JP5747246B2 - 円二色性素子 - Google Patents
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円二色性素子とは、円二色性を呈する素子のことである。
円二色性素子として機能する入射平面波の波長を円二色性素子の動作波長と呼ぶ。
図23に示すように、波数ベクトル14に対して任意に固定した瞬間の電場ベクトル15が左ネジ状の分布を形成するとき、平面波は左回り円偏光と定義される。波数ベクトル14は平面波の進行方向を表すベクトルである。図23では光の1波長分の電場ベクトル15の変化を8ステップで表示している。
図24に示すように、波数ベクトル16に対して任意に固定した瞬間の電波ベクトル17が右ネジ状の分布を形成するとき、平面波は右回り円偏光と定義される。平面波の進行方向を表す波数ベクトル16から電場ベクトル17が発せられる。図24では光の1波長分の電場ベクトル17の変化を8ステップで表示している。
円二色性素子18に、波数ベクトル19の入射平面波が右回り円偏光20であるとし、波数ベクトル21で入射する光が左回り円偏光22とするとき、波数ベクトル23で表される透過平面波の透過率TRが50%以上であるのに対して、波数ベクトル24で表される透過平面波の透過率TLが1%以下である場合を示している。
円二色性なしのとき、σ=0となる。また、円二色性があるときにはつねにσ≠0である。特に、左回り円偏光の透過率が0%、つまり、TL=0のときには、σ=1である。図25で示した状況はこの場合に対応している。一方、右回り円偏光の透過率が0%、つまり、TR=0のときには、σ=−1である。以上のように最大限に大きな円二色性は、|σ|=1として表される。
ここで、max(TR,TL)はTR、TLの大きい方の値を表す。この効率因子εが大きい値をとるほど、円二色性素子として優れている。ε=100が理想的な円二色性素子である。ε≧60ならば性能の高い円二色性素子、ε≧25ならば実用に資する円二色性素子と評価される。
ここで、λは光の真空中の波長、dは円二色性素子の厚さを表す。構造の効率化因子αは、円二色性素子がどれくらい薄いサイズで実現できるかを定量的に表すための指標である。例えば、波長λが500nmの光に対して、厚さdが250nmの円二色性素子の構造の効率化因子αは2となる。つまり、構造の効率化因子α≧1のとき、照射する平面波の波長よりも厚さが薄いサイズ(以下、サブ波長サイズの厚さ)の円二色性素子が実現できていることを意味し、構造の効率化因子αが大きいほど、より薄いサイズで円二色性素子を実現できていることを意味する。
円二色性素子は、円二色性度σと効率因子ε、構造の効率化因子αによって、多面的に、かつ、総合的に評価できる。
光デバイスの極小化を進めて、マイクロチップ等へ組み込んで、多機能、低消費電力なマイクロ光デバイスを実現するために、光の波長より薄い円二色性素子の実現が求められている。
特許文献1は、「円二色性を持つ媒体測定表面プラズモン共鳴センサー、円二色性測定法及び測定装置」に関するものであり、異方的なプラズモン共鳴を利用した円二色性素子の発明が開示されている。発明の対象は、透過配置ではなく、反射配置での円二色性が主である。一般に、プラズモン共鳴はサブ波長サイズの素子作製に関連づけられるが、特許文献1では実証的な数値計算または実験による裏づけがなく、実効性は明らかでない。また、開示の素子は円二色性度が0.2以下と見積もることができ、円二色性素子としての機能が小さい。
とくに1/4波長板が円偏光に対しては有用である。1/4波長板とは、入射円偏光を透過させたのちに直線偏光に変換する素子のことである。
非特許文献4で示したようなサブ波長サイズの1/4波長板は、入射波長に対して前記定義を満たすように厚さを最適化することによって得られる。したがって、1/4波長板の厚さは入射円偏光を透過させたのちに直線偏光に変換する最適な厚さに定まる。
通常の1/4波長板は光学結晶を板状に切り出し、光学研磨することによって作製され、可視光(典型的な波長は500nm)用の1/4波長板は厚さが1mm以上である。
また、1/4波長板では、厚さがサブ波長であるか否かにかかわらず、面内に電磁波の位相速度が最も早い軸(先進軸)と最も遅い軸(遅延軸)が存在し、互いに直交する。前記性質を表す式は実施形態で後述する式(4)と式(5)であり、式(3)で示すジョーンズ行列が1/4波長板を表している。
1/4波長板においては、入射光が右回り、左回り円偏光のいずれである場合にも透過率は同じであり、透過光はともに直線偏光になり、互いに直交する偏光の向きを示す。円二色性度σの値は0になり、1/4波長板は円二色性のない素子である。
この素子は十字形の同じ形状の微小金属片を直接接しないように薄膜層をサンドイッチ状に挟んで、ねじり角をつけて積層する構造を有している。前記薄膜層を挟みながら十字状の同じ構造物を重ねる際に、ねじり角をつけることで円二色性の発現を可能にしている。
また、透過平面波の偏光は入射平面波とほぼ同じ円偏光であり、直線偏光や入射平面波の円偏光と反対回りにする操作はできず、微小金属片の共鳴状態を使っているので、光吸収が大きく、透過率を大きくすることは望めない難点がある。
電磁波が周期構造体を透過するときの透過率、透過平面波の偏光ベクトルを算出することが本発明における重要な手法であるから、以下、文献について述べる。
周期的な配列からなる構造体におけるマクスウェル方程式をフーリエ変換した形に書き換えて解くことが適している。例えば、非特許文献1には、具体的にマクスウェル方程式をフーリエ変換した形に書き換えた表式が記載されており、書き換えた方程式を数値的に高速・高精度に解くためのアルゴリズムが記載されている。この方法を用いることによって、入射平面波を周期構造体に照射したときに誘起される固有モードのマクスウェル方程式の解を正確に知ることができる。
また、非特許文献2には、周期的な配列からなる層におけるマクスウェル方程式の解が求められたとき、その解を用いて、積層構造体の透過率や反射率を安定的に数値計算する散乱行列法のアルゴリズムと具体的な表式が系統的に記載されている。
非特許文献1,2の方法を組み合わせることにより、周期的な配列からなる層が任意に積層した構造体の透過率、反射率をマクスウェル方程式からの直接の帰結として算出することが可能になる。したがって、これらの方法から算出した結果は電磁気学において最も信頼できる結果であり、多数の実験との比較からそれらの結果の妥当性もすでに周知の事実である。
とくに、金属を含む周期構造体の平面電磁波に対する透過率の実験値を再現性よく、前記計算方法によって示した文献として、たとえば非特許文献7、8が挙げられる。非特許文献7、8には、金属を含む周期的構造体の透過率に関する実験値と前記方法による計算値があり、周期構造体の周期長が入射平面波の波長に対してサブ波長である範囲において、±5%以下の誤差の範囲内で一致している。よって、本願の構成で得られた計算値も、同様の誤差の範囲内の実験値が得られると推察される。実験値との誤差の主な原因は実際に作製する構造が加工精度に応じて、設計からずれていることであると考えられている。
前記計算方法で得た透過平面波の任意に定めた時間における電場ベクトルを進行方向に沿って、算出することにより、透過平面波の偏光ベクトルが得られる。この方法については、非特許文献4にもすでに記載がある。
また、非特許文献3には、実験的に測定された銀の誘電率をBrendel−Bardenモデルによって統一的にフィッティングして広い波長域にわたる誘電率が記載されている。
本発明の円二色性素子は、前記電磁波透過部材が、前記一の平面波の透過率が70%以上の材料であることが好ましい。
本発明の円二色性素子は、前記1/4波長板及び前記別の1/4波長板の先進軸が平行となるように、前記別の1/4波長板が積層されていることが好ましい。
本発明の円二色性素子は、前記1/4波長板及び前記別の1/4波長板の先進軸が直交するように、前記別の1/4波長板が積層されていることが好ましい。
まず、本発明の第1の実施形態である円二色性素子について説明する。
本発明の2層型素子が入射円偏光を透過した後、直線偏光にする機能発現機構は以下のようにジョーンズ行列を使って示すことができる。
ジョーンズ行列法は、透過光学素子の性質を表現する方法として、光学の中で既に確立されたものである。特に、素子に対して垂直に光が入射する場合に適した方法である。
直交座標xyz軸が与えられたときに、素子の入射面がxy平面と平行で、入射光の進行方向が−z軸向きであるように素子と入射光を設定する。
光の電場成分(Ex,Ey)を基底ベクトルにとり、これをジョーンズベクトルと呼ぶ。この基底ベクトルによって、光学素子の透過特性を2×2行列として表現することができ、これをジョーンズ行列と呼ぶ。光の位相も含めて表現するために、ジョーンズベクトル、ジョーンズ行列ともに複素数値である。
式(3)が1/4波長板を表すジョーンズ行列であることはつぎのように確認できる。前記のように、1/4波長板の定義は円偏光を直線偏光に変換することである。ジョーンズ行列L1に右回り円偏光のジョーンズベクトルJR及び左回り円偏光のジョーンズベクトルJLをかけると、式(4)及び式(5)から分かるように、それぞれ直線偏光に変換する。なお、式(4)の右辺は(1,1)方向に直線偏光したジョーンズベクトルを表し、式(5)の右辺は(−1,1)方向に直線偏光したジョーンズベクトルを表している。2つの1次独立なジョーンズベクトルJRとJLに対して、式(4)と式(5)を満たすジョーンズ行列は一意に決まり、その表式が式(3)である。以上のように、式(3)は1/4波長板を表すジョーンズ行列である。
また、右回り円偏光、左回り円偏光が1/4波長板によって変換されて得られた直線偏光は互いに直交することが式(4)と式(5)から分かる。
なお、ジョーンズ行列L1、ジョーンズ行列L2は、定性的な性質を明示的に示すために、理想化されている。現実の円二色性素子は、反射損失や吸収損失がともない、透過率が100%ではないこともありうるが、円二色性素子の動作原理は定性的に同様に説明できる(以下の説明に関しても同様)。
また、式(10)から分かるように、右回り円偏光下での透過平面波の偏光状態は(1,1)方向の直線偏光である。
とくに、前記ジョーンズ行列で示した過程では、1/4波長板、異方的透過板の内部構造に依存していない。つまり、本発明の第1の実施形態である2層型円二色性素子は各層が1/4波長板、異方的透過板であるという条件を満たせば成立する普遍的な性質であることが明らかになった。
図1に示すように、円二色性素子101は、直方体平板状の2層が積層して構成されている円二色性素子である。平面視略矩形状の1/4波長板1と平面視略矩形状の異方的透過板2が積層されることで概略構成されている。異方的透過板2の内部構造が見えるように2つの層の大きさを変えて図示している。
図2では+x側から円二色性素子101のyz断面を見る配置で1/4波長板1と異方的透過板2を示している。入射平面波が照射する順にxy平面と平行な1/4波長板1の一面1a、他面1bとする。異方的透過板2の一面2a、他面2bとする。1/4波長板1の他面1bと異方的透過板2の一面2aは接するように積層している。
1/4波長板1の一面側で、負誘電率部材3aは平行かつ間隔を一定にして配置された複数のラインを形成している。
図3の単位面は横lx、縦lyの長さをもち、内部に負誘電率部材3a、電磁波透過部材3bを含んでいる。負誘電率部材3aのx軸方向の長さはtxとされている。単位面31で表される1/4波長板1の内部構造は、各部材の比を、長さtxを変えることで変更できる。図3では、1/4波長板1の先進軸3c、遅延軸3dも示している。前記ラインの延伸方向は、1/4波長板1の先進軸3c方向とされている。
図4では、異方的透過板2の高透過率軸4c、低透過率軸4dも示している。
異方的透過板2の高透過率軸4cは、1/4波長板1の先進軸3cに対して45度の角度をなしている。
このような規則的構造を有することにより、異方的透過板2は、入射平面波として直線偏光の波を用いた場合、任意の直線偏光の方向の透過率を高くすることができるとともに、その方向から90°回転させた直線偏光の方向の透過率を低くすることができる。例えば、xy面内でベクトル(1,1)と平行な直線偏光の方向の透過率高くすることができるとともに、ベクトル(−1,1)と平行な直線偏光の方向の透過率を低くすることができる。
使用可能な金属の例として、Ag、Al、Au、Pt等を挙げることができ、とくに可視光域ではAg、Alが好ましい。Ptは、入射平面波として可視光を用いたときは光吸収による損失が大きく好ましくない。赤外光域、マイクロ波域においてはCuを金属部材として使用することができる。
単位面31の負誘電率部材3aの面内割合を減らすことにより、実効的なプラズマ波長を長波長側にシフトさせることができる。よって、入射平面波として、実効的なプラズマ波長より短波長側の波長域の平面波を用いることにより、1/4波長板1の透過率を高くすることができる。
単位面31に占める金属の面内割合を減らすことにより、実効的なプラズマ波長は紫外光域から可視光域、近赤外光域へと移動することができる。
これにより、サブ波長サイズの1/4波長板1の動作波長を紫外光域から可視光域、近赤外光域まで移動することができる。
なお、1/4波長板1は、単独でサブ波長サイズの1/4波長板になりうることが報告されている(非特許文献4)。
まず、図1に示すように、入射平面波を1/4波長板1の一面1aに垂直な方向(−z方向)に入射させる。
特定の波長の電磁波に依存しないジョーンズ行列を用いて先述したように、紫外光からマイクロ波にわたる広範な波長領域の電磁波から入射平面波を選んで用いることが可能であり、入射平面波の波長に対応した部材を用いることにより、同様の偏光効果を得ることができる。なお、波長域は紫外光より長波長以上の範囲(波長400nm以上)とすることが好ましい。波長を可視光より短くすると、光吸収損失のすくない負誘電率部材がこれまで見つかっていないために単位面31で例示するような1/4波長板が構成困難であるからである。
なお、右回り円偏光と左回り円偏光は、互いに向きが直交する直線偏光に変換される。
異方的透過板2は、その高透過率軸と向きの直線偏光を透過率高く透過させる一方、高透過率軸と直交する方向、すなわち、低透過率軸と向きの直線偏光を透過率低く透過させる。
そのため、異方的透過板2の他面2bから出射される2つの直線偏光は、透過率が異なり、円二色性が発現される。なお、これらの透過率から、円二色性度σ及び効率因子εが算出される。
以上により、本発明の第1の実施形態である円二色性素子101は、右回りのまたは左回りの一方の入射円偏光のみを透過させ、直線偏光に変換して、円二色性の効率因子εを大きくして出射することができる。
次に、本発明の第2の実施形態である円二色性素子について説明する。最初に、ジョーンズ行列を用いて機能発現機構を示す。第1の3層型円二色性素子のジョーンズ行列M3 (1)は、2つの1/4波長板が平行な先進軸をもつように積層するから、式(12)のように積L1L2L1で表される。
式(13)と式(14)から、右回り円偏光のみを透過して、式(13)から、透過平面波は入射円偏光と反対回り、つまり左回り円偏光になることが示された。
なお、入射平面波が左回り円偏光で透過平面波が右回り円偏光になる円二色性素子は異方的透過板を90度回転すれば得られる。
以上の導出によって、円二色性素子は、個別的な場合だけでなく、1/4波長板、異方的透過板、1/4波長板の3層積層構造であれば、各層の構造の子細に依らず、普遍的に実現できる。
図5に示すように、円二色性素子102は3層型であって、異方的透過板2の他面2b側に平面視略矩形状の別の1/4波長板6が積層されている他は、本発明の第1の実施形態である2層型の円二色性素子101と同様の構成とされている。
本発明の第1の実施形態で述べたのと同様に、負誘電率部材7aに金属を用いることで別の1/4波長板6はサブ波長の薄さにすることが可能になる。
図5に示すように、入射平面波が、1/4波長板1の一面に垂直な方向(−z方向)に入射される。
入射平面波は、1/4波長板1の内部で円偏光から直線偏光に変換される。
なお、右回り円偏光と左回り円偏光は、互いに向きが直交する直線偏光に変換される。
異方的透過板2は、その高透過率軸と向きの直線偏光を透過率高く透過させる一方、高透過率軸と直交する方向、すなわち、低透過率軸と向きの直線偏光を透過率低く透過させる。
本発明の第3の実施形態である円二色性素子について説明する。第3の実施形態である3層型円二色性素子を表すジョーンズ行列M3 (2)は、3層型円二色性素子102において、別の1/4波長板6をxy平面内で90度回転した配置なので、式(15)のように表される。
式(16)と式(17)から、右回り円偏光のみを透過して、式(17)から、透過平面波は入射円偏光と同じ向きの円偏光になることが示された。
なお、この円二色性素子の異方的透過板をxy面内で90度回転すれば、入射平面波が左回り円偏光で、透過平面波も左回り円偏光とする円二色性素子が得られる。
図6では、別の1/4波長板8の先進軸を、1/4波長板1の先進軸と直交する向きに配置することにより、透過平面波の偏光が入射平面波の円偏光と同じ向きの円偏光となる円二色性が可能になる。
負誘電率部材9aに金属を用いることで、別の1/4波長板8はサブ波長の薄さの1/4波長板となることができる。
図7では、1/4波長板の先進軸9c、遅延軸9dを示している。
まず、図1〜図4に示す1/4波長板と異方的透過板とを積層した2層型円二色性素子の実施例を示す。ここで、部材3a、4aは金属(銀)、部材3b、4bは絶縁体(SiO2)と設定した。これにより、図3における単位面31内における屈折率の異方性が大きくできる。
また、単位面31と単位面41の大きさlx×lyは300×300nm2とした。負誘電率部材の幅txは30nmの厚さとした。このとき、先進軸がx軸と一致し、遅延軸がy軸と一致する。また、単位面41における電磁波透過部材4a1〜4a6は、大きさsx×syが50×50nm2の正方形の領域を対角線上に6個連続して配置した。前記正方形の領域は、xy面内でベクトル(−1,1)方向に角を接して並べた。高透過率軸をベクトル(1,1)向き、低透過率軸をベクトル(−1,1)の向きに生じさせる。
以上の設定のもとで、入射平面波が855nmのとき、1/4波長板の厚さは284nmである。異方的透過板の厚さは210nmとした。
次に、前記2層型円二色性素子の入射面(xy面)に垂直に入射平面波を入射した場合の、透過スペクトルの計算結果を算出した。
なお、本願における円二色性素子は空気中または真空中に存在している場合に対して、数値計算を実施した。また、この数値計算のための円二色性素子を構成する物質パラメータとして、銀の比誘電率は非特許文献3から得た。また、SiO2の比誘電率は、対象としている波長域において周知の値である2.13を用いた。(以下、同じ)
図8に示すように、左回り円偏光のときに855nmで透過率が最小になり、1.1%まで低下した。一方、右回り円偏光のときは855nmで透過率82.4%であった。
つまり、図1で全体像を示した2層構造は、入射平面波の波長が855nmのとき、円二色性素子として機能することが明らかになった。なお、前記透過スペクトルの計算結果は、先に述べた方法により求めた(以下、この配置や計算方法は同様)。
効率因子ε=82.4×0.97=80となった。また、構造に関する効率化因子α=855/(284+210)=1.73となり、サブ波長サイズとなった。
図10は、2層型円二色性素子に右回り円偏光の入射平面波を入射し、出射される透過平面波の偏光状態の計算結果であって、入射偏光ベクトルの大きさを1に規格化して表示したものである(以下、同様の規格化を行った)。
ここで、横軸がx成分の電場Ex、縦軸がy成分の電場Eyを表し、電場成分(Ex,Ey)を平面上に射影した。光の1周期分をプロットすると、xy面内でベクトル(1,1)方向(図10中の矢印方向)に電場が変化した。つまり、透過平面波はベクトル(1,1)方向の直線偏光であった。
入射平面波の直線偏光が(1,1)方向のとき、入射平面波の波長800から950nmの範囲の透過率は80%を超えて大きかった。一方で入射平面波の直線偏光が(−1,1)方向のとき、同透過率は2%以下と小さかった。したがって、異方的透過板2が単独で存在するとき、実際にサブ波長の薄さの異方的透過板であることが明らかになった。
なお、1/4波長板1がサブ波長の薄さの1/4波長板になることは非特許文献4と同様に検証できるから、ここでは省略する。
図11に示した例では異方的透過板の厚さを210nmとして計算を実行した。異方的透過板の厚さとしては、円二色性素子全体の厚さをサブ波長の厚さに保つ範囲のなかで、入射平面波の波長の1/5以上の厚さにすることが好ましい。その際に、入射平面波の波長において高透過率と低透過率の比が70以上に大きく、なおかつ、高透過率が80%以上であることを満たすように留意する。
異方的透過板の他面側に別の1/4波長板を積層した他は実施例1と同様にして、図5に示す第1の3層型円二色性素子の実施例を示す。
図5に示すように、第1の3層型円二色性素子の計算モデルは、入射平面波の透過する順に、厚さ284nmの1/4波長板、厚さ210nmの異方的透過構造板及び厚さ255nmの別の1/4波長板を積層したものである。
ここで、別の1/4波長板6の厚さが1/4波長板1の厚さと10%程度異なる理由は、異方的透過板を透過してきた直後の電磁波が近接場成分を含んで、理想的な平面波ではないためである。別の1/4波長板6の厚さに関しては、透過平面波を円偏光にするための最適化が必要である。
1/4波長板と別の1/4波長板の単位面は、図3に示した同一の単位面とした。また、異方的透過板の単位面は、図4の単位面と同一とした。
次に、図5に示す波数ベクトル5の向き、つまり、−z向きに進行する入射平面波を、3層型円二色性素子の入射面(xy面)に垂直に入射した場合の、透過スペクトルの計算結果を算出した。
図12に示すように、850nm付近において、左回り円偏光下の透過スペクトルは数%以下と小さかった。一方で右回り円偏光下では70%を超える透過率を示した。したがって、第1の3層型円二色性素子が850nm付近で円二色性を有することが明らかになった。
波長855nmにおいて、TR=71.9%、TL=1.0%で、σ=0.97と上限値に近かった。このとき、円二色性素子としての効率因子ε=70であり、実用に資する効率であった。また、厚さに関する効率化因子α=855/(284+210+255)=1.1であり、サブ波長サイズの薄さであることも明らかになった。
図14、図15に示すように、透過平面波は、左回り円偏光であった。
以上から、図5で示した3層構造は、右回り円偏光の入射平面波のみを、効率的に透過し、なおかつ、円偏光の向きを反対回りに変換して、左回り円偏光の透過平面波として出射する円二色性素子であることが明らかになった。
次に、別の1/4波長板の向きをxy面内で90°回転させた以外は実施例2と同様の構成として、図6に示す、第2の3層型円二色性素子の計算モデルを作成した。
図6に示すように、負誘電率部材9a、電磁波透過部材9bはx軸に平行な方向に一様に伸び、y軸方向に交互に分布している。
図16は、実施例3の円二色性素子の透過スペクトルの計算結果を示すグラフであって、実線は入射平面波が右回り円偏光のときの透過スペクトルであり、点線は左回り円偏光のときの透過スペクトルである。
図16に示すように、左回り円偏光の透過スペクトルは、波長860nm付近で透過スペクトルが数%以下の小さな値をとり、一方で右回り円偏光の透過スペクトルは50%を超える透過率を示した。また、波長855nmでのTR=63.7%,TL=1.1%であり、σ=0.96であり、σの上限値1に近かった。また、効率因子ε=61であり、実用に資する円二色性素子であった。波長855nmでの構造の効率化因子α=1.1であり、サブ波長サイズの薄さであった。
図17は、円二色性度σであり、波長860nm付近で円二色性度σは95%を超える最大値をとった。
図18に示すように、右回り円偏光の入射平面波は、透過平面波になったときも右回り円偏光のままであった。図6で示した3層型円二色性素子は、右回り円偏光のみを効率的に透過し、円偏光の向きを入射平面波と同じ右回り円偏光のままとする機能を有することが明らかになった。
入射平面波の波長460nmに対する2層型の円二色性素子の試験例を示す。前記円二色性素子は、図3の単位面31を有し、厚さ118nmの1/4波長板と図19の単位面191を有し、厚さ30nmの異方的透過板の2層積層構造からなる。なお、単位面31、191の大きさlx×lyは150×150nm2とし、単位面31におけるtxは30nmとし、単位面191におけるpx、pyともに50nmとした。また、単位面31、191における負誘電率部材は金属(銀)とし、電磁波透過部材は絶縁体(SiO2)とした。異方的透過板における高透過率軸は単位面191内において(1,1)方向であり、低透過率軸は(−1,1)方向である。
この第2の2層型円二色性素子は円二色性度σが0.78、効率因子εが26であり、円二色性が示された。
本試験例における入射波長460nmは、実施例1と比べて短波長であり、銀の誘電率の虚部が増加して吸収損失が増大する。その結果、効率因子などの低下を招くと考察した。
入射平面波の波長1500nmに対する2層型の円二色性素子の試験例を示す。前記円二色性素子は、図3の単位面31を有し、厚さ176nmの1/4波長板と図20の単位面201を有し、厚さ340nmの異方的透過板の2層積層構造からなる。なお、単位面31、191の大きさlx×lyは250×250nm2とし、単位面31におけるtxは50nmとし、単位面201におけるwx、wyともに50nmとした。5つの正方形12a1、12a2、12a3、12a4,12a5はすべて同形である。また、単位面31、201における負誘電率部材は金属(銀)とし、電磁波透過部材は半導体(Si)とした。異方的透過板における高透過率軸は単位面201内において(1,1)方向であり、低透過率軸は(−1,1)方向である。
この第2の2層型円二色性素子は円二色性度σが0.92、効率因子εが44であり、円二色性が示された。本試験例における入射波長1500nmでは、電磁波透過部材Siの誘電率が大きいために反射損失が増加するために透過率が相対的に減少する。その結果、実施例1と比較して、効率因子などの低下を招いていると考察した。なお、本試験例におけるSiの誘電率は非特許文献9の値を引用した。
まず、単位面31をもつ層構造が単独で存在し、その厚さが100nmであるほかは、構造パラメータlx、ly、txは実施例1と同じである場合の透過平面波の偏光状態を調べた。入射平面波の波長は855nmである。図19にその結果を示しており、入射円偏光に対して、透過平面波の偏光状態は楕円偏光になっている。したがって、前記層構造が単独で存在するとき、偏光変換素子であることが分かる。しかし、1/4波長板であれば透過平面波は直線偏光になるので、前記層構造は1/4波長板ではない。
つぎに、厚さが100nmの前記層構造と異方的透過板を積層させた素子を比較例1とする。なお、前記素子は構造としては2層型円二色性素子101で偏光変換素子の厚さを変えた構造である。
図22は比較例1の2層型素子の透過スペクトルの計算結果である。実線は、右回り円偏光の入射平面波の場合であり、点線は、左回り円偏光の入射平面波の場合である。図22において波長855nmのとき、円二色性度σ=(72.7−14.7)/(72.7+14.7)=0.66であり、実施例1と比較して円二色性度は低下している。なお、効率因子ε=48である。
実施例1において、入射平面波の波長を500nmとした例である。この場合、図1の1に相当する層が円偏光の入射平面波を直線偏光に変換できないことから、1/4波長板ではない。したがって、波長500nmの入射平面波に対して2層型円二色性素子101は1/4波長板と異方的透過板の積層構造になっていない。この例における円二色性度σ=(27.2−56.3)/(27.2+56.3)=−0.35であり、効率因子ε=20である。
実施例1において、入射平面波の波長を1500nmとした例である。この場合、図1の1に相当する層が円偏光の入射平面波を直線偏光に変換できないことから、1/4波長板ではない。したがって、波長1500nmの入射平面波に対して2層型円二色性素子101は1/4波長板と異方的透過板の積層構造になっていない。この例における円二色性度σ=(44.6−28.5)/(44.6+28.5)=0.22であり、効率因子ε=9.8である。
実施例1において、入射平面波の波長を2000nmとした例である。この場合、図1の1に相当する層が円偏光の入射平面波を直線偏光に変換できないことから、1/4波長板ではない。したがって、波長2000nmの入射平面波に対して2層型円二色性素子101は1/4波長板と異方的透過板の積層構造になっていない。この例における円二色性度σ=(44.1−30.4)/(44.1+30.4)=0.18であり、効率因子ε=8.1である。
実施例1において、入射平面波の波長を350nmとした例である。この場合、素子の厚さが494nmであるから、サブ波長の厚さではない。図1の1に相当する層が円偏光の入射平面波を直線偏光に変換できないことから、1/4波長板ではない。したがって、波長350nmの入射平面波に対して2層型円二色性素子101は1/4波長板と異方的透過板の積層構造になっておらず、なおかつ素子の厚さは波長よりも大きい。この例における円二色性度σ=(17.6−12.4)/(17.6+12.4)=0.17であり、効率因子ε=3.0である。
Claims (7)
- 1/4波長板と異方的透過板との積層構造を有し、サブ波長の厚さの円二色性素子であって、前記1/4波長板が400nm以上1600nm以下の波長領域から選択される一の平面波の円偏光を直線偏光に変換可能であり、前記異方的透過板が前記一の平面波の直線偏光方向に高透過率軸を有しており、
前記1/4波長板が負誘電率部材と電磁波透過部材とからなり、前記1/4波長板の一面側で、前記負誘電率部材が平行かつ間隔を一定にして配置された複数のラインを形成しており、前記ラインの延伸方向が前記1/4波長板の先進軸方向とされており、
前記異方的透過板が、電磁波透過部材と負誘電率部材とからなり、前記異方的透過板の一面側で、前記負誘電率部材が同一の大きさの複数の四角形状であり、隣接する前記負誘電率部材の頂角同士を近接させ、一方向に並べて配置して形成した複数のラインが、それぞれ平行かつ間隔を一定にして配置されていることを特徴とする円二色性素子。 - 前記異方的透過板の高透過率軸が、前記1/4波長板の先進軸に対して45度の角度をなしていることを特徴とする請求項1に記載の円二色性素子。
- 前記1/4波長板及び前記異方的透過板の両方の負誘電率部材が金属であることを特徴とする請求項1又は2に記載の円二色性素子。
- 前記1/4波長板及び前記異方的透過板の両方の電磁波透過部材が、前記一の平面波の透過率が70%以上の材料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の円二色性素子。
- 前記異方的透過板の前記1/4波長板の反対側の面に別の1/4波長板が積層されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の円二色性素子。
- 前記1/4波長板及び前記別の1/4波長板の先進軸が平行となるように、前記別の1/4波長板が積層されていることを特徴とする請求項5に記載の円二色性素子。
- 前記1/4波長板及び前記別の1/4波長板の先進軸が直交するように、前記別の1/4波長板が積層されていることを特徴とする請求項5に記載の円二色性素子。
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