以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
本実施形態のインクジェット記録装置は、例えば、図1、2及び3に示す構造を有する。図1は、インクジェット記録装置の特に用紙搬送部を模式的に示す概略図、図2は、その記録装置の特に用紙排出部を概略的に示す斜視図である。図3は、図2における幅方向から見た側面図である。ここで、本明細書において「幅方向」とは、被記録媒体の搬送方向に直交する方向であって、かつ被記録媒体の厚み方向に直交する方向を意味する。
本実施形態のインクジェット記録装置100は、主面に印刷を施された被記録媒体101を排出する排出手段である排出ローラ154と、排出ローラ154から排出された被記録媒体101を載置する載置手段である排紙トレイ106とを備えるものであって、排出ローラ154は、被記録媒体101の上記主面を排紙トレイ106側に向けて排出するものであり、排出ローラ154から排出された被記録媒体101を排紙トレイ106側に湾曲する姿勢制御手段である媒体ガイド301を更に備え、排紙トレイ106は、媒体ガイド301によって湾曲された被記録媒体101の湾曲を矯正するものである。
また、本実施形態のインクジェット記録方法は、主面に印刷を施された被記録媒体101を排出する工程と、排出工程を経て排出された被記録媒体101を載置手段である排紙トレイ106上に載置する載置工程とを有するものであって、排出工程において、被記録媒体101の上記主面を排紙トレイ106側に向けて排出し、排出工程を経て排出された被記録媒体101を排紙トレイ106側に湾曲する姿勢制御工程を更に有し、載置工程において、姿勢制御工程を経て湾曲された被記録媒体101の湾曲を矯正するものである。
まず、図1を参照しながら説明する。一般に高速及び高密度の印刷が可能なライン型インクジェット記録装置100は、普通紙等の被記録媒体101に、インク組成物の液滴(以下、「インク滴」ともいう。)を吐出し画像を記録するためのインクジェットヘッドユニット190と、インクジェットヘッドユニット190下方に被記録媒体101を搬送する搬送ベルト130と、印刷前の被記録媒体101を収納した収納カセット104と、収納カセット104から被記録媒体101を給紙する給紙ローラ105と、被記録媒体101を搬送するための一対の搬送ローラ(ゲートローラ)140と、搬送ベルト130の開口部(図示せず。)を経由して被記録媒体101を減圧吸引する減圧吸引部210と、被記録媒体101を排出するための一対の排出ローラ150、152及び154と、上記排出ローラ150及び152間並びに排出ローラ152及び154間で被記録媒体101を搬送するための搬送路156と、印刷を施された被記録媒体101を収納して載置する排紙トレイ106と、制御部111と、給紙される被記録媒体101の位置検出をする位置検出センサ109とを備えている。
被記録媒体101は、吸湿性及び可撓性を有するものが好ましく、例えば、電子写真複写用紙などの普通紙、シリカ、アルミナ、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)等を含む水溶性インク吸収層を備えたインクジェット用紙等が挙げられる。また、水溶性インクの浸透速度が比較的小さなタイプの吸収性被記録媒体として一般のオフセット印刷に用いられるアート紙、コート紙、キャスト紙等が挙げられる。
本実施形態において、「普通紙」とは、一般に、パルプを主原料としプリンタなどに使用される紙をいい、JIS P 0001 番号6139で定義されている。具体的には、例えば、上質紙、PPCコピー紙、非塗工印刷紙などを挙げることができる。普通紙は各社から市販されているものを利用することもでき、例えば、Xerox 4200(Xerox社製)、GeoCycle(Gerogia−Pacific社製)等、種々のものを利用することができる。
また、坪量60〜120g/m2の被記録媒体101であると、本発明による効果を一層有効に発揮することができるので好ましい。
インクジェットヘッドユニット190は印刷手段であり、インクの種類に対応した複数のインクジェットヘッド110及びそれらを搭載するキャリッジ(図示せず。)を備え、各インクジェットヘッドは、被記録媒体101の幅方向にわたって全幅に対応する多数のインク吐出ノズルを各々配列している、いわゆるラインヘッドで構成されている。ただし、本発明において、インクジェットヘッドはラインヘッドに限定されず、シリアルヘッドであってもよい。
環状の搬送ベルト130は、被記録媒体101をインクジェットヘッドユニット190(印刷領域)まで搬送する。駆動ローラ180は、搬送ベルト130を駆動するものであり、従動ローラ170は、搬送ベルト130をインクジェットヘッドユニット190の吐出口に対向させながら従動するものである。駆動ローラ180は、制御部111により駆動制御されるモータ115により駆動する。また、給紙ローラ105は、収納カセット104内部の被記録媒体101を搬送ローラ140へ送り出すためのローラであり、制御部111により駆動制御されるモータ118により駆動する。ただし、本発明においては、被記録媒体の搬送に搬送ベルトを用いなくてもよく、いわゆるローラ搬送方式であってもよい。
搬送ローラ140は、制御部111により駆動制御されるモータ116により駆動するローラユニットとしての駆動ローラ140Aと、駆動ローラ140Aに接触して従動する従動ローラ140Bとで構成している。排出ローラ150、152及び154は、それぞれ、制御部111により駆動制御されるモータ117、153及び155により駆動する駆動ローラ150A、152A及び154Aと、駆動ローラ150A、152A及び154Aに接触して従動する従動ローラ150B、152B及び154Bとで排出ローラ対を構成している。
減圧吸引部210は、吸引ファン210Aとそれを包囲する筐体210Bとで構成されている。吸引ファン210Aは制御部111により駆動制御されるモータ211により駆動し、搬送ベルト130上の被記録媒体101を減圧吸引する。
制御部111は、印刷処理(記録処理)や各種処理を実行するCPU(Central Processing Unit)、ホストコンピュータなどからインタフェイス(IF)を介して入力される印刷データ(記録データ)をデータ格納領域に格納するあるいは各種データを一時的に格納するRAM(Random Access Memory)、各部を制御する制御プログラム等を格納するPROM,EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)などを備えている。
位置検出センサ109は、例えば発光素子の赤外発光ダイオードと受光素子のフォトトランジスタを組み合わせた反射型フォトセンサを用いる。位置検出センサ109は、給紙ローラ105と搬送ローラ140との間の用紙搬送部に配置され、搬送される被記録媒体101の先端位置(被記録媒体101の有無)を検出して、その検出信号は制御部111に入力される。制御部111では、被記録媒体101の先端位置の検出信号に基づいて搬送ローラ140の駆動制御処理が行われる。
被記録媒体101は制御部111からの駆動信号によりモータ116が駆動することにより回転する搬送ローラ140に到達し、被記録媒体101先端が搬送ローラ140に接触することにより被記録媒体101の先端面並びに方向が整えられ、駆動ローラ140Aと従動ローラ140Bとの間に挟まれて紙送りされ、搬送ベルト130上に送り出される。そして、搬送ベルト130によってインクジェットヘッドユニット190下方の印刷領域に搬送された被記録媒体101は、搬送ベルト130上で搬送移動されながら、インクジェットヘッドユニット190のノズルから吐出されたインク滴をその主面上に着弾させることにより、印刷データに基づく印刷が行われる(印刷工程)。
被記録媒体101への印刷は、制御部111において、IFを介してホストコンピュータから入手し、RAMに格納された印刷データを、CPUにおいて所定の処理を実行して、この処理データに基づいてヘッドドライバに駆動信号が出力され、ヘッドドライバを介して駆動信号がインクジェットヘッドユニット190に入力され、駆動信号が入力された静電アクチュエータの駆動により、これに対応するノズルから、被記録媒体101にインク滴が吐出されて印刷データに基づく画像の印刷(記録)が行われる。
ただし、被記録媒体101への印刷は、上述の静電アクチュエータを用いた静電吸引方式に限定されない。つまり、本実施形態におけるインクジェット記録方式は、インク組成物を微細なノズルより液滴(インク滴)として吐出して、その液滴を被記録媒体に着弾、付着させる方式であればよい。具体的に以下に説明する。
第一の方法としては、静電吸引方式があり、この方式はノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印可し、ノズルからインクを液滴状で連続的に噴射させ、その液滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する方式、あるいはインクの液滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して噴射させる方式である。
第二の方法としては、小型ポンプで液状のインク組成物に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインクの液滴を噴射させる方式である。噴射された液滴は噴射と同時に帯電させ、その液滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する。
第三の方法は圧電素子を用いる方式であり、液状のインク組成物に圧電素子で圧力と印刷情報信号とを同時に加え、インクの液滴を噴射・記録させる方式である。
第四の方式は熱エネルギーの作用により液状のインク組成物を急激に体積膨張させる方式であり、インク組成物を印刷情報信号に従って微小電極で加熱発泡させ、その液滴を噴射・記録させる方式である。
以上のいずれの方式も本実施形態のインクジェット記録方法に採用することができる。
印刷工程において、被記録媒体101の主面上に着弾させる(打ち込む)インク組成物の量は、そこに含まれる水が被記録媒体101の面積に対して10mg/inch2以下となる量であることが好ましい。これにより、被記録媒体101の変形を一層抑制することができる。
主面に印刷が行われた被記録媒体101は、搬送ベルト130により排出部(排出ローラ150、152及び154)に搬送される。搬送された被記録媒体101が排出ローラ150に到達すると、制御部111からの駆動信号によりモータ117が駆動されて駆動ローラ150Aが回転し、駆動ローラ150Aに接触して従動する従動ローラ150Bとの間に挟まれて紙送りされる。さらに、そこから、搬送路156に沿って搬送された被記録媒体101が排出ローラ152及び154に到達すると、排出ローラ150に到達したときと同様に、それぞれ、制御部111からの駆動信号によりモータ153及び155が順次駆動されて駆動ローラ152A及び154Aが順に回転し、駆動ローラ152A及び154Aに接触して従動する従動ローラ152B及び154Bとの間に挟まれて、紙送りされる。このとき、上記印刷時には、被記録媒体101の主面は上方、すなわち、インクジェットヘッドユニット190側を向いていたが、排出ローラ150、152及び154により排紙トレイ106に向かって搬送されるのに従い、被記録媒体101は上下逆になるよう転回される。そして、最も後段の排出ローラ154から排出される排出工程では、主面が下方、すなわち、排紙トレイ106側を向き、印刷されていない裏面が上方を向く、いわゆるフェイスダウン方式となる。
排出ローラ154から排出された被記録媒体101は、後に詳述する姿勢制御手段である媒体ガイド301(図1には図示せず。)により排紙トレイ106側に湾曲しながら(姿勢制御工程)、かつ、必要に応じて、後に詳述する積層制御手段である媒体押さえ部303(図1には図示せず。)によりその積層状態を整えられながら(積層制御工程)、排紙トレイ106に積層される。
次に、図2及び3を参照しながら、特にインクジェット記録装置100の排出部を詳細に説明する。インクジェット記録装置100は、その筐体102内外の境界となる位置に、上述の排出ローラ154を排出手段として備える。その筐体102の被記録媒体101が排出される側の外壁には、駆動ローラ154Aの上方に取り付けられた、搬送方向前方の斜め下方に屈曲した板状の媒体ガイド301が姿勢制御手段として設けられている。媒体ガイド301は、排出ローラ154から搬送(排出)された被記録媒体101の先端が衝突する位置に、その板面が位置するよう配置されている。また、媒体ガイド301は、被記録媒体101の先端が衝突した後、被記録媒体101が更に搬送方向前方に排出されるのに従って、その先端が媒体ガイド301に押さえつけられて、幅方向から見て主面を凹面にして湾曲するよう配置されている。その観点から、最も幅方向の外側に位置する媒体ガイド301の外縁部が、被記録媒体101の幅方向外縁部付近に位置することが好ましく、媒体ガイド301の外縁部が、被記録媒体101の上記外縁部よりも更に幅方向外側に位置してもよい。
なお、幅方向から見て主面を凹面にするよう、上記のように媒体ガイド301を配置するのがより好ましいが、搬送方向から見て主面を凹面にするように媒体ガイド301を配置してもよい。その例としては、媒体ガイド301を、搬送方向から見て被記録媒体101の上記外縁部に対して斜めに当接するように配置してもよい。
本実施形態では、媒体ガイド301は、被記録媒体101の幅方向に2個配列して設けられているが、媒体ガイド301の個数は、それに限定されない。ただし、被記録媒体101を有効且つ確実に排紙トレイ106側に湾曲させる観点から、媒体ガイド301は、幅方向に2個以上設けられることが好ましい。
筐体102の被記録媒体101が排出される側の外壁には、好ましくは2個の媒体ガイド301の間に、駆動ローラ154Aの上方に取り付けられた媒体押さえ部303が積層制御手段として設けられている。媒体押さえ部303は、上記外壁から搬送方向前方に延びる板状の部材であり、その下方に搬送される被記録媒体101の厚み方向から見た媒体押さえ部303の形状は、搬送方向前方の先端に向かうにつれて先細りとなっていると好ましい。また、先端付近では垂下する板状の部分が設けられており、その板状の部分は更に先端に向かうにつれて下方に広がる三角形状を有していると好ましい。ただし、媒体押さえ部303の形状は、その機能を果たすのに適した形状であれば特に限定されない。
被記録媒体101は、排出ローラ154からフェイスダウン方式で排出されるが、その主面に印刷されたインク組成物から溶媒が除去される前に排出されるため、主面側が膨張した状態で排出される。特に、被記録媒体101が、搬送方向に繊維(例えばセルロース)が配向した普通紙等であると、繊維間の水素結合が溶媒(水性溶媒)により切断されて主面が膨張するため、被記録媒体101は幅方向両端から上方に巻回するように排紙カールを形成しようとする。
本実施形態では、被記録媒体101が排出された直後の位置に媒体ガイド301が設けられている。これにより、被記録媒体101は、排紙カールなどの変形(以下、単に「排紙カール等」という。)を形成するよりも前に、あるいは排紙カール等を多少形成したところで、媒体ガイド301にその先端が衝突し、さらに、搬送方向前方に排出されることで、強制的に、幅方向から見て主面を凹面にして湾曲する。この際、円滑に湾曲させるには、被記録媒体101の先端が媒体ガイド301に衝突した後にすぐさま排紙トレイ106側に向くようにすることが好ましい。そのような観点から、被記録媒体101が媒体ガイド301に衝突したときの、被記録媒体101と媒体ガイド301とがなす角度θ1が100〜160°であると好ましく、120〜150°であるとより好ましい。
被記録媒体101を、幅方向から見て主面を凹面にして湾曲すると、上記排紙カールにおける湾曲に対して交差する方向に湾曲し、かつ、排紙カールにおける主面を凸面にした湾曲に対して、逆に主面を凹面にした湾曲となるため、排紙カールの形成に対する抑止力が働き、特に排紙カールの形成が抑制される。この状態で被記録媒体101が排出されることにより、その間に主面から溶媒が除去され、主面の膨張が低減する。したがって、その後に、被記録媒体101が排出ローラ154から完全に排出されて、媒体ガイド301による下方への湾曲作用がなくなっても、排紙カール等の形成は防止又は軽減されることになる。
なお、排紙カールを抑制するには、幅方向から見て主面を凹面にするよう被記録媒体101を湾曲させるのが好ましいが、搬送方向から見て主面を凹面にするよう湾曲させてもよい。この場合であっても、排紙カールを抑制するよう湾曲しており、排紙カールの抑制効果を得ることができる。
また、媒体押さえ部303は、載置手段である排紙トレイ106と共に、複数の被記録媒体101をその積層方向から挟み込む。これにより、被記録媒体101に多少の変形が残っていても、複数の被記録媒体101を良好に積層(積載)することができる。かかる媒体押さえ部303がないと、被記録媒体101に多少の変形が残存した場合、その変形に起因して、積層した被記録媒体101が部分的に浮き上がったりして、被記録媒体101を安定的に積層できないため、例えば積層した被記録媒体が互いに異なる方向に向いて積層されたり、一部の被記録媒体101が排紙トレイ106からはみ出たり、落下したりして、良好な積層状態を維持し難くなる傾向にある。かかる観点から、媒体押さえ部303は、それを排紙トレイ106側に付勢する機構を備えることが好ましい。これにより、媒体押さえ部303は、排紙トレイ106と共に、複数の被記録媒体101をその積層方向により確実に狭持することができるので、一層揃った状態で複数の被記録媒体101を積層することができる。
媒体押さえ部303は、図2及び3に示すような形状、特に先細りの形状及び先端付近で垂下する板状の部分が設けられている形状を有することにより、上記機能をより有効に示すことができる。さらには、その板状の部分が更に先端に向かうにつれて下方に広がる三角形状を有していることで、媒体押さえ部303は、被記録媒体101が湾曲してその幅方向の両端が浮き上がった状態で排出されても、排紙トレイ106上に複数の被記録媒体101を更に揃った状態で積層することができる。また、媒体押さえ部303は、上記機能をより効果的に示す観点から、被記録媒体101の幅方向中心付近に、その先端が位置するよう設けられることが好ましい。
インクジェット記録装置100に具備される上記以外の構成は、従来公知の構成であってもよい。
次に、本実施形態のインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に用いられるインク組成物について、詳細に説明する。
本実施形態に係るインク組成物は、本実施形態による効果をより有効に奏する観点から、後述の(A)、(B)及び(C)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有すると好ましい。また、このインク組成物は、安全性、取り扱い性、各種性能(発色性、裏抜け適性、インク信頼性)の観点から、インクの主溶媒が水である水性インク組成物であることが好ましく、水はイオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水を用いることが好ましい。特に紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理した水を用いることが、カビやバクテリアの発生を防止してインクの長期保存を可能にする点で好ましい。インクの適正な物性値(粘度等)の確保、インクの安定性及び信頼性の確保という観点で、水はインク組成物中に60質量%〜10質量%含まれることが好ましい。
インク組成物に含まれる水の含有量を上記の範囲に規定することにより、普通紙中のセルロースに吸収される水分量が従来のインク組成物よりも少なくなる結果、コックリングやカール(上記排紙カール、及び乾燥後に被記録媒体が排紙カールとは逆側に巻回する永久カールの両方)の原因と考えられているセルロースの膨潤を抑制することができる。以下、コックリング又はカールを抑制するのに適した性質を、それぞれ「コックリング適性」、「カール適性」ともいう。
水分含有量が10質量%未満の場合は、被記録媒体への定着性が低下する場合がある。一方、水分含有量が60質量%を超える場合は、従来の水性インク組成物と同様、インク吸収性が乏しい紙支持体の吸収層を有する被記録媒体に対して印刷する際に、コックリングやカールが発生しやすい。
インクの10℃〜40℃の温度範囲における粘度は、インクに含まれる着色剤、保湿剤、溶剤等の持つ温度特性に影響を受ける。これらの中では特に保湿剤の影響が大きく、保湿剤の種類や添加量、含有比によっては、10℃での粘度がより上がりやすく、40℃での粘度がより下がりやすい。なお、本明細書中では、10℃〜40℃での粘度差がより少ないことを、インクの温度による粘度特性に優れると表記する。
本実施形態に係るインク組成物は、カール、コックリング適性、裏抜け適性、目詰まり適性、インクの温度による粘度特性のバランスを適正に保つという観点から、下記(A)、(B)及び(C)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。これらの化合物は保湿剤としても作用する。ここで(A)の化合物は、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であり、(B)の化合物は、トリメチロールプロパン及びトリメチロールエタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であり、(C)の化合物は、ベタイン類、糖類及び尿素類からなる群より選ばれ、かつ分子量が100〜200の範囲にある、少なくとも1種の化合物である。
(A)の化合物は、特に目詰まりの抑制に対して効果があり、また、カール、コックリングの抑制に対しても効果を合わせ持つ物質である。しかしながら、その優れた被記録媒体への浸透性から裏抜け適性には劣る物質である。上述の効果をより有効かつ確実に奏する観点から、(A)の化合物として、グリセリン及びトリエチレングリコールが好ましい。
(B)の化合物は、特に目詰まりの抑制に対して効果があり、また、浸透抑制効果を持つため裏抜け適性に優れる物質である。それらの効果をより有効かつ確実に奏する観点から、(B)の化合物として、トリメチロールプロパンが好ましい。
(A)及び(B)の化合物は、その物質のもつ10℃〜40℃での粘度差が大きいという特性のため、インク組成物中の含有量が増えるに従って、温度による粘度特性に大きく影響し、インク組成物も10℃〜40℃での粘度差が大きくなる。
(C)の化合物は、特にカール、コックリング適性に優れる物質である。また、この化合物は、温度による粘度特性に優れる物質である。(C)の化合物として、具体的には、グリシンベタイン(分子量117、「トリメチルグリシン」ともいう。)、γ−ブチロベタイン(同145)、ホマリン(同137)、トリゴネリン(同137)、カルニチン(同161)、ホモセリンベタイン(同161)、バリンベタイン(同159)、リジンベタイン(同188)、オルニチンベタイン(同176)、アラニンベタイン(同117)、スタキドリン(同185)及びグルタミン酸ベタイン(同189)等のアミノ酸のN−トリアルキル置換体であるベタイン類、グルコース(同180)、マンノース(同180)、フルクトース(同180)、リボース(同150)、キシロース(同150)、アラビノース(同150)、ガラクトース(同180)及びソルビトール(同182)等の糖類、アリル尿素(同100)、N,N−ジメチロール尿素(同120)、マロニル尿素(同128)、カルバミル尿素(同103)、1、1−ジエチル尿素(同116)、n−ブチル尿素(同116)、クレアチニン(同113)及びベンジル尿素(同150)の尿素類が挙げられる。また、その分子量が100未満であると、10℃〜40℃での粘度差が大きくなる傾向が強くなる。一方で、その分子量が200以上であると、インク組成物中のその化合物の添加量に対して、インク組成物の粘度が増加しやすい。そのため、(C)の化合物の分子量は100〜200の範囲であることが好ましい。これらの中では、カールを抑制する効果が特に高いことから、ベタイン類及び糖類が好ましく、ベタイン類がより好ましい。同様の観点から、ベタイン類としてはグリシンベタインがより好ましく、糖類としてはソルビトールがより好ましく、これらの中ではグリシンベタインが特に好ましい。グリシンベタインとして、例えば、アミノコート(旭化成ケミカルズ社製)等の市販品を使用することもできる。
これら化合物は、カール適性、コックリング適性、裏抜け適性、目詰まり適性の観点から、(A)、(B)及び(C)の合計量でインク組成物中に10質量%〜40質量%含まれることが好ましい。
また、それらの化合物について、含有量の質量比は、それらの化合物による上記効果をバランス良く発揮させる観点から、(A):(B):(C)=(1.0):(0.1〜1.0):(1.0〜3.5)であると好ましい。(A)の群から選ばれる化合物(「(A)の化合物」という。以下同様。)に対して、(B)の化合物の質量比を上記よりも多くすると、カール適性及びコックリング適性が低下し、少なくすると、裏抜け適性が低下する。(A)の化合物に対して、(C)の化合物の質量比を上記よりも多くすると、目詰まり適性が低下し、少なくすると、カール適性及びコックリング適性が低下する。
また、本実施形態に係るインク組成物は、インクジェットヘッドのノズル近傍での目詰まり防止やインクの被記録媒体への浸透性や滲みを適度に制御したり、インクの乾燥性を付与する目的で、水溶性有機溶剤を含有することが好ましい。水溶性有機溶剤は、上記観点から、1,2−アルカンジオール及び/又はグリコールエーテルを含有することが好ましい。1,2−アルカンジオールの具体的な例としては、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオールが挙げられる。また、グリコールエーテルの具体的な例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテルが挙げられる。また、上記以外に、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンなども水溶性有機溶剤として用いることができる。これらの水溶性有機溶剤は1種又は2種以上を用いることができ、インクの適正な物性値(粘度等)の確保、印刷品質、信頼性の確保という観点で、インク組成物中に1質量%〜50質量%含まれることが好ましい。
さらに、インクの被記録媒体への濡れ性を制御し、被記録媒体への浸透性やインクジェット記録方法における印字安定性を得るために、インク組成物は表面張力調整剤を含有することが好ましい。表面張力調整剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤やポリエーテル変性シロキサン類が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の例としては、サーフィノール420、440、465、485、104、STG(以上、エアープロダクツ社製、製品名)、オルフィンPD−001、SPC、E1004、E1010(以上、日信化学工業(株)製、製品名)、アセチレノールE00、E40、E100、LH(以上、川研ファインケミカル(株)製、製品名)が挙げられる。またポリエーテル変性シロキサン類としては、BYK−346、347、348、UV3530(ビックケミー社製品)などが挙げられる。これらは、インク組成物中に1種又は2種以上用いることができ、インク組成物の表面張力を好ましくは20mN/m〜40mN/mに調整するよう含まれ、好ましくはインク組成物中に0.1質量%〜3.0質量%含まれる。
また、必要に応じて、インク組成物に、pH調整剤、錯化剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐・防カビ剤等を添加することもできる。pH調整剤としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリ及び/又はアンモニア、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等のアルカノールアミンを用いることができる。特に、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミンから選択される少なくとも1種類のpH調整剤を含み、pH6〜10に調整されることが好ましい。pHがこの範囲を外れると、インクヘットプリンタを構成する材料等の悪影響を与え、目詰まり回復性が劣化する傾向にある。
本実施形態に係るインク組成物は、画像形成や印字を目的として顔料を含むことが好ましい。本実施形態に係るインク組成物に用いられる顔料としては、公知の無機顔料及び有機顔料のいずれをも用いることができる。そのような顔料としては、例えば、カラーインデックスに記載されているピグメントイエロー、ピグメントレッド、ピグメントバイオレット、ピグメントブルー、ピグメントブラック等の顔料の他、フタロシアニン系、アゾ系、アントラキノン系、アゾメチン系、縮合環系等の顔料が例示できる。また、黄色4号、5号、205号、401号;橙色228号、405号;青色1号、404号等の有機顔料や、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化鉄、群青、紺青、酸化クローム等の無機顔料が挙げられる。顔料のカラーインデックスとしては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1,3,12,13,14,17,24,34,35,37,42,53,55,74,81,83,95,97,98,100,101,104,108,109,110,117,120,128,138,150,153,155,174,180,198、C.I.ピグメントレッド1,3,5,8,9,16,17,19,22,38,57:1,90,112,122,123,127、146,184、202、C.I.ピグメントバイオレッド1,3,5:1,16,19,23,38、C.I.ピグメントブルー1,2,15,15:1,15:2,15:3,15:4,16、C.I.ピグメントブラック1,7が挙げられ、1種又は2種以上の顔料をインク組成物に含んでもよい。
本実施形態に用いられる顔料は、樹脂分散型の態様であってもよい。そのような態様の顔料は、高分子分散剤や界面活性剤などの分散剤と共に、ボールミル、ロールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、高速攪拌型分散機などを用いて水性媒体中に分散させた顔料分散液として、あるいは、顔料表面に分散性付与基(親水性官能基及び/又はその塩)を直接又はアルキル基、アルキルエーテル基、アリール基等を介して間接的に結合させ、分散剤なしで水性媒体中に分散及び/又は溶解する自己分散型顔料として加工され、水性媒体中に分散させた顔料分散液として、インク組成物中に配合されることが好ましい。
分散剤の例としては、高分子分散剤として、にかわ、ゼラチン、サポニンなどの天然高分子化合物やポリビニルアルコール類、ポリピロリドン類、アクリル系樹脂類(ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体など)、スチレン−アクリル酸系樹脂類(スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−酢酸ビニルーアクリル酸共重合体など)、スチレン−マレイン酸系樹脂類、酢酸ビニル−脂肪酸ビニル−エチレン共重合体の樹脂類など及びこれらの塩などの合成高分子化合物が挙げられ、共重合体の構成はランダムタイプ、ブロックタイプ、グラフトタイプのいずれでもよい。
また、分散剤として用いられる界面活性剤としては、脂肪酸塩類、高級アルキルジカルボン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩類、高級アルキルスルホン酸塩などのアニオン性界面活性剤、脂肪酸アミン塩、脂肪酸アンモニウム塩などのカチオン性界面活性剤、ポリオオキシアルキルエーテル類、ポリオキシアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類などのノニオン性界面活性剤が挙げられる。
これらの分散剤の中で、特に水不溶性樹脂が好ましい。水不溶性樹脂として、具体的には、疎水性基を有するモノマーと親水性基を有するモノマーとのブロック共重合体樹脂からなり、少なくとも塩生成基を有するモノマーを含有しているもので、中和後に25℃の水100gに対する溶解度が1g未満である樹脂が好ましい。疎水性基を有するモノマーとしては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類や酢酸ビニル等のビニルエステル類やアクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体類が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。親水性基を有するモノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタアクリレート、エチレングリコール・プロピレングリコールモノメタアクリレートが挙げられ、これらは1種を単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。塩生成基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンカルボン酸、マレイン酸が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。さらに、片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロモノマー、シリコーン系マクロモノマーなどのマクロモノマーやその他のモノマーを併用することもできる。
この水不溶性樹脂は、エチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等のアルカリ中和剤で中和した塩として用いることが好ましく、重量平均分子量が10000〜150000程度のものが、顔料を安定的に分散させる点で好ましい。
分散剤なしに水に分散及び/又は溶解が可能な自己分散型顔料は、例えば、顔料に物理的処理又は化学的処理を施すことで、分散性付与基又は分散性付与基を有する活性種を顔料の表面に結合(グラフト)させることによって製造される。物理的処理としては、例えば真空プラズマ処理が例示できる。また、化学的処理としては、例えば水中で酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法や、p−アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法が例示できる。自己分散型顔料を含有するインク組成物は、通常の顔料を分散させるために含有させる前述のような分散剤を含む必要がないため、分散剤に起因する消泡性の低下による発泡がほとんどなく、吐出安定性に優れるインクを調製しやすい。また、分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるので、顔料をより多く含有することが可能となり、印字濃度を十分に高めることが可能になる、あるいは、取り扱いが容易となる。このような利点があることから、自己分散型顔料は、特に高濃度を必要とするブラックインク組成物に有効であり、本実施形態のインク組成物として用いるブラックインク組成物には、分散剤なしに水に分散及び/又は溶解が可能な自己分散型顔料が少なくとも含まれることが好ましい。
本実施形態においては、次亜ハロゲン酸及び/又は次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、又はオゾンによる酸化処理により表面処理される自己分散型顔料が、高発色という点で好ましい。また、自己分散型顔料として市販品を利用することも可能であり、そのような市販品として、マイクロジェットCW−1(商品名;オリヱント化学工業(株)製)、CAB−O−JET200、CAB−O−JET300(以上商品名;キャボット社製)が例示できる。
また、これらの顔料は、インクの保存安定性やノズルの目詰まり防止等の観点から、インク中での体積平均粒子径が50nm〜200nmの範囲であることが好ましい。これらの体積平均粒子径は、Microtrac UPA150(マイクロトラック社製)や粒度分布測定機LPA3100(大塚電子(株)製)等の粒径測定によって得ることができる。
これらの顔料は、インク組成物中に6質量%以上の範囲で含有されることが好ましい。その含有量が6質量%未満では印字濃度(発色性)が不充分である場合がある。また、その含有量の上限は特に限定されないが、例えば、含有量が25質量%以下であってもよい。含有量が25質量%よりも大きいと、ノズルの目詰まりや、吐出の不安定を起こす等の信頼性に不具合が生じる場合がある。
本実施形態に係るインク組成物は、被記録媒体への定着性を高める等の観点から、樹脂エマルジョンを含むことが好ましい。樹脂エマルジョンは、最低造膜温度が20℃未満の樹脂粒子を含むことが好ましい。樹脂エマルジョンとして、最低造膜温度が20℃未満の樹脂粒子を含むものを用いることにより、通常20℃以上である使用環境下の周囲温度において、樹脂粒子が膜化するので、インク組成物の被記録媒体への定着性や耐擦性を向上させる。
ここで、最低造膜温度は、下記のようにして測定される。まず、温度勾配試験装置のステンレス板上に0.3mmの厚さに樹脂エマルジョンを塗布する。塗布後、直ちにシリカゲルの入ったバスケットを板の上にのせ、透明プラスチック製の蓋で覆う。塗膜が乾燥した後、一様な連続皮膜部分と白濁している部分の境界部の温度を読み取り、最低造膜温度とする。
これらの樹脂エマルジョンとしては、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂からなる群より選択される1種又は2種以上の樹脂粒子を含むものであることが好ましい。これらの樹脂はホモポリマーとして使用されてもよく、また、コポリマーして使用されてもよく、単相構造及び複相構造(コアシェル型)のいずれのものも使用できる。
さらに、本実施形態で用いられるインク組成物に含まれる樹脂エマルジョンは、少なくともいずれかが、不飽和単量体の乳化重合によって得られた樹脂粒子のエマルジョンの形態で、インク組成物中に配合されることが好ましい。樹脂粒子を単独でインク組成物中に添加しても、該樹脂粒子の分散が不十分となる場合があるため、インク組成物の製造上、エマルジョンの形態が好ましい。また、エマルジョンとしては、インク組成物の保存安定性の観点から、アクリル樹脂粒子のエマルジョン、すなわちアクリルエマルジョンが好ましい。
樹脂粒子のエマルジョン(アクリルエマルジョン等)は、公知の乳化重合法により得ることができる。例えば、不飽和単量体(不飽和ビニルモノマー等)を、重合開始剤及び界面活性剤を存在させた水中において乳化重合することによって得ることができる。
不飽和単量体としては、例えば、一般に乳化重合で使用されるアクリル酸エステル単量体、メタクリル酸エステル単量体、芳香族ビニル単量体、ビニルエステル単量体、ビニルシアン化合物単量体、ハロゲン化単量体、オレフィン単量体、ジエン単量体が挙げられる。
不飽和単量体として、さらに具体的には、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−へキシルアクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート等のアクリル酸エステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル;酢酸ビニル等のビニルエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物;塩化ビニリデン、塩化ビニル等のハロゲン化単量体;スチレン、α−チルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン;ブタジエン、クロロプレン等のジエン;ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニル単量体;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸;アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N'−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基含有単量体が挙げられる。これらは1種を単独又は2種以上を混合して用いられる。
また、重合可能な二重結合を2つ以上有する架橋性単量体も、不飽和単量体として使用することができる。重合可能な二重結合を2つ以上有する架橋性単量体の例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2'−ビス(4−アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2'−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート化合物;トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物;ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のテトラアクリレート化合物;ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のヘキサアクリレート化合物;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2'−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート化合物;トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物;メチレンビスアクリルアミド;ジビニルベンゼンが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を混合して用いられる。
また、乳化重合の際に使用される重合開始剤及び界面活性剤の他に、連鎖移動剤、さらには中和剤等も常法に準じて使用してよい。特に中和剤としては、アンモニア、無機アルカリの水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが好ましい。
本実施形態において、樹脂エマルジョンは、インク組成物のインクジェット適性物性値、信頼性(目詰まりや吐出安定性等)、定着性等をより有効に得る観点から、インク組成物中の樹脂粒子が1質量%〜10質量%の範囲となるよう、含有されることが好ましい。
インク組成物に含まれる樹脂エマルジョンの体積平均粒子径は、インク組成物中における樹脂粒子の分散安定性の観点及び定着性の観点から、5nm〜400nmであることが好ましく、50nm〜200nmであることがより好ましい。この体積平均粒子径は、例えばコールターカウンターN4(コールター社製、商品名)を用いて測定される。
本実施形態に係る記録物は、上記インクジェット記録方法によって記録が行われて得られるものである。この記録物は、本実施形態に係るインクジェット記録方法により得られることにより、排紙カール等の変形を抑制されたものである。しかも、目詰まりも抑制されているため、インク組成物が所望のとおりに被記録媒体に着弾し、ドット抜けなどの少ない画像が形成された記録物となる。また、この記録物は、インクの安全性、安定性に優れ、種々の被記録媒体について、使用温度によらず、常に同等の記録品質を実現すると共に、普通紙について、優れたカール適性、コックリング適性、裏抜け適性、両面印刷適性を有する。
本実施形態のインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置によると、姿勢制御手段である媒体ガイド301を用いることにより、フェイスダウン方式で排出された被記録媒体についても、その排紙カール等の変形の発生を抑制することができる。また、積層制御手段である媒体押さえ部303を用いることにより、被記録媒体が多少変形した状態にあっても、その積層状態を整えることができる。さらに、水を含むインク組成物を用いて印刷する場合であっても、そのインク組成物が更に上記(A)、(B)及び(C)のいずれか1種以上の化合物を含むことで、インク組成物を用いた印刷に起因するカールやコックリングなどの変形も抑制できるので、上述の媒体ガイド301による変形の抑制と相俟って、一層有効且つ確実に被記録媒体(記録物)の変形を有効に防止することができる。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、本発明の別の実施形態において、媒体ガイドの屈曲した部分から搬送方向前方の先端までの長さL1(図3に示す。)は、A4サイズの被記録媒体の搬送方向の長さに対して1/20〜1/2であることが好ましく、1/11〜1/4であることがより好ましい。長さL1が、被記録媒体の幅に対して1/20以下であると、排紙カールの湾曲に対して交差する方向に強制的に湾曲できる長さが短くなるため、排紙カールの抑制が低減する傾向にある。また、長さL1が、被記録媒体の幅に対して1/2を超えると、排紙カールの抑制効果がそれ以上向上せず、印字が終了した後に積み重ねられる被記録媒体101にその媒体ガイドが接触してしまう結果、被記録媒体の積層可能な数が減少する傾向にある。
姿勢制御手段の形状、個数、寸法及び配置は、その機能を有するのに適していれば、上記本実施形態に示すものに限定されない。同様に、積層制御手段の形状、個数、寸法及び配置は、その機能を有するのに適していれば、上記本実施形態に示すものに限定されない。したがって、姿勢制御手段は、排出手段から排出された被記録媒体の先端と衝突し、更に被記録媒体の搬送方向前方への搬送により、それを強制的に載置手段側に(主面を凹面にして)湾曲させるような面を有するものであればよい。さらに、別の本実施形態において、姿勢制御手段は、排紙カールによる湾曲を矯正するような方向に被記録媒体を押さえつけるような形状、個数、寸法及び配置であればよく、例えば、被記録媒体を、その搬送方向から見て主面を凹面にして湾曲するものであってもよい。また、上記媒体ガイドと同様に、複数個の姿勢制御手段がインクジェット記録装置の筐体の外壁に設けられ、その複数個の姿勢制御手段は、お互いの間隔が、印刷される被記録媒体の幅方向の寸法に応じて、自動又は手動で変化するものであってもよい。これにより、被記録媒体の幅に対応して、適切な位置に姿勢制御手段が配置されるので、被記録媒体を効率よく湾曲させることが可能となる。
また、積層制御手段は、被記録媒体の幅方向両端が多少上方に湾曲して浮き上がっていても、排紙トレイなどの載置手段と共に、積層した複数の被記録媒体を挟み込むことができ、それにより被記録媒体の積層状態を整えるものであってもよい。例えば、積層制御手段は、その搬送方向前方の先端に搬送方向に回転するローラを有する他は、上記媒体押さえ部と同様のものであってもよい。あるいは、積層制御手段は、排出された被記録媒体を載置手段と共に上下から挟み込むようにして積層できるよう、排紙トレイなどの載置手段に取り付けられたローラ状のものであってもよい。さらには、インクジェット記録装置は、減圧吸引部を備えていなくてもよい。
図4は、本発明のなおも別の実施形態のインクジェット記録装置の特に用紙搬送部を模式的に示す概略図である。本実施形態のインクジェット記録装置200は、インクジェットヘッドユニット290におけるインクジェットヘッド(図示せず)がラインヘッドではなくシリアルヘッドである。また、インクジェット記録装置200は、搬送手段の一部としての搬送ベルト130を備えず、よって、搬送ベルトを駆動する駆動ローラ180、従動ローラ170及びモータ115、並びに減圧吸引部210をも備えず、それに代えて、プラタン部230を備えている。この場合、印刷前後において被記録媒体101は搬送ローラ140及び排紙ローラ150により搬送され、かかる搬送方式は、いわゆるローラ搬送方式である。本実施形態のインクジェット記録装置200は、上述以外は、上記インクジェット記録装置100と同様の構成を備える。
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[着色剤の準備]
(顔料分散液M1)
有機溶媒(メチルエチルケトン)20質量部、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.03質量部、重合開始剤、及び表1に示す各モノマーを用い、窒素ガス置換を十分に行った反応容器内に入れて75℃攪拌下で重合し、モノマー成分100質量部に対してメチルエチルケトン40質量部に溶解した2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル0.9質量部を加え、80℃で1時間熟成させ、ポリマー溶液を得た。
得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたうちの5質量部をメチルエチルケトン15質量部に溶かし、水酸化ナトリウム水溶液を用いてポリマーを中和した。さらに、C.I.ピグメントレッド122を15質量部加え、更に水を加えながら分散機で混練した。得られた混練物にイオン交換水100質量部を加え攪拌した後、減圧下、60℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、固形分濃度が20質量%のマゼンタ顔料の水分散体(顔料分散液M1)を得た。
この分散液の顔料の体積平均粒子径をMicrotrac UPA150(Microtrac社製)の粒度分布測定により測定したところ、140nmであった。
[樹脂エマルジョンの調製]
最低造膜温度が20℃未満の樹脂エマルジョン(ポリマー1)は、水中で、アクリルアミド20gにメチルメタクリレート600g、n−ブチルアクリレート125g、メタクリル酸30g、トリエチレングリコールジアクリレート5gを乳化重合することにより製造した。エマルジョン中の樹脂粒子の体積平均粒子径は50nm、最低造膜温度は10℃であった。なお、樹脂粒子の体積平均粒子径は、コールターカウンターN4(コールター社製、商品名)を用いて測定し、最低造膜温度は上述のようにして測定した。
[インク組成物の調製]
表2に示す割合で各成分を混合し、室温にて2時間攪拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターにて濾過して、製造例1〜7の各インク組成物を調製した。ただし、表2中に示す添加量は全て質量%の濃度として表されており、顔料分散液の( )内の数字は顔料の固形分濃度(質量%)を示し、樹脂エマルジョンの( )の数字は樹脂粒子濃度(質量%)を示す。またイオン交換水の「残量」とは、インク組成物の全量が100質量%となるようにイオン交換水を加えることを意味する。
<各種評価>
(試験1)コックリング評価
プリンタとして、PX−5800(セイコーエプソン製)を、外部コントローラーにより、打ち込み量、紙送り、インクジェットヘッドユニットに備えられるキャリッジの移動を制御できるように機構を改造したものを使用し、普通紙であるゼロックスP(富士ゼロックス社製)に対して12mg/inch2の打ち込み量で上記各インク組成物により印刷(印字)した。その後、所定時間キャリッジを空走し、ヘッドこすれが発生した時間を測定し、以下の評価基準でコックリングの状態を判定した。
A:10秒以上ヘッドこすれが発生しなかった。
B:5〜10秒の間でヘッドこすれが発生した。
C:5秒未満でヘッドこすれが発生した。
結果を表3に示す。
(試験2)目詰まり回復性
プリンタとして、PX−B500(セイコーエプソン製)を用いて、10分間連続して印刷し、全てのノズルから正常にインク組成物が吐出していることを確認した後、インクカートリッジを取り外し、記録ヘッドをヘッドキャップから外した状態で、40℃の環境下に1週間放置した。放置後、全ノズルが初期と同等に吐出するまでクリーニング動作を繰り返し、以下の判断基準により、回復しやすさを評価した。
A:6回未満のクリーニング操作で初期と同等に回復
B:6回〜8回のクリーニング操作で初期と同等に回復
C:クリーニング9回以上で初期と同等に回復
結果を表3に示す。