上記のような回転式圧縮機では、圧縮室の内圧に抗して可動部材を固定部材へ押し付けるために、シールリングを用いることが考えられる。つまり、上述した2つの圧縮機構を有する回転式圧縮機では、2つ可動部材の各鏡板部と、これらの鏡板部に介設される中間部材との間にそれぞれシールリングを設け、各シールリングの内側に高圧を作用させる。これにより、各シールリングの内側の圧力により、各可動部材を固定部材側へ押し付けることができる。
また、この種の回転式圧縮機では、可動部材の軸受部と、駆動軸の偏心部との間に潤滑油を供給して、軸受部と偏心部との間の摺動部の潤滑を図ることが考えられる。具体的には、例えば駆動軸の下端部に油ポンプを設け、この油ポンプによって油溜まりの油を汲み上げる。汲み上げた油は、駆動軸内の流路を流れた後、径方向外側へ送られて偏心部の外周面に供給される。これにより、軸受部と偏心部との間の摺動部に油を適宜供給し、この摺動部の潤滑を図ることができる。
ところが、上記のように2つの圧縮機構を有する回転式圧縮機において、2つのシールリングを設け、且つ2つの偏心部に潤滑油を供給するようにすると、潤滑油の粘度が低下して摺動部の潤滑不良を招くという問題があった。この点について詳細に説明する。
上記のように2つの偏心部を設け、且つ2つの可動部材の間に環状の中間部材を設ける構成では、中間部材の内周壁と駆動軸の間に所定のクリアランス(筒状空間)が形成される。このため、上述のようにして2つの偏心部に潤滑油を供給すると、この油の一部は筒状空間に流出することになる。一方、中間部材の軸方向の両端には、それぞれシールリングが設けられているため、筒状空間の外周側の隙間(中間部材と鏡板部の間の隙間)は、これらのシールリングによって閉塞されることになる。従って、偏心部側から筒状空間へ流出した油は、逃げ場がなくなることになり、筒状空間に滞留してしまう。
このようにして、筒状空間に油が滞留すると、運転に伴う軸受等の発熱に起因して、筒状空間内の油の温度が上昇し易くなる。このようにして、筒状空間内の油の温度が徐々に上昇していくと、筒状空間の軸方向両側の各偏心部側の油の温度も次第に上昇していく。その結果、軸受部と偏心部の間の摺動部では、油の温度上昇に起因してこの油の粘性が低くなり、所望とする潤滑性能を得ることができないという問題が生じてしまう。特に、この摺動部においては、筒状空間に近い部位において油の温度が上昇し易く、この部位の潤滑性能が低下し易くなる。以上のようにして、偏心部と軸受部の間の潤滑性能が低下すると、軸受部の損傷や焼き付きを招き、回転式圧縮機の信頼性が損なわれてしまう。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、2つの圧縮機構を備えた回転式圧縮機において、潤滑油の温度上昇に起因する偏心部の潤滑不良を抑制することである。
第1の発明は、電動機(20)と、該電動機(20)と連結して2つの偏心部(25,26)が軸方向に所定の間隔を介して並設される駆動軸(23)と、上記駆動軸(23)の偏心部(25,26)に外嵌して回転駆動される可動部材(32,42)と、該可動部材(32,42)との間に圧縮室を形成する固定部材(31,41)とをそれぞれ有する2つの圧縮機構(30,40)と、駆動軸(23)が貫通する環状に形成されて2つの可動部材(32,42)の各鏡板部(32a,42a)の間に介設される中間部材(51)と、各鏡板部(32a,42a)と上記中間部材(51)との間にそれぞれ設けられるシールリング(52,53)と、上記駆動軸(23)の各偏心部(25,26)の周囲に潤滑油を供給するための油供給路(60)と、を備えた回転式圧縮機を対象とする。そして、この回転式圧縮機は、上記中間部材(51)の内周壁と上記駆動軸(23)との間の筒状空間(S)に溜まった油を、該筒状空間(S)の外部へ排出するための油排出路(80)を備え、上記可動部材(32,42)は、可動側の上記鏡板部(32a,42a)と、該可動側鏡板部(32a,42a)の径方向内側部位に突設されて上記偏心部(25,26)が嵌合する筒状の軸受部(32c,42c)と、上記可動側鏡板部(32a,42a)の径方向外側部位に突設される環状ピストン部(32b,42b)とを有するピストン(32,42)で構成され、上記固定部材(31,41)は、固定側鏡板部(31a,41a)と、該固定側鏡板部(31a,41a)の径方向内側部位に突設される環状の内側シリンダ部(31c,41c)と、該固定側鏡板部(31a,41a)の径方向外側部位に突設される環状の外側シリンダ部(31b,41b)とを有するシリンダ(31,41)で構成され、
上記シリンダ(31,41)には、上記内側シリンダ部の内部に上記軸受部(32c,42c)が収容される軸受収容室(39,49)が形成され、上記内側シリンダ部(31c,41c)と外側シリンダ部(31b,41b)との間に上記環状ピストン部(32b,42b)が収容されて上記圧縮室を構成するシリンダ室(S11,S12,S21,S22)が形成され、上記油排出路(80)は、上記筒状空間(S)と上記軸受収容室(39,49)とを連通させるように上記ピストン(32,42)に形成されるピストン側流路(83)を含んでいることを特徴とする。
第1の発明では、2つの可動部材(32,42)の各鏡板部(32a,42a)と、中間部材(51)との間にそれぞれシールリング(52,53)が設けられる。これにより、シールリング(52,53)の内側の内圧を利用して、各可動部材(32,42)を対応する各固定部材(31,41)側へ押し付けることができる。また、本発明では、油供給路(60)を流れた油が駆動軸(23)の2つの偏心部(25,26)の外周に送られる。これにより、各偏心部(25,26)の摺動部が潤滑される。
各偏心部(25,26)に潤滑油が供給されると、この油は中間部材(51)の内周壁と駆動軸(23)の間の筒状空間(S)に溜まってしまう。そこで、本発明では、筒状空間(S)に溜まった油を外部へ排出するための油排出路(80)を設けている。つまり、各偏心部(25,26)側から筒状空間(S)へ流出した油は油排出路(80)を経由して該油排出路(80)の外部へ排出される。このため、本発明では、筒状空間(S)内に油が滞留してしまうことを防止できる。従って、筒状空間(S)内の油の温度上昇を抑制し、ひいては各偏心部(25,26)側の油の温度上昇も抑制できる。その結果、本発明では、各偏心部(25,26)の摺動部の油の粘性の低下も防止でき、摺動部の潤滑不良を回避できる。
第1の発明では、可動部材(32,42)としてのピストン(32,42)の可動側鏡板部(32a,42a)に軸受部(32c,42c)と環状ピストン部(32b,42b)とが突設され、固定部材(31,41)としてのシリンダ(31,41)の固定側鏡板部(31a,41a)に内側シリンダ部(31c,41c)と外側シリンダ部(31b,41b)とが突設される。シリンダ(31,41)では、内側シリンダ部(31c,41c)の内部に軸受収容室(39,49)が形成され、この軸受収容室(39,49)にピストン(32,42)の軸受部(32c,42c)が収容される。また、シリンダ(31,41)では、内側シリンダ部と外側シリンダ部(31b,41b)との間にシリンダ室(S11,S12,S21,S22)が形成され、このシリンダ室(S11,S12,S21,S22)に環状ピストン部(32b,42b)が収容される。シリンダ室(S11,S12,S21,S22)では、環状ピストン部(32b,42b)の内側と外側とにそれぞれ圧縮室が形成される。可動部材(32,42)が偏心回転すると、これらの圧縮室の容積が変化して流体が圧縮される。この際、軸受収容室(39,49)では、偏心部(25,26)に嵌合する軸受部(32c,42c)も偏心回転するが、この軸受収容室(39,49)では流体は圧縮されない。
本発明では、筒状空間(S)の油がピストン側流路(83)を経由して軸受収容室(39,49)へ送られる。つまり、本発明では、流体の圧縮に寄与せず、単に軸受部(32c,42c)が収容される空間(軸受収容室(39,49))を油を排出するための流路としても兼用している。よって、油排出路(80)に関する、加工工数や加工コストを低減できる。
第2の発明は、第1の発明において、上記ピストン側流路(83)の流入端は、ピストン(32,42)の1回の回転中の少なくとも一部の回転角度において筒状空間(S)に臨むように可動側鏡板部(32a,42a)の背面に形成されていることを特徴とする。
第2の発明では、ピストン(32,42)の偏心回転時において該ピストン(32,42)が所定の回転角度になると、ピストン側流路(83)の流入端が筒状空間(S)に臨む位置となる。これにより、偏心部(25,26)側から筒状空間(S)に流出した油は、ピストン側流路(83)に流入して軸受収容室(39,49)に送られる。
第3の発明は、第2の発明において、上記中間部材(51)の軸端内周縁部には、上記筒状空間(S)と連通する内溝(85)が、上記ピストン側流路(83)の流入端の偏心軌跡を含む範囲に形成されることを特徴とする。
第3の発明では、中間部材(51)の軸端内周縁部に内溝(85)が形成される。この内溝(85)は、ピストン(32,42)の回転時において、ピストン側流路(83)の流入端の偏心軌跡を含む範囲に形成される。従って、ピストン(32,42)の回転時には、筒状空間(S)とピストン側流路(83)とが、常時、内溝(85)を介して連通する。よって、筒状空間(S)に流出した油を速やかに軸受収容室(39,49)へ排出することができる。
第4の発明は、第1乃至第3のいずれか1つの発明において、上記油排出路(80)は、上記軸受収容室(39,49)とシリンダ(31,41)の外側の空間とを連通させるようにシリンダ(31,41)の固定側鏡板部(31a,41a)の内部に形成されるシリンダ側流路(84)を含んでいることを特徴とする。
第4の発明では、シリンダ(31,41)の固定側鏡板部(31a,41a)の内部にシリンダ側流路(84)が形成される。筒状空間(S)から軸受収容室(39,49)へ送られた油は、このシリンダ側流路(84)を経由してシリンダ(31,41)の外側の空間へ排出される。
第5の発明は、電動機(20)と、該電動機(20)と連結して2つの偏心部(25,26)が軸方向に所定の間隔を介して並設される駆動軸(23)と、上記駆動軸(23)の偏心部(25,26)に外嵌して回転駆動される可動部材(32,42)と、該可動部材(32,42)との間に圧縮室を形成する固定部材(31,41)とをそれぞれ有する2つの圧縮機構(30,40)と、駆動軸(23)が貫通する環状に形成されて2つの可動部材(32,42)の各鏡板部(32a,42a)の間に介設される中間部材(51)と、上記各鏡板部(32a,42a)と上記中間部材(51)との間にそれぞれ設けられるシールリング(52,53)と、上記駆動軸(23)の各偏心部(25,26)の外周に潤滑油を供給するための油供給路(60)と、を備えた回転式圧縮機を対象とし、上記中間部材(51)の内周壁と上記駆動軸(23)との間の筒状空間(S)に溜まった油を、該筒状空間(S)の外部へ排出するための油排出路(80)を備え、上記油排出路(80)は、流入端が上記筒状空間(S)に連通して上記偏心部(25,26)を軸方向に貫通する偏心部側流路(86)と、該偏心部側流路(86)の流出端と連通するように駆動軸(23)の外周面に形成される油排出溝(68,69,70,71)とを含んでいることを特徴とする。
第5の発明では、筒状空間(S)の軸方向両側に形成される各偏心部(25,26)に、貫通孔がそれぞれ形成され、これらの貫通孔が偏心部側流路(86)を構成する。また、駆動軸(23)の外周面には、これらの偏心部側流路(86)と連通するように油排出溝(68,69,70,71)が形成される。このため、筒状空間(S)へ流出した油は、各偏心部側流路(86)を流れた後、油排出溝(68,69,70,71)へ排出され、例えば駆動軸(23)の軸受けの潤滑に利用される。このように、本発明においても、筒状空間(S)に油が滞留してしまうことを防止できる。従って、筒状空間(S)内の油の温度上昇を抑制し、ひいては各偏心部(25,26)側の油の温度上昇も抑制できる。その結果、本発明では、各偏心部(25,26)の摺動部の油の粘性の低下も防止でき、摺動部の潤滑不良を回避できる。
第6の発明は、電動機(20)と、該電動機(20)と連結して2つの偏心部(25,26)が軸方向に所定の間隔を介して並設される駆動軸(23)と、上記駆動軸(23)の偏心部(25,26)に外嵌して回転駆動される可動部材(32,42)と、該可動部材(32,42)との間に圧縮室を形成する固定部材(31,41)とをそれぞれ有する2つの圧縮機構(30,40)と、駆動軸(23)が貫通する環状に形成されて2つの可動部材(32,42)の各鏡板部(32a,42a)の間に介設される中間部材(51)と、各鏡板部(32a,42a)と上記中間部材(51)との間にそれぞれ設けられるシールリング(52,53)と、上記駆動軸(23)の各偏心部(25,26)の外周に潤滑油を供給するための油供給路(60)と、を備えた回転式圧縮機を対象とする。そして、この回転式圧縮機は、上記油供給路(60)が、上記駆動軸(23)の内部を軸方向に延びる主供給路(61)と、上記2つの偏心部(25,26)の間に形成されて流入端が上記主供給路(61)と接続し、流出端が上記中間部材(51)の内周壁と上記駆動軸(23)との間の筒状空間(S)に臨む中間供給路(72)と、該筒状空間(S)と連通するように上記各偏心部(25,26)の外周面にそれぞれ形成される油供給溝(66,67)とを含んでおり、該油供給溝(66,67)は、上記中間供給路(72)から筒状空間(S)に流出した油が該油供給溝(66,67)に流入するように構成されることを特徴とする。
第6の発明では、2つの偏心部(25,26)に潤滑油を供給するための油供給路(60)として、駆動軸(23)内部を軸方向に延びる主供給路(61)と、2つの偏心部(25,26)の間に形成される中間供給路(72)と、筒状空間(S)と連通するように各偏心部(25,26)の外周面に形成される油供給溝(66,67)とが形成される。本発明では、駆動軸(23)の内部の主供給路(61)を流通する油が、2つの偏心部(25,26)の間まで流れると、この油は中間供給路(72)に流入し、駆動軸(23)を径方向外側へ流れて筒状空間(S)に流出する。筒状空間(S)に流出した油は、油供給溝(66,67)を経由して偏心部(25,26)の外周面に供給される。以上のように、本発明では、主供給路(61)を流れた油が、筒状空間(S)を経由して偏心部(25,26)側へ供給される。このため、本発明においても、筒状空間(S)に油が滞留してしまうことを防止できる。従って、筒状空間(S)内の油の温度上昇を抑制し、ひいては各偏心部(25,26)側の油の温度上昇も抑制できる。その結果、本発明では、各偏心部(25,26)の摺動部の油の粘性の低下を防止でき、摺動部の潤滑不良を回避できる。
本発明によれば、中間部材(51)の内周壁と駆動軸(23)との間の筒状空間(S)に流出した油を、油排出路(80)を経由して該筒状空間(S)の外部へ排出できるようにしたため、筒状空間(S)の油の温度上昇を抑制し、ひいては各偏心部(25,26)の摺動部の油の温度上昇を抑制できる。従って、各偏心部(25,26)の摺動部では、所望とする潤滑性能を得ることができ、摺動部の損傷や焼き付きを回避して回転式圧縮機の信頼性を確保できる。同時に、本発明では、各可動部材(32,42)の鏡板部(32a,42a)の背面にシールリング(52,53)を密に設けることができるため、各鏡板部(32a,42a)の押し付け力も十分に確保できる。
第1から第4の発明では、ピストン(32,42)の軸受部(32c,42c)が収容される軸受収容室(39,49)を、油の排出空間として利用しているため、油排出路(80)に関する加工工数や加工コストを低減できる。特に、第3の発明では、ピストン(32,42)の回転中に、常時、筒状空間(S)と軸受収容室(39,49)とを連通できるため、筒状空間(S)の油を速やかに軸受収容室(39,49)へ排出することができる。従って、筒状空間(S)での油の滞留を一層確実に防止できる。
第5の発明では、筒状空間(S)の油を、偏心部(25,26)内部の偏心部側流路(86)を経由して、駆動軸(23)の外周面の油排出溝(68,69,70,71)に送るようにしている。このため、本発明においても、筒状空間(S)での油の滞留を確実に防止できる。また、油排出溝(68,69,70,71)に排出した油を駆動軸(23)の軸受け等の潤滑油として利用することができる。
第6の発明は、潤滑油を、筒状空間(S)を経由して偏心部(25,26)側へ供給する構成としているため、別に油排出路を設けることなく、筒状空間(S)での油の滞留を防止できる。従って、回転式圧縮機の構造を比較的シンプルとしながら、偏心部(25,26)の摺動部の潤滑性能を十分に確保できる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《発明の参考形態》
本発明の前提となる参考形態に係る回転式圧縮機は、例えば空気調和装置の冷媒回路に設けられ、蒸発器から吸入した冷媒を圧縮して凝縮器へ吐出する。
図1に示すように、回転式圧縮機(10)は、縦長で密閉容器状のケーシング(11)を備えている。ケーシング(11)は、縦長の円筒状に形成された胴部(12)と、椀状に形成されて、胴部(12)の両端に外側に凸に配設される一対の端板部(13)とによって構成されている。ケーシング(11)の内部には、電動機(20)と、低段側の第1圧縮機構(30)及び高段側の第2圧縮機構(40)を有して冷媒を二段圧縮する圧縮機部(50)とが収納されている。
ケーシング(11)の胴部(12)には、低段側の第1圧縮機構(30)に接続される第1吸入管(14)及び第1吐出管(15)が、該胴部(12)を厚み方向に貫通するように設けられている。また、胴部(12)には、高段側の第2圧縮機構(40)に接続される第2吸入管(16)が、該胴部(12)を貫通するように設けられている。さらに、胴部(12)の上方側を塞ぐ端板部(13)には、第2吐出管(17)が該端板部(13)を貫通するように設けられ、該第2吐出管(17)はケーシング(11)の内部空間(S10)と連通している。なお、図示を省略するが、第1吐出管(15)と第2吸入管(16)とは、ケーシング(11)の外部において接続されている。
このような構成により、回転式圧縮機(10)は、高段側の第2圧縮機構(40)において圧縮された冷媒がケーシング(11)の内部空間(S10)に吐出され、第2吐出管(17)を介してケーシング(11)の外部へ排出されるように構成されている。つまり、回転式圧縮機(10)は、ケーシング(11)の内部空間(S10)が高圧圧力状態となる、いわゆる高圧ドーム型の圧縮機に構成されている。
ケーシング(11)の内部には、胴部(12)と平行に延びる駆動軸(23)が設けられている。電動機(20)及び圧縮機部(50)は、該駆動軸(23)を介して連結されている。密閉容器状のケーシング(11)の底部には、圧縮機部(50)の各摺動部に供給される潤滑油を貯留する油溜まり(18)が形成されている。
駆動軸(23)は、主軸部(24)と2つの偏心部(25,26)とを有している。駆動軸(23)では、2つの偏心部(25,26)が所定の間隔を介して軸方向に並設されている。本参考形態では、上側偏心部(26)は、主軸部(24)の中央寄りに設けられ、下側偏心部(25)は、主軸部(24)の下端寄りの位置に設けられている。両偏心部(25,26)は、主軸部(24)よりも大径の円柱状に形成され、それぞれ軸心が主軸部(24)の軸心に対して偏心している。また、上側偏心部(26)と下側偏心部(25)とは、主軸部(24)の軸心を中心として互いに180°位相がずれるように形成されている。また、駆動軸(23)では、上側偏心部(26)と下側偏心部(25)との間の部位が中間軸部(27)を構成している。
駆動軸(23)の下端には、油溜まり(18)に浸漬する給油ポンプ(28)が設けられている。駆動軸(23)の内部には、給油ポンプ(28)が吸い上げた潤滑油が流通する給油路(61)が軸方向に延びて形成されている。給油路(61)は、油溜まり(18)の潤滑油を両圧縮機構(30,40)の摺動部や駆動軸(23)と両圧縮機構(30,40)との摺動部に供給する油供給路(60)の一部を構成している。この油供給路(60)の詳細は後述する。
電動機(20)は、ステータ(21)とロータ(22)とを備えている。ステータ(21)は、ケーシング(11)の胴部(12)に固定されている。一方、ロータ(22)は、ステータ(21)の内側に配置され、駆動軸(23)の主軸部(24)に連結されている。
圧縮機部(50)は、第1圧縮機構(30)と第2圧縮機構(40)とミドルプレート(51)とが一体的に組み込まれて構成されている。圧縮機部(50)では、軸方向の下側から上側に向かって、第1圧縮機構(30)、ミドルプレート(51)、第2圧縮機構(40)が順に並んでいる。
図2及び図3に示すように、第1圧縮機構(30)は、第1シリンダ(31)と第1ピストン(32)とを有し、第1シリンダ(31)と第1ピストン(32)との間に圧縮室を構成している。第1ピストン(32)は、下側偏心部(25)に外嵌して回転駆動される可動部材を構成している。第1シリンダ(31)は、ケーシング(11)に固定される固定部材を構成している。これにより、第1シリンダ(31)と第1ピストン(32)とは、相対的に偏心回転運動を行う。
第1シリンダ(31)は、中央に軸受部が形成された平板状の鏡板部(31a)と、該鏡板部(31a)から上方に突出するように形成された筒状の外側シリンダ部(31b)及び内側シリンダ部(31c)とを備えている。外側シリンダ部(31b)は、鏡板部(31a)の径方向外側部位に突設される環状の外歯部を構成している。内側シリンダ部(31c)は、鏡板部(31a)の径方向内側部位に突設される環状の内歯部を構成している。外側シリンダ部(31b)及び内側シリンダ部(31c)は、駆動軸(23)の軸心と同軸となっている。
第1シリンダ(31)では、内側シリンダ部(31c)の内側に第1軸受収容室(39)が形成される。第1軸受収容室(39)には、第1ピストン(32)の軸受部(32c)が収容される。内側シリンダ部(31c)の外周面と外側シリンダ部(31b)の内周面との間には、環状の第1シリンダ室(S11,S12)が形成される。第1シリンダ室(S11,S12)には、第1ピストン(32)の環状ピストン部(32b)が収容される。これにより、第1シリンダ室(S11,S12)には、環状ピストン部(32b)の外側に外側圧縮室(S11)が区画され、環状ピストン部(32b)の内側に内側圧縮室(S12)が区画される。
第1シリンダ(31)は、鏡板部(31a)及び外側シリンダ部(31b)がケーシング(11)の胴部(12)の内面に溶接されることにより固定されている。つまり、第1シリンダ(31)の鏡板部(31a)は、固定側となる固定側鏡板部を構成している。また、第1シリンダ(31)の内部には、駆動軸(23)の主軸部(24)が挿通される軸受部(31d)が形成される。駆動軸(23)の主軸部(24)は、軸受部(31d)によって回転自在に支持されている。
第1シリンダ(31)の鏡板部(31a)には、外周面から径方向の内側向きに延びる第1吸入ポート(14a)が形成されている。この第1吸入ポート(14a)の一端は、外側圧縮室(S11)及び内側圧縮室(S12)に連通するように構成され、他端には第1吸入管(14)が接続されている。つまり、第1吸入ポート(14a)は第1吸入管(14)から外側圧縮室(S11)及び内側圧縮室(S12)に吸入される冷媒を流通させる第1吸入通路を構成している。
第1シリンダ(31)の鏡板部(31a)には、外周面から径方向の内側向きに延びる第1吐出ポート(15a)が形成されている。この第1吐出ポート(15a)の一端は、外側圧縮室(S11)及び内側圧縮室(S12)に連通するように構成され、他端には第1吐出管(15)が接続されている。具体的には、第1吐出ポート(15a)には、外側圧縮室(S11)及び内側圧縮室(S12)の吐出口(35,36)が開口し、該両吐出口(35,36)には吐出弁(37,38)が設けられている。外側圧縮室(S11)の吐出弁(37)は、該外側圧縮室(S11)の高圧室(S11H)と第1吐出ポート(15a)との差圧が設定値に達すると吐出口(35)を開くように構成されている。同様に、内側圧縮室(S12)の吐出弁(38)は、該内側圧縮室(S12)の高圧室(S12H)と第1吐出ポート(15a)との差圧が設定値に達すると吐出口(36)を開くように構成されている。
第1ピストン(32)は、平板状の鏡板部(32a)と、該鏡板部(32a)の径方向外側部位に突設される環状の環状ピストン部(32b)と、鏡板部(32a)の径方向内側部位に突設される筒状の軸受部(32c)とを備えている。第1ピストン(32)の鏡板部(32a)は、可動側となる可動側鏡板部を構成している。環状ピストン部(32b)は、円環の一部分が分断されたC型形状に形成され、第1シリンダ室(S11,S12)に収容される。軸受部(32c)は、駆動軸(23)の下側偏心部(25)に外嵌し、第1軸受収容室(39)に収容されている。第1軸受収容室(39)では、内側シリンダ部(31c)の内周面に対して軸受部(32c)が一定の間隔を確保しながら偏心回転する。これにより、内側シリンダ部(31c)の内部では、流体が実質的に圧縮されることはない。つまり、第1軸受収容室(39)は、冷媒の圧縮に寄与しない、いわゆる無効空間を構成している。
第1圧縮機構(30)は、第1シリンダ室(S11,S12)の外側圧縮室(S11)と内側圧縮室(S12)とを更に高圧室(S11H,S12H)と低圧室(S11L,S12L)とに区画するブレード(33)を備えている。第1ブレード(33)は、第1シリンダ室(S11,S12)の径方向に、外側シリンダ部(31b)の内周面から内側シリンダ部(31c)の外周面に亘って延びている。そして、第1ブレード(33)は、環状ピストン部(32b)の分断箇所を挿通して第1シリンダ室(S11,S12)を高圧室(S11H,S12H)と低圧室(S11L,S12L)とに区画するように構成されている。なお、本参考形態では、第1ブレード(33)は、外側シリンダ部(31b)及び内側シリンダ部(31c)と一体形成されているが、該両シリンダ部(31b,31c)と別部材として形成し、これらに固定するものであってもよい。
第1圧縮機構(30)は、環状ピストン部(32b)の分断箇所に設けられ、第1ピストン(32)と第1ブレード(33)とを揺動可能に連結する第1揺動ブッシュ(34)を備えている。第1揺動ブッシュ(34)は、第1ブレード(33)に対して高圧室(S11H,S12H)側に位置する吐出側ブッシュ(34a)と、該第1ブレード(33)に対して低圧室(S11L,S12L)側に位置する吸入側ブッシュ(34b)とから構成されている。この吐出側ブッシュ(34a)及び吸入側ブッシュ(34b)は、いずれも断面形状が略半円形の同一形状に形成されている。該両ブッシュ(34a,34b)の対向面の間には、上記第1ブレード(33)が進退自在に挟まれている。そして、第1揺動ブッシュ(34)は、該第1ブレード(33)を挟み込んだ状態において、第1ピストン(32)に対して揺動可能に形成されている。なお、両ブッシュ(34a,34b)は一部において連結されて一体的に形成されていてもよい。
第1圧縮機構(30)では、第1ピストン(32)が第1シリンダ(31)に対して偏心回転運動を行う。この偏心回転運動では、環状ピストン部(32b)の外周面と外側シリンダ部(31b)の内周面とが実質的に1点で摺接し、その摺接点と位相が180°ずれた位置において環状ピストン部(32b)の内周面と内側シリンダ部(31c)の外周面とが実質的に1点で摺接する。
第2圧縮機構(40)は、上記第1圧縮機構(30)と同様の機械要素によって構成されている。また、第2圧縮機構(40)は、ミドルプレート(51)を挟んで第1圧縮機構(30)を反転させた状態で設けられている。なお、図2では、第2圧縮機構(40)の構成要素に関する符号を括弧内に示している。
具体的には、第2圧縮機構(40)は、第2シリンダ(41)と第2ピストン(42)とを有し、第2シリンダ(41)と第2ピストン(42)との間に圧縮室を構成している。第2ピストン(42)は、上側偏心部(26)に外嵌して回転駆動される可動部材を構成している。第2シリンダ(41)は、ケーシング(11)に固定される固定部材を構成している。これにより、第2シリンダ(41)と第2ピストン(42)とは、相対的に偏心回転運動を行う。なお、上述のように、下側偏心部(25)と上側偏心部(26)とは、180°位相がずれている。このため、これらの偏心部(25,26)に駆動される第1ピストン(32)及び第2ピストン(42)も、互いに180°位相がずれた状態を保持しながら偏心回転する。
第2シリンダ(41)は、平板状の鏡板部(41a)と、該鏡板部(41a)から下方に突出して形成された筒状の外側シリンダ部(41b)及び内側シリンダ部(41c)とを備えている。外側シリンダ部(41b)は、鏡板部(41a)の径方向外側部位に突設される環状の外歯部を構成している。内側シリンダ部(41c)は、鏡板部(41a)の径方向内側部位に突設される環状の内歯部を構成している。外側シリンダ部(41b)及び内側シリンダ部(41c)は、駆動軸(23)の軸心と同軸となっている。
第2シリンダ(41)では、内側シリンダ部(41c)の内側に第2軸受収容室(49)が形成される。第2軸受収容室(49)には、第2ピストン(42)の軸受部(42c)が収容される。内側シリンダ部(41c)の外周年と外側シリンダ部(41b)の内周面との間には、環状の第2シリンダ室(S21,S22)が形成される。第2シリンダ室(S21,S22)には、第2ピストン(42)の環状ピストン部(42b)が収容される。これにより、第2シリンダ室(S21,S22)には、環状ピストン部(42b)の外側に外側圧縮室(S21)が区画され、環状ピストン部(42b)の内側に内側圧縮室(S22)が区画される。
第2シリンダ(41)は、鏡板部(41a)及び外側シリンダ部(41b)がケーシング(11)の胴部(12)の内面に溶接されることにより固定されている。つまり、第2シリンダ(41)の鏡板部(41a)は、固定側となる固定側鏡板部を構成している。また、第2シリンダ(41)の内部には、駆動軸(23)の主軸部(24)が挿通される軸受部(41d)が形成される。駆動軸(23)の主軸部(24)は、軸受部(41d)によって回転自在に支持されている。
第2シリンダ(41)の鏡板部(41a)には、外周面から径方向の内側向きに延びる第2吸入ポート(16a)が形成されている。この第2吸入ポート(16a)の一端は、外側圧縮室(S21)及び内側圧縮室(S22)に連通するように構成され、他端には上記第2吸入管(16)が接続されている。つまり、該第2吸入ポート(16a)は第2吸入管(16)から外側圧縮室(S21)及び内側圧縮室(S22)に吸入される冷媒を流通させる第2吸入通路を構成している。
第2シリンダ(41)の鏡板部(41a)には、上面から下方に向かって延びる第2吐出ポート(17a)が形成されている。この第2吐出ポート(17a)の一端は、外側圧縮室(S21)及び内側圧縮室(S22)に連通するように構成され、他端はケーシング(11)の内部空間(S10)に開口している。具体的には、第2吐出ポート(17a)には、外側圧縮室(S21)及び内側圧縮室(S22)の吐出口(45,46)が開口し、該両吐出口(45,46)には吐出弁(47,48)が設けられている。外側圧縮室(S21)の吐出弁(47)は、該外側圧縮室(S21)の高圧室(S21H)と第2吐出ポート(17a)との差圧が設定値に達すると吐出口(45)を開くように構成されている。同様に、内側圧縮室(S22)の吐出弁(48)は、該内側圧縮室(S22)の高圧室(S22H)と第2吐出ポート(17a)との差圧が設定値に達すると吐出口(46)を開くように構成されている。
第2ピストン(42)は、平板状の鏡板部(42a)と、該鏡板部(42a)の径方向外側部位に突設される環状の環状ピストン部(42b)と、該鏡板部(42a)の径方向内側部位に突設される筒状の軸受部(42c)とを備えている。環状ピストン部(42b)は、円環の一部分が分断されたC型形状に形成され、第2シリンダ室(S21,S22)に収容される。軸受部(42c)は、駆動軸(23)の上側偏心部(26)に外嵌し、第2軸受収容室(49)に収容されている。第2軸受収容室(49)では、内側シリンダ部(41c)の内周面に対して軸受部(42c)が一定の間隔を確保しながら偏心回転する。これにより、内側シリンダ部(41c)の内部では、流体が実質的に圧縮されることはない。つまり、第2軸受収容室(49)は、冷媒の圧縮に寄与しない、いわゆる無効空間を構成している。
第2圧縮機構(40)は、第2シリンダ室(S21,S22)の外側圧縮室(S21)と内側シリンダ室(S22)とを更に高圧室(S21H,S22H)と低圧室(S21L,S22L)とに区画するブレード(43)を備えている。第2ブレード(43)は、第2シリンダ室(S21,S22)の径方向に、外側シリンダ部(41b)の内周面から内側シリンダ部(41c)の外周面に亘って延びている。そして、第2ブレード(43)は、環状ピストン部(42b)の分断箇所を挿通して第2シリンダ室(S21,S22)を高圧室(S21H,S22H)と低圧室(S21L,S22L)とに区画するように構成されている。なお、本参考形態では、第2ブレード(43)は、外側シリンダ部(41b)及び内側シリンダ部(41c)と一体形成されているが、該両シリンダ部(41b,41c)と別部材として形成し、これらに固定するものであってもよい。
第2圧縮機構(40)は、環状ピストン部(42b)の分断箇所に設けられ、第2ピストン(42)と第2ブレード(43)とを揺動可能に連結する第2揺動ブッシュ(44)を備えている。第2揺動ブッシュ(44)は、第2ブレード(43)に対して高圧室(S21H,S22H)側に位置する吐出側ブッシュ(44a)と、該第2ブレード(43)に対して低圧室(S21L,S22L)側に位置する吸入側ブッシュ(44b)とから構成されている。この吐出側ブッシュ(44a)及び吸入側ブッシュ(44b)は、いずれも断面形状が略半円形の同一形状に形成されている。該両ブッシュ(44a,44b)の対向面の間には、上記第2ブレード(43)が進退自在に挟まれている。そして、第2揺動ブッシュ(44)は、該第2ブレード(43)を挟み込んだ状態において、第2ピストン(42)に対して揺動可能に形成されている。なお、両ブッシュ(44a,44b)は一部において連結されて一体的に形成されていてもよい。
第2圧縮機構(40)では、第2ピストン(42)が第2シリンダ(41)に対して偏心回転運動を行う。この偏心回転運動では、環状ピストン部(42b)の外周面と外側シリンダ部(41b)の内周面とが実質的に1点で摺接し、その摺接点と位相が180°ずれた位置において環状ピストン部(42b)の内周面と内側シリンダ部(41c)の外周面とが実質的に1点で摺接する。
ミドルプレート(51)は、第1圧縮機構(30)と第2圧縮機構(40)との間に設けられている。ミドルプレート(51)は、環状の平板部(51b)と、該平板部(51b)の外周縁部に形成される筒状の筒部(51a)とによって構成されている。平板部(51b)は、軸方向に扁平な環状に形成され、その内部に駆動軸(23)の中間軸部(27)が貫通している。平板部(51b)は、第1ピストン(32)の鏡板部(32a)と、第2ピストン(42)の鏡板部(42a)との間に介設されている。筒部(51a)は、ケーシング(11)の内壁に沿うように軸方向に延出する筒状に形成され、その外周面の少なくとも一部がケーシング(11)の内壁に溶接されている。以上のような構成のミドルプレート(51)は、第1圧縮機構(30)との間に第1空間(S1)を区画し、第2圧縮機構(40)との間に第2空間(S2)を区画している。
ミドルプレート(51)の平板部(51b)には、軸方向の両側の端面にそれぞれ環状溝が形成されており、この環状溝にそれぞれシールリング(52,53)が嵌め込まれている。具体的に、第1ピストン(32)の鏡板部(32a)とミドルプレート(51)との間には、第1シールリング(52)が設けられている。この第1シールリング(52)により、第1空間(S1)は、内側の第1内側背圧室(S3)と外側の第1外側背圧室(S4)とに区画されている。同様に、第2ピストン(42)の鏡板部(42a)とミドルプレート(51)との間には、第2シールリング(53)が設けられている。この第2シールリング(53)により、第2空間(S2)は、内側の第2内側背圧室(S5)と外側の第2外側背圧室(S6)とに区画されている。
第1内側背圧室(S3)及び第2内側背圧室(S5)は、上述した給油路(61)を介してケーシング(11)の内部空間(S10)と連通している。このため、第1内側背圧室(S3)及び第2内側背圧室(S5)は、給油路(61)を流れる高圧の潤滑油と同等の圧力状態(換言すると、ケーシング(11)の内部空間(S10)の内圧と同等の圧力状態)となっている。このため、第1内側背圧室(S3)の内圧により、第1ピストン(32)の鏡板部(32a)を第1シリンダ(31)側へ押し付けることができる。同様に、第2内側背圧室(S5)の内圧により、第2ピストン(42)の鏡板部(42a)を第2シリンダ(41)側へ押し付けることができる。なお、本参考形態の第1外側背圧室(S4)は、第1シリンダ(31)の鏡板部(31a)に形成された低圧導入孔(55)を介して吸入ポート(14a)と連通している。このため、第1外側背圧室(S4)は、第1圧縮機構(30)に吸入される低圧冷媒の圧力と同等の圧力状態となる。これにより、第1ピストン(32)の押し付け力が大きくなり過ぎるのを抑制している。
本参考形態の回転式圧縮機(10)は、上述した下側偏心部(25)や上側偏心部(26)等の各摺動部へ潤滑油を供給するための油供給路(60)を備えている。この油供給路(60)は、図4に示すように、上記給油路(61)に加えて、第1から第4までの流出路(62,63,64,65)を有している。なお、図4では、上述した吸入管(14,16)や吐出管(15,17)等の一部の冷媒の流路の図示を省略している。第1から第4までの流出路(62,63,64,65)は、駆動軸(23)の内部を径方向に延びて形成され、それらの流入端がそれぞれ給油路(61)と接続している。
より詳細に、第1流出路(62)は、下側偏心部(25)の内部に形成されている。第1流出路(62)の流出端は、下側偏心部(25)の外周面に開口している。第2流出路(63)は、上側偏心部(26)の内部に形成されている。第2流出路(63)の流出端は、上側偏心部(26)の外周面に開口している。第1流出路(62)と第2流出路(63)とは、各偏心部(25,26)の偏心方向に対して90°位相がずれ、且つ互いに180°位相がずれる方向に延びている。第3流出路(64)は、駆動軸(23)のうち下側偏心部(25)の下側近傍の部位に形成されている。第3流出路(64)の流出端は、第1シリンダ(31)の内部に形成される軸受部(31d)に臨んでいる。第4流出路(65)は、駆動軸(23)のうち上側偏心部(26)の上側近傍の部位に形成されている。第4流出路(65)の流出端は、第2シリンダ(41)の内部に形成される軸受部(41d)に臨んでいる。
油供給路(60)は、第1から第4までの縦溝(66,67,68,69)を有している。第1から第4までの縦溝(66,67,68,69)は、駆動軸(23)の外周面を軸方向に延びて形成されている。より詳細に、第1縦溝(66)は、下側偏心部(25)の外周面において、第1流出路(62)の流出端を跨ぐように形成されている。第1縦溝(66)の底部では、その長手方向の中間部位に第1流出路(62)の流出端が形成されている。第2縦溝(67)は、上側偏心部(26)の外周面において、第2流出路(63)の流出端を跨ぐように形成されている。第2縦溝(67)の底部では、その長手方向の中間部位に第2流出路(63)の流出端が形成されている。第3縦溝(68)は、駆動軸(23)のうち第1シリンダ(31)側の軸受部(31d)に対応する位置に形成されている。第4縦溝(69)は、駆動軸(23)のうち第2シリンダ(41)側の軸受部(41d)に対応する位置に形成されている。
油供給路(60)は、第1環状溝(70)と第2環状溝(71)とを有している。第1環状溝(70)と第2環状溝(71)とは、駆動軸(23)の外周面の全周に亘って形成されている。第1環状溝(70)は、下側偏心部(25)の下側近傍であって、上記第1縦溝(66)と第3縦溝(68)との間に形成されている。第1縦溝(66)と第3縦溝(68)とは、第1環状溝(70)を介して互いに連通している。また、第1環状溝(70)の底部には、第3流出路(64)の流出端が形成されている。第2環状溝(71)は、上側偏心部(26)の上側近傍であって、上記第2縦溝(67)と第4縦溝(69)との間に形成されている。第2縦溝(67)と第4縦溝(69)とは、第2環状溝(71)を介して互いに連通している。
本参考形態では、上述のように、ミドルプレート(51)の内部を駆動軸(23)の中間軸部(27)が貫通している。このため、ミドルプレート(51)の内周壁と中間軸部(27)との間には、所定のクリアランスを確保するための筒状空間(S)が形成されている。
一方、このようにミドルプレート(51)の内部に筒状空間(S)を形成すると、各偏心部(25,26)へ供給された油が、筒状空間(S)に流入してしまい、この筒状空間(S)に滞留してしまう。そこで、圧縮機部(50)には、筒状空間(S)に溜まった油を該筒状空間(S)の外部へ排出するための油排出路(80)が設けられている。
参考形態の油排出路(80)は、第1排出路(81)と第2排出路(82)とを含んでいる。第1排出路(81)は、ミドルプレート(51)の平板部(51b)を径方向に延びる中間部材側流路を構成している。第2排出路(82)は、ミドルプレート(51)の外周面を軸方向に延びて形成される切り欠き溝によって構成されている。第1排出路(81)の流入端は、ミドルプレート(51)の内周壁に開口し、第1排出路(81)の流出端は、第2排出路(82)に接続している。
−運転動作−
次に、回転式圧縮機(10)の運転動作について説明する。まず、第1圧縮機構(30)について説明する。第1圧縮機構(30)では、低圧冷媒が圧縮されて中間圧の冷媒となる。
まず、電動機(20)を起動すると、第1ピストン(32)の環状ピストン部(32b)が第1ブレード(33)に沿って往復運動(進退動作)を行うと共に揺動動作を行う。その際、第1揺動ブッシュ(34)は、環状ピストン部(32b)及び第1ブレード(33)に対して実質的に面接触をする。そして、環状ピストン部(32b)が外側シリンダ部(31b)及び内側シリンダ部(31c)に対して揺動しながら公転し、第1圧縮機構(30)が圧縮動作を行う。
具体的には、外側圧縮室(S11)では、図2(B)の状態で低圧室(S11L)の容積がほぼ最小となり、ここから駆動軸(23)が図の矢印の方向に回転して図2(C)〜図2(A)の状態へ変化するのに伴って該低圧室(S11L)の容積が増大し、第1吸入ポート(14a)の冷媒が外側圧縮室(S11)の低圧室(S11L)に吸入される。
そして、上記駆動軸(23)が一回転して再び図2(B)の状態になると、上記低圧室(S11L)への冷媒の吸入が完了する。そして、該低圧室(S11L)は、冷媒が圧縮される高圧室(S11H)となり、第1ブレード(33)を隔てて新たな低圧室(S11L)が形成される。駆動軸(23)がさらに回転すると、低圧室(S11L)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(S11H)の容積が減少し、該高圧室(S11H)で冷媒が圧縮される。高圧室(S11H)の圧力が所定値となって第1吐出ポート(15a)との差圧が設定値に達すると、吐出弁(37)が開き、高圧室(S11H)の中間圧の冷媒が第1吐出ポート(15a)を通じて第1吐出管(15)へ流出する。
上記内側圧縮室(S12)では、図2(F)の状態で低圧室(S12L)の容積がほぼ最小となり、ここから駆動軸(23)が図の矢印の方向に回転して図2(G)〜図2(E)の状態へ変化するのに伴って該低圧室(S12L)の容積が増大し、第1吸入ポート(14a)の冷媒が内側圧縮室(S12)の低圧室(S12L)に吸入される。
そして、上記駆動軸(23)が一回転して再び図2(F)の状態になると、上記低圧室(S12L)への冷媒の吸入が完了する。そして、該低圧室(S12L)は、冷媒が圧縮される高圧室(S12H)となり、第1ブレード(33)を隔てて新たな低圧室(S12L)が形成される。駆動軸(23)がさらに回転すると、低圧室(S12L)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(S12H)の容積が減少し、該高圧室(S12H)で冷媒が圧縮される。高圧室(S12H)の圧力が所定値となって第1吐出ポート(15a)との差圧が設定値に達すると、吐出弁(38)が開き、高圧室(S12H)の中間圧の冷媒が第1吐出ポート(15a)を通じて第1吐出管(15)へ流出する。
上記外側圧縮室(S11)ではほぼ図2(E)のタイミングで冷媒の吐出が開始され、内側圧縮室(S12)ではほぼ図2(A)のタイミングで吐出が開始される。つまり、外側圧縮室(S11)と内側圧縮室(S12)とでは、吐出のタイミングが約180°ずれている。第1吐出管(15)へ流出した中間圧の冷媒は、第2吸入管(16)に流入して第2圧縮機構(40)に吸入される。
第2圧縮機構(40)では、第1圧縮機構(30)とほぼ同様にして中間圧の冷媒が圧縮されて高圧冷媒となる。
電動機(20)を起動すると、第2ピストン(42)の環状ピストン部(42b)が第2ブレード(43)に沿って往復運動(進退動作)を行うと共に揺動動作を行う。その際、第2揺動ブッシュ(44)は、環状ピストン部(42b)及び第2ブレード(43)に対して実質的に面接触をする。そして、環状ピストン部(42b)が外側シリンダ部(41b)及び内側シリンダ部(41c)に対して揺動しながら公転し、第2圧縮機構(40)が圧縮動作を行う。
具体的には、外側圧縮室(S21)では、図2(B)の状態で低圧室(S21L)の容積がほぼ最小となり、ここから駆動軸(23)が図の矢印の方向に回転して図2(C)〜図2(A)の状態へ変化するのに伴って該低圧室(S21L)の容積が増大し、第2吸入ポート(16a)の冷媒が外側圧縮室(S21)の低圧室(S21L)に吸入される。
そして、上記駆動軸(23)が一回転して再び図2(B)の状態になると、上記低圧室(S21L)への冷媒の吸入が完了する。そして、該低圧室(S21L)は、冷媒が圧縮される高圧室(S21H)となり、第2ブレード(43)を隔てて新たな低圧室(S21L)が形成される。駆動軸(23)がさらに回転すると、低圧室(S21L)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(S21H)の容積が減少し、該高圧室(S21H)で冷媒が圧縮される。高圧室(S21H)の圧力が所定値となって第2吐出ポート(17a)との差圧が設定値に達すると、吐出弁(47)が開き、高圧室(S21H)の高圧冷媒が第2吐出ポート(17a)を通じてケーシング(11)内の内部空間(S10)へ流出する。
上記内側圧縮室(S22)では、図2(F)の状態で低圧室(S22L)の容積がほぼ最小となり、ここから駆動軸(23)が図の矢印の方向に回転して図2(G)〜図2(E)の状態へ変化するのに伴って該低圧室(S22L)の容積が増大し、第2吸入ポート(16a)の冷媒が内側圧縮室(S22)の低圧室(S22L)に吸入される。
そして、上記駆動軸(23)が一回転して再び図2(F)の状態になると、上記低圧室(S22L)への冷媒の吸入が完了する。そして、該低圧室(S22L)は、冷媒が圧縮される高圧室(S22H)となり、第2ブレード(43)を隔てて新たな低圧室(S22L)が形成される。駆動軸(23)がさらに回転すると、低圧室(S22L)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(S22H)の容積が減少し、該高圧室(S22H)で冷媒が圧縮される。高圧室(S22H)の圧力が所定値となって第2吐出ポート(17a)との差圧が設定値に達すると、吐出弁(48)が開き、高圧室(S22H)の中間圧の冷媒が第2吐出ポート(17a)を通じてケーシング(11)内の内部空間(S10)へ流出する。
上記外側圧縮室(S21)ではほぼ図2(E)のタイミングで冷媒の吐出が開始され、内側圧縮室(S22)ではほぼ図2(A)のタイミングで吐出が開始される。つまり、外側圧縮室(S21)と内側圧縮室(S22)とでは、吐出のタイミングが約180°ずれている。ケーシング(11)内の内部空間(S10)へ流出した高圧冷媒は、第2吐出管(17)から吐出される。なお、冷媒回路において、回転式圧縮機(10)から吐出された冷媒は、凝縮行程、膨張行程および蒸発行程を経て、再び該回転式圧縮機(10)に吸入される。
〈運転時における潤滑油の流れについて〉
回転式圧縮機(10)の運転時に駆動軸(23)が回転すると、油溜まり(18)の潤滑油は、給油ポンプ(28)の遠心ポンプ作用により上方に汲み上げられる。この油は、給油路(61)を上方に流れ、各流出路(62,63,64,65)に分流する(図4を参照)。
第1流出路(62)に分流した油は、下側偏心部(25)の外周面に形成された第1縦溝(66)に流出する。これにより、下側偏心部(25)と第1ピストン(32)の軸受部(32c)との間の摺動部に油が供給され、この摺動部が潤滑される。第2流出路(63)に分流した油は、上側偏心部(26)の外周面に形成された第2縦溝(67)に流出する。これにより、上側偏心部(26)と第2ピストン(42)の軸受部(42c)との間の摺動部に油が供給され、この摺動部が潤滑される。
第3流出路(64)に分流した油は、第1環状溝(70)及び第3縦溝(68)に流出する。これにより、第1シリンダ(31)の軸受部(31d)と主軸部(24)との間の摺動部に油が供給され、この摺動部が潤滑される。第4流出路(65)に分流した油は、第2環状溝(71)及び第4縦溝(69)に分流する。これにより、第2シリンダ(41)の軸受部(41d)と主軸部(24)との間の摺動部に油が供給され、この摺動部が潤滑される。
下側偏心部(25)や上側偏心部(26)に供給された油の一部は、軸受部(32c,42c)の隙間を通じて筒状空間(S)に流入する。これにより、筒状空間(S)と連通する第1内側背圧室(S3)や第2内側背圧室(S5)(図3を参照)は、潤滑油の高圧圧力状態となる。その結果、第1ピストン(32)は、第1シリンダ室(S11,S12)の離反力に抗して、第1シリンダ(31)側へ押し付けられる。同様に、第2ピストン(42)は、第2シリンダ室(S21,S22)の離反力に抗して、第2シリンダ(41)側に押し付けられる。
このように筒状空間(S)に油が流入した状態において、仮に筒状空間(S)に油が滞留してしまうと、軸受部(32c,42c)等の各摺動部の発熱に伴い、筒状空間(S)の油の温度が次第に上昇していく。すると、この熱は、各偏心部(25,26)の摺動部の油にも伝わり、この摺動部の周囲の油の温度も上昇し易くなる。特に、下側偏心部(25)では、第1流出路(62)よりも上側の部位において、油の温度が上昇してしまう。また、上側偏心部(26)では、第2流出路(63)よりも下側の部位において、油の温度が上昇し易くなる。このようにして、各偏心部(25,26)の周囲の油の温度が上昇すると、この油の粘度が低下してしまい、潤滑不良となってしまう。その結果、各偏心部(25,26)では、軸受部(32c,42c)の損傷や焼き付きが生じてしまい、この回転式圧縮機(10)の信頼性が損なわれてしまう。そこで、本参考形態では、筒状空間(S)での油の滞留を防止するために、上記の油排出路(80)を設けている。
即ち、各偏心部(25,26)より筒状空間(S)に流出した油は、ミドルプレート(51)の内部の第1排出路(81)を径方向外側に流れた後、ミドルプレート(51)の外周側の第2排出路(82)へ流出する。第2排出路(82)に流出した油は、第1シリンダ(31)の外側に形成された切り欠き溝等を経由して、油溜まり(18)へ返送される。
−参考形態の効果−
上記参考形態では、ミドルプレート(51)の内周壁と駆動軸(23)の中間軸部(27)との間の筒状空間(S)に流出した油を、第1排出路(81)及び第2排出路(82)を経由して油溜まり(18)に返送するようにしている。このため、筒状空間(S)での油の滞留を防止でき、ひいては筒状空間(S)内の油の温度上昇を防止できる。従って、各偏心部(25,26)の周囲の油の温度上昇、並びにこの油の粘度の低下も未然に回避でき、各偏心部(25,26)の摺動部を十分に潤滑することができる。よって、この回転式圧縮機(10)の信頼性を確保できる。同時に、上記参考形態では、筒状空間(S)に流出した油の圧力を利用して、2つのピストン(32,42)の押し付け力を得ることができる。
また、参考形態では、ミドルプレート(51)の内部を径方向に延びる第1排出路(81)を形成したため、油排出路(80)の加工も比較的容易となる。また、このように第1排出路(81)を径方向に延ばすことで、油排出路(80)の流路抵抗も軽減できる。従って、筒状空間(S)の油を速やかに排出することができ、この油の温度上昇を一層効果的に防止できる。
《発明の実施形態1》
実施形態1に係る回転式圧縮機(10)は、上記参考形態と、油排出路(80)の構成が異なるものである。以下には、上記参考形態と異なる点について説明する。図5に示すように、実施形態1に係る油排出路(80)は、第3排出路(83)と第4排出路(84)と内溝(85)とを有している。
第3排出路(83)は、第1ピストン(32)の内部に形成されている。具体的に、第3排出路(83)は、鏡板部(32a)及び軸受部(32c)を軸方向に貫通している。第3排出路(83)の流入端は、鏡板部(32a)の背面において、筒状空間(S)に臨む部位に形成されている。第3排出路(83)の流出端は、第1軸受収容室(39)に接続している。第3排出路(83)の流出端には、軸受部(32c)の先端を切り欠くように開口溝(83a)が形成されている。第3排出路(83)は、筒状空間(S)と第1軸受収容室(39)とを連通させるピストン側流路を構成している。
第4排出路(84)は、第1シリンダ(31)の内部に形成されている。具体的に、第4排出路(84)は、鏡板部(31a)を軸方向に貫通している。第4排出路(84)の流入端は、第1軸受収容室(39)の底面に開口している。第4排出路(84)の流出端は、油溜まり(18)を向くよう鏡板部(31a)の下面に開口している(図示省略)。第4排出路(84)は、第1軸受収容室(39)と第1シリンダ(31)の外側の空間(油溜まり(18)側の空間)とを連通させるシリンダ側流路を構成している。
内溝(85)は、ミドルプレート(51)の平板部(51b)の下面側に形成されている。具体的に、内溝(85)は、平板部(51b)における第1ピストン(32)側の軸端面において、該平板部(51b)の内周縁部に形成されている。内溝(85)は、第1ピストン(32)の偏心回転時において、第3排出路(83)の流入端の偏心軌跡を含む範囲に形成されている。これにより、実施形態1の第3排出路(83)は、回転式圧縮機(10)の運転中において、常時、筒状空間(S)と連通することになる。
具体的に、第3排出路(83)は、可動側となる第1ピストン(32)に形成されているため、第1ピストン(32)が偏心回転すると、これに伴い第3排出路(83)も同じ軌跡で偏心回転する。ここで、例えば図5(A)に示すように、第3排出路(83)の流入端が駆動軸(23)の軸心から比較的近い位置になると、第3排出路(83)の流入端は筒状空間(S)に臨む位置となる。従って、この状態では、筒状空間(S)と第3排出路(83)とが直に連通する。よって、各偏心部(25,26)より筒状空間(S)に流出した油は、第3排出路(83)を経由して第1軸受収容室(39)へ流出し、更に第4排出路(84)を経由して油溜まり(18)へ返送される。
一方、例えば図5(B)に示すように、第3排出路(83)の流入端が駆動軸(23)の軸心から比較的遠い位置になると、第3排出路(83)の流入端は、ミドルプレート(51)の内周壁よりも外側に位置してしまう。しかしながら、ミドルプレート(51)には、第3排出路(83)の偏心軌跡を含むように内溝(85)が形成されている。従って、このような状態においては、筒状空間(S)と第3排出路(83)とが、内溝(85)を介して連通する。よって、各偏心部(25,26)より筒状空間(S)に流出した油は、第3排出路(83)、内溝(85)、第4排出路(84)を経由して、油溜まり(18)へ返送される。
−実施形態1の効果−
実施形態1では、軸受部(32c)が収容される軸受収容室(39)を油の排出空間として利用している。つまり、実施形態1では、軸受収容室(39)が油排出路(80)の一部を兼ねている。従って、油排出路(80)に関する加工工数や加工コストを低減できる。
また、上記実施形態1では、ミドルプレート(51)に内溝(85)を形成したため、第1ピストン(32)と共に第3排出路(83)が偏心回転しても、常時、筒状空間(S)と第3排出路(83)を連通させることができる。従って、筒状空間(S)の油を速やかに排出することができ、筒状空間(S)の油の温度上昇を未然に回避できる。
また、実施形態1では、2つの圧縮機構(30,40)のうち下側に位置する第1圧縮機構(30)側に油排出路(80)を形成している。このため、筒状空間(S)の油を自重を利用して、速やかに油溜まり(18)へ送ることができる。
〈実施形態1の変形例〉
図6に示すように、2つの圧縮機構(30,40)のうち上側に位置する第2圧縮機構(40)側に油排出路(80)を形成しても良い。即ち、図6に示す例では、上記実施形態1と同様にして、第2ピストン(42)に第3排出路(83)を形成し、第2シリンダ(41)に第3排出路(84)を形成し、ミドルプレート(51)のうち第2ピストン(42)側の軸端面に、内溝(85)を形成している。なお、図6の例の第4排出路(84)は、上方に向かうに連れて径方向外側に近づくように軸方向に対して傾斜している。また、図6の例では、第4排出路(84)を流出して第2シリンダ(41)の上側に送られた油は、各シリンダ(31,41)やミドルプレート(51)の外周側より油溜まり(18)に返送される。
図6の例においても、上記実施形態1と同様、軸受収容室(49)を油排出路(80)の一部として利用できる。また、ミドルプレート(51)に内溝(85)を形成することで、筒状空間(S)と第3排出路(83)とを常時連通させることができ、筒状空間(S)の油を速やかに排出できる。
なお、図5の例と図6の例とを組み合わせた構成(第1圧縮機構(30)と第2圧縮機構(40)との双方に油排出路を形成する構成)としても良い。
《発明の実施形態2》
実施形態2に係る回転式圧縮機(10)は、上記参考形態及び実施形態1と、油排出路(80)の構成が異なるものである。具体的に、図7に示すように、実施形態2に係る油排出路(80)は、第1ピストン(32)の内部に形成される第3排出路(83)と、第1シリンダ(31)の内部に形成される第4排出路(84)と、ミドルプレート(51)の軸端内周縁部に形成される内溝(85)とが形成されている。
第3排出路(83)は、上記実施形態1と異なり、軸受部(32c)よりも径方向外側に形成されている。つまり、第3排出路(83)は、鏡板部(32a)だけを軸方向に貫通している。これにより、第3排出路(83)の流入端は、常にミドルプレート(51)の内周壁よりも径方向外側に位置する。また、第3排出路(83)の流出端は、鏡板部(32a)の下面にいて、軸受部(32c)と環状ピストン部(32b)との間の部位に開口している。
一方、ミドルプレート(51)に形成される内溝(85)は、第1ピストン(32)の1回の回転中の一部の回転角度だけ、第3排出路(83)の流入端と連通する範囲に形成されている。具体的に、例えば図7(A)に示すように、第3排出路(83)の流入端が駆動軸(23)の軸心から比較的近い位置になると、第3排出路(83)の流入端は、内溝(85)に臨む位置となる。従って、筒状空間(S)と第3排出路(83)とが、内溝(85)を介して連通する。よって、各偏心部(25,26)より筒状空間(S)に流出した油は、第3排出路(83)、内溝(85)、第4排出路(84)を経由して、油溜まり(18)へ返送される。
一方、例えば図5(B)に示すように、第3排出路(83)の流入端が駆動軸(23)の軸心から比較的遠い位置になると、第3排出路(83)の流入端は、ミドルプレート(51)によって閉塞される。従って、この状態では、筒状空間(S)と第3排出路(83)とが遮断されるため、筒状空間(S)内の油は排出されない。
以上のように、実施形態2では、筒状空間(S)の油を間欠的に排出することができる。従って、筒状空間(S)の油の滞留を抑制できる。また、実施形態2では、鏡板部(32a)を軸方向に貫通して第3排出路(83)を形成しているため、上記実施形態1と比較して、油排出路(80)を一層容易に加工することができる。
〈実施形態2の変形例1〉
上記実施形態2において、図8に示すように、内溝(85)を広げることで、常時、内溝(85)と第3排出路(83)とを連通させる構成としても良い。つまり、図8では、内溝(85)が、第3排出路(83)の流入端の偏心軌跡を含むように形成される。これにより、筒状空間(S)の油を連続的に排出することができる。
〈実施形態2の変形例2〉
図9に示すように、2つの圧縮機構(30,40)のうち上側に位置する第2圧縮機構(40)側に油排出路(80)を形成しても良い。即ち、図9に示す例では、上記実施形態2と同様にして、第2ピストン(42)に第3排出路(83)を形成し、第2シリンダ(41)に第3排出路(84)を形成し、ミドルプレート(51)のうち第2ピストン(42)側の軸端面に、内溝(85)を形成している。なお、図9の例の第4排出路(84)は、上方に向かうに連れて径方向外側に近づくように軸方向に対して傾斜している。また、図9の例では、第4排出路(84)を流出して第2シリンダ(41)の上側に送られた油は、各シリンダ(31,41)やミドルプレート(51)の外周側より油溜まり(18)に返送される。
図9の例においても、上記実施形態2と同様、軸受収容室(49)を油排出路(80)の一部として利用できる。また、ミドルプレート(51)に内溝(85)を介して、筒状空間(S)の油を間欠的に排出することができる。なお、第2圧縮機構(40)側に油排出路(80)を形成する場合においても、上記変形例1と同様、内溝(85)を広げて筒状空間(S)の油を連続的に排出させるようにしても良い。また、図7の例と図9の例とを組み合わせた構成(第1圧縮機構(30)と第2圧縮機構(40)との双方に油排出路を形成する構成)としても良い。
《発明の実施形態3》
実施形態3に係る回転式圧縮機(10)は、上記実施形態1、2と、油排出路(80)の構成が異なるものである。具体的に、図10に示すように、実施形態3に係る油排出路(80)は、ピン貫通路(86)を有している。ピン貫通路(86)は、下側偏心部(25)の両端に亘って、該下側偏心部(25)の内部を軸方向に貫通して形成されている。ピン貫通路(86)の流入端は、筒状空間(S)に臨んでいる。ピン貫通路(86)の流出端は、第1環状溝(70)と連通している。つまり、第1ピストン(32)の回転時におけるピン貫通路(86)の流出端の回転軌跡は、第1環状溝(70)と概ね一致している。これにより、実施形態3では、回転式圧縮機(10)の運転時において、常時、筒状空間(S)の油が第1環状溝(70)に流出する(図10(A)及び図10(B)を参照)。第1環状溝(70)に流出した油は、第3縦溝(68)を流れて軸受部(31d)の潤滑に利用された後、最終的に油溜まり(18)に返送される。
以上のように、実施形態3では、油供給路(60)の一部を成す、第1環状溝(70)や第3縦溝(68)が油排出溝を構成している。つまり、実施形態3では、第1環状溝(70)や第3縦溝(68)が油排出路の一部を兼用している。しかも、上記のように下側偏心部(25)にピン貫通路(86)を形成するだけで、筒状空間(S)と第1環状溝(70)と常時連通させることができる。従って、加工工数や加工コストを低減しながら、且つ筒状空間(S)の油を速やかに排出することができる。
〈実施形態3の変形例〉
図11に示すように、2つの圧縮機構(30,40)のうち上側に位置する第2圧縮機構(40)側に油排出路(80)を形成しても良い。即ち、図11に示す例では、上記実施形態3と同様にして、上側偏心部(26)にピン貫通路(86)を形成し、このピン貫通路(86)の流出端を第2環状溝(71)と連通させている。これにより、筒状空間(S)の油は、ピン貫通路(86)、第2環状溝(71)を経由して第4縦溝(69)に流出する。第4縦溝(69)に流出した油は、軸受部(41d)の潤滑に利用された後、最終的に油溜まり(18)に返送される。
図11の例においても、上記実施形態3と同様、第2環状溝(71)や第4縦溝(69)を油排出溝として利用できると共に、筒状空間(S)の油を連続的に排出することができる。
なお、図10の例と図11の例とを組み合わせた構成(第1圧縮機構(30)と第2圧縮機構(40)との双方に油排出路を形成する構成)としても良い。
《発明の実施形態4》
図12に示すように、実施形態4に係る回転式圧縮機(10)は、上記実施形態1〜4のような油排出路(80)が形成されていない。また、実施形態5の下側偏心部(25)には、上記実施形態1〜3の第1流出路(62)が形成されておらず、上側偏心部(26)にも、上記実施形態1〜3の第2流出路(63)形成されていない。
一方、実施形態4では、各偏心部(25,26)の間の中間軸部(27)に中間供給路としての給油穴(72)が形成されている。給油穴(72)は、中間軸部(27)を径方向に延びており、流入端が給油路(61)と接続し流出端が筒状空間(S)と連通している。また、実施形態4では、上記実施形態1〜3で述べた第1縦溝(66)及び第2縦溝(67)が、筒状空間(S)と連通するように各偏心部(25,26)の外周面に形成される油供給溝を構成している。
実施形態4では、給油路(61)を流れる油が、給油穴(72)を通じて筒状空間(S)に送られる。筒状空間(S)の油は、第1縦溝(66)及び第2縦溝(67)に流出する。第1縦溝(66)に流出した油は、第1ピストン(32)の軸受部(32c)の潤滑に利用された後、第1環状溝(70)、第3縦溝(68)を経由して、最終的に油溜まり(18)へ返送される。また、第2縦溝(67)に流出した油は、第2ピストン(42)の軸受部(42c)の潤滑に利用された後、第2環状溝(71)、第4縦溝(69)を経由して、最終的に油溜まり(18)へ返送される。
以上のように、実施形態4では、駆動軸(23)内の給油路(61)を流れる油が、筒状空間(S)を通過した後、各ピストン(32,42)の軸受部(32c,42c)に供給される。このため、筒状空間(S)に油が滞留してしまうことを未然に回避できる。このため、軸受部(32c,42c)の油の温度上昇を抑制でき、所望とする潤滑性能を得ることができる。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。