一組の配向膜の配向処理方向とプレチルト角の組み合わせで定まる液晶材料のねじれ方向と、光学活性物質(カイラル材)によって誘起される液晶材料のねじれ方向とが逆方向となるように作製された液晶層を有し、液晶層への電圧の印加(電場処理)により、リバースツイスト(ユニフォームツイスト)構造とスプレイツイスト構造とが可換的に実現可能な、特許文献3記載の液晶表示素子を、以下リバースTN型液晶表示素子と呼ぶ。
リバースTN型液晶表示素子は、駆動電圧の閾値を低くすることができるため、低消費電力駆動が実現されるという特徴を有する。本願発明者は、駆動電圧の閾値低減を目的に、様々な条件で作製したリバースTN型液晶表示素子について研究を行い、その成果を特許文献3に開示した。本願発明者らの研究の結果、プレチルト角が高いほどリバースツイスト構造状態が安定すること、及びカイラル材のカイラルピッチが短いほど駆動電圧の閾値が低くなるが、リバースツイスト構造状態は不安定となることが見出された。
特許文献3には、リバースツイスト構造状態が安定的な、高プレチルト角条件を中心に行った研究の成果が記載されている。低プレチルト角条件に関しても実験を実施したが、リバースツイスト構造状態は元々不安定な配列状態であるため、リバースツイスト構造状態を一層不安定にする短ピッチ条件(カイラルピッチが20μm未満)については検討を行っていなかった。
本願発明は、低プレチルト角かつ短ピッチ条件という、通常は研究の対象外とされるような、非常に不安定な状態におけるリバースツイスト構造状態に係る研究の成果である。この特異な条件下で本願発明者らは、液晶表示素子のシャープネスが極めて急峻となる、予期せぬ現象を発見した。このような現象が何故発生するのか、現時点では明らかにできていない。なおシミュレーションによっても、そのような現象の発生は予測不可能であった。
以下、実施例にもとづいて本願発明を説明する。
図1は、第1の実施例による液晶表示素子の製造方法を示すフローチャートである。
透明導電膜、たとえばITO(indium tin oxide)膜が形成された透明基板を2枚準備する。透明基板は、たとえば厚さ0.7mmtのソーダライムガラスで形成される。ITO膜の厚さは、たとえば1500Åである。これらの透明基板を洗浄、乾燥し(ステップS101)、ITO膜のパターニングをフォトリソ工程を用いて行い、透明基板(ガラス基板)上に透明電極(ITO電極)を形成する(ステップS102)。ITO電極パターンのエッチングは、たとえば第二塩化鉄を主成分とするエッチング液を用いたウェットエッチングで行う。
ガラス基板上に、ITO電極を覆うように配向膜材料を塗布する(ステップS103)。配向膜材料の塗布は、たとえばフレキソ印刷を用いて行う。インクジェット印刷を用いてもよい。配向膜材料として、たとえば(株)日産化学製のSE−130を使用する。SE−130は、低プレチルト角を発現させるTN型液晶表示素子用の水平配向膜材料である。配向膜材料はこれに限られない。
配向膜材料を塗布したガラス基板をホットプレートに乗せ、100℃で3分間の仮焼成(プリベーク)を実施する(ステップS104)。その後、クリーンオーブンにて200℃、1時間の本焼成を行う(ステップS105)。こうしてITO電極を覆う配向膜を形成する(ステップS103〜S105)。
次に、ラビング処理(配向処理)を行う(ステップS106)。ラビング処理は、布を巻いた円筒状のロールを高速に回転させ配向膜上を擦る工程であり、これにより基板に接する液晶分子を一方向に並べる(配向する)ことができる。
液晶セルの厚さ(基板間距離)を一定に保つため、一方のガラス基板面上にギャップコントロール材を乾式散布法にて散布する(ステップS107)。ギャップコントロール材には粒径5μmのシリカ系材料((株)宇部日東化成製 ハイプレシカUF)を使用した。プラスチックボールを用いることもできる。
他方のガラス基板面上にはシール材を印刷し、メインシールパターンを形成する(ステップS108)。たとえば熱硬化性のシール材である(株)三井化学製のES−7500を、スクリーン印刷法で印刷する。ES−7500は、粒径5μmのグラスファイバーを数%含んでいる。なおディスペンサを用いて、シール材を塗布することもできる。また、熱硬化性ではなく、光硬化性のシール材や、光・熱併用硬化型のシール材を使ってもよい。
メインシールパターンを形成した基板面上に、金メッキを施したプラスチックボール(Auボール)などを含む導通材を所定の位置に印刷し、導通材パターンを形成する。たとえばES−7500に粒径6μm程度のAuボールを数%含ませたものを、導通材としてスクリーン印刷する。導通材パターンの印刷は、メインシールパターンを印刷した基板とは異なる基板に行ってもよい。
ガラス基板を貼り合わせる(ステップS109)。2枚のガラス基板を所定の位置で重ね合わせてセル化し、プレスした状態で熱処理を施しシール材を硬化させる。ここでは2枚のガラス基板を重ね合わせたときの液晶分子の配列が、上側基板法線方向から見て、右方向に90°捩れるように組み合わせた。たとえばホットプレス法を用い、150℃で焼成してシール材の熱硬化を行う。その後、スクライバ装置でガラス基板に傷をつけ、つけた傷の一部に沿ってブレイキングし、短冊状に分割する。
分割された短冊状の空セルを単位とし、たとえば真空注入法で空セルにネマチック液晶を注入する(ステップS110)。液晶材料には、たとえば(株)DIC製のRDP−84910を使用する。液晶中にはカイラル材を添加した。添加量はカイラルピッチが上側基板から下側基板に向かう方向に沿って、左捩れ方向に15μmとなるように調整した。
液晶注入口を、たとえば紫外線(UV)硬化タイプのエンドシール材で封止し(ステップS111)、液晶分子の配向を整えるため、液晶の相転移温度以上にセルを加熱する(ステップS112)。たとえばオーブンにより、120℃で30分間の熱処理を行う。その後、スクライバ装置でガラス基板につけた傷の残部に沿ってブレイキングし、個別のセルに小割する。
小割されたセルに対し、面取り(ステップS113)と洗浄(ステップS114)を実施する。洗浄工程においては、洗剤、有機溶剤などによりセルを洗浄し、セルに付着した液晶や面取り時の粉を洗い落とす。
最後に、2枚のガラス基板の液晶層と反対側の面に、所定の大きさにカットした偏光板を貼付する(ステップS115)。2枚の偏光板はクロスニコルに配置し、ノーマリホワイトのTN型液晶表示素子を実現した。両基板のITO電極間には電源を接続した。
図2は、第1の実施例による液晶表示素子の概略的な断面図である。
第1の実施例による液晶表示素子は、相互に平行に対向配置された上側基板10a、下側基板10b、及び両基板10a、10b間に挟持されたツイストネマチック液晶層14を含んで構成される。
上側基板10aは、上側ガラス基板11a、上側ガラス基板11a上に形成された上側ITO電極12a、及び上側ITO電極12a上に形成された上側配向膜13aを含む。同様に、下側基板10bは、下側ガラス基板11b、下側ガラス基板11b上に形成された下側ITO電極12b、及び下側ITO電極12b上に形成された下側配向膜13bを含む。
液晶層14は、上側基板10aの上側配向膜13aと、下側基板10bの下側配向膜13bとの間に配置される。液晶層14の厚さは、たとえば5μmである。
上側及び下側配向膜13a、13bには、ラビングにより配向処理が施されている。上側配向膜13aと下側配向膜13bの配向処理方向は相互に直交している。上側配向膜13aのラビング方向を第1の方向、下側配向膜13bのラビング方向を第2の方向とすると、第2の方向は上側基板10aの法線方向から見て、第1の方向を基準に90°をなす方向である。上側基板上のラビング処理の向きで決まるところの、プレチルト角の形成される向き(液晶分子が基板に対して立ち上がる向き)と、下側基板のプレチルト角の向きの組み合わせは、液晶材料がスプレイ構造を含まないユニフォームツイスト構造を形成した場合、より具体的には、たとえばカイラル材を含まない液晶材料を当該配向膜間に配置した場合、右方向に90°捩れるユニフォームツイスト構造となる組み合わせとした。なお、上側及び下側配向膜13a、13bに付与されたプレチルト角は1°であった。
液晶層14にはカイラル材が添加されている。添加量は、カイラルピッチが15μmとなるように調整されている。カイラル材の影響力のもとで生じる液晶分子14aの配列は、上側基板10aの法線方向から見て、上側基板10aから下側基板10bに向かう方向に沿って、左捩れ方向に捩れるスプレイツイスト構造となる。
液晶セル完成状態での液晶分子14aの捩れ方向は、カイラル材による捩れ方向と同方向の左捩れ(スプレイツイスト構造)であった。
上側ITO電極12a、下側ITO電極12b間に電源20が接続されている。電源20によって、両電極12a、12b間に、閾値電圧以上の交流電圧を印加することで、液晶分子14aの配列を、スプレイツイスト構造からユニフォームツイスト(リバースツイスト)構造に変化(転移)させることができる。また、電源20を用いて液晶表示素子を駆動することができる。
上側基板10a、下側基板10bの液晶層14と反対側の面には、それぞれ上側偏光板15a、下側偏光板15bが配置される。両偏光板15a、15bは、クロスニコルに、かつ、光透過軸が、上側及び下側基板10a、10bのラビング方向に対し平行になるように配置される。このため実施例による液晶表示素子は、ノーマリホワイトタイプの液晶表示素子となる。
図3は、第1の実施例による液晶表示素子のスプレイツイスト構造状態とリバースツイスト構造状態とを示す写真である。写真は、第1の実施例による液晶表示素子の上側基板10aの法線方向から撮影した。
前述のように、第1の実施例による液晶表示素子は、上側ITO電極12a、下側ITO電極12b間に、閾値電圧以上の交流電圧を印加することで、液晶分子14aの配列状態を、スプレイツイスト構造からリバースツイスト構造に転移させることができる。転移は、印加電圧の周波数が高いほど速やかに生じる。
転移を生じさせる閾値電圧値は、液晶材料の種類やカイラル材の添加量等に依存するが、第1の実施例による液晶表示素子においては、7V以上の電圧を3秒程度印加することにより、電極12a、12b上の一部の液晶分子14aの配列状態がリバースツイスト構造に転移した。また、10V、200Hzの電圧を3分間印加したところ、電極12a、12b上のすべての液晶分子14aの構造が完全にリバースツイスト構造に転移した。なお、後述の実験は、構造を完全にリバースツイスト構造に転移させた後に行ったものである。
図3に示すように、スプレイツイスト配列状態とリバースツイスト配列状態との間に目視上大きな差異はない。また、いずれの配列状態においても同様の良好な白表示が行われた。両配列状態は、液晶分子の捩れ方向が異なってはいるものの、ともにツイストネマチック配向であり、基板法線方向からセルを観察する場合はほとんど区別がつかない。両配列状態は、たとえば液晶セルを斜め方向から観察し、転移を生じさせる閾値電圧より少し高い電圧を印加した場合に、容易に区別することができる。液晶セルの厚さ方向の中央付近の液晶分子が立ち上がる方向(最良視認方向)が相互に90°異なるためである。
第1の実施例による液晶表示素子の両電極12a、12b間に、飽和電圧程度の電圧を印加したところ、スプレイツイスト配列状態とリバースツイスト配列状態の双方において、液晶分子14aが基板10a、10bと垂直な方向に立ち上がり、良好な黒表示が得られた。また、2つの構造の各々において、白表示と黒表示を視角を変えて観察したところ、双方ともほとんど表示反転することなく、比較的広い視角特性を有していることが確認された。なお、スプレイツイスト構造と比較すると、リバースツイスト構造の視角はやや狭かったが、大きな差は認められなかった。
以上より、第1の実施例による液晶表示素子は、スプレイツイスト構造とリバースツイスト構造のいずれの状態においても、特別な光学補償をすることなく、良好な白黒表示が得られることがわかった。なお、この点は第1の実施例に限らず、他の実施例についても同様であった。
リバースツイスト配列状態に転移した第1の実施例による液晶表示素子を、電圧無印加状態で放置したところ、徐々にリバースツイスト配列からスプレイツイスト配列へ戻っていく様子が観察された。このことから第1の実施例による液晶表示素子は、電圧無印加状態において、リバースツイスト配列状態よりスプレイツイスト配列状態が安定であることがわかる。なお、第1の実施例による液晶表示素子においては、電圧無印加状態が2分程度続くと、リバースツイスト配列からスプレイツイスト配列への再転移が生じた。しかしある程度電圧を印加した状態で保持した場合、長時間リバースツイスト配列状態を維持することができる。
本願発明者らは、第1の実施例による液晶表示素子の電気光学特性を測定した。図4(A)、(B)にその結果を示す。図4(A)は、スプレイツイスト配列状態における印加電圧と光透過率との関係を表し、図4(B)は、リバースツイスト配列状態におけるそれを表す。両図とも、グラフの横軸は、電極12a、12b間に印加した電圧を単位「V」で示し、縦軸は、液晶表示素子の光透過率を単位「%」で示す。光透過とは、偏光板15a、15bの一方の側から入射させた光が、他方の側へ通過することをいう。
スプレイツイスト配列状態とリバースツイスト配列状態とでは、シャープネス(印加電圧に対する光透過率の変化の急峻性)が明らかに異なり、図4(B)に示すように、リバースツイスト配列状態においては、印加電圧に対する光透過率の変化の急峻性が大きい(シャープネスが優れている)ことがわかる。
スプレイツイスト配列状態とリバースツイスト配列状態の各々について、シャープネス値として、V10/V90及びV5/V90を計算した。ここで、V5、V10、V90はそれぞれ、最も明るい光透過率を100%としたとき、5%の光透過率、10%の光透過率、90%の光透過率が得られる電圧値である。計算の結果、スプレイツイスト配列状態においては、V10/V90=1.746、V5/V90=1.987、リバースツイスト配列状態においては、V10/V90=1.037、V5/V90=1.041というシャープネス値が求められた。
液晶表示素子を1/480duty駆動するのに必要なシャープネス値は、1.0465以下である。第1の実施例による液晶表示素子は、リバースツイスト配列状態において、V10/V90、V5/V90ともに、この必要値を実現している。すなわち、第1の実施例による液晶表示素子は、リバースツイスト配列状態を使用して、1/480duty駆動という高duty駆動が可能である。
一方、液晶表示素子を1/8duty駆動するのに必要なシャープネス値は、1.447以下である。第1の実施例による液晶表示素子は、スプレイツイスト配列状態において、V10/V90、V5/V90ともにこの必要値を実現できない。すなわち、スプレイツイスト配列状態を用いては、1/8duty駆動の場合でも明るい表示を行うことができないことがわかる。
なお、duty駆動(単純マトリクス駆動)において走査線の数をN、ON電圧をVon、OFF電圧をVoffとしたとき、それらの関係は次式(1)で表される。
・・(1)
第2の実施例による液晶表示素子について説明する。第2の実施例は、使用する液晶材料が第1の実施例とは異なる。第2の実施例においては、ネマチック液晶材料である(株)DIC製のRDP−83107を用いて液晶層を構成した。液晶中に添加するカイラル材の種類及び添加量は第1の実施例の場合と等しい。すなわちカイラルピッチは、上側基板から下側基板に向かう方向に沿って、左捩れ方向に15μmである。
図5は、第2の実施例による液晶表示素子のリバースツイスト配列状態における電気光学特性を示すグラフである。グラフの横軸は、電極間に印加した電圧を単位「V」で示し、縦軸は、液晶表示素子の光透過率を単位「%」で示す。第2の実施例による液晶表示素子を2個作製し、双方について印加電圧と光透過率との関係を調べた。
第2の実施例による液晶表示素子も、図4(B)に示した第1の実施例の場合と同様に、シャープネスに優れていることがわかる。また、印加電圧−光透過率特性の個体差が小さく、セル条件に対するマージンは比較的広いことがわかる。
第3の実施例による液晶表示素子について説明する。第3の実施例は、使用する液晶材料が第1及び第2の実施例とは異なる。第3の実施例においては、ネマチック液晶材料である(株)DIC製のRDP−83108を用いて液晶層を構成する。液晶中に添加するカイラル材の種類及び添加量は第1及び第2の実施例の場合と等しい。カイラルピッチは、上側基板から下側基板に向かう方向に沿って、左捩れ方向に15μmである。
図6は、第3の実施例による液晶表示素子のリバースツイスト配列状態における電気光学特性を示すグラフである。グラフの横軸は、電極間に印加した電圧を単位「V」で示し、縦軸は、液晶表示素子の光透過率を単位「%」で示す。本願発明者らは、第3の実施例による液晶表示素子を4個作製し、それぞれの素子について印加電圧と光透過率との関係を調べた。
第3の実施例による液晶表示素子も、図4(B)に示した第1の実施例、図5に示した第2の実施例の場合と同様に、シャープネスに優れていることがわかる。また、第3の実施例においても、印加電圧−光透過率特性の個体差が小さく、セル条件に対するマージンは比較的広いことがわかる。
第1〜第3の実施例による液晶表示素子においては、液晶層14の厚さ(セル厚)dを5μm、カイラルピッチpを15μmとした。d/pの値は1/3である。セル厚dは5μmに限られない。d/pの値は、液晶に添加するカイラル材の量で調整を行うことが望ましい。
また、TN型液晶表示素子の場合、明るい表示を得るためには、TN型液晶セルのノーマリブラック時の光透過率TNBを示すグッチ・テリーの式において、ファーストミニマムまたはセカンドミニマムの条件を満たすことが必要である。グッチ・テリーの式は、次式(2)で表される。
・・(2)
ここでuは、下式(3)で計算される値である。
・・(3)
式(3)において、Δnは液晶の屈折率異方性、λは液晶セルに入射する光の波長、そしてdは上述のようにセル厚を示す。
グッチ・テリーの式のファーストミニマムまたはセカンドミニマムの条件を満たすために、セル厚dに応じて、液晶材料(液晶の屈折率異方性Δn)を選択することが望ましい。たとえばセル厚dを小さくするときは、屈折率異方性Δnの値を大きくし、逆にセル厚dを大きくするときは、屈折率異方性Δnの値を小さくするように、液晶材料を選択する。
なお、セル厚dが小さいほど、液晶分子の配列状態は、配向処理方向とプレチルト角の組み合わせに強く規定されると考えられるため、セル厚dの小さい液晶表示素子の方が、リバースツイスト配列状態を、安定的に保持することができると推察される。
d/pの値は、実施例におけるように、1/3またはその近傍の値とすることが望ましいであろう。しかしその値が多少変化しても、同様の効果が奏されると考えられる。d/pの値が大きくなるにつれて、カイラル材の影響が強く現れ、スプレイツイスト配列状態が安定的に存在しやすくなる。その結果、スプレイツイスト配列状態からリバースツイスト配列状態に転移させるのに必要な閾値電圧が高くなるとともに、リバースツイスト配列状態に安定保持される時間が短くなる傾向が生じる。このため、d/pの値は概ね1/2以下であることが望ましいであろう。一方、d/pの値が小さくなるにつれて、カイラル材によって与えられる液晶層内の歪みも小さくなり、シャープネスが悪くなる傾向が生じると考えられる。カイラル材の添加量が多いこと、すなわちカイラルピッチpが小さいことが好ましい。d/pの値は概ね1/4より大きいことが望ましいであろう。
第1〜第3の実施例による液晶表示素子においては、低プレチルト角を発現させる配向膜材料を用いて、配向膜を形成した。本願発明者らは、比較のため、第1の実施例とは使用する配向膜材料、及び配向膜に付与するプレチルト角のみを違えて液晶表示素子を作製した。配向膜材料には比較的高いプレチルト角を示す材料を用い、形成した配向膜には21°のプレチルト角を与えた。
図7は、プレチルト角を21°とした液晶表示素子のリバースツイスト配列状態における電気光学特性を示すグラフである。グラフの横軸は、電極間に印加した電圧を単位「V」で示し、縦軸は、液晶表示素子の光透過率を単位「%」で示す。21°のプレチルト角を付与した液晶表示素子を4個作製し、それぞれについて印加電圧と光透過率との関係を調べた。
プレチルト角21°の4個の液晶表示素子は、個体差はあるが、すべて駆動電圧の閾値は低い。しかし図4(B)に示されるような優れたシャープネスは見られない。図7に示す結果から、優れたシャープネスを実現するためには、プレチルト角が低く発現する配向膜材料を用いて配向膜を形成し、形成した配向膜に低プレチルト角を付与する配向処理を施すことが望ましいと考えられる。
本願発明者は、リバースTN型液晶表示素子のシャープネスとプレチルト角との関係について研究を行った。まず、プレチルト角の制御性について説明する。本願発明者らは、高いプレチルト角を示すポリイミド材料((株)チッソ石油化学製 PIA−768−01X)に、低いプレチルト角を示すポリイミド材料((株)チッソ石油化学製 PIA−359−01X)を加えた、2種類の混合ポリイミド材料で形成した配向膜が連続的にプレチルト角を発現することができる点を確認した。
図8は、2種類のポリイミド材料の混合比と発現したプレチルト角との関係を表すグラフである。グラフの横軸は、混合ポリイミド材料におけるPIA−768−01Xの含有比(濃度)を単位「%」で示し、縦軸は発現したプレチルト角の大きさを単位「°」で示す。プレチルト角の測定に際しては、(株)メルク製の液晶材料ZLI4792を使用した。本図より、ポリイミド材料PIA−768−01Xの含有比率に比例してプレチルト角が増加していることがわかる。したがって、ポリイミド材料PIA−768−01XとPIA−359−01Xとの混合比を調整することで、発現するプレチルト角の連続的な制御が可能である。
以下、第4の実施例、及び第1〜第3の比較例による液晶表示素子について説明する。第4の実施例は、ポリイミド配向膜材料PIA−768−01XとPIA−359−01Xとの混合比を20:80とした混合ポリイミド材料で配向膜を形成した液晶表示素子、第1〜第3の比較例は順に、混合比を45:55、40:60、30:70として形成した配向膜を有する液晶表示素子である。
第4の実施例による液晶表示素子は、図1を参照して説明した製造方法と同様の方法で製造した。相違点及び付加的な詳細は次の通りである。
一対の一辺2cmの正方形状ガラス基板(厚さ1.1mm)上に、一辺1cmの正方形状ITO電極及びその導通を外部に取り出すための周辺電極を形成した。配向膜の形成に当たっては、(株)チッソ石油化学製 PIA−768−01Xを20%、PIA−359−01Xを80%の割合で混合した配向膜用ポリイミド材料を、厚さ約0.1μmでガラス基板上に塗布した。ラビング処理には、木綿製のベルベット布を使用した。ラビング方向は、一対のガラス基板を貼り合わせたときに、相互に直交する方向とした。具体的には、上側配向膜のラビング方向を第1の方向、下側配向膜のラビング方向を第2の方向としたとき、第2の方向は上側基板の法線方向から見て、第1の方向を基準に90°をなす方向とした。上側基板のラビング処理の向きで決まるところの、プレチルト角の形成される向き(液晶分子が基板に対して立ち上がる向き)と、下側基板のプレチルト角の向きの組み合わせは、液晶材料がスプレイ構造を含まない、より具体的に言えば、たとえばカイラル材を含まない液晶材料を当該配向膜間に配置した場合、右方向に90°捩れるユニフォーム構造となる組み合わせとした。
一方のガラス基板の配向膜上に、直径5μmのシリカ製ギャップコントロール材である(株)宇部日東化成製 ハイプレシカUFを散布した後、エポキシ系シール材をガラス基板の周辺部に塗布し、150℃の温度で1時間加熱して硬化させた。シール部分には、液晶材料を注入するための注入口と排気口を作製した。
このようにして準備した空セルをホットプレート上に載置し、毛細管現象を利用して、液晶組成物を注入口からシール材に囲われた空間に注入した。液晶材料には、(株)DIC製のRDP−83409を用いた。液晶中にはカイラル材を添加した。添加量は、カイラルピッチが上側基板から下側基板に向かう方向に沿って、右捩れ方向に15μmとなるように調整した。液晶組成物の注入終了後、注入口と排気口とにエポキシ系接着剤を配置し、一日放置することで硬化させて封止した。液晶の配向状態を偏光顕微鏡で観察したところ、全面均一な配向状態が確認された。なお、配向膜に付与されたプレチルト角は、(株)東陽テクニカ製の液晶素子プレチルト角測定装置PAS−001で測定した結果、約5°であった。
この状態の印加電圧−光透過率特性を確認したところ、通常のTN型液晶表示素子に比べて高い駆動電圧の閾値が観察され、スプレイツイスト構造の液晶素子が形成されていることが判明した。また、この液晶素子の電極間に10Vの矩形波電圧を印加し、液晶分子が基板に対して略垂直に配列する状態を保持させたところ、液晶素子の色調に変化が認められた。色調の変化は部分的に生じ、色調が変化した部分は徐々に拡大して、数分間で全面に広がった。色調に変化のあった領域において、スプレイツイスト配列状態からリバースツイスト配列状態への転移が生じたと考えられる。リバースツイスト配列状態は電圧の印加を停止してからも数十秒間存在したが、その後、スプレイツイスト配列状態に再転移した。
図9は、第4の実施例による液晶表示素子のリバースツイスト配列状態における印加電圧と光透過率との関係を表すグラフである。グラフの横軸は、電極間に印加した電圧を単位「V」で示し、縦軸は、液晶表示素子の光透過率を単位「%」で示す。本願発明者らは、第4の実施例による液晶表示素子を4個作製し、それぞれの素子について印加電圧と光透過率との関係を調べた。測定には(株)大塚電子製の液晶素子電気光学特性測定装置であるLCD5200を使用した。
作製した4個のうちの1個で、図4(B)、図5、及び図6に示した、第1〜第3の実施例と同様の優れたシャープネスが認められるが、残りの3個では認められない。このことからリバースTN型液晶表示素子においては、プレチルト角によってシャープネスの優良性が連続的に変化するのではなく、5°というプレチルト角を境に、上下基板に与えられるプレチルト角がともに0°より大きく5°以下という条件で、シャープネスの優良性が出現すると考えられる。
図10(A)〜(C)に、それぞれ第1〜第3の比較例による液晶表示素子のリバースツイスト配列状態における印加電圧と光透過率との関係を示す。前述のように、第1〜第3の比較例は、ポリイミド配向膜材料PIA−768−01XとPIA−359−01Xとの混合比を、45:55、40:60、30:70とした混合ポリイミド材料で配向膜を形成した液晶表示素子である。第1〜第3の比較例による液晶表示素子は、配向膜材料の混合比を異ならせた点を除いては、第4の実施例と等しい方法で製造した。また、各々の比較例につき、複数個の液晶セルを作製した。図10(A)〜(C)のグラフの横軸は、電極間に印加した電圧を単位「V」で表し、縦軸は、液晶表示素子の光透過率を単位「%」で表す。
図10(A)に電気光学特性を示す第1の比較例(混合比45:55)のプレチルト角は、図8のグラフから判断すると、15°強であると考えられる。また、図10(B)、(C)に電気光学特性を示す第2の比較例(混合比40:60)、第3の比較例(混合比30:70)のプレチルト角は、それぞれ15°弱、7〜8°であると考えられる。
図10(A)〜(C)に示す結果から、第1〜第3の比較例においては、リバースツイスト配列状態におけるシャープネスの優良性が見られないことがわかる。また、プレチルト角によってシャープネスの優良性が連続的に変化するのではないことも改めて確認される。
上述のように、優れたシャープネス特性は、プレチルト角が0°より大きく5°以下という条件で出現する。また既に述べたように、液晶層の厚さdとカイラル材のカイラルピッチpの比d/pは1/4より大きく、1/2以下であることが望ましい。
本願発明者らは、液晶層の厚さd=5μm、カイラルピッチp=20μm、d/p=1/4、プレチルト角θ=1°のリバースTN型液晶表示素子、及び、液晶層の厚さd=5μm、カイラルピッチp=20μm、d/p=1/4、プレチルト角θ=5°のリバースTN型液晶表示素子を作製し、リバースツイスト配列状態における電気光学特性を調べた。その結果、実施例に見られたような優れたシャープネスは認められなかった。これより、プレチルト角θが1°以上5°以下のときは、d/pが1/4より大きいことが、優れたシャープネス特性を得るために必要な条件であると考えられる。
実施例によるリバースTN型液晶表示素子は、光学補償板なしで白黒表示を得ることができる、安価で製造が容易である、視角が比較的広い、応答が高速である、といったTN型液晶表示素子の利点を保持したまま、優れたシャープネスを実現可能な液晶表示素子である。シャープネスが優良であるため、たとえば単純マトリクス駆動を行った場合、大きな表示容量で表示を行うことができる。
また、低プレチルト角の液晶表示素子であることから、工業的に広く用いられている高信頼性のTN型液晶表示素子用配向膜材料を使用して製造することができ、このため高い信頼性を備える液晶表示素子である。
更に、実施例による液晶表示素子は、1/480duty駆動が可能である。単純マトリクス駆動において、1/480duty駆動は最も高いduty数による駆動である。このため適用範囲が広く、たとえばほとんどすべての単純マトリクス駆動の液晶表示素子に利用することができる。
また、優れたシャープネス特性からコモン電極(上側ITO電極12a、下側ITO電極12bのいずれか一方)の電極数を多く、たとえば100本以上とし、高い表示性能で表示を行うことができる。
図11は、第1〜第4の実施例による液晶表示素子の境界電圧、及び各液晶表示素子に用いられた液晶材料の物性値をまとめた表である。表中のVcは液晶表示素子の境界電圧の測定値を単位「V」で示す。境界電圧とは、リバースツイスト配列状態にある液晶表示素子の印加電圧を徐々に下げたとき、スプレイツイスト配列状態に戻る電圧をいう。Δεは液晶材料の誘電率異方性を示す。また、K11、K22、K33はそれぞれ液晶材料の広がりの弾性定数、ねじれの弾性定数、曲がりの弾性定数を単位「pN」で表す。更に、γ1は液晶材料の回転粘度を単位「mPa・s」で示す。
境界電圧Vcが小さい液晶表示素子ほどリバースツイスト配列状態で安定的であるといえるであろう。このため、リバースTN型液晶表示素子の作製においては、境界電圧Vcを小さくする液晶材料やセル構造を選択することが望ましい。
また、本願発明者らの研究の結果、実施例によるリバースTN型液晶表示素子においては、K11の値が大きくK22の値が小さいほどリバースツイスト配列状態の安定性が高いことがわかった。リバースツイスト配列状態の安定性の観点からは、広がりの弾性定数K11とねじれの弾性定数K22の比「K11/K22」が2以上の液晶材料を用いて液晶層を形成することが好ましいであろう。
図11に示す表中の物性値を用いて実施例による液晶表示素子の特徴を説明する。下式(4)は、プレチルト角が0°の一般的なリバースTN型液晶表示素子の、リバースツイスト配列状態における駆動電圧の閾値電圧Vthを算出する式である。
・・(4)
式(4)において、ε0は真空の誘電率(8.85418782×10−12F/m)を示す。またKは、ツイスト角が90°のリバースTN型液晶表示素子の場合、以下の式(5)で計算される値である。
・・(5)
一般にプレチルト角が0°のとき、駆動電圧の閾値は最大となる。すなわちプレチルト角が0°でないリバースTN型液晶表示素子の駆動電圧の閾値は、式(4)及び(5)で求められる電圧値Vthよりも小さい。したがって、たとえば第1〜第4の実施例による液晶表示素子の駆動電圧の閾値はVthよりも小さくなるはずである。
図11の表を参照し、第1〜第4の実施例による液晶表示素子の液晶層を構成する液晶材料の物性値を式(4)及び(5)に代入すると、Vthは次のように計算される。
RDP84910(第1の実施例)の場合、Vth≒0.62V。
RDP83107(第2の実施例)の場合、Vth≒0.89V。
RDP83108(第3の実施例)の場合、Vth≒0.89V。
RDP83409(第4の実施例)の場合、Vth≒0.98V。
しかしながら図4(B)を参照すると、第1の実施例による液晶表示素子の駆動電圧の閾値(スイッチング電圧:電圧を印加した際に光透過率が変化をはじめる電圧値)は1.2〜1.3Vであり、これはVth≒0.62Vの約2倍である。また、図5を参照すると、第2の実施例による液晶表示素子の駆動電圧の閾値は1.8V前後であり、Vth≒0.89Vの約2倍である。更に、図6を参照すると、第3の実施例による液晶表示素子の駆動電圧の閾値は1.5〜1.7Vであって、これはVth≒0.89Vの1.5倍を超えている。また、図9を参照すると、第4の実施例による液晶表示素子の駆動電圧の閾値は1.3〜1.5Vである。これはVth≒0.98Vの1.3倍以上である。このように実施例による液晶表示素子は、式(4)及び(5)で求められる閾値電圧Vthよりも1.3倍以上大きな駆動電圧の閾値を有している。
図12は、電源20により、上側ITO電極12a、下側ITO電極12b間に印加される駆動電圧の波形の一例を示す。図の横軸は時間を、縦軸は電圧値を表す。「選択波形Vs」は選択画素に印加される駆動電圧波形、「非選択波形Vus」は非選択画素に印加される駆動電圧波形を表す。
実施例による液晶表示素子の駆動時には、瞬間的には図示するような波形の、比較的高い電圧が、選択画素だけでなく非選択画素にも、たとえば一定周期で印加される。したがって、実施例による液晶表示素子において、まず両電極12a、12b間に閾値電圧以上の電圧を印加し、液晶分子14aの配列状態を、スプレイツイスト配列からリバースツイスト配列に転移させた後、通常のduty駆動を行えば、長時間、転移電圧を印加することなく表示を継続することが可能となる。このとき、高duty駆動表示であるほどピークの電圧値は高くなるため、よりリバースツイスト配列状態で安定すると考えられる。この観点からは、実施例による液晶表示素子は、単純マトリクス駆動の駆動条件を1/120dutyより高dutyとして駆動することが好ましい。
最後に、リバースTN型液晶表示素子のリバースツイスト配列状態において、優れたシャープネスが現れる理由に関する本願発明者らの仮説的見解を記す。
たとえば本願発明者らの先の出願である特許文献3記載のリバースTN型液晶表示素子については、シミュレーションや電圧オフ時の光透過率等から、リバースツイスト配列状態では、電圧オフ時においても、液晶層の厚さ方向の中央付近の液晶分子が、内部歪により少し立ち上がった状態になることがわかっている。リバースTN型液晶表示素子の駆動電圧の閾値が低いのは、この状態からであれば、液晶分子を基板に略垂直に立ち上げるために必要な電圧が小さくてすむためであると考えられる。また、特許文献3に記載されているリバースTN型液晶表示素子(ノーマリホワイトタイプ)においては、リバースツイスト配列状態での電圧オフ時光透過率が、スプレイツイスト配列状態でのそれより若干低くなることがわかっているが、これも液晶層の厚さ方向の中央付近の液晶分子が、電圧オフ時に少し立ち上がった状態になっているためであると考えられる。
ところが、たとえば第1の実施例による液晶表示素子の電気光学特性を示す図4(A)、(B)を比較参照すると、リバースツイスト配列状態での電圧オフ時光透過率は、スプレイツイスト配列状態でのそれよりむしろ大きい。また、駆動電圧の閾値(光透過率が減少をはじめるときの印加電圧)に関しても、リバースツイスト配列状態の方が大きい。
これらのことから実施例による液晶表示素子においては、リバースツイスト配列状態の電圧オフ時、液晶層内部に大きな歪があるはずであるにもかかわらず、液晶層厚さ方向の中央付近の液晶分子の立ち上がりはほとんどなく、基板面とほぼ平行に配向していると推測される。そして実施例による液晶表示素子に電圧を印加する場合、液晶層厚さ方向中央付近の液晶分子はほとんど立ち上がっていないため、ある程度高い電圧を加えないと、液晶分子が電界方向に傾くことはないが、少しでも傾きはじめたところで、抑えられていた内部歪と比較的大きな電界により、急峻に液晶ダイレクタの方向の変化が発生し、わずかな電圧差で液晶層厚さ方向中央付近の液晶分子がほとんど垂直に立ち上がり、それによって優良なシャープネスが実現されると考えられる。
ただ、液晶層内部に大きな歪があるはずであるにもかかわらず、液晶層厚さ方向中央付近の液晶分子の立ち上がりがほとんどない理由は判然としない。カイラル材の添加による液晶層内の大きな歪の存在、配向膜に付与されるプレチルト角の小ささ、液晶層を形成する液晶材料の弾性定数の値等が関係していると思われる。
なお、観察によれば、リバースTN型液晶表示素子のリバースツイスト配列状態においては、プレチルト角θとp/d(p:カイラルピッチ、d:セル厚)の比「θ/(p/d)」が一定値より大きい場合、電圧無印加状態で、液晶層の厚さ方向の中央付近の液晶分子が立ち上がる現象が現れる。本願発明者らの研究によれば、θ/(p/d)が2°よりも大きいときには、液晶層の厚さ方向の中央付近の液晶分子の立ち上がりが観察される。そのため、この条件を満たすリバースTN型液晶表示素子の印加電圧と光透過率との関係を示すグラフにおいては、閾値特性が見られず、0Vから光透過率が変化しはじめる。
他方、θ/(p/d)が2°以下であるときには、電圧無印加状態で、液晶層の厚さ方向の中央付近の液晶分子が立ち上がる現象は観察されず、印加電圧と光透過率との関係を示すグラフにおいて急峻な閾値特性が認められる。すなわち下式(6)の条件のもとにおいて、優良なシャープネスが現れる。
・・(6)
ここで、
・・(7)
・・(8)
である。
図13(A)及び(B)は、リバースTN型液晶表示素子において、優良なシャープネスが出現するプレチルト角θとp/dの範囲の例を示すグラフである。両グラフにおいて、横軸はp/dを表し、縦軸はプレチルト角θを単位「°」で表す。斜線を付した領域(境界領域については実線部を含み、破線部を含まない。また白丸を付した点を含まない。)が式(6)乃至(8)を満たす。
図13(A)の直線lA、図13(B)の直線lBはともに傾きが2の直線である。すなわち直線lA、lBは、下式(9)で表される直線群に含まれる。
・・(9)
式(9)において、βは液晶材料に依存する定数である。図13(A)の直線lAにおいてはβ=−1であり、図13(B)の直線lBにおいてはβ=1である。図13(A)及び(B)には、β=±1の場合を示したが、リバースTN型液晶表示素子に用いられる液晶材料によってはβはこれ以外の値をとり、その液晶表示素子において優良なシャープネスが出現する領域(θとp/dの組み合わせ)を画定する傾き2の直線は上下する。このため、優良なシャープネスを実現するθとp/dの組み合わせの範囲は、液晶材料によっても異なることになる。
以上、実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
たとえば、実施例においては、リバースツイスト配列状態におけるツイスト角を90°としたが、±20°程度の範囲(70°〜110°)で変えてもよい。ただし白表示の明るさを考慮すると、90°またはその近傍のツイスト角とすることが望ましいであろう。
また、実施例においては、上側偏光板と下側偏光板の透過軸のなす角度を90°(クロスニコル配置)としたが、両偏光板の透過軸のなす角度を±5°程度の範囲で変えることもできる。ただし光抜け防止の面からは、90°またはその近傍の角度で配置することが好ましい。なお、偏光板を平行ニコルに配置して、ノーマリブラックタイプの液晶表示素子とすることも可能である。その場合は、透過軸のなす角度をたとえば20°以下の範囲として、両偏光板を配置することができる。
その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者には自明であろう。