JP5585623B2 - 熱間成形鋼板部材およびその製造方法 - Google Patents
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(1)質量%で、C:0.05%以上0.40%以下、Si:0.5%以上3.0%以下、Mn:1.2%以上8.0%以下、P:0.05%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.001%以上3.0%以下およびN:0.01%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有し、10面積%以上40面積%以下のオーステナイトを含有するとともに、オーステナイトおよびマルテンサイトが合計で1.0個/μm2以上の平均密度で存在する鋼組織を有し、引張強度が900MPa以上である機械特性を有することを特徴とする、熱間成形鋼板部材。
はじめに、本発明に係る熱間成形鋼板部材の化学組成を上述のように規定した理由を説明する。以下の説明において、各合金元素の含有量を表す「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。
Cは、鋼の焼入れ性を高め、かつ焼入れ後の強度を主に決定する、非常に重要な元素である。C含有量が0.05%未満では焼入れ後の強度で900MPa以上の引張強度を確保することが困難となる。したがって、C含有量は0.05%以上とする。一方、C含有量が0.40%超では衝撃特性の劣化が顕著となる。したがって、C含有量は0.40%以下とする。溶接性の観点からは、C含有量を0.25%以下とすることが好ましい。
Siは、焼入れ後の強度を安定して確保するために、非常に効果のある元素である。Si含有量が0.5%未満では上記作用を得ることが困難である。したがって、Si含有量は0.5%以上とする。なお、Si含有量を1.0%以上にすると、延性がさらに向上するようになる。したがって、Si含有量は1.0%以上とすることが好ましい。一方、Si含有量が3.0%超では上記作用による効果は飽和して経済的に不利となるうえに、表面性状の劣化が著しくなる。したがって、Si含有量は3.0%以下とする。
Mnは、鋼の焼入れ性を高め、焼入れ後の強度を安定して確保するために、非常に効果のある元素である。しかし、Mn含有量が1.2%未満ではその効果が十分に得られず、焼入れ後の強度で900MPa以上の引張強度を確保することが非常に困難となる。したがって、Mn含有量は1.2%以上とする。なお、Mn含有量を2.4%以上にすると、後述するような熱間プレス後の緩冷却が不要になり、生産性が著しく向上する。このため、Mn含有量は2.4%以上とすることが好ましい。一方、Mn含有量が8.0%超ではオーステナイトが過剰に生成し、遅れ破壊が発生し易くなる。したがって、Mn含有量は8.0%以下とする。なお、熱間プレスに供する前の素地鋼板においては、その引張強度を低くすることが生産性の向上に寄与するので、Mn含有量を6.0%以下とすることが好ましい。
Pは、一般には鋼に不可避的に含有される不純物であるが、固溶強化により、強度を高める作用を有するので積極的に含有させてもよい。しかし、P含有量が0.05%超では溶接性の劣化が著しくなる。したがって、P含有量は0.05%以下とする。P含有量は好ましくは0.02%以下である。上記作用をより確実に得るには、P含有量を0.003%以上とすることが好ましい。
Sは、鋼に不可避的に含有される不純物であり、溶接性の観点からは低いほど好ましい。S含有量が0.01%超では溶接性の低下が著しくなる。したがって、S含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.003%以下、さらに好ましくは0.0015%以下である。
Alは、鋼を脱酸して鋼材を健全化する作用を有する元素であり、また、Ti等の炭窒化物形成元素の歩留まりを向上させる作用を有する元素でもある。sol.Al含有量が0.001%未満では上記作用を得ることが困難となる。したがって、sol.Al含有量は0.001%以上とする。好ましくは0.01%以上である。一方、sol.Al含有量が3.0%超では溶接性の低下が著しくなるとともに、酸化物系介在物が増加し、表面性状の劣化が著しくなる。したがって、sol.Al含有量は3.0%以下とする。好ましくは1.5%以下である。
Nは、鋼に不可避的に含有される不純物であり、溶接性の観点からは低いほど好ましい。N含有量が0.01%超では溶接性の低下が著しくなる。したがって、N含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.006%以下である。
これらの元素は、いずれも鋼板の焼入れ性を高め、かつ焼入れ後の強度を安定して確保するために効果のある元素である。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、Ti、NbおよびVについては、それぞれ1.0%を超えて含有させると、熱間圧延および冷間圧延が困難になる。また、Cr、Mo、CuおよびNiについては、1.0%を超えて含有させると、上記作用による効果は飽和して経済的に不利となる。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、Ti:0.003%以上、Nb:0.003%以上、V:0.003%以上、Cr:0.003%以上、Mo:0.003%以上、Cu:0.003%以上およびNi:0.003%以上の少なくとも1種を満足させることが好ましい。
これらの元素は、いずれも介在物制御、特に介在物の微細分散化に寄与し、低温靭性を高める作用を有する元素である。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、いずれも0.01%を超えて含有させると、表面性状の劣化が顕在化する場合がある。したがって、各元素の含有量はそれぞれ上記のとおりとする。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、これらの元素の少なくとも1種の含有量を0.0003%以上とすることが好ましい。ここで、REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。ランタノイドの場合、工業的にはミッシュメタルの形で添加される。
Bは、低温靭性を高める作用を有する元素である。したがって、Bを含有させてもよい。しかし、0.01%を超えて含有させると、熱間加工性が劣化して、熱間圧延が困難になる。したがって、B含有量は0.01%以下とする。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、B含有量を0.0003%以上とすることが好ましい。
Biは、熱間プレス鋼板部材の変形時における割れを抑制する作用を有する元素である。したがって、Biを含有させてもよい。しかし、0.01%を超える量でBiを含有させると、熱間加工性が劣化して、熱間圧延が困難になる。したがって、Bi含有量は0.01%以下とする。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、Bi含有量を0.0003%以上とすることが好ましい。
次に、本発明に係る熱間成形鋼板部材の鋼組織について説明する。
鋼中に適量のオーステナイトを含有させることにより、熱間プレス鋼板部材の延性が著しく向上する。オーステナイトの面積率が10%未満では、優れた延性を確保することが困難である。したがって、オーステナイトの面積率は10%以上とする。なお、オーステナイトの面積率を18%以上にすると、伸びは21%以上となり、極めて優れた延性が発現する。したがって、オーステナイトの面積率は18%以上とすることが好ましい。一方、オーステナイトの面積率が40%超では遅れ破壊が発生し易くなる。したがって、オーステナイトの面積率は40%以下とする。
前述した以外の組織として、フェライト、マルテンサイト、ベイナイト、セメンタイトおよびパーライトの1種または2種以上を含有させてもよい。
硬質組織を微細に存在させる、すなわち、オーステナイトおよびマルテンサイトの数密度を高めることにより、熱間プレス鋼板部材の衝撃特性を向上させることができる。引張強度が900MPa以上で、優れた衝撃特性を達成するためには、オーステナイトおよびマルテンサイトが合計で1.0個/μm2以上の密度で存在する鋼組織とする。
次に、上記の特徴を有する本発明に係る熱間成形鋼板部材の好ましい製造方法について説明する。
熱間プレスに供する熱間プレス用鋼板には、上記化学組成を有し、かつ、ベイナイトおよびマルテンサイトから選ばれた1種または2種を含有し、旧オーステナイトの平均粒径が20μm以下である鋼組織を有する鋼板、例えば、熱延鋼板、冷延鋼板、溶融亜鉛めっき冷延鋼板、または、合金化溶融亜鉛めっき冷延鋼板を用いる。前記の鋼組織を有する熱間プレス用鋼板を後述するような熱処理条件で熱間プレスすることにより、所望の鋼組織を有し、引張強度が900MPa以上であり、かつ延性と衝撃特性に優れた熱間プレス鋼板部材が得られる。
熱間プレスに供する鋼板の加熱は、670℃以上780℃未満かつ下記実験式(i)により規定されるオーステナイト単相になるAc3点(℃)未満の温度域に2分間以上20分間以下保持することにより行う。
+104×V+31.5×Mo−30×Mn−11×Cr
−20×Cu+700×P+400×Al+50×Ti・・・・(i)
ここで、上記式中における元素記号は、前記鋼板の化学組成における各元素の含有量(単位:質量%)を示す。
150℃以上600℃以下の温度域における冷却は拡散型変態が起きないように冷却する。上記温度域における平均冷却速度が5℃/秒未満では、軟質なフェライトやパーライトが過度に生成し、焼入れ後の強度で900MPa以上の引張強度を確保することが困難となる。したがって、上記温度域における平均冷却速度は5℃/秒以上とする。一方、上記温度域における平均冷却速度を500℃/秒超とすることは通常の設備においては困難である。したがって、上記温度域における平均冷却速度は500℃/秒以下とする。好ましくは200℃/秒以下である。
(2)水冷金型の場合、500℃到達直後に金型中の流水量を変化させて、冷却速度を変える;
(3)500℃到達直後に、プレス機を上げ、ガスを流し、その流量を変化させることで、冷却速度を変える。
表1に示す化学組成、表2に示す板厚および鋼組織の鋼板を素地鋼板とした。
各鋼板の圧延方向および圧延方向に対して直角方向から試験片を採取し、圧延方向断面、圧延方向に対して直角方向断面の組織を電子顕微鏡で観察、撮影し、合計0.01mm2の領域を解析することによって、鋼組織を同定し、ベイナイトおよびマルテンサイトの合計面積率および旧オーステナイト平均粒径を測定した。
熱処理した各鋼板の圧延方向および圧延方向に対して直角方向から試験片を採取し、圧延方向断面、圧延方向に対して直角方向断面の組織を電子顕微鏡で観察、撮影し、合計800μm2の領域を解析することによって、オーステナイトおよびマルテンサイトの密度を調査した。
熱処理した各鋼板から幅25mm、長さ25mmの試験片を切り出し、この試験片に化学研磨を施して0.3mm減厚し、化学研磨後の試験片表面に対しX線回折を三回実施し、得られたプロファイルを解析し、残留オーステナイトの面積率を平均した値を算出した。
熱処理した各鋼板から、荷重軸が圧延方向と直角方向となるように、JIS5号引張試験片を採取し、TS(引張強度)およびEL(全伸び)を測定した。
熱処理した鋼板の厚みが1.2mmとなるように機械加工し、Vノッチ試験片を作製した。その試験片を4枚積層してねじ止めした後、シャルピー衝撃試験に供した。Vノッチの方向は圧延方向とした。衝撃特性は、0℃での衝撃値が20J/cm2以上となる場合を良好とした。それに達しない場合を不良とした。
これらの熱間プレスを模擬した試験の結果を表4に示す。
Claims (7)
- 質量%で、C:0.05%以上0.40%以下、Si:0.5%以上3.0%以下、Mn:1.2%以上8.0%以下、P:0.05%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.001%以上3.0%以下およびN:0.01%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有し、10面積%以上40面積%以下のオーステナイトを含有するとともに、オーステナイトおよびマルテンサイトが合計で1.0個/μm2以上の平均密度で存在する鋼組織を有し、引張強度が900MPa以上である機械特性を有することを特徴とする、熱間成形鋼板部材。
- 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Ti:1.0%以下、Nb:1.0%以下、V:1.0%以下、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、Cu:1.0%以下およびNi:1.0%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱間成形鋼板部材。
- 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下、REM:0.01%以下およびZr:0.01%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱間成形鋼板部材。
- 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、B:0.01%以下を含有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱間成形鋼板部材。
- 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Bi:0.01%以下を含有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の熱間成形鋼板部材。
- Mn含有量が2.4質量%以上である化学組成を有し、ベイナイトおよびマルテンサイトから選ばれた1種または2種を含有し、旧オーステナイトの平均粒径が20μm以下である鋼組織を有する鋼板を、670℃以上780℃未満かつAc3点未満の温度域に2分間以上20分間以下保持し、このように加熱された素地鋼板に熱間成形を行い、次いで、600℃から150℃までを5℃/秒以上500℃/秒以下の平均冷却速度で冷却することを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の熱間成形鋼板部材の製造方法。
- Mn含有量が2.4質量%未満である化学組成を有し、ベイナイトおよびマルテンサイトから選ばれた1種または2種を含有し、旧オーステナイトの平均粒径が20μm以下である鋼組織を有する鋼板を、670℃以上780℃未満かつAc3点未満の温度域に2分間以上20分間以下保持し、このように加熱された素地鋼板に熱間成形を行い、次いで、600℃から150℃までを5℃/秒以上500℃/秒以下の平均冷却速度、かつ、500℃から150℃までを5℃/秒以上20℃/秒以下の平均冷却速度で冷却することを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の熱間成形鋼板部材の製造方法。
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