JP5618395B2 - 自律神経活動調節用組成物および自律神経を調節する方法 - Google Patents
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Description
ペプチドまたはペプチド誘導体に関して自律神経活動への影響を直接測定した報告として、L-カルノシンの自律神経調節作用が報告されている。低用量のL-カルノシンの経口投与が、交感神経の活動を抑制し、副交感神経の活動を促進させる自律神経調節作用を示すこと、さらには交感神経活動の亢進に起因する高血圧および高血糖症状を改善する作用も示すことが報告されている(特許文献1)。しかし、この作用は静脈内投与により測定されており、経口投与による作用は不明であった。さらに、トリペプチドVal-Pro-Pro(VPP)およびその類縁体については、自律神経活動への影響を直接測定した報告はない。
また、ペプチドまたはペプチド誘導体に関して健忘改善効果を示した報告として、VPDPR、PDPR、CPR、シクロDPが0.5〜2.3mg/kgの脳室内または経口投与により、スコポラミン誘発健忘に対する改善効果が得られることが知られており、メカニズムの一つとしてμオピオイドレセプターを介する可能性が示唆されている(特許文献2)。また、これらのペプチドは経口投与により血清コレステロールの低下作用も有することが示されている(特許文献2)。さらに、XPLPR(XはL、I、M、F、W)が300mg/kgの側脳室内投与または経口投与によりスコポラミン誘発健忘に対する改善効果を示すことが報告されており、そのメカニズムの一つとして脳内C3aレセプターによるアセチルコリンの放出が示唆されている(特許文献3)。しかし、これらの作用はいずれも自律神経活動調節を介する作用を示したものではなく、トリペプチドVal-Pro-Pro(VPP)およびその類縁体については、健忘予防効果への影響を直接測定した報告はない。
特に、本発明は、交感神経活動の亢進を抑制するための経口摂取可能な組成物、および/または、副交感神経活動を促進するための経口摂取可能な組成物を提供する。
(2)本発明は、Val-Pro-Proまたはその塩を有効成分とする、副交感神経活動の促進用組成物でもある。
(3)本発明は、Val-Pro-Proまたはその塩を有効成分とする、交感神経活動の亢進抑制用組成物である。
(4)また、本発明は、自律神経の乱れおよびそれに起因する症状を予防、改善または緩和することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の組成物である。
(5)本発明は、Val-Pro-Proまたはその塩を有効成分とする、健忘予防作用、血流促進作用または抗不安作用を有する(2)または(3)記載の組成物である。
(6)本発明は、Val-Pro-Proまたはその塩を有効成分とする、健忘予防用組成物でもある。
(7)本発明は、Val-Pro-Proまたはその塩を有効成分とする、血流促進用組成物でもある。
(8)本発明は、Val-Pro-Proまたはその塩を有効成分とする、不安抑制用組成物でもある。
(9)本発明は、経口摂取用である、(1)〜(8)のいずれかに記載の組成物でもある。
(10)また、本発明は、非ヒト動物にVal-Pro-Proまたはその塩を投与することを含む、非ヒト動物における自律神経活動を調節する方法である。
(11)本発明は、非ヒト動物にVal-Pro-Proまたはその塩を投与することを含む、非ヒト動物における副交感神経活動を促進する方法でもある。
(12)本発明は、非ヒト動物にVal-Pro-Proまたはその塩を投与することを含む、非ヒト動物における交感神経活動の亢進を抑制する方法でもある。
(13)本発明は、非ヒト動物において自律神経の乱れおよびそれに起因する症状を予防、改善または緩和する、(10)〜(12)記載の方法でもある。
(14)また、本発明は、非ヒト動物において健忘を予防する、血流を促進する、または不安を抑制する、(11)または(12)記載の方法でもある。
(15)本発明は、非ヒト動物にVal-Pro-Proまたはその塩を投与することを含む、非ヒト動物における健忘を予防する方法でもある。
(16)本発明は、非ヒト動物にVal-Pro-Proまたはその塩を投与することを含む、非ヒト動物における血流を促進する方法でもある。
(17)本発明は、非ヒト動物にVal-Pro-Proまたはその塩を投与することを含む、非ヒト動物における不安を抑制する方法でもある。
(18)本発明は、投与が経口投与である、(10)〜(17)のいずれかに記載の方法でもある。
本明細書において、ペプチドVal-Pro-Proについて言及する場合、特に明示した場合および文脈上除外されることが明らかである場合を除き、「Val-Pro-Pro」および「ペプチドVal-Pro-Pro」にはその塩が含まれる。そのような塩には、例えばナトリウム塩、カリウム塩などの生理的条件下で存在しえる塩が含まれる。また、本発明の組成物は、本発明の組成物の有効成分であるペプチド、Val-Pro-Pro以外に他のペプチドおよび遊離アミノ酸またはその塩を含んでいても良い。なお、本発明との関連において、アミノ酸の三文字表記および一文字表記ならびにペプチドの表記は当業者によく知られた一般的規則に従う。
本発明の組成物およびその有効成分であるペプチドVal-Pro-Proの自律神経活動調節作用、特に交感神経活動の亢進を抑制する作用および副交感神経活動を促進する作用は、例えば以下のように確認することができる。
本発明の組成物またはペプチドVal-Pro-Proの副腎交感神経活動に対する効果は、ラットまたはマウス等に本組成物を投与し、副腎を支配する副交感神経の活動電位を経時的に測定することによって確認することができる。活動電位が低下すれば副腎交感神経活動が抑制されたことが確認できる。
本発明の組成物またはペプチドVal-Pro-Proの健忘予防作用は、例えばY字型迷路を用いた、アルツハイマー病治療薬の評価系に準じた系を用いて確認することができる。具体的には、ラットまたはマウスにスコポラミンのような健忘症を誘発する薬剤単独または本発明の組成物またはVal-Pro-Proをそのような薬剤と同時に投与、またはそのような薬剤の投与に先立って本発明の組成物またはVal-Pro-Proを投与し、Y字型迷路を用いた試験において異なるアームへの自発的交替行動変化率や迷路への総進入回数を指標として本発明の組成物の健忘予防作用を確認することができる。
これらの試験において陰性対照としてはたとえば水のみを投与した動物を用いることができる。薬剤によって誘導した健忘に対するVal-Pro-Proの予防作用を確認する実験の際には、スコポラミンのような健忘症を誘発する薬剤のみを投与した動物も対照として加えることができる。
本発明の組成物は飲食品用素材または動物用飼料素材として用いることもでき、例えば、本発明の組成物または本発明の組成物の有効成分であるペプチドVal-Pro-Proを消化管運動促進作用、抗不安作用、血流促進作用、健忘予防、心拍数調節作用、血糖調節作用、胃液分泌調節作用、体温調節作用、またはストレス緩和作用等の効能を有する特定保健用食品等の機能性食品とすることができる。
所望の効果を得るための本組成物またはペプチドVal-Pro-Proの投与または摂取量は、1回あたり有効成分であるペプチドVal-Pro-Proの量として一般に0.001mg/kg体重〜100mg/kg体重程度である。特に、副交感神経活動促進が主として望まれる場合、本発明の組成物の摂取量は、Val-Pro-Proの量として0.09mg/kg体重〜15mg/kg体重が好ましい。交感神経活動の抑制効果が望まれる場合は、Val-Pro-Proの量として0.15mg/kg体重〜20mg/kg体重が好ましく、特に皮膚動脈交感神経活動に対する効果が主として望まれる場合は0.15mg/kg体重〜1.5mg/kg体重が好ましい。血流促進作用が主として望まれる場合は、約20mg/kg程度が好ましい。また主として抗不安作用が望まれる場合は、Val-Pro-Proの量として0.001mg/kg体重〜100mg/kg体重が特に好ましく、主として健忘予防作用が望まれる場合はVal-Pro-Proの量として0.64mg/kg体重〜10mg/kg体重が好ましい。1日あたりの摂取回数に応じて、食品、例えば機能性食品における1回あたりの摂取量を前記量より更に低くすることも可能である。適切な摂取量は、上述の通り種々の要因を考慮して更に調整することができる。
例えば前述の機能性食品は、固形物、ゲル状物、液状物の何れの形態とすることができ、例えば、乳酸菌飲料等の醗酵乳製品、各種加工飲食品、乾燥粉末、錠剤、カプセル剤、顆粒剤等が挙げられ、更には各種飲料、ヨーグルト、流動食、ゼリー、キャンディ、レトルト食品、錠菓、クッキー、カステラ、パン、ビスケット、チョコレート等とすることができる。
本発明の組成物を含む特定保健用食品等の機能性食品を製造する場合、添加形態や製品形態によるが、最終製品に対して、含有される有効成分であるペプチドVal-Pro-Proの含有量が0.00001質量%〜10質量%、好ましくは0.00003質量%〜3質量%、さらに好ましくは0.0001質量%〜1質量%となるように調製する。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例に限られない。
体重約300gのWistar系雄ラット(約9週齢)(n=3)を用い、餌及び水は自由摂取させた。自律神経の活動を検討するために、3時間絶食後、明期の中間期にウレタン麻酔下に経口投与用のポリエチレンチューブを口腔内に挿入した。その後、胃を支配する副交感(迷走)神経を銀電極で吊り上げて、神経の電気活動を測定した。尚、手術開始から測定終了までチューブを気管に挿入して気道を確保し、保温装置にて体温(ラット直腸温)を35.0±0.5℃に保つようにした。神経の活動が落着いた時期に各Val-Pro-Proペプチド水溶液サンプルを1mlポリエチレンチューブにて経口投与し、神経活動の変化を測定した。サンプルは、Val-Pro-Pro 0.09mg/kg体重、0.15mg/kg体重または15mg/kg体重とした。対照として溶媒の水1mlを経口投与した。胃副交感神経の活動のデータは5分間毎の5秒あたりの発火頻度(pulse/5 s)の平均値にて解析し、刺激開始前の値(0分値)を100%として百分率で表し、その平均値±標準誤差で示した。対照群との有意差検定は、投与後5〜60分における相対活動電位の値を群として、分散分析法(ANOVA)によって行った。結果を図1に示す。
水投与群に比較し、Val-Pro-Pro 0.09mg/kg体重、0.15mg/kg体重および15mg/kg体重投与群のいずれにおいても投与後の胃副交感神経活動が有意に上昇した(図1)。Val-Pro-Proの経口投与は0.09mg/kg体重〜15mg/kg体重の範囲で胃副交感神経活動を促進することが示された。
体重約300gのWistar系雄ラット(約9週齢)(n=3)を用い、餌及び水は自由摂取させた。自律神経の活動を検討するために、3時間絶食後、明期の中間期にウレタン麻酔下に経口投与用のポリエチレンチューブを口腔内に挿入した。その後、副腎を支配する交感神経を銀電極で吊り上げて、神経の電気活動を測定した。尚、手術開始から測定終了までチューブを気管に挿入して気道を確保し、保温装置にて体温(ラット直腸温)を35.0±0.5℃に保つようにした。神経の活動が落着いた時期にVal-Pro-Proペプチド水溶液サンプル1mlをポリエチレンチューブにて経口投与し、神経活動の変化を測定した。サンプルは、Val-Pro-Pro 15mg/kg体重とした。対照として溶媒の水1mlを経口投与した。副腎交感神経の活動のデータは5分間毎の5秒あたりの発火頻度(pulse/5 s)の平均値にて解析し刺激開始前の値(0分値)を100%として百分率で表し、その平均値±標準誤差で示した。対照群との有意差検定は、投与後5〜60分における相対活動電位の値を群として、分散分析法(ANOVA)によって行った。結果を図2に示す。
水投与群に比較し、Val-Pro-Pro 15mg/kg体重投与により副腎交感神経活動が有意に低下した(図2)。Val-Pro-Proは15mg/kg体重の投与で副腎交感神経活動を抑制することが示された。
体重約300gのWistar系雄ラット(約9週齢)(n=3)を用い、餌及び水は自由摂取させた。自律神経の活動を検討するために、3時間絶食後、明期の中間期にウレタン麻酔下に経口投与用のポリエチレンチューブを口腔内に挿入した。その後、尻尾の皮膚動脈交感神経を銀電極で吊り上げて、神経の電気活動を測定した。尚、手術開始から測定終了までチューブを気管に挿入して気道を確保し、保温装置にて体温(ラット直腸温)を35.0±0.5℃に保つようにした。これらの神経の活動が落着いた時期に各Val-Pro-Proペプチド水溶液サンプル1mlをポリエチレンチューブにて経口投与し、これらの神経活動の変化を測定した。サンプルは、Val-Pro-Pro 0.15mg/kg体重または1.5mg/kg体重とした。対照として溶媒の水1mlを経口投与した。皮膚動脈交感神経の活動のデータは、5分間毎の5秒あたりの発火頻度(pulse/5 s)の平均値にて解析し、刺激開始前の値(0分値)を100%として百分率で表し、その平均値±標準誤差で示した。対照群との有意差検定は、投与後5〜60分における相対活動電位の値を群として、分散分析法(ANOVA)によって行った。結果を図3に示す。
水投与群に比較し、Val-Pro-Pro 1.5mg/kg体重および0.15mg/kg体重群において投与後の皮膚動脈交感神経活動が有意に低下した(図3)。Val-Pro-Proの経口投与は0.15mg/kg体重〜1.5mg/kg体重の範囲で皮膚動脈交感神経活動を抑制することが示された。
ddY系雄性マウス(約7週齢)を用い(n=15)、餌及び水は自由摂取させた。被検物質として、Val-Pro-Pro 0.64mg/kg体重、6.4mg/kg体重、10mg/kg体重を用いた。各量のVal-Pro-Proは自発的交替行動を評価するY字迷路試験の実施60分前にマウスに単回経口投与した。また、Y字迷路試験の実施30分前には、マウスに記憶障害および/または認知障害を誘発するため、スコポラミンを1mg/kg体重となるよう背部に皮下投与した。Y字迷路試験では、一本のアームの長さが40cm、壁の高さが12cm、床の幅が3cm、上部の幅が10cmで3本のアームがそれぞれ120度の角度で接続されたY字迷路を実験装置として用いた。マウスをY字迷路のいずれかのアームの先端に置き、8分間にわたって迷路内を自由に探索させ、マウスが移動したアームを順に記録した。マウスが測定時間内に各アームに移動した回数をカウントし、これを総進入数とし、この中で連続して異なる三つのアームを選択した組み合わせ(例えば、3本のアームをそれぞれA、B、Cとした際に、進入したアームの順番がABCBACACBの場合は重複も含めて4とカウントする)を調べ、この数を自発的交替行動数とした。自発的交替行動数を総進入数から2を引いた数で割り、それに100を掛けて求めた値を自発的交替行動変化率とし、これを自発的交替行動の指標とした。測定値は群毎に平均値±標準誤差で表した。対照群またはスコポラミン対照群との有意差検定はスチューデント(Student)のt検定で行った。結果を図4に示す。Val-Pro-Proは0.64mg/kg体重〜10mg/kg体重の範囲で健忘予防作用を示すことが示された。
6週齢の雌性Hos:HR-1ヘアレスマウスを日本SLC株式会社より購入し、1週間の馴化飼育後に下記の試験に供した。試験時の週齢は7〜15週の範囲とした。体重を測定した後、イソフルラン(アボットジャパン社)によるガス麻酔を行なった。導入時麻酔は濃度4%、流速1L/minの条件で1分間行なった。維持麻酔はマウスピース使用下で、濃度1%、流速1L/分の条件とした。維持麻酔開始後、マウスは37℃に設定したホットプレート(オムロン社製)の上に置き保温した。プレートとマウスの間にはキムタオルを一枚挟んだ。麻酔導入後30分以降で、直前の血流量が10分間以上安定したところで、ゾンデを用いて各サンプルを単回経口投与した。サンプルは、投与されるVal-Pro-Pro が20mg/kgとなるよう10ml/kg体重で投与した。対照として溶媒の水10ml/kg体重を経口投与した。血流量測定にはアドバンス社製の接触型レーザードップラー血流計を用いた。接触型プローブは、背部の正中線上、尾根部から上部3cmの皮膚にビニールテープを用いて貼り付けた。血流量(Flow)を評価指標として、投与後1分間の間隔毎に平均値を算出し、投与前1分間の平均値を100とした相対値として表した。対照群との群間比較は投与後5〜60分の測定値を群としてANOVA解析によって行った。結果を図5に示す。Val-Pro-Proは20mg/kg体重で投与した場合に血流促進作用を有することが示された。
ddY 系雄性マウス(約6週齢)を用い(n=15)、予備飼育後、Val-Pro-Pro(0.001mg/kg体重, 0.1mg/kg体重, 10mg/kg体重または100mg/kg体重)をそれぞれ単回経口投与し、投与30分後に高架式十字迷路試験により抗不安作用を検討した。高架式十字迷路は、長さ65cm、幅5cmの塩化ビニル製の板を2本、十字型に交差させた形状をし、その1本の通路の周囲には中央の交差部分を除いて、高さ50cmの壁(黒色アクリル製樹脂)が取り付けられている。すなわち、十字迷路は壁のない2本のアーム(オープンアーム)と壁のある2本のアーム(クローズドアーム)、及び中央の交差部分で構成されている。高架式十字迷路試験では、迷路の中央の交差部に、一方の壁のあるアームに向けてマウスを置き、5分間迷路上を自由に探索させ、その行動を観察し、オープンアームへの侵入回数を測定した。測定値から5分間の試験中のオープンアーム侵入回数比率を求め、これを抗不安作用の指標とした。尚、対照群には蒸留水を単回経口投与した。各測定値は群毎に平均値±標準誤差で表した。結果を図6に示す。Val-Pro-Proは0.001mg/kg体重〜100mg/kg体重の範囲においてオープンアーム侵入回数比率の値が対照群に比べて高く、抗不安作用を有することが示された。
Claims (2)
- Val-Pro-Proまたはその塩を有効成分とする、健忘予防用医薬組成物。
- 経口摂取用である、請求項1記載の医薬組成物。
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