行して行っても、測定部16の測定終了を待つことなく、次に抽出された粒子状物質に関する測定を行うことができる。有意なデータを得るための測定としては、およそ10分で終了することができる。
捕集された後の粒子状物質を捕集直後に抽出および測定することが可能となるので、捕集された粒子状物質が、測定部16の測定終了を待つまでの時間に、測定結果に系統的誤差が含まれてしまう可能性を可及的に小さくすることができる。また、粒子状物質の捕集を終了した直後に、次の測定のための粒子状物質の捕集を開始することができるので、大気中に含まれる粒子状物質に関する測定を継続的に行うことができる。また質量分析計144は、四重極質量分析計142を含むので、たとえばTOF質量分析計などに比べて小形の装置として実現することができる。
また第3実施形態によれば、マススペクトロメトリーにおけるイオン化法を、ESI法とした。これによって、たとえばFAB法、EI法などによるイオン化法に比べて、マイルドな条件でイオン化することができ、分子が断片化することを防止することができ、親ピークを容易に特定することができる。
また第3実施形態によれば、HSO4 −、NO3 −、Cl−、Na+、NH4 +、K+、Mg+およびCa+などを測定することができ、さらに正電荷または負電荷のいずれかにイオン化されやすい水溶性有機物が含まれる場合には、これらを測定することも可能となる。当然のことながら、質量分析計144において、正に帯電した分子および負に帯電した分子の両方について、分子量を測定は可能である。
第1〜第3実施形態において用いた抽出部14、溶液保持部112、バルブ118、流路121、シリンジ152などの、試料となる溶液が接触する部分は、測定終了後、溶媒によって洗浄される。たとえば1時間の連続吸引による捕集の後の測定を、1時間毎に行う場合には、1時間毎の測定が終了する度に、試料となる溶液が接触する部分の洗浄を行う。大気中に含まれる粒子状物質の濃度が低い場合は、連続吸引による捕集の時間を増加させることにより、より多くの粒子状物質をフィルタ上に濃縮することで、低濃度でも測定が可能になる。第3実施形態において計量部111よりも流路方向下流Y2側には、質量分析計144を配置するものとしたけれども、他の実施形態において計量部111よりも流路方向下流Y2側には、たとえば第2実施形態のように流路121を分岐して1つまたは2つのIC部126と質量分析計144とを配置してもよい。