JP5639573B2 - 強度および延性のばらつきの小さい高強度冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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例えば、特許文献1には、A=Si+9×Alで定義するAが6.0≦A≦20.0を満たした、フェライトとマルテンサイトの二相組織鋼とし、この鋼板を製造するに際しては、再結晶焼鈍・焼戻処理を、Ac1以上Ac3以下の温度で10s以上保持し、500〜750℃までを20℃/s以下の冷却速度で緩冷却し、その後、100℃以下までを100℃/s以上の冷却速度で急冷し、300〜500℃で焼戻しを行うことで、鋼材のA3点を上昇させることにより、緩冷却終了時点の温度である急冷開始温度が変動したときの上記二相組織の安定性を高めて、機械的特性のばらつきを低減する方法が開示されている。
また、特許文献2には、予め鋼板の板厚、炭素含有量、リン含有量、焼入れ開始温度、焼入れ停止温度および焼入れ後の焼戻し温度と引張強度の関係を求めておき、対象鋼板の板厚、炭素含有量、リン含有量、焼入れ停止温度および焼入れ後の焼戻し温度を考慮して、目標引張強度に応じて焼入れ開始温度を算出し、求めた焼入れ開始温度で焼入れすることで、強度のばらつきを低減する方法が開示されている。
また、特許文献3には、3%以上の残留オーステナイトを含む組織を有する鋼板を製造するにあたり、熱延鋼板を冷間圧延した後の焼鈍処理において、800℃超Ac3点未満で30秒〜5分間均熱した後、450〜550℃の温度範囲まで一次冷却を行い、次いで450〜400℃までの一次冷却速度に比べて小さい冷却速度で二次冷却を行った後、さらに450〜400℃で1分間以上保持することで、板幅方向における伸び特性のばらつきを改善する方法が開示されている。
質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C:0.05〜0.30%、
Si:3.0%以下(0%を含まない)、
Mn:0.1〜5.0%、
P:0.1%以下(0%を含まない)、
S:0.02%以下(0%を含まない)、
Al:0.01〜1.0%、
N:0.01%以下(0%を含まない)
を各々含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
軟質第1相であるフェライトを面積率で20〜50%含み、
残部が硬質第2相である、焼戻しマルテンサイトおよび/または焼戻しベイナイトからなる組織を有し、
前記フェライトの粒内に存在する、円相当直径0.3μm以上のセメンタイト粒子の分散状態が、前記フェライト1μm2当たり0.05〜0.15個である
ことを特徴とする強度および延性のばらつきの小さい高強度冷延鋼板である。
成分組成が、更に、
Cr:0.01〜1.0%
を含むものである請求項1に記載の強度および延性のばらつきの小さい高強度冷延鋼板である。
成分組成が、更に、
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%の1種または2種以上
を含むものである請求項1または2に記載の強度および延性のばらつきの小さい高強度冷延鋼板である。
成分組成が、更に、
Ca:0.0001〜0.01%、
Mg:0.0001〜0.01%、
Li:0.0001〜0.01%、
REM:0.0001〜0.01%の1種または2種以上
を含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の強度および延性のばらつきの小さい高強度冷延鋼板である。
請求項1〜4のいずれか1項に示す成分組成を有する鋼材を、下記(1)〜(4)に示す各条件で、熱間圧延した後、冷間圧延し、その後、焼鈍し、さらに焼戻しすることを特徴とする強度および延性のばらつきの小さい高強度冷延鋼板の製造方法である。
(1) 熱間圧延条件
仕上げ圧延終了温度:Ar3点以上
巻取温度:450〜600℃
(2) 冷間圧延条件
冷間圧延率:20〜50%
(3) 焼鈍条件
室温〜600℃の温度域を0.5〜5.0℃/sの第1加熱速度で、600℃〜焼鈍温度の温度域を第1加熱速度の1/2以下の第2加熱速度で、それぞれ昇温し、(Ac1+Ac3)/2〜Ac3の焼鈍温度にて、3600s以下の焼鈍保持時間だけ保持した後、焼鈍温度から、730℃以下500℃以上の第1冷却終了温度までを1℃/s以上50℃/s未満の第1冷却速度で徐冷した後、Ms点以下の第2冷却終了温度までを50℃/s以上の第2冷却速度で急冷する。
(4) 焼戻し条件
焼戻し温度:300〜500℃
焼戻し保持時間:300℃〜焼戻し温度の温度範囲内に60〜1200s
上述したとおり、発明鋼板は、軟質第1相であるフェライトと、硬質第2相である焼戻しマルテンサイト等からなる複相組織をベースとするものであるが、特に、フェライト粒子内のセメンタイト粒子のサイズと存在密度が制御されている点を特徴とする。
フェライト−焼戻しマルテンサイト等の複相組織鋼では、変形は主として変形能の高いフェライトが受け持つ。そのため、フェライト−焼戻しマルテンサイト等の複相組織鋼の伸びは主としてフェライトの面積率で決定される。
フェライトの硬さを硬質第2相の硬さに近づけるため、フェライト中に粗大なセメンタイト粒子を所定の存在密度(以下「数密度」ともいう。)で存在させる必要がある。
まず、各相の面積率については、各供試鋼板を鏡面研磨し、3%ナイタール液で腐食して金属組織を顕出させた後、概略40μm×30μm領域5視野について倍率2000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察し、点算法で1視野につき100点の測定を行ってフェライトの面積を求めた。また、画像解析によってセメンタイトを含む領域を硬質第2相とし、残りの領域を、残留オーステナイト、マルテンサイト、および、残留オーステナイトとマルテンサイトの混合組織とした。そして、各領域の面積比率より各相の面積率を算出した。
セメンタイト粒子のサイズおよびその存在密度については、各供試鋼板の抽出レプリカサンプルを作成し、12μm×8μmの領域3視野について倍率10000倍の透過型電子顕微鏡(TEM)像を観察し、画像のコントラストから白い部分をセメンタイト粒子と判別してマーキングし、画像解析ソフトにて、前記マーキングした各セメンタイト粒子の面積Aから円相当直径D(D=2×(A/π)1/2)を算出するとともに、単位面積あたりに存在する所定のサイズのセメンタイト粒子の個数を求めた。なお、複数個のセメンタイト粒子が重なり合う部分は観察対象から除外した。
C:0.05〜0.30%
Cは、硬質第2相の面積率およびフェライト中に存在するセメンタイト量に影響し、強度、伸びおよび伸びフランジ性に影響する重要な元素である。0.05%未満では強度が確保できなくなる。一方、0.30%超では溶接性が劣化する。C含有量の範囲は、好ましくは0.10〜0.25%、さらに好ましくは0.14〜0.20%である。
Siは、フェライトを固溶強化することで、硬質第2相との強度差を軽減でき、伸びと伸びフランジ性の両立に寄与する有用な元素である。3.0%超では加熱時におけるオーステナイトの形成を阻害するため、硬質第2相の面積率を確保できず、伸びフランジ性を確保できない。Si含有量の範囲は、好ましくは0.50〜2.5%、さらに好ましくは1.0〜2.2%である。
Mnは、硬質第2相の変形能を高めることで、伸びと伸びフランジ性の両立に寄与する。また、焼入れ性を高めることで、硬質第2相が得られる製造条件の範囲を広げる効果もある。0.1%未満では上記効果が十分に発揮されないため、伸びと伸びフランジ性を両立できず、一方、5.0%超とすると逆変態温度が低くなりすぎ、再結晶ができなくなるため、強度と伸びのバランスが確保できなくなる。Mn含有量の範囲は、好ましくは0.50〜2.5%、さらに好ましくは1.2〜2.2%である。
Pは不純物元素として不可避的に存在し、固溶強化により強度の上昇に寄与するが、旧オーステナイト粒界に偏析し、粒界を脆化させることで伸びフランジ性を劣化させるので、0.1%以下とする。好ましくは0.05%以下、さらに好ましくは0.03%以下である。
Sも不純物元素として不可避的に存在し、MnS介在物を形成し、穴拡げ時に亀裂の起点となることで伸びフランジ性を低下させるので、0.02%以下とする。好ましくは0.015%以下、さらに好ましくは0.010%以下である。
Alは脱酸元素として添加され、介在物を微細化する効果を有する。また、フェライトを固溶強化させることで、硬質第2相との強度差を軽減する効果も有する。0.01%未満では鋼中の介在物が破壊の起点となりやすく、伸びと伸びフランジ性を確保できず、一方、1.0%超では加熱時におけるオーステナイトの形成を阻害するため、硬質第2相の面積率を確保できず、伸びフランジ性を確保できなくなる。
Nも不純物元素として不可避的に存在し、Nは内部欠陥発生の原因となりやすく、伸びと伸びフランジ性を低下させるので、低い方が好ましく、0.01%以下とする。
Crは、フェライトを固溶強化させることで、硬質第2相との強度差を軽減でき、伸びフランジ性を改善できる有用な元素である。0.01%未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえず、一方、1.0%を超える添加では粗大なCr7C3が形成されるようになり、伸びフランジ性が劣化してしまう。
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%の1種または2種以上
これらの元素は、固溶強化により成形性を劣化させずに強度を改善するのに有用な元素である。各元素とも上記各下限値未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえず、一方、各元素とも1.0%を超える添加ではコストが高くなりすぎる。
Mg:0.0001〜0.01%、
Li:0.0001〜0.01%、
REM:0.0001〜0.01%の1種または2種以上
これらの元素は、介在物を微細化し、破壊の起点を減少させることで、伸びフランジ性を向上させるのに有用な元素である。各元素とも0.0001%未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえず、一方、各元素とも0.01%を超える添加では逆に介在物が粗大化し、伸びフランジ性が低下する。
上記のような冷延鋼板を製造するには、まず、上記成分組成を有する鋼を溶製し、造塊または連続鋳造によりスラブとしてから熱間圧延を行う。熱間圧延条件としては、仕上げ圧延の終了温度をAr3点以上に設定し、適宜冷却を行った後、450〜600℃の範囲で巻き取る。熱間圧延終了後は酸洗してから冷間圧延を行うが、冷間圧延率(以下、「冷延率」ともいう。)は20〜50%の範囲とするのがよい。
焼鈍条件としては、室温〜600℃の温度域を0.5〜5.0℃/sの第1加熱速度で、600℃〜焼鈍温度の温度域を第1加熱速度の1/2以下の第2加熱速度で、それぞれ昇温し、(Ac1+Ac3)/2〜Ac3の焼鈍温度にて、3600s以下の焼鈍保持時間だけ保持した後、焼鈍温度から、730℃以下500℃以上の第1冷却終了温度(徐冷終了温度)までを1℃/s以上50℃/s未満の第1冷却速度(徐冷速度)で徐冷した後、Ms点以下の第2冷却終了温度(急冷終了温度)までを50℃/s以上の第2冷却速度(急冷速度)で急冷するのがよい。
冷延材の焼鈍に際して、まず、比較的ゆっくり加熱することで、フェライトが再結晶する過程において、前組織中に既に析出していたセメンタイト粒子を粗大化させ、そのセメンタイト粒子が再結晶フェライトに取り込まれることで、フェライト粒内に大きなセメンタイト粒子が存在する組織とするためである。また、この加熱の際に、フェライト中の転位密度も十分に低減できる。
次いで、Ac1点〜焼鈍温度(2相温度域)で所定時間加熱保持して上記粗大化したセメンタイトの一部を溶解させて、その後の室温付近までの急冷で固溶Cをフェライト中に濃化させるためである。
焼鈍加熱時に面積率20%以上の領域をオーステナイトに変態させることにより、その後の冷却時に十分な量の硬質第2相を変態生成させるためである。
面積率で20〜50%のフェライト組織を形成させることにより、伸びフランジ性を確保したまま伸びの改善が図れるためである。
冷却中にオーステナイトからフェライトが形成されることを抑制し、硬質第2相を得るためである。
焼戻し条件としては、上記焼鈍冷却後の温度から焼戻し温度:300〜500℃まで加熱し、300℃〜焼戻し温度の温度範囲内に焼戻し保持時間:60〜1200s滞在させた後、冷却すればよい。
式2:Ac3(℃)=910−203√[C]+44.7[Si]+31.5[Mo]−15.2[Ni]
ただし、[ ]は、各元素の含有量(質量%)を示す。
Claims (5)
- 質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C:0.05〜0.30%、
Si:3.0%以下(0%を含まない)、
Mn:0.1〜5.0%、
P:0.1%以下(0%を含まない)、
S:0.02%以下(0%を含まない)、
Al:0.01〜1.0%、
N:0.01%以下(0%を含まない)
を各々含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
軟質第1相であるフェライトを面積率で20〜50%含み、
残部が硬質第2相である、焼戻しマルテンサイトおよび/または焼戻しベイナイトからなる組織を有し、
前記フェライトの粒内に存在する、円相当直径0.3μm以上のセメンタイト粒子の分散状態が、前記フェライト1μm2当たり0.05〜0.15個である
ことを特徴とする強度および延性のばらつきの小さい高強度冷延鋼板。 - 成分組成が、更に、
Cr:0.01〜1.0%
を含むものである請求項1に記載の強度および延性のばらつきの小さい高強度冷延鋼板。 - 成分組成が、更に、
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%の1種または2種以上
を含むものである請求項1または2に記載の強度および延性のばらつきの小さい高強度冷延鋼板。 - 成分組成が、更に、
Ca:0.0001〜0.01%、
Mg:0.0001〜0.01%、
Li:0.0001〜0.01%、
REM:0.0001〜0.01%の1種または2種以上
を含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の強度および延性のばらつきの小さい高強度冷延鋼板。 - 請求項1〜4のいずれか1項に示す成分組成を有する鋼材を、下記(1)〜(4)に示す各条件で、熱間圧延した後、冷間圧延し、その後、焼鈍し、さらに焼戻しすることを特徴とする強度および延性のばらつきの小さい高強度冷延鋼板の製造方法。
(1) 熱間圧延条件
仕上げ圧延終了温度:Ar3点以上
巻取温度:450〜600℃
(2) 冷間圧延条件
冷間圧延率:20〜50%
(3) 焼鈍条件
室温〜600℃の温度域を0.5〜5.0℃/sの第1加熱速度で、600℃〜焼鈍温度の温度域を第1加熱速度の1/2以下の第2加熱速度で、それぞれ昇温し、(Ac1+Ac3)/2〜Ac3の焼鈍温度にて、3600s以下の焼鈍保持時間だけ保持した後、焼鈍温度から、730℃以下500℃以上の第1冷却終了温度までを1℃/s以上50℃/s未満の第1冷却速度で徐冷した後、Ms点以下の第2冷却終了温度までを50℃/s以上の第2冷却速度で急冷する。
(4) 焼戻し条件
焼戻し温度:300〜500℃
焼戻し保持時間:300℃〜焼戻し温度の温度範囲内に60〜1200s
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