図1は、本発明の一実施形態による液体吐出ヘッドを含むカラーインクジェットプリンタの概略構成図である。このカラーインクジェットプリンタ1(以下、プリンタ1とする)は、4つの液体吐出ヘッド2を有している。これらの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に沿って並べられ、プリンタ1に固定されている。液体吐出ヘッド2は、図1の手前から奥へ向かう方向に細長い形状を有している。
プリンタ1には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、給紙ユニット114、搬送ユニット120および紙受け部116が順に設けられている。また、プリンタ1には、液体吐出ヘッド2や給紙ユニット114などのプリンタ1の各部における動作を制御するための制御部100が設けられている。
給紙ユニット114は、複数枚の印刷用紙Pを収容することができる用紙収容ケース115と、給紙ローラ145とを有している。給紙ローラ145は、用紙収容ケース115に積層して収容された印刷用紙Pのうち、最も上にある印刷用紙Pを1枚ずつ送り出すことができる。
給紙ユニット114と搬送ユニット120との間には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、二対の送りローラ118aおよび118b、ならびに、119aおよび119bが配置されている。給紙ユニット114から送り出された印刷用紙Pは、これらの送りローラによってガイドされて、さらに搬送ユニット120へと送り出される。
搬送ユニット120は、エンドレスの搬送ベルト111と2つのベルトローラ106および107を有している。搬送ベルト111は、ベルトローラ106および107に巻き掛けられている。搬送ベルト111は、2つのベルトローラに巻き掛けられたとき所定の張力で張られるような長さに調整されている。これによって、搬送ベルト111は、2つのベルトローラの共通接線をそれぞれ含む互いに平行な2つの平面に沿って、弛むことなく張られている。これら2つの平面のうち、液体吐出ヘッド2に近い方の平面が、印刷用紙Pを搬送する搬送面127である。
ベルトローラ106には、図1に示されるように、搬送モータ174が接続されている。搬送モータ174は、ベルトローラ106を矢印Aの方向に回転させることができる。また、ベルトローラ107は、搬送ベルト111に連動して回転することができる。したがって、搬送モータ174を駆動してベルトローラ106を回転させることにより、搬送ベルト111は、矢印Aの方向に沿って移動する。
ベルトローラ107の近傍には、ニップローラ138とニップ受けローラ139とが、搬送ベルト111を挟むように配置されている。ニップローラ138は、図示しないバネによって下方に付勢されている。ニップローラ138の下方のニップ受けローラ139は、下方に付勢されたニップローラ138を、搬送ベルト111を介して受け止めている。2つのニップローラは回転可能に設置されており、搬送ベルト111に連動して回転する。
給紙ユニット114から搬送ユニット120へと送り出された印刷用紙Pは、ニップローラ138と搬送ベルト111との間に挟み込まれる。これによって、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の搬送面127に押し付けられ、搬送面127上に固着する。そして、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の回転に従って、液体吐出ヘッド2が設置されている方向へと搬送される。なお、搬送ベルト111の外周面113に粘着性のシリコンゴムによる処理を施してもよい。これにより、印刷用紙Pを搬送面127に確実に固着させることができる。
4つの液体吐出ヘッド2は、搬送ベルト111による搬送方向に沿って互いに近接して配置されている。各液体吐出ヘッド2は、下端にヘッド本体13を有している。ヘッド本体13の下面には、液体を吐出する多数の液体吐出孔8が設けられている(図3参照)。
1つの液体吐出ヘッド2に設けられた液体吐出孔8からは、同じ色の液滴(インク)が吐出されるようになっている。各液体吐出ヘッド2の液体吐出孔8は一方方向(印刷用紙Pと平行で印刷用紙P搬送方向に垂直な方向であり、液体吐出ヘッド2の長手方向)に等間隔で配置されているため、一方方向に隙間なく印刷することができる。各液体吐出ヘッド2から吐出される液体の色は、それぞれ、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。各液体吐出ヘッド2は、ヘッド本体13の下面と搬送ベルト111の搬送面127との間にわずかな隙間をおいて配置されている。
搬送ベルト111によって搬送された印刷用紙Pは、液体吐出ヘッド2と搬送ベルト111との間の隙間を通過する。その際に、液体吐出ヘッド2を構成するヘッド本体13から印刷用紙Pの上面に向けて液滴が吐出される。これによって、印刷用紙Pの上面には、制御部100によって記憶された画像データに基づくカラー画像が形成される。
搬送ユニット120と紙受け部116との間には、剥離プレート140と二対の送りローラ121aおよび121bならびに122aおよび122bとが配置されている。カラー画像が印刷された印刷用紙Pは、搬送ベルト111によって剥離プレート140へと搬送される。このとき、印刷用紙Pは、剥離プレート140の右端によって、搬送面127から剥離される。そして、印刷用紙Pは、送りローラ121a〜122bによって、紙受け部116に送り出される。このように、印刷済みの印刷用紙Pが順次紙受け部116に送られ、紙受け部116に重ねられる。
なお、印刷用紙Pの搬送方向について最も上流側にある液体吐出ヘッド2とニップローラ138との間には、紙面センサ133が設置されている。紙面センサ133は、発光素子および受光素子によって構成され、搬送経路上の印刷用紙Pの先端位置を検出することができる。紙面センサ133による検出結果は制御部100に送られる。制御部100は、紙面センサ133から送られた検出結果により、印刷用紙Pの搬送と画像の印刷とが同期するように、液体吐出ヘッド2や搬送モータ174等を制御することができる。
次に本発明の液体吐出ヘッドを構成するヘッド本体13について説明する。図2は、図1に示されたヘッド本体13を示す上面図である。図3は、図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大上面図であり、ヘッド本体13の一部である。図4は、図3と同じ位置の拡大透視図で、液体吐出孔8の位置が分かりやすいように、一部の流路を省略して描いている。なお、図3および図4において、図面を分かりやすくするために、圧電アクチュエータユニット21の下方にあって破線で描くべき液体加圧室10(液体加圧室群9)、しぼり12および液体吐出孔8を実線で描いている。図5は図3のV−V線に沿った縦断面図である。
ヘッド本体13は、平板状の流路部材4と、流路部材4上に、アクチュエータユニットである圧電アクチュエータユニット21とを有している。圧電アクチュエータユニット21は台形形状を有しており、その台形の1対の平行対向辺が流路部材4の長手方向に平行になるように流路部材4の上面に配置されている。また、流路部材4の長手方向に平行な2本の仮想直線のそれぞれに沿って2つずつ、つまり合計4つの圧電アクチュエータユニット21が、全体として千鳥状に流路部材4上に配列されている。流路部材4上で隣接し合う圧電アクチュエータユニット21の斜辺同士は、流路部材4の短手方向について部分的にオーバーラップしている。詳細は後述するが、このオーバーラップしている部分の圧電アクチェータユニット21を駆動することにより印刷される領域では、2つの圧電アクチュエータユニット21により吐出された液滴が混在して着弾することになる、
流路部材4の内部には液体流路の一部であるマニホールド5が形成されている。マニホールド5は流路部材4の長手方向に沿って延び細長い形状を有しており、流路部材4の上面にはマニホールド5の開口5bが形成されている。開口5bは、流路部材4の長手方向に平行な2本の直線(仮想線)のそれぞれに沿って5個ずつ、合計10個形成されている。開口5bは、4つの圧電アクチュエータユニット21が配置された領域を避ける位置に形成されている。マニホールド5には開口5bを通じて図示されていない液体タンクから液体が供給されるようになっている。
流路部材4内に形成されたマニホールド5は、複数本に分岐している(分岐した部分のマニホールド5を副マニホールド5aということがある)。開口5bに繋がるマニホールド5は、圧電アクチュエータユニット21の斜辺に沿うように延在しており、流路部材4の長手方向と交差して配置されている。2つの圧電アクチュエータユニット21に挟まれた領域では、1つのマニホールド5が、隣接する圧電アクチュエータユニット21に共有されており、副マニホールド5aがマニホールド5の両側から分岐している。これらの副マニホールド5aは、流路部材4の内部の各圧電アクチュエータユニット21に対向する領域に互いに隣接してヘッド本体13の長手方向に延在している。
流路部材4は、複数の液体加圧室10がマトリクス状(すなわち、2次元的かつ規則的)に形成されている4つの液体加圧室群9を有している。液体加圧室10は、角部にアールが施されたほぼ菱形の平面形状を有する中空の領域である。液体加圧室10は流路部材4の上面に開口するように形成されている。これらの液体加圧室10は、流路部材4の上面における圧電アクチュエータユニット21に対向する領域のほぼ全面にわたって配列されている。したがって、これらの液体加圧室10によって形成された各液体加圧室群9は圧電アクチュエータユニット21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有している。また、各液体加圧室10の開口は、流路部材4の上面に圧電アクチュエータユニット21が接着されることで閉塞されている。
本実施形態では、図3に示されているように、マニホールド5は、流路部材4の短手方向に互いに平行に並んだ4列のE1〜E4の副マニホールド5aに分岐し、各副マニホールド5aに繋がった液体加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ液体加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に4列配列されている。副マニホールド5aに繋がった液体加圧室10の並ぶ列は副マニホールド5aの両側に2列ずつ配列されている。
全体では、マニホールド5から繋がる液体加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ液体加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に16列配列されている。各液体加圧室列に含まれる液体加圧室10の数は、アクチュエータである変位素子50の外形形状に対応して、その長辺側から短辺側に向かって次第に少なくなるように配置されている。液体吐出孔8もこれと同様に配置されている。これによって、全体として長手方向に600dpiの解像度で画像形成が可能となっている。すなわち、各副マニホールド5aには平均すれば150dpiに相当する間隔で個別流路32が接続されている。これは、600dpi分の液体吐出孔8を4つ列の副マニホールド5aに分けて繋ぐ設計をする際に、各副マニホールド5aに繋がる個別流路32が等しい間隔で繋がるとは限らないため、マニホールド5aの延在方向、すなわち主走査方向に平均170μm(150dpiならば25.4mm/150=169μm間隔である)以下の間隔で個別流路32が形成されているということである。
圧電アクチュエータユニット21の上面における各液体加圧室10に対向する位置には後述する個別電極35がそれぞれ形成されている。個別電極35は液体加圧室10より一回り小さく、液体加圧室10とほぼ相似な形状を有しており、圧電アクチュエータユニット21の上面における液体加圧室10と対向する領域内に収まるように配置されている。
流路部材4の下面の液体吐出面には多数の液体吐出孔8が形成されている。これらの液体吐出孔8は、流路部材4の下面側に配置された副マニホールド5aと対向する領域を避けた位置に配置されている。また、これらの液体吐出孔8は、流路部材4の下面側における圧電アクチュエータユニット21と対向する領域内に配置されており、4つの液体吐出孔群7a〜dとなっている。これらの液体吐出孔群7は圧電アクチュエータユニット21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有しており、対応する圧電アクチュエータユニット21の変位素子50を変位させることにより液体吐出孔8から液滴が吐出できる。そして、それぞれの領域内の液体吐出孔8は、流路部材4の長手方向に平行な複数の直線に沿って等間隔に配列されている。
ここで、本実施例の液体吐出ヘッド2による印刷を図6により説明する。図6は流路部材4を上から透視した図であり、液体吐出孔群7以外は省略してある。液体吐出孔8は、流路部材4の長手方向に平行な仮想直線L上に、この仮想直線Lと垂直な方向から各液体吐出孔8の形成位置を射影した射影点が、印刷の解像度に対応した間隔で等間隔に途切れずに並ぶような位置に形成されている。これによって、液体吐出ヘッド2は、流路部材4における液体吐出孔8が形成された領域の長手方向についてのほぼ全領域にわたって、印刷の解像度に対応した間隔で途切れずに印刷できるようになっている。そして、各液体吐出孔群7から仮想直線Lに投影された領域には、1つの液体吐出孔群だけが投影されている領域LA、LCと、複数の液体吐出孔群7から投影されている領域LBがある。印刷は、領域LAでは1つの圧電アクチュエータユニット21により吐出された液滴が印刷され、領域LBでは2つの圧電アクチュエータユニット21により吐出された液滴が印刷される。最も外側に位置する圧電アクチュエータユニット21の外側の斜辺を含む三角形の部分に対応した領域LCでは、液体吐出孔8が等間隔となっていないため、液体吐出ヘッド2を単独で用いる場合は、領域LCに対応する部分は通常使用されない。複数の液体吐出ヘッド2用いて、印刷される領域が長手方向に並ぶようにして印刷する場合には次に述べる領域LBの場合と同様に使用することもできる。
領域LBでは2つの圧電アクチュエータユニット21により吐出された液滴が印刷される。印刷用紙Pを搬送方向Bに相対的に移動させて印刷する場合を考えると、領域LBに対応する位置の印刷状態は、領域LBに液滴を吐出する2つの圧電アクチュエータユニット21の特性に影響を受ける。具体的には液滴の吐出量および吐出速度が影響数する。液滴の吐出量により印刷される画素の面積が変わるが、領域LBの中で隣接する領域LAに近づくと、その領域LAを印刷するのと同じ圧電アクチュエータユニット21により吐出された液滴により形成された画素の割合が増えていくため、液滴の吐出量の差は比較的なだらかに変化するため目立ち難い。
これに対して、液滴の吐出速度が変わると、印刷用紙Pに着弾するまでの時間が変わるため、着弾位置が搬送方向Bと平行な方向にずれる。領域LBに液滴を吐出する2つの圧電アクチュエータユニット21の間に速度差があると画素の位置がずれることにより、人間が感じる濃度に差が生じる。この濃度差は印刷されるパターンにもよるが、領域LBの中で連続的に変化するわけではないので、領域LAと領域LBの境目には、人間が感じる濃度に差が生じやすい。
以上、単純にするため、圧電アクチュエータユニット21により特性が変動するように説明したが、実際には、圧電アクチュエータユニット21と流路部材4を接合する際に生じる圧電アクチュエータユニット21内の残留応力などによっても特性は変動する。
流路部材4の内部には、多数のしぼり12が形成されている。これらのしぼり12は、液体加圧室群9と対向する領域内に配置されている。本実施形態のしぼり12は、水平面に平行な1方向に沿って延在している。しぼり12の一方の端は、後述の個別供給流路6を介して副マニホールド5aに繋がっている。また、しぼり12の他方の端は、液体加圧室10に繋がっている。
ヘッド本体13に含まれる流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート22、ベースプレート23、アパーチャ(しぼり)プレート24、サプライプレート25、26、マニホールドプレート27、28、29、カバープレート30およびノズルプレート31である。これらのプレートには多数の孔が形成されている。各プレートは、これらの孔が互いに連通して個別流路32および副マニホールド5aを構成するように、位置合わせして積層されている。ヘッド本体13は、図5に示されているように、液体加圧室10は流路部材4の上面に、副マニホールド5aは内部の下面側に、液体吐出孔8は下面にと、個別流路32を構成する各部分が異なる位置に互いに近接して配設され、液体加圧室10を介して副マニホールド5aと液体吐出孔8とが繋がる構成を有している。
各プレートに形成された孔について説明する。これらの孔には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート22に形成された液体加圧室10である。第2に、液体加圧室10の一端から副マニホールド5aへと繋がる流路を構成する連通孔である。この連通孔は、ベースプレート23(詳細には液体加圧室10の入り口)からサプライプレート25(詳細には副マニホールド5aの出口)までの各プレートに形成されている。なお、この連通孔には、アパーチャプレート24に形成されたしぼり12と、サプライプレート25、26に形成された個別供給流路6とが含まれている。
第3に、液体加圧室10の他端から液体吐出孔8へと連通する流路を構成する連通孔であり、この連通孔は、以下の記載においてディセンダ(部分流路)と呼称される。ディセンダは、ベースプレート23(詳細には液体加圧室10の出口)からノズルプレート31(詳細には液体吐出孔8)までの各プレートに形成されている。第4に、副マニホールド5aを構成する連通孔である。この連通孔は、マニホールドプレート27〜30に形成されている。
このような連通孔が相互に繋がり、副マニホールド5aからの液体の流入口(副マニホールド5aの出口)から液体吐出孔8に至る個別流路32を構成している。副マニホールド5aに供給された液体は、以下の経路で液体吐出孔8から吐出される。まず、副マニホールド5aから上方向に向かって、個別供給流路6を通り、しぼり12の一端部に至る。次に、しぼり12の延在方向に沿って水平に進み、しぼり12の他端部に至る。そこから上方に向かって、液体加圧室10の一端部に至る。さらに、液体加圧室10の延在方向に沿って水平に進み、液体加圧室10の他端部に至る。そこから少しずつ水平方向に移動しながら、主に下方に向かい、下面に開口した液体吐出孔8へと進む。
圧電アクチュエータユニット21は、図5に示されるように、2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層21a、21bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。圧電アクチュエータユニット21全体の厚さは40μm程度である。圧電セラミック層21a、21bのいずれの層も複数の液体加圧室10を跨ぐように延在している(図3参照)。これらの圧電セラミック層21a、21bは、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる。
圧電アクチュエータユニット21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極34およびとAu系などの金属材料からなる個別電極35を有している。個別電極35は上述のように圧電アクチュエータユニット21の上面における液体加圧室10と対向する位置に配置されている。個別電極35の一端は、液体加圧室10と対向する領域外に引き出されて接続電極36が形成されている。この接続電極36は例えばガラスフリットを含む金からなり、厚さが15μm程度で凸状に形成されている。また、接続電極36は、図示されていないFPC(Flexible Printed Circuit)に設けられた電極と電気的に接合されている。詳細は後述するが、個別電極35には、制御部100からFPCを通じて吐出信号が供給される。
共通電極34は、圧電セラミック層21aと圧電セラミック層21bとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極34は、圧電アクチュエータユニット21に対向する領域内の全ての液体加圧室10を覆うように延在している。共通電極34の厚さは2μm程度である。共通電極34は図示しない領域において接地され、グランド電位に保持されている。本実施形態では、圧電セラミック層21b上において、個別電極35からなる電極群を避ける位置に個別電極35とは異なる表面電極(不図示)が形成されている。表面電極は、圧電セラミック層21bの内部に形成されたスルーホールを介して共通電極34と電気的に接続されているとともに、多数の個別電極35と同様に、FPC上の別の電極と接続されている。
図5に示されるように、共通電極34と個別電極35とは、最上層の圧電セラミック層21bのみを挟むように配置されている。圧電セラミック層21bにおける個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域は活性部と呼称され、その部分の圧電セラミックスには分極が施されている。本実施形態の圧電アクチュエータユニット21においては、最上層の圧電セラミック層21bのみが活性部を含んでおり、圧電セラミック21aは活性部を含んでおらず、振動板として働く。この圧電アクチュエータユニット21はいわゆるユニモルフタイプの構成を有している。
なお、後述のように、個別電極35に選択的に所定の吐出信号が供給されることにより、この個別電極35に対応する液体加圧室10内の液体に圧力が加えられる。これによって、個別流路32を通じて、対応する液体吐出口8から液滴が吐出される。すなわち、圧電アクチュエータユニット21における各液体加圧室10に対向する部分は、各液体加圧室10および液体吐出口8に対応する個別の変位素子50(アクチュエータ)に相当する。つまり、2枚の圧電セラミック層からなる積層体中には、図5に示されているような構造を単位構造とする変位素子50が液体加圧室10毎に、液体加圧室10の直上に位置する振動板21a、共通電極34、圧電セラミック層21b、個別電極35により作り込まれており、圧電アクチュエータユニット21には変位素子50が複数含まれている。なお、本実施形態において1回の吐出動作によって液体吐出口8から吐出される液体の量は5〜7pL(ピコリットル)程度である。
多数の個別電極35は、個別に電位を制御することができるように、それぞれがFPC上のコンタクトおよび配線を介して、個別にアクチュエータ制御部に電気的に接続されている。
本実施形態における圧電アクチュエータユニット21においては、個別電極35を共通電極34と異なる電位にして圧電セラミック層21bに対してその分極方向に電界を印加すると、この電界が印加された部分が、圧電効果により歪む活性部として働く。この時圧電セラミック層21bは、その厚み方向すなわち積層方向に伸長または収縮し、圧電横効果により積層方向と垂直な方向すなわち面方向には収縮または伸長しようとする。一方、残りの圧電セラミック層21aは、個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域をもたない非活性層であるので、自発的に変形しない。つまり、圧電アクチュエータユニット21は、上側(つまり、液体加圧室10とは離れた側)の圧電セラミック層21bを活性部を含む層とし、かつ下側(つまり、液体加圧室10に近い側)の圧電セラミック層21aを非活性層とした、いわゆるユニモルフタイプの構成となっている。
この構成において、電界と分極とが同方向となるように、アクチュエータ制御部により個別電極35を共通電極34に対して正または負の所定電位とすると、圧電セラミック層21bの電極に挟まれた部分(活性部)が、面方向に収縮する。一方、非活性層の圧電セラミック層21aは電界の影響を受けないため、自発的には縮むことがなく活性部の変形を規制しようとする。この結果、圧電セラミック層21bと圧電セラミック層21aとの間で分極方向への歪みに差が生じて、圧電セラミック層21bは液体加圧室10側へ凸となるように変形(ユニモルフ変形)する。
本実施の形態における実際の駆動手順は、予め個別電極35を共通電極34より高い電位(以下高電位と称す)にしておき、吐出要求がある毎に個別電極35を共通電極34と一旦同じ電位(以下低電位と称す)とし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、個別電極35が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層21a、bが元の形状に戻り、液体加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。このとき、液体加圧室10内に負圧が与えられ、液体がマニホールド5側から液体加圧室10内に吸い込まれる。その後再び個別電極35を高電位にしたタイミングで、圧電セラミック層21a、bが液体加圧室10側へ凸となるように変形し、液体加圧室10の容積減少により液体加圧室10内の圧力が正圧となり液体への圧力が上昇し、液滴が吐出される。つまり、液滴を吐出させるため、高電位を基準とするパルスを含む吐出信号を個別電極35に供給することになる。このパルス幅は、液体加圧室10内において圧力波がマニホールド5から液体吐出孔8まで伝播する時間長さであるAL(Acoustic Length)が理想的である。これによると、液体加圧室10内部が負圧状態から正圧状態に反転するときに両者の圧力が合わさり、より強い圧力で液滴を吐出させることができる。
また、階調印刷においては、液体吐出孔8から連続して吐出される液滴の数、つまり液滴吐出回数で調整される液滴量(体積)で階調表現が行われる。このため、指定された階調表現に対応する回数の液滴吐出を、指定されたドット領域に対応する液体吐出孔8から連続して行なう。一般に、液体吐出を連続して行なう場合は、液滴を吐出させるために供給するパルスとパルスとの間隔をALとすることが好ましい。これにより、先に吐出された液滴を吐出させるときに発生した圧力の残余圧力波と、後に吐出させる液滴を吐出させるときに発生する圧力の圧力波との周期が一致し、これらが重畳して液滴を吐出するための圧力を増幅させることができる。
次に、圧電アクチュエータユニット21の制御について説明する。液体吐出ヘッド2は、外部装置からの指示に基づいて動作する制御部100から液滴吐出などに関する信号をアクチュエータ制御部143で受けて液滴を吐出する。なお、アクチュエータ制御部143は液体吐出ヘッド2の内部に組み込まれていてもよく、制御部100の一部であってもよい。また、これら各機能部はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等で構成されているハードウェアであるが、機能部の全て、または一部がソフトウェアで構成されていてもよい。
次に、図7(a)を参照しつつ、アクチュエータ制御部143について詳細に説明する。図7(a)はアクチュエータ制御部143の機能ブロック図である。アクチュエータ制御部143は、波形出力部144、波形増幅部147および電圧調整部を備えている。波形出力部144はデジタル回路で構成されており、波形増幅部147はアナログ回路で構成されている。電圧調整部は、圧電アクチュエータユニット21に供給する高電位と低電位との電位の差(電圧)を圧電アクチュエータユニット21毎に変える。電圧調整部は、波形出力部154に補正テーブルを備えることや、波形増幅部157に可変抵抗などの調節部を設けることで行なうことができる。
電圧調整部を波形出力部144に含めることにより、電圧調整がデジタル的に処理できるため、外部からの調整が容易になる。また、液滴を吐出させる状態により複数の補正テーブルを切り替えることにより、より的確な補正することができる。例えば、駆動周波数や印刷する濃度などの状態で分けた複数の補正テーブルを用意し、これらを切り替えられるようにしておいてもよい。
電圧調整部による補正は、複数の液体吐出孔群7から液滴が吐出される領域LBに吐出される液滴の速度を平均化するように行なう。具体的には、液体吐出孔群7aと液体吐出孔群7bの間で液滴の吐出速度を補正する場合は、その間の領域LBに液体を吐出する、液体吐出孔群7aのうちの台形の斜辺を含む3角形の領域7a−Lに属する液体吐出孔から吐出される液滴の吐出速度の平均と、液体吐出孔群7bのうちの台形の斜辺を含む3角形の領域7b−Rに属する液体吐出孔から吐出される液滴の吐出速度の平均との差を減ずるように調整する。なお一般的には、吐出信号の電圧が高くなると吐出速度は速くなる。
4つの圧電アクチュエータユニット21全体を調整するには、例えば、一端の液体吐出孔群7aと液体吐出孔群7bとの間の領域LBに投影される液体吐出孔群7a−Lから吐出される液体の平均速度と、液体吐出孔郡7b−Rから吐出される液滴の平均速度との差を少なくするようにする。この際、一方の電圧を固定して、他方の電圧を変えて差を少なくしてもよく、両方の電圧を、速度差が少なくなるように変えてよい。続いて、液体吐出孔群7bと液体吐出孔群7cとの間の領域LBに投影される液体吐出孔群7b−Lから吐出される液体の平均速度と、液体吐出孔郡7c−Rから吐出される液体の平均速度との差を少なくするようにする。この際は、液体吐出孔郡7c−Rから吐出される液滴の平均速度が液体吐出孔郡7b−Lから吐出される液滴の平均速度に近づくように、液体吐出孔郡7cに供給する電圧を調整する。さらに、液体吐出孔群7cと液体吐出孔群7dとの間の領域LBに投影される液体吐出孔群7c−Lから吐出される液体の平均速度と、液体吐出孔郡7d−Rから吐出される液体の平均速度との差を少なくするようにする。この際は、液体吐出孔郡7d−Rから吐出される液滴の平均速度が液体吐出孔郡7b−Lから吐出される液滴の平均速度に近づくように、液体吐出孔郡7dに供給する電圧を調整する。
以上のようにすることにより、境界の領域LBにおけるアクチュエータユニットごとの液滴の吐出速度の差が少なくなり、領域LBおよびそれに隣接する領域LAにおける濃度差が人の目に目立たなくできる。このように調整した結果、例えば、吐出孔群7a−Mから吐出された液滴で印刷された部分と吐出孔群7d−Mから吐出された液滴で印刷された部分では液滴の大きさが異なることで実際の印刷の濃度差があったとしても、それらの間で濃度差が比較的連続的に変化するため、人に目には濃度差は目立たない。逆に、書くアクチュエータユニットから吐出される液滴により印刷される濃度を平均化させるように供給する電圧を調節すると、人の目で見た場合、境界の領域LB付近で濃度差が目立ってしまうことがある。
平均吐出速度の調整は、速度差を平均吐出速度の3%以内、特に1.5%以内にすることが好ましく、これにより濃度差をより目立たなくさせることができる。具体的には、平均吐出速度が8m/s程度であれば、平均吐出速度の差は、0.2m/s以内、特に0.1m/s以内に調整する。
続いて、液体吐出ヘッド2において、さらに印刷精度および印刷の濃度バラツキを改善する内容を説明する。
本実施形態のように変位素子50が高密度に配置され、また、複数の液体加圧室10が副マニホールド5aを介して繋がっている構成を有する液体吐出ヘッド2では、クロストークにより、印刷精度が低下するおそれがある。そこでクロストークが少なくなるように、吐出信号を与えられるようにする。
図3に戻って、液体加圧室群9に属する各液体加圧室10は、その長い対角線の一端において液体吐出孔8に連通されているとともに、他端においてしぼり12を介して副マニホールドE1〜E4のいずれかに連通されている。液体加圧室10は、配列方向Aおよび配列方向Bの2方向に千鳥状配列パターンでマトリクス状に隣接配置されている。液体加圧室10の短い方の対角線は上述した配列方向Aと平行である。配列方向Bは、配列方向Aと鈍角θをなる液体加圧室10の一斜辺方向である。そして、液体加圧室10の両方の鋭角部は、隣接する別の2つの液体加圧室の間に位置している。
図3に示すように、液体加圧室10は、配列方向Aに沿って37.5dpiに相当する距離ずつ離隔して配列している。また、液体加圧室10は、配列方向Bに16個並べられている。すなわち、1つの圧電アクチュエータユニット21内には、配列方向Aに延びる液体加圧室列11が配列方向Bに16行形成されており、全体として600dpiの解像度で印刷ができるようになっている。
これら16本の液体加圧室列11は、所定の間隙を介して隣接しており、液体加圧室群9が構成されている。液体加圧室列11は、図3の紙面に対して垂直な方向から見て、副マニホールドE1〜E4との相対位置に応じて、第1の液体加圧室列11a、第2の液体加圧室列11b、第3の液体加圧室列11c、および、第4の液体加圧室列11dに分けられる。これら第1〜第4の液体加圧室列11a〜11dは、圧電アクチュエータユニット21の上辺から下辺に向けて、11c→11d→11a→11b→11c→11d→…→11bという順番で周期的に4個ずつ配置されている。
第1の液体加圧室列11aを構成する液体加圧室10aおよび第2の液体加圧室列11bを構成する液体加圧室10bにおいては、配列方向Aと直交する方向にとった方向Cに関して、液体吐出孔8が下側に偏在し、それぞれ対応する液体加圧室10の下端部付近と対向している。一方、第3の液体加圧室列11cを構成する液体加圧室10cおよび第4の液体加圧室列11dを構成する液体加圧室10dにおいては、方向Cに関して、液体吐出孔8が上側に偏在し、それぞれ対応する液体加圧室10の上端部付近と対向している。つまり、第1の液体加圧室列11aに属する液体加圧室10aに係る液体吐出孔8は、図4に示す液体吐出孔列15aを形成し、第2の液体加圧室列11bに属する液体加圧室10bに係る液体吐出孔8は、図4に示す液体吐出孔列15bを形成している。そして、第3の液体加圧室列11cに属する液体加圧室10cに係る液体吐出孔8は、図4に示す液体吐出孔列15cを形成し、第4の液体加圧室列11dに属する液体加圧室10dに係る液体吐出孔8は、図4に示す液体吐出孔列15dを形成している。
第1および第4の液体加圧室列11a、11dにおいては、図3の紙面に対して垂直な方向から見て、液体加圧室10、10dの半分以上の領域が、各副マニホールドE1〜E4と重なっている。一方、第2および第3の液体加圧室列11b、11cにおいては、液体加圧室10b、10cのほぼ全領域が、各副マニホールドE1〜E4と重なっていない。そのため、いずれの液体加圧室列11に属する液体加圧室10についてもこれに連通する液体吐出孔8が副マニホールドE1〜E4と重ならないようにしつつ、副マニホールドE1〜E4の幅を可能な限り広くして各液体加圧室10に液滴を円滑に供給することが可能となっている。
図4には、流路部材4の長手方向に37.5dpiに相当する幅(678.0μm)を有し、流路部材4の短手方向(方向C)に延在する帯状領域Rが示されている。この帯状領域R内には、各液体吐出孔列15a〜15dについて1つの液体吐出孔8が存在しており、全部で16個の液体吐出孔8が含まれている。これら16個の各液体吐出孔8を配列方向Aに延びる仮想直線上に同じ方向から射影した点の位置は、印刷時の解像度である600dpiに相当する間隔ずつ離隔し、等間隔になっている。
図4に示すように、複数の液体吐出孔8が、副マニホールドE1〜E4の延在方向(配列方向A)に沿って配列されているとともに、互いに平行な16列の液体吐出孔列15を形成している。これら液体吐出孔列15は、液体加圧室列11a〜11dのそれぞれと対応しており、液体吐出孔列15a〜15dに分けられている。液体吐出孔列15aおよび液体吐出孔列15bの間には、液体吐出孔列15cが位置している。これは、第2および第3の液体加圧室列11b、11cに属する液体加圧室10どうしの一鋭角部が、方向Cにオーバーラップし、かつ、その一鋭角部側に当該液体加圧室10に係る液体吐出孔8が偏在しているためである。
その結果、第3の液体加圧室列11cに属する液体加圧室10に係る液体吐出孔8が第1および第2の液体加圧室列11a、11bに係る液体吐出孔8間に配置されている。つまり、図3に示すように、各液体加圧室列11a〜11dを図中下から上に向かって順に(F1)〜(F16)と表す。また、これら液体加圧室列11a〜11dに対応する液体吐出孔列15a〜15dに(F1´)〜(F16´)と記すと、図4に示すように、液体吐出孔列15b、15cに対応する(F4´)、(F5´)、(F8´)、(F9´)、(F12´)、(F13´)の並びが液体加圧室列11の並びとは異なって、方向Cに入れ替わっている。各液体吐出孔8は流路部材4の長手方向(配列方向A)に沿って37.5dpiに相当する距離ずつ離隔されている。各液体吐出孔列15a〜15dは、上述のように、4本の副マニホールドE1〜E4と対向しない位置に配置されている
1つの帯状領域Rに属する16個の液体吐出孔8を配列方向Aに延びる直線上に射影した位置が左にあるものから順に、これら16個の液体吐出孔8を(1)〜(16)と表すことにしたとき、これら16個の液体吐出孔8は、下から、(1)、(9)、(13)、(15)、(5)、(7)、(11)、(16)、(3)、(8)、(12)、(14)、(4)、(6)、(10)、(2)の順番に並んでいる。このように構成された液体吐出ヘッド2において、圧電アクチュエータユニット21を印刷用紙の搬送に合わせて適宜駆動させると、配列方向Aに600dpiの解像度を有する文字や図形等を描画することができる。
そしてこの場合、アクチュエータ制御部153の機能ブロック図は、図7(b)ようになる。図7(b)に示すように、アクチュエータ制御部153は、波形出力部154、波形増幅部157、4つの遅延部155、タイミング指示部156および電圧調整部を備えている。波形出力部154、遅延部155およびタイミング指示部156はデジタル回路で構成されており、波形増幅部157はアナログ回路で構成されている。電圧調整部は、圧電アクチュエータユニット21に供給する高電位と低電位との電位の差(電圧)を圧電アクチュエータユニット21毎に変える。電圧調整部は、波形出力部154に補正テーブルを備えることや、波形増幅部157に可変抵抗などの調節部を設けることで行なうことができる。
電圧調整部は、波形出力部154に含めることにより、デジタル的に処理できるため、外部からの調整が容易になる。また、液滴を吐出させる状態により複数の補正テーブルを切り替えることにより、より的確に補正することができる。例えば、駆動周波数や印刷する濃度などについて、複数の補正テーブルを用意し、これらを切り替えられるようにしておいてもよい。
4つの遅延部155は、それぞれが副マニホールドE1〜E4毎の液体吐出孔列15a〜15dのいずれかに対応するものであり、波形出力部154から出力された吐出信号を所定時間遅延させ、遅延させた吐出信号をさらに出力するものである。また、遅延部155は、タイミング指示部156の指示に基づいて、遅延なし、遅延時間td、遅延時間td×2、および遅延時間td×3(図9参照)の4つの遅延時間のいずれかを設定することができる。吐出信号の遅延は液体吐出孔8からの液滴の吐出タイミングの遅延となる。つまり、遅延部155は、副マニホールドE1〜E4毎に係る4つの液体吐出孔列15a〜15dにおいて、液体吐出孔列単位で液体吐出孔8からの液滴の吐出タイミングを4種類設定することができる。
タイミング指示部156は、各遅延部155に対して、互いに異なるように上述の遅延時間(液滴の吐出タイミング)を設定するものである。波形増幅部157は、遅延部155が出力した吐出信号を増幅して出力するものである。波形増幅部157が出力した吐出波形は、圧電アクチュエータユニット21の対応する個別電極35に供給される。
図9を参照してタイミング指示部156について詳細に説明する。図8は、タイミング指示部156の機能ブロック図である。図9に示すように、タイミング指示部156は、テーブル記憶部161と、セレクタ162とを備えている。テーブル記憶部161は、各液体吐出孔列15a〜15dに対応する個別電極35に供給される吐出信号の異なった遅延時間を記憶するものである。テーブル記憶部161に記憶されている遅延時間の例を表1および表2に示す。なお、表1および表2においては、遅延なしを「0」、遅延時間tdを「1」、遅延時間td×2を「2」、および遅延時間td×3を「3」と表している(図9参照)。また、表1は、各液体吐出孔列15a〜15dを副マニホールドE1〜E4毎に整理して示しており、表2は、表1を射影点番号順に並べて整理して示したものである。また、表1および表2においては、液体吐出孔列15a〜15dの列番号を(F1´)〜(F16´)で表している。
本実施の形態においては、遅延時間tdは、隣接した液体加圧室10間に構造的クロストークが生じない期間の最小値である3.2μsであるが、これに限定するものではない。複数の液体加圧室10が高密度に配列されると、構造的クロストークが無視できなくなる。そこで、遅延時間のtdを、構造的クロストークが生じない期間としておけば、複数の液体加圧室10を高密度に配列しても、構造的クロストークの影響を低減させることができる。なお、このtd値は、各液体加圧室10の位置関係(配置密度)や周囲の剛性によって適宜決められる。
表1に示すように、各副マニホールドE1〜E4に係る液体吐出孔列15a〜15dの吐出信号の遅延時間が互いに異なるように設定されている。また、表2に示すように、各液体吐出孔列15a〜15dに属する液体吐出孔8の射影点において、隣接する液体吐出孔8の吐出信号の遅延時間が互いに異なるようにも設定されている。タイミング指示部156においては、これら各液体吐出孔列15a〜15dの遅延時間に基づいて、4つの遅延部155のそれぞれに対して遅延時間を設定する。なお、本実施の形態における遅延時間は、副マニホールドE1〜E4毎に係る液体加圧室列数に対応した4種類となっているが、2種類以上であればよい。セレクタ162は、テーブル記憶部161に記憶されている液体吐出孔列15a〜15d毎の遅延時間を選択して遅延部155に対して遅延時間を設定するものである。
アクチュエータ制御部153により出力される4種類の遅延がかけられた吐出信号の波形パターンを図9に示す。なお、縦軸は電位を、横軸は時間をそれぞれ示しており、副マニホールドE1に係る液体吐出孔列15a〜15dに対応する吐出信号の波形パターンである。また、遅延0は遅延なしの波形パターンを、遅延1は遅延時間tdの波形パターンを、遅延2は遅延時間td×2の波形パターンを、遅延3は遅延時間td×3の波形パターンをそれぞれ示している。このうち、遅延0で示される波形パターンは、液体吐出孔列15b(F1´)に加えられ、遅延1で示される波形パターンは、液体吐出孔列15a(F2´)に加えられる。さらに、遅延2で示される波形パターンは、液体吐出孔列15d(F3´)に加えられ、遅延3で示される波形パターンは、液体吐出孔列15c(F4´)に加えられる。本実施の形態においては、液滴を吐出するために高電位を基準とするパルスが個別電極35に供給される。図9に示された波形パターンは、吐出パルスとキャンセルパルスとから構成されている。吐出パルスは液体吐出孔8から液滴を吐出するためのものであり、1つのパルスで1つの液滴を吐出することができる。図10に示した波形パターンには3つの吐出パルスが含まれている。そして、遅延0の波形パターンを基準として、遅延1の波形パターンは開始時間が時間td遅延しており、遅延2の波形パターンは開始時間が時間td×2遅延しており、遅延3の波形パターンは開始時間が時間td×3遅延している。
キャンセルパルスは、液滴吐出後に個別流路32内に残留する残留圧力を除去するためのものである。キャンセルパルスは、残留圧力の周期に対して反転した周期のタイミングで、個別流路32に新たな圧力を発生させる。これにより残留圧力がキャンセルパルスにより生成された圧力によりほとんど相殺される。これにより、最後の吐出パルスにより吐出された液体が一つの液滴にまとまりやすくなり、液滴にまとまらないで液滴の本来の着弾位置の周囲に着弾するサテライトと呼ばれる微小な液滴が発生し難くなる。また、周囲の液体加圧室10からの吐出や同じ液体加圧室10からの次の吐出の際に残留応力による影響を受け難くなる。
このよう波形パターンが加わった際に、遅延された吐出信号で吐出される液滴の速度が、遅延されていない吐出信号で吐出される液滴の速度と比較するとわずかながら変動するおそれがある。このとき、遅延された吐出信号と遅延されていない吐出信号とで、電圧を変えることで、吐出速度を変えることにより、印刷位置精度を高くすることができる。
遅延された吐出信号で吐出される液滴の速度はクロストークの影響を受けて、遅くなる傾向があるため、遅延された吐出信号の電圧は高くすることが好ましい。
本実施の形態では、上述したような液体加圧室10やマニホールド5の配設関係があるので、先にも記したように時間tdは、液体加圧室10が隣接することで生じることがある構造的クロストークの影響を受けない最短時間(3.2μs)に設定してある。そのため、図9に示すように、遅延0の最初の吐出パルスから遅延3のキャンセルパルスまでの期間Tmも短くなる。印刷用紙Pが、その搬送方向に関する印刷解像度に対応した距離だけ搬送されるのに要する時間を印刷周期としたとき、液滴吐出後にキャンセルパルスでは相殺しきれなかった残留圧力による影響がでない時間だけは待つにしても、期間Tmが短くなった分だけ一印刷周期を短く抑えることができる。すなわち、高速印刷に寄与する。なお、本実施形態における単位距離は、印刷用紙Pの搬送方向の解像度が600dpiとなっているので約40μmとなっている。
ここで、副マニホールドE1〜E4毎の4種類の吐出信号について説明する。図10は、4つの副マニホールド毎の液体吐出孔列15a〜15dに属する液体吐出孔8に係る波形パターンを示す説明図である。図10に示すように、副マニホールドE1に係る液体吐出孔列15a〜15dにそれぞれ対応する個別電極35には、液体吐出孔8の射影点番号が(1)、(9)、(13)、(5)のものに順に遅延0、遅延1、遅延2、遅延3の波形パターンが供給されている。副マニホールドE2に係る液体吐出孔列15a〜15dにそれぞれ対応する個別電極35にも、同様に液体吐出孔8の射影点番号が(15)、(7)、(11)、(3)のものに、順に遅延0、遅延1、遅延2、遅延3の波形パターンが供給されている。副マニホールドE3に係る液体吐出孔列15a〜15dにそれぞれ対応する個別電極35には、液体吐出孔8の射影点番号が(16)、(8)、(12)、(4)のものに順に遅延1、遅延0、遅延3、遅延2の波形パターンが供給されている。副マニホールドE4に係る液体吐出孔列15a〜15dにそれぞれ対応する個別電極35にも、同様に液体吐出孔8の射影点番号が(14)、(6)、(10)、(2)のものに順に遅延1、遅延0、遅延3、遅延2の波形パターンが供給されている。このように隣接する液体加圧室列間や液体吐出孔8の隣接した射影点に異なった吐出タイミングで吐出信号が供給されている。こうして4種類の遅延パターンの吐出信号が、各液体吐出孔列15a〜15dに係る個別電極35に供給されて圧電アクチュエータユニット21が駆動される。対応する液体吐出孔8からは、波形パターンに応じた量の液滴が遅延の種類に応じたタイミングで吐出される。そして、印刷用紙P上に所望の階調のドットが形成される。本実施形態においては、図9に示すような遅延0〜遅延3の波形パターンが一印刷周期毎に繰り返されている。
変形例によると、本実施形態におけるセレクタ162は、同じ液体吐出孔列15a〜15dに係る個別電極35に、同じ遅延の波形パターンの吐出信号を供給するように遅延部155に対して遅延時間を設定しているが、これだけによらず、異なる遅延の波形パターンの吐出信号が同じ液体吐出孔列15a〜15dに係る個別電極35に供給されるように遅延部155に対して遅延時間を設定していてもよい。つまり、最初の印刷周期において、個別電極35に供給される吐出信号の遅延の波形パターンが、次回の印刷周期における当該個別電極35に供給される吐出信号の遅延の波形パターンが異なっていてもよい。
この場合でも、遅延時間tdが期間Tmを短くするように最小値となっているので、一印刷周期を短く抑えつつ、次の印刷周期にクロストークの影響が生じにくくなる。
以上のような本実施の形態における液体吐出ヘッド2によると、隣接する液体加圧室列11a〜11d間において、対応する個別電極35にはそれぞれ異なる吐出タイミングで吐出信号が供給されるので、構造的クロストークによる影響を低減させることができる。つまり、吐出タイミングの時間的差異は、短くても互いに構造的クロストークの影響を受けない時間に設定されている。そのため、各液体加圧室列11間において、どの隣接する組み合わせを取っても、隣接する液体加圧室10からの構造的クロストークは受けない。
さらに、高密度化が進んだ場合においても、構造的クロストークの影響を低く抑えることができる。加えて、一印刷周期内で、複数の吐出タイミングが存在することは、吐出タイミングの数に対応して電力の消費タイミングが分割されることでもある。これにより、消費電力ピークが瞬間的に過大になるのを避けることができ、電源装置を小型で簡略なものとすることが可能となる。
また、同じ副マニホールドE1〜E4に連通した複数の液体加圧室10が構成する4列の液体加圧室列11a〜11d間において、対応する個別電極35に4種類の遅延0〜遅延3の波形パターンの吐出信号が供給されるので、流体的クロストークの影響を低減させることができる。ここで、流体的クロストークとは、マニホールド5において、各液体加圧室から伝播した圧力波が互いに共振して常在波を発生し、その常在波が当該副マニホールドに連通している全ての液体加圧室における液滴吐出に影響を与えることである。係る流体的クロストークの影響により液滴の吐出特性にばらつきが生じる。このような流体的クロストークの影響を減少させるために、本実施形態においては、同じ副マニホールドE1〜E4に連通した複数の液体加圧室10が、液体加圧室列11a〜11d間において、それぞれが異なる4種類の吐出タイミングで吐出信号が対応する個別電極35に供給されている。
本実施の形態では、上述のように、吐出タイミングの最小の時間差を、構造的クロストークが隣接する液体加圧室列間で影響しない程度の時間tdに設定してある。この時間td以上のタイミング差にしておけば、流体的クロストークの影響も受けずに済む。なお、この時間tdは、上述のような液体加圧室10、マニホールド5および両者の位置関係や連通形態に対応して決められたものであって、構造的な違いがある場合でも、少なくともこれらの配設状態や連通状態に合わせて設定すればよい。すなわち、いずれのクロストークの影響も受け難い時間tdとすればよい。
また、16列の液体吐出孔列15a〜15dに属する液体吐出孔8を仮想直線上に同じ方向から射影したときにおいて、互いに隣接する射影点(1)〜(16)に係る液体加圧室10に対応する個別電極35に異なる吐出タイミングで吐出信号が供給されることになる。仮に、隣接する液体加圧室列間で異なる吐出タイミングの吐出信号を供給したときに、流体的クロストークや構造的クロストークが完全に抑制できなくても、この残余のクロストークの影響が被印刷媒体上のドット間で分散されることになる。そのため、このクロストークに起因したドットの大きさの相違が目立ちにくくなる。例えば、隣接する液体加圧室列11間および同じマニホールドに連通する液体加圧室列11間で吐出タイミングを変えて印刷しても、ノズルの配置状態によっては、同じ吐出タイミングで形成されたドットが連続して隣接した横線を形成していることがある。上述のように吐出タイミングを変えることでクロストークの影響が十分に取り切れている構成であればよいが、クロストークの残余の影響があった場合、例え注目するドットが係る液体加圧室列11やマニホールドが互いに異なっていたとしても、特定のタイミングで形成されることにより、その残余の影響が表れてしまうことがある。すなわち、一本の横線であっても、線の太さのばらつきとして影響が表れる。さらには、被印刷媒体上の印刷結果において、濃淡ムラが解消される。つまり、同じ大きさのドットが隣接せずにばらついて形成されるので、ドットの大きさの相違が目立ちにくくなるからである。したがって、クロストークに起因した被印刷媒体上でのドットの大きさの相違が目立ちにくくなり、被印刷媒体への印刷品質が向上する。
また、複数の液体加圧室10が構成する16列の液体加圧室列11a〜11dが各副マニホールドE1〜E4の延在方向に平行に延在し、複数の液体加圧室10、16列の液体加圧室列11a〜11dおよび複数の副マニホールドE1〜E4の互いの位置関係が規則的な関係になっている。そのため、流体的クロストークおよび構造的クロストークによる影響も規則的になる。つまり、同一液体加圧室列11に属する各液体加圧室10は、各クロストークの影響を同程度受けるため、液体加圧室列11毎に異なる吐出タイミングで対応する個別電極35に吐出信号を供給することで、各クロストークによる影響の低減が液体加圧室列11毎に均一化する。したがって、液体加圧室列11間において、各クロストークの影響に起因した液滴吐出特性のばらつきが抑制しやすくなり、液滴吐出精度が向上する。
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、上述の実施形態および変形例においては、液体吐出ヘッドの平面形状が長方形形状になっているが、正方形であってもよい。また、複数のノズルを同じ方向か射影した射影点において、隣接する射影点同士が同じ吐出タイミングで液滴を吐出するような吐出信号が対応する個別電極に供給されていてもよい。
以上のような液体吐出ヘッド2は、例えば、以下のようにして作製する。
ロールコータ法、スリットコーター法などの一般的なテープ成形法により、圧電性セラミック粉末と有機組成物からなるテープの成形を行ない、焼成後に圧電セラミック層21a、21bとなる複数のグリーンシートを作製する。グリーンシートの一部には、その表面に共通電極34となる電極ペーストを印刷法等により形成する。また、必要に応じてグリーンシートの一部にビアホールを形成し、その内部にビア導体を挿入する。
ついで、各グリーンシートを積層して積層体を作製し、加圧密着を行なう。加圧密着後の積層体を高濃度酸素雰囲気下で焼成し、その後有機金ペーストを用いて焼成体表面に個別電極25を印刷して、焼成した後、Agペーストを用いて接続電極36を印刷し、焼成することにより、圧電アクチュエータユニット21を作製する。
次に、流路部材4を、圧延法等により得られプレート22〜31を積層して作製する。プレート22〜31に、マニホールド5、個別供給流路6、液体加圧室10およびディセンダなどとなる孔を、エッチングにより所定の形状に加工する。
これらプレート22〜31は、Fe―Cr系、Fe−Ni系、WC−TiC系の群から選ばれる少なくとも1種の金属によって形成されていることが望ましく、特に液体としてインクを使用する場合にはインクに対する耐食性の優れた材質からなることが望ましため、Fe−Cr系がより好ましい。
圧電アクチュエータ21と流路部材4とは、例えば接着層を介して積層接着することができる。接着層としては、周知のものを使用することができるが、圧電アクチュエータ21や流路部材4への影響を及ぼさないために、熱硬化温度が100〜150℃のエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂の群から選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂系の接着剤を用いるのがよい。このような接着層を用いて熱硬化温度にまで加熱することによって、圧電アクチュエータ21と流路部材4とを加熱接合することができる。
この後必要に応じて圧電アクチュエータ上21と外部回路とを電気的に接続するために、接続電極36にFPCなどの電極を接合し、液体吐出ヘッド2得る。