本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。本空燃比制御装置1は、内燃機関2で燃料を燃焼させることにより発生する有害物質HC、CO、NOxを無害化する触媒31における空燃比を制御するものであって、図1に示すように、触媒31の上流側における空燃比または酸素濃度に応じた出力信号を出力する第一の空燃比センサ11と、触媒31の下流側における空燃比または酸素濃度に応じた出力信号を出力する第二の空燃比センサ12と、両センサ11、12の出力信号を参照して空燃比制御を実施する空燃比制御部13と、この空燃比制御部13が参照する学習値(後述する)の学習を行う学習部14とを具備する。
図2に、ハードウェア構成の概要を示す。内燃機関2は、例えば自動車用の多気筒の燃料噴射式エンジンである。内燃機関2で生成された燃焼ガスは、排気ポートから排気マニホルド41、排気管42及び触媒31、32を通じて大気中に排出される。本実施形態では、排気通路に複数の触媒31、32を直列に接続する、いわゆるタンデム触媒を採用している。基本的には、より上流側にある触媒31が主となって排気ガス中の有害物質を浄化する。より下流側にある触媒32は、上流側触媒31にて浄化されずに漏出した残余の有害物質を浄化する。
空燃比センサ11、12は、排気ガスに接触して反応することにより、排気ガス中の酸素濃度に応じた電圧信号を出力する。上流側触媒31の上流に設ける第一の空燃比センサ11は、排気ガスの空燃比に比例した信号を出力するリニアA/Fセンサとすることが好ましい。上流側触媒31の下流、下流側触媒32の上流に設ける第二の空燃比センサ12は、リニアA/Fセンサであってもよく、排気ガスの空燃比に対して非線形な出力特性を有するO2センサであってもよい。
第一の空燃比センサ11、第二の空燃比センサ12は、吸気管内圧力(吸気負圧または過給圧)センサ、エンジン回転数センサ、車速センサ、冷却水温センサ、カムポジションセンサ、アクセルペダルの踏込量センサ(または、スロットル開度を示すポジションセンサ)等の各種センサ(図示せず)とともに、電子制御装置(ECU)5に電気的に接続している。電子制御装置5は、プロセッサ51、RAM52、ROM(または、フラッシュメモリ)53、I/Oインタフェース54等を包有するマイクロコンピュータシステムである。I/Oインタフェース54は、各種センサの出力信号の受信や制御信号の送信を担うもので、A/D変換回路及び/またはD/A変換回路を含む。プロセッサ51が実行するべきプログラムはROM53に格納されており、その実行の際にROM53からRAM52へ読み込まれ、プロセッサ51によって解読される。しかして、電子制御装置5は、プログラムに従い、空燃比制御部13及び学習部14としての機能を発揮する。
空燃比制御部13たる電子制御装置5は、第一の空燃比センサ11、第二の空燃比センサ12やその他のセンサから出力される信号を、I/Oインタフェース54を介して受信する。そして、要求される燃料噴射量を算出し、この要求燃料噴射量に対応した制御信号をI/Oインタフェース54を介して燃料噴射弁21に入力、内燃機関2の燃料噴射を制御する。要求燃料噴射量は、吸気管内負圧及びエンジン回転数等を参照して基本噴射量を求め、その基本噴射量に、エンジン冷却水温等の環境条件に応じた環境補正、並びに下記フィードバック制御による補正を加えて、最終的に決定する。
本実施形態では、空燃比の制御にあたり、第二の空燃比センサ12の出力信号を制御量(制御出力)とはしない。本実施形態では、上流側触媒31内に酸素吸蔵能まで酸素を吸蔵した状態を基準とし、その状態から酸素を放出した量をモデル数式によって推算する。そして、推算した酸素放出量を制御量として、これを所要の目標値(後述する)に到達させるフィードバック制御を実施する。
まず、上流側触媒31に吸蔵した酸素量は、上流側触媒31に流入する酸素の流量の時間積分に、反応速度係数を乗じたものと考えることができる。反応速度係数は、上流側触媒31が酸素を吸蔵する速度を示す。反応速度係数と酸素吸蔵能との比(反応速度係数/酸素吸蔵能)をモデルパラメータθ1とおけば、酸素濃度Oのモデル数式を下式(数2)の如く規定することができる。
上式(数2)の酸素割合Oの値は、0≦O≦1の範囲をとる。αは空気中に含まれる酸素の割合であり、G
aは上流側触媒31に流入する空気の流量である。αの値は、例えば0.21とする。αは、モデルパラメータθ
1に組み入れてしまっても構わない。その場合、θ
1=α×(反応速度係数/酸素吸蔵能)となる。流入空気量G
aは、第一の空燃比センサ11を介して検出した流入ガスの空燃比に、電子制御装置5にて算出した要求燃料噴射量を乗じて算定する。このようにすれば、G
aを計測するために高価なエアフローセンサを使用せずに済む上、G
aの値の精度も向上する。尤も、吸気管内負圧及びエンジン回転数からG
aを推測することを妨げるものではない。
λは、排気ガスの空燃比の目標空燃比からの乖離を示す空気過剰率である。空気過剰率λは、原理的には、第一の空燃比センサ11を介して検出したガスの空燃比と、最終的に実現するべき目標空燃比との比(上流側実測空燃比/目標空燃比)である。目標空燃比は、通常は理論空燃比、ガソリンエンジンにあっては約14.7であるが、リーンバーン運転している最中等、理論空燃比よりも増減することがあり得る。
上流側触媒31の酸素吸蔵能、酸素吸蔵速度、酸素放出速度は、おしなべて上流側触媒31の経時劣化の影響を受ける。であるから、モデルパラメータθ1もまた、上流側触媒31の経時劣化の影響を受ける。だが、酸素放出速度に対する酸素吸蔵速度の比である反応速度比は、上流側触媒31の経時劣化によらず一定であると見なすことが可能である。
以降、反応速度比に関して補記する。図3は、上流側触媒31に流入するガスの空燃比を意図的に上下させる実験を行い、第一の空燃比センサ11の出力信号及び第二の空燃比センサ12の出力信号を観測したものである。第一の空燃比センサ11の出力は、上流側触媒31に流入するガスの空燃比をそのまま表示していると言える。一方で、第二の空燃比センサ12の出力は、第一の空燃比センサ11の出力、ひいては上流側触媒31に流入するガスの空燃比の変動に対して遅れている。
上流側触媒31に流入するガスの空燃比がリーンな期間では、上流側触媒31に酸素が吸蔵される。上流側触媒31に流入するガスの空燃比がリッチな期間では、上流側触媒31に吸蔵されていた酸素が放出される。図3中、空燃比リッチだった流入ガスが空燃比リーンとなった後、再び空燃比リッチとなるまでの期間T1が、上流側触媒31に酸素が吸蔵される期間である。そして、空燃比リーンだった流入ガスが空燃比リッチとなった後、第二の空燃比センサ12の出力信号がリーンからリッチへと反転するまでの期間T2が、上流側触媒31から酸素が放出される期間である。第二の空燃比センサ12の出力がリーンからリッチへと反転したことは、上流側触媒31からの酸素の放出が衰えたことを暗示している。
図4は、流入空気量Gaを一定として上記実験を行い、酸素吸蔵期間T1と酸素放出期間T2とをそれぞれ計測してプロットしたものである。図4では、上流側触媒31に流入するガスの空燃比のリーン時の値とリッチ時の値との組合せを、三通りに変えて実験した結果を示している。流入ガスの空燃比の値によらず、酸素吸蔵期間T1と酸素放出期間T2との間には一定の比例関係が存在している。ここではその比例係数、即ち図4中に引いた直線の傾きを、反応速度比ということとする。反応速度比は、酸素放出速度に対する酸素吸蔵速度の比(T1/T2)を示す。
図5は、流入空気量Gaを変えて上記実験を行い、反応速度比を計測したものである。並びに、図6は、同様の実験を、新しい上流側触媒31と古い劣化した上流側触媒31とを用いてそれぞれ行った結果である。図6から明らかなように、反応速度比は上流側触媒31の経時劣化によらず一定であると見なすことができる。
内燃機関2の気筒への燃料供給を一時中断する燃料カットを実行すると、上流側触媒31に燃料成分を含まない空気が流入し、上流側触媒31内に酸素が充満する。よって、燃料カットを終了して燃料供給を再開する直前の時点t1では、上流側触媒31内に酸素吸蔵能一杯まで酸素を吸蔵している。酸素吸蔵能は上流側触媒31の経時劣化とともに低下するため、時点t1において上流側触媒31に吸蔵している酸素の絶対量は不明である。だが、図7に示すように、燃料供給再開後に上流側触媒31から放出した酸素の量Oを考えれば、燃料供給再開時点t1における酸素放出量Oを常に0とすることができる。
モデル数式(数2)を援用し、モデルパラメータθ1を酸素吸蔵速度または酸素放出速度を示すモデルパラメータθ2に置き換えると、酸素放出量Oのモデル数式として下式(数3)を得られる。
酸素放出量Oは、上流側触媒31内に酸素が充満した状態を基準(O=0)とし、燃料カットを実行する都度その値が0にリセットされる。燃料カット条件は、既存の自動車用内燃機関2に準ずる。例えば、減速時燃料カットでは、エンジン回転数が一定以上あり、かつアイドルスイッチがONになった(または、アクセルペダルの踏込量が閾値以下となった)ことを条件とする。燃料カットは、エンジン回転数が所定の復帰回転数以下まで下がったり、アイドルスイッチがOFFになったりすると終了、即ち燃料供給を再開する。
モデルパラメータθ2は、上流側触媒31が酸素を放出する(λ≦1となる)期間と、上流側触媒31が酸素を吸蔵する(λ>1となる)期間とで相異する。しかしながら、反応速度比kは、上流側触媒31の経時劣化によらず一定であることが分かっている。図5に示している反応速度比k(Ga)を用いれば、モデルパラメータθ2を下式(数4)のように設定することができる。
上式(数4)のモデルパラメータθ
2は、マップデータとしてRAM52またはROM53に記憶保持させておけばよい。
電子制御装置5は、酸素放出量Oに目標値を設定し、モデル数式に則って推算した酸素放出量Oをその目標値に収束させるフィードバック制御を実施する。即ち、推算した現在の酸素放出量Oとその目標値との偏差に基づいて燃料噴射量のフィードバック補正量を算出し、要求燃料噴射量に加味する。これにより、空燃比の振動を抑圧してウィンドウ内に維持する。
因みに、上流側触媒31からの酸素放出量Oの推算精度を向上させるべく、酸素放出量Oの推算式(数3)及び(数4)に、推算誤差を補正、縮小するためのパラメータβを導入してもよい。
学習パラメータβを導入した酸素放出量Oの推算式は、下式(数5)となる。
A/Fは第一の空燃比センサ11を介して検出したガスの空燃比、A/F
targは目標空燃比である。このように、学習パラメータβは、空気過剰率λの分母に加味する。
学習部14たる電子制御装置5は、燃料カットが発生したとき等に学習パラメータβを算定、その学習を実行する。電子制御装置5は、パラメータβの学習に際し、燃料カット開始から第二の空燃比センサ12の出力がリーンになったことを示す所定値(第二の空燃比センサ12がO2センサである場合、例えば出力電圧=0.5V)に到達するまでの経過時間と、燃料カット開始からモデル数式(数5)に則って推算される放出量Oが0となるまでの経過時間とを計数し、両者の時間差に応じて、当該時間差を減少させる方向にパラメータβを増減させる。後者の経過時間を計数するにあたり、モデル数式(数5)に適用する空気過剰率λとして、下記の式(数6)、式(数7)及び式(数8)の三つをそれぞれ用いる。
β
0は定数、ここでは0とする。eもまた定数であるが、第一の空燃比センサ11の計測する空燃比の公差に相当する値とする。第一の空燃比センサ11の公差が±0.05であるならば、その公差の絶対値をとってe=0.05とする。
図9に、パラメータβの学習処理の手順を示す。電子制御装置5は、内燃機関2における燃料カットが発生し、第二の空燃比センサ12の出力が非リーンを示しており(例えば、出力電圧>0.5V)、なおかつ、式(数6)、式(数7)、式(数8)に示す各空気過剰率λを適用して演算した酸素放出量O(数5)が何れも、前回の燃料カット終了から今回の燃料カット開始までの期間に一度も0になっていないことを条件として、パラメータβの学習を実施する。
パラメータβの学習では、燃料カットの開始から、式(数6)の空気過剰率λを適用した酸素放出量O(数5)が0になるまでの時間TA、式(数7)の空気過剰率λを適用した酸素放出量Oが0になるまでの時間TB、並びに、式(数8)の空気過剰率λを適用した酸素放出量Oが0になるまでの時間TCをそれぞれ算出する。さらに、燃料カットの開始から、第二の空燃比センサ12の出力がリーンに切り替わる(例えば、出力電圧≦0.5V)までの時間TDを計測する。図8に、燃料カット開始時点t2から計数される経過時間TA、TB、TC及びTDの例を示す。
そして、経過時間TDと経過時間TAとの時間差を減少させるように、学習パラメータβを決定する。本実施形態では、TDとTAとの時間差を基に、補間法(内挿法)にて新たなパラメータβを算定する。即ち、TD>TAであるならばβを下式(数9)とし、TD<TAであるならばβを下式(数10)とする。
決定した学習パラメータβは、RAM52またはROM53に記憶保持する。このβは、今回の燃料カットの終了後の空燃比制御において、次回の燃料カットが発生するまでの間、空燃比制御部13で反復演算する酸素放出量Oの推算式(数5)に適用される。
また、学習部14たる電子制御装置5は、上流側触媒31の酸素吸蔵能を推算してこれを学習する。上流側触媒31の酸素吸蔵能の学習値は、空燃比制御部13によるフィードバック制御の目標値の決定に用いられる。
触媒31の酸素吸蔵能力は、既知の任意の手法を採用して推算することができる。ここでは、その一典型例を示す。内燃機関2の気筒に空燃比リーンの混合気を供給して触媒31の酸素吸蔵能力一杯まで酸素を吸蔵している状態から、気筒に供給する混合気を意図的に空燃比リッチに操作する。すると、第一の空燃比センサ11の出力信号は即座に空燃比リッチを示す。これに対し、第二の空燃比センサ12の出力信号は、第一の空燃比センサ11の出力信号に遅れて空燃比リッチを示す。第一の空燃比センサ11の出力信号が空燃比リッチを示してから(または、混合気を空燃比リッチに操作してから)第二の空燃比センサ12の出力信号が空燃比リッチを示すまでの間、触媒31に吸蔵していた酸素が放出されて酸素の不足が補われるためである。
第一の空燃比センサ11の出力信号が空燃比リッチを示してから、第二の空燃比センサ12の出力信号が空燃比リッチを示すまでの間に経過した時間をTRとおき、このTRの間に供給した燃料の総重量をGF、理論空燃比とリッチ時の空燃比との差分をΔA/FRとおくと、TRの間に触媒31中で不足した酸素量は、
(α・ΔA/FR・GF)
となる。αは、空気中に占める酸素の重量割合(≒0.23)である。
上式は、TRの時点までに触媒31が放出した酸素の量を表している。供給した燃料の総重量GFは、電子制御装置5において演算することができる。即ち、一回の燃料噴射機会における燃料噴射量は、空燃比を理論空燃比よりもリッチな(14.6よりも小さい)所定値とするために必要な量であり、その噴射量に単位時間当たりの膨張行程回数(エンジン回転数に比例)を乗じれば、単位時間当たりの燃料供給量となる。そして、単位時間当たりの燃料供給量に経過時間TRを乗じれば、供給した燃料の総重量GFとなる。要するに、第二の空燃比センサ12の出力信号が空燃比リッチを示した時点での経過時間TRに基づいて、触媒31の最大酸素放出能力を算出することが可能である。この最大酸素放出能力は、最大酸素吸蔵能力と同義である。
厳密には、TRの期間において、運転者のアクセル操作等に起因して単位時間当たりの燃料供給量(または、一回の噴射量)は増減し得る。故に、TRの期間中の供給燃料の総重量GFは、単位時間当たりの供給量gF(t)をTRで時間積分して求めることが好ましい。また、本実施形態では、触媒31の上流にリニアA/Fセンサ11を配しており、触媒31に流入するガスの空燃比を実時間で計測することが可能である。よって、ΔA/FR(t)を理論空燃比とA/Fセンサ11を介して計測した実測空燃比との差分として、触媒31の最大酸素吸蔵能力を、TRの期間の時間積分として求めることができる。即ち;
α∫{ΔA/FR(t)・gF(t)}dt
あるいは、内燃機関2の気筒に空燃比リッチの混合気を供給して触媒31に酸素を全く吸蔵していない状態から、気筒に供給する混合気を意図的に空燃比リーンに操作する。すると、第一の空燃比センサ11の出力信号は即座に空燃比リーンを示す。これに対し、第二の空燃比センサ12の出力信号は、第一の空燃比センサ11の出力信号に遅れて空燃比リーンを示す。第一の空燃比センサ11の出力信号が空燃比リーンを示してから(または、混合気を空燃比リーンに操作してから)第二の空燃比センサ12の出力信号が空燃比リーンを示すまでの間、過剰な酸素が触媒31に吸着するためである。
第一の空燃比センサ11の出力信号が空燃比リーンを示してから、第二の空燃比センサ12の出力信号が空燃比リーンを示すまでの間に経過した時間をTLとおき、このTLの間に供給した燃料の総重量をGF、リーン時の空燃比と理論空燃比との差分をΔA/FLとおくと、TLの間に触媒31中で過剰となった酸素量は、
(α・ΔA/FL・GF)
となる。
上式は、TLの時点で触媒31が吸蔵している酸素の量を表している。供給した燃料の総重量GFはやはり、電子制御装置5において演算することができる。即ち、一回の燃料噴射機会における燃料噴射量は、空燃比を理論空燃比よりもリーンな(14.6よりも大きい)所定値とするために必要な量であり、その噴射量に単位時間当たりの膨張行程回数を乗じれば単位時間当たりの燃料供給量となる。そして、単位時間当たりの燃料供給量に経過時間TLを乗じれば、供給した燃料の総重量GFとなる。要するに、第二の空燃比センサ12の出力信号が空燃比リーンを示した時点での経過時間TLに基づいて、触媒31の最大酸素吸蔵能力を算出することが可能である。
厳密には、TLの期間において、運転者のアクセル操作等に起因して単位時間当たりの燃料供給量(または、一回の噴射量)は増減し得る。故に、TLの期間中の供給燃料の総重量GFは、単位時間当たりの供給量gF(t)をTLで時間積分して求めることが好ましい。ΔA/FL(t)を理論空燃比とA/Fセンサ11を介して計測した実測空燃比との差分とすれば、触媒31の最大酸素吸蔵能力を、TLの期間の時間積分として求めることができる。即ち;
α∫{ΔA/FL(t)・gF(t)}dt
電子制御装置5は、所定の条件を満たしたときに、空燃比のフィードバック制御を一時停止し、混合気の空燃比を意図的に振動させる「アクティブ制御」に移行して上流側触媒31の酸素吸蔵能の推定を実施する。
図9に示しているように、アクティブ制御では、第二の空燃比センサ12の出力電圧が所定のリッチ判定値に到達した、即ち第二空燃比センサ12の出力がリーンからリッチへと切り替わったタイミングで、制御目標空燃比をリーン側の所定空燃比に設定し、第一の空燃比センサ11の出力電圧が当該制御目標に対応した値をとるように燃料噴射量を補正する。これにより、触媒31に流入するガスの空燃比を強制的にリーン化する。そして、第一の空燃比センサ11の出力電圧が前記制御目標に対応した値に到達してから、第二の空燃比センサ12の出力電圧が所定のリーン判定値に到達するまでの期間TL、即ち第二の空燃比センサ12の出力が再度リーンへと切り替わるまでの経過期間TLにおける最大酸素吸蔵能力α∫{ΔA/FL(t)・gF(t)}dtを積算する。TLは、酸素を吸蔵していない触媒31が酸素吸蔵能力一杯まで酸素を吸蔵するのに要した時間である。リッチ判定値とリーン判定値とは、相異なる値であってもよく、同一の値であってもよい。
並びに、第二の空燃比センサ12の出力がリッチからリーンへと切り替わったタイミングで、制御目標空燃比をリッチ側の所定空燃比に設定し、第一の空燃比センサ11の出力電圧が当該制御目標に対応した値をとるように燃料噴射量を補正する。これにより、触媒31に流入するガスの空燃比を強制的にリッチ化する。そして、第一の空燃比センサ11の出力電圧が前記制御目標に対応した値に到達してから、第二の空燃比センサ12の出力電圧が所定のリッチ判定値に到達するまでの期間TR、即ち第二の空燃比センサ12の出力が再度リッチへと切り替わるまでの経過期間TRにおける最大酸素吸蔵能力α∫{ΔA/FR(t)・gF(t)}dtを積算する。TRは、酸素吸蔵能力一杯まで酸素を吸蔵していた触媒31がその酸素の全てを放出するのに要した時間である。
しかして、最大酸素吸蔵能力α∫{ΔA/FR(t)・gF(t)}dt、α∫{ΔA/FL(t)・gF(t)}dtをそれぞれ一回以上算出し、それらの平均値を求めて、触媒31の酸素吸蔵能の学習値とする。
但し、アクティブ制御は燃料の浪費を招く。よって、上流側触媒31の酸素吸蔵能の学習は必要最小限かつ適時に限って行うことが望ましい。そこで、学習部14たる電子制御装置5は、上流側触媒31内に酸素が充満したか、あるいは上流側触媒31内の酸素が欠乏したことを示す所定の条件が成立したときに、アクティブ制御を開始する。
本実施形態において、所定の条件とは、第二の空燃比センサ12の出力電圧が基準値(例えば、0.7V)から所定以上(例えば、0.2V以上)大きくなること、または第二の空燃比センサ12の出力電圧が基準値から所定以下(例えば、0.2V以下)小さくなることをいう。上流側触媒31が吸蔵していた酸素が空とならず、上流側触媒31が酸素吸蔵能力一杯まで酸素を吸蔵しない限り、上流側触媒31を通過したガスの空燃比は理論空燃比近傍に調整され、第二の空燃比センサ12の出力電圧は理論空燃比に対応した基準値を中心とする所定範囲内(0.5V〜0.9Vの範囲内)に収まるはずである。
第二の空燃比センサ12の出力電圧が当該範囲を超えたならば、上流側触媒31が吸蔵していた酸素が空、または上流側触媒31が酸素吸蔵能力一杯まで酸素を吸蔵していることが示唆されるので、その瞬間からアクティブ制御及び触媒31の酸素吸蔵能の計測を始める。これにより、無駄な燃料消費を抑制することができる。
具体的には、第二の空燃比センサ12の出力電圧が空燃比リッチを表す0.9V以上となったとき、即ち上流側触媒31内の吸蔵酸素が0になったときに、混合気を意図的に空燃比リーンに操作して最大酸素吸蔵能力(TLの期間の時間積分)α∫{ΔA/FL(t)・gF(t)}dtの計測を開始する。あるいは、第二の空燃比センサ12の出力電圧が空燃比リーンを表す0.5V以下となったとき、即ち上流側触媒31内の吸蔵酸素が満杯になったときに、混合気を意図的に空燃比リッチに操作して最大酸素吸蔵能力(TRの期間の時間積分)α∫{ΔA/FR(t)・gF(t)}dtの計測を開始するのである。
推算した上流側触媒31の酸素吸蔵能は、RAM52またはROM53に記憶保持する。この酸素吸蔵能は、今回のアクティブ制御の終了後の空燃比制御において、次回のアクティブ制御機会が発生するまでの間、空燃比制御部13で反復演算する酸素放出量O(数3または数5)を追従させる目標値に適用される。制御部13たる電子制御装置5は、学習した上流側触媒31の酸素吸蔵能に所定の比率(例えば、0.5)を乗じてフィードバック制御の目標値とする。要するに、触媒31内に酸素を充満させた状態と触媒31内の酸素が空になった状態との中間の状態に目標値を設定する。
なお、上述した酸素吸蔵能は、エンジン回転数及び気筒に充填される吸入空気量(または、要求負荷)によって規定される運転領域毎に学習することが好ましい。何故ならば、触媒31の酸素吸蔵能力は触媒31の温度による影響を受けるからである。触媒31の温度は、熱電対等の触媒温度センサを触媒31に付設して直接計測してもよいのであるが、この種の温度センサは比較的高コストである。故に、本実施形態では、温度センサを採用する替わりに、アクティブ制御の実行の際の運転領域[エンジン回転数,吸気量]と関連づけて上流側触媒31の酸素吸蔵能の学習値(または、学習値に所定の比率を乗じて得られる目標値)を記憶するとともに、フィードバック制御において、その時々の運転領域[エンジン回転数,吸気量]に対応した学習値に基づく目標値を用いた制御を実施する。
本実施形態によれば、内燃機関2の排気通路に装着された排気ガス浄化用の上流側触媒31の上流に設けられる第一の空燃比センサ11と、前記上流側触媒31の下流に設けられる第二の空燃比センサ12と、少なくとも前記第二の空燃比センサ12の出力を参照し、前記上流側触媒31の酸素吸蔵能を推算して記憶する学習部14と、少なくとも前記第一の空燃比センサの出力11を参照し、前記上流側触媒31内に吸蔵した酸素量と当該上流側触媒31の酸素吸蔵能との比である酸素割合のモデル数式に則り、上流側触媒31内に酸素吸蔵能まで酸素を吸蔵した状態から酸素を放出した量Oを推算して、その放出量Oを前記学習部14で学習した酸素吸蔵能に所定の比率を乗じて得られる目標値にフィードバック制御する空燃比制御部13とを具備する空燃比制御装置1を構成したため、フィードバック制御の目標値を固定化せず、触媒31の経年劣化に応じて適切に設定することが可能となる。従って、長期に亘って排気ガス浄化能率を高く保つことができ、有害物質HC、CO及びNOxの排出量の一層の低減を図り得る上、触媒31、32に使用する貴金属量の削減にも資する。
下流側触媒32は、アクティブ制御の際等に上流側触媒31の下流に漏出する有害物質HC、CO及びNOxを浄化する。
酸素放出量Oは、上流側触媒31内に酸素が充満した状態を基準(O=0)とする値であり、燃料カットを実行する都度0にリセットされ、推算誤差もリセットされることから、高精度のフィードバック制御が実現される。
さらに、前記学習部14が、前記第二の空燃比センサ12の出力電圧が基準値から所定以上大きくなった、または所定以下小さくなったことを条件として前記上流側触媒31の酸素吸蔵能の学習を実行することから、アクティブ制御に起因する無駄な燃料消費を抑制できる。
本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、学習パラメータβの算定式は、式(数9)及び式(数10)には限定されない。例えば、TD>TAならばβを所定量γ(例えば、γ=0.001)だけ増加させ、TD<TAならばβを所定量γだけ減少させる、というように、TDとTAとの大小関係に応じてβを増減させるようにしても構わない。
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。