以下に添付図面を参照して、この発明にかかるレーザ光スキャナの一の実施の形態を詳細に説明する。
(第1の実施の形態)
図1には、本実施の形態にかかるレーザ光スキャナ10の構成の一例を示した。なお、図1(A)は、レーザ光スキャナ10のX−Z平面図である。図1(B)は、レーザ光スキャナ10のY−Z平面図である。
図1に示すように、本実施の形態のレーザ光スキャナ10は、光源12と、光結合光学ユニット19と、光偏向素子14と、出力光学ユニット16と、を含んでいる。
光源12は、レーザ光を出射する半導体レーザである。光源12としては、レーザダイオードが挙げられる。具体的には、図2に示すように、光源12は、略直方体状に形成され、その光出射端面となる一側面に、光出射領域となる活性層12Aが露出している。そして、この活性層12Aの露出端面は、活性層12Aの厚み方向(図2中、X軸方向参照)に直交する方向(図2中、Y軸方向参照)に長い長方形状である。すなわち、この活性層12Aの露出端面は、厚み方向(X軸方向)の長さが、該露出端面における厚み方向に直交する方向(以下、単に「幅方向」と称する場合がある)(Y軸方向)の長さより短い形状である。光源12では、詳細は後述するが、この活性層12Aの露出端面における長辺方向であるY軸方向の長さを、短辺方向であるX軸方向の長さに対して長くすることによって、発光強度を大きくなるように調整することができる。
なお、本実施の形態では、活性層12Aの厚み方向をX軸方向とする。また、活性層12Aの露出端面における幅方向をY軸方向とする。また、この活性層12Aの露出端面に直交する方向をZ軸方向とする。
レーザ光は、この活性層12Aの露出端面から、広がり角をもって出射する。ここで、上述のように、活性層12Aの露出端面の形状は長方形状であり、そのアスペクト比が異なることから、レーザ光は、この活性層12Aの露出端面からY軸方向及びX軸方向に異なる広がり角をもって出射する。このため、光源12から出射するレーザ光では、X軸方向の広がり角がY軸方向の広がり角より大きい。すなわち、光源12から出射するレーザ光の発レーザ光プロファイルは、図2の発光ビームプロファイルPに示されるようなプロファイルとなる。
本実施の形態では、この活性層12Aにおける露出端面(光出射領域)の厚み方向、すなわち短手方向である上記X軸方向を「速軸方向」と称する。また、この活性層12Aにおける露出端面の幅方向、すなわち長手方向である上記Y軸方向を「遅軸方向」と称する。
図1に戻り、光源12から出射したレーザ光は、光結合光学ユニット19を通過した後に、光偏向素子14に光結合する。光結合光学ユニット19の詳細は後述する。
図3には、光偏向素子14の一例を示した。図3(A)に示すように、光偏向素子14は、光導波路31を含んでいる。光導波路31は、一対の電極層(電極層38及び電極層36)によって挟まれている。
光導波路31は、屈折率の高いコア層30を、コア層30より屈折率の低い一対のクラッド層(クラッド層34及びクラッド層32)で挟んだ構成の、所謂、スラブ型の光導波路である。
コア層30は、電気光学効果を有する材料から構成されている。コア層30を構成する電気光学材料としては、具体的には、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、KTP(KTiOPO4)、SBN、KTN、のような非線形光学結晶を挙げることができる。これらの非線形光学結晶は、支持基板上に層状に形成した後に研磨を施すことにより、結晶の電気光学性能を保ったまま薄膜化することが可能である。
なお、コア層30の厚みは限定されないが、具体的には、コア層30の厚みは、10μm以上50μm以下であることが好ましい。コア層30の厚みが上記範囲であると、クラッド層32及びクラッド層34による電圧降下の影響を抑制しつつ、且つ、より低電圧の印加で有意の屈折率変化を発生させることができる。
クラッド層32及びクラッド層34は、コア層30を挟むように設けられ、コア層30より屈折率の低い材料から構成されている。このため、コア層30に入射したレーザ光は、コア層30内を伝播する。クラッド層32及びクラッド層34の構成材料としては、具体的には、一般的なガラス材料である二酸化シリコン(SiO2)や、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化チタン(TiO2)、窒化シリコン(Si3N4)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ハフニウム(HfO2)等の誘電体および、これらの混合ガラスを挙げることができる。また、クラッド層32及びクラッド層34の構成材料としては、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)も用いることができる。
電極層38及び電極層36は、これらのクラッド層32及びクラッド層34の各々の外側に対向して設けられている。光偏向素子14では、これらの電極層38及び電極層36に電圧を印加することによって、コア層30の厚み方向に電界が形成される。
電極層38及び電極層36の構成材料としては、具体的には、Au、Pt、Ti、Al、Ni、Crのような金属材料の他、ITO等の透明電極を挙げることができる。
本実施の形態では、図3(B)に示すように、コア層30には、分極反転領域30Aが設けられている。コア層30における分極反転領域30Aと、該分極反転領域30A以外の領域と、では、コア層30を構成する電気光学材料の結晶軸(分極軸)の向きが反転している。本実施の形態では、分極反転領域30Aは、複数のプリズム部30A1をZ軸方向に並べた領域である場合を説明する。なお、各プリズム部30A1は、プリズム形状(三角柱状)の領域である。
分極反転領域30Aの幅(分極反転領域30AにおけるX軸方向(速軸方向)の幅(図3(B)中、幅D参照、以下単に「幅D」と称する場合がある))は限定されないが、例えば、1mm等が挙げられる。
なお、上記電極層38及び電極層36は、詳細には、光導波路31における上記分極反転領域30Aを覆う領域に設けられている。これらの電極層38及び電極層36に電圧を印加することによって、コア層30に電圧を印加すると、コア層30における分極反転領域30Aと該分極反転領域30A以外の領域とで屈折率変化量の符号が逆転する。このため、光偏向素子14は、コア層30の内部に複数のプリズム構造を作りだすことができる構造となっている。
ここで、一般的に、光は屈折率の異なる領域同士の界面で屈折(偏向)する。このため、電圧の印加された領域と、電圧の印加されていない領域との界面で、レーザ光は屈折することとなる。従って、分極反転領域30Aを構成する各プリズム部30A1の界面を通過する度にレーザ光は屈折する。また、分極反転領域30Aの屈折率変化量Δnは、電極層36及び電極層38に印加する電圧によって変化する。このため、該界面における屈折率もまた、電極層36及び電極層38に印加する電圧によって変化する。
このため、本実施の形態における光偏向素子14は、電極層36及び電極層38に印加する電圧を調整することによって、分極反転領域30Aを伝播するレーザ光の偏向角θを調整することができる。
詳細には、分極反転領域30Aの幅D(図3(B)中、幅D参照)が一定である場合、光偏向素子14から出射するレーザ光の偏向角θ(出射角)は、下記式(1)によって示すことができる。
上記式(1)中、Δnはコア層30の屈折率変化量を示し、Dは分極反転領域30AにおけるX軸方向(速軸方向)の幅を示す。また、式(1)中、Lは、複数のプリズム部30A1全体のZ軸方向の長さ(すなわち分極反転領域30AのZ軸方向の長さ)を示す。
そして、上記屈折率変化量(Δn)は、電極層36及び電極層38に印加する電圧で制御することができるため、光偏向素子14は、レーザ光の偏向角θを調整することができ、入射したレーザ光を偏向する光偏向素子として機能する。
なお、一般的に、光偏向素子14のコア層30を構成する電気光学材料の屈折率変化量は非常に小さく、光偏向素子14を動作させる際には10kV/mm以上の電界を形成する必要がある。しかし、光導波路31として、スラブ型の光導波路を用いることによって、電極層36と電極層38との電極間の距離を接近させることができ、動作電圧の低下を図ることができる。
例えば、コア層30の厚さを20μmとし、分極反転領域30Aの幅Dを2.0mmとし、分極反転領域30AのZ軸方向長さ(図3(B)中、長さB参照)を20mmとした場合には、電極層36と電極層38との電極間に±300Vの電圧を印加することによって、全角で4°程度の偏向角が得られる。なお、この偏向角を増大させるためには、分極反転領域30Aにおける各プリズム部30A1のプリズム幅(三角柱形状における、Z軸方向の最大長)をさらに狭めることが有効である。このプリズム幅としては、例えば、0.5mmから5mm程度の範囲を挙げることができる。
次に、光結合光学ユニット19について説明する。
光結合光学ユニット19は、光源12から出射したレーザ光を、光偏向素子14のコア層30における分極反転領域30Aの光入射側端面に光結合させる光学系である。
本実施の形態では、光結合光学ユニット19は、光源12側から順に、コリメート光学ユニット18及び集光レンズ20を備えている。
コリメート光学ユニット18は、光入射側から順に、コリメートレンズ26、及びコリメートレンズ28を配列した構成である。
コリメートレンズ26は、光源12から出射したレーザ光に含まれる速軸方向(X軸方向)成分をコリメート(平行に)して、第1ビーム幅の平行光束に変換する。なお、この第1ビーム幅とは、レーザ光における速軸方向の幅を示している。
このコリメートレンズ26は、光入射側から順に、半球レンズ22、及びメニスカスレンズ24を順に配列した構成である。
半球レンズ22は、入射したレーザ光に含まれる速軸方向成分を平行光束に変換するレンズである。半球レンズ22は、光入射側の面を平面とし、光出射側の面を球面とした半球状のレンズであり、入射するレーザ光の速軸方向および遅軸方向に曲率を有する。なお、以下では、光入射側の面は、単に、光入射面と称し、光出射側の面は、単に、光出射面と称して説明する場合がある。
具体的には、半球レンズ22は、半球レンズ22の材料をS-TIH53、出射面の曲率半径を3.0mmとし、レーザの露出端面と半球レンズ22の入射面との距離を1.5mmとした構成とすることによって、光入射面から入射したレーザ光に含まれる速軸方向成分を平行光束に変換する、といった特性を有する。
半球レンズ22は、レーザ光に含まれる速軸方向成分を平行光束に変換するレンズであればよく、中心肉厚(半球レンズ22における光通過方向の最短長)、球面である光出射面の曲率半径、及び材質等の仕様は、レーザ光スキャナ10の構成に応じて上記特性を満たすように適宜調整すればよい。
具体的には、半球レンズ22の光出射側の面(球面)の曲率半径は、レンズの材質の屈折率に応じて速軸方向成分が平行光束となるように調整すればよい。例えば、レンズの材質の屈折率が1.70から1.90の範囲である場合には、半球レンズ22の曲率半径としては、2.5mm以上3.5mm以下の範囲が挙げられる。
半球レンズ22の材質は、光源の波長において透明であればよく、限定されないが、例えば、特に高屈折率高分散で高透過率を示すことから、株式会社オハラ社製のS−TIH53や、S−NPH53等が挙げられる。
メニスカスレンズ24は、半球レンズ22から出射した、速軸方向成分を平行光束に変換されたレーザ光における該速軸方向のビーム幅を、分極反転領域30AにおけるX軸方向(速軸方向)の幅D(図3(B)参照)に応じた幅(第1ビーム幅)に調整する。
なお、メニスカスレンズ24は、半球レンズ22から出射したレーザ光における、速軸方向のビーム幅を、上記幅Dに応じた幅に調整すればよいが、メニスカスレンズ24は、該速軸方向のビーム幅を、上記幅D以下で且つ該幅により近い値に調整することが好ましい。具体的には、分極反転領域30Aの幅Dが2.0mmの場合には、該ビーム幅を0.4mm以上2.0mm以下の範囲に調整することが好ましく、1.5mm以上2.0mm以下の範囲に調整することが更に好ましい。
メニスカスレンズ24は、詳細には、光入射面及び光出射面の双方が光入射側に突出した曲面の非球面レンズである。なお、このメニスカスレンズ24の光入射側の端部と、半球レンズ22の光入射側の端部とは、接触して配置されていてもよいし、非接触に配置されていてもよく、これらのレンズ間の距離は、レンズを固定する際の組付けホルダ機構に応じて調整すればよい。
半球レンズ22の光出射側に、非球面レンズであるメニスカスレンズ24を配置することによって、半球レンズ22に入射したレーザ光は、半球レンズ22によって速軸方向成分をコリメートされた後に、メニスカスレンズ24によって上記幅Dに応じたビーム幅の平行光束に変換される。
なお、半球レンズ22を通過したレーザ光に含まれる速軸方向成分は、半球レンズ22の球面収差によって完全な平行光束にならない場合がある。このため、メニスカスレンズ24は、半球レンズ22の球面収差を相殺するように設計することが好ましい。
すなわち、メニスカスレンズ24は、メニスカスレンズ24の光入射面の曲面によって形成される凸レンズの焦点距離が、光出射面の曲面によって形成される凹レンズの焦点距離より長くなるように調整することによって、半球レンズ22から出射したレーザ光の速軸方向のビーム幅を、上記幅Dに応じた幅に調整する、といった特性を有するレンズとなっている。また、メニスカスレンズ24は、メニスカスレンズ24の光入射面の曲面形状を、光入射面を通過した後の光線が単一の焦点に集束するように調整することによって、半球レンズ22の球面収差を相殺するように設計されている。
メニスカスレンズ24は、上記特性を満たすレンズであればよく、中心肉厚(メニスカスレンズ24における光通過方向の最短長)、光入射面及び光出射面の曲率半径、光入射面及び光出射面の有効径、光入射面及び光出射面のコーニック定数、光入射面及び光出射面の非球面定数、及び材質等の仕様は、レーザ光スキャナ10の構成に応じて、上記特性を満たすように適宜調整する。
また、メニスカスレンズ24の材質は、光源の波長において透明かつ、非線形曲面の加工が可能であればよく、限定されないが、例えば、任意形状への切削加工が容易であることから、日本ゼオン株式会社製のZEONEX−480R等が挙げられる。
次に、コリメートレンズ28について説明する。
コリメートレンズ28は、入射したレーザ光に含まれる遅軸方向成分をコリメートするレンズである。
光源12から出射したレーザ光に含まれる速軸方向成分は、上記コリメートレンズ26によってコリメートされて上記第1ビーム幅の平行光束に変換されるが、この変換されたレーザ光に含まれる遅軸方向成分は、コリメートされていない。このため、コリメートレンズ26の光出射側に、コリメートレンズ28を配置することによって、コリメートレンズ26から出射したレーザ光に含まれる遅軸方向成分を平行光束に変換することができる。
コリメートレンズ28は、具体的には、光入射面が平面状であり、光出射面が光出射側に突出した曲面である非球面レンズである。そして、コリメートレンズ28の光出射側の曲面で遅軸方向成分にのみ凸レンズの機能を持たせることによって、コリメートレンズ28は、遅軸方向成分をコリメートするといった特性を有するレンズとなっている。
コリメートレンズ28は、上記特性を満たすレンズであればよく、中心肉厚(コリメートレンズ28における光通過方向の最短長)、光出射面の曲率半径、光出射面の有効径、光出射面のコーニック定数、及び材質等の仕様は、レーザ光スキャナ10の構成に応じて、上記特性を満たすように適宜調整する。
また、コリメートレンズ28の材質は、光源の波長において透明かつ、非線形曲面の加工が可能であればよく、限定されないが、例えば、任意形状への切削加工が容易であることから、日本ゼオン株式会社製のZEONEX−480R等が挙げられる。
次に、集光レンズ20について説明する。
集光レンズ20は、コリメート光学ユニット18の光出射側に設けられている。集光レンズ20は、コリメート光学ユニット18から出射したレーザ光に含まれる遅軸方向成分を集光させ、コア層30の光入射側端面に光結合させる。
本実施の形態では、集光レンズ20として、シリンドリカルレンズを用いている。該シリンドリカルレンズは、光入射面が光入射側に突出した曲面であり、光出射面が平面のレンズである。そして、本実施の形態では、このシリンドリカルレンズのNAをコリメートレンズ26のNAより大きくすることによって、レーザ光に含まれる遅軸方向成分を集光する、といった特性を有するレンズとしている。
集光レンズ20は、上記特性を満たすレンズであればよく、中心肉厚(集光レンズ20における光通過方向の最短長)、光入射面の曲率半径、光入射面の有効径、光入射面のコーニック定数、及び材質等の仕様は、レーザ光スキャナ10の構成に応じて、上記特性を満たすように適宜調整すればよい。
なお、集光レンズ20は、レーザ光に含まれる遅軸方向成分を、コア層30の厚み(コア層30のY軸方向の長さ)に応じたビーム幅(遅軸方向の幅)で、コア層30の光入射側端面に光結合させることが好ましい。
なお、コア層30の厚みに応じたビーム幅(遅軸方向の幅)とは、具体的には、コア層30の厚みの1.5倍以下であることが好ましく、コア層30の厚み以下であることが更に好ましい。また、更には、該コア層30の厚みに応じたビーム幅は、コア層30の厚みと一致することが特に好ましい。
このコア層30の光入射側端面に光結合したときの、レーザ光に含まれる遅軸方向成分の幅(遅軸方向の幅)は、集光レンズ20の開口数(NA)を調整することによって制御することができる。
詳細は後述するが、レーザ光に含まれる遅軸方向成分はマルチモード発振している。しかしながら、特定の開口数(NA)を持つシリンドリカルレンズを集光レンズ20として用いることによって、コア層30の厚みに応じたビーム幅に、遅軸方向成分を集光させることができる。
この集光レンズ20に求められる開口数(NA)は、光源12から出射するレーザ光の遅軸方向(Y軸方向)の広がり角と、該レーザ光のビーム幅(遅軸方向の幅)と、から以下の式(2)を用いて求めることができる。
上記式(2)中、θbは、光源12から出射するレーザ光の遅軸方向(Y軸方向)の広がり角を示す、また、Wbは、光源12から出射するレーザ光の遅軸方向(Y軸方向)のビーム幅を示す。また、θcは、光偏向素子14のコア層30に光結合したときのレーザ光の遅軸方向(Y軸方向)の広がり角を示す。また、dは、光偏向素子14のコア層30に光結合したときのレーザ光の遅軸方向(Y軸方向)の幅を示す。
例えば、上記θbを10°、上記Wbを200μm、上記dを20μmとする。この場合には、上記式(2)より、θcは約120°となる。
集光レンズ20に求められる集光能力は、この広がり角θcを有するレーザ光を平行光束に変換する能力と同じであることから、集光レンズ20の開口数(NA)は、下記式(3)を満たす値であればよい。
上述のように、例えば、θcが120°である場合には、集光レンズ20の開口数(NA)である0.87を超える値とすることによって、集光レンズ20は、入射したレーザ光に含まれる遅軸方向成分をコア層30の厚みに応じたビーム幅に集光させることができる。
次に、出力光学ユニット16について説明する。
出力光学ユニット16は、光偏向素子14の光出射側に設けられており、光偏向素子14から出射したレーザ光に含まれる遅軸方向成分を平行光束に変換する。本実施の形態では、出力光学ユニット16として、シリンドリカルレンズを用いている。出力光学ユニット16に用いられるシリンドリカルレンズは、光入射面が平面状であり、光出射面が光出射側に突出した曲面状のレンズである。そして、本実施の形態では、このシリンドリカルレンズの光出射面の曲面形状を非球面形状とすることによって、出力光学ユニット16は、入射したレーザ光に含まれる遅軸方向成分を平行光束に変換するといった特性を有するレンズとしている。
この出力光学ユニット16は、上記特性を満たすレンズであれば、いかなるレンズであってもよく、中心肉厚(出力光学ユニット16における光通過方向の最短長)、光出射面の曲率半径、光出射面の有効径、光出射面のコーニック定数、及び材質等の仕様は、レーザ光スキャナ10の構成に応じて、上記特性を満たすように適宜調整すればよい。
なお、出力光学ユニット16としては、上記集光レンズ20と同じレンズを用いることが好ましい。そして、上記集光レンズ20における光入射面側を光出射面とするように配置すればよい。
出力光学ユニット16のシリンドリカルレンズとして、集光レンズ20と同じレンズを用いることによって、出力光学ユニット16から出射したレーザ光の発光ビームプロファイルを、光偏向素子14に入射するレーザ光の発光ビームプロファイルとほぼ同じにすることができる。
次に、レーザ光スキャナ10における作用を説明する。
上述のように構成されたレーザ光スキャナ10では、光源12から出射したレーザ光は、コリメートレンズ26及びコリメートレンズ28を通過することによって、速軸方向成分が幅Dのレーザ幅の平行光束に変換された後に、遅軸方向成分が平行光束に変換される。すなわち、光源12から出射したレーザ光は、コリメート光学ユニット18を通過することによって、遅軸方向成分及び速軸方向成分の双方について平行光束に変換され、且つ速軸方向成分の幅が、分極反転領域30Aの幅Dに応じた幅に変換される。
そして、コリメート光学ユニット18を通過したレーザ光は、集光レンズ20を通過することによって、該レーザ光に含まれる遅軸方向成分が集光され、コア層30の光入射側端面に光結合する。
このため、光偏向素子14のコア層30の光入射側端面には、遅軸方向成分の該遅軸方向がコア層30の厚み方向と一致し(Y軸方向)、速軸方向成分の該速軸方向がコア層30の分極反転領域30Aの幅D方向(X軸方向)と一致するレーザ光が光結合する。また、該コア層30の光入射側端面には、速軸方向成分及び遅軸方向成分共に平行光束とされた後に、遅軸方向成分についてコア層30の厚み方向に集光させたレーザ光が、光結合する。
そして、光偏向素子14のコア層30の光入射側端面に光結合したレーザ光は、光偏向素子14によって偏向され、出力光学ユニット16を介して出射する。
ここで、光源12としての半導体レーザにおける、活性層12Aの露出端面は、厚み方向(X軸方向(速軸方向))の長さが、該露出端面における厚み方向に直交する方向(幅方向)(Y軸方向(遅軸方向))の長さより短い長方形状である。
このため、活性層12Aの露出端面から出射した直後のレーザ光に含まれる速軸方向(X軸方向)のビーム幅は、遅軸方向(Y軸方向)のビーム幅に比べて小さい。また、活性層12Aの露出端面から出射した直後のレーザ光に含まれる速軸方向(X軸方向)の広がり角は、遅軸方向(Y軸方向)の広がり角に比べて大きい(図2参照)。
光源12の構成にもよるが、例えば、活性層12Aの露出端面から出射した直後のレーザ光に含まれる速軸方向のビーム幅は1μm、速軸方向の広がり角は30°程度である。また、例えば、活性層12Aの露出端面から出射した直後のレーザ光における、遅軸方向のビーム幅は40μm〜400μm、遅軸方向の広がり角は10°程度である。
このように、活性層12Aの露出端面から出射したレーザ光に含まれる速軸方向成分は、遅軸方向成分に比べて狭い領域から出射するので、シングルモード発振する。一方、活性層12Aの露出端面から出射したレーザ光に含まれる遅軸方向成分は、速軸方向成分に比べて広い領域から出射するので、レーザ光の波長に比べてビーム幅が大きくなり、マルチモード発振する。また、光源12の発光強度は、活性層12Aの露出端面における長辺側である遅軸方向(Y軸方向)の長さを長くすることによって大きくすることが行われており、発光強度を大きくするほど、遅軸方向成分は、よりマルチモード発振しやすい。具体的には、発光強度を高める観点から、特に、活性層12Aの露出端面における遅軸方向(Y軸方向)の幅を、40μmから400μmといった長さにすると、遅軸方向成分はマルチモード発振となる。
なお、シングルモード発振とは、レーザ光束の横断面における強度分布が、中心で大きく周辺で確率分布的に小さくなるモードのレーザ発振を示す。また、マルチモード発振とは、レーザ光束の横断面における強度分布が、上記シングルモード以外のモードである発振を示す。そして、このマルチモード発振のレーザ光では、コヒーレンスが低下するため、集光性が悪く、シングルモード発振に比べてビーム品質に劣る。
そして、光源12から出射したレーザ光に含まれる速軸方向成分は、シングルモード発振することから、速軸方向成分の発光ビームプロファイルはガウシアンビームに近い。一方、光源12から出射したレーザ光に含まれる遅軸方向成分は、マルチモード発振するため発光ビームプロファイルを特定の関数では表すことはできない。
以上の理由から、従来では、光源12から出射したレーザ光に含まれる遅軸方向成分を、コア層30の光入射端面における厚み方向に直交する方向と一致させて、遅軸方向成分を平行光束に変換すると、遅軸方向成分が光偏向素子14における光偏向方向を担うことになり、光偏向素子14から出射する偏向したレーザ光の解像点数の低下を招いていた。
また、従来では、反対に、光源12から出射したレーザ光に含まれる遅軸方向成分を、光偏向素子14の厚み方向と一致させ、遅軸方向成分をコア層30の厚み方向に集光させた場合には、速軸方向成分に比べてビーム品質に劣る遅軸方向成分を集光させる必要があり、光利用効率の低下が生じていた。
一方、本実施の形態では、上述のように、レーザ光スキャナ10では、レーザ光スキャナ10を、コリメート光学ユニット18及び集光レンズ20を有する光結合光学ユニット19を備えた構成とし、コリメート光学ユニット18を、光入射側から順にコリメートレンズ26及びコリメートレンズ28を配置した構成としている。
このため、光偏向素子14のコア層30の光入射側端面には、遅軸方向成分の該遅軸方向がコア層30の厚み方向と一致し(Y軸方向)、速軸方向成分の該速軸方向がコア層30の分極反転領域30Aの幅D方向(X軸方向)と一致するレーザ光が光結合する。
また、本実施の形態では、コリメートレンズ26は、光入射側から順に、半球レンズ22、及びメニスカスレンズ24を配列した構成である。
ここで、レーザ光に含まれる速軸方向成分を、光偏向素子14における分極反転領域30Aの幅Dに応じたビーム幅の平行光束に変換しようとすると、該幅Dに応じて、光源12の光出射側端面とコリメートレンズ26の光入射側端面とを極めて接近させて配置する必要がある。このため、コリメートレンズ26をレンズ一枚で構成することは実質的には困難である。
しかし、本実施の形態のレーザ光スキャナ10では、コリメートレンズ26を、半球レンズ22とメニスカスレンズ24を含む構成とし、半球レンズ22でレーザ光に含まれる速軸方向成分を平行光束に変換した後に、メニスカスレンズ24によって速軸方向の幅を調整している。また、半球レンズ22の球面収差をメニスカスレンズ24によって相殺する。このため、コリメートレンズ26に入射したレーザ光に含まれる速軸方向成分を、上記幅Dに応じた平行光束に変換することができる。従って、光偏向素子14の解像点数を高くすることができる。
また、本実施の形態のレーザ光スキャナ10では、コリメートレンズ26の光出射側に、コリメートレンズ28が設けられている。また、コリメートレンズ26及びコリメートレンズ28を有するコリメート光学ユニット18の光出射側に、集光レンズ20が設けられている。
このため、本実施の形態におけるレーザ光スキャナ10では、コア層30の光入射側端面には、速軸方向成分及び遅軸方向成分共に平行光束に変換された後に、遅軸方向成分についてコア層30の厚み方向に集光されたレーザ光が、光結合する。このため、高い光利用効率を実現することができる。
従って、本実施の形態の、レーザ光スキャナ10では、高い光利用効率及び高い解像点数を実現することができる。
また、本実施の形態のレーザ光スキャナ10では、発光強度を大きくするために光源12における活性層12Aの遅軸方向の幅をより大きくすることで、遅軸方向成分のマルチモード発振の度合が強くなった場合であっても、高い光利用効率及び高い解像点数を実現することができる。
また、本実施の形態のレーザ光スキャナ10では、上述した光結合光学ユニット19を備えた構成とすることによって、レーザ光スキャナ10の小型化を図ることが出来る。
なお、さらに、コリメート光学ユニット18を通過したレーザ光は、速軸方向成分及び遅軸方向成分共に平行光束となっていることから、コリメート光学ユニット18と集光レンズ20との間で、レーザ光の光路をミラーなどで折り返し、コリメート光学ユニット18から出射したレーザ光を該ミラーで折り返して集光レンズ20に入射させる構成としてもよい。
このような構成とすることで、レーザ光スキャナ10のさらなる小型化を図ることができる。
なお、本実施の形態では、光偏向素子14におけるコア層30と、クラッド層32及びクラッド層34と、は、屈折率が異なっていることを説明したが、好ましくは、コア層30と、クラッド層32及びクラッド層34と、の屈折率は、集光レンズ20の開口数(NA)以上の開口数(NA)を有する光導波路31となるように調整することが好ましい。
なお、光導波路31の開口数(NA)は、以下の式(4)で示すことができる。
上記式(4)中、n1は、コア層30の屈折率を示す。また、n2は、クラッド層32及びクラッド層34の屈折率を示す。
例えば、集光レンズ20の開口数(NA)が1.0に近い高NAレンズである場合には、光導波路31の開口数(NA)が1.0以上となるように、コア層30、クラッド層32、及びクラッド層34の屈折率を調整すればよい。この屈折率の調整は、これらの層の構成材料を適宜選択することによって行えばよい。例えば、コア層30の構成材料として、屈折率2.2のニオブ酸リチウムを用いた場合には、クラッド層32及びクラッド層34の構成材料としては、屈折率1.96以下の材料を選択すればよい。
このように、集光レンズ20の開口数(NA)以上の開口数(NA)を有する光導波路31となるように、コア層30、クラッド層32、及びクラッド層34の屈折率を調整することによって、集光レンズ20を介してコア層30の光入射側端面に光結合したレーザ光が、コア層30とクラッド層32及びクラッド層34との界面で反射されずに、光導波路31の外部へと漏れることを抑制することができる。
すなわち、集光レンズ20によって遅軸方向成分を集光されたレーザ光は、大きな入射角度でコア層30の光入射側端面に光結合する。このため、コア層30とクラッド層32及びクラッド層34との屈折率差が小さく、光導波路31の開口数(NA)が集光レンズ20の開口数(NA)より小さいほど、コア層30内を伝播可能な角度より大きな伝播角度のレーザ光がコア層30の光入射側端面に光結合することとなる。このような光は、コア層30とクラッド層32及びクラッド層34との全反射条件を満たさないため、光導波路31の外部へと漏れてしまう。
しかし、集光レンズ20の開口数(NA)以上の開口数(NA)を有する光導波路31となるように、コア層30、クラッド層32、及びクラッド層34の屈折率を調整することによって、コア層30とクラッド層32及びクラッド層34との界面で反射されずに、光導波路31の外部へと漏れることを抑制することができる。このため、更に、高い光利用効率を実現することができる。
(第2の実施の形態)
上記第1の実施の形態では、集光レンズ20が1枚のレンズである場合を説明した。一方、本実施の形態では、集光レンズ20が複数のレンズで構成されている場合を説明する。
図4には、本実施の形態のレーザ光スキャナ10Aの構成を模式的に示した。
図4に示すように、本実施の形態のレーザ光スキャナ10Aは、光源12、光結合光学ユニット19A、光偏向素子14、及び出力光学ユニット16を含んでいる。光結合光学ユニット19Aは、コリメート光学ユニット18及び集光レンズ20Aを含んでいる。
なお、本実施の形態のレーザ光スキャナ10Aは、第1の実施の形態で説明したレーザ光スキャナ10における集光レンズ20(図1参照)に変えて、集光レンズ20Aを設けた以外は、レーザ光スキャナ10と同じ構成である。このため、レーザ光スキャナ10Aにおいて、レーザ光スキャナ10と同じ機能及び構成である部材については同じ符号を付与して詳細な説明を省略する。
集光レンズ20Aは、コリメート光学ユニット18の光出射側に設けられており、集光レンズ20と同じ特性を有する。すなわち、集光レンズ20Aは、コリメート光学ユニット18から出射したレーザ光に含まれる遅軸方向成分を、コア層30の厚みに応じたビーム幅(遅軸方向の幅)で、コア層30の光入射側端面に集光させる。
本実施の形態では、集光レンズ20Aは、光入射側から順に、非球面シリンドリカルレンズ21及び半円柱レンズ23を配列した構成である。
半円柱レンズ23は、非球面シリンドリカルレンズ21と光偏向素子14との間に設けられており、コリメート光学ユニット18から出射したレーザ光に含まれる遅軸方向成分を、コア層30の厚み以下のビーム幅でコア層30の光入射側端面に集光させる。
半円柱レンズ23は、光入射面を、入射するレーザ光の遅軸方向に曲率を有する球面とし、光出射面を平面とした、半円柱状のレンズである。なお、半円柱レンズ23の光入射面は、光入射側に突出した曲面である。
なお、半円柱レンズ23は、半円柱レンズ23の光入射面の遅軸方向成分のみを球面とした構成とすることによって、光入射面から入射したレーザ光に含まれる遅軸方向成分をコア層30の厚みに応じたビーム幅(遅軸方向の幅)で、コア層30の光入射側端面に集光させる、といった特性を有するレンズとなっている。
なお、半円柱レンズ23は、上記特性を満たすレンズであればよく、中心肉厚(半円柱レンズ23における光通過方向の最短長)、光入射面の曲率半径、及び材質等の仕様は、レーザ光スキャナ10Aの構成に応じて上記特性を満たすように適宜調整する。
具体的には、半円柱レンズ23の光入射面の曲率半径は、レンズ材料の屈折率と集光レンズのNAの値に応じて、光束がレンズの有効径内に収まるように調整すればよい。例えば、集光レンズのNAが0.9を超える場合には、半円柱レンズ23の曲率半径としては、2.0mm以下の範囲が挙げられる。
半円柱レンズ23の材質は、光源波長において透明でかつ、屈折率が1.60以上程度の高屈折率材料であればよく、限定されないが、例えば、特に高屈折率高分散で高透過率を示すことから、株式会社オハラ社製のS−TIH53や、S−NPH53等が挙げられる。
非球面シリンドリカルレンズ21は、コリメート光学ユニット18の光出射側で、且つ半円柱レンズ23の光入射側に設けられている。非球面シリンドリカルレンズ21は、半円柱レンズ23の球面収差を取り除く(相殺する)機能を有する。
具体的には、非球面シリンドリカルレンズ21は、光入射面を遅軸方向に曲率を有する曲面とし、光出射面を平面とした、非球面シリンドリカルレンズである。
そして、この非球面シリンドリカルレンズ21の光入射面から入射した光束が集光レンズ20Aを通過した後、光偏向素子14の入射端面において微小領域に集光されるように非球面シリンドリカルレンズ21の曲面を調整することによって、非球面シリンドリカルレンズ21は、半円柱レンズ23の球面収差を相殺するように設計されている。
非球面シリンドリカルレンズ21は、上記特性を満たすレンズであればよく、中心肉厚(非球面シリンドリカルレンズ21における光通過方向の最短長)、光入射面の曲率半径、光入射面の有効径、光入射面のコーニック定数、光入射面の非球面係数、及び材質等の仕様は、レーザ光スキャナ10Aの構成に応じて、上記特性を満たすように適宜調整する。
また、非球面シリンドリカルレンズ21の材質は、光源の波長において透明かつ、非線形曲面の加工が可能であればよく、限定されないが、例えば、任意形状への切削加工が容易であることから、日本ゼオン株式会社製のZEONEX−480R等が挙げられる。
以上説明したように、本実施の形態のレーザ光スキャナ10Aでは、集光レンズ20Aが、非球面シリンドリカルレンズ21と半円柱レンズ23とから構成されている。
ここで、マルチモード発振する遅軸方向成分を、光偏向素子14のコア層30といった微小な領域に集光させるためには、非常に大きな開口数(NA)のシリンドリカルレンズを集光レンズ20Aとして採用することが求められる。このため、このような大きな開口数のレンズを、1枚のレンズによって構成すると、非球面の曲面が急となり、加工や面精度の点で難易度が高い場合がある。
一方、本実施の形態のレーザ光スキャナ10Aでは、集光レンズ20Aを、非球面シリンドリカルレンズ21及び半円柱レンズ23の2枚のレンズで構成する。そして、半円柱レンズ23によってレーザ光に含まれる遅軸方向成分を集光させ、非球面シリンドリカルレンズ21によって半円柱レンズ23の曲面収差を相殺する。
この半円柱レンズ23は、光入射面が曲面で一定の曲率半径を有するレンズであるため、容易に加工を行うことができる。また。半円柱レンズ23の光入射側に置かれた非球面シリンドリカルレンズ21は、半円柱レンズ23の球面収差を相殺するレンズであるため、その曲面は比較的緩い傾斜の面であり、加工が容易である。
このため、本実施の形態では、上記特性を有する集光レンズ20Aを、容易に実現することができる。
なお、本実施の形態では、集光レンズ20Aを、非球面シリンドリカルレンズ21及び半円柱レンズ23の2枚のレンズから構成した場合を示したが、出力光学ユニット16についても2枚のレンズから構成してもよい。
この場合には、出力光学ユニット16を、光入射側から順に、半円柱レンズ23及び非球面シリンドリカルレンズ21を配列した構成とすればよい。そして、半円柱レンズ23の平面側を光入射面とし、非球面シリンドリカルレンズ21の平面側を光入射面として配置すればよい。
このようにすれば、出力光学ユニット16についても集光レンズ20Aと同様に、出力光学ユニット16の上述した特性を有するレンズとすることができる。
以下に、上記実施の形態で説明したレーザ光スキャナ10Aについて、実施例により説明するが、レーザ光スキャナ10Aは、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
図7には、上記実施の形態で説明したレーザ光スキャナ10Aの具体的な構成の一例を示した。また、図8には、図7におけるコリメートレンズ26を拡大して示した。また、図9には、図7におけるコリメートレンズ28及び集光レンズ20Aを拡大して示した。
光源12には、波長870nmのレーザ光を出射するマルチモードLD(レーザ・ダイオード)を用いた。なお、該光源12の活性層12Aの露出端面から出射した直後のレーザ光に含まれる速軸方向のビーム幅は1μm、速軸方向の広がり角は30°程度であった。また、活性層12Aの露出端面から出射した直後のレーザ光における、遅軸方向のビーム幅は200μm、遅軸方向の広がり角は10°であった。
光偏向素子14の光導波路31には、コア層30の構成材料としてニオブ酸リチウムを用い、クラッド層32及びクラッド層34の構成材料としてSiO2を用いた。また、コア層30の厚みは、20μmとした。
また、コア層30における分極反転領域30Aの幅D(図3(B)参照)は、2.0mmであった。
なお、半球レンズ22、及びメニスカスレンズ24は、図5に示す仕様のレンズを用いた(図5における「半球レンズ」及び「メニスカスレンズ」の行参照)。また、コリメートレンズ28についても、図5に示す仕様のレンズを用いた(図5における「遅軸方向コリメートレンズ」の行参照)。なお、メニスカスレンズ24の光入射面の形状は、光源12から15mmの地点で完全集光するように設計した。
また、非球面シリンドリカルレンズ21及び半円柱レンズ23としては、図6に示す仕様のレンズを用いた(図6における「非球面シリンドリカルレンズ」及び「半円柱レンズ」の行参照)。
そして、各レンズ間の距離は、図7〜図9に示す距離とした。
具体的には、光源12の光出射側端面と半球レンズ22との距離は、1.6mmとした。また、半球レンズ22の光入射側端面とメニスカスレンズ24の光出射側端面との距離を、10.2mm(11.8−1.6=10.2)とした。また、メニスカスレンズ24の光出射側端面とコリメートレンズ28との距離を18.2mm(30.0−11.8=18.2)とした。また、コリメートレンズ28の光入射側端面と非球面シリンドリカルレンズ21の光入射側端面との距離を5mmとした。また、非球面シリンドリカルレンズ21の光入射側端面と半円柱レンズ23の光出射側端面との距離を5.3mmとした。そして、半円柱レンズ23の光出射側端面と、出力光学ユニット16の光出射側端面との距離を、25.3mmとした。同様にして、各レンズ間の距離を、図8及び図9に示す関係に定めた。
図5〜図9に示す構成のレーザ光スキャナ10Aの、光源12からレーザ光を出射すると、図7及び図8に示すように、レーザ光は、半球レンズ22を通過することによって速軸方向成分を平行光束に変換されて、速軸方向のビーム幅3.0mmの平行光束となった。そして、さらに、メニスカスレンズ24を通過することによって、速軸方向のビーム幅1.4mmの平行光束となった(図8参照)。
一方、コリメートレンズ26を通過したレーザ光に含まれる遅軸方向成分は、図7に示すように、平行光束とはならず、広がり角をもっていた。
そして、コリメートレンズ26を通過したレーザ光は、光源12から30mm離れた位置に設置されたコリメートレンズ28を通過することによって、遅軸方向成分もまた平行光束に変換された(図7及び図9参照)。そして更に、集光レンズ20Aを通過することによって、レーザ光に含まれる遅軸方向成分が、遅軸方向成分のビーム幅20μm程度に集光されて、光偏向素子14のコア層30に光結合した(図7及び図9参照)。
なお、光偏向素子14の光利用効率を、光線追跡シミュレーションによって算出したところ、94%であった。
また、光偏向素子14の解像点数を式(1)で与えられる光偏向の偏向角を速軸方向成分のビーム広がり角で割ることによって算出したところ、L=20mm、Δn=3.7×10−3、速軸方向成分のビーム幅=1.5mmのとき、解像点数は100点であった。
このため、高い光利用効率及び高い解像点数の実現を確認することができた。
また、本実施例1においては、図7〜図9に示すように、光源12から出射したレーザ光が出力光学ユニット16から出力されるまでの距離は、65.6mmである。このため、この光学系を含むレーザ光スキャナ10Aのモジュールサイズは実用上問題ない程度の大きさであることを確認することができた。
(比較実施例1)
図10に一般的な従来構成のレーザ光スキャナの概略図を示した(図10の、レーザ光スキャナ100参照)。図10に示すように、比較実施例1では、実施例1における半球レンズ22及びメニスカスレンズ24に代えて、コリメートレンズ102を用いた。また、実施例1におけるコリメートレンズ28に代えて、集光シリンドリカルレンズ104を用いた。光変更素子14としては、実施例1と同じものを用いた。また、出力光学ユニット106としては、実施例1と同じ出力光学ユニット16を用いた。
また、レーザダイオードについては、実施例1で用いたレーザダイオードと同じものを用いた。
比較実施例1におけるレーザ光スキャナ100をこのように構成することによって、本比較実施例1では、レーザダイオードから放出された発散光は、コリメートレンズ102によって平行光束に変換され、集光シリンドリカルレンズ104によって遅軸方向成分のみを集光されて、光導波路構造からなる光偏向素子14内部に導かれることが確認された。また、光偏向素子14から出力された光は遅軸方向に大きな広がり角を有するが、出力光学系106により平行光束に変換され、レーザ光スキャナ100からの出力として放出されることが確認された。
ここで、比較実施例1におけるレーザダイオードから出力された速軸方向成分の広がり角を30°と仮定すると、3.0mmの焦点距離を有するレンズをコリメートレンズ102として採用すると、速軸方向のビーム幅は約1.6mmとなり、分極反転領域の幅(図3(B)中、幅D参照)に対して好適であった。しかし、遅軸方向成分は完全には平行光束に変換されず、ある程度の広がり角を持つ。この遅軸方向成分は、集光シリンドリカルレンズ104によって集光されるが、集光シリンドリカルレンズ104では、平行光束ではない遅軸方向成分を集光することになるため、光偏向素子14を構成する光導波路のコア厚に相当するような微小領域に集光することは困難であることが確認された。
すなわち、比較実施例1においては、光偏向素子14の光利用効率を、光線追跡シミュレーションによって算出したところ、20%以下であった。
なお、比較実施例1の構成のレーザ光スキャナ100において、速軸方向成分を導波路のコア厚方向に設定することにより光利用効率を向上させることも可能であるが、この場合には、ビーム品質の劣悪な遅軸方向成分がビーム偏向される方向となる。一般的にマルチモード発振レーザダイオードについてはそのビーム広がり角がシングルモード発振のビーム広がり角の10〜100倍程度と大きいことが知られている。これはレーザ光スキャナの解像点数を1/10〜1/100程度に低減させることに等しい。すなわち、実施例1におけるレーザ光スキャナの解像点数が100点程度であったの対して、比較実施例1の構成では解像点数が1点〜10点程度と低減するといえる。
従って、比較実施例1の構成のレーザ光スキャナは、実施例1の構成のレーザ光スキャナに比べて、高光利用効率と高解像点数を両立することは出来ないといえる。