JP5539731B2 - 電気泳動法のための安定化媒体及び分離媒体 - Google Patents

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Description

本発明は、電気泳動、そして特にフリーフロー電気泳動(FFE)であって、サンプル中の生体粒子などの検体を分離するために使用されるものに関する。より具体的に、本明細書に記載される発明は、フリーフロー電気泳動を実施するのに有用な新規の分離媒体並びに安定化媒体、当該分離及び安定化媒体を含むキット、並びに電気泳動法におけるそれらの使用に関する。
電気泳動は、直流電流の影響下で荷電粒子の移動に基づいて粒子を分離する確立された技術である。幾つかの異なる運転モード、例えば等電点電気泳動法、等速電気泳動法、及びゾーン電気泳動法が、上記分離原理の変法として開発されており、そして当業者に一般的に知られている。
等電点電気泳動法(IEF)は、タンパク質の等電点を測定するためのメカニズムとしてタンパク質の特徴決定において一般的に使用される技術である(例えば、Analytical )Biochemistry. Addison Wesley Longman Limited-Third Edision, 1998を参照のこと)。
等速電気泳動法は、1920年に記載された原理に基づいている。この技術では、電極間における電解質が、均一な単一溶液ではなく、異なる電解質溶液の不連続の列をなしており、そのイオンが全て同じ速度で移動する。濃度及び電圧が同じ条件下では、異なるイオンは、異なる電気泳動移動度を有する。全てのイオンを同じスピードで移動させるために、異なる電圧勾配が各イオンの群について必要とされる。異なる勾配は、電気泳動プロセスの間に自然発生的に発生する。実際は、これは、リード電解質とターミネーター電解質との間でサンプル成分の移動に基づいたフォーカス技術である。リード電解質とターミネーター電解質の移動度に対して中間の移動度を有する溶質は、鋭く尖ったフォーカスされた領域でスタックする(Analytical Biochemistry. Addison Wesley Longman Limited-Third Edition, 1998)。等速電気泳動モードで運転することができる電気泳動法の典型的な例は、いわゆるキャピラリー電気泳動である。
ゾーン電気泳動は、よく知られた別の運転モードである。ゾーン電気泳動は、分離する粒子の電気泳動移動度の数値と、分離媒体に使用される分離媒体の電気泳動移動度の数値との間の差異に基づく。ゾーン電気泳動法は、異なるサイズ及び/又はフォーム及び/又は表面荷電の合計に基づいて検体及び粒子を単離することができる。ゾーン電気泳動のうまくいった適用に決定的なものは、分離溶液の均一性(一定のpH)及び分離ゾーン全体にわたり一定の電場強度である。
上記の一般的な運転モードは、幾つかの異なる電気泳動技術、例えば固体支持体(例えば、フィルターペーパー、酢酸セルロース、アガロースなど)上の電気泳動、キャピラリー電気泳動、及びフリーフロー電気泳動(FFE)において適用することができる。
電気泳動技術の中で、フリーフロー電気泳動(FFE)は、最も見込みある技術のうちの1つである[Krivanova L. & Bocek P. (1998), "Continuous free-flow electrophoresis", Electrophoresis 19: 1064-1074]。FEEは、定常相(又は固体支持物質)がない状態で液体溶媒中で検体の分離が生じて、吸着によるサンプルの損失を最小化する技術である。FFEは、しばしば、無担体偏向電気泳動(carrier-less deflection electrophoresis)又はマトリクス-フリー偏向電気泳動と呼ばれることが多い。
プロテオミクスの分野では、FFEは、様々なpI値(等電点)の点で複雑なタンパク質サンプルを前もって分離する確立された最適技術である。FFEを用いて、細胞などの生体粒子は、細胞の電気泳動移動度に基づいて分離することができる。対応する原理は、すでに記載されている[例えば、Bondy B., Bauer J., Seuffert I. and Weber G. (1995), "Sodium chloride in separation medium enhances cell compatibility of free-flow electrophoresis", Electrophoresis 16: 92 - 97]が、FFEはあまり認識されていない。なぜなら、多くの細胞型が、その表面荷電の点で少ししか異なっておらず、これらの細胞型を分離することを難しくするからである。第一の改良点のうちの1つは、特異的抗体が分離される細胞の特定の表面エピトープに結合することを許容し、細胞表面の合計荷電を改変することにより、FFEにおいてこれらの細胞の電気泳動移動度を改変することを可能にするイムノFFEの導入であった[例えばHansen E. and Hannig K. (1982), "antigen-specific electrophoretic cell separation (ASECS): Isolation of human T and B lymphocyte subpopulations by free-flow electrophresis after reaction with antibodies", J. Immunol. methods 11, 51: 197-208]。
FFEのプロセスは、例えば安定化媒体及びカウンターフロー媒体を用いることにより改善されてきた。これは、米国特許5,275,706号に反映されており、この開示は、その全てを本明細書に援用する。この特許によると、カウンターフロー媒体は、電極間を移動するバルク分離媒体とサンプルの連続して流れる向きの反対方向に、分離スペースに導入される。両方の媒体(分離媒体とカウンターフロー媒体)は、分取出口を通して、一般的にマイクロタイタープレートに排出されるか又は溶出されて、低い空隙容量を有する分取プロセスをもたらす。さらに、分画出口の領域における媒体の層流が維持される(つまり、かなり少ない量の乱流しかないか、又は乱流を全く伴わない)。
インターバルFFEと呼ばれる特定のFFE技術が、例えば米国特許第6,328,868号に開示されており、この開示は、本明細書に援用される。本特許では、サンプルと分離媒体は、ともに電気泳動チャンバーに導入され、そしてゾーン電気泳動、等速電気泳動、又は等電点電気泳動などの電気泳動モードを用いて分離され、そして最終的に分取出口を通してチャンバーから排出される。'868特許の実施態様は、サンプルと媒体が入口から出口に対して液体的に駆動されていない間に、電気泳動による移動が生じるように適用された有効な電圧を伴って、分離媒体とサンプルの移動が入口から出口の一方向に移動することを記載する。対照的に、当該技術分野において一般的に使用される技術では、サンプルと媒体は装置を通過するあいだに、電場中で分離される(連続FFE)。
国際特許出願WO02/50524は、分離チャンバーを通して流れが分離されるところの分離チャンバーであって、当該チャンバーが、底とカバー、並びにその二つを互いに分離するスペーサーにより規定される分離スペースを提供する分離チャンバーを備えた装置を用いた電気泳動法を開示する。さらに、このFFE装置は、媒体供給線を通して分離チャンバーに入り、そして出口を通して当該チャンバーから排出される分離媒体を供給するためのポンプを包含する。当該FFE装置は、分離媒体内に電場を提供するための電極、並びに粒子又は検体の混合物を加えるための注入点及び分離媒体においてFFEにより分離された粒子を取り除くための分取点を含む。分離された粒子は、分析的な目的のため、又はさらなる調製プロセスのために使用する事ができる。
生体粒子及び生体ポリマーなどの検体の分離のための多くの分離媒体が、当該技術分野に知られている。例えば、K. Hannig and K. H. Heidrishにより発行された「Free-flow Electrophoresis」という書籍は、FFE、特にゾーンFFEに適している分離媒体のリストを報告する。ここで開示されている全ての媒体は、塩基類であって、そのpKa値は、最終分離媒体のpHを調節するために使用される酸のpKa値よりも高い塩基類を含む。しかしながら、従来技術の分離媒体では、特に高い電場において、FFE分離チャンバーの熱的過負荷がしばしば観察されており、そして分離媒体中に使用される酸及び塩基の濃度を、10mMほどに制限する。従って、これらの媒体の緩衝能力は、最良の場合でもあまりよくなく、それにより安定条件下における有効な分離時間を極度に制限する。
米国特許第5,447,612号(Bierら)は、フリー溶液中に、機能的に安定である予め決定された狭いpH領域勾配を形成することにより、等電点電気泳動法により検体を分離するためのpH緩衝系である別の分離媒体を開示する。当該媒体は、相補緩衝対において緩衝成分を用いる。緩衝成分は、0.4〜1.25の間のpHユニットのややなだらかなpH勾配を提供するように化学的に定義された単純な両性電解質、弱酸及び弱塩基のなかから選択され、そしてその解離特性に基づいて互いに対形成される。US5,447,612は、安定化媒体の使用については言及していない。
電気泳動技術に影響をあたえる別の問題は、特に電極コンタミネーションにより引き起こされる不安定性である。特にFFEにおいて、コンタミネーションは一般的に、分離チャンバーから二つの電極を隔離する半多孔性膜の使用により、防がれている。
上記半多孔性膜の代わりのアプローチは、米国特許出願第2004/050697号及び2004/050698号、及び国際特許出願WO 03/060504において提案されている。とりわけ、これらの特許出願は、電極の近くにおいて緩衝媒体を作成するために使用されるいわゆる集束緩衝液(focusing buffer)を開示する。ここで集束緩衝媒体は、分離媒体よりも高い伝導性を有する。分離チャンバーから電極を分離する膜が存在しない場合に、粒子が電極に対して付着し、その結果、これらの分離された粒子がかなり低下し、そして電極のコンタミネーションが生じる。これらの出願によると、これらの影響は、集束緩衝液を用いることにより防ぐことができる。しかしながら、分離媒体に関する集束緩衝液の成分について、又はどれだけ高い伝導性が達成されるべきかについては、米国特許出願第2004/050697号、及び第2004/050698号、又は国際特許出願WO 03/060504において指示が与えられていない。
米国特許出願第2004/050698号は、分離媒体が流れることができる少なくとも1の分離チャンバーを具備するフリーフロー電気泳動装置を開示する。さらに、当該FFE装置は、媒体供給線を用いて分離チャンバーに入り、そして出口を通してチャンバーから排出される分離媒体を送り込む投与ポンプ(dosage pump)、分離媒体に電場を適用する電極、並びに粒子の混合物を加えるためのサンプル注入点及びFFEを用いることにより分離される分離媒体中の粒子を取り出すための分取点を包含する。
上記から、緩衝液分離媒体(及び安定化媒体)が、電気泳動技術を成功裏に実行するために決定的であることが明らかである。
従って、定義された化学的性質を有し、そしてFFEを含む全ての電気泳動分離技術において安定的なpH及び伝導性プロファイルを提供する分離技術であって容易に再現でき、費用効率が高く、そして高い効率の技術を開発する必要性が存在する。
分離領域と電極コンパートメントの間の、双方向へのクロスコンタミネーションを予防することができ、そしてFEEなどの電気泳動技術、特にFF-ZE、FF-IEF及びFF-ITPなどを含む電気泳動の間におけるpH及び伝導性プロファイルに有用である追加の媒体を開発する必要性がさらにある。
さらに、生物学的サンプル中においてさまざまな粒子の分離及び決定を許容する改良及び代替的分析法及び調製方法に対するニーズが当該技術分野に存在する。
本発明は、従来技術において観察されていた欠点及び問題点を避け、そして当業者により一般的に使用されている電気泳動媒体に比較して多くの利点を提供するさまざまな電気泳動媒体を提供する。より具体的に、本発明者は、サンプル中の生体粒子及び生体ポリマーなどの検体の穏やかで有効なそして再現性のある電気泳動分離又は分取に適した新規の分離媒体組成物を発見した。新規の分離媒体は、例えば、フリーフロー偏向電気泳動(free-flow deflection electrophoresis)(FFE)において特に有用である。
この文脈で、本発明者は、本明細書で提供される新規の分離媒体、並びに当該技術分野において知られている他の分離媒体を使用する電気泳動法が、電気泳動装置の陽極と陰極の付近(つまり近く)の位置(つまり、陰極と分離媒体の間、及び陽極と分離媒体の間)で電気泳動チャンバーに導入されるいわゆる安定化媒体と併せて使用される場合、優れた結果を達成する。
従って、本発明の別の態様は、電気泳動装置の分離スペース内において状態(例えばpH及び電気伝導性)を安定化することができ、それにより電気化学的及び物理的条件の安定性の改善を提供して、サンプル中の検体の電気泳動分離/分取の点で高い正確性、感受性、及び再現性をもたらす安定化媒体を提供する。
本発明に提供される媒体が、原則的に任意の既知の電気泳動技術で用いることができる一方、当該媒体がフリーフロー電気泳動法(FFE)において特に適しているということが発見された。本発明により記載される媒体は、さまざまな電気泳動運転モード、例えばゾーン電気泳動(ZE)、等速電気泳動(ITP)及び等電点電気泳動(IEF)において使用されてもよい。
本発明者らにより提供される新規かつ有利な電気泳動媒体に基づいて、本発明の実施態様は、検体及び生体粒子の分離のための新規の電気泳動法を提供する。新規の媒体は、リポソームなどの不安定又は感受性の分子の制御された、効果的、かつ再現性のある分離を可能にし、これは過去において達成することができなかったか、又は少なくとも限られた状態及び特定の状況下でのみ達成することができたものである。
最終的に、本発明者らは、リポソーム、及び他の粒子の保存的及び分析的分離が本明細書に開示される新規の電気泳動媒体で容易に達成することができるということを発見した。上記態様は、以下により詳細に記載されよう。
I.新規の電気泳動分離媒体
こうして、本発明の第一態様では、電気泳動を用いて生体粒子又は生体ポリマーなどの検体を分離する分離媒体が本明細書中に提供される。分離媒体は、少なくとも1の緩衝酸及び少なくとも1の緩衝塩基を含むが、ただし、緩衝酸のpKa値(つまり、酸解離定数Kaの常用対数の逆数(the additive inverse of the common logarithm);またあるときは、当該酸解離定数Kaの負の常用対数(negative decimal logarithm)とも呼ばれる)は、分離媒体のpHより高くなければならず、かつ緩衝塩基のpKaは、分離媒体のpHより低くなければならない。言い換えると、緩衝酸のpKaは、緩衝塩基のpKaよりも高いものである。
本発明の上記態様の実施態様では、分離媒体により示されるpHプロファイルは、実質的に線形である(つまり、電気泳動分離の間に大きなpH階段を伴わない)。使用される安定化媒体並びに緩衝酸と緩衝塩基との間のpKaの差異に基づいて、本発明の態様に従った分離媒体は、実質的に一定(つまり、フラットな)pHプロファイルを提供し、又は分離チャンバー内においてむしろなだらか/フラットなpH勾配を提供する。電極間の分離チャンバーにおいて基本的に一定のpHを有する領域を提供する分離媒体は、ゾーン電気泳動(ZE)モードで実行される方法において特に有用であり、一方(フラットな)pH勾配プロファイルは、当電点電気泳動(IEF)モードにおいて実行する方法において特に有用である。
別の実施態様では、電気泳動の際における当該分離媒体のpHプロファイルは非線形であり、分離スペース内で1以上の明確なpH階段又はプラトーが存在するであろう。このような媒体は、IEFモードで実行される特定の適用において特に有用である。
好ましくは、本発明の上記態様における少なくとも1の緩衝酸及び1の緩衝塩基を使用する本発明の分離媒体は、少なくとも1の緩衝酸と少なくとも1の緩衝塩基との間における約0.5〜4pHユニットのpKaの差異により特徴付けられ、ここで上に説明されるように当該酸のpKaは、当該塩基のpKaよりも高くなければならない。好ましい実施態様では、ΔpKaは、1.2〜1.8であり、これはゾーン電気泳動法において特に有用である。別の好ましい実施態様では、ΔpKaは、約2.5〜4であるか、又は好ましくは、約2.5〜3.3であり、後者は、フラットpH勾配IEF適用に特に適している。
許容される検体の分離を妥当な時間の間に達成するために伝導性は十分に高くなければならないということが認められるが、本明細書で提供される分離媒体の1の特徴は、当該媒体の電気伝導性が、比較的低いということである。こうして、分離媒体にける正確な伝導性は、分離/分取問題の特異性、媒体中の他の荷電化学種の存在(例えばサンプル/検体安定性に必要とされるイオン)、及び検体の電気化学性質に左右されることは当業者によって理解されていることであるが、本発明の分離媒体の伝導性は、典型的に50〜1000μS/cm、そしてより好ましくは50〜500μS/cmの伝導性である。
本発明の実施態様では、分離媒体は、1の緩衝酸と1の緩衝塩基のみを含む。言い換えると、このような分離媒体は、二物質媒体(A/B媒体)を表し、ここで化合物の1の酸官能基、及び同一又は別の化合物の1の塩基官能基が、本質的に所望のpH及び伝導性プロファイルを有する分離媒体を作り上げるために機能する。良好な結果が、分離媒体中で2以上の緩衝酸と緩衝塩基で達成されることもある一方で、できるだけ少ない成分を使用することが一般的に有利である。なぜなら、調製するのが簡単であり、そしておそらく使用するのに安価であるためばかりでなく、分離チャンバー内に存在する荷電化学種の数が増える場合、媒体の電気化学的性質がより複雑になるためである。
本明細書に記載される分離媒体は、さらに他の酸及び/又は塩基、「必須」1価及び2価アニオン及びカチオン(例えば、安定性/官能性のために必要とされる)、増粘剤、界面活性剤、タンパク質可溶化剤、アフィニティーリガンド、還元剤などを含んでもよい。
本発明の実施態様に従い、分離媒体は、フリーフロー電気泳動、例えばフリーフローゾーン電気泳動及びフリーフロー等電点電気泳動、による電気泳動分離に特に適しているが、当該分離媒体が、担体に基づく電気泳動などの他の適用に使用されてもよいということが当業者には理解されたい。
II.安定化媒体
II.1.一般的性質
本発明の別の態様では、いわゆる「安定化媒体」が、電気泳動分離プロセス、特にフリーフロー電気泳動の間に観察されうる所望されていない効果又は副作用を防ぐことにより、分離チャンバー内における電気化学的条件を安定化させるために使用される。
安定化媒体が、一般的に、電極の付近、すなわち陽極/陰極のそれぞれと分離媒体との間に一般的に位置する。本明細書に開示される安定化媒体は、安定化剤とともに用いられる分離媒体よりも一般的に高い電気伝導性を有する。高い伝導性は、分離領域と、電気泳動装置の電極コンパートメントとの間のクロスコンタミネーションを妨げ、そして電極での分離された粒子又は検体の負所望な蓄積を避けるように機能する。さらに、分離媒体内に必要とされるイオン、添加物などの全ての化合物は、陽極と陰極の付近にそれぞれ存在する安定化媒体から供給されるか又は補充される。
高い電気伝導性を有する安定化媒体の一般的な概念が、当該技術分野(WO 03/060503)において簡単に言及されているものの、電気泳動法の観点で所望の伝導性を達成する方法についてはなんら情報が与えられていない。特に、分離の際に所望されていない効果及び副作用を避け、そして広く、つまりフリーフロー電気泳動法を含む基本的に全ての方法で、並びに全ての基本的な運転モード(ZE、ITP、及びIEF)で使用されうる安定化媒体を開発する方法については、なんら教示がされていない。本発明の実施態様に従って、安定化媒体に関する本発明の概念が、実質的に全ての運転モードに一般的である一方で、特定の特徴が、意図された使用について選択された運転モード(ZE、IEF又はITP)に依って安定化媒体に必要でありうる。
従って、本発明のこの態様における最も一般的な実施態様では、安定化媒体は、少なくとも1の緩衝酸と少なくとも1の強力な塩基(陰極安定化媒体、CSM)のいずれかを含むか、又は安定化媒体は、少なくとも1の緩衝塩基と少なくとも1の強力な酸(陽極安定化媒体、ASM)を含む。強力な酸及び強力な塩基は、それぞれ、十分に高い、つまり分離媒体の伝導性より高い電気伝導性を得るため、少なくとも1の緩衝塩基(ASM)を実質的にイオン化/プロトン化、又は緩衝酸(CSM)の実質的なイオン化/脱プロトン化を達成するために十分な濃度で存在しなければならない。
少なくとも1の緩衝塩基(ASM)の濃度及び少なくとも1の緩衝酸(CSM)の濃度は、所望される高い伝導性に必要とされる荷電分子の十分な数が、強力な酸又は塩基、それぞれにより産生されることができることを保障するため十分高くあるべきである。こうして、本発明の態様における好ましい実施態様では、緩衝塩基(ASM)又は緩衝酸(CSM)の濃度が、分離媒体中の緩衝酸(ASM)/緩衝塩基(CSM)の濃度に対して約5〜15倍に増加する。
安定化媒体中における絶対濃度は、分離媒体中の緩衝酸/塩基の濃度に依存して変わる一方で、安定化媒体中の緩衝酸/塩基についての一般的な濃度は、一般的に20mM未満ではなく、そしてずっと高いものである(例えば、約50mM、又はさらに200mM超)。適切な緩衝酸は、一般的に約3〜13のpKaを有し、一方適切な緩衝塩基は、一般的に約1.5〜12のpKaを有するべきである。
ある実施態様では、陰極安定化媒体(CSM)は、さらに1以上の緩衝塩基を含むことがあるが、ただし、CSM中の全ての酸の濃度は、全ての塩基の濃度よりも高いものである。同様に、陽極安定化媒体(ASM)は、さらに1以上の緩衝酸を含むことがあるが、ただしASMの全ての塩基は、酸の濃度よりも高いものである。
さらに、分離媒体の場合と同様に、本発明の実施態様に従い、安定化媒体は、添加物を含んでもよく、当該添加物は、一般的に、分離媒体に加えられる添加物と同じであるが、添加物の多くは、しばしば、分離媒体と比べて、安定化媒体中では緩衝酸/塩基の高い濃度に伴い高い濃度で存在するであろう。
本発明の実施態様に従うと、安定化媒体の電気伝導性は、電気泳動分離に用いられる分離媒体の伝導性に広く依存する。目安として、安定化媒体の電気伝導性は、分離媒体の伝導性の約3倍、そしてしばしば10倍、そして理想的にはさらに10倍である。安定化媒体に観察される一般的な伝導性の値は、一般的に約500μS超、しばしば約1000超、又はさらに2000μS/cm超、そしてある場合にはさらに10000又は20000μS/cmに達する。
いずれにしろ、当業者は安定化媒体の実際の伝導性の値が、分離/分画問題の特定の条件に依存し、そして特定の状況下でも、上記範囲から外れることを認識されたい。ただし安定化媒体の伝導性は、少なくとも分離媒体のものよりも少なくとも実質的に高い。
以下に詳細に説明されるように、緩衝酸及び緩衝塩基の実際の選択は、多くの因子、例えば検体の性質、電気泳動装置の運転モードに依存する。例えば、ゾーン電気泳動では、分離媒体内のpHは、本質的に一定でなければならず、ここで等電点電気泳動装置では、pH勾配又は明らかなpHプラトーが、電極間の分離領域に存在する。電気泳動分離問題及び使用される運転モードに依存して、当業者においては、異なる選択基準が、本発明の安定化媒体中の成分の内容及び濃度に適用されることを理解されたい。
II.2 ゾーン電気泳動法(ZE)の安定化媒体
本発明のある好ましい実施態様では、安定化媒体は、少なくとも1の緩衝酸(CSM)又は少なくとも1の緩衝塩基(ASM)を含み、これらは、分離媒体中にも存在する。或いは、CSM及びASM中の緩衝酸及び緩衝塩基は、それぞれ、同様の電気泳動移動度及びpKaを有するように選択され、これらは、分離媒体中における緩衝酸/緩衝塩基のpKaにかなり近い値である。
上記判断基準に従って緩衝酸及び緩衝塩基を選択することにより、本明細書に提供される分離媒体と組み合わせて、分離媒体により形成される全領域にわたり本質的にフラットなpHを保障する安定化媒体を提供することを可能にする。こうして、本実施態様に従った前述の安定化媒体は、特にフリーフローゾーン電気泳動(FF-ZE)を含むゾーン電気泳動法において特に適している。
II.3 等電点電気泳動法(IEF)の安定化媒体
本発明の別の実施態様では、安定化媒体中の少なくとも1の緩衝酸(CSM)又は少なくとも1の緩衝塩基(ASM)は、分離されるサンプル中の最もアルカリ性の検体のpIよりも高い値(CSM中の緩衝酸)か、又はサンプル中の最も酸性の検体のpIよりも低い値(ASMの緩衝塩基)のpKaを有する。
目的の最もアルカリ性/酸性の検体のpIに基づいた上記定義に加えて、又は当該定義の代わりに、安定化媒体中の緩衝化合物の選択のために使用することができる別の選択基準は、少なくとも1の緩衝酸(CSM)のpKaが、分離媒体の最大pHよりも高く、かつ少なくとも1の緩衝塩基(ASM)のpKaが、分離媒体の最小pHよりも低いということである。
いずれにせよ、CSMにおける緩衝酸は、得られた電極安定化媒体のpHが、サンプル中の最もアルカリ性の検体のpI値よりも高いことを保障するように選択されるべきであり、そして通常、IEF運転モードにおける分離媒体の最大pHよりも高くなる(つまり、陽極から陰極への漸増するpH勾配を示す)ように選択されるべきである。好ましくは、しかしながら、陽極安定化媒体のpHは、分離の界面及び安定化媒体における乱れを避けるために、分離媒体の最大pHを約2pHユニット以上超えるべきではない。同様に、陽極の安定化媒体におけるpHは、分離媒体の最も低いpHよりも低くあるべきであるが、好ましくは、分離媒体の最低pHよりも約2pHユニット低いことはないASMを生成するように選択されるべきである。
ある実施態様では、IEF安定化媒体は、1超の緩衝酸(CSM)及び1超の緩衝塩基(ASM)を含む。これらの場合、弱い緩衝酸(CSM)と緩衝塩基(ASM)の濃度は、それぞれ、最も強い緩衝酸(CSM)/最も強い緩衝塩基(ASM)の濃度よりも高くあるべきである。
本実施態様に従った安定化媒体は、特に、FF-IEFを含むIEF法に特に適しており、そして分離媒体におけるpH勾配がそれぞれフラットである場合に最も利点がある(例えば、分離媒体の陽極側と陰極側の間の差異が3pHユニットを超えるものではない)。
II.4 等速電気泳動の安定化媒体(ITP)
本発明の本態様のさらに別の実施態様では、安定化媒体は、等速電気泳動(ITP)モードで運転される場合に、電気泳動条件を安定化させるために特に有用である。ITPにおける電気泳動分離は、溶液中に存在するさまざまな化学種における異なる電気泳動移動度に基づいているので、当業者においては、当該溶液中に「バックグランド」緩衝化合物が存在しないが、全ての(荷電)化学種が、その電気泳動移動度に対応する速度で溶液を移動することを理解されたい。従って、1の化学種は、リーダー(高い電気泳動移動度を有する荷電化学種(イオン))とターミネーター(最も低い電気泳動移動度を有する荷電化学種)の間のITPの点において通常異なっている。分離問題に依存して、そして検体が正又は負に荷電されているかに依存して、化学種が陰極に対して移動するカチオン性ITPと、化学種が溶液中で陽極に移動するアニオン性ITPとの間で区別されなければならない。
アニオン性ITPでは、陽極側(ASM)を安定させるために必要とされる高い伝導性は、通常、リーダーイオン(HClなどの強酸由来の塩化物イオン)及び各カウンターイオン(これは通常緩衝塩基である)の濃度を増加させることにより通常達成される。しかしながら、この概念は、通常、陰極側では機能しない。なぜなら、最も遅い電気泳動移動度(そして、最も低い総(表面)荷電))を有する最も遅い化学種(つまり、ターミネーター)は、陰極付近で蓄積する。
従って、本発明の当該実施態に従ってアニオン性ITPのための陰極安定化媒体は、ターミネーター(つまり、最も遅い電気泳動度を有する化合物)及び少なくとも1の強塩基(例えば、NaOH)を含む。ターミネーター化合物は、通常緩衝酸から選択され、ここで当該緩衝酸のpKaは、好ましくは、陽極リーダー安定化媒体中の緩衝塩基のpKaは、陽極リーダー安定化媒体中の緩衝塩基のpKaよりも高いものである。陰極安定化媒体に加えられる強塩基の濃度は、好ましくは、同じ媒体中の緩衝酸の濃度よりも低いが、所望の高い伝導性を達成するために高いイオン化の度合いを保障する。
同じ選別原理は、ターミネーターが陽極の側に存在するカチオン性分離問題についても当然適用される。こうして、カチオン性ITPについての適切な陽極安定化媒体(ASM)は、ターミネーター(好ましくは緩衝塩基)と少なくとも1の強酸(例えばHCl)を含まなければならない。上記のアニオン性ITPの場合と同様に、ASM中の強酸の濃度は、好ましくは同一の媒体中の緩衝塩基の濃度よりも低いが、所望の高い伝導性を達成するために高度のイオン化を保障するために十分高いものである。
アニオン性ITPにおけるASMと同様に、カチオン性ITPにおける陰極安定化媒体(CSM)は、リーダーイオン(例えば、強塩基により提供されるカリウム又はナトリウムイオン)及び通常は緩衝塩基である各カウンターイオンの高い濃度を含む。
本発明の安定化媒体の可能な適用は、当業者に明らかであり、そしてサンプル中の検体の調製的又は分析的分離/分取用のフリーフロー電気泳動法を含む。本明細書に記載される安定化媒体は、ゾーン電気泳動(FF-ZE)、等速電気泳動(FF-ITP)又は等電点電気泳動(FF-IEF)モード、又は前述の任意の組み合わせを用いることにより、生体粒子を分離するために特に有用である。
III.キット及び電気泳動媒体組成
当業者にとって、多くの電気泳動法を特定の装置及び分離/分取のために用いる特定の適用及び装置に適合された分離媒体と安定化媒体の組み合わせを使用することは、明らかであろう。しかしながら、本発明の安定化媒体などの特定の実施態様は、商標を付された市販の媒体(例えば、Servalyt(商標)(Serva,Germany)又はProlytes(商標)(BD GmbH, Germany)として知られる両性組成物)と組み合わせて使用されてもよい。
こうして、本発明のさらに別の態様では、分離媒体(単数又は複数)又は安定化媒体を含み、又は本発明に従った安置か媒体と合わせた分離媒体を含むキット及び電気泳動媒体組成物が提供される。キット又は電気泳動媒体組成物に含まれる様々な媒体は、濃縮溶液又はすぐに使用できる水溶液として存在してもよいし、又は使用直前に再構成される乾燥形態又は凍結乾燥形態で様々な化合物を含んでもよい。
本発明の実施態様は、検体、特に生体粒子などの感受性の高い検体の調製的又は分析的分離/分取のための電気泳動方法における、分離媒体、安定化媒体、並びにキット又は電気泳動媒体組成物の使用にも関する。好ましくは、本発明に記載の媒体及びキットは、フリーフロー電気泳動法、並びに当該技術分野に知られている装置において使用され、これらは例えばUS 5,275,706、US 6,328,868、又は係属中の米国出願US 2004/050697、US 2004/050698、US2004/045826、又はUS 2004/026251に記載されている。
こうして、本発明のさらに別の態様では、フリーフロー電気泳動を用いて検体を分離する方法であって、ここで当該電気泳動プロセスは、本発明の分離媒体、並びに好ましくは安定化媒体の存在下で行われる方法が提供される。
IV. 特定の適用
本発明は、様々な組成物を有し、その結果分取可能な物理化学性質を有するリポソーム集合体を含む様々な検体の分離/分取に広く適用できる電気泳動方法を提供する。ここで特に有利な分離/分取は、約1000μS/cm未満の電気伝導性を有する分離媒体中で達成される。
本発明の実施態様では、以下の:(a)電気泳動チャンバーに、少なくとも1の陽極安定化媒体、少なくとも1の陰極安定化媒体、及び少なくとも1の分離媒体を導入し、(b)1以上の検体を少なくとも1の分離媒体に導入し;(c)媒体及び検体を電場にかけ;そして場合により(d)電気泳動チャンバーから検体の全て又は一部を溶出することを含む電気泳動法が提供される。
本発明の当該態様における好ましい実施態様では、分離/分取は、電気泳動の長期間、分離領域全体にわたって安定、定常pHにより特徴付けられるゾーン電気泳動モード(FF-ZE)において行われるフリーフロー電気泳動を用いることにより達成される。或いは、分離/分取は、分離媒体が、電気泳動チャンバー内において(フラット又はウルトラフラットな)勾配を形成する等電点電気泳動(FF-IEF)により達成される。
本発明のFF-ZE又はFF-IEF分離及び安定化媒体を用いて、BD(商標)フリーフロー電気泳動システムとして販売されるフリーフロー電気泳動装置を用いて好ましい結果が達成される。
本発明の前述の1の実施態様に従い、一般的にフラットなpHプロファイル、及び1000μS/cm未満の伝導性を有する分離媒体を、場合により陽極安定化媒体及び陰極安定化媒体と一緒に提供し、そして様々な検体を含むサンプル、固有及び様々な荷電性質を有するそのうちの一部を、分離媒体に導入し、そしてゾーン電気泳動により検体を分離するステップを含む電気泳動法が提供される。好ましい実施態様では、分離は、フリーフロー電気泳動により、マトリクスを伴わない環境で行われる。
図1は、本発明に従ったFFE法を行うのに適した装置であって、7の媒体投入口E1〜E7、及びサンプル投入口Sを含む装置の模式図を示す。1以上のサンプル投入口が、2本の電極の間の任意の所望の位置に配置することができるということに注目されたい。さらに、サンプル投入口は、図1に模式的に示されるように、媒体入口の近くに、又はさらに下流の出口端の方に配置されてもよい。
図2は、以下の実施例1に記載されるようにゾーン電気泳動モード(FF-ZE)において実行されたカチオン性FFE分離の結果を示す。図2Aは、陽極(左側)と陰極(右側)の間でのサンプルの分別分離を示し(96画分は、96ウェルの標準マイクロタイタープレート中に回収された)、そして画分のpHを示す。着色されたpI-マーカーを分離して、当該システムの分離の能力を評価した。λ=420nm、515nm、及び595nmでの各分画の吸光度を図2Aに示す。 図2は、以下の実施例1に記載されるようにゾーン電気泳動モード(FF-ZE)において実行されたカチオン性FFE分離の結果を示す。図2Bは、サンプル中において分画された検体の存在を示す様々な画分について得られた対応するSDSゲルを示す。
図3は、以下の実施例2に記載されるカチオン性及びアニオン性FF-ZEの同時分離の結果を示す。図3Aは、陽極(左側)と陰極(右側)との間のサンプルの分別分離を示し(96の画分は、標準のマイクロタイタープレート中に回収される)、そして画分のpHを示す。着色されたpI-マーカーを分離して、当該システムの分離能力を評価した。それぞれのpIマーカーの吸光度を表すλ=420nm、515nm、及び595nmでの各画分の吸光度が図3Aに報告される。 図3は、以下の実施例2に記載されるカチオン性及びアニオン性FF-ZEの同時分離の結果を示す。図3Bは、サンプル中において分画された検体の存在を示す様々な画分について得られた対応するSDSゲルを示す。
図4は、以下の実施例3に記載されることなる媒体システムを用いた別のアニオン性FF-ZEの結果を示す。図4Aは、陽極(左側)と陰極(右側)との間のサンプルの分別分離を示し、そして陽極と陰極の間のpHをプロットする。着色されたpI-マーカーを分離して、当該システムの分離能力を評価した。それぞれのpIマーカーの吸光度を表すλ=420nm、515nm、及び595nmでの各画分の吸光度が図4Aに報告される。 図4は、以下の実施例3に記載されることなる媒体システムを用いた別のアニオン性FF-ZEの結果を示す。図4Bは、サンプル中において分画された検体の存在を示す様々な画分について得られた対応するSDSゲルを示す。
図5は、図4に記載されるように品質対照サンプルの分取FF-ZE分離の結果を示す。さらに、3の異なる波長の吸光度は、画分のpHに対してプロットされる。
図6は、実施例5に記載されるように等電点モード(FF-IEF)において行われる分取FFE分離の結果を示す。
図7は、実施例6でさらに記載された別の分取FF-IEF分離の結果を示す。
図8は、3つの異なる波長での吸光度に対してプロットされた画分のpHと共に、実施例7に記載されるウルトラ-フラットpH勾配(ウルトラフラットFF-IEF)中におけるサンプルの分取FFE分離を示す。
図9は、実施例8において詳述されるサンプルにおけるアニオン性FF-ITPモードにおける分別分離を記載する。着色されたpIマーカーが分離されて、システムの分離能力を評価した。それぞれのpIマーカーの吸光度を表すλ=420nm、515nm、及び595nmでの各画分の吸光度は、画分のpHに対してプロットされる。
図10は、この適用において記載される実施態様の特定の態様において用いられる、周期インターバルフリー溶液電気泳動(cyclic interval free-solution electrophoresis)についてサンプルと分離媒体のバルクフローを示す。図10a〜10eにおいて記載されるステップa、b、c、d、及びeは、それぞれ、図10bにおいて合わせてグループ化されて示された粒子a、b、c、及びdが、サンプルと分離媒体の周期的フローを介して、図10cにおいて画分されるかを示しており、電気泳動チャンバーの左側及び右側でサンプルと分離媒体は電極と平行にサイクルする。図10に示されるように、サンプルと分離媒体は、チャンバーの低い部分を通して進入し、そしてサイクルした後に、チャンバーの上部を通して電気泳動後の状態で存在する。
図11は、以下の実施例9において記載されるようにゾーン電気泳動モード(FF-ZE)において実行されるアニオン性FFE分離の結果を示す。図11Aは、陽極(左側)と陰極(右側)との間のサンプルの分別分離を示し(96ウェル標準マイクロタイタープレート中で行われる)、そして画分のpHを示す。着色されたpI-マーカーを分離して、当該システムの分離の能力を評価した。それぞれpI-マーカーの吸光度を示すλ=420nm、515nm、及び595nmでの各画分の吸光度が図11Aに報告されている。 図11は、以下の実施例9において記載されるようにゾーン電気泳動モード(FF-ZE)において実行されるアニオン性FFE分離の結果を示す。図11Bは、様々な画分について得られた対応するSDSゲルを示し、サンプル中における分画された検体の存在を示す。
上記の概要部分において説明されているように、従来技術において一般的に用いられた電気泳動媒体に対して、有利な性質を有する電気泳動分離媒体及び安定化媒体の設計が提供される。以下の本明細書に論じられる実施例から明らかであるように、新規の分離及び安定化媒体は調製が簡単であり、一般的に無害であり、そして電気泳動法を用いてサンプル中の検体の強力かつ感受性の高い分離/分取(又は選択的枯渇又は濃縮)のための安定かつ再現性のある電気泳動条件をもたらす。
本発明に従った分離媒体並びに安定化媒体は、通常、限られた数の成分を有する水溶液の形態である。もちろん、本発明の媒体は、適切な濃度に希釈される濃縮溶液の形態で提供されるか、又は1の容器中に若しくは幾つかの容器に分配されて(キットの形態で)媒体の様々な成分を含む乾燥形態(例えば、結晶、非結晶、又はさらに凍結乾燥されたもの)で提供されうる。乾燥成分は、次に電気泳動を適用する前に水で再構成されることもある。
本発明に従った分離媒体は、陽極(単数又は複数)と陰極(単数又は複数)との間の分離スペース又は分離チャンバー中に存在するすぐに使用できる形態の水性媒体を指すことが理解されたい。分離/分取されるサンプルは、分離媒体に加えられ、そして分離媒体内のサンプル中の様々な検体が、電場を適用することにより分離される。(分取された)目的の検体は、続いて、電気泳動装置から、一般的に適切な数の画分に回収される(調製的方法)か、又は少なくとも適切な手段により検出される(分析適用)。
本発明に従った安定化媒体は、通常、電気泳動装置中の陽極及び電極のそれぞれの付近に導入される。特に、安定化媒体は、電気泳動の間に電極により生成したヒドロニウムイオン(H3-)及び水酸化物イオン(OH-)が、分離スペースを通り、それにより分離スペース内における電気化学的な条件を変化させるか又は不安定にすることを妨げる。分離媒体に比べて、本発明の安定化媒体の高い伝導性を考慮すると、安定化媒体は、電気的に荷電された検体が最終的に電極と接触することを妨げる”伝導性バリア”を生成する。
本発明の分離及び安定化媒体の設計についての新規の概念は、ゲル電気泳動(例えばアガロース又はポリアクリルアミドゲル)などの標準担体に基づく電気泳動法、又はフリー溶液キャピラリー電気泳動及び特にフリーフロー電気泳動などのマトリクスフリー電気泳動法のいずれにも適用することができる。さらに、本明細書で提供される媒体は、自然条件下(つまり、検体の構造的完全性を乱すことがない条件下)、並びに変性条件下(例えば尿素、チオウレア、SDSなどの存在下)で行われる分離に使用することができる。
いずれにせよ、本発明者らは、本明細書において提供された新規の分離及び安定化媒体は、FFE法に特に適しておりそして利点を有する。
本明細書に提供される媒体、概念、及び方法が、特定の検体に限られるものではない一方で、生物学的サンプル、又は明確な組成及びその容易な再現性の点から、少なくとも比較的感受性の高い検体(例えばリポソーム)の分離/分取に特に適していることが認められよう。分離することができる一般的な検体として、非限定的に生体粒子及び生体ポリマーが挙げられるが、これらは、細胞、細胞小器官、ウイルス若しくはウイルス粒子、タンパク質、タンパク質複合体、タンパク質凝集体、DNA、DNA-タンパク質複合体、膜、ペプチド、クロマチン、ナノチューブ、リポソーム、それらの任意の組み合わせなどを含むことを意味するが、これらに限られるものではない。
本適用の文脈では、電気泳動「分離」は、電場におけるその異なる振る舞いに基づいて、2以上の検体の混合物を空間的に分画することを意味することを意図する。その結果分離は、分取、並びにサンプル中に含まれるある画分又は検体の特異的及び選択的濃縮又は枯渇を含むがそれに限られるものではない。分離は、ある画分が次に回収されるように調製的な方法で行われるか、又は目的の検体、又はある画分におけるその存在が単に検出されるが、例えば次なる使用などのために回収されることはないという単に分析的に行われてもよい。
以下により詳細に説明されるように、本明細書に記載される媒体は、分離/分取が、フリーフロー電気泳動法(FFE)を用いて達成される電気泳動法にかなり有用である。適切なFFE装置は、当該技術分野に知られており、そして例えば、BD(商標)フリーフロー電気泳動システム(BD GmbH, Germany)の名称で市販されている。さらに、本発明の分離及び安定化媒体を用いて使用できる適切なFFE装置は、多くの特許出願、例えば米国特許第5,275,706号、米国特許第6,328,868号、公開された係属中の米国特許出願US2004/050697、US2004/050698、US 2004/045826、又はUS 2004/026251、及び仮出願USSN 60/863,834及びUSSN 60/883,260に記載されており、これらは本明細書に援用される。
1.電気泳動分離媒体
限られた数の異なる成分のみを有する簡単な水性分離媒体は、その成分が以下により詳細に説明される特定の基準に従って選ばれる限りにおいて、検体の効率的かつ高度に感受性の分離のために使用することができるということを本発明者らは発見した。本明細書に示される概念及び得られた媒体は、かなりの適応性により特徴付けられており、当業者が当該分離(及び安定化)媒体を、特定の分離問題及び目的の検体の性質に対して適切に適用することを可能にする。
結果として、本発明の実施態様は、電気泳動によりサンプル中の検体を分離するために適した分離媒体であって、少なくとも1のいわゆる「緩衝酸」と少なくとも1の「緩衝塩基」を含み、ここで当該緩衝酸のpKa値が、分離媒体のpHよりも高く、かつ当該緩衝塩基のpKa値が、分離媒体のpHよりも低い分離媒体を提供する。酸に対して適用される場合、高いpKa値が弱酸を表し、一方塩基に対しては低いpKaが弱塩基を表すことが当業者により知られている。
本発明に従った緩衝酸は、少なくとも1の酸官能基を有する任意の化合物を意味することを意図し、つまり当該化合物は、反応液中でプロトンを供給することができる(ブレンステッド-ローリーの酸)。同様に、本発明に従った緩衝塩基は、少なくとも1の塩基機能を有する化合物を意味することを意図し、つまり当該化合物は、反応液中でプロトンを受容できなければならない。しかしながら、本発明に記載の緩衝酸は、1より多い官能基を有していてもよく、そして塩基官能基のpKaが、酸官能基のpKaから少なくとも4pKユニットより離れている(それにより、実質的に酸官能基の平衡に寄与又は影響することがない)限り、追加の塩基官能基を有していてもよい(これは、いわゆる両性化合物を指す)。同様に、緩衝塩基は、追加の塩基官能基を含んでもよいし、そしてさらには酸官能基のpKaが、塩基官能基のpKaから十分に離れている(4pKユニット超)かぎりにおいて、追加の塩基官能基とさらには酸官能基を含んでもよい。
当該技術分野においてよく知られているように、化合物のpKaは、酸官能基のどの部分が脱プロトン化されているか、そしてどの部分が平衡条件下で所定のpHにおいて結合している水素を有するかを決定する。例えば、一官能基の酸の場合では、水溶液のpHが当該化合物のpKaに等しい場合に、化合物の50%が脱プロトン化されている(こうして、化合物に対して負の電荷が増加する)。pKaが溶液のpHよりも1ユニット高い場合、10%の化合物しか脱プロトン化されておらず、一方、当該pHよりも1ユニット低いpKaでは90%が脱プロトン化される。
本発明の分離媒体の緩衝酸として有用であるためには、所定のpH又はpH範囲において緩衝酸の少なくとも少しの部分が、脱プロトン化されており、そして緩衝塩基の少しの部分がプロトン化されており、分離媒体中の適切な電気伝導性を達成するために必要とされる溶液に対して十分な数の荷電された化学種を提供する。
緩衝塩基は、同様に、所定のpHにおいて、プロトン化されているある部分、及び化合物が依然としてプロトンを伴っていない別の部分をもたらす塩基性(対応する酸のpKa値(つまり酸性度)により表される言及を簡単にするため)を有するべきである。
言い換えると、当業者において、緩衝酸及び緩衝塩基のpKa値(酸又は塩基の強度を指す)は、分離媒体のpHとかけ離れたものとすべきではないということが理解されたい。この文脈では、分離媒体のpHに対する言及は、電場を適用する前に、全ての成分を含む水性媒体のpHを指すように理解すべきである。このようなpHは、当該媒体を電気泳動装置の分離スペースに導入する前に、慣用されるpHメーターによって容易に測定することができる。分離及び安定化媒体の内容によっては、電場の適用が、分離媒体内にpH勾配の形成をもたらし、その結果当該分離媒体がもはや分離スペース全体にわたって均一なpHを有さなくなることが認められる。こうして、他に記載されない限り、本出願中における分離媒体のpHに対する任意の言及は、常に電場を適用する前のpHを指す。
(例えばHenderson-Hasselbalchの式を適用することにより)溶液中の酸及び塩基のpKa値及び濃度が知られている場合、当業者は、水溶液のpHを計算することができるであろう。例えばpKa=8.0を有する1の酸と、pKa=6.0を有する1の塩基の等モル溶液は、7.0のpHを有する溶液をもたらす(pKa[酸]+pKa[塩基]/2)。
上記考察に基づき、緩衝酸のpKaは、分離媒体のpHよりも高くなければならず、そして緩衝塩基のpKaが、分離媒体のpHよりも低くなければならないという条件が、平衡条件をもたらし、ここで一般的に、それぞれ50%未満の緩衝酸が脱プロトン化されており、そして緩衝塩基の50%未満がプロトン化されていることが認識されるべきである。分離媒体のpHよりも約3ユニット高いpKaを有する酸が、かなりの数のプロトンにもはや寄与せず(つまり、当該酸は、実質的にその酸形態で存在するであろう)、溶液の電気伝導性が、適切な時間で良好に分離するためには低くなりすぎるという結果を伴う。
言い換えると、本発明の実施態様に従った分離媒体では、分離媒体中における緩衝酸のpKaの値は、緩衝塩基のpKa値よりも高くあるべきである。
一般的に、緩衝酸と緩衝塩基は、分離媒体のpHが、約2〜12の範囲に存在するように選択されるが、好ましくは、pHは約3〜11の範囲になるであろう。典型的な分離問題が、生物由来のサンプルを包含するので、分離媒体の好ましいpH値(定常pH又はpH勾配の末端の値のいずれにおいても)は、しばしばpH4〜10の範囲、又はさらにはpH5〜9であろう。しかしながら、多くの分離は中性pHで、又は中性pH付近で、つまり通常pH6〜8、又はさらにはpH6.5〜7.5で行われるべきであるか、又は行われなければならないが、分離媒体のpHは、当然のことながら具体的な分離問題及び検体の性質に左右されるであろう。一般的なルールとして、十分な緩衝能力及び電気泳動能力を提供するために、広いpH範囲では1超の緩衝酸及び緩衝塩基が必要とされる一方、一定pH又はフラットpH勾配を示す適切な分離媒体は、1の緩衝酸と1の緩衝塩基のみで設計されうる。分離媒体が1超の緩衝酸及び1超の緩衝塩基を含んでもよい一方で、かかる費用及び分離スペースに存在する多くの異なる化学種のため、成分の数をできる限り低く、又は全く存在しないように維持することが一般に望まれている。
従って、好ましい実施態様では、分離媒体が実質的に定常pH又はかなりフラットなpH勾配を提供する場合、本発明の分離媒体は、単一の緩衝酸及び単一の緩衝塩基を含む。
本発明のこの態様のある実施態様では、電気泳動のあいだの本発明の分離媒体のpHプロファイルは、電気泳動の間に陽極と陰極との間で、(明確なpHステップを示すものとは対照的に)基本的に線形であろう。幾つかの実施態様では、分離媒体内のpHは、(線形)勾配を形成するが、一方で別の実施態様では、電気泳動の間のpHは、基本的に一定である。
本発明のこの態様の別の実施態様では、電気泳動の間における本発明の分離媒体内のpHプロファイルは、基本的に非線形であろう(つまり、pHプロファイルは目立ったpHステップ又はプラトーを示してもよい)。
電気泳動の間におけるpHの少しの狂いは、もちろん本発明の分離媒体系、特に分離媒体と電極との間に存在する安定化媒体の表面において許容される。こうして、本発明に従い、分離媒体内の基本的に一定のpHは、pHがいずれかの方向に逸脱しうることを意味する。
好ましくは、基本的に一定pHを有する分離媒体内の最小pHと最大pHとの間の差異は、約0.2pHユニットを超えるべきではないが、当該差異は、理想的にはできる限り小さく、例えば約0.1pHユニット、そして最も好ましくは0.05pHユニット未満であるべきである。これらの分離媒体は、特に、ゾーン電気泳動(ZE)モードで運転される電気泳動分離に有用である。
ZEでは、分離媒体は、pH及び電気伝導性ができる限り定常であるべきであり、そして特に実現可能であるべきである均一な分離スペースを提供すべきである。なぜなら、分離が、溶液中の様々な化学種の合計の荷電密度の差異に基づくからである。
実質的に分離空間の全てに渡って定常pH(つまり、フラットpHプロファイル)を示すために分離媒体の上記適切性に基づいて、本発明は、ZE分離媒体として上記媒体に言及しますが、かかる媒体が、ZE適用に厳格に制限されることはないということは明らかであろう。
別の実施態様では、分離媒体は、電気泳動の間のpH勾配を、直線勾配の形態又は段階的な(非線形)のpH勾配の形態のいずれかで形成し、ここで電気泳動の間における分離媒体中における最も低いpH(陽極側)と最も高いpH(陰極側)との間のpHの差異は、一般的に約0.2pHユニット超でかつ3pHユニット未満である。好ましくは、pHの差は、0.5〜2pHユニットであり、そしてより好ましくは0.5〜1.5pHユニットである。言い換えれば、このような分離媒体は、電気泳動の間において比較的フラットな、又はさらには超フラットなpH勾配を形成する。これらの分離媒体は、等電点モード(IEF)において運転される電気泳動法に特に適しているので、本発明はこれらの媒体をフラットIEF(約1.5〜3のpHユニットのpH差異)、及びウルトラフラットIEF(約0.2〜1.5、1.5未満のpHユニットの差異)の分離媒体として言及しているが、ここで使用された用語は、本媒体をIEF適用に限定するものとして理解すべきではない。
本発明に従った好ましい分離媒体(ZE及びIEF)では、分離媒体中における各緩衝酸のpKa値は、分離媒体のpHから約0.2〜2ユニット高く、そして各緩衝塩基のpKa値は、分離媒体のpHよりも約0.2〜2ユニット低いものである。
特に好ましいZE分離媒体では、各緩衝酸のpKa値が、約0.4〜約1.2ユニット高く、そして各緩衝塩基のpKa値が、分離媒体のpHよりも約0.4〜約1.2pHユニット低い。各緩衝酸と緩衝塩基のpKa値が、分離媒体のpHよりも0.4〜0.9ユニット、又はさらに0.6〜0.9ユニット高く(緩衝酸の場合)又は低い(緩衝塩基の場合)実施態様がさらに好ましい。
特に、IEF分離媒体に限定されないが、緩衝酸と緩衝塩基の選択基準は、違うように定義することもできる。これは少なからず、IEFにおいて分離媒体の一定のpHがもはや存在しないためである。緩衝酸及び緩衝塩基により満たされなければならない別の選択基準は、少なくとも1の緩衝酸と少なくとも1の緩衝塩基との間のpKaの差異(ΔpKa)を指す。分離媒体のpHを反映する選択基準、又はpKaの差異を言及する基準のいずれかに従わなければならない点は当業者に理解されたい。好ましい実施態様では、しかしながら、両基準は、本発明に従った分離媒体において緩衝酸と緩衝塩基について満たされるべきである。
従って、ある実施態様では、分離媒体中における緩衝酸と緩衝塩基との間のΔpKaは、約0.5〜4pKユニットであるべきである。1超の緩衝酸又は1超の緩衝塩基の場合、媒体中における最も弱い酸(つまり、最も高いpKaを有する酸)と全ての緩衝塩基との差異、或いは最も弱い緩衝塩基(つまり最も低いpKaを有する塩基)と任意の緩衝酸との間の差異は、規定された範囲内にあるべきである。
緩衝酸と緩衝塩基の間の特に好ましいΔpKaの差は、0.8〜2.5であり、そしてより好ましくは1.0〜2.0である。かなり良好な結果が、分離媒体をもちいて、特にZEにおいて達せされており、ここでΔpKaは、約1.2〜1.8である。他の適用では、そして特にフラットIEF適用では、ΔpKaは、2.5〜4であってもよいし、そして好ましくは2.5〜3.3である。
この文脈で、酸又は塩基のpKa値が、実験的に決定することができるが、多くの化合物のpKa値が、通常、生化学及び分子生物学のCRCハンドブックなどの標準教科書、又はMerck Indexなどの参考文献において見出すことができる。所定の化合物のpKa値が、溶液の温度に依存するということが重要である。その結果、他に記載がない限り、pKa値に対する言及は、標準条件(25℃の水溶液)に関しているが、別の温度において観察される狂いは、通常やや少ない。所定の化合物におけるpKaの温度依存性がしばしば報告されており、その結果、pKaの差異は、任意の所定の温度について容易に計算することができる。
本発明の実施態様に従った分離媒体(ZE又はIEF適用様である)では、緩衝酸と緩衝塩基の相対濃度は、ある比の範囲内である。こうして、全ての緩衝酸と全ての緩衝塩基の濃度の間の比率は、典型的に9:1〜1:9であるべきである。好ましい実施態様では、この比率はさらに小さく、例えば4:1〜1:4であり、又は7:3〜3:7、さらには3:2〜2:3である。一定のpHが所望される適用では(例えば、ZE適用では)約1の比、つまり緩衝酸の濃度が、緩衝塩基の濃度と実質的に同一である場合が最も好ましい。上記に関わらず、所定の酸又は塩基の正確な濃度が、サンプルの性質、他の添加物の存在(以下を参照のこと)、及び分離媒体の所望のpHを含む多くの因子に依存していることもあり、そしてこれらに従って適応されてもよい。しかしながら、本媒体の緩衝及び電気泳動能力は、幾つかの点で、1の化合物(緩衝酸又は緩衝塩基のいずれか)の濃度が、低すぎるものとして選択される場合、つまり上記範囲から外れる場合に、失われるであろう。
うまくいった分離を達成するために必要とされる緩衝化合物の絶対濃度に関して、当業者は、厳格なルールが存在しないことを認識しているが、十分な電気伝導性及び緩衝能力を提供するために十分高くあるべきであるということが一般的に理解されたい。高い(表面)荷電密度を有する検体(例えば、ペプチド又はタンパク質)は、一般的なルールとして、比較的低い荷電密度を有する検体(例えば細胞又は細胞小器官)よりも高い緩衝化合物濃度を必要とする。同様に、分離媒体が一定のpH(つまりフラットpHプロファイル)を示す適用では、緩衝化合物の低い濃度が、所望の緩衝能力を田精するために必要とされており、一方でpH勾配(例えばIEF適用)の場合、濃度は、1又は2の緩衝酸/塩基のみを有する場合において高くあるべきである。なぜなら、化合物のpHとpKaの間の差異は、化合物のイオン化(プロトン化及び脱プロトン化の両方)の低い程度を主に導きうるからである。
上記原理を頭に入れて、本発明に従った分離媒体が、互いに独立して、少なくとも約5mMの濃度で緩衝酸と塩基を含むが、多くの適用では、濃度はより高いものである(10mM以上、20mM以上、又はさらに30mM以上、40mM以上又はさらに50mM以上)ということを意図する。緩衝酸と緩衝塩基の濃度についてそれぞれ言及する場合、本発明の所定の分離(並びに安定化)媒体中において、所定の数が、それぞれ(1より多い場合)任意の緩衝酸又は緩衝塩基の合計濃度を指すことが認められよう。
本発明者により提供される分離媒体の1の特徴は、その電気伝導性が、ある標的範囲内になるように、つまり低すぎて化学種の十分な電気泳動移動度を保障することができないか、高すぎて分離媒体内で早く動く化学種により引き起こされる不所望な効果及び現象を避けることができないことがないように選ばれなければならない(それにより、限られた時間において良好な分離を達成する)。さらに、分離媒体の比較的低い電気伝導性は、従来技術の多くの分離媒体で観察されていた熱的過負荷(電気泳動プロセスにより引き起こされる不所望な熱浪費)を引き起こすことのない高電場で、電気泳動分離を行うことを許容する。
本発明の分離媒体の絶対電気伝導性が、検体の性質及び特異的分離問題にいくらか左右されるなかで、分離媒体は、一般的なルールとして、30〜1000μS/cmの電気泳動性を有するべきであるが、伝導性は、一般的に、700、そしてさらに好ましくは500μS/cmを超えないべきである。特に好ましくは、50〜500μS/cm、より好ましくは50〜400μS/cmの伝導性の値が特に好ましい。ある状況では、伝導性は、50〜200μS/cm又はさらに50〜150μS/cmであってもよいが、上で言及される最も広いリミット内の他の値が特定の状況下で許容されてもよい。当業者は、例えば市販されている標準装備を用いて溶液の電気伝導性を決定する方法についてよく知っているものとする。
電気泳動の際に0.2〜3pHユニットのpH勾配の形成が必要とされるか望まれる実施態様(つまりIEF分離媒体)では、分離媒体が、あらかじめ形成されたpH勾配を作り上げるために、実際には媒体内に様々な濃度の緩衝酸及び緩衝塩基を含む幾つかの分離画分からなることが理解されたい。一般的に、分離画分の数は、少なくとも2であり、そして実用的な理由から、約15の画分を超えることはまれであろう。好ましい実施態様では、異なる酸及び塩基濃度を有する画分の数は、3〜12、4〜10、5〜9、又はさらには6〜8画分である。小画分の数が、技術的に制限されない一方で、実際には当該数は、分離に用いられる電気泳動装置の異なる媒体の投入口の数により支配されるか、又は少なくとも影響されるであろう。このような分離媒体は、好ましくはIEF適用、特にフリーフロー等電点電気泳動(FF-IEF)において用いられる。
電場が適用される一般的な分離時間(媒体内のイオンの通過時間)は、一般的に分離試行あたり数分から約1時間の範囲であるが、それよりも長い分離が、特定の条件下で可能であってもよい。特に分離媒体が、本発明の安定化媒体と一緒に用いられる場合、イオンの通過時間は、好ましくは少なくとも15分である。いずれにせよ、分離媒体は、ある条件下で10分未満、又はさらには7分若しくは5分未満で検体の効率的な分離/分取を可能にすることもある。一般的にZE及びITP分離は、フラット又はウルトラフラットIEF分離よりも短い分離時間を有するであろう。ここで当該電極間での滞在時間は、容易に30分、さらには60分を超えることもある。
本発明の目的のための適切な緩衝酸は、約3〜約13のpKaを有するが、生体粒子についての典型的なpH値又はその付近(例えばpH6〜8)で行われる分離では、緩衝酸についての分離基準は、典型的には、分離媒体のpHをいくらか超えるpKa(つまり、pKaは、これらの場合しばしば6未満〜10である)を有する緩衝酸を必要とする。多くの電気泳動適用が、生物由来の検体に関して行われるので、緩衝酸は、好ましくは、所望の酸官能性質(つまり、適切なpKa)を有する生物学的に許容される酸(又は上で説明された両性化合物)から選ばれる。本発明の文脈における生物学的に許容される酸は、緩衝化合物がまずなにより運転者又はサンプルに対して毒性ではなく、そして検体に関して不所望な相互作用(例えば、性質又は検体の化学的構成を変化させる化学反応)を導かないということを意味する。適切な生物学的に許容される緩衝酸として、いわゆる良好な緩衝液の群に属する化合物を含むがこれに限定されるものではない。適切な緩衝酸の具体的な例として、HIBA、酢酸、ピコリン酸、PES、MES、ACES、MOPS、MOPSO、HEPES、EPPS、TAPS、タウリン、AMPSO、CAPSO、α-アラニン、β-アラニン、GABA、EACA、4-ヒドロキシピリジン、2-ヒドロキシピリジンなどが挙げられる。
当業者は、本発明の分離媒体中に含める為に必要とされる所望の官能性質及びpKa値を有する無数の潜在的な緩衝酸を発見することができるので、前述のリストが、制限的であることを意味するものではない。
同様に、本発明の緩衝塩基は、典型的に約1.5〜12のpKaを有するべきであり、そして好ましくは、所望される塩基官能性質、つまり適切なpKaを有する生物学的に許容される塩基の群から好ましくは選ばれる。適切な緩衝塩基は、良好な緩衝液の範囲内で発見されてもよいし、又はグリシン、2-アミノ-酪酸、グリシルグリシン、β-アラニン、GABA、EACA、クレアチニン、ピリジン-エタノール、ピリジン-プロパノール、ヒスチジン、BISTRIS、モルフォリノエタノール、トリエタノールアミン、TRIS、アメジオール、ベンジルアミン、ジエチルアミノエタノール、トリアルキルアミンなどを含んでもよいがこれに限定されるものではない。
保温発明の分離媒体は、さらに1以上の添加物を含んでもよい。本発明に記載された添加剤は、緩衝酸及び緩衝塩基により提供される緩衝能力に寄与しない(か又は少なくとも有意に寄与しない)化合物又はイオンである。一般的に、添加剤の数及び濃度は、最小に維持すべきであるが、ある検体又は分離問題が、検体の完全性を維持するため、又は媒体の所望の性質(例えば、変性条件、又は担体、例えばアガロース又はポリアクリルアミド)を達成するためのいずれかの目的のために、追加化合物の存在を必要とすることが理解されたい。
潜在的な添加剤は、好ましくは、他の酸及び/又は塩基、いわゆる「必須」1価及び2価アニオン及びカチオン、増粘剤、界面活性剤、タンパク質可溶化剤、アフィニティリガンド、還元剤などから選ばれる。
前述の説明から離れて、他の酸又は塩基は、その酸又は塩基官能基のpKaが分離媒体のpH又はpH範囲からは十分に離れており、当該溶液の緩衝能力に寄与することを避ける(しかしながら、これらは当然のことながら、媒体中における電気泳動度に寄与してもよい)ことができる場合に限り、本発明の分離媒体中に存在してもよい。潜在的な酸及び塩基の例は、例えば媒体のpHの微調整のために溶液中に完全に溶解した少量の強酸又は強塩基(NaOH、HClなど)、又は媒体中に実質的に溶解していない化学種として存在しているかなりの弱酸又は弱塩基(つまり、媒体のpHから約4ユニットより多く離れているpKaを有する)を含む。
本出願の意味における必須の1価及び2価のアニオン及びカチオンは、サンプル中の検体の構造及び/又は機能的完全性を維持するために必要とされうるイオンである。このような必須アニオン及びカチオンの例として、カルシウムイオン、亜鉛イオン、Fe(II)イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、リン酸イオン又はEDTA又はEGTAなどの複合薬剤、又はアジドイオン(例えば、細菌汚染を避けるためのもの)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
分離媒体において一般的に使用される増粘剤は、グリセロール又はさまざまなPEGなどのポリアルコール類、HPMCなどの親水性ポリマー、スクロースなどの炭水化物、ヒアルロン酸などを含む。試料と媒体との間の密度又は粘度の差異により作成される乱流を避けるために、増粘剤は、分離スペース中に導入されるサンプルの粘度に、分離媒体の粘度を適用するために必要されてもよい。
存在しうる追加の添加物は、シクロデキストリンを含むあるデキストリン、又はれクチンなどのアフィニティリガンドなどのキラルセレクターを含む。さらに多くの適切な界面活性剤は、当業者に知られており、例えばSDS、脂肪アルコール、オクチルグリコシド、Tween(商標)として知られているポリソルベートなどを含む。タンパク質可溶化剤の例として、尿素又はチオウレアを含むが、界面活性剤及び洗浄剤を含んでもよい。
ある場合、溶液中での検体の酸化を避けるために還元剤を加えることが要求されることもある。サンプル及び/又は分離媒体に加えられうる適切な還元剤として、メルカプトエタノール、ジチオスレイトール(DTT)、アスコルビン酸、ナトリウム又はカリウムメタバイサルフェートなどが挙げられる。
いずれにせよ、前述の添加剤の多くが、電気的に荷電されているので、その濃度は、必要とされる限り高く維持されるべきであるが、分離媒体の電気伝導性を所望の(低い)範囲に維持するために、できる限り低維持されるべきである。
本発明の実施体に従った適切な分離媒体についての具体的な例(ZE及び(ウルトラ)フラットIEF分離媒体)は、以下の実施例に記載されている。
本明細書に考慮される分離媒体が、分離媒体のさまざまな成分について説明されたさまざまな好ましい実施態様の任意の組み合わせを含みうるということ、並びに特定の好ましい成分が、任意の特に好ましい実施態様に属しない場合であっても、他の成分に関して好ましいこともある。言い換えれば、本発明の分離媒体の好ましい又は好ましくない要素のさまざまな組み合わせから得られる全ての置換が、本明細書に開示されそして含まれることを意図する。
II. 安定化媒体
II.1. 安定化媒体の設計のための一般的基準
本発明の別の態様は、分離媒体内の電気化学組成及び条件を安定化することを意図する安定化媒体に関し、分離領域と、電極コンパートメントとの間において、いずれの方向へのクロスコンタミネーションを妨げ、そしてさまざまな電気泳動分離技術、特にFFE適用に必要とされる全ての化学物質を供給する。安定化媒体は、それぞれ陽極と陰極の付近に存在し、そしてそれぞれの電極と分離媒体との間に一般的に存在する。
本発明の態様に従った安定化媒体は、一般的に、分離媒体中における伝導性よりも高い電気伝導性を有することにより一般的に特徴付けられている。本明細書に開示される安定化媒体の概念は、ほぼ全ての状況及び装置に適用可能であり、そして以下により詳細に説明されるように、分離媒体の所望のpHと緩衝化合物の溶解性から独立している。
他に示されない限り、以下の選択基準は、電気泳動分離の運転モード(つまり、ZE、IEF又はITP)にかかわらず、本発明の全ての安定化媒体に対して一般的である。
A) 陰極安定化媒体
本発明の陰極安定化媒体(CSM)は、電気泳動装置の陰極の付近、又は分離媒体の陰極側に少なくとも隣接して存在し、そして少なくとも1の緩衝酸と少なくとも1の強塩基を含む。緩衝酸の意味については、本発明の分離媒体に関する節において説明されてきており、そして安定化媒体の緩衝酸に等しく適用されるものである。この文脈において使用される強塩基は、安定化媒体中で緩衝酸を実質的に脱プロトン化することができ、それによりCSMにおけるイオン化を増加させる塩基を意味することを意図する。好ましくは、原則に100%の強塩基が、分離媒体の任意の所定のpHにてプロトン化形態で存在する(か又は、OH-イオンを水溶液に直接デリバリーする)。従って、本発明に従った強塩基は、頻繁に、高いpKa、しばしば13超、そして時にそれよりも高いpKaを有する。
本発明の態様のある実施態様では、CSMにおける全ての酸(緩衝酸を含む)の少なくとも実質的な脱プロトン化を達成するために十分であるように強塩基の濃度が選ばれるべきである。実質的な脱プロトン化とは、少なくとも約30%超、そして好ましくは約50、60、70、80、又はさらには90%の緩衝酸が脱プロトン化形態で、つまりCSM中で使用される緩衝酸の共役塩基として、存在することを意味する。言い換えると、強塩基の添加は、CSM内においてイオン化された化学種の濃度を増加させ、これは、強塩基を添加していない状況に比べて高い電気伝導性を導く。
他方、分離媒体中で緩衝酸により緩衝化されていない任意の過剰強塩基は、安定化媒体中でpHの不所望な増加を単に導く。従って、強塩基の濃度が、よくてもCSMの緩衝酸の全て(1より多くの緩衝酸が存在する場合)の濃度と同等であり、好ましくはそれよりも低い。強塩基の存在の観点では、当業者は、電気泳動分離がZE、IEF又はITPモードで運転されているかにかかわらず、CSMのpHが分離媒体のpHよりも高いということを認めるであろう。しかしながら、安定化媒体と分離媒体との間における境界において、高いpHシフトが生じる場合に観察される不所望な効果のため、CSMと分離媒体との間におけるpHの差異は、約3、そして好ましくは約2、又はさらには1pHユニットを超えないべきである。最も好ましくは、pHシフトは、特にFF-ZEを含むZE適用においてはできる限り低くすべきである。
当業者は、電気泳動の差異に陰極により生成される水酸化物イオンの流入のために、陰極と分離媒体との間の安定化領域全体にわたりpHを一定に維持できないことを承知している。CSMと分離媒体との間におけるpHの差を低くすることについての上記要望は、CSMのpHを分離媒体の境界の近くにすることを指す。実際、pHを陰極付近で一定に維持することができるかは、通常特に関係がない。なぜなら、CSMにより作成される高い伝導性バリアにより検体がCSMに進入することを妨げるからである。
本発明の陰極安定化媒体は、さらに、少なくとも1の緩衝塩基を含んでもよく、ここで当該緩衝塩基は、CSMにおいて用いられる全ての酸の濃度が、全ての塩基の濃度より高いという条件で、分離媒体について上で説明されるのと同じ意味を有する。言い換えると、これらの実施態様における(緩衝)酸のモルの合計は、塩基(緩衝塩基+強塩基)のモル数の合計よりも高くなければならず、つまりCSMは、少なくとも1より高い濃度比(全ての酸:全ての塩基)を有するべきである。特定の理由のため、50を超える濃度比は、必要又は望まれることはまれである。1又は1超の緩衝塩基が存在する好ましい実施態様では、CSM中における濃度比(酸/塩基)は、約2〜約10であり、そしてより好ましくは3〜8、又はさらに4〜6であるが、約1.1〜50の任意の濃度比が、本発明に記載の適切なCSMにおいて可能であってもよい。
原則として、CSMに用いられる緩衝酸は、分離媒体中で用いられる緩衝酸と同一であってもよいし、又は異なってもよい。異なる緩衝酸が選択される場合、CSM中と異なる緩衝酸の電気泳動移動度は、好ましくは分離媒体中の緩衝酸の電気泳動移動度と同様であるか又は少なくともそれに近くあるべきであるが、必ずしもそうあるわけでもない。本明細書で使用される電気泳動移動度(EM)は、水性媒体中において時間単位あたりの所定の電場強度の電場においてアニオンとカチオンが移動する速度を意味する。電気泳動移動度uは、以下の式:
u=s/H×t
として計算することができる。式中、sは、移動距離(メートル)を指し、Hは、電場強度(V/m)を指し、そしてtは時間(秒)を指す。さらに、緩衝酸のpKaは、分離媒体中の緩衝酸のpKaと同様であるか、又は少なくとも近い値であるべきである。この基準が、ZE適用について特に重要であるが、(陽極)のITP分離に適用できないということが当業者により認められよう。ITP分離では、CSMにおける緩衝酸の選択についての他の基準は、以下により詳細に説明されるように適用されるべきである。
CSMの緩衝酸について好ましくは満たされるべき他の基準は、CSMにおける各緩衝酸のpKaが、よくても、分離媒体の各緩衝酸のpKaと同等(特にZEにおいて)であり、そしてそうでない場合当該pKaよりも高くあるべきということである。言い換えると、緩衝酸は、分離媒体中の緩衝酸に同一であるか、又は異なる緩衝酸の場合にわずかに弱い緩衝酸であるべきである。
CSMにおける緩衝酸の同一性及び性質に関する選択基準に関して、1超の緩衝酸が存在する場合に、当該緩衝酸が、予定された運転モードに左右されるということが当業者により理解されたい。従って、ZE、IEF、及びITPそれぞれについての好ましい安定化媒体についての適した選択基準は、以下の節における各運転モードについて記載されよう。
いずれにせよ、ZE及びIEF適用(つまり、ITP適用には適用されない)において用いられる好ましい安定化媒体では、CSMにおける全ての酸の合計濃度が、分離媒体中の全ての緩衝酸の濃度よりも高いであろう。好ましくは、濃度比(CSM対分離媒体)は、1.1〜50であり、一方で特に好ましい濃度比は、1.5〜30である。2〜20の比がさらにより好ましく、そして最も好ましくは5〜15であり、3〜7、又は5〜10の濃度比は、多くの分離問題について満足いく結果を与えうる。
CSMにおける緩衝酸の全ての絶対濃度が、広く変化してもよく、そして特定の分離問題、検体の性質、分離媒体の組成に左右される。しかしながら、分離媒体における緩衝酸の一般的な濃度は、約20mM超であるが、その濃度は頻繁にいくらか高く、例えば50mM超、75mM超、100mM超、150mM超、又はさらに200mM超になるであろう。上限濃度についての自ずと生じる限界は、もちろん、それぞれの緩衝化合物の溶解度により与えられよう。例えば、ヒスチジンは、一般的に良好な緩衝化合物であり、そして電気泳動分離での使用によく適しているが、その有用性は比較的低い溶解性によりいくらか限定されることもある。
CSM中の(存在する場合)全緩衝塩基の絶対濃度も、広く変化してよく、そして特定の分離問題、検体の性質、及び分離媒体の組成に左右される。しかしながら、分離媒体中の緩衝塩基についての濃度は、一般的に約10mM超であるが、CSM中の全ての塩基の合計濃度が上に説明されるように当該(緩衝)酸の濃度よりも低いことを条件として、その濃度は頻繁にいくらか高く、例えば20mM超、30mM超、50mM超、100mM超、又はさらに200mM超になるであろう。
B) 陽極安定化媒体
本発明の陽極安定化媒体(ASM)は、本発明のASMでは、酸及び塩基という語句がCSMに比べた場合に交換されるということを除き、陰極安定化媒体(CSM)について記載されたのと同一の基準に従って原則的に選択される。
こうして、本発明のASMは、少なくとも1の緩衝塩基及び1の強酸を含まなければならず、ここで強酸は、好ましくはASM中の全ての塩基の実質的なプロトン化を達成するために機能する。結果として、ASMのpHは、通常、分離媒体のpHよりも通常低く、そしてASM中の緩衝塩基のpKaは、分離媒体中の緩衝塩基のpKa値に等しくあるべきか、又は当該値より低くあるべきである(つまり、ASM中に同等の又は弱い塩基が存在すべきである)。
CSMの場合と同様に、本発明のASMが、さらに、少なくとも1の緩衝酸を含むことがあり、ただし、全ての(緩衝)塩基の濃度が、ASM中の全ての酸の濃度よりも高くあるべきである。
好ましい実施態様は、CSMに関してすでに記載されており、そして、酸と塩基という語句が交換され、そして弱塩基が低いpKa値により特徴付けられる(一方弱酸は、高いpKa値により特徴付けられる)ことを条件に、本発明のASMに対して同等に適用される。
さらに、適切な緩衝酸、並びに陽極及びカチオン性安定化媒体用の緩衝酸は、一般的に、本発明の分離媒体について記載されるのと同一の緩衝酸及び緩衝塩基のなかから選択される。
安定化媒体に用いることができる適切な強酸及び強塩基について当業者は承知している。強酸は、原則的に全てのプロトンを放出し、それによりASM中の緩衝塩基をプロトン付加する任意の酸、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸などから選択されてもよい。本発明の意味における強塩基は、共役酸形態で主に存在するか、又は水酸化物イオン(OH-)をCSMに直接寄与させ、そしてさらに緩衝酸をかなりの程度脱プロトン化させることができる任意の塩基、例えばアルカリ金属水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど、又はアルカリ度類金属水酸化物、例えば水酸化マグネシウム又は水酸化カルシウムなどから選ばれてもよい。
一般的に、有用であるためには、強塩基は、少なくとも12のpKaを有するべきであり、そして強酸は約1.5未満のpKaを有するべきであるが、基本原理は、安定化媒体内の緩衝塩基と緩衝酸に比べた酸性度/塩基性度の点における十分大きな差異であり、その結果、強塩基又は強酸が、上に説明されるように対応する緩衝酸/緩衝塩基をイオン化できるということが当業者により認められよう。従って、本発明に従った強力な酸は、ASM中の任意の緩衝塩基のpKaよりも少なくとも約3pKユニット低いpKを有する酸である。同様に、強塩基は、CSMにおいて緩衝酸のpKaよりも少なくとも3pKaユニット高いpKaを有する任意の塩基である。
安定化媒体は、1又は1より多くの添加剤を含んでもよい。添加剤は、分離媒体について説明されたのと同じ基準に従って選択される。実際、添加剤が通常、サンプル/検体の安定性について必要とされるので、添加剤が分離媒体中に存在するものと同一であることが通常であるが、要求されているわけではない。安定化媒体中の緩衝酸/塩基の高い濃度に従い、イオン性添加物の濃度は、分離媒体中の添加剤の濃度に比べて通常高くされる。しかしながら、グリセロール又はスクロースなどの増粘剤の濃度は、好ましくは、安定化媒体及び分離媒体と同様の粘度及び密度をそれぞれ達成するために好ましくは適用されるであろう。
本発明の実施態様に従った安定化媒体の中心的な特徴は、安定化媒体中の電気伝導性よりも高く、そして好ましくはずっと高くなければならない。こうして、好ましい実施態様では、ASMとCSMの伝導性は、互いに独立して、分離媒体中の電気泳動よりも少なくとも約2の因子だけ増加されるが、当該伝導性が分離媒体の電気伝導性よりも少なくとも3、4、5、6、7、8、9又は10だけ増加することがさらにより好ましい。特に好ましい実施態様では、安定化媒体の電気伝導性は、分離媒体の伝導性よりも少なくとも10倍より高い。
安定化媒体の絶対伝導性値は、その結果約500μS/cmであり、多くの状況では、伝導性は少なくとも1000、1500、2000、3000又はさらには5000μS/cmであろう。ある状況では、分離媒体中での比較的高い伝導性で、10000を超える、又はさらに20000μS/cmを超える伝導性値を有する場合に良好な結果が得られうる。
陽極安定化媒体の伝導性が、陰極安定化媒体の伝導性と同じである必要がないが、それらが典型的に同じ範囲になることが理解されるべきである。任意の割合において、実際の伝導性値は、安定化媒体が分離媒体に対する安定な伝導性バリアを維持するために安定化媒体が設計されるという条件下で、通常、特定の分離状況に依存し、そしてASMとCSMの間で変化しうる。
本明細書に表される安定化媒体は、基本的に、担体に基づく電気泳動法(例えばSDS-PAGE)又は無担体電気泳動法(例えばFFE)を含む全ての電気泳動技術について用いることができ、そして電気泳動運転モードに有用である。さらに、本発明の安定化媒体は、本発明の分離媒体と併せて、又は他の市販の分離媒体、例えばServalyt(商標)(Serva、Germany)の名称で市販されている両性媒体、又はProlytes(商標)(BD GmbH, Germany)の名称で市販されているマルチ緩衝液pH勾配システムなどと併せて使用することもできる。
本発明に従った適切な安定化媒体の設計のための前述の一般的な選択基準が、原則として全ての運転モード、そして特にZE及びIEF適用に適用される一方で、以下の節は、電気泳動運転モード(ZE、IEF、及びITPそれぞれ)に特異的に適用される好ましい実施態様を記載する。
ゾーン電気泳動用の安定化媒体
ゾーン電気泳動モードにおいて試行される電気泳動分離の特徴は、溶液中において粒子の総荷電密度に基づき粒子の分離を達成するため、分離媒体内のpHが、原則的に一定でなければならないということである。実際の合計表面荷電密度は、各粒子を取り囲むpHに依存することが当業者に認められる。こうして、分離媒体内の一定のpHは、粒子の総荷電密度を維持するように機能する。しかしながら、安定化媒体を伴わないで行われるZE分離は、特に電極付近の領域において頻繁にpH不安定性となり、それにより領域内に存在する検体の総荷電密度の変化のため、分離効率を低減させる。従って、ZE用の安定化媒体は、pHをできるだけ良好に維持し、その一方検体が電極を通過するのを防ぐ伝導性バリアを作成する高い伝導性を示す。従って、本発明の好ましい実施態様では、本発明は、ゾーン電気泳動であって、本発明の安定化媒体と分離媒体との間のpHの差異が、1.5未満、好ましくは1.2未満、より好ましくは1.0未満、特に好ましくは0.8未満、そして最も好ましくは0.6未満のpHユニットである電気泳動に関する。
記載された分離媒体、特に1の緩衝酸と1の緩衝塩基のみを含む分離媒体は、ZE適用に特に適しているので、適切なZE安定化媒体が、かかる分離媒体を参照して定義されうるということが認められる。従って、本発明の好ましいZE安定化媒体は、分離媒体(CSM)中の緩衝酸に同一である少なくとも1の緩衝酸、又は分離媒体(ASM)中の緩衝塩基と同一である少なくとも1の緩衝塩基を含む。あるいは、陰極分離媒体の緩衝酸又は陽極分離媒体の緩衝塩基は、分離媒体中のそれぞれの酸/塩基に近いpKa値及び近い電気伝導移動度を有するべきである。この文脈において近いとは、pKa値が約0.5を超えて異ならない、そして好ましくは約0.3を超えて異ならないか、又はさらには0.1pKユニットを超えて異ならないべきである。同様に、電気泳動移動度は、30%を超えて異なるべきでなく、そして好ましくは約20又はさらには10%未満の差異であるべきである。
媒体中に1超の緩衝酸(CSM)又は緩衝塩基(ASM)が存在する場合、さらなる緩衝酸/塩基が、分離媒体中に存在する緩衝酸/塩基よりも弱い(つまり、高いpKaを有する酸と低いpKaを有する塩基)であるべきである。特定の実施態様では、安定化媒体中の弱酸又は塩基の濃度は、分離媒体中に使用されるものと同一の緩衝酸/塩基の濃度よりも低くあるべきで、そして好ましくはずっと低い(例えば、少なくとも2、3、4、5、又はさらには10の因子)。
ZE分離媒体中の緩衝濃度が、典型的にはどちらかというと低いので(なぜなら、緩衝化合物は、所定のpHにおいて差異的の緩衝能力を有するように選択することができるためである)、ZE安定化媒体中の緩衝酸(CSM)と緩衝塩基(ASM)の絶対濃度は、IEF適用について必要とされる濃度に比べて通常低いであろう。
特に良好な結果が、1の単一の緩衝酸(CSM)又は1の単一の緩衝塩基(ASM)を含むZE安定化媒体で達成されるが、他の好ましいZE安定化媒体は、追加の弱い緩衝酸(CSM)又は緩衝塩基(ASM)を含みうるが、上に説明されるように低い濃度である。
さらに、安定化媒体は、上に詳細に説明されているように、その濃度が強酸/共塩基の濃度と合わせてその濃度が、ZE安定化媒体中の全ての緩衝酸(CSM)又は緩衝塩基(ASM)の合計濃度を超えないという条件で、緩衝塩基(CSM)又は緩衝酸(ASM)を含みうる。
いずれにせよ、安定化媒体内のCSMとASMのそれぞれ中の緩衝酸/緩衝塩基の選択は、本質的にフラットなpHプロファイルを維持する目的により支配されるべきである。上に定義されるように安定化媒体は、FF-ZEを含むZE適用中で行われる電気泳動分離においてかなり有用であるが、安定化媒体は当該技術分野において知られている他の電気泳動技術に使用されてもよい。
II.3. 等電点電気泳動法用の安定化媒体
等電点モードで試行される電気泳動分離では、サンプル中の異なる粒子又は化学種の分離は、そのことなるpI値に基づいている。ここで、当該pI値は、粒子/化学種が電気的に中性となる周囲の非均一な分離媒体のpH値に相当する。従って、IEF分離は、pH勾配の存在下で行われ、当該勾配は直線的であってもよいが、非連続的(つまり段階的)であってもよい。広いpH勾配を提供するIEF分離媒体は、当該技術分野において知られている(例えば、上に言及されるServalyt(商標)又はProlytes(商標))。IEF分離媒体のpH勾配は、好ましくは、目的の検体の少なくともpI値を包含するように選択されるべきである。例えば、6.5〜8のpIを有する検体(例えばタンパク質)では、IEF分離媒体中のpH勾配は、最適な結果を達成するために約pH6〜8.5の範囲であるべきである。
本発明の実施態様に合わせて開示される分離媒体は、一般的に少数の必要な成分により特徴付けられており、そしてフラット又はさらにはウルトラフラットなpH勾配(つまり、約3pHユニット以下のpH差異)に特に適している。良好な分離結果を達成するための一般的なルールとして、緩衝成分の数が、分離媒体によりカバーされるpH範囲に伴い増加するであろう。しかしながら、フラットかつウルトラフラット勾配では、本発明に従った分離媒体は、(お互いに独立して)唯一の、又はある場合2の、そしてときには最大3の緩衝酸及び緩衝塩基をそれぞれ含むこともある。
本明細書に記載されるIEF安定化媒体は、本発明のフラット及びウルトラフラットpH勾配用の新規の分離媒体を含む全てのIEF分離媒体の状態を安定化するために有用かつ適切である。ある実施態様では、本発明のIEF安定化媒体は、以下の選択基準に従って設計されている。IEF分離媒体の一般的原理を念頭にいれて、以下の基準が、本発明の適切なIEF安定化媒体の設計に適用される。
従って、IEF安定化媒体では、CSM中の緩衝酸のpKaは、サンプル中の最も塩基性の検体(つまり、当該検体は最も高いpIを有する)のpI値よりも高くあるべきである。同様に、ASM中の緩衝塩基のpKaは、サンプル中の最も酸性の検体のpIよりも低くあるべきである。
適切なIEF媒体は、特にフラット及びウルトラフラットpH勾配では、唯一の緩衝酸(CSM)又は唯一の緩衝塩基(ASM)で設計されてもよいが、IEF安定化媒体が、それぞれ1超の緩衝酸(CSM)と緩衝塩基(ASM)を含んでもよい。ある実施態様では、2、そしてある場合には3以上の緩衝化合物が、CSM及びASM中にそれぞれ存在してもよい。
ある実施態様では、CSM中の各緩衝酸のpKaは、(pI+0.3)<pKa<(pI+3)の範囲内、好ましくは(pI+0.5)<pKa<(pI+2)の範囲内、そして最も好ましくは以下の(pI+0.5)<pKa<(pI+1.3)の範囲内であるべきである。同様に、ASM中の各緩衝塩基のpKaは、(pI-3)<pKa<(pI-0.3)の範囲内、好ましくは(pI-2)<pKa<(pI-0.5)の範囲内、そして最も好ましくは(pI-1.3)<pKa<(pI-0.5)の範囲内であるべきである。
或いは、CSM中の緩衝酸のpKa値及びASM中の緩衝塩基のpKa値は、IEF分離媒体のpH範囲(つまり、最小pHと最大pH)に関して定義することができる。IEF分離媒体のpH範囲に基づく定義は、検体のpIを指す定義に代えられてもよいし、又は追加要件であってもよい。従って、本発明のIEF安定化媒体に関するある実施態様では、CSMの緩衝酸の各々のpKa値は、IEF分離媒体の最大pH値よりも高い。同様に、ASM中の緩衝塩基の各々におけるpKa値は、IEF分離媒体の最小pH値よりも低い。
特定の実施態様では、CSMにおける各緩衝酸のpKa値は、(pHmax+0.3)<pKa<(pHmax+3)の範囲内、好ましくは(pHmax+0.5)<pKa<(pHmax+2)の範囲内、そして最も好ましくは(pHmax+0.5)<pKa<(pHmax+1.3)の範囲内であり、そしてASMにおける各緩衝塩基のpKa値は、(pHmin-3)<pKa<(pHmin-0.3)の範囲内、好ましくは(pHmin-2)<pKa<(pHmin-0.5)の範囲内、そして最も好ましくは(pHmin-1.3)<pKa<(PHmin-0.5)の範囲内である。
1超の緩衝酸(CSM)又は緩衝塩基(ASM)が存在する場合、追加の緩衝化合物は、上記範囲内の異なるpKa値を有するように選択されるべきである。好ましい実施態様では、CSM中の弱い緩衝酸の濃度及びASM中の弱い緩衝塩基の濃度は、それぞれ最も強い緩衝酸(CSM)と強い緩衝塩基(ASM)、つまりそれぞれCSMについて最も塩基性の検体のpIに近いpKaを有する緩衝酸、及びASMについて最も酸性の検体のpIに近いpKaを有する緩衝塩基、の濃度よりも高くあるべきである。
弱酸及び塩基の濃度が、CSM及びASM中の最も高い緩衝酸/塩基それぞれの濃度について、少なくとも1.1、そして好ましくは少なくとも約2、より好ましくは約3の因子、そしてある場合には約4、5又はさらには10の因子分増加する。
さらに、IEF安定化媒体は、CSM中の全ての塩基の合計濃度が、それぞれの緩衝酸の合計濃度よりも低く、かつASM中の全ての酸の濃度が、それぞれの緩衝塩基の合計濃度よりも低いことを条件として、1以上の緩衝塩基(CSM)及び緩衝酸(ASM)を含んでもよい。
CSMのpHは、通常分離媒体の最大pH(陰極に対するpH勾配の末端)よりも高いであろう。好ましくは、CSMのpHは、IEF分離媒体の最大pHよりも約3、そしてより好ましくは約2pHユニットを超えて高くあるべきではない。具体的にウルトラフラットpH勾配では、pHの差異を最小に維持することが好ましく、つまりpHは1.5pHユニットだけ、又は1pHユニットだけIEF分離媒体の最大pHよりも高くあってもよい。同様に、ASMのpHは、IEF分離媒体の最小pHよりも約3、そしてより好ましくは約2pHユニットを超えて低くあるべきではない。ウルトラフラットpH勾配では、pHの差異が最小に維持されることが特に好ましく、つまりpHは、IEF分離媒体の最小pHよりも1.5pHユニットだけ、又は1pHユニットだけ低くてもよい。
IEFに関連する本発明の実施態様において、安定化媒体と、安定化媒体に隣接する分離媒体との間におけるpHの差異の値は、少なくとも約0.6pHユニットであり、好ましくは少なくとも約0.8pHユニットであり、そして最も好ましくは少なくとも約1pHユニットであることが好ましい。上で説明したように、CSM及びASMのそれぞれと分離媒体との間のpH差異についての原理に従い、CSMのpH値は、分離媒体の最大pH値よりも高く、そしてASMのpH値は、分離媒体の最小pH値よりも低い。
安定化媒体において観察されたpH値が、全範囲にわたり一定ではないこともあり(特に電極に近づく場合)、その結果安定化媒体のpHについての言及が、安定化媒体と分離媒体との間の境界の又は境界付近のpHとして理解されるべきであることが当業者により認められよう。さらに、安定化媒体中の緩衝化合物の同一性が、分離媒体のpH状態に影響を与えるということが認められる。実際、成分及びその濃度の選択は、電気泳動の際に電場を適用した場合に達成されるpH勾配を決定するであろう。その結果、pH値についての言及が(つまり勾配が形成された後の)平衡状態を一般的に指し、そしてある状況下では、本発明の本質から逸脱することなく上記好ましい値から逸れることすらあることが理解されたい。
II.4. 等速電気泳動用の安定化媒体
フリーフロー又はフリー溶液等速電気泳動(ITP)分離技術は、電気泳動分離プロセスを達成するために粒子の電気泳動移動度(EM)値の差異を使用する。フリーフローゾーン電気泳動とは対照的に、分離は、非均一媒体において達成され、そしてしばしば当該試行モードに備わる「フォーカス効果」のためより優れた分離をもたらす。実際、単一の粒子が、ITPの間における分離された粒子(タンパク質)のバンドから拡散する場合、これらの粒子は様々な電場強度で媒体内に入り込み、粒子が複数の電極のうちの1つに対して一般的に局所的に加速又は減速されることをもたらす。備わっているフォーカス効果は、遅く又は早く動いている粒子が、優勢画分(dominant fraction)への復帰することを意味する。目的の粒子よりもわずかに高い電気泳動移動度及びわずかに低い電気泳動度を有するスペーサーを添加することにより、既知の電気泳動移動度を有する粒子が移動フィールド内で単離されてもよい。これは一般的に「スタッキング」と呼ばれ、ここで「スペーサー」は、既知かつ明らかな電気泳動移動度を有する粒子を単離するために使用される。等速電気泳動の基本例は、「Method in Counterflow Isotachophoresis」という名称の米国特許第3,705,845号に示される。
上に簡潔に言及されるように、ITPは、非連続電解質システムを用いる点で、標準的なゾーン電気泳動や等電点電気泳動とは異なっている。この非連続電解質システムは、一般的にリーダー及びターミネーター電解質又は媒体から構成され、ここで荷電化学種は、媒体中で、混合されたサンプル中に含まれるイオン性化学種又は検体よりも早い(リーダー)有効電解質移動度、及び遅い(ターミネーター)有効電解質移動度を示す。言い換えると、サンプル中の荷電化学種は、早く移動するリーダーイオン及び遅く移動するターミネーターイオンにより「囲まれている」か又は「ガードされている」それぞれの電極に対して移動する。
実際には、分離が行われるサンプルは、通常、リーダーとターミネーター媒体の間に、それ自体で又はある場合にはターミネーターとリーダーの移動度の間の電気泳動移動度を示す他の化合物/イオンと一緒に、導入される。中間体の移動度を有するこのような追加の媒体は、ときにはスペーサー媒体又はスペーサー電解質と呼ばれる。
電場をかけている間に、荷電された化学種は、個別の電極移動度に対応する様々な速度を有するが、反対の荷電を有する電極に対して移動し始める。言い換えると、サンプル中の検体の混合物は、その電気泳動移動度に従って個別のスペースの純粋な領域に分離される。十分な緩衝能力が存在することを仮定すると、完全な分離の後に、定常状態の移動度が達成される。さらに、混合サンプルの他のタンパク質に依存して、混合されたサンプル内のスペーサーは、隣接する領域に「スタッキング」するものとして特徴付けられる状態を引き起こす。各「スタッキング」された領域は、同一又は同様の電気泳動移動度の1の物質のみを含む。混合されたサンプルを含むゾーンは、移動度を低減する同じ順番で移動するが、それにもかかわらず電極に関して同じ速度の移動度を有する。
等速電気泳動定常状態は、各サンプルゾーンにわたる濃度の特別な特徴を有する。ここでサンプル領域の濃度は、リーディングゾーン(リーダー)の濃度に正比例する。具体的に、等速電気泳動において、イオンを移動させるための濃度及び移動度の特徴は、当業者に知られているKohlrausch式により関係付けられる。
等速電気泳動は、伝統的にキャピラリー電気泳動に用いられたが、近年、BD(商標)フリーフロー電気泳動システムなどのフリーフロー電気泳動装置を使用するうまくいった分離法が開発された。例えば、細胞小器官の保存的分離は、同時係属中の2006年11月1日に出願された米国仮出願第USSN 60/863,834号、及び2007年1月3日に出願された60/883,260号に記載されており、これらはその全てを本明細書に援用される。
別の試行モード(例えばZE及びIEF)において行われた電気泳動適用と同様に、ITP分離は、それにもかかわらず、特に、非限定的に調製的又は分析的フリーフロー偏向電気泳動技術として行われる場合にしばしば安定性問題に遭遇する。本明細書に記載されるITP安定化媒体の新規概念は、当該技術において観測される安定性問題を解決し、そして安定、再現性のある、そして正確な電気泳動分離条件を保障し、特に電気泳動の間の所定の時間で再現性のある電場強度プロファイルを保障する。
上に記載されるようにITP試行モードの特性のため、考慮にいれる必要がある4の異なる安定化媒体が原則として存在することが当業者により認められる。なにより、目的の検体は、正又は負に荷電されていてもよく、そしてその結果陽極及び陰極に対してそれぞれ移動する。
従って、目的の負に荷電された化学種(つまりアニオン)が陽極に対して移動するアニオン性ITP分離と、正に荷電された目的の化学種が陰極に対して移動するカチオン性ITP分離との間の区別をすることができる。各場合において、陽極と陰極の付近において安定化媒体がそれぞれ存在する。こうして、アニオン性ITPでは、最も早く移動する化学種(つまり、リーダーイオン)を含む陽極安定化媒体が存在し、そして最も遅く移動する化学種(つまりターミネーターイオン)を含む陰極安定化媒体が存在するであろう。逆に、カチオン性ITP分離は、ターミネーターを含む陽極安定化媒体を有し、そしてリーダーイオンを含む陰極安定化媒体を有する。
本発明の上記4つの異なるITP安定化媒体の成分についての選択基準は以下に記載される。
I.アニオン性ITP分離
I.A 陰極安定化媒体
本発明に記載のアニオン性ITP用の陰極ITP安定化媒体は、「ターミネーター」化合物、つまりイオン化可能な化合物であって、当該当該化合物のアニオン性形態が、電極間陰極に対して最も遅い有効な電気泳動移動度を有し、そしてさらに少なくとも1の今日塩基を含む化合物を含む。
(上に記載されるように)当該技術分野における用語の使用に従い、アニオン性ITP適用における「ターミネーター」は、電気泳動チャンバー内の最も低い電気泳動移動度を有するアニオン性の化学種である。電気泳動移動度が、イオン化の程度に依存しているので、ターミネーター化合物が、化合物のイオン化形態(例えば、弱酸の塩)、又は脱プロトン化されており、そうして(周囲の媒体のpHに基づいて)ある程度イオン化されている未変化の酸自体を指しうることが理解されたい。
従って、本発明の態様の好ましい実施態様では、ターミネーターは、本明細書の以下に示される定義に従った緩衝酸である。ITPにおけるイオン化の度合いが、分離チャンバー中に存在するカウンターイオン(典型的には、リーダー媒体中で最も早く動くイオンの対イオンとしての緩衝塩基)に依存するので、緩衝酸は、好ましくはリーダー安定化媒体中の緩衝塩基のpKa値に関連して選択されるべきである。こうして、陰極ITP安定化媒体中の緩衝酸のpKaは、好ましくは、リーダー媒体中の緩衝塩基のpKaよりも高くあるべきである。特に、好ましい実施態様では、リーダーにおける緩衝酸と緩衝塩基との間のpKaの差異は、約0.5〜約3.5、より好ましくは1〜3、そして最も好ましくは1.5〜2.5であるべきであり、もちろん緩衝酸のpKaは、緩衝塩基のpKaよりも高い。
大きくかつ不必要なpHシフトを避けるため、ターミネーター化合物の濃度は、少なくとも1の強塩基の濃度よりも高くあるべきである。濃度比は、通常特定の分離問題に依存するが、通常1.5:1〜5:1(ターミネーター:強塩基)であるが、2:1〜3:1であってもよいし、他の比率も可能である。
ターミネーター化合物の適切な絶対濃度は、低い末端で通常約10mM〜高い末端で500mMであるが、実際は、所定のターミネーター化合物の溶解度が濃度の上限を決定することがある。いくつかの好ましい実施態様では、ターミネーター化合物の絶対濃度は、しばしば、約30〜300、そしてより好ましくは約50〜200mMである。
ターミネーターと強塩基の間の上記濃度比に基づくと、強塩基の可能な濃度は、ターミネーターについて記載された濃度よりもある程度低い。強塩基の適切な濃度は、こうして、10mM未満〜約400mMの範囲であってもよく、より好ましい濃度はたしかに50〜200mMの範囲である。アニオン性ITP適用の文脈における強塩基は、そのpKa値が、緩衝酸のpKaよりも少なくとも2、そして好ましくは3又はさらには4pKユニット高い塩基を意味する。しばしば、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物(KOH、NaOH、Ca(OH)2、Mg(OH)2など)は、強塩基として適しているが、所望の高い伝導性をもたらす緩衝酸(ターミネーター)を実質的に脱プロトン化することができることを条件として、他の(弱)塩基が使用されてもよい。
さらに、1より多くの強塩基が原則として使用する事ができる一方、分離チャンバー内の異なる化学種の数をできるだけ低くすることを望む場合、当業者は、通常単一の強塩基のみを用いる。
本発明のアニオン性ITPの陰極安定化媒体は、電気泳動装置中における低いターミネーター濃度を有するターミネーターに隣接した陰極付近に導入されるべきであり、そしてサンプル及びスペーサー媒体は、陽極に対する希釈ターミネーターに隣接するが、リーダー媒体とリーダー安定化媒体の前における位置に導入される。
I.B 陽極安定化媒体
アニオン性ITP適用のための陽極安定化媒体は、陽極の近くの電気泳動装置に導入される。こうして、アニオン性ITPに対するこの「リーダー」安定化媒体は、少なくとも1の強酸と、プロトン化(イオン化)されうる少なくとも1の化合物を含む。ただし、プロトン化されうる化合物の濃度は、強酸濃度よりも高い。好ましくは、プロトン化されうる化合物は、本明細書の上で用いられた定義に従った緩衝塩基である。
一般的に強酸の共役塩基は、アニオン性ITP中での最も高い電気泳動移動度を有するリーダーイオンに同一となるように選択される。アニオン性ITP適用の文脈における強酸は、緩衝塩基を実質的にプロトン化して安定化媒体中で所望の高い伝導性を導くことができるために、安定化媒体中で使用される緩衝塩基のpKaよりもpKa値が少なくとも2、そして好ましくは3又はさらには4pKユニット低い酸を含むことが理解されるべきである。頻繁に、当業者は、塩酸又は臭化水素酸、又は硫酸を強酸として好む。なぜなら、得られる塩化物/臭化物/硫酸イオンが、かなり高い電気泳動移動度を有し、それによりアニオン性ITPにおけるリーダーイオンの適切な候補となるからである。
好ましい実施態様では、陽極安定化媒体中の強酸及び緩衝塩基のうちの少なくとも1の濃度は、リーダー媒体中の同じ化合物の濃度に対して増加するであろう。一般的に、安定化媒体中の強酸と緩衝塩基の濃度は、互いから独立して、1:5〜50の因子分増加するが、2〜20の因子分増加するか、又はさらには5〜15がより頻繁に生じるであろう。陽極安定化媒体中の濃度が、強酸及び緩衝塩基の両方に対して約10倍増加する場合に、かなり良好な結果が達成されるが、正確な濃度は、分離問題の状況及び性質に依存するであろう。
アニオン性ITPに対する陽極安定化媒体中の強塩基及び緩衝塩基の濃度のための絶対濃度は、低い末端で約10mM〜高い末端で約500mMの範囲であるが、所定の化合物の溶解性が、通常濃度の上限を決定するであろう。好ましい実施態様では、(強酸の濃度が緩衝塩基の濃度以下となるべきであるという要件を維持する一方で)強酸と緩衝塩基の絶対濃度は、約30〜300であり、そしてより好ましくは両方の化合物について約50〜200mMである。
陽極ITP安定化媒体中で、陰極及び緩衝塩基中でイオン化緩衝酸の実際の濃度はそれぞれ、主に安定化媒体中に存在する強塩基又は強酸の濃度により決定されよう。
カチオン性ITP分離では、陽極と陰極という語句、並びに酸と塩基という語句が交換されなければならないという点を除いて安定化媒体についての一般的基準は同一である。さらに、別のpKa値に比較して高いpKa値についての任意の言及は、以下に詳細に説明されるように低いpKa値を言及することに置き換えられる必要がある。
II. カチオン性ITP分離
II.A 陽極安定化媒体
本発明の態様に従って、カチオン性ITPについての陽極ITP安定化媒体は、「ターミネーター」化合物、つまりイオン化されている化合物であって、当該化合物のカチオン性の形態が、電気泳動の際に陰極に対して最も遅い有効な電気泳動移動度を有する化合物を含み、さらに少なくとも1の強酸を含む。
(上に記載されるように)当該技術分野における用語の使用に従い、カチオン性ITP適用における「ターミネーター」は、電気泳動性チャンバー内の最も低い電気泳動移動度を有するカチオン性の化学種である。電気泳動移動度が、イオン化の程度に依存しているので、ターミネーター化合物が、化合物のイオン形態(弱塩基の共役酸)を指してもよいし、又はプロトン化されて、周囲の媒体のpHに依存してある程度イオン化される未荷電の塩基自体をさしてもよい。
従って、本発明の態様の特定の実施態様において、ターミネーターは、本明細書に示された定義に従った緩衝塩基である。ITP中のイオン化の程度が、分離チャンバー中に存在するカウンターイオン(一般的に、リーダー媒体中で最も早く移動するイオンのカウンターイオンとしての緩衝塩基)に依存するので、リーダー安定化媒体中の緩衝酸のpKa値に関して好ましくは選択されるべきである。こうして、陽極ITP安定化媒体中の緩衝塩基のpKaは、好ましくはリーダー媒体中の緩衝酸のpKaよりも低くあるべきである。特に好ましい実施態様では、リーダー中の緩衝塩基と緩衝酸との間のpKaの差異は、約0.5〜約3.5、より好ましくは1〜3、そして最も好ましくは1.5〜2.5であるべきであり、緩衝塩基のpKaは、緩衝酸のpKaよりも低くあるべきである。
大きくかつ不必要なpHシフトを裂けるために、ターミネーター化合物の濃度は、少なくとも1の強酸の濃度よりも高くあるべきである。濃度比は、通常、特定の分離問題によっているが、通常1.5:1〜5:1(ターミネーター/強酸)であり、2:1〜3:1であってもよいが、他の比率も可能であろう。
ターミネーター化合物の適切な絶対濃度は、低い末端で通常約10mM及び高い末端で約500mMであるが、実際は、所定のターミネーター化合物の絶対濃度は、約30〜300であり、そしてより好ましくは約50〜200mMである。
ターミネーターと強酸とのあいだの上記濃度に基づき、強酸の可能な濃度は、その結果ターミネーターについて記載されたものよりもいくらか低いものである。強酸の適切な濃度は、その結果10mM未満〜約400mMであってもよく、一方より好ましい濃度は、50〜200mMの範囲内である。カチオン性ITP適用の文脈における強酸は、緩衝塩基のpKaよりもそのpKa値が少なくとも2、そして好ましくは3又はさらには4pKユニット低い酸を意味することが理解されるべきである。かなりの場合で塩酸、臭化水素さん、又は硫酸などの強酸が好ましいが、カチオン性アン低下媒体中で緩衝塩基を適切にプロトン化することができ、所望の高い伝導性を導く。
さらに、1超の強酸が、原理的に使用できる一方で、分離チャンバー中の異なる化学種の数をできる限り低く維持することが所望される場合当業者は、通常単一の強酸のみを使用する。
本発明のカチオン性ITP用の陽極安定化媒体は、低いターミネーター濃度を有するターミネーター溶液に隣接した陽極付近の電気泳動装置に導入されるべきであり、そして希釈ターミネーターに隣接するように導入されたサンプル及び場合によりスペーサー媒体を、陰極に対するが、リーダー媒体とリーダー安定化媒体の前に導入させる。
II.B 陰極安定化媒体
カチオン性ITP適用のための陰極安定化媒体は、陰極の近くの電気泳動装置に導入される。こうして、カチオン性ITPに対するこの「リーダー」安定化媒体は、少なくとも1の強酸と、脱プロトン化(イオン化)されうる少なくとも1の化合物を含む。ただし、プロトン化されうる化合物の濃度は、強塩基濃度よりも高い。好ましくは、脱プロトン化されうる化合物は、本明細書の上で用いられた定義に従った緩衝酸である。
一般的に強塩基の共役酸は、カチオン性ITP中での最も高い電気泳動移動度を有するリーダーイオンに同一となるように選択される。カチオン性ITP適用の文脈における強塩基は、緩衝酸を実質的に脱プロトン化して安定化媒体中で所望の高い伝導性を導くことができるために、安定化媒体中で使用される緩衝酸のpKaよりもpKa値が少なくとも2、そして好ましくは3又はさらには4pKユニット高い塩基を含むことが理解されるべきである。頻繁に、当業者は、アルカリ又はアルカリ土類金属水酸化物(KOH、NaOH、Ca(OH)2、Mg(OH)2など)の共塩基を好む。なぜなら、得られる金属イオンが、かなり高い電気泳動移動度を有し、それによりカチオン性ITPにおけるリーダーイオンの適切な候補となるからである。
ある実施態様では、カチオン性ITPの陰極安定化媒体中の少なくとも1の強塩基と緩衝酸の濃度は、リーダー媒体中の同じ化合物の濃度に対して増加するであろう。一般的に、安定化媒体中の強塩基と緩衝酸の濃度は、互いから独立して、1:5〜50の因子分増加するが、2〜20の因子分増加するか、又はさらには5〜15がより頻繁に生じるであろう。陰極安定化媒体中の濃度が、強塩基及び緩衝酸の両方に対して約10倍増加する場合に、かなり良好な結果が達成されるが、正確な濃度は、分離問題の状況及び性質に依存するであろう。
カチオン性ITPに対する陰極安定化媒体中の強塩基及び緩衝酸の濃度のための絶対濃度は、低い末端で約10mM〜高い末端で約500mMの範囲であるが、所定の化合物の溶解性が、通常、濃度の上限を決定するであろう。好ましい実施態様では、(強塩基の濃度が緩衝酸の濃度以下となるべきであるという要件を維持する一方で)強塩基と緩衝酸の絶対濃度は、約30〜300であり、そしてより好ましくは両方の化合物について約50〜200mMである。
陰極安定化媒体及び陽極安定化媒体のそれぞれにおけるイオン化された緩衝酸と緩衝塩基の実際の濃度は、主にそれぞれの安定化媒体中に存在する強塩基又は強酸の濃度によりおもに決定されよう。
III.キット及び電気泳動媒体組成物
本明細書において考慮された様々な電気泳動分離媒体及び安定化媒体が、単独で又は、他の安定化媒体及び分離媒体とそれぞれ一緒に選択され、調製され、そして使用されてもよい。
従って、本発明の別の態様は、本明細書に記載される新規の電気泳動媒体のうちの少なくとも1を含む、電気泳動分離を行うためのキットに関する。当該キットは、すぐに使用できる水溶液(つまり、全ての成分が電気泳動分離問題についての所望の濃度に存在する)として1又は幾つかの本発明の電気泳動媒体を含んでもよいし、又はその使用前にあらかじめきめられた量の水で希釈される濃縮溶液の形態で1又は幾つかの媒体を含んでもよい。或いは、キットは、電気泳動分離プロセスにおいてその使用前にあらかじめ決定された量の水で再構成される幾つかの、好ましくは1の容器中に、様々な成分の媒体を含む乾燥形態で1又は幾つかの媒体を含んでもよい。
好ましくは、各媒体(陰極安定化媒体、陽極安定化媒体、分離媒体)は、分離容器内に存在するが、他の組み合わせ及びパッケージングが、ある状況において可能でありそして有用であってもよいということが明らかであろう。例えば、電極装置内にあらかじめ形成されたpH勾配を作成するために、IEF適用のための分離媒体が、異なる濃度の成分を有する異なる数の「サブ-フラクション」からなってもよいということが言及された。IEF適用において使用されるサブフラクションの数は、分離問題に左右されており、所望のpH範囲が、分離媒体及び分離に用いられる電気泳動装置を用いて達成される。フリーフロー電気泳動適用では、装置は、一般的に幾つかの媒体投入口E(例えば、N=7、8、又は9の投入口)を含み、その結果装置内の分離スペースを作り上げるサブ媒体は、少なくとも1〜最大N-2の投入口に導入されてもよい(各側における少なくとも1の投入口は、安定化媒体用に保存される)。
1の実施態様では、本発明のキットは、本発明の少なくとも1の分離媒体を含む。ある好ましい実施態様では、当該キット中の分離媒体が、基本的に一定のpHを形成し、そしてその結果特にZE適用に有用である。他の好ましい実施態様では、分離媒体(又は分離媒体のサブフラクションを形成する幾つかの分離媒体)は、電気泳動分離の間のpH勾配を形成し、そしてその結果IEF適用に特に有用である。特に好ましい実施態様では、キット中の分離媒体は、2物質性の媒体であり、上に説明されるように1の緩衝酸及び1の緩衝塩基のみを含む。本明細書に記載される分離媒体のうちの全てが、好ましいか否かに関わらず、本発明のキット内に含まれてもよい。
さらに別の実施態様では、キットは、本明細書に記載されるように少なくとも1の安定化媒体を含む。安定化媒体は、陰極安定化媒体であってもよいし、又は陽極安定化媒体であってもよい。陰極及び陽極安定化の両方ともが、電気泳動適用、特に無担体電気泳動、例えばFFEの成功に必要とされているので、キットは、好ましくは、本明細書に定義される1の陽極及び1の陰極安定化媒体を含む。ある好ましい実施態様では、キットは、陽極及び/又は陰極安定化媒体を含み、それらはZE適用に有用である一方で、別の好ましい実施態様では、キットはIEF適用に有用な陽極及び/又は陰極安定化媒体を含む。さらに別の好ましい実施態様では、キットは、ITP適用に使用するために適用された陰極及び/又は陽極安定化媒体を含むであろう。典型的に、本発明のキット中に含まれる安定化媒体は、分離媒体の電気伝導性よりも高い伝導性を有し、そして通常少なくとも約500μS/cm、そしてより好ましくは1000μS/cm超、又はさらに2000μS/cm超であるが、必要とされる絶対電気伝導性は、ある適用ではかなり低いこともありうる分離媒体の電気伝導性に依存することが当業者により理解されたい。
さらに別の実施態様では、キットは、所定の電気泳動分離に必要とされる全ての媒体、つまり陽極安定化媒体及び陰極安定化媒体、並びに分離媒体(当該分離媒体はそれ自体、上で説明されるように幾つかのサブフラクションからなることもある)を含む。このような実施態様では、分離媒体及び安定化媒体は、当然のことながら、意図された運転モード、例えばZE、IEF、又はITPに有用であるように選択されたい。ITP適用では、キットは、少なくとも陽極及び陰極安定化媒体を含み、そして場合によりターミネーター及びリーダー媒体、並びに本明細書に記載される1以上のスペーサー溶液を含んでもよい。
電気泳動分離のために必要とされる全ての媒体を含むキット中の安定化媒体の電気伝導性が、分離媒体の伝導性よりも高いことが理解されたい。本明細書に説明されるように、陽極安定化媒体(ASM)の高い伝導性は、ASM中に強酸を含めることにより得られ、好ましくはここで当該強酸は、塩酸、硫酸、リン酸、及び他の酸であって、当該媒体中の緩衝塩基のpKaよりも少なくとも3pKaユニット低いpKaを有するのかの酸から選ばれる。陰極安定化媒体(CSM)中の高い伝導性は、強塩基を加えることにより得られ、好ましくは、ここで当該共塩基は、NaOH又はKOHなどのアルカリ金属水酸化物、Mg(OH)2又はCa(OH)2などのアルカリ土類金属、及び当該媒体中の緩衝酸のpKaよりも少なくとも3pKaユニット高いpKaを有する他の塩基から選ばれる。
好ましい陰極及び/又は陽極安定化媒体の全て、並びに本明細書に記載される好ましい分離媒体は、本発明のキットに含まれうるということが理解されたい。
場合により、本発明のキットは、さらに電気泳動適用における媒体の使用の説明書をさらに含むことがある。
本発明の別の態様は、分離媒体を含み、そしてさらに本明細書に記載される陰極安定化媒体及び陽極安定化媒体をさらに含む電気泳動媒体組成物に関する。組成物は、好ましくは、水の形態であるが、使用前に水で希釈されるか又は再構成される必要性がある濃縮形態の組成物又はさらには乾燥形態の組成物も本明細書において意図されている。組成物は典型的に、安定化媒体及び分離媒体用の組成物を分離することを含む。本明細書に記載される安定化媒体及び分離媒体について記載される好ましい任意の成分は、本発明の電気泳動媒体組成物中に含めることができる。
III.1. 新規の電気泳動媒体の使用及び方法
本発明の電気泳動分離媒体及び安定化媒体は、様々な電気泳動分離問題及び運転モードについての広い適用性により特徴付けられており、その結果多くの電気泳動適用に有用である。こうして、本発明は、電気泳動による検体の分離のために本明細書に記載される分離媒体の使用に関する。別の実施態様では、分離媒体を単独で、又はフリーフロー電気泳動を含む電気泳動により検体の分離するための陰極及び/又は陽極安定化媒体と一緒に分離媒体を含むキットの使用が本明細書において意図される。同様に、電気泳動媒体組成物は、(FFEを含む)電気泳動による検体の分離のために使用することができる。
本発明のこの態様の好ましい実施態様では、本明細書に記載される媒体、キット、及び電気泳動組成物は、フリーフロー電気泳動(FFE)により検体を分離するために使用されるべきである。
分離、分取、濃縮、又は枯渇される検体にはリポソーム、ナノチューブ、細胞、細胞小器官、ウイルス、ウイルス粒子、細菌、膜、タンパク質、例えばりぽタンパク質、タンパク質複合体、タンパク質凝集体、DNA、DNA-タンパク質複合体、クロマチン、ペプチド、その組み合わせなどがある。しかしながら、他の非生物学的表面化でン改変ポリマー及び粒子、例えばメラミンレジン、ラテックスペイント粒子、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、デキストラン、セルロース誘導体、その組み合わせなどが、本発明の分離及び安定化媒体を使用するフリーフロー電気泳動(FFE)により分離されてもよい。
ある好ましい実施態様では、本明細書に記載される媒体、キット、及び組成物は、ゾーン電気泳動(ZE)、及び最も好ましくは、フリーフローゾーン電気泳動(FF-ZE)による検体の分離のために使用される。他の好ましい実施態様では、本明細書に記載される媒体、キット、及び組成物は、等電点電気泳動(IEF)、そして最も好ましくはフリーフロー等電点電気泳動(FF-IEF)による検体の分離のために使用される。さらに別の好ましい実施態様では、本発明の媒体、キット、及び組成物は、等速電気泳動(ITP)、及び好ましくはフリーフロー等速電気泳動(ITP)による検体の分離のために使用される。
フリーフロー電気泳動による検体を分離するための媒体、キット、及び組成物の使用に関する全ての実施態様において、無担体電気泳動分離が、連続運転、インターバル(又はバッチ)モード、又は周期(cyclic)インターバルモードのいずれかにおいて行うことができる。
フリーフロー偏向電気泳動の文脈において連続モードは、注入ステップ並びに分離ステップが、連続的かつ同時に生じることを意味するように理解されるべきである。連続モードFFEでは、電気泳動分離は、異なる化学種が、そのpI(IEF)、総荷電密度(ZE)又は電気泳動移動度(ITP)に従って分離される電気泳動チャンバーを媒体と検体が通過する間に生じる。連続モードは、幾つかの独立した「試行」(1の試行は、一連のサンプルの注入、分離、及びそれに続く回収及び/又は検出として理解される)を行う必要を伴わずに検体の連続的な注入及び回収を可能にする。連続モードFFEは、分離技術であって、当該バルクフロー速度が、初期のバルクフローレートに比べて低減されている(が、停止されていない)一方で、当該検体が分離時間を増加させるために電極間の分離スペースを通過する分離技術を含むということが理解されたい。後者の場合においては、しかしながら、真の連続モードについてはもはや言及することができない。なぜなら、バルクフローレートの低下は、限られた量のサンプルについてのみ意味をなすものであるからである。
フリーフロー偏向電気泳動に関して用いられるインターバルモードは、当該技術分野に記載されていた。例えば、非連続(つまりインターバル)偏向電気泳動のプロセスは、米国特許第6,328,868号に示されており、その開示は、本明細書に援用される。この特許において、サンプル及び分離媒体は、共に電気泳動チャンバーに導入されており、そして次にゾーン電気泳動、等速電気泳動、又は糖電点電気泳動などの電気泳動モードを用いて分離され、そして最終的に、分取出口を通してチャンバーから排出される。868特許の実施態様は、チャンバーの入口末端から出口末端へと移動する一方向の分離媒体とサンプル移動を記載している。この方向は、従来のキャピラリー電気泳動とは異なり、細長い電極の位置により共有されている。例えば868発明において記載される静的インターバルモードでは、ポンプ又は幾つかの他の液体排水エレメントにより引き起こされる電極間でのサンプルの加速は、電場がオフになった場合にのみ行われるか、又は少なくとも電気泳動について効果的ではない場合に、つまりサンプルのどの部分にも電場がかけられていない場合に、行われる。
言い換えると、インターバルプロセスは、サンプル及び媒体が、電気泳動装置の分離チャンバーに導入される充填フェーズ、続いてサンプルを含む媒体のバルクフローがとめられ、その間電場を適用して分離を達成する分離プロセスにより特徴付けられる。サンプルの分離/分取後、電場をオフにするか、又は効果がなくなるまで低下させ、そしてバルクフローを次にオンにして、分取されたサンプルを出口末端に対して移動させ、そして続いて適切な容器、例えばマイクロタイタープレートに回収/検出する。
本明細書において使用されるフリーフロー電気泳動の文脈では、いわゆる周期又は周期インターバルモードが、2006年8月29日に出願された同時係属のUS仮出願USSN 60/823,833、及びUSSN 60/883,260に記載されており、その両方が本明細書に援用される。まとめると、新規のモードは、少なくとも1、そして潜在的な複数回のバルクフローの向きの逆流により特徴付けられている一方で、サンプルは細長い電極の間の電場中に維持されていることにより特徴付けられる。定常的なインターバルモードとは対照的に、サンプルは、常に動いており、それにより高い電場強度、そうしてよりよい(又はより早い)分離が可能になる。さらに、細長い電極間のサンプルのバルクフローを逆転させることにより、電場中の検体の滞在時間がかなり増加し、それにより高い分離時間及び/又は高い分離効率、並びにより優れた分離を提供する。細長い電極のいずれかの向きにバルクフローを逆流させること(サイクルと呼ぶ)は、具体的な状況において必要とされる頻度で繰り返すことができるが、実践理由及び短い時間で分離を得る目的が、一般的に、当該モードにおいて行われるサイクル数を制限するであろう。サンプル中の検体の所望の分取を達成した後に、通常電場はオフにされ、そして画分は、装置の出口末端から排出され、そして例えばマイクロタイタープレートなどの適切な容器内に回収され/検出される。
本発明の実施態様は、さらに、本明細書に記載された分離媒体、安定化媒体、又はキット及び電気泳動媒体組成物の使用により特徴付けられる電気泳動方法にさらに関する。本発明のこの態様における好ましい実施態様では、電気泳動法は、FF-ZE、FF-IEF、及びFF-ITPを含むフリーフロー電気泳動により検体の分離することに関し、場合によりここで当該FFE分離は、本明細書ですでに記載された連続モード又はインターバルモード、又は周期インターバルモードで行われる。
IV. 具体的適用
本発明のさらに別の実施態様は、広範囲の異なる検体を成功裏に分離又は分取するために適している電気泳動方法に関する。本明細書に提供される電気泳動方法は、優れた分離品質及び再現性をもたらし、それにより当業者に、当該技術分野において利用できる装置及び技術を用いて今まで利用できなかった追加技術を提供する。
好ましくは、しかしながら、電気泳動法は、フリー溶液電気泳動、そしてより好ましくはフリーフロー電気泳動の状況で行われる。一般的に、フリー溶液電気泳動は、無担体電気泳動、例えばキャピラリー電気泳動を指し、ここで当該移動層の流れの方向は、基本的に電場のストリームラインに並行であり、ここでフリーフロー電気泳動は、一般的に、分離媒体(単数又は複数)、及び場合により更なる媒体、例えば安定化媒体及びカウンターフロー媒体の流れの方向が基本的に電極に対して並行である(つまり、電極により作られる電場のストリームラインに対して実質的に垂直である)技術を指す。
以下により詳細に説明されているように、本発明のフリーフロー電気泳動法に従って分離されるサンプルが、本明細書に定義される任意の分離媒体であって、媒体投入口のうちの1を介してチャンバーに導入される媒体と合わせて分離チャンバーに導入されてもよい。さらに、電気泳動法が、フリーフロー電気泳動法である場合、当該フリーフロー電気泳動法は、サンプルが、分離された専用サンプル投入口を通して、当該方法を実施するのに適しているFFE装置中に導入されてもよいという利点を提供する。
従って、以下の:
(a) 少なくとも1の陽極安定化媒体、少なくとも1の陰極安定化媒体、及び少なくとも1の分離媒体を電気泳動チャンバーに導入し;
(b) 1以上の検体を上記少なくとも1の分離媒体に導入し;
(c) 上記媒体及び検体に対して電場をかけ;そして
(d) 電気泳動チャンバーから全て又は一部の検体を溶出する、
を含む本発明の電気泳動法であって、当該少なくとも1の分離媒体が本発明に従った分離媒体である電気泳動法が提供される。
好ましくは、少なくとも1の安定化媒体、つまり陽極及び/又は陰極安定化媒体は、本明細書に定義される安定化媒体である。
分離されるサンプルは、FFE装置の陽極(単数又は複数)と陰極(単数又は複数)の間の分離スペース中に存在する分離媒体に加えられるか、又は好ましくはFFE装置により提供される専用サンプル投入口(S)を通してFFE装置の分離スペース内に別々に導入される。分離媒体及び安定化媒体は、一般的に、図1に示されるように、媒体投入口(E)を通して分離スペース又は分離チャンバー内に導入される。サンプル投入口は、FFE装置の媒体投入口と独立して位置していてもよいし、そしてしばしば媒体投入口の下流側に位置している(再び図1を参照のこと)。さらに、投入口はFFE装置の陽極と陰極の間の任意の所望される位置に配置されてもよい。典型的に第一末端で又はその付近で(つまりその近くで)の分離チャンバーは、サンプル注入用の少なくとも1のサンプル投入口と、少なくとも1の分離媒体、及び場合により安定化媒体の注入用の複数の媒体投入口を含む。第二末端の近くに、典型的に複数のサンプル回収出口が位置し、そして場合により1以上のカウンターフロー媒体投入口が位置する。つまり本発明のある実施態様では、本明細書に記載される任意の方法が、例えばさらにWO2006/119001に詳細に説明されるようにカウンターフロー媒体の使用を含むことができる(当該文献は本明細書に援用される)。(1より多くが存在する場合)回収出口とカウンターフロー媒体投入口の両方が、一般的にバルクフローの方向に垂直な線に沿って配置される。
サンプル投入口を介して分離媒体と一緒に検体を導入することを介して、又は任意の他の可能な方法により、検体を適切な電気泳動チャンバーに導入した後に、分離媒体内のサンプル中の様々な検体を次に、電場を適用し、一方でFFE装置の出口末端に対して液体を送ることにより分離した。
適切なFFE装置が当該技術分野に知られており、そして例えば、BD(商標)フリーフロー電気泳動システム(BD GmbH,Germany)の名称で市販されている。さらに、本発明の分離及び安定化媒体と用いることができる適切なFFE装置は、US特許第5,275,706号、US特許第6,328,868号、係属中の公開された米国出願US 2004/050697号、US 2004/050698号、US 2004/045826号、及びUS 2004/026251号、及び国際出願PCT/EP2007/061840、US 2004/045826、及びUS 2004/026251、及び国際出願PCT/EP 2007/061840及びPCT/EP2007/059010を含む多くの特許出願において記載されてきた。これらの全てが本明細書に援用される。
本発明は、通常フラットなpHプロファイル及び通常1000μS/cmを有する電気泳動分離媒体を提供し、その少なくとも一部が固有かつ変化しうる総表面荷電を有するところの検体を含むサンプルを分離媒体に導入し、そしてリポソーム、ウイルス粒子などの検体いを、フリーフローゾーン電気泳動により分離又は分取することを含む電気泳動方法を提供する。
電気泳動方法においおて分離される検体は、生体粒子又は生体ポリマー、非限定的にリポソーム、ナノチューブ、細胞、細胞小器官、ウイルス、ウイルス粒子、細菌、膜、タンパク質、タンパク質凝集体、タンパク質複合体、DNA、DNA-タンパク質複合体、クロマチン、ペプチド、それらの任意の組み合わせなど、及び日生物物質、表面荷電改変されたポリマー、及び粒子、例えば非限定的にメラミンレジン、ラテックスペイント粒子、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、デキストラン、セルロース誘導体、それらの任意の組み合わせなどからなる群から選択される。
本発明の態様における好ましい実施態様では、電気伝導性は、600μS/cm未満であるが、伝導性がさらに低い、例えば約500、400、300、200、100又はさらには50μS/cm未満であることも多い。
ある実施態様では、本発明に従った電気泳動方法により分離される検体は、生体ポリマー及び生体粒子の群から選択され、そして好ましくは比較的大きくかつ滑らかな表面を有し、かつ比較的低い総表面荷電を有する粒子から選択される。特に好ましい実施態様では、本明細書に記載される電気泳動法は、リポソームの分離のために用いられよう。
リポソームは、リン脂質及びコレステロール二重層から一般的に構成される膜を有する球状のベシクルである。これらは、混合された脂質鎖(例えば、卵のホスファチジルエタノールアミンなど)を有する天然由来のリン脂質、又はDOPE(ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン)などの純粋な界面活性成分から構成することができる。リポソームは、単層又は多層、つまり多くの層から構成されても良い。これらはしばしば(非限定的に)水溶液のコアを含む。リポソームは、興味深くかつ幅広い潜在的適用を有するため、関心が高い。例えば、リポソームは、薬剤デリバリー剤として一般的に使用されるか、又はDNAのトランスフォーメーション又はトランスフェクションに使用することができる。
リポソームは一般的に多くの異なる成分から合成的に作成されるので、得られたリポソームの集合は、その特徴及び個々の組成の点で必ずしも均一ではない。したがって、当該技術分野において、リポソームの生産状況を制御/分析する必要性があり、さらに特定の状況下では、異なる性質を有するリポソームの集合の調製的分取をする必要性も存在する。本明細書に提供される電気泳動法は、非均一リポソーム集合を調製的又は分析的に分取するのに特に適していることが発見された。
電気泳動方法の好ましい実施態様では、緩衝酸のpKaが、緩衝塩基のpKaよりも高いことを条件に、1の緩衝酸と1の緩衝塩基を含む。分離媒体中の緩衝酸と緩衝塩基との間のpKaの差異(ΔpKa)が0.8〜2.5、そしてより好ましくは1.0〜2.3となるように緩衝酸と緩衝塩基は選択される。特に良好な結果は、ΔpKaが1.2〜1.8である特定の実施態様において達成された。
特定の検体、特に感受性の生体ポリマー及び生体粒子では、緩衝塩基と緩衝塩基は、分離媒体のpHが約5〜9、そしてしばしば約6〜8となるように選択される。素晴らしい結果が、ほぼ中性、つまり約pH7を有する分離媒体を用いて達成されるが、電気泳動方法は、本明細書にすでに記載されたように約pH2〜12のあいだの任意の適切なpHで原理的には実施できる。それぞれの緩衝酸及び緩衝塩基の選択が、一般的に分離問題と性質、ならびに目的の検体の安定性要件に左右されることが認められたい。リポソーム分取では、分離媒体のpHは、通常約pH5〜pH9である。
亜本発明のこの態様における好ましい実施態様では、分離媒体の密度は、非荷電の添加剤を加えることにより、サンプルの密度にあわせられよう。可能な添加剤はすでに本明細書に記載されている。特に好ましい添加剤は、スクロースであるが、ほかの添加剤が同じように使用されても良い。
一般的にリポソームを無傷のままに維持することが望まれるので、分離媒体のpHは、分離過程の間において、リポソームの構造的完全性を保障するために分離媒体のpHは適合されるべきである(例えば、pH又はpH範囲をpH=7付近に調節することによる)。例えば、良好なリポソーム分離の結果が、50mMのEPPS、50mMのBISTRIS,及び250mMのスクロースを含む分離媒体を用いることにより達成され、ここでスクロースの添加により分離媒体の密度が調節される。分離は、例えば周期インターバルFF-ゾーン電気泳動を用いることにより行われうる。
本発明に従ったウイルスの分離は、本明細書に提供される媒体を用いた生体粒子を分離するための別の非限定的な例である。良好な分離結果が、例えば、本発明にしたがって、インターバルゾーン電気泳動を用いて自然の条件下でウイルス及びウイルス粒子を分離することにより達成された。この例では、使用された分離媒体は、50mMモルフォリノエタノールと50mMのTAPSを含んだ。さらに200mMのスクロース、ならびに少量のHPMC及び界面活性剤(TWEEN80(商標))を加えて、分離条件を最適化した。
好ましくは、電気泳動方法は、さらに、本発明に従った陽極及び陰極安定化媒体を提供するステップをさらに含む。陽極及び陰極安定化媒体は、一般的に、それぞれ電気泳動装置の陽極と陰極の付近に導入される。電気泳動法は、好ましくは、マトリクスフリーな様式で行われ、特に当該電気泳動は、フリー溶液で行われる(FFE-ZE)。
電気泳動法を行う場合に、サンプル及び媒体のバルクフローは、好ましくは、一般的にある時間のあいだ陽極と陰極の方向に平行である。
本発明のある実施太陽では、サンプルのバルクフローは、原則的に電気泳動法の間、特に分離フェーズにおいて一定に維持される。サンプルが低い流速で分離スペースに導入されることは一般的ではあるが必須であるわけではなく、一方で分取されたサンプルを溶出するステップは、高いバルク流速で行われうる。
ある別の実施態様では、十分な分離時間を可能にするために2つの電極間に電場を適用するあいだに、サンプルと媒体のバルク流速を停止するか又は緩めることが好ましい。ほかの好ましい実施態様は、さらにサンプル及び媒体のバルクフローをオンにして溶出、場合により区分された画分を回収するステップを含む。
さらに別のこのましい実施態様では、サンプル及び媒体のバルクフローの方向が、電場を適用している間に少なくとも1回逆転されるように電気泳動が行われる。好ましくはバルクフローの方向の転換が、検体の許容される分離/分取を達成するために必要である限り繰り返される。後者を、上に詳述されたように周期インターバルモードと呼ぶ(図10を参照のこと)。
バルク流速は、一般的に特定の状況及び装置にあわせられるが、サンプルと媒体のバルク流速が、典型的には、特に定常インターバル及び周期インターバルFFE適用では、充填及び/又は溶出フェーズに比べて分離フェーズの間は低くあるべきである。
本明細書に提供される電気泳動法は、区分された画分に目的の検体、例えばリポソームの一部を溶出するステップを含む。
本発明の本質及び範囲から逸脱することなく多くの改変及び少しの変更が可能であるということが当業者に認められたい。本発明及びその利点は、以下の非限定的な例でさらに示される。
実施例1:FF-ZEモードで行われたカチオン性の分離
Hela細胞からすべての細胞抽出物を分離する分離媒体及び安定化媒体の能力は、7つの投入口(E1-E7)及びサンプル投入口(S1-S4)を備えたBD(商標)フリーフロー電気泳動システムで試験した。陽極安定化媒体を投入口E1に導入した。陰極安定化媒体を投入口E7に導入し、そしてサンプルを陽極サンプル投入口(S1)を介して装置に導入した。電気泳動分離の合計時間は10分であった。サンプル及び媒体をそれぞれ2ml/h及び250ml/hのフローレートで導入した。適用された電圧は、850Vでありそして電流は42mAであった。90ml/hで周期インターバルFF-ZEモードでランを行い、そして分画されたサンプルを300ml/hで溶出した。
分離プロトコルは以下のものを用いた:
陽極安定化媒体(投入口1): 2Mチオウレア+7Mウレア+0.1%HMPC+100mM・H2SO4+30mMglygly+250mM 2-アミノ-酪酸;
分離媒体(投入口2〜6): 2Mチオウレア+7Mウレア+0.1%HPMC+50mM酢酸+50mMグリシルグリシン;
陰極安定化媒体(投入口7): 2Mチオウレア+7Mウレア+0.1%HPMC+150mM NaOH+30mM Tris+30mM HAc+250mMピリジンエタンスルホン酸(PES)
各FFE画分のpHを、pH電極を用いて測定し、そして図2Aのグラフにより示す。着色されたpIマーカーを分離して、システムの分離パフォーマンスを評価した。λ=420nm、515nm及び595nmにおける各画分の吸光度を図2Aに報告した。当該吸光度はそれぞれのpIマーカーの吸光度を表す。分離後、サンプルを96ウェルプレートに回収し、そして分析した。結果を図2Bに報告し、図2Bは、分離媒体と安定化媒体のpHに依存した存在するサンプルの分別分離を示す。全ての第二FFE分画を、SDSPAGEを用いて分析した。
実施例2:FF-ZEモードにおけるカチオン性及びアニオン性の同時分離
HeLa細胞由来の全細胞抽出物を分離する分離媒体及び安定化媒体の能力を、7つの投入口(E1-E7)及びサンプル投入口(S1-S4)を備えたBD(商標)フリーフロー電気泳動システムで試験した。陽極安定化媒体を投入口E1に導入した。陰極安定化媒体を投入口E7に導入し、そしてサンプルをサンプル投入口S2を介して導入した。電気泳動の合計時間は6分であった。適用される電圧は850Vでありそして電流は42mAであった。サンプルと媒体を2ml/h及び250ml/hの流速でそれぞれ導入した。ランを90ml/hの周期インターバルFF-ZEモードで行い、そして分取されたサンプルを300ml/hで溶出した。
分離プロトコルは以下のものを用いた:
陽極安定化媒体(投入口1): 2Mチオウレア+7Mウレア+0.1%HMPC+100mM・H2SO4+30mMクレアチニン+250mM EACA;
分離媒体(投入口2〜6): 2Mチオウレア+7Mウレア+0.1%HPMC+50mM MES+50mMクレアチニン;
陰極安定化媒体(投入口7): 2Mチオウレア+7Mウレア+0.1%HPMC+150mM NaOH+30mM Tris+30mM MES+250mM MOPSO。
各FFE画分のpHを、pH電極を用いて測定し、そして図3Aのグラフにより示す。着色されたpIマーカーを分離して、システムの分離パフォーマンスを評価した。λ=420nm、515nm及び595nmにおける各画分の吸光度を図3Aに報告した。当該吸光度はそれぞれのpIマーカーの吸光度を表す。分離後、サンプルを96ウェルプレートに回収し、そして分析した。結果を図3Bに報告し、図3Bは、分離媒体と安定化媒体のpHに依存した存在するサンプルの分別分離を示す。全ての第二FFE分画を、SDSPAGEを用いて分析した。
実施例3:FF-ZEモードにおいて行われるアニオン性分離
HeLa細胞由来の全細胞抽出物を分離する分離媒体及び安定化媒体の能力を、7つの投入口(E1-E7)及びサンプル投入口(S1-S4)を備えたBD(商標)フリーフロー電気泳動システムで試験した。陽極安定化媒体を投入口E1に導入した。陰極安定化媒体を投入口E7に導入し、そしてサンプルをサンプル投入口S3を介して導入した。電気泳動の合計時間は7分であった。適用される電圧は850Vでありそして電流は36mAであった。サンプルと媒体を2ml/h及び250ml/hの流速でそれぞれ導入した。ランを90ml/hの周期インターバルFF-ZEモードで行い、そして分取されたサンプルを300ml/hで溶出した。
分離プロトコルは以下のものを用いた:
陽極安定化媒体(投入口1): 2Mチオウレア+7Mウレア+0.1%HMPC+100mM・H2SO4+30mM2-ピリジン-プロパノール+250mM 2-ピリジン-エタノール;
分離媒体(投入口2〜6): 2Mチオウレア+7Mウレア+0.1%HPMC+50mM MOPS+50mM2-ピリジン-プロパノール;
陰極安定化媒体(投入口7): 2Mチオウレア+7Mウレア+0.1%HPMC+150mM NaOH+30mM Tris+30mM MOPS+250mM EPPS。
各FFE画分のpHを、pH電極を用いて測定し、そして図4Aにグラフにより示す。着色されたpIマーカーを分離して、システムの分離パフォーマンスを評価した。λ=420nm、515nm及び595nmにおける各画分の吸光度を図4Aに報告した。当該吸光度はそれぞれのpIマーカーの吸光度を表す。分離後、サンプルを96ウェルプレートに回収し、そして分析した。結果を図4Bに報告し、図4Bは、分離媒体と安定化媒体のpHに依存した存在するサンプルの分別分離を示す。全ての第二FFE分画を、SDSPAGEを用いて分析した。
実施例4:FF-ZEモード
品質コントロールサンプルを用いて、分離媒体及び安定化媒体を、BD(商標)フリーフロー電気泳動システムで試験した。当該装置は、7つの投入口(E1-E7)及びサンプル投入口(S1-S4)を含む設定であった。陽極安定化媒体を投入口E1に導入した。陰極安定化媒体を投入口E7に導入し、そしてサンプルをサンプル投入口S4を介して導入した。電気泳動の合計時間は10分であった。適用される電圧は600Vでありそして電流は80mAであった。サンプルと媒体を2ml/h及び250ml/hの流速でそれぞれ導入した。ランを90ml/hの周期インターバルFF-ZEモードで行い、そして分取されたサンプルを300ml/hで溶出した。
分離プロトコルは以下の媒体を用いた:
陽極安定化媒体: 250mMスクロース+50mM硫酸+150mM BISTRIS+50mM MES;
pH=6.25、伝導性4510μS/cm;
分離媒体(投入口2〜6): 250mMスクロース+50mM BISTRIS+50mM EPPS;
pH=7.23、伝導性264μS/cm;
陰極安定化媒体: 250mMスクロース+100mM NaOH+150mM EPPS+50mM TRIS;
pH=8.11、伝導性4590μS/cm;
各FFE画分のpHを、pH電極を用いて測定し、そして図5にグラフにより示す。着色されたpIマーカーを分離して、システムの分離パフォーマンスを評価した。λ=420nm、515nm及び595nmにおける各画分の吸光度を図5に報告し、これはそれぞれpIマーカーの吸光度を示した。
実施例5:FF-IEFモード
品質コントロール溶液を用いて、分離媒体及び安定化媒体を、BD(商標)フリーフロー電気泳動システムをFF-IEFモードで試験した。当該装置は、7つの投入口(E1-E7)及びサンプル投入口(S1-S4)を含む設定であった。陽極安定化媒体を投入口E1に導入した。陰極安定化媒体を投入口E7に導入し、そしてサンプルをサンプル投入口S1を介して導入した。電気泳動の合計時間は50分であった。適用される電圧は1200Vでありそして電流は30mAであった。サンプルと媒体を2ml/h及び250ml/hの流速でそれぞれ導入した。ランを90ml/hの周期インターバルFF-ZEモードで行い、そして分取されたサンプルを300ml/hで溶出した。
分離プロトコルは以下の媒体を用いた:
陽極安定化媒体: 25%グリセロール+0.2%HPMC+100mM H2SO4+50mM HAc+200mMEACA+100mM 4-ピリジン-プロパノール
pH=4.89;伝導性5840μS/cm;
分離媒体: 25%グリセロール+0.2%HPMC+1%Servalyt6-8;
pH=7.48、伝導性=85μS/cm;
陰極安定化媒体: 25%グリセロール+0.2%HPMC+150mM NaOH+30mMエタノールアミン+250mM CAPSO
pH=10.0、伝導性4160μS/cm;
各FFE画分のpHを、pH電極を用いて測定し、そして図6にグラフにより示す。着色されたpIマーカーを分離して、システムの分離パフォーマンスを評価した。λ=420nm、515nm及び595nmにおける各画分の吸光度を図6に報告し、これはそれぞれpIマーカーの吸光度を示した。
実施例6:FF-IEFモード
品質コントロール溶液を用いて、分離媒体及び安定化媒体を、BD(商標)フリーフロー電気泳動システムをFF-IEFモードで試験した。当該装置は、7つの投入口(E1-E7)及びサンプル投入口(S1-S4)を含む設定であった。陽極安定化媒体を投入口E2に導入した。陰極安定化媒体を投入口E7に導入し、そしてサンプルをサンプル投入口S1を介して導入した。電気泳動の合計時間は60分であった。適用される電圧は900Vでありそして電流は35mAであった。サンプルと媒体を2ml/h及び250ml/hの流速でそれぞれ導入した。ランを90ml/hの周期インターバルFF-ZEモードで行い、そして分取されたサンプルを300ml/hで溶出した。
分離プロトコルは以下の媒体を用いた:
陽極安定化媒体: 7M尿素+2Mチオウレア+100mM硫酸、pH=2.21、伝導性9550μS/cm;
分離媒体: 7M尿素+2Mチオウレア+0.75%Servalyte2-4+0.75%Servalyte4-6;
pH=4.89、伝導性=198μS/cm;
陰極安定化媒体: 7M尿素+2Mチオウレア+150mM NaOH+50mM TRIS+200mM HEPES+50mM MOPSO
pH=8.18、伝導性4980μS/cm
各FFE画分のpHを、pH電極を用いて測定し、そして図7にグラフにより示す。着色されたpIマーカーを分離して、システムの分離パフォーマンスを評価した。λ=420nm、515nm及び595nmにおける各画分の吸光度を図7に報告し、これはそれぞれpIマーカーの吸光度を示した。
実施例7:ウルトラフラットpH勾配FFEモード
品質コントロール溶液を用いて、分離媒体及び安定化媒体を、BD(商標)フリーフロー電気泳動システムで試験した。当該装置は、7つの投入口(E1-E7)及びサンプル投入口(S1-S4)を含む設定であった。陽極安定化媒体を投入口E1に導入した。陰極安定化媒体を投入口E7に導入し、そしてサンプルをサンプル投入口S2を介して導入した。電気泳動の合計時間は60分であった。適用される電圧は900Vでありそして電流は35mAであった。サンプルと媒体を2ml/h及び250ml/hの流速でそれぞれ導入した。ランを90ml/hにて周期インターバルFF-IEFモードで行い、そして分取されたサンプルを300ml/hで溶出した。
ウルトラフラットpH勾配を作成するため、少し異なるpHを有する5個の分離媒体を用いた。分離媒体及び安定化媒体は、各々1の投入口に次の順番で導入した:
陽極安定化媒体(投入口1): 0.2%HPMC+50mM硫酸+30mM酢酸+20mMMOPS+30mMピリジンー2-プロパノール+50mM2-ヒドロキシ-メチル-ピリジン;pH4.77、伝導性6320μS/cm;
分離媒体1(投入口E2): 0.2%HPMC+40mMピリジン-2-プロパノール+60mM TAPS;pH=6.85、伝導性120μS/cm
分離媒体2(投入口E3): 0.2%HPMC+50mMピリジン-2-プロパノール+50mM TAPS;pH=6.89、伝導性120μS/cm
分離媒体3(投入口E4): 0.2%HPMC+60mMピリジン-2-プロパノール+40mM TAPS;pH=7.00、伝導性116μS/cm
分離媒体4(投入口E5): 0.2%HPMC+70mMピリジン-2-プロパノール+30mM TAPS;pH=7.1、伝導性112μS/cm
分離媒体5(投入口E6): 0.2%HPMC+80mMピリジン-2-プロパノール+20mM TAPS;pH=7.24、伝導性104μS/cm
陰極安定化媒体(投入口E7): 0.2%HPMC+100mM NaOH+40mM イミダゾール+30mM TAPS+150mM AMPSO;pH=9.0、伝導性5100μS/cm。
各FFE画分のpHを、pH電極を用いて測定し、そして図8にグラフにより示す。着色されたpIマーカーを分離して、システムの分離パフォーマンスを評価した。λ=420nm、515nm及び595nmにおける各画分の吸光度を図8に報告し、これはそれぞれpIマーカーの吸光度を示した。
実施例8:アニオン性FF-ITP分離
品質コントロール溶液を用いて、分離媒体及び安定化媒体を、BD(商標)フリーフロー電気泳動システムで試験した。当該装置は、7つの投入口(E1-E7)及びサンプル投入口(S1-S4)を含む設定であった。陽極安定化媒体を投入口E1に導入した。陰極安定化媒体を投入口E7に導入し、そしてサンプルを投入口E6を介して導入した。電気泳動の合計時間は10分であった。適用される電圧は1000Vでありそして電流は35mAであった。ランを90ml/hにて周期インターバルFF-IEFモードで行い、そして分取されたサンプルを300ml/hで溶出した。
使用した分離プロトコルは以下の通りである:
陰極安定化媒体: 0.1%HPMC+250mMスクロース+150mM HEPES+100mM NaOH;
pH7.7、伝導性2210μS/cm;
リーダー: 0.1%HPMC+250mMスクロース+10ml HCl+20mMモルフォリノエタノール、pH=7.7、伝導性870μS/cm
陽極安定化媒体: 0.1%HPMC+250mMスクロース+100mM HCl+200mMモルフォリノエタノール
pH=7.0;伝導性6700μS/cm。
各FFE画分のpHを、pH電極を用いて測定し、そして図9にグラフにより示す。着色されたpIマーカーを分離して、システムの分離パフォーマンスを評価した。λ=420nm、515nm及び595nmにおける各画分の吸光度を図9に報告し、これはそれぞれpIマーカーの吸光度を示した。
実施例9:変性条件下で行われるインターバルZE分離
変性条件下でゼノパス・リービス(Xenopus laevis)の細胞質抽出物を分離するための分離媒体及び安定化媒体の能力を、BD(商標)フリーフロー電気泳動システムで試験した。当該装置は、7つの投入口(E1-E7)及びサンプル投入口(S1-S4)を含む設定であった。陽極安定化媒体を投入口E1に導入した。陰極安定化媒体を投入口E7に導入し、そしてサンプルを投入口S2を介して導入した。電気泳動の合計時間は10分であった。適用される電場強度は90V/cmであった。サンプル及び媒体をそれぞれ流速1.5ml/h及び250ml/hで導入した。ランを、周期100ml/hにて周期インターバルFF-IEFモードで行い、そして分取されたサンプルを300ml/hで溶出した。
分離プロトコルは以下の媒体を用いた:
陽極安定化媒体: 100mM H2SO4+250mMモルフォリノエタノール+50mM mES+2Mチオウレア+7M尿素+0.1%HPMC
pH=7.11、伝導性6800μS/cm;
分離媒体: 50mMモルフォリノエタノール+50mM TAPS+2Mチオウレア+7M尿素+0.1%HPMC
pH=8.1、伝導性278μS/cm;
陰極安定化媒体: 100mM NaOH+50mM TRIS+150mM TAPS+7M 尿素+0.1%HPMC
pH=9.3、伝導性3120μS/cm。
各FFE画分のpHを、pH電極を用いて測定し、そして図11Aにグラフにより示す。着色されたpIマーカーを分離して、システムの分離パフォーマンスを評価した。λ=420nm、515nm及び595nmにおける各画分の吸光度を図11Aに報告し、これはそれぞれpIマーカーの吸光度を示した。分離後サンプルを96ウェルプレートに回収し、そして分析した。結果を図11Bに報告し、分離媒体及び安定化媒体のpHに依存した本サンプルの分別分離を示した。全ての第二FFE分画を、SDS-PAGEを用いて分離した。

Claims (27)

  1. フリーフロー電気泳動により検体を分離する方法であって、当該フリーフロー電気泳動が、以下の:
    分離媒体であって、少なくとも1の緩衝酸と少なくとも1の緩衝塩基を含み、ここで当該緩衝酸のpKa値が、上記分離媒体のpH値よりも高く、そしてここで当該塩基のpKa値が、上記分離媒体のpH値よりも低い、分離媒体;
    少なくとも1の緩衝酸及び少なくとも1の強塩基を含む、陰極安定化媒体;
    少なくとも1の緩衝塩基と少なくとも1の強を含む、陽極安定化媒体;
    を含み、そして陽極側と陰極側との間の分離媒体におけるpHの差異が、電気泳動の間0〜3である、
    を含む緩衝組成物又はキットを用いて行われる、前記方法。
  2. 前記分離媒体が、さらに以下の:
    前記緩衝酸のpKa値が、前記分離媒体のpH値よりも0.2〜2高く;
    前記緩衝塩基のpKa値が、前記分離媒体のpH値よりも0.2〜2高く;
    電気泳動の間の前記分離媒体における最小pH値と最大pH値との差異が、0〜3であり;
    前記緩衝酸のpKa値と前記緩衝塩基のpKa値の差異(ΔpKa)が、0.5〜4.0であり;
    前記緩衝酸が、HIBA、酢酸、ピコリン酸、PES、MES、ACES、MOPS、HEPES、EPPS、TAPS、AMPSO、CAPSO、α-アラニン、GABA、EACA、4-ヒドロキシピリジン及び2-ヒドロキシピリジンからなる群から選ばれる生物学的に許容できる緩衝物質であり;
    前記緩衝塩基が、タウリン、グリシン、2-アミノ-酪酸、グリシルグリシン、β-アラニン、GABA、EACA、クレアチニン、ピリジン-エタノール、ピリジン-プロパノール、ヒスチジン、BISTRIS、モルフォリノエタノール、トリエタノールアミン、TRIS、アメジオール、ベンジルアミン、ジエチルアミノエタノール、トリアルキルアミンからなる群から選ばれる生物学的に許容される緩衝物質であり;そして
    前記分離媒体がさらに、他の酸及び/又は塩基、必須一価及び二価アニオン及びカチオン、増粘剤、界面活性剤、タンパク質可溶化剤、アフィニティーリガンド及び還元剤、親水性ポリマー誘導体、ポリアルコール、キラルセレクターからなる群から選ばれる1又は複数の添加剤;
    のうちの少なくとも1つによりさらに特徴付けられる、請求項1に記載の方法。
  3. 前記分離媒体が、唯一の緩衝酸と唯一の緩衝塩基とを含む2成分媒体である、請求項2に記載の方法。
  4. 前記分離媒体が、以下の:
    すべての緩衝酸と、すべての緩衝塩基との間の濃度比が、陽極に最も近い部位において9:1〜陰極に最も近い部位について1:9までの範囲であり、ここで前記分離媒体が、唯一の緩衝酸と唯一の緩衝塩基とを含む2成分の媒体であり、ここで分離媒体における緩衝酸と緩衝塩基の濃度がほぼ同じであり;
    前記分離媒体が、少なくとも2〜15の分離された分画であって、前記緩衝酸と緩衝塩基の様々な濃度を含んで、予め形成されたpH勾配をもたらし;
    前記分離媒体中における互いに独立した記緩衝酸と緩衝塩基との濃度が、5mM以上である
    前記分離媒体の電気伝導性が、30〜1000μS/cmである、
    のうちの少なくとも1によりさらに特徴付けられる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 電気泳動のための前記陰極安定化媒体が、さらに以下の:
    前記陰極安定化媒体中の少なくとも1の強塩基の濃度が、陰極安定化媒体に用いられる全ての酸の実質的な脱プロトン化を達成するために十分であり、ここで、陰極安定化媒体中の前記酸と前記塩基とのあいだにおける濃度比(酸/塩基)が、少なくとも1より多いが、50未満であり;及び
    陰極安定化媒体のpHが、分離媒体のpHよりも高い:
    のうちの少なくとも1によりさらに特徴付けられる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 前記緩衝酸が、酸又は両性の化合物から選ばれ、但し両性化合物の塩基官能基のpKaが、酸官能基のpKaよりも少なくとも3低く、ここで当該酸官能基が、3〜13のpKaを有する;及び/又は
    前記強塩基が、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、及び前記媒体中の緩衝酸のpKaよりも少なくとも3高いpKaを有する他の塩基から選ばれる、請求項5に記載の方法。
  7. 前記緩衝酸が、HIBA、酢酸、ピコリン酸、PES、MES、ACES、MOPS、HEPES、EPPS、TAPS、AMPSO、CAPSO、α-アラニン、GABA、EACA、4-ヒドロキシピリジン及び2-ヒドロキシピリジンからなる群から選ばれる、請求項6に記載の方法。
  8. 電気泳動用の前記陰極安定化媒体が、以下の:
    前記陰極安定化媒体が、少なくとも1の緩衝塩基を含み、ただし当該陰極安定化媒体中のすべての酸の濃度が、全ての塩基の濃度よりも高く;
    前記陰極安定化媒体中の各緩衝酸のpKaが、分離媒体中に用いられる各緩衝酸のpKaと等しいか、又は当該Kaよりも高く;
    前記陰極安定化媒体中の緩衝酸と前記分離媒体中の緩衝酸とのあいだのΔpKaが、1未満であり;
    前記陰極安定化媒体における少なくとも1の緩衝酸が、同様の電気泳動移動度を有し、そして前記分離媒体中で用いられる緩衝酸と同等のpKaを有し;そして
    前記陰極安定化媒体中における少なくとも1の緩衝酸が、前記分離媒体中に用いられる緩衝酸に同一である;
    のうちの少なくとも1によりさらに特徴付けられる、請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
  9. 前記陰極安定化媒体中の各緩衝酸のpKaが、分離されるサンプル中の最もアルカリ性の検体のpIよりも高い、請求項5〜8のいずれか一項に記載の方法。
  10. 前記陰極安定媒体が、1より多くの緩衝酸を含み;
    前記陰極安定媒体が、1より多くの緩衝塩基を含み;
    前記陰極安定媒体中の各緩衝酸のpKa値が、前記分離媒体の最大pH値よりも高く;
    前記陰極安定媒体のpHが、上記分離媒体の最大pHよりも高く;
    高いpKaを有する緩衝酸(弱酸)の濃度が、最も低いpKaを有する緩衝酸(最も強い緩衝酸)の濃度よりも高く;
    前記陰極安定化媒体中の緩衝酸の合計濃度が、前記分離媒体中の緩衝酸の合計濃度よりも1.1〜50倍高く、
    前記陰極安定媒体中の全ての緩衝酸の合計濃度が、20mMよりも高い
    のうちの少なくとも1によりさらに特徴付けられる、請求項9に記載の方法。
  11. 前記陰極安定媒体中の各緩衝酸のpKaが、(pI+0.3)<pKa<(pI+3)の範囲内であり、そしてここで前記各緩衝酸のpKa値が(pHmax+0.3)<pKa<(pHmax+3)の範囲内である、請求項10に記載の方法。
  12. 前記陰極安定媒体が、フリーフロー等速電気泳動(FF−ITP)によりアニオン性検体を分離する際に用いられ、そして前記陰極安定媒体が、ターミネーターを含み、そしてさらに少なくとも1の強塩基を含むか;又は
    ここで、当該陰極安定化媒体が、カチオン性フリーフロー等速電気泳動(FF−ITP)によりカチオン性検体を分離する際に用いられ、そして当該陰極安定化媒体が、少なくとも1の強塩基及び少なくとも1の緩衝酸を含み、ここで当該緩衝酸の濃度が、強塩基の濃度よりも高い、請求項1に記載の方法。
  13. 前記ターミネーターが、緩衝酸であり、そして前記陰極安定化媒体中の緩衝酸のpKaが、アニオン性ITPリーダー媒体において使用される緩衝塩基のpKaよりも高く、
    当該ターミネーターの濃度が、少なくとも1の強塩基の濃度よりも高く、及び/又は
    当該ターミネーターの濃度が、10mM〜500mMであるか、或いは
    少なくとも1の強塩基と緩衝酸の濃度が、カチオン性ITPリーダー媒体中の同じ化合物の濃度よりも高く;
    少なくとも1の強塩基の濃度及び上記緩衝酸の濃度が、カチオン性ITPリーダー媒体中の同化合物の濃度よりも高く;及び/又は
    少なくとも1の強塩基の濃度及び上記緩衝酸の濃度が、カチオン性ITPリーダー媒体中の同化合物の濃度よりも高く、そして緩衝酸及び/又は少なくとも1の強塩基の濃度が、カチオン性ITPリーダー媒体中の同化合物の濃度に対して1.5〜50倍増加される、請求項12に記載の方法。
  14. 電気泳動用の前記陽極安定化媒体が、以下の:
    前記陽極安定化媒体中の少なくとも1の強酸の濃度が、陽極安定化媒体中に用いられる全ての塩基の実質的にプロトン化を達成するために十分であり;
    上記陽極安定化媒体が、分離媒体のpHよりも低く;
    前記緩衝塩基が、生物学的に許容される塩基と両性の化合物から選ばれ、ただし当該両性化合物中の酸官能基のpKaが、当該塩基官能基のpKaよりも少なくとも4大きいことが条件であり、
    上記強酸が塩酸、硫酸、リン酸、及び他の酸であって、前記陽極安定化媒体中の緩衝塩基のpKaよりも少なくとも3低いpKaを有する他の酸から選ばれる、
    のうちの少なくとも1によりさらに特徴付けられる、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
  15. 前記緩衝塩基が、タウリン、グリシン、2-アミノ-酪酸、グリシルグリシン、β-アラニン、GABA、EACA、クレアチニン、ピリジン-エタノール、ピリジン-プロパノール、ヒスチジン、BISTRIS、モルフォリノエタノール、トリエタノールアミン、TRIS、アメジオール、ベンジルアミン、ジエチルアミノエタノール、トリアルキルアミンからなる群から選ばれる、請求項14に記載の方法。
  16. 前記電気泳動用の陽極安定化媒体が、さらに以下の:
    少なくとも1の緩衝酸をさらに含む陽極安定化媒体、但し前記陽極安定化媒体中全ての塩基の濃度が全ての酸の濃度よりも高く;
    前記陽極安定化媒体中の各緩衝塩基のpKaが、前記分離媒体中に用いられるpKaと同一であるか、又はそれより低く;
    前記陽極安定化媒体中の前記緩衝塩基と、前記分離媒体中の前記緩衝塩基とのあいだのΔpKaが、1未満であり;
    前記陽極安定化媒体中の少なくとも1の緩衝塩基が、前記分離媒体中に用いられる緩衝塩基に対して同等の電気泳動移動度を有し;そして
    前記陽極安定化媒体中の少なくとも1の緩衝塩基が、前記分離媒体中に用いられる緩衝塩基に同一である、
    のうちの少なくとも1によりさらに特徴付けられる、請求項14又は15に記載の方法。
  17. 前記陽極安定化媒体中の各緩衝塩基のpKaが、前記サンプル中の酸性検体のpIよりも低く;そして当該陽極安定化媒体が、以下の:
    当該陽極安定化媒体が、1又は複数の緩衝塩基を含み;
    前記陽極安定化媒体中の各緩衝塩基のpKaが、(pI−3)<pKa<(pI−0.3)の範囲内であり;
    前記陽極安定化媒体のpHが、分離媒体の最小pH未満であり;そして
    前記陽極安定化媒体中の各緩衝塩基のpKa値が、分離媒体の最小pH値よりも高い
    うちの少なくとも1によりさらに定義される、請求項14〜16のいずれか一項に記載の方法。
  18. 前記陽極安定化媒体が、以下の:
    低いpKa(弱塩基)を有する陽極安定化媒体中の緩衝塩基の濃度が、最も低いpKaを有する緩衝塩基(最も強い緩衝塩基)の濃度よりも高く増加させられており、
    陽極安定化媒体中の全ての緩衝塩基の合計濃度が、20mM超である、請求項14〜17のいずれか一項に記載の方法。
  19. 前記陽極安定化媒体が、フリーフロー等速電気泳動(FF−ITP)によりカチオン性検体を分離する際に用いられ、そして当該陽極安定化媒体が、ターミネーターを含み、そしてさらに少なくとも1の強酸を含み、ここで当該陽極安定化媒体が、アニオン性フリーフロー等速電気泳動(FF−ITP)により、アニオン性検体を分離し、ここで当該陽極安定化媒体が、少なくとも1の強酸と少なくとも1の緩衝塩基を含み、ここで当該緩衝塩基の濃度が、強酸の濃度よりも高い、請求項1に記載の方法。
  20. 前記ターミネーターが、緩衝塩基であり、そして前記陽極安定化媒体中の緩衝塩基のpKaが、カチオン性ITPリーダー媒体において使用される緩衝塩基のpKaよりも低く、
    当該ターミネーターの濃度が、少なくとも1の強酸の濃度よりも高く、及び/又は
    当該ターミネーターの濃度が、10mM〜500mMであるか、或いは
    少なくとも1の強酸と緩衝塩基の濃度が、アニオン性ITPリーダー媒体中の同じ化合物の濃度よりも高く;
    少なくとも1の強酸の濃度及び上記緩衝塩基の濃度が、アニオン性ITPリーダー媒体中の同化合物の濃度よりも高く;及び/又は
    少なくとも1の強酸の濃度及び上記緩衝塩基の濃度が、アニオン性ITPリーダー媒体中の同化合物の濃度に対して1.5〜50倍高い、請求項19に記載の方法。
  21. 前記陽極及び/又は陰極安定化媒体が、さらに、他の酸及び/又は塩基、アニオン及びカチオン、増粘剤、界面活性剤、タンパク質可溶化剤、アフィニティーリガンド及び還元剤、親水性ポリマー誘導体、ポリアルコール、炭水化物、キラルセレクター、レクチン、メルカプトエタノール、ジチオスレイトール(DTT)、イオン、EDTA、EGTA、及びアジドからなる群から選ばれる少なくとも1の添加剤、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
  22. 前記添加剤が、チオウレア、尿素、HPMC、PEGs、グリセロール、スクロース、デキストリン、シクロデキストリン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、塩素イオン、及び硫酸イオンからなる群から選ばれる、請求項21に記載の方法。
  23. 前記陰極安定化媒体及び陽極安定化媒体の伝導性が、500μS/cmよりも高く;及び/又は
    前記陰極安定化媒体及び陽極安定化媒体の伝導性が、分離媒体の伝導性よりも少なくとも3の因子の分、分離媒体の伝導性より高い、請求項1〜20のいずれかに記載の方法。
  24. フリーフロー電気泳動によりサンプル中のリポソーム集合を分離するための、請求項1〜23のいずれか一項に記載の方法であって、分離媒体が、1000μS/cm未満の伝導性を有する、請求項1〜23のいずれか一項に記載の方法。
  25. リポソームの少なくとも1の分画が、20×10-92/Vs未満の有効な電気泳動移動度を有し;
    前記分離媒体中の緩衝酸の濃度と緩衝塩基の濃度が、9:1〜1:9であり;及び/又は
    分離媒体中のpHが、6〜8である、請求項24に記載の方法。
  26. 請求項1〜25のいずれか一項に記載の電気泳動分離方法を実施するためのキットであって、
    少なくとも1の緩衝酸と少なくとも1の緩衝塩基を含む分離媒体、ここで当該緩衝酸のpKa値が、分離媒体のpH値よりも高く、そして緩衝塩基のpKa値が、分離媒体のpH値よりも低く、
    少なくとも1の緩衝酸と少なくとも1の強塩基を含む陰極安定化媒体;
    少なくとも1の緩衝塩基と、少なくとも1の強酸とを含む陽極安定化媒体、
    を含む、前記キット。
  27. 前記分離媒体における、陽極側と陰極側とのあいだのpH差異が、電気泳動のあいだ0〜3である、請求項26に記載のキット。
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