しかしながら、上述した歯列矯正方法においては、初期歯型模型の各模型歯を分割して、セットアップ歯型模型を作製する作業は、歯列矯正後の目標とする理想的な歯並びに配列しなおすもので歯列矯正における根幹であり、セットアップ歯型模型の作製品質が歯列矯正の結果に大きく影響するため、セットアップ歯型模型の作製には高度な熟練度が必要であった。
また、歯列矯正ワイヤにおいても、歯列矯正ワイヤの曲げ具合に応じて患者の歯列が変位するものなので、セットアップ歯型模型が正確に作製されたとしても歯列矯正ワイヤが理想的な歯並びになるべき意図した形状になっていなかった場合には、歯列矯正後に所望の理想的な歯列を得ることができない。従って、歯列矯正ワイヤの作製品質が歯列矯正の結果に大きく影響するため、歯列矯正ワイヤの作製には高度な熟練度が必要であった。
また、初期歯型模型は、セットアップ歯型模型を作製するためのものなので、初期歯型模型からセットアップ歯型模型を作製するのに要する時間は、患者を診察するための時間を遅延させるものとなり、更には、医師等が治療計画等を検討するための時間をも遅延させる結果となっており、迅速な治療方法の導入が望まれていた。
また、歯列矯正ワイヤを位置決め固定するためのアームがセットアップ歯型模型の各模型歯の外形部分である切縁や咬頭頂にはみ出しているため、各模型歯に歯列矯正ブラケットを接合した場合に、レジンを注入して歯列矯正ブラケットと各模型歯とを接合して形成する歯列矯正ブラケットの接合部に各模型歯の外形を正確に写すことができない。よって、患者の口腔内の各歯に接合部と一体の歯列矯正ブラケットを取り付ける際に、最適な位置に取り付けることができないといった問題があった。
更に、歯列矯正ワイヤと各アームとは、固着されているために、歯列矯正ワイヤを挿通するタイプの歯列矯正ブラケットでは各アームが障害となるために使用できないといった問題があった。
また、歯列矯正ワイヤをセットアップ歯形模型に複数のアームによって固着させる場合に、隣接する全ての模型歯の所定の個所を通る同一水平面上に歯列矯正ワイヤが正確に揃うようにアームに固着しなければ、歯列矯正後に所望の理想歯列を得ることができない。従って、歯列矯正ワイヤをアームに正確に配するための高度な熟練度が必要であった。
更に、歯列矯正ワイヤは、アームの内部で真鍮製の棒と「ろう付け」されているので、各道具の加工・調整作業で使用した歯列矯正ワイヤを実際の患者に使用することができず、別途作製するといった煩わしさがあった。
また、舌側の歯列矯正方法においては、各歯の形状との関係から、2箇所に極端な曲げ加工を施したマッシュルーム形状の歯列矯正ワイヤを使用する必要があり、理想的な歯列矯正方法として、曲げ加工部を有さないアーチ形状の歯列矯正ワイヤの使用が望まれていた。
更に、挿通タイプの歯列矯正ブラケットは、マッシュルーム形状の歯列矯正ワイヤでは極端な曲げ加工部が障害となって、歯列矯正ブラケットを患者の口腔内の各歯面に取付けた後では挿通することができず、患者に対して挿通タイプのブラケットを使用することができないといった問題があった。
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、唇側と舌側の歯列矯正において、熟練度を要さずに歯列矯正に必要な道具を作製することができる歯列矯正支援装置等を提供することにある。
以上のような目的を達成するために、本発明は以下のようなものを提供する。
請求項1に記載の発明では、入力された三次元初期歯型印象データに基づいて、矯正後の理想的な歯列となるべき三次元理想歯型印象データと歯列矯正ワイヤを仮止めするための三次元台座データを有する歯列矯正ワイヤ形成用模型のための三次元模型データを作成し、模型製作を可能とする外部装置に三次元模型データを出力して歯列矯正ワイヤ形成用模型を製作するための歯列矯正支援装置であって、前記三次元初期歯型印象データを、前記三次元理想歯型印象データに変換する変換手段と、前記三次元理想歯型印象データで示される仮想歯列に装着すべき馬蹄形状の仮想歯列矯正ワイヤの位置を特定する位置特定手段と、前記位置特定手段によって特定された前記仮想歯列矯正ワイヤの位置データを基に、前記三次元理想歯型印象データ上に三次元台座データを作成する三次元模型データ作成手段と、を備え、前記三次元模型データ作成手段では、前記三次元模型データは仮想基台を作成し、前記仮想基台上に前記三次元理想歯型印象データによる前記仮想歯列と前記三次元台座データによる仮想台座とを備え、更に、前記三次元模型データは仮想歯肉部を有さず、各仮想歯は歯根の先端部を前記仮想基台上に人手によって切り出し自在となるように立設してなる出力可能な三次元模型データを作成することを特徴とする歯列矯正支援装置。
請求項2に記載の発明では、前記位置特定手段は、前記三次元理想歯型印象データで示される前記仮想歯列の仮想歯面において前記仮想歯列矯正ワイヤと前記仮想歯面との間がオフセットされるように位置が特定されることを特徴とする請求項1に記載の歯列矯正支援装置。
請求項3に記載の発明では、前記位置特定手段は、前記三次元理想歯型印象データで示される前記仮想歯列の唇側の仮想歯面において前記仮想歯列矯正ワイヤと前記仮想歯面との間が歯列矯正ブラケットとレジンの厚み分だけオフセットされるように位置が特定されることを特徴とする請求項2に記載の歯列矯正支援装置。
請求項4に記載の発明では、前記位置特定手段は、前記三次元理想歯型印象データで示される前記仮想歯列の舌側の仮想歯面において前記仮想歯列矯正ワイヤと前記仮想歯面との間が歯列矯正ブラケットとレジンの厚み分だけオフセットされるように位置が特定されることを特徴とする請求項2に記載の歯列矯正支援装置。
請求項5に記載の発明では、前記三次元模型データ作成手段は、隣接する各仮想歯との間から前記仮想歯列矯正ワイヤに向かって前方に複数の三次元台座データを設けることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の歯列矯正支援装置。
請求項6に記載の発明では、入力された三次元初期歯型印象データに基づいて、矯正後の理想的な歯列となるべき三次元理想歯型印象データと歯列矯正ワイヤを仮止めするための三次元台座データを有する歯列矯正ワイヤ形成用模型のための三次元模型データを作成し、模型製作を可能とする外部装置に三次元模型データを出力して歯列矯正ワイヤ形成用模型を製作するための歯列矯正支援装置が実行する歯列矯正支援方法において、前記三次元初期歯型印象データを、前記三次元理想歯型印象データに変換する変換手順と、前記三次元理想歯型印象データで示される仮想歯列に装着すべき馬蹄形状の仮想歯列矯正ワイヤの位置を特定する位置特定手順と、前記位置特定手順によって特定された前記仮想歯列矯正ワイヤの位置データを基に、前記三次元理想歯型印象データ上に三次元台座データを作成する三次元模型データ作成手順と、前記三次元模型データ作成手順では、前記三次元模型データは仮想基台を作成し、前記仮想基台上に前記三次元理想歯型印象データによる前記仮想歯列と前記三次元台座データによる仮想台座とを備え、更に、前記三次元模型データは仮想歯肉部を有さず、各仮想歯は歯根の先端部を前記仮想基台上に人手によって切り出し自在となるように立設してなる出力可能な三次元模型データの作成と、を歯列矯正支援装置が実行することを特徴とする歯列矯正支援方法。
請求項7に記載の発明では、入力された三次元初期歯型印象データに基づいて、矯正後の理想的な歯列となるべき三次元理想歯型印象データと歯列矯正ワイヤを仮止めするための三次元台座データを有する歯列矯正ワイヤ形成用模型のための三次元模型データを作成し、模型製作を可能とする外部装置に三次元模型データを出力して歯列矯正ワイヤ形成用模型を製作するための歯列矯正支援プログラムであって、前記三次元初期歯型印象データを、前記三次元理想歯型印象データに変換する変換手順と、前記三次元理想歯型印象データで示される仮想歯列に装着すべき馬蹄形状の仮想歯列矯正ワイヤの位置を特定する位置特定手順と、前記位置特定手順によって特定された前記仮想歯列矯正ワイヤの位置データを基に、前記三次元理想歯型印象データ上に三次元台座データを作成する三次元模型データ作成手順と、前記三次元模型データ作成手順では、前記三次元模型データは仮想基台を作成し、前記仮想基台上に前記三次元理想歯型印象データによる前記仮想歯列と前記三次元台座データによる仮想台座とを備え、更に、前記三次元模型データは仮想歯肉部を有さず、各仮想歯は歯根の先端部を前記仮想基台上に人手によって切り出し自在となるように立設してなる出力可能な三次元模型データの作成と、をコンピュータに実行させることを特徴とする歯列矯正支援プログラム。
請求項8に記載の発明では、請求項1に記載の歯列矯正支援装置によって作成された三次元模型データを三次元造形機に入力して製作されたことを特徴とする歯列矯正ワイヤ形成用模型。
請求項1記載の発明によれば、患者から採取した初期の歯列を示す三次元初期歯型印象データを歯列矯正支援装置に入力すれば、歯列矯正ワイヤ形成用模型を作製するための三次元模型データを作成することができる。三次元模型データは、歯列矯正ワイヤを仮止めするための複数の台座を有した理想的な歯列を示すもの、すなわち、従来のセットアップ歯型模型に複数の台座を加えたものであるため、従来のように、理想的な歯並びや歯列矯正ワイヤの形状、最適な取付位置といった高度な熟練度の基での検討を要さずに、これらの情報を三次元データ化することができる。
また、三次元模型データを三次元造形機に入力することで、歯列矯正ワイヤ形成用模型を作製することができる。よって、従来のように、医師等が実際に初期歯型模型の各模型歯を分割して、セットアップ歯型模型を作製すること、及びセットアップ歯型模型に歯列矯正ワイヤの最適な取付位置を検討して複数のアームで固着するといった高度な熟練度を要する作業が不要になると共に、作製時間の大幅な短縮が可能となる。
請求項2記載の発明によれば、歯列矯正ワイヤは、歯列矯正ワイヤと各模型歯面との間が、各模型歯に理想的な状態でオフセットされた位置に配置されるため、従来のように各模型歯の所定の個所を通る同一水平面等を考慮した上で歯列矯正ワイヤの位置を決定するといった作業に対する熟練度が不要である。
請求項3記載の発明によれば、唇側の歯列矯正方法において、歯列矯正ワイヤは、歯列矯正ワイヤと各模型歯面との間に位置する歯列矯正ブラケットとレジンの厚み分だけオフセットされた位置に配置されるため、従来のようにセットアップ歯型模型に対して歯列矯正ブラケットとレジンの厚みを考慮した上で歯列矯正ワイヤの位置を決定するといった作業に対する熟練度が不要である。
請求項4記載の発明によれば、舌側の歯列矯正方法において、歯列矯正ワイヤは、歯列矯正ワイヤと各模型歯面との間に位置する歯列矯正ブラケットとレジンの厚み分だけオフセットされた位置に配置されるため、従来のようにセットアップ歯型模型に対して歯列矯正ワイヤとレジンの厚みを考慮した上で歯列矯正ワイヤの位置を決定するといった作業に対する熟練度が不要である。
また、各歯の形状との関係が複雑であっても、歯列矯正ワイヤの適正な位置が自動的に算出されるので、マッシュルーム形状の歯列矯正ワイヤではなく、曲げ加工部を有さないアーチ形状の歯列矯正ワイヤを使用することが可能となる。
更に、従来であればマッシュルーム形状の歯列矯正ワイヤを患者の各歯に取付ける際には、挿通タイプの歯列矯正ブラケットが使用できなかったが、アーチ形状の歯列矯正ワイヤの使用によって、挿通タイプの歯列矯正ブラケットの使用が可能となる。
請求項5記載の発明によれば、各台座は模型歯面の真正面には配置されないため、台座と歯列矯正ブラケットが干渉することはなく、セットアップ歯型模型に歯列矯正ワイヤを固着するための従来のような複数のアームが不要となるため、レジンによって各模型歯の外形を写す際に広範囲に切縁や咬頭頂を含んだ接合部を形成することができる。よって、患者の口腔内の各歯に接合部と一体のブラケットを取り付ける際に、最適な位置に取り付けることができる。
請求項6記載の発明によれば、患者から採取した初期の歯列を示す三次元初期歯型印象データを歯列矯正支援装置に入力すれば、歯列矯正ワイヤ形成用模型を作製するための三次元模型データを作成することができる。三次元模型データは、歯列矯正ワイヤを仮止めするための台座を有した理想的な歯列を有するもの、すなわち、従来のセットアップ歯型模型に台座を加えたものであるため、従来のように、理想的な歯並びや歯列矯正ワイヤの形状、最適な取付位置といった高度な熟練度の基での検討を要さずに、これらの情報を三次元データ化することができる。
請求項7記載の発明によれば、患者から採取した初期の歯列を示す三次元初期歯型印象データを歯列矯正支援装置に入力すれば、歯列矯正ワイヤ形成用模型を作製するための三次元模型データを作成することができる。三次元模型データは、歯列矯正ワイヤを仮止めするための台座を有した理想的な歯列を有するもの、すなわち、従来のセットアップ歯型模型に台座を加えたものであるため、従来のように、理想的な歯並びや歯列矯正ワイヤの形状、最適な取付位置といった高度な熟練度の基での検討を要さずに、これらの情報を三次元データ化することができる。
請求項8記載の発明によれば、歯列矯正ワイヤ形成用模型の複数の台座の嵌合部に歯列矯正ワイヤが負荷なく収まるように歯列矯正ワイヤを加工するだけで、他の要素を一切考慮することなく熟練度を要さずに容易に歯列矯正ワイヤを作製することができる。
また、複数の嵌合部は歯列矯正ワイヤが位置すべき所望の箇所に配されているため、歯列矯正ワイヤは各嵌合部に仮止めするだけでよく、従来のように歯列矯正ブラケットやレジンの厚み、及び各歯に共通した水平面を考慮した上で歯列矯正ワイヤをセットアップ歯型模型に複数のアームによって固着するといった高度な熟練度が不要になると共に、作製時間の大幅な短縮が可能となる。
また、台座の嵌合部は歯列矯正ワイヤを固着するものではなく、何度でも歯列矯正ワイヤを取付けたり、取外したりすることができるので各道具の加工・調整作業が簡便となり、更に、加工・調整作業で使用した歯列矯正ワイヤそのものを実際の患者に使用することが可能となる。
また、台座の嵌合部に仮止めされた歯列矯正ワイヤに、歯列矯正ブラケットを取付ければ、歯列矯正ブラケットが各歯の歯面に接続されるべき正確な前後方向と上下方向の位置が自動的に決まるので、各歯面の左右方向に対する各中央部に各歯列矯正ブラケットを配置するだけで、高度な熟練度を要さずに歯列矯正ブラケットの取付位置を決めることができる。
また、歯列矯正ブラケットが挿通タイプであっても、歯列矯正ブラケットを予め歯列矯正ワイヤに挿通してから歯列矯正ワイヤ形成用模型の各台座の嵌合部に仮止めすることができる。よって、従来のように歯列矯正ワイヤを固着する複数のアームの存在によって挿通タイプの歯列矯正ブラケットが使用できないといった問題がない。
本発明の要旨は、入力された三次元初期歯型印象データに基づいて、矯正後の理想的な歯列となるべき三次元理想歯型印象データと歯列矯正ワイヤを仮止めするための複数の三次元台座データを有する歯列矯正ワイヤ形成用模型のための三次元模型データを作成すること、及び歯列矯正ワイヤ形成用模型を作製することにある。すなわち、高度な熟練度を要さずに歯列矯正ワイヤ形成用模型が作製でき、これに基づき容易に歯列矯正ワイヤの作製等をすることができる歯列矯正支援装置と歯列矯正支援方法、及び歯列矯正支援プログラム、更には歯列矯正ワイヤ形成用模型に関するものである。
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、歯列矯正の方法として、歯列の唇側の歯面(第三者から見える側の歯の表面)に歯列矯正ブラケットを取り付けて矯正する方法と、歯列の舌側の歯面(第三者から見えない側の歯の表面)に歯列矯正ブラケットを取り付けて矯正する方法の少なくとも2種類の歯列矯正方法があるが、本実施形態においては両者の大部分が共通するため、唇側の歯列矯正方法を中心に説明し、適宜、舌側についても説明する。
なお、説明においては、現実の患者の歯や、模型の歯、更には三次元データにおける歯等は、いずれも実際の対象が異なるが図面においては略同形状であるため、これらは全て同様の符号とし、模型については「模型・・」、三次元データについては「仮想・・」と表記することで対象を明確にして説明する。また、三次元データによって現わされる形状や特徴は、そのまま模型に反映されているものとする。
[第一の実施形態]
まず、本発明の第一の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第一の実施形態の歯列矯正支援装置1の概略構成を示す。歯列矯正支援装置1は、それぞれバス2で相互に接続されたメモリ装置3、演算処理装置4、インターフェース装置5、補助記憶装置6、入力装置7、出力装置8を備えるコンピュータ装置である。
メモリ装置3は、歯列矯正支援装置1の起動時に補助記憶装置6に記憶された歯列矯正支援プログラム9等のプログラムを読み出して記憶するRAM(Random Access Memory)等の記憶装置である。このメモリ装置3は、歯列矯正支援プログラム9等の実行に必要なファイル、データ等も記憶する。演算処理装置4は、メモリ装置3に格納されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置である。インターフェース装置5は、外部ネットワーク等に接続するためのインターフェース装置である。補助記憶装置6は、歯列矯正支援プログラム9やファイル、データ等を記憶するHDD等の記憶装置である。入力装置7は、ユーザインターフェースを提供する入力装置(例えばキーボード、マウス)である。出力装置8は、ユーザインターフェースを提供する出力装置(例えばディスプレイ)である。
歯列矯正支援プログラム9は、初期歯型印象入力手段(初期歯型印象入力部)10、初期歯型印象表示手段(初期歯型印象表示部)11、変換手段(変換部)12、変換画像表示手段(変換画像表示部)13、位置特定手段(位置特定部)14、仮想ワイヤ表示手段(仮想ワイヤ表示部)15、三次元模型データ作成手段(三次元模型データ作成部)16、模型画像表示手段(模型画像表示部)17、三次元模型データ送信手段(三次元模型データ送信部)18を含む。
また、歯列矯正支援プログラム9は、図4に示すように、初期歯型印象入力手順32、初期歯型印象表示手順33、変換手順34、変換画像表示手順35、位置特定手順36、仮想ワイヤ表示手順37、三次元模型データ作成手順38、模型画像表示手順39、三次元模型データ送信手順40を含む歯列矯正支援方法を歯列矯正支援装置1に実行させるものである。
初期歯型印象入力手段10は、歯科において患者の歯型印象を型取りせずに採取するための装置、例えばX線CT装置やMRI装置、又はカメラ等による三次元スキャナ等によって取込んだ情報を三次元画像として表示、記録することができる装置等で生成された患者の三次元初期歯型印象データ19(図15(a)に相当する三次元データ)を、インターフェース装置5を介して歯列矯正支援装置1の補助記憶装置6に入力するか、三次元初期歯型印象データ19が格納された、例えばUSB(Universal Serial Bus)等の外部記憶装置によって歯列矯正支援装置1の補助記憶装置6に入力する。
なお、本実施形態においては、仮想歯肉部G1の形成を前提としているが、初期歯型印象入力手段10によって使用される装置等が、例えば、X線CT装置のように透過によって各仮想歯Tの歯根49のデータも採取できるような装置を使用した場合には、仮想歯肉部G1を形成せずに歯根49を含む仮想歯Tのみを対象とすることができる。従って、以下の説明においても、特に言及しない限り仮想歯肉部G1の有無は問わないものとする。
初期歯型印象表示手段11は、入力された三次元初期歯型印象データ19を出力装置8である液晶画面やCRT等に表示する。具体的には、図15(a)に相当する初期歯型模型41の三次元画像を表示するものである。
これにより、患者から採取した初期歯型印象としての三次元画像を液晶画面等によって可及的速やかに確認することができるため、従来のような三次元画像を表示できないX線撮影機等によって撮影された撮像を現像する手間が不要となり、診察時間を短縮することができる。また、患者の口腔内に印象用のトレーを入れて初期歯型印象の型取りをし、硬石膏等によって初期歯型模型を作製する従来方法を行うことなく可及的速やかに初期の歯列を立体的に確認できるため、診察や矯正の方向性等を検討する際の時間を大幅に短縮することができる。
変換手段12は、初期歯型印象入力手段10によって入力された歯列矯正前の患者の歯並びである歯列を示す三次元初期歯型印象データ19に対して、歯列矯正の最終目標となる理想的な歯列を現した仮想セットアップ歯型模型42を示す三次元理想歯型印象データ20への変換を実行する。具体的には、図15(a)に相当する三次元初期歯型印象データ19を図15(b)に相当する三次元理想歯型印象データ20に変換するものである。
なお、本発明の第一の実施形態において、仮想セットアップ歯型模型42は、上述したデータ変換の際に同時に、図15(b)に示すように下方に仮想基台43を設けているが、後述する仮想台座44の形状によっては仮想基台43を設ける必要はない。
また、仮想歯肉部G1を形成しない場合には、図23、24に相当する三次元理想歯型印象データ20への変換となる。この場合、各仮想歯Tの歯根49の先端部が仮想基台43上と接続されることになるが、歯根49を含めた仮想歯Tの全長が足りない場合でも、仮想基台43上に凸状の嵩上げ部47を形成し、その上に歯根49の先端部を下側として立設させることで理想的な歯列を仮想基台43上に形成することができる。
図2は、本発明の第一の実施形態の変換手段12の詳細構成を示す。変換手段12は、位置調整手段(位置調整部)21、歯角調整手段(歯角調整部)22、歯面調整手段(歯面調整部)23、歯頭調整手段(歯頭調整部)24、理想歯列決定手段(理想歯列決定部)25を含む。
位置調整手段21は、初期歯型印象入力手段10から受け取った三次元初期歯型印象データ19に対して、略弓型の仮想歯列全体の形状や隣接する各仮想歯T1,・・,T7(以下、総称する場合は「仮想歯T」とする。)の間隔を理想的な任意の間隔となるように調整する。
歯角調整手段22は、位置調整手段21によって任意の位置に調整された各仮想歯Tが、理想的な任意の角度になるように調整する。
歯面調整手段23は、唇側の各仮想歯面55(唇側から視認できる各仮想歯Tの表面側)が、各仮想歯Tの位置のばらつきによる凹凸のない連続的な滑らかな配列となるように調整する。
歯頭調整手段24は、前記3つの手段によって調整された各仮想歯Tの上面であり、互いに隣接する側の端部である各辺縁隆線66(図6(a))が略同じ高さになるように調整する。
理想歯列決定手段25は、前記の各手段で調整された位置、歯角、歯面、歯頭が理想的な歯列の範囲内に入っているか否かを判断し、範囲外となっている場合には再度位置調整手段21に戻り、同様の処理を繰り返す。範囲内である場合には、歯列矯正の最終目標となる理想的な歯列であるとして三次元理想歯型印象データ20とする。
本発明の第一の実施形態においては、理想的な歯列への調整の精度を向上させるために、理想歯列決定手段25において良否判断を行い、状況に応じてフィードバック処理を行っているが、フィードバック時に位置、歯角、歯面、歯頭に対して優先度を設定したり、その他の処理によって精度の向上を図ることができる。なお、フィードバック処理の有無や、位置調整手段21、歯角調整手段22、歯面調整手段23、歯頭調整手段24の各手段の順番については本実施形態に限定されるものではない。
変換画像表示手段13は、変換手段12によって変換された三次元理想歯型印象データ20に基づいてセットアップ歯型模型42の三次元画像を出力装置8である液晶画面やCRT等に表示する。具体的には図15(b)(仮想歯肉部G1を形成しない場合には図24)に相当するセットアップ歯型模型42の三次元画像を表示するものである。
これにより、理想歯型印象としての三次元画像を液晶画面等によって可及的速やかに確認することができるため、従来のように硬石膏等で作製した初期歯型模型41の各模型歯T1,・・,T7(以下、総称する場合は「模型歯T」とする。)を切り出して矯正目標とする理想的な歯型模型を示すセットアップ歯型模型42を作製することなく患者への説明や検討ができるため、これらにかかる時間を大幅に短縮することができる。
次に位置特定手段14は、変換手段12によって決定された理想的な歯列を示す三次元理想歯型印象データ20に対して、仮想歯列に装着すべき馬蹄形状の仮想歯列矯正ワイヤ45の位置を特定する。
なお、実際に患者に装着される歯列矯正ワイヤ45の材質は主にステンレスであるが、ニッケルとチタンの合金等も使用される。また、色については通常の金属色である銀色を中心に金色、レモン色、白色等が使用される。
図3は、本発明の第一の実施形態の位置特定手段14の詳細構成を示す図である。位置特定手段14は、水平面算出手段(水平面算出部)27、仮想歯列矯正ワイヤ位置決定手段(仮想歯列矯正ワイヤ位置決定部)28を含む。
水平面算出手段27は、変換手段12から受け取った三次元理想歯型印象データ20に対して、図5に示すように、仮想歯列矯正ワイヤ45を装着すべき水平面53を算出する。ここで、水平面53とは、略水平な面であることを意味し、面全体がプラス20°からマイナス20°の範囲内にあるものの一つを水平面53としている。水平面53は、仮想歯Tの仮想歯面55に仮想歯列矯正ブラケットB1,・・,B7(以下、総称する場合は「仮想歯列矯正ブラケットB」とする。)を介して装着される仮想歯列矯正ワイヤ45の上下方向の位置を決める重要なものであり、本実施形態においては、仮想歯Tの上下方向の略中央で仮想歯Tの左右の略中央となる各点(以下、FA Pointとする)59を通る水平面53上の後述する任意の位置に仮想歯列矯正ワイヤ45を配置する。
なお、FA Point59の設定方法については、仮想歯列矯正ワイヤ45を装着すべき水平面53を算出可能であればよく、本実施形態に限定されるものではない。
なお、実際に患者に装着される歯列矯正ブラケットBの材質は主にステンレスやその他合金であるが、樹脂やセラミック等も使用される。また、色については通常の金属色である銀色の他に白色等が使用される。
仮想歯列矯正ワイヤ位置決定手段28は、水平面算出手段27で算出された水平面53に対して、水平面53上に仮想歯列矯正ワイヤ45を形成するために、図5、図6(b)、図18(b),(c)に示すように、唇側の仮想歯列の仮想歯面55の水平面53上であるFA Point59から、仮想歯面55の接線方向と直角に唇側に向かった水平面53上に、後述するレジンRの厚みL2と歯列矯正ブラケットB1,・・,B7(以下、総称する場合は「歯列矯正ブラケットB」とする。)の厚み(スロット46の中心からレジンRとの接続面54までの厚み)L1の分だけオフセットされた位置50(L3)が選択される。従って、図7に示すように、同一水平面53上に位置する仮想歯Tの各選択位置50(L3)を結んだ線が曲線となるように近似曲線化したものが仮想歯列矯正ワイヤ45の中心線60となり、仮想歯列矯正ワイヤ45の位置が決定される。
本発明の第一の実施形態においては、仮想歯列矯正ワイヤ位置決定手段28において仮想歯列矯正ワイヤ45の中心線60の位置を算出するために、仮想歯面55に対して各1点(50)の位置が選択されるように処理しているが、仮想歯列矯正ワイヤ45の位置精度を向上させるために仮想歯面55に対して複数の位置が選択されるようにしてもよい。
なお、舌側の歯列矯正方法についても、図20(b)、(c)に示すように、同様の方法で仮想歯列矯正ワイヤ45の位置が決定される。
仮想ワイヤ表示手段15は、位置特定手段14の仮想歯列矯正ワイヤ位置決定手段28において決定した仮想歯列矯正ワイヤ45の位置データに基づいて歯列矯正ワイヤ45の三次元画像を出力装置8である液晶画面やCRT等に表示する。なお、仮想歯列矯正ワイヤ45は、図22(a),(b),(c)に示すように、断面形状が異なる数種類のワイヤ61,62,63のうち任意の仮想歯列矯正ワイヤ45を表示させることができる。
これにより、医師等が歯列矯正ワイヤ45を実際に作製する前に歯列矯正ワイヤ45の三次元画像を液晶画面等によって可及的速やかに確認できるため、作製目標を明確にイメージした状態で歯列矯正ワイヤ45の作製作業を行うことができ、作製作業の効率が向上する。
また、歯列矯正ワイヤ45の平面画像を実寸大で印刷すれば、印刷された歯列矯正ワイヤに合わせて実際の歯列矯正ワイヤ45を加工することができ、従来のような熟練度を要さずに短時間で容易に歯列矯正ワイヤ45を作製することができる。
次に三次元模型データ作成手段16は、位置特定手段14における仮想歯列矯正ワイヤ位置決定手段28によって決定した同一水平面53上に位置する仮想歯列矯正ワイヤ45の位置データを基点として図8(a),(b)(仮想歯肉部G1を形成しない場合には図25(a)、(b))に示すように、三次元理想歯型印象データ20(図15(b))である仮想セットアップ歯型模型42の仮想基台43上に略円柱状の複数の仮想台座44を示す三次元台座データを作成する。仮想台座44は、図10(a),(c)に示すように、歯列矯正ワイヤ45を仮想台座44上面の仮想嵌合部52の凹部で位置決め固定(以下、「仮止め」とする。)できる形状である。
嵌合部52は、歯列矯正に影響を及ぼさずに歯列矯正ワイヤ45の調整と仮止めを容易にするために、歯列矯正ワイヤ45と接する凹部の横側面との距離が各0.25mm程度の隙間を有するように広めに成形されていることが望ましい。
仮想台座44の作成方法は、図7に示すように、仮想歯列矯正ワイヤ45の位置データの中から、任意の複数の位置を選択して仮想歯列矯正ワイヤ45の仮止めを行う仮想嵌合部52を有する仮想台座44の位置とする。具体的には、仮想歯列矯正ワイヤ45の両端部近傍で第三大臼歯T7よりも奥側(喉側)と、中央部の2本の中切歯T1の間、及び左右の犬歯T3と第一小臼歯T4の間で仮想歯列矯正ワイヤ45に最も近い位置である合計5箇所が仮想台座44であり仮想嵌合部52の位置となる。なお、仮想歯面55には後述する仮想接合部48を有する仮想歯列矯正ブラケットBが位置するため、これらに干渉しないように仮想台座44は上述のように任意の仮想歯Tの間に位置することが必要である。
なお、各仮想嵌合部52は、仮想歯列矯正ワイヤ45が仮止めされたときに仮想歯列矯正ワイヤ45の中心線60が、前述した同一水平面53上に正確に位置されるように作成されている。
本発明の第一の実施形態においては、図10(b)に示すように、仮想台座44の仮想嵌合部52は、仮想台座44の上方で仮想歯Tから最も離れた側面に固定できる形状(52a)であってもよく、更には、図11に示すように、仮想台座44の上面と側面の各仮想嵌合部52,52aを混在して設けても良い。また、図9(a),(b)に示すように、仮想台座44を仮想セットアップ歯型模型42の仮想歯肉部G1に突設してもよく、更には、仮想基台43と仮想歯肉部G1の両方に混在して設けてもよい。また、仮想台座44の形状は、略円柱状である必要はない。なお、舌側の歯列矯正方法の場合には、図12(a),(b)のような実施形態となる。
なお、仮想台座44上面の仮想嵌合部52の形状は、仮想歯列矯正ワイヤ45が仮止め可能であればよく、本実施形態に限定されるものではない。
以上により、歯列矯正の最終目標となる理想的な歯列を示す三次元理想歯型印象データ20上に仮想台座44の三次元台座データが加わった仮想歯列矯正ワイヤ形成用模型31の三次元模型データ30が完成する。
模型画像表示手段17は、三次元模型データ作成手段16において作成された仮想歯列矯正ワイヤ形成用模型31の三次元画像を、出力装置8である液晶画面やCRT等に表示する。
これにより、歯列矯正ワイヤ45をセットアップ歯型模型42に仮止めするための複数の台座44が設けられた歯列矯正ワイヤ形成用模型31の三次元画像を液晶画面等によって可及的速やかに確認することができるため、医師等が歯列矯正ワイヤ形成用模型31を実際に作製する前に様々なシミュレーションを行うことが可能となる。
三次元模型データ送信手段18は、三次元模型データ作成手段16によって作成された仮想歯列矯正ワイヤ形成用模型31の三次元模型データ30を、歯列矯正支援装置1が備えるインターフェース装置5を介して、外部装置である三次元造形機67等に送信することができる。
以上のように、第一の実施形態に係る歯列矯正支援装置1による歯列矯正支援プログラム9の実行によって行われる上述した歯列矯正支援方法によれば、患者から採取した初期の歯列を示す三次元初期歯型印象データ19を歯列矯正支援装置1に入力することで、歯列矯正ワイヤ形成用模型31を作製するための三次元模型データ30を作成することができる。三次元模型データ30は、歯列矯正ワイヤ45を仮止めするための複数の台座44を有した理想的な歯列を示すもの、すなわち、従来のセットアップ歯型模型42に複数の台座44を加えたものであるため、従来のように、理想的な歯並びや歯列矯正ワイヤ45の形状、歯列矯正ワイヤ45の最適な取付位置といった高度な熟練度の基での検討を要さずに、これらの情報を三次元データ化することができる。
また、三次元模型データ30を三次元造形機67に入力することで、歯列矯正ワイヤ形成用模型31を作製することができるため、従来のように、医師等が実際に初期歯型模型41の模型歯Tを分割して、セットアップ歯型模型42を作製すること、及びセットアップ歯型模型42に歯列矯正ワイヤ45の最適な取付位置を検討して蝋材による複数のアーム64で固着するといった高度な熟練度を要する作業が不要になると共に、作製時間の大幅な短縮が可能となる。
また、歯列矯正ワイヤ45は、歯列矯正ワイヤ45と各模型歯面55との間が、各模型歯Tの所定の個所を通る理想的な水平面53を維持した状態でオフセットされた位置に配置されるため、従来のように各模型歯Tの水平面等を考慮した上で歯列矯正ワイヤ45の位置を決定するといった作業に対する熟練度が不要である。
更に、歯列矯正ワイヤ45は、歯列矯正ワイヤ45と各模型歯面55との間に位置する歯列矯正ブラケットBとレジンRの厚み(L1+L2)分だけオフセットされた位置に配置されるため、従来のようにセットアップ歯型模型42に対して歯列矯正ブラケットBとレジンRの厚み(L1+L2)を考慮した上で歯列矯正ワイヤ45の位置を決定するといった作業に対する熟練度が不要である。
また、舌側の歯列矯正方法においては、各歯の形状との関係が複雑であっても、歯列矯正ワイヤ45の適正な位置が自動的に算出されるので、マッシュルーム形状の歯列矯正ワイヤ45aではなく、曲げ加工部を有さないアーチ形状の歯列矯正ワイヤ45を使用することが可能となる。
更に、舌側の歯列矯正方法においては、従来であればマッシュルーム形状の歯列矯正ワイヤ45aを患者の各歯65に取付ける際には、挿通タイプの歯列矯正ブラケットが使用できなかったが、アーチ形状の歯列矯正ワイヤ45の使用によって、挿通タイプの歯列矯正ブラケットの使用が可能となる。
また、各台座44は模型歯面55の真正面には配置されないため、台座44と歯列矯正ブラケットBが干渉することはなく、また、図16(b)、図17(b)に示すようなセットアップ歯型模型42に歯列矯正ワイヤ45を固着するための従来のような複数のアーム64が不要となるため、レジンRによって各模型歯Tの外形を写す際に広範囲に切縁56や咬頭頂57を含んだ接合部48を形成することができる。よって、患者の口腔内の各歯65に接合部48と一体の歯列矯正ブラケットBを取り付ける際に、最適な位置に取り付けることができる。
また、仮想歯肉部G1を形成しない場合には、歯根49を含めた各仮想歯Tの全体構成を的確に把握することができるため、医師等による矯正内容の検討を高精度で行うことができる。
[第二の実施形態]
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。
図13は、本発明の第二の実施形態に係る歯列矯正ワイヤ形成用模型31の製造方法に関する概略のフローチャートであり、図8(a),(b)、図9(a),(b)(仮想歯肉部G1を形成しない場合には図25(a)、(b))は、本製造方法で製造された歯列矯正ワイヤ形成用模型31の例を示す。
歯列矯正ワイヤ形成用模型31の製造方法としては、まず、外部データとしての三次元初期歯型印象データ19を、上述した第一の実施形態に係る歯列矯正支援装置1に入力する。歯列矯正支援装置1においては、図4、図13に示すように、初期歯型印象入力手順32から三次元模型データ作成手順38において三次元模型データ30が作成され、三次元模型データ送信手順40によって三次元模型データ30を、歯列矯正支援装置1のインターフェース装置5を介して一般的な三次元造形機67に入力したり、三次元模型データ30が格納された、例えばUSB等の外部記憶装置等によって三次元造形機67に入力する。
三次元造形機67は、例えばデータ入力手順68によって仮想歯列矯正ワイヤ形成用模型31の三次元模型データ30が入力され、所定の処理を行った後、三次元造形手順69によって、実寸大の歯列矯正ワイヤ形成用模型31が一体として製造される。なお、三次元造形機67は、例えば溶融したABS樹脂等を印刷によって直接積層するものや、液状の紫外線硬化樹脂に紫外線レーザーを照射して積層印刷するものや、自動切削加工装置等を用いることができる。
なお、歯列矯正ワイヤ形成用模型31に、模型としての歯肉部を一体として形成しないで場合(図25(a)参照)には、基台43上に各模型歯Tの歯根49の先端部が接続された形で立設しており接続強度が低いため、補強のために各模型歯Tの周縁に蝋材を用いて歯肉部を形成してもよい。
以上のように、三次元造形機67によって製造された歯列矯正ワイヤ形成用模型31は、実際に患者に装着する歯列矯正ワイヤ45の形成と歯列矯正ブラケットBの選定、及び各模型歯Tに対する歯列矯正ブラケットBの仮固定といった歯列矯正前の事前準備のために使用されるものであり、以下のような手順で使用される。
まず、図8(b)に示すように、初期的に馬蹄形状に成形された既成の歯列矯正ワイヤ45を歯列矯正ワイヤ形成用模型31の各台座44の嵌合部52近傍に位置させ、最も合致したサイズの歯列矯正ワイヤ45を選択する。選択された歯列矯正ワイヤ45が、各台座44の嵌合部52に誤差なく正確に位置するように、専用工具を用いて歯列矯正ワイヤ45を曲げ加工して歯列矯正ワイヤ45を製作する。具体的には、嵌合部52に仮止めした際に歯列矯正ワイヤ45に負荷がかからない状態であることが必要である。
この場合、複数の台座44の嵌合部52に歯列矯正ワイヤ45が負荷なく収まるように歯列矯正ワイヤ45を加工するだけで、他の要素を一切考慮することなく熟練度を要さずに容易に歯列矯正ワイヤ45を作製することができる。
また、複数の嵌合部52は歯列矯正ワイヤ45が位置すべき所望の箇所に配されているため、歯列矯正ワイヤ45は各嵌合部52に仮止めするだけでよく、従来のように歯列矯正ブラケットBとレジンRの厚み(L1+L2)、及び各歯65に共通した水平面53を考慮した上で歯列矯正ワイヤ45をセットアップ歯型模型42に複数のアーム64によって固着するといった高度な熟練度が不要になると共に、作製時間の大幅な短縮が可能となる。
また、台座44の嵌合部52は歯列矯正ワイヤ45を固着するものではなく、何度でも歯列矯正ワイヤ45を取付けたり、取外したりすることができるので各道具の加工・調整作業が簡便となり、更に、加工・調整作業で使用した歯列矯正ワイヤ45そのものを実際の患者に使用することが可能となる。
また、歯列矯正ワイヤ形成用模型31に、模型としての歯肉部を一体として形成しないで場合(図25(a)参照)には、各模型歯Tを個々に基台43上から人手や工具によって容易に切り出す(折り倒して分離する場合も含む)ことが可能となるので、切り出した各模型歯Tと蝋材等を用いて別途のセットアップ歯型模型を作製等することができる。
次に、成形された歯列矯正ワイヤ45を歯列矯正ワイヤ形成用模型31の各台座44の嵌合部52に仮止めさせ、歯列矯正ワイヤ45を係合するためのスロット46を有する各模型歯Tに対応した歯列矯正ブラケットBを歯列矯正ワイヤ45を介して締結(歯列矯正ワイヤ45から外れることはないが、スライド可能な状態)する。
この場合、嵌合部52に仮止めされた歯列矯正ワイヤ45が、歯列矯正ブラケットB等の調整の際に外れることがないように、仮止め後の嵌合部52に一般的な仮止め用接着剤等を塗布して仮止めすることも可能である。この場合、接着剤等が歯列矯正ワイヤ45、及び歯列矯正ワイヤ形成用模型31から容易に除去することができるものを選定することが望ましい。
仮止めされた歯列矯正ワイヤ45に、歯列矯正ブラケットBを締結すれば、歯列矯正ブラケットBが各歯65の歯面55に接続されるべき正確な前後方向と上下方向の位置が自動的に決まるので、各歯面55の左右方向に対する各中央部に各歯列矯正ブラケットBを配置するだけで、高度な熟練度を要さずに歯列矯正ブラケットBの取付位置を決めることができる。
また、歯列矯正ブラケットが挿通タイプであっても、歯列矯正ブラケットを予め歯列矯正ワイヤ45に挿通してから歯列矯正ワイヤ形成用模型31の各台座44の嵌合部52に仮止めすることができる。よって、従来のように歯列矯正ワイヤ45を固着する複数のアーム64の存在によって挿通タイプの歯列矯正ブラケットが使用できないといった問題がない。
次に、図18(a),(b),(c)に示すように、各模型歯Tの唇側の模型歯面55と各歯列矯正ブラケットBとの間にレジンRを充填して仮固定しつつ、各模型歯Tの模型歯面55から切縁56或は咬頭頂57までにレジンRを延長して接合部48を形成する。接合部48は、硬化すると模型歯Tの外形となる。すなわち、各接合部48のうち中切歯T1と側切歯T2と犬歯T3の接合部48は、切縁からさらに延伸して内側(裏側或は患者の口腔内の舌側に相当)まで覆い、また、各臼歯T4,T5,T6,T7の接合部48は、咬頭頂57を覆うように構成している。
なお、舌側の歯列矯正方法においても、図20(a),(b),(c)に示すように、唇側の歯列矯正方法と同様の方法で、レジンRによる接合部48を有する歯列矯正ブラケットBを作製することができる。
次に、図19(a)に示すように、上述の接合部48を備えた歯列矯正ブラケットBを歯列矯正ワイヤ形成用模型31の各模型歯Tから取り外すと共に、歯列矯正ワイヤ形成用模型31の各台座44の嵌合部52から歯列矯正ワイヤ45を取り外す。
なお、舌側の歯列矯正方法においても同様である(図21(a))。
また、歯列矯正ワイヤ45は、歯列矯正の初期過程から最終過程にかけて段階的にワイヤの線径を細いものから太いものに変更していくが、歯列矯正ワイヤ形成用模型31は、これら段階的に使用する各線径の歯列矯正ワイヤ45を成形する際にも使用することとなる。すなわち、歯列矯正ワイヤ形成用模型31さえあれば、歯列矯正ワイヤ45の線径に関わらず何度でも歯列矯正ワイヤ45を作製することが可能となる。
以上のような手順によって、第二の実施形態に係る歯列矯正ワイヤ形成用模型31が使用され、実際に患者に対して歯列矯正を行うための準備が完了する。
次に、患者に対する歯列矯正の方法は、まず、上述した接合部48を備えた歯列矯正ブラケットBを患者の口腔内の各歯65にそれぞれ接着する。このとき患者の各歯65は、初期の歯列であるため歯列矯正ワイヤ形成用模型31の各歯65とは異なる方向を向いている。
しかし、接合部48を備えたブラケットBは、各歯65ごとの外形を備えているため、実際の患者の歯並びとは関係なく装着することができる。また、図19(b),(c)に示すように、歯列矯正ブラケットBからはみ出した不要な接合部48の一部を削除する。このようにして、歯列矯正ブラケットBは、患者の口腔内の各歯65に取り付けられる。
なお、舌側の歯列矯正方法においても同様である(図21(b),(c))。
最後に、成形済みの歯列矯正ワイヤ45を歯列矯正ブラケットBに係合又は挿通することで、唇側の歯列矯正方法の場合は図16(a)、舌側の歯列矯正方法の場合は図14に示すように実際の歯列矯正が開始される。
以上、本発明の好ましい実施形態等を説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。