本発明の実施形態に係る防護柵用支柱A1は、図1に示すように、車道に沿って配置される横梁B,Bを支持するものであり、車道脇の地覆(基礎)Cに設置されている。
防護柵用支柱A1は、アルミニウム合金製の押出形材からなる複数(本実施形態では二つ)の支柱構成材1,2を積み重ねて構成したものである。支柱構成材1,2は、いずれも、その素となる押出形材の押出方向が車道に沿う方向(図1の(a)において紙面垂直方向)となるように配置されている。
以下の説明においては、上側の支柱構成材1(一番上(最上段)に位置する支柱構成材1)を「上部材1」と称し、下側の支柱構成材2(一番下(最下段)に位置する支柱構成材2)を「下部材2」と称する。
上部材1は、上に向かうに従って奥行き寸法(前後方向の長さ)が漸減するような形状を具備している。図1の(b)に示すように、上部材1の幅寸法(左右方向の長さ)は、上端から下端まで一定である。
本実施形態の上部材1は、図2の(a)に示すように、上側前部フランジ11と、上側後部フランジ12と、前側係合部13と、後側係合部14と、仕切プレート15と、梁受部16と、梁固定部17とを具備している。
上側前部フランジ11は、車道に面していて、車道側から衝突荷重が作用する際には、主として引張力に抵抗する。本実施形態の上側前部フランジ11は、曲板状に成形されていて、上側前部フランジ11の前面は、後側に凸となるよう緩やかに湾曲している。上側前部フランジ11の下端部は、上側後部フランジ12の下端を通る水平面X1の下方に延出している。上側前部フランジ11の下端部の前面は、下段の横梁Bの取付座になっている。
上側前部フランジ11の下端部には、その前面から前側係合部13の後面にまで至るボルト挿通孔11aが形成されている。ボルト挿通孔11aには、梁固定用の雄ネジ部材であるボルト3a(図1参照)が挿入される。図3の(a)に示すように、上側前部フランジ11の下端部には、ネジ挿通孔11b,11bも形成されている。ネジ挿通孔11bは、ボルト挿通孔11aを挟んで左右両側において、上側前部フランジ11と前側係合部13とを貫通している。ネジ挿通孔11bには、接合用の雄ネジ部材である皿ネジ3c(図3の(b)参照)が挿通される。
上側後部フランジ12は、図2の(a)に示すように、上側前部フランジ11の後方に配置されていて、車道側から衝突荷重が作用する際には、主として圧縮力に抵抗する。すなわち、上側後部フランジ12は、上側前部フランジ11と間隔をあけて対向していて、上側前部フランジ11と協同して車両衝突時の曲げモーメントに抵抗する。本実施形態の上側前部フランジ11は、曲板状に成形されていて、上側後部フランジ12の後面は、後側に凸となるよう緩やかに湾曲している。
前側係合部13は、下部材2の前側上部に係合する部位であり、上側前部フランジ11の下端部に付設されている。本実施形態の前側係合部13は、上側前部フランジ11の後面に突設されている。前側係合部13の上面13aは、前側が低くなるように傾斜している。なお、前側係合部13の上面は、後側が低くなるように傾斜させてもよいし(図7の(c)参照)、水平にしてもよい(図7の(d)参照)。
後側係合部14は、下部材2の後側上部に係合する部位であり、上側後部フランジ12の下端部に付設されている。後側係合部14の上端部は、上側後部フランジ12の下端部の前面に繋げられており、後側係合部14の下端部は、上側後部フランジ12の下方に延出している。後側係合部14は、上側後部フランジ12の後面の下端を通る鉛直面Y1に対して前側にオフセットしている。また、後側係合部14の後面には、左右方向(紙面垂直方向)に連続する凹溝14aが形成されている。後側係合部14の下端面よりも一段高い位置には、段差面14bが形成されている。
仕切プレート15は、上部材1の剛性を高める目的で配置されたものであり、平板状を呈している。下側の仕切プレート15は、後側係合部14から斜め上方に向かって立ち上がり、上側前部フランジ11に接続されている。上側の仕切プレート15は、上側前部フランジ11と下側の仕切プレート15との交差部から斜め上方に向かって立ち上がり、上側後部フランジ12に接続されている。なお、仕切プレート15の数、位置、向き等は、変更してもよい。
梁受部16および梁固定部17は、上段の横梁Bの取付座となる部位である。
梁受部16は、上側前部フランジ11の上端および上側後部フランジ12の上端よりも低い位置において、上側前部フランジ11と上側後部フランジ12とを繋いでいる。
梁固定部17は、上側前部フランジ11の上端から前方に向かって張り出している。なお、上段の横梁Bの下面には、凹溝が形成されており、梁固定部17は、横梁Bの凹溝に挿入される。梁固定部17には、ボルト挿通孔17aが形成されている。ボルト挿通孔17aには、梁固定用の雄ネジ部材であるボルト3b(図1の(a)参照)が挿入される。
下部材2は、図2の(b)に示すように、上に向かうに従って奥行き寸法(前後方向の長さ)が漸減するような形状を具備している。下部材2の幅寸法(左右方向の長さ)は、上端から下端まで一定である(図1の(b)参照)。
本実施形態の下部材2は、台座20と、下側前部フランジ21と、下側後部フランジ22と、補強プレート23と、壁部24と、抜止部25と、境界プレート26と、阻止部27とを具備している。
台座20は、図1の(a)に示すように、地覆Cに載置される平板状の部位であり、地覆Cに植設されたアンカーボルトC1,C2によって地覆Cの上面に固定される。なお、車両衝突時には、後側のアンカーボルトC2よりも前側のアンカーボルトC1に大きな引抜力が作用するので、前側のアンカーボルトC1は、後側のアンカーボルトC2よりも太径かつ長尺とし、アンカーボルトC1が挿通される台座20の前半部を後半部に比して肉厚に成形している。なお、前後のアンカーボルトC1,C2を同径としてもよい。図2の(b)に示すように、台座20には、アンカー挿通孔20a,20a,…が形成されている。アンカー挿通孔20aには、アンカーボルトC1,C2(図1参照)が挿通される。
下側前部フランジ21は、車道に面していて、車道側から衝突荷重が作用する際には、主として引張力に抵抗する。下側前部フランジ21は、上側前部フランジ11の下側に配置され、下側前部フランジ21の上端面は、上側前部フランジ11の下端面に突き合わされる。本実施形態の下側前部フランジ21は、曲板状に成形されており、かつ、後側に傾いた状態で台座20の前縁から立ち上がっている。下側前部フランジ21の前面は、後側に凸となるよう緩やかに湾曲しており、上側前部フランジ11の前面に滑らかに連続している。なお、下側前部フランジ21の肉厚は、上に向かうに従って漸減していて、下端部の肉厚は、上端部の肉厚よりも大きくなっている。
下側後部フランジ22は、下側前部フランジ21の後方に配置されていて、車道側から衝突荷重が作用する際には、主として圧縮力に抵抗する。すなわち、下側後部フランジ22は、下側前部フランジ21と間隔をあけて対向していて、下側前部フランジ21と協同して車両衝突時の曲げモーメントに抵抗する。下側後部フランジ22は、上側後部フランジ12の下側に配置され、下側後部フランジ22の上端面は、上側後部フランジ12の下端面に突き合わされる。本実施形態の下側後部フランジ22は、曲板状に成形されており、かつ、前側に傾いた状態で台座20から立ち上がっていて、下側前部フランジ21と側面視ハ字状に対向している。下側後部フランジ22の上端部は、下側前部フランジ21の上端を通る水平面X2の上方に延出している。下側後部フランジ22の後面は、前側に凸となるよう緩やかに湾曲しており、かつ、上側後部フランジ12の後面に滑らかに連続している。
下側後部フランジ22は、基部22aと、座屈変形部22bと、延出部22cとを備えている。
基部22aは、下側前部フランジ21との離隔距離が上に向かうに従って漸減するよう、前側に傾いた状態で台座20の後縁から立ち上がっている。基部22aの肉厚は、下側前部フランジ21の肉厚よりも大きく、かつ、座屈変形部22bの肉厚よりも大きい、
座屈変形部22bは、前側に傾いた状態で基部22aの上縁から立ち上がっている。座屈変形部22bは、上部材1の上端部に対して車道側から大きな衝突荷重が作用したときに座屈し、下側前部フランジ21に向かって孕み出るように屈曲する。
延出部22cは、後側係合部14(図2の(a)参照)の後側に重ね合わされる部位であり、座屈変形部22bの上縁から立ち上がっている。延出部22cの上端部には、前方に向かって突出する係合突起22dが形成されている。係合突起22dは、凹溝14a(図2の(a)参照)に嵌め込まれる。また、係合突起22dの下側には、前後方向に貫通する雌ネジ22eが形成されている。雌ネジ22eには、図3の(b)に示すように、止めネジ3dが挿通される。なお、止めネジ3dの先端は、後側係合部14の後面に当接し、止めネジ3dを締め付けることにより、後側係合部14が阻止部27に押し付けられる。
補強プレート23は、図2の(b)に示すように、下部材2の内部空間を上下に仕切るように配置されていて、台座20の上方において下側前部フランジ21と下側後部フランジ22とを繋いでいる。補強プレート23は、基部22aの上端部から斜め上方に立ち上がっており、補強プレート23の上端部は、下側前部フランジ21の上端部に接続されている。なお、補強プレート23の下方には、下部材2の内部空間を上下に仕切る要素は存在していない。すなわち、下側前部フランジ21および基部22aは、台座20および補強プレート23のみによって繋がれている。
車道側から衝突荷重が作用すると、補強プレート23には、圧縮応力が作用することになるが、本実施形態では、座屈変形部22bが座屈変形を開始するまでに、補強プレート23の圧縮応力が降伏強度に達するように、補強プレート23の肉厚や傾きが設定されている。なお、補強プレート23の肉厚は、座屈変形部22bの肉厚よりも小さく、水平面に対する補強プレート23の傾斜角度は、45度である。
壁部24は、前側係合部13の後側に重ね合わされる部位であり、補強プレート23の上端部から立ち上がっている。本実施形態では、壁部24は鉛直であり、補強プレート23と壁部24のなす角度は135度である。なお、壁部24は、下側前部フランジ21の前面の上端を通る鉛直面Y2に対して後側にオフセットしている。
壁部24には、前後方向に貫通するボルト挿通孔24aが形成されている。ボルト挿通孔24aは、上部材1のボルト挿通孔11a(図2の(a)参照)と連通する。ボルト挿通孔11a,24aには、横梁固定用のボルト3a(図1の(a)参照)が挿通される。なお、ボルト挿通孔24aは、単なる透孔であってもよいし、雌ネジであってもよいが、雌ネジとする場合には、下段の横梁Bの固定方法を変更する必要がある。図3の(a)に示すように、壁部24には、雌ネジ24b,24bも形成されている。雌ネジ24bは、ボルト挿通孔24aを挟んで左右両側に形成されており、壁部24を貫通している。雌ネジ24bには、ネジ挿通孔11bを貫通した皿ネジ3c(図3の(b)参照)が螺入される。
図2の(b)に示す抜止部25は、上部材1の上方への抜け出しを阻止する部位であり、前側係合部13の上面13a(図2の(a)参照)に当接する。本実施形態の抜止部25は、境界プレート26の延長線上に位置し、壁部24の上端部から前方に向かって突出している。抜止部25の下面は、前側係合部13の上面13aに面接触できるよう、前側が低くなるように傾斜している。
境界プレート26は、補強プレート23の上方に配置されていて、座屈変形部22bと壁部24とを繋いでいる。本実施形態の境界プレート26は、壁部24の上端部から斜め上方に向かって立ち上がり、座屈変形部22bの上端部に接続されている。なお、上部材1(図2の(a)参照)を下部材2に積み重ねると、座屈変形部22bと境界プレート26の交差部は、下側の仕切プレート15(図2の(a)参照)の延長線上に位置するようになる。
阻止部27は、上部材1(図2の(a)参照)の前方へのズレを阻止する部位であり、後側係合部14(図2の(a)参照)の前面に当接する。本実施形態の阻止部27は、境界プレート26の上面に突設されており、下側後部フランジ22の上端部(延出部22c)に間隔をあけて対向している。なお、阻止部27の上端面は、後側係合部14の段差面14b(図2の(a)参照)に突き合わされる。
上部材1を製造するには、上部材1の端面形状と同じ断面形状を有する押出形材(上下二つのホロー部を有する押出形材)を、押出方向と交差する面に沿って切断し、ボルト挿通孔11a,17aやネジ挿通孔11b等を形成すればよい。なお、上部材1の素となる押出形材として、前側係合部13と後側係合部14とが板部によって繋がれた押出形材(三つのホロー部を有する押出形材)を使用し、押出成形後に板部を切除してもよい。前側係合部13と後側係合部14とを繋いでホロー部を形成しておけば、押出加工の精度を高めることができるので、寸法誤差の少ない上部材1を製造することが可能となる。
下部材2を製造するには、下部材2の端面形状と同じ断面形状を有する押出形材(上下二つのホロー部を有する押出形材)を、押出方向と直交する面に沿って切断し、アンカー挿通孔20a、雌ネジ22e,24b,ボルト挿通孔24a等を形成すればよい。ちなみに、本実施形態の切断長さは、上部材1および下部材2ともに同じである。
なお、本実施形態では、上部材1および下部材2の幅寸法(左右方向の長さ)を上端から下端まで一定としたが(図1の(b)参照)、幅寸法が下の向かって大きくなるように斜めに切断すれば、下方を幅広とする防護柵用支柱を形成することも可能である。
上部材1と下部材2を連結するには、図3の(a)に示すように、上部材1および下部材2の少なくとも一方を押出方向(左右方向)にスライドさせて、抜止部25の下側において壁部24と前側係合部13とを重ね合わせるとともに、延出部22cと阻止部27との間に後側係合部14を入り込ませ、その後、図3の(b)に示すように、前側係合部13および壁部24を貫通する皿ネジ3cによって前側係合部13および壁部24を接合し、延出部22cを貫通する止めネジ3dによって、後側係合部14の前面を阻止部27に押し付ければよい。なお、上部材1と下部材2は、工場等において事前に組み立ててもよいし、防護柵用支柱A1の設置箇所において組み立ててもよい。また、図示は省略するが、溶接、摩擦攪拌接合、接着等により上部材1と下部材2とを接合してもよい。
防護柵用支柱A1を地覆Cに固定するには、図1の(a)に示すように、地覆Cから突出するアンカーボルトC1,C2をアンカー挿通孔20aに通しつつ、防護柵用支柱A1を地覆C上に設置し、台座20から突出したアンカーボルトC1,C2にナットを螺合すればよい。
上段の横梁Bを防護柵用支柱A1に取り付けるには、梁受部16および梁固定部17の上に横梁Bを載置した後、梁固定部17の下側からボルト挿通孔17aにボルト3bを挿入し、ボルト3bを利用して横梁Bを梁固定部17に固定すればよい。なお、横梁Bの下面の凹溝には、梁固定部17を入り込ませ、横梁Bの後部は、上部材1の上端部の凹部(梁受部16を底壁とし、上側前部フランジ11の上端部および上側後部フランジ12の上端部を側壁とする凹部)に嵌め込む。
また、下段の横梁Bを防護柵用支柱A1に取り付けるには、横梁Bの後部に抱持させたボルト3aをボルト挿通孔11a,24a(図2参照)に通しつつ上側前部フランジ11の下端部(前側係合部13と壁部24との重ね合せ部)の前面に下段の横梁Bを当接させ、壁部24の後側に突出したボルト3aにナットを螺合すればよい。なお、ボルト3aによっても、前側係合部13と壁部24とが接合される。
図4の(a)に示すように、防護柵用支柱A1の上端部に対して後方へ向かう衝突荷重が作用すると、防護柵用支柱A1に変形や傾倒が生じるようになるが、大きな衝突荷重が作用し、補強プレート23の圧縮応力が降伏強度に達すると、図4の(b)に示すように、座屈変形部22bが下側前部フランジ21に向かって孕み出るように屈曲して座屈変形を開始し、補強プレート23と重なるようになる。座屈変形部22bと補強プレート23とが重なった部分は、重ね梁のような状態となるので、座屈変形部22bに座屈が発生した後でも、適度な変形抵抗が維持される。基部22aは、その下端部に生じた曲げ変形に起因して前側に傾倒し、補強プレート23は、基部22a側の端部において屈曲する。上部材1には、座屈等の大きな変形は生じず、当初の形状を保持しつつ後方へ傾倒する。なお、防護柵用支柱A1の前側部分(上側前部フランジ11および下側前部フランジ21)に引張力が作用するので、上側前部フランジ11と下側前部フランジ21との境界部分には、両者を引き離そうとする力が作用するが、上部材1の前側係合部13の上面が下部材2の抜止部25に当接するので、上部材1が下部材2から離脱することはない。
図5の(a)に、衝突荷重を模擬した水平荷重を防護柵用支柱A1の上端部(上部材1の上端部)に静的に作用させたときの荷重(支持力)と変位量との関係を示す。なお、この静荷重試験は、「防護柵の設置基準・同解説 平成20年1月」(社団法人日本道路協会)の「橋梁用ビーム型防護柵 設計方法」(p98〜100)に記載された試験方法に準拠している。
試験に用いた防護柵用支柱A1のアルミニウム合金は、JISA6061S−T6である。上部材1の各部の厚さ、高さ等は、図5の(b)に示すとおりであり、下部材2の各部の厚さ、高さ等は、図5の(c)に示すとおりである。なお、上部材1および下部材2の幅寸法は、150mmである。
水平荷重を徐々に大きくしていったところ、上端部の変位が50mmを超えたところで、最大(最大支持力Pmax=44.9kN)となった。等価台形面積(=変位荷重曲線を0〜30cmの領域において積分した値)に基づいて極限支持力PWを算出すると、PW=29.6kNとなる。補強プレート23の圧縮応力は、最大支持力Pmaxに達する前に降伏強度に達し、最大支持力Pmaxにおいて座屈変形部22bに座屈が生じる。防護柵用支柱A1の上端部の変位量が30cmに達した時点での荷重が19kN程度であることから、防護柵用支柱A1が車両の接触・衝突時の衝撃荷重に十分耐え、所定の衝突エネルギーを吸収し得る特性を備えていることが分かる。
なお、車両衝突時の防護柵用支柱A1の傾倒形態や支持力等は、静荷重試験の結果と相関するものであり、衝突試験に依らずとも推認可能である。上記「防護柵の設置基準・同解説 平成20年1月」に添付された「車両用防護柵性能確認試験方法について(平成10年11月5日付建設省道路局道路環境課長通達)」にも、防護柵の構成部材の強度を静荷重試験により確認することをもって、衝突試験に代えることができる旨が記載されている。
以上のような構成の防護柵用支柱A1によれば、車道側から衝突荷重が作用した際、座屈変形部22bに座屈が生じ易くなる一方、基部22aには座屈や破断が生じ難くなるので、傾倒形態の再現性が高まり、ひいては、衝突エネルギーの吸収量に大きなバラツキが生じ難くなる。なお、座屈変形部22bおよび補強プレート23の肉厚・長さを調整することにより、座屈変形のモードを容易にコントロールすることができる。
また、補強プレート23の圧縮応力が降伏強度に達した後に、座屈変形部22bが座屈変形を開始するので、座屈変形部22bの座屈荷重(最大支持力Pmax)が大きくなり、ひいては、衝突エネルギーの吸収量を増大させることができる。また、基部22aの肉厚を座屈変形部22bの肉厚よりも大きくしているので、基部22aに破断が生じ難く、したがって、補強プレート23の圧縮応力が降伏強度を超えた状態においても衝突エネルギーの吸収が継続し、傾倒形態の再現性を高めることができる。なお、上部材1および下部材2の座屈変形(断面圧壊)のモードや衝突エネルギーの吸収量は、数値解析によって容易にシミュレーションすることができる。
しかも、防護柵用支柱A1によれば、上部材1の前側係合部13の上面が下部材2の抜止部25に当接するので、上部材1と下部材2とが強固に接合されるようになる。つまり、防護柵用支柱A1によれば、これが後方に傾倒する際においても、上部材1が下部材2から離脱することはなく、車両衝突時の衝突エネルギーを確実に吸収することができる。
さらに、防護柵用支柱A1では、前側係合部13と壁部24とをボルト3aおよび皿ネジ3cによって接合しているので、前側係合部13と抜止部25とが係合することと相俟って、上部材1と下部材2とがより強固に接合されるようになり、さらには、上部材1と下部材2の横ずれを防ぐことができる。
なお、梁固定用のボルト3aを前側係合部13と壁部24の接合にも利用し且つ皿ネジ3cを省略した場合は、雄ネジ部材の数を削減することができ、ひいては、コストの削減を図ることができる。
また、防護柵用支柱A1によれば、止めネジ3dによって後側係合部14の前面を阻止部27に押し付けているので、ガタツキを防止することができる。また、防護柵用支柱A1が後方に傾倒する際には、阻止部27によって上側後部フランジ12の前側への移動が阻止されるようになるので、上側後部フランジ12と下側後部フランジ22とが突き合わされた状態が維持され、したがって、上部材1に作用した圧縮力が確実に下部材2に伝達されるようになる。
さらに、防護柵用支柱A1によれば、上部材1および下部材2の端面形状(小口形状)が外観デザインのアクセントになるので、外観デザインが単調になり難くなる。また、車道を走行する自動車の車室内から防護柵用支柱A1を視認した際には、上部材1および下部材2の中空部を通して防護柵用支柱A1の向こう側を見通すことができるので、広い視野を確保することができ、さらには圧迫感を低減することができるので、安全性が向上し、かつ、ドライブを楽しむことが可能となる。なお、外観デザインとして利用しないような場合には、上部材1および下部材2の側面に蓋材を覆設してもよい。蓋材は、構造材であってもよいし、単なる化粧部材(非構造材)であってもよい。
加えて、防護柵用支柱A1によれば、組み合わせるべき押出形材の種類を変更するだけで、高さ寸法や座屈荷重の大きさ等を容易に変更することができる。例えば、座屈荷重を大きくしたい場合には、肉厚の大きい押出形材を使用すればよい。なお、押出形材の切断長さを変更して支柱構成材の幅寸法を増減させることでも、防護柵用支柱A1の剛性や強度(座屈荷重や耐荷重)を変更することができる。
また、防護柵用支柱A1によれば、下部材2に台座20を一体成形したので、台座部材を別途用意する必要がない。つまり、防護柵用支柱A1によれば、下部材2と台座部材とを接合する作業が不要になるので、防護柵用支柱A1の製作に要する手間とコストを削減することが可能になる。
本実施形態では、押出形材を所定長さに切断して上部材1および下部材2を得た後に、これらを積み重ねることで防護柵用支柱A1を製造したが、上部材1の素となる押出形材および下部材2の素となる押出形材を接合して得た組立体を切断することで防護柵用支柱A1を製造してもよい。なお、水平の設置面に設置される防護柵用支柱A1を製造する場合には、押出方向と直交する面に沿って組立体を切断し、傾斜した設置面に設置される防護柵用支柱A1を製造する場合には、押出方向と直交する面に対して設置面の傾斜角度と等しい角度で傾斜する面に沿って組立体を切断する。
なお、本実施形態では、上側前部フランジ11、上側後部フランジ12、下側前部フランジ21および下側後部フランジ22を曲板状とした場合を例示したが、図6の(a)に示すように、折れ板状(平板を連ねた形状)に成形してもよい。なお、上側前部フランジ11の折れ点m1および上側後部フランジ12の折れ点m2は、いずれも、上側の仕切プレート15との交差部に位置しており、下側前部フランジ21の上下二箇所の折れ点m3,m4のうち、下側の折れ点m3は、台座20から補強プレート23に至る途中に位置し、上側の折れ点m4は、補強プレート23との交差部に位置している。また、下側後部フランジ22の折れ点m5は、座屈変形部22bの高さ方向の中間部に位置している。
また、本実施形態では、上側前部フランジ11の下端部および前側係合部13を壁部24に重ね合わせた場合を例示したが、図6の(a)に示すように、前側係合部13を下側前部フランジ21の上端部21aおよび壁部24に重ね合わせてもよい。すなわち、図6の(b)に示すように、下側前部フランジ21の上端部21aを補強プレート23との交差部の上方に延出させることで、上端部21aと壁部24とを対向させておき、上側前部フランジ11の下方に延出させた前側係合部13を上端部21aと壁部24との間に挿入してもよい。なお、図7の(c)および(d)に示す変形例においても、下側前部フランジ21の上端部21aと壁部24とを対向させ、上側前部フランジ11の下方に延出させた前側係合部13を上端部21aと壁部24との間に挿入している。このようにすると、上端部21aと壁部24とで前側係合部13が挟持された状態となり、上部材1が後方へ傾倒した際には、前側係合部13の前面が下側前部フランジ21の上端部21aに当接し、前側係合部13の回転を拘束するので、上部材1が後方へ大きく傾倒した場合であっても、上部材1と下部材2との境界部分に目開きが生じ難くなり、両者の係合状態を良好に維持することが可能となる。なお、下段の横梁は、下側前部フランジ21の上端部21aの前面に取り付ける。
前側係合部13および抜止部25の形態は、前記した形態に限定されるものではない。例えば、図7の(a)、(b)および図8の(a)、(c)では、前側係合部13および抜止部25をフック状(鉤状)とし、上側前部フランジ11と前側係合部13とによって形成された凹溝内に抜止部25の先端部を挿入し、壁部24と阻止部25とによって形成された凹溝内に前側係合部13の先端部を挿入している。この形態においても、前側係合部13の上面が抜止部25に当接するので、上部材1と下部材2とが強固に接合されるようになる。
なお、図7の(a)の形態においては、上側前部フランジ11、抜止部25、前側係合部13および壁部24が皿ネジ3cによって接合されている。皿ネジ3cは、上側前部フランジ11、抜止部25および前側係合部13を貫通し、壁部24に形成された雌ネジに螺合されている。また、図7の(b)および図8の(a)の形態においては、上側前部フランジ11の下端部に止めネジ3eを螺入し、止めネジ3eの先端部を抜止部25に食い込ませることによって、上部材1の横ズレ(紙面垂直方向への移動)を防止しており、図8の(b)および(c)の形態においては、前側係合部13と抜止部25との間にくさびピン3hを挿入することによって、上部材1のガタツキを防止している。なお、図8の(b)および(c)の形態にあっては、ネジ3fにより上部材1の横ズレ(紙面垂直方向への移動)を防止している。
後側係合部14および阻止部27の形態も、前記した形態に限定されるものではない。例えば、図7の(c)および図8の(a)では、後側係合部14をフック状(鉤状)としているが、この形態においても、阻止部27が後側係合部14の前面に当接している。すなわち、図7の(c)および図8の(a)の形態においても、上部材1が後方に傾倒する際には、阻止部27によって上側後部フランジ12の前側への移動が阻止されるようになるので、上側後部フランジ12と下側後部フランジ22とが突き合わされた状態が維持され、上部材1に作用した圧縮力が確実に下部材2に伝達されるようになる。
なお、図7の(c)、(d)および図8の(a)においては、下部材2の後側にも、上部材1の上方への抜け出しを阻止する抜止部28が形成されている。抜止部28は、後側係合部14の上側に位置する部位であり、阻止部27の上端部から後方に向かって張り出していて、上部材1が後方に傾倒する際に、後側係合部14の上面に当接する。抜止部28の形状は適宜設定すればよいが、図7の(c)および図8の(a)の抜止部28は、後側係合部14の形状に対応してフック状(鉤状)を呈している。
前記した実施形態においては、止めネジ3dで後側係合部14を阻止部27に押し付ける形態を例示したが(図3の(b)参照)、図7の(b)、図8の(b)および(c)に示すように、ネジ3fにより後側係合部14と下側後部フランジ22とを接合してもよい。このようにすれば、上部材1と下部材2のガタツキや横ズレ(紙面垂直方向へのズレ)を防止することができ、さらには、上部材1の上方への抜け出しを防止することができる。なお、図8の(a)の形態においては、上側後部フランジ12の下端部に止めネジ3gを螺入し、止めネジ3gの先端部を抜止部28に食い込ませることによって、横ズレ(紙面垂直方向への移動)を防止している。
前記した実施形態では、防護柵用支柱A1を二つの支柱構成材(上部材1と下部材2)で形成した場合を例示したが、支柱構成材の数を限定する趣旨ではない。図示は省略するが、単一の支柱構成材にて構成してもよいし、三つ以上の支柱構成材を積み重ねて構成してもよい。